説明

車両用無段変速機の制御装置

【課題】複数の変速要求が同時に発生した際に、変速制御を適切に実行して違和感を抑制したりドライバビリティを向上する。
【解決手段】変速制御手段152により、複数の変速要求が同時に発生した際、優先度が最も高い変速要求における目標入力軸回転速度に到達するまでは優先度が最も高い変速要求における変速速度を優先的に用いて変速制御が行われる一方で、目標入力軸回転速度に到達したときに目標入力軸回転速度に未だ到達していない他の変速要求があるときは、目標入力軸回転速度に未だ到達していない他の変速要求のうちで優先度がより高い変速要求における目標入力軸回転速度に到達するまでは優先度がより高い変速要求における変速速度を用いて変速制御が行われるので、目標入力軸回転速度に未だ到達していない他の変速要求においても変速制御が適切に実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用無段変速機の制御装置に係り、特に、変速制御時の変速速度の決定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用無段変速機の変速制御においては、車速やアクセル開度等の車両状態に基づいて無段変速機の目標入力回転速度を設定し、実際の入力回転速度がその目標入力回転速度となるように無段変速機の変速比を変更することが良く知られている。この際、例えば通常変速時にはショックや変速の遅れが生じない程度の変速速度で変速を実行するように目標入力回転速度に到達する過渡的な目標入力回転速度が設定される一方、アクセルペダルが大きく踏込操作された加速要求時には過渡的な目標入力回転速度と実際の入力回転速度との回転速度差を大きくすることにより通常変速時に比べ変速速度を早くして要求されている加速感が得られるように過渡的な目標入力回転速度が設定される。また、例えば低車速時の減速走行においては、再発進や再加速等の車両走行上の機能を保証する為に、急制動時に最大変速比に戻す為の目標入力回転速度が設定され、加速要求時よりも非常に早い変速速度が設定される。このように、通常変速制御、加速要求制御、最大変速比戻り制御などの変速要求の違いによって異なる変速速度(すなわち目標入力回転速度に到達するまでの過渡的な目標入力回転速度)が設定される。
【0003】
変速速度を設定する例として、特許文献1には、アクセル開度と車速との関係による定常走行での目標変速比に対し、降坂での傾斜角と車速との関係による補正変速比を算出し、それらの変速比の大きい方を選択してそれと実変速比との偏差に基づいて変速速度を決定する技術が開示されている。また、特許文献2には、道路情報に基づき目標入力回転速度を設定し、入力回転速度を目標入力回転速度に到達させる地点を設定し、設定された到達地点までに入力回転速度を目標入力回転速度に略々到達させるように変速速度を設定する技術が開示されている。また、特許文献3には、運転者の減速意図の度合を検出した検出結果に基づいて変速制御する入力回転速度の変速速度を設定する技術が開示されている。また、特許文献4には、目標変速比および実変速比間における偏差を演算した変速比偏差に応じ、変速比偏差の変化量に対する変速比変化速度の変化割合を変更する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−4646号公報
【特許文献2】特開2003−202071号公報
【特許文献3】特開2003−202070号公報
【特許文献4】特開平9−112672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の変速要求が同時に発生した場合の変速速度は、変速制御に対する優先度が高い変速要求における変速速度を用いることが好ましいと考えられる。例えば、加速要求制御等のドライバビリティ向上に関連する変速要求と車両走行上の機能を保証する為の変速要求とが同時に発生した場合、ドライバビリティ向上に関連する変速要求に比べて優先度が高いと考えられる車両走行上の機能を保証する為の変速要求における変速速度が用いられる。このような場合に、車両走行上の機能を保証する為の変速要求における目標入力回転速度に到達してもドライバビリティ向上に関連する変速要求における目標入力回転速度に未だ到達していないときには、そのドライバビリティ向上に関連する変速要求における目標入力回転速度へも車両走行上の機能を保証する為の変速要求における早い変速速度が用いられるために、加速要求時にしては変速速度が早すぎて違和感を生じる可能性があった。このような問題は、優先度が高い方の変速速度が上記と反対に遅い場合にも生じる可能性があった。この場合には、例えば変速が間に合わずにドライバビリティが低下する可能性があった。尚、上述したような課題は未公知である。特許文献1に示された技術は、複数の変速制御が発生したときにより大きい変速比を優先度が高いと判断して変速速度を決定するのみであり、上記同様の問題が生じる可能性があるが、上述したような課題についての指摘はされていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、複数の変速要求が同時に発生した際に、変速制御を適切に実行して違和感を抑制したりドライバビリティを向上することができる車両用無段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 目標回転速度関連値及び変速速度が設定された変速要求に基づいて変速制御を実行する車両用無段変速機の制御装置であって、(b) 複数種類の変速要求毎に変速制御に対する優先度が予め設定されており、(c) 複数の変速要求が同時に発生した際、前記優先度が最も高い変速要求における目標回転速度関連値に到達するまではその優先度が最も高い変速要求における変速速度を優先的に用いて変速制御を行う一方で、前記優先度が最も高い変速要求における目標回転速度関連値に到達したときに目標回転速度関連値に未だ到達していない他の変速要求があるときは、その目標回転速度関連値に未だ到達していない他の変速要求のうちで優先度がより高い変速要求における目標回転速度関連値に到達するまではその優先度がより高い変速要求における変速速度を用いて変速制御を行う変速制御手段を含むことにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、変速制御手段により、複数の変速要求が同時に発生した際、前記優先度が最も高い変速要求における目標回転速度関連値に到達するまではその優先度が最も高い変速要求における変速速度を優先的に用いて変速制御が行われる一方で、前記優先度が最も高い変速要求における目標回転速度関連値に到達したときに目標回転速度関連値に未だ到達していない他の変速要求があるときは、その目標回転速度関連値に未だ到達していない他の変速要求のうちで優先度がより高い変速要求における目標回転速度関連値に到達するまではその優先度がより高い変速要求における変速速度を用いて変速制御が行われるので、優先度が最も高い変速要求における変速制御が適切に実行されつつ、その優先度が最も高い変速要求における目標回転速度関連値に到達したときに目標回転速度関連値に未だ到達していない他の変速要求においても変速制御が適切に実行される。よって、複数の変速要求が同時に発生した際に、違和感を抑制したりドライバビリティを向上することができる車両用無段変速機の制御装置が提供される。
【0009】
ここで、好適には、前記優先度がより高い変速要求における変速速度への切換えの際は、その切換え前後の変速要求における各目標回転速度関連値と実際の回転速度との回転速度偏差、及びその各変速要求における優先度をパラメータとした関数からその切換え時の変速速度を決定する。このようにすれば、変速速度の切換え前後の変速速度変化による違和感を抑制することができる。
【0010】
また、好適には、前記関数は、車速関連値、路面勾配値、及び運転者の出力要求量のうちの少なくとも1つの値をパラメータとして用いられる。このようにすれば、変速速度の切換え前後の変速速度変化による違和感を一層抑制することができる。
【0011】
また、好適には、車両走行上の機能を保証する為の変速要求は、ドライバビリティ向上に関連する変速要求に比べて前記優先度が高く設定され、且つ前記変速速度が早く設定される。このようにすれば、車両走行上の機能を保証する為の変速要求を満たしつつ、意図せぬ早い変速による違和感を抑制したりドライバビリティの低下を抑制した適切な変速制御が可能となる。
【0012】
また、好適には、前記車両用無段変速機は、変速比が無段階に変化させられることが可能な変速機であり、V溝幅が可変すなわち有効径が可変の一対の可変プーリと、それら一対の可変プーリの間に巻き掛けられた伝動ベルトとを備え、それら一対の可変プーリの有効径が相反的に変化させられることによって変速比が連続的に変化させられる形式のベルト式無段変速機のみならず、例えば、同心で相対回転可能に配置された一対のコーン部材とそれらの間に挟圧状態で配置された複数個のローラとを備え、そのローラの回転軸心が一対のコーン部材の回転軸心を含む面内で回動させられることによって変速比が連続的に変化させられる形式のトロイダル型無段変速機などであってもよい。
【0013】
また、好適には、前記目標回転速度関連値は、前記車両用無段変速機の入力回転速度の目標値(目標入力回転速度)、車両用無段変速機の変速比(=入力回転速度/出力回転速度)の目標値(目標変速比)、結果として変速比を制御するための目標値として用いることができる変数例えば上記ベルト式無段変速機における可変プーリのV溝幅を可変する推力を付与する例えば油圧シリンダへの油圧や作動油の流量などが用いられる。
【0014】
また、好適には、前記車速関連値は、車両の速度(車速)に1対1で対応する関連値であって、車速はもちろんのこと、駆動輪の回転速度、車軸の回転速度、差動歯車装置の回転部材の回転速度、減速歯車装置の回転部材の回転速度、前記車両用無段変速機の出力回転速度などが用いられる。
【0015】
また、好適には、前記運転者の出力要求量は、運転者が車両に要求する出力量を表すパラメータであり、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度、スロットル弁の開度を示すスロットル開度、エンジンの吸気管に設けられたチャンバ内或いはシリンダ内へ噴射される燃料の噴射量を示す燃料噴射量、エンジンの吸気管により吸入される吸入空気量などが用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0018】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧回路としての油圧制御回路100(図2、図3参照)内の図示しないロックアップコントロールバルブ(L/C制御弁)などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
【0019】
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジング38に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0020】
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
【0021】
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリシーブ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
【0022】
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、それらの間のV溝幅を変更する為の推力を付与する油圧アクチュエータとしての入力側油圧シリンダ(プライマリ側油圧シリンダ)42cおよび出力側油圧シリンダ(セカンダリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されており、プライマリ側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、セカンダリ側油圧シリンダ46cの油圧であるセカンダリ圧(ベルト挟圧)Poutが油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、プライマリ側油圧シリンダ42cの油圧であるプライマリ圧(変速圧)Pinが生じるのである。
【0023】
図2は、図1の車両用駆動装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
【0024】
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Nに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)Nを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、車速センサ(出力軸回転速度センサ)58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTすなわち出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを表す車速信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管32(図1参照)に備えられた電子スロットル弁30のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温Tを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧回路の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、フットブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無BONを表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置)PSHを表す操作位置信号、加速度センサ75により検出された車両の前後方向等の加速度Gを表す信号などが供給されている。
【0025】
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号S、例えば電子スロットル弁30の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ76を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号S例えばプライマリ側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御するソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を駆動するための指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号S例えばセカンダリ圧Poutを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号、ライン油圧Pを制御するリニアソレノイド弁SLTを駆動するための指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
【0026】
シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「L」のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。
【0027】
「P」ポジション(レンジ)は車両用駆動装置10の動力伝達経路を解放しすなわち車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させられるエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジションおよび「N」ポジションは車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「L」ポジションは車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
【0028】
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御および変速比制御に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、伝動ベルト48が滑りを生じないようにセカンダリ圧Poutを調圧する挟圧力コントロールバルブ110、変速比γが連続的に変化させられるようにプライマリ側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する変速制御弁としての変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116による作動油の給排作動が行われないときにプライマリ側油圧シリンダ42cに所定の油圧としての推力比制御油圧Pτを作用させてプライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの比率を予め定められた関係とする油圧比調圧装置としての推力比コントロールバルブ118等を備えている。その他図示しないが、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー74の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ等を備えている。
【0029】
また、ライン油圧Pは、エンジン12により回転駆動される機械式のオイルポンプ28(図1参照)から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えば図示しないリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)によりリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。モジュレータ油圧Pは、制御油圧PSLTおよびリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSの元圧となるものであると共に、電子制御装置50によってデューティ制御されるノーマルクローズ型のソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PDS1およびノーマルクローズ型のソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PDS2の元圧となるものであって、ライン油圧Pを元圧としてモジュレータバルブ120により一定圧に調圧されるようになっている。
【0030】
変速比コントロールバルブUP114は、軸方向へ移動可能に設けられることによりライン油圧Pを入力ポート114iから入出力ポート114jを経てプライマリプーリ42へ供給可能且つ入出力ポート114kを閉弁するアップシフト位置と入力ポート114iを閉弁し且つプライマリプーリ42が入出力ポート114jを介して入出力ポート114kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子114aと、そのスプール弁子114aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング114bと、そのスプリング114bを収容し且つスプール弁子114aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室114cと、スプール弁子114aにアップシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室114dとを備えている。
【0031】
また、変速比コントロールバルブDN116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116jが排出ポートEXと連通させられ且つ入出力ポート116jが入出力ポート116kと遮断されるダウンシフト位置と入出力ポート116jが入出力ポート116kと連通させられ且つ入出力ポート116jが排出ポートEXと遮断される原位置とに位置させられるスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つスプール弁子116aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aにダウンシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室116dとを備えている。
【0032】
このように構成された変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116において、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子114aがスプリング114bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入力ポート114iと入出力ポート114jとが遮断され且つ入出力ポート114jと入出力ポート114kとが連通させられ、プライマリプーリ42(プライマリ側油圧シリンダ42c)の作動油が入出力ポート116jへ流通することが許容される。また、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子116aがスプリング116bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート116jと排出ポートEXとが遮断され且つ入出力ポート116jと入出力ポート116kとが連通させられ、推力比コントロールバルブ118からの推力比制御油圧Pτが入出力ポート114kへ流通することが許容される。これにより、プライマリ側油圧シリンダ42cに推力比コントロールバルブ118からの推力比制御油圧Pτが作用させられる。
【0033】
また、制御油圧PDS1が油室114dへ供給されると、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子114aがその制御油圧PDS1に応じた推力によりスプリング114bの付勢力に抗してアップシフト位置側へ移動させられ、ライン油圧Pが制御油圧PDS1に対応する流量で入力ポート114iから入出力ポート114jを経てプライマリ側油圧シリンダ42cへ供給されると共に、入出力ポート114kが遮断されて変速比コントロールバルブDN116側への作動油の流通が阻止される。これにより、プライマリ圧Pinが高められ、プライマリプーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされるすなわち無段変速機18がアップシフトされる。
【0034】
また、制御油圧PDS2が油室116dへ供給されると、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子116aがその制御油圧PDS2に応じた推力によりスプリング116bの付勢力に抗してダウンシフト位置側へ移動させられ、入力側油圧シリンダ42cの作動油が制御油圧PDS2に対応する流量で入出力ポート114jから入出力ポート114kさらに入出力ポート116jを経て排出ポートEXから排出されると共に、入出力ポート116jと入出力ポート116kとが遮断されて推力比コントロールバルブ118からの推力比制御油圧Pτが入出力ポート114kへ流通することが阻止される。これにより、プライマリ圧Pinが低められ、プライマリプーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされるすなわち無段変速機18がダウンシフトされる。
【0035】
このように、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116と、それら変速制御弁を作動させるための制御油圧を出力するソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2とは無段変速機18の変速を行うためにプライマリ側油圧シリンダ42cに給排される作動油量を調整する作動油給排調整装置として機能するものであって、制御油圧PDS1が出力されるとプライマリ圧Pinの元圧となる変速比コントロールバルブUP114に入力されたライン油圧Pがプライマリ側油圧シリンダ42cへ供給されてプライマリ圧Pinが高められて連続的にアップシフトされ、制御油圧PDS2が出力されるとプライマリ側油圧シリンダ42cの作動油が排出ポートEXから排出されてプライマリ圧Pinが低められて連続的にダウンシフトされる。
【0036】
例えば図4に示すようにアクセル開度Accをパラメータとして車速Vと無段変速機18の目標入力回転速度である目標入力軸回転速度NINとの予め記憶された関係(変速マップ)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて設定される目標入力軸回転速度NINに実際の入力軸回転速度(以下、実入力軸回転速度という)NINが到達するように変速制御されることにより、前記作動油給排調整装置の制御量である変速制御指令信号S(すなわちソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2の各制御量であるDS1変速DutyおよびDS2変速Duty)が調節されて無段変速機18の変速が実行される、すなわちプライマリ側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給流量或いは排出流量が調整されることによって両可変プーリ42、46のV溝幅が変化させられて変速比γが連続的に変化させられる。
【0037】
図4の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NINが設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標入力軸回転速度NINは目標変速比γ(=NIN/NOUT)に対応し、無段変速機18の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内で定められる。
【0038】
また、制御油圧PDS1は変速比コントロールバルブDN116の油室116cに供給され、制御油圧PDS2に拘らずその変速比コントロールバルブDN116を閉じ状態としてダウンシフトを制限する一方、制御油圧PDS2は変速比コントロールバルブUP114の油室114cに供給され、制御油圧PDS1に拘らずその変速比コントロールバルブUP114を閉じ状態としてアップシフトを禁止するようになっている。つまり、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないときはもちろんであるが、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されるときにも、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116は何れも原位置に保持されている閉じ状態とされる。これにより、電気系統の故障などでソレノイド弁DS1、DS2の一方が機能しなくなり、制御油圧PDS1または制御油圧PDS2が最大圧で出力され続けるオンフェール時となった場合でも、急なアップシフトやダウンシフトが生じたり、その急変速に起因してベルト滑りが発生したりすることが防止される。
【0039】
挟圧力コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧Pを入力ポート110iから出力ポート110tを経て出力側可変プーリ46および推力比コントロールバルブ118へセカンダリ圧Poutを供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つスプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート110tから出力されたセカンダリ圧Poutを受け入れるフィードバック油室110dと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧Pを受け入れる油室110eとを備えている。
【0040】
このように構成された挟圧力コントロールバルブ110において、伝動ベルト48が滑りを生じないように制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧Pが連続的に調圧制御されることにより、出力ポート110tからセカンダリ圧Poutが出力される。
【0041】
このように、挟圧力コントロールバルブ110と、その挟圧力コントロールバルブ110を作動させるための制御油圧PSLSを出力するリニアソレノイド弁SLSとはセカンダリ圧Poutを調圧するためのセカンダリ圧調圧装置として機能するものであって、制御油圧PSLSが出力されるとセカンダリ圧Poutの元圧となる挟圧力コントロールバルブ110に入力されたライン油圧Pがセカンダリ側油圧シリンダ46cへ供給され、制御油圧PSLSに応じて制御油圧PSLSが高くなる程セカンダリ圧Poutが高められてベルト挟圧力が強くされる。
【0042】
例えば図5に示すように伝達トルクに対応するアクセル開度Acc(或いはスロットル弁開度θTH、無段変速機18への入力トルクTIN等)をパラメータとして変速比γとベルト挟圧力に対応する必要セカンダリ圧Poutとのベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された関係(ベルト挟圧力マップ)から実変速比γおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて決定(算出)された必要セカンダリ圧Poutが得られて伝動ベルト48の滑りが発生しないように、セカンダリ圧調圧装置の制御量である挟圧力制御指令信号Sが調節されてセカンダリ圧Poutが調圧され、このセカンダリ圧Poutに応じて可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が増減させられる。
【0043】
推力比コントロールバルブ118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート118iを開閉してライン油圧Pを入力ポート118iから出力ポート118tを経て変速比コントロールバルブDN116へ推力比制御油圧Pτを供給可能にするスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つスプール弁子118aに開弁方向の推力を付与するためにセカンダリ圧Poutを受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート118tから出力された推力比制御油圧Pτを受け入れるフィードバック油室118dとを備えている。
【0044】
このように構成された推力比コントロールバルブ118において、油室118cにおけるセカンダリ圧Poutの受圧面積をa、フィードバック油室118dにおける推力比制御油圧Pτの受圧面積をb、スプリング118bの付勢力をFとすると、次式(1)で平衡状態となる。従って、推力比制御油圧Pτは、次式(2)で表され、セカンダリ圧Poutの一次関数となる。
τ×b=Pout×a+F ・・・(1)
τ=Pout×(a/b)+F/b ・・・(2)
【0045】
そして、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないか、或いは所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2がともに供給されて、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116が何れも原位置に保持されている閉じ状態とされたときには、推力比制御油圧Pτがプライマリ側油圧シリンダ42cに供給されることから、プライマリ圧Pinが推力比制御油圧Pτと一致させられる。つまり、推力比コントロールバルブ118によりプライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの比率を予め定められた前記式(2)に示す関係に保つ推力比制御油圧Pτすなわちプライマリ圧Pinが出力される。
【0046】
例えば、入力軸回転速度センサ56や車速センサ58の精度上所定車速V’以下の低車速状態では入力軸回転速度NINや車速Vの検出精度が劣ることから、このような低車速走行時や発進時には変速比γのフィードバック制御に替えて、例えば制御油圧PDS1および制御油圧PDS2を共に供給せず変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116を何れも閉じ状態とする所謂閉じ込み制御を実行する。これにより、低車速走行時や発進時にはプライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの比率を予め定められた関係とするようにセカンダリ圧Poutによって定まるプライマリ圧Pinがプライマリ側油圧シリンダ42cへ供給されて、車両停車時から極低車速時における伝動ベルト48のベルト滑りが防止されると共に、このとき例えば最大変速比γmaxに対応する推力比τ(=セカンダリ側油圧シリンダ推力WOUT/プライマリ側油圧シリンダ推力WIN;WOUTはセカンダリ圧Pout×セカンダリ側油圧シリンダ46cの受圧面積Sout、WINはプライマリ圧Pin×プライマリ側油圧シリンダ42cの受圧面積Sin)より大きな推力比τが可能なように上記式(2)の右辺第1項の(a/b)やF/bが設定されていると、最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’にて良好な発進が行われる。また、上記所定車速V’は、所定回転部材の回転速度例えば入力軸回転速度NINが検出不可能な回転速度となる車速Vとして予め定められたフィードバック制御を実行可能な下限の車速であって、例えば2km/h程度に設定されている。
【0047】
図6は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、変速目標値設定手段150は、入力軸回転速度NINの目標入力軸回転速度NINを逐次予め設定する。この目標入力軸回転速度NINは1つの変速要求において入力軸回転速度NINを最終的に到達させる目標値となるものであり、この最終的な目標値とは別にその目標値に至るまでの変速過程における過渡的な目標値も設定する必要がある。この過渡的な目標値は、最終的な目標値に至るまでの入力軸回転速度NINの変化量を定めるものであり、変速制御の過程における変速速度に相当する。このように、変速目標値設定手段150は、1つの変速要求において目標入力軸回転速度NINと変速速度aとを設定する。
【0048】
目標入力軸回転速度NINや変速速度aは変速要求の種類によって設定のされ方が異なっており、以下に変速要求を例示しつつ目標入力軸回転速度NINや変速速度aの設定例を説明する。
【0049】
例えば、アクセルペダル68の急踏込みと判断されないようなアクセル踏込み操作による通常走行となる変速要求である通常変速制御においては、例えば図4に示すような予め記憶された変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NINが逐次予め設定される。また、例えば実入力軸回転速度NINと目標入力軸回転速度NINとの回転偏差ΔNIN(=NIN−NIN)に基づいてショックや変速の遅れが生じないような通常変速制御時の変速速度aが設定される。この通常変速制御時の変速速度aは、例えば回転偏差ΔNINが大きくなる程早い変速速度aが設定されるが、通常変速制御時の上限値として予め求められた上限変速速度aNMAXを超えない範囲で設定されることが望ましい。
【0050】
また、例えばアクセルペダル68の急踏込みと判断されるようなアクセル急踏込み操作による加速走行となる変速要求である加速要求制御においては、通常変速制御において用いられる変速マップに比較して目標入力軸回転速度NINが大きくなるように設定された加速時用の変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NINが逐次予め設定される。また、例えば要求されている加速感が得られるように通常変速制御時の変速速度aに比べて早くされた加速要求制御時の変速速度aが回転偏差ΔNINに基づいて設定される。
【0051】
また、例えばアクセル開度Accが零と判断されるアクセルオフへのアクセルペダル68の戻し操作によるアップシフトとなる変速要求であるオフアップ制御においては、そのオフアップ制御開始時の実入力軸回転速度NINから下げる分を決定する為の車速Vと目標入力軸回転速度NINとの予め記憶されたオフアップ制御時の変速マップから実際の車速Vに基づいて目標入力軸回転速度NINが逐次予め設定される。また、例えば過渡的な目標入力軸回転速度が実入力軸回転速度NINから目標入力軸回転速度NINへ向かって予め設定された一定の勾配で下げられるような、或いは目標入力軸回転速度NINに到達する一次遅れ系の曲線状となるような、通常変速制御時の変速速度aに比べて早くされたオフアップ制御時の変速速度aOUが設定される。
【0052】
また、例えば降坂路走行時に車両にエンジンブレーキを作用させる変速要求となる降坂制御においては、通常変速制御において用いられる変速マップに比較して目標入力軸回転速度NINが必要なエンジンブレーキに応じて大きくなるように設定された降坂走行用の変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NINが逐次予め設定される。この降坂走行用の変速マップは、例えば通常変速制御にて用いられる変速マップにおいて目標入力軸回転速度NINの下限側を制限するものが用いられる。また、例えば加速度センサ75により検出された加速度Gに基づいて算出される路面勾配θや車速Vに応じた適切なエンジンブレーキ力が得られるように通常変速制御時の変速速度aに比べて早くされた降坂制御時の変速速度aEBが設定される。
【0053】
また、例えばアクセルオフのフットブレーキ操作時に車両にエンジンブレーキを作用させる変速要求となるブレーキングダウンシフト制御においては、通常変速制御において用いられる変速マップに比較して目標入力軸回転速度NINがフットブレーキ操作時の車両減速度Gに応じて大きくなるように設定されたブレーキングダウンシフト用の変速マップから実際の車速Vに基づいて目標入力軸回転速度NINが逐次予め設定される。このブレーキングダウンシフト用の変速マップは、例えば上記降坂制御と同様に通常変速制御にて用いられる変速マップにおいて目標入力軸回転速度NINの下限側を制限するものが用いられる。また、例えば減速度Gや車速Vに応じた適切なエンジンブレーキ力が得られるように通常変速制御時の変速速度aに比べて早くされたブレーキングダウンシフト制御時の変速速度aBDが設定される。
【0054】
また、例えば低車速走行中のアクセルオフ時或いは中車速走行中のアクセルオフのフットブレーキ操作時に、急制動による車両停止に備えて最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’へ戻すことが可能な変速比γとしておく変速要求となる最大変速比戻り制御においては、例えば車両停止前までに変速比γを最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’へ戻すことができるような目標入力軸回転速度NINが逐次予め設定される。例えば車速Vが10km/h程度以下の低車速走行中のアクセルオフ時には最大変速比γmaxとなる目標入力軸回転速度NINが設定される。また、例えば、車速Vが10〜50km/h程度の中車速走行中のアクセルオフのフットブレーキ操作時には通常変速制御にて用いられる変速マップにおける目標入力軸回転速度NINの下限側を制限する目標入力軸回転速度NINが設定される。また、例えば車両停止前までに変速比γが確実に最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’へ戻されるようにブレーキングダウンシフト制御時の変速速度aBDに比べて早くされた最大変速比戻り制御時の変速速度aが設定される。
【0055】
変速制御手段152は、実入力軸回転速度NINが変速目標値設定手段150によって予め設定された変速速度aで目標入力軸回転速度NINに到達するように、例えば実入力軸回転速度NINと目標入力軸回転速度NINとの回転偏差ΔNINに基づいて無段変速機18の変速を例えばフィードバック制御により実行する。つまり、変速制御手段152は、回転偏差ΔNINに基づいてプライマリ側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量を制御することにより両可変プーリ42、46のV溝幅を変化させるための変速制御指令信号(油圧指令)Sを決定し、その変速制御指令信号Sを油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。
【0056】
ベルト挟圧力設定手段154は、例えば図5に示すような予め実験的に求められて記憶されたベルト挟圧力マップから、アクセル開度Accおよび実変速比γに基づいて必要セカンダリ圧(ベルト挟圧力)Poutを設定する。つまり、ベルト挟圧力設定手段154は、必要セカンダリ圧Poutが得られる為の出力側油圧シリンダ46cのセカンダリ圧Poutを設定する。尚、実変速比γ(=NIN/NOUT)は、検出される実際の入力軸回転速度NINおよび出力軸回転速度NOUTに基づいて電子制御装置50により算出される。
【0057】
ベルト挟圧力制御手段156は、ベルト挟圧力設定手段154により設定された必要セカンダリ圧Poutが得られるようにセカンダリ側油圧シリンダ46cのセカンダリ圧Poutを調圧する挟圧力制御指令信号Sを油圧制御回路100へ出力してベルト挟圧力を増減させる。
【0058】
油圧制御回路100は、上記変速制御指令信号Sに従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させてプライマリ側油圧シリンダ42cへの作動油の供給・排出量を制御すると共に、上記挟圧力制御指令信号Sに従ってベルト挟圧力が増減されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させてセカンダリ圧Poutを調圧する。
【0059】
エンジン出力制御手段158は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号S、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ76や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段158は、アクセル開度Accに応じたスロットル開度θTHとなるように電子スロットル弁30を開閉するスロットル信号をスロットルアクチュエータ76へ出力してエンジントルクTを制御する。
【0060】
ここで、複数の変速要求が同時に発生した場合の変速速度aは、変速制御に対する優先度が高い変速要求における変速速度aを用いることが好ましいと考えられる。図7は、前記例示した複数種類の変速要求を変速要求毎に予め設定された優先度順に並べた図表である。図7に示すように、最大変速比戻り制御は再発進や再加速等の車両走行上の機能を保証する為の変速要求(機能案件)である為、通常変速制御や加速要求制御等のドライバビリティ向上に関連する変速要求(ドラビリ案件)に比べて優先度が高くされる。また、同じドラビリ案件の中ではユーザの要求度合が高いと考えられる変速要求程優先度が高くされることから、降坂制御やブレーキングダウンシフト制御は通常変速制御や加速要求制御よりも優先度が高くされる。尚、基本的には優先度が高い程早い変速速度aが設定されるが、ドラビリ案件の中では必ずしもその通りに設定されるものではない。例えば、加速要求制御時の変速速度aは、アクセル開度Accの変化速度や変化量に依っては降坂制御時の変速速度aEBやブレーキングダウンシフト制御時の変速速度aBDよりも早い値が設定される。
【0061】
ところで、複数の変速要求が同時に発生した際に優先度が高い変速要求における変速速度aを用いて変速制御を実行した場合、優先度が高い変速要求における目標入力軸回転速度NINに到達しても優先度が低い変速要求における目標入力軸回転速度NINに未だ到達していないときには、優先度が低い変速要求における目標入力軸回転速度NINへ到達させる際にも優先度が高い変速要求における早い変速速度aがそのまま用いられるために、違和感が生じたり、ドライバビリティが低下する可能性がある。
【0062】
そこで、変速制御手段152は、複数の変速要求が同時に発生した際、優先度が最も高い変速要求における目標入力軸回転速度NINに到達するまでは優先度が最も高い変速要求における変速速度aを優先的に用いて変速制御を行う一方で、優先度が最も高い変速要求における目標入力軸回転速度NINに到達したときに目標入力軸回転速度NINに未だ到達していない他の変速要求があるときは、目標入力軸回転速度NINに未だ到達していない他の変速要求のうちで優先度がより高い変速要求における目標入力軸回転速度NINに到達するまでは優先度がより高い変速要求における変速速度aを用いて変速制御を行う。
【0063】
また、変速目標値設定手段150は、優先度がより高い変速要求における変速速度への切換えの際は、その切換え前後の各変速要求における各回転偏差ΔNIN、及び該各変速要求における各優先度をパラメータとした関数f(A)から切換え時の変速速度aCHを決定する過渡変速速度算出手段160を備える。
【0064】
図8は、第1変速要求SD1と第2変速要求SD2が同時に発生した際の変速速度aの切換えを説明する図である。図8において、第1変速要求SD1は目標入力軸回転速度NIN1及び変速速度a1が設定されたダウンシフトであり、第2変速要求SD2は目標入力軸回転速度NIN2及び変速速度a2が設定されたダウンシフトである。また、第1変速要求SD1の方が第2変速要求SD2よりも優先度が高く設定され、変速速度a1の方が変速速度a2よりも早い値に設定され、目標入力軸回転速度NIN2の方が目標入力軸回転速度NIN1よりも高い値に設定されている。このように設定された第1変速要求SD1と第2変速要求SD2とが同時に発生すると、図8の実線に示すように、先ず、優先度が高い変速要求SD1における目標入力軸回転速度NIN1に到達するまではその変速要求SD1における変速速度a1を用いて変速制御が実行される。そして、優先度が高い変速要求SD1における目標入力軸回転速度NIN1に到達したときに優先度が低い変速要求SD2における目標入力軸回転速度NIN2に未だ到達していないときは、その変速要求SD2における目標入力軸回転速度NIN2に到達するまでは破線に示す変速速度a1をそのまま用いることに換えて変速要求SD2における変速速度a2を用いて変速制御が実行される。一点鎖線囲みで示した目標入力軸回転速度NIN1に到達した以降の変速速度a1から変速速度a2への切換えにおいては、二点鎖線に示すように段階的に変化させても良いが、変速速度aの変化による違和感を抑制する為に、上記関数f(A)から算出された過渡的な変速速度aCHを介して実線に示すように連続的に変化させることが好ましい。ここでの関数f(A)は例えば図8の式(1)のように表される。
【0065】
より具体的には、図6において、変速要求判定手段162は、複数の変速要求が同時に発生したか否かを判定する。例えば、降坂路走行中のアクセルオフのフットブレーキ操作により降坂制御とブレーキングダウンシフト制御と最大変速比戻り制御との複数の変速要求が同時に発生したことを判定する。変速目標値設定手段150は、更に、変速要求判定手段162により複数の変速要求が同時に発生したと判定された場合に、同時に発生した複数の変速要求において各々目標入力軸回転速度NINと変速速度aとを設定する。
【0066】
優先変速決定手段164は、変速要求判定手段162により複数の変速要求が同時に発生したと判定された場合に、同時に発生した複数の変速要求の中で予め設定された優先度が最も高い変速要求を決定する。変速制御手段152は、更に、優先変速決定手段164により決定された変速要求をその変速要求において変速目標値設定手段150により設定された目標入力軸回転速度NINと変速速度aとに基づいて変速実行する。
【0067】
目標回転到達判定手段166は、優先変速決定手段164により決定された変速要求が変速制御手段152により実行されているときに、その変速要求において変速目標値設定手段150により設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが到達したか否かを判定する。変速要求判定手段162は、更に、同時に発生した複数の変速要求の中で変速目標値設定手段150により各々設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が有るか否かを判定する。
【0068】
優先変速決定手段164は、更に、変速要求判定手段162により目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が有ると判定された場合に、その変速要求の中で予め設定された優先度がより高い変速要求を決定する。変速目標値設定手段150(過渡変速速度算出手段160)は、更に、変速要求判定手段162により目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が有ると判定された場合に、優先変速決定手段164により前回決定された変速要求と今回決定された変速要求との各変速要求における各回転偏差ΔNIN、及び該各変速要求における各優先度をパラメータとした関数f(A)から切換え時の変速速度aCHを算出する。変速制御手段152は、更に、変速要求判定手段162により目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が有ると判定された場合に、優先変速決定手段164により前回決定された変速要求に換えて今回決定された変速要求を、その変速要求において変速目標値設定手段150により設定された目標入力軸回転速度NIN及び変速速度aと、変速目標値設定手段150により算出された変速速度aCHとに基づいて変速実行する。
【0069】
図9は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち複数の変速要求が同時に発生した際に変速速度を適切に設定する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0070】
先ず、変速要求判定手段162に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、複数の変速要求が同時に発生したか否かが判定される。複数の変速要求が同時に発生せずこのS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、複数の変速要求が同時に発生してS10の判断が肯定される場合は変速目標値設定手段150、変速制御手段152、優先変速決定手段164に対応するS20において、同時に発生した複数の変速要求において各々目標入力軸回転速度NINと変速速度aとが設定され、同時に発生した複数の変速要求の中で予め設定された優先度が最も高い変速要求が決定され、その決定された優先度が最も高い変速要求がその変速要求において設定された目標入力軸回転速度NINと変速速度aとに基づいて変速実行される。
【0071】
次いで、目標回転到達判定手段166に対応するS30において、優先度が最も高い変速要求が実行されているときに、その変速要求において設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが到達したか否かが判定される。優先度が最も高い変速要求において設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達せず上記S30の判断が否定される場合はこのS30が繰り返し実行される。目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが到達してS30の判断が肯定される場合は変速要求判定手段162に対応するS40において、同時に発生した複数の変速要求の中で各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が有るか否かが判定される。
【0072】
各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が無くこのS40の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、未だ到達していない他の変速要求が有りS40の判断が肯定される場合は変速目標値設定手段150(過渡変速速度算出手段160)、変速制御手段152、優先変速決定手段164に対応するS50において、目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求の中で予め設定された優先度がより高い変速要求が決定され、前回決定された変速要求と今回決定された変速要求との各変速要求における各回転偏差ΔNIN、及びそれら各変速要求における各優先度をパラメータとした関数f(A)から切換え時の変速速度aCHが算出される。そして、前回決定された変速要求に換えて今回決定された変速要求が、その変速要求において設定された目標入力軸回転速度NIN及び変速速度aと、算出された変速速度aCHとに基づいて変速実行される。
【0073】
次いで、目標回転到達判定手段166に対応するS60において、優先度がより高い変速要求すなわち今回決定された変速要求が実行されているときに、その変速要求において設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが到達したか否かが判定される。今回決定された変速要求において設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達せず上記S60の判断が否定される場合はこのS60が繰り返し実行されるが、目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが到達してS60の判断が肯定される場合は上記S40に戻りS40以降が実行される。
【0074】
図10及び図11は、降坂制御とブレーキングダウンシフト制御と最大変速比戻り制御との複数の変速要求が同時に発生した際のそれぞれ別実施例のタイムチャートである。この図10、11において、予め設定された優先度が高い順に各変速要求を並べると、最大変速比戻り制御(優先度:高)、ブレーキングダウンシフト制御(優先度:中)、降坂制御(優先度:低)とされる。また、目標入力軸回転速度NINは低い順に、NIN1、NIN2、NIN3とし、変速速度aは早い順に、a1、a2、a3とする。尚、図10、11中の破線は、従来例における変速速度を示している。
【0075】
図10、11において、t時点にて、降坂制御とブレーキングダウンシフト制御と最大変速比戻り制御との複数の変速要求が同時に発生したと判定される。すると、図10のt時点では、最大変速比戻り制御は目標入力軸回転速度NIN1及び変速速度a1のダウンシフトが設定され、ブレーキングダウンシフト制御は目標入力軸回転速度NIN2及び変速速度a2のダウンシフトが設定され、降坂制御は目標入力軸回転速度NIN3及び変速速度a3のダウンシフトが設定され、優先度が最も高い変速要求として最大変速比戻り制御が決定される。また、図11のt時点では、最大変速比戻り制御は目標入力軸回転速度NIN1及び変速速度a1のダウンシフトが設定され、ブレーキングダウンシフト制御は目標入力軸回転速度NIN3及び変速速度a2のダウンシフトが設定され、降坂制御は目標入力軸回転速度NIN2及び変速速度a3のダウンシフトが設定され、優先度が最も高い変速要求として最大変速比戻り制御が決定される。そして、図10、11のt時点から、決定された最大変速比戻り制御が目標入力軸回転速度NIN1に向かって変速速度a1にて実行される。
【0076】
図10、11のt時点〜t時点では、最大変速比戻り制御の変速が実行されているときに最大変速比戻り制御において設定された目標入力軸回転速度NIN1に実入力軸回転速度NINが到達したか否かが判定される。そして、図10、11のt時点にて、最大変速比戻り制御において設定された目標入力軸回転速度NIN1に実入力軸回転速度NINが到達したと判定されると、t時点にて各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が有るか否かが判定される。
【0077】
図10、11のt時点にて、各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求としてブレーキングダウンシフト制御と降坂制御とが有ると判定される。この図10、11のt時点では、それらブレーキングダウンシフト制御及び降坂制御の中で予め設定された優先度がより高い変速要求としてブレーキングダウンシフト制御が決定され、前回決定された変速要求である最大変速比戻り制御と今回決定された変速要求であるブレーキングダウンシフト制御との各変速要求における各回転偏差ΔNIN、及びそれら各変速要求における各優先度をパラメータとした関数f(A)から切換え時の変速速度aCH1が算出される。そして、図10においては、t時点から、今回決定されたブレーキングダウンシフト制御が、変速速度a1に換えて上記算出された変速速度aCH1に基づいて変速開始され、その後目標入力軸回転速度NIN2に向かって変速速度a2にて実行される。また、図11においては、t時点から、今回決定されたブレーキングダウンシフト制御が、前回決定された最大変速比戻り制御における変速速度a1に換えて上記算出された変速速度aCH1に基づいて変速開始され、その後目標入力軸回転速度NIN3に向かって変速速度a2にて実行される。
【0078】
図10のt時点〜t時点では、今回決定されたブレーキングダウンシフト制御の変速が実行されているときにブレーキングダウンシフト制御において設定された目標入力軸回転速度NIN2に実入力軸回転速度NINが到達したか否かが判定される。そして、図10のt時点にて、今回決定されたブレーキングダウンシフト制御において設定された目標入力軸回転速度NIN2に実入力軸回転速度NINが到達したと判定されると、t時点にて各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が有るか否かが判定される。
【0079】
図10のt時点にて、各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求として降坂制御が有ると判定される。この図10のt時点では、目標入力軸回転速度NINに未達な変速要求が降坂制御のみであるため今回実行する変速要求として降坂制御が決定され、前回決定された変速要求であるブレーキングダウンシフト制御と今回決定された変速要求である降坂制御との各変速要求における各回転偏差ΔNIN、及びそれら各変速要求における各優先度をパラメータとした関数f(A)から切換え時の変速速度aCH2が算出される。そして、図10のt時点から、今回決定された降坂制御が、変速速度a2に換えて上記算出された変速速度aCH2に基づいて変速開始され、その後目標入力軸回転速度NIN3に向かって変速速度a3にて実行される。
【0080】
図10のt時点〜t時点では、今回決定された降坂制御の変速が実行されているときに降坂制御において設定された目標入力軸回転速度NIN3に実入力軸回転速度NINが到達したか否かが判定される。そして、図10のt時点にて、今回決定された降坂制御において設定された目標入力軸回転速度NIN3に実入力軸回転速度NINが到達したと判定されると、t時点にて各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が有るか否かが判定される。この図10のt時点では、各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が無いと判定され、図10のt時点から、降坂制御において設定された目標入力軸回転速度NIN3に基づいて変速制御される。
【0081】
一方、図11のt時点〜t時点では、今回決定されたブレーキングダウンシフト制御の変速が実行されているときにブレーキングダウンシフト制御において設定された目標入力軸回転速度NIN3に実入力軸回転速度NINが到達したか否かが判定される。そして、図11のt時点にて、今回決定されたブレーキングダウンシフト制御において設定された目標入力軸回転速度NIN3に実入力軸回転速度NINが到達したと判定されると、t時点にて各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が有るか否かが判定される。この図11のt時点では、各自設定された目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが未だ到達していない他の変速要求が無いと判定され、図11のt時点から、ブレーキングダウンシフト制御において設定された目標入力軸回転速度NIN3に基づいて変速制御される。
【0082】
このように、破線に示す従来制御では、全域で優先度の高い変速要求である最大変速比戻り制御において設定された変速速度a1を用いて変速制御が実行される為に、t時点以降に実行される他の変速要求においてはユーザの意図以上の急変速(急ダウンシフト)となり違和感を生じさせ、ドライバビリティを悪化させる要因となる。これに対して、本実施例では、最大変速比戻り制御において設定された目標入力軸回転速度NIN1まではその最大変速比戻り制御において設定された変速速度a1を用いるが、目標入力軸回転速度NIN1を超える目標入力軸回転速度NINまではその目標入力軸回転速度NINに対応した変速要求において設定された変速速度aが用いられることから、意図せぬ急変速による違和感が抑制される。また、変速速度aの切換えに際し、段階的でなく連続的に滑らかに変速速度aが変化させられるので、変速速度aが変化させられることによる違和感が抑制される。
【0083】
上述のように、本実施例によれば、変速制御手段152により、複数の変速要求が同時に発生した際、予め設定された優先度が最も高い変速要求における目標入力軸回転速度NINに到達するまではその優先度が最も高い変速要求における変速速度aを優先的に用いて変速制御が行われる一方で、優先度が最も高い変速要求における目標入力軸回転速度NINに到達したときに目標入力軸回転速度NINに未だ到達していない他の変速要求があるときは、その目標入力軸回転速度NINに未だ到達していない他の変速要求のうちで優先度がより高い変速要求における目標入力軸回転速度NINに到達するまではその優先度がより高い変速要求における変速速度aを用いて変速制御が行われるので、優先度が最も高い変速要求における変速制御が適切に実行されつつ、その優先度が最も高い変速要求における目標入力軸回転速度NINに到達したときに目標入力軸回転速度NINに未だ到達していない他の変速要求においても変速制御が適切に実行される。よって、複数の変速要求が同時に発生した際に、違和感を抑制したりドライバビリティを向上することができる。
【0084】
また、本実施例によれば、優先度がより高い変速要求における変速速度aへの切換えの際は、その切換え前後の各変速要求における各回転偏差ΔNIN、及び該各変速要求における各優先度をパラメータとした関数f(A)から切換え時の変速速度aCHが決定されるので、変速速度aの切換え前後の変速速度変化による違和感が抑制される。
【0085】
また、本実施例によれば、車両走行上の機能を保証する為の変速要求は、ドライバビリティ向上に関連する変速要求に比べて優先度が高く設定され、且つ変速速度aが早く設定されるので、車両走行上の機能を保証する為の変速要求を満たしつつ、意図せぬ早い変速による違和感を抑制したりドライバビリティの低下を抑制した適切な変速制御が可能となる。
【0086】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0087】
例えば、前述の実施例における関数f(A)は、車速関連値、路面勾配θ、及び運転者の出力要求量のうちの少なくとも1つの値をパラメータとして更に用いても良い。このようにすれば、変速速度aの切換え前後の変速速度変化による違和感を一層抑制することができる。上記車速関連値としては、例えば車速V、出力軸回転速度NOUT、減速歯車装置20の回転部材の回転速度、差動歯車装置22の回転部材の回転速度、駆動輪24L、24Rの回転速度などが用いられる。また、上記運転者の出力要求量としては、アクセル開度Acc、スロットル弁開度θTH、燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号などが用いられる。
【0088】
また、前述の実施例において、目標回転到達判定手段166は目標入力軸回転速度NINに実入力軸回転速度NINが到達したか否かを判定したが、目標入力軸回転速度NINに至るまでの変速過程における過渡的な目標値である過渡的な目標入力軸回転速度NINが目標入力軸回転速度NINに到達したか否かを判定しても良い。
【0089】
また、前述の実施例における入力軸回転速度NINやそれに関連する目標入力軸回転速度NINなどは、それら入力軸回転速度NINなどに替えて、エンジン回転速度Nやそれに関連する目標エンジン回転速度Nなど、タービン回転速度Nやそれに関連する目標タービン回転速度Nなど、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)やそれに関連する目標変速比γなど、変速比γを制御するための変数例えばプライマリ側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量やプライマリ圧Pinやそれらに関連する目標値など、シーブ位置やそれに関連する目標シーブ位置などであっても良い。従って、入力軸回転速度センサ56等の回転速度センサは、制御する必要がある回転速度に合わせて適宜備えられれば良い。尚、上記シーブ位置は、例えば変速比γが1であるときの可動回転体42bの位置を基準位置すなわちシーブ位置が零として、軸と平行方向におけるその基準位置からの可動回転体42bの絶対位置を表すものである。
【0090】
また、前述の実施例において、流体伝動装置としてロックアップクラッチ26が備えられているトルクコンバータ14が用いられていたが、ロックアップクラッチ26は必ずしも設けられなくてもよく、またトルクコンバータ14に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式動力伝達装置が用いられてもよい。
【0091】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】油圧制御回路のうち無段変速機のベルト挟圧力制御および変速比制御に関する要部を示す油圧回路図である。
【図4】無段変速機の変速制御において目標入力回転速度を求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図5】無段変速機の挟圧力制御において変速比等に応じて必要セカンダリ圧を求めるベルト挟圧力マップの一例を示す図である。
【図6】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】複数種類の変速要求の一例を変速要求毎に予め設定された優先度順に並べた図表である。
【図8】第1変速要求と第2変速要求が同時に発生した際の変速速度の切換えの一例を説明する図である。
【図9】電子制御装置の制御作動の要部すなわち複数の変速要求が同時に発生した際に変速速度を適切に設定する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図10】降坂制御とブレーキングダウンシフト制御と最大変速比戻り制御との複数の変速要求が同時に発生した際の一例を示すタイムチャートである。
【図11】降坂制御とブレーキングダウンシフト制御と最大変速比戻り制御との複数の変速要求が同時に発生した際の一例を示すタイムチャートであって、図10の別の実施例である。
【符号の説明】
【0093】
18:無段変速機
50:電子制御装置
152:変速制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標回転速度関連値及び変速速度が設定された変速要求に基づいて変速制御を実行する車両用無段変速機の制御装置であって、
複数種類の変速要求毎に変速制御に対する優先度が予め設定されており、
複数の変速要求が同時に発生した際、前記優先度が最も高い変速要求における目標回転速度関連値に到達するまでは該優先度が最も高い変速要求における変速速度を優先的に用いて変速制御を行う一方で、前記優先度が最も高い変速要求における目標回転速度関連値に到達したときに目標回転速度関連値に未だ到達していない他の変速要求があるときは、該目標回転速度関連値に未だ到達していない他の変速要求のうちで優先度がより高い変速要求における目標回転速度関連値に到達するまでは該優先度がより高い変速要求における変速速度を用いて変速制御を行う変速制御手段を含むことを特徴とする車両用無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記優先度がより高い変速要求における変速速度への切換えの際は、該切換え前後の変速要求における各目標回転速度関連値と実際の回転速度との回転速度偏差、及び該各変速要求における優先度をパラメータとした関数から該切換え時の変速速度を決定することを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記関数は、車速関連値、路面勾配値、及び運転者の出力要求量のうちの少なくとも1つの値をパラメータとして用いられることを特徴とする請求項2に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項4】
車両走行上の機能を保証する為の変速要求は、ドライバビリティ向上に関連する変速要求に比べて前記優先度が高く設定され、且つ前記変速速度が早く設定されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用無段変速機の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−53982(P2010−53982A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220375(P2008−220375)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】