車体前部構造
【課題】 意匠的効果を維持しつつ、簡単な構成で前突時の衝撃を効率的に分散、吸収可能な車体前部構造を提供する。
【解決手段】 車体前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレーム3と、このフロントサイドフレームの下方に配設された周囲型のサブフレーム5とを備える。このサブフレーム5の前端部に、車幅方向についてフロントサイドフレーム3よりも外方に突出する拡幅突出部57がそれぞれ設けられている。
【解決手段】 車体前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレーム3と、このフロントサイドフレームの下方に配設された周囲型のサブフレーム5とを備える。このサブフレーム5の前端部に、車幅方向についてフロントサイドフレーム3よりも外方に突出する拡幅突出部57がそれぞれ設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレームと、このフロントサイドフレームの下方に配設された例えば周囲型のサブフレームに含まれるサブサイドフレームとを備えた自動車の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の前部構造において、車体の前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレームに加えて、前突時に車体に入力される衝撃荷重を効率的に分散させ、またエンジンの振動伝達を効果的に抑制する等の観点から、上記フロントサイドフレームの下方にいわゆる周囲型のサブフレームが設けられることがある。
【0003】
例えば、特許文献1の車体前部構造は、車体の前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレーム(フロントサイドメンバ)と、このフロントサイドフレームの前端部間に架設されたバンパレインフォースメント(フロントクロスメンバ)とを備え、上記フロントサイドフレームの下方に、略矩形枠状のサブフレームが配設されている。このサブフレームは、上記フロントサイドフレームに沿って配設された左右一対のサイドレールと、これらのサイドレールの前端部および後端部間に架設されたクロスメンバとを有し、この車体前部側のクロスメンバが、平面視において上記フロントクロスメンバから後方に退入した位置に配設されている。
【特許文献1】実開平3−91282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に記載のように、サブフレームが設けられた車体前部構造によれば、前突時にフロントサイドフレームおよびサブフレームに効率的に衝撃荷重を分散、吸収して乗員を衝撃から保護することができるという利点がある。
【0005】
ここで、このような前部車体構造においては、前突時に広範囲で被衝突物を圧潰させることができれば衝撃荷重を車体前部で分散、吸収させ易くなることが知られている。従って、この観点からは正面視において各フロントサイドフレームの前端面およびサブフレームのサイドレール前端面によって囲まれる方形領域の面積が大きければ大きいほど好ましい。また、この方形領域の面積を拡大すれば、フルラップ衝突時だけでなく、車幅方向左右にオフセットしたオフセット衝突時にも衝撃を緩和することができ、この点においても上記方形領域を拡大することが強く望まれている。
【0006】
一方、これらの前部車体構造は、例えばバンパーフェースや装飾グリル等で装飾されて意匠的効果が高められているが、上記方形領域を相似的に大小した場合には、車体前部の意匠的効果が低減する場合がある。近年、車両の外形を流線的に形成し、意匠的効果を高めたものが多く見受けられるが、特にこのような車両については前部車体の意匠を維持したまま上記方形領域を拡大することが困難であった。
【0007】
本発明は、このような事情のもとになされたものであり、意匠的効果を維持しつつ、簡単な構成で前突時の衝撃を効率的に分散、吸収可能な車体前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明に係る車体前部構造は、車体前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレームと、このフロントサイドフレームの下方に配設されたサブフレームに含まれ車体前後方向に延設された左右一対のサブサイドフレームとを備え、このサブサイドフレームの前端部に、車幅方向についてフロントサイドフレームよりも外方に突出する拡幅突出部がそれぞれ設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
この発明によれば、サブフレームの前端部に、車幅方向についてフロントサイドフレームよりも外方に突出する拡幅突出部が左右それぞれに設けられているので、この拡幅突出部によりサブサイドフレームの前端部を車幅方向に拡幅させることができ、これにより正面視においてフロントサイドフレームの左右各前端面とサブサイドフレームの左右各前端面によって囲まれる方形領域を裾拡がり状態に拡大することができる。このため、拡幅突出部を設けるという簡単な構成で、前突時、特に高速前突時に、被衝突物を広範囲に圧潰することができ、フロントサイドフレームおよびサブサイドフレームに効果的に衝撃荷重を分散、吸収させて乗員を衝撃から一層有効に保護することができる。しかも、拡幅突出部によって車幅方向に上記方形領域を車幅方向に拡大しているため、フルラップ衝突時だけでなく、オフセット衝突時においてもさらなる緩衝効果を得ることができる。
【0010】
さらに、拡幅突出部がサブサイドフレームに設けられているので、左右のフロントサイドフレームの前端部が拡幅される場合に比べて、意匠的影響が比較的小さい車体下部のスペースを有効に利用することにより、車体前部における意匠的効果の低減を可及的に抑制することができる。
【0011】
なお、拡幅突出部はサブサイドフレームに直接取り付けられている場合だけでなく、例えばサブサイドフレームの前端部間に架設されたサブクロスメンバを介して間接的に取り付けられている場合であってもよい。
【0012】
上記拡幅突出部の具体的構成は特に限定するものではなく、サブサイドフレームの前端部を車幅方向外方に延出させたものや、サブサイドフレーム前端部間に架設されたサブクロスメンバを車幅方向に延長させたもの、或いは棒状部材が単に突設されているようなものであってもよいが、上記拡幅突出部は、突出本体部と、この突出本体部の後面から上記サブサイドフレームの側面にかけて筋交状に配設された補強部とを備えて構成されるのが好ましい(請求項2)。
【0013】
このように構成すれば、衝突時において補強部が突っ張ることにより、突出本体部の後方への倒伏を効果的に防止することができる。このため、拡幅突出部を介してサブサイドフレームに衝撃荷重を適正に伝達することができ、これにより一層効果的に前突時の衝撃を緩和することができる。
【0014】
この場合、上記拡幅突出部は、その補強部の後端部で上記サブサイドフレームに当接しているだけのものであってもよいが、上記拡幅突出部は、その補強部の後端部で上記サブサイドフレームに接合されているのが好ましい(請求項3)。
【0015】
このように構成すれば、前突時において補強部からサブサイドフレームに効率的に荷重を伝達させることができ、より効果的に前突時の衝撃を緩和することができる。
【0016】
また、上記拡幅突出部は、サブサイドフレームに一体形成されることにより配設されているものであってもよいが、上記サブサイドフレームとは別体に形成され、このサブフレームに接合されているのが好ましい(請求項4)。
【0017】
このように構成すれば、既存のサブサイドフレームを有効に利用して本発明の車体前部構造を構成することができ、製造コストの増大を可及的に抑制することができる。しかも、拡幅突出部のサブサイドフレームに対する接合箇所を車種等に応じて適宜選択することができ、この接合箇所について衝撃を緩和する観点から最適な位置に設定することができる。
【0018】
さらに、上記フロントサイドフレームおよびサブサイドフレームの車幅方向の外側方に左右それぞれ前輪が配設されている場合に、上記拡幅突出部は、正面視において上記前輪と重なる態様で当該前輪の前方に配設されているのが好ましい(請求項5)。
【0019】
このように構成すれば、前突時にサブサイドフレームが圧潰して後方に縮退した場合に、拡幅突出部が前輪に係合して当該前輪、ひいてはこの前輪を介してサイドシル等の車体部分にも衝撃荷重を伝達させることができ、これにより衝撃荷重をより広範に分散、吸収させて衝撃をより一層効果的に緩和することができる。
【0020】
この発明において、衝撃を緩和するための緩衝部が上記拡幅突出部の前端面に前方に突出した状態で設けられ、この緩衝部の前端同士を橋渡すようにレインフォースメントが車幅方向に延設されているのが好ましい(請求項6)。
【0021】
このように構成すれば、サブサイドフレームの前端部に緩衝部を設ける場合と比べて、左右の緩衝部間の間隙を広くとることができ、このため、これらの緩衝部間に架設されるレインフォースメントの長さも車幅方向に長く設けることができる。従って、低速時におけるオフセット衝突の場合あって、このオフセット量が大きい場合であっても、上記レインフォースメントおよび緩衝部によって衝撃を適正に受け止めることができ、これにより車体を効果的に保護することができる。
【発明の効果】
【0022】
上記構成の発明によれば、フロントサイドフレームの左右各前端面とサブサイドフレームの各前端面における左右各端部によって囲まれる方形領域を裾拡がり状態に拡大することができ、これにより拡幅突出部を設けるという簡単な構成で、前突時、特に高速前突時に、フロントサイドフレームおよびサブサイドフレームに効率的に衝撃荷重を分散、吸収して乗員を衝撃から一層効果的に保護することができるという利点がある。しかも、拡幅突出部によって車幅方向に上記方形領域を拡大しているため、フルラップ衝突時だけでなく、オフセット衝突時においてもさらなる緩衝効果を得ることができる。さらに、意匠的影響が比較的少ない車体下部のスペースを有効に利用することによって、左右のフロントサイドフレームの前端部が拡幅される場合に比べて、車体前部における意匠的効果の低減を可及的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は車体の前部構造を示す斜視図であり、図2は同前部構造を示す底面図であり、図3は図2のIII−III線断面図である。
【0024】
この前部車体には、車体の前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム3と、このフロントサイドフレーム3の前端部間に取り外し可能に架設されたバンパレインフォースメント4とを備え、このフロントサイドフレーム3の下方に、略矩形枠状のフロントサブフレーム5(サブフレームに相当する)が配設されている。なお、図1中二点鎖線で示される部材は、フロントサイドフレーム3およびバンパレインフォースメント4に着脱可能に取り付けられる合成樹脂製のラジエータシュラウド100である。
【0025】
各フロントサイドフレーム3は、図3に明示するように、その後部が後下がりに傾斜することによりキックアップ部3aが形成され、その後端部がフロアフレーム6に接続されている。このフロアフレーム6上には、フロアパネル9が接合されており、このフロアパネル9の前端縁はエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル10に連設されている。
【0026】
また、このフロントサイドフレーム3の車幅方向外方に、図2に明示するように、ホイルハウジング7が設けられ、このホイルハウジング7内に前輪8が格納されている。各前輪8は、サスペンションアーム等の支持部材(図示せず)を介して前部車体に支持されている。このホイルハウジング7の後方には、フロアパネル9の車幅方向両端縁における前端部に接続フレーム12(図2参照)を介して接合されたサイドシル11が配設されている。
【0027】
バンパレインフォースメント4は、鋼板材をプレス加工する等して形成されている。具体的には、このバンパレインフォースメント4は、一方向(後方)に開口する断面視略コ字状に形成されたバンパレイン本体部41と、このバンパレイン本体部41の開口縁から上下方向に延びるフランジ部42とを有し、クラッシュカン46を介してフロントサイドフレーム3の前端面に架け渡すように車幅方向に沿って延設されている。
【0028】
クラッシュカン46は、車体前後方向に直交する断面が閉断面として形成された筒状のクラッシュカン本体部46aと、このクラッシュカン本体部46aの前後に設けられた取付フランジ部46aとを有し、取付フランジ部46aのうち後側に配設された取付フランジ部46aは前側に配設された取付フランジ部(図示せず)よりも大きく形成されている。そして、後側に配設された取付フランジ部46aは、フロントサイドフレーム3の前端縁に形成された取付フランジ31に重ね合わされ、ボルト等の締結具によって着脱自在に取り付けられている。一方、前側に配設された取付フランジ部は、バンパレイン本体部41の後方開口部に嵌め込まれ、当該バンパレイン本体部41の後面に重ね合わされて溶接等により強固に接合されている。従って、クラッシュカン46は、その先端(前端)がバンパレイン本体部41の後面に突き当てられた状態でバンパレインフォースメント4に接合されている。
【0029】
このバンパレインフォースメント4の長さは、車両の種類に応じて適宜調整され、従って車両先端部が平面視において丸みを帯びた流線型に形成される場合でも、デザイン効果を低減させることもない。
【0030】
フロントサブフレーム5は、エンジンルームに配設されるエンジンの振動伝達を抑制するとともに前突時の衝撃荷重を分散、吸収させる変形周囲型のサブフレームで、いわゆるペリメーターフレームと呼ばれるものである。
【0031】
このフロントサブフレーム5について、図2ないし図4を用いて具体的に説明する。図4は、フロントサブフレームを示す斜視図である。
【0032】
フロントサブフレーム5は、車体前後方向に延設される左右一対のサブサイドフレーム51と、これらのサブサイドフレーム51の前端部および後端部において両者間に架設された前後各サブクロスメンバ52,53とを備え、全体として略矩形状、詳しくは前方に向かうに従って拡幅される略台形状に形成されている。このサブフレーム5は、各サブサイドフレーム51にその長手方向に沿って設けられた複数の支持部54〜56において、連結部13を介して、上方に配置されているフロントサイドフレーム3の下面の所定箇所に取り付けられている。この連結部13は、いわゆるラバーブッシュであり、内外筒の間に軸方向に圧縮したラバーを介在させて、無摺動、無潤滑で揺動可能に構成されたものである。
【0033】
サブサイドフレーム51は、それぞれフロントサイドフレーム3の略直下に位置し、前端縁がフロントサイドフレーム3の前端縁よりも車体後方側に退入した位置、詳しくは図1に二点鎖線で示すシュラウド100の後方近傍位置に配設されている。このサブサイドフレーム51は、略水平方向に延びるフレーム前部511と、このフレーム前部511の後端縁から延設され後下がりに傾斜する傾斜段差部512と、この傾斜段差部512の後端縁に接続され略水平方向に延びるフレーム後部513とを備え、フレーム前後部511,513間に傾斜段差部512を介在させることによってフレーム前部511の軸心とフレーム後部513の軸心とが偏心されるように構成されている。このようにフレーム前部511とフレーム後部513との軸心を偏心させると、フレーム前部511の前端部から軸心方向に入力された荷重を傾斜段差部512で吸収させてからフレーム後部513に伝達させることができ、衝撃荷重等を効果的に吸収することができる。すなわち、サブサイドフレーム51の屈曲変形、特に下方に向かう屈曲変形を促進させるような構造を採用することにより、フロントサイドフレーム3を損傷することなく、効果的に緩衝効果(衝撃吸収効果)を得ることができるように構成されている。なお、当実施形態では、製作上の理由から、フレーム前部511と傾斜段差部512は一体に形成され、一方、フレーム後部513はフレーム前部511等と別体に形成されてから傾斜段差部512の後端縁に接合するものとなされているが、各部について一体に形成されるものであってもよいし、また各々別部材として形成されるものであってもよい。
【0034】
サブサイドフレーム51は、下方に開口する断面視ハット状のパネル部材と上方に開口する断面視逆ハット状のパネル部材とが各開口部を対向させた状態で組み合わされて、長手方向に直交する断面が閉断面となる筒状に形成されている。そして、このサイドフレーム51について、衝突後にフレーム前部511の高さ位置が衝突前後で略同じ高さ位置になるように傾斜段差部512とフレーム前後部511,513との境界部を屈曲させるとともに、フレーム後部513が確実に下方に屈曲させるような変形(図3に示す二点鎖線を参照)を促進させるために、種々の工夫が施されている。
【0035】
当実施形態では、フレーム前部511および傾斜段差部512を構成する上記パネル部材と、フレーム後部513を構成する上記パネル部材との間で、板厚が異なるように構成されている。すなわち、フレーム前部511および傾斜段差部512を構成する上記パネル部材の板厚が、フレーム後部513を構成する上記パネル部材の板厚よりも厚いものが用いられ、これによりフレーム後部513の曲げ変形量(当実施形態では上下方向の曲げ変形量)が大きくなるように構成されている。従って、フレーム後部513は、その軸心がフレーム前部511の軸心よりも下方に位置されていることと相俟って、確実に下方に屈曲変形し、これによりフレーム後部513が上方に屈曲変形することによりフロントサイドフレーム3に接触して当該フロントサイドフレーム3を損壊させるといった事態を確実に回避することができる。
【0036】
さらに、フレーム後部513の長手方向に直交する閉断面積が、車体の前側に向かうに連れ縮小するように構成され、フレーム後部513の中の前端部、言い換えるとフレーム後部513とと傾斜段差部512との境界部近傍での変形量が、フレーム後部513の中の後端部の変形量よりも大きくなるように構成されている。従って、傾斜段差部512での屈曲変形が促進されることになる。なお、サイドフレーム51、特にフレーム後部513は、図2に明示するように、車体前方に向かうに従って拡幅するように構成されている。
【0037】
一方、前側サブクロスメンバ52は、長手方向両端部がサブサイドフレーム51に接合され、図3に示すように、長手方向に直交する断面が閉断面として形成されるとともに、図4に示すように、下方に湾曲形成され、車幅方向中央部が両端部に比べて若干下側に位置するように構成されている。
【0038】
後側サブクロスメンバ53も、長手方向両端部がサブサイドフレーム51に接合されている。この後側サブサイドメンバ53は、図3に示すように、長手方向に直交する断面が偏平形状の閉断面として形成されるとともに、図2に示すように、その長手方向中央部の幅(車体前後方向に沿った長さ)が両端部の幅に比べて小さい値に設定されている。
【0039】
フロントサブフレーム5(詳しくはサブサイドフレーム51)の前端部には、平面視においてフロントサイドフレーム3の外側面よりも車幅方向外方に突出する拡幅突出部57が左右それぞれに接合されている。この拡幅突出部57は、フロントサブフレーム5と別体に形成され、これをフロントサブフレーム5に接合することにより、フロントサブフレーム5を拡幅するものとなされている。すなわち、拡幅突出部57は、図2に示すように、フロントサブフレーム5の前端部の幅W0を幅W1(W1>W0)に拡幅するものであり、これにより拡幅フロントサブフレーム(フロントサブフレーム5に拡幅突出部57が接合されたフレーム)が構成されることになる。
【0040】
この拡幅突出部57について、図5ないし図8を主に用いて説明する。図5は拡幅突出部57を拡大して示す斜視図であり、図6は同平面図であり、図7は同正面図であり、図8は図7のVIII−VIII線断面図である。なお、これらの図では、車幅方向右側に配設された拡幅突出部57について示しており、従って以下の説明においてもこの右側に配設された拡幅突出部57を例にとって説明するが、左側に配設された拡幅突出部57も対象形状ではあるものの略同様に形成されている。
【0041】
拡幅突出部57は、前面が前側サブクロスメンバ52の前端面形状から略連続するように車幅方向外方に突出する突出本体部571と、この突出本体部571の後面からサブサイドフレーム51の外側面にかけて筋交状に配設された突出補強部572とを備え、当実施形態では一本の角形鋼管に切込みを入れてくの字状に屈曲して所定箇所を接合することにより形成されている。この拡幅突出部57は、サブサイドフレーム51の車幅方向外側面に接合されている。この接合は、公知の接合構造が採用されているが、ここでは拡幅突出部57の端部に設けられた接合フランジ573をサブサイドフレーム51の上面、下面および外側面に重合溶接することにより行われている。
【0042】
突出本体部571は、前面が平面として構成され、車幅方向に沿って真っ直ぐ外方に延びて形成されている。この突出本体部571の突出量は特に限定するものではないが、当実施形態では、図7に示すように、少なくとも正面視において前輪8と重なるように設定されている。より具体的には、正面視において、突出本体部571の先端縁が前輪8の幅方向中心よりもやや内側に位置するように設定されている。この突出本体部571の突出量は、大きければ大きいほど緩衝効果が大きくなるが、一方において大きくなると車体重量が増大し、車体前部のデザインも悪化する。従って、この突出本体部571の突出量は、その先端が正面視において、前輪8の幅寸法範囲内の所定位置に存在するように適宜設定されるのが好ましく、さらに好ましくは前輪8の幅方向中心からその幅方向内端縁の範囲内の所定位置に存在するように設定されるのがよい。
【0043】
一方、突出補強部572は、上記突出本体部571に一体に形成され、図6に示すように、この突出本体部571の後面側から車体後方に若干延び、かつ、その後端から車体後方に向かうに従って車幅方向内方に傾斜して形成されている。従って、この突出補強部572は、突出本体部571を筋交状に支持することにより、突出本体部571の車体後方への倒伏を効果的に抑制する添え木としての機能を果たす。
【0044】
そして、この突出補強部572の後端面は、サブサイドフレーム51の車幅方向外側面に当接し、上記接合フランジ573において強固に当該サブサイドフレーム51、詳しくは傾斜段差部512の外側面に接合されている。従って、この拡幅突出部57は、サブサイドフレーム51のフレーム前部511と傾斜段差部512とに跨って接合され、サブサイドフレーム51に対する荷重の入力を分散させることができる。この突出補強部572は、上記傾斜部分の中間部において屈曲部572aが設けられており、この屈曲部572aで傾斜角度が変更されるものとなされている。また、この突出補強部572は、図7に示すように、車体の前後方向について後下がりに傾斜して形成されている。
【0045】
上記構成の拡幅突出部57は、その前端面であって車幅方向外端部に、車体前方に突出する緩衝部としてのクラッシュカン58が配設されている。このクラッシュカン58は、軸線方向からの荷重の入力に対して押し潰されるもので、この押し潰される過程で衝撃エネルギーを吸収して衝突等に伴う衝撃を緩和するものである。当実施形態では、クラッシュカン58は角筒状の中空形状を呈しいているが、このクラッシュカン58の形状、大きさ、板厚、強度、材質は吸収するべき衝撃エネルギー等を勘案して適宜設定することができる。このクラッシュカン58は、その後端部に設けられた接合フランジにおいてボルト等の締結具により拡幅突出部57の前端面に着脱可能に取り付けられている。また、このクラッシュカン58にビードや圧潰を促進するべく圧潰促進孔等を適宜設けるものであってもよい。
【0046】
また、当実施形態では、クラッシュカン58に加えて、フロントサブフレーム5の前端面であって、左右に設けられたクラッシュカン58の車幅方向内側に、緩衝部としてのフレームクラッシュカン59が設けられている。このフレームクラッシュカン59も、突出長さ、形状等について若干異なるものの、拡幅突出部57に設けられたクラッシュカン58と略同様に形成されている。なお、このフレームクラッシュカン59は、クラッシュカン58と異なり先すぼまり状に形成されている。
【0047】
上記各クラッシュカン58,59の先端部には、これらの先端部同士を橋渡すように車幅方向に延びるサブバンパレインフォースメント(以下、単に「サブレイン」という)60が取り付けられている。このようにサブレイン60は車幅方向左右に配置されたそれぞれ2個のクラッシュカン58,59により支持されているので、斜め前方からの衝突に対してもクラッシュカン58,59の車幅方向への倒伏を効果的に防止することができる。
【0048】
サブレイン60は、鋼板材をプレス加工する等して形成されている。具体的には、このサブレイン60は、図3に示すように、後方に開口する断面視凸状のサブレイン前面部材601と、この前面部材601の後方開口部を閉塞する断面コ字状のサブレイン後面部材602とを備え、サブレイン前面部材601の後部内面とサブレイン後面部材602の後部外面とが重ね合わされてスポット溶接により接合されることにより、長手方向に直交する断面が閉断面となる部材として形成されている。そして、各クラッシュカン58,59の先端部がサブレイン後面部材602の開口部に嵌め込まれ、クラッシュカン58,59の先端縁をサブレイン後面部材602の後面に突き当てた状態で溶接によって強固に接合されている。
【0049】
このサブレイン60は、車幅方向に沿ってアーチ状に形成されるとともにバンパレインフォースメント4よりも長く形成され、その両端部が車幅方向についてフロントサブフレーム5の両外側縁から突出した状態で配置されている。そして、サブレイン60は、図2に示すように、平面視における車体前後方向についてバンパレインフォースメント4と重なる位置、詳しくは前面がバンパレインフォースメント4の前面よりも僅かに退入した位置に配設され、車体正面で被衝突物に接触するものとなされている。
【0050】
サブレイン前面部材601は、前面高さ方向中間部が円弧状に膨出して形成されている。このサブレイン前面部材601と、サブレイン後面部材602との間の空間は、当実施形態は空洞とされている。
【0051】
なお、上記構成の車体前部構造は、図示しないバンパーフェースやフロントグリル等によって被覆装飾されている。
【0052】
ここで、車両の高速前突(被衝突物との相対速度が高速時における前方衝突)時には、図1および図7に示すように、フロントサイドフレーム3の左右各前端面およびフロントサブフレーム5の車幅方向両端部(サブサイドフレーム51の前端面)によって囲まれた方形領域の全体で被衝突物が圧潰されることになるから、この方形領域が大きければ大きいほど被衝突物を広範囲に潰すことができ、これにより乗員に対する衝撃が緩和されることになる。当実施形態では、フロントサイドフレーム3にバンパレインフォースメント4が取り付けられており、また、フロントサブフレーム5に拡幅突出部57が設けられるとともにこの拡幅突出部57の前面から突設されたクラッシュカン58にサブレイン60が取り付けられているので、上記方形領域は、図1および図7に示すように、各フレーム3,5に車幅方向両端部が支持されたバンパレインフォースメント4およびサブレイン60の車幅方向各両端部によって囲まれる領域A1となる。従って、この方形領域A1は、フロントサブフレーム5に拡幅突出部57が設けられていない場合の方形領域A2と比べて裾広がり状態に領域面積を拡大することができる(A1>A2)。このため、当実施形態の車体前部構造によれば、拡幅突出部57を設けるとともに、この拡幅突出部57にサブレイン60を支持させるという簡単な構成で、前突時、特に高速前突時に、被衝突物を広範囲に圧潰することができ、フロントサイドフレーム3およびサブフレーム5に効果的に荷重を分散、吸収させて乗員を衝撃から一層有効に保護することができる。しかも、拡幅突出部57を設けることにより、方形領域A1が領域A2よりも車幅方向に拡大されているため、フルラップ衝突時だけでなく、オフセット衝突時においてもさらなる緩衝効果を得ることができる。
【0053】
また、拡幅突出部57について、その突出本体部571の突出量を好適範囲、すなわち正面視において前輪8と重なるように調整されているので、前突(車両前方側からの衝突)によってフロントサブフレーム5の前端部が変形して収縮し後方に退入した場合に、突出本体部571が前輪8に当接して、この当接部分を介して前輪8ひいては前輪8を支持する車体部分に衝撃荷重が分散伝達される。このため、より広い範囲に衝撃荷重を分散、吸収させることができ、これにより乗員を衝撃からより一層効果的に保護することができる。一方、例えば強い衝撃荷重が入力された場合にはサブサイドフレーム51等の変形に加えて前輪8までもが後方に退入することになるが、この場合には、前輪8がサイドシル11に当接し、この当接部分を通じても衝撃荷重が分散伝達される。従って、前突に伴う衝突荷重を車体の複数部分に分散、吸収させて、衝突に伴う衝撃を効果的に緩和することができる。
【0054】
さらに、サブレイン60が車体の下部において車幅方向に延設されているので、バンパレインフォースメント4の配設高さに至らない被衝突物と衝突した場合、或いは衝突の衝撃等によって被衝突物が車体下方に潜り込もうとする場合でも、効果的に衝撃を吸収緩和することができる。しかも、サブレイン60がクラッシュカン58,59を架け渡すように車幅方向に延設されているので、ポール等の幅が小さい被衝突物に衝突した場合であっても、サブレイン60を介してクラッシュカン58,59に確実に衝撃荷重を伝達することができ、このクラッシュカン58,59を圧潰させることにより効果的に衝撃を吸収することができる。
【0055】
また、サブレイン60がクラッシュカン58,59を架け渡すように車幅方向に延設されているので、オフセット衝突時においても、このサブレイン60を通じて適正に左右両側のクラッシュカン58,59に衝撃荷重を分散させることができ、これらのサブレイン60およびクラッシュカン58,59で効果的に衝撃を吸収緩和することができる。このため、特に、低速前突時においては、このサブレイン60とクラッシュカン58,59だけで衝撃を吸収することができる場合があり、このような場合にはフロントサイドフレーム3を損傷させることがなく、サブレイン60とクラッシュカン58,59を取り替えるだけで元通りの状態に戻すことができる。従って、修理に要する手間および費用を削減することができる。
【0056】
さらに、拡幅突出部57が車体下部に配設されるフロントサブフレーム5に設けられ、これらの拡幅突出部57にサブレイン60が架設されているので、車高方向中間部に配設された一対のフロントサイドフレーム3の前端部同士の間隔が拡幅され、バンパレインフォースメント4を延長する場合に比べて、意匠的影響が比較的小さい車体下部のスペースを有効に利用することにより、車体前部における意匠的効果の低減を可及的に抑制することができる。
【0057】
また、拡幅突出部をフロントサブフレーム5に一体に形成される場合に比べて、既存のサブフレームを有効に利用してこの車体前部構造を構成することができ、製造コストの増大を可及的に抑制することができる。しかも、拡幅突出部57のフロントサブフレーム5に対する接合箇所を車種等に応じて適宜選択することができ、この接合箇所について衝撃を緩和する観点から最適な位置に設定することができる。
【0058】
なお、本発明の車体前部構造の具体的構成は、上記実施形態に限定されず、種々変更可能である。他の実施形態を以下に説明する。
【0059】
(1)上記実施形態では、フロントサブフレーム5のサブサイドフレーム51をフロントサイドフレーム3に支持させるものとなされているが、サブフレーム5を支持するのはフロントサイドフレーム3に限定されるものではなく、その他の車体剛性フレームに支持させるものであってもよい。
【0060】
(2)上記実施形態では、サブサイドフレーム51のフレーム後部513が略水平方向に延びるように構成されているが、フレーム後部513を所定の傾斜角度をもって配設するものであってもよい。例えば、フレーム後部513を後上がりに形成するものであってもよい。
【0061】
(3)上記実施形態では、拡幅突出部57は、一本の鋼管を屈曲することにより形成されているが、本発明の拡幅突出部の具体的構成はこれに限定されるものではない。例えば、図9に示すように、拡幅突出部157は、突出本体部158と突出補強部159とに別体として形成され、両者158,159を溶接によって接合した後に、フロントサブフレーム5(サブサイドフレーム51)に接合するものとしてもよい。具体的には、突出本体部158は、鋼板がプレス加工されて後方に開口するコ字状に形成されている。一方、突出補強部159も鋼板がプレス加工されて車幅方向内側に開口するコ字状に形成されるとともに先端部に接合片159aが突出形成され、この接合片159aを突出本体部158の外側縁に重ね合わせて溶接により接合されている。
【0062】
このように構成しても、上記実施形態の拡幅突出部57と同様の効果を得ることができる。
【0063】
さらに、図10に示すように、フロントサブフレーム50の前側サブクロスメンバ252を利用して拡幅突出部257を構成するものとしてもよい。すなわち、前側サブクロスメンバ252は、車幅方向についてフロントサイドフレームよりも外方に突出する状態にまで延長して形成され、当該延長部分が拡幅突出部257の突出本体部258として構成されるものであってもよい。この突出本体部258は後方に開口する断面視コ字状に形成され、この後方開口部に突出補強部259が突き当て状態で接合されている。すなわち、この突出補強部259は、鋼管を湾曲形成したもので前端縁が車体前方に開口する一方、後端縁が車幅方向に開口するものとなされている。そして、各開口縁には径方向外方に突出する接合フランジ259aが設けられ、この接合フランジ259aにおいてボルト等の締結具により突出本体部258或いはサブサイドフレーム51に接合されている。
【0064】
このように構成しても、上記実施形態の拡幅突出部57と同様の効果を得ることができる。また、前側サブクロスメンバ252を有効に利用した拡幅突出部257によれば、専用の前側サブクロスメンバ252を製作する必要があるものの、その製作作業が簡略化される。
【0065】
(4)上記実施形態では、上記拡幅突出部57は、その突出補強部572の後端縁でフロントサブフレーム5の外側面に接合されているが、この後端縁は単にサブフレーム5に当接しているだけのものであってもよい。ただし、突出補強部572の後端縁でフロントサブフレーム5に接合するものとすれば、前突時において突出補強部572からフロントサブフレーム5に効率的に荷重を伝達させることができ、より効果的に前突時の衝撃を緩和することができる。
【0066】
(5)上記実施形態では、サブレイン60が左右のクラッシュカン58間に架設されているが、図11に示すように、サブレイン60を短く製作して、このサブレイン161をフレームクラッシュカン59間に架設するものとしてもよい。この場合にはクラッシュカン58を適宜省略することができる。
【0067】
また、サブレイン60を省略した場合でも、サブサイドメンバ51の前端面とバンパレインフォースメント4の左右両端部とで囲まれる方形領域によって被衝突物を広範囲に圧潰することができ、一定の衝撃緩衝効果を得ることができる。
【0068】
(6)上記実施形態では、拡幅突出部57がサブサイドフレーム51に直接取り付けられている場合について説明したが、拡幅突出部57がサブサイドフレーム51に間接的に取り付けられているものであってもよい。要は、拡幅突出部57に入力される荷重がサブサイドフレーム51に伝達されればよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】当実施形態の車体前部構造の前部を示す斜視図である。
【図2】同車体前部構造を示す底面図である。
【図3】図2のII−II線断面図である。
【図4】当実施形態の車体前部構造のフロントサブフレームを示す斜視図である。
【図5】同構造の要部を示す斜視図である。
【図6】同構造の要部を示す平面図である。
【図7】同構造の要部を示す正面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線断面図である。
【図9】同構造の拡幅突出部の変形例を示す斜視図である。
【図10】同構造の拡幅突出部のさらに別の変形例を示す斜視図である。
【図11】同構造の変形例を示す図6に相当する平面図である。
【符号の説明】
【0070】
3 フロントサイドフレーム
4 バンパレインフォースメント
5 フロントサブフレーム
11 サイドシル
51 サブサイドフレーム
52 前側サブクロスメンバ
57 拡幅突出部
58 クラッシュカン
59 フレームクラッシュカン
60 サブレイン
A1 方形領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレームと、このフロントサイドフレームの下方に配設された例えば周囲型のサブフレームに含まれるサブサイドフレームとを備えた自動車の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の前部構造において、車体の前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレームに加えて、前突時に車体に入力される衝撃荷重を効率的に分散させ、またエンジンの振動伝達を効果的に抑制する等の観点から、上記フロントサイドフレームの下方にいわゆる周囲型のサブフレームが設けられることがある。
【0003】
例えば、特許文献1の車体前部構造は、車体の前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレーム(フロントサイドメンバ)と、このフロントサイドフレームの前端部間に架設されたバンパレインフォースメント(フロントクロスメンバ)とを備え、上記フロントサイドフレームの下方に、略矩形枠状のサブフレームが配設されている。このサブフレームは、上記フロントサイドフレームに沿って配設された左右一対のサイドレールと、これらのサイドレールの前端部および後端部間に架設されたクロスメンバとを有し、この車体前部側のクロスメンバが、平面視において上記フロントクロスメンバから後方に退入した位置に配設されている。
【特許文献1】実開平3−91282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に記載のように、サブフレームが設けられた車体前部構造によれば、前突時にフロントサイドフレームおよびサブフレームに効率的に衝撃荷重を分散、吸収して乗員を衝撃から保護することができるという利点がある。
【0005】
ここで、このような前部車体構造においては、前突時に広範囲で被衝突物を圧潰させることができれば衝撃荷重を車体前部で分散、吸収させ易くなることが知られている。従って、この観点からは正面視において各フロントサイドフレームの前端面およびサブフレームのサイドレール前端面によって囲まれる方形領域の面積が大きければ大きいほど好ましい。また、この方形領域の面積を拡大すれば、フルラップ衝突時だけでなく、車幅方向左右にオフセットしたオフセット衝突時にも衝撃を緩和することができ、この点においても上記方形領域を拡大することが強く望まれている。
【0006】
一方、これらの前部車体構造は、例えばバンパーフェースや装飾グリル等で装飾されて意匠的効果が高められているが、上記方形領域を相似的に大小した場合には、車体前部の意匠的効果が低減する場合がある。近年、車両の外形を流線的に形成し、意匠的効果を高めたものが多く見受けられるが、特にこのような車両については前部車体の意匠を維持したまま上記方形領域を拡大することが困難であった。
【0007】
本発明は、このような事情のもとになされたものであり、意匠的効果を維持しつつ、簡単な構成で前突時の衝撃を効率的に分散、吸収可能な車体前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明に係る車体前部構造は、車体前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレームと、このフロントサイドフレームの下方に配設されたサブフレームに含まれ車体前後方向に延設された左右一対のサブサイドフレームとを備え、このサブサイドフレームの前端部に、車幅方向についてフロントサイドフレームよりも外方に突出する拡幅突出部がそれぞれ設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
この発明によれば、サブフレームの前端部に、車幅方向についてフロントサイドフレームよりも外方に突出する拡幅突出部が左右それぞれに設けられているので、この拡幅突出部によりサブサイドフレームの前端部を車幅方向に拡幅させることができ、これにより正面視においてフロントサイドフレームの左右各前端面とサブサイドフレームの左右各前端面によって囲まれる方形領域を裾拡がり状態に拡大することができる。このため、拡幅突出部を設けるという簡単な構成で、前突時、特に高速前突時に、被衝突物を広範囲に圧潰することができ、フロントサイドフレームおよびサブサイドフレームに効果的に衝撃荷重を分散、吸収させて乗員を衝撃から一層有効に保護することができる。しかも、拡幅突出部によって車幅方向に上記方形領域を車幅方向に拡大しているため、フルラップ衝突時だけでなく、オフセット衝突時においてもさらなる緩衝効果を得ることができる。
【0010】
さらに、拡幅突出部がサブサイドフレームに設けられているので、左右のフロントサイドフレームの前端部が拡幅される場合に比べて、意匠的影響が比較的小さい車体下部のスペースを有効に利用することにより、車体前部における意匠的効果の低減を可及的に抑制することができる。
【0011】
なお、拡幅突出部はサブサイドフレームに直接取り付けられている場合だけでなく、例えばサブサイドフレームの前端部間に架設されたサブクロスメンバを介して間接的に取り付けられている場合であってもよい。
【0012】
上記拡幅突出部の具体的構成は特に限定するものではなく、サブサイドフレームの前端部を車幅方向外方に延出させたものや、サブサイドフレーム前端部間に架設されたサブクロスメンバを車幅方向に延長させたもの、或いは棒状部材が単に突設されているようなものであってもよいが、上記拡幅突出部は、突出本体部と、この突出本体部の後面から上記サブサイドフレームの側面にかけて筋交状に配設された補強部とを備えて構成されるのが好ましい(請求項2)。
【0013】
このように構成すれば、衝突時において補強部が突っ張ることにより、突出本体部の後方への倒伏を効果的に防止することができる。このため、拡幅突出部を介してサブサイドフレームに衝撃荷重を適正に伝達することができ、これにより一層効果的に前突時の衝撃を緩和することができる。
【0014】
この場合、上記拡幅突出部は、その補強部の後端部で上記サブサイドフレームに当接しているだけのものであってもよいが、上記拡幅突出部は、その補強部の後端部で上記サブサイドフレームに接合されているのが好ましい(請求項3)。
【0015】
このように構成すれば、前突時において補強部からサブサイドフレームに効率的に荷重を伝達させることができ、より効果的に前突時の衝撃を緩和することができる。
【0016】
また、上記拡幅突出部は、サブサイドフレームに一体形成されることにより配設されているものであってもよいが、上記サブサイドフレームとは別体に形成され、このサブフレームに接合されているのが好ましい(請求項4)。
【0017】
このように構成すれば、既存のサブサイドフレームを有効に利用して本発明の車体前部構造を構成することができ、製造コストの増大を可及的に抑制することができる。しかも、拡幅突出部のサブサイドフレームに対する接合箇所を車種等に応じて適宜選択することができ、この接合箇所について衝撃を緩和する観点から最適な位置に設定することができる。
【0018】
さらに、上記フロントサイドフレームおよびサブサイドフレームの車幅方向の外側方に左右それぞれ前輪が配設されている場合に、上記拡幅突出部は、正面視において上記前輪と重なる態様で当該前輪の前方に配設されているのが好ましい(請求項5)。
【0019】
このように構成すれば、前突時にサブサイドフレームが圧潰して後方に縮退した場合に、拡幅突出部が前輪に係合して当該前輪、ひいてはこの前輪を介してサイドシル等の車体部分にも衝撃荷重を伝達させることができ、これにより衝撃荷重をより広範に分散、吸収させて衝撃をより一層効果的に緩和することができる。
【0020】
この発明において、衝撃を緩和するための緩衝部が上記拡幅突出部の前端面に前方に突出した状態で設けられ、この緩衝部の前端同士を橋渡すようにレインフォースメントが車幅方向に延設されているのが好ましい(請求項6)。
【0021】
このように構成すれば、サブサイドフレームの前端部に緩衝部を設ける場合と比べて、左右の緩衝部間の間隙を広くとることができ、このため、これらの緩衝部間に架設されるレインフォースメントの長さも車幅方向に長く設けることができる。従って、低速時におけるオフセット衝突の場合あって、このオフセット量が大きい場合であっても、上記レインフォースメントおよび緩衝部によって衝撃を適正に受け止めることができ、これにより車体を効果的に保護することができる。
【発明の効果】
【0022】
上記構成の発明によれば、フロントサイドフレームの左右各前端面とサブサイドフレームの各前端面における左右各端部によって囲まれる方形領域を裾拡がり状態に拡大することができ、これにより拡幅突出部を設けるという簡単な構成で、前突時、特に高速前突時に、フロントサイドフレームおよびサブサイドフレームに効率的に衝撃荷重を分散、吸収して乗員を衝撃から一層効果的に保護することができるという利点がある。しかも、拡幅突出部によって車幅方向に上記方形領域を拡大しているため、フルラップ衝突時だけでなく、オフセット衝突時においてもさらなる緩衝効果を得ることができる。さらに、意匠的影響が比較的少ない車体下部のスペースを有効に利用することによって、左右のフロントサイドフレームの前端部が拡幅される場合に比べて、車体前部における意匠的効果の低減を可及的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は車体の前部構造を示す斜視図であり、図2は同前部構造を示す底面図であり、図3は図2のIII−III線断面図である。
【0024】
この前部車体には、車体の前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム3と、このフロントサイドフレーム3の前端部間に取り外し可能に架設されたバンパレインフォースメント4とを備え、このフロントサイドフレーム3の下方に、略矩形枠状のフロントサブフレーム5(サブフレームに相当する)が配設されている。なお、図1中二点鎖線で示される部材は、フロントサイドフレーム3およびバンパレインフォースメント4に着脱可能に取り付けられる合成樹脂製のラジエータシュラウド100である。
【0025】
各フロントサイドフレーム3は、図3に明示するように、その後部が後下がりに傾斜することによりキックアップ部3aが形成され、その後端部がフロアフレーム6に接続されている。このフロアフレーム6上には、フロアパネル9が接合されており、このフロアパネル9の前端縁はエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル10に連設されている。
【0026】
また、このフロントサイドフレーム3の車幅方向外方に、図2に明示するように、ホイルハウジング7が設けられ、このホイルハウジング7内に前輪8が格納されている。各前輪8は、サスペンションアーム等の支持部材(図示せず)を介して前部車体に支持されている。このホイルハウジング7の後方には、フロアパネル9の車幅方向両端縁における前端部に接続フレーム12(図2参照)を介して接合されたサイドシル11が配設されている。
【0027】
バンパレインフォースメント4は、鋼板材をプレス加工する等して形成されている。具体的には、このバンパレインフォースメント4は、一方向(後方)に開口する断面視略コ字状に形成されたバンパレイン本体部41と、このバンパレイン本体部41の開口縁から上下方向に延びるフランジ部42とを有し、クラッシュカン46を介してフロントサイドフレーム3の前端面に架け渡すように車幅方向に沿って延設されている。
【0028】
クラッシュカン46は、車体前後方向に直交する断面が閉断面として形成された筒状のクラッシュカン本体部46aと、このクラッシュカン本体部46aの前後に設けられた取付フランジ部46aとを有し、取付フランジ部46aのうち後側に配設された取付フランジ部46aは前側に配設された取付フランジ部(図示せず)よりも大きく形成されている。そして、後側に配設された取付フランジ部46aは、フロントサイドフレーム3の前端縁に形成された取付フランジ31に重ね合わされ、ボルト等の締結具によって着脱自在に取り付けられている。一方、前側に配設された取付フランジ部は、バンパレイン本体部41の後方開口部に嵌め込まれ、当該バンパレイン本体部41の後面に重ね合わされて溶接等により強固に接合されている。従って、クラッシュカン46は、その先端(前端)がバンパレイン本体部41の後面に突き当てられた状態でバンパレインフォースメント4に接合されている。
【0029】
このバンパレインフォースメント4の長さは、車両の種類に応じて適宜調整され、従って車両先端部が平面視において丸みを帯びた流線型に形成される場合でも、デザイン効果を低減させることもない。
【0030】
フロントサブフレーム5は、エンジンルームに配設されるエンジンの振動伝達を抑制するとともに前突時の衝撃荷重を分散、吸収させる変形周囲型のサブフレームで、いわゆるペリメーターフレームと呼ばれるものである。
【0031】
このフロントサブフレーム5について、図2ないし図4を用いて具体的に説明する。図4は、フロントサブフレームを示す斜視図である。
【0032】
フロントサブフレーム5は、車体前後方向に延設される左右一対のサブサイドフレーム51と、これらのサブサイドフレーム51の前端部および後端部において両者間に架設された前後各サブクロスメンバ52,53とを備え、全体として略矩形状、詳しくは前方に向かうに従って拡幅される略台形状に形成されている。このサブフレーム5は、各サブサイドフレーム51にその長手方向に沿って設けられた複数の支持部54〜56において、連結部13を介して、上方に配置されているフロントサイドフレーム3の下面の所定箇所に取り付けられている。この連結部13は、いわゆるラバーブッシュであり、内外筒の間に軸方向に圧縮したラバーを介在させて、無摺動、無潤滑で揺動可能に構成されたものである。
【0033】
サブサイドフレーム51は、それぞれフロントサイドフレーム3の略直下に位置し、前端縁がフロントサイドフレーム3の前端縁よりも車体後方側に退入した位置、詳しくは図1に二点鎖線で示すシュラウド100の後方近傍位置に配設されている。このサブサイドフレーム51は、略水平方向に延びるフレーム前部511と、このフレーム前部511の後端縁から延設され後下がりに傾斜する傾斜段差部512と、この傾斜段差部512の後端縁に接続され略水平方向に延びるフレーム後部513とを備え、フレーム前後部511,513間に傾斜段差部512を介在させることによってフレーム前部511の軸心とフレーム後部513の軸心とが偏心されるように構成されている。このようにフレーム前部511とフレーム後部513との軸心を偏心させると、フレーム前部511の前端部から軸心方向に入力された荷重を傾斜段差部512で吸収させてからフレーム後部513に伝達させることができ、衝撃荷重等を効果的に吸収することができる。すなわち、サブサイドフレーム51の屈曲変形、特に下方に向かう屈曲変形を促進させるような構造を採用することにより、フロントサイドフレーム3を損傷することなく、効果的に緩衝効果(衝撃吸収効果)を得ることができるように構成されている。なお、当実施形態では、製作上の理由から、フレーム前部511と傾斜段差部512は一体に形成され、一方、フレーム後部513はフレーム前部511等と別体に形成されてから傾斜段差部512の後端縁に接合するものとなされているが、各部について一体に形成されるものであってもよいし、また各々別部材として形成されるものであってもよい。
【0034】
サブサイドフレーム51は、下方に開口する断面視ハット状のパネル部材と上方に開口する断面視逆ハット状のパネル部材とが各開口部を対向させた状態で組み合わされて、長手方向に直交する断面が閉断面となる筒状に形成されている。そして、このサイドフレーム51について、衝突後にフレーム前部511の高さ位置が衝突前後で略同じ高さ位置になるように傾斜段差部512とフレーム前後部511,513との境界部を屈曲させるとともに、フレーム後部513が確実に下方に屈曲させるような変形(図3に示す二点鎖線を参照)を促進させるために、種々の工夫が施されている。
【0035】
当実施形態では、フレーム前部511および傾斜段差部512を構成する上記パネル部材と、フレーム後部513を構成する上記パネル部材との間で、板厚が異なるように構成されている。すなわち、フレーム前部511および傾斜段差部512を構成する上記パネル部材の板厚が、フレーム後部513を構成する上記パネル部材の板厚よりも厚いものが用いられ、これによりフレーム後部513の曲げ変形量(当実施形態では上下方向の曲げ変形量)が大きくなるように構成されている。従って、フレーム後部513は、その軸心がフレーム前部511の軸心よりも下方に位置されていることと相俟って、確実に下方に屈曲変形し、これによりフレーム後部513が上方に屈曲変形することによりフロントサイドフレーム3に接触して当該フロントサイドフレーム3を損壊させるといった事態を確実に回避することができる。
【0036】
さらに、フレーム後部513の長手方向に直交する閉断面積が、車体の前側に向かうに連れ縮小するように構成され、フレーム後部513の中の前端部、言い換えるとフレーム後部513とと傾斜段差部512との境界部近傍での変形量が、フレーム後部513の中の後端部の変形量よりも大きくなるように構成されている。従って、傾斜段差部512での屈曲変形が促進されることになる。なお、サイドフレーム51、特にフレーム後部513は、図2に明示するように、車体前方に向かうに従って拡幅するように構成されている。
【0037】
一方、前側サブクロスメンバ52は、長手方向両端部がサブサイドフレーム51に接合され、図3に示すように、長手方向に直交する断面が閉断面として形成されるとともに、図4に示すように、下方に湾曲形成され、車幅方向中央部が両端部に比べて若干下側に位置するように構成されている。
【0038】
後側サブクロスメンバ53も、長手方向両端部がサブサイドフレーム51に接合されている。この後側サブサイドメンバ53は、図3に示すように、長手方向に直交する断面が偏平形状の閉断面として形成されるとともに、図2に示すように、その長手方向中央部の幅(車体前後方向に沿った長さ)が両端部の幅に比べて小さい値に設定されている。
【0039】
フロントサブフレーム5(詳しくはサブサイドフレーム51)の前端部には、平面視においてフロントサイドフレーム3の外側面よりも車幅方向外方に突出する拡幅突出部57が左右それぞれに接合されている。この拡幅突出部57は、フロントサブフレーム5と別体に形成され、これをフロントサブフレーム5に接合することにより、フロントサブフレーム5を拡幅するものとなされている。すなわち、拡幅突出部57は、図2に示すように、フロントサブフレーム5の前端部の幅W0を幅W1(W1>W0)に拡幅するものであり、これにより拡幅フロントサブフレーム(フロントサブフレーム5に拡幅突出部57が接合されたフレーム)が構成されることになる。
【0040】
この拡幅突出部57について、図5ないし図8を主に用いて説明する。図5は拡幅突出部57を拡大して示す斜視図であり、図6は同平面図であり、図7は同正面図であり、図8は図7のVIII−VIII線断面図である。なお、これらの図では、車幅方向右側に配設された拡幅突出部57について示しており、従って以下の説明においてもこの右側に配設された拡幅突出部57を例にとって説明するが、左側に配設された拡幅突出部57も対象形状ではあるものの略同様に形成されている。
【0041】
拡幅突出部57は、前面が前側サブクロスメンバ52の前端面形状から略連続するように車幅方向外方に突出する突出本体部571と、この突出本体部571の後面からサブサイドフレーム51の外側面にかけて筋交状に配設された突出補強部572とを備え、当実施形態では一本の角形鋼管に切込みを入れてくの字状に屈曲して所定箇所を接合することにより形成されている。この拡幅突出部57は、サブサイドフレーム51の車幅方向外側面に接合されている。この接合は、公知の接合構造が採用されているが、ここでは拡幅突出部57の端部に設けられた接合フランジ573をサブサイドフレーム51の上面、下面および外側面に重合溶接することにより行われている。
【0042】
突出本体部571は、前面が平面として構成され、車幅方向に沿って真っ直ぐ外方に延びて形成されている。この突出本体部571の突出量は特に限定するものではないが、当実施形態では、図7に示すように、少なくとも正面視において前輪8と重なるように設定されている。より具体的には、正面視において、突出本体部571の先端縁が前輪8の幅方向中心よりもやや内側に位置するように設定されている。この突出本体部571の突出量は、大きければ大きいほど緩衝効果が大きくなるが、一方において大きくなると車体重量が増大し、車体前部のデザインも悪化する。従って、この突出本体部571の突出量は、その先端が正面視において、前輪8の幅寸法範囲内の所定位置に存在するように適宜設定されるのが好ましく、さらに好ましくは前輪8の幅方向中心からその幅方向内端縁の範囲内の所定位置に存在するように設定されるのがよい。
【0043】
一方、突出補強部572は、上記突出本体部571に一体に形成され、図6に示すように、この突出本体部571の後面側から車体後方に若干延び、かつ、その後端から車体後方に向かうに従って車幅方向内方に傾斜して形成されている。従って、この突出補強部572は、突出本体部571を筋交状に支持することにより、突出本体部571の車体後方への倒伏を効果的に抑制する添え木としての機能を果たす。
【0044】
そして、この突出補強部572の後端面は、サブサイドフレーム51の車幅方向外側面に当接し、上記接合フランジ573において強固に当該サブサイドフレーム51、詳しくは傾斜段差部512の外側面に接合されている。従って、この拡幅突出部57は、サブサイドフレーム51のフレーム前部511と傾斜段差部512とに跨って接合され、サブサイドフレーム51に対する荷重の入力を分散させることができる。この突出補強部572は、上記傾斜部分の中間部において屈曲部572aが設けられており、この屈曲部572aで傾斜角度が変更されるものとなされている。また、この突出補強部572は、図7に示すように、車体の前後方向について後下がりに傾斜して形成されている。
【0045】
上記構成の拡幅突出部57は、その前端面であって車幅方向外端部に、車体前方に突出する緩衝部としてのクラッシュカン58が配設されている。このクラッシュカン58は、軸線方向からの荷重の入力に対して押し潰されるもので、この押し潰される過程で衝撃エネルギーを吸収して衝突等に伴う衝撃を緩和するものである。当実施形態では、クラッシュカン58は角筒状の中空形状を呈しいているが、このクラッシュカン58の形状、大きさ、板厚、強度、材質は吸収するべき衝撃エネルギー等を勘案して適宜設定することができる。このクラッシュカン58は、その後端部に設けられた接合フランジにおいてボルト等の締結具により拡幅突出部57の前端面に着脱可能に取り付けられている。また、このクラッシュカン58にビードや圧潰を促進するべく圧潰促進孔等を適宜設けるものであってもよい。
【0046】
また、当実施形態では、クラッシュカン58に加えて、フロントサブフレーム5の前端面であって、左右に設けられたクラッシュカン58の車幅方向内側に、緩衝部としてのフレームクラッシュカン59が設けられている。このフレームクラッシュカン59も、突出長さ、形状等について若干異なるものの、拡幅突出部57に設けられたクラッシュカン58と略同様に形成されている。なお、このフレームクラッシュカン59は、クラッシュカン58と異なり先すぼまり状に形成されている。
【0047】
上記各クラッシュカン58,59の先端部には、これらの先端部同士を橋渡すように車幅方向に延びるサブバンパレインフォースメント(以下、単に「サブレイン」という)60が取り付けられている。このようにサブレイン60は車幅方向左右に配置されたそれぞれ2個のクラッシュカン58,59により支持されているので、斜め前方からの衝突に対してもクラッシュカン58,59の車幅方向への倒伏を効果的に防止することができる。
【0048】
サブレイン60は、鋼板材をプレス加工する等して形成されている。具体的には、このサブレイン60は、図3に示すように、後方に開口する断面視凸状のサブレイン前面部材601と、この前面部材601の後方開口部を閉塞する断面コ字状のサブレイン後面部材602とを備え、サブレイン前面部材601の後部内面とサブレイン後面部材602の後部外面とが重ね合わされてスポット溶接により接合されることにより、長手方向に直交する断面が閉断面となる部材として形成されている。そして、各クラッシュカン58,59の先端部がサブレイン後面部材602の開口部に嵌め込まれ、クラッシュカン58,59の先端縁をサブレイン後面部材602の後面に突き当てた状態で溶接によって強固に接合されている。
【0049】
このサブレイン60は、車幅方向に沿ってアーチ状に形成されるとともにバンパレインフォースメント4よりも長く形成され、その両端部が車幅方向についてフロントサブフレーム5の両外側縁から突出した状態で配置されている。そして、サブレイン60は、図2に示すように、平面視における車体前後方向についてバンパレインフォースメント4と重なる位置、詳しくは前面がバンパレインフォースメント4の前面よりも僅かに退入した位置に配設され、車体正面で被衝突物に接触するものとなされている。
【0050】
サブレイン前面部材601は、前面高さ方向中間部が円弧状に膨出して形成されている。このサブレイン前面部材601と、サブレイン後面部材602との間の空間は、当実施形態は空洞とされている。
【0051】
なお、上記構成の車体前部構造は、図示しないバンパーフェースやフロントグリル等によって被覆装飾されている。
【0052】
ここで、車両の高速前突(被衝突物との相対速度が高速時における前方衝突)時には、図1および図7に示すように、フロントサイドフレーム3の左右各前端面およびフロントサブフレーム5の車幅方向両端部(サブサイドフレーム51の前端面)によって囲まれた方形領域の全体で被衝突物が圧潰されることになるから、この方形領域が大きければ大きいほど被衝突物を広範囲に潰すことができ、これにより乗員に対する衝撃が緩和されることになる。当実施形態では、フロントサイドフレーム3にバンパレインフォースメント4が取り付けられており、また、フロントサブフレーム5に拡幅突出部57が設けられるとともにこの拡幅突出部57の前面から突設されたクラッシュカン58にサブレイン60が取り付けられているので、上記方形領域は、図1および図7に示すように、各フレーム3,5に車幅方向両端部が支持されたバンパレインフォースメント4およびサブレイン60の車幅方向各両端部によって囲まれる領域A1となる。従って、この方形領域A1は、フロントサブフレーム5に拡幅突出部57が設けられていない場合の方形領域A2と比べて裾広がり状態に領域面積を拡大することができる(A1>A2)。このため、当実施形態の車体前部構造によれば、拡幅突出部57を設けるとともに、この拡幅突出部57にサブレイン60を支持させるという簡単な構成で、前突時、特に高速前突時に、被衝突物を広範囲に圧潰することができ、フロントサイドフレーム3およびサブフレーム5に効果的に荷重を分散、吸収させて乗員を衝撃から一層有効に保護することができる。しかも、拡幅突出部57を設けることにより、方形領域A1が領域A2よりも車幅方向に拡大されているため、フルラップ衝突時だけでなく、オフセット衝突時においてもさらなる緩衝効果を得ることができる。
【0053】
また、拡幅突出部57について、その突出本体部571の突出量を好適範囲、すなわち正面視において前輪8と重なるように調整されているので、前突(車両前方側からの衝突)によってフロントサブフレーム5の前端部が変形して収縮し後方に退入した場合に、突出本体部571が前輪8に当接して、この当接部分を介して前輪8ひいては前輪8を支持する車体部分に衝撃荷重が分散伝達される。このため、より広い範囲に衝撃荷重を分散、吸収させることができ、これにより乗員を衝撃からより一層効果的に保護することができる。一方、例えば強い衝撃荷重が入力された場合にはサブサイドフレーム51等の変形に加えて前輪8までもが後方に退入することになるが、この場合には、前輪8がサイドシル11に当接し、この当接部分を通じても衝撃荷重が分散伝達される。従って、前突に伴う衝突荷重を車体の複数部分に分散、吸収させて、衝突に伴う衝撃を効果的に緩和することができる。
【0054】
さらに、サブレイン60が車体の下部において車幅方向に延設されているので、バンパレインフォースメント4の配設高さに至らない被衝突物と衝突した場合、或いは衝突の衝撃等によって被衝突物が車体下方に潜り込もうとする場合でも、効果的に衝撃を吸収緩和することができる。しかも、サブレイン60がクラッシュカン58,59を架け渡すように車幅方向に延設されているので、ポール等の幅が小さい被衝突物に衝突した場合であっても、サブレイン60を介してクラッシュカン58,59に確実に衝撃荷重を伝達することができ、このクラッシュカン58,59を圧潰させることにより効果的に衝撃を吸収することができる。
【0055】
また、サブレイン60がクラッシュカン58,59を架け渡すように車幅方向に延設されているので、オフセット衝突時においても、このサブレイン60を通じて適正に左右両側のクラッシュカン58,59に衝撃荷重を分散させることができ、これらのサブレイン60およびクラッシュカン58,59で効果的に衝撃を吸収緩和することができる。このため、特に、低速前突時においては、このサブレイン60とクラッシュカン58,59だけで衝撃を吸収することができる場合があり、このような場合にはフロントサイドフレーム3を損傷させることがなく、サブレイン60とクラッシュカン58,59を取り替えるだけで元通りの状態に戻すことができる。従って、修理に要する手間および費用を削減することができる。
【0056】
さらに、拡幅突出部57が車体下部に配設されるフロントサブフレーム5に設けられ、これらの拡幅突出部57にサブレイン60が架設されているので、車高方向中間部に配設された一対のフロントサイドフレーム3の前端部同士の間隔が拡幅され、バンパレインフォースメント4を延長する場合に比べて、意匠的影響が比較的小さい車体下部のスペースを有効に利用することにより、車体前部における意匠的効果の低減を可及的に抑制することができる。
【0057】
また、拡幅突出部をフロントサブフレーム5に一体に形成される場合に比べて、既存のサブフレームを有効に利用してこの車体前部構造を構成することができ、製造コストの増大を可及的に抑制することができる。しかも、拡幅突出部57のフロントサブフレーム5に対する接合箇所を車種等に応じて適宜選択することができ、この接合箇所について衝撃を緩和する観点から最適な位置に設定することができる。
【0058】
なお、本発明の車体前部構造の具体的構成は、上記実施形態に限定されず、種々変更可能である。他の実施形態を以下に説明する。
【0059】
(1)上記実施形態では、フロントサブフレーム5のサブサイドフレーム51をフロントサイドフレーム3に支持させるものとなされているが、サブフレーム5を支持するのはフロントサイドフレーム3に限定されるものではなく、その他の車体剛性フレームに支持させるものであってもよい。
【0060】
(2)上記実施形態では、サブサイドフレーム51のフレーム後部513が略水平方向に延びるように構成されているが、フレーム後部513を所定の傾斜角度をもって配設するものであってもよい。例えば、フレーム後部513を後上がりに形成するものであってもよい。
【0061】
(3)上記実施形態では、拡幅突出部57は、一本の鋼管を屈曲することにより形成されているが、本発明の拡幅突出部の具体的構成はこれに限定されるものではない。例えば、図9に示すように、拡幅突出部157は、突出本体部158と突出補強部159とに別体として形成され、両者158,159を溶接によって接合した後に、フロントサブフレーム5(サブサイドフレーム51)に接合するものとしてもよい。具体的には、突出本体部158は、鋼板がプレス加工されて後方に開口するコ字状に形成されている。一方、突出補強部159も鋼板がプレス加工されて車幅方向内側に開口するコ字状に形成されるとともに先端部に接合片159aが突出形成され、この接合片159aを突出本体部158の外側縁に重ね合わせて溶接により接合されている。
【0062】
このように構成しても、上記実施形態の拡幅突出部57と同様の効果を得ることができる。
【0063】
さらに、図10に示すように、フロントサブフレーム50の前側サブクロスメンバ252を利用して拡幅突出部257を構成するものとしてもよい。すなわち、前側サブクロスメンバ252は、車幅方向についてフロントサイドフレームよりも外方に突出する状態にまで延長して形成され、当該延長部分が拡幅突出部257の突出本体部258として構成されるものであってもよい。この突出本体部258は後方に開口する断面視コ字状に形成され、この後方開口部に突出補強部259が突き当て状態で接合されている。すなわち、この突出補強部259は、鋼管を湾曲形成したもので前端縁が車体前方に開口する一方、後端縁が車幅方向に開口するものとなされている。そして、各開口縁には径方向外方に突出する接合フランジ259aが設けられ、この接合フランジ259aにおいてボルト等の締結具により突出本体部258或いはサブサイドフレーム51に接合されている。
【0064】
このように構成しても、上記実施形態の拡幅突出部57と同様の効果を得ることができる。また、前側サブクロスメンバ252を有効に利用した拡幅突出部257によれば、専用の前側サブクロスメンバ252を製作する必要があるものの、その製作作業が簡略化される。
【0065】
(4)上記実施形態では、上記拡幅突出部57は、その突出補強部572の後端縁でフロントサブフレーム5の外側面に接合されているが、この後端縁は単にサブフレーム5に当接しているだけのものであってもよい。ただし、突出補強部572の後端縁でフロントサブフレーム5に接合するものとすれば、前突時において突出補強部572からフロントサブフレーム5に効率的に荷重を伝達させることができ、より効果的に前突時の衝撃を緩和することができる。
【0066】
(5)上記実施形態では、サブレイン60が左右のクラッシュカン58間に架設されているが、図11に示すように、サブレイン60を短く製作して、このサブレイン161をフレームクラッシュカン59間に架設するものとしてもよい。この場合にはクラッシュカン58を適宜省略することができる。
【0067】
また、サブレイン60を省略した場合でも、サブサイドメンバ51の前端面とバンパレインフォースメント4の左右両端部とで囲まれる方形領域によって被衝突物を広範囲に圧潰することができ、一定の衝撃緩衝効果を得ることができる。
【0068】
(6)上記実施形態では、拡幅突出部57がサブサイドフレーム51に直接取り付けられている場合について説明したが、拡幅突出部57がサブサイドフレーム51に間接的に取り付けられているものであってもよい。要は、拡幅突出部57に入力される荷重がサブサイドフレーム51に伝達されればよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】当実施形態の車体前部構造の前部を示す斜視図である。
【図2】同車体前部構造を示す底面図である。
【図3】図2のII−II線断面図である。
【図4】当実施形態の車体前部構造のフロントサブフレームを示す斜視図である。
【図5】同構造の要部を示す斜視図である。
【図6】同構造の要部を示す平面図である。
【図7】同構造の要部を示す正面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線断面図である。
【図9】同構造の拡幅突出部の変形例を示す斜視図である。
【図10】同構造の拡幅突出部のさらに別の変形例を示す斜視図である。
【図11】同構造の変形例を示す図6に相当する平面図である。
【符号の説明】
【0070】
3 フロントサイドフレーム
4 バンパレインフォースメント
5 フロントサブフレーム
11 サイドシル
51 サブサイドフレーム
52 前側サブクロスメンバ
57 拡幅突出部
58 クラッシュカン
59 フレームクラッシュカン
60 サブレイン
A1 方形領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレームと、このフロントサイドフレームの下方に配設されたサブフレームに含まれ車体前後方向に延設された左右一対のサブサイドフレームとを備え、
このサブサイドフレームの前端部に、車幅方向についてフロントサイドフレームよりも外方に突出する拡幅突出部がそれぞれ設けられていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
上記拡幅突出部は、突出本体部と、この突出本体部の後面から上記サブサイドフレームの側面にかけて筋交状に配設された補強部とを備えることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
上記拡幅突出部は、その補強部の後端部で上記サブサイドフレームに接合されていることを特徴とする請求項2記載の車体前部構造。
【請求項4】
上記拡幅突出部は、上記サブサイドフレームとは別体に形成されるとともに、このサブサイドフレームに接合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車体前部構造。
【請求項5】
上記フロントサイドフレームおよびサブサイドフレームの車幅方向外側方にそれぞれ前輪が配設され、上記拡幅突出部は、正面視において上記前輪と重なる態様で当該前輪の前方に配設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車体前部構造。
【請求項6】
衝撃を緩和するための緩衝部が上記拡幅突出部の前端面に前方に突出した状態で設けられ、この緩衝部の前端同士を橋渡すようにレインフォースメントが車幅方向に延設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車体前部構造。
【請求項1】
車体前後方向に延設された左右一対のフロントサイドフレームと、このフロントサイドフレームの下方に配設されたサブフレームに含まれ車体前後方向に延設された左右一対のサブサイドフレームとを備え、
このサブサイドフレームの前端部に、車幅方向についてフロントサイドフレームよりも外方に突出する拡幅突出部がそれぞれ設けられていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
上記拡幅突出部は、突出本体部と、この突出本体部の後面から上記サブサイドフレームの側面にかけて筋交状に配設された補強部とを備えることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
上記拡幅突出部は、その補強部の後端部で上記サブサイドフレームに接合されていることを特徴とする請求項2記載の車体前部構造。
【請求項4】
上記拡幅突出部は、上記サブサイドフレームとは別体に形成されるとともに、このサブサイドフレームに接合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車体前部構造。
【請求項5】
上記フロントサイドフレームおよびサブサイドフレームの車幅方向外側方にそれぞれ前輪が配設され、上記拡幅突出部は、正面視において上記前輪と重なる態様で当該前輪の前方に配設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車体前部構造。
【請求項6】
衝撃を緩和するための緩衝部が上記拡幅突出部の前端面に前方に突出した状態で設けられ、この緩衝部の前端同士を橋渡すようにレインフォースメントが車幅方向に延設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車体前部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−175987(P2006−175987A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371109(P2004−371109)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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