車両用自動変速機の制御装置
【課題】変速制御手段(定速走行制御手段)130による制御の終了と登降坂変速制御手段134による制御の開始が同時になされるべき状況において、自動変速機16の高速段への移行を禁止し、両手段による制御を連続的に行うことができる車両用自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】路面の勾配に関する値を車両走行状態の値を用いて算出する勾配値算出手段140と、ブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定手段144と、変速制御手段130による変速制御中であってブレーキ操作が判定されるとブレーキ操作判定直前の路面勾配に関する値を登降坂変速制御手段134に出力し、登降坂変速制御を実行する登降坂変速実行手段136とを設ける。
【解決手段】路面の勾配に関する値を車両走行状態の値を用いて算出する勾配値算出手段140と、ブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定手段144と、変速制御手段130による変速制御中であってブレーキ操作が判定されるとブレーキ操作判定直前の路面勾配に関する値を登降坂変速制御手段134に出力し、登降坂変速制御を実行する登降坂変速実行手段136とを設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の自動変速機の制御装置、特に変速制御手段と登降坂変速制御手段との両方を備える自動変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動変速機の変速比が所定の変速比より高速側になることを禁止する変速制御手段を備えた自動変速機の制御装置が広く用いられている。例えば、クルーズコントロールと呼ばれる自動変速機の制御がそれである。クルーズコントロールにおいては、車両が定速走行することを維持することを目的として、スロットル開度を制御するのに併せて、駆動力の不足を防止すべく自動変速機の一部の高速段の使用を禁止するように自動変速機を制御することが行われる。そして、車両を制動するための常用ブレーキの操作(以下、単に「ブレーキ操作」とも記述する。)が行われた場合には、運転者の減速の意思であるとみなし、前記変速制御手段による自動変速機の制御は即座に終了させられる。
【0003】
一方、車両の走行状態の値を用いて路面勾配を算出し、算出した路面勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比の高速側への移行を禁止する登降坂変速制御が行われている。例えば、特許文献1に記載された発明がそれであり、路面の勾配が大きいときに、アップシフト側(高速側)への変速を抑制している。かかる登降坂変速制御において、たとえば車両が下り勾配を走行している場合には、運転者によるブレーキ操作を開始条件として、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止するように自動変速機を制御する降坂変速制御が行われる。すなわち、運転者によるブレーキ操作は、減速の意思であるとして、エンジンブレーキにより減速を行うため、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止するように自動変速機を制御する。
【0004】
【特許文献1】特開平7−332445号公報
【0005】
ここで、登降坂変速制御のためには、車両が走行する路面の勾配を把握することが必要であり、特許文献1においては、タイヤ半径、車両質量、車両の加速度、転がり抵抗および空気抵抗、出力トルクの値から算出することができるとしている。しかしながら、かかる方法は、車両が加速または定速走行している場合には有効であるものの、運転者のブレーキ操作による車両の減速走行中には車両の加速度は必ずしも車両のエンジンによって与えられる動力およびにおける重力の影響のみとはならないため、路面の勾配を正しく算出することはできないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の変速制御手段と登降坂変速制御手段は、ともに、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止することにより制御を実行するものであるから、一の自動変速機に対してそれら両方が備えられることが可能である。しかしながら、これらの変速制御手段と登降坂変速制御手段は、その目的が、変速制御手段のそれが車速を維持するためである一方、登降坂変速制御手段のそれは最適なエンジンブレーキを得るためのものであって相互に異なるから、その作用が互いに干渉しないようにする必要がある。そのため、一方の手段による制御の実行中は他方の制御は実行されない事とされている。
【0007】
図10は、このような前記変速制御手段と前記登降坂変速制御手段の両者を備える自動変速機の制御装置を有する車両が下り勾配の路面を前記変速制御手段により走行している場合において、運転者によるブレーキ操作が行われたことにより前記変速制御手段による制御が終了させられ、前記登降坂変速制御手段による制御に移行する様子を表したタイミングチャートである。以下、本タイミングチャートを参照しつつ説明する。尚、図中、丸で囲まれた数字は使用される変速段の変化を表している。
【0008】
このような前記変速制御手段と前記登降坂変速制御手段の両者を備える自動変速機の制御装置において、たとえば、車両が下り勾配の路面を前記変速制御手段により走行している場合において(t1〜t3)運転者によるブレーキ操作が行われた場合には、前記変速制御手段による制御は終了させられる(t3)。一方、前記登降坂変速制御手段の実行のための条件である、下り勾配の路面を走行中であること、およびブレーキ操作が行われたことが検出され、かつ、前記変速制御手段による制御が終了したのであるから、本来であれば前記変速制御手段の終了と同時に前記登降坂変速制御が開始されるべきところである。しかしながら、上述のように変速制御手段の実行中(t1〜t3)は登降坂変速制御手段は実行されていないことから、変速制御手段の終了時(t3)までには路面の勾配の算出はされておらず、また、変速制御手段の終了時(t3)には運転者によるブレーキ操作が行われており、そのブレーキ操作による車両の減速走行中(t3〜t4)には路面の勾配を正しく算出することはできず、下り勾配の斜面であると判断されないことから、前記登降坂変速制御手段による制御は開始されないという問題がある。
【0009】
さらにその後運転者によるブレーキ操作が解除され(t4)、前記登降坂変速制御手段が開始される場合には(t5)、自動変速機の一部の高速段(例えば第5〜6速段)の使用が禁止されることになる。上述のように、前記変速制御手段による制御中(t2〜t3)は、自動変速機の一部の高速側の変速段(例えば第4〜6速段)の使用が禁止される一方、前記変速制御手段による制御の終了後で、前記登降坂変速制御手段による制御が開始される前の間(t3〜t5)は、自動変速機の全ての変速段(例えば第1〜6速段)の使用が禁止されない。そのため、前記変速制御手段による制御の終了に伴って(t3)、自動変速機の変速段がそれまで禁止されていた高速側に変化し(第3速段→第6速段)、更にその後前記登降坂変速制御手段による制御の開始に伴って(t5)自動変速機の高速側の変速段の使用が禁止され、変速段が低速側に変化させられることとなり(第6速段→第4速段)、変速比のハンチングが生ずるという問題がある。
【0010】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、変速制御手段と登降坂変速制御手段の両手段を備える自動変速機の制御装置において、変速制御手段による制御の終了と登降坂制御変速手段による制御の開始が同時になされるべき状況において、自動変速機の高速段への移行を禁止し、両手段による制御を連続的に行うことができる自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる問題を解決するための本発明の要旨とするところは、(a)自動変速機の変速比が所定の変速比より高速側になることを禁止し、常用ブレーキ操作があったらその制御を解除する変速制御手段と、(b)登降坂路走行中に路面の勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比が所定の変速比よりも高速側になることを禁止する登降坂変速制御手段とを備える車両用自動変速機の制御装置において、(c)前記路面の勾配に関する値を算出する勾配値算出手段と、(d)前記ブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定手段と、(e)前記変速制御手段による変速制御中であって該ブレーキ操作判定手段によりブレーキ操作が判定されると、該ブレーキ操作判定の直前の路面勾配に関する値を登降坂変速制御手段に出力し、登降坂変速制御を実行させる登降坂変速実行手段とを設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このようにすれば、自動変速機において、登降坂路走行中にブレーキ操作により変速制御を解除した直後でも、ブレーキ操作直前の路面勾配に関する値を利用し登降坂変速制御が行われるため、ブレーキ操作後もスムーズに登降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0013】
ここで、好適には、前記変速制御手段は、車両の定速走行を維持するように前記自動変速機の変速比を制御する定速走行制御手段であることを特徴とする。
【0014】
このようにすれば、定速走行のための定速走行制御手段による制御をブレーキ操作によって解除した直後に登降坂変速制御手段による制御が行われる場合であっても、スムーズに登降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0015】
また、好適には、前記登降坂変速制御手段は、特に降坂路走行中に路面の勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比が所定の変速比よりも高速側になることを禁止する降坂変速制御手段であることを特徴とする.
【0016】
このようにすれば、運転者によるブレーキ操作が、変速制御手段による制御の解除のための操作と、降坂変速制御手段による制御の開始のための操作との両方に該当するような降坂路において、降坂路走行中にブレーキ操作により変速制御を解除した直後でも、ブレーキ操作直前の路面勾配に関する値を利用し降坂変速制御が行われるため、ブレーキ操作後にスムーズに降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用された車両用動力伝達装置10の構成を説明する骨子図である。図1において、たとえば内燃機関にて構成されている走行用駆動力源としてのエンジン12の出力は、流体式動力伝達装置としてのトルクコンバータ14を経て自動変速機16に入力され、図示しない差動歯車装置および車軸を介して駆動輪へ伝達されるようになっている。トルクコンバータ14は、エンジン12に連結されたポンプ翼車20と、自動変速機16の入力軸22に連結されたタービン翼車24と、一方向クラッチ28によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車30とを備えており、ポンプ翼車20とタービン翼車24との間で流体を介して動力伝達を行うとともに、ポンプ翼車20およびタービン翼車24の間を直結するためのロックアップクラッチ26を備えている。ロックアップクラッチ26は、係合側油室32内の油圧と解放側油室34内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合させられることにより、ポンプ翼車20およびタービン翼車24は一体回転させられる。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPすなわち係合トルクがフィードバック制御されることにより、車両の駆動(パワーオン)時には例えば50rpm程度の所定のスリップ量でタービン翼車24をポンプ翼車20に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には例えば−50rpm程度の所定のスリップ量でポンプ翼車20をタービン翼車24に対して追従回転させられる。
【0019】
自動変速機16は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置40、およびシングルピニオン型の第2遊星歯車装置42、第3遊星歯車装置44を備えている遊星歯車式の変速機で、第1遊星歯車装置40のサンギヤS1はクラッチC3を介して入力軸22に選択的に連結されるとともに、一方向クラッチF2およびブレーキB3を介してハウジング38に選択的に連結され、逆方向(入力軸22と反対方向)の回転が阻止されるようになっている。第1遊星歯車装置40のキャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジング38に選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられた一方向クラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止されるようになっている。第1遊星歯車装置40のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置42のリングギヤR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジング38に選択的に連結されるようになっている。第2遊星歯車装置42のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置44のサンギヤS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸22に選択的に連結されるとともに、一方向クラッチF0およびクラッチC1を介して入力軸22に選択的に連結され、その入力軸22に対して相対的に逆方向へ回転することが阻止されるようになっている。第2遊星歯車装置42のキャリアCA2は、第3遊星歯車装置44のリングギヤR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸22に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジング38に選択的に連結されるようになっており、更にブレーキB4と並列に設けられた一方向クラッチF3により、常に逆方向の回転が阻止されるようになっている。そして、第3遊星歯車装置44のキャリアCA3は、出力軸46に一体的に連結されている。
【0020】
上記クラッチC1〜C4、およびブレーキB1〜B4(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置で、油圧制御回路98(図3参照)のソレノイド弁Sol1〜Sol5、およびリニアソレノイド弁SL1、SL2の励磁、非励磁や図示しないマニュアルバルブによって油圧回路が切り換えられることにより、例えば図2に示すように係合、解放状態が切り換えられ、シフトレバー72(図4参照)の操作位置(ポジション)に応じて6つの前進変速段(1st〜6th)および1つの後進変速段(Rev)が成立させられる。図2の「1st」〜「6th」は前進の第1変速段〜第6変速段を意味しており、第1変速段「1st」から第6変速段「6th」へ向かうに従って変速比γ(=入力軸22の回転速度NIN/出力軸46の回転速度NOUT )は小さくなり、第4変速段「4th」の変速比は1.0である。また、図2において「○」は係合、空欄は解放を表し、「(○)」はエンジンブレーキ時の係合を表し、「●」は動力伝達に関与しない係合を表している。
【0021】
図3の油圧制御回路98は、上記変速用のソレノイド弁Sol1〜Sol5、リニアソレノイド弁SL1、SL2の他に、主にロックアップ油圧すなわち前記係合側油室32内の油圧と解放側油室34内の油圧との差圧ΔPを制御するリニアソレノイド弁SLU、主にライン油圧を制御するリニアソレノイド弁SLTを備えており、油圧制御回路98内の作動油は、ロックアップクラッチ26へも供給されるとともに、自動変速機16等の各部の潤滑にも使用される。
【0022】
図3は、図1のエンジン12や自動変速機16などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量であるアクセル開度Accがアクセル開度センサ51により検出されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル開度Accは出力要求量に相当する。エンジン12の吸気配管には、スロットルアクチュエータ54によってアクセル開度Accに応じた開き角すなわちスロットル開度θTHとされる電子スロットル弁56が設けられている。また、アイドル回転速度制御のために上記電子スロットル弁56をバイパスさせるバイパス通路52には、エンジン12のアイドル回転速度NEIDLを制御するために電子スロットル弁56の全閉時の吸気量を制御するISC(アイドル回転速度制御)バルブ53が設けられている。この他、エンジン12の回転速度NE を検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン12の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、上記電子スロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびそのスロットル開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速V(出力軸46の回転速度NOUT に対応)を検出するための車速センサ66、エンジン12の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキペダル69の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT (=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOIL を検出するためのAT油温センサ78、アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82、クルーズコントロールスイッチ132などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE 、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT 、AT油温TOIL 、変速レンジのアップ指令RUP、ダウン指令RDN、クルーズコントロールスイッチ132のメインスイッチのオン状態CONを表す信号、クルーズコントロールスイッチ132の車速セットスイッチのオン操作CSET を表す車速セット信号、クルーズコントロールスイッチ132の解除スイッチのオン操作CCAN を表すキャンセル信号よび設定車速VTなどを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。また、フットブレーキペダル69の操作時に車輪がロック(スリップ)しないようにブレーキ力を制御するABS(アンチロックブレーキシステム)84に接続され、ブレーキ力に対応するブレーキ油圧等に関する情報が供給されるようになっている。
【0023】
電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や自動変速機16の変速制御、ロックアップクラッチ26のロックアップクラッチ制御などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用と変速制御用とに分けて構成される。
【0024】
上記エンジン12の出力制御については、スロットルアクチュエータ54により電子スロットル弁56を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射弁92を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置94を制御し、アイドル回転速度制御のためにISCバルブ53を制御する。電子スロットル弁56の制御は、例えば図5に示す関係から実際のアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ54を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル開度θTHを増加させる。また、エンジン12の始動時には、スタータ(電動モータ)96によってエンジン12のクランク軸18をクランキングする。
【0025】
また、前記自動変速機14の変速制御については、図4に示すシフトレバー72のレバーポジションPSHに応じて、例えば図6に示す予め記憶された変速線図(変速マップ)を選択し、その変速線図から実際のスロットル開度θTHおよび車速Vに基づいて自動変速機16の変速すべきギヤ段を決定しすなわち現在のギヤ段から変速先のギヤ段への変速判断を実行し、その決定されたギヤ段への変速作動を開始させる変速出力を実行する。シフトレバー72は運転席の近傍に配設され、4つのレバーポジション「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、または「S(シーケンシャル)」へ手動操作されるようになっている。「R」ポジションは後進走行位置で、「N」ポジションは動力伝達遮断位置で、「D」ポジションは自動変速による前進走行位置で、「S」ポジションは変速可能な高速側の変速段が異なる複数の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行位置であり、シフトレバー72がどのレバーポジションへ操作されているかが前記レバーポジションセンサ74によって検出される。また、レバーポジション「R」、「N」、「D(S)」は車両の前後方向(図4の上方が車両前側)に沿って設けられており、シフトレバー72にケーブルやリンクなどを介して連結されたマニュアルバルブがシフトレバー72の前後操作に伴って機械的に作動させられることにより、油圧回路が切り換えられるようになっており、「R」ポジションではリバース用回路が機械的に成立させられるなどして図2に示す後進変速段「Rev」が成立させられ、「N」ポジションではニュートラル回路が機械的に成立させられて総てのクラッチCおよびブレーキBが解放される。
【0026】
また、前進走行位置である「D」ポジションまたは「S」ポジションへ操作された場合は、同じくシフトレバー72の操作に従ってマニュアルバルブにより油圧回路が切り換えられることにより前進用回路が機械的に成立させられ、前進変速段である第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」で変速しながら前進走行することが可能となる。シフトレバー72が「D」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断して自動変速モードを成立させ、第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の総ての前進変速段を用いて変速制御を行う。すなわち、駆動力変化などの変速ショックが発生したり摩擦材の耐久性が損なわれたりすることがないように、前記ソレノイド弁Sol1〜Sol5、およびリニアソレノイド弁SL1、SL2の励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、油圧制御回路98を切り換えて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の何れかの前進変速段を成立させるのである。図6の実線はアップシフト線で、破線はダウンシフト線であり、車速Vが低くなったりスロットル弁開度θTHが大きくなったりするに従って、変速比(=入力回転速度NIN/出力回転速度NOUT )が大きい低速側のギヤ段に切り換えられるようになっており、図中の「1」〜「6」は第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」を意味している。なお、第1変速段「1st」〜第4変速段「4th」では、一方向クラッチF0〜F3が係合されることによって各変速段が成立させられているので、車両の減速走行時にはニュートラル状態とならないように、エンジンブレーキ作用が得られるために図2に示した「(○)」に対応するクラッチC或いはブレーキB(以下エンジンブレーキ要素)を係合する。車両の減速走行時にエンジンブレーキ作用が得られることによって、車両の制動力が高められる一方で、上記ニュートラル状態となることで図示しない駆動輪と入力軸22が切り離された状態となりタービン回転速度NT とともにエンジン回転速度NE が一時的に低下させられないようにして、フューエルカット装置によるフューエルカット状態ができるだけ長く継続されてフューエルカットによる燃費効果が得られる。
【0027】
シフトレバー72が「S」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断してマニュアル変速モードを成立させる。「S」ポジションは、車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、油圧回路は「D」ポジションの時と同じであるが、「D」ポジションで変速可能な変速範囲内すなわち第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の間で定められた複数の変速レンジを任意に選択できるマニュアル変速モードを電気的に成立させるのである。「S」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「(+)」、およびダウンシフト位置「(−)」が設けられており、シフトレバー72がそれ等のアップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」へ操作されると、そのことが前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出され、アップ指令RUPやダウン指令RDNに従って最高速段すなわち変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる6つの変速レンジ「D」、「5」、「4」、「3」、「2」、「L」の何れかを電気的に成立させるとともに、各変速範囲内において例えば図6の変速マップに従って自動的に変速制御を行う。上記アップシフト位置「(+)」およびダウンシフト位置「(−)」は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジが変更される。
【0028】
図7は、前記電子制御装置90が備えている自動変速機16の制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、自動変速機16の制御装置は機能的に見て大きく分けて、クルーズ制御部と変速制御部に分かれる。クルーズ制御部は、本発明の変速制御手段に対応する定速走行制御手段130からなる。定速走行制御手段130は、運転者によるクルーズコントロールスイッチ132の操作によりクルーズモードが設定された場合に、クルーズモードの設定と共に設定された目標車速で車両を定速で走行させる。このとき、定速走行制御手段130は、スロットル開度θTHを変更することによりエンジントルクを増減させ車速Vを目標車速VT に追従させる。そして、スロットル開度θTHの変更のみでは車速Vを目標車速VT に追従させることが困難である場合には、自動変速機16の一部の高速側の変速段の使用を禁止する。すなわち、車両の駆動力またはエンジンブレーキ力を高めるために、現在走行している変速段を含めた高速側の変速段の使用を禁止することによって使用される変速段を下げ、車速を目標車速に追従させようとする。従って、定速走行制御手段130も、自動変速機の制御装置の一部を構成するといえる。
【0029】
なお、定速走行制御手段130は、クルーズモードが設定されている場合において、後述するブレーキ操作判定手段144においてブレーキ操作があったことが検出されると、即座にクルーズモードを終了する。すなわち定速走行制御手段130によって自動変速機の一部の高速側の変速段の使用が禁止され、使用する変速段が下げられていたが、これが解除され、例えば図6に示す変速線図に示されるような、通常の自動変速機の変速制御によって使用される変速段に戻される。これは、クルーズモードによる走行中における運転者のブレーキ操作は、運転者の減速の意思であるとみなされるためである。
【0030】
登降坂変速制御部は、登降坂変速制御手段134、登降坂変速実行手段136、記憶手段138、勾配値算出手段140、ブレーキ操作判定手段144などから構成される。ブレーキ操作判定手段144は、ブレーキスイッチ70からの信号により、前後輪を制動するために用いられる常用ブレーキを作動させるフットブレーキペダル69による制動操作の有無が検出される。
【0031】
勾配値算出手段140は、車両が走行する路面の勾配に関する値を逐次算出する。たとえば、図8に示すような車両の平坦路走行時おける各車速Vでのスロットル開度θTHN についての情報を各変速段ごとに予め記憶しておくとともに、実際の走行時の変速段におけるスロットル開度θTH、車速Vをそれぞれスロットル開度センサ64および車速センサ66によって検出し、検出した車速Vにおける前記平坦路走行時スロットル開度θTHN と実際のスロットル開度θTHを比較する。そして、例えば実際のスロットル開度θTHが平坦路走行時スロットル開度θTHN と比較してその前後5パーセント以内であれば(図8における斜線を付した領域にあれば)平坦路であると判断する一方、それ以上離れていた場合には勾配があると判断する。このとき、実際のスロットル開度θTHが前記平坦路走行時スロットル開度θTHN よりも大きい場合には(図8における斜線を付した領域よりも上にある場合には)登坂路と、また、実際のスロットル開度θTHが前記平坦路走行時スロットル開度θTHN よりも小さい場合には(図8における斜線を付した領域よりも下にある場合には)降坂路であると判断し、また、両者の差が大きいほど勾配が急であると判断する。具体的には例えば、実際のスロットル開度θTHと前記平坦路走行時スロットル開度θTHN の差の大きさと実際の勾配に関する値についての関係を事前に算出しておき記憶しておくことにより判断する。また、勾配に関する値とは、例えば単位radで表される、路面が水平と為す角度である。
【0032】
そして、この勾配値算出手段140は登降坂変速制御手段134が実行されていない領域において実行されるようにされている。すなわち、勾配値算出手段140によって算出された路面の勾配に関する値(勾配値)は後述する登降坂変速実行手段136によって登降坂変速制御手段134の実行のために用いられることから、登降坂変速制御手段134の実行中に実行される必要はないためである。したがって、定速走行制御手段130の実行中にも勾配値算出手段140は実行されることとなるが、勾配値算出手段140そのものは自動変速機の変速制御をするものではなく、定速走行制御手段130による制御と干渉し合う性質のものではないため、両者が同時に実行されることは可能である。
【0033】
記憶手段138は、勾配値算出手段140が逐次算出した勾配に関する値が、例えば予め定められた所定期間の間記憶される。記憶手段138に記憶された勾配値は、後述する登降坂変速実行手段136が実行されるときに用いられる。前記所定期間とは、例えば、勾配値算出手段140によって新たに勾配値が算出されるまでの間である。
【0034】
登降坂変速制御手段134は、勾配値算出手段140によって算出された勾配値により車両が予め定められた所定値より急な勾配である路面を降坂していると判断された場合であって、ブレーキ操作判定手段144により、運転者によるフットブレーキペダル69の操作があったと判定された場合には、自動変速機16の一部の高速段の使用を禁止する。すなわち、自動変速機16の一部の高速段の使用を禁止することにより、降坂走行する場合のエンジンブレーキ力又はトルク(駆動力)不足を防止することが可能となる。
【0035】
登降坂変速実行手段136は、登降坂変速制御手段134による制御の開始条件の一つである、変速制御手段に対応する定速走行制御手段130による変速制御中であってブレーキ操作判定手段144によるフットブレーキペダル69が操作されたことの検出があった場合において、前記ブレーキ操作判定手段144がブレーキ操作があったと判定する直前に勾配値算出手段140が算出し、記憶手段138が記憶していた値を、車両が走行している路面の勾配の判断に用いる値として用いて登降坂変速制御手段134に登降坂変速制御を行うか否かの判断を行わせる。
【0036】
すなわち、登降坂変速制御手段134単独による制御は、本来であれば車両が登降坂変速制御手段134の実行中において、降坂路を走行中にフットブレーキペダル69が操作されたことが検出されたことにより、降坂制御を実行するが、登降坂変速実行手段136により、フットブレーキペダル69が操作されたことが検出された直前、すなわち登降坂変速手段134の実行開始前において勾配値算出手段140が算出し、記憶手段138が記憶していた値を使用して登降坂変速制御を行うか否かの判断を行うこととなる。その結果、登降坂変速制御手段134の実行直後から登降坂変速制御による自動変速機16の変速制御が可能となる。
【0037】
図9は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートである。以下、本発明の自動変速機の制御装置90の作動の様子を本フローチャートの各ステップごとに説明する。変速制御手段である定速走行制御手段130に対応するステップ(以下「ステップ」を省略する。)SA1では、運転者によりクルーズコントロールスイッチ132が操作されることにより、クルーズモードとなっているか否かが判断される。本判断が肯定される場合には、当該車両の自動変速機16は定速走行制御手段130により制御される、いわゆるクルーズモードで走行しているとしてSA2以降のステップが実行される。一方、本判断が否定された場合には、たとえば図6に示す変速線図に従うような通常の自動変速が行われており、本発明の自動変速機の制御装置を適用する必要がないとして本フローチャートは終了させられる。
【0038】
勾配値算出手段140および記憶手段138に対応するSA2においては、クルーズモードで走行する車両の路面の勾配に関する値が算出され、記憶される。このとき、後述するSA5においてクルーズモードが解除されたか否かが判断され、クルーズモードが解除されないと判断された場合には再度SA2〜SA4のステップが反復されることとなるが、SA2において記憶される路面の勾配に関する値は、少なくとも反復の1回分が記憶されていればよい。(次の反復によりSA2が実行される場合には、その新しい値が記憶されると共に、前回の値は破棄されてよい。)
【0039】
続くSA3およびSA4は定速走行制御手段130に対応する。SA3においては、定速走行制御手段130がクルーズコントロールスイッチ132で設定された設定車速VTで車両を定速走行させる際に、スロットル開度θTHの調節のみで制御可能か否かが判断され、スロットル開度θTHによる調節のみでは十分な制御ができないと判断された場合には、SA4が実行される。一方、スロットル開度θTHのみで十分な制御ができると判断された場合には、SA4が実行されることなくSA5が実行される。
【0040】
SA4においては、定速走行制御手段130がクルーズコントロールスイッチ132で設定された設定車速VTで車両を定速走行させる際に、スロットル開度θTHの調節のみでは十分な車速の維持ができないと判断された場合において、自動変速機16の変速段が1段下げられ、駆動力が上げられる。
【0041】
定速走行制御手段130に対応するSA5においては、運転者によるブレーキ操作がブレーキ操作判定手段144により判定されたことによりクルーズモードが解除されたかが判定される。クルーズモードは運転者によるクルーズコントロールスイッチ132の操作やフットブレーキペダル69の操作によって解除されるが、本ステップにおいては、フットブレーキペダル69の操作によって解除された場合のみ、判断が肯定され、続くSA6以降が実行される一方、その他の方法によって解除された場合や、解除されなかった場合にはSA2に戻り、再度SA2〜SA5のステップが繰り返される。
【0042】
登降坂変速実行手段136および登降坂変速制御手段134に相当するSA6においては、SA5においてクルーズモードが解除された直後において、降坂制御を行う必要があるか否かが判断される。具体的には、SA5においてなされたと判断されたブレーキ操作の直前において、SA2において算出され、記憶されていた路面の勾配値がとりだされ、降坂制御が行われるか否かの判断がされる。すなわち、本来であれば、ブレーキ操作がなされたとき、あるいは直後の路面の勾配値をもとに降坂制御が行われるか否かの判断が行われるところ、本ステップにおいては、ブレーキ操作が行われる直前において検出され、記憶されていた降坂値を用いて降坂制御が行われるかの判断が行われるのである。そして、その判断が肯定された場合には続くSA7が実行され、否定された場合には、そのまま本フローチャートは終了させられる。
【0043】
登降坂変速制御手段134に相当するSA7は、前記SA6において降坂制御が行われるとの判断がなされた場合において実行され、降坂制御、すなわち、自動変速機16の高速段の使用が禁止される。具体的には、禁止される変速段で車両が走行している場合には前記禁止される変速段より下の変速段となるようにシフトダウンが行われ、また、禁止される変速段よりも下の変速段で既に走行している場合には、前記禁止される変速段へのシフトアップが禁止される。
【0044】
図11は、電子制御装置90が適用された車両が降坂路を走行する場合における、定速走行制御手段130による制御から登降坂変速制御手段136による制御への移行の様子を示すタイミングチャートである。尚、図中、丸で囲まれた数字は使用される変速段の変化を表している。
【0045】
時刻t11において、車両は降坂路を走行しており、既に開始されている登降坂変速制御手段134により降坂変速制御が実行されている。降坂変速制御の内容は、上述の通り、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止するものである。このとき、変速制御手段である定速走行制御手段130はスイッチがオフの状態とされ、実行されていない。
【0046】
時刻t12において、運転者によりクルーズコントロールスイッチ132がオンにされ、定速走行制御手段130が実行され、クルーズモードが実行される。定速走行制御手段130は、車速Vを目標車速VTに追従させるべく、スロットル開度θTHを制御する。このとき、定速走行制御手段130と登降坂変速制御手段134とは、その効果が干渉しないよう排他的に実行されるため、定速走行制御手段130が実行されるのと同時に、登降坂変速制御手段134は終了させられる。
【0047】
一方、登降坂変速制御手段134が終了させられたのと同時に、勾配値算出手段140が起動される。勾配値算出手段140は、走行中の変速段、車速V、およびスロットル開度θTHから路面の勾配値を算出し、記憶手段138に記憶させる。
【0048】
時刻t13においては、定速走行制御手段130は、スロットル開度θTHの制御のみでは車速Vを目標車速VTに追従させることが困難であると判断し、スロットル開度θTHの制御に加え、自動変速機の制御を行う。具体的には上述のように、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止することにより、シフトダウンを行う。本タイミングチャートにおいては、例えば、車両が時刻t13まで第4速段で走行していた場合において、第4速段〜第6速段の使用を禁止することにより、第3速段へシフトダウンさせる。
【0049】
時刻t14においては、定速走行制御手段130による制御の実行中であって運転者によりフットブレーキペダル69が操作されたことがブレーキ操作判定手段144により判定され、定速走行制御手段130は終了させられる。一方、このブレーキ操作を受け、登降坂変速実行手段136は、運転者によるブレーキ操作の直前に勾配値算出手段140により算出され、記憶手段138に記憶されていた勾配値を登降坂変速制御手段134に渡し、このブレーキ操作直前の勾配値により登降坂変速制御手段134に降坂制御を行うか否かの判断を行わせる。このとき、ブレーキ操作直前の勾配値は路面の勾配が降坂制御を行うべき値であったことから、登降坂変速制御手段134は時刻t14にされたブレーキ操作を開始条件として降坂制御を行うと判断し、これを実行する。ここで、降坂制御の内容は自動変速機16の一部の高速段(たとえば第5速段〜第6速段)の使用を禁止するものである。
【0050】
以上の登降坂変速制御手段134による判断が、定速走行制御手段130の終了を受けて高速段(第4速段〜第6速段)の使用の禁止の解除の実行がされる前に完了することにより、時刻t14においては、定速走行制御手段130による制御に基づく第3速段から、登降坂変速制御手段134による降坂制御に基づく第4速段へ移行することができる。すなわち、図10のt3〜t5の場合のように、定速走行制御手段130による制御の終了に基づき一旦全変速段の使用が禁止されない状態になり、高速段へ移行した後、登降坂変速制御手段134による降坂制御が開始されシフトダウンが行われ、変速段(変速比)のハンチングが生ずることがない。
【0051】
本実施例によれば、自動変速機16において、登降坂路走行中にブレーキ操作により定速走行制御手段130による制御を解除した直後でも、勾配値算出手段140によって算出され、記憶手段138によって記憶されたブレーキ操作直前の路面勾配に関する値を利用して登降坂変速実行手段136によって登降坂変速制御手段134が実行されるため、ブレーキ操作の直後であっても登降坂変速制御を行うことができることから、ブレーキ操作後にスムーズに登降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0052】
また、本実施例によれば、定速走行のための定速走行制御手段130による制御をブレーキ操作によって解除した直後に登降坂変速制御手段134による制御が行われる場合であっても、スムーズに登降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0053】
また、本実施例によれば、運転者によるブレーキ操作が、定速走行制御手段130による制御の解除のための操作と、降坂変速制御手段136による制御の開始のための操作との両方に該当するような降坂路において、降坂路走行中にブレーキ操作により変速制御を解除した直後でも、ブレーキ操作直前の路面勾配に関する値を利用し降坂変速制御が行われるため、ブレーキ操作後にスムーズに降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0054】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0055】
例えば、本実施例において自動変速機16は図1に示されるような有段式の自動変速機が用いられたが、これに限られず、例えば、ベルト式無段変速機、トロイダル式無段変速機のような無段変速機(CVT)であってもよい。この場合、実施例中、「変速段を上げる」「変速段を下げる」との記載は「変速比を下げる」「変速比を上げる」とそれぞれ読み替えればよい。
【0056】
また、上述の実施例においては、シフトレバー72は図4に示されるようないわゆるフロアシフトと呼ばれる形式のものが用いられたが、これに限られず、例えば、ハンドルを支持するように配置されたステアリングコラム部に設けられるいわゆるコラムシフトと呼ばれる形式のものであってもよい。
【0057】
また、上述の実施例においては、車両が降坂路を走行する場合を例示したが、登坂路を走行する場合であっても本発明は同様に適用可能である。登坂路においては、登降坂変速制御手段134は、例えば、勾配値算出手段140によって算出された勾配値により、車両が予め定められた所定値より急な勾配である路面を登坂していると判断された場合であって、ブレーキ操作判定手段144により、運転者による急激なアクセル操作が行われ自動変速機の変速段が一段下げられる、いわゆるキックダウン操作があったと判定された場合に実行されることから、例えば、クルーズモード中に運転者によるブレーキ操作によりクルーズモードが解除された直後に、キックダウンによって登坂制御が開始されるような場合が該当する。
【0058】
また、上述の実施例においては、路面の勾配に関する値として、路面の勾配を角度で表した値を勾配値としたが、これに限られず、例えば、単位パーミルで表されるような値を勾配に関する値としてもよい。
【0059】
また、上述のフローチャートにおけるSA2においては、記憶される勾配値は反復1回分としたが、これに限られず、複数の値が記憶されることもできる。この場合、SA6においては、前記記憶された複数の勾配値に基づいて、降坂変速制御を行うか否かの判断がされることもできる。
【0060】
また、SA4においては、スロットル開度θTHの調節のみでは十分な車速の維持ができないと判断された場合において、自動変速機16の変速段が1段下げられるとしたが、このとき下げられる変速段は1段に限られず、必要に応じて複数段であってもよい。
【0061】
また、本実施例においては、定速走行制御手段を変速制御手段としたが、自動変速比の変速比が所定の変速比より高速側になることを禁止し、ブレーキ操作があったら制御を解除する性質を有する制御手段であれば、これに限られない。
【0062】
また、本実施例においては、勾配値算出手段140は、車両の使用する変速段、車速、スロットル開度から算出したが、これに限られず他の方法、例えば加速度センサなどによってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明が適用された自動変速機を含む動力伝達装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の自動変速機の各ギヤ段を成立させるためのクラッチおよびブレーキの係合、解放状態を説明する図である。
【図3】図1の実施例の車両に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図4】図3のシフトレバーを具体的に示す斜視図である。
【図5】図3の電子制御装置によって行われるスロットル制御で用いられるアクセル開度Accとスロットル弁開度θTHとの関係の一例を示す図である。
【図6】図3の電子制御装置によって行われる自動変速機の変速制御で用いられる変速線図(マップ)の一例を示す図である。
【図7】図3の電子制御装置が備えている制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】図7の勾配算出手段における勾配の算出方法を説明した図である。
【図9】図3の電子制御装置の制御機能の要部すなわち車両に備えられた自動変速機の制御装置の作動を説明するフローチャートである。
【図10】従来における、車両の降坂路の走行中に、変速制御手段である定速走行制御手段による制御から登降坂変速制御手段による制御への移行の様子を示すタイミングチャートである。
【図11】本発明を適用した場合における、車両の降坂路の走行中に、変速制御手段である定速走行制御手段による制御から登降坂変速制御手段による制御への移行の様子を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0064】
16:自動変速機
90:自動変速機の制御装置
130:変速制御手段(定速走行制御手段)
134:登降坂変速制御手段
136:登降坂変速実行手段
140:勾配値算出手段
144:ブレーキ操作判定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の自動変速機の制御装置、特に変速制御手段と登降坂変速制御手段との両方を備える自動変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動変速機の変速比が所定の変速比より高速側になることを禁止する変速制御手段を備えた自動変速機の制御装置が広く用いられている。例えば、クルーズコントロールと呼ばれる自動変速機の制御がそれである。クルーズコントロールにおいては、車両が定速走行することを維持することを目的として、スロットル開度を制御するのに併せて、駆動力の不足を防止すべく自動変速機の一部の高速段の使用を禁止するように自動変速機を制御することが行われる。そして、車両を制動するための常用ブレーキの操作(以下、単に「ブレーキ操作」とも記述する。)が行われた場合には、運転者の減速の意思であるとみなし、前記変速制御手段による自動変速機の制御は即座に終了させられる。
【0003】
一方、車両の走行状態の値を用いて路面勾配を算出し、算出した路面勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比の高速側への移行を禁止する登降坂変速制御が行われている。例えば、特許文献1に記載された発明がそれであり、路面の勾配が大きいときに、アップシフト側(高速側)への変速を抑制している。かかる登降坂変速制御において、たとえば車両が下り勾配を走行している場合には、運転者によるブレーキ操作を開始条件として、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止するように自動変速機を制御する降坂変速制御が行われる。すなわち、運転者によるブレーキ操作は、減速の意思であるとして、エンジンブレーキにより減速を行うため、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止するように自動変速機を制御する。
【0004】
【特許文献1】特開平7−332445号公報
【0005】
ここで、登降坂変速制御のためには、車両が走行する路面の勾配を把握することが必要であり、特許文献1においては、タイヤ半径、車両質量、車両の加速度、転がり抵抗および空気抵抗、出力トルクの値から算出することができるとしている。しかしながら、かかる方法は、車両が加速または定速走行している場合には有効であるものの、運転者のブレーキ操作による車両の減速走行中には車両の加速度は必ずしも車両のエンジンによって与えられる動力およびにおける重力の影響のみとはならないため、路面の勾配を正しく算出することはできないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の変速制御手段と登降坂変速制御手段は、ともに、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止することにより制御を実行するものであるから、一の自動変速機に対してそれら両方が備えられることが可能である。しかしながら、これらの変速制御手段と登降坂変速制御手段は、その目的が、変速制御手段のそれが車速を維持するためである一方、登降坂変速制御手段のそれは最適なエンジンブレーキを得るためのものであって相互に異なるから、その作用が互いに干渉しないようにする必要がある。そのため、一方の手段による制御の実行中は他方の制御は実行されない事とされている。
【0007】
図10は、このような前記変速制御手段と前記登降坂変速制御手段の両者を備える自動変速機の制御装置を有する車両が下り勾配の路面を前記変速制御手段により走行している場合において、運転者によるブレーキ操作が行われたことにより前記変速制御手段による制御が終了させられ、前記登降坂変速制御手段による制御に移行する様子を表したタイミングチャートである。以下、本タイミングチャートを参照しつつ説明する。尚、図中、丸で囲まれた数字は使用される変速段の変化を表している。
【0008】
このような前記変速制御手段と前記登降坂変速制御手段の両者を備える自動変速機の制御装置において、たとえば、車両が下り勾配の路面を前記変速制御手段により走行している場合において(t1〜t3)運転者によるブレーキ操作が行われた場合には、前記変速制御手段による制御は終了させられる(t3)。一方、前記登降坂変速制御手段の実行のための条件である、下り勾配の路面を走行中であること、およびブレーキ操作が行われたことが検出され、かつ、前記変速制御手段による制御が終了したのであるから、本来であれば前記変速制御手段の終了と同時に前記登降坂変速制御が開始されるべきところである。しかしながら、上述のように変速制御手段の実行中(t1〜t3)は登降坂変速制御手段は実行されていないことから、変速制御手段の終了時(t3)までには路面の勾配の算出はされておらず、また、変速制御手段の終了時(t3)には運転者によるブレーキ操作が行われており、そのブレーキ操作による車両の減速走行中(t3〜t4)には路面の勾配を正しく算出することはできず、下り勾配の斜面であると判断されないことから、前記登降坂変速制御手段による制御は開始されないという問題がある。
【0009】
さらにその後運転者によるブレーキ操作が解除され(t4)、前記登降坂変速制御手段が開始される場合には(t5)、自動変速機の一部の高速段(例えば第5〜6速段)の使用が禁止されることになる。上述のように、前記変速制御手段による制御中(t2〜t3)は、自動変速機の一部の高速側の変速段(例えば第4〜6速段)の使用が禁止される一方、前記変速制御手段による制御の終了後で、前記登降坂変速制御手段による制御が開始される前の間(t3〜t5)は、自動変速機の全ての変速段(例えば第1〜6速段)の使用が禁止されない。そのため、前記変速制御手段による制御の終了に伴って(t3)、自動変速機の変速段がそれまで禁止されていた高速側に変化し(第3速段→第6速段)、更にその後前記登降坂変速制御手段による制御の開始に伴って(t5)自動変速機の高速側の変速段の使用が禁止され、変速段が低速側に変化させられることとなり(第6速段→第4速段)、変速比のハンチングが生ずるという問題がある。
【0010】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、変速制御手段と登降坂変速制御手段の両手段を備える自動変速機の制御装置において、変速制御手段による制御の終了と登降坂制御変速手段による制御の開始が同時になされるべき状況において、自動変速機の高速段への移行を禁止し、両手段による制御を連続的に行うことができる自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる問題を解決するための本発明の要旨とするところは、(a)自動変速機の変速比が所定の変速比より高速側になることを禁止し、常用ブレーキ操作があったらその制御を解除する変速制御手段と、(b)登降坂路走行中に路面の勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比が所定の変速比よりも高速側になることを禁止する登降坂変速制御手段とを備える車両用自動変速機の制御装置において、(c)前記路面の勾配に関する値を算出する勾配値算出手段と、(d)前記ブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定手段と、(e)前記変速制御手段による変速制御中であって該ブレーキ操作判定手段によりブレーキ操作が判定されると、該ブレーキ操作判定の直前の路面勾配に関する値を登降坂変速制御手段に出力し、登降坂変速制御を実行させる登降坂変速実行手段とを設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このようにすれば、自動変速機において、登降坂路走行中にブレーキ操作により変速制御を解除した直後でも、ブレーキ操作直前の路面勾配に関する値を利用し登降坂変速制御が行われるため、ブレーキ操作後もスムーズに登降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0013】
ここで、好適には、前記変速制御手段は、車両の定速走行を維持するように前記自動変速機の変速比を制御する定速走行制御手段であることを特徴とする。
【0014】
このようにすれば、定速走行のための定速走行制御手段による制御をブレーキ操作によって解除した直後に登降坂変速制御手段による制御が行われる場合であっても、スムーズに登降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0015】
また、好適には、前記登降坂変速制御手段は、特に降坂路走行中に路面の勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比が所定の変速比よりも高速側になることを禁止する降坂変速制御手段であることを特徴とする.
【0016】
このようにすれば、運転者によるブレーキ操作が、変速制御手段による制御の解除のための操作と、降坂変速制御手段による制御の開始のための操作との両方に該当するような降坂路において、降坂路走行中にブレーキ操作により変速制御を解除した直後でも、ブレーキ操作直前の路面勾配に関する値を利用し降坂変速制御が行われるため、ブレーキ操作後にスムーズに降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用された車両用動力伝達装置10の構成を説明する骨子図である。図1において、たとえば内燃機関にて構成されている走行用駆動力源としてのエンジン12の出力は、流体式動力伝達装置としてのトルクコンバータ14を経て自動変速機16に入力され、図示しない差動歯車装置および車軸を介して駆動輪へ伝達されるようになっている。トルクコンバータ14は、エンジン12に連結されたポンプ翼車20と、自動変速機16の入力軸22に連結されたタービン翼車24と、一方向クラッチ28によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車30とを備えており、ポンプ翼車20とタービン翼車24との間で流体を介して動力伝達を行うとともに、ポンプ翼車20およびタービン翼車24の間を直結するためのロックアップクラッチ26を備えている。ロックアップクラッチ26は、係合側油室32内の油圧と解放側油室34内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合させられることにより、ポンプ翼車20およびタービン翼車24は一体回転させられる。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPすなわち係合トルクがフィードバック制御されることにより、車両の駆動(パワーオン)時には例えば50rpm程度の所定のスリップ量でタービン翼車24をポンプ翼車20に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には例えば−50rpm程度の所定のスリップ量でポンプ翼車20をタービン翼車24に対して追従回転させられる。
【0019】
自動変速機16は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置40、およびシングルピニオン型の第2遊星歯車装置42、第3遊星歯車装置44を備えている遊星歯車式の変速機で、第1遊星歯車装置40のサンギヤS1はクラッチC3を介して入力軸22に選択的に連結されるとともに、一方向クラッチF2およびブレーキB3を介してハウジング38に選択的に連結され、逆方向(入力軸22と反対方向)の回転が阻止されるようになっている。第1遊星歯車装置40のキャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジング38に選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられた一方向クラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止されるようになっている。第1遊星歯車装置40のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置42のリングギヤR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジング38に選択的に連結されるようになっている。第2遊星歯車装置42のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置44のサンギヤS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸22に選択的に連結されるとともに、一方向クラッチF0およびクラッチC1を介して入力軸22に選択的に連結され、その入力軸22に対して相対的に逆方向へ回転することが阻止されるようになっている。第2遊星歯車装置42のキャリアCA2は、第3遊星歯車装置44のリングギヤR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸22に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジング38に選択的に連結されるようになっており、更にブレーキB4と並列に設けられた一方向クラッチF3により、常に逆方向の回転が阻止されるようになっている。そして、第3遊星歯車装置44のキャリアCA3は、出力軸46に一体的に連結されている。
【0020】
上記クラッチC1〜C4、およびブレーキB1〜B4(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置で、油圧制御回路98(図3参照)のソレノイド弁Sol1〜Sol5、およびリニアソレノイド弁SL1、SL2の励磁、非励磁や図示しないマニュアルバルブによって油圧回路が切り換えられることにより、例えば図2に示すように係合、解放状態が切り換えられ、シフトレバー72(図4参照)の操作位置(ポジション)に応じて6つの前進変速段(1st〜6th)および1つの後進変速段(Rev)が成立させられる。図2の「1st」〜「6th」は前進の第1変速段〜第6変速段を意味しており、第1変速段「1st」から第6変速段「6th」へ向かうに従って変速比γ(=入力軸22の回転速度NIN/出力軸46の回転速度NOUT )は小さくなり、第4変速段「4th」の変速比は1.0である。また、図2において「○」は係合、空欄は解放を表し、「(○)」はエンジンブレーキ時の係合を表し、「●」は動力伝達に関与しない係合を表している。
【0021】
図3の油圧制御回路98は、上記変速用のソレノイド弁Sol1〜Sol5、リニアソレノイド弁SL1、SL2の他に、主にロックアップ油圧すなわち前記係合側油室32内の油圧と解放側油室34内の油圧との差圧ΔPを制御するリニアソレノイド弁SLU、主にライン油圧を制御するリニアソレノイド弁SLTを備えており、油圧制御回路98内の作動油は、ロックアップクラッチ26へも供給されるとともに、自動変速機16等の各部の潤滑にも使用される。
【0022】
図3は、図1のエンジン12や自動変速機16などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量であるアクセル開度Accがアクセル開度センサ51により検出されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル開度Accは出力要求量に相当する。エンジン12の吸気配管には、スロットルアクチュエータ54によってアクセル開度Accに応じた開き角すなわちスロットル開度θTHとされる電子スロットル弁56が設けられている。また、アイドル回転速度制御のために上記電子スロットル弁56をバイパスさせるバイパス通路52には、エンジン12のアイドル回転速度NEIDLを制御するために電子スロットル弁56の全閉時の吸気量を制御するISC(アイドル回転速度制御)バルブ53が設けられている。この他、エンジン12の回転速度NE を検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン12の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、上記電子スロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびそのスロットル開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速V(出力軸46の回転速度NOUT に対応)を検出するための車速センサ66、エンジン12の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキペダル69の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT (=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOIL を検出するためのAT油温センサ78、アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82、クルーズコントロールスイッチ132などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE 、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT 、AT油温TOIL 、変速レンジのアップ指令RUP、ダウン指令RDN、クルーズコントロールスイッチ132のメインスイッチのオン状態CONを表す信号、クルーズコントロールスイッチ132の車速セットスイッチのオン操作CSET を表す車速セット信号、クルーズコントロールスイッチ132の解除スイッチのオン操作CCAN を表すキャンセル信号よび設定車速VTなどを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。また、フットブレーキペダル69の操作時に車輪がロック(スリップ)しないようにブレーキ力を制御するABS(アンチロックブレーキシステム)84に接続され、ブレーキ力に対応するブレーキ油圧等に関する情報が供給されるようになっている。
【0023】
電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や自動変速機16の変速制御、ロックアップクラッチ26のロックアップクラッチ制御などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用と変速制御用とに分けて構成される。
【0024】
上記エンジン12の出力制御については、スロットルアクチュエータ54により電子スロットル弁56を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射弁92を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置94を制御し、アイドル回転速度制御のためにISCバルブ53を制御する。電子スロットル弁56の制御は、例えば図5に示す関係から実際のアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ54を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル開度θTHを増加させる。また、エンジン12の始動時には、スタータ(電動モータ)96によってエンジン12のクランク軸18をクランキングする。
【0025】
また、前記自動変速機14の変速制御については、図4に示すシフトレバー72のレバーポジションPSHに応じて、例えば図6に示す予め記憶された変速線図(変速マップ)を選択し、その変速線図から実際のスロットル開度θTHおよび車速Vに基づいて自動変速機16の変速すべきギヤ段を決定しすなわち現在のギヤ段から変速先のギヤ段への変速判断を実行し、その決定されたギヤ段への変速作動を開始させる変速出力を実行する。シフトレバー72は運転席の近傍に配設され、4つのレバーポジション「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、または「S(シーケンシャル)」へ手動操作されるようになっている。「R」ポジションは後進走行位置で、「N」ポジションは動力伝達遮断位置で、「D」ポジションは自動変速による前進走行位置で、「S」ポジションは変速可能な高速側の変速段が異なる複数の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行位置であり、シフトレバー72がどのレバーポジションへ操作されているかが前記レバーポジションセンサ74によって検出される。また、レバーポジション「R」、「N」、「D(S)」は車両の前後方向(図4の上方が車両前側)に沿って設けられており、シフトレバー72にケーブルやリンクなどを介して連結されたマニュアルバルブがシフトレバー72の前後操作に伴って機械的に作動させられることにより、油圧回路が切り換えられるようになっており、「R」ポジションではリバース用回路が機械的に成立させられるなどして図2に示す後進変速段「Rev」が成立させられ、「N」ポジションではニュートラル回路が機械的に成立させられて総てのクラッチCおよびブレーキBが解放される。
【0026】
また、前進走行位置である「D」ポジションまたは「S」ポジションへ操作された場合は、同じくシフトレバー72の操作に従ってマニュアルバルブにより油圧回路が切り換えられることにより前進用回路が機械的に成立させられ、前進変速段である第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」で変速しながら前進走行することが可能となる。シフトレバー72が「D」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断して自動変速モードを成立させ、第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の総ての前進変速段を用いて変速制御を行う。すなわち、駆動力変化などの変速ショックが発生したり摩擦材の耐久性が損なわれたりすることがないように、前記ソレノイド弁Sol1〜Sol5、およびリニアソレノイド弁SL1、SL2の励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、油圧制御回路98を切り換えて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の何れかの前進変速段を成立させるのである。図6の実線はアップシフト線で、破線はダウンシフト線であり、車速Vが低くなったりスロットル弁開度θTHが大きくなったりするに従って、変速比(=入力回転速度NIN/出力回転速度NOUT )が大きい低速側のギヤ段に切り換えられるようになっており、図中の「1」〜「6」は第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」を意味している。なお、第1変速段「1st」〜第4変速段「4th」では、一方向クラッチF0〜F3が係合されることによって各変速段が成立させられているので、車両の減速走行時にはニュートラル状態とならないように、エンジンブレーキ作用が得られるために図2に示した「(○)」に対応するクラッチC或いはブレーキB(以下エンジンブレーキ要素)を係合する。車両の減速走行時にエンジンブレーキ作用が得られることによって、車両の制動力が高められる一方で、上記ニュートラル状態となることで図示しない駆動輪と入力軸22が切り離された状態となりタービン回転速度NT とともにエンジン回転速度NE が一時的に低下させられないようにして、フューエルカット装置によるフューエルカット状態ができるだけ長く継続されてフューエルカットによる燃費効果が得られる。
【0027】
シフトレバー72が「S」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断してマニュアル変速モードを成立させる。「S」ポジションは、車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、油圧回路は「D」ポジションの時と同じであるが、「D」ポジションで変速可能な変速範囲内すなわち第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の間で定められた複数の変速レンジを任意に選択できるマニュアル変速モードを電気的に成立させるのである。「S」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「(+)」、およびダウンシフト位置「(−)」が設けられており、シフトレバー72がそれ等のアップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」へ操作されると、そのことが前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出され、アップ指令RUPやダウン指令RDNに従って最高速段すなわち変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる6つの変速レンジ「D」、「5」、「4」、「3」、「2」、「L」の何れかを電気的に成立させるとともに、各変速範囲内において例えば図6の変速マップに従って自動的に変速制御を行う。上記アップシフト位置「(+)」およびダウンシフト位置「(−)」は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジが変更される。
【0028】
図7は、前記電子制御装置90が備えている自動変速機16の制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、自動変速機16の制御装置は機能的に見て大きく分けて、クルーズ制御部と変速制御部に分かれる。クルーズ制御部は、本発明の変速制御手段に対応する定速走行制御手段130からなる。定速走行制御手段130は、運転者によるクルーズコントロールスイッチ132の操作によりクルーズモードが設定された場合に、クルーズモードの設定と共に設定された目標車速で車両を定速で走行させる。このとき、定速走行制御手段130は、スロットル開度θTHを変更することによりエンジントルクを増減させ車速Vを目標車速VT に追従させる。そして、スロットル開度θTHの変更のみでは車速Vを目標車速VT に追従させることが困難である場合には、自動変速機16の一部の高速側の変速段の使用を禁止する。すなわち、車両の駆動力またはエンジンブレーキ力を高めるために、現在走行している変速段を含めた高速側の変速段の使用を禁止することによって使用される変速段を下げ、車速を目標車速に追従させようとする。従って、定速走行制御手段130も、自動変速機の制御装置の一部を構成するといえる。
【0029】
なお、定速走行制御手段130は、クルーズモードが設定されている場合において、後述するブレーキ操作判定手段144においてブレーキ操作があったことが検出されると、即座にクルーズモードを終了する。すなわち定速走行制御手段130によって自動変速機の一部の高速側の変速段の使用が禁止され、使用する変速段が下げられていたが、これが解除され、例えば図6に示す変速線図に示されるような、通常の自動変速機の変速制御によって使用される変速段に戻される。これは、クルーズモードによる走行中における運転者のブレーキ操作は、運転者の減速の意思であるとみなされるためである。
【0030】
登降坂変速制御部は、登降坂変速制御手段134、登降坂変速実行手段136、記憶手段138、勾配値算出手段140、ブレーキ操作判定手段144などから構成される。ブレーキ操作判定手段144は、ブレーキスイッチ70からの信号により、前後輪を制動するために用いられる常用ブレーキを作動させるフットブレーキペダル69による制動操作の有無が検出される。
【0031】
勾配値算出手段140は、車両が走行する路面の勾配に関する値を逐次算出する。たとえば、図8に示すような車両の平坦路走行時おける各車速Vでのスロットル開度θTHN についての情報を各変速段ごとに予め記憶しておくとともに、実際の走行時の変速段におけるスロットル開度θTH、車速Vをそれぞれスロットル開度センサ64および車速センサ66によって検出し、検出した車速Vにおける前記平坦路走行時スロットル開度θTHN と実際のスロットル開度θTHを比較する。そして、例えば実際のスロットル開度θTHが平坦路走行時スロットル開度θTHN と比較してその前後5パーセント以内であれば(図8における斜線を付した領域にあれば)平坦路であると判断する一方、それ以上離れていた場合には勾配があると判断する。このとき、実際のスロットル開度θTHが前記平坦路走行時スロットル開度θTHN よりも大きい場合には(図8における斜線を付した領域よりも上にある場合には)登坂路と、また、実際のスロットル開度θTHが前記平坦路走行時スロットル開度θTHN よりも小さい場合には(図8における斜線を付した領域よりも下にある場合には)降坂路であると判断し、また、両者の差が大きいほど勾配が急であると判断する。具体的には例えば、実際のスロットル開度θTHと前記平坦路走行時スロットル開度θTHN の差の大きさと実際の勾配に関する値についての関係を事前に算出しておき記憶しておくことにより判断する。また、勾配に関する値とは、例えば単位radで表される、路面が水平と為す角度である。
【0032】
そして、この勾配値算出手段140は登降坂変速制御手段134が実行されていない領域において実行されるようにされている。すなわち、勾配値算出手段140によって算出された路面の勾配に関する値(勾配値)は後述する登降坂変速実行手段136によって登降坂変速制御手段134の実行のために用いられることから、登降坂変速制御手段134の実行中に実行される必要はないためである。したがって、定速走行制御手段130の実行中にも勾配値算出手段140は実行されることとなるが、勾配値算出手段140そのものは自動変速機の変速制御をするものではなく、定速走行制御手段130による制御と干渉し合う性質のものではないため、両者が同時に実行されることは可能である。
【0033】
記憶手段138は、勾配値算出手段140が逐次算出した勾配に関する値が、例えば予め定められた所定期間の間記憶される。記憶手段138に記憶された勾配値は、後述する登降坂変速実行手段136が実行されるときに用いられる。前記所定期間とは、例えば、勾配値算出手段140によって新たに勾配値が算出されるまでの間である。
【0034】
登降坂変速制御手段134は、勾配値算出手段140によって算出された勾配値により車両が予め定められた所定値より急な勾配である路面を降坂していると判断された場合であって、ブレーキ操作判定手段144により、運転者によるフットブレーキペダル69の操作があったと判定された場合には、自動変速機16の一部の高速段の使用を禁止する。すなわち、自動変速機16の一部の高速段の使用を禁止することにより、降坂走行する場合のエンジンブレーキ力又はトルク(駆動力)不足を防止することが可能となる。
【0035】
登降坂変速実行手段136は、登降坂変速制御手段134による制御の開始条件の一つである、変速制御手段に対応する定速走行制御手段130による変速制御中であってブレーキ操作判定手段144によるフットブレーキペダル69が操作されたことの検出があった場合において、前記ブレーキ操作判定手段144がブレーキ操作があったと判定する直前に勾配値算出手段140が算出し、記憶手段138が記憶していた値を、車両が走行している路面の勾配の判断に用いる値として用いて登降坂変速制御手段134に登降坂変速制御を行うか否かの判断を行わせる。
【0036】
すなわち、登降坂変速制御手段134単独による制御は、本来であれば車両が登降坂変速制御手段134の実行中において、降坂路を走行中にフットブレーキペダル69が操作されたことが検出されたことにより、降坂制御を実行するが、登降坂変速実行手段136により、フットブレーキペダル69が操作されたことが検出された直前、すなわち登降坂変速手段134の実行開始前において勾配値算出手段140が算出し、記憶手段138が記憶していた値を使用して登降坂変速制御を行うか否かの判断を行うこととなる。その結果、登降坂変速制御手段134の実行直後から登降坂変速制御による自動変速機16の変速制御が可能となる。
【0037】
図9は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートである。以下、本発明の自動変速機の制御装置90の作動の様子を本フローチャートの各ステップごとに説明する。変速制御手段である定速走行制御手段130に対応するステップ(以下「ステップ」を省略する。)SA1では、運転者によりクルーズコントロールスイッチ132が操作されることにより、クルーズモードとなっているか否かが判断される。本判断が肯定される場合には、当該車両の自動変速機16は定速走行制御手段130により制御される、いわゆるクルーズモードで走行しているとしてSA2以降のステップが実行される。一方、本判断が否定された場合には、たとえば図6に示す変速線図に従うような通常の自動変速が行われており、本発明の自動変速機の制御装置を適用する必要がないとして本フローチャートは終了させられる。
【0038】
勾配値算出手段140および記憶手段138に対応するSA2においては、クルーズモードで走行する車両の路面の勾配に関する値が算出され、記憶される。このとき、後述するSA5においてクルーズモードが解除されたか否かが判断され、クルーズモードが解除されないと判断された場合には再度SA2〜SA4のステップが反復されることとなるが、SA2において記憶される路面の勾配に関する値は、少なくとも反復の1回分が記憶されていればよい。(次の反復によりSA2が実行される場合には、その新しい値が記憶されると共に、前回の値は破棄されてよい。)
【0039】
続くSA3およびSA4は定速走行制御手段130に対応する。SA3においては、定速走行制御手段130がクルーズコントロールスイッチ132で設定された設定車速VTで車両を定速走行させる際に、スロットル開度θTHの調節のみで制御可能か否かが判断され、スロットル開度θTHによる調節のみでは十分な制御ができないと判断された場合には、SA4が実行される。一方、スロットル開度θTHのみで十分な制御ができると判断された場合には、SA4が実行されることなくSA5が実行される。
【0040】
SA4においては、定速走行制御手段130がクルーズコントロールスイッチ132で設定された設定車速VTで車両を定速走行させる際に、スロットル開度θTHの調節のみでは十分な車速の維持ができないと判断された場合において、自動変速機16の変速段が1段下げられ、駆動力が上げられる。
【0041】
定速走行制御手段130に対応するSA5においては、運転者によるブレーキ操作がブレーキ操作判定手段144により判定されたことによりクルーズモードが解除されたかが判定される。クルーズモードは運転者によるクルーズコントロールスイッチ132の操作やフットブレーキペダル69の操作によって解除されるが、本ステップにおいては、フットブレーキペダル69の操作によって解除された場合のみ、判断が肯定され、続くSA6以降が実行される一方、その他の方法によって解除された場合や、解除されなかった場合にはSA2に戻り、再度SA2〜SA5のステップが繰り返される。
【0042】
登降坂変速実行手段136および登降坂変速制御手段134に相当するSA6においては、SA5においてクルーズモードが解除された直後において、降坂制御を行う必要があるか否かが判断される。具体的には、SA5においてなされたと判断されたブレーキ操作の直前において、SA2において算出され、記憶されていた路面の勾配値がとりだされ、降坂制御が行われるか否かの判断がされる。すなわち、本来であれば、ブレーキ操作がなされたとき、あるいは直後の路面の勾配値をもとに降坂制御が行われるか否かの判断が行われるところ、本ステップにおいては、ブレーキ操作が行われる直前において検出され、記憶されていた降坂値を用いて降坂制御が行われるかの判断が行われるのである。そして、その判断が肯定された場合には続くSA7が実行され、否定された場合には、そのまま本フローチャートは終了させられる。
【0043】
登降坂変速制御手段134に相当するSA7は、前記SA6において降坂制御が行われるとの判断がなされた場合において実行され、降坂制御、すなわち、自動変速機16の高速段の使用が禁止される。具体的には、禁止される変速段で車両が走行している場合には前記禁止される変速段より下の変速段となるようにシフトダウンが行われ、また、禁止される変速段よりも下の変速段で既に走行している場合には、前記禁止される変速段へのシフトアップが禁止される。
【0044】
図11は、電子制御装置90が適用された車両が降坂路を走行する場合における、定速走行制御手段130による制御から登降坂変速制御手段136による制御への移行の様子を示すタイミングチャートである。尚、図中、丸で囲まれた数字は使用される変速段の変化を表している。
【0045】
時刻t11において、車両は降坂路を走行しており、既に開始されている登降坂変速制御手段134により降坂変速制御が実行されている。降坂変速制御の内容は、上述の通り、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止するものである。このとき、変速制御手段である定速走行制御手段130はスイッチがオフの状態とされ、実行されていない。
【0046】
時刻t12において、運転者によりクルーズコントロールスイッチ132がオンにされ、定速走行制御手段130が実行され、クルーズモードが実行される。定速走行制御手段130は、車速Vを目標車速VTに追従させるべく、スロットル開度θTHを制御する。このとき、定速走行制御手段130と登降坂変速制御手段134とは、その効果が干渉しないよう排他的に実行されるため、定速走行制御手段130が実行されるのと同時に、登降坂変速制御手段134は終了させられる。
【0047】
一方、登降坂変速制御手段134が終了させられたのと同時に、勾配値算出手段140が起動される。勾配値算出手段140は、走行中の変速段、車速V、およびスロットル開度θTHから路面の勾配値を算出し、記憶手段138に記憶させる。
【0048】
時刻t13においては、定速走行制御手段130は、スロットル開度θTHの制御のみでは車速Vを目標車速VTに追従させることが困難であると判断し、スロットル開度θTHの制御に加え、自動変速機の制御を行う。具体的には上述のように、自動変速機の一部の高速段の使用を禁止することにより、シフトダウンを行う。本タイミングチャートにおいては、例えば、車両が時刻t13まで第4速段で走行していた場合において、第4速段〜第6速段の使用を禁止することにより、第3速段へシフトダウンさせる。
【0049】
時刻t14においては、定速走行制御手段130による制御の実行中であって運転者によりフットブレーキペダル69が操作されたことがブレーキ操作判定手段144により判定され、定速走行制御手段130は終了させられる。一方、このブレーキ操作を受け、登降坂変速実行手段136は、運転者によるブレーキ操作の直前に勾配値算出手段140により算出され、記憶手段138に記憶されていた勾配値を登降坂変速制御手段134に渡し、このブレーキ操作直前の勾配値により登降坂変速制御手段134に降坂制御を行うか否かの判断を行わせる。このとき、ブレーキ操作直前の勾配値は路面の勾配が降坂制御を行うべき値であったことから、登降坂変速制御手段134は時刻t14にされたブレーキ操作を開始条件として降坂制御を行うと判断し、これを実行する。ここで、降坂制御の内容は自動変速機16の一部の高速段(たとえば第5速段〜第6速段)の使用を禁止するものである。
【0050】
以上の登降坂変速制御手段134による判断が、定速走行制御手段130の終了を受けて高速段(第4速段〜第6速段)の使用の禁止の解除の実行がされる前に完了することにより、時刻t14においては、定速走行制御手段130による制御に基づく第3速段から、登降坂変速制御手段134による降坂制御に基づく第4速段へ移行することができる。すなわち、図10のt3〜t5の場合のように、定速走行制御手段130による制御の終了に基づき一旦全変速段の使用が禁止されない状態になり、高速段へ移行した後、登降坂変速制御手段134による降坂制御が開始されシフトダウンが行われ、変速段(変速比)のハンチングが生ずることがない。
【0051】
本実施例によれば、自動変速機16において、登降坂路走行中にブレーキ操作により定速走行制御手段130による制御を解除した直後でも、勾配値算出手段140によって算出され、記憶手段138によって記憶されたブレーキ操作直前の路面勾配に関する値を利用して登降坂変速実行手段136によって登降坂変速制御手段134が実行されるため、ブレーキ操作の直後であっても登降坂変速制御を行うことができることから、ブレーキ操作後にスムーズに登降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0052】
また、本実施例によれば、定速走行のための定速走行制御手段130による制御をブレーキ操作によって解除した直後に登降坂変速制御手段134による制御が行われる場合であっても、スムーズに登降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0053】
また、本実施例によれば、運転者によるブレーキ操作が、定速走行制御手段130による制御の解除のための操作と、降坂変速制御手段136による制御の開始のための操作との両方に該当するような降坂路において、降坂路走行中にブレーキ操作により変速制御を解除した直後でも、ブレーキ操作直前の路面勾配に関する値を利用し降坂変速制御が行われるため、ブレーキ操作後にスムーズに降坂変速制御に移行でき、変速比の高速側への移行を禁止する制御を連続的に行えるため変速比のハンチングを防ぐことができる。
【0054】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0055】
例えば、本実施例において自動変速機16は図1に示されるような有段式の自動変速機が用いられたが、これに限られず、例えば、ベルト式無段変速機、トロイダル式無段変速機のような無段変速機(CVT)であってもよい。この場合、実施例中、「変速段を上げる」「変速段を下げる」との記載は「変速比を下げる」「変速比を上げる」とそれぞれ読み替えればよい。
【0056】
また、上述の実施例においては、シフトレバー72は図4に示されるようないわゆるフロアシフトと呼ばれる形式のものが用いられたが、これに限られず、例えば、ハンドルを支持するように配置されたステアリングコラム部に設けられるいわゆるコラムシフトと呼ばれる形式のものであってもよい。
【0057】
また、上述の実施例においては、車両が降坂路を走行する場合を例示したが、登坂路を走行する場合であっても本発明は同様に適用可能である。登坂路においては、登降坂変速制御手段134は、例えば、勾配値算出手段140によって算出された勾配値により、車両が予め定められた所定値より急な勾配である路面を登坂していると判断された場合であって、ブレーキ操作判定手段144により、運転者による急激なアクセル操作が行われ自動変速機の変速段が一段下げられる、いわゆるキックダウン操作があったと判定された場合に実行されることから、例えば、クルーズモード中に運転者によるブレーキ操作によりクルーズモードが解除された直後に、キックダウンによって登坂制御が開始されるような場合が該当する。
【0058】
また、上述の実施例においては、路面の勾配に関する値として、路面の勾配を角度で表した値を勾配値としたが、これに限られず、例えば、単位パーミルで表されるような値を勾配に関する値としてもよい。
【0059】
また、上述のフローチャートにおけるSA2においては、記憶される勾配値は反復1回分としたが、これに限られず、複数の値が記憶されることもできる。この場合、SA6においては、前記記憶された複数の勾配値に基づいて、降坂変速制御を行うか否かの判断がされることもできる。
【0060】
また、SA4においては、スロットル開度θTHの調節のみでは十分な車速の維持ができないと判断された場合において、自動変速機16の変速段が1段下げられるとしたが、このとき下げられる変速段は1段に限られず、必要に応じて複数段であってもよい。
【0061】
また、本実施例においては、定速走行制御手段を変速制御手段としたが、自動変速比の変速比が所定の変速比より高速側になることを禁止し、ブレーキ操作があったら制御を解除する性質を有する制御手段であれば、これに限られない。
【0062】
また、本実施例においては、勾配値算出手段140は、車両の使用する変速段、車速、スロットル開度から算出したが、これに限られず他の方法、例えば加速度センサなどによってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明が適用された自動変速機を含む動力伝達装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の自動変速機の各ギヤ段を成立させるためのクラッチおよびブレーキの係合、解放状態を説明する図である。
【図3】図1の実施例の車両に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図4】図3のシフトレバーを具体的に示す斜視図である。
【図5】図3の電子制御装置によって行われるスロットル制御で用いられるアクセル開度Accとスロットル弁開度θTHとの関係の一例を示す図である。
【図6】図3の電子制御装置によって行われる自動変速機の変速制御で用いられる変速線図(マップ)の一例を示す図である。
【図7】図3の電子制御装置が備えている制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】図7の勾配算出手段における勾配の算出方法を説明した図である。
【図9】図3の電子制御装置の制御機能の要部すなわち車両に備えられた自動変速機の制御装置の作動を説明するフローチャートである。
【図10】従来における、車両の降坂路の走行中に、変速制御手段である定速走行制御手段による制御から登降坂変速制御手段による制御への移行の様子を示すタイミングチャートである。
【図11】本発明を適用した場合における、車両の降坂路の走行中に、変速制御手段である定速走行制御手段による制御から登降坂変速制御手段による制御への移行の様子を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0064】
16:自動変速機
90:自動変速機の制御装置
130:変速制御手段(定速走行制御手段)
134:登降坂変速制御手段
136:登降坂変速実行手段
140:勾配値算出手段
144:ブレーキ操作判定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の変速比が所定の変速比より高速側になることを禁止し、常用ブレーキ操作があったらその制御を解除する変速制御手段と、
登降坂路走行中に路面の勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比が所定の変速比よりも高速側になることを禁止する登降坂変速制御手段とを備える車両用自動変速機の制御装置において、
前記路面の勾配に関する値を算出する勾配値算出手段と、
前記ブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定手段と、
前記変速制御手段による変速制御中であって該ブレーキ操作判定手段によりブレーキ操作が判定されると、該ブレーキ操作判定の直前の路面勾配に関する値を登降坂変速制御手段に出力し、登降坂変速制御を実行させる登降坂変速実行手段とを
設けることを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記変速制御手段は、車両の定速走行を維持するように前記自動変速機の変速比を制御する定速走行制御手段である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記登降坂変速制御手段は、特に降坂路走行中に路面の勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比が所定の変速比よりも高速側になることを禁止する降坂変速制御手段である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両変速機の制御装置。
【請求項1】
自動変速機の変速比が所定の変速比より高速側になることを禁止し、常用ブレーキ操作があったらその制御を解除する変速制御手段と、
登降坂路走行中に路面の勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比が所定の変速比よりも高速側になることを禁止する登降坂変速制御手段とを備える車両用自動変速機の制御装置において、
前記路面の勾配に関する値を算出する勾配値算出手段と、
前記ブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定手段と、
前記変速制御手段による変速制御中であって該ブレーキ操作判定手段によりブレーキ操作が判定されると、該ブレーキ操作判定の直前の路面勾配に関する値を登降坂変速制御手段に出力し、登降坂変速制御を実行させる登降坂変速実行手段とを
設けることを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記変速制御手段は、車両の定速走行を維持するように前記自動変速機の変速比を制御する定速走行制御手段である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記登降坂変速制御手段は、特に降坂路走行中に路面の勾配に関する値に基づき自動変速機の変速比が所定の変速比よりも高速側になることを禁止する降坂変速制御手段である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両変速機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−45637(P2008−45637A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220384(P2006−220384)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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