説明

車両用衝撃吸収構造

【課題】 衝突時にピラーを覆うエアバッグ装置に頼ることなく、衝突体の保護性を向上することができる車両用衝撃吸収構造を得る。
【解決手段】車両用衝撃吸収構造としての可動ピラー装置10は、制御装置がフロントバンパへの歩行者の衝突を検出又は予測すると、ピラー駆動装置28が作動することで、フロントピラー12の上部であるフロントピラーアッパ12Aを構成するピラー骨格部材16が後方に移動し、該フロントピラーアッパ12Aの剛性を低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両衝突時に車体支柱部に衝突する衝突体を保護するための車両用衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部に衝突体が衝突した場合に、エンジンフードの後端を跳ね上げると共に、該エンジンフードの後端とカウルトップとの間からエアバッグを膨出させて、該エアバッグをフロントピラーの前面側で基部から上端部に亘る全領域を覆うように膨張展開させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−36986号公報
【特許文献2】特開2002−284035号公報
【特許文献3】特開2004−196087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記した従来の技術では、衝突体の保護性を向上するためにはエアバッグを大容量化する等の対策が必要であるが、大容量のエアバッグを収納すると、収納部位が大きくなり(例えばエンジンフード後端部やフロントピラーに収納する場合はフロントピラー)、運転者の視界を狭める原因となる。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、衝突時にピラーを覆うエアバッグ装置に頼ることなく、衝突体の保護性を向上することができる車両用衝撃吸収構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る車両用衝撃吸収構造は、車体の外側部に配置された支柱部の骨格部材の少なくとも一部を、所定の場合に車体内方に移動することで、前記支柱部の剛性を低下させる剛性低下手段を備えた。
【0006】
請求項1記載の車両用衝撃吸収構造では、例えば車両衝突時や衝突の確率が高いと判断したとき等の所定の場合に、剛性低下手段が作動して、車体における略上下方向に長手とされた支柱部を構成する骨格部材の少なくとも一部を、車体内方に移動する。これにより、支柱部の剛性が低下するため、支柱部に衝突体が衝突した場合に効果的にエネルギ吸収が果たされ、該衝突体が保護される。
【0007】
このように、請求項1記載の車両用衝撃吸収構造では、衝突時にピラーを覆うエアバッグ装置に頼ることなく、衝突体の保護性を向上することができる。
【0008】
上記目的を達成するために請求項2記載の発明に係る車両用衝撃吸収構造は、車体の外側部に配置された支柱部の骨格を構成すると共に、上下の端部がそれぞれ車体に対し分離可能に連結された骨格部材と、前記骨格部材と車体との間に設けられ、作動することで前記骨格部材を車体内方に移動させる剛性低下手段と、車体への特定の衝突体の衝突を検出する衝突検出手段と、前記衝突検出手段が前記特定の衝突体の衝突を予測又は検出した場合に、前記剛性低下手段を作動する制御装置と、を備えている。
【0009】
請求項2記載の車両用衝撃吸収構造では、衝突検出手段が特定の衝突体の車体への衝突を予測又は検出すると、制御装置が剛性低下手段を作動し、該剛性低下手段の作動によって支柱部を構成する骨格部材が車体内方に移動する。これにより、支柱部の剛性が低下するため、支柱部に特定の衝突体が衝突した場合に効果的にエネルギ吸収が果たされ、該特定の衝突体が保護される。
【0010】
このように、請求項2記載の車両用衝撃吸収構造では、衝突時にピラーを覆うエアバッグ装置に頼ることなく、衝突体の保護性を向上することができる。
【0011】
請求項3記載の発明に係る車両用衝撃吸収構造は、請求項2記載の車両用衝撃吸収構造において、記骨格部材の端部と車体との間に設けられ、前記剛性低下手段による前記骨格部材の移動を阻止するロック状態と、前記剛性低下手段による前記骨格部材の移動を許容するロック解除状態とを取り得るロック機構をさらに備え、前記制御装置は、前記衝突検出手段が前記特定の衝突体の衝突を予測又は検出した場合に、前記ロック機構をロック解除状態に切り替えてから前記剛性低下手段を作動する。
【0012】
請求項3記載の車両用衝撃吸収構造では、衝突検出手段が特定の衝突体の車体への衝突を検出すると、制御装置は、先ずロック機構をロック解除状態に切り替えて骨格部材を移動可能状態にした後、剛性低下手段を作動する。ロック機構を設けることで、例えば、特定の衝突体の衝突前、他の衝突体の衝突時、車体転覆時等に支柱部の骨格部材と車体(骨格部)との連結状態が維持される。
【0013】
請求項4記載の発明に係る車両用衝撃吸収構造は、請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の車両用衝撃吸収構造において、前記支柱部は、フロントピラーである。
【0014】
請求項4記載の車両用衝撃吸収構造では、例えば、車両前部に衝突した衝突体(特定の衝突体)がフロントピラーに2次衝突する際に、剛性低下手段の作動によって骨格部材(の一部)が移動することで剛性が低下したフロントピラーが衝撃エネルギを効果的に吸収し、衝突体が保護される。
【0015】
請求項5記載の発明に係る車両用衝撃吸収構造は、請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の車両用衝撃吸収構造において、前記支柱部は、リヤピラーである。
【0016】
請求項5記載の車両用衝撃吸収構造では、例えば、車両後部に衝突した衝突体(特定の衝突体)がリヤピラーに2次衝突する際に、剛性低下手段の作動によって骨格部材(の一部)が移動することで剛性が低下したリヤピラーが衝撃エネルギを効果的に吸収し、衝突体が保護される。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明に係る車両用衝撃吸収構造は、衝突時にピラーを覆うエアバッグ装置に頼ることなく、衝突体の保護性を向上することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態に係る車両用衝撃吸収構造が適用された可動ピラー装置10について、図1乃至図6に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印INは、それぞれ可動ピラー装置10が適用された自動車Sの前方向(進行方向)、上方向、及び車幅方向内側を示している。
【0019】
図2には、可動ピラー装置10が適用された自動車Sの前部が概略の側面図にて示されており、図3には、自動車Sの前部が模式的な平面図にて示されている。また、図1(A)及び図1(B)には、可動ピラー装置10の要部が模式的な側面図にて示されている。これらの図に示される如く、自動車Sには、左右一対のフロントピラー12が設けられている。左右のフロントピラー12、すなわち可動ピラー装置10は、車幅方向中央に対し互いに対象に構成されるので、以下、左右一方側について説明することとする。
【0020】
フロントピラー12は、車幅方向の最外側の下部に配置され車体前後方向に長手の骨格部材である図示しないロッカの前端と、車幅方向の最外側の上端部に配置され車体前後方向に長手の骨格部材であるルーフサイドレール14の前端とを連結する支柱部とされている。フロントピラー12は、フロントドアDの前部を支持するようになっている。また、フロントピラー12の上下方向中央部は、車幅方向に沿う骨格部を構成するカウル部の車幅方向外端と車体前後方向に沿いフェンダFの上縁を補強するエプロンリインフォースメントの後端とが接合されたカウルサイド部15に結合されている。そして、フロントピらー12におけるカウルサイド部15よりも上側部分はフロントピラーアッパ12Aとされており、このフロントピラーアッパ12Aは、フロントウインドシールドガラスGの車幅方向端部を固定的に支持している。
【0021】
図4(A)に図1(A)の4A−4Aに沿った断面図として示される如く、フロントピラーアッパ12Aは、ピラー骨格部材16と、ピラー骨格部材16の車室内側部を覆うピラーインナガーニッシュ18と、ピラー骨格部材16の車室外側部分を覆うピラーアウタガーニッシュ20とを有して構成されている。ピラー骨格部材16は、ピラーインナパネル16Aとピラーアウタパネル16Bとを接合することで、長手方向に直交する断面が閉断面構造とされている。また、フロントピラーアッパ12Aでは、ピラーインナガーニッシュ18はピラー骨格部材16に固着されており、ピラーアウタガーニッシュ20は、ピラー骨格部材16に対し前後方向に沿う相対移動に伴う着脱が可能とされている(図4(A)、図4(B)参照)。なお、ピラーアウタガーニッシュ20は、単独(左右一対)で自動車SのルーフRを支持し得る強度(剛性)を有しており、この観点から、ピラー骨格部材16をピラー補強部材として把握することも可能である。
【0022】
そして、図1及び図2に示される如く、ピラー骨格部材16は、車体骨格から独立した部材とされており、フロントピラーアッパ12A(ピラーアウタガーニッシュ20)を補強する機能を果たす補強位置と、補強位置から後方に移動してピラーアウタガーニッシュ20と分離する緩衝位置とを選択的に取り得る構成とされている。具体的には、図1(A)に示される如く補強位置に位置するピラー骨格部材16は、その上端がルーフサイドレール14に結合されると共に、その下端がカウルサイド部15に結合されるようになっている。この結合構造としては、例えば、電動又は手動で着脱可能なハードトップ(ルーフ)とボディとの結合構造や、ドアに設けたセンタピラーとボディとの結合構造などを適用することができる。
【0023】
一方、図1(B)に示される如く緩衝位置に位置するピラー骨格部材16は、その上端がルーフサイドレール14から分離すると共に、その下端がカウルサイド部15から分離するようになっている。図4(B)にも示される如く、この状態では、フロントピラーアッパ12Aは、実質的にピラーアウタガーニッシュ20のみで構成されている。
【0024】
また、可動ピラー装置10は、ピラー骨格部材16を補強位置に保持するためのロック機構22を備えている。図1(A)に示される如く、ロック機構22は、フロントピラーアッパ12Aの長手方向に沿って往復動可能な上下一対の結合ピン24を備えている。各結合ピン24は、ルーフサイドレール14又はカウルサイド部15に取り付けられた駆動装置であるソレノイド26に結合されている。上下の結合ピン24は、それぞれ通常はソレノイド26に設けた図示しないスプリングの付勢力によってピラー骨格部材16の上端部又は下端部に係合するロック位置を取り、ソレノイド26に通電するとピラー骨格部材16との係合が解除されるロック解除位置に移動するようになっている。各ソレノイド26は、後述する緩衝ECU38によって所定の場合に通電される構成とされている。
【0025】
さらに、可動ピラー装置10は、後述する所定の場合に作動されて、ピラー骨格部材16を補強位置から緩衝位置に移動させる剛性低下手段としてのピラー駆動装置28を備えている。この実施形態では、ピラー駆動装置28は、それぞれ対応する電動モータ30A、30Bで駆動される上下一対のラック&ピニオン機構が用いられている。具体的には、下側の電動モータ30Aは、自動車SのインストルメントパネルI(図3参照)の内側に配設されており、その回転軸と一体回転するように連結されたピニオン32Aがラック34Aに噛み合っている。ラック34Aは、フェンダFの内側で前後方向にスライド可能に支持され、後端が連結部材36Aを介してピラー骨格部材16の下端に連結されている。同様に、上側の電動モータ30Bはルーフサイドレール14に取り付けられており、その回転軸と一体回転するように連結されたピニオン32Bがラック34Bに噛み合っている。ラック34Bは、ルーフサイドレール14に対し前後方向にスライド可能に支持され、前端が連結部材36Bを介してピラー骨格部材16の上端に連結されている。
【0026】
これにより、ピラー駆動装置28は、下側の電動モータ30Aを図1(A)の矢印A方向に回転させると共に、上側の電動モータ30Bを矢印B方向に回転させることで、ピラー骨格部材16を補強位置よりも後方の緩衝位置に移動し得る構成とされている。図2に示される如く、各電動モータ30A、30Bは、それぞれ緩衝ECU38に電気的に接続され、後述する所定の場合に上記した矢印A方向又は矢印B方向に回転駆動される構成とされている。
【0027】
さらにまた、可動ピラー装置10は、自動車Sの前部への特定の衝突体の衝突を予測又は検出するための衝突検出装置40を備えている。この実施形態では、衝突検出装置40は、フロントバンパBに配設されたカメラ等の撮像装置(前方監視手段)40Aと、自動車Sの走行速度を検出する車速センサ40Bとを含んで構成されており、画像信号及び車速信号を含む信号を緩衝ECU38に出力するようになっている。緩衝ECU38は、撮像装置40Aからの信号に基づいてフロントバンパBの前方に歩行者が存在するか否か判断すると共に、撮像装置40Aからの信号及び車速センサ40Bからの車速信号に基づいて歩行者のフロントバンパBへの衝突確率が所定の閾値を超えるか否かを判断するようになっている。したがって、この実施形態における衝突検出装置40及び緩衝ECU38(の一部機能)が本発明における衝突検出手段に相当する。
【0028】
そして、緩衝ECU38は、歩行者がフロントバンパBに衝突する確率が所定の閾値を超えると判断した場合に、ロック機構22のソレノイド26に通電して結合ピンをロック解除位置に移動させると共に、ピラー駆動装置28を駆動してピラー骨格部材16を緩衝位置に移動させる構成とされている。
【0029】
次に、第1の実施形態の作用を、図5に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0030】
上記構成の可動ピラー装置10では、図1(A)及び図2に示される如く、通常、ピラー骨格部材16は補強位置に位置してフロントピラーアッパ12Aを構成している。このとき、図6(A)にも示される如く、ピラー骨格部材16は、ロック機構22によって上下端が車体に対する移動不能に保持されている。これにより、自動車Sの車体は所要の剛性が確保される。この自動車Sの走行中には、緩衝ECU38は、衝突検出装置40を構成する撮像装置40Aから入力される前方画像の画像データ、車速センサ40Bから入力される車速信号に基づいて、自動車SのフロントバンパBへの衝突を監視している。
【0031】
具体的には、緩衝ECU38は、図5に示すフローチャートにおけるステップS10で、撮像装置40Aからの入力信号に基づいて、フロントバンパBの前方(予想走行軌跡上)に歩行者が存在するか否かを判断する。フロントバンパBの前方に歩行者が存在しないと判断した場合にはステップS10を繰り返す。一方、フロントバンパBの前方に歩行者が存在すると判断すると、緩衝ECU38は、ステップS12に進み、撮像装置40A及び車速センサ40Bからの各入力信号に基づいて、歩行者がフロントバンパBに衝突する確率が所定の閾値を超えるか否かを判断する。この衝突確率が所定の閾値以下である場合には、ステップS10に戻る。
【0032】
一方、衝突確率が所定の閾値を越える判断すると、緩衝ECU38は、ステップS14に進み、ロック機構22の各ソレノイド26に通電する。すると、該ロック機構22の各結合ピンが図6(A)に示すロック位置から図6(B)に示すロック解除位置に移動し、ピラー骨格部材16の車体(ルーフサイドレール14、カウルサイド部15)に対する移動が許容される状態に切り替わる。次いで緩衝ECU38は、ステップS16に進み、ピラー駆動装置28の電動モータ30Aを矢印A方向に回転駆動すると共に電動モータ30Bを矢印B方向に回転駆動する。すると、ピニオン32A、32Bの回転に伴ってラック34A、34Bがピラー骨格部材16と共に後方に移動する。図6(C)に示される如くピラー骨格部材16が緩衝位置に到達する(移動限の検出又は該移動元での過負荷検出等による)と、緩衝ECU38は各電動モータ30A、30Bを停止する。
【0033】
そして、現実にフロントバンパBに歩行者が衝突すると、この歩行者の頭部等の特定の衝突体K(図2参照、以下単に「衝突体K」という)がフロントピラーアッパ12Aに2次衝突する場合がある。
【0034】
ここで、可動ピラー装置10では、衝突体Kがフロントピラーアッパ12Aに衝突する際には、ピラー骨格部材16が緩衝位置に移動しているため、フロントピラーアッパ12Aの剛性が低下している。このため、衝突体Kは、衝突したフロントピラーアッパ12Aすなわちピラーアウタガーニッシュ20を大きく変形させ、十分な衝撃吸収ストロークで効果的に衝撃エネルギが吸収される。したがって、例えばピラー骨格部材16が補強位置に位置する状態のフロントピラーアッパ12Aに衝突する場合と比較して、衝突体Kに作用する衝突荷重(のピーク)が著しく緩和され、該衝突体Kが保護される。
【0035】
このように、第1の実施形態に係る可動ピラー装置10では、衝突時にフロントピラーアッパ12Aを覆うエアバッグ装置に頼ることなく、衝突体Kの保護性を向上することができる。
【0036】
また、可動ピラー装置10では、ロック機構22を設けたため、例えば、歩行者の衝突前の通常走行時、電柱や他の車両等の他の衝突体の衝突時、車体転覆時等にピラー骨格部材16が補強位置から移動してしまうことが防止される。これにより、歩行者との衝突時を除いてフロントピラーアッパ12Aは、所要の剛性が確保される。
【0037】
さらに、可動ピラー装置10では、ピラー駆動装置28が動力源として電動モータ30A、30Bを備える構成としたため、ピラー骨格部材16を緩衝位置に移動したもののフロントピラーアッパ12Aに衝突体が衝突しなかった場合に、ピラー骨格部材16及びピラー駆動装置28を補強位置に戻して共に再使用することができる。このため、上記したフローチャートのステップS12の閾値を比較的低く設定して安全性を向上することも可能になる。
【0038】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。なお、上記第1の実施形態と基本的に同一の部品、部分については上記第1の実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
図7には、第2の実施形態に係る可動ピラー装置50が適用された自動車Sの前部が模式的な平面図にて示されている。この図に示される如く、可動ピラー装置50は、インストルメントパネルIの内側に代えてフェンダFの内側に配設された電動モータ30Aを有するピラー駆動装置52を備える点で、可動ピラー装置50とは異なる。可動ピラー装置50の他の構成は、可動ピラー装置10と同様である。
【0040】
したがって、可動ピラー装置50では、ピラー骨格部材16が図8(A)に示される補強位置と図8(B)に示される緩衝位置とを選択的に取り得るので、可動ピラー装置10と同様の作用によって同様効果を得ることができる。このように、第2の実施形態に係る可動ピラー装置50によっても、衝突時にフロントピラーアッパ12Aを覆うエアバッグ装置に頼ることなく、衝突体の保護性を向上することができる。
【0041】
図9(A)及び図9(B)には、本発明の第3の実施形態に係る可動ピラー装置60が適用された自動車Sの後部が模式的な側面図にて示されている。この図に示される如く、可動ピラー装置60は、リヤピラー62に適用されている点で、フロントピラー12に適用された可動ピラー装置10とは異なる。リヤピラー62は、下端がロッカに連結された図示しないリヤピラーロアの上端からルーフサイドレール14に至るリヤピラーアッパ62Aが延設されて構成されている。リヤピラーアッパ62Aは、ピラーアウタガーニッシュ64の内側(車室側)に配置されたピラー骨格部材66を備えている。ピラー骨格部材66は、ピラー骨格部材16と同様にルーフサイドレール14の後端、リヤピラーロアの上端にロック機構22を介して分離可能に連結されている。
【0042】
そして、ピラー骨格部材66は、図9(A)に示す補強位置と、図9(B)に示す緩衝位置とを取り得るように構成されている。この実施形態では、緩衝位置は補強位置の前方とされている。また、可動ピラー装置60は、ピラー骨格部材66を補強位置から緩衝位置に移動するためのピラー駆動装置68を備えている。ピラー駆動装置68は、ピラー駆動装置28を前後反転させた如く構成されており、下側の電動モータ30A、ピニオン32A、ラック34Aがリヤフェンダの内側に配設されると共に、上側の電動モータ30Bは、ピニオン32B、ラック34Bがルーフサイドレール14に沿って配設されている。
【0043】
ロック機構22の各ソレノイド26、ピラー駆動装置28の各電動モータ30A、30Bは、それぞれ図示を省略した緩衝ECUに電気的に接続されており、該緩衝ECUに制御されるようになっている。また。この緩衝ECUは、カメラ等の撮像装置を含む図示しない後突監視装置と電気的に接続されており、該後突監視装置からの信号に基づいて、歩行者が図示しないリヤバンパに衝突する確率が所定の閾値を越えると判断した場合に、ロック機構22の各ソレノイド26に通電すると共に、電動モータ30Aを矢印B方向に、電動モータ30Bを矢印A方向にそれぞれ駆動する構成とされている。
【0044】
したがって、可動ピラー装置60は、歩行者がリヤバンパに衝突する確率が所定の閾値を超える判断した場合、ピラー骨格部材66を緩衝位置に移動させるようになっている。このため、歩行者の頭部等の特定の衝突体がリヤピラーアッパ62Aに衝突する際には、ピラー骨格部材66が緩衝位置に移動しているため、リヤピラーアッパ62Aの剛性が低下している。このため、衝突体は、衝突したリヤピラーアッパ62Aすなわちピラーアウタガーニッシュ64を大きく変形させ、十分な衝撃吸収ストロークで効果的に衝撃エネルギが吸収される。したがって、例えばピラー骨格部材66が補強位置に位置する状態のリヤピラーアッパ62Aに衝突する場合と比較して、衝突体に作用する衝突荷重(のピーク)が著しく緩和され、該衝突体が保護される。
【0045】
このように、第3の実施形態に係る可動ピラー装置60では、衝突時にリヤピラーアッパ62Aを覆うエアバッグ装置に頼ることなく、衝突体の保護性を向上することができる。
【0046】
また、可動ピラー装置60では、ロック機構22を設けたため、例えば、歩行者の衝突前の通常走行時、電柱や他の車両等の他の衝突体の衝突時、車体転覆時等にピラー骨格部材66が補強位置から移動してしまうことが防止される。これにより、歩行者との衝突時を除いてリヤピラーアッパ62Aは、所要の剛性が確保される。さらに、可動ピラー装置60では、ピラー駆動装置68が動力源として電動モータ30A、30Bを備える構成としたため、ピラー骨格部材66を緩衝位置に移動したもののリヤピラーアッパ62Aに衝突体が衝突しなかった場合に、ピラー骨格部材66及びピラー駆動装置68を補強位置に戻して共に再使用することができる。
【0047】
なお、上記各実施形態では、電動モータ30A、30Bでラック&ピニオン機構を駆動するピラー駆動装置28、68を用いた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、駆動源として電動モータに代えてガスジェネレータを用いても良く、ラック&ピニオン機構に代えてピラー骨格部材16、66に一端を固定したワイヤをプーリに巻き取ることで該ピラー骨格部材16、66を補強位置から緩衝位置に移動する構成を採用しても良い。ガス発生材を着火させて発生する大量のガスによって瞬時にピラー骨格部材16、66を駆動可能なガスジェネレータを用いる構成では、例えばフロントバンパBに歩行者が衝突したことを検出してからピラー駆動装置を作動させる制御が可能となる。この場合、例えば撮像装置40A等を含む衝突検出装置に代えて、バンパに作用する荷重の時間変化や累積(時間積分)等から衝突体が歩行者であるか否かを判断する衝突検出装置を採用することも可能になる。また、電動モータと比較して大きな力を得やすいガスジェネレータを用いる構成では、ピラー骨格部材16、66を車体に固着し又は一体構成すると共に上下端に脆弱部や弱下部を設定しておき、ガスジェネレータの作動のよって脆弱部や弱下部を破断等させてピラー骨格部材を緩衝位置に移動させる構成を実現することも可能である。この構成ではロック機構22を省略することも可能である。
【0048】
また、上記各実施形態では、ピラー骨格部材16、66が全体として後方又は前方に移動して緩衝位置に至る例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ピラー骨格部材16の下端をカウルサイド部15にヒンジ結合し、上側のみに設けたピラー駆動装置28の作動によってヒンジ軸廻りに回動することでピラー骨格部材16が緩衝位置に移動する構成としても良い。
【0049】
さらに、上記各実施形態では、ピラー骨格部材16、66が全体として緩衝位置に至る例を示したが、本発明はこれに限定されず、ピラー骨格部材16、66の一部を緩衝位置に移動してフロントピラーアッパ12A又はリヤピラーアッパ62Aの剛性を低下させるようにしても良い。
【0050】
さらにまた、上記各実施形態では、ピラー骨格部材16、66が車体前後方向に移動して緩衝位置に至る例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、リヤピラー骨格部材66を車幅方向内側に移動して緩衝位置に至るようにしても良い。
【0051】
また、上記各実施形態では、歩行者の衝突確率を推定した結果に基づいてピラー骨格部材16、66を緩衝位置に移動する例を示したが、本発明はこれに限定されず、各種の制御が可能であることはいうまでもない。また例えば、歩行者と衝突する際の車速が閾値以下の場合にはピラー駆動装置28を作動しない等、他の制御パラメータを用いても良いことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係る可動ピラー装置を模式的に示す図であって、(A)はピラー骨格部材が補強位置に位置する状態を示す側面図、(B)はピラー骨格部材が緩衝位置に位置する状態を示す側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る可動ピラー装置が適用された自動車の前部を示す側面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る可動ピラー装置が適用された自動車の前部を示す平面図である。
【図4】(A)は図1(A)の4A−4Aに沿った断面図、(B)は図1(B)の4B−4Bに沿った断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る可動ピラー装置を構成する緩衝ECUによる制御フローを示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る可動ピラー装置の動作を説明するための図であって、ピラー骨格部材がロック状態で補強位置に位置する状態を示す側面図、(B)はピラー骨格部材のロックが解除された状態を示す側面図、(C)はピラー骨格部材が緩衝位置に位置する状態を示す側面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る可動ピラー装置が適用された自動車の前部を示す平面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る可動ピラー装置を模式的に示す図であって、(A)はピラー骨格部材が補強位置に位置する状態を示す側面図、(B)はピラー骨格部材が緩衝位置に位置する状態を示す側面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る可動ピラー装置を模式的に示す図であって、(A)はピラー骨格部材が補強位置に位置する状態を示す側面図、(B)はピラー骨格部材が緩衝位置に位置する状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0053】
10 可動ピラー装置(車両用衝撃吸収構造)
12 フロントピラー(支柱部)
14 ルーフサイドレール(車体)
15 カウルサイド部(車体)
16 ピラー骨格部材(骨格部材)
22 ロック機構
28 ピラー駆動装置(剛性低下手段)
38 緩衝ECU(制御装置)
40 衝突検出装置(衝突検出手段)
50・60 可動ピラー装置(車両用衝撃吸収構造)
52・68 ピラー駆動装置(剛性低下手段)
62 リヤピラー(支柱部)
66 ピラー骨格部材(骨格部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の外側部に配置された支柱部の骨格部材の少なくとも一部を、所定の場合に車体内方に移動することで、前記支柱部の剛性を低下させる剛性低下手段を備えた車両用衝撃吸収構造。
【請求項2】
車体の外側部に配置された支柱部の骨格を構成すると共に、上下の端部がそれぞれ車体に対し分離可能に連結された骨格部材と、
前記骨格部材と車体との間に設けられ、作動することで前記骨格部材を車体内方に移動させる剛性低下手段と、
車体への特定の衝突体の衝突を予測又は検出する衝突検出手段と、
前記衝突検出手段が前記特定の衝突体の衝突を予測又は検出した場合に、前記剛性低下手段を作動する制御装置と、
を備えた車両用衝撃吸収構造。
【請求項3】
前記骨格部材の端部と車体との間に設けられ、前記剛性低下手段による前記骨格部材の移動を阻止するロック状態と、前記剛性低下手段による前記骨格部材の移動を許容するロック解除状態とを取り得るロック機構をさらに備え、
前記制御装置は、前記衝突検出手段が前記特定の衝突体の衝突を予測又は検出した場合に、前記ロック機構をロック解除状態に切り替えてから前記剛性低下手段を作動する請求項2記載の車両用衝撃吸収構造。
【請求項4】
前記支柱部は、フロントピラーである請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の車両用衝撃吸収構造。
【請求項5】
前記支柱部は、リヤピラーである請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の車両用衝撃吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−347263(P2006−347263A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173699(P2005−173699)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】