説明

車軸連結構造

【課題】軸方向長さの短縮化を図ることができる車軸連結構造を提供する。
【解決手段】駆動源(電動モータ)20により回転する駆動源出力軸(ロータ回転軸)22aからの回転を、遊星歯車式変速機(減速機)30の複数のピニオンギヤ(段付きピニオン)33を回転自在に支持するプラネタリキャリア(キャリア)34を介してホイール51と一体に回転する車軸(ハブ軸)52に伝達する際、複数のピニオンギヤ33の径方向内側に、プラネタリキャリア34と車軸52とを連結する軸連結部材40を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源により回転する駆動源出力軸が接続した遊星歯車式変速機と、車輪と一体に回転する車軸とを連結する車軸連結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源である電動モータの回転を減速して出力する減速機と、車輪と一体に回転する車軸とを、フレキシブルカップリングからなる軸連結部材を介して、揺動可能に連結した車軸連結構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-191027公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車軸連結構造では、減速機と、軸連結部材と、車軸とが同軸上に順に並んで配置される。このため、これらの減速機等の軸方向位置は重複せず、軸方向に沿って並ぶこととなる。この結果、車軸連結構造全体の軸長(軸方向長さ)が長くなってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、軸方向長さの短縮化を図ることができる車軸連結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車軸連結構造では、駆動源出力軸と、車軸と、遊星歯車式変速機と、軸連結部材と、を備えている。
前記駆動源出力軸は、駆動源により回転する回転軸である。
前記車軸は、前記駆動源出力軸と同軸に配置され、車輪と一体に回転する回転軸である。
前記遊星歯車式変速機は、複数のピニオンギヤと、該複数のピニオンギヤを回転自在に支持するプラネタリキャリアと、を有し、前記プラネタリキャリアを介して前記駆動源出力軸からの回転を前記車軸に伝達する。
前記軸連結部材は、前記複数のピニオンギヤの径方向内側に配置され、前記プラネタリキャリアと前記車軸を連結する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車軸連結構造にあっては、プラネタリキャリアと車軸を連結する軸連結部材が、複数のピニオンギヤの径方向内側に配置されている。
すなわち、軸連結部材の軸方向位置と複数のピニオンギヤの軸方向位置とが重複する配置となる。そのため、プラネタリキャリアと軸連結部材と車軸とが同軸上に配置された際、複数のピニオンギヤの径方向内側の領域を活用することで、車軸連結構造全体の軸長(軸方向長さ)の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の車軸連結構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。
【図2】図1に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【図3】図2におけるA部拡大図である。
【図4】比較例の車軸連結構造が適用されたインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【図5】実施例1の車軸連結構造における潤滑油の流路を示す説明図である。
【図6】車軸連結構造におけるがたつき吸収作用を説明する説明図であり、(a)は比較例の車軸連結構造の要部を模式的に示し、(b)は実施例1の車軸連結構造の要部を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車軸連結構造を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、実施例1の車軸連結構造における構成を、「車軸連結構造の適用例の構成」、「キャリアの構成」、「ハブ軸の構成」、「軸連結部材の構成」に分けて説明する。
【0011】
[車軸連結構造の適用例の説明]
図1は、実施例1の車軸連結構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。図2は、図1に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。図3は、図2におけるA部拡大図である。
【0012】
図1に示すインホイールモータユニットMUは、車輪50を駆動・制動する電動モータ20を、この車輪50を支持するホイール51の内側に配置したものであり、モータケース10と、電動モータ20と、減速機30と、軸連結部材40と、を有している。
【0013】
前記モータケース10は、ケース本体11と、カバー12と、を備え、ケース本体11の図1の左側面にカバー12を合体させて構成する。このモータケース10内には、駆動源となる電動モータ20と、この電動モータ20の回転を減速して出力する減速機30とが同軸に配置収納される。また、このモータケース10は、図示しないサスペンション機構を介して、サイドメンバ等の車体に対して揺動可能に保持されている。
【0014】
前記電動モータ20は、カバー12の内側に位置し、環状のステータ21と、このステータ21内に同心に配置したロータ22と、を有している。
【0015】
前記ステータ21は、コイル21aを巻線して具え、カバー12の内周に、外周面を焼き嵌めする等の方法で固定される。
【0016】
前記ロータ22は、ロータ回転軸(駆動源出力軸)22aと、フランジ部22bと、積層鋼板22cと、不図示の永久磁石と、を有している。
前記ロータ回転軸22aは、カバー12に貫通させて形成した開口12aの内側に嵌着された第1ロータ軸受23Aに一端が回転自在に支持され、減速機30の後述するキャリア34の内側に嵌着された第2ロータ軸受23Bに他端が回転自在に支持される。そして、このロータ回転軸22aから径方向に突出したフランジ部22bの外周に積層鋼板22cが固設され、この積層鋼板22cの外周に図示しない永久磁石が埋設される。また、このロータ回転軸22aの内部には、このロータ回転軸22aを軸方向に貫通し、図示しないオイルポンプから供給される冷却・潤滑用のオイルが流れるロータ油路22dが形成されている。
なお、このロータ22は、積層鋼板22cの外周に埋設した永久磁石がステータ21の内周面と正対する軸線方向位置に配置され、この位置を保ってロータ回転軸22aが支持される。
【0017】
前記減速機30は、図2に示すように、ロータ回転軸22a上に形成したサンギヤ31と、ケース本体11内に突起爪等で多少の揺動のみ可能に固定したリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合する大径ピニオン部分33a及びリングギヤ32に噛合する小径ピニオン部分33bの一体成形になる3個(ここでは1個のみ図示)の段付きピニオン(ピニオンギヤ)33と、これら3個の段付きピニオン33を円周方向等間隔に配置して回転自在に支持するキャリア(プラネタリキャリア)34と、を有する遊星歯車組で構成した遊星歯車式変速機である。
ここで、前記サンギヤ31と前記リングギヤ32は、異なる軸線方向位置に配置されている。また、大径ピニオン部分33aと小径ピニオン部分33bは、それぞれサンギヤ31又はリングギヤ32と正対するように、互いの軸線方向位置はずれている。
【0018】
そして、減速機30の出力メンバであるキャリア34には、軸連結部材40を介して、ホイール51の中心に固定されたハブ軸(車軸)52が揺動可能に連結されている。
【0019】
[キャリアの構成]
前記キャリア34は、キャリア本体34aと、一対のキャリアプレート34b,34cと、3本のピニオンシャフト34dと、を有している。
【0020】
前記キャリア本体34aは、ロータ回転軸22aと同軸上に配置された両端が開放した中空軸であり、内周面には、電動モータ20側に第2ロータ軸受23Bが嵌着され、車輪50側にセレーションからなる第1接続部34aAが形成されている。ここで「セレーション」とは、軸方向に沿って延びると共に、周方向に並んだ複数の凹凸であり、以下、同様である。
そして、この第1接続部34aAは、凸部分の先端が軸方向に沿って突出方向に湾曲すると共に、軸方向に沿って面取りされている。さらに、軸方向の側面は中高になったいわゆるクラウニング加工が施されている。
【0021】
前記一対のキャリアプレート34b,34cは、前記キャリア本体34aの周囲に設けられると共に、軸方向に並設されて互いに対向するプレートである。
【0022】
前記一方のキャリアプレート34bは、キャリア本体34aの車輪50側の端部周面から径方向に直接張り出している。また、この一方のキャリアプレート34bの内部には、キャリア本体34aの内側に開放して、ロータ回転軸22aの内部に設けられたロータ油路22dに連通するキャリア油路34fが形成されている。このキャリア油路34fは、ロータ回転軸22aのロータ油路22dからの冷却・潤滑用のオイルが流れるオイル流路となる。さらに、この一方のキャリアプレート34bの外周は、キャリア軸受35を介してケース本体11の内周面に回転自在に支持されている。
【0023】
前記他方のキャリアプレート34cは、ロータ回転軸22aを取り囲むリング状プレートである。この他方のキャリアプレート34cは、キャリア本体34aの電動モータ20側の端部周面から、さらに電動モータ20側に延出した脚部34gによって保持されている。
【0024】
前記ピニオンシャフト34dは、一対のキャリアプレート34b,34cに形成された図示しない一対の軸支持孔を貫通した金属製の軸である。このピニオンシャフト34dは、他方のキャリアプレート34cを径方向に貫通するピン34hによって、一端がキャリアプレート34cに固定されている。また、このピニオンシャフト34dは、一対のキャリアプレート34b,34cの間に位置する中央部分において、軸受34iを介して段付きピニオン33を回転自在に保持する。
【0025】
[ハブ軸の構成]
前記ハブ軸52は、一端がホイール51に固定されると共に、電動モータ20側に突出した他端に開口52aを有している。この開口52aは、軸連結部材40が挿入可能な内径寸法であり、内周面にセレーションからなる第2接続部53が形成されている。
そして、この第2接続部53は、凸部分の先端が軸方向に沿って突出方向に湾曲すると共に、軸方向に沿って面取りされている。さらに、軸方向の側面は中高になったいわゆるクラウニング加工が施されている。
【0026】
さらに、ハブ軸52の外周には円筒状のホイールハブ54が嵌着され、ハブ軸52と一体回転可能に固定されている。一方、ケース本体11の車輪50に面した開口11aには、軸方向に突出した円筒状のハブ軸受外方部材13が固定されている。そして、このハブ軸受外方部材13とホイールハブ54と間に複数の球状の転動体55が回転可能に挟持され、ハブベアリングを形成している。ハブ軸52は、このハブ軸受外方部材13とホイールハブ54と複数の転動体55からなるハブベアリングにより、ケース本体11に対して回転自在に保持される。
【0027】
なお、ハブ軸受外方部材13と一方のキャリアプレート34bとの間には、ケース本体11の開口11aから径方向内側に延在した隔壁11bと、この隔壁11bとハブ軸52の外周面との間を閉塞するオイルシール11cと、が設けられている。
【0028】
[軸連結部材の構成]
前記軸連結部材40は、キャリア34及びハブ軸52と同軸上に配置され、このキャリア34とハブ軸52を同軸に連結する中空円筒形状の軸部材である。この軸連結部材40は、一端がキャリア34のキャリア本体34aの内側に挿入され、他端がハブ軸52の開口52aの内側に挿入されている。
【0029】
このとき、軸連結部材40の一端は、3個の段付きピニオン33の径方向内側に配置される。ここで、「段付きピニオン33の径方向内側」とは、3個の段付きピニオン33によって囲まれた領域であり、段付きピニオン33の軸方向位置に重複する位置である。特にここでは、軸連結部材40の一端が、段付きピニオン33のリングギヤ32と噛合した小径ピニオン部分33bの径方向内側に配置されている。
【0030】
そして、この軸連結部材40は、電動モータ20側の一方の端部外周面にセレーションからなる第1連結部41を有し、車輪50側の他方の端部外周面にセレーションからなる第2連結部42を有している。
前記第1連結部41は、キャリア34のキャリア本体34aの内周面に形成された第1接続部34aAと噛み合って結合する。前記第2連結部42は、ハブ軸52の開口52aの内周面に形成された第2接続部53と噛み合って結合する。
【0031】
次に、「比較例の車軸連結構造の構成と課題」について説明し、続いて、実施例1の車軸連結構造の作用を「軸ずれ吸収作用」、「軸長短縮作用」、「オイル潤滑作用」、「径寸法拡大抑制作用」に分けて説明する。
【0032】
[比較例の車軸連結構造の構成と課題]
図4は、比較例の車軸連結構造が適用されたインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【0033】
一般的に、車輪と一体に回転する車軸は、電動モータ等の駆動源によって回転する駆動源出力軸と連結あるいは一体化しており、駆動源出力軸の回転に伴って回転する。一方、この車軸は、ハブベアリングを介して、例えばトレーリングアーム等の車体に揺動可能に取り付けられた車体側部材に対し、回転自在に支持されている。
【0034】
ここで、例えば過大な外力が車輪を介してハブベアリングに入力すると、ハブベアリングの転動体軌道面に圧痕が発生する。またハブベアリングの内部、つまり外方部材と内方部材の間に泥水や塩水等が浸入した場合には、転動体起動面に錆が発生してしまう。そして、この圧痕や錆によって転動体軌道面に剥離が生じてしまうが、この剥離を感知せずに走行を継続すると異音や振動が増大する。さらに、その後も走行を続けると転動体が摩滅してハブベアリグにがたつきが発生し、車軸が傾いたり振れ回ったりする。そして、この車軸の傾き等によって駆動源出力軸等に不具合が発生することが想定される。
【0035】
そこで、駆動源によって回転する駆動源回転軸と車軸との間に、がたつきを吸収可能な軸接続構造を介在させ、ハブベアリングに発生したがたつきによって車軸が傾いても、駆動源出力軸にこの傾きが伝達しないようにする構成が考えられている。なお、この「がたつきを吸収可能な軸接続構造」とは、例えばCVJ(Constant Velocity Joint)構造、ラバーカップリング構造、ギヤカップリング構造等である。
【0036】
ここで、上記ギヤカップリング構造100は、例えば図4に示すように、第1回転部材101と、第2回転部材102と、連結円筒部材103と、を有している。
【0037】
前記第1回転部材101は、減速機30のキャリア34の先端に接続され、このキャリア34と一体に回転可能となっている。この第1回転部材101の外周面には、周方向に並ぶ第1ギヤ歯101aが形成されている。この第1ギヤ歯101aは、歯先が軸方向に沿って湾曲すると共に、面取りされている上、歯面の中央が中高になったクラウニング加工が施されている。
【0038】
前記第2回転部材102は、車輪(ここでは図示せず)と一体回転するハブ軸52の端部に一体的に形成され、このハブ軸52と一体に回転可能となっている。この第2回転部材102の外周面には、周方向に並ぶ第2ギヤ歯102aが形成されている。この第2ギヤ歯102aは、歯先が軸方向に沿って湾曲すると共に、面取りされている上、歯面の中央が中高になったクラウニング加工が施されている。
【0039】
前記連結円筒部材103は、両端が開放した円筒体であり、内周面の一端には第1ギヤ歯101aとセレーション結合する第1連結部103aが形成され、内周面の他端には第2ギヤ歯102aとセレーション結合する第2連結部103bが形成されている。
【0040】
そして、このギヤカップリング構造100では、第1ギヤ歯101a及び第2ギヤ歯102aがそれぞれ歯先加工をなされているため、キャリア34とハブ軸52の相対的な位置が変位しても、この変位をギヤカップリング構造100で吸収することができる。つまり、キャリア34とハブ軸52の位置ずれに伴って、第1ギヤ歯101aと第1連結部103aとの接触面が傾いたり、第2ギヤ歯102aと第2連結部103bとの接触面が傾いたりする。
【0041】
しかしながら、この図4に示すギヤカップリング構造100を用いた車軸連結構造では、軸方向に沿って、減速機30と車軸連結構造となるギヤカップリング構造100と、ハブ軸52が直列に配置されている。つまり、ロータ回転軸22aを支持する第2ロータ軸受23Bとハブ軸52を支持するハブベアリングを構成する転動体55との間に、減速機30とギヤカップリング構造100が軸方向に順に並ぶ。そのため、ギヤカップリング構造100を介在させた分だけ、第2ロータ軸受23Bから転動体55までの軸長(軸方向長さ)が長くなってしまう。
特に、駆動源である電動モータ20をホイール51の内側に配置するインホイールモータユニットMUでは、軸長が長くなってしまうと電動モータ20がホイール51から大きく突出してしまい、インホイールモータユニットMUとして適切なものにならないという問題が生じる。
【0042】
また、このギヤカップリング構造100では、第1回転部材101と連結円筒部材103との結合や、第2回転部材102と連結円筒部材103との結合を円滑にするため、連結円筒部材103の内側にグリースを封入したグリース潤滑を行う必要がある。そのため、定期的にグリースを供給しなければならず、グリースメンテナンスの問題もあった。
【0043】
さらに、このギヤカップリング構造100では、連結円筒部材103が、第1回転部材101と第2回転部材102の外周面を覆う構成となっている。そのため、第1ギヤ歯101aと第1連結部103aとの接触面が傾いたり、第2ギヤ歯102aと第2連結部103bとの接触面が傾いたりするときには、連結円筒部材103は、径方向外側に向かって傾く。そのため、この連結円筒部材103の外周囲に変位するためのクリアランスが必要となり、径方向の寸法が拡大するという問題もあった。
【0044】
[軸ずれ吸収作用]
実施例1のインホイールモータユニットMUにおいて、ハブ軸52を保持するハブ軸受外方部材13とホイールハブ54と複数の転動体55からなるハブベアリングに過大な外力の入力や泥水等の浸入があり、このハブベアリグにがたつきが発生して、ハブ軸52が傾いたり振れ回ったりする場合を考える。
【0045】
このとき、ハブ軸52の第2接続部53は、凸部分の先端が軸方向に沿って突出方向に湾曲すると共に、軸方向に沿って面取りされている。さらに、軸方向の側面は中高になったいわゆるクラウニング加工が施されている。そのため、この第2接続部53は、セレーション結合した軸連結部材40の第2連結部42に対して、隙間をあけて噛み合うことになる。
【0046】
これにより、ハブ軸52が傾いたりしても、この傾きに応じて第2連結部42に対する第2接続部53の接触位置が変動し、軸連結部材40に傾きやずれが伝達されることはない。つまり、この第2接続部53と第2連結部42との接触部分で、ハブ軸52の傾きやずれを吸収することができる。
【0047】
また、この軸連結部材40の第1連結部41とセレーション結合したキャリア本体34aに形成された第1接続部34aAも、凸部分の先端が軸方向に沿って突出方向に湾曲すると共に、軸方向に沿って面取りされている。さらに、軸方向の側面は中高になったいわゆるクラウニング加工が施されている。そのため、この第1接続部34aAは、セレーション結合した軸連結部材40の第1連結部41に対して、隙間をあけて噛み合うことになる。
【0048】
これにより、この第1接続部34aAの接触位置も第1連結部41に対して変動可能となっており、軸連結部材40の傾きやずれがキャリア34に伝達されることはない。つまり、この第1接続部34aAと第1連結部41との接触部分においても、ハブ軸52の傾きやずれを吸収することができる。
【0049】
この結果、ハブベアリングに生じた異常によって車軸であるハブ軸52に傾きや振れ回り等が生じても、ハブ軸52と軸連結部材40の間、及び、軸連結部材40とキャリア34の間においてこの傾き等が吸収され、キャリア34に伝達されることを防止できる。
【0050】
[軸長短縮作用]
図2及び図3に示すように、実施例1の車軸連結構造では、キャリア34とハブ軸52を連結する軸連結部材40が、段付きピニオン33の径方向内側に配置されている。
ここで、3個の段付きピニオン33は、大径ピニオン部分33aがサンギヤ31に噛合し、小径ピニオン部分33bがリングギヤ32に噛合する。すなわち、大径ピニオン部分33aの内側にはサンギヤ31が形成されたロータ回転軸22aが挿入されるが、リングギヤ32と噛合する小径ピニオン部分33bの内側にはロータ回転軸22aは挿入する必要がない。そのため、軸連結部材40は、ロータ回転軸22aが挿入される必要がない段付きピニオン33の小径ピニオン部分33bの径方向内側位置という、いわゆるデットスペースに配置されている。
【0051】
これにより、この軸連結部材40は、段付きピニオン33の小径ピニオン部分33bと軸方向に重複することなり、ロータ回転軸22aを支持する第2ロータ軸受23Bからハブ軸52を支持するハブベアリングを構成する転動体55までの軸方向長さを、比較例の車軸連結構造に対して短縮することができる。
【0052】
特に、実施例1のように、駆動源である電動モータ20をホイール51の内側に配置するインホイールモータユニットMUに本発明の車軸連結構造を適用した場合では、軸長の短縮を図ることで電動モータ20がホイール51から突出しにくくなり、インホイールモータユニットMUとして適切なものとすることができる。
【0053】
[オイル潤滑作用]
図5は、実施例1の車軸連結構造における潤滑油の流路を示す説明図である。
【0054】
実施例1のインホイールモータユニットMUにおいて、電動モータ20の冷却や減速機30の潤滑をおこなうために、モータケース10内にオイルを封入する。
【0055】
この冷却・潤滑用のオイルは、通常、ロータ回転軸22aのカバー12側の端部から図示しないオイルポンプにより供給され、ロータ油路22dを流れる。ここで、このロータ油路22dは、ロータ回転軸22aを貫通しており、ロータ回転軸22aの第2ロータ軸受23Bに支持された車輪50側の端部で開放している。また、この第2ロータ軸受23Bは、キャリア34の内周面に嵌着しているため、ロータ油路22dは、キャリア34の内側に開放することとなる。
【0056】
これにより、ロータ油路22dを流れたオイルは、キャリア34の内側に流れ込む。このとき、キャリア34の内側には軸連結部材40が連結しているので、ロータ油路22dから流れたオイルは、軸連結部材40の内部へ流れた後、この軸連結部材40の両端部から流れ出る。そして、オイルは、軸連結部材40とキャリア34の間、及び、軸連結部材40とハブ軸52の間を通って、一方のキャリアプレート34bに形成されたキャリア油路34fへと流れ込む。なお、このキャリア油路34fへと流れたオイルは、段付きピニオン33を回転自在に支持する軸受34i等を潤滑する。
【0057】
そして、このように、電動モータ20の冷却や減速機30の潤滑をおこなうオイルが、ロータ油路22dからキャリア油路34fへと流れる途中に、軸連結部材40とキャリア34の間、及び、軸連結部材40とハブ軸52の間を通る。これにより、この軸連結部材40は、ロータ回転軸22aの内部から段付きピニオン33へと潤滑するオイルの潤滑経路上に配置されることとなる。
【0058】
このため、軸連結部材40とキャリア34の間、及び、軸連結部材40とハブ軸52の間は、このオイルによって潤滑される。これにより、既存の潤滑機構を有効利用することができると共に、潤滑グリースのメンテナンスが不要となる。
【0059】
[径寸法拡大抑制作用]
図6は、車軸連結構造におけるがたつき吸収作用を説明する説明図であり、(a)は比較例の車軸連結構造の要部を模式的に示し、(b)は実施例1の車軸連結構造の要部を模式的に示す。
【0060】
図6(a)に示すように、比較例の車軸連結構造では、同軸に配置された第1回転部材101と第2回転部材102の外側に連結円筒部材103が配置されている。
【0061】
そのため、第1,第2回転部材101,102の位置が相対的にずれたとき、外側に配置された連結円筒部材103が、径方向外側に向かって傾く。これにより、この連結円筒部材103の径方向外側領域(図6(a)において破線で囲んだ部分)に、連結円筒部材103が傾くためのクリアランスが必要となる。
【0062】
これに対し、図6(b)に示すように、実施例1の車軸連結構造では、軸連結部材40は、一方の端部外周面にキャリア34の内周面に形成された第1接続部34aAに連結する第1連結部41を有し、他方の端部外周面にハブ軸52の内周面に形成された第2接続部53連結する第2連結部42を有する。つまり、この軸連結部材40は、同軸に配置されたキャリア34とハブ軸52の内側に軸連結部材40が配置されている。
【0063】
そのため、キャリア34とハブ軸52の位置が相対的にずれたとき、内側に配置された軸連結部材40が、径方向内側に向かって傾く。これにより、軸連結部材40が傾くためのクリアランスは、この軸連結部材40の径方向内側領域(図6(b)において破線で囲んだ部分)に必要となる。
【0064】
このため、実施例1の車軸連結構造では、キャリア34とハブ軸52の径方向内側領域のスペースを有効利用でき、キャリア34及びハブ軸52の径方向外側領域にはクリアランスが不要となる。これにより、車軸連結構造全体の径方向寸法が拡大することを防止できる。
【0065】
なお、実施例1の車軸連結構造では、軸連結部材40が段付きピニオン33の径方向内側に配置されることで、電動モータ20とは軸方向にずれた位置に配置されることとなる。そのため、電動モータ20の径方向寸法を拡大することなく、ハブ軸52の傾きやがたつきを吸収する構造である軸連結部材40を設けることができる。
【0066】
次に、効果を説明する。
実施例1の車軸連結構造にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0067】
(1) 駆動源(電動モータ)20により回転する駆動源出力軸(ロータ回転軸)22aと、
前記駆動源出力軸22aと同軸に配置され、車輪50と一体に回転する車軸(ハブ軸)52と、
複数のピニオンギヤ(段付きピニオンギヤ)33と、該複数のピニオンギヤ33を回転自在に支持するプラネタリキャリア(キャリア)34と、を有し、前記プラネタリキャリア34を介して前記駆動源出力軸22aからの回転を前記車軸52に伝達する遊星歯車式変速機(減速機)30と、
前記複数のピニオンギヤ33の径方向内側に配置され、前記プラネタリキャリア34と前記車軸52を連結する軸連結部材40と、
を備えた構成とした。
このため、車軸連結構造全体の軸方向長さの短縮化を図ることができる。
【0068】
(2) 前記軸連結部材40は、前記駆動源出力軸22aの内部から、前記複数のピニオンギヤ33へと潤滑するオイルの潤滑経路上に配置した構成とした。
このため、既存の潤滑機構を有効利用することができると共に、潤滑グリースのメンテナンスが不要となる。
【0069】
(3) 前記軸連結部材40は、一方の端部外周面に前記プラネタリキャリア34の内周面に連結する第1連結部41を有し、他方の端部外周面に前記車軸の内周面に連結する第2連結部42を有する構成とした。
このため、車軸連結構造全体の径方向寸法が拡大することを防止できる。
【0070】
以上、本発明の車軸連結構造を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0071】
上記実施例1では、本発明の車軸連結構造をインホイールモータユニットMUに適用した例を示したが、これに限らない。駆動源により回転する駆動源出力軸と、この駆動源出力軸と同軸に配置され、車輪と一体に回転する車軸と、その間に配置された遊星歯車式変速機と、を有する車両であれば、エンジン自動車やハイブリッド自動車、1つの駆動用モータによって走行する電気自動車等の車両一般に適用することができる。つまり、駆動源としても電動モータ20に限らない。
【0072】
また、遊星歯車式変速機として、減速機30としたがこれに限らず、例えば駆動源出力軸の回転を反転させて車軸に伝達するいわゆる前後進切替え装置の機能を有する遊星歯車式変速機や、複数の遊星歯車セットを有する遊星歯車式変速機であってもよい。
さらに、実施例1のピニオンギヤとして、段付きピニオン33としたが、サンギヤ31に噛合する部分のピニオンギヤ径と、リングギヤ32に噛合する部分でのピニオンギヤ径を同一の大きさにした通常のピニオンギヤであってもよい。
【0073】
この場合であっても、軸連結部材40を、リングギヤ32と噛合する部分の径方向内側に配置することで、軸連結構造の軸方向長さを短縮化できる。
【符号の説明】
【0074】
10 モータケース
11 ケース本体
12 カバー
13 ハブ軸受外方部材
20 電動モータ(駆動源)
22a ロータ回転軸(駆動源出力軸)
30 減速機(遊星歯車式変速機)
33 段付きピニオン(ピニオンギヤ)
33a 大径ピニオン部分
33b 小径ピニオン部分
34 キャリア(プラネタリキャリア)
34a キャリア本体
34aA 第1接続部
40 軸連結部材
41 第1連結部
42 第2連結部
50 車輪
51 ホイール
52 ハブ軸(車軸)
53 第2接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源により回転する駆動源出力軸と、
前記駆動源出力軸と同軸に配置され、車輪と一体に回転する車軸と、
複数のピニオンギヤと、該複数のピニオンギヤを回転自在に支持するプラネタリキャリアと、を有し、前記プラネタリキャリアを介して前記駆動源出力軸からの回転を前記車軸に伝達する遊星歯車式変速機と、
前記複数のピニオンギヤの径方向内側に配置され、前記プラネタリキャリアと前記車軸を連結する軸連結部材と、
を備えたことを特徴とする車軸連結構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車軸連結構造において、
前記軸連結部材は、前記駆動源出力軸の内部から、前記複数のピニオンギヤへと潤滑するオイルの潤滑経路上に配置されたことを特徴とする車軸連結構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された車軸連結構造において、
前記軸連結部材は、一方の端部外周面に前記プラネタリキャリアの内周面に連結する第1連結部を有し、他方の端部外周面に前記車軸の内周面に連結する第2連結部を有することを特徴とする車軸連結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−82369(P2013−82369A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224545(P2011−224545)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】