説明

車載用画像処理装置

【課題】所定のスキャンタイミングで取得した画像と、レーダで検出した物体の位置とが正しく対応するように画像処理を行うための画像エリアを設定する。
【解決手段】
車載用画像処理装置は、自車両前方の物体をビームスキャンにより検出するレーダ3と、これに同期して駆動され自車両前方を撮像するカメラ1と、自車両の車速を検出する車速センサとを備えている。これらのレーダ3、カメラ1及び車速センサから得られた情報は画像処理エリア設定部5に入力され、検出された物体毎に画像処理するための画像エリアが設定される。画像処理エリア設定部5は、検出した物体が画像中のその対応位置に存在しない場合、自車両が移動した移動距離に基づいて、該物体の位置と画像中に設定された無限遠点とを結んで形成される仮想空間内に画像エリアを再設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の速度制御や停止制御等を行う車載装置に設けられ、撮像装置で取得された自車両の前方の画像を処理する車載用画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の自車両の前方を監視し車間距離制御等に資するための車載装置として、自車両の前方を電磁波ビーム(レーザビーム等)で走査して先行車両等の物体を検出するレーダが実用化されている、また、自車両の前方を撮像しレーダで検出された物体を含む画像を取得して画像処理を行うことにより、先行車両やその他の物体の認識精度を高める撮像装置が実用化されている。
【0003】
前記撮像装置は、レーダの走査と同期して駆動され、レーダで取得した物体の位置と撮像した画像との対比を行い、該位置の画像への対応づけを行って画像エリアを設定する。そして、この画像エリアに対して画像処理を行う。このように、画像エリアを設定することにより、全画像を処理することによる処理速度の低下を防ぎ、ビームの走査周期毎に高速で画像処理ができるようにしている。
【0004】
このような構成を備える従来の画像処理装置としては、例えば特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特許第3264060号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の構成を備える装置において、レーダで取得した物体の位置を画像に対応づけるには、レーダで測定するときのシーンと撮像装置で撮像するときシーンとが同じタイミングである必要がある。両者のタイミングが大きくずれると、レーダで測定したときのシーンと撮像装置で測定したときのシーンとが異なってしまい、両方のシーンで物体の位置が異なってくるからである。このことを図1、図2を参照して説明する。
【0006】
図1は、レーダの最初のスキャン(走査)時の第1のシーンを示している。同図(A)は、第1のシーンの画像を示し、同図(B)は、第1のシーンでビームのスキャン位置をレーダ座標で示している。図2は、レーダの最後のスキャン(走査)時の第2のシーンを示している。同図(A)は、レーダの最初のスキャン(走査)時に取得される画像を示し、同図(B)は、第2のシーンでビームのスキャン位置をレーダ座標で示している。
【0007】
ビームは、図1(B)、図2(B)に示すように、図1(B)のときから図2(B)にかけて扇形にスキャンされ、1スキャンには約50msec程度の時間を要する。また、撮像装置は図1の最初のスキャンタイミングで駆動され、そのときの取得画像がメモリに記憶され、その画像は画像処理に使用される。
【0008】
図1、図2において、領域Pは予め設定されている視野であり、この範囲内で画像処理が行われる。レーダから出力されるビームBM1は、最初のスキャンタイミングで発射されるビームの位置と形状を示している。また、ビームBM2は、最後のスキャンタイミングで発射されるビームの位置と形状を示している。図2(A)において、画像エリアQ1〜Q3は、画像処理を行うために設定されたエリアであり、ビームが反射した位置を示す黒丸の反射ポイントにおいて、距離や方位が略等しいものは同一の物体から反射されたものとみなしてグルーピングされ、各エリアはこのグルーピングした反射ポイントを画像内に対応づけて設定される。同図において、画像エリアQ1は、ビームにより検出された車線横の固定物を囲むエリアを示し、画像エリアQ2は、車線上を走行する先行車両を囲むエリアを示している。また、画像エリアQ3は、歩行者を囲むエリアを示している。
【0009】
図1(B)において、グルーピングされているグレー色の反射ポイントは、前回のビームスキャンで得られた物体の位置を示し、図2において、グルーピングされている黒丸の反射ポイントは、今回のビームスキャンで得られた物体の位置を示している。
【0010】
以上の図から明らかなように、図1に示す第1のシーンでは、最初のスキャンタイミングと撮像装置の撮像タイミングとが同一であるが、図2に示す第2のシーンでは、第1のシーンから50msec経過しているために、最後のスキャンタイミングでビームの反射により検出される反射ポイントの位置と画像との対応関係がとれない場合が生じてくる。すなわち、図2に示すように、自車両が50msec移動している間に歩行者の位置は自車両側に移動しているにもかかわらず、撮像装置で取得されている画像は50msec前のものであるために、第1のシーンのときに撮像された歩行者の位置は、50msec後の第2のシーンでレーダで検出される歩行者の位置(現実の位置)と、ずれてしまっている。一方、先行車両については、50msec後も自車両と同じ車間距離を保っているために、レーダで検出される反射ポイントの位置は変わらない。また、固定物については、最初のスキャンタイミングで検出しているため、その位置は前回の最後のスキャンタイミングで検出した位置と変わらない。なお、図2(B)では、歩行者についてのみ、前回のスキャンで検出された反射ポイントが今回のスキャンで手前側(自車両側)に移動することを示している。
【0011】
以上の理由から、スキャン時間に対して殆ど移動しない歩行者等の物体については、最初のスキャンタイミングから一定時間が経過したタイミングにおいて、レーダで取得した実際の位置と、画像上の位置との対応関係が正しくなくなるという問題があった。
【0012】
また、撮像装置を最後のスキャンタイミングで駆動する場合は、最初のスキャンタイミングで検出した物体の反射ポイントの位置と画像との対応関係がとれなくなる。図3はこの状態を示し、道路脇に存在している固定物についての対応関係がとれなくなっていることを示している。撮像装置を途中のスキャンタイミングで駆動する場合でも、同じような問題が生じてくる。
【0013】
本発明の目的は、所定のスキャンタイミングで取得した画像と、レーダで検出した物体の位置とが正しく対応するように画像処理を行うための画像エリアを修正する車載用画像処理装置を提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、自車両の前方を電磁波ビームで走査して先行車両等の物体を検出するレーダと、前記レーダの走査毎に所定の走査タイミングで自車両の前方を撮像し前記物体を含む画像を取得する撮像装置と、自車両の車速等の自車両走行情報を取得する自車両走行情報取得部とを備え、
前記レーダにより検出した物体と、前記撮像装置により前記所定の走査タイミングで取得した画像とに基づいて該画像中の処理すべき画像エリアを求める車載用画像処理装置を備えたものである。
【0015】
電磁波ビームとしては、例えばレーザビームがあり、レーダは、このビームを車両前方に扇形状となるように左から右にスキャンする。ビームは2次元にスキャンすることもでき、この場合は、左から右へのスキャンを繰り返しながら上下方向のスキャン位置を下方に移動していく。
【0016】
撮像装置は、例えばグローバルシャッタ付きのCCDカメラ等で構成され、シャッタが開いた瞬間のタイミングで前方を撮像して画像を取得しこれをメモリに記憶する。シャッタは、ビームの所定のスキャンタイミングで開き、この動作をスキャン毎に行う。所定のスキャンタイミングは、例えば、最初のスキャンタイミングである。
【0017】
車両走行情報取得部は、自車両の速度(車速)や、ヨーレートなどを測定する。
【0018】
本発明の車載用画像処理装置は、上記レーダで検出した先行車両等の物体と、画像と、に基づいて該画像中の処理すべき画像エリアを求める。画像処理では、画像エリア内にある物体の特徴量を抽出して該物体を認識したりする。
【0019】
上記の構成で、本発明は、前記画像エリアを再設定する画像エリア再設定手段を備えている。
【0020】
画像エリア再設定手段は、前記レーダにより1つのスキャンが終了するまでに検出した物体が前記画像中のその対応位置に存在しない場合、前記自車両走行情報及び前記所定のスキャンタイミングにより得られる自車両が移動した移動距離に基づいて、該レーダにより検出された物体の位置と画像中に設定された無限遠点とを結んで形成される仮想空間内に画像エリアを再設定する。
【0021】
このような操作により、画像エリアが拡がり、同エリア内に物体を検出することができるようになる。なお、この再設定を行うときには、自車両の速度等の動きを考慮することが必要である。何故なら、自車両が高速であれば、仮想空間内に再設定される画像エリアの面積はより広くしなければならなく、また、車線に沿って回動する場合は、その曲率に沿って画像エリアを設定することが必要になるからである。
【0022】
前記画像エリア再設定手段は、レーダで検出された物体の位置において一定の大きさの第1の画像エリアを設定し、この第1の画像エリアの角と前記無限遠点とを結ぶことにより前記仮想空間を形成する。
【0023】
無限遠点は、この発明では画像の消失点(以下、単に消失点)と称する。一般には、この消失点は画面の中心位置に固定位置として設定される。第1の画像エリアは、レーダで検出した物体の位置を基準にして任意の方法により求めた矩形状、又は同位置を基準にして予め定めた大きさの矩形状の大きさに設定される。この第1の画像エリアの角と消失点とを結ぶことにより、四角柱の仮想空間が形成される。この仮想空間内に、前記自車両走行情報と前記所定のスキャンタイミングとにより得られる自車両が移動した移動距離の位置で第2の画像エリアを設定し、前記第1の画像エリアと前記第2の画像エリアを仮想空間の稜線に沿って結合したエリアを前記画像エリアとして再設定する
これにより、再設定された画像エリアは、再設定前の画像エリアに比べて画像座標上の面積が大きくなり、しかも、そのエリアは自車両の速度など情報に基づいて形成されるため、該エリア内に物体の画像が存在する確立が非常に高くなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、レーダにより検出された物体の位置と、それよりも前に撮像した画像内の当該物体の位置とがずれている場合に、画像処理を行うための画像エリア内に該物体が含まれるよう該画像エリアが再設定されるため、レーダで検出した物体に対する画像処理が常に正しく行われる。このため、画像処理の精度が良くなる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図4は、本発明の実施形態である車載用画像処理装置の概略ブロック図である。
【0026】
カメラ1は、グローバルシャッタ付きのCCDカメラ等で構成され、撮像面を前方に向けて自車両のルームミラー近辺に設けられる。このカメラ1は、自車両の前方を撮像する。
【0027】
全体画像記憶部2は、カメラ1で撮像された画像を記憶する。
【0028】
レーダ3は、レーザレーダで構成され、レーザビーム(以下、単にビームと称する)を自車両前方に発射し、その反射ビームを受光する。この実施形態では、照射面が長円状で幅が細いビームを前方に左右1往復することで1スキャンを終え、これにより前方の2次元範囲を探索する。
【0029】
信号処理部4は、レーダ3からの信号に基づいてビーム光の往復時間を測定して物体までの距離を測定する。スキャンタイミング毎に測距することにより、1スキャン内に前方の物体を全て検出し、それらの物体に対しての測距が可能である。また、図示しない車速センサ、ヨーレートセンサからの信号を受信し、これを後述の画像処理エリア設定部5に送る。なお、ヨーレートセンサに代えて操舵角センサを用いることも可能である。
【0030】
トリガ信号発生部6は、レーダ3のスキャン開始信号を受けてトリガ信号を生成する。このトリガ信号は、撮像指令部7に出力され、ここでカメラ1のシャッタオン信号が生成されてカメラ1に出力される。したがって、カメラ1は、レーダ3にて最初のスキャンを開始するタイミングにおいてシャッタがオンして前方の画像を取得する。
【0031】
全体画像記憶部2に記憶された画像は画像処理エリア設定部5に入力する。さらに、この画像処理エリア設定部5には信号処理部4を介して車速センサからの車速とヨーレートセンサからのヨーレートが入力する。
【0032】
後述のように、この画像処理エリア設定部5において、画像エリアの設定とその再設定が行われる。全体画像に対して1つ以上設定された各画像エリア内の部分画像が抽出され、これが部分画像記憶部1〜Nに記憶され、画像処理部1〜Nにおいて画像処理が行われる。画像処理部においては、画像の形状や移動方向などが認識されそれぞれ物体1〜Nとして属性情報付き(形状や移動方向等の属性情報)の位置情報として上位処理装置(例えば、車間距離制御装置)に出力される。
【0033】
図5は、信号処理部4の構成図である。
【0034】
この信号処理部4は、レーダ3からの信号に基づいて物体までの距離と方位を算出し、その距離と方位データをインターフェイス41を介して画像処理エリア設定部5に送る。また、車速センサとヨーレートセンサからの信号は車両走行情報取得部42に入力され、車速センサで得た走行速度とヨーレートで得たデータにより道路の曲率半径の算出等を行う。ここで取得された各センサからの信号や算出結果をインターフェイス41を介して画像処理エリア設定部5に送る。
【0035】
図6は、画像処理エリア設定部5の構成図である。
【0036】
この画像処理エリア設定部5は、道路上の白線を認識する白線認識部50、消失点算出部51、エリア設定部52を備えている。消失点とは、前述したように、画像中の無限遠点を意味している。白線認識部50は、後述の実施例2において消失点を求めるときに用いられる。エリア設定部52は、画像エリアの設定と再設定とを行う。エリア設定部52は、消失点を予め固定点とする場合は、消失点算出部51の出力を使用せずに、画像エリアの設定と再設定とをする。エリア設定部52は、白線認識部50で認識された白線に基づいて消失点を求める場合は、その消失点に基づいて画像エリアの設定と再設定とをする。
【0037】
次に動作を説明する。
【0038】
図7、図8は、車載用画像処理装置の概略の動作を示すフローチャートである。
【0039】
図7は、レーダ3の動作を示している。
【0040】
ステップ(ST)1では、レーダスキャンを開始する。図1の状態がこのタイミングに対応している。次に、ST2でスキャンによる物体までの測距を行う。続いて、そのタイミングがカメラ1のトリガ位置のタイミングであるかどうかを判定する。本実施形態では、最初のスキャンタイミングをトリガ位置のタイミングに設定しているため、ST1→ST2→ST3と進んだときは、最初のスキャンタイミングである。ST3においてトリガ位置に対応する最初のスキャンタイミングであると判断すると、ST4においてトリガ信号発生部6においてトリガ信号を発生し、カメラ1のシャッタをオンする。ST5において、次のスキャンに移行し、以下、全スキャンを終了するまでST2において連続的に測距を行う。トリガ信号は、最初のスキャンタイミングにおいてのみ生成されるため、カメラ1は1スキャン毎に最初のスキャンタイミングで1回だけ画像を取得する。
【0041】
ST6では、車速とヨーレートを取得し、このデータを画像処理エリア設定部5に出力する。ST7では、全てのスキャンで得られたデータに基づいて各スキャン毎に物体(物体)までの測距を行う。そして、ST8において、測距データを画像処理エリア設定部5に出力する。
【0042】
図8はカメラ1及び画像処理エリア設定部5の動作を示している。
【0043】
ST10では、カメラ1が撮像指令部7からシャッタオン信号を受信するとシャッタをオンし、ST11に進んで撮像を開始し、撮像画像を取得して全体画像記憶部2(メインメモリ)に記憶する(ST12)。続いて信号処理部4から測距データを受信すると(ST13)、ST14において画像エリアの計算を行う。
【0044】
画像エリアは、次のようにして設定される。
【0045】
図1に示すように、最初のスキャンタイミングで画像を取得した後、レーダから1スキャン分の測距データを受けると、各スキャン毎に検出した物体が画像中のその対応位置に存在しているかどうか判定し、存在している場合には、そのビーム反射ポイントをグルーピングした領域の周囲に画像エリアを設定する。図2において、画像エリアQ1、Q2は、レーダ3で検出した固定物、先行車両が画像中のその対応位置に存在しているため、それらのビーム反射ポイントをグルーピングした領域の周囲に設定された画像エリアである。
【0046】
一方、レーダ3で検出した物体が画像中のその対応位置に存在していない場合には、図7に示す方法で画像エリアを設定する。図7は、画像エリアの設定を行う実施例1を説明する図である。実施例1では道路が直線道路であって、画像の無限遠点を固定の消失点Sとして設定している。今、道路の右端にいる歩行者について考える。
【0047】
同図に示すように、レーダで検出したポイントをグルーピングした領域を基準にして、第1の画像エリアQ30を設定する。この第1の画像エリアQ30は、高さと幅が予め定めた大きさにあり(又はグルーピングした領域に基づいて自動で設定することも可能である)、且つ矩形状に設定される。この第1の画像エリアQ30の角と画像の無限遠点である消失点Sとを結び、四角柱の形状を有する仮想空間Xを形成する。無限遠点である消失点Sは先に延べたように固定点として設定される。そして、Q30から固定点である消失点Sに向けて、自車両の車速に50msec(最初のスキャンタイミングから最後のスキャンタイミングに至るまでの時間)を乗じた値に対応する距離だけ移動させ、その移動した位置で仮想空間内に矩形状の第2の画像エリアQ31を形成する。次に、この第1の画像エリアと第2の画像エリアを結合する。結合した画像エリアを新たな画像エリアとして再設定する。図4(B)は、この再設定した画像エリアQ32を示している。図示するように、再設定された画像エリアQ32は、再設定前の画像エリアQ30よりも大きい。これにより、Q30からQ32へと再設定された画像エリアには、最初のタイミングでカメラ1により撮像した画像(この例では歩行者)が含まれるようになる。
【0048】
図8のフローチャートにおいて、ST14で画像エリアが設定されると(再設定される画像エリアも含む)、ST15において画像エリア内に含まれる画像が部分画像記憶部1〜N(サブメモリ)に転送される。このST14〜ST16をレーダで検出した全ての物体(物体)に対して繰り返すことにより(ST16)、各画像エリアの画像はそれぞれ部分画像記憶部1〜Nに転送されていく。
【0049】
ST17〜ST19においては、各部分画像記憶部1〜Nの画像に対して所定の画像処理を行う。
【0050】
上記画像エリアを設定するときの計算では、レーダ3の座標、カメラ1の座標を合わせ、それらを画像座標に射影することが必要になる。具体的には次のようにして計算を行う。
【0051】
図10に示すように、カメラ1、レーダ3の座標系を、それぞれ(XC,YC,ZC)、(XL,YL,ZL)とする。すると、両者の座標の関係は式1のようになる。
【0052】
【数1】

【0053】
この式1は、レーザ座標をカメラ座標に変換する式である。式2は、カメラ座標を画像座標に射影する式である。
【0054】
【数2】

【0055】
したがって、式1、式2により、レーダ座標をカメラ座標を通して画像座標に射影することができる。これらの式については、コンピュータビジョン技術において一般的である。例えば、「3次元ビジョン」(2004年、共立出版、徐剛・辻三郎著)がある。
【0056】
図11は、レーダ座標を2次元的に示している。今、レーダ3により検出された歩行者(物体)の位置が図示のように相対的に移動したとする(実際には自車両の移動による)。最後のスキャンタイミングで検出される移動後の検出ポイントをグルーピングした領域の重心と、幅wと、高さH(予め定めた固定値)とに基づいて矩形を設定し、この頂点をB1〜B4とする(図11では、2次元で示しているためにB1とB2しか示していないが、実際は紙面に垂直な方向の位置にB3とB4が存在している。他の矩形についても同様である。)。上記レーダ座標上のB1〜B4を、式1、式2より座標変換してb1〜b4を得る。画像座標上では図12に示すようにb1〜b4としてプロットされる。このb1〜b4と消失点Sとを結び四角柱の仮想空間を形成する。
【0057】
次に、トリガ発生位置(最初のスキャンタイミング)からB1〜B4の矩形(最後のスキャンタイミング)に至るまでのスキャン時間Tと、自車両の車速vと、を乗じて移動距離vTを求め、このvTだけ自車両の移動方向に移動した位置に頂点をA1〜A4とする矩形を設定する。矩形の大きさは頂点をB1〜B4とする矩形と同じである。そして、このレーダ座標上のA1〜A4を、式1、式2より座標変換してa1〜a4を得る。このa1〜a4を画像座標上にプロットすると、図12に示すようになる。結果として、a1〜a4を角とする矩形は、b1〜b4と消失点とを結んだ四角柱の仮想空間内に設定されることになる。図12は、B1〜B4の矩形を式1、式2で座標変換したb1〜b4の矩形と、A1〜A4の矩形を式1、式2で座標変換したa1〜a4の矩形とを示している。いずれも画像座標上の位置を示している。また、図13は、図12上のa1〜a4の矩形で設定される画像エリアとb1〜b4の矩形で設定される画像エリアとを結んで再設定した画像エリアを示している。a1〜a4とb1〜b4とが仮想空間の稜線に沿って結合される。
【0058】
画像アリアの再設定の具体的な計算は以上のようにして行われる。
【0059】
図14は、画像エリアの設定を行う実施例2の説明図である。
【0060】
この実施例2では、道路を直線状としているが消失点Sを固定点として設定するのではなく、該消失点Sを車線の形状に応じてフレーム毎(1スキャン毎)に動的に設定する。すなわち、カメラ1で取得した画像から車線の手前の白線(車線側部に形成される白線や中央線等)を認識し、この白線の交点を消失点として設定する。手前の白線を使うのは、車線がカーブしている状況、先行車両が存在する状況、道路の遠方位置が登っている又は下り坂である状況などでも消失点が簡単に求まるようにするためである。白線の認識については、カメラ1で取得した画像から容易に可能であって一般的な画像認識処理で可能であるが、具体的な認識方法の一つとしては、例えば、「レーンキープアシストシステムにおける白線認識システムの開発」(Vol.12,No.1 HONDA R&D Technical Review 2000 。峯田、鵜浦、池田著) に開示されている。なお、消失点Sを設定する以外の動作手順については、実施例1と全く同じである。
【0061】
図15は、画像エリアの設定を行う実施例3の説明図である。
この実施例3では、道路がカーブしていて、消失点Sを固定点として設定している。
【0062】
高速道路や自動車用道路の曲線部は、ほとんどがクロソイド曲線として設計されている。クロソイド曲線とは、曲率半径と曲線長の積を一定とする曲線であり、2つの異なる曲率半径どうしの道路を滑らかに接続するための緩和曲線として用いられる。クロソイド曲線の描く座標値は、曲率半径Rと曲線Lとを用いて、式3と式4のように表せる(ただし、高次の項は省略した近似式)。
【0063】
【数3】

【0064】
この式3、式4は、物体(物体)が、図16のA5〜A8(図ではA5、A6のみ表示)の位置からB5〜B8(図ではB5、B6のみ表示)の位置へ移動する際に変化する座標値変化分を表している。
【0065】
曲率半径Rは、ヨーレートセンサの検出信号から測定した角速度ωを式5に代入して求める。図16のA5、A6の位置からB5、B6の位置までの曲線長Lは、この間の走行車速vが一定として式6から求める。
【0066】
したがって、式5、式6から式3、式4が求まる。式3、式4が求まることにより、実施例1と同様に、物体の位置はB5、B6からA5、A6に移動する。A5、A6とB5、B6とは、式1、式2により座標変換をしてa5〜a8とb5〜b8となり、図17のような画像エリアとなり、図18のように画像エリアが再設定される。
図19は、画像エリアの設定を行う実施例4の説明図である。
【0067】
この実施例4では、道路がカーブしていて、消失点Sを道路形状により動的に設定している。この実施例4ではヨーレートセンサを使用しない。
【0068】
また、複数の消失点を使用する。ここでは2つの消失点S1、S2を使用する場合の説明をする。
【0069】
まず、自車両手前の白線の直線部で消失点S1を求める。自車両進行方向のさらに前方の曲線部の接線で消失点S2を求める。実施例1と同様に、図19のレーダ座標上で、B9〜B12と消失点S1との間で第1の仮想空間を形成し、この空間内に、移動距離vTだけ自車両の移動方向に移動した位置に頂点をA9〜A12とする矩形の画像エリアを設定する。同様に、B9〜B12と消失点S2との間に第2の仮想空間を形成し、この空間内に、移動距離vTだけ自車両の移動方向に移動した位置に頂点をC9〜C12とする矩形の画像エリアを設定する。頂点をA9〜A12とする矩形の画像エリアと頂点をC9〜C12とする矩形の画像エリアとのうち、レーダ座標上で自車両を基準により遠方に位置する画像エリアを選択し、この画像エリアとB9〜B12の画像エリアとを結合することで画像エリアの再設定を行う。図20は再設定前の画像エリアを示し、図21は再設定された画像エリアを示している。
【0070】
以上の制御動作により、直線道路、カーブ道路については、消失点を固定値とすることで(実施例1、3)、又は消失点を白線認識により求めることで(実施例2、4)画像エリアを再設定することができる。
【0071】
なお、以上の実施形態では、所定のスキャンタイミングを最初のスキャンタイミングとして、カメラ1のトリガタイミングを最初のスキャンタイミングに一致させたが、カメラ1のトリガタイミングを最後のスキャンタイミングに一致させても良いし、途中のスキャンタイミングに一致させても良い。カメラ1のトリガタイミングを最後のスキャンタイミングに一致させる場合は、図9において、画像エリアQ31はQ30よりも自車両側に設定されることになる。すなわち、消失点Sと画像エリアQ30の角とを結ぶ線を自車両側に延長した仮想空間を形成し、この空間内に画像エリアQ31が設定される。
【0072】
さらに、画像エリアは矩形状としたが、多角形形状や楕円形状など、任意の形状であって良い。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】レーダの最初のスキャン(走査)時の第1のシーンを示している。
【図2】レーダの最後のスキャン(走査)時の第2のシーンを示している。
【図3】レーダの最後のスキャン時に撮像した場合のシーンを示している。
【図4】本発明の実施形態である車載用画像処理装置のブロック図である。
【図5】信号処理部の構成図である。
【図6】画像処理エリア設定部の構成図である。
【図7】本発明の実施形態である車載用画像処理装置のレーダの動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態である車載用画像処理装置のカメラ及び画像処理エリア設定部の動作を示すフローチャートである。
【図9】画像エリアの設定を行う実施例1の説明図である。
【図10】カメラとレーダの取付位置及びそれぞれの座標系を示す図である。
【図11】実施例1のレーダの座標を2次元で示す図である。
【図12】実施例1の具体的な画像エリア設定方法を説明する図である。
【図13】実施例1の画像エリアの再設定について説明する図である。
【図14】画像エリアの設定を行う実施例2の説明図である。
【図15】画像エリアの設定を行う実施例3の説明図である。
【図16】実施例3のレーダの座標を2次元で示す図である。
【図17】実施例3の具体的な画像エリア設定方法を説明する図である。
【図18】実施例3の画像エリアの再設定について説明する図である。
【図19】画像エリアの設定を行う実施例4のレーダの座標を2次元で示す図である。
【図20】実施例4の具体的な画像エリア設定方法を説明する図である。
【図21】実施例3の画像エリアの再設定について説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方を電磁波ビームで走査して先行車両等の物体を検出するレーダと、前記レーダの走査毎に所定の走査タイミングで自車両の前方を撮像し前記物体を含む画像を取得する撮像装置と、自車両の車速等の自車両走行情報を取得する自車両走行情報取得部とを備え、
前記レーダにより検出した物体と、前記撮像装置により前記所定の走査タイミングで取得した画像とに基づいて該画像中の処理すべき画像エリアを求める車載用画像処理装置において、
前記レーダにより1つの走査が終了するまでに検出した物体が前記画像中のその対応位置に存在しない場合、前記自車両走行情報と前記所定の走査タイミングとにより得られる自車両が移動した移動距離に基づいて、該レーダにより検出された物体の位置と画像中に設定された無限遠点とを結んで形成される仮想空間内に画像エリアを再設定する画像エリア再設定手段を備えたことを特徴とする車載用画像処理装置。
【請求項2】
前記画像エリア再設定手段は、前記レーダにより検出された物体の位置において一定の大きさの第1の画像エリアを設定し、この第1の画像エリアの角と前記無限遠点とを結ぶことにより前記仮想空間を形成し、この仮想空間内に、前記移動距離の位置で第2の画像エリアを設定し、前記第1の画像エリアと前記第2の画像エリアを仮想空間の稜線に沿って結合したエリアを前記画像エリアとして再設定することを特徴とする請求項1記載の車載用画像処理装置。
【請求項3】
前記画像エリア再設定手段は、前記無限遠点は予め固定点として設定する請求項2記載の車載用画像処理装置。
【請求項4】
前記画像エリア再設定手段は、前記画像中の車線の白線を認識するとともに該白線の延長点を前記無限遠点として設定する請求項2記載の車載用画像処理装置。
【請求項5】
前記自車両走行情報取得部は、自車両走行情報として、自車両の車速と角速度と車線の曲率半径とを取得するものであり、
前記画像エリア再設定手段は、これらの情報に基づいて前記曲率半径に沿って自車両の移動距離分だけ移動した位置で第2の画像エリアを設定する請求項3記載の車載用画像処理装置。
【請求項6】
前記画像エリア再設定手段は、前記画像中の車線の白線を認識するとともに該白線の直線部の延長点を第1の無限遠点として設定し、該白線の曲線部の接線の延長点を第2の無限遠点として設定し、各無限遠点毎に第2の画像エリアの候補を設定し、第1の画像エリアから最遠位置にある画像エリア候補を第2の画像エリアとして設定する請求項2記載の車載用画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−233440(P2007−233440A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50665(P2006−50665)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】