車線逸脱防止装置
【課題】運転者に違和感を与えることなく、車線逸脱防止制御を行える。
【解決手段】方向指示スイッチ20がオフ状態の場合、操舵介入の有無判定(ステップS11)、過去の方向指示スイッチ20の操作の有無判定(ステップS12)、過去の戻し操舵操作の有無判定(ステップS13)及び隣接車線の有無を判定(ステップS14)する。これにより、逸脱傾向があり、かつ直近に方向指示スイッチ20が操作されており、かつ戻し操舵操作されている場合、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行う。
【解決手段】方向指示スイッチ20がオフ状態の場合、操舵介入の有無判定(ステップS11)、過去の方向指示スイッチ20の操作の有無判定(ステップS12)、過去の戻し操舵操作の有無判定(ステップS13)及び隣接車線の有無を判定(ステップS14)する。これにより、逸脱傾向があり、かつ直近に方向指示スイッチ20が操作されており、かつ戻し操舵操作されている場合、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中に自車両が走行車線から逸脱しそうになったときに、その逸脱を防止する車線逸脱防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような車線逸脱防止装置としては、例えば自車両が走行車線から逸脱しそうになるのを判断し、走行車線の基準位置に対する自車両の走行位置の横ずれ量に応じて、各車輪の制駆動力を制御し、ヨー方向の制御と減速制御とを組み合わせて車両にヨーモーメントを発生せしめ、もって走行車線からの逸脱を防止すると共に乗員への違和感を防止するものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−112540公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に開示されている技術では、逸脱方向に方向指示器が操作されている場合、運転者に車線変更の意思があるとして、車線逸脱防止制御を介入しないようにしている。
しかし、運転者に車線変更の意思があるのにもかかわらず、方向指示器がキャンセルされている場合がある。例えば、運転者が方向指示器をオンしながらハンドルを操舵している途中で操舵を止めた場合や操舵を微小量だけ戻した場合、操舵の回転位置によっては方向指示器がキャンセルされることがある。また、運転者によっては方向指示器をオンしてすぐにオフした後(即ち、一回だけ方向指示器を点滅させた後)、車線変更を行う場合がある。この場合には、原則通り逸脱傾向がある限り車線逸脱防止制御が介入してしまうので、これが車線変更をしようとしている運転者に違和感を与えてしまう。
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、運転者に違和感を与えることなく、車線逸脱防止制御を行う車線逸脱防止装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る車線逸脱防止装置は、自車両が走行車線から逸脱傾向にあることを判断する逸脱判断手段と、方向指示器の操作を検出する方向指示器操作検出手段と、前記方向指示器の操作履歴を記憶する記憶手段と、前記逸脱判断手段が逸脱傾向にあると判断した場合で、かつ前記方向指示器操作検出手段が方向指示器のオン操作を検出している場合、当該方向指示器の指示方向と当該逸脱傾向の方向とに基づいて、逸脱防止制御を介入させる逸脱防止制御介入手段とを備えている。
この車線逸脱防止装置は、前記方向指示器がオフ状態の場合、前記記憶手段が記憶した方向指示器の操作履歴に基づいて、前記逸脱防止制御介入手段により介入させる逸脱防止制御内容を逸脱防止制御内容変更手段により変更している。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、方向指示器の操作履歴に基づいて逸脱防止制御内容を変更しているので、運転者の車線変更意思を考慮した車線逸脱防止制御の介入が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という。)を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の車線逸脱防止装置の一例を示す車両概略構成図である。この車両は、自動変速機及びコンベンショナルディファレンシャルギヤを搭載した後輪駆動車両であり、制動装置は、前後輪とも、左右輪の制動力を独立に制御可能としている。
【0007】
図中の符号1はブレーキペダル、2はブースタ、3はマスタシリンダ、4はリザーバであり、通常は、運転者によるブレーキペダル1の踏込み量に応じ、マスタシリンダ3で昇圧された制動流体圧が、各車輪5FL〜5RRの各ホイールシリンダ6FL〜6RRに供給されるようになっているが、このマスタシリンダ3と各ホイールシリンダ6FL〜6RRとの間には制動流体圧制御回路7が介装されており、この制動流体圧制御回路7内で、各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を個別に制御することも可能となっている。
【0008】
制動流体圧制御回路7は、例えばアンチスキッド制御やトラクション制御に用いられる制動流体圧制御回路を利用したものであり、この実施形態では、各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を、単独で増減圧することができるように構成されている。この制動流体圧制御回路7は、後述する車両状態コントロールユニット8からの制動流体圧指令値に応じて各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を制御する。
【0009】
また、この車両には、自車両の走行車線逸脱防止判断用に走行車線内の自車両の位置を検出するための前方外界認識センサとして、CCDカメラ13及びカメラコントローラ14を備えている。このカメラコントローラ14では、CCDカメラ13で捉えた自車両前方の撮像画像から、例えば白線等のレーンマーカを検出して走行車線を検出するとともに、その走行車線に対する自車両のヨー角φ、すなわち車線に対する自車両の向き、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率β等を算出することができるように構成されている。
【0010】
なお、このカメラコントローラ14は、レーンマーカ等を検出するための走行車線検出エリアを用いて走行車線検出を行い、その検出した走行車線に対して各データを算出する。走行車線の検出には、例えば特開平11−296660号公報に記載される手法を用いることができる。具体的には、自車両が走行している走行車線の両側の白線等のレーンマーカを検出し、そのレーンマーカを用いて自車両が走行している走行車線を検出する。ここで、撮像された画像全域で白線等のレーンマーカを検出する(走査する)と、演算負荷も大きいし、時間もかかる。そこで、レーンマーカが存在しそうな領域に、更に小さな検出領域(所謂ウインドウ)を設定し、その検出領域内でレーンマーカを検出する。一般に、車線に対する自車両の向きが変わると、画像内に映し出されるレーンマーカの位置も変わるので、例えば特開平11−296660号公報では、操舵角δから車線に対する自車両の向きを推定し、画像内のレーンマーカが映し出されているであろう領域に検出領域を設定する。そして、例えばレーンマーカと路面との境界を際立たせるフィルタ処理などを施し、各レーンマーカ検出領域内において、最もレーンマーカと路面との境界らしい直線を検出し、その直線上の一点(レーンマーカ候補点)をレーンマーカの代表的な部位として検出する。このようにして得られた各ウインドウのレーンマーカ候補点を連続すると、自車両前方に展開している走行車線を検出することができる。
【0011】
また、この車両には、自車両を誘導するのに好適なナビゲーションシステム10が搭載されている。このナビゲーションシステム10は、所謂GPS機能による自車両の位置情報、道路情報、地図情報などに加えて、自車両に発生する前後加速度Xg及び横加速度Yg、自車両に発生するヨーレートφ' を検出する機能を備える。そして、このナビゲーションシステム10で検出された道路情報、前後加速度Xg、横加速Yg、ヨーレートφ’は車両状態コントロールユニット8に出力される。また、この車両には、ステアリングホイール21の操舵角δを検出する操舵角センサ19、各車輪5FL〜5RRの回転速度、所謂車輪速度Vwi(i=FL〜RR)を検出する車輪速度センサ22FL〜22RR、方向指示器による方向指示操作を検出する方向指示スイッチ20が備えられ、それらの検出信号も車両状態コントロールユニット8に出力される。また、カメラコントローラ14で検出された走行車線に対する自車両のヨー角φ、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率βや、エンジンコントロールユニットによって制御されているエンジンの駆動トルクTwも合わせて車両状態コントロールユニット8に出力される。なお、検出された車両の走行状態データに左右の方向性がある場合には、何れも左方向を正方向とする。すなわち、ヨーレートφ' や横加速度Yg、操舵角δ、ヨー角φは、左旋回時に正値となり、横変位Xは、走行車線中央から左方にずれているときに正値となる。
【0012】
次に、車両状態コントロールユニット8で行われる演算処理のロジックについて、図2のフローチャートに従って説明する。この演算処理は、例えば10msec. 毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によって実行される。なお、このフローチャートでは通信のためのステップを設けていないが、演算処理によって得られた情報は随時記憶装置に更新記憶されるとともに、必要な情報は随時記憶装置から読出される。
【0013】
この演算処理では、先ずステップS1において、各センサやコントローラ、コントロールユニットからの各種データを読込む。具体的には、ナビゲーションシステム10で検出された前後加速度Xg、横加速度Yg、ヨーレートφ' 、各センサ類で検出された各車輪速度Vwi、操舵角δ、方向指示スイッチ信号、カメラコントローラ14からの走行車線に対する自車両のヨー角φ、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率β、またエンジンコントロールユニットからの駆動トルクTwを読込む。
【0014】
続いてステップS2において、前記ステップS1で読込んだ各車輪速度Vwiのうち、非駆動輪である前左右輪速度VwFL、VwFRの平均値から自車両の走行速度Vを算出する。なお、車両が前輪駆動車両である場合には、非駆動輪である後左右輪速度VwRL、VwRRの平均値から自車両走行速度Vを算出する。
また、アンチスキッド制御装置で推定車体速度が算出されている場合には、その値を自車両走行速度として用いてもよい。また、ナビゲーションシステム10内で用いられている自車両走行速度を用いてもよい。また、変速機出力軸速度から求めた自車両走行速度を用いて、走行速度の比較を行うようにしてもよい。
【0015】
続いてステップS3において、自車両の走行車線からの逸脱判断を行う。本実施形態では、先ず逸脱推定値として将来の推定横変位XSを算出する。具体的には、前記ステップS1で読込んだ自車両の走行車線に対するヨー角φ、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率β及びステップS2で算出した自車両の走行速度Vを用い、下記(2)式に従って将来の推定横変位XSを算出する。
XS=Tt×V×(φ+Tt×V×β)+X ・・・(2)
【0016】
ここで、Ttは前方注視距離算出用の車頭時間であり、車頭時間Ttに自車両の走行速度Vを乗じると前方注視距離になる。つまり、車頭時間Tt後の走行車線中央からの横変位推定値が将来の推定横変位XSとなる。そして、この逸脱推定値としての将来の推定横変位の絶対値|XS|が横変位限界値XC以上であるときに、自車両が走行車線から逸脱傾向にあるとして例えば逸脱判断フラグFLDをセットし、そうでないときには自車両は走行車線から逸脱傾向にはないとして例えば逸脱判断フラグFLDを“0”のリセット状態とする。
【0017】
続いてステップS4において、自車両の車線変更を判断する。具体的には、前記ステップS1で読込んだ方向指示スイッチ信号の方向と、走行車線中央からの自車両の横変位X、或いは前記ステップS3で算出した逸脱推定値としての将来の推定横変位XSから得た逸脱方向とが同じであるときには、意識的な車線変更であるとして逸脱判断フラグFLDを強制的に“0”にリセットする。一方、前記方向指示スイッチ信号の方向と前記横変位X又は前記逸脱方向とが異なる場合、逸脱である可能性があるとして逸脱判断フラグFLDを強制的に“1”に維持する。よって、このような処理である限り、方向指示スイッチ20が操作されていない場合、逸脱傾向がある限り、逸脱判断フラグFLDは“1”になる。
【0018】
ここで、方向指示スイッチ20が操作されているとは、運転者により方向指示器が操作されていることをいう。また、逸脱判断フラグFLDが車線防止制御の介入を決定するためのフラグであるところ、このステップS4では、方向指示スイッチ20がオン操作されている場合に、方向指示スイッチ20の方向(指示方向)と逸脱傾向の方向とに基づいて逸脱防止制御の介入を決定しているのである。
【0019】
ここで、方向指示スイッチ20が操作されていない場合には、運転者の車線変更意図の判断をする。図3はその処理の処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS11において、操舵介入の有無を判定する。具体的には、前記ステップS1で読込んだ操舵角δと予め設定されている第1及び第2設定値(閾値)Δδ1、Δδ2(Δδ1>Δδ2)とを比較して、その比較結果に基づいて操舵介入の有無を判定する。図4は、その処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0020】
先ずステップS21において、操舵角δと第1設定値Δδ1とを比較する。ここで、操舵角δが第1設定値Δδ1以上の場合(δ≧Δδ1)、運転者が車線を変更する意図があると判定してステップS23に進み、逸脱判断フラグFLDを“0”に変更する。そして、当該ステップS11の処理を終了する(ステップS12に進む)。また、操舵角δが第1設定値Δδ1未満の場合(δ<Δδ1)、ステップS22に進む。
【0021】
ステップS22では、操舵角δと第2設定値Δδ2とを比較する。ここで、操舵角δが第2設定値Δδ2以上の場合(δ≧Δδ2)、ステップS24に進み、操舵判断フラグFstrを“1”にする。そして、当該ステップS11の処理を終了する(ステップS12に進む)。また、操舵角δが第2設定値Δδ2未満の場合(δ<Δδ2)、ステップS25に進み、操舵判断フラグFstrを“0”にする。そして、当該ステップS11の処理を終了する(ステップS12に進む)。
【0022】
以上のような操舵介入判定をテップS11において行う。
続いてステップS12において、過去(直近)の方向指示スイッチ20の操作の有無を判定する。図5は、その処理の処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS31において、過去の方向指示スイッチ20が操作されたか否かを判定する。具体的には、直近の所定期間Δt内の前記ステップS1で読込んだ方向指示スイッチ信号の履歴から方向指示スイッチ20の操作の有無を判定する。
【0023】
図6(A)は、方向指示スイッチ20の左右操作方向に応じた方向指示スイッチ信号の履歴の一例を示す。この図6(A)に示すように、方向指示スイッチ20の操作方向に応じて方向指示スイッチ信号を検出することができる。
なお、図6(B)は、操舵角δの変化の一例を示す。この図6(B)に示すように、戻し操舵操作することで、方向指示スイッチ20の操作がキャンセルされるので、図6(A)に示すように、方向指示スイッチ信号もオフ状態になる。
【0024】
ステップS31では、このように変化する方向指示スイッチ信号について、所定期間Δt内の変化をみて、方向指示スイッチ20が操作されているか否かを判定する。なお、所定期間Δtは例えば1秒である。なお、所定期間Δtにおける方向指示スイッチ20の操作履歴は、車両状態コントローラ8内の記憶装置に随時記憶され、履歴データが更新されている。
【0025】
ここで、所定期間Δt内の方向指示スイッチ信号の履歴から方向指示スイッチ20が操作されていると(方向指示スイッチ信号が検出されていると)判定した場合、ステップS32に進み、方向指示スイッチ操作フラグ(以下、単にスイッチ操作フラグという。)Fsw_turnを“1”にする。そして、当該ステップS12の処理を終了する(ステップS13の処理に進む)。また、所定期間Δt内の方向指示スイッチ信号の履歴から方向指示スイッチ20が操作されていないと(方向指示スイッチ信号が検出されていないと)判定した場合には、ステップS33に進み、スイッチ操作フラグFsw_turnを“0”にする。そして、ステップS13の処理に進むことなく、ステップS4の処理を終了する(ステップS5の処理に進む)。
【0026】
以上のような方向指示スイッチ20の操作判定をステップS12において行う。
ステップS13では、過去(直近)の戻し操舵操作の有無を判定する。図7は、その処理の処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS41において、戻し操舵操作されているか否かを判定する。具体的には、直近の所定期間Δt内の操舵トルクの履歴から戻し操舵操作を判定する。前記図6(B)に示したように戻し操舵操作により操作角δが変化するが、直近の所定期間Δt内のその操舵トルクの値が逆の値、すなわち正値から負値に、又は負値から正値に転じた場合、戻し操舵操作されていると判定する。そして、戻し操舵操作されている場合、ステップS42に進み、戻し操舵操作されていない場合、ステップS43に進む。
【0027】
ステップS42では、戻し操舵判断フラグFstr_returnを“1”にして、さらに車線変更意図フラグFrelane_changeを“1”にする。すなわち、車線変更意図フラグFrelane_changeが“1”である場合、過去に1度車線変更をしようとして走行車線に戻ったことを示す。そして、ステップS4の処理を終了する(ステップS5の処理に進む)。
また、ステップS43では、戻し操舵判断フラグFstr_returnを“0”にする。そして、ステップS14に進む。
以上のようなステアリング操作の判定をテップS13において行う。
ステップS14では、隣接車線の有無を判定する。図8は、その処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0028】
先ずステップS51において隣接車線の有無を判定する。具体的には、ナビゲーションシステム10からの道路情報として得られる自車両の現在走行車線情報と車線数情報とに基づいて隣接車線があるか否かを判定する。ここで、隣接車線がある場合、ステップS52に進み、隣接車線がない場合、ステップS53に進み、隣接車線フラグFnextを“0”にして、当該ステップS14の処理を終了する(ステップS5の処理に進む)。
【0029】
ステップS52では隣接車線フラグFnextを“1”にして、ステップS54に進む。ステップS54では、前記ステップS11で得た操舵判断フラグFstrが“0”か否かを判定する。ここで、操舵判断フラグFstrが“0”の場合(δ<Δδ2)、ステップS55に進む。ステップS55では、車線変更意図フラグF(relane_change)を“1”にする。そして、当該ステップS14の処理を終了する(ステップS5に進む)。また、操舵判断フラグFstrが“0”でない場合(δ≧Δδ2)、当該ステップS14の処理を終了する(ステップS5に進む)。
【0030】
以上のような隣接車線判定をテップS14において行い、ステップS4の処理を終了する。
ステップS4では、逸脱判断フラグFLD、スイッチ操作フラグFsw_turn戻し操舵判断フラグFstr_return、隣接車線フラグFnext、操舵判断フラグFstr及び車線変更意図フラグFrelane_changeの種々のフラグを得ており、これらのフラグの状態に基づいて、後述のステップS5以降の処理を行う。
すなわち、先ずステップS5では、自車両が走行車線から逸脱傾向にあることを警報するか否かの判断を行う。具体的には、逸脱判断フラグFLDが“1”のセット状態であるときに警報するとし、そうでないときには警報しないものとする。なお、警報のタイミングと逸脱防止制御介入のタイミングとをずらしてもよい。
【0031】
続いてステップS6において、車線逸脱防止制御の一部として減速制御を行うか否かの判断を行う。具体的には、先ず前記ステップS3で設定した横変位限界値XCから推定横変位の絶対値|XS|を減じて横変位余裕値Xyを算出する。一方、図9の制御マップに従って、前記ステップS1で読込んだ走行車線の曲率βに応じた減速制御閾値Xaを設定する。この減速制御閾値Xaは、走行車線曲率βが大きいほど、小さく設定される。そして、横変位余裕値Xyが減速制御閾値Xa以下の場合には、減速制御を行うものとして減速制御フラグFLGを“1”にセットし、そうでない場合には減速制御フラグFLGを“0”にリセットする。つまり、同等の横変位余裕値Xyであっても、走行車線のカーブがきついほど、車線を逸脱するタイミングが早くなると考えられるので、横変位余裕値Xyが減速制御閾値Xa以下である場合には、車線逸脱防止制御の一部として減速制御を行う。
【0032】
続いてステップS7において、車線逸脱防止のための目標ヨーモーメントMSを算出設定する。この目標ヨーモーメントMSの設定は、逸脱判断フラグFLDがセットされている(FLD=1)ときにだけ行う。これにより、逸脱判断フラグFLDがセットされている場合、比例係数K1、K2、Klaneと、前記ステップS4で算出した将来の推定横変位XSと、横変位限界値XCとを用いて、下記(3)式に従って目標ヨーモーメントMSを算出する。
MS=K1×K2×Klane×(XS−XC) ・・・(3)
【0033】
ここで、比例係数K1は、車両諸元から決まる比例係数である。また、比例係数K2は、図10に示す自車両走行速度Vに応じて設定される比例係数である。また、比例係数Klaneは、車線変更意図フラグFrelane_changeが“1”の場合に、小さい値に設定される比例係数である。
ここで、図10に示す制御マップでは、自車両走行速度Vが大きいほど小さな比例係数K2が設定されるので、目標ヨーモーメントMSは小さくなる、つまり制御量は小さくなる。また、車線変更意図フラグFrelane_changeが“1”の場合には、小さな比例係数Klaneが設定されるので、目標ヨーモーメントMSは小さくなる、つまり制御量は小さくなる。
【0034】
なお、逸脱判断フラグFLDがリセット状態にあるときには目標ヨーモーメントMSは“0”とする。
続いてステップS8において、各車輪への目標制動流体圧PSiを算出し、それを制動流体圧制御回路7に向けて出力してからメインプログラムに復帰する。具体的には、前記ステップS1で読込んだマスタシリンダ圧Pmに対し、前後制動力配分に基づく後輪用マスタシリンダ圧をPmRとしたとき、逸脱判断フラグFLDがリセット状態でかつ減速制御フラグFLGがリセット状態にあるときには、前左右輪5FL、5FRのホイールシリンダ6FL、6FRへの目標制動流体圧PSFL 、PSFRは共にマスタシリンダ圧Pmとなり、後左右輪5RL、5RRのホイールシリンダ6RL、6RRへの目標制動流体圧PSRL、PSRRは共に後輪用マスタシリンダ圧PmRとなる。
【0035】
一方、減速制御フラグFLGがリセットされかつ逸脱判断フラグFLDがセットされているときでも、前記ステップS7で算出した目標ヨーモーメントMSの大きさに応じて場合分けを行う。すなわち、目標ヨーモーメントの絶対値|MS|が所定値MSO未満であるときには後左右輪の制動力にだけ差を発生させ、当該目標ヨーモーメントの絶対値|MS|が所定値MSO以上であるときには前後左右輪の制動力に差を発生させる。従って、前記目標ヨーモーメントの絶対値|MS|が所定値MSO未満であるときの前左右輪目標制動流体圧差ΔPSFは“0”であり、後左右輪目標制動流体圧差ΔPSRは下記(4)式で与えられる。
【0036】
同様に、目標ヨーモーメントの絶対値|MS|が所定値MSO以上であるときの前左右輪目標制動流体圧差ΔPSFは下記(5)式で、後左右輪目標制動流体圧差ΔPSRは下記(6)式で与えられる。なお、式中のTはトレッド(前後輪で同じとする)、KbF、KbRは、夫々、制動力を制動流体圧に換算するための換算係数であり、ブレーキ諸元によって決まる。
ΔPSR=2×KbR×|MS|/T ・・・(4)
ΔPSF=2×KbF×(|MS|−MSO)/T ・・・(5)
ΔPSR=2×KbR×|MSO|/T ・・・(6)
【0037】
従って、逸脱判断フラグFLDがセット状態でかつ減速制御フラグFLGがリセット状態にあり、かつ目標ヨーモーメントMSが負値であるとき、すなわち自車両が左方向に車線逸脱しようとしているときの各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧PSiは下記(7)式で与えられる。
PSFL =Pm
PSFR=Pm+ΔPSF
PSRL=PmR
PSRR=PmR+ΔPSR
・・・(7)
【0038】
これに対し、逸脱判断フラグFLDがセット状態でかつ減速制御フラグFLGがリセット状態にあり、かつ目標ヨーモーメントMSが正値であるとき、すなわち自車両が右方向に車線逸脱しようとしているときの各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧PSiは下記(8)式で与えられる。
PSFL =Pm+ΔPSF
PSFR=Pm
PSRL=PmR+ΔPSR
PSRR=PmR
・・・(8)
【0039】
また、本実施形態では、減速制御フラグFLGがセットされているときには、左右両輪に同等の制動力を付与して自車両を減速する。この左右両輪に同等の制動力を付与するための目標減速制動流体圧PGは、車両諸元から決まる比例係数KG1と、図11に示す自車両走行速度Vに応じて設定される比例係数KG2と、前記ステップS3で算出した将来の推定横変位の絶対値|XS|と、横変位限界値XCと、減速制御閾値Xaとを用いて、下記(9)式に従って算出する。ちなみに、図11に示す制御マップでは、自車両走行速度Vが大きいほど大きな比例係数KG2が設定されるので、目標減速制動流体圧PGは大きくなる、つまり減速度は大きくなる。
PG=KG1×KG2×(|XS|−XC−Xa) ・・・(9)
【0040】
この目標減速制動流体圧PGに対し、前後制動力配分に基づく後輪用目標減速制動流体圧をPGRとする。なお、減速制御フラグFLGがリセットされているときには目標減速制動流体圧PGは“0”とする。
従って、逸脱判断フラグFLDがセット状態でかつ減速制御フラグFLGがセット状態にあり、かつ目標ヨーモーメントMSが負値であるとき、すなわち自車両が左方向に車線逸脱しようとしているときの各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧PSiは下記(10)式で与えられる。
PSFL =Pm+PG/2
PSFR=Pm+ΔPSF+PG/2
PSRL=PmR+PGR/2
PSRR=PmR+ΔPSR+PGR/2
・・・(10)
【0041】
これに対し、逸脱判断フラグFLDがセット状態でかつ減速制御フラグFLGがリセット状態にあり、かつ目標ヨーモーメントMSが正値であるとき、すなわち自車両が右方向に車線逸脱しようとしているときの各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧PSiは下記(11)式で与えられる。
PSFL =Pm+ΔPSF+PG/2
PSFR=Pm+PG/2
PSRL=PmR+ΔPSR+PGR/2
PSRR=PmR+PGR/2
・・・(11)
【0042】
この演算処理によれば、運転者の意図的な車線変更でなく、かつ将来の推定横変位XSが横変位限界値XC以上となった場合に、自車両は走行車線から逸脱する傾向にあると判断されて逸脱判断フラグFLDがセットされ、将来の推定横変位XSと横変位限界値XCとの差に基づいて目標ヨーモーメントMSを算出し、その目標ヨーモーメントMSが達成されるように各車輪の制動力が制御される。これにより、例えば操舵入力が小さいときには、車両に車線逸脱を防止するヨーモーメントが発生して車線逸脱が防止されるとともに、制動力によって車両の走行速度が減速されるため、より安全に車線の逸脱を防止することが可能となる。
ここで、前述の演算処理により実現される車線逸脱防止制御の動作例を図12を用いて説明する。
【0043】
先ずステップS71及びステップS72において、逸脱傾向が検出されるまで、すなわち逸脱判断フラグFLDが“1”になるまで、直近の所定期間Δt内の方向指示スイッチ信号の履歴を更新していく(前記ステップS1〜ステップS3)。
そして、逸脱傾向を検出すると、すなわち逸脱判断フラグFLDが“1”になると、ステップS73に進み、現時点で運転者による操舵介入があるか否かを判定する。ここでは、先ず操舵角δと第1設定値Δδ1(>Δδ2)とを比較することで、操舵介入があるか否かを判定する(前記ステップS21)。
【0044】
ここで、第1設定値Δδ1以上の操舵量(操舵角)δによる操舵介入があった場合、ステップS74に進み、逸脱判断フラグFLDを“0”にして(前記ステップS23)、さらにステップS75に進み、車線逸脱防止制御をオフにする(実施しない)。また、第1設定値Δδ1未満の操舵量(操舵角)δによる操舵介入の場合、逸脱判断フラグFLDを“1”に維持したまま、ステップS76に進み、直近に方向指示スイッチ信号を検出しているか否かを判定する(前記ステップS31)。
【0045】
ここで、直近に方向指示スイッチ信号を検出していない場合、ステップS77に進み、スイッチ操作フラグFsw_turnを“0”にする(前記ステップS33)。そして、ステップS87に進み、通常のヨーモーメントの大きさによる車線逸脱防止制御の介入を開始する。また、直近に方向指示スイッチ信号を検出した場合、ステップS78に進み、スイッチ操作フラグFsw_turnを“1”にする(前記ステップS32)。そして、ステップS79に進み、直近に戻し操舵操作があるか否かを判定する(前記ステップS41)。すなわち、直近の方向指示スイッチのキャンセル操作が戻し操舵操作によるものか否かを判定する。
【0046】
ここで、直近に戻し操舵操作がある場合、ステップS80に進み、直近に戻し操舵判断フラグFstr_returnを“1”にして、かつ車線変更意図フラグFrelane_changeを“1”にする(前記ステップS42)。そして、ステップS89に進み、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御の介入を開始する。また、戻し操舵操作がない場合、ステップS81に進み、戻し操舵判断フラグFstr_returnを“0”にする(前記ステップS43)。そして、ステップS82に進み、隣接車線があるか否かを判定する(前記ステップS51)。
【0047】
ここで、隣接車線がない場合、ステップS83に進み、隣接車線フラグFnextを“0”にする(前記ステップS53)。そして、ステップS87に進み、通常のヨーモーメントの大きさによる車線逸脱防止制御の介入を開始する。また、隣接車線がない場合、ステップS84に進み、隣接車線フラグFnextを“1”にする(前記ステップS52)。そして、ステップS85に進み、操舵介入があるか否かの判定、具体的には操舵介入量による判定をする。すなわち、操舵角δと第2設定値Δδ2とを比較することで、操舵介入があるか否かを判定する(前記ステップS22)。
【0048】
ここで、第2設定値Δδ2以上の操舵量(操舵角)δによる操舵介入があった場合、ステップS86に進み、操舵判断フラグFstrを“1”にして(前記ステップS24)、さらにステップS87に進み、通常のヨーモーメントの大きさによる車線逸脱防止制御の介入を開始する。また、第2設定値Δδ2未満の操舵量(操舵角)δによる操舵介入の場合、ステップS88に進み、操舵判断フラグFstrを“0”にして(前記ステップS25)、かつ車線変更意図フラグFrelane_changeを“1”にする。そして、ステップS89に進み、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御の介入を開始する。
【0049】
以上のような処理により、逸脱傾向がある場合でも、運転者が比較的大きい舵角量(Δδ1以上の舵角量)で操舵介入したときには、車線逸脱防止制御を行わないようになる。
また、前述の処理により、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されており、かつ戻し操舵操作されているときには、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行うようになる。
【0050】
前述したように、将来の推定横変位の絶対値|XS|と横変位限界値XC以上とに基づいて、逸脱傾向がある場合には逸脱判断フラグFLDを“1”にしており(前記ステップS3)、そのような場合でも、方向指示スイッチ20が操作されている場合には、その方向指示スイッチ20の操作方向に基づいて逸脱判断フラグFLDを“0”にしている。このような処理手順だと、方向指示スイッチ20をオン操作した後に運転者の戻し操舵操作により方向指示スイッチ20がオフ状態になれば、将来の推定横変位の絶対値|XS|と横変位限界値XC以上とに基づいて逸脱傾向が検出されている限り、逸脱判断フラグFLDは“1”になる。この場合、キャンセルされた方向指示スイッチ20の操作方向に運転者が車線変更しようとすると、車線逸脱防止制御が介入することになる。
【0051】
しかし、運転者が戻し操舵操作をしたとはいえ、方向指示スイッチ20を一度操作していることから、その運転者に車線変更をする意思があるといえるので、特に方向指示スイッチ20をオン操作してから間もないときにはそのようにいえるので、運転者自らの戻し操舵操作により方向指示スイッチ20のオン操作がキャンセルされたことで、逸脱判断フラグFLDが“1”に維持されて車線逸脱防止制御が介入してしまうと、車線変更しようとしている運転者に違和感を与えることになる。
【0052】
このようなことから、逸脱傾向がある場合でも、直近に方向指示スイッチが操作されており、かつ戻し操舵操作されているときには、運転者の車線意思変更とは関係なく戻し操舵操作により方向指示スイッチのオン操作がキャンセルされたとして、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行う。これにより、車線逸脱防止制御の介入が車線変更する運転者に違和感を与えるのを抑制できる。
【0053】
図13は、このような処理が適用される自車両の走行例を示す。
自車両100Aの位置では、方向指示スイッチ20がオン操作されており、方向指示ランプが点滅状態になっている。そして、自車両100Bの位置では、運転者が隣接車線に車線変更しようとして、走行車線側方に寄った状態になっている。ここで、運転者の戻し操舵操作により自車両100Cが走行車線の中央側に移動すると、方向指示スイッチ20のオン操作がキャンセルされる。このとき、方向指示ランプも消滅状態になる。
【0054】
このような走行位置から運転者が再び隣接車線に移ろうとして、自車両100Dの位置に移動しようとすると、方向指示スイッチ20がオフ状態になっていることで、車線逸脱防止制御が介入してしまう。これに対し、本発明を適用することで、逸脱傾向がある場合でも、直近に方向指示スイッチが操作されており、かつ戻し操舵操作されていることから、小さなヨーモーメントで車線逸脱防止制御が介入するようになる。これにより、車線逸脱防止制御の介入が車線変更する運転者に違和感を与えるのを抑制できる。
【0055】
なお、この趣旨からもわかるように、直近の方向指示スイッチ20の操作方向と逸脱方向とが一致している場合に以上のような処理を行っている。すなわち、直近の方向指示スイッチ20の操作方向と逸脱方向とが逆の場合には、運転者が車線変更したい方向は逸脱方向とは逆の方向であることから、直近の方向指示スイッチの操作履歴に関係なく、通常の車線逸脱防止制御を行う。
【0056】
また、前述の処理により、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されているが、戻し操舵操作されてない場合、すなわち運転者自らが方向指示スイッチ20をキャンセル操作しているような場合には、操舵操作量や隣接車線の有無に基づいて次のような逸脱防止制御を行っている。
すなわち、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されているが、戻し操舵操作されてなく、かつ隣接車線があり、かつ運転者が小さい舵角量(Δδ2未満の舵角量)で操舵介入したときには、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行う。
【0057】
例えば、この場合は、走行車線にて隣接車線寄りに自車両が寄ったことから、運転者自ら方向指示スイッチ20をキャンセル操作しているような場合である。このような場合には、運転者の意思を尊重して、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行う。
また、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されているが、戻し操舵操作されてなく、かつ隣接車線があり、かつ運転者が中程度の舵角量(Δδ1未満、かつΔδ2以上の舵角量)で操舵介入したときには、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行う。すなわち、走行車線にて隣接車線寄りに自車両が寄ったことで運転者自ら方向指示スイッチ20をキャンセル操作したような場合でも、操舵量が多い場合には、運転者の意思よりも車線逸脱防止制御の必要性を優先させて、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸逸脱防止制御を介入させている。
【0058】
また、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されているが、戻し操舵操作されてなく、かつ隣接車線がないときには、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行うようになる。例えば、隣接車線がないことから逸脱方向に路肩があるとして、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行う。
一方、前述の処理により、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されていない場合、運転者による操舵介入の有無に関係なく、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行う。この場合は、直近に方向指示スイッチ20が操作されていないことから、現在の逸脱傾向が運転者の車線変更等の意思によるものでないとして、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行う。
【0059】
以上、本発明の実施形態を説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態として実現されることに限定されるものではない。
すなわち、前述の実施形態では、車線変更意図フラグFrelane_changeが“1”の場合等に車線逸脱防止制御で用いるヨーモーメント(目標ヨーモーメントMS)を小さくしている。しかし、これに限定されるものではない。すなわち、車線逸脱防止制御を抑制することを目的とするものであれば、他の車線逸脱防止制御内容を変更するようにしてもよい。例えば、制動力によって車両の走行速度を減速しているが、その減速度を小さくするようにしてもよい。
【0060】
また、ヨーモーメントを小さくすることとするものには、前述したように比例係数Klaneを小さくして、全体的にヨーモーメントを小さくすることの他に、車線逸脱防止制御の介入当初にヨーモーメントを小さくして、車線逸脱防止制御後、徐々にヨーモーメントを大きくするようなことも含まれる。この場合、例えば、車線逸脱防止制御を通して全体として付与するヨーモーメントの量は通常時の車線逸脱防止制御を通して付与されるヨーモーメントの量と同じにしてもよい。
【0061】
また、前述の実施形態では、戻し操舵操作を操舵トルクの履歴に基づいて検出している。しかし、これに限定されるものではない。例えば、操舵角の履歴に基づいて戻し操舵操作を検出するようにしてもよい。
また、本実施形態においては戻し操舵操作の有無を検出しているが、本発明はこれに限らず、単に直近の過去における方向指示スイッチの操作履歴の有無に基づいてヨーモーメントを小さくしても良い。また、車両状態コントロールユニット8は、ヨーモーメントを小さく変更する以外に、例えばヨーモーメントを零にする変更をしても良い。このとき、ステップS5で車線逸脱警報が報知されるだけで、ヨーモーメントが付与されないことになる。
【0062】
また、前述の実施形態の説明において、車両状態コントロールユニット8による図2のステップS3の処理は、自車両が走行車線から逸脱傾向にあることを判断する逸脱判断手段を実現しており、車両状態コントロールユニット8による図2のステップS4の処理は、方向指示器の操作を検出する方向指示器操作検出手段を実現しており、車両状態コントロールユニット8による図2のステップS5〜ステップS8の処理は、前記逸脱判断手段が逸脱傾向にあると判断した場合で、かつ前記方向指示器操作検出手段が方向指示器のオン操作を検出している場合、当該方向指示器の指示方向と当該逸脱傾向の方向とに基づいて、逸脱防止制御を介入させる逸脱防止制御介入手段を実現しており、車両状態コントロールユニット8による図3の処理は、前記方向指示器がオフ状態の場合、記憶手段が記憶した方向指示器の操作履歴に基づいて、前記逸脱防止制御介入手段により介入させる逸脱防止制御内容を変更する逸脱防止制御内容変更手段を実現している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態であり、車線逸脱防止装置を搭載した車両の一例を示す概略構成図である。
【図2】前記車両が搭載する車両状態コントロールユニット内で実行される車線逸脱防止制御のための演算処理を示すフローチャートである。
【図3】前記車線逸脱防止制御のための演算処理の運転者意思判断の処理を示すフローチャートである。
【図4】前記運転者意思判断の処理内の操舵介入判定の処理を示すフローチャートである。
【図5】前記運転者意思判断の処理内の方向指示スイッチ判定の処理を示すフローチャートである。
【図6】方向指示スイッチ信号と操舵角との関係を示す特性図である。
【図7】前記運転者意思判断の処理内の戻し操舵操作判定の処理を示すフローチャートである。
【図8】前記運転者意思判断の処理内の隣接車線判定の処理を示すフローチャートである。
【図9】前記車線逸脱防止制御のための演算処理に用いられる制御マップである。
【図10】前記車線逸脱防止制御のための演算処理に用いられる制御マップである。
【図11】前記車線逸脱防止制御のための演算処理に用いられる制御マップである。
【図12】前記車線逸脱防止制御のための演算処理により実現される車線逸脱防止制御の一例の説明に使用したフローチャートである。
【図13】自車両の走行例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
5FL〜5RR 車輪
6FL〜6RR ホイールシリンダ
7 制動流体圧制御回路
8 車両状態コントロールユニット
10 ナビゲーションシステム
13 CCDカメラ
14 カメラコントローラ
15 加速度センサ
19 操舵角センサ
20 方向指示スイッチ
22FL〜22RR 車輪速度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中に自車両が走行車線から逸脱しそうになったときに、その逸脱を防止する車線逸脱防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような車線逸脱防止装置としては、例えば自車両が走行車線から逸脱しそうになるのを判断し、走行車線の基準位置に対する自車両の走行位置の横ずれ量に応じて、各車輪の制駆動力を制御し、ヨー方向の制御と減速制御とを組み合わせて車両にヨーモーメントを発生せしめ、もって走行車線からの逸脱を防止すると共に乗員への違和感を防止するものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−112540公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に開示されている技術では、逸脱方向に方向指示器が操作されている場合、運転者に車線変更の意思があるとして、車線逸脱防止制御を介入しないようにしている。
しかし、運転者に車線変更の意思があるのにもかかわらず、方向指示器がキャンセルされている場合がある。例えば、運転者が方向指示器をオンしながらハンドルを操舵している途中で操舵を止めた場合や操舵を微小量だけ戻した場合、操舵の回転位置によっては方向指示器がキャンセルされることがある。また、運転者によっては方向指示器をオンしてすぐにオフした後(即ち、一回だけ方向指示器を点滅させた後)、車線変更を行う場合がある。この場合には、原則通り逸脱傾向がある限り車線逸脱防止制御が介入してしまうので、これが車線変更をしようとしている運転者に違和感を与えてしまう。
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、運転者に違和感を与えることなく、車線逸脱防止制御を行う車線逸脱防止装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る車線逸脱防止装置は、自車両が走行車線から逸脱傾向にあることを判断する逸脱判断手段と、方向指示器の操作を検出する方向指示器操作検出手段と、前記方向指示器の操作履歴を記憶する記憶手段と、前記逸脱判断手段が逸脱傾向にあると判断した場合で、かつ前記方向指示器操作検出手段が方向指示器のオン操作を検出している場合、当該方向指示器の指示方向と当該逸脱傾向の方向とに基づいて、逸脱防止制御を介入させる逸脱防止制御介入手段とを備えている。
この車線逸脱防止装置は、前記方向指示器がオフ状態の場合、前記記憶手段が記憶した方向指示器の操作履歴に基づいて、前記逸脱防止制御介入手段により介入させる逸脱防止制御内容を逸脱防止制御内容変更手段により変更している。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、方向指示器の操作履歴に基づいて逸脱防止制御内容を変更しているので、運転者の車線変更意思を考慮した車線逸脱防止制御の介入が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という。)を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の車線逸脱防止装置の一例を示す車両概略構成図である。この車両は、自動変速機及びコンベンショナルディファレンシャルギヤを搭載した後輪駆動車両であり、制動装置は、前後輪とも、左右輪の制動力を独立に制御可能としている。
【0007】
図中の符号1はブレーキペダル、2はブースタ、3はマスタシリンダ、4はリザーバであり、通常は、運転者によるブレーキペダル1の踏込み量に応じ、マスタシリンダ3で昇圧された制動流体圧が、各車輪5FL〜5RRの各ホイールシリンダ6FL〜6RRに供給されるようになっているが、このマスタシリンダ3と各ホイールシリンダ6FL〜6RRとの間には制動流体圧制御回路7が介装されており、この制動流体圧制御回路7内で、各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を個別に制御することも可能となっている。
【0008】
制動流体圧制御回路7は、例えばアンチスキッド制御やトラクション制御に用いられる制動流体圧制御回路を利用したものであり、この実施形態では、各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を、単独で増減圧することができるように構成されている。この制動流体圧制御回路7は、後述する車両状態コントロールユニット8からの制動流体圧指令値に応じて各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を制御する。
【0009】
また、この車両には、自車両の走行車線逸脱防止判断用に走行車線内の自車両の位置を検出するための前方外界認識センサとして、CCDカメラ13及びカメラコントローラ14を備えている。このカメラコントローラ14では、CCDカメラ13で捉えた自車両前方の撮像画像から、例えば白線等のレーンマーカを検出して走行車線を検出するとともに、その走行車線に対する自車両のヨー角φ、すなわち車線に対する自車両の向き、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率β等を算出することができるように構成されている。
【0010】
なお、このカメラコントローラ14は、レーンマーカ等を検出するための走行車線検出エリアを用いて走行車線検出を行い、その検出した走行車線に対して各データを算出する。走行車線の検出には、例えば特開平11−296660号公報に記載される手法を用いることができる。具体的には、自車両が走行している走行車線の両側の白線等のレーンマーカを検出し、そのレーンマーカを用いて自車両が走行している走行車線を検出する。ここで、撮像された画像全域で白線等のレーンマーカを検出する(走査する)と、演算負荷も大きいし、時間もかかる。そこで、レーンマーカが存在しそうな領域に、更に小さな検出領域(所謂ウインドウ)を設定し、その検出領域内でレーンマーカを検出する。一般に、車線に対する自車両の向きが変わると、画像内に映し出されるレーンマーカの位置も変わるので、例えば特開平11−296660号公報では、操舵角δから車線に対する自車両の向きを推定し、画像内のレーンマーカが映し出されているであろう領域に検出領域を設定する。そして、例えばレーンマーカと路面との境界を際立たせるフィルタ処理などを施し、各レーンマーカ検出領域内において、最もレーンマーカと路面との境界らしい直線を検出し、その直線上の一点(レーンマーカ候補点)をレーンマーカの代表的な部位として検出する。このようにして得られた各ウインドウのレーンマーカ候補点を連続すると、自車両前方に展開している走行車線を検出することができる。
【0011】
また、この車両には、自車両を誘導するのに好適なナビゲーションシステム10が搭載されている。このナビゲーションシステム10は、所謂GPS機能による自車両の位置情報、道路情報、地図情報などに加えて、自車両に発生する前後加速度Xg及び横加速度Yg、自車両に発生するヨーレートφ' を検出する機能を備える。そして、このナビゲーションシステム10で検出された道路情報、前後加速度Xg、横加速Yg、ヨーレートφ’は車両状態コントロールユニット8に出力される。また、この車両には、ステアリングホイール21の操舵角δを検出する操舵角センサ19、各車輪5FL〜5RRの回転速度、所謂車輪速度Vwi(i=FL〜RR)を検出する車輪速度センサ22FL〜22RR、方向指示器による方向指示操作を検出する方向指示スイッチ20が備えられ、それらの検出信号も車両状態コントロールユニット8に出力される。また、カメラコントローラ14で検出された走行車線に対する自車両のヨー角φ、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率βや、エンジンコントロールユニットによって制御されているエンジンの駆動トルクTwも合わせて車両状態コントロールユニット8に出力される。なお、検出された車両の走行状態データに左右の方向性がある場合には、何れも左方向を正方向とする。すなわち、ヨーレートφ' や横加速度Yg、操舵角δ、ヨー角φは、左旋回時に正値となり、横変位Xは、走行車線中央から左方にずれているときに正値となる。
【0012】
次に、車両状態コントロールユニット8で行われる演算処理のロジックについて、図2のフローチャートに従って説明する。この演算処理は、例えば10msec. 毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によって実行される。なお、このフローチャートでは通信のためのステップを設けていないが、演算処理によって得られた情報は随時記憶装置に更新記憶されるとともに、必要な情報は随時記憶装置から読出される。
【0013】
この演算処理では、先ずステップS1において、各センサやコントローラ、コントロールユニットからの各種データを読込む。具体的には、ナビゲーションシステム10で検出された前後加速度Xg、横加速度Yg、ヨーレートφ' 、各センサ類で検出された各車輪速度Vwi、操舵角δ、方向指示スイッチ信号、カメラコントローラ14からの走行車線に対する自車両のヨー角φ、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率β、またエンジンコントロールユニットからの駆動トルクTwを読込む。
【0014】
続いてステップS2において、前記ステップS1で読込んだ各車輪速度Vwiのうち、非駆動輪である前左右輪速度VwFL、VwFRの平均値から自車両の走行速度Vを算出する。なお、車両が前輪駆動車両である場合には、非駆動輪である後左右輪速度VwRL、VwRRの平均値から自車両走行速度Vを算出する。
また、アンチスキッド制御装置で推定車体速度が算出されている場合には、その値を自車両走行速度として用いてもよい。また、ナビゲーションシステム10内で用いられている自車両走行速度を用いてもよい。また、変速機出力軸速度から求めた自車両走行速度を用いて、走行速度の比較を行うようにしてもよい。
【0015】
続いてステップS3において、自車両の走行車線からの逸脱判断を行う。本実施形態では、先ず逸脱推定値として将来の推定横変位XSを算出する。具体的には、前記ステップS1で読込んだ自車両の走行車線に対するヨー角φ、走行車線中央からの自車両の横変位X、走行車線の曲率β及びステップS2で算出した自車両の走行速度Vを用い、下記(2)式に従って将来の推定横変位XSを算出する。
XS=Tt×V×(φ+Tt×V×β)+X ・・・(2)
【0016】
ここで、Ttは前方注視距離算出用の車頭時間であり、車頭時間Ttに自車両の走行速度Vを乗じると前方注視距離になる。つまり、車頭時間Tt後の走行車線中央からの横変位推定値が将来の推定横変位XSとなる。そして、この逸脱推定値としての将来の推定横変位の絶対値|XS|が横変位限界値XC以上であるときに、自車両が走行車線から逸脱傾向にあるとして例えば逸脱判断フラグFLDをセットし、そうでないときには自車両は走行車線から逸脱傾向にはないとして例えば逸脱判断フラグFLDを“0”のリセット状態とする。
【0017】
続いてステップS4において、自車両の車線変更を判断する。具体的には、前記ステップS1で読込んだ方向指示スイッチ信号の方向と、走行車線中央からの自車両の横変位X、或いは前記ステップS3で算出した逸脱推定値としての将来の推定横変位XSから得た逸脱方向とが同じであるときには、意識的な車線変更であるとして逸脱判断フラグFLDを強制的に“0”にリセットする。一方、前記方向指示スイッチ信号の方向と前記横変位X又は前記逸脱方向とが異なる場合、逸脱である可能性があるとして逸脱判断フラグFLDを強制的に“1”に維持する。よって、このような処理である限り、方向指示スイッチ20が操作されていない場合、逸脱傾向がある限り、逸脱判断フラグFLDは“1”になる。
【0018】
ここで、方向指示スイッチ20が操作されているとは、運転者により方向指示器が操作されていることをいう。また、逸脱判断フラグFLDが車線防止制御の介入を決定するためのフラグであるところ、このステップS4では、方向指示スイッチ20がオン操作されている場合に、方向指示スイッチ20の方向(指示方向)と逸脱傾向の方向とに基づいて逸脱防止制御の介入を決定しているのである。
【0019】
ここで、方向指示スイッチ20が操作されていない場合には、運転者の車線変更意図の判断をする。図3はその処理の処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS11において、操舵介入の有無を判定する。具体的には、前記ステップS1で読込んだ操舵角δと予め設定されている第1及び第2設定値(閾値)Δδ1、Δδ2(Δδ1>Δδ2)とを比較して、その比較結果に基づいて操舵介入の有無を判定する。図4は、その処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0020】
先ずステップS21において、操舵角δと第1設定値Δδ1とを比較する。ここで、操舵角δが第1設定値Δδ1以上の場合(δ≧Δδ1)、運転者が車線を変更する意図があると判定してステップS23に進み、逸脱判断フラグFLDを“0”に変更する。そして、当該ステップS11の処理を終了する(ステップS12に進む)。また、操舵角δが第1設定値Δδ1未満の場合(δ<Δδ1)、ステップS22に進む。
【0021】
ステップS22では、操舵角δと第2設定値Δδ2とを比較する。ここで、操舵角δが第2設定値Δδ2以上の場合(δ≧Δδ2)、ステップS24に進み、操舵判断フラグFstrを“1”にする。そして、当該ステップS11の処理を終了する(ステップS12に進む)。また、操舵角δが第2設定値Δδ2未満の場合(δ<Δδ2)、ステップS25に進み、操舵判断フラグFstrを“0”にする。そして、当該ステップS11の処理を終了する(ステップS12に進む)。
【0022】
以上のような操舵介入判定をテップS11において行う。
続いてステップS12において、過去(直近)の方向指示スイッチ20の操作の有無を判定する。図5は、その処理の処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS31において、過去の方向指示スイッチ20が操作されたか否かを判定する。具体的には、直近の所定期間Δt内の前記ステップS1で読込んだ方向指示スイッチ信号の履歴から方向指示スイッチ20の操作の有無を判定する。
【0023】
図6(A)は、方向指示スイッチ20の左右操作方向に応じた方向指示スイッチ信号の履歴の一例を示す。この図6(A)に示すように、方向指示スイッチ20の操作方向に応じて方向指示スイッチ信号を検出することができる。
なお、図6(B)は、操舵角δの変化の一例を示す。この図6(B)に示すように、戻し操舵操作することで、方向指示スイッチ20の操作がキャンセルされるので、図6(A)に示すように、方向指示スイッチ信号もオフ状態になる。
【0024】
ステップS31では、このように変化する方向指示スイッチ信号について、所定期間Δt内の変化をみて、方向指示スイッチ20が操作されているか否かを判定する。なお、所定期間Δtは例えば1秒である。なお、所定期間Δtにおける方向指示スイッチ20の操作履歴は、車両状態コントローラ8内の記憶装置に随時記憶され、履歴データが更新されている。
【0025】
ここで、所定期間Δt内の方向指示スイッチ信号の履歴から方向指示スイッチ20が操作されていると(方向指示スイッチ信号が検出されていると)判定した場合、ステップS32に進み、方向指示スイッチ操作フラグ(以下、単にスイッチ操作フラグという。)Fsw_turnを“1”にする。そして、当該ステップS12の処理を終了する(ステップS13の処理に進む)。また、所定期間Δt内の方向指示スイッチ信号の履歴から方向指示スイッチ20が操作されていないと(方向指示スイッチ信号が検出されていないと)判定した場合には、ステップS33に進み、スイッチ操作フラグFsw_turnを“0”にする。そして、ステップS13の処理に進むことなく、ステップS4の処理を終了する(ステップS5の処理に進む)。
【0026】
以上のような方向指示スイッチ20の操作判定をステップS12において行う。
ステップS13では、過去(直近)の戻し操舵操作の有無を判定する。図7は、その処理の処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS41において、戻し操舵操作されているか否かを判定する。具体的には、直近の所定期間Δt内の操舵トルクの履歴から戻し操舵操作を判定する。前記図6(B)に示したように戻し操舵操作により操作角δが変化するが、直近の所定期間Δt内のその操舵トルクの値が逆の値、すなわち正値から負値に、又は負値から正値に転じた場合、戻し操舵操作されていると判定する。そして、戻し操舵操作されている場合、ステップS42に進み、戻し操舵操作されていない場合、ステップS43に進む。
【0027】
ステップS42では、戻し操舵判断フラグFstr_returnを“1”にして、さらに車線変更意図フラグFrelane_changeを“1”にする。すなわち、車線変更意図フラグFrelane_changeが“1”である場合、過去に1度車線変更をしようとして走行車線に戻ったことを示す。そして、ステップS4の処理を終了する(ステップS5の処理に進む)。
また、ステップS43では、戻し操舵判断フラグFstr_returnを“0”にする。そして、ステップS14に進む。
以上のようなステアリング操作の判定をテップS13において行う。
ステップS14では、隣接車線の有無を判定する。図8は、その処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0028】
先ずステップS51において隣接車線の有無を判定する。具体的には、ナビゲーションシステム10からの道路情報として得られる自車両の現在走行車線情報と車線数情報とに基づいて隣接車線があるか否かを判定する。ここで、隣接車線がある場合、ステップS52に進み、隣接車線がない場合、ステップS53に進み、隣接車線フラグFnextを“0”にして、当該ステップS14の処理を終了する(ステップS5の処理に進む)。
【0029】
ステップS52では隣接車線フラグFnextを“1”にして、ステップS54に進む。ステップS54では、前記ステップS11で得た操舵判断フラグFstrが“0”か否かを判定する。ここで、操舵判断フラグFstrが“0”の場合(δ<Δδ2)、ステップS55に進む。ステップS55では、車線変更意図フラグF(relane_change)を“1”にする。そして、当該ステップS14の処理を終了する(ステップS5に進む)。また、操舵判断フラグFstrが“0”でない場合(δ≧Δδ2)、当該ステップS14の処理を終了する(ステップS5に進む)。
【0030】
以上のような隣接車線判定をテップS14において行い、ステップS4の処理を終了する。
ステップS4では、逸脱判断フラグFLD、スイッチ操作フラグFsw_turn戻し操舵判断フラグFstr_return、隣接車線フラグFnext、操舵判断フラグFstr及び車線変更意図フラグFrelane_changeの種々のフラグを得ており、これらのフラグの状態に基づいて、後述のステップS5以降の処理を行う。
すなわち、先ずステップS5では、自車両が走行車線から逸脱傾向にあることを警報するか否かの判断を行う。具体的には、逸脱判断フラグFLDが“1”のセット状態であるときに警報するとし、そうでないときには警報しないものとする。なお、警報のタイミングと逸脱防止制御介入のタイミングとをずらしてもよい。
【0031】
続いてステップS6において、車線逸脱防止制御の一部として減速制御を行うか否かの判断を行う。具体的には、先ず前記ステップS3で設定した横変位限界値XCから推定横変位の絶対値|XS|を減じて横変位余裕値Xyを算出する。一方、図9の制御マップに従って、前記ステップS1で読込んだ走行車線の曲率βに応じた減速制御閾値Xaを設定する。この減速制御閾値Xaは、走行車線曲率βが大きいほど、小さく設定される。そして、横変位余裕値Xyが減速制御閾値Xa以下の場合には、減速制御を行うものとして減速制御フラグFLGを“1”にセットし、そうでない場合には減速制御フラグFLGを“0”にリセットする。つまり、同等の横変位余裕値Xyであっても、走行車線のカーブがきついほど、車線を逸脱するタイミングが早くなると考えられるので、横変位余裕値Xyが減速制御閾値Xa以下である場合には、車線逸脱防止制御の一部として減速制御を行う。
【0032】
続いてステップS7において、車線逸脱防止のための目標ヨーモーメントMSを算出設定する。この目標ヨーモーメントMSの設定は、逸脱判断フラグFLDがセットされている(FLD=1)ときにだけ行う。これにより、逸脱判断フラグFLDがセットされている場合、比例係数K1、K2、Klaneと、前記ステップS4で算出した将来の推定横変位XSと、横変位限界値XCとを用いて、下記(3)式に従って目標ヨーモーメントMSを算出する。
MS=K1×K2×Klane×(XS−XC) ・・・(3)
【0033】
ここで、比例係数K1は、車両諸元から決まる比例係数である。また、比例係数K2は、図10に示す自車両走行速度Vに応じて設定される比例係数である。また、比例係数Klaneは、車線変更意図フラグFrelane_changeが“1”の場合に、小さい値に設定される比例係数である。
ここで、図10に示す制御マップでは、自車両走行速度Vが大きいほど小さな比例係数K2が設定されるので、目標ヨーモーメントMSは小さくなる、つまり制御量は小さくなる。また、車線変更意図フラグFrelane_changeが“1”の場合には、小さな比例係数Klaneが設定されるので、目標ヨーモーメントMSは小さくなる、つまり制御量は小さくなる。
【0034】
なお、逸脱判断フラグFLDがリセット状態にあるときには目標ヨーモーメントMSは“0”とする。
続いてステップS8において、各車輪への目標制動流体圧PSiを算出し、それを制動流体圧制御回路7に向けて出力してからメインプログラムに復帰する。具体的には、前記ステップS1で読込んだマスタシリンダ圧Pmに対し、前後制動力配分に基づく後輪用マスタシリンダ圧をPmRとしたとき、逸脱判断フラグFLDがリセット状態でかつ減速制御フラグFLGがリセット状態にあるときには、前左右輪5FL、5FRのホイールシリンダ6FL、6FRへの目標制動流体圧PSFL 、PSFRは共にマスタシリンダ圧Pmとなり、後左右輪5RL、5RRのホイールシリンダ6RL、6RRへの目標制動流体圧PSRL、PSRRは共に後輪用マスタシリンダ圧PmRとなる。
【0035】
一方、減速制御フラグFLGがリセットされかつ逸脱判断フラグFLDがセットされているときでも、前記ステップS7で算出した目標ヨーモーメントMSの大きさに応じて場合分けを行う。すなわち、目標ヨーモーメントの絶対値|MS|が所定値MSO未満であるときには後左右輪の制動力にだけ差を発生させ、当該目標ヨーモーメントの絶対値|MS|が所定値MSO以上であるときには前後左右輪の制動力に差を発生させる。従って、前記目標ヨーモーメントの絶対値|MS|が所定値MSO未満であるときの前左右輪目標制動流体圧差ΔPSFは“0”であり、後左右輪目標制動流体圧差ΔPSRは下記(4)式で与えられる。
【0036】
同様に、目標ヨーモーメントの絶対値|MS|が所定値MSO以上であるときの前左右輪目標制動流体圧差ΔPSFは下記(5)式で、後左右輪目標制動流体圧差ΔPSRは下記(6)式で与えられる。なお、式中のTはトレッド(前後輪で同じとする)、KbF、KbRは、夫々、制動力を制動流体圧に換算するための換算係数であり、ブレーキ諸元によって決まる。
ΔPSR=2×KbR×|MS|/T ・・・(4)
ΔPSF=2×KbF×(|MS|−MSO)/T ・・・(5)
ΔPSR=2×KbR×|MSO|/T ・・・(6)
【0037】
従って、逸脱判断フラグFLDがセット状態でかつ減速制御フラグFLGがリセット状態にあり、かつ目標ヨーモーメントMSが負値であるとき、すなわち自車両が左方向に車線逸脱しようとしているときの各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧PSiは下記(7)式で与えられる。
PSFL =Pm
PSFR=Pm+ΔPSF
PSRL=PmR
PSRR=PmR+ΔPSR
・・・(7)
【0038】
これに対し、逸脱判断フラグFLDがセット状態でかつ減速制御フラグFLGがリセット状態にあり、かつ目標ヨーモーメントMSが正値であるとき、すなわち自車両が右方向に車線逸脱しようとしているときの各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧PSiは下記(8)式で与えられる。
PSFL =Pm+ΔPSF
PSFR=Pm
PSRL=PmR+ΔPSR
PSRR=PmR
・・・(8)
【0039】
また、本実施形態では、減速制御フラグFLGがセットされているときには、左右両輪に同等の制動力を付与して自車両を減速する。この左右両輪に同等の制動力を付与するための目標減速制動流体圧PGは、車両諸元から決まる比例係数KG1と、図11に示す自車両走行速度Vに応じて設定される比例係数KG2と、前記ステップS3で算出した将来の推定横変位の絶対値|XS|と、横変位限界値XCと、減速制御閾値Xaとを用いて、下記(9)式に従って算出する。ちなみに、図11に示す制御マップでは、自車両走行速度Vが大きいほど大きな比例係数KG2が設定されるので、目標減速制動流体圧PGは大きくなる、つまり減速度は大きくなる。
PG=KG1×KG2×(|XS|−XC−Xa) ・・・(9)
【0040】
この目標減速制動流体圧PGに対し、前後制動力配分に基づく後輪用目標減速制動流体圧をPGRとする。なお、減速制御フラグFLGがリセットされているときには目標減速制動流体圧PGは“0”とする。
従って、逸脱判断フラグFLDがセット状態でかつ減速制御フラグFLGがセット状態にあり、かつ目標ヨーモーメントMSが負値であるとき、すなわち自車両が左方向に車線逸脱しようとしているときの各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧PSiは下記(10)式で与えられる。
PSFL =Pm+PG/2
PSFR=Pm+ΔPSF+PG/2
PSRL=PmR+PGR/2
PSRR=PmR+ΔPSR+PGR/2
・・・(10)
【0041】
これに対し、逸脱判断フラグFLDがセット状態でかつ減速制御フラグFLGがリセット状態にあり、かつ目標ヨーモーメントMSが正値であるとき、すなわち自車両が右方向に車線逸脱しようとしているときの各ホイールシリンダ6FL〜6RRへの目標制動流体圧PSiは下記(11)式で与えられる。
PSFL =Pm+ΔPSF+PG/2
PSFR=Pm+PG/2
PSRL=PmR+ΔPSR+PGR/2
PSRR=PmR+PGR/2
・・・(11)
【0042】
この演算処理によれば、運転者の意図的な車線変更でなく、かつ将来の推定横変位XSが横変位限界値XC以上となった場合に、自車両は走行車線から逸脱する傾向にあると判断されて逸脱判断フラグFLDがセットされ、将来の推定横変位XSと横変位限界値XCとの差に基づいて目標ヨーモーメントMSを算出し、その目標ヨーモーメントMSが達成されるように各車輪の制動力が制御される。これにより、例えば操舵入力が小さいときには、車両に車線逸脱を防止するヨーモーメントが発生して車線逸脱が防止されるとともに、制動力によって車両の走行速度が減速されるため、より安全に車線の逸脱を防止することが可能となる。
ここで、前述の演算処理により実現される車線逸脱防止制御の動作例を図12を用いて説明する。
【0043】
先ずステップS71及びステップS72において、逸脱傾向が検出されるまで、すなわち逸脱判断フラグFLDが“1”になるまで、直近の所定期間Δt内の方向指示スイッチ信号の履歴を更新していく(前記ステップS1〜ステップS3)。
そして、逸脱傾向を検出すると、すなわち逸脱判断フラグFLDが“1”になると、ステップS73に進み、現時点で運転者による操舵介入があるか否かを判定する。ここでは、先ず操舵角δと第1設定値Δδ1(>Δδ2)とを比較することで、操舵介入があるか否かを判定する(前記ステップS21)。
【0044】
ここで、第1設定値Δδ1以上の操舵量(操舵角)δによる操舵介入があった場合、ステップS74に進み、逸脱判断フラグFLDを“0”にして(前記ステップS23)、さらにステップS75に進み、車線逸脱防止制御をオフにする(実施しない)。また、第1設定値Δδ1未満の操舵量(操舵角)δによる操舵介入の場合、逸脱判断フラグFLDを“1”に維持したまま、ステップS76に進み、直近に方向指示スイッチ信号を検出しているか否かを判定する(前記ステップS31)。
【0045】
ここで、直近に方向指示スイッチ信号を検出していない場合、ステップS77に進み、スイッチ操作フラグFsw_turnを“0”にする(前記ステップS33)。そして、ステップS87に進み、通常のヨーモーメントの大きさによる車線逸脱防止制御の介入を開始する。また、直近に方向指示スイッチ信号を検出した場合、ステップS78に進み、スイッチ操作フラグFsw_turnを“1”にする(前記ステップS32)。そして、ステップS79に進み、直近に戻し操舵操作があるか否かを判定する(前記ステップS41)。すなわち、直近の方向指示スイッチのキャンセル操作が戻し操舵操作によるものか否かを判定する。
【0046】
ここで、直近に戻し操舵操作がある場合、ステップS80に進み、直近に戻し操舵判断フラグFstr_returnを“1”にして、かつ車線変更意図フラグFrelane_changeを“1”にする(前記ステップS42)。そして、ステップS89に進み、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御の介入を開始する。また、戻し操舵操作がない場合、ステップS81に進み、戻し操舵判断フラグFstr_returnを“0”にする(前記ステップS43)。そして、ステップS82に進み、隣接車線があるか否かを判定する(前記ステップS51)。
【0047】
ここで、隣接車線がない場合、ステップS83に進み、隣接車線フラグFnextを“0”にする(前記ステップS53)。そして、ステップS87に進み、通常のヨーモーメントの大きさによる車線逸脱防止制御の介入を開始する。また、隣接車線がない場合、ステップS84に進み、隣接車線フラグFnextを“1”にする(前記ステップS52)。そして、ステップS85に進み、操舵介入があるか否かの判定、具体的には操舵介入量による判定をする。すなわち、操舵角δと第2設定値Δδ2とを比較することで、操舵介入があるか否かを判定する(前記ステップS22)。
【0048】
ここで、第2設定値Δδ2以上の操舵量(操舵角)δによる操舵介入があった場合、ステップS86に進み、操舵判断フラグFstrを“1”にして(前記ステップS24)、さらにステップS87に進み、通常のヨーモーメントの大きさによる車線逸脱防止制御の介入を開始する。また、第2設定値Δδ2未満の操舵量(操舵角)δによる操舵介入の場合、ステップS88に進み、操舵判断フラグFstrを“0”にして(前記ステップS25)、かつ車線変更意図フラグFrelane_changeを“1”にする。そして、ステップS89に進み、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御の介入を開始する。
【0049】
以上のような処理により、逸脱傾向がある場合でも、運転者が比較的大きい舵角量(Δδ1以上の舵角量)で操舵介入したときには、車線逸脱防止制御を行わないようになる。
また、前述の処理により、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されており、かつ戻し操舵操作されているときには、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行うようになる。
【0050】
前述したように、将来の推定横変位の絶対値|XS|と横変位限界値XC以上とに基づいて、逸脱傾向がある場合には逸脱判断フラグFLDを“1”にしており(前記ステップS3)、そのような場合でも、方向指示スイッチ20が操作されている場合には、その方向指示スイッチ20の操作方向に基づいて逸脱判断フラグFLDを“0”にしている。このような処理手順だと、方向指示スイッチ20をオン操作した後に運転者の戻し操舵操作により方向指示スイッチ20がオフ状態になれば、将来の推定横変位の絶対値|XS|と横変位限界値XC以上とに基づいて逸脱傾向が検出されている限り、逸脱判断フラグFLDは“1”になる。この場合、キャンセルされた方向指示スイッチ20の操作方向に運転者が車線変更しようとすると、車線逸脱防止制御が介入することになる。
【0051】
しかし、運転者が戻し操舵操作をしたとはいえ、方向指示スイッチ20を一度操作していることから、その運転者に車線変更をする意思があるといえるので、特に方向指示スイッチ20をオン操作してから間もないときにはそのようにいえるので、運転者自らの戻し操舵操作により方向指示スイッチ20のオン操作がキャンセルされたことで、逸脱判断フラグFLDが“1”に維持されて車線逸脱防止制御が介入してしまうと、車線変更しようとしている運転者に違和感を与えることになる。
【0052】
このようなことから、逸脱傾向がある場合でも、直近に方向指示スイッチが操作されており、かつ戻し操舵操作されているときには、運転者の車線意思変更とは関係なく戻し操舵操作により方向指示スイッチのオン操作がキャンセルされたとして、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行う。これにより、車線逸脱防止制御の介入が車線変更する運転者に違和感を与えるのを抑制できる。
【0053】
図13は、このような処理が適用される自車両の走行例を示す。
自車両100Aの位置では、方向指示スイッチ20がオン操作されており、方向指示ランプが点滅状態になっている。そして、自車両100Bの位置では、運転者が隣接車線に車線変更しようとして、走行車線側方に寄った状態になっている。ここで、運転者の戻し操舵操作により自車両100Cが走行車線の中央側に移動すると、方向指示スイッチ20のオン操作がキャンセルされる。このとき、方向指示ランプも消滅状態になる。
【0054】
このような走行位置から運転者が再び隣接車線に移ろうとして、自車両100Dの位置に移動しようとすると、方向指示スイッチ20がオフ状態になっていることで、車線逸脱防止制御が介入してしまう。これに対し、本発明を適用することで、逸脱傾向がある場合でも、直近に方向指示スイッチが操作されており、かつ戻し操舵操作されていることから、小さなヨーモーメントで車線逸脱防止制御が介入するようになる。これにより、車線逸脱防止制御の介入が車線変更する運転者に違和感を与えるのを抑制できる。
【0055】
なお、この趣旨からもわかるように、直近の方向指示スイッチ20の操作方向と逸脱方向とが一致している場合に以上のような処理を行っている。すなわち、直近の方向指示スイッチ20の操作方向と逸脱方向とが逆の場合には、運転者が車線変更したい方向は逸脱方向とは逆の方向であることから、直近の方向指示スイッチの操作履歴に関係なく、通常の車線逸脱防止制御を行う。
【0056】
また、前述の処理により、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されているが、戻し操舵操作されてない場合、すなわち運転者自らが方向指示スイッチ20をキャンセル操作しているような場合には、操舵操作量や隣接車線の有無に基づいて次のような逸脱防止制御を行っている。
すなわち、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されているが、戻し操舵操作されてなく、かつ隣接車線があり、かつ運転者が小さい舵角量(Δδ2未満の舵角量)で操舵介入したときには、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行う。
【0057】
例えば、この場合は、走行車線にて隣接車線寄りに自車両が寄ったことから、運転者自ら方向指示スイッチ20をキャンセル操作しているような場合である。このような場合には、運転者の意思を尊重して、ヨーモーメントを小さくして車線逸脱防止制御を行う。
また、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されているが、戻し操舵操作されてなく、かつ隣接車線があり、かつ運転者が中程度の舵角量(Δδ1未満、かつΔδ2以上の舵角量)で操舵介入したときには、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行う。すなわち、走行車線にて隣接車線寄りに自車両が寄ったことで運転者自ら方向指示スイッチ20をキャンセル操作したような場合でも、操舵量が多い場合には、運転者の意思よりも車線逸脱防止制御の必要性を優先させて、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸逸脱防止制御を介入させている。
【0058】
また、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されているが、戻し操舵操作されてなく、かつ隣接車線がないときには、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行うようになる。例えば、隣接車線がないことから逸脱方向に路肩があるとして、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行う。
一方、前述の処理により、逸脱傾向がある場合において、直近に方向指示スイッチ20が操作されていない場合、運転者による操舵介入の有無に関係なく、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行う。この場合は、直近に方向指示スイッチ20が操作されていないことから、現在の逸脱傾向が運転者の車線変更等の意思によるものでないとして、通常の大きさのヨーモーメントにより車線逸脱防止制御を行う。
【0059】
以上、本発明の実施形態を説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態として実現されることに限定されるものではない。
すなわち、前述の実施形態では、車線変更意図フラグFrelane_changeが“1”の場合等に車線逸脱防止制御で用いるヨーモーメント(目標ヨーモーメントMS)を小さくしている。しかし、これに限定されるものではない。すなわち、車線逸脱防止制御を抑制することを目的とするものであれば、他の車線逸脱防止制御内容を変更するようにしてもよい。例えば、制動力によって車両の走行速度を減速しているが、その減速度を小さくするようにしてもよい。
【0060】
また、ヨーモーメントを小さくすることとするものには、前述したように比例係数Klaneを小さくして、全体的にヨーモーメントを小さくすることの他に、車線逸脱防止制御の介入当初にヨーモーメントを小さくして、車線逸脱防止制御後、徐々にヨーモーメントを大きくするようなことも含まれる。この場合、例えば、車線逸脱防止制御を通して全体として付与するヨーモーメントの量は通常時の車線逸脱防止制御を通して付与されるヨーモーメントの量と同じにしてもよい。
【0061】
また、前述の実施形態では、戻し操舵操作を操舵トルクの履歴に基づいて検出している。しかし、これに限定されるものではない。例えば、操舵角の履歴に基づいて戻し操舵操作を検出するようにしてもよい。
また、本実施形態においては戻し操舵操作の有無を検出しているが、本発明はこれに限らず、単に直近の過去における方向指示スイッチの操作履歴の有無に基づいてヨーモーメントを小さくしても良い。また、車両状態コントロールユニット8は、ヨーモーメントを小さく変更する以外に、例えばヨーモーメントを零にする変更をしても良い。このとき、ステップS5で車線逸脱警報が報知されるだけで、ヨーモーメントが付与されないことになる。
【0062】
また、前述の実施形態の説明において、車両状態コントロールユニット8による図2のステップS3の処理は、自車両が走行車線から逸脱傾向にあることを判断する逸脱判断手段を実現しており、車両状態コントロールユニット8による図2のステップS4の処理は、方向指示器の操作を検出する方向指示器操作検出手段を実現しており、車両状態コントロールユニット8による図2のステップS5〜ステップS8の処理は、前記逸脱判断手段が逸脱傾向にあると判断した場合で、かつ前記方向指示器操作検出手段が方向指示器のオン操作を検出している場合、当該方向指示器の指示方向と当該逸脱傾向の方向とに基づいて、逸脱防止制御を介入させる逸脱防止制御介入手段を実現しており、車両状態コントロールユニット8による図3の処理は、前記方向指示器がオフ状態の場合、記憶手段が記憶した方向指示器の操作履歴に基づいて、前記逸脱防止制御介入手段により介入させる逸脱防止制御内容を変更する逸脱防止制御内容変更手段を実現している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態であり、車線逸脱防止装置を搭載した車両の一例を示す概略構成図である。
【図2】前記車両が搭載する車両状態コントロールユニット内で実行される車線逸脱防止制御のための演算処理を示すフローチャートである。
【図3】前記車線逸脱防止制御のための演算処理の運転者意思判断の処理を示すフローチャートである。
【図4】前記運転者意思判断の処理内の操舵介入判定の処理を示すフローチャートである。
【図5】前記運転者意思判断の処理内の方向指示スイッチ判定の処理を示すフローチャートである。
【図6】方向指示スイッチ信号と操舵角との関係を示す特性図である。
【図7】前記運転者意思判断の処理内の戻し操舵操作判定の処理を示すフローチャートである。
【図8】前記運転者意思判断の処理内の隣接車線判定の処理を示すフローチャートである。
【図9】前記車線逸脱防止制御のための演算処理に用いられる制御マップである。
【図10】前記車線逸脱防止制御のための演算処理に用いられる制御マップである。
【図11】前記車線逸脱防止制御のための演算処理に用いられる制御マップである。
【図12】前記車線逸脱防止制御のための演算処理により実現される車線逸脱防止制御の一例の説明に使用したフローチャートである。
【図13】自車両の走行例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
5FL〜5RR 車輪
6FL〜6RR ホイールシリンダ
7 制動流体圧制御回路
8 車両状態コントロールユニット
10 ナビゲーションシステム
13 CCDカメラ
14 カメラコントローラ
15 加速度センサ
19 操舵角センサ
20 方向指示スイッチ
22FL〜22RR 車輪速度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行車線から逸脱傾向にあることを判断する逸脱判断手段と、
方向指示器の操作を検出する方向指示器操作検出手段と、
前記方向指示器の操作履歴を記憶する記憶手段と、
前記逸脱判断手段が逸脱傾向にあると判断した場合で、かつ前記方向指示器操作検出手段が方向指示器のオン操作を検出している場合、当該方向指示器の指示方向と当該逸脱傾向の方向とに基づいて、逸脱防止制御を介入させる逸脱防止制御介入手段と、
前記方向指示器がオフ状態の場合、前記記憶手段が記憶した方向指示器の操作履歴に基づいて、前記逸脱防止制御介入手段により介入させる逸脱防止制御内容を変更する逸脱防止制御内容変更手段と、
を備えることを特徴とする車線逸脱防止装置。
【請求項2】
前記逸脱防止制御内容変更手段は、運転者の操舵操作に基づいて、前記逸脱防止制御内容を変更することを特徴とする請求項1記載の車線逸脱防止装置。
【請求項3】
前記方向指示器のオフ状態が運転者による戻し操舵操作により当該方向指示器の操作がキャンセルされたことによるものかを判定する判定手段を備えており、
前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、前記逸脱防止制御内容を変更することを特徴とする請求項1又は2記載の車線逸脱防止装置。
【請求項4】
前記判定手段による判定結果が、前記方向指示器のオフ状態が運転者による戻し操舵操作により当該方向指示器の操作がキャンセルされたことによるものであるとする結果の場合、前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記逸脱防止制御を抑制することを特徴とする請求項3記載の車線逸脱防止装置。
【請求項5】
前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記逸脱判断手段が逸脱傾向を判断した時点から所定時間前までの方向指示操作履歴に基づいて、前記逸脱防止制御内容を変更することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項6】
前記逸脱防止制御介入手段は、自車両に対して逸脱を防止する方向にヨーモーメントを与えるヨー制御手段を有し、
前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記ヨー制御手段によるヨーモーメントを、通常の逸脱防止制御よりも小さな値に変更することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項7】
前記逸脱防止制御介入手段は、自車両に対して逸脱を防止する方向にヨーモーメントを与えるヨー制御手段を有し、
前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記ヨー制御手段によるヨーモーメントを零に変更するとともに、運転者に対して逸脱警報を報知することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項1】
自車両が走行車線から逸脱傾向にあることを判断する逸脱判断手段と、
方向指示器の操作を検出する方向指示器操作検出手段と、
前記方向指示器の操作履歴を記憶する記憶手段と、
前記逸脱判断手段が逸脱傾向にあると判断した場合で、かつ前記方向指示器操作検出手段が方向指示器のオン操作を検出している場合、当該方向指示器の指示方向と当該逸脱傾向の方向とに基づいて、逸脱防止制御を介入させる逸脱防止制御介入手段と、
前記方向指示器がオフ状態の場合、前記記憶手段が記憶した方向指示器の操作履歴に基づいて、前記逸脱防止制御介入手段により介入させる逸脱防止制御内容を変更する逸脱防止制御内容変更手段と、
を備えることを特徴とする車線逸脱防止装置。
【請求項2】
前記逸脱防止制御内容変更手段は、運転者の操舵操作に基づいて、前記逸脱防止制御内容を変更することを特徴とする請求項1記載の車線逸脱防止装置。
【請求項3】
前記方向指示器のオフ状態が運転者による戻し操舵操作により当該方向指示器の操作がキャンセルされたことによるものかを判定する判定手段を備えており、
前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、前記逸脱防止制御内容を変更することを特徴とする請求項1又は2記載の車線逸脱防止装置。
【請求項4】
前記判定手段による判定結果が、前記方向指示器のオフ状態が運転者による戻し操舵操作により当該方向指示器の操作がキャンセルされたことによるものであるとする結果の場合、前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記逸脱防止制御を抑制することを特徴とする請求項3記載の車線逸脱防止装置。
【請求項5】
前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記逸脱判断手段が逸脱傾向を判断した時点から所定時間前までの方向指示操作履歴に基づいて、前記逸脱防止制御内容を変更することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項6】
前記逸脱防止制御介入手段は、自車両に対して逸脱を防止する方向にヨーモーメントを与えるヨー制御手段を有し、
前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記ヨー制御手段によるヨーモーメントを、通常の逸脱防止制御よりも小さな値に変更することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項7】
前記逸脱防止制御介入手段は、自車両に対して逸脱を防止する方向にヨーモーメントを与えるヨー制御手段を有し、
前記逸脱防止制御内容変更手段は、前記ヨー制御手段によるヨーモーメントを零に変更するとともに、運転者に対して逸脱警報を報知することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車線逸脱防止装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−7836(P2006−7836A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184196(P2004−184196)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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