説明

車両用摩擦係合装置

【課題】大型化することなく摩擦材の高耐熱性および高摩擦係数が両立する低コストな車両用摩擦係合装置を提供する。
【解決手段】摩擦材40は、相対的に耐熱性が高い第1摩擦部材42と、第1摩擦部材42に比較して摩擦係数が高い第2摩擦部材44とで構成され、セパレータ32および摩擦プレート34は、それらが軸心C方向に挟圧される際に、先ず、第1摩擦部材42を介して摩擦係合され、次いで、第1摩擦部材42に加えて第2摩擦部材44を介して摩擦係合されることから、セパレータ32と摩擦プレート34との相対回転速度が高くて高耐熱性が必要な摩擦係合の初期段階では第1摩擦部材42を介して摩擦係合が行われ、セパレータ32と摩擦プレート34とを完全係合状態とするために高い摩擦係数が必要な摩擦係合の終期段階では第1摩擦部材42および第2摩擦部材44を介して摩擦係合が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる摩擦係合装置に係り、特に、その摩擦係合装置を構成する摩擦板の摩擦材の耐熱性を向上させつつ摩擦係数を高めるための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1部材に相対回転不能且つ軸心方向に移動可能に係合する少なくとも1つの仕切板と、前記第1部材に同心且つ相対回転可能に設けられた第2部材に相対回転不能且つ軸心方向に移動可能に係合すると共に軸心方向において前記仕切板に隣接して配置され、その仕切板との対向面に摩擦材が固設された少なくとも1つの摩擦板とを備え、前記軸心方向に挟圧される前記仕切板と摩擦板との間の摩擦係合により前記第1部材と前記第2部材との相対回転を抑制する車両用摩擦係合装置が知られている。例えば、特許文献1および2に記載された車両用摩擦係合装置がそれである。
【0003】
上記特許文献1に記載された車両用摩擦係合装置によれば、前記仕切板の打ち抜き成形時に形成される突起部に対応する前記摩擦材の一部に、その突起部との当接を避けるための凹部が形成されることにより、上記仕切板と摩擦材との摩擦係合に際して上記突起部がその摩擦材に接触することによる所謂ヒートスポットの発生が防止される。また、特許文献2に記載された車両用摩擦係合装置によれば、前記摩擦材の前記仕切板との対向箇所に、その摩擦材が内周側から外周側に向けて厚さが連続的に薄くなるように傾斜面が形成されることにより、比較的高い負荷による上記仕切板と摩擦板との摩擦係合に際して、上記摩擦材の内周側に比較して外周側の挟圧力が高くなることに起因するその摩擦材の外周側の摩擦係数の低下や摩耗量の増加が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−120724号公報
【特許文献2】特開2004−278609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来の車両用摩擦係合装置では、更なる車両燃費向上のために、大型化することなく前記摩擦材の耐熱性を向上させつつ摩擦係数を高めることが求められている。しかしながら、上記高耐熱性または高摩擦係数のどちらか一方の性質を有する摩擦材に比べて、それら高耐熱性および高摩擦係数の両方の性質を併せ持つ摩擦材の開発は困難であり、また実現したとしてもコストが高くなるという問題があった。また、上記高耐熱性および高摩擦係数のために摩擦材の枚数を増加することや摩擦材の径を拡大すること等も考えられるが、それらによれば、当初目的である大型化することなく摩擦材の高耐熱性および高摩擦係数を両立させて車両燃費を向上させるという目的に反するという問題があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、大型化することなく摩擦材の高耐熱性および高摩擦係数が両立する低コストな車両用摩擦係合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(1)第1部材に相対回転不能且つ軸心方向に移動可能に係合する少なくとも1つの仕切板と、その第1部材に同心且つ相対回転可能に設けられた第2部材に相対回転不能且つ軸心方向に移動可能に係合すると共に軸心方向において前記仕切板に隣接して配置され、その仕切板との対向面に摩擦材が固設された少なくとも1つの摩擦板とを備え、前記軸心方向に挟圧される前記仕切板と摩擦板との間の摩擦係合により前記第1部材と前記第2部材との相対回転を抑制する車両用摩擦係合装置であって、(2)前記摩擦材は、相対的に耐熱性が高い第1摩擦部材と、その第1摩擦部材に比較して摩擦係数が高くて耐熱性が低い第2摩擦部材とを備えて構成されており、前記仕切板および摩擦板は、それらが前記軸心方向に挟圧される際に、先ず、前記第1摩擦部材を介して摩擦係合され、次いで、その第1摩擦部材に加えて前記第2摩擦部材を介して摩擦係合されることにある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1にかかる発明の車両用摩擦係合装置によれば、摩擦材は、相対的に耐熱性が高い第1摩擦部材と、その第1摩擦部材に比較して摩擦係数が高くて耐熱性が低い第2摩擦部材とを備えて構成されており、仕切板および摩擦板は、それらが軸心方向に挟圧される際に、先ず、前記第1摩擦部材を介して摩擦係合され、次いで、その第1摩擦部材に加えて前記第2摩擦部材を介して摩擦係合されることから、仕切板と摩擦板との相対回転速度が高い(大きい)ために高い耐熱性が必要になる摩擦係合の初期段階においては、高耐熱性の第1摩擦部材を介して摩擦係合が行われ、仕切板と摩擦板とを完全係合状態とするために高い摩擦係数が必要となる摩擦係合の終期段階においては、上記第1摩擦部材に加えて高摩擦係数の第2摩擦部材を介して摩擦係合が行われるので、大型化することなく摩擦材の耐熱性を向上させつつ摩擦係数を高めることができる。また、摩擦材が高耐熱性の特性を有する第1摩擦部材と高摩擦係数の特性を有する第2摩擦部材とから構成されているので、それら高耐熱性および高摩擦係数の両方の性質を併せ持つ摩擦材が採用される場合に比較してコストが低減される。したがって、大型化することなく摩擦材の高耐熱性および高摩擦係数が両立する低コストな車両用摩擦係合装置が得られる。
【0009】
ここで、好適には、前記第1摩擦部材および第2摩擦部材は、前記摩擦材の外周側または内周側の一方および他方に配設された円環板状部材であり、前記仕切板は、前記摩擦材との間隔がその摩擦材の第1摩擦部材から前記第2摩擦部材に向かうほど広く(大きく)なるように形成されたテーパ状摩擦面または段付状摩擦面を備えている。このようにすれば、仕切板および摩擦板が軸心方向に挟圧される際に、高耐熱性が必要になる摩擦係合の初期段階においては、仕切板のテーパ状摩擦面または段付状摩擦面と摩擦板の第1摩擦部材とが摩擦係合され、高摩擦係数が必要となる摩擦係合の終期段階においては、仕切板のテーパ状摩擦面または段付状摩擦面と摩擦板の第1摩擦部材および第2摩擦部材とが摩擦係合されるので、大型化することなく摩擦材の高耐熱性および高摩擦係数が両立する低コストな車両用摩擦係合装置が得られる。
【0010】
また、好適には、前記第1摩擦部材および第2摩擦部材は、前記摩擦材の外周側または内周側の一方および他方に配設された円環板状部材であり、前記摩擦材は、前記仕切板との間隔が前記摩擦材の第1摩擦部材から前記第2摩擦部材に向かうほど広く(大きく)なるように形成されたテーパ状摩擦面または段付状摩擦面を備えている。このようにすれば、仕切板および摩擦板が軸心方向に挟圧される際に、高耐熱性が必要になる摩擦係合の初期段階においては、仕切板と摩擦板の第1摩擦部材とが摩擦係合され、高摩擦係数が必要となる摩擦係合の終期段階においては、仕切板と摩擦板の第1摩擦部材および第2摩擦部材とが摩擦係合されるので、大型化することなく摩擦材の高耐熱性および高摩擦係数が両立する低コストな車両用摩擦係合装置が得られる。
【0011】
また、好適には、前記第1部材は、その内周面に軸心方向に平行な内周歯が形成された円筒状部材であり、前記仕切板は、その第1部材の内周歯に嵌合された円環板状部材である。また、前記第2部材は、その外周面に軸心に平行な外周歯が形成されて前記第1部材の内周側に挿入された軸状部材であり、前記摩擦板は、その第2部材の外周歯に嵌合された円環板状部材である。このようにすれば、実用的な態様の車両用摩擦係合装置において、大型化することなく摩擦材の高耐熱性および高摩擦係数を両立させることが低コストで実現できる。
【0012】
また、好適には、本発明の車両用摩擦係合装置は、例えば油圧式または電磁式等であって多板式または単板式のクラッチまたはブレーキに用いられる。具体的には、例えば、少なくとも1つの遊星歯車装置を備える遊星歯車式変速機または動力分配装置等において、その遊星歯車装置の回転要素同士またはそれら回転要素のいずれか1を非回転部材に連結して所定の変速段を成立させるまたは所定の動力伝達状態を成立させるため、或いは、例えば電子制御カップリングにおいて、入力回転部材と出力回転部材との間の伝達トルクを連続的にまたは断続的に制御するためのクラッチまたはブレーキに用いられる。このようにすれば、大型化することなく摩擦材の高耐熱性および高摩擦係数が両立する低コストなクラッチまたはブレーキが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例が適用されたクラッチ(車両用摩擦係合装置)を含む車両用自動変速機の一部を示す要部断面図である。
【図2】図1に示すクラッチの摩擦係合要素とその周辺部位を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示す摩擦プレートを軸心方向視で単独で示した図である。
【図4】本発明の他の実施例のクラッチを模式的に示す図であって、実施例1における図2に対応するものである。
【図5】本発明の他の実施例のクラッチを模式的に示す図であって、実施例1における図2に対応するものである。
【図6】本発明の他の実施例のクラッチを模式的に示す図であって、実施例1における図2に対応するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0015】
図1は、本実施例が適用された車両用摩擦係合装置(後述のクラッチC1、C2、およびブレーキB等)を含む車両用自動変速機10の一部を示す要部断面図である。上記車両用自動変速機10は、複数の遊星歯車装置および複数の摩擦係合装置を備え、それら複数の遊星歯車装置の連結関係によって構成される複数の回転要素を上記複数の摩擦係合装置によって選択的に動力伝達状態または動力伝達遮断状態とすることにより、複数の変速段を選択的に成立させる良く知られた有段式自動変速機である。なお、車両用自動変速機10は、軸心Cに対して略対称に構成されているため、図1では下側半分が省略されている。
【0016】
図1において、本実施例の自動変速機10は、トランスミッションケース12(以下はケース12と記載する)内においてそのケース12にベアリングを介して回転可能に支持された入力軸14と、その入力軸14に複数のブッシュを介して相対回転可能に支持されたシングルピニオン型の第1遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第2遊星歯車装置18とを備えている。上記第1遊星歯車装置16および第2遊星歯車装置18は、互いのキャリヤおよびリングギヤが共通の部材で構成されており、第1遊星歯車装置16のピニオンギヤが第2遊星歯車装置18のピニオンギヤを兼ねるラビニヨ式の遊星歯車列を構成している。
【0017】
上記入力軸14と第1遊星歯車装置16との間には、入力軸14の回転を第1遊星歯車装置16のサンギヤS1に選択的に伝達するクラッチC1と、入力軸14の回転を第1遊星歯車装置16および第2遊星歯車装置18のリングギヤRに選択的に伝達するクラッチC2とが設けられている。また、第1遊星歯車装置16および第2遊星歯車装18とケース12との間には、第1遊星歯車装置16および第2遊星歯車装置18のリングギヤRの回転を選択的に回転停止させるブレーキBが設けられている。上記クラッチC1、C2、およびブレーキBは、本発明における車両用摩擦係合装置に相当するものであって、それらが介挿されている両側の部材を選択的に連結するものである。これらは、図示しない油圧制御回路から供給される油圧の大きさに応じてトルク容量(摩擦係合力)が連続的に変化するように構成された油圧式の多板クラッチおよび多板ブレーキである。以下では、車両用摩擦係合装置を代表して第1遊星歯車装置16のサンギヤS1と入力軸14との間に介挿されたクラッチC1に関して詳しく説明する。
【0018】
クラッチC1は、円筒状のクラッチドラム(第1部材)20と、そのクラッチドラム20よりも小径であってそのクラッチドラム20と同心且つ相対回転可能に設けられた円筒状のクラッチハブ(第2部材)22と、そのクラッチドラム20とクラッチハブ22との間に形成された円環状の間隙に設けられた摩擦係合要素24と、その摩擦係合要素24を軸心C方向において挟圧するためのピストン26とを備えて構成され、そのピストン26により軸心C方向に挟圧される摩擦係合要素24間(後述のセパレートプレート32と摩擦プレート34との間)の摩擦係合によりクラッチドラム20とクラッチハブ22との相対回転を抑制する油圧式摩擦係合装置である。
【0019】
上記クラッチドラム20は、軸心C方向の第1遊星歯車装置16側の一端部が開口する有底円筒状部材であり、内周部が入力軸14に例えば溶接等により接合された略円板状の底部20aと、その底部20aの外周部に一端部が連結され、第1遊星歯車装置16側に向けて軸心C方向に平行に延設された円筒状の筒部20bとで構成されている。その筒部20bの内周面には、軸心C方向に平行な複数本のスプライン歯28が形成されている。
【0020】
前記クラッチハブ22は、軸心C方向においてクラッチドラム20と第1遊星歯車装置16との間に配置され、内周部がサンギヤS1に固定された円板状の底部22aと、その底部22aの外周部に一端部が連結されて第1遊星歯車装置16とは反対側に向けて軸心C方向に平行に延設された円筒状の筒部22bとで構成されている。その筒部22bの外周面には、軸心C方向に平行な複数本のスプライン歯30が形成されている。
【0021】
前記摩擦係合要素24は、クラッチドラム20のスプライン歯28に相対回転不能且つ軸心C方向に移動可能にスプライン嵌合された複数(本実施例では4つ)の円環板状のセパレータ(仕切板)32と、軸心C方向においてそのセパレータ32と交互に配置されてクラッチハブ22のスプライン歯30に相対回転不能且つ軸心C方向に移動可能にスプライン嵌合された複数(本実施例では3つ)の円環板状の摩擦プレート(摩擦板)34とを備えている。この摩擦係合要素24は、その摩擦係合要素24に対してピストン26とは反対側のクラッチドラム20の内周面に嵌め着けられたスナップリング36によって、クラッチドラム20から抜け出すことが防止されている。
【0022】
図2は、図1に示すクラッチC1の摩擦係合要素24とその周辺部位を模式的に示す断面図である。また、図3は、摩擦プレート34を軸心C方向視で単独で示した図である。なお、図2に示す摩擦プレート34は、図3のII-II矢視部断面に相当するものである。図2および図3において、前記摩擦プレート34は、内周部がクラッチハブ22の筒部22bのスプライン歯30にスプライン嵌合された円環板状のコアプレート38と、そのコアプレート38のセパレータ32との対向面に固設された円環板状の摩擦材40とで構成されている。上記摩擦材40は、相対的に耐熱性が高い第1摩擦部材42と、その第1摩擦部材42に比較して摩擦係数が高くて耐熱性が低い第2摩擦部材44とを備えて構成されている。上記第1摩擦部材42および第2摩擦部材44は、例えば、ペーパ、セミメタリック、焼結合金、およびコルク等の材料が好適用いられて耐熱性および摩擦係数がそれぞれ高められたものである。本実施例では、第1摩擦部材42は、円環板状に形成されて摩擦材40の外周側に配設されており、第2摩擦部材44は、円環板状に形成されて摩擦材40の内周側に配設されている。
【0023】
前記複数のセパレータ32は、それらのうち軸心C方向の両側においてピストン26およびスナップリング36と直接当接可能に配設された2つの外側セパレータ32aと、それら外側セパレータ32aの内側に配設された内側セパレータ32bとで構成されている。また、本実施例の外側セパレータ32aおよび内側セパレータ32bは、摩擦プレート34の摩擦材40との軸心C方向の間隔がその摩擦材40の第1摩擦部材42から第2摩擦部材44に向かうほど広く(大きく)なるように形成されたテーパ状摩擦面46を備え、内周側ほど軸心C方向の厚みが薄く形成されている。
【0024】
図1に戻って、前記ピストン26は、クラッチドラム20の底部20aとクラッチハブ22の底部22aとの間に配設された略環状部材であり、内周部および外周部が入力軸14および底部20aに摺動可能に設けられた摺動部26aと、その摺動部26aの外周部から摩擦係合要素24のスナップリング36とは反対側に位置する外側セパレータ24aの一方に向けて突設された押圧部26bとを備えている。このピストン26の底部20a側の背面には、入力軸14、底部20a、および摺動部26aで囲まれる油密な油圧室48が形成されている。
【0025】
以上のように構成されたクラッチC1では、前記油圧制御回路(図示せず)から油圧室48に所定の油圧が供給されることにより、ピストン26が摩擦係合要素24に向けて移動し、ピストン26の押圧部26bで外側セパレータ24aの一方が押圧されるようになっている。その押圧される外側セパレータ24aの一方とは反対側では、スナップリング36により外側セパレータ24aの他方(摩擦係合装置24)の移動が阻止されているので、セパレータ32および摩擦プレート34は、軸心C方向においてピストン26とスナップリング36との間で挟圧されるようになっている。
【0026】
ここで、セパレータ32および摩擦プレート34は、互いに軸心C方向に挟圧される際に、先ず、セパレータ32のテーパ状摩擦面46と摩擦プレート34の摩擦材40との間隔が狭い(小さい)箇所が当接し、次いで、その箇所に加えてセパレータ32のテーパ状摩擦面46と摩擦プレート34の摩擦材40との間隔が広い(大きい)箇所が当接するようになっている。すなわち、セパレータ32および摩擦プレート34は、互いに軸心C方向に挟圧される際に、先ず、上記間隔が狭い箇所に対応して第1摩擦部材42を介して摩擦係合され、次いで、その第1摩擦部材に加えて、上記間隔が広い箇所に対応して第2摩擦部材44を介して摩擦係合されるようになっている。これにより、セパレータ32と摩擦プレート34との相対回転速度が高い(大きい)ために高耐熱性が必要になる摩擦係合の初期段階においては、第2摩擦部材44に比較して相対的に耐熱性が高い第1摩擦部材42を介して摩擦係合が行われ、セパレータ32と摩擦プレート34とを完全係合状態とするために高い摩擦係数が必要になる摩擦係合の終期段階においては、上記第1摩擦部材42に加えて高摩擦係数の第2摩擦部材44を介して摩擦係合が行われる。
【0027】
上述のように、本実施例の車両用摩擦係合装置としてのクラッチC1によれば、摩擦材40は、相対的に耐熱性が高い第1摩擦部材42と、その第1摩擦部材42に比較して摩擦係数が高くて耐熱性が低い第2摩擦部材44とを備えて構成されており、セパレータ(仕切板)32および摩擦プレート(摩擦板)34は、それらが軸心C方向に挟圧される際に、先ず、第1摩擦部材42を介して摩擦係合され、次いで、その第1摩擦部材42に加えて第2摩擦部材44を介して摩擦係合されることから、セパレータ32と摩擦プレート34との相対回転速度が高い(大きい)ために高耐熱性が必要になる摩擦係合の初期段階においては、第2摩擦部材44に比較して相対的に耐熱性が高い第1摩擦部材42を介して摩擦係合が行われ、セパレータ32と摩擦プレート34とを完全係合状態とするために高い摩擦係数が必要になる摩擦係合の終期段階においては、上記第1摩擦部材42に加えて高摩擦係数の第2摩擦部材44を介して摩擦係合が行われるので、大型化することなく摩擦材40の耐熱性を向上させつつ摩擦係数を高めることができる。また、摩擦材40が高耐熱性の特性を有する第1摩擦部材42と高摩擦係数の特性を有する第2摩擦部材44とから構成されているので、それら高耐熱性および高摩擦係数の両方の性質を併せ持つ摩擦材が採用される場合に比較してコストが低減される。したがって、大型化することなく摩擦材40の高耐熱性および高摩擦係数が両立する低コストな車両用摩擦係合装置が得られる。
【0028】
また、本実施例の車両用摩擦係合装置としてのクラッチC1によれば、第1摩擦部材42および第2摩擦部材44は、摩擦材40の外周側および内周側に配設された円環板状部材であり、セパレータ32は、摩擦材40との間隔が第1摩擦部材42から第2摩擦部材44に向かうほど広く(大きく)なるように形成されたテーパ状摩擦面46を備えていることから、摩擦係合の初期段階においては、セパレータ32のテーパ状摩擦面46と摩擦プレート34の第1摩擦部材42とが摩擦係合され、摩擦係合の終期段階においては、上記第1摩擦部材42に加えてセパレータ32のテーパ状摩擦面46と摩擦プレート34の第2摩擦部材44とが摩擦係合されるので、大型化することなく摩擦材40の耐熱性を向上させつつ摩擦係数を高めることができる。
【0029】
また、本実施例の車両用摩擦係合装置としてのクラッチC1によれば、クラッチドラム20は、内周面に軸心C方向に平行なスプライン歯28が形成された筒部20bを有するものであり、セパレータ32は、その筒部20bのスプライン歯28にスプライン嵌合された円環板状部材であり、クラッチハブ22は、外周面に軸心C方向に平行なスプライン歯30が形成されてクラッチドラム20の内周側に挿入された筒部22aを有するものであり、摩擦プレート34は、その筒部22aのスプライン歯30にスプライン嵌合された円環板状部材であることから、実用的な態様の車両用摩擦係合装置において、大型化することなく摩擦材40の高耐熱性および高摩擦係数を両立させることが低コストで実現できる。
【実施例2】
【0030】
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、前述の実施例と重複する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
図4は、本発明の他の実施例のクラッチC1を模式的に示す図であって、前述の実施例1における図2に対応するものである。図4において、本実施例では、第1摩擦部材42は、円環板状に形成されて摩擦材40の内周側に配設されており、第2摩擦部材44は、円環板状に形成されて摩擦材40の外周側に配設されている。また、外側セパレータ32aおよび内側セパレータ32bは、摩擦プレート34の摩擦材40との軸心C方向の間隔が第1摩擦部材42から第2摩擦部材44に向かうほど広く(大きく)なるように形成されたテーパ状摩擦面46を備え、外周側ほど軸心C方向の厚みが薄く形成されている。
【0032】
本実施例のクラッチC1においては、上記以外の構成は実施例1と同じであり、また、実施例1と同様に、セパレータ(仕切板)32および摩擦プレート(摩擦板)34は、それらが軸心C方向に挟圧される際に、先ず、第1摩擦部材42を介して摩擦係合され、次いで、その第1摩擦部材42に加えて第2摩擦部材44を介して摩擦係合されることから、実施例1と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0033】
図5は、本発明の他の実施例のクラッチC1を模式的に示す図であって、前述の実施例1における図2に対応するものである。図5において、本実施例では、コアプレート38は、軸心C方向の厚みが外周側の方が薄くなるように段付き状に形成されている。また、摩擦材40は、そのコアプレート38の外周側の厚みが薄い箇所に貼着された第1摩擦部材42と、コアプレート38の内周側の厚みが厚い箇所に貼着された第2摩擦部材44とで構成されている。また、外側セパレータ32aおよび内側セパレータ32bは、摩擦プレート34の摩擦材40との軸心C方向の間隔が第1摩擦部材42から第2摩擦部材44に向かうほど広く(大きく)なるように形成された段付状摩擦面50を備え、内周側ほど軸心C方向の厚みが薄く形成されている。
【0034】
本実施例のクラッチC1においては、上記以外の構成は実施例1と同じであり、また、実施例1と同様に、セパレータ(仕切板)32および摩擦プレート(摩擦板)34は、それらが軸心C方向に挟圧される際に、先ず、第1摩擦部材42を介して摩擦係合され、次いで、その第1摩擦部材42に加えて第2摩擦部材44を介して摩擦係合されることから、実施例1と同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0035】
図6は、本発明の他の実施例のクラッチC1を模式的に示す図であって、前述の実施例1における図2に対応するものである。図6において、本実施例では、コアプレート38は、軸心C方向の厚みが内周側の方が薄くなるように段付き状に形成されている。また、摩擦材40は、そのコアプレート38の内周側の厚みが薄い箇所に貼着された第1摩擦部材42と、コアプレート38の外周側の厚みが厚い箇所に貼着された第2摩擦部材44とで構成されている。また、外側セパレータ32aおよび内側セパレータ32bは、摩擦プレート34の摩擦材40との軸心C方向の間隔が第1摩擦部材42から第2摩擦部材44に向かうほど広く(大きく)なるように形成された段付状摩擦面50を備え、外周側ほど軸心C方向の厚みが薄く形成されている。
【0036】
本実施例のクラッチC1においては、上記以外の構成は実施例1と同じであり、また、実施例1と同様に、セパレータ(仕切板)32および摩擦プレート(摩擦板)34は、それらが軸心C方向に挟圧される際に、先ず、第1摩擦部材42を介して摩擦係合され、次いで、その第1摩擦部材42に加えて第2摩擦部材44を介して摩擦係合されることから、実施例1と同様の効果が得られる。
【0037】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0038】
たとえば、前述の実施例において、摩擦材40は、円環板状部材であったが、これに限らず、例えば、コアプレート38のセパレータ32との対向面に周方向に複数設けられる板状或いはブロック状のものであってもよい等、種々の態様が可能である。
【0039】
また、前述の実施例において、セパレータ32および摩擦プレート34は、その一例が開示されたものであり、その他の機械的構成でも実現される。例えば、摩擦プレート34は、軸心C方向の厚みが外周側ほど薄くなるようにテーパ状に形成されたコアプレート38と、そのコアプレート38のセパレータ32との対向面の内周側および外周側に固設された第1摩擦部材42および第2摩擦部材44を備える摩擦材40とを備えて構成されてもよい。
【0040】
また、例えば、摩擦プレート34は、軸心C方向の厚みが内周側ほど薄くなるようにテーパ状に形成されたコアプレート38と、そのコアプレート38のセパレータ32との対向面の外周側および内周側に固設された第1摩擦部材42および第2摩擦部材44を備える摩擦材40とを備えて構成されてもよい。
【0041】
また、例えば、摩擦プレート34は、コアプレート38のセパレータ32との対向面の内周側および外周側に固設された第1摩擦部材42および第2摩擦部材44を備え、軸心C方向の厚みが外周側ほど薄くなるように形成された摩擦材40を備えて構成されてもよい。
【0042】
また、例えば、摩擦プレート34は、コアプレート38のセパレータ32との対向面の外周側および内周側に固設された第1摩擦部材42および第2摩擦部材44を備え、軸心C方向の厚みが内周側ほど薄くなるように形成された摩擦材40を備えて構成されてもよい。
【0043】
また、例えば、セパレータ32および摩擦プレート34は、その一方が段付状に形成されることで、セパレータ32と摩擦材40との軸心C方向の隙間の間隔が第1摩擦部材42から第2摩擦部材44に向かうほど広く(大きく)なるように形成されてもよい。
【0044】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
20:クラッチドラム(第1部材)
22:クラッチハブ(第2部材)
32:セパレータ(仕切板)
34:摩擦プレート(摩擦板)
40:摩擦材
42:第1摩擦部材
44:第2摩擦部材
B:ブレーキ(車両用摩擦係合装置)
C1,C2:クラッチ(車両用摩擦係合装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材に相対回転不能且つ軸心方向に移動可能に係合する少なくとも1つの仕切板と、該第1部材に同心且つ相対回転可能に設けられた第2部材に相対回転不能且つ軸心方向に移動可能に係合すると共に軸心方向において該仕切板に隣接して配置され、該仕切板との対向面に摩擦材が固設された少なくとも1つの摩擦板とを備え、前記軸心方向に挟圧される該仕切板と該摩擦板との間の摩擦係合により前記第1部材と前記第2部材との相対回転を抑制する車両用摩擦係合装置であって、
前記摩擦材は、相対的に耐熱性が高い第1摩擦部材と、該第1摩擦部材に比較して摩擦係数が高くて耐熱性が低い第2摩擦部材とを備えて構成されており、
前記仕切板および摩擦板は、それらが前記軸心方向に挟圧される際に、先ず、前記第1摩擦部材を介して摩擦係合され、次いで、該第1摩擦部材に加えて前記第2摩擦部材を介して摩擦係合されることを特徴とする車両用摩擦係合装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−249179(P2010−249179A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97115(P2009−97115)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】