説明

車両用駆動システム

【課題】スリップ発生時にてモータの制御性を適正に確保できる車両用駆動システムを提供すること。
【解決手段】この車両用駆動システム1は、エンジン2およびモータ6を動力源としたハイブリッド走行を実現できる。また、車両用駆動システム1は、エンジン2およびモータ6の間に配置されると共にクラッチトルクを制御できるクラッチ3と、このクラッチ3のクラッチトルクを制御する制御装置8とを備える。そして、制御装置8は、モータ6を動力源としたモータ走行時であって車輪11R、11Lにスリップが発生したときに、クラッチ3のクラッチトルクを増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用駆動システムに関し、さらに詳しくは、スリップ発生時にてモータの制御性を適正に確保できる車両用駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用駆動システムでは、モータ走行時にて駆動輪にスリップが発生したときに、モータを駆動制御して駆動輪のスリップを抑制している。このような従来の車両用駆動システムとして、特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−203593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両用駆動システムでは、モータを駆動制御してモータ回転数を制御するため、モータ回転数が上昇したときに、制御性が悪化するという課題がある。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、スリップ発生時にてモータの制御性を適正に確保できる車両用駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明にかかる車両用駆動システムは、エンジンおよびモータを動力源としたハイブリッド走行を実現できる車両用駆動システムであって、前記エンジンおよび前記モータの間に配置されると共にクラッチトルクを制御できるクラッチと、前記クラッチのクラッチトルクを制御する制御装置とを備え、且つ、前記制御装置は、前記モータを動力源としたモータ走行時であって車輪にスリップが発生したときに、前記クラッチのクラッチトルクを増加させることを特徴とする。
【0007】
また、この発明にかかる車両用駆動システムでは、前記制御装置は、前記モータのモータ回転数の変化率が所定の閾値以上となったときに、前記車輪にスリップが発生したと判定することが好ましい。
【0008】
また、この発明にかかる車両用駆動システムでは、前記制御装置は、前記クラッチのクラッチトルクを増加させた後であって前記モータのモータ回転数の変化率が所定の閾値以下となったときに、前記クラッチのクラッチトルクを減少させることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
この発明にかかる車両用駆動システムでは、スリップにより発生したモータの余分な回転エネルギーが、クラッチを介してエンジンに伝達してエンジンの回転エネルギーとして吸収される。すると、モータ回転数の上昇が抑制されて、モータトルクが制御性の良い領域に保持される。これにより、スリップ発生時にも、モータの制御性を適正に確保できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、この発明の実施の形態にかかる車両用駆動システムを示す構成図である。
【図2】図2は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すフローチャートである。
【図3】図3は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すタイムチャートである。
【図4】図4は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0012】
[車両用駆動システム]
図1は、この発明の実施の形態にかかる車両用駆動システムを示す構成図である。
【0013】
この車両用駆動システム1は、エンジン2と、クラッチ3と、変速機4と、減速差動装置5と、モータ6と、センサユニット7と、制御装置8とを備える(図1参照)。この車両用駆動システム1は、例えば、エンジン2を動力源とするエンジン走行とモータ6を動力源とするモータ走行とを切り替えるハイブリッド走行を実現できるハイブリッド車両に適用される。
【0014】
エンジン2は、第一の動力源であり、駆動トルクを発生して出力軸21から出力する。このエンジン2は、内燃機関あるいは外燃機関である。例えば、この実施の形態では、ガソリンを燃料とするレシプロ式エンジンが採用されている。
【0015】
クラッチ3は、駆動トルクの伝達の許可および遮断を切り替える機械要素である。また、クラッチ3は、そのクラッチトルク(伝達トルク容量)を変更できる。また、クラッチ3は、入力側回転部31および出力側回転部32を有し、入力側回転部31にてエンジン2の出力軸21に連結されて、エンジン2の後段に配置される。また、クラッチ3は、入力側回転部31および出力側回転部32の係合状態にてトルク伝達を許可し、これらの開放状態にてトルク伝達を遮断する。また、クラッチ3は、油圧機構(図示省略)を備え、この油圧機構により入力側回転部31と出力側回転部32との係合力を調整して、そのクラッチトルクを変更する。かかるクラッチ3として、例えば、摩擦式クラッチが採用され得る。
【0016】
変速機4は、変速段(あるいは変速比)を自動的に変更できる自動変速機である。また、変速機4は、入力軸41および出力軸42を有し、入力軸41にてクラッチ3の出力側回転部32に連結されて、クラッチ3の後段に配置される。また、変速機4は、その変速段を切り替えることにより、その変速比=(出力軸42の回転数)/(入力軸41の回転数)を変更できる。かかる変速機4として、有段変速機、ベルト式あるいはトロイダル式の無段変速機が採用され得る。例えば、この実施の形態では、変速機4として、ニュートラル(Nレンジ)と、4つの前進段43〜46(Dレンジ)と、1つの後進段47(Rレンジ)とを切り替え可能に有する歯車式の有段自動変速機が採用されている。
【0017】
減速差動装置5は、駆動トルクを減速して車両の左右輪11R、11Lに配分する機械要素である。この減速差動装置5は、入力軸51と、駆動トルクを減速する減速機構52と、車両の左右輪への駆動トルクの配分を調整する差動機構53とを有する。また、減速差動装置5は、入力軸51にて変速機4の出力軸42に連結され、差動機構53にて車輪11R、11Lの車軸12に連結される。
【0018】
モータ6は、第二の動力源であり、駆動トルクを発生して出力軸61から出力する。このモータ6は、出力軸61にて変速機4の出力軸42に連結される。例えば、この実施の形態では、モータ6として、モータ機能およびジェネレータ機能を有する交流同期型のモータジェネレータが採用されている。
【0019】
なお、この実施の形態では、モータ6が変速機4の出力軸42に常時連結されている(図1参照)。しかし、これに限らず、モータ6と変速機4の出力軸42とがモータ用クラッチを介して連結および連結解除できるように構成されても良い(図示省略)。また、モータ6と変速機4の入力軸41とがモータ用クラッチを介して連結および連結解除できるように構成されても良い(図示省略)。また、モータ6と変速機4の入力軸41および出力軸42との接続が相互に切り替え可能に構成されても良い(図示省略)。
【0020】
センサユニット7は、例えば、車両状態量や走行路に関する情報を取得するためのセンサ群である。このセンサユニット7は、アクセル開度θを検出するアクセル開度センサ71と、変速機4のシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ72と、クラッチ3のクラッチ位置(係合および開放にかかる位置)あるいはクラッチトルクを検出するクラッチセンサ73と、各車輪11R、11Lの車輪速度を検出する車輪速度センサ74と、エンジン2の出力軸21の回転数(エンジン回転数)Neを検出するエンジン回転数センサ75と、モータ6の出力軸61の回転数(モータ回転数)Nmを検出するモータ回転数センサ76とを有する。
【0021】
制御装置8は、車両用駆動システム1の動作を制御する装置であり、例えば、ECU(Electrical Control Unit)から構成される。制御装置8は、センサユニット7の出力信号に基づいて所定の出力信号を出力する。この制御装置8は、後述するスリップ発生時におけるモータ回転数維持制御を行うモータ回転数上昇抑制制御部81と、スリップの発生を判定するスリップ判定部82と、エンジン2を駆動制御するエンジン制御部83と、クラッチ3を駆動制御するクラッチ制御部84と、変速機4を駆動制御する変速機制御部85と、モータ6を駆動制御するモータ制御部86と、所定の情報(例えば、各種の制御プログラム、制御マップや閾値などの制御データ)を記憶する記憶部87とを有する。この制御装置8は、センサユニット7の出力信号に基づいて、エンジン2、クラッチ3、変速機4およびモータ6を駆動制御する。これにより、各種の制御が実現される。
【0022】
この車両用駆動システム1では、車両のエンジン走行時には、制御装置8がクラッチ3を係合状態として、エンジン2を駆動する。すると、エンジン2が駆動トルクを発生し、この駆動トルクがクラッチ3を介して変速機4に伝達される。そして、この駆動トルクが変速機4にて変速され、減速差動装置5にて減速されて車両の左右輪11R、11Lに配分される。これにより、車両がエンジン2を動力源として走行する。
【0023】
一方、車両のモータ走行時には、制御装置8がクラッチ3を開放状態としてエンジン2を車軸側の駆動系から分離し、モータ6を駆動する。すると、モータ6が駆動トルクを発生し、この駆動トルクが減速差動装置5を介して車両の左右輪11R、11Lに配分される。これにより、車両がモータ6を動力源として走行する。
【0024】
また、車両用駆動システム1は、エンジン走行とモータ走行とを併用したハイブリッド走行を実現できる。例えば、車両の発進時や低速走行時には、制御装置8がエンジン2を停止してモータ6を駆動することによりモータ走行が行われ、中高速走行時には、制御装置8がモータ6を停止してエンジン2を駆動することよりエンジン走行が行われる。また、車速やバッテリ(図示省略)の充電状態に応じて、エンジン走行とモータ走行との切り替えが行われる。これにより、効率的な走行が実現されて、燃費が向上する。
【0025】
[スリップ発生時におけるモータ回転数上昇抑制制御]
図2は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すフローチャートである。同図は、スリップ発生時におけるモータ回転数上昇抑制制御のフローチャートを示している。
【0026】
一般に、モータ走行時にてタイヤにスリップが発生すると、駆動輪の空転によりモータ回転数が上昇する。すると、モータの稼動状態が制御性の良い正弦波制御領域Aから可変長制御領域Bあるいは矩形波制御領域Cに移行する(図4の破線参照)。すると、モータトルクの制御性が悪化して制御遅れなどが生じ得るため、好ましくない。
【0027】
そこで、この車両用駆動システム1では、モータ走行中にてタイヤにスリップが発生したときに、このスリップ発生に起因するモータ回転数の上昇を抑制する制御が行われる。以下、このモータ回転数上昇抑制制御について説明する(図2参照)。
【0028】
ステップST1では、モータ走行中であるか否かの判定が行われる。モータ走行とは、モータ6を動力源とした走行状態をいう。モータ走行時には、モータ6が通電して駆動トルクを発生し、この駆動トルクが車軸12に伝達されて車両が走行する。また、クラッチ3が開放状態に設定されて、エンジン2から車軸12への駆動トルクの伝達が遮断される。このとき、変速機4の変速段は、いずれかの前進段に設定されても良い。なお、この実施の形態では、車両走行時にて、クラッチセンサ73がクラッチ位置あるいはクラッチトルクを検出して、その検出信号を制御装置8に出力している。そして、制御装置8は、クラッチ3が開放状態にあり、モータ6が通電して駆動トルクを発生しているときに、肯定判定を行っている。このステップST1にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST2に進み、否定判定が行われた場合には、処理が終了される。
【0029】
ステップST2では、スリップが発生したか否かの判定が行われる。例えば、この実施の形態では、車両走行時にて、モータ回転数センサ76がモータ回転数Nmを検出して制御装置8に出力している。そして、制御装置8は、所定のサンプリング時間Δtにおけるモータ回転数Nmの変化率ΔNm/Δtを算出し、この変化率ΔNm/Δtと記憶部87から読み込んだ所定の閾値k1とがΔNm/Δt≧k1の関係にあるときに、スリップが発生したと推定して肯定判定を行っている。このステップST2にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST3に進み、否定判定が行われた場合には、処理が終了される。
【0030】
なお、この実施の形態では、上記のように、モータ回転数Nmに基づいてスリップ判定(ステップST2)が行われている。しかし、これに限らず、スリップ判定は、車輪速度Vwおよび車体速度Vvに基づいて判定されても良い。例えば、車両走行時にて、車輪速度センサ74が駆動輪11R、11Lの車輪速度Vwを検出して制御装置8に出力する。そして、制御装置8が、これらの車輪速度Vwに基づいて車体速度Vvを算出し、これらに基づいてスリップ率S(=(Vv−Vw)/Vv)を算出する。そして、スリップ率Sが所定の閾値以上であるときに、肯定判定が行なわれる。
【0031】
ステップST3では、クラッチトルクTcが所定の増加量ΔTcにて増加される。このとき、クラッチ3が開放状態にある場合には、クラッチ3を係合状態とする制御が行われる。クラッチトルクTcが増加すると、スリップ(駆動輪11R、11Lの空転)により発生したモータ6の余分な回転エネルギーがエンジン2の回転エネルギーとして吸収されて、モータ回転数Nmの上昇が抑制される。なお、この実施の形態では、制御装置8がクラッチ3の油圧機構(図示省略)を駆動制御してクラッチトルクを増加させている。また、クラッチトルクTcの増加量ΔTcが一定に設定されている。このステップST3の後に、ステップST4に進む。
【0032】
ステップST4では、所定のサンプリング時間Δtにおけるモータ回転数Nmの変化率ΔNm/Δtが所定の閾値k2以下となったか否かが判定される。すなわち、ΔNm/Δt≦k2の場合には、クラッチトルクTcが適正であり、モータ回転数Nmの上昇が抑制されているといえる。一方、ΔNm/Δt>k2の場合には、クラッチトルクが不足しているため、さらにクラッチトルクTcを増加させる必要があるといえる。なお、この実施の形態では、制御装置8が、モータ回転数センサ76の出力信号と記憶部87から読み込んだ所定の閾値k2とに基づいて、この判定を行っている。このステップST4にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST5に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST3に戻る。すなわち、否定判定(クラッチトルクTcが不足している)の場合には、クラッチトルクTcをさらに増加させるために、ステップST3に戻る。
【0033】
ステップST5では、クラッチトルクTcが所定の減少量ΔTc’にて減少される。すなわち、クラッチトルク増加制御(ステップST3およびステップST4)によって増加したクラッチトルクTcを減少させて元に戻す制御が行われる。なお、この実施の形態では、制御装置8がクラッチ3の油圧機構を駆動制御してクラッチトルクを減少させている。また、クラッチトルクTcの減少量ΔTc’が一定に設定されている。このステップST5の後に、ステップST6に進む。
【0034】
ステップST6では、モータ回転数Nmがスリップ発生前の回転数に復帰したか否かが判定される。すなわち、クラッチトルク減少制御(ステップST5)により、モータ回転数NmがモータトルクTmに対応した適正な回転数に収束したか否かが判定される。なお、この実施の形態では、制御装置8がこの判定を行っている。このステップST6にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST7に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST5に戻る。すなわち、否定判定(モータ回転数Nmがスリップ発生前の回転数に復帰していない)の場合には、クラッチトルクTcをさらに減少させるために、ステップST5に戻る。
【0035】
なお、モータ回転数Nmの復帰判定(ステップST6)は、以下のように行われ得る。例えば、(1)制御装置8が、スリップ発生直前(ステップST2の肯定判定が行われる直前のサンプリング時刻)におけるモータ回転数Nmを記憶部87に記憶しておき、このスリップ発生直前のモータ回転数Nmと現在のモータ回転数Nmとの差が所定の閾値以下となったときに、肯定判定を行う。あるいは、(2)制御装置8が、各車輪11R、11Lの車輪速度Vwに基づいて車体速度Vvを算出し、スリップ判定(ステップST2)にかかる車輪速度Vwと車体速度Vvとの差が所定の閾値以下となったときに、肯定判定を行う。
【0036】
ステップST7では、クラッチ3が開放される。これにより、エンジン2が駆動系から分離されて、スリップ発生前のモータ走行状態に戻る。このステップST7の後に、処理が終了される。
【0037】
[モータ回転数上昇抑制制御の具体例]
図3は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すタイムチャート(図3)および説明図(図4)である。これらの図は、スリップ発生時におけるモータ回転数上昇抑制制御の実施例のタイムチャートおよび説明図をそれぞれ示している。以下、この実施例について、図1〜図4を参照しつつ説明する。
【0038】
t=t0では、車両がモータ走行している(ステップST1の肯定判定)(図2および図3参照)。また、各車輪11R、11Lにスリップが発生していない(図3(a)参照)。また、アクセル開度θが一定に維持されて、車両が一定速度で走行している(図3(b)参照)。このため、各車輪11R、11Lの車輪速度Vwが一定である(図3(c)参照)。また、モータ6が一定のモータトルクTmを出力している(図3(d)参照)。また、クラッチ3が開放状態にあり、クラッチトルクTcがTc=0[rpm]となっている(図3(e)参照)。また、エンジン2が停止して、エンジントルクTe(出力トルク)がTe=0[rpm]となっている(図3(f)参照)。また、モータ回転数Nmが一定であり(図3(g)参照)、エンジン回転数NeがNe=0[rpm]となっている(図3(h)参照)。
【0039】
t=t1〜t2では、走行路の路面ギャップや路面摩擦係数の変化により、タイヤの空転が発生する。すると、車輪速度Vwおよびスリップ率Sが増加し、また、車輪11R、11Lへの負荷が低下してモータ回転数Nmが上昇する(図3(a)、(c)および(g)参照)。そして、所定のサンプリング時間Δtにおけるモータ回転数Nmの変化率ΔNm/Δtが所定の閾値k1以上(ΔNm/Δt≧k1)となると、制御装置8がスリップの発生を検出する(ステップST2の肯定判定)。
【0040】
t=t2〜t3では、制御装置8がクラッチトルク増加制御を開始する(ステップST3およびステップST4)。このとき、クラッチ3が開放状態にある場合には、制御装置8がクラッチ3の油圧機構(図示省略)を駆動してクラッチ3を係合状態とする。また、変速機4の変速段がいずれかの前進段に設定される(図示省略)。このクラッチトルク増加制御では、制御装置8が、クラッチ3の油圧機構を駆動制御してクラッチトルクTcを所定の増加量ΔTcずつ増加させる(図3(e)参照)。すると、スリップ(車輪の空転)により発生したモータ6の余分な回転エネルギーがエンジン2の回転エネルギーとして吸収されて、モータ回転数Nmの上昇が抑制される(図3(g)参照)。また、これに伴って、エンジン回転数Neが上昇する(図3(h)参照)。
【0041】
モータ回転数Nmの上昇が抑制されると、モータトルクTmが制御性の良い領域(特に、正弦波制御領域A)に保持される(図4参照)。これにより、スリップ発生時にも、モータ6の制御性が適正に確保される。
【0042】
t=t3〜t4では、クラッチトルク増加制御(ステップST3およびステップST4)により、あるいは、タイヤ接地状態の復帰による車輪速度Vwおよびスリップ率Sの減少(図3(a)および(c)参照)により、モータ回転数Nmが減少し始める。そして、モータ回転数Nmの変化率ΔNm/Δtが所定の閾値k2以下(ΔNm/Δt≦k2)となると、制御装置8がクラッチトルク増加制御を終了する(ステップST4の肯定判定)。
【0043】
t=t4〜t5では、制御装置8がクラッチトルク減少制御を行う(ステップST5およびステップST6)。このクラッチトルク減少制御では、制御装置8がクラッチ3の油圧機構を駆動制御してクラッチトルクTcを所定の減少量ΔTc’ずつ減少させる(図3(e)参照)。
【0044】
t=t5では、モータ回転数Nmがスリップ発生前の回転数に復帰する(図3(g)参照)。すると、制御装置8がクラッチ3を開放して、モータ6とエンジン2とを分離する(ステップST6の肯定判定およびステップST7)。これにより、スリップ発生前のモータ走行状態に戻る。
【0045】
[効果]
以上説明したように、この車両用駆動システム1は、エンジン2およびモータ6の間に配置されると共にクラッチトルク(伝達トルク容量)Tcを制御できるクラッチ3と、このクラッチ3のクラッチトルクTcを制御する制御装置8とを備える(図1参照)。そして、制御装置8は、モータ6を動力源としたモータ走行時であって車輪11R、11Lにスリップが発生したときに(ステップST1の肯定判定およびステップST2の肯定判定)、クラッチ3のクラッチトルクTcを増加させる(ステップST3)(図2参照)。
【0046】
かかる構成では、スリップにより発生したモータ6の余分な回転エネルギーが、クラッチ3を介してエンジン2に伝達して、エンジン2の回転エネルギーとして吸収される。すると、モータ回転数Nmの上昇が抑制されて、モータトルクTmが制御性の良い領域(特に、正弦波制御領域A)に保持される(図3(g)、(d)および図4参照)。これにより、スリップ発生時にも、モータ6の制御性を適正に確保できる利点がある。また、かかる構成では、モータを駆動制御してモータ回転数を制御する構成(図示省略)と比較して、制御遅れが生じ難い利点がある。
【0047】
また、この車両用駆動システム1では、制御装置8は、モータ6のモータ回転数Nmの変化率ΔNm/Δtが所定の閾値k1以上となったときに、車輪11R、11Lにスリップが発生したと判定する(ステップST2の肯定判定)(図2参照)。かかる構成では、制御対象であるモータ回転数Nmに基づいて、クラッチトルクTcを増加させる制御が行われる(ステップST3)を行う。これにより、モータ回転数Nmの上昇抑制制御が適正に行われる利点がある。
【0048】
また、この車両用駆動システム1では、制御装置8は、クラッチ3のクラッチトルクTcを増加(ステップST3)させた後であってモータ6のモータ回転数Nmの変化率ΔNm/Δtが所定の閾値k2以下となったときに、クラッチ3のクラッチトルクTcを減少させる(ステップST5)(図2参照)。これにより、クラッチトルクTcの増加が過剰となる事態を防止できる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、この発明にかかる車両用駆動システムは、スリップ発生時にてモータの制御性を適正に確保できる点で有用である。
【符号の説明】
【0050】
1 車両用駆動システム、2 エンジン、21 出力軸、3 クラッチ、31 入力側回転部、32 出力側回転部、4 変速機、41 入力軸、42 出力軸、43〜46 前進段、47 後進段、5 減速差動装置、51 入力軸、52 減速機構、53 差動機構、6 モータ、61 出力軸、7 センサユニット、71 アクセル開度センサ、72 シフトポジションセンサ、73 クラッチセンサ、74 車輪速度センサ、75 エンジン回転数センサ、76 モータ回転数センサ、8 制御装置、81 モータ回転数維持制御部、82 スリップ判定部、83 エンジン制御部、84 クラッチ制御部、85 変速機制御部、86 モータ制御部、87 記憶部、11R、11L 車輪、12 車軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンおよびモータを動力源としたハイブリッド走行を実現できる車両用駆動システムであって、
前記エンジンおよび前記モータの間に配置されると共にクラッチトルクを制御できるクラッチと、前記クラッチのクラッチトルクを制御する制御装置とを備え、且つ、
前記制御装置は、前記モータを動力源としたモータ走行時であって車輪にスリップが発生したときに、前記クラッチのクラッチトルクを増加させることを特徴とする車両用駆動システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記モータのモータ回転数の変化率が所定の閾値以上となったときに、前記車輪にスリップが発生したと判定する請求項1に記載の車両用駆動システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記クラッチのクラッチトルクを増加させた後であって前記モータのモータ回転数の変化率が所定の閾値以下となったときに、前記クラッチのクラッチトルクを減少させる請求項1または2に記載の車両用駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−121447(P2012−121447A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273787(P2010−273787)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】