説明

車両用無段変速機の制御装置

【課題】車両の降坂走行時において運転者の運転意図に応じた好適なダウン変速を実現する車両用無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン12と駆動輪24との間の動力伝達経路に設けられて、そのエンジン12から出力される駆動力を連続的な無段階の変速比により変速して前記駆動輪24へ伝達することができる無段変速機18の制御装置において、車両の降坂走行時の制動操作に応答して前記変速比γを大きくする降坂制動走行制御を実行すると共に、その降坂制動走行制御の実行中に更に制動操作が検出された場合には、前記変速比γを更に大きくする第2の降坂制動走行制御を実行するものであることから、運転者による制動操作に応じたダウン変速制御によって必要十分なエンジンブレーキを効かせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用無段変速機の制御装置に関し、特に、車両の降坂走行時におけるダウン変速制御を好適化するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられて、その駆動力源から出力される駆動力を変速して前記駆動輪へ伝達することができる車両用自動変速機の制御装置が知られている。斯かる車両用自動変速機の制御装置において、エンジンブレーキを効かせるために車両の降坂走行時にダウン変速制御を行う技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された降坂路ダウンシフト制御付き自動変速機がそれである。この技術によれば、降坂走行時においてダウンシフトが実行された直後の運転者による制動操作及びスロットル開度操作を検出し、その検出結果に基づいて運転者が更なる減速を要求したと判断できる場合には、その判定基準をダウンシフトを促進する側へ学習補正する構成により、降坂走行中に運転者の個性に適合したダウンシフト制御を行うことができるとされている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−35227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述したような従来の技術では、降坂走行時に過度のダウン変速が行われてドライバビリティが低下するおそれがあった。斯かる不具合を防止するため、シフトの下限値(変速比の上限値)を設定することが考えられるが、そのようにすると逆にエンジンブレーキが十分に効かない感じを運転者に与える可能性があり、運転者の運転意図に応じた好適なダウン変速を実現することは困難であった。このため、車両の降坂走行時において運転者の運転意図に応じた好適なダウン変速を実現する車両用無段変速機の制御装置の開発が求められていた。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両の降坂走行時において運転者の運転意図に応じた好適なダウン変速を実現する車両用無段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、車両の駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられて、その駆動力源から出力される駆動力を連続的な無段階の変速比により変速して前記駆動輪へ伝達することができる車両用無段変速機の制御装置であって、車両の降坂走行時において、制動操作に応答して前記変速比を大きくする降坂制動走行制御を実行すると共に、その降坂制動走行制御の実行中に更に制動操作が検出された場合には、前記変速比を更に大きくする第2の降坂制動走行制御を実行することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、車両の駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられて、その駆動力源から出力される駆動力を連続的な無段階の変速比により変速して前記駆動輪へ伝達することができる車両用無段変速機の制御装置において、車両の降坂走行時の制動操作に応答して前記変速比を大きくする降坂制動走行制御を実行すると共に、その降坂制動走行制御の実行中に更に制動操作が検出された場合には、前記変速比を更に大きくする第2の降坂制動走行制御を実行するものであることから、運転者による制動操作に応じたダウン変速制御によって必要十分なエンジンブレーキを効かせることができる。すなわち、車両の降坂走行時において運転者の運転意図に応じた好適なダウン変速を実現する車両用無段変速機の制御装置を提供することができる。
【0008】
ここで、好適には、前記第2の降坂制動走行制御は、前記変速比を目標変速比まで増大させるダウン変速制御中に制動操作が検出された場合に、その目標変速比よりも大きな変速比を新たな目標変速比として設定するものである。このようにすれば、車両の降坂走行時において運転者の運転意図に応じた好適なダウン変速を実用的な態様で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明が好適に適用される車両の駆動装置10の骨子図である。この駆動装置10は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源として機能するエンジン12を備えている。このエンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等、所定の燃料を燃焼させて動力を出力させる内燃機関であり、そのエンジン12から出力される駆動力は、トルクコンバータ14、前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、及び減速歯車20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24l、24r(以下、特に区別しない場合には単に駆動輪24という)へ分配される。
【0011】
上記トルクコンバータ14は、上記エンジン12のクランク軸32に連結されたポンプ翼車14p及びタービン軸34を介して上記前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行う流体式動力伝達装置である。また、それらポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、そのロックアップクラッチ26により上記ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tを連結して一体回転させることができるようになっている。また、上記ポンプ翼車14pには、上記無段変速機18による変速制御を行うための油圧やベルト挟圧力を発生させたり、或いは上記駆動装置10の各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生させる機械式のオイルポンプ28が設けられている。
【0012】
前記前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されている。前記トルクコンバータ14のタービン軸34は、その前後進切換装置16を構成するサンギヤ16sに連結され、前記無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに連結されている。そして、それらキャリア16cとサンギヤ16sとの間には直結クラッチ38が配設されており、その直結クラッチ38が係合させられると前記前後進切換装置16は一体回転させられてタービン軸34が入力軸36に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪24に伝達される。また、上記リングギヤ16rとハウジング30との間に配設された反力ブレーキ40が係合させられると共に上記直結クラッチ38が解放されると、上記入力軸36はタービン軸34に対して逆回転させられ、後進方向の駆動力が駆動輪24に伝達される。また、上記直結クラッチ38及び反力ブレーキ40が共に解放されると、前記エンジン12と無段変速機18との間の動力伝達が遮断される。ここで、好適には、上記直結クラッチ38及び反力ブレーキ40は何れも油圧式摩擦係合装置である。
【0013】
前記無段変速機18は、上記入力軸36に連結されてその入力軸36と一体的に回転させられる、V溝幅が可変の入力側可変プーリ42と、出力軸44に連結されてその出力軸44と一体的に回転させられる、V溝幅が可変の出力側可変プーリ46と、それら可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えて構成されており、上記可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。上記可変プーリ42、46は、V溝幅を変更するための油圧シリンダを備えて構成されており、上記入力側可変プーリ42の油圧シリンダの油圧が変速制御回路50(図2を参照)によって制御されることにより両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して上記伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられるようになっている。また、上記出力側可変プーリ46の油圧シリンダの油圧は、上記伝動ベルト48が滑りを生じないように挟圧力制御回路52(図2を参照)により入力トルク及び変速比γに応じて調圧制御される。
【0014】
図2は、前記無段変速機18を制御するために前記駆動装置10に備えられたCVTコントローラ54を例示する図である。このCVTコントローラ54は、CPU、RAM、ROM、及び入出力インタフェース等を有する所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御等を行う。上記CVTコントローラ54には、レバーポジションセンサ62、アクセル操作量センサ64、エンジン回転速度センサ66、出力軸回転速度センサ68、入力軸回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、ブレーキスイッチ74等から、それぞれシフト操作装置58におけるシフトレバー56のレバーポジションPL、アクセルペダルの操作量θACC、エンジン回転速度NE、出力軸回転速度NOUT(車速Vに対応)、入力軸回転速度NIN、タービン回転速度NT、フットブレーキ60の踏込操作を示すブレーキ信号BS等を表す信号が供給されると共に、モード切換スイッチ76から手動変速モード選択信号SMN、アップシフトスイッチ78及び86からそれぞれアップシフト信号SUP及びSSUP、ダウンシフトスイッチ80及び88からダウンシフト信号SDWN及びSSDWNが、それぞれ供給されるようになっている。
【0015】
上記シフト操作装置58は、運転者により切換操作されるシフトレバー56を有して運転席の横等に配設されるものであり、例えば、図3に示すようにレバーポジションPLとして駐車用のPポジション、後進走行用のRポジション、動力伝達を遮断するNポジション、前記無段変速機18の全変速領域を使って自動変速しながら前進走行するDポジションが、車両の前後進方向と切換方向が一致するように備えられている。更に、Dポジションの横には、手動変速モード選択用のMポジションが備えられ、そして、Mポジションの前後に、アップシフト用の「+」位置、及びダウンシフト用の「−」位置が設けられている。上記シフトレバー56は、Mポジションから上記「+」位置及び「−」位置へ傾動操作できるように構成されると共に、スプリング等で自動的にMポジションへ復帰するように構成されている。また、上記シフトレバー56がMポジションへ操作されたことは上記レバーポジションセンサ62によって検出され、それにより手動変速モードへ切り換えられる。また、「+」位置及び「−」位置への傾動操作はそれぞれ上記アップシフト検出スイッチ86及びダウンシフト検出スイッチ88により検出され、それに応じて前記CVTコントローラ54により前記無段変速機18の変速段をアップ及びダウンさせる制御が実行される。
【0016】
上記Dポジションは、前記無段変速機18の変速比γを自動的に連続的に変化させる前記自動変速モードを選択するポジションである。また、上記Mポジションは運転者のアップダウン操作に従って段階的に変化させる手動変速モードを選択するポジションである。前記レバーポジションセンサ62により前記シフトレバー56がDポジションからMポジションに移動させられたことが検出され、前記CVTコントローラ54にレバーポジション信号PLが送られた場合には、そのCVTコントローラ54により自動変速モードから手動変速モードへの切換が行われる。また、前記シフトレバー56が「+」位置へ傾動させられたことがアップシフト検出スイッチ86により検出された場合には、前記アップシフト信号SSUPが出力されて変速段が一段上に変化させられる。また、前記シフトレバー56が「−」位置へ傾動させられたことがダウンシフト検出スイッチ88により検出された場合には、前記ダウンシフト信号SSDWNが出力されて変速段が一段下に変化させられる。斯かる手動変速モードにおける変速制御に関しては、図7等を用いて後述する。
【0017】
前記モード切換スイッチ76、アップシフトスイッチ78、及びダウンシフトスイッチ80は、好適には、図4に示すように運転席のステアリングホイール82に設けられている。前記モード切換スイッチ76は、前記無段変速機18の変速比γを自動的に連続的に変化させる自動変速モードと、運転者のアップダウン操作に従って段階的に変化させる手動変速モードとを切り換えるためのものであり、押込み操作される毎にON、OFFが切り換わり、ON状態で前記手動変速モード選択信号SMNが出力される。また、前記アップシフトスイッチ78及びダウンシフトスイッチ80は、前記シフト操作装置58のMポジションと同様に手動変速モード時において変速段をアップダウン操作するためのものであり、上記ステアリングホイール82の左右に一対ずつ設けられており、前記アップシフトスイッチ78はステアリングホイール82の表側(運転者側)に配設され、ダウンシフトスイッチ80はステアリングホイール82の裏側に配設されている。これらアップシフトスイッチ78及びダウンシフトスイッチ80は自動復帰型のスイッチで、押込み操作される毎に前記アップシフト信号SUP、ダウンシフト信号SDWNが出力され、変速段が1段ずつ上下変化させられる。
【0018】
図5は、前記CVTコントローラ54に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図5に示す変速制御手段90は、前記無段変速機18の変速比γを制御する。具体的には、前記入力側可変プーリ42の油圧シリンダの油圧を前記変速制御回路50を介して制御することにより両可変プーリ42、46のV溝幅を変化させて前記伝動ベルト48の掛かり径(有効径)を変更し、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)を連続的(自動変速モード)又は段階的(手動変速モード)に変化させる。また、自動変速モードにおける変速制御及び手動変速モードにおける変速制御を実行するために、自動変速制御手段92、手動変速制御手段94、及び初期変速段判定手段96を備えている。また、変速モード切換手段98は、前記無段変速機18が自動変速モード又は手動変速モードの何れにあるかについて、前記レバーポジションセンサ62及びモード切換スイッチ76から供給される信号に基づいて判断すると共に、それら自動変速モード及び手動変速モードを適宜切り換える。
【0019】
上記自動変速制御手段92は、前記シフトレバー56が前記Dポジションへ操作される等して前記変速モード切換手段98により自動変速モードであると判定された場合には、前記無段変速機18の変速比γを車両の運転状態に応じて自動的に連続的に変化させる変速制御を実行する。例えば、図6に示すような自動変速マップから運転者の出力要求量を表すアクセル操作量θACC及び車速V(出力軸回転速度NOUTに対応)に基づいて入力側の目標回転速度NINTを算出し、実際の入力軸回転速度NINが目標回転速度NINTと一致するように、それらの偏差に応じて前記無段変速機18の変速制御を行う。具体的には、前記変速制御回路50に備えられた図示しない電磁開閉弁等をフィードバック制御して、前記入力側可変プーリ42の油圧シリンダに対する作動油の供給、排出を制御する。図6のマップは変速条件に相当するものであり、車速Vが低くアクセル操作量θACCが大きい程大きな変速比γとなる目標回転速度NINTが設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応すると共に、入力軸回転速度NINの目標値である目標回転速度NINTは目標変速比に対応し、前記無段変速機18の最小変速比γminと最大変速比γmaxとの間の範囲内で定められている。図6に示す自動変速マップは、例えば前記CVTコントローラ54に備えられたROM等の記憶部84に予め記憶されている。
【0020】
前記手動変速制御手段94は、前記シフトレバー56が前記DポジションからMポジションへ操作されたことがレバーポジションセンサ62により検出されたこと、或いは前記モード切換スイッチ76が押し下げられてモード切換信号SMNが供給されたことで前記変速モード切換手段98により手動変速モードが判定された場合には、運転者のアップダウン操作に従って前記無段変速機18の変速比γを、変速段毎に定められた所定の変速比になるように複数の変速段の間で段階的に変化させる変速制御を実行する。この手動変速制御手段94による変速制御のために、例えば、図7の手動変速マップに示すように、第1変速段「1st」〜第7変速段「7th」の7つの変速段が定められると共に、それら各変速段毎に車速Vをパラメータとして入力側の目標回転速度NINTの変速段線が設定されている。この目標回転速度NINTは目標変速比に対応するもので、本実施例では有段変速機のように各変速段に対応する一連の複数の変速比が段階的に設定されており、それらがそれぞれ一定の変速比になるように、車速Vに対して目標回転速度NINTが略直線的に定められている。前記手動変速制御手段94は、前記シフトレバー56が「+」位置又は「−」位置へ操作され、或いは前記アップシフトスイッチ78又はダウンシフトスイッチ80が押圧操作されてアップシフト信号SSUP、SUP又はダウンシフト信号SSDWN、SDWNが供給されると、変速段をアップシフト又はダウンシフトし、その変速段に応じて図7の手動変速マップに従って目標回転速度NINTすなわち変速比γを段階的に変化させる。図7に示す手動変速マップは、例えば基本変速マップとして前記記憶部84に予め記憶されている。なお、基本変速マップとして、走行性能を重視した手動変速マップや、燃費を重視した手動変速マップ、エンジンブレーキ用の手動変速マップ等、複数種類のマップを記憶しておくことも可能である。
【0021】
前記初期変速段判定手段96は、前記シフトレバー56がDポジションに保持されている場合における前記自動変速手段92による自動変速モードでの走行中に、そのシフトレバー56がMポジションに操作される等して手動変速モードへ切り換えられ、前記変速モード切換手段98により手動変速モードが判定された場合に、複数の変速段「1st」〜「7th」の中から最初に成立させる初期変速段を、例えば図8に示す初期変速段判定マップに従って判定する。この図8の破線が初期変速段判定マップであり、何れもモード切換前の変速比γに対応する目標回転速度NINT及び車速Vをパラメータとして、前記無段変速機18の複数の変速段線(実線)に対応して複数の判定線L2〜L7が定められている。例えば、手動変速モードに切り換えられる直前の車速V及びアクセル操作量θACCに基づいて前述した図6の自動変速マップから目標回転速度NINTを算出し、その算出された目標回転速度NINTが図8における判定線L7よりも小さい(図8の判定線L7の下である)場合には第7変速段「7th」を選択する。また、判定線L6よりも小さくL7以上である(図8の判定線L6とL7に囲まれた部分である、又はL7上である)場合には第6変速段「6th」を選択する。また、判定線L5よりも小さくL6以上である(図8の判定線L5とL6に囲まれた部分である、又はL6上である)場合には第5変速段「5th」を選択する。また、判定線L4よりも小さくL5以上である(図8の判定線L4とL5に囲まれた部分である、又はL5上である)場合には第4変速段「4th」を選択する。また、判定線L3よりも小さくL4以上である(図8の判定線L3とL4に囲まれた部分である、又はL4上である)場合には第3変速段「3rd」を選択する。また、判定線L2よりも小さくL3以上である(図8の判定線L2とL3に囲まれた部分である、又はL3上である)場合には第2変速段「2nd」を選択する。また、L2以上である(図8の判定線L2の上である、又はL2上である)場合には第1変速段「1st」を選択する。この初期変速段判定マップは初期変速段判定条件に相当するもので、車両の性格や手動変速の目的などに応じて予め定められて例えば前記記憶部84に記憶されている。
【0022】
図5に戻って、降坂走行判定手段100は、車両が所定の角度以上の勾配を有する降坂路を走行しているか否かを判定する。この降坂走行判定手段100による判定を行うために、予め実験的に求められた車両の平坦路走行時におけるスロットル開度(アクセルペダルの操作量θACC)、車速V(出力軸回転速度NOUT)、及び前記無段変速機18の変速比γの関係値と、それら関係値に対応する車両の加速度との関係が前記記憶部84等に記憶されている。上記降坂走行判定手段100は、前記出力軸回転速度センサ68により検出される出力軸回転速度NOUT乃至はそれに対応する車速Vの変化率から実際の車両の加速度αREを算出すると共に、前記記憶部84に記憶された関係からアクセルペダルの操作量θACC、車速V、及び変速比γ等に基づいてそれらの値に対応する平坦路走行時の加速度αFLを導出し、そのようにして導出される実際の加速度αREと平坦路走行時の加速度αFLとを比較することで車両が走行(降坂走行)している道路の勾配を算出する。そして、その勾配が所定値以上である場合には上記判定を肯定する。すなわち車両が降坂路を走行していると判定する。一方、算出された勾配が所定値未満である場合には上記判定を否定する。すなわち車両が降坂路を走行していないと判定する。
【0023】
制動操作判定手段102は、運転者による制動操作が行われたか否かを判定する。具体的には、前記ブレーキスイッチ74により検出されるブレーキ信号BSに基づいて前記フットブレーキ60による制動操作が行われたか否かを判定する。この判定は、単にフットブレーキ60の踏み込みが行われたか否かを判定するものでもよいが、そのフットブレーキ60の踏込量を検出するセンサを設ける等してその踏込量が所定値以上である場合にそのフットブレーキ60による制動操作を判定するといったものであってもよい。
【0024】
ここで、前記変速制御手段90は、車両の降坂走行時において、制動操作に応答して前記無段変速機18の変速比γを大きくする降坂制動走行制御を実行する。具体的には、前記降坂走行判定手段100により車両が所定の角度以上の勾配を有する降坂路を走行していると判定された場合であって、且つ上記制動操作判定手段102により運転者による制動操作が行われたと判定された場合には、その時点における車速V等に応じて平坦路走行時において予め定められた関係(すなわち図6に示すようなマップ)から導出される目標変速比よりも大きな目標変速比を設定し、その目標変速比に基づいて前記無段変速機18の変速制御(ダウンシフト制御)を行う。斯かる降坂制動走行制御により、前記無段変速機18の変速比γが平坦路走行時における通常の制御時よりも大きな値とされ、エンジンブレーキによる制動力が発生してドライバビリティが向上する。
【0025】
また、前記変速制御手段90は、上記降坂制動走行制御の実行中に更に前記制動操作判定手段102により制動操作が判定された場合には、前記無段変速機18の変速比γを更に大きくする第2の降坂制動走行制御を実行する。すなわち、前記降坂走行判定手段100により車両が所定の角度以上の勾配を有する降坂路を走行していると判定され、その判定された降坂路を継続して走行している状態と判定される場合において、前記変速制御手段90により一度前記降坂制動走行制御(第1の降坂制動走行制御)が実行された場合であっても、前記制動操作判定手段102により再度運転者による制動操作が判定された場合には、第1の降坂制動走行制御において設定された目標変速比よりも更に大きな目標変速比を再設定し、その目標変速比に基づいて前記無段変速機18の変速制御(ダウンシフト制御)を行う。斯かる第2の降坂制動走行制御により、前記無段変速機18の変速比γが運転者の運転意図に応じた値とされ、エンジンブレーキによる比較的大きな制動力が発生してドライバビリティが更に向上する。なお、この第2の降坂制動走行制御は、前記制動操作判定手段102による制動操作が判定される毎に際限なく実行されるものであってもよいし、上限2回といったように実行回数の限界が予め定められたものであってもよい。
【0026】
また、好適には、前記変速制御手段90による第2の降坂制動走行制御は、前記無段変速機18の変速比γを目標変速比まで増大させるダウン変速制御中に前記制動操作判定手段102により制動操作が判定された場合に、その変速制御における目標変速比よりも大きな変速比を新たな目標変速比として設定するものである。すなわち、第1の降坂制動走行制御において設定された目標変速比に基づく前記無段変速機18の変速制御が実行されている間に更に前記制動操作判定手段102により制動操作が判定された場合にのみ実行されるものであってもよい。
【0027】
図9は、前記CVTコントローラ54による降坂時変速比制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0028】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記フットブレーキ60が踏み込まれる等、運転者により制動操作が行われたか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、S6において、通常時すなわち前述した降坂制動走行制御を実行しない場合における変速比制御が実行された後、本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、前記降坂走行判定手段100の動作に対応するS2において、車両が所定の角度以上の勾配を有する降坂路を走行しているか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合には、S6以下の処理が実行されるが、S2の判断が肯定される場合には、S3において、S1の判断に続いて更に前記フットブレーキ60が踏み込まれる等、運転者により更なる制動操作が行われたか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S4において、前記無段変速機18の変速比γを大きくする降坂制動走行制御が実行された後、本ルーチンが終了させられるが、S3の判断が肯定される場合には、S5において、前記無段変速機18の変速比γをS4における処理よりも更に大きくする第2の降坂制動走行制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S1及びS3が前記制動操作判定手段102の動作に、S4乃至S6が前記変速制御手段90の動作にそれぞれ対応する。
【0029】
このように、本実施例によれば、車両の駆動力源であるエンジン12と駆動輪24との間の動力伝達経路に設けられて、そのエンジン12から出力される駆動力を連続的な無段階の変速比により変速して前記駆動輪24へ伝達することができる車両用無段変速機18の制御装置において、車両の降坂走行時の制動操作に応答して前記変速比γを大きくする降坂制動走行制御を実行すると共に、その降坂制動走行制御の実行中に更に制動操作が検出された場合には、前記変速比γを更に大きくする第2の降坂制動走行制御を実行するものであることから、運転者による制動操作に応じたダウン変速制御によって必要十分なエンジンブレーキを効かせることができる。すなわち、車両の降坂走行時において運転者の運転意図に応じた好適なダウン変速を実現する車両用無段変速機18の制御装置を提供することができる。
【0030】
また、前記第2の降坂制動走行制御は、前記変速比γを目標変速比まで増大させるダウン変速制御中に制動操作が検出された場合に、その目標変速比よりも大きな変速比γを新たな目標変速比として設定するものであるため、車両の降坂走行時において運転者の運転意図に応じた好適なダウン変速を実用的な態様で実現することができる。
【0031】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実行される。
【0032】
例えば、前述の実施例において、前記降坂走行判定手段100は、前記出力軸回転速度センサ68により検出される出力軸回転速度NOUT乃至はそれに対応する車速Vの変化率から実際の車両の加速度αREを算出すると共に、前記記憶部84に記憶された関係からアクセルペダルの操作量θACC、車速V、及び変速比γ等に基づいて平坦路走行時の加速度αFLを導出し、それら実際の加速度αREと平坦路走行時の加速度αFLとを比較することで車両が走行している道路の勾配を算出し、その算出された勾配に基づいて前記判定を行うものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばGセンサを備えた車両においては、そのGセンサにより検出される重力加速度に基づいて前記判定を行うものであってもよい。
【0033】
また、前述の実施例では特に言及していないが、本実施例の降坂制動走行制御及び第2の降坂制動走行制御は、前記自動変速モードにおいて好適に実行されるものであるが、手動変速モードにおいて実行されるものであっても構わない。
【0034】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明が好適に適用される車両の駆動装置の骨子図である。
【図2】図1の無段変速機を制御するために駆動装置に備えられたCVTコントローラ及びその入出力信号を例示する図である。
【図3】図1の車両に設けられたシフト操作装置のレバーポジションを説明する図である。
【図4】図1の車両に設けられたステアリングホイール及びそのステアリングホイールに備えられた各種スイッチを例示する図である。
【図5】図2のCVTコントローラに備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】図2の記憶部に記憶された自動変速マップを例示する図である。
【図7】図2の記憶部に記憶された手動変速マップを例示する図である。
【図8】図2の記憶部に記憶された初期変速段判定マップを例示する図である。
【図9】図2のCVTコントローラによる降坂時変速比制御の要部を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
12:エンジン(駆動力源)
18:無段変速機
24:駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられて、該駆動力源から出力される駆動力を連続的な無段階の変速比により変速して前記駆動輪へ伝達することができる車両用無段変速機の制御装置であって、
車両の降坂走行時において、制動操作に応答して前記変速比を大きくする降坂制動走行制御を実行すると共に、該降坂制動走行制御の実行中に更に制動操作が検出された場合には、前記変速比を更に大きくする第2の降坂制動走行制御を実行することを特徴とするものである車両用無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記第2の降坂制動走行制御は、前記変速比を目標変速比まで増大させるダウン変速制御中に制動操作が検出された場合に、該目標変速比よりも大きな変速比を新たな目標変速比として設定するものである請求項1の車両用無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−14105(P2009−14105A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176747(P2007−176747)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】