説明

車両用駆動力制御装置

【課題】運転者の減速意図に基づいて減速制御を行い、運転者の加速意図に基づいて減速制御から復帰する車両用駆動力制御装置において、運転者の感覚に合ったタイミングで走行環境パラメータに基づく減速制御から復帰する。
【解決手段】車両の走行環境(S1)及び運転者の減速意図(S2)に基づいて減速制御(S3)を行うとともに、運転者の加速意図(S4)に基づいて予め設定された復帰時間の経過後(S8、S9)に前記減速制御から復帰(S10)する車両用駆動力制御装置であって、前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境(S5、S6)に基づいて、前記復帰時間が可変に設定される(S7)。前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境に基づいて、前記運転者の加速意図が検出された後に運転者の減速意図が検出される可能性が高いと判定された場合(S5−Y、S6−Y)には、前記復帰時間が大きな値に設定される(S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動力制御装置に関し、特に、走行環境パラメータに基づいて、運転者の減速意図に基づいて自動変速機のダウンシフト制御を行う車両用駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コーナー、先行車両、交差点、一時停止、踏み切り、料金所、信号機、横断歩道、横断歩行者、見通し、道路勾配、退出路を含む走行環境パラメータに基づいて、車両の減速の必要性を判断し、その減速の必要性に応じて、運転者による減速意図(例えばアクセルオフやブレーキオン)が検出されたときに、車両に減速度を付与する技術が知られている。
【0003】
減速度を付与する制御として、例えば、自動変速機のダウンシフト制御が行われる。ダウンシフト制御の実行中に、運転者の加速意図(例えばアクセルオン)が検出された場合には、走行環境パラメータに基づくダウンシフト制御から、通常の変速制御(例えばアクセル開度と車速に基づいて変速段が決定される変速マップが使用される変速制御)に復帰する。
【0004】
走行環境パラメータに基づくダウンシフト制御において、運転者の加速意図(アクセルON)が検出された時点から通常の変速制御に復帰するまでに所定の待ち時間(復帰タイマ時間)が設けられることがある。この場合、加速意図が検出されてから、復帰タイマ時間が経過したときに、走行環境パラメータに基づくダウンシフト制御から通常の変速制御に復帰する。
【0005】
例えば、特開平10−141491号公報(特許文献1)には、ナビゲーションシステムに記憶されている道路情報に基づき、高速道路から分岐するランプウエイでシフトダウン制御を行い、減速を補助する車両制御装置が開示されている。
【0006】
上記特許文献1の車両制御装置は、道路情報を記憶した道路情報記憶手段と、道路上の自車位置を検出する自車位置検出手段と、車速を検出する車速検出手段と、記憶されている道路情報から属性の異なる道路を接続する接続路を検出する接続路検出手段と、自車位置と検出された接続路に基づき、制御区間を設定する制御区間設定手段と、自動的に変速比を選択する自動変速装置と、前記制御区間内において、車速から変速比を変更しうる範囲を決定する変速比規制手段と、運転者の運転操作を検出する運転操作検出手段と、前記自動変速装置の選択する変速比を、所定の運転操作に基づき、決定された範囲内とするように設定する変速比設定手段とを有する。前記変速比設定手段は、車速が所定の範囲内であって、アクセルのオフ操作およびブレーキのオン操作が検出されたとき、変速比を決定された上限の範囲内とするように設定する。
【0007】
上記特許文献1の車両制御装置では、アクセルONの操作が行われると、減速制御から通常制御に復帰する。復帰した先がコーナーや下り坂などであった場合には、再び運転者が減速度を必要とし、アクセルをOFFとする可能性が高い。アクセルをOFFとすると再びダウンシフトを実施するため、ビジーシフトになってしまい、運転者に不快感を与えてしまうことがある。
【0008】
また、例えば、特開平8−28694号公報(特許文献2)には、降坂制御と通常制御とが必要以上に切換えられるのを防止すると共に、真に降坂制御から通常制御に復帰すべき状態のときには、速かに復帰できるようにする、降坂路における車両用自動変速機の制御装置が開示されている。
【0009】
上記特許文献2の降坂路における車両用自動変速機の制御装置は、降坂路を走行中か否かを判断する手段と、アクセル開放を検出する手段と、を備え、降坂路を走行中と判断されたときに該降坂路に適した変速段とする降坂制御を実行すると共に、アクセルが踏込まれたと検出されたときに遅延時間経過後に該降坂制御を解除する降坂路における車両用自動変速機の制御装置において、アクセル開度を検出する手段と、前記遅延時間を、アクセル開度が所定値より大きいときは小さいときより長く設定する遅延時間設定手段と、を備える。その降坂路における車両用自動変速機の制御装置は、更に、車速を検出する手段を備え、前記アクセル開度の所定値を、車速が高いときには車速が低いときより大きく設定するものであることができる。
【0010】
上記特許文献2の降坂路における車両用自動変速機の制御装置では、アクセル開度の大きさや車速に基づき遅延時間(復帰タイマ時間)を変更しているが、アクセル開度の大きさだけでは最適な復帰タイミングを設定できない場合がある。
【0011】
例えば、追従制御が行われている場合に、高速本線から退出路に進入する直前で前の車両に追いつき、アクセルOFFされてダウンシフト制御が実施されたとする。ダウンシフト制御が実施された状態で退出路に進入後、アクセルONすると復帰タイマ時間の経過後に走行環境パラメータに基づくダウンシフト制御から復帰してしまう。この場合、退出路を走行中であるので、減速度を求めるべく、運転者が再びアクセルをOFFとする可能性が高い。このことは、走行環境パラメータに基づくダウンシフト制御からの復帰が運転者の感覚に合ったタイミングで行われない可能性が高いことを示している。
【0012】
【特許文献1】特開平10−141491号公報
【特許文献2】特開平8−28694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
走行環境パラメータに基づいて、運転者の減速意図に基づいて減速制御(自動変速機のダウンシフト制御を含む)を行い、運転者の加速意図に基づいて減速制御から復帰する車両用駆動力制御装置において、運転者の感覚に合ったタイミングで走行環境パラメータに基づく減速制御から復帰できることが望まれている。
【0014】
本発明の目的は、運転者の減速意図に基づいて減速制御(自動変速機のダウンシフト制御を含む)を行い、運転者の加速意図に基づいて減速制御から復帰する車両用駆動力制御装置において、運転者の感覚に合ったタイミングで走行環境パラメータに基づく減速制御から復帰することが可能な車両用駆動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の車両用駆動力制御装置は、車両の走行環境及び運転者の減速意図に基づいて減速制御を行うとともに、運転者の加速意図に基づいて予め設定された復帰時間の経過後に前記減速制御から復帰する車両用駆動力制御装置であって、前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境に基づいて、前記復帰時間が可変に設定されることを特徴としている。
【0016】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境に基づいて、前記運転者の加速意図が検出された後に運転者の減速意図が検出される可能性が高いと判定された場合には、前記復帰時間が大きな値に設定されることを特徴としている。
【0017】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境に基づいて、予め設定された条件の道路の走行時よりも大きな駆動力が必要とされる可能性が高いと判定された場合には、前記復帰時間が大きな値に設定されることを特徴としている。
【0018】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記予め設定された条件の道路は、平坦路及び直線路の少なくともいずれか一方であることを特徴としている。
【0019】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記復帰時間は、前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境の種類及び特性を示す値の少なくともいずれか一方に基づいて設定されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車両用駆動力制御装置によれば、運転者の減速意図に基づいて減速制御(自動変速機のダウンシフト制御を含む)を行い、運転者の加速意図に基づいて減速制御から復帰する車両用駆動力制御装置において、運転者の感覚に合ったタイミングで走行環境パラメータに基づく減速制御から復帰することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の車両用駆動力制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
(第1実施形態)
図1及び図2を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、走行環境パラメータに基づいて、運転者の減速意図に基づいて自動変速機のダウンシフト制御を行い、運転者の加速意図に基づいてダウンシフト制御から復帰する車両用駆動力制御装置に関する。
【0023】
本実施形態では、高速道路の退出路判定や自車と前車の位置関係に基づきダウンシフト制御を実施し、アクセルONと復帰タイマ時間の経過でダウンシフト制御からの復帰(アップシフト)を実施するものにおいて、復帰タイマ値を道路形状(直線、コーナー、道路勾配)や、道路種別(合流路、退出路)などで変更し、運転者の感覚に合った復帰タイミングを実現する。
【0024】
運転者の減速意図(アクセルOFFなど)が検出された場合に、走行環境パラメータに基づいて自動変速機のダウンシフト制御(減速制御)が実施される。ダウンシフト制御は、例えば、自車が高速道路本線からの退出路を走行中であるか否かや、自車と前車の位置関係などに基づいて実施される。そのダウンシフト制御中に、運転者の加速意図(アクセルONなど)が検出された場合には、加速意図が検出されてから予め定められた所定時間(復帰タイマ時間)が経過した時点で、そのダウンシフト制御から通常制御に復帰(アップシフト)する。
【0025】
ここで、ダウンシフト制御中にアクセルONの操作が行われた場合に、常に一定の復帰タイマ時間でダウンシフト制御から復帰したのでは、運転者の感覚に合わない場合がある。走行環境によっては、すぐにダウンシフト制御から復帰せずに通常よりも長い時間ダウンシフト制御を継続した方が望ましいことがある。
【0026】
例えば、高速道路本線から退出路に進入する直前で前車との位置関係に基づきダウンシフト制御が行われ、そのまま退出路に進入する例では、退出路を走行中であるので、再び減速するためにアクセルOFFする可能性が高い。従って、アクセルONされたとしても、すぐにダウンシフト制御から復帰せずに、復帰タイマ時間を長く設定し、再度のアクセルOFFに備えることが望ましい。
【0027】
また、退出路の道路形状(直線路又はコーナー、道路勾配など)は様々であるため、退出路走行中にアクセルONがされたとしても、再び運転者の減速意図が再び検出される可能性が高い場合があり、その場合には、復帰タイマ時間が長い方が好ましい。
【0028】
本実施形態では、復帰タイマ時間が、道路形状(直線、コーナー、勾配等)や道路種別(合流路、退出路等)などに基づいて変更されることで、運転者の感覚に合った復帰タイミングが実現される。
【0029】
より具体的には、走行環境パラメータ及び運転者の減速意図に基づくダウンシフト制御中に、アクセルONの操作が行われた場合(後述する図1のステップS4−Y)に、その時点の走行環境パラメータに基づいて、その後に運転者の減速意図が再び検出される可能性が高いか否かが判定される(図1のステップS5、S6)。アクセルONの操作が行われた時点で、運転者の減速意図が再び検出される可能性が高いと判断される(図1のステップS5−Y、S6−Y)時は、復帰タイマ時間(復帰タイマ値)が通常よりも大きくなる方向に補正され(図1のステップS7)、ダウンシフト制御から復帰しにくくされる。これにより、運転者の減速意図が再度検出された時に高速段規制状態が維持されやすくなり、不要なアップシフトおよびダウンシフトが防止され、ドライバビリティーが向上する。
【0030】
運転者の減速意図が再び検出される可能性が高い走行環境パラメータとは、コーナー、前方車両、交差点、一時停止、踏み切り、料金所、信号、横断歩道、横断歩行者、見通し(悪い)、降坂路、退出路などである。
【0031】
本実施形態の構成としては、以下の(1)及び(2)の2つの構成を備えていることが前提となる。
(1)走行環境パラメータ(コーナー、先行車両、交差点、一時停止、踏み切り、料金所、信号、横断歩道、横断歩行者、見通し、道路勾配、退出路等)を検知する手段。
(2)走行環境パラメータと運転者の減速意図(アクセルOFF、ブレーキON等)に基づきダウンシフト制御を実施し、アクセルONを起点とする復帰タイマの終了で走行環境パラメータと運転者の減速意図に基づくダウンシフト制御からの復帰(アップシフト)制御を行う手段を備える自動変速機(AT、CVT、HV用変速機等)。
【0032】
運転者の減速意図が再び検出される可能性が高いと判定されて復帰タイマ時間が通常よりも大きな値に補正されるケースについて、以下に例示する。
【0033】
(例1)
追従制御において、前車との位置関係及び運転者の減速意図に基づいてダウンシフト制御が行われた状態で、アクセルON時に走行中又は車両前方の道路が退出路であると判定された場合に、復帰タイマ時間が通常より大きな値に変更される。
【0034】
(例2)
高速退出制御(高速道路の退出路進入を判定し、運転者の減速意図でダウンシフトする制御)において、ダウンシフト制御が行われた状態で、アクセルON時に車両前方がコーナーであると判定された場合に、復帰タイマ時間が通常より大きな値に変更される。
【0035】
本実施形態では、上記(例2)の場合について、その制御方法を説明する。
【0036】
図2を参照して、本実施形態の構成について説明する。
【0037】
図2において、符号10は有段の自動変速機、40はエンジンである。自動変速機10は、電磁弁121a、121b、121cへの通電/非通電により油圧が制御されて5段変速が可能である。図2では、3つの電磁弁121a、121b、121cが図示されるが、電磁弁の数は3に限定されない。電磁弁121a、121b、121cは、制御回路130からの信号によって駆動される。
【0038】
スロットル開度センサ114は、エンジン40の吸気通路41内に配置されたスロットルバルブ43の開度を検出する。エンジン回転数センサ116は、エンジン40の回転数を検出する。車速センサ122は、車速に比例する自動変速機10の出力軸120cの回転数を検出する。シフトポジションセンサ123は、シフトポジションを検出する。パターンセレクトスイッチ117は、変速パターンを指示する際に使用される。加速度センサ90は、車両の減速度(減速加速度)を検出する。車間距離計測部100は、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサ又はミリ波レーダーセンサなどのセンサを有し、先行車両との車間距離を計測する。カメラ119は、車両の前方及び後方の少なくともいずれか一方を撮像するように車両に搭載される。
【0039】
ナビゲーションシステム装置95は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としており、演算処理装置と、車両の走行に必要な情報(地図、直線路、カーブ、登降坂、高速道路など)が記憶された情報記憶媒体と、自立航法により自車両の現在位置や道路状況を検出し、地磁気センサやジャイロコンパス、ステアリングセンサを含む第1情報検出装置と、電波航法により自車両の現在位置、道路状況などを検出するためのもので、GPSアンテナやGPS受信機などを含む第2情報検出装置等を備えている。
【0040】
制御回路130は、スロットル開度センサ114、エンジン回転数センサ116、車速センサ122、シフトポジションセンサ123、及び加速度センサ90の各検出結果を示す信号を入力し、また、パターンセレクトスイッチ117のスイッチング状態を示す信号を入力し、また、ナビゲーションシステム装置95からの信号を入力する。
【0041】
制御回路130は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU131、RAM132、ROM133、入力ポート134、出力ポート135、及びコモンバス136を備えている。入力ポート134には、上述の各センサ114、116、122、123、90からの信号、上述のスイッチ117からの信号、ナビゲーションシステム装置95からの信号が入力される。出力ポート135には、電磁弁駆動部138a、138b、138cが接続されている。
【0042】
制御回路130は、道路勾配を計測又は推定する道路勾配計測・推定部118を有している。道路勾配計測・推定部118は、CPU131の一部として設けられることができる。道路勾配計測・推定部118は、加速度センサ90により検出された加速度に基づいて、道路勾配を計測又は推定するものであることができる。また、道路勾配計測・推定部118は、平坦路での加速度を予めROM133に記憶させておき、実際に加速度センサ90により検出した加速度と比較して道路勾配を求めるものであることができる。
【0043】
ROM133には、予め図1のフローチャートに示す動作(制御ステップ)が記述されたプログラムが格納されているとともに、変速制御の動作(図示せず)が格納されている。制御回路130は、入力した各種制御条件に基づいて、自動変速機10の変速を行う。
【0044】
図1及び図2を参照して、本実施形態の動作を説明する。
【0045】
図1のステップS1では、制御回路130により、車両が高速道路の本線からICやSA、PA等へ接続する退出路を走行しているか否かが判定される。制御回路130は、ナビゲーションシステム装置95から入力した現在位置情報やカメラ119から入力される情報に基づいて、車両が退出路を走行中であるか否かを判定する。その判定の結果、車両が退出路を走行していると判定された場合(ステップS1−Y)には、ステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)には、本制御フローはリターンされる。
【0046】
ステップS2では、制御回路130により、運転者の減速意図が検出されたか否かが判定される。スロットル開度センサ114からの信号に基づいて、アクセルがOFFの状態(全閉)か否かが判定される。なお、ステップS2では、アクセルOFFに代えて、ブレーキONを検出することにより、運転者の減速意図を検出してもよい。または、アクセル戻し操作(アクセル戻し速度)に基づいて、運転者の減速意図を検出してもよい。
【0047】
ステップS2の判定の結果、運転者の減速意図が検出されたと判定された場合(ステップS2−Y)には、ステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)には、本制御フローはリターンされる。
【0048】
ステップS3では、制御回路130により、自動変速機10の変速段の高速段規制が行われて、ダウンシフト制御が行われる。制御回路130により、選択すべき変速段(目標変速段)が設定される。目標変速段は、退出路を走行するために適切な減速度に基づいて設定される。例えば、目標変速段が4速変速段であるケースでは、5速変速段が規制される。この場合、車速及びスロットル開度から予め設定された変速段マップに基づいて設定される変速段が、5速変速段以上である場合には、4速変速段にダウンシフト制御される。一方、上記変速段マップに従って決定された変速段が4速変速段以下である場合には、5速変速段の規制(高速段規制)に影響されず、そのままの変速段とされる。
【0049】
ステップS3において、高速段規制が行われた後の変速段が決定されると、制御回路130のCPU131から電磁弁駆動部138a〜138cにその変速段へのダウンシフト指令(変速指令)が出力される。ダウンシフト指令に応答して、電磁弁駆動部138a〜138cは、電磁弁121a〜121cを通電又は非通電にする。これにより、自動変速機10では、ダウンシフト指令に指示される変速が実行される。ステップS3が実行されると、ステップS4に進む。
【0050】
ステップS4では、制御回路130により、アクセルONの操作が行われたか否かが判定される。ステップS4では、運転者の加速意図が検出されたか否かが判定される。ステップS4の判定の結果、アクセルONの操作が行われたと判定された場合(ステップS4−Y)には、ステップS5に進む。アクセルONの操作が行われたと判定されなかった場合(ステップS4−N)には、ステップS4の判定が繰り返されて、高速段規制が継続される。
【0051】
ステップS5では、制御回路130により、現在もしくは前方がコーナーであるか否かが判定される。ステップS5では、コーナー走行に伴い運転者の減速意図が再び検出される可能性が高いか否かが判定される。制御回路130は、ナビゲーションシステム装置95から入力された情報に基づいて、ステップS5の判定を行う。その判定の結果、現在もしくは前方がコーナーであると判定された場合(ステップS5−Y)には、ステップS7に進み、そうでない場合(ステップS5−N)には、ステップS6に進む。
【0052】
ステップS6では、制御回路130により、現在もしくは前方が降坂路か否かが判定される。ステップS6では、降坂路走行に伴い運転者の減速意図が再び検出される可能性が高いか否かが判定される。制御回路130は、ナビゲーションシステム装置95から入力された情報に基づいて、ステップS6の判定を行う。なお、ステップS6の判定は、道路勾配計測・推定部118から入力される情報に基づいて行われてもよい。または、車両の加速度の演算値に基づいてステップS6の判定が行われてもよい。
【0053】
ステップS6の判定の結果、現在もしくは前方が降坂路であると判定された場合(ステップS6−Y)には、ステップS7に進み、そうでない場合(ステップS6−N)には、ステップS8に進む。
【0054】
ステップS7では、制御回路130により、運転者の加速意図(アクセルON)が検出されてからダウンシフト制御を終了する(ダウンシフト制御から復帰する)までの復帰時間である復帰タイマ値が大きな値に変更される。ステップS7では、復帰タイマ値が、車両の前方にコーナー及び降坂路等が検出されない場合(ステップS5−N、S6−N)の値(通常の値)に比べて、大きな値に設定される。
【0055】
復帰タイマ値が大きな値に変更される際の増加分(補正度合い)は、コーナーまでの距離、コーナー区間の長さや降坂区間の長さ等(走行環境の種類及びその特性を示す値)に基づいて変更されることができる。ステップS7で復帰タイマ値が変更されると、ステップS8に進む。
【0056】
ステップS8では、制御回路130により、運転者の加速意図が検出された時点からの経過時間の計測を行う復帰タイマがスタートされる。復帰タイマは、スタートされてからの経過時間が復帰タイマ値に達すると終了する。ステップS8が実行されると、ステップS9に進む。
【0057】
ステップS9では、制御回路130により、復帰タイマが終了したか否かが判定される。その判定の結果、復帰タイマが終了したと判定された場合(ステップS9−Y)には、ステップS10に進み、そうでない場合(ステップS9−N)には、ステップS9の判定が繰り返される。
【0058】
ステップS10では、制御回路130により、アップシフトが実施される。制御回路130により、高速段規制が解除され、自動変速機10の変速制御が、通常の変速制御に復帰する。ステップS10が実行されると、本制御フローはリターンされる。
【0059】
本実施形態によれば、走行環境パラメータ(ステップS1−Y)及び運転者の減速意図(ステップS2−Y)に基づくダウンシフト制御(ステップS3)が行われている状態で、運転者の加速意図が検出される(ステップS4−Y)と、その後に運転者の減速意図が再び検出される可能性が高いか否かが判定される(ステップS5、S6)。運転者の減速意図が再び検出される可能性が高いと判定された場合(ステップS5−Y、S6−Y)には、そうでない場合(ステップS5−N、S6−N)に比べて、復帰タイマ値が大きな値に設定される(ステップS7)。これにより、運転者の減速意図が再度検出されるときまで高速段規制状態が維持されやすくなる。その結果、不要なアップシフト及びダウンシフトが抑制され、ドライバビリティーが向上する。
【0060】
(第1実施形態の第1変形例)
第1実施形態の第1変形例について説明する。
【0061】
上記第1実施形態(図1)では、運転者の減速意図が検出された場合(ステップS2−Y)に、減速度を増加させる手段として、自動変速機10においてダウンシフト制御が行われた(ステップS3)が、これに代えて、自動変速機(CVT、HV用変速機、MMT(自動変速モード付きマニュアルトランスミッション))においてダウンシフト制御が行われることができる。
【0062】
(第1実施形態の第2変形例)
第1実施形態の第2変形例について説明する。
【0063】
上記第1実施形態では、アクセルONの操作の後に運転者の減速意図が再び検出される可能性が高いか否かの判定を行う走行環境パラメータとして、コーナーと降坂路の2つのパラメータが使用された。上記判定に用いられる走行環境パラメータは、これには限らず、先行車両、交差点、一時停止、踏み切り、料金所、信号、横断歩道、横断歩行者、見通し、道路勾配、退出路等が用いられることができる。
【0064】
また、上記判定に用いられる走行環境パラメータは、単独で用いられても、複数のパラメータを組み合わせて用いられてもよい。
【0065】
(第1実施形態の第3変形例)
第1実施形態の第3変形例について説明する。
【0066】
上記第1実施形態(図1)では、現在もしくは前方に、コーナーがある場合(ステップS5−Y)又は降坂路がある場合(ステップS6−Y)に、復帰タイマ値が大きな値に変更された(ステップS7)。ここで、復帰タイマ値を大きな値に変更する場合に、走行環境パラメータの種類によって、増加分の適正値が異なる場合がある。本変形例では、復帰タイマ値の増加分が、走行環境パラメータの種類に基づいて設定される。
【0067】
図3は、本変形例の動作を示すフローチャートである。ステップS50で現在もしくは前方にコーナーがあると判定された場合(ステップS50−Y)には、ステップS70に進み、そうでない場合(ステップS50−N)には、ステップS60に進む。
【0068】
ステップS70では、制御回路130により、復帰タイマ値が大きな値に変更される。復帰タイマ値は、予め定められた、現在もしくは前方にコーナーが有る場合の復帰タイマ値に設定される。ステップS70が実行されると、ステップS80に進む。
【0069】
ステップS60で現在もしくは前方に降坂路があると判定された場合(ステップS60−Y)には、ステップS75に進み、そうでない場合(ステップS60−N)にはステップS80に進む。
【0070】
ステップS75では、制御回路130により、復帰タイマ値が大きな値に変更される。復帰タイマ値は、予め定められた、現在もしくは前方に降坂路が有る場合の復帰タイマ値に設定される。ステップS75が実行されると、ステップS80に進む。その他の動作は、上記第1実施形態と同様であることができる。
【0071】
本変形例によれば、走行環境パラメータの種類に応じて、復帰タイマ値が適切な長さに設定される。これにより、運転者の感覚に合ったタイミングでダウンシフト制御から復帰することができる。図3の例では、ステップS70の復帰タイマ値に比べて、ステップS75の復帰タイマ値は、大きな値であることができる。例えば、ステップS70の復帰タイマ値は、3秒で、ステップS75の復帰タイマ値は、10秒であることができる。
【0072】
(第2実施形態)
図4を参照して第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0073】
上記第1実施形態では、アクセルON時に、復帰タイマ値が大きな値に変更される条件は、走行環境パラメータに基づいて、運転者の減速意図(アクセルOFF)が再び検出される可能性が高いと判定されることであった。本実施形態では、これに代えて、アクセルON時に、走行環境パラメータに基づいて、その後に平坦・直線路走行よりも大きい駆動力が必要となると判定された場合に、復帰タイマ値が大きな値に変更される。これにより、高速段規制状態が維持されやすくなり、不要なアップシフト及びダウンシフトが防止される。それと同時に、低速側の変速段を使用することで、駆動力が増加し、ドライバビリティーが向上する。
【0074】
走行環境パラメータに基づいて平坦・直線路走行よりも大きい駆動力が必要となると判定される場面とは、合流路、登坂路、コーナー出口などである。平坦・直線路走行よりも大きい駆動力が必要となると判定されて復帰タイマ値が通常よりも大きな値に補正されるケースについて、以下に例示する。
【0075】
(例1)
追従制御において、前車との位置関係及び運転者の減速意図に基づいてダウンシフト制御が行われた状態で、アクセルON時に合流路を走行中であると判定された場合に、復帰タイマ値が通常より大きな値に変更される。
【0076】
(例2)
高速退出制御(高速道路の退出路進入を判定し、運転者の減速意図でダウンシフトする制御)において、ダウンシフト制御が行われた状態で、アクセルON時に車両前方が登坂路であると判定された場合に、復帰タイマ値が通常より大きな値に変更される。
【0077】
本実施形態では、上記(例2)の場合について、その制御方法を説明する。本実施形態の構成としては、上記第1実施形態に加えて、合流路を検出する手段を備えていることが前提となる。
【0078】
図4は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。以下では、主として、図1の動作との相違点を中心に説明する。
【0079】
上記第1実施形態(図1)のステップS1からステップS4と同様に、退出路を走行中であるか否かが判定され、退出路を走行中であると判定された場合(ステップS101−Y)には、次に、運転者の減速意図が検出されたか否かが判定される(ステップS102)。ステップS102の判定の結果、運転者の減速意図が検出されたと判定された場合(ステップS102−Y)には、ダウンシフト制御(高速段規制)が行われる(ステップS103)。次いで、アクセルONの操作が行われたか否かが判定され、アクセルONの操作が行われたと判定された場合(ステップS104−Y)には、ステップS105に進む。
【0080】
ステップS105では、制御回路130により、車両の位置がコーナー出口であるか否かの判定が行われる。ステップS105では、平坦・直線路走行時よりも大きな駆動力が必要であるか否かが判定される。コーナー出口では、平坦・直線路走行時よりも大きな駆動力が必要であると判定される。制御回路130は、ナビゲーションシステム装置95から入力される情報に基づいて、ステップS105の判定を行う。その判定の結果、車両の位置がコーナー出口であると判定された場合(ステップS105−Y)には、ステップS107に進み、そうでない場合(ステップS105−N)には、ステップS106に進む。
【0081】
ステップS106では、制御回路130により、前方が登坂路であるか否かが判定される。ステップS106では、ステップS105と同様に、平坦・直線路走行時よりも大きな駆動力が必要であるか否かが判定される。前方に登坂路が有る場合には、平坦・直線路走行時よりも大きな駆動力が必要であると判定される。
【0082】
なお、ステップS106では、上記に代えて、車両の前方の道路勾配が現在の勾配よりも増加しているか否かが判定されることができる。制御回路130は、ナビゲーションシステム装置95から入力される情報に基づいて、ステップS106の判定を行う。その判定の結果、前方が登坂路であると判定された場合(ステップS106−Y)には、ステップS107に進み、そうでない場合(ステップS106−N)には、ステップS108に進む。
【0083】
ステップS107では、制御回路130により、復帰タイマ値が、車両の位置がコーナー出口でないと判定された場合(ステップS105−N)や前方が登坂路でないと判定された場合(ステップS106−N)に比べて、大きな値に変更される。復帰タイマ値が大きな値に変更される際の増加分(補正度合い)は、コーナーR、コーナー区間の長さ、及び登坂区間の長さ等に基づいて変更されることができる。復帰タイマ値が変更されると、ステップS108に進む。
【0084】
ステップS108からステップS110は、上記第1実施形態のステップS8からステップS10と同様に、復帰タイマがスタートされ(ステップS108)、次に復帰タイマが終了したか否かが判定され(ステップS109)、その判定で肯定的に判定された場合には、アップシフトが実施されて減速制御が終了する(ステップS110)。
【0085】
本実施形態によれば、走行環境パラメータ(ステップS101−Y)及び運転者の減速意図(ステップS102−Y)に基づくダウンシフト制御(ステップS103)が行われている状態で、運転者の加速意図が検出される(ステップS104−Y)と、その後に平坦・直線路走行よりも大きな駆動力が必要となるか否かが判定される(ステップS105、S106)。平坦・直線路走行よりも大きな駆動力が必要となると判定された場合(ステップS105−Y、S106−Y)には、そうでない場合(ステップS105−N、S106−N)に比べて、復帰タイマ値が大きな値に設定される(ステップS107)。これにより、高速段規制状態が維持されやすくなり、不要なアップシフト及びダウンシフトが抑制される。それと同時に、低速側の変速段を使用することで、駆動力が増加し、ドライバビリティーが向上する。
【0086】
上記各実施形態は、適宜組み合わせて行うことができる。
【0087】
また、上記第1実施形態において、減速制御が行われる対象の走行環境(図1の例ではステップS1の退出路)と、アクセルON時の復帰タイマー値を決定する際の走行環境(図1の例では、コーナー又は降坂路)とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。同様に、上記第2実施形態において、減速制御が行われる対象の走行環境(図4の例ではステップS1の退出路)と、アクセルON時の復帰タイマー値を決定する際の走行環境(図4の例では、コーナー出口又は登坂路)とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の概略構成図である。
【図3】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の第3変形例の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の車両用駆動力制御装置の第2実施形態の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0089】
10 自動変速機
40 エンジン
41 吸気通路
43 スロットルバルブ
90 加速度センサ
95 ナビゲーションシステム装置
100 車間距離計測部
114 スロットル開度センサ
116 エンジン回転数センサ
117 パターンセレクトスイッチ
118 道路勾配計測・推定部
119 カメラ
120c 出力軸
121a 電磁弁
121b 電磁弁
121c 電磁弁
122 車速センサ
123 シフトポジションセンサ
130 制御回路
131 CPU
132 RAM
133 ROM
134 入力ポート
135 出力ポート
136 コモンバス
138a 電磁弁駆動部
138b 電磁弁駆動部
138c 電磁弁駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行環境及び運転者の減速意図に基づいて減速制御を行うとともに、運転者の加速意図に基づいて予め設定された復帰時間の経過後に前記減速制御から復帰する車両用駆動力制御装置であって、
前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境に基づいて、前記復帰時間が可変に設定される
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用駆動力制御装置において、
前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境に基づいて、前記運転者の加速意図が検出された後に運転者の減速意図が検出される可能性が高いと判定された場合には、前記復帰時間が大きな値に設定される
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両用駆動力制御装置において、
前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境に基づいて、予め設定された条件の道路の走行時よりも大きな駆動力が必要とされる可能性が高いと判定された場合には、前記復帰時間が大きな値に設定される
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の車両用駆動力制御装置において、
前記予め設定された条件の道路は、平坦路及び直線路の少なくともいずれか一方である
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記復帰時間は、前記運転者の加速意図が検出された際の車両の走行環境の種類及び特性を示す値の少なくともいずれか一方に基づいて設定される
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−2413(P2009−2413A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163075(P2007−163075)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】