説明

車体前部構造

【課題】ポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に対して車幅方向中央部分が激突したときに左右のフロントサイドフレームに衝突荷重を分散させると共にパワープラントの後退を抑える。
【解決手段】横置きレシプロ多気筒エンジン20を含むパワープラント40に対して上方及び下方ワイヤ60,62が掛け渡されている。上下のワイヤ60,62の左右の前端は左右のフロントサイドフレーム10の前端に固定されている。フロントサイドフレーム10の前端部には、車幅方向に延びるサブフレーム16がロングボルト36を使って締結され、ロングボルト36に上下のワイヤ60,62が連結される。上方ワイヤ60はフロントサイドフレーム10の上方に配設され、下方ワイヤ62はフロントサイドフレーム10の下方に配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関し、より詳しくは、ポール状の障害物に対して車幅方向中央部分が前面衝突したときの安全性を向上することのできるものに関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部は、一般的に、車体前端において車幅方向に延びるバンパーレインフォースメントの左右の端部を夫々左右一対のフロントサイドフレームの前端にクラッシュカンを介して連結する構造が採用されており、前面衝突の際の主なる衝撃吸収部材として左右のフロントサイドフレームを機能する構造が採用されている。
【0003】
前面衝突に関する衝撃安全性能試験は二つの態様で行われている。第一の態様がフルラップ前面衝突であり、第二の態様がオフセット前面衝突である。フルラップ前面衝突試験では、車両を所定速度でコンクリート製の障壁に衝突させることにより行われる。オフセット前面衝突試験では、車両の一方の側部(オーバーラップ率40%)をハニカム状の障壁に前面衝突させることにより行われる。
【0004】
自動車製造会社では上記のフルラップ衝突試験及びオフセット衝突に関する試験を念頭においた前面衝突に関する社内基準を設け、社内基準に合致する車両の開発を行っているのが実状である。
【0005】
実際の前面衝突事故では種々様々な態様がある。その一つに、道路脇に植設された電柱や道路標識の支柱などに衝突した場合である。このポール状の障害物に対して車両の側部で前面衝突したときには、前述したオフセット前面衝突試験と同様に、一方のフロントサイドフレームによって衝撃を吸収することが可能である。しかし、車両の車幅方向中央部分がポール状の障害物に激突した場合、バンパーレインフォースメントは、一般的に設計上これを受け止める強度を備えていないため、その車幅方向中央部分で折れ曲がってしまい、この結果、左右のフロントサイドフレームが機能せずに大きな損壊が発生してしまう虞がある。
【0006】
特許文献1は、圧縮スプリングを内蔵した張力維持機構とワイヤとを使った衝撃荷重分散装置を開示している。この衝撃荷重分散装置は、ワイヤをバンパーレインフォースメントに沿って左右に張設し、そして、このワイヤを左右のフロントサイドフレームのブラケットを介して後方に導いてワイヤの左右の端部の間に張力維持機構を介装すると共にバンパーレインフォースメントの車幅方向中央部分をワイヤに連結する構成が採用されている。この構成によれば、前面衝突時の荷重は、左右のフロントサイドフレームと共にパンパーレインフォースメントの中央部分からワイヤに入力される。
【0007】
【特許文献1】特開2005−262951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1の発明は、当該特許文献1に記載のとおり、車両の前面衝突に対して効率良く荷重分散やエネルギ吸収を行うことを目的とするものであるが、圧縮バネを使った張力維持機構を配設した構成から考えて、車速十数Km/h以下でのいわゆる軽衝突時に有効であると考えられる。
【0009】
本発明の目的は、前面衝突に関しポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に対して車幅方向中央部分が激突したときに左右のフロントサイドフレームに衝突荷重を分散させると共にパワープラントの後退を抑えることのできる車体前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
エンジンルームに搭載したパワープラントに係合して該パワープラントから左右に且つ前方に延出する可撓性張力材を備え、
該可撓性張力材の左右の各前端が、夫々、前記エンジンルームにおいて車体前後方向に延在する閉断面構造の左右のフロントサイドフレームの前端部を貫通するロングボルトに締結されていることを特徴とする車体前部構造を提供することにより達成される。
【0011】
すなわち、本発明にあっては、パワープラントに係合してパワープラントから左右に延出し且つ前方に延びる可撓性張力材の前端を左右のフロントサイドフレームに夫々締結した点に第1の特徴を有し、これにより前面衝突においてポールのように車幅方向に大きな幅を有していない障害物に対して車幅方向中央部分が激突したときに、このポールがエンジンルーム内に侵入してパワープラントと干渉してパワープラントの後退が発生したときには、衝突荷重を張力材(ワイヤが典型例である)を介して左右のフロントサイドフレームに分散することができ、これによりフロントサイドフレームが有している衝撃吸収機能を発揮させることができる。また、パワープラントは張力材によって過度に後退するのが抑制されるため、パワープラントが車室内まで侵入するのを抑止することができる。更に、ワイヤのような可撓性張力材を追加することで、既存の車体の基本構造を大きく変更することなく、ポールPのような障害物に対して車幅方向中央部分が衝突する前面衝突に関する安全性を向上させることができる。
【0012】
本発明は、閉断面構造の左右のフロントサイドフレームの前端部を貫通するロングボルトに張力材の前端を締結した点に第2の特徴を有する。これにより、張力材によってフロントサイドフレームに伝達される衝突荷重を、閉断面構造のフロントサイドフレームの互いに対抗する部分に分散できるため、フロントサイドフレームの前端部の局部的な破壊を招くことなくフロントサイドフレームの本来の潰れ現象を発生させて衝撃を吸収させることができる。
【0013】
なお、本発明にいう「フロントサイドフレームの前端部」という意味は、パワープラントの前方且つフロントサイドフレームが前面衝突(フルオーバーラップ衝突、オフセット衝突)の際に軸線方向への潰れが十分にとれる前方位置という技術的意味であり、必ずしもフロントサイドフレームの前端近傍に限定したものでないことは言うまでもない。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態では、
前記可撓性張力材が、上下に離置した上方張力材と下方張力材とで構成され、
前記ロングボルトが前記フロントサイドフレームを上下に貫通して配設され、
前記ロングボルトの前記フロントサイドフレームの上面から上方に突出した部分に前記上方張力材の前端が連結され、
前記ロングボルトの前記フロントサイドフレームの下面から下方に突出した部分に前記下方張力材の前端が連結される。
【0015】
この実施の形態によれば、前面衝突によってポールがエンジンルーム内に侵入してパワープラントと干渉したときに、上下に離置した上方及び下方張力材によってパワープラントの好ましくない挙動、特に横置きエンジンを含むパワープラントが後方に倒れ込む回転動作を抑制することができる。勿論のことであるが、フルラップ前面衝突、オフセット前面衝突に対する衝突エネルギを吸収する基本構造に大きな変更を必要とせずに、上方ワイヤ、下方ワイヤを追加するだけで車幅方向中央部分がポールなどの障害物に衝突した場合にも、この衝突荷重が左右のフロントサイドフレームに分散されるため、フロントサイドフレームの衝突エネルギ吸収機能を発揮させることができる。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態では、
前記上方及び下方の張力材の前端に円環状の端末部を有し、該円環状の端末に前記ロングボルトが挿通される。ワイヤの端末加工法として、ソケット止め、グリップ止め、アイスプライス、シングルロック、トヨロックなどが知られているが、本発明の実施の形態における好ましい円環状端末部の典型例としてシングルロックを挙げることができる。このシングルロックは側方に突出した部材を有していないため、シングルロックのアイにロングボルトを挿通させることで、周囲に対して邪魔を及ぼすことのない態様で確実に張力材の前端をフロントサイドフレームに締結することができる。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態では、
前記左右のフロントサイドフレームの前端部の下方域に車幅方向に延びるサブフレームを有し、該サブフレームの車幅方向各端部が前記ロングボルトによって各フロントサイドフレームに締結される。この実施の形態によれば、車幅方向に延びるサブフレームを左右のフロントサイドフレームに締結するロングボルトを使って張力材の前端をフロントサイドフレームに締結することができると共に衝突荷重をフロントサイドフレームだけでなく、サブフレームにも的確に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0019】
第1実施例(図1〜図6)
図1、図2を参照して、参照符号1はダッシュパネルを示し、ダッシュパネル1によって車室2とエンジンルーム3とが区画されている。車室2には、インスツルメントパネル4、ブレーキペダル5やアクセルペダル等が設けられている。参照符号6はフロントウインドウである。
【0020】
図1はエンジンルーム3を斜め前方から図であり、図2はエンジンルーム3を側方から見た図である。エンジンルーム3の下方域には、車体前後方向にエンジンルーム3の全域に亘って延在する左右のフロントサイドフレーム10が配設されており、フロントサイドフレーム10は、矩形の閉断面構造を有している。既知のように、左右のフロントサイドフレーム10の前端には、車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント12がクラッシュカン14を介して連結されている。なお、図1では、バンパーレインフォースメント12及びクラッシュカン14を省いてエンジンルーム3を描いてある。エンジンルーム3の下方域には、更に、フロントサイドフレーム10よりも下方に位置するサブフレーム16が配設されている。参照符号18は前輪である。
【0021】
エンジン20は、水冷式の直列四気筒エンジンであり、エンジン出力軸を車幅方向に向けてエンジンルーム3内に搭載されている(図1)。すなわち、エンジン20は横置きのレシプロエンジンであり、エンジン20の後端にはトランスアクスル22が連結されており、エンジン20とトランスアクスル22は車幅方向に並んで配設され、エンジン出力は、トランスアクスル22に内蔵されたデファレンシャルギア24を介して左右の前輪18に分配される。この自動車は前輪駆動形式の車両であるが、4輪駆動形式の車両に対しても本発明を適用することができる。
【0022】
エンジン20は水冷式の4気筒エンジンであり、このエンジン20の冷却水は、フロントサイドフレーム10の前端部の間のシュラウドパネル26に固設されたラジエータ(図示せず)によって冷却される。
【0023】
横置きのエンジン20は、その前面20aから吸気され、後面20bから排気される。すなわち、エンジン20は前方吸気、後方排気の形式が採用されており(図2)、エンジン20のシリンダヘッド28には、その前面に吸気管30が連結され、後面に排気管32が連結されている。
【0024】
サブフレーム16は、左右のフロントサイドフレーム10の前端部及び後端部の間を車幅方向に延びる前方及び後方部分16a、16bと、各フロントサイドフレーム10に沿って延びる左右の側方部分16cと、を有する平面視略四角形の形状のペリメーターフレームで構成されている。
【0025】
図2を参照して、左右のフロントサイドフレーム10の前端部には、下方に延びるペリメーターフレーム用ブラケット34が設けられ、このペリメーターフレーム用ブラケット34の下端にサブフレーム16がロングボルト36(図1、図3)を使って固定されている。
【0026】
エンジン20及びトランスアクスル22を含むパワープラント40は、サブフレーム16の後方部分16bとデファレンシャルギア24のケース42の下面との間の第1マウント部材44と、一方のフロントサイドフレーム10の上面とシリンダブロック46との間の第2マウント部材48と、他方のフロントサイドフレーム10の上面とトランスアクスル22の変速機ケース50の上面との間の第3マウント部材52とでエンジンルーム3に搭載されている。
【0027】
パワープラント40は、上下に離置した2組のワイヤ60、62によって左右のフロントサイドフレーム10の前端部に係止されており、この上方ワイヤ60、下方ワイヤ62は、この実施例では共に夫々一本のワイヤで構成されている。上方ワイヤ60は、エンジン20のシリンダブロック46つまりクランクケース64とシリンダヘッド28との間を通過して前方に延び、上方ワイヤ60の左右の前端が左右のフロントサイドフレーム10を上下に貫通して延びるロングボルト36の上端部に締結されている。
【0028】
下方ワイヤ62は、クランクケース54とデファレンシャルギアケース42と変速機ケース50を通過して前方に延び、下方ワイヤ62の前端が左右のロングボルト36の下端部に締結されている。すなわち、上方及び下方ワイヤ60、62の前端は、サブフレーム16を左右のフロントサイドフレーム10に締結するためのロングボルト36を利用して、フロントサイドフレーム10の前端部に締結されている。ここに、好ましくは、フロントサイドフレーム10の前端部をレインフォースメントで補強するのがよい。
【0029】
図3は、上方及び下方ワイヤ60、62の前端をフロントサイドフレーム10に締結する具体例の詳細図である。フロントサイドフレーム10は、アウタ10aとインナ10bとで縦長の閉断面構造を有しており、この閉断面構造の内部に断面コ字状のレインフォースメント10cが添設されており、フロントサイドフレーム10の上下の壁及びこれに添設したレインフォースメント10cには、ボルト挿入孔70が形成され、このボルト挿入孔70にロングボルト36が挿入される。また、フロントサイドフレーム10の前端部には、前述したように、下方に延びるブラケット34が溶接されており、このブラケット34の下端面にサブフレーム16が配設されており、サブフレーム16をフロントサイドフレーム10に締結するためのロングボルト36は上下に延びている。
【0030】
ロングボルト36は、ボルトヘッド36aと、下端部に第1、第2の2つの雄ねじ部36b、36cを有している。他方、フロントサイドフレーム10には上下に貫通するボルト挿通孔が形成されており、また、ブラケット34にはロングボルト36の第1ねじ部36bが螺合する雌ねじ部34aが形成されている。他方、サブフレーム16には、ゴムブッシュ72を備えたマウント部材74が固設されており、このマウント部材74は、上下に延びる中心スリーブ76を有している。
【0031】
図3から分かるように、上方ワイヤ60、下方ワイヤ62の前端は共にシングルロック80の端末を有し、このシングルロック80のアイ80aにロングボルト36を挿入して、大径ワッシャ77を介在させた状態でナット78をロングボルト36に螺着させることにより、上方ワイヤ60及び下方ワイヤ62が左右のフロントサイドフレーム10に締結される。ここに、上方ワイヤ60の前端はフロントサイドフレーム10の上面に配設され、下方ワイヤ62の前端はブラケット34とサブフレーム16との間に配設される。
【0032】
上下のワイヤ60、62から衝突荷重がフロントサイドフレーム10に入力されると、このフロントサイドフレーム10に衝突荷重が入力される部位がレインフォースメント10cによって補強されているため、このレインフォースメント10cによってフロントサイドフレーム10の閉断面矩形の4辺のうち3辺に衝突荷重が分散させつつフロントサイドフレーム10に衝突荷重が入力される。したがって、ロングボルト36を介在した衝突荷重の入力によってフロントサイドフレーム10は、効果的な潰れが生じ、これによりフロントサイドフレーム10が本来的に有している衝撃吸収機能を発揮させることができる。また、縦長の矩形の閉断面構造のフロントサイドフレーム10に対して上下に貫通するロングボルト36を介在して上下のワイヤ60、62から衝突荷重が入力されるため、換言すれば、ロングボルト36を横方向(水平方向)にフロントサイドフレーム10を貫通させた場合に対比して、ボルト挿入孔70とフロントサイドフレーム10の角部とが接近しているため、ボルト挿入孔70の近傍が裂けるなどの問題を誘発する可能性を低減することができ、ロングボルト36から衝突荷重を的確にフロントサイドフレーム10に伝達することができる。
【0033】
上方ワイヤ60、下方ワイヤ62の配索は、図4から分かるように、ガイド部材82によって位置決めされる。ガイド部材82は2つの壁82aを有し、この2つの壁82aの間に上方ワイヤ60、62が位置決めされるが、本体82bと壁82aとを一体成形した成型品であってもよいし、図5に示すように、本体82bと壁82aとが別体品であってもよい。ガイド部材82はボルト84を使ってパワープラント40に締結される。また、ガイド部材82は、好ましくは上方ワイヤ60、下方ワイヤ62を設置した後にキャップ86(図6)で覆うのがよい。これにより、パワープラント40が動作することに伴って上下のワイヤ60、62がガイド部材82から離脱するのを防止することができる。
【0034】
上方ワイヤ60は、エンジン20のシリンダブロック46の上端部に掛け渡されて、一方の端部がエンジン20の前端面つまりトランスアクスル22とは反対側の端面に沿って前方に延び、他方の端部がトランスアクスル22の上方を通って前方に延び、そして上方ワイヤ60の左右の先端部が左右のフロントサイドフレーム10の前端部に連結されている。そして、上方ワイヤ60は、図2から分かるように、フロントサイドフレーム10の軸線とほぼ平行に位置している。なお、ここに言う「平行」という意味は、上方ワイヤ60からの衝突荷重が、フロントサイドフレームの設計上の潰れ方向に入力されるという技術的意味を有するのであり、従ってフロントサイドフレーム10の設計上の潰れ方向に衝突荷重が入力される範囲で「平行」の意味を把握されたい。換言すれば、「平行」という意味を幾何学上の意味に限定して解釈すべきではない。フロントサイドフレームのなかには、その軸線が側面視で緩やかな曲線を描くフロントサイドフレームも存在しているが、この場合には、エネルギ吸収量が大きくなる効率的なフロントサイドフレームの潰れ方向に、衝突時に緊張した上方ワイヤ60の延び方向が側面視で略一致する態様は本発明の「平行」に含まれることになる。
【0035】
下方ワイヤ62は、トランスアクスル22及びクランクケー64に掛け渡されて前方に延び、その左右の先端が、フロントサイドフレーム10の前端部のブラケット34とサブフレーム16との間に固定されている。そして、下方ワイヤ62は、エンジン出力軸20c(図2)よりも下方域を通過するように位置決めされている。
【0036】
前面衝突において、バンパーレインフォースメント12の車幅方向中央部分にポールなどが激突してバンパーレインフォースメント12が車幅方向中央部分で屈曲し、そしてエンジンルーム3内に侵入してパワープラント40と干渉したときには、この衝突荷重を上方及び下方のワイヤ60、62によってフロントサイドフレーム10の前端部に分散することができる。フロントサイドフレーム10は前面衝突の衝撃を緩和する機能を有しているのは従来と同様であり、このことから車幅方向中央部分がポールなどに激突するような前面衝突に対してもフロントサイドフレーム10によって衝突エネルギを吸収することができる。
【0037】
また、フロントサイドフレーム10の前端部に固定されたワイヤ60、62をパワープラント40に掛け渡すことにより、このワイヤ60、62によってパワープラント40の後退を抑制することができる。
【0038】
勿論のことであるが、フルラップ前面衝突、オフセット前面衝突に対する衝突エネルギを吸収する基本構造に大きな変更を必要とせずに、上方ワイヤ60、下方ワイヤ62を追加するだけで車幅方向中央部分がポールなどの障害物に衝突した場合にも上記基本構造によって衝突エネルギを吸収することができる。
【0039】
上下に離間した上方ワイヤ60と下方ワイヤ62によって、後退するパワープラント40を受け止めることで、側面視でパワープラント40の回転を抑制することができ、これにより上下のワイヤ60、62によって左右のフロントサイドフレーム10へ早期に衝突荷重を入力することができる。
【0040】
また、フロントサイドフレーム10を上下に貫通してサブフレーム16を締結するためのロングボルト36を使って上方ワイヤ60及び下方ワイヤ62をフロントサイドフレーム10に締結してあるため、上方ワイヤ60及び下方ワイヤ62の前端をフロントサイドフレーム10に固定するための部材を別途用意する必要がないだけでなく、衝突荷重をフロントサイドフレーム10だけでなくサブフレーム16にも分散することができる。
【0041】
また、閉断面構造のフロントサイドフレーム10を貫通する部材(ロングボルト36)によってワイヤ60、62をフロントサイドフレーム10に固定する構造を採用することにより、ワイヤ60、62から入力される衝突荷重をフロントサイドフレーム10の互いに対抗する面に分散することができ、フロントサイドフレーム10の局部破壊やワイヤ60、62からの入力に伴うフロントサイドフレーム10の前端部の予期しない変形を抑制することができ、これによりフロントサイドフレーム10の本来の変形を伴う衝突エネルギ吸収機能を発揮させることができる。
【0042】
また、フロントサイドフレーム10の前端部から下方から延びるブラケット34とサブフレーム16との間に下方ワイヤ62の前端を締結することで、下方ワイヤ62をエンジン出力軸20cよりも下方に位置させるのが容易であり、また、下方ワイヤ62をフロントサイドフレーム10の軸線とほぼ平行に配置させることができる。これにより、下方ワイヤ62からフロントサイドフレーム10への衝突荷重の力方向をフロントサイドフレームフレーム10とほぼ平行にできるため、換言すると、フロントサイドフレーム10に衝突荷重の分力が作用してフロントサイドフレーム10に予期しない変形が発生するのを抑制することができ、これによりフロントサイドフレーム10の本来の変形を伴う衝突エネルギ吸収機能を発揮させることができる。
【0043】
勿論、シリンダブロック46の上端部に上方ワイヤ60を掛け渡すことでフロントサイドフレーム10への入力方向がフロントサイドフレームフレーム10と平行となることから、フロントサイドフレーム10の本来の変形を伴う衝突エネルギ吸収機能を発揮させることができる。
【0044】
また、上下のワイヤ60、62の前端が、側方に突出する部材を備えていないシングルロック80の端末を有していることから、ワイヤ60、62の端部がフロントサイドフレーム10と干渉する虞がない。
【0045】
以下の他の実施例でも同様であるが、上方ワイヤ60と下方ワイヤ62を用意することは必須ではない。少なくともいずれか一方のワイヤ60(62)だけであってもよい。
【0046】
第2実施例(図7〜図12)
第1実施例に含まれる要素と同じ要素には同一の参照符号を付すことにより、その説明を省略し、この第2実施例の特徴部分を以下に説明する。
【0047】
上方ワイヤ60は、第1、第2の二本の分割上方ワイヤ90、92で構成されており、その後端が第2、第3マウント部材48、52に連結され、この第2、第3マウント部材48、52を介してパワープラント40に連結されている。言うまでもないことであるが、第2、第3マウント部材48、52はパワープラント40に直に関連した強度部材であり、したがって本発明の言う可撓性張力材に関連したパワープラントは第2、第3マウント部材48、52を含むものとして理解されたい。
【0048】
エンジンルームを下方から見た図9から最も良く分かるように、下方ワイヤ62は、第1、第2の二本の分割下方ワイヤ94、96で構成されており、この第1、第2の分割下方ワイヤ94、96はパワープラント40の下面を通過して延びている。そして第1、第2の分割下方ワイヤ94、96の後端は第1マウント部材44に連結され、この第1マウント部材44を介してパワープラント40に連結されている。言うまでもないことであるが、第1マウント部材44はパワープラント40に直に関連した強度部材であり、したがって本発明の言う可撓性張力材に関連したパワープラントは第1マウント部材44を含むものとして理解されたい。
【0049】
図10〜図12は、第1マウント部材44の詳細図である。第1マウント部材44は、サブフレームアーム部材16の後方部分16bから前方に延び且つ揺動可能なアーム98の先端にスリーブ100を有し、このスリーブ100はラバー102を介して軸部104に連結されており、この軸部104がパワープラント40に連結されたブラケット106にボルト108とナット110の組み合わせによって回動可能に取り付けられている。第1、第2の分割下方ワイヤ94、96の後端は、共に、シングルロック80の端末を有し、このシングルロック80のアイ80a(図11)にボルト108が挿入されることにより、第1、第2の分割下方ワイヤ94、96の後端が第1マウント部材44を介してパワープラント40に連結されている。好ましい態様として、図11から最も良く分かるように、一方の分割下方ワイヤ94の後端がボルトヘッド108aに隣接して配設され、他方の分割下方ワイヤ96の後端がナット110に隣接して配設されるのがよい。
【0050】
この第2実施例のように、下方ワイヤ62が第1マウント部材44から前方にV字状に広がるように展開させると共にパワープラント40の下面に沿って配索されていることから、後退するパワープラント40の後退を受け止めるだけでなく、側面視でパワープラント40の回転を抑制することができ、これにより下方ワイヤ62による左右のフロントサイドフレーム10への衝突荷重の入力の遅れを防止することができる。
【0051】
この第2実施例では、上方ワイヤ60、下方ワイヤ62の双方を二本の分割ワイヤで構成したが、上方ワイヤ60と下方ワイヤ62のいずれか一方を二本の分割ワイヤで構成し、他方を第1実施例と同じ構成にしてもよい。
【0052】
第3実施例(図13〜図15)
この第3実施例では、上方ワイヤ60を第1実施例と同様に一本のワイヤで構成すると共に、下方ワイヤ62を第2実施例と同様に、第1、第2の分割下方ワイヤ94、96で構成してある。
【0053】
この第3実施例では、二本の分割下方ワイヤ94、96の後端を第1マウント部材44に係止する点では第2実施例と共通であるが、第1、第2の分割下方ワイヤ94、96をパワープラント40の下面に沿って配索するのではなく、パワープラント40の側面に沿って配索することで(図14)、下方ワイヤ62を左右のフロントサイドフレーム10の軸線と、極力、平行になるようにしてある。
【0054】
変形例として、図15に示すように、下方ワイヤ62を第1実施例と同様に、一本のワイヤで構成し、この下方ワイヤ62を左右のフロントサイドフレーム10の軸線と平行になるように配索するようにしてもよいのは勿論である。
【0055】
第4実施例(図16〜図18)
この第4実施例では、上方ワイヤ60及び下方ワイヤ62を第2実施例と同様に二本のワイヤで構成した例を示すものであるが、上方分割ワイヤ90、92のうち、エンジン20の一端面をフロントサイドフレーム10に取り付けるための第2マウント部材48と係合される上方分割ワイヤ90に関し、その後端を第2マウント部材48の上端に連結する例を示すものである。なお、下方ワイヤ62に関して二本の分割ワイヤを用いたのは単なる例示に過ぎず、下方ワイヤ62に関しては上記第1〜第3のいずれの方法を採用しても良いのは言うまでもない。
【0056】
図16、図17を参照して、フロントサイドフレーム10の上面に設置された第2マウント部材48には、エンジン20の端面の突起にボルト締結されて外方に向けて延びる水平ブラケット114を垂直ボルト116を使って固定することによりエンジン20がフロントサイドフレーム10に搭載される。
【0057】
第1上方分割ワイヤ90の後端はシングルロック80の端末を有し、このシングルロック80を水平ブラケット114の上に載置して垂直ボルト116によって第2マウント部材48に固定されている。
【0058】
第5実施例(図19、図20)
この第5実施例では、上記の第4実施例と同様に、上方ワイヤ60及び下方ワイヤ62を第2実施例と同様に二本のワイヤで構成した例を示すものであるが、上方分割ワイヤ90、92のうち、トランスアクスル22側の第2分割上方ワイヤ92に関し、その後端を第3マウント52のブラケット120の取付けに関連してトランスアクスル22に固定する例を示す。したがって、他方の上方分割ワイヤ90及び下方ワイヤ62に関しては任意であり、上記第1〜第4実施例に開示の任意の方法を採用できるのは言うまでもない。
【0059】
図20は、第3マウント部材52に関して、トランスアクスル22の変速機ケース50の上面の座122にブラケット120を固定するためのボルト124を使って、第2分割上方ワイヤ92の後端を固定する例を開示するものである。第2分割上方ワイヤ92の後端はシングルロック80の端末を有し、このシングルロック80のアイ80aにボルト124を挿通した後にブラケット120をトランスアクスル22の座122に締結することにより、第2分割上方ワイヤ92の後端がトランスアクスル22に係止される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1実施例に関し、エンジンルームを斜め上方から見た図である。
【図2】第1実施例に関し、エンジンルームを側方から見た図である。
【図3】第1実施例に関し、ワイヤの前端がシングルロックの端末を備え、サブフレームをフロントサイドフレームに締結するロングボルトを使ってワイヤの前端をフロントサイドフレームに固定する例を説明するための斜視図である。
【図4】第1実施例に関し、上方ワイヤ、下方ワイヤを配索するのに使用するガイド部材を説明するためにパワープラントを後方から見た図である。
【図5】第1実施例に関し、ガイド部材の一例を説明するための図である。
【図6】第1実施例に関し、ガイド部材の他の例を説明するための図である。
【図7】第2実施例に関し、エンジンルームを上方から見た図である。
【図8】第2実施例に関し、エンジンルームを側方から見た図である。
【図9】第2実施例に関し、エンジンルームを下方から見た図である。
【図10】第2実施例に関し、パワープラントの後部をサブフレームにマウントするための第1マウント部材に下方ワイヤを係止する例を説明するための図である。
【図11】図10に関連して第1マウント部材に対する分割下方ワイヤの後端の締結方法の一例を示す図である。
【図12】図10に関連して第1マウント部材に対する左右の分割下方ワイヤの後端の締結方法の一例を示す図である。
【図13】第3実施例に関し、エンジンルームを上方から見た図である。
【図14】第3実施例に関し、エンジンを斜め後方から見た図である。
【図15】第3実施例の変形例を説明するために、エンジンルームを側方から見た図である。
【図16】第4実施例に関し、エンジンルームを側方から見た図である。
【図17】第4実施例に関し、パワープラントに含まれる横置きエンジンの端面をフロントサイドフレームにマウントする第2マウント部材に関連して上方分割ワイヤの後端を連結した例を説明するための斜視図である。
【図18】図17のX18−X18に沿った断面図である。
【図19】第5実施例に関し、エンジンルームを斜め前方から見た図である。
【図20】第5実施例に関し、パワープラントに含まれるトランスアクスルの変速機ケースの上面に着座するブラケットに連結される第3マウント部材によってフロントサイドフレームに搭載すると共に、上記ブラケットを変速機ケースに固定するためのボルトを使って上方分割ワイヤの後端を固定する例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0061】
3 エンジンルーム
10 フロントサイドフレーム
16 サブフレーム(ペリメーターフレーム)
20 エンジン
22 トランスアクスル
24 デファレンシャルギア
28 シリンダヘッド
34 ペリメーターフレーム用ブラケット
36 ロングボルト
36a ロングボルトのボルトヘッド
40 パワープラント
42 デファレンシャルギアケース
44 第1マウント部材
46 シリンダブロック
48 第2マウント部材
50 変速機ケース
52 第3マウント部材
60 上方ワイヤ
62 下方ワイヤ
64 クランクケース
80 シングルロック
80a シングルロックのアイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームに搭載したパワープラントに係合して該パワープラントから左右に且つ前方に延出する可撓性張力材を備え、
該可撓性張力材の左右の各前端が、夫々、前記エンジンルームにおいて車体前後方向に延在する閉断面構造の左右のフロントサイドフレームの前端部を貫通するロングボルトに締結されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記パワープラントが、エンジン出力軸を車幅方向に向けて配設された横置きエンジンを含む、請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記可撓性張力材が、上下に離置した上方張力材と下方張力材とで構成され、
前記ロングボルトが前記フロントサイドフレームを上下に貫通して配設され、
前記ロングボルトの前記フロントサイドフレームの上面から上方に突出した部分に前記上方張力材の前端が連結され、
前記ロングボルトの前記フロントサイドフレームの下面から下方に突出した部分に前記下方張力材の前端が連結されている、請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記上方及び下方の張力材の前端に円環状の端末部を有し、該円環状の端末部に前記ロングボルトが挿通されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記左右のフロントサイドフレームの前端部の下方域に車幅方向に延びるサブフレームを有し、該サブフレームの車幅方向各端部が前記ロングボルトによって各フロントサイドフレームに締結されている、請求項3に記載の車体前部構造。
【請求項6】
前記上方及び下方の張力材の前端に円環状の端末部を有し、該円環状の端末に前記ロングボルトが挿通され、前記下方張力材の前記円環状の端末部が、前記フロントサイドフレームと前記サブフレームとの間に配設されている、請求項5に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−6221(P2010−6221A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167288(P2008−167288)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】