説明

車体傾動制御装置、車体傾動制御方法

【課題】車体を旋回内側に傾動させる際に、アンダーステア特性を得やすくする。
【解決手段】前輪における左右の輪荷重移動量が、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくなるように、前側駆動モータ3f及び後側駆動モータ3rを駆動制御する。具体的には、前側駆動モータ3fに対するフロント回転角制御量、及び後側駆動モータ3rに対するリア回転角制御量を算出する際、フロント回転角制御量よりもリア回転角制御量を大きくすると共に、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くする。又は、前側駆動モータ3fに対するフロント回転角制御量、及び後側駆動モータ3rに対するリア回転角制御量を算出する際、フロント回転角制御量よりもリア回転角制御量を大きくすると共に、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体傾動制御装置、及び車体傾動制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の従来技術では、前後輪の夫々にアクティブスタビライザを設け、旋回時に前輪スタビライザの捩れ量を後輪側よりも小さくすることで、前輪コーナリングパワーを後輪側よりも低くめ、アンダーステア特性を確保することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−231415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
旋回走行時にアクチュエータによって車体を旋回内側に傾動させる装置の場合、上記のようにアンダーステア特性を確保するには、後輪側を前輪側よりも大きく旋回内側に傾動させて、後輪における左右輪の荷重移動量を前輪側よりも小さくすることになる。しかしながら、定常状態となるまでの過渡状態では、一時的に後輪での荷重移動量が前輪よりも大きくなってしまうので、後輪コーナリングパワーが前輪側よりも低くなり、アンダーステア特性を確保できなくなる可能性がある。
本発明の課題は、車体を旋回内側に傾動させる際に、アンダーステア特性を得やすくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、一端が左輪のサスペンションに連結されると共に、他端が右輪のサスペンションに連結され、車体前後方向の回動軸を介して揺動可能な状態で車体に軸支されたリーンアームと、リーンアームを回動軸で回動させることで、車体をロール方向に傾斜させるアクチュエータと、を備える。これらリーンアームとアクチュエータとを、一単位として前輪と後輪の夫々に設ける。そして、車両の旋回走行時に、前輪における左右の輪荷重移動量が、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくなるように、前側アクチュエータ及び後側アクチュエータを駆動制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る装置によれば、車体を旋回内側に傾動させる際に、前輪における左右の輪荷重移動量が、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくなるように、前側アクチュエータ及び後側アクチュエータを駆動制御することで、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができる。すなわち、車体を旋回内側に傾動させる際に、アンダーステア特性を得やすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】車体傾動の模式図である。
【図2】サスペンション構造の概略図である。
【図3】車両全体の概略構成図である。
【図4】車体傾動制御処理を示す機能ブロック図である。
【図5】車体の傾斜角について説明した図である。
【図6】フロント回転角制御量とリア回転角制御量との関係を示すグラフである。
【図7】フロント荷重移動量とリア荷重移動量との関係を示すグラフである。
【図8】位相遅れフィルタ処理後におけるリア回転角制御量を示すグラフである。
【図9】位相フィルタ処理後におけるリア荷重移動量を示すグラフである。
【図10】第二実施形態の車体傾動制御処理を示す機能ブロック図である。
【図11】位相進みフィルタ処理後におけるフロント回転角制御量を示すグラフである。
【図12】第三実施形態の車体傾動制御処理を示す機能ブロック図である。
【図13】位相遅れフィルタ処理後におけるリア回転角制御量と、位相進みフィルタ処理後におけるフロント回転角制御量を示すグラフである。
【図14】アンダーステア特性を得るためのタイヤ特性値を示す図である。
【図15】オーバーステア特性となるときのタイヤ特性値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明実施形態を図面に基づいて説明する。
この実施例の車両はアンダーステア特性を確保するためにフロントリーンアーム角指令とリアリーンアーム角指令に独立した定常ゲイン且つ、その定常ゲインはフロントよりもリアのリーンアーム角指令値が大きくなるように設定している。このため過渡状態(荷重移動量変化が遷移している状態)では前輪側荷重移動量に対して後輪側荷重移動量が大きくなりオーバーステア特性を示すことになってしまう。このため、本実施例の車両ではフロントとリアのリーンアーム制御指令値に時間応答の差を設け、フロントのリーンアーム制御指令値に対してリアの同制御指令値が遅れるようにしている。この結果過渡状態において前輪側の荷重移動量を後輪に比べて大きくすることができ所望のアンダーステア特性を得ることができる。
【0009】
以下詳細にその構成を説明する。
《第一実施形態》
《構成》
図1は、車体傾動の模式図である。
車輪1に対して車体2を、サスペンションを介して懸架しており、このサスペンションは、駆動モータ3の駆動によって車体2を傾斜させることができる。例えば、旋回走行時に車体2を旋回内側に傾斜させる。
【0010】
図2は、サスペンション構造の概略図である。
左右輪のサスペンション構造は、左右対称の同一構造なので、ここでは左輪側について説明する。このサスペンションは、ダブルウィッシュボーン式のサスペンションであり、車輪1を支持するナックル(アップライト)11は、上側のアッパリンク12及び下側のロアリンク13を介して揺動可能な状態で車体フレーム14に連結してある。
【0011】
アッパリンク12はAアームで構成し、車輪側取付け点及び車体側取付け点の夫々が、ゴムブッシュを介してナックル11及び車体フレーム14に連結してある。また、ロアリンク13もAアームで構成し、車輪側取付け点及び車体側取付け点の夫々が、ゴムブッシュを介してナックル11及び車体フレーム14に連結してある。
車体フレーム14における車幅方向の中心位置には、車体前後方向の回動軸を有し、左右両側に向けて均等に突出したリーンアーム15を軸支してある。このリーンアーム15の先端と、ロアリンク13との間に、ショックアブソーバ16及びコイルスプリング17を介装する。また、リーンアーム15の回動軸に、図示しない減速機を介して駆動モータ3を連結する。
【0012】
したがって駆動モータ3を回転させると、車体フレーム14に対してリーンアーム15が回動し、リーンアーム15の左端及び右端が上下方向に変位するので、ショックアブソーバ16及びコイルスプリング17を介してロアリンク13が揺動する。リーンアーム15は、左端が下がれば右端が上がり、左端が上がれば右端が下がるので、左右輪で逆方向のサスペンションストロークが生まれる。
【0013】
すなわち、車両正面視で駆動モータ3を時計回りに回転させると、リーンアーム15の回動(左側を下げる傾動)によって、左輪側がリバウンドストロークとなり、右輪側ではバウンドストロークとなる。このとき、左輪側でロアリンク13を押し下げるリバウンド方向の力が作用し、左輪から受ける反力によって、車体2の左側が持ち上がり、結果として車体2が右側へ傾斜する。
【0014】
逆に、車両正面視で駆動モータ3を反時計回りに回転させると、リーンアーム15の回動(右側を下げる傾動)によって、左輪側がバウンドストロークとなり、右輪側ではリバウンドストロークとなる。このとき、右輪側でロアリンク13を押し下げるリバウンド方向の力が作用し、右輪から受ける反力によって、車体2の右側が持ち上がり、結果として車体2が左側へ傾斜する。
【0015】
図3は、車両全体の概略構成図である。
上記のサスペンション構造を、前輪及び後輪に設け、夫々、個別の駆動モータ3によって駆動制御する。前後輪の駆動モータ3を区別する必要がある場合には、前輪用を駆動モータ3fとし、後輪用を駆動モータ3rとして説明する。
なお、リーンアーム15を回動させるためのアクチュエータとして駆動モータ3を用いているが、他にも油圧や空気圧を用いたアクチュエータを使用してもよい。また、伸縮方向に推力を発生可能な例えば電磁式ショックアブソーバ等で、左右のサスペンションを夫々逆方向にストロークさせることで、車体を傾斜させてもよい。
【0016】
車両20は、前述し駆動モータ3f及び3rの他に、操舵角センサ21と、車輪速センサ22と、モータ回転角センサ23f及び23rと、旋回状態検出センサ24と、並びに車両制御コントローラ25と、を備える。
操舵角センサ21は、ステアリングの操舵角を検出し、検出値を車両制御コントローラ25に入力する。車輪速センサ22は、車輪の回転速度を検出し、検出値を車両制御コントローラ25に入力する。モータ回転角センサ23f及び23rは、夫々、駆動モータ3f及び3rの回転角を検出し、検出値を車両制御コントローラ25に入力する。旋回状態検出センサ24は、例えば横加速度、ヨーレート、車体ロール角、ロールレートなどの旋回状態を検出し、検出値を車両制御コントローラ25に入力する。
【0017】
車両制御コントローラ25は、車体傾動制御処理を実行し、電流指令値により駆動モータ3f及び3rを駆動することで、車体2の傾斜動作を実現する。
車両制御コントローラ25は、マイクロコンピュータで構成し、操舵角センサ21、車輪速センサ22、モータ回転角センサ23f及び23r、旋回状態検出センサ24から入力した情報に基づき、駆動モータ3f及び3rの動作を制御すると同時に、制御動作の解除も行う。
【0018】
次に、車両制御コントローラ25で実行する車体傾動制御処理について説明する。
図4は、車体傾動制御処理を示す機能ブロック図である。
車両制御コントローラ25は、目標傾斜角算出部41と、フロント定常ゲイン処理部42と、リア定常ゲイン処理部43と、リア位相遅れフィルタ処理部44と、を備える。
目標傾斜角算出部41は、操舵角センサ21、車輪速センサ22、旋回状態検出センサ24からの入力情報を利用して、車体2を傾斜させる目標傾斜角θ*を算出する。具体的には、操舵角センサ21で検出した操舵角が大きいほど、車体2の目標傾斜角を操舵方向へ大きくする。また、旋回状態検出センサ24で検出した横加速度やヨーレート等が大きいほど、車体2の目標傾斜角を旋回内側へ大きくする。さらに、車輪速センサ22で検出した車輪速から車速を算出し、算出した車速が高いほど、操舵角、ヨーレート、横加速度の少なくとも一つに応じた目標傾斜角を、より旋回内側に大きくする。
【0019】
フロント定常ゲイン処理部42は、目標傾斜角にフロント定常ゲインkfを乗算して、駆動モータ3fに対するフロント回転角制御量を算出し、このフロント回転角制御量を達成するためのフロント電流指令値を出力する。
リア定常ゲイン処理部43は、目標傾斜角にリア定常ゲインkrを乗算して、駆動モータ3rに対するリア回転角制御量を算出し、このリア回転角制御量を達成するためのリア電流指令値を出力する。
【0020】
ここで、定常ゲインkf及びkrの関係は、下記に示すように、kfよりもkrを大きくする。
kf<kr
すなわち、フロント回転角制御量よりもリア回転角制御量を大きくし、後輪側を前輪側よりも大きく旋回内側に傾動させる。これは、後輪における左右輪の荷重移動量を前輪側よりも小さくし、後輪コーナリングパワーを前輪側よりも高めて、アンダーステア特定を確保するためである。
【0021】
リア位相遅れフィルタ処理部44は、目標傾斜角算出部41とリア定常ゲイン処理部43との間で、目標傾斜角に対して位相遅れフィルタ処理を行う。
位相遅れフィルタは、例えば1/(Ts+1)で表される。ここで、応答時間の遅れを示す時定数Tは、例えば50msec程度であり、駆動モータ3rの応答、車両諸元、タイヤ特性などで決まる車両の応答特性によって設定する。
【0022】
《作用》
先ず、車体の傾斜角について説明する。
図5は、車体の傾斜角について説明した図である。
ここでは、地面(水平面)に対するリーンアーム15の傾斜角をリーンアーム角φarmとし、駆動モータ3の回転角を回転角制御量φuとし、直立状態からの車体(キャビン)2の傾斜角を対地リーン角φとする。対地リーン角φは、次式に示すように、リーンアーム角φarmと、回転角制御量φuとを加算した値となる。
φ=φarm+φu
【0023】
ここで、リーンアーム15によってサスペンションを押す角度がφarmとなり、回転角制御量φuが大きければ、サスペンションを押す量は小さくなる。これは、左右輪での荷重移動量が小さくなることを意味する。
したがって、アンダーステア特性を確保することを目的として、後輪コーナリングパワーを前輪側よりも高めるためには、後輪側を前輪側よりも大きく旋回内側に傾動させて、後輪における左右輪の荷重移動量を前輪側よりも小さくする必要がある。
【0024】
図6は、フロント回転角制御量とリア回転角制御量との関係を示すグラフである。
目標傾斜角に、定常ゲインkf及びkrを乗算することで、フロント回転角制御量及びリア回転角制御量の夫々を算出する。定常ゲインは、前輪における左右輪の荷重移動量を後輪側よりも大きくするために、kfよりもkrが大きくしているので(kf<kr)、リア回転角制御量がフロント回転角制御量よりも大きくなる。
【0025】
図7は、フロント荷重移動量とリア荷重移動量との関係を示すグラフである。
定常状態では、前輪側で荷重を受け持つので、つまりフロント荷重移動量がリア荷重移動量よりも大きくなるので、所望のアンダーステア特性を確保することができる。しかしながら、定常状態となるまでの過渡状態では、リア回転角制御量が前輪側よりも大きいことで、一時的に後リア荷重移動量がフロント荷重移動量よりも大きくなってしまう。
【0026】
このように、過渡的にリア荷重移動量がフロント荷重移動量よりも大きくなると、後輪コーナリングパワーが前輪コーナリングパワーよりも低くなってしまうので、所望のアンダーステア特性を確保できなくなる可能性がある。
そこで、本実施形態では、フロント回転角制御量と、リア回転角制御量と、に応答時間の差を設け、フロント回転角制御量に対してリア回転角制御量が遅れるように、リア位相遅れフィルタ処理部44によって位相遅れフィルタ処理を行う。
【0027】
図8は、位相遅れフィルタ処理後におけるリア回転角制御量を示すグラフである。
このように、位相遅れフィルタ処理を行うことで、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くすることができる。これにより、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができる。すなわち、車体を旋回内側に傾動させる際に、アンダーステア特性を得やすくすることができる。
【0028】
図9は、位相フィルタ処理後におけるリア荷重移動量を示すグラフである。
このように、輪荷重移動量の過渡状態(A)において、従来技術では前後輪の荷重変動比(フロント輪荷重移動量/リア輪荷重移動量)が0.769であるのに対して、本実施形態では1.40となり、80%程度向上した。
以上より、駆動モータ3fが「前側アクチュエータ」に対応し、駆動モータ3rが「後側アクチュエータ」に対応する。また、目標傾斜角算出部41、フロント定常ゲイン処理部42、リア定常ゲイン処理部43、及びリア位相遅れフィルタ処理部44が「制御手段」に対応する。
【0029】
《効果》
(1)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、前輪における左右の輪荷重移動量が、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくなるように、前側駆動モータ3f及び後側駆動モータ3rを駆動制御する。
このように、車体を旋回内側に傾動させる際に、前輪における左右の輪荷重移動量が、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくなるように、前側アクチュエータ及び後側アクチュエータを駆動制御することで、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができる。したがって、車体を旋回内側に傾動させる際に、アンダーステア特性を得やすくすることができる。
【0030】
(2)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、フロント回転角制御量よりもリア回転角制御量を大きくすると共に、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くする。
このように、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くすることで、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【0031】
(3)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、位相遅れフィルタ処理により、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くする。
このように、位相遅れフィルタ処理により、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くすることで、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【0032】
(4)車体傾動制御方法は、車両制御コントローラ25により、前輪における左右の輪荷重移動量が、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくなるように、前側駆動モータ3f及び後側駆動モータ3rを駆動制御する。
このように、車体を旋回内側に傾動させる際に、前輪における左右の輪荷重移動量が、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくなるように、前側アクチュエータ及び後側アクチュエータを駆動制御することで、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができる。したがって、車体を旋回内側に傾動させる際に、アンダーステア特性を得やすくすることができる。
【0033】
《第二実施形態》
《構成》
この第二実施形態は、前述したリア位相遅れフィルタ処理部44を省略し、且つフロント位相進みフィルタ処理部45を設けたものである。
図10は、第二実施形態の車体傾動制御処理を示す機能ブロック図である。
車両制御コントローラ25は、目標傾斜角算出部41と、フロント定常ゲイン処理部42と、リア定常ゲイン処理部43と、フロント位相進みフィルタ処理部45と、を備える。ここで、目標傾斜角算出部41、フロント定常ゲイン処理部42、及びリア定常ゲイン処理部43については、前述した第一実施形態と同一の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0034】
フロント位相進みフィルタ処理部45は、目標傾斜角算出部41とフロント定常ゲイン処理部42との間で、目標傾斜角に対して位相進みフィルタ処理を行う。
位相進みフィルタは、例えば(1−T1s)/(1+T2s)で表される。ここで、応答時間の遅れを示す時定数T1及びT2は、前述した位相遅れフィルタ処理と同様に、駆動モータ3rの応答、車両諸元、タイヤ特性などで決まる車両の応答特性によって設定する。
【0035】
《作用》
本実施形態では、フロント回転角制御量と、リア回転角制御量と、に応答時間の差を設け、リア回転角制御量に対してフロント回転角制御量が進むように、フロント位相進みフィルタ処理部45によって位相進みフィルタ処理を行う。
図11は、位相進みフィルタ処理後におけるフロント回転角制御量を示すグラフである。
【0036】
このように、位相進みフィルタ処理を行うことで、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くすることができる。これにより、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができる。すなわち、車体を旋回内側に傾動させる際に、アンダーステア特性を得やすくすることができる。
【0037】
以上より、リーンアーム15fが「前側リーンアーム」に対応し、駆動モータ3fが「前側アクチュエータ」に対応し、リーンアーム15rが「後側リーンアーム」に対応し、駆動モータ3rが「後側アクチュエータ」に対応する。また、目標傾斜角算出部41、フロント定常ゲイン処理部42、リア定常ゲイン処理部43、及びフロント位相進みフィルタ処理部45が「制御手段」に対応する。
【0038】
《効果》
(1)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、フロント回転角制御量よりもリア回転角制御量を大きくすると共に、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くする。
このように、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くすることで、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【0039】
(2)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、位相進みフィルタ処理により、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くする。
このように、位相進みフィルタ処理により、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くすることで、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【0040】
《第三実施形態》
《構成》
この第三実施形態は、前述したリア位相遅れフィルタ処理部44と、フロント位相進みフィルタ処理部45と、を併用したものである。
図12は、第三実施形態の車体傾動制御処理を示す機能ブロック図である。
車両制御コントローラ25は、目標傾斜角算出部41と、フロント定常ゲイン処理部42と、リア定常ゲイン処理部43と、リア位相遅れフィルタ処理部44と、フロント位相進みフィルタ処理部45と、を備える。ここで、目標傾斜角算出部41、フロント定常ゲイン処理部42、リア定常ゲイン処理部43、リア位相遅れフィルタ処理部44、及びフロント位相進みフィルタ処理部45については、前述した第一実施形態、及び第二実施形態と同一の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0041】
《作用》
本実施形態では、フロント回転角制御量と、リア回転角制御量と、に応答時間の差を設け、フロント回転角制御量に対してリア回転角制御量が遅れるように、リア位相遅れフィルタ処理部44によって位相遅れフィルタ処理を行うと共に、リア回転角制御量に対してフロント回転角制御量が進むように、フロント位相進みフィルタ処理部45によって位相進みフィルタ処理を行う。
【0042】
図13は、位相遅れフィルタ処理後におけるリア回転角制御量と、位相進みフィルタ処理後におけるフロント回転角制御量を示すグラフである。
このように、位相遅れフィルタ処理を行うことで、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くすることができると共に、位相進みフィルタ処理を行うことで、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くすることができる。これにより、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができる。すなわち、車体を旋回内側に傾動させる際に、アンダーステア特性を得やすくすることができる。
【0043】
以上より、リーンアーム15fが「前側リーンアーム」に対応し、駆動モータ3fが「前側アクチュエータ」に対応し、リーンアーム15rが「後側リーンアーム」に対応し、駆動モータ3rが「後側アクチュエータ」に対応する。また、目標傾斜角算出部41、フロント定常ゲイン処理部42、リア定常ゲイン処理部43、リア位相遅れフィルタ処理部44、及びフロント位相進みフィルタ処理部45が「制御手段」に対応する。
【0044】
《効果》
(1)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、フロント回転角制御量よりもリア回転角制御量を大きくすると共に、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くする。
このように、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くすることで、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【0045】
(2)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、位相遅れフィルタ処理により、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くする。
このように、位相遅れフィルタ処理により、リア回転角制御量の応答時間をフロント回転角制御量の応答時間よりも遅くすることで、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【0046】
(3)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、フロント回転角制御量よりもリア回転角制御量を大きくすると共に、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くする。
このように、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くすることで、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【0047】
(4)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、位相進みフィルタ処理により、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くする。
このように、位相進みフィルタ処理により、フロント回転角制御量の応答時間をリア回転角制御量の応答時間よりも早くすることで、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【0048】
《第四実施形態》
《構成》
この第四実施形態は、前後輪のタイヤ特性と、前後輪の重量配分を考慮して、フロント回転角制御量とリア回転角制御量を算出するものである。
図14は、アンダーステア特性を得るためのタイヤ特性値を示す図である。
ここでは、横軸を輪荷重とし、縦軸をタイヤ特性値とする。前輪タイヤ特性値は、左右輪コーナリングパワーの代表値(平均値)と車両重心位置から前輪車軸までの距離とを乗算した前輪側モーメントで表される。また、後輪タイヤ特性値は、左右輪コーナリングパワーの代表値(平均値)と車両重心位置から後輪車軸までの距離とを乗算した後輪側モーメントで表される。
【0049】
前輪側のタイヤ特性値kfは、フロント回転角制御量に応じて、旋回内輪のタイヤ特性値に相当するk1fから、旋回外輪のタイヤ特性値に相当するk2fまでの範囲で制御可能となる。また、後輪側のタイヤ特性値krは、リア回転角制御量に応じて、旋回内輪のタイヤ特性値に相当するk1rから、旋回外輪のタイヤ特性値に相当するk2rまでの範囲で制御可能となる。
【0050】
ここでは、kf<krとなる範囲内、つまり前輪側モーメントが後輪側モーメントを超えないように、フロント回転角制御量及びリア回転角制御量を算出することで、アンダーステア特性を確保する。
図15は、オーバーステア特性となるときのタイヤ特性値を示す図である。
ここでは、kf>krとなる範囲、つまり前輪側モーメントが後輪側モーメントを超えてしまうように、フロント回転角制御量及びリア回転角制御量を算出すると、オーバーステア特性となってしまう。
【0051】
《作用》
本実施形態では、車両の前後輪のタイヤサイズ(タイヤ特性)違いや車両の前後重量配分を考慮し、kf<krとなる範囲内、つまり前輪側モーメントが後輪側モーメントを超えないように、フロント回転角制御量及びリア回転角制御量を算出する。
このように、前輪側モーメントが後輪側モーメントを超えないように、フロント回転角制御量及びリア回転角制御量を算出することで、確実に前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【0052】
《効果》
(1)車体傾動制御装置は、車両制御コントローラ25により、前輪における左右コーナリングパワーの平均値と車両重心位置から前輪車軸までの距離とを乗算した前輪側モーメントが、後輪における左右コーナリングパワーの平均値と車両重心位置から後輪車軸までの距離とを乗算した後輪側モーメントを超えないように、前側駆動モータ3f及び後側駆動モータ3rを駆動制御する。
【0053】
このように、前輪側モーメントが後輪側モーメントを超えないように、フロント回転角制御量及びリア回転角制御量を算出することで、確実に前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きくすることができる。したがって、車両の旋回走行時に、過渡状態及び定常状態に関わらず、後輪コーナリングパワーを前輪コーナリングパワーよりも大きくすることができ、アンダーステア特性を確保できる。
【符号の説明】
【0054】
1 車輪
2 車体
3f 前側駆動モータ
3r 後側駆動モータ
11 ナックル
12 アッパリンク
13 ロアリンク
14 車体フレーム
15f 前側リーンアーム
15r 後側リーンアーム
16 ショックアブソーバ
17 コイルスプリング
20 車両
21 操舵角センサ
22 車輪速センサ
23f 前側モータ回転角センサ
23r 後側モータ回転角センサ
24 旋回状態検出センサ
25 車両制御コントローラ
41 目標傾斜角算出部
42 フロント定常ゲイン処理部
43 リア定常ゲイン処理部
44 フィルタ処理部
45 フィルタ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が左前輪のサスペンションに連結されると共に、他端が右前輪のサスペンションに連結され、車体前後方向の回動軸を介して揺動可能な状態で車体に軸支された前側リーンアームと、前記前側リーンアームを前記回動軸で回動させることで、車体をロール方向に傾斜させる前側アクチュエータと、
一端が左後輪のサスペンションに連結されると共に、他端が右後輪のサスペンションに連結され、車体前後方向の回動軸を介して揺動可能な状態で車体に軸支された後側リーンアームと、前記後側リーンアームを前記回動軸で回動させることで、車体をロール方向に傾斜させる後側アクチュエータと、
車両の旋回走行状態に応じて前記前側アクチュエータ及び前記後側アクチュエータを駆動制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きく設定し、前記前側アクチュエータ及び前記後側アクチュエータを駆動制御することを特徴とする車体傾動制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、車両の旋回走行状態に応じて、前記前側アクチュエータに対するフロント制御量、及び前記後側アクチュエータに対するリア制御量を算出する際、前記フロント制御量よりも前記リア制御量を大きくすると共に、前記リア制御量の応答時間を前記フロント制御量の応答時間よりも遅くすることを特徴とする請求項1に記載の車体傾動制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、車両の旋回走行状態に応じて、前記前側アクチュエータに対するフロント制御量、及び前記後側アクチュエータに対するリア制御量を算出する際、前記フロント制御量よりも前記リア制御量を大きくすると共に、前記フロント制御量の応答時間を前記リア制御量の応答時間よりも早くすることを特徴とする請求項1又は2に記載の車体傾動制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、位相遅れフィルタ処理により、前記リア制御量の応答時間を前記フロント制御量の応答時間よりも遅くすることを特徴とする請求項2に記載の車体傾動制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、位相進みフィルタ処理により、前記フロント制御量の応答時間を前記リア制御量の応答時間よりも早くすることを特徴とする請求項3に記載の車体傾動制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前輪における左右コーナリングパワーの平均値と車両重心位置から前輪車軸までの距離とを乗算した前輪側モーメントが、後輪における左右コーナリングパワーの平均値と車両重心位置から後輪車軸までの距離とを乗算した後輪側モーメントを超えない範囲で、前記前側アクチュエータ及び前記後側アクチュエータを駆動制御することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項7】
車体前後方向の回動軸を介して揺動可能な状態で前側リーンアームを車体に軸支し、前記前側リーンアームの一端を左前輪のサスペンションに連結すると共に、前記前側リーンアームの他端を右前輪のサスペンションに連結し、前記前側リーンアームを前記回動軸で回動させることで、車体をロール方向に傾斜させる前側アクチュエータを設け、
車体前後方向の回動軸を介して揺動可能な状態で後側リーンアームを車体に軸支し、前記後側リーンアームの一端を左後輪のサスペンションに連結すると共に、前記後側リーンアームの他端を右後輪のサスペンションに連結し、前記後側リーンアームを前記回動軸で回動させることで、車体をロール方向に傾斜させる後側アクチュエータを設け、
車両の旋回走行状態に応じて前記前側アクチュエータ及び前記後側アクチュエータを駆動制御する際に、前輪における左右の輪荷重移動量を、後輪における左右の輪荷重移動量よりも大きく設定することを特徴とする車体傾動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−214099(P2012−214099A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80101(P2011−80101)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】