車両用外界認識装置及びそれを用いた車両システム
【課題】安全性確保と処理負荷低減の両立を図ることができる車両用外界認識装置及び車両システムを提供する。
【解決手段】車両用外界認識装置100は、自車の予測進路と自車前方の検知物体の情報に基づいて自車が検知物体に衝突する危険度を演算する第1の衝突判定手段103と、検知物体が予測進路の外から予測進路内に進入するか否かを判定する第2の衝突判定手段104を有する。そして、複数の検知物体の中から、危険度が第1の閾値以上である検知物体と、予測進路内に進入すると判定された検知物体とを選択候補物体として選択し、その選択された複数の選択候補物体の中から、自車との相対距離が最小となる選択候補物体を歩行者判定要求物体として選択する物体選択手段105を有する。そして、その選択された歩行者判定要求物体に対して画像情報を用いて歩行者か否かを判定する歩行者判定手段106を有する。
【解決手段】車両用外界認識装置100は、自車の予測進路と自車前方の検知物体の情報に基づいて自車が検知物体に衝突する危険度を演算する第1の衝突判定手段103と、検知物体が予測進路の外から予測進路内に進入するか否かを判定する第2の衝突判定手段104を有する。そして、複数の検知物体の中から、危険度が第1の閾値以上である検知物体と、予測進路内に進入すると判定された検知物体とを選択候補物体として選択し、その選択された複数の選択候補物体の中から、自車との相対距離が最小となる選択候補物体を歩行者判定要求物体として選択する物体選択手段105を有する。そして、その選択された歩行者判定要求物体に対して画像情報を用いて歩行者か否かを判定する歩行者判定手段106を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ等の測距センサとカメラ等の画像センサからの情報に基づいて測距センサの検知物が歩行者であるか否かを判定する車両用外界認識装置及びそれを用いた車両システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内の交通死亡事故のうち、歩行者が死亡する事故は全体の約30%を占めており、特に東京都内の場合、歩行者死亡事故の割合は約40%に上ると言われている。このような歩行者死亡事故を低減するためには、レーダやカメラなどの環境認識センサを利用した安全運転支援システムが有効であり、特開2007−114831号公報では、レーダとカメラを用いて歩行者等の物体を検知するシステムが提案されている。この方法によれば、レーダで検知した物体の距離と反射強度に応じて物体の属性を判別し、この属性に応じてカメラで撮像した画像データを用いて個体識別することが可能となる。
【0003】
また、特開2005−025458号公報には、レーダ等の測距センサで検知した物体をカメラで冗長に補足するシステムが記載されている。このシステムでは、まず、車速と操舵角とヨーレートを用いて自車の進路を旋回半径として予測し、この予測進路とレーダで検知した物体の相対位置に応じて自車との衝突可能性を判定する。また、レーダで検知した物体の相対位置の変化量から相対速度ベクトルを算出し、この相対速度ベクトルに応じて自車との衝突可能性を判定する。
【0004】
そして、縦方向の相対速度が小さい物体に対しては予測進路による衝突判定の結果を重視し、縦方向の相対速度が大きい物体に対しては相対速度ベクトルによる衝突判定の結果を重視して、レーダで検知した物体から画像処理の対象物を選択する。この発明によれば、自車前方の停止車両を操舵回避した後に、前方を走行する低速車との接近が起こるようなシーンで、的確に衝突可能性を判定することが可能となり、画像処理負荷を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−114831号公報
【特許文献2】特開2005−025458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2007−114831号公報に記載されているように、レーダで検知した物体を、カメラで撮像した画像データを用いて個体識別する方式、例えば歩行者を認識する方式においては、膨大なパターンの歩行者に対して認識精度を向上させようとすると、画像処理ロジックが複雑化して処理負荷が増大してしまうため、画像処理を行う物体を絞り込んで画像処理を行う必要がある。
【0007】
また、特開2005−025458号記載の方式においては、図17(a)の左側の図で示すように、「遠方、かつ、自車の予測進路上に静止している歩行者A」と「自車の予測進路外から横断してくる歩行者B」が同時に存在する場合に、歩行者Aを画像処理の対象として優先してしまうといった課題がある。特に、自車が低車速で走行しており、その前方を歩行者が小走りで斜めに横断するような場合には、図17(a)の右側の図で示すように、横断してくる歩行者1712が予測進路1704内に進入した後に画像処理の対象として選択されるため、認識の遅れにより安全運転支援システムが有効に作動しない可能性がある。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、安全性確保と処理負荷低減の両立を図ることができる車両用外界認識装置及びそれを用いた車両システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する車両用外界認識装置の発明は、自車前方に位置する複数の検知物体を検知した検知物体情報と、自車前方を撮像した画像の画像情報と、自車の状態を検知した自車情報に基づいて車両の外界を認識する車両用外界認識装置であって、自車情報に基づいて自車の予測進路を設定する予測進路設定手段と、予測進路設定手段により設定した予測進路と検知物体情報とに基づいて各検知物体が自車に衝突する危険度を演算する第1の衝突判定手段と、予測進路と検知物体情報とに基づいて各検知物体が予測進路の外から予測進路内に進入するか否かを判定する第2の衝突判定手段と、複数の検知物体の中から、第1の衝突判定手段により演算された危険度が予め設定された第1の閾値以上である検知物体と、第2の衝突判定手段により予測進路内に進入すると判定された検知物体を選択候補物体として選択し、その選択された複数の選択候補物体の中から自車との相対距離、または、衝突予測時間が最小となる選択候補物体を歩行者判定要求物体として選択する物体選択手段と、物体選択手段により選択された歩行者判定要求物体に対して画像情報を用いて歩行者か否かの判定を行う歩行者判定手段を有することを特徴としている。
【0010】
そして、好ましくは、物体選択手段は、選択候補物体を複数選択しており、それら複数の選択候補物体の中に、前回の処理で歩行者判定要求物体として選択されていた選択候補物体が含まれている場合に、その選択されていた選択候補物体を再選択候補物体として特定し、予測進路と検知物体情報とに基づいて再選択候補物体を歩行者判定要求物体の選択候補から除外するか否かの判定を行う。
【0011】
また、好ましくは、歩行者判定手段は、歩行者判定要求物体に対する第1の衝突判定手段の判定結果と、第2の衝突判定手段の判定結果に応じて画像情報の画像処理領域を設定する処理を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の検知物体の中から、第1の衝突判定手段によって危険度が第1の閾値以上であると判定された検知物体と、第2の衝突判定手段によって予測進路の外から予測進路内に進入すると判定された検知物体とを選択候補物体として選択し、その複数の選択候補物体の中から、自車との相対距離、または、衝突予測時間が最小となる選択候補物体を歩行者判定要求物体として選択するので、衝突可能性が高い自車近傍の横断歩行者を優先的に歩行者判定要求物体として選択することが可能となる。特に、自車が低車速で走行しており、その前方に存在する歩行者が小走りで自車の予測進路上を斜め横断するような場合の認識遅れを回避できる。
【0013】
したがって、歩行者を迅速かつ確実に検知でき、歩行者の安全性を確保することができる。また、画像情報の処理領域を的確に設定することができ、処理領域を小さくして、装置の画像処理負荷を低減することができる。
【0014】
そして、本発明によれば、複数の選択候補物体の中に、前回の処理で歩行者判定要求物体として選択されていた選択候補物体が含まれている場合に、その選択されていた選択候補物体を再選択候補物体として特定する。そして、予測進路と検知物体情報とに基づいて再選択候補物体を歩行者判定要求物体の選択候補から除外するか否かの判定を行う。
【0015】
したがって、歩行者判定要求物体を直ぐに切替えることが可能となる。例えば、歩行者判定要求物体として選択されている歩行者が自車正面を通過した後、新たに横断してくる歩行者が出現した場合には、新たに出現した横断歩行者を歩行者判定要求物体として選択できる。したがって、歩行者判定手段の処理負荷を低減することができる。
【0016】
さらに、選択した歩行者判定要求物体が自車の車幅方向(すなわち、横方向)に移動している場合、画像情報の画像処理領域を歩行者判定要求物体の移動方向にシフトし、その移動方向と自車の予測進路に応じて画像処理領域の制限値を設けるので、安全性確保と処理負荷低減の両立が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係わる車両用外界認識装置の構成を示す機能ブロック図。
【図2】本実施の形態に係わる車両用外界認識装置、及びそれを用いた車両システムの制御装置を示す機能ブロック図。
【図3】物体情報取得手段の処理内容を説明するための模式図。
【図4】予測進路設定手段の処理内容、および、第1の衝突判定手段の危険度D1[i]の演算方法を説明するための模式図。
【図5】第1の衝突判定手段の危険度D2[i]の演算方法を説明するための模式図。
【図6】レーダで検知した物体が予測進路の右端を通過して自車の車幅方向に左へ移動する場合を示す模式図。
【図7】第2の衝突判定手段の処理内容を示すフローチャート。
【図8】物体選択手段の処理内容を示すフローチャート。
【図9】物体選択手段の処理内容を示すフローチャート。
【図10】物体選択手段の処理内容を示すフローチャート。
【図11】歩行者判定手段の処理内容を示すフローチャート。
【図12】画像処理領域の設定パターンを示す表、および、模式図。
【図13】歩行者を判定するパターンマッチング処理を説明するための模式図。
【図14】フュージョン手段の処理内容を示すフローチャート。
【図15】制御装置の処理内容を示すフローチャート。
【図16】年齢層別に歩行中死傷者の事故類型を分類した統計データ。
【図17】「遠方でかつ自車の予測進路上に静止している歩行者」と「近傍でかつ自車の予測進路外から横断してくる歩行者」が同時に存在する場合を示す模式図。
【図18】「近傍でかつ自車の予測進路上を左に移動している歩行者」が存在し、かつ、「遠方で自車の予測進路外(右側)から予測進路上を横断してくる歩行者」が新たに出現した場合の模式図。
【図19】物体情報取得手段において、ステレオカメラで撮像した画像データに応じて物体情報を取得する場合の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施の形態に係わる車両用外界認識装置100及びそれを用いた車両システム1の実施形態を、図1〜図19を用いて詳細に説明する。
まず、図1、図2を用いて、本発明に係る車両用外界認識装置100の処理内容について説明する。図1、図2は、車両用外界認識装置100及びそれを用いた車両システム1の構成要素である制御装置200の実施形態を示すブロック図である。
【0019】
以下に示す処理の内容は、車両用外界認識装置100にプログラミングされ、予め定められた周期で繰り返し実行される。
図1において、物体情報取得手段101は、測距センサであるレーダによって検知した物体までの距離d[i](m)、方位θ[i](rad)、幅w[i](rad)の情報を取得し、その取得した信号を変換するインターフェース処理を行うことにより、レーザ情報として物体の自車に対する車幅方向の相対位置(以下、横位置と称する)PXR[i](m)、自車に対する全長方向の相対位置(以下、縦位置と称する)PYR[i](m)、自車に対する車幅方向の相対速度(以下、横速度と称する)VXR[i](m/s)、自車に対する全長方向の相対速度(以下、縦速度と称する)VYR[i](m/s)、自車の車幅方向に沿った物体の幅WDR[i](m)を演算する。ここで、iはレーダが複数の物体を検知している場合の物体ID番号である。なお、インターフェース処理の内容については後述する。
【0020】
予測進路設定手段102は、図示していない車速センサ、操舵角センサ、および、ヨーレートセンサ等の、自車の状態を検知するセンサからの検出信号に応じて、車速VSP、操舵角α、および、ヨーレートγ等の自車情報を取得し、その取得した自車情報に応じて自車の予測進路を演算する処理を行う。ここでは、自車の予測進路として旋回半径R(m)が演算される。なお、旋回半径Rの演算方法については後述する。これらの自車情報は、各センサの信号を車両用外界認識装置100に直接入力することによって取得しても良いし、センサ信号が他の制御装置に入力されている場合はそれらの制御装置とLAN(Local Area Network)を用いた通信を行うことによって取得しても良い。
【0021】
第1の衝突判定手段103は、予測進路設定手段102により得られた旋回半径R(m)と物体情報取得手段101により得られたレーダ情報の横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)に応じて危険度D1[i]を演算する。ここで、危険度D1[i]は、レーダで検知した物体が自車の予測進路の中央にどれだけ近いかを示す値である。
【0022】
また、第1の衝突判定手段103は、横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)、および、横速度VXR[i](m/s)、縦速度VYR[i](m/s)に応じて危険度D2[i]を演算する。ここで、危険度D2[i]は、レーダが検知した物体の相対速度ベクトルが自車に向かっている度合いを示す値である。
【0023】
そして、第1の衝突判定手段103は、危険度D1[i]、D2[i]を縦速度VYR[i](m/s)に応じて重み付けすることにより、危険度D[i]を演算する。なお、危険度D1[i]、D2[i]、および、D[i]の演算方法については後述する。
【0024】
第2の衝突判定手段104は、予測進路設定手段102により得られた旋回半径Rと物体情報取得手段101により得られたレーダ情報の横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)、および、横速度VXR[i](m/s)、縦速度VYR[i](m/s)に応じて、判定フラグfRMVLAT[i]を演算する。ここで、判定フラグfRMVLAT[i]は、レーダで検知した物体が所定時間経過後に自車の予測進路を横断するか否かを示すフラグである。なお、判定フラグfRMVLAT[i]の演算方法については後述する。
【0025】
物体選択手段105は、第1の衝突判定手段103により得られた危険度D[i]と、第2の衝突判定手段104により得られた判定フラグfRMVLAT[i]に応じて、判定フラグfIMGACT[i]を演算する。ここで、判定フラグfIMGACT[i]は、レーダで検知した物体に対して画像処理によって歩行者を判定するか否かを示すフラグである。なお、判定フラグfIMGACT[i]の演算方法については後述する。
【0026】
歩行者判定手段106は、物体選択手段105により得られた判定フラグfIMGACT[i]と、物体情報取得手段101により得られた物体のレーダ情報(横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)、横速度VXR[i](m/s)、縦速度VYR[i](m/s)、幅WDR[i](m))と、カメラで撮像した自車前方の画像データとに基づいて、画像処理によって歩行者か否かを判定する。
【0027】
そして、歩行者と判定した場合には、歩行者のカメラ情報(歩行者の横位置PXC[i](m)、縦位置PYC[i](m)、横速度VXC[i](m/s)、縦速度VYC[i](m/s)、幅WDC[i](m))を演算する。なお、画像処理によって歩行者か否かを判定する方法については後述する。ここで、iは画像処理によって複数の歩行者を認識している場合の物体ID番号である。
【0028】
図2において、フュージョン手段107は、物体情報取得手段101より得られた物体のレーダ情報(横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)、横速度VXR[i](m/s)、縦速度VYR[i](m/s)、幅WDR[i](m))と、歩行者判定手段106により得られたカメラ情報(横位置PXC[i](m)、縦位置PYC[i](m)、横速度VXC[i](m/s)、縦速度VYC[i](m/s)、幅WDC[i](m))とを統合化して、歩行者の横位置PX[i](m)、縦位置PY[i](m)、横速度VX[i](m/s)、縦速度VY[i](m/s)、幅WD[i](m)の情報であるフュージョン情報を生成する。なお、フュージョン情報を生成する方法については後述する。ここで、iはフュージョンによって複数の歩行者情報を生成している場合の物体ID番号である。
【0029】
統合化衝突判定手段108は、予測進路設定手段102により得られた旋回半径Rと、フュージョン手段107により得られた物体の横位置PX[i](m)と縦位置PY[i](m)に応じて危険度Df1[i]を演算する。ここで、危険度Df1[i]は、フュージョン手段107で認識した歩行者が自車の予測進路中央にどれだけ近いかを示す値である。
【0030】
また、統合化衝突判定手段108は、歩行者のフュージョン情報(横位置PX[i](m)、縦位置PY[i](m)、および、横速度VX[i](m/s)、縦速度VY[i](m/s))に応じて危険度Df2[i]を演算する。ここで、危険度Df2[i]は、フュージョン手段107で認識した歩行者の相対速度ベクトルが自車に向かっている度合いを示す値である。
【0031】
さらに、統合化衝突判定手段108は、危険度Df1[i]、Df2[i]を縦速度VY[i](m/s)に応じて重み付けすることにより危険度Df[i]を演算する。なお、危険度Df1[i]、Df2[i]、および、Df[i]の演算方法については後述する。
【0032】
車両用外界認識装置100は、図2に示すように、フュージョン手段107により生成したフュージョン情報と、統合化衝突判定手段108により得られた危険度Df[i]をLAN(Local Area Network)を用いた通信を行うことによって制御装置200に出力する。
【0033】
制御装置200は、車両用外界認識装置100のフュージョン手段107から入力したフュージョン情報と、車両用外界認識装置100の統合化衝突判定手段108から入力した危険度Df[i]に応じて、警報・ブレーキ指令値を演算して、図示しない警報装置・ブレーキ装置を作動させる。なお、警報・ブレーキ指令値の演算方法については後述する。
【0034】
次に、図3を用いて、物体情報取得手段101の処理内容について説明する。
図3は、物体情報取得手段の処理内容を説明するための模式図である。
【0035】
物体情報取得手段101は、レーダで検知した物体32の中心32aまでの距離d[i]、方位θ[i]、幅w[i]を取得し、自車31を原点Oとする2次元の相対座標系(X−Y座標)の情報に変換する。例えば、物体32の方位θ[i]が自車31の進行方向(相対座標系のY軸)と、レーダで検知した物体32の相対位置ベクトルとのなす角θで与えられるとき、物体32の横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]は、下記の式(1)で算出される。
(PXR[i]、PYR[i])=(d・sinθ、d・cosθ) ………(1)
【0036】
また、自車31の車幅方向に沿った物体32の横幅であるレーダ幅WDR[i]は、下記の式(2)となる。
WDR[i]=PYR[i]×{tan(θ+w/2)−tan(θ−w/2)}
………(2)
【0037】
横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]は、下記の式(3)、(4)に示すように、横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]を擬似微分することにより算出される。また、擬似微分した値に対して、必要に応じてローパスフィルタ等のフィルタ処理を施した値を使用しても良い。
VXR[i]=(PXR[i]−PXRz[i])/Ts ………(3)
VYR[i]=(PYR[i]−PYRz[i])/Ts ………(4)
【0038】
ここで、Tsはサンプリング周期であり、PXRz[i]、PYRz[i]はそれぞれ横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]の1周期前の値である。なお、これらの情報はレーダからの信号を車両用外界認識装置100に直接入力することによって取得しても良いし、レーダからの信号が他の制御装置に入力されている場合はそれらの制御装置とLAN(Local Area Network)を用いた通信を行うことによって取得しても良い。
【0039】
次に、図4を用いて、車両用外界認識装置100の予測進路設定手段102について説明する。
図4は、予測進路設定手段102の処理内容を示す模式図である。
【0040】
図4に示すように、自車41の位置を原点Oとすると、予測進路45は、予測進路45の中央線45aが原点Oを通る旋回半径Rの円弧で近似できる。なお、予測進路45は、中央領域43と、その中央領域43の左右両側に沿って設定される側方領域44とからなり、中央領域43は、自車41の車幅とほぼ同一の大きさを有し、側方領域44は、車幅の半分の大きさに設定されている。
【0041】
旋回半径Rは、自車41の操舵角α、速度VSP、スタビリティファクタA、ホイールベースLおよびステアリングギア比Gsを用いて下記の式(5)で表される。
R=(1+A・VSP2)×(L・Gs/α) ………(5)
【0042】
ここで、スタビリティファクタとは、その正負が、車両41のステア特性を支配するものであり、車両41の定常円旋回の速度に依存する変化の大きさを示す指数となる重要な値である。上記した式(5)から理解できるように、旋回半径Rは、スタビリティファクタAを係数として、自車41の速度VSPの2乗に比例して変化する。また、旋回半径Rは、自車41の車速VSPおよびヨーレートγを用いて下記の式(6)で表すことができる。
R=VSP/γ ………(6)
【0043】
以上説明したように、車速VSP、操舵角αおよびヨーレートγの自車情報を利用することによって、自車41の予測進路45を旋回半径Rの円弧で近似することが可能となる。
【0044】
次に、図4と図5を用いて、車両用外界認識装置100の第1の衝突判定手段103の処理内容について説明する。
【0045】
まず、図4を用いて、第1の衝突判定手段103の危険度D1[i]の演算方法について説明する。
レーダで検知した物体42の横位置をPXR[i]、縦位置をPYR[i]とすると、旋回半径Rの描く円弧の中心46から物体42までの距離rは、下記の式(7)で表される。
(R−PXR[i])2+PYR[i]2=r2 ………(7)
【0046】
また、旋回半径Rと距離rの半径差分δは、下記の式(8)で求めることができる。
δ=|R−r| ………(8)
【0047】
図4から、上記式(8)の半径差分δが小さくなるほど、検知した物体42が自車41の予測進路45の中央線45aに近づくため、危険度が高いと判断できる。危険度D1[i]は、半径差分δ、自車41の車幅WCを用いて下記の式(9)により算出する。
D1[i]=1−δ/WC ………(9)
【0048】
上記式(9)から理解できるように、予測進路45の中央線45aから物体42までの距離である半径差分δが車幅WC以内(d≦WC)である物体42の危険度は0以上(D1[i]≧0)となり、半径差分δが車幅WC以上(d>WC)である物体42の危険度は0よりも小さな値(D1[i]<0)となる。
【0049】
次に、図5を用いて、第1の衝突判定手段103の危険度D2[i]の演算方法について説明する。
図5(a)は、危険度D2[i]の演算方法を示す模式図、図5(b)は、図5(a)の自車51部分を拡大して示す概略図である。
【0050】
図5(a)に示す状況の場合、レーダで検知した検知物体m52の横位置をPXR[m]、縦位置をPYR[m]とすると、これらの擬似微分により求めた検知物体m52の相対速度ベクトル(VXR[m]、VYR[m])は、自車51に向かっており、X軸と自車幅内で交差することが予想される。したがって、検知物体m52は、自車51と衝突する衝突可能性が高いと判定できる。
【0051】
一方、レーダで検知した検知物体n53の横位置をPXR[n]、縦位置をPYR[n]とすると、これらの擬似微分により求めた検知物体n53の相対速度ベクトル(VXR[n]、VYR[n])は、X軸と自車幅内で交差せず、かつ、自車51の側面とも交差しないことが予想される。したがって、検知物体n53は、自車51と衝突する衝突可能性が低いと判定できる。
【0052】
危険度D2[i]は、図5(b)に示すように、自車51の対角に位置する点51a−51bを結ぶ対角線51cと、相対速度ベクトル52a、53aとの交点51f、51gを求める。そして、その交点51f、51gと対角線51cの中点51eとの距離dと、対角線51cの点51a−51b間の長さWKを用いて、下記の式(10)により算出する。
D2[i]=1−d/WK ………(10)
【0053】
上記式(10)から理解できるように、対角線51cの中点51eから交点51f、51gまでの距離dが対角線51cの点51a−51b間の長さWK以内(d≦WK)である物体の危険度D2は0以上となり、距離dが対角線51cの長さWKよりも大きい物体の危険度D2は0よりも小さな値となる。
【0054】
例えば、物体52は、対角線51cの中点51eから交点51fまでの距離dが長さWK以内(d≦WK)であるので、物体52の危険度D2は0以上(D2[i]≧0)となる。そして、物体53は、対角線51の中点51eから交点51gまでの距離dが長さWKよりも長い(d>WK)ので、物体53の危険度D2は0よりも小さな値(D2[i]<0)となる。
【0055】
以上説明したように、レーダで検知した物体情報から相対速度ベクトルを求め、この相対速度ベクトルと自車51との交点を求めることにより衝突可能性を判定できる。
【0056】
レーダで検知した物体の縦方向の速度が自車の速度と同程度の場合、この物体の縦方向の相対速度が小さくなり、危険度D2[i]<0となる。したがって、危険度D1[i]、D2[i]の双方を用いて判断することが望ましい。第1の衝突判定手段103の危険度D[i]は、式(11)、(12)により算出する。
K[i]=f(VYR[i]) ………(11)
D[i]=K[i]×D1[i]+(1−K[i])×D2[i] ………(12)
【0057】
ここで、重み係数K(0〜1)は、物体の縦方向の相対速度に応じて調整するパラメータであり、関数fによりレーダで検知した物体の縦速度VYR[i]が自車に近づく方向に大きいときはK=0に設定され、自車に近づく方向の縦速度VYR[i]が小さくなるにしたがってK=1まで徐々に増加させるように設定する。また、レーダで検知した物体の縦速度VYR[i]が自車から離れていく方向のときはK=0とする。
【0058】
以上説明したように、レーダで検知した物体の縦速度VYR[i]に応じて危険度D1[i]とD2[i]を統合化して危険度D[i]を求め、この危険度D[i]で衝突可能性を判定することにより、レーダで検知した物体の縦方向の速度が自車の速度と同程度の場合など、様々なシーンで的確に衝突可能性を判定できる。
【0059】
次に、図6、図7を用いて、第2の衝突判定手段104の処理内容について説明する。
図6は、レーダで検知した物体62が予測進路63の右端63Rを通過し、自車61の車幅方向に左へ移動する場合を示している。第2の衝突判定手段104は、図6に示すように、予測進路63外で検知した物体62が予測進路63上を横断するか否かを判定する。
【0060】
図7は、第2の衝突判定手段104の処理内容を示すフローチャートである。
まず、ステップS701において、レーダで物体62を検知しているか否かの判定を行い、検知していない場合はステップS706に進み、予測進路63外で検知した物体62が予測進路63上を横断するか否かを判定するフラグfRMVLAT[i]をクリアする。
【0061】
そして、ステップS701にてレーダで物体62を検知している場合は、ステップS702に進み、レーダで検知した物体62のレーダ情報(縦位置PYR[i]、横位置PXR[i]、縦速度VYR[i]、横速度VXR[i])、および、予測進路設定手段102で設定した旋回半径Rを読み込み、縦位置PYR[i]における予測進路63の左右端63R、63L(予測進路63の中央63aから自車61の車幅WCの1/2だけ離れた円弧)の横位置XL[i]、XR[i]を算出する。
【0062】
図6からわかるように、縦位置PYR[i]における予測進路63の左右端63R、63Lの横位置XL[i]、XR[i]を求める方程式は、下記の式(13)、(14)で表される。
左端:(R−X)2+Y2=(R+WC/2)2 ………(13)
右端:(R−X)2+Y2=(R−WC/2)2 ………(14)
【0063】
したがって、横位置XL[i]、XR[i]は、式(15)、(16)で求まる。
ここで、関数sqrt{}は{}内の値の2乗根を算出する関数である。
XL[i]=R−sqrt{(R+WC/2)2−PYR[i]2} ………(15)
XR[i]=R−sqrt{(R−WC/2)2−PYR[i]2} ………(16)
【0064】
次に、ステップS703において、予測進路63外でレーダによって検知した物体62が、車間時間(縦位置PYR[i]に自車61が到達するまでの時間)の経過後に、予測進路63上を横断するか否か(予測進路63の外から予測進路63内に進入したか否か)を判定する。具体的には、下記の条件(17)、(18)のいずれかが成立する場合に上記判定を行う。
PXR[i]≦XL[i]、かつ、PXRTHW[i]≧XL[i] ………(17)
PXR[i]≧XR[i]、かつ、PXRTHW[i]≦XR[i] ………(18)
【0065】
ここで、条件(17)は、予測進路63の左端63Lを通過して自車61の車幅方向に沿って右に移動する物体を判定する条件であり、条件(18)は、予測進路63の右端63Rを通過して自車61の車幅方向に沿って左に移動する物体を判定する条件である。また、条件(17)、(18)において、車間時間THWR[i]、および、車間時間経過後の横位置PXRTHW[i]は、下記の式(19)、(20)で表される。
THWR[i]=PYR[i]/VSP ………(19)
PXRTHW[i]=PXR[i]+VXR[i]×THWR[i]………(20)
【0066】
ステップS703において、条件(17)、(18)のいずれかが成立し、予測進路63外で検知し、かつ、車間時間経過後に予測進路63上を横断する物体であると判定した場合にはステップS704に進み、判定フラグfRMVLAT[i]をセットして処理を終了する。また、ステップS703において、条件(17)、(18)のいずれも成立しない場合は、ステップS705に進み、判定フラグfRMVLAT[i]の値を保持して処理を終了する。
【0067】
以上説明したように、物体情報取得手段101により取得した物体62の情報(縦位置PYR[i]、横位置PXR[i]、縦速度VYR[i]、横速度VXR[i])と、予測進路設定手段102により設定した予測進路63(旋回半径R)に応じて判定フラグfRMVLAT[i]を算出することにより、予測進路63外で検知した物体62が車間時間経過後に予測進路63上を横断するか否かを判定することが可能となる。
【0068】
また、レーダで検知した物体62の横速度VXR[i]は自車61に対する相対的な値のため、第2の衝突判定手段104においては、自車情報である操舵角α、ヨーレートγ等の値を用いて自車61が直進状態か否かを判定し、自車61が直進状態であることを前提として上記判定を行うことが望ましい。具体的には、ステップS703において、操舵角αが所定値以内、または、ヨーレートγが所定値以内といった条件により自車61が直進状態か否かを判定する。
【0069】
次に、図8、図9、および、図10を用いて、物体選択手段105の処理内容について説明する。
図8は、第1の衝突判定手段103で演算した危険度D[i]と第2の衝突判定手段104で演算した判定フラグfRMVLAT[i]に応じて、レーダで検知した物体から画像処理によって個体識別を行う物体の候補(以下、画像処理候補物体と称する)を選択する処理(A)の内容を示すフローチャートである。
【0070】
また、図9は、前回の周期で画像処理を行った物体の他に、画像処理候補物体が存在する場合に、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定する処理(B)の内容を示すフローチャートである。
【0071】
さらに、図10は、図8、図9の結果を用いて複数の画像処理候補物体から画画像処理によって個体識別を行う物体(以下、画像処理要求物体と称する)を選択する処理(C)の内容を示すフローチャートである。
【0072】
図8の処理(A)では、ステップS801において、レーダで物体を検知しているか否かの判定を行い、検知していない場合はステップS804に進み、画像処理要求物体であるか否かを判定するフラグfIMGACT[i]をクリアする。
【0073】
そして、レーダで物体を検知している場合はステップS802に進み、危険度D[i]と判定フラグfRMVLAT[i]に応じて、検知物体を画像処理によって個体識別するか否かの判定を行う。
【0074】
ここでは、下記の条件C1、C2のいずれかが成立しているか否かが判断される。
C1):危険度D[i]≧0
C2):判定フラグfRMVLAT[i]=1
上記条件C1、C2のいずれかが成立しているときはステップS803に進み、画像処理要求物体(選択候補物体)であることを示す判定フラグfIMGACT[i]をセットして図9の処理(B)に移行する。また、ステップS802において、上記条件C1、C2がともに非成立の場合はステップS804に進み、判定フラグfIMGACT[i]をクリアして図9の処理(B)に移行する。
【0075】
以上説明したように、図8の処理(A)によって、レーダで検知した検知物体のうち、自車の予測進路中央に近い物体、相対速度ベクトルが自車に向かっている物体、および、予測進路外から車間時間経過後に予測進路上を横断する物体を選択することが可能となる。
【0076】
図9に示す処理(B)では、ステップS901において、レーダで物体を検知しているか否かの判定を行い、検知していない場合はステップS907に進み、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定する判定フラグfIMGOFF[i]をクリアする。
【0077】
そして、レーダで検知している場合はステップS902に進み、その検知物体が、前回の画像処理要求物体であり、今回も画像処理候補物体として選択されている物体(以下、再選択候補物体と称する)であるか否かの判定を行う。
【0078】
例えば、前回の周期において、処理(A)〜(C)の演算結果が判定フラグfIMGACT[i]=1であり、今回の周期において、処理(A)の演算結果が判定フラグfIMGACT[i]=1である場合には、条件成立としてステップS903に進む。そして、この条件が非成立の場合には、ステップS906に進み、判定フラグfIMGOFF[i]の値を保持して処理(C)に移行する。
【0079】
次に、ステップS903において、再選択候補物体の他に、処理(A)で選択した画像処理候補物体が存在するか否かの判定を行い、他に画像処理候補物体が存在する場合はステップS904に進む。そして、他に画像処理候補物体が存在しない場合は、ステップS906に進み、判定フラグfIMGOFF[i]の値を保持して、図10に示す処理(C)に移行する。
【0080】
ステップS904において、再選択候補物体が予測進路外へと通過するか否かの判定を行う。この判定は、下記の条件C3)、C4)に基づいて行われる。そして、条件C3)、C4)のいずれかが成立したときは、ステップS905に進み、判定フラグfIMGOFF[i]をセットして図10の処理(C)に移行する。また、ステップS904において、下記の条件C3)、C4)がともに非成立の場合には、ステップS906に進み、判定フラグfIMGOFF[i]の値を保持して処理(C)に移行する。
C3):右に移動し、かつ、予測進路右端を通過
C4):左に移動し、かつ、予測進路左端を通過
上記条件C3)、C4)は、具体的には、下記の式(21)、(22)で示される。
PXR[i]≦XL[i]、かつ、VXR[i]≦−0.5m/s ………(21)
PXR[i]≧XR[i]、かつ、VXR[i]≦+0.5m/s ………(22)
【0081】
以上説明したように、処理(B)によって、前回の周期で画像処理を行った物体の他に、画像処理候補物体が存在する場合に、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定することが可能となる。
【0082】
図10に示す処理(C)では、ステップS1001において、前回の画像処理要求物体であり、今回も画像処理候補として選択されている物体を画像処理候補物体から外すか否かの判定を行う。具体的には、判定フラグfIMGOFF[i]=1の条件が成立した場合には、ステップS1004に進み、判定フラグfIMGACT[i]をクリアして処理を終了する。そして、上記条件が非成立の場合には、ステップS1002に進む。
【0083】
ステップS1002では、画像処理候補物体のうち、自車との距離が最小の物体であるか否かの判定を行う。ここでは、他の画像処理候補物体、すなわち、判定フラグfIMGACT[i]=1となっている物体の中で、縦位置PYR[i]の値が最小であるか否かを判定する。縦位置PYR[i]の値が最小である場合には、その画像処理候補物体を歩行者判定要求物体として設定すべく、ステップS1003に進み、判定フラグfIMGACT[i]=1の値を保持して処理を終了する。
【0084】
一方、縦位置PYR[i]の値が最小でない場合には、ステップS1004に進み、判定フラグfIMGACT[i]をクリアして処理を終了する。また、上述の方法では、自車との距離を示す縦位置PYR[i]の値が最小であるか否かを判定することにより物体を選択したが、縦位置PYR[i]の代わりにTHWR[i](車間時間)や衝突予測時間(≒PYR[i]/VYR[i])が最小であるか否かを判定して歩行者判定要求物体を選択しても良い。
【0085】
以上説明したように、処理(C)によって、複数の画像処理候補物体から画像処理要求物体を取捨選択することが可能となり、画像処理負荷を低減できる。
【0086】
次に、図11を用いて、歩行者判定手段106の処理内容について説明する。
図11は、物体情報取得手段101で取得したレーダ情報(横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]、横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]、幅WDR[i])と物体選択手段105で演算した判定フラグfIMGACT[i]に応じて画像処理によって歩行者を判定する処理の内容を示すフローチャートである。
【0087】
まず、ステップS1101において、物体選択手段105で演算した判定フラグfIMGACT[i]の値に応じて、レーダで検知した物体に対して画像処理要求が出力されているか否かの判定を行う。判定フラグfIMGACT[i]=1の条件が成立している場合は、その物体が歩行者判定要求物体であり、画像処理要求が出力されていると判断してステップS1102に進み、条件が非成立の場合は処理を終了する。
【0088】
ステップS1102では、物体情報取得手段101で取得したレーダ情報(横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]、横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]、幅WDR[i])を読み込み、ステップS1103において、このレーダ情報とカメラ幾何モデル(画像上の位置と実際の位置の関係)に基づいて画像上での処理領域を設定する。
【0089】
ここで、図12を用いて、上述のステップS1103における画像処理領域の設定方法について説明する。
図12(a)は、画像処理領域の設定パターンの選択条件を示す表であり、図12(b)は画像処理領域の設定パターンを示す模式図である。図12(b)において、予測進路1203は、中央領域1201と、その中央領域1201の左右両側に沿って設定される側方領域1202とからなり、中央領域1201は、自車の車幅とほぼ同一の大きさを有し、側方領域1202は、車幅の半分の大きさに設定されている。
【0090】
まず、条件No.1の画像処理領域の設定パターンについて説明する。
条件No.1の画像処理領域の設定パターンは、横方向(自車の車幅方向)に移動していない静止物体を判定するためのものである。図12(a)に示すように、画像処理要求物体のうち、横速度VXR[i]が所定値以下(例えば、0.5m/s以下)の条件が成立し、かつ、危険度D1[i]≧0(物体が予測進路1203上に存在すること)、判定フラグfRMVLAT[i]=0(予測進路1203外で検知しかつ車間時間経過後に予測進路1203上を横断する物体でないこと)の条件が成立している画像処理要求物体に対しては、画像処理領域の設定パターンは(A)が選択され、図12(b)の(A)で示す画像処理領域の設定パターンにより設定する。
【0091】
レーダで物体を検知してからパターンマッチング等の画像処理を実行するまでのディレイ時間をt_delay(s)とすると、横方向の画像処理領域の余裕分L1[i]は、下記の式(23)で表される。
L1[i]=所定値(例えば、0.5m/s)×t_delay ………(23)
【0092】
ここで、横速度VXR[i]が所定値以下である画像処理要求物体1231は、静止状態に近いため、左右どちらの方向に移動しているかが不明確である。よって、レーダで検知した画像処理要求物体1231の幅WDR[i]の左右両側に余裕分L1[i]を付加することにより対応する。したがって、横方向の画像処理領域制限値XLC[i]、XRC[i]は、下記の式(24)、(25)で表される。
XLC[i](左)=PXR[i]−WDR[i]/2−L1[i] ………(24)
XRC[i](右)=PXR[i]+WDR[i]/2+L1[i] ………(25)
【0093】
次に、条件No.2の画像処理領域の設定パターンについて説明する。
条件No.2の画像処理領域の設定パターンは、予測進路1203外を横方向(自車の車幅方向)に移動している移動物体を判定するためのものである。図12(b)に示すように、画像処理要求物体のうち、横速度VXR[i]が所定値以上(例えば、0.5m/s以上)の条件が成立し、かつ、危険度D1[i]<0(物体が予測進路1203外に存在すること)、判定フラグfRMVLAT[i]=1(予測進路1203外で検知しかつ車間時間経過後に予測進路1203上を横断する物体であること)の条件が成立している画像処理要求物体に対しては、画像処理領域の設定パターンは(B)が選択され、図12(b)の(B)で示す画像処理領域の設定パターンにより設定する。
【0094】
レーダで物体を検知してからパターンマッチング等の画像処理を実行するまでのディレイ時間をt_delay(s)とすると、横方向の画像処理領域の余裕分L2[i]は、下記の式(26)で表される。
L2[i]=VXR[i]×t_delay ………(26)
【0095】
この場合においては、横速度VXR[i]が大きいので、パターン(A)と同様に画像処理領域の余裕分L2[i]を左右両側に設けると、画像処理負荷が増大してしまう。しかし、設定パターン(B)のように、横速度VXR[i]が十分に大きい場合には、物体1232の移動方向が特定できるため、物体1232が移動している方向1241にのみ画像処理領域1212の余裕分L2を設けることにより対応する。したがって、横方向の画像処理領域制限値XLC[i]、XRC[i]は、下記の式(27)、(28)で表される。
XLC[i](左)=PXR[i]−WDR[i]/2 ………(27)
XRC[i](右)=PXR[i]+WDR[i]/2+L2[i] ………(28)
【0096】
さらに、条件No.3の画像処理領域の設定パターンについて説明する。
条件No.3の画像処理領域の設定パターンは、予測進路1203上を横方向(自車の車幅方向)に移動している移動物体を判定するためのものである。図12(b)に示すように、画像処理要求物のうち、横速度VXR[i]が所定値以上(例えば、0.5m/s以上)の条件が成立し、かつ、危険度D1[i]≧0(物体が予測進路1203上に存在すること)、判定フラグfRMVLAT[i]=1(予測進路1203外で検知しかつ車間時間経過後に予測進路1203上を横断する物体であること)の条件が成立している画像処理要求物体に対しては、画像処理領域の設定パターンは(C)が選択され、図12(b)の(C)で示す画像処理領域の設定パターンにより設定する。横方向の画像処理領域の余裕分L2[i]はパターン(B)と同様に式(26)で算出する。
【0097】
このとき、画像処理要求物体1233は、予測進路1203の右端1203Rを通過して予測進路1203外へと抜けていくため、画像処理負荷をさらに低減するためには、図12(b)の境界線1213aで示す予測進路1203の右端1203Rで画像処理領域1213を制限することが望ましい。
【0098】
したがって、横方向の画像処理領域制限値XLC[i]、XRC[i]は、パターン(B)と同様に上記式(27)、(28)で表されるが、下記式(29)を用いて画像処理領域1213の右側の制限値XRC[i]をさらに制限する。ここで、関数sqrt{}は{}内の値の2乗根を算出する関数である。
XRC[i](右)≦R−sqrt{(R−WC)2−PYR[i]2}………(29)
【0099】
図11に戻り、ステップS1103において画像処理領域を設定した後は、ステップS1104に進み、カメラで撮像した画像データを用いて設定した処理領域内を走査するパターンマッチング等の処理を実行して歩行者であるか否かの判定を行う。
【0100】
ここで、図13を用いて、上述のステップS1104におけるパターンマッチング処理の概要について説明する。
図13は、画像処理によって歩行者を判定する場合のパターンマッチング処理を示す模式図である。
【0101】
まず、姿勢や服装、サイズ等の異なる複数の歩行者パターン1301を予め準備し、オフライン学習によりそれぞれの歩行者に類似した標準パターン1302を求める。オフライン学習により得られた標準パターン1302は、車両用外界認識装置100内に記憶されている。ステップS1104では、記憶されている標準パターン1302を用い、ステップS1103で設定した画像処理領域1303内で縦方向、横方向に標準パターン1302を走査して、カメラで撮像した画像データと標準パターン1302との比較を行うことにより画像データと標準パターン1302の類似度を算出する。算出した類似度が所定の閾値以上の場合には、歩行者を検知したと判断してステップS1105に進む。
【0102】
図11に戻り、ステップS1105では、ステップS1104のパターンマッチング処理によって歩行者と判定した物体1304の横位置PXC[i]、縦位置PYC[i]、横速度VXC[i]、縦速度VYC[i]、幅WDC[i]等の情報を算出し、処理を終了する。
【0103】
以上説明したように、物体情報取得手段101で取得した物体の情報、および、第1、第2の衝突判定手段103、104の結果を用いて、カメラで撮像した画像データの処理領域を的確に設定することが可能となる。したがって、物体を迅速かつ確実に検知でき、処理領域も狭くすることができる。したがって、安全性確保と画像処理負荷低減の両立が図れる。
【0104】
次に、図14を用いて、フュージョン手段107の処理内容について説明する。
図14は、物体情報取得手段101で取得したレーダ情報(横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]、横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]、幅WDR[i])と歩行者判定手段106で演算したカメラ情報(横位置PXC[i]、縦位置PYC[i]、横速度VXC[i]、縦速度VYC[i]、幅WDC[i])を統合化してフュージョン情報(横位置PX[i]、縦位置PY[i]、横速度VX[i]、縦速度VY[i]、幅WD[i])を生成する処理の内容を示すフローチャートである。
【0105】
まず、ステップS1401において、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングを開始したか否かの判定を行い、画像処理開始時にはステップS1402に進み、更新フラグflag[i]の初期化処理を行う。
【0106】
次に、ステップS1403では、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングで歩行者を検知したか否かの判定を行い、所定回数検知した場合にはステップS1405に進み、更新フラグflag[i]をセットしてステップS1408に進む。
【0107】
ステップS1403にて条件が非成立の場合には、ステップS1404に進み、画像処理によるパターンマッチングで歩行者をロストしたか否かの判定を行う。ステップS1404において、画像処理によるパターンマッチングで歩行者を所定回数ロストした(検知しない)場合にはステップS1406に進み、更新フラグflag[i]をクリアしてステップS1408に進む。
【0108】
ステップS1404にて条件が非成立の場合には、ステップS1407に進み、更新フラグflag[i]の値を保持してステップS1408に進む。ステップS1408において、更新フラグflag[i]がセットされている場合にはステップS1409に進み、レーダ情報とカメラ情報を統合化してフュージョン情報を更新する下記の式(30)〜(34)の処理を実行し、処理を終了する。
PX[i]=PXC[i] ………(30)
PY[i]=PYR[i] ………(31)
VX[i]=VXC[i] ………(32)
VY[i]=VYR[i] ………(33)
WD[i]=WDC[i] ………(34)
【0109】
ステップS1408の条件が非成立の場合には、ステップS1410に進み、下記の式(35)〜(39)に示すようなフュージョン情報のクリア処理を実行し、処理を終了する。
PX[i]=0 ………(35)
PY[i]=0 ………(36)
VX[i]=0 ………(37)
VY[i]=0 ………(38)
WD[i]=0 ………(39)
【0110】
以上説明したように、フュージョン手段107において、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングで歩行者を検知した回数を考慮してフュージョン情報を生成することにより、画像処理によるパターンマッチングで誤検知した物体を排除することができる。また、上記式(30)〜(34)に示すように、縦方向の位置・速度はレーダ情報、横方向の位置・速度・幅はカメラ情報を採用してフュージョン情報を生成することにより、歩行者の認識精度向上が図れる。
【0111】
次に、統合化衝突判定手段108の処理内容について説明する。
統合化衝突判定手段108では、予測進路設定手段102により演算した旋回半径R、および、フュージョン手段107により生成したフュージョン情報(横位置PX[i]、縦位置PY[i]、横速度VX[i]、縦速度VY[i]、幅WD[i])に応じて危険度Df[i]を演算する。
【0112】
危険度Df[i]は、第1の衝突判定手段103の危険度D[i]の演算において、レーダ情報(横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]、横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]、幅WDR[i])の代わりにフュージョン情報を用いることにより算出する。
【0113】
車両用外界認識装置100は、フュージョン手段107により生成したフュージョン情報と、統合化衝突判定手段108により演算した危険度Df[i]を制御装置200に出力する。
【0114】
次に、図15を用いて、プリクラッシュ・セーフティ・システムを例にとり、危険度Df[i]に応じて警報を出力する、あるいは自動的に車両ブレーキを制御するための指令値を演算する制御装置200の処理内容について説明する。
【0115】
図15は、制御装置200の処理内容を示すフローチャートである。
最初に、ステップS1501において、フュージョン情報(横位置PX[i]、縦位置PY[i]、横速度VX[i]、縦速度VY[i]、幅WD[i])を読み込み、ステップS1502において、車載用外界認識装置100で認識した物体の衝突予測時間TTC[i]を下記の式(40)を用いて演算する。
TTC[i]=PY[i]÷VY[i] ………(40)
【0116】
次に、ステップS1503において、車両用外界認識装置100で演算された危険度Df[i]を読み込み、ステップS1504において、危険度Df[i]に応じて下記の式(41)で示される条件C5)が成立している歩行者を選択し、選択された歩行者の中で衝突予測時間TTC[i]が最小となる歩行者(物体)kを選択する。
Df[i]≧ cDCTRL# ………(41)
【0117】
ここで、所定値cDCTRL#は、認識した歩行者kが自車に衝突するか否かを判定するための閾値であり、統合化衝突判定手段108の処理とリンクさせてcDCTRL#=0.5付近に設定して、自車に衝突する可能性がきわめて高い歩行者を選択することが望ましい。
【0118】
次に、ステップS1505において、選択された歩行者kの衝突予測時間TTC[k]に応じて、自動的に車両ブレーキを制御する範囲内に歩行者kが存在しているか否かの判定を行う。下記の式(42)が成立している場合には、ステップS1506に進み、ブレーキ制御の指令値(例えば、5.0m/s2で減速)を演算して処理を終了する。また、下記の式(42)が非成立の場合にはステップS1507に進む。
TTC[k]≦cTTCBRK# ………(42)
【0119】
ここで、所定値cTTCBRK#は、ブレーキ制御を実行するか否かを判定するための閾値であり、cTTCBRK#=0.6秒付近に設定して、運転者の回避操作と重複しないようにすることが望ましい。
【0120】
次に、ステップS1507において、選択された歩行者kの衝突予測時間TTC[k]に応じて、警報を出力する範囲内に歩行者kが存在しているか否かの判定を行う。下記の式(43)が成立している場合にはステップS1508に進み、警報を出力するための指令値を演算して処理を終了する。また、下記の式(43)が非成立の場合には、ブレーキ制御、および、警報ともに実行せずに処理を終了する。
TTC[k]≦cTTCALM# ………(43)
【0121】
ここで、所定値cTTCALM#は、警報を出力するか否かを判定するための閾値であり、cTTCALM#=1.4秒付近に設定して、警報を出力してからブレーキ制御を実行するまでの時間を十分に確保することが望ましい。これは、運転者が警報によって前方の歩行者に気付き、運転者自身が衝突回避操作を行うことによって、ブレーキ制御が介入する前に衝突を回避できるからである。
【0122】
以上説明したように、車両用外界認識装置100と制御装置200を組み合せた車両システムによって、自車前方の歩行者を認識し、認識した歩行者に対してプリクラッシュ・セーフティ・システム(警報、または、ブレーキ制御)のような安全運転支援を実行させることが可能となる。
【0123】
また、レーダで検知した物体のうち、歩行者判定手段106、および、フュージョン手段107によって歩行者であると認識した物体に対しては、ブレーキ制御を実行するか否かを判定するための閾値、警報を出力するか否かを判定する閾値をそれぞれ3.0秒、4.0秒に設定して、上記プリクラッシュ・セーフティ・システム(警報、または、ブレーキ制御)を早目に作動させて緩減速による制御を行い、それ以外の物体に対しては各閾値を0.6秒、1.4秒に設定して上記プリクラッシュ・セーフティ・システム(警報、または、ブレーキ制御)を衝突の僅か手前で作動させて急減速による制御を行うなど、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングの結果に応じて警報やブレーキ制御のタイミング等を変更することも可能である。
【0124】
画像処理によるパターンマッチングにおいては、誤検知と未検知はトレードオフの関係にあり、誤検知を低減しようとすると歩行者の検知率も低下する。しかしながら、本発明の制御方式を採用することによって、レーダで検知した物体の中で確実に歩行者であると判断できた物体に対しては遠方から警報、緩やかなブレーキ制御を実行して運転者に注意を促し、その他の物体(車両や電柱等の非歩行者)に対しては衝突の僅か手前で警報、衝突軽減のためのブレーキ制御を実行することにより、運転者に対する煩わしさを抑えて安全性を確保することが可能となる。
【0125】
次に、図16、図17、および、図18を用いて、本発明の効果について説明する。
図16は、年齢層別に歩行中死傷者の事故類型を分類した統計データ(イタルダ・インフォメーション2004、No.50;財団法人交通事故総合分析センター)であり、図の縦軸は歩行者事故の構成率、図の横軸は死傷した歩行者の年齢層を示している。
【0126】
全体的に「横断中」の占める割合が約60%と高くなっており、とくに、子供と高齢者で「横断中」の占める割合が高くなっている。「横断中」の内訳をみると、6歳以下の子供は「その他の場所(付近に横断施設のない場所)横断中」の割合が高く、「横断歩道を横断中」の割合が低くなっている。一方、子供ほどではないが、高齢者層でも「その他の場所(付近に横断施設のない場所)横断中」の割合が高くなっている。
【0127】
図17(a)、(b)は、従来技術の課題を示す模式図であり、図17(a)は「遠方、かつ、自車1701の予測進路1704上に静止している歩行者A1711」と「自車1701の予測進路1704外から予測進路1704を横断してくる歩行者B1712」が同時に存在する場合を示している。
【0128】
この図において、自車1701は低車速で走行しており、自車1701の前方を小走りで斜め横断する歩行者B1712が存在している。この場合、第1の衝突判定手段103では、自車1701に対する歩行者B1712の縦方向の相対速度が小さくなっているため、予測進路1704に基づいた危険度D1[i]を重視して危険度D[i]を算出する。
【0129】
したがって、図17(a)では、画像処理の対象として歩行者A1711が選択されてしまう。そして、その後、所定時間が経過して図17(b)の状態に移行すると、横断してくる歩行者B1712が予測進路1704上に進入するため、歩行者B1712が画像処理の対象として選択される。
【0130】
よって、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングでは、自車1701近傍の歩行者B1712を判定するタイミングが遅延し、横断歩行者B1712に対して警報、ブレーキ制御の介入が遅れて安全運転支援システムが有効に作動しない可能性がある。
【0131】
図17(c)、(d)は、本発明を適用した場合の効果を示す模式図であり、図17(c)は図17(a)と同一の状況を示し、図17(d)は図17(b)と同一の状況を示している。
【0132】
この場合、レーダによって予測進路1704外で検知した歩行者B1712は、車間時間経過後に中央領域1702の右端1702R(D1=0.5相当)を通過して左に移動していくと予想されるため、第2の衝突判定手段104、物体選択手段105により画像処理候補物体として選択される。
【0133】
また、歩行者A1711も、第1の衝突判定手段103、物体選択手段105により画像処理候補物体として選択されるため、歩行者A1711と歩行者B1712の縦方向の相対位置を比較し、自車1701との距離が最も近い歩行者B1712を画像処理の対象として選択する。
【0134】
その後、所定時間が経過して図17(d)の状態に移行するまで、歩行者B1712を画像処理の対象として選択し続けるため、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングで歩行者B1712を判定するタイミングの遅延を防止でき、前方の横断歩行者B1712に対して警報、ブレーキ制御の介入が遅れることなく安全運転支援システムを有効に作動させることが可能となる。
【0135】
また、仮に、歩行者B1712が予測進路1704外で停止して横断しないような場合には、第2の衝突判定手段104により予測進路1704上を横断しないと判断して画像処理の対象が歩行者A1711に切り替るため、歩行者A1711に対する安全運転支援を無視することなく、図16で示すような歩行者事故の約60%を占める横断事故の低減に寄与することができる。
【0136】
次に、図18を用いて、画像処理の対象物を切替える方法について説明する。
図18(a)、(b)は、「近傍で予測進路1804上を左に移動している歩行者A1811」が存在し、かつ、「遠方で自車1801の予測進路1804外(右側)から予測進路1804上を横断してくる歩行者B1812」が新たに出現した場合の模式図である。
【0137】
図18(a)は、本発明の物体選択手段105の「前回の周期で画像処理を行った物体の他に、画像処理候補物体が存在する場合に、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定する処理」が適用されていない場合を示しており、歩行者A1811を画像処理の対象として選択し続けている。
【0138】
図18で示すシーンにおいては、歩行者A1811は、予測進路1804の側方領域1803上を左に移動している。この場合の危険度D1[i]は、0.5以下になっており、かつ、これまで継続して画像処理によるパターンマッチングを行っているため、図18(b)で示すように、新たに出現した歩行者B1812を画像処理の対象として選択することが望ましい。
【0139】
ここで、物体選択手段105の「前回の周期で画像処理を行った物体の他に、画像処理候補物体が存在する場合に、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定する処理」を適用すると、予測進路1804の中央領域1802の左端1802Rを通過(危険度D1[i]≦0.5)して左に移動する物体1811に対して画像処理要求を解除するためのフラグがセットされる。
【0140】
したがって、このように予測進路1804の自車幅相当の進路である中央領域1802よりも外側に抜けていく歩行者A1811を画像処理候補物体から除外し、新たに出現した歩行者B1812を画像処理の対象(画像処理要求物体)として選択することができる。
【0141】
次に、図19を用いて、本発明の物体情報取得手段101の他の実施例について説明する。
図19は、基準(左)カメラ1911aと参照(右)カメラ1911bとから構成されるステレオカメラ1911で撮像した画像データに応じて物体情報を取得する場合の構成図である。
【0142】
まず、画像入力部1912では、各カメラ1911a、1911bで撮像した基準画像(左)と参照画像(右)の各データを取得するインターフェース処理を行う。
【0143】
次に、距離画像生成部1913において、画像入力部1912で取得した基準画像(左)データと参照画像(右)データのステレオ画像データに応じて距離画像を生成する。
【0144】
立体物検知部1918では、距離画像生成部1913で生成した距離画像データ、および、道路平面を想定したモデル等を用いて立体物を抽出する処理を行い、カメラ幾何モデル(画像上の位置と実際の位置の関係)に基づいて立体物の自車の車幅方向の相対位置PXR[i]、自車の全長方向の相対位置PYR[i]、自車の車幅方向の相対速度VXR[i]、自車の全長方向の相対速度VYR[i]、幅WDR[i]を演算する。
【0145】
以上説明したように、図1のレーダの代わりにステレオカメラを用い、ステレオカメラで撮像した画像データに応じて物体情報を取得することが可能となる。このとき、歩行者判定手段106では、撮像データとして基準画像(左)と参照画像(右)のいずれかを選択し、画像処理によるパターンマッチングにより抽出した立体物が歩行者であるか否かを判定する。
【符号の説明】
【0146】
100 車両用外界認識装置
101 物体情報取得手段
102 予測進路設定手段
103 第1の衝突判定手段
104 第2の衝突判定手段
105 物体選択手段
106 歩行者判定手段
107 フュージョン手段
108 統合化衝突判定手段
200 制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ等の測距センサとカメラ等の画像センサからの情報に基づいて測距センサの検知物が歩行者であるか否かを判定する車両用外界認識装置及びそれを用いた車両システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内の交通死亡事故のうち、歩行者が死亡する事故は全体の約30%を占めており、特に東京都内の場合、歩行者死亡事故の割合は約40%に上ると言われている。このような歩行者死亡事故を低減するためには、レーダやカメラなどの環境認識センサを利用した安全運転支援システムが有効であり、特開2007−114831号公報では、レーダとカメラを用いて歩行者等の物体を検知するシステムが提案されている。この方法によれば、レーダで検知した物体の距離と反射強度に応じて物体の属性を判別し、この属性に応じてカメラで撮像した画像データを用いて個体識別することが可能となる。
【0003】
また、特開2005−025458号公報には、レーダ等の測距センサで検知した物体をカメラで冗長に補足するシステムが記載されている。このシステムでは、まず、車速と操舵角とヨーレートを用いて自車の進路を旋回半径として予測し、この予測進路とレーダで検知した物体の相対位置に応じて自車との衝突可能性を判定する。また、レーダで検知した物体の相対位置の変化量から相対速度ベクトルを算出し、この相対速度ベクトルに応じて自車との衝突可能性を判定する。
【0004】
そして、縦方向の相対速度が小さい物体に対しては予測進路による衝突判定の結果を重視し、縦方向の相対速度が大きい物体に対しては相対速度ベクトルによる衝突判定の結果を重視して、レーダで検知した物体から画像処理の対象物を選択する。この発明によれば、自車前方の停止車両を操舵回避した後に、前方を走行する低速車との接近が起こるようなシーンで、的確に衝突可能性を判定することが可能となり、画像処理負荷を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−114831号公報
【特許文献2】特開2005−025458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2007−114831号公報に記載されているように、レーダで検知した物体を、カメラで撮像した画像データを用いて個体識別する方式、例えば歩行者を認識する方式においては、膨大なパターンの歩行者に対して認識精度を向上させようとすると、画像処理ロジックが複雑化して処理負荷が増大してしまうため、画像処理を行う物体を絞り込んで画像処理を行う必要がある。
【0007】
また、特開2005−025458号記載の方式においては、図17(a)の左側の図で示すように、「遠方、かつ、自車の予測進路上に静止している歩行者A」と「自車の予測進路外から横断してくる歩行者B」が同時に存在する場合に、歩行者Aを画像処理の対象として優先してしまうといった課題がある。特に、自車が低車速で走行しており、その前方を歩行者が小走りで斜めに横断するような場合には、図17(a)の右側の図で示すように、横断してくる歩行者1712が予測進路1704内に進入した後に画像処理の対象として選択されるため、認識の遅れにより安全運転支援システムが有効に作動しない可能性がある。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、安全性確保と処理負荷低減の両立を図ることができる車両用外界認識装置及びそれを用いた車両システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する車両用外界認識装置の発明は、自車前方に位置する複数の検知物体を検知した検知物体情報と、自車前方を撮像した画像の画像情報と、自車の状態を検知した自車情報に基づいて車両の外界を認識する車両用外界認識装置であって、自車情報に基づいて自車の予測進路を設定する予測進路設定手段と、予測進路設定手段により設定した予測進路と検知物体情報とに基づいて各検知物体が自車に衝突する危険度を演算する第1の衝突判定手段と、予測進路と検知物体情報とに基づいて各検知物体が予測進路の外から予測進路内に進入するか否かを判定する第2の衝突判定手段と、複数の検知物体の中から、第1の衝突判定手段により演算された危険度が予め設定された第1の閾値以上である検知物体と、第2の衝突判定手段により予測進路内に進入すると判定された検知物体を選択候補物体として選択し、その選択された複数の選択候補物体の中から自車との相対距離、または、衝突予測時間が最小となる選択候補物体を歩行者判定要求物体として選択する物体選択手段と、物体選択手段により選択された歩行者判定要求物体に対して画像情報を用いて歩行者か否かの判定を行う歩行者判定手段を有することを特徴としている。
【0010】
そして、好ましくは、物体選択手段は、選択候補物体を複数選択しており、それら複数の選択候補物体の中に、前回の処理で歩行者判定要求物体として選択されていた選択候補物体が含まれている場合に、その選択されていた選択候補物体を再選択候補物体として特定し、予測進路と検知物体情報とに基づいて再選択候補物体を歩行者判定要求物体の選択候補から除外するか否かの判定を行う。
【0011】
また、好ましくは、歩行者判定手段は、歩行者判定要求物体に対する第1の衝突判定手段の判定結果と、第2の衝突判定手段の判定結果に応じて画像情報の画像処理領域を設定する処理を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の検知物体の中から、第1の衝突判定手段によって危険度が第1の閾値以上であると判定された検知物体と、第2の衝突判定手段によって予測進路の外から予測進路内に進入すると判定された検知物体とを選択候補物体として選択し、その複数の選択候補物体の中から、自車との相対距離、または、衝突予測時間が最小となる選択候補物体を歩行者判定要求物体として選択するので、衝突可能性が高い自車近傍の横断歩行者を優先的に歩行者判定要求物体として選択することが可能となる。特に、自車が低車速で走行しており、その前方に存在する歩行者が小走りで自車の予測進路上を斜め横断するような場合の認識遅れを回避できる。
【0013】
したがって、歩行者を迅速かつ確実に検知でき、歩行者の安全性を確保することができる。また、画像情報の処理領域を的確に設定することができ、処理領域を小さくして、装置の画像処理負荷を低減することができる。
【0014】
そして、本発明によれば、複数の選択候補物体の中に、前回の処理で歩行者判定要求物体として選択されていた選択候補物体が含まれている場合に、その選択されていた選択候補物体を再選択候補物体として特定する。そして、予測進路と検知物体情報とに基づいて再選択候補物体を歩行者判定要求物体の選択候補から除外するか否かの判定を行う。
【0015】
したがって、歩行者判定要求物体を直ぐに切替えることが可能となる。例えば、歩行者判定要求物体として選択されている歩行者が自車正面を通過した後、新たに横断してくる歩行者が出現した場合には、新たに出現した横断歩行者を歩行者判定要求物体として選択できる。したがって、歩行者判定手段の処理負荷を低減することができる。
【0016】
さらに、選択した歩行者判定要求物体が自車の車幅方向(すなわち、横方向)に移動している場合、画像情報の画像処理領域を歩行者判定要求物体の移動方向にシフトし、その移動方向と自車の予測進路に応じて画像処理領域の制限値を設けるので、安全性確保と処理負荷低減の両立が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係わる車両用外界認識装置の構成を示す機能ブロック図。
【図2】本実施の形態に係わる車両用外界認識装置、及びそれを用いた車両システムの制御装置を示す機能ブロック図。
【図3】物体情報取得手段の処理内容を説明するための模式図。
【図4】予測進路設定手段の処理内容、および、第1の衝突判定手段の危険度D1[i]の演算方法を説明するための模式図。
【図5】第1の衝突判定手段の危険度D2[i]の演算方法を説明するための模式図。
【図6】レーダで検知した物体が予測進路の右端を通過して自車の車幅方向に左へ移動する場合を示す模式図。
【図7】第2の衝突判定手段の処理内容を示すフローチャート。
【図8】物体選択手段の処理内容を示すフローチャート。
【図9】物体選択手段の処理内容を示すフローチャート。
【図10】物体選択手段の処理内容を示すフローチャート。
【図11】歩行者判定手段の処理内容を示すフローチャート。
【図12】画像処理領域の設定パターンを示す表、および、模式図。
【図13】歩行者を判定するパターンマッチング処理を説明するための模式図。
【図14】フュージョン手段の処理内容を示すフローチャート。
【図15】制御装置の処理内容を示すフローチャート。
【図16】年齢層別に歩行中死傷者の事故類型を分類した統計データ。
【図17】「遠方でかつ自車の予測進路上に静止している歩行者」と「近傍でかつ自車の予測進路外から横断してくる歩行者」が同時に存在する場合を示す模式図。
【図18】「近傍でかつ自車の予測進路上を左に移動している歩行者」が存在し、かつ、「遠方で自車の予測進路外(右側)から予測進路上を横断してくる歩行者」が新たに出現した場合の模式図。
【図19】物体情報取得手段において、ステレオカメラで撮像した画像データに応じて物体情報を取得する場合の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施の形態に係わる車両用外界認識装置100及びそれを用いた車両システム1の実施形態を、図1〜図19を用いて詳細に説明する。
まず、図1、図2を用いて、本発明に係る車両用外界認識装置100の処理内容について説明する。図1、図2は、車両用外界認識装置100及びそれを用いた車両システム1の構成要素である制御装置200の実施形態を示すブロック図である。
【0019】
以下に示す処理の内容は、車両用外界認識装置100にプログラミングされ、予め定められた周期で繰り返し実行される。
図1において、物体情報取得手段101は、測距センサであるレーダによって検知した物体までの距離d[i](m)、方位θ[i](rad)、幅w[i](rad)の情報を取得し、その取得した信号を変換するインターフェース処理を行うことにより、レーザ情報として物体の自車に対する車幅方向の相対位置(以下、横位置と称する)PXR[i](m)、自車に対する全長方向の相対位置(以下、縦位置と称する)PYR[i](m)、自車に対する車幅方向の相対速度(以下、横速度と称する)VXR[i](m/s)、自車に対する全長方向の相対速度(以下、縦速度と称する)VYR[i](m/s)、自車の車幅方向に沿った物体の幅WDR[i](m)を演算する。ここで、iはレーダが複数の物体を検知している場合の物体ID番号である。なお、インターフェース処理の内容については後述する。
【0020】
予測進路設定手段102は、図示していない車速センサ、操舵角センサ、および、ヨーレートセンサ等の、自車の状態を検知するセンサからの検出信号に応じて、車速VSP、操舵角α、および、ヨーレートγ等の自車情報を取得し、その取得した自車情報に応じて自車の予測進路を演算する処理を行う。ここでは、自車の予測進路として旋回半径R(m)が演算される。なお、旋回半径Rの演算方法については後述する。これらの自車情報は、各センサの信号を車両用外界認識装置100に直接入力することによって取得しても良いし、センサ信号が他の制御装置に入力されている場合はそれらの制御装置とLAN(Local Area Network)を用いた通信を行うことによって取得しても良い。
【0021】
第1の衝突判定手段103は、予測進路設定手段102により得られた旋回半径R(m)と物体情報取得手段101により得られたレーダ情報の横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)に応じて危険度D1[i]を演算する。ここで、危険度D1[i]は、レーダで検知した物体が自車の予測進路の中央にどれだけ近いかを示す値である。
【0022】
また、第1の衝突判定手段103は、横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)、および、横速度VXR[i](m/s)、縦速度VYR[i](m/s)に応じて危険度D2[i]を演算する。ここで、危険度D2[i]は、レーダが検知した物体の相対速度ベクトルが自車に向かっている度合いを示す値である。
【0023】
そして、第1の衝突判定手段103は、危険度D1[i]、D2[i]を縦速度VYR[i](m/s)に応じて重み付けすることにより、危険度D[i]を演算する。なお、危険度D1[i]、D2[i]、および、D[i]の演算方法については後述する。
【0024】
第2の衝突判定手段104は、予測進路設定手段102により得られた旋回半径Rと物体情報取得手段101により得られたレーダ情報の横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)、および、横速度VXR[i](m/s)、縦速度VYR[i](m/s)に応じて、判定フラグfRMVLAT[i]を演算する。ここで、判定フラグfRMVLAT[i]は、レーダで検知した物体が所定時間経過後に自車の予測進路を横断するか否かを示すフラグである。なお、判定フラグfRMVLAT[i]の演算方法については後述する。
【0025】
物体選択手段105は、第1の衝突判定手段103により得られた危険度D[i]と、第2の衝突判定手段104により得られた判定フラグfRMVLAT[i]に応じて、判定フラグfIMGACT[i]を演算する。ここで、判定フラグfIMGACT[i]は、レーダで検知した物体に対して画像処理によって歩行者を判定するか否かを示すフラグである。なお、判定フラグfIMGACT[i]の演算方法については後述する。
【0026】
歩行者判定手段106は、物体選択手段105により得られた判定フラグfIMGACT[i]と、物体情報取得手段101により得られた物体のレーダ情報(横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)、横速度VXR[i](m/s)、縦速度VYR[i](m/s)、幅WDR[i](m))と、カメラで撮像した自車前方の画像データとに基づいて、画像処理によって歩行者か否かを判定する。
【0027】
そして、歩行者と判定した場合には、歩行者のカメラ情報(歩行者の横位置PXC[i](m)、縦位置PYC[i](m)、横速度VXC[i](m/s)、縦速度VYC[i](m/s)、幅WDC[i](m))を演算する。なお、画像処理によって歩行者か否かを判定する方法については後述する。ここで、iは画像処理によって複数の歩行者を認識している場合の物体ID番号である。
【0028】
図2において、フュージョン手段107は、物体情報取得手段101より得られた物体のレーダ情報(横位置PXR[i](m)、縦位置PYR[i](m)、横速度VXR[i](m/s)、縦速度VYR[i](m/s)、幅WDR[i](m))と、歩行者判定手段106により得られたカメラ情報(横位置PXC[i](m)、縦位置PYC[i](m)、横速度VXC[i](m/s)、縦速度VYC[i](m/s)、幅WDC[i](m))とを統合化して、歩行者の横位置PX[i](m)、縦位置PY[i](m)、横速度VX[i](m/s)、縦速度VY[i](m/s)、幅WD[i](m)の情報であるフュージョン情報を生成する。なお、フュージョン情報を生成する方法については後述する。ここで、iはフュージョンによって複数の歩行者情報を生成している場合の物体ID番号である。
【0029】
統合化衝突判定手段108は、予測進路設定手段102により得られた旋回半径Rと、フュージョン手段107により得られた物体の横位置PX[i](m)と縦位置PY[i](m)に応じて危険度Df1[i]を演算する。ここで、危険度Df1[i]は、フュージョン手段107で認識した歩行者が自車の予測進路中央にどれだけ近いかを示す値である。
【0030】
また、統合化衝突判定手段108は、歩行者のフュージョン情報(横位置PX[i](m)、縦位置PY[i](m)、および、横速度VX[i](m/s)、縦速度VY[i](m/s))に応じて危険度Df2[i]を演算する。ここで、危険度Df2[i]は、フュージョン手段107で認識した歩行者の相対速度ベクトルが自車に向かっている度合いを示す値である。
【0031】
さらに、統合化衝突判定手段108は、危険度Df1[i]、Df2[i]を縦速度VY[i](m/s)に応じて重み付けすることにより危険度Df[i]を演算する。なお、危険度Df1[i]、Df2[i]、および、Df[i]の演算方法については後述する。
【0032】
車両用外界認識装置100は、図2に示すように、フュージョン手段107により生成したフュージョン情報と、統合化衝突判定手段108により得られた危険度Df[i]をLAN(Local Area Network)を用いた通信を行うことによって制御装置200に出力する。
【0033】
制御装置200は、車両用外界認識装置100のフュージョン手段107から入力したフュージョン情報と、車両用外界認識装置100の統合化衝突判定手段108から入力した危険度Df[i]に応じて、警報・ブレーキ指令値を演算して、図示しない警報装置・ブレーキ装置を作動させる。なお、警報・ブレーキ指令値の演算方法については後述する。
【0034】
次に、図3を用いて、物体情報取得手段101の処理内容について説明する。
図3は、物体情報取得手段の処理内容を説明するための模式図である。
【0035】
物体情報取得手段101は、レーダで検知した物体32の中心32aまでの距離d[i]、方位θ[i]、幅w[i]を取得し、自車31を原点Oとする2次元の相対座標系(X−Y座標)の情報に変換する。例えば、物体32の方位θ[i]が自車31の進行方向(相対座標系のY軸)と、レーダで検知した物体32の相対位置ベクトルとのなす角θで与えられるとき、物体32の横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]は、下記の式(1)で算出される。
(PXR[i]、PYR[i])=(d・sinθ、d・cosθ) ………(1)
【0036】
また、自車31の車幅方向に沿った物体32の横幅であるレーダ幅WDR[i]は、下記の式(2)となる。
WDR[i]=PYR[i]×{tan(θ+w/2)−tan(θ−w/2)}
………(2)
【0037】
横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]は、下記の式(3)、(4)に示すように、横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]を擬似微分することにより算出される。また、擬似微分した値に対して、必要に応じてローパスフィルタ等のフィルタ処理を施した値を使用しても良い。
VXR[i]=(PXR[i]−PXRz[i])/Ts ………(3)
VYR[i]=(PYR[i]−PYRz[i])/Ts ………(4)
【0038】
ここで、Tsはサンプリング周期であり、PXRz[i]、PYRz[i]はそれぞれ横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]の1周期前の値である。なお、これらの情報はレーダからの信号を車両用外界認識装置100に直接入力することによって取得しても良いし、レーダからの信号が他の制御装置に入力されている場合はそれらの制御装置とLAN(Local Area Network)を用いた通信を行うことによって取得しても良い。
【0039】
次に、図4を用いて、車両用外界認識装置100の予測進路設定手段102について説明する。
図4は、予測進路設定手段102の処理内容を示す模式図である。
【0040】
図4に示すように、自車41の位置を原点Oとすると、予測進路45は、予測進路45の中央線45aが原点Oを通る旋回半径Rの円弧で近似できる。なお、予測進路45は、中央領域43と、その中央領域43の左右両側に沿って設定される側方領域44とからなり、中央領域43は、自車41の車幅とほぼ同一の大きさを有し、側方領域44は、車幅の半分の大きさに設定されている。
【0041】
旋回半径Rは、自車41の操舵角α、速度VSP、スタビリティファクタA、ホイールベースLおよびステアリングギア比Gsを用いて下記の式(5)で表される。
R=(1+A・VSP2)×(L・Gs/α) ………(5)
【0042】
ここで、スタビリティファクタとは、その正負が、車両41のステア特性を支配するものであり、車両41の定常円旋回の速度に依存する変化の大きさを示す指数となる重要な値である。上記した式(5)から理解できるように、旋回半径Rは、スタビリティファクタAを係数として、自車41の速度VSPの2乗に比例して変化する。また、旋回半径Rは、自車41の車速VSPおよびヨーレートγを用いて下記の式(6)で表すことができる。
R=VSP/γ ………(6)
【0043】
以上説明したように、車速VSP、操舵角αおよびヨーレートγの自車情報を利用することによって、自車41の予測進路45を旋回半径Rの円弧で近似することが可能となる。
【0044】
次に、図4と図5を用いて、車両用外界認識装置100の第1の衝突判定手段103の処理内容について説明する。
【0045】
まず、図4を用いて、第1の衝突判定手段103の危険度D1[i]の演算方法について説明する。
レーダで検知した物体42の横位置をPXR[i]、縦位置をPYR[i]とすると、旋回半径Rの描く円弧の中心46から物体42までの距離rは、下記の式(7)で表される。
(R−PXR[i])2+PYR[i]2=r2 ………(7)
【0046】
また、旋回半径Rと距離rの半径差分δは、下記の式(8)で求めることができる。
δ=|R−r| ………(8)
【0047】
図4から、上記式(8)の半径差分δが小さくなるほど、検知した物体42が自車41の予測進路45の中央線45aに近づくため、危険度が高いと判断できる。危険度D1[i]は、半径差分δ、自車41の車幅WCを用いて下記の式(9)により算出する。
D1[i]=1−δ/WC ………(9)
【0048】
上記式(9)から理解できるように、予測進路45の中央線45aから物体42までの距離である半径差分δが車幅WC以内(d≦WC)である物体42の危険度は0以上(D1[i]≧0)となり、半径差分δが車幅WC以上(d>WC)である物体42の危険度は0よりも小さな値(D1[i]<0)となる。
【0049】
次に、図5を用いて、第1の衝突判定手段103の危険度D2[i]の演算方法について説明する。
図5(a)は、危険度D2[i]の演算方法を示す模式図、図5(b)は、図5(a)の自車51部分を拡大して示す概略図である。
【0050】
図5(a)に示す状況の場合、レーダで検知した検知物体m52の横位置をPXR[m]、縦位置をPYR[m]とすると、これらの擬似微分により求めた検知物体m52の相対速度ベクトル(VXR[m]、VYR[m])は、自車51に向かっており、X軸と自車幅内で交差することが予想される。したがって、検知物体m52は、自車51と衝突する衝突可能性が高いと判定できる。
【0051】
一方、レーダで検知した検知物体n53の横位置をPXR[n]、縦位置をPYR[n]とすると、これらの擬似微分により求めた検知物体n53の相対速度ベクトル(VXR[n]、VYR[n])は、X軸と自車幅内で交差せず、かつ、自車51の側面とも交差しないことが予想される。したがって、検知物体n53は、自車51と衝突する衝突可能性が低いと判定できる。
【0052】
危険度D2[i]は、図5(b)に示すように、自車51の対角に位置する点51a−51bを結ぶ対角線51cと、相対速度ベクトル52a、53aとの交点51f、51gを求める。そして、その交点51f、51gと対角線51cの中点51eとの距離dと、対角線51cの点51a−51b間の長さWKを用いて、下記の式(10)により算出する。
D2[i]=1−d/WK ………(10)
【0053】
上記式(10)から理解できるように、対角線51cの中点51eから交点51f、51gまでの距離dが対角線51cの点51a−51b間の長さWK以内(d≦WK)である物体の危険度D2は0以上となり、距離dが対角線51cの長さWKよりも大きい物体の危険度D2は0よりも小さな値となる。
【0054】
例えば、物体52は、対角線51cの中点51eから交点51fまでの距離dが長さWK以内(d≦WK)であるので、物体52の危険度D2は0以上(D2[i]≧0)となる。そして、物体53は、対角線51の中点51eから交点51gまでの距離dが長さWKよりも長い(d>WK)ので、物体53の危険度D2は0よりも小さな値(D2[i]<0)となる。
【0055】
以上説明したように、レーダで検知した物体情報から相対速度ベクトルを求め、この相対速度ベクトルと自車51との交点を求めることにより衝突可能性を判定できる。
【0056】
レーダで検知した物体の縦方向の速度が自車の速度と同程度の場合、この物体の縦方向の相対速度が小さくなり、危険度D2[i]<0となる。したがって、危険度D1[i]、D2[i]の双方を用いて判断することが望ましい。第1の衝突判定手段103の危険度D[i]は、式(11)、(12)により算出する。
K[i]=f(VYR[i]) ………(11)
D[i]=K[i]×D1[i]+(1−K[i])×D2[i] ………(12)
【0057】
ここで、重み係数K(0〜1)は、物体の縦方向の相対速度に応じて調整するパラメータであり、関数fによりレーダで検知した物体の縦速度VYR[i]が自車に近づく方向に大きいときはK=0に設定され、自車に近づく方向の縦速度VYR[i]が小さくなるにしたがってK=1まで徐々に増加させるように設定する。また、レーダで検知した物体の縦速度VYR[i]が自車から離れていく方向のときはK=0とする。
【0058】
以上説明したように、レーダで検知した物体の縦速度VYR[i]に応じて危険度D1[i]とD2[i]を統合化して危険度D[i]を求め、この危険度D[i]で衝突可能性を判定することにより、レーダで検知した物体の縦方向の速度が自車の速度と同程度の場合など、様々なシーンで的確に衝突可能性を判定できる。
【0059】
次に、図6、図7を用いて、第2の衝突判定手段104の処理内容について説明する。
図6は、レーダで検知した物体62が予測進路63の右端63Rを通過し、自車61の車幅方向に左へ移動する場合を示している。第2の衝突判定手段104は、図6に示すように、予測進路63外で検知した物体62が予測進路63上を横断するか否かを判定する。
【0060】
図7は、第2の衝突判定手段104の処理内容を示すフローチャートである。
まず、ステップS701において、レーダで物体62を検知しているか否かの判定を行い、検知していない場合はステップS706に進み、予測進路63外で検知した物体62が予測進路63上を横断するか否かを判定するフラグfRMVLAT[i]をクリアする。
【0061】
そして、ステップS701にてレーダで物体62を検知している場合は、ステップS702に進み、レーダで検知した物体62のレーダ情報(縦位置PYR[i]、横位置PXR[i]、縦速度VYR[i]、横速度VXR[i])、および、予測進路設定手段102で設定した旋回半径Rを読み込み、縦位置PYR[i]における予測進路63の左右端63R、63L(予測進路63の中央63aから自車61の車幅WCの1/2だけ離れた円弧)の横位置XL[i]、XR[i]を算出する。
【0062】
図6からわかるように、縦位置PYR[i]における予測進路63の左右端63R、63Lの横位置XL[i]、XR[i]を求める方程式は、下記の式(13)、(14)で表される。
左端:(R−X)2+Y2=(R+WC/2)2 ………(13)
右端:(R−X)2+Y2=(R−WC/2)2 ………(14)
【0063】
したがって、横位置XL[i]、XR[i]は、式(15)、(16)で求まる。
ここで、関数sqrt{}は{}内の値の2乗根を算出する関数である。
XL[i]=R−sqrt{(R+WC/2)2−PYR[i]2} ………(15)
XR[i]=R−sqrt{(R−WC/2)2−PYR[i]2} ………(16)
【0064】
次に、ステップS703において、予測進路63外でレーダによって検知した物体62が、車間時間(縦位置PYR[i]に自車61が到達するまでの時間)の経過後に、予測進路63上を横断するか否か(予測進路63の外から予測進路63内に進入したか否か)を判定する。具体的には、下記の条件(17)、(18)のいずれかが成立する場合に上記判定を行う。
PXR[i]≦XL[i]、かつ、PXRTHW[i]≧XL[i] ………(17)
PXR[i]≧XR[i]、かつ、PXRTHW[i]≦XR[i] ………(18)
【0065】
ここで、条件(17)は、予測進路63の左端63Lを通過して自車61の車幅方向に沿って右に移動する物体を判定する条件であり、条件(18)は、予測進路63の右端63Rを通過して自車61の車幅方向に沿って左に移動する物体を判定する条件である。また、条件(17)、(18)において、車間時間THWR[i]、および、車間時間経過後の横位置PXRTHW[i]は、下記の式(19)、(20)で表される。
THWR[i]=PYR[i]/VSP ………(19)
PXRTHW[i]=PXR[i]+VXR[i]×THWR[i]………(20)
【0066】
ステップS703において、条件(17)、(18)のいずれかが成立し、予測進路63外で検知し、かつ、車間時間経過後に予測進路63上を横断する物体であると判定した場合にはステップS704に進み、判定フラグfRMVLAT[i]をセットして処理を終了する。また、ステップS703において、条件(17)、(18)のいずれも成立しない場合は、ステップS705に進み、判定フラグfRMVLAT[i]の値を保持して処理を終了する。
【0067】
以上説明したように、物体情報取得手段101により取得した物体62の情報(縦位置PYR[i]、横位置PXR[i]、縦速度VYR[i]、横速度VXR[i])と、予測進路設定手段102により設定した予測進路63(旋回半径R)に応じて判定フラグfRMVLAT[i]を算出することにより、予測進路63外で検知した物体62が車間時間経過後に予測進路63上を横断するか否かを判定することが可能となる。
【0068】
また、レーダで検知した物体62の横速度VXR[i]は自車61に対する相対的な値のため、第2の衝突判定手段104においては、自車情報である操舵角α、ヨーレートγ等の値を用いて自車61が直進状態か否かを判定し、自車61が直進状態であることを前提として上記判定を行うことが望ましい。具体的には、ステップS703において、操舵角αが所定値以内、または、ヨーレートγが所定値以内といった条件により自車61が直進状態か否かを判定する。
【0069】
次に、図8、図9、および、図10を用いて、物体選択手段105の処理内容について説明する。
図8は、第1の衝突判定手段103で演算した危険度D[i]と第2の衝突判定手段104で演算した判定フラグfRMVLAT[i]に応じて、レーダで検知した物体から画像処理によって個体識別を行う物体の候補(以下、画像処理候補物体と称する)を選択する処理(A)の内容を示すフローチャートである。
【0070】
また、図9は、前回の周期で画像処理を行った物体の他に、画像処理候補物体が存在する場合に、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定する処理(B)の内容を示すフローチャートである。
【0071】
さらに、図10は、図8、図9の結果を用いて複数の画像処理候補物体から画画像処理によって個体識別を行う物体(以下、画像処理要求物体と称する)を選択する処理(C)の内容を示すフローチャートである。
【0072】
図8の処理(A)では、ステップS801において、レーダで物体を検知しているか否かの判定を行い、検知していない場合はステップS804に進み、画像処理要求物体であるか否かを判定するフラグfIMGACT[i]をクリアする。
【0073】
そして、レーダで物体を検知している場合はステップS802に進み、危険度D[i]と判定フラグfRMVLAT[i]に応じて、検知物体を画像処理によって個体識別するか否かの判定を行う。
【0074】
ここでは、下記の条件C1、C2のいずれかが成立しているか否かが判断される。
C1):危険度D[i]≧0
C2):判定フラグfRMVLAT[i]=1
上記条件C1、C2のいずれかが成立しているときはステップS803に進み、画像処理要求物体(選択候補物体)であることを示す判定フラグfIMGACT[i]をセットして図9の処理(B)に移行する。また、ステップS802において、上記条件C1、C2がともに非成立の場合はステップS804に進み、判定フラグfIMGACT[i]をクリアして図9の処理(B)に移行する。
【0075】
以上説明したように、図8の処理(A)によって、レーダで検知した検知物体のうち、自車の予測進路中央に近い物体、相対速度ベクトルが自車に向かっている物体、および、予測進路外から車間時間経過後に予測進路上を横断する物体を選択することが可能となる。
【0076】
図9に示す処理(B)では、ステップS901において、レーダで物体を検知しているか否かの判定を行い、検知していない場合はステップS907に進み、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定する判定フラグfIMGOFF[i]をクリアする。
【0077】
そして、レーダで検知している場合はステップS902に進み、その検知物体が、前回の画像処理要求物体であり、今回も画像処理候補物体として選択されている物体(以下、再選択候補物体と称する)であるか否かの判定を行う。
【0078】
例えば、前回の周期において、処理(A)〜(C)の演算結果が判定フラグfIMGACT[i]=1であり、今回の周期において、処理(A)の演算結果が判定フラグfIMGACT[i]=1である場合には、条件成立としてステップS903に進む。そして、この条件が非成立の場合には、ステップS906に進み、判定フラグfIMGOFF[i]の値を保持して処理(C)に移行する。
【0079】
次に、ステップS903において、再選択候補物体の他に、処理(A)で選択した画像処理候補物体が存在するか否かの判定を行い、他に画像処理候補物体が存在する場合はステップS904に進む。そして、他に画像処理候補物体が存在しない場合は、ステップS906に進み、判定フラグfIMGOFF[i]の値を保持して、図10に示す処理(C)に移行する。
【0080】
ステップS904において、再選択候補物体が予測進路外へと通過するか否かの判定を行う。この判定は、下記の条件C3)、C4)に基づいて行われる。そして、条件C3)、C4)のいずれかが成立したときは、ステップS905に進み、判定フラグfIMGOFF[i]をセットして図10の処理(C)に移行する。また、ステップS904において、下記の条件C3)、C4)がともに非成立の場合には、ステップS906に進み、判定フラグfIMGOFF[i]の値を保持して処理(C)に移行する。
C3):右に移動し、かつ、予測進路右端を通過
C4):左に移動し、かつ、予測進路左端を通過
上記条件C3)、C4)は、具体的には、下記の式(21)、(22)で示される。
PXR[i]≦XL[i]、かつ、VXR[i]≦−0.5m/s ………(21)
PXR[i]≧XR[i]、かつ、VXR[i]≦+0.5m/s ………(22)
【0081】
以上説明したように、処理(B)によって、前回の周期で画像処理を行った物体の他に、画像処理候補物体が存在する場合に、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定することが可能となる。
【0082】
図10に示す処理(C)では、ステップS1001において、前回の画像処理要求物体であり、今回も画像処理候補として選択されている物体を画像処理候補物体から外すか否かの判定を行う。具体的には、判定フラグfIMGOFF[i]=1の条件が成立した場合には、ステップS1004に進み、判定フラグfIMGACT[i]をクリアして処理を終了する。そして、上記条件が非成立の場合には、ステップS1002に進む。
【0083】
ステップS1002では、画像処理候補物体のうち、自車との距離が最小の物体であるか否かの判定を行う。ここでは、他の画像処理候補物体、すなわち、判定フラグfIMGACT[i]=1となっている物体の中で、縦位置PYR[i]の値が最小であるか否かを判定する。縦位置PYR[i]の値が最小である場合には、その画像処理候補物体を歩行者判定要求物体として設定すべく、ステップS1003に進み、判定フラグfIMGACT[i]=1の値を保持して処理を終了する。
【0084】
一方、縦位置PYR[i]の値が最小でない場合には、ステップS1004に進み、判定フラグfIMGACT[i]をクリアして処理を終了する。また、上述の方法では、自車との距離を示す縦位置PYR[i]の値が最小であるか否かを判定することにより物体を選択したが、縦位置PYR[i]の代わりにTHWR[i](車間時間)や衝突予測時間(≒PYR[i]/VYR[i])が最小であるか否かを判定して歩行者判定要求物体を選択しても良い。
【0085】
以上説明したように、処理(C)によって、複数の画像処理候補物体から画像処理要求物体を取捨選択することが可能となり、画像処理負荷を低減できる。
【0086】
次に、図11を用いて、歩行者判定手段106の処理内容について説明する。
図11は、物体情報取得手段101で取得したレーダ情報(横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]、横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]、幅WDR[i])と物体選択手段105で演算した判定フラグfIMGACT[i]に応じて画像処理によって歩行者を判定する処理の内容を示すフローチャートである。
【0087】
まず、ステップS1101において、物体選択手段105で演算した判定フラグfIMGACT[i]の値に応じて、レーダで検知した物体に対して画像処理要求が出力されているか否かの判定を行う。判定フラグfIMGACT[i]=1の条件が成立している場合は、その物体が歩行者判定要求物体であり、画像処理要求が出力されていると判断してステップS1102に進み、条件が非成立の場合は処理を終了する。
【0088】
ステップS1102では、物体情報取得手段101で取得したレーダ情報(横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]、横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]、幅WDR[i])を読み込み、ステップS1103において、このレーダ情報とカメラ幾何モデル(画像上の位置と実際の位置の関係)に基づいて画像上での処理領域を設定する。
【0089】
ここで、図12を用いて、上述のステップS1103における画像処理領域の設定方法について説明する。
図12(a)は、画像処理領域の設定パターンの選択条件を示す表であり、図12(b)は画像処理領域の設定パターンを示す模式図である。図12(b)において、予測進路1203は、中央領域1201と、その中央領域1201の左右両側に沿って設定される側方領域1202とからなり、中央領域1201は、自車の車幅とほぼ同一の大きさを有し、側方領域1202は、車幅の半分の大きさに設定されている。
【0090】
まず、条件No.1の画像処理領域の設定パターンについて説明する。
条件No.1の画像処理領域の設定パターンは、横方向(自車の車幅方向)に移動していない静止物体を判定するためのものである。図12(a)に示すように、画像処理要求物体のうち、横速度VXR[i]が所定値以下(例えば、0.5m/s以下)の条件が成立し、かつ、危険度D1[i]≧0(物体が予測進路1203上に存在すること)、判定フラグfRMVLAT[i]=0(予測進路1203外で検知しかつ車間時間経過後に予測進路1203上を横断する物体でないこと)の条件が成立している画像処理要求物体に対しては、画像処理領域の設定パターンは(A)が選択され、図12(b)の(A)で示す画像処理領域の設定パターンにより設定する。
【0091】
レーダで物体を検知してからパターンマッチング等の画像処理を実行するまでのディレイ時間をt_delay(s)とすると、横方向の画像処理領域の余裕分L1[i]は、下記の式(23)で表される。
L1[i]=所定値(例えば、0.5m/s)×t_delay ………(23)
【0092】
ここで、横速度VXR[i]が所定値以下である画像処理要求物体1231は、静止状態に近いため、左右どちらの方向に移動しているかが不明確である。よって、レーダで検知した画像処理要求物体1231の幅WDR[i]の左右両側に余裕分L1[i]を付加することにより対応する。したがって、横方向の画像処理領域制限値XLC[i]、XRC[i]は、下記の式(24)、(25)で表される。
XLC[i](左)=PXR[i]−WDR[i]/2−L1[i] ………(24)
XRC[i](右)=PXR[i]+WDR[i]/2+L1[i] ………(25)
【0093】
次に、条件No.2の画像処理領域の設定パターンについて説明する。
条件No.2の画像処理領域の設定パターンは、予測進路1203外を横方向(自車の車幅方向)に移動している移動物体を判定するためのものである。図12(b)に示すように、画像処理要求物体のうち、横速度VXR[i]が所定値以上(例えば、0.5m/s以上)の条件が成立し、かつ、危険度D1[i]<0(物体が予測進路1203外に存在すること)、判定フラグfRMVLAT[i]=1(予測進路1203外で検知しかつ車間時間経過後に予測進路1203上を横断する物体であること)の条件が成立している画像処理要求物体に対しては、画像処理領域の設定パターンは(B)が選択され、図12(b)の(B)で示す画像処理領域の設定パターンにより設定する。
【0094】
レーダで物体を検知してからパターンマッチング等の画像処理を実行するまでのディレイ時間をt_delay(s)とすると、横方向の画像処理領域の余裕分L2[i]は、下記の式(26)で表される。
L2[i]=VXR[i]×t_delay ………(26)
【0095】
この場合においては、横速度VXR[i]が大きいので、パターン(A)と同様に画像処理領域の余裕分L2[i]を左右両側に設けると、画像処理負荷が増大してしまう。しかし、設定パターン(B)のように、横速度VXR[i]が十分に大きい場合には、物体1232の移動方向が特定できるため、物体1232が移動している方向1241にのみ画像処理領域1212の余裕分L2を設けることにより対応する。したがって、横方向の画像処理領域制限値XLC[i]、XRC[i]は、下記の式(27)、(28)で表される。
XLC[i](左)=PXR[i]−WDR[i]/2 ………(27)
XRC[i](右)=PXR[i]+WDR[i]/2+L2[i] ………(28)
【0096】
さらに、条件No.3の画像処理領域の設定パターンについて説明する。
条件No.3の画像処理領域の設定パターンは、予測進路1203上を横方向(自車の車幅方向)に移動している移動物体を判定するためのものである。図12(b)に示すように、画像処理要求物のうち、横速度VXR[i]が所定値以上(例えば、0.5m/s以上)の条件が成立し、かつ、危険度D1[i]≧0(物体が予測進路1203上に存在すること)、判定フラグfRMVLAT[i]=1(予測進路1203外で検知しかつ車間時間経過後に予測進路1203上を横断する物体であること)の条件が成立している画像処理要求物体に対しては、画像処理領域の設定パターンは(C)が選択され、図12(b)の(C)で示す画像処理領域の設定パターンにより設定する。横方向の画像処理領域の余裕分L2[i]はパターン(B)と同様に式(26)で算出する。
【0097】
このとき、画像処理要求物体1233は、予測進路1203の右端1203Rを通過して予測進路1203外へと抜けていくため、画像処理負荷をさらに低減するためには、図12(b)の境界線1213aで示す予測進路1203の右端1203Rで画像処理領域1213を制限することが望ましい。
【0098】
したがって、横方向の画像処理領域制限値XLC[i]、XRC[i]は、パターン(B)と同様に上記式(27)、(28)で表されるが、下記式(29)を用いて画像処理領域1213の右側の制限値XRC[i]をさらに制限する。ここで、関数sqrt{}は{}内の値の2乗根を算出する関数である。
XRC[i](右)≦R−sqrt{(R−WC)2−PYR[i]2}………(29)
【0099】
図11に戻り、ステップS1103において画像処理領域を設定した後は、ステップS1104に進み、カメラで撮像した画像データを用いて設定した処理領域内を走査するパターンマッチング等の処理を実行して歩行者であるか否かの判定を行う。
【0100】
ここで、図13を用いて、上述のステップS1104におけるパターンマッチング処理の概要について説明する。
図13は、画像処理によって歩行者を判定する場合のパターンマッチング処理を示す模式図である。
【0101】
まず、姿勢や服装、サイズ等の異なる複数の歩行者パターン1301を予め準備し、オフライン学習によりそれぞれの歩行者に類似した標準パターン1302を求める。オフライン学習により得られた標準パターン1302は、車両用外界認識装置100内に記憶されている。ステップS1104では、記憶されている標準パターン1302を用い、ステップS1103で設定した画像処理領域1303内で縦方向、横方向に標準パターン1302を走査して、カメラで撮像した画像データと標準パターン1302との比較を行うことにより画像データと標準パターン1302の類似度を算出する。算出した類似度が所定の閾値以上の場合には、歩行者を検知したと判断してステップS1105に進む。
【0102】
図11に戻り、ステップS1105では、ステップS1104のパターンマッチング処理によって歩行者と判定した物体1304の横位置PXC[i]、縦位置PYC[i]、横速度VXC[i]、縦速度VYC[i]、幅WDC[i]等の情報を算出し、処理を終了する。
【0103】
以上説明したように、物体情報取得手段101で取得した物体の情報、および、第1、第2の衝突判定手段103、104の結果を用いて、カメラで撮像した画像データの処理領域を的確に設定することが可能となる。したがって、物体を迅速かつ確実に検知でき、処理領域も狭くすることができる。したがって、安全性確保と画像処理負荷低減の両立が図れる。
【0104】
次に、図14を用いて、フュージョン手段107の処理内容について説明する。
図14は、物体情報取得手段101で取得したレーダ情報(横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]、横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]、幅WDR[i])と歩行者判定手段106で演算したカメラ情報(横位置PXC[i]、縦位置PYC[i]、横速度VXC[i]、縦速度VYC[i]、幅WDC[i])を統合化してフュージョン情報(横位置PX[i]、縦位置PY[i]、横速度VX[i]、縦速度VY[i]、幅WD[i])を生成する処理の内容を示すフローチャートである。
【0105】
まず、ステップS1401において、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングを開始したか否かの判定を行い、画像処理開始時にはステップS1402に進み、更新フラグflag[i]の初期化処理を行う。
【0106】
次に、ステップS1403では、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングで歩行者を検知したか否かの判定を行い、所定回数検知した場合にはステップS1405に進み、更新フラグflag[i]をセットしてステップS1408に進む。
【0107】
ステップS1403にて条件が非成立の場合には、ステップS1404に進み、画像処理によるパターンマッチングで歩行者をロストしたか否かの判定を行う。ステップS1404において、画像処理によるパターンマッチングで歩行者を所定回数ロストした(検知しない)場合にはステップS1406に進み、更新フラグflag[i]をクリアしてステップS1408に進む。
【0108】
ステップS1404にて条件が非成立の場合には、ステップS1407に進み、更新フラグflag[i]の値を保持してステップS1408に進む。ステップS1408において、更新フラグflag[i]がセットされている場合にはステップS1409に進み、レーダ情報とカメラ情報を統合化してフュージョン情報を更新する下記の式(30)〜(34)の処理を実行し、処理を終了する。
PX[i]=PXC[i] ………(30)
PY[i]=PYR[i] ………(31)
VX[i]=VXC[i] ………(32)
VY[i]=VYR[i] ………(33)
WD[i]=WDC[i] ………(34)
【0109】
ステップS1408の条件が非成立の場合には、ステップS1410に進み、下記の式(35)〜(39)に示すようなフュージョン情報のクリア処理を実行し、処理を終了する。
PX[i]=0 ………(35)
PY[i]=0 ………(36)
VX[i]=0 ………(37)
VY[i]=0 ………(38)
WD[i]=0 ………(39)
【0110】
以上説明したように、フュージョン手段107において、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングで歩行者を検知した回数を考慮してフュージョン情報を生成することにより、画像処理によるパターンマッチングで誤検知した物体を排除することができる。また、上記式(30)〜(34)に示すように、縦方向の位置・速度はレーダ情報、横方向の位置・速度・幅はカメラ情報を採用してフュージョン情報を生成することにより、歩行者の認識精度向上が図れる。
【0111】
次に、統合化衝突判定手段108の処理内容について説明する。
統合化衝突判定手段108では、予測進路設定手段102により演算した旋回半径R、および、フュージョン手段107により生成したフュージョン情報(横位置PX[i]、縦位置PY[i]、横速度VX[i]、縦速度VY[i]、幅WD[i])に応じて危険度Df[i]を演算する。
【0112】
危険度Df[i]は、第1の衝突判定手段103の危険度D[i]の演算において、レーダ情報(横位置PXR[i]、縦位置PYR[i]、横速度VXR[i]、縦速度VYR[i]、幅WDR[i])の代わりにフュージョン情報を用いることにより算出する。
【0113】
車両用外界認識装置100は、フュージョン手段107により生成したフュージョン情報と、統合化衝突判定手段108により演算した危険度Df[i]を制御装置200に出力する。
【0114】
次に、図15を用いて、プリクラッシュ・セーフティ・システムを例にとり、危険度Df[i]に応じて警報を出力する、あるいは自動的に車両ブレーキを制御するための指令値を演算する制御装置200の処理内容について説明する。
【0115】
図15は、制御装置200の処理内容を示すフローチャートである。
最初に、ステップS1501において、フュージョン情報(横位置PX[i]、縦位置PY[i]、横速度VX[i]、縦速度VY[i]、幅WD[i])を読み込み、ステップS1502において、車載用外界認識装置100で認識した物体の衝突予測時間TTC[i]を下記の式(40)を用いて演算する。
TTC[i]=PY[i]÷VY[i] ………(40)
【0116】
次に、ステップS1503において、車両用外界認識装置100で演算された危険度Df[i]を読み込み、ステップS1504において、危険度Df[i]に応じて下記の式(41)で示される条件C5)が成立している歩行者を選択し、選択された歩行者の中で衝突予測時間TTC[i]が最小となる歩行者(物体)kを選択する。
Df[i]≧ cDCTRL# ………(41)
【0117】
ここで、所定値cDCTRL#は、認識した歩行者kが自車に衝突するか否かを判定するための閾値であり、統合化衝突判定手段108の処理とリンクさせてcDCTRL#=0.5付近に設定して、自車に衝突する可能性がきわめて高い歩行者を選択することが望ましい。
【0118】
次に、ステップS1505において、選択された歩行者kの衝突予測時間TTC[k]に応じて、自動的に車両ブレーキを制御する範囲内に歩行者kが存在しているか否かの判定を行う。下記の式(42)が成立している場合には、ステップS1506に進み、ブレーキ制御の指令値(例えば、5.0m/s2で減速)を演算して処理を終了する。また、下記の式(42)が非成立の場合にはステップS1507に進む。
TTC[k]≦cTTCBRK# ………(42)
【0119】
ここで、所定値cTTCBRK#は、ブレーキ制御を実行するか否かを判定するための閾値であり、cTTCBRK#=0.6秒付近に設定して、運転者の回避操作と重複しないようにすることが望ましい。
【0120】
次に、ステップS1507において、選択された歩行者kの衝突予測時間TTC[k]に応じて、警報を出力する範囲内に歩行者kが存在しているか否かの判定を行う。下記の式(43)が成立している場合にはステップS1508に進み、警報を出力するための指令値を演算して処理を終了する。また、下記の式(43)が非成立の場合には、ブレーキ制御、および、警報ともに実行せずに処理を終了する。
TTC[k]≦cTTCALM# ………(43)
【0121】
ここで、所定値cTTCALM#は、警報を出力するか否かを判定するための閾値であり、cTTCALM#=1.4秒付近に設定して、警報を出力してからブレーキ制御を実行するまでの時間を十分に確保することが望ましい。これは、運転者が警報によって前方の歩行者に気付き、運転者自身が衝突回避操作を行うことによって、ブレーキ制御が介入する前に衝突を回避できるからである。
【0122】
以上説明したように、車両用外界認識装置100と制御装置200を組み合せた車両システムによって、自車前方の歩行者を認識し、認識した歩行者に対してプリクラッシュ・セーフティ・システム(警報、または、ブレーキ制御)のような安全運転支援を実行させることが可能となる。
【0123】
また、レーダで検知した物体のうち、歩行者判定手段106、および、フュージョン手段107によって歩行者であると認識した物体に対しては、ブレーキ制御を実行するか否かを判定するための閾値、警報を出力するか否かを判定する閾値をそれぞれ3.0秒、4.0秒に設定して、上記プリクラッシュ・セーフティ・システム(警報、または、ブレーキ制御)を早目に作動させて緩減速による制御を行い、それ以外の物体に対しては各閾値を0.6秒、1.4秒に設定して上記プリクラッシュ・セーフティ・システム(警報、または、ブレーキ制御)を衝突の僅か手前で作動させて急減速による制御を行うなど、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングの結果に応じて警報やブレーキ制御のタイミング等を変更することも可能である。
【0124】
画像処理によるパターンマッチングにおいては、誤検知と未検知はトレードオフの関係にあり、誤検知を低減しようとすると歩行者の検知率も低下する。しかしながら、本発明の制御方式を採用することによって、レーダで検知した物体の中で確実に歩行者であると判断できた物体に対しては遠方から警報、緩やかなブレーキ制御を実行して運転者に注意を促し、その他の物体(車両や電柱等の非歩行者)に対しては衝突の僅か手前で警報、衝突軽減のためのブレーキ制御を実行することにより、運転者に対する煩わしさを抑えて安全性を確保することが可能となる。
【0125】
次に、図16、図17、および、図18を用いて、本発明の効果について説明する。
図16は、年齢層別に歩行中死傷者の事故類型を分類した統計データ(イタルダ・インフォメーション2004、No.50;財団法人交通事故総合分析センター)であり、図の縦軸は歩行者事故の構成率、図の横軸は死傷した歩行者の年齢層を示している。
【0126】
全体的に「横断中」の占める割合が約60%と高くなっており、とくに、子供と高齢者で「横断中」の占める割合が高くなっている。「横断中」の内訳をみると、6歳以下の子供は「その他の場所(付近に横断施設のない場所)横断中」の割合が高く、「横断歩道を横断中」の割合が低くなっている。一方、子供ほどではないが、高齢者層でも「その他の場所(付近に横断施設のない場所)横断中」の割合が高くなっている。
【0127】
図17(a)、(b)は、従来技術の課題を示す模式図であり、図17(a)は「遠方、かつ、自車1701の予測進路1704上に静止している歩行者A1711」と「自車1701の予測進路1704外から予測進路1704を横断してくる歩行者B1712」が同時に存在する場合を示している。
【0128】
この図において、自車1701は低車速で走行しており、自車1701の前方を小走りで斜め横断する歩行者B1712が存在している。この場合、第1の衝突判定手段103では、自車1701に対する歩行者B1712の縦方向の相対速度が小さくなっているため、予測進路1704に基づいた危険度D1[i]を重視して危険度D[i]を算出する。
【0129】
したがって、図17(a)では、画像処理の対象として歩行者A1711が選択されてしまう。そして、その後、所定時間が経過して図17(b)の状態に移行すると、横断してくる歩行者B1712が予測進路1704上に進入するため、歩行者B1712が画像処理の対象として選択される。
【0130】
よって、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングでは、自車1701近傍の歩行者B1712を判定するタイミングが遅延し、横断歩行者B1712に対して警報、ブレーキ制御の介入が遅れて安全運転支援システムが有効に作動しない可能性がある。
【0131】
図17(c)、(d)は、本発明を適用した場合の効果を示す模式図であり、図17(c)は図17(a)と同一の状況を示し、図17(d)は図17(b)と同一の状況を示している。
【0132】
この場合、レーダによって予測進路1704外で検知した歩行者B1712は、車間時間経過後に中央領域1702の右端1702R(D1=0.5相当)を通過して左に移動していくと予想されるため、第2の衝突判定手段104、物体選択手段105により画像処理候補物体として選択される。
【0133】
また、歩行者A1711も、第1の衝突判定手段103、物体選択手段105により画像処理候補物体として選択されるため、歩行者A1711と歩行者B1712の縦方向の相対位置を比較し、自車1701との距離が最も近い歩行者B1712を画像処理の対象として選択する。
【0134】
その後、所定時間が経過して図17(d)の状態に移行するまで、歩行者B1712を画像処理の対象として選択し続けるため、歩行者判定手段106の画像処理によるパターンマッチングで歩行者B1712を判定するタイミングの遅延を防止でき、前方の横断歩行者B1712に対して警報、ブレーキ制御の介入が遅れることなく安全運転支援システムを有効に作動させることが可能となる。
【0135】
また、仮に、歩行者B1712が予測進路1704外で停止して横断しないような場合には、第2の衝突判定手段104により予測進路1704上を横断しないと判断して画像処理の対象が歩行者A1711に切り替るため、歩行者A1711に対する安全運転支援を無視することなく、図16で示すような歩行者事故の約60%を占める横断事故の低減に寄与することができる。
【0136】
次に、図18を用いて、画像処理の対象物を切替える方法について説明する。
図18(a)、(b)は、「近傍で予測進路1804上を左に移動している歩行者A1811」が存在し、かつ、「遠方で自車1801の予測進路1804外(右側)から予測進路1804上を横断してくる歩行者B1812」が新たに出現した場合の模式図である。
【0137】
図18(a)は、本発明の物体選択手段105の「前回の周期で画像処理を行った物体の他に、画像処理候補物体が存在する場合に、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定する処理」が適用されていない場合を示しており、歩行者A1811を画像処理の対象として選択し続けている。
【0138】
図18で示すシーンにおいては、歩行者A1811は、予測進路1804の側方領域1803上を左に移動している。この場合の危険度D1[i]は、0.5以下になっており、かつ、これまで継続して画像処理によるパターンマッチングを行っているため、図18(b)で示すように、新たに出現した歩行者B1812を画像処理の対象として選択することが望ましい。
【0139】
ここで、物体選択手段105の「前回の周期で画像処理を行った物体の他に、画像処理候補物体が存在する場合に、前回の周期で画像処理を行った物体を画像処理候補物体から外すか否かを判定する処理」を適用すると、予測進路1804の中央領域1802の左端1802Rを通過(危険度D1[i]≦0.5)して左に移動する物体1811に対して画像処理要求を解除するためのフラグがセットされる。
【0140】
したがって、このように予測進路1804の自車幅相当の進路である中央領域1802よりも外側に抜けていく歩行者A1811を画像処理候補物体から除外し、新たに出現した歩行者B1812を画像処理の対象(画像処理要求物体)として選択することができる。
【0141】
次に、図19を用いて、本発明の物体情報取得手段101の他の実施例について説明する。
図19は、基準(左)カメラ1911aと参照(右)カメラ1911bとから構成されるステレオカメラ1911で撮像した画像データに応じて物体情報を取得する場合の構成図である。
【0142】
まず、画像入力部1912では、各カメラ1911a、1911bで撮像した基準画像(左)と参照画像(右)の各データを取得するインターフェース処理を行う。
【0143】
次に、距離画像生成部1913において、画像入力部1912で取得した基準画像(左)データと参照画像(右)データのステレオ画像データに応じて距離画像を生成する。
【0144】
立体物検知部1918では、距離画像生成部1913で生成した距離画像データ、および、道路平面を想定したモデル等を用いて立体物を抽出する処理を行い、カメラ幾何モデル(画像上の位置と実際の位置の関係)に基づいて立体物の自車の車幅方向の相対位置PXR[i]、自車の全長方向の相対位置PYR[i]、自車の車幅方向の相対速度VXR[i]、自車の全長方向の相対速度VYR[i]、幅WDR[i]を演算する。
【0145】
以上説明したように、図1のレーダの代わりにステレオカメラを用い、ステレオカメラで撮像した画像データに応じて物体情報を取得することが可能となる。このとき、歩行者判定手段106では、撮像データとして基準画像(左)と参照画像(右)のいずれかを選択し、画像処理によるパターンマッチングにより抽出した立体物が歩行者であるか否かを判定する。
【符号の説明】
【0146】
100 車両用外界認識装置
101 物体情報取得手段
102 予測進路設定手段
103 第1の衝突判定手段
104 第2の衝突判定手段
105 物体選択手段
106 歩行者判定手段
107 フュージョン手段
108 統合化衝突判定手段
200 制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車前方に位置する複数の検知物体を検知した検知物体情報と、自車前方を撮像した画像の画像情報と、自車の状態を検知した自車情報に基づいて車両の外界を認識する車両用外界認識装置であって、
前記自車情報に基づいて前記自車の予測進路を設定する予測進路設定手段と、
該予測進路設定手段により設定した予測進路と前記検知物体情報とに基づいて前記各検知物体が前記自車に衝突する危険度を演算する第1の衝突判定手段と、
前記予測進路と前記検知物体情報とに基づいて前記各検知物体が前記予測進路の外から前記予測進路内に進入するか否かを判定する第2の衝突判定手段と、
前記複数の検知物体の中から、前記第1の衝突判定手段により演算された前記危険度が予め設定された第1の閾値以上である検知物体と、前記第2の衝突判定手段により前記予測進路内に進入すると判定された検知物体を選択候補物体として選択し、該選択された複数の選択候補物体の中から前記自車との相対距離、または、衝突予測時間が最小となる選択候補物体を歩行者判定要求物体として選択する物体選択手段と、
該物体選択手段により選択された前記歩行者判定要求物体に対して前記画像情報を用いて歩行者か否かの判定を行う歩行者判定手段と、
を有する車両用外界認識装置。
【請求項2】
前記物体選択手段は、該選択した複数の選択候補物体の中に、前回の処理で歩行者判定要求物体として選択されていた選択候補物体が含まれている場合に、該選択されていた選択候補物体を再選択候補物体として特定し、前記予測進路と前記検知物体情報とに基づいて、前記再選択候補物体を前記歩行者判定要求物体の選択候補から除外するか否かの判定を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両用外界認識装置。
【請求項3】
前記歩行者判定手段は、前記歩行者判定要求物体に対する前記第1の衝突判定手段の判定結果と、前記第2の衝突判定手段の判定結果に応じて前記画像情報の画像処理領域を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用外界認識装置。
【請求項4】
前記歩行者判定手段は、前記歩行者判定要求物体が歩行者であると判定した場合に、前記画像情報に基づいて前記歩行者判定要求物体のカメラ情報を算出することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用外界認識装置。
【請求項5】
前記検知物体情報と前記カメラ情報とを統合化して、前記歩行者判定手段により前記歩行者であると判定された前記歩行者判定要求物体のフュージョン情報を生成するフュージョン手段を有することを特徴とする請求項4に記載の車両用外界認識装置。
【請求項6】
前記フュージョン手段により生成された前記フュージョン情報に応じて、前記自車が前記歩行者判定要求物体に衝突する危険度を演算する統合化衝突判定手段を有することを特徴とする請求項5に記載の車両用外界認識装置。
【請求項7】
前記請求項6に記載の車両用外界認識装置を備えた車両システムであって、
前記統合化衝突判定手段により演算された危険度が予め設定された閾値よりも低い場合に自車の衝突を回避するための制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする車両システム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記フュージョン手段により生成された前記フュージョン情報に基づいて前記自車が前記歩行者判定要求物体に衝突する衝突予測時間を演算し、該演算した衝突予測時間と予め設定された制動用閾値とを比較し、前記衝突予測時間が前記制動用閾値以下であるときは、前記車両に対する制動制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の車両システム。
【請求項9】
前記制御手段は、前記衝突予測時間が前記制動用閾値よりも大きい場合に、前記衝突予測時間と予め設定された警報用閾値とを比較し、前記衝突予測時間が前記警報用閾値以下であるときは、前記運転者に対する警報制御を行うことを特徴とする請求項8に記載の車両システム。
【請求項1】
自車前方に位置する複数の検知物体を検知した検知物体情報と、自車前方を撮像した画像の画像情報と、自車の状態を検知した自車情報に基づいて車両の外界を認識する車両用外界認識装置であって、
前記自車情報に基づいて前記自車の予測進路を設定する予測進路設定手段と、
該予測進路設定手段により設定した予測進路と前記検知物体情報とに基づいて前記各検知物体が前記自車に衝突する危険度を演算する第1の衝突判定手段と、
前記予測進路と前記検知物体情報とに基づいて前記各検知物体が前記予測進路の外から前記予測進路内に進入するか否かを判定する第2の衝突判定手段と、
前記複数の検知物体の中から、前記第1の衝突判定手段により演算された前記危険度が予め設定された第1の閾値以上である検知物体と、前記第2の衝突判定手段により前記予測進路内に進入すると判定された検知物体を選択候補物体として選択し、該選択された複数の選択候補物体の中から前記自車との相対距離、または、衝突予測時間が最小となる選択候補物体を歩行者判定要求物体として選択する物体選択手段と、
該物体選択手段により選択された前記歩行者判定要求物体に対して前記画像情報を用いて歩行者か否かの判定を行う歩行者判定手段と、
を有する車両用外界認識装置。
【請求項2】
前記物体選択手段は、該選択した複数の選択候補物体の中に、前回の処理で歩行者判定要求物体として選択されていた選択候補物体が含まれている場合に、該選択されていた選択候補物体を再選択候補物体として特定し、前記予測進路と前記検知物体情報とに基づいて、前記再選択候補物体を前記歩行者判定要求物体の選択候補から除外するか否かの判定を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両用外界認識装置。
【請求項3】
前記歩行者判定手段は、前記歩行者判定要求物体に対する前記第1の衝突判定手段の判定結果と、前記第2の衝突判定手段の判定結果に応じて前記画像情報の画像処理領域を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用外界認識装置。
【請求項4】
前記歩行者判定手段は、前記歩行者判定要求物体が歩行者であると判定した場合に、前記画像情報に基づいて前記歩行者判定要求物体のカメラ情報を算出することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用外界認識装置。
【請求項5】
前記検知物体情報と前記カメラ情報とを統合化して、前記歩行者判定手段により前記歩行者であると判定された前記歩行者判定要求物体のフュージョン情報を生成するフュージョン手段を有することを特徴とする請求項4に記載の車両用外界認識装置。
【請求項6】
前記フュージョン手段により生成された前記フュージョン情報に応じて、前記自車が前記歩行者判定要求物体に衝突する危険度を演算する統合化衝突判定手段を有することを特徴とする請求項5に記載の車両用外界認識装置。
【請求項7】
前記請求項6に記載の車両用外界認識装置を備えた車両システムであって、
前記統合化衝突判定手段により演算された危険度が予め設定された閾値よりも低い場合に自車の衝突を回避するための制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする車両システム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記フュージョン手段により生成された前記フュージョン情報に基づいて前記自車が前記歩行者判定要求物体に衝突する衝突予測時間を演算し、該演算した衝突予測時間と予め設定された制動用閾値とを比較し、前記衝突予測時間が前記制動用閾値以下であるときは、前記車両に対する制動制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の車両システム。
【請求項9】
前記制御手段は、前記衝突予測時間が前記制動用閾値よりも大きい場合に、前記衝突予測時間と予め設定された警報用閾値とを比較し、前記衝突予測時間が前記警報用閾値以下であるときは、前記運転者に対する警報制御を行うことを特徴とする請求項8に記載の車両システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−250501(P2010−250501A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98338(P2009−98338)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]