説明

車両走行制御装置及びその方法

【課題】車両が衝突した場合に適切な処理を車両に施す。
【解決手段】車両走行制御装置50は、車両10の衝突を検出する衝突検出センサ16、18により衝突が検出されたとき、走行速度制限部22Aにより車両10の最高走行速度を制限速度に制限するようにしているので、衝突発生後の車両10を適切な速度で走行移動させることができる。衝突時の車両の最高走行速度は、例えば、運転中に直ちに停車できる徐行速度程度に制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両が衝突(接触)した後、車両の挙動を規制する新規な構成の車両走行制御装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体の前後のバンパ及びサイドドアに、テープ状の圧電センサを水平方向に配置し、この圧電センサにより車体に作用する外力を検出するようにした車両が提案されている(特許文献1)。
【0003】
このような車両では、走行中に、前記圧電センサにより車両の衝突を検出した場合、制動装置に最大制動力を発生させて自動ブレーキをかけ停車状態を維持させると同時に燃料噴射弁の作動を停止させてエンジンを停止し、車両の運転を停止するように構成されている。そして、その後、エンジンが再起動されたときに、自動ブレーキを解除して復帰させる。
【0004】
【特許文献1】特許第3777287号([0011]、[0023])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両が衝突した際には、車両を安全に路肩へ移動させる必要がある。また、車両の運転を停止した後、バンパを僅かに損傷する等の軽接触に係わる衝突等の場合には、衝突現場における衝突に係わる処理・点検の終了後に、当該車両を最寄りのディーラー等まで走行させ、修理工場で修理専門家による車両の点検、修理を行う必要がある。
【0006】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであって、車両が衝突した後、安全に路肩へ移動させる。または、衝突現場における衝突に係わる処理・点検の終了後に、修理工場等まで衝突車両を適切に走行させることを可能とする車両走行制御装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この項では、理解の容易化のために添付図面中の符号を付けて説明する。従って、この項に記載した内容がその符号を付けたものに限定して解釈されるものではない。
【0008】
この発明に係る車両走行制御装置(50)は、車両(10)の衝突を検出する衝突検出センサ{16及び(又は)18}により衝突が検出されたとき、走行速度制限部(22A)により前記車両の最高走行速度をゼロ以上の所定の速度に制限するようにしているので、衝突発生後の車両を適切な速度で走行移動させることができる。衝突検出時の車両のゼロ以上の所定の速度は、例えば、運転中に直ちに停車できる徐行速度程度に制限する。
【0009】
また、この発明に係る車両走行制御装置(50)は、車両(10)の衝突を検出する衝突検出センサ{16及び(又は)18}により衝突が検出されたとき、走行距離制限部(22B)により前記車両の走行距離をゼロ以上の所定の距離に制限するようにしているので、衝突発生後の車両を適切な(必要な)走行距離だけ走行移動させることができる。
【0010】
この場合、衝突検出センサ{16及び(又は)18}により衝突が検出されたとき、走行速度制限部(22A)により前記車両の速度をゼロ以上の所定の速度に制限し、かつ走行距離制限部(22B)により前記車両の走行距離をゼロ以上の所定の距離に制限するようにしてもよく、このように制御することで、衝突発生後の車両を適切な速度でかつ適切な(必要な)走行距離だけ走行移動させることができる。
【0011】
そして、前記車両が前記制限された走行距離を走行し終わったときに、前記車両の動力を強制的に停止させる動力停止部(22C)をさらに備えることで、車両を確実に点検させる契機を与えることができる。
【0012】
この発明に係る車両用走行制御方法は、衝突検出ステップにより衝突を検出したとき(ステップS2:YES)、走行速度制限ステップ(ステップS8)により前記車両の最高走行速度を制限するようにしたので、衝突発生後の車両を適切な速度で走行移動させることができる。
【0013】
衝突検出ステップにより衝突を検出したとき(ステップS2:YES)、走行距離制限ステップ(ステップS7)により前記車両の走行距離をゼロ以上の所定の距離に制限するようにすることで、衝突発生後の車両を適切な(必要な)走行距離だけ走行移動させることができる。
【0014】
この場合においても、衝突検出ステップにより衝突を検出したとき(ステップS2:YES)、走行速度制限ステップ(ステップS8)により前記車両の速度をゼロ以上の所定の速度に制限し、かつ走行距離制限ステップ(ステップS7)により前記車両の走行距離をゼロ以上の所定の距離に制限するようにしてもよく、このように制御することで、衝突発生後の車両を適切な速度でかつ適切な(必要な)走行距離だけ走行移動させることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、車両が衝突を検出したとき、車両の速度を制限するようにしているので、安全に路肩へ移動できる他、衝突現場における衝突に係わる処理・点検の終了後に、修理工場等まで車両を適切に走行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の車両用走行制御方法を実施する車両走行制御装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、この発明の一実施形態が適用された車両10の外観を示している。車両10中、車体12のバンパ14の最も外側に位置する部位には、水平方向に上下に互いに適宜な間隔離間し、それぞれ複数のセグメントからなるテープ状の2条の圧電センサが衝突検出センサ16、18として装着されている。
【0018】
圧電センサは、バンパ14に直接作用する外力にのみ応答させることができると共に、その感度設定次第で車体12を変位させない程度の外力にも応答させることができる。すなわち衝突検出センサ16、18は、車体12を変位させない程度の軽接触から車体12を変形させる接触にわたる衝突を検出できるように構成されている。
【0019】
なお、衝突検出センサ16、18は、前のバンパ14の他、後のバンパ、並びにサイドドア等の最も外側に位置する部位にもテープ状の2条の圧電センサを装着してもよい。
【0020】
図2は、車両10(図1参照)に適用された、この実施形態に係る車両走行制御装置50のブロック図を示している。
【0021】
上下2段に設けられた衝突検出センサ16、18の信号は、車両10に装着される加速度センサ(Gセンサ)20の信号と共にECU(電子制御ユニット)22に入力される。
【0022】
ECU22は、後述する制御フローに従って衝突発生を検出(認識)したとき、各車輪に設けられた制動装置24に作動指令を与え、車輪への制動力が自動的に加わるようになっている。
【0023】
ECU22は、コンピュータ及びDSP等により構成され、CPUが各種入力に基づきROM等のメモリに記憶されているプログラムを実行することで各種の機能を実現する機能実現部(機能実現手段)としても動作する。この実施形態において、ECU22は、走行速度制限部22A、走行距離制限部22B、動力停止部22C、フットレスト化処理部22D、及びスロットル開度制限部22E等として機能する。これらの機能は、ハードウエアにより実現することもできる。その場合、用語「〜部」は、「〜回路」、「〜器」、または「〜装置」に置換することができる。
【0024】
ECU22には、さらに、アクセルペダル32の操作量(アクセルペダル操作量)θを検出する操作量センサ34と、アクセルペダル32に反力を与えてアクセルペダル32をフットレスト化する反力付与機構36と、ナビゲーションシステム38と、イグニッションスイッチ(IGスイッチ)40と、スロットル弁42と、車速Vを検出する車速センサ44等とが接続される。
【0025】
ここで、反力付与機構36は、アクセルペダル32に連結された図示しないモータ等から構成され、ECU22から受信した制御信号に応じた反力Frをアクセルペダル32に付与する。フットレスト化時のアクセルペダル反力Frの増加の程度は、運転者がアクセルペダルを操作する足(通常は右足)を自然とアクセルペダル上に載置し、右足の自重だけをアクセルペダルに掛けた状態、あるいはこの状態からアクセルペダルを少し踏み込んだ程度では踏み越えることができない程度の大きさに設定される。
【0026】
次に図3のフローチャートを参照して車両走行制御装置50の動作について説明する。
【0027】
ステップS1において、ECU22は、衝突検出センサ16、18及び加速度センサ20の信号を取り込み、信号レベルから衝撃(接触)があるかどうかを判定する(衝撃判定部、衝撃判定ステップ)。
【0028】
ステップS1で衝撃を検出した場合、ステップS2において、その衝撃レベルが閾値以上の値であるかどうかを判定する。
【0029】
ステップS1、S2がそれぞれ否定的な判定、例えば、ステップS1で衝撃があっても、ステップS2で虫がぶつかった程度の衝撃であると判定した場合には、ステップS1にもどる。
【0030】
ステップS2の判定が肯定的な判定であった場合には(衝撃レベル≧閾値)、車両10が衝突したものと同定し、ステップS3において、ECU22は、制動装置24を作動させ、ステップS4において、車速センサ44により検出される車速VがV=0となって車両10が停止するまで作動を継続し自動ブレーキをかける(自動制動部、自動制動ステップ)。なお、自動ブレーキは、例えば、図4の自動制動特性52に示すように、衝突時の車速Vが一定車速V=V1までは、車速Vに応じて制動G(Gは重力加速度)である制動力が大きくかかるように制御し、一定車速V1以上では、最大制動Gをかけるように制御する。
【0031】
ステップS4において、車両10が停止したと判定したとき、ステップS5において自動ブレーキの作動を停止し、図示しないスピーカ等により運転者にサイドブレーキをかけること、ならびにイグニッションスイッチ40を切断することを促す。自動サイドブレーキをかけるようにしてもよい。また、イグニッションスイッチ40も自動で切断するように構成してもよい。
【0032】
ステップS6では、オフラインでの衝突時関連処理を行う。例えば、交通事故の場合の措置として、直ちに、負傷者が存在すれば救護し、道路における危険防止等必要な措置を講じ、警察官又は警察署に報告する。また、サービスマン等による車両10の点検が行われる。
【0033】
ステップS6の衝突時関連処理終了後のステップS7において、イグニッションスイッチ40をオン状態とし、ナビゲーションシステム38を動作させる。
【0034】
この場合、ステップS3において自動ブレーキが作動していて、ステップS5において車両10が停止していた場合、ECU22は、ステップS7において、衝突時対応システム(衝突時対応プログラム)の作動を自動的に開始する。このとき衝突時対応システムのタイマ(衝突時対応制限時間計時部)が計時を開始する。
【0035】
これにより、そのステップS7において、ナビゲーションシステム38のディスプレイ(タッチパネル)上には、衝突後処理のガイダンスが表示され、運転者等がこのガイダンスに従う操作を行ったときに、走行距離制限部22Bにより、衝突検出センサ16、18等により衝突が検出され停止した地点からの近くのディーラー等までの目的地への走行距離に、最大車両移動距離(最大車両走行距離であって自走距離)Dmaxが設定される。最大車両移動距離Dmaxは、ゼロ以上の所定の距離、例えば路肩等、安全が確保できる場所までの距離を設定するようにしてもよい。
【0036】
次いで、ステップS8において、走行速度制限部22Aにより、衝突検出センサ16、18等により衝突が検出され停止した後の再始動時の車両10の最高走行速度Vmaxを制限速度Vmaxlimitに制限する。例えば、制限速度Vmaxlimitは、ゼロ以上の所定の速度であり、例えば、運転中に直ちに停止できる徐行程度の速度に制限される。
【0037】
また、ステップS8において、ナビゲーションシステム38の表示及び(又は)音声により、車両10を前記目的地である安全な場所に移動させるよう警告を発する。
【0038】
この場合、ステップS9において、フットレスト化処理部22Dは、図5の衝突検出時反力付与特性54に示すように、アクセルペダル32に反力付与機構36を通じて、通常時の反力特性56に比較して、制限速度Vmaxlimitに対応するアクセルペダル32の操作量θをθ=θfに制限する反力Frを付与する。アクセルペダル32は、操作量θ=θfの位置でフットレスト化される。
【0039】
このフットレスト化に代替して、そのステップS9において、スロットル開度制限部22Eが、スロットル弁42の最大開度をアクセルペダル32の操作量θfに対応する開度に制限するようにしてもよい。
【0040】
次いで、制限速度Vmaxlimitまでの速度で車両10が走行後に、ステップS10において、ステップS4における停止位置又はステップS8でのナビゲーションシステム38での走行開始位置からの車両10の移動距離Dが、ステップS7で設定した最大車両移動距離Dmaxを超えたかどうかが判定される。
【0041】
ステップS10の判定が肯定的となった場合、目的地に到達したものと推定し、ステップS11において、ECU22の動力停止部22Cは、制動装置24を作動させるとともに、スロットル弁42を閉弁し、さらにフットレスト化の反力Frを付与していれば、その反力Frの付与を解除する。
【0042】
次いで、ステップS12において、ステップS7において計時を開始したタイマ(衝突時対応制限時間計時部)が所定時間経過しているか、もしくは第三者、例えば警察官等による衝突時対応システム(衝突時対応プログラム)のシステム解除操作(システム解除許可)があったかどうかを判定する。
【0043】
いずれかの判定が成立した場合、ステップS13において、衝突時対応システムを解除する。
【0044】
ステップS10の判定が否定的である場合には、ステップS12に進み、ステップS12の判定が否定的である場合には、ステップS10にもどる。
【0045】
以上説明したように、上述した実施形態に係る車両走行制御装置50は、車両10の衝突を検出する衝突検出センサ16、18及び加速度センサ20により衝突が検出されたとき(ステップS2:YES)、走行速度制限部22Aにより車両10の最高走行速度を制限速度Vmaxlimitに制限する(ステップS8)ようにしているので、衝突発生後の車両10を適切な速度V(V≦Vmaxlimit)で走行移動させることができる。衝突検出時の車両10の最高走行速度Vmaxは、上述したように、例えば、運転中に直ちに停車できる徐行速度程度の制限速度Vmaxlimitに制限する。
【0046】
この場合、衝突検出センサ16、18及び加速度センサ20により衝突が検出されたとき以降の車両10の走行距離を制限する走行距離制限部22Bをさらに備えているので、車両10を必要な(必要最小限な)走行距離だけ走行移動させることができる。
【0047】
そして、車両10が前記制限された走行距離(最大車両移動距離Dmax)を走行し終わったときに、車両10の動力(エンジン等)を強制的に停止させる動力停止部22Cをさらに備えることで、車両10を確実に点検させる契機を与えることができる。すなわち、車両10に対し無理な走行をさせることがない。
【0048】
なお、車両10の動力として、エンジンの他、バッテリ、又は燃料電池の少なくとも1つを有する構成とすることで、この発明は、内燃機関車両の他、電気自動車、燃料電池車両、ハイブリッド車両等種々の車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の一実施形態が適用された車両の外観斜視図である。
【図2】実施形態に係る車両走行制御装置のブロック図である。
【図3】実施形態に係る車両走行制御装置の動作説明に供されるフローチャートである。
【図4】自動ブレーキ作動時の特性図である。
【図5】フットレスト化設定時の特性図である。
【符号の説明】
【0050】
10…車両 16、18…衝突検出センサ
20…加速度センサ 22…ECU
22A…走行速度制限部 22B…走行距離制限部
22C…動力停止部 22D…フットレスト化処理部
22E…スロットル開度制限部 50…車両走行制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突を検出する衝突検出センサと、
前記衝突検出センサにより衝突が検出されたとき、前記車両の最高走行速度をゼロ以上の所定の速度に制限する走行速度制限部と、
を備えることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項2】
車両の衝突を検出する衝突検出センサと、
前記衝突検出センサにより衝突が検出されたとき以降の前記車両の走行距離をゼロ以上の所定の距離に制限する走行距離制限部と、
を備えることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両走行制御装置において、
前記車両が前記制限された走行距離を走行し終わったときに、前記車両の動力を強制的に停止させる動力停止部をさらに備える
ことを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項4】
車両の衝突を検出する衝突検出ステップと、
衝突を検出したとき、前記車両の速度をゼロ以上の所定の速度に制限する走行速度制限ステップと、
を備えることを特徴とする車両走行制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−286250(P2009−286250A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140644(P2008−140644)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】