説明

車載用電気システム

【課題】複数の駆動装置を有する電気回路において共用する部品を備えるものにおいて、高度な制御を不用として、複数の駆動装置の作動時に発生し得る共用部品への干渉を回避可能とする車載用電気システムを提供する。
【解決手段】車載用電気システムにおいて、制御部150は、複数の駆動部131、132によって複数の電動機141、142を同時に駆動させる際に、第1電動機141用の電圧信号における第1キャリア周波数fpwm1に対して、第2電動機142用の電圧信号における第2キャリア周波数fpwm2が同一となるとき、第2キャリア周波数fpwm2を第1キャリア周波数fpwm1に対して異なる値に設定して、駆動部131、132を制御するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の駆動装置を有する電気回路において、共用する部品を備え、駆動装置が駆動される優先順位が存在する場合の車載用電気システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるような電力変換システムが知られている。特許文献1に示される電力変換システムは、複数の独立した電力変換装置を備えており、複数の電力変換装置が電力系統の電源位相を検出し、高調波を抑制するためにキャリアの同期や、キャリアの位相を調整するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3236986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の電力変換システムでは、高調波を抑制するために、電力系統の電源位相の検出を必要とし、更に、キャリアの同期、およびキャリアの位相調整といった高度な制御を必要としている。
【0005】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、複数の駆動装置を有する電気回路において共用する部品を備えるものにおいて、上述の高度な制御を不用として安価な対応を可能とすると共に、複数の駆動装置の作動時に発生し得る共用部品への干渉を回避可能とする車載用電気システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0007】
請求項1に記載の発明では、電源部(110)からの電力を調整して複数の電動機(141、142)をそれぞれ駆動させる複数の駆動部(131、132)と、
複数の電動機(141、142)の作動条件に応じてパルス幅変調方式の電圧信号をそれぞれ設定して、複数の駆動部(131、132)に出力し、複数の駆動部(131、132)を制御する制御部(150)とを備える車載用電気システムにおいて、
電源部(110)と複数の駆動部(131、132)との間には、複数の駆動部(131、132)が互いに共有する電気部品(121)が設けられており、
制御部(150)は、複数の駆動部(131、132)によって複数の電動機(141、142)を同時に駆動させる際に、複数の電動機(141、142)のうち、第1電動機(141)用の電圧信号における第1キャリア周波数(fpwm1)に対して、第2電動機(142)用の電圧信号における第2キャリア周波数(fpwm2)が同一となるとき、第2キャリア周波数(fpwm2)を第1キャリア周波数(fpwm1)に対して異なる値に設定して、駆動部(131、132)を制御することを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、複数の電動機(141、142)が同時に駆動される際に、第1電動機(141)用の第1キャリア周波数(fpwm1)に対して、第2電動機(142)用の第2キャリア周波数(fpwm2)が異なる値となるようにすることで、電気部品(121)における電流リプルの発生を抑制することができる。よって、背景技術の項で説明したような高度な制御を不用として安価な対応を可能とすると共に、電気部品(121)における電流共振の発生を抑え、電力負荷が増大することを抑制することができ、電気部品(121)の長寿命化を図ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、複数の駆動部(131、132)は、第1電動機(141)を駆動する第1駆動部(131)と、第2電動機(142)を駆動する第2駆動部(132)とを有しており、
制御部(150)は、第1駆動部(131)を制御する第1制御部(151)と、第2駆動部(132)を制御する第2制御部(152)とを有しており、
第1電動機(141)用のキャリア周波数情報を、第1制御部(151)から第2制御部(152)に送信する送信手段(160)と、
送信手段(160)によって送信されたキャリア周波数情報に基づいて、第2電動機(142)用の第2キャリア周波数(fpwm2)を異なる値に設定するキャリア周波数選択手段(1522)とを備えることを特徴としている。
【0010】
この発明によれば、送信手段(160)によって、第1電動機(141)用のキャリア周波数情報を確実に把握することができるので、キャリア周波数選択手段(1522)によって、第2電動機(142)用の第2キャリア周波数(fpwm2)を、第1キャリア周波数(fpwm1)とは異なる値となるように正確に設定することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、送信手段(160)は、第1制御部(151)から第2制御部(152)へのリアルタイムによる通信を可能とする専用通信手段(160)であることを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、専用通信手段(160)によって、遅れなくリアルタイムで第1電動機(141)用の第1キャリア周波数(fpwm1)を把握することができるので、把握遅れによって、第2電動機(142)用の第2キャリア周波数(fpwm2)を第1電動機(141)の第1キャリア周波数(fpwm1)と同一の値に設定してしまうことを防止できる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、複数の駆動部(131、132)は、第1電動機(141)を駆動する第1駆動部(131)と、第2電動機(142)を駆動する第2駆動部(132)とを有しており、
制御部(150)は、第1駆動部(131)を制御する第1制御部(151)と、第2駆動部(132)を制御する第2制御部(152)とを有しており、
第2制御部(152)は、第1制御部(151)における第1電動機(141)用の第1キャリア周波数(fpwm1)を監視する監視手段(170)を備えており、監視手段(170)によって監視したキャリア周波数情報に基づいて、第2電動機(142)用の第2キャリア周波数(fpwm2)を異なる値に設定することを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、監視手段(170)によって第1電動機(141)用のキャリア周波数情報を確実に把握することができるので、第2電動機(142)用の第2キャリア周波数(fpwm2)を、第1キャリア周波数(fpwm1)とは異なる値となるように正確に設定することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、制御部(150)は、第1電動機(141)用として設定されるキャリア周波数とは異なるキャリア周波数を第2電動機(142)用として予め複数用意しており、
設定された第1電動機(141)用のキャリア周波数情報に基づいて、予め用意した複数のキャリア周波数の中から第2電動機(142)用のキャリア周波数を設定することを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、予め用意した複数のキャリア周波数の中から第2電動機(142)用の第2キャリア周波数を設定するので、第2電動機(142)用の第2キャリア周波数の設定が容易となると共に、予め用意する複数のキャリア周波数を実験等により電流リプルの発生の少ない組み合わせとして用意しておくことで、効果的なキャリア周波数の設定が可能となる。
【0017】
請求項6に記載の発明では、制御部(150)は、電気部品(121)に発生する電流リプルが最小となるように、第2電動機(142)用の第2キャリア周波数(fpwm2)を設定することを特徴としている。
【0018】
この発明によれば、電流リプルによる電気部品(121)への悪影響を最小限にすることができ、電気部品(121)の長寿命化、および低コスト化の効果を更に高めることができる。
【0019】
請求項7に記載の発明では、第1電動機(141)は、第2電動機(142)に対して、設定された前記第1キャリア周波数(fpwm1)が変更されることなく優先的に維持されて、駆動されることを特徴としている。
【0020】
この発明によれば、第1電動機(141)用の第1キャリア周波数(fpwm1)は、常に、本来設定すべきキャリア周波数(fpwm1)に維持されて、設定された作動条件のまま第1電動機(141)を優先させて作動させることができる。
【0021】
尚、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態における車載用電気システムの全体を示すブロック図である。
【図2】図1におけるフィルタを示す回路図である。
【図3】第1実施形態において、制御部が行うキャリア周波数の設定要領を示すフローチャートである。
【図4】本発明を採用していない場合の電流リプル(正弦波モデル)を示すグラフである。
【図5】第1実施形態における電流リプル(正弦波モデル)を示すグラフである。
【図6】本発明を採用していない場合の電流リプル(実電流モデル)を示すグラフである。
【図7】第2実施形態において、制御部が行うキャリア周波数の設定要領を示すフローチャートである。
【図8】第3実施形態において、制御部が行うキャリア周波数の設定要領を示すフローチャートである。
【図9】第4実施形態における車載用電気システムの全体を示すブロック図である。
【図10】第5実施形態における車載用電気システムの全体を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0024】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態における車載用電気システム(以下、電気システム)100Aについて図1〜図6を用いて説明する。図1は車載用電気システム100Aの全体を示すブロック図、図2は図1におけるフィルタ120を示す回路図、図3は制御部150(第2制御部152のマイコン152a)が行うキャリア周波数の設定要領を示すフローチャート、図4は本発明を採用していない場合の電流リプル(正弦波モデル)を示すグラフ、図5は第1実施形態における電流リプル(正弦波モデル)を示すグラフ、図6は本発明を採用していない場合の電流リプル(実電流モデル)を示すグラフである。
【0025】
図1に示すように、車載用電気システム(以下、電気システム)100Aは、例えば、ハイブリッド自動車、あるいは電気自動車等の車両に搭載されるものであって、電源110、フィルタ120、複数の駆動部131、132、複数の電動機141、142、制御部150、および送信部160等を備えている。複数の駆動部131、132、および複数の電動機141、142は、ここでは、それぞれ2つずつ備えるものを例としている。複数の駆動部131、132は第1駆動部131、および第2駆動部132となっており、また複数の電動機141、142は第1電動機141、および第2電動機142となっている。
【0026】
電源110は、第1、第2駆動部131、132に対して直流電力を供給する電源部であり、直流のバッテリが使用されている。
【0027】
フィルタ120は、電源110からの電力のノイズを除去して高周波の電力として取り出し電圧を一定に保つと共に、高周波数の応答性を向上させる電気部品であり、電源110と第1、第2駆動部131、132との間に配設されている。フィルタ120としては、図2(図2(a))に示すように、電源110に対して並列配置される1つのコンデンサ121が用いられたものとなっている。コンデンサ121は、第1、第2駆動部131、132に対して互いに共有されるようになっている。尚、電源110と第1、第2駆動部131、132との間の回路としては、図2(a)に対して、第2駆動部132側にコンデンサ122を備えるもの(図2(b))、あるいは第2駆動部132側にコンデンサ122、およびインダクタ123を備えるもの(図2(c))等とすることが可能である。
【0028】
第1、第2駆動部131、132は、電源110からの電力を調整して第1、第2電動機141、142をそれぞれ駆動させる駆動部である。具体的には、第1、第2駆動部131、132は、電源110からの直流電力を交流電力に変換して、それぞれ第1、第2電動機141、142を駆動させる第1、第2インバータ131、132である。
【0029】
第1、第2電動機141、142は、それぞれ第1、第2駆動部131、132によって駆動される交流モータである。ここでは、第1電動機141は、車両の走行用の駆動源となる走行用モータとしており、また、第2電動機142は、空調装置を構成する冷凍サイクル内に配設される冷媒圧縮用の圧縮機を作動させる圧縮機用モータとしている。第1電動機141と、第2電動機142とにおいては、第2電動機142よりも第1電動機141が第1に優先されて駆動されるモータとなっている。「第1に優先される」という意味は、車両におけるモータの重要性からして、車両の作動条件に基づいて、その作動条件にまさしく対応した作動状態で駆動されるように優先して制御されるという意味である。よって、第2電動機142は、車両の作動条件に対して多少のずれを許容した作動状態で駆動される場合を含んで制御されるものとなっている。
【0030】
制御部150は、第1、第2駆動部131、132の作動を制御するものであり、第1駆動部131を制御するための第1制御部151と、第2駆動部132を制御するための第2制御部152とを備えている。
【0031】
第1制御部151は、マイコン151aとドライバ151bとを備えている。マイコン151aは、車両走行に関する制御を行う車両制御部(図示省略)からの第1電動機141の作動条件(回転数、トルク等の上位入力信号)に応じてパルス変調方式の電圧信号を設定する制御部(インバータ制御部)である。また、ドライバ151bは、その電圧信号を第1駆動部131に出力して、第1駆動部131の作動を制御するようにしている。マイコン151aが設定するパルス変調方式の電圧信号は、いわゆる電圧波形と三角波形とから設定されるPWM制御用のパルス電圧信号である。マイコン151aは、パルス電圧信号におけるパルス幅を決定するための変調波の周波数、即ち第1電動機141用の第1キャリア周波数(fpwm1)を作動条件ごとに把握するようになっている。
【0032】
第2制御部152は、マイコン152aとドライバ152bとを備えている。マイコン152aは、冷凍サイクルの圧縮機制御に関する制御を行う空調制御部(図示省略)からの第2電動機142の作動条件(回転数、トルク等の上位入力信号)に応じてパルス変調方式の電圧信号を設定するインバータ制御部1521と、キャリア周波数選択部1522とを備えている。
【0033】
インバータ制御部1521が設定するパルス変調方式の電圧信号は、上記したマイコン151aと同様に、電圧波形と三角波形とから設定されるいわゆるPWM制御に用いられるパルス電圧信号である。インバータ制御部1521は、パルス電圧信号におけるパルス幅を決定するための変調波の周波数、即ち第2電動機142用の第2キャリア周波数(fpwm2)を作動条件ごとに把握するようになっている。
【0034】
キャリア周波数選択部1522は、キャリア周波数選択手段に対応するものであり、上記のようにインバータ制御部1521によって設定された第2電動機142用の第2キャリア周波数(fpwm2)の値として、第1電動機141用の第1キャリア周波数(fpwm1)の値に応じて、異なる別の値を選択して設定するようになっている。キャリア周波数選択部1522は、第1キャリア周波数(fpwm1)とは異なる別の値を用意に選択可能とするために、予め複数の第2キャリア周波数(fpwm2)を記憶している。
【0035】
また、ドライバ152bは、インバータ制御部1521における電圧信号を第2駆動部132に出力して、第2駆動部132の作動を制御するようにしている。
【0036】
送信部160は、マイコン151aにおける情報をインバータ制御部1521に送信する送信手段である。具体的には、送信部160は、マイコン151aにおける第1電動機141用の第1キャリア周波数(fpwm1)の情報をインバータ制御部1521に送信するようになっている。
【0037】
次に、上記構成に基づく電気システム100Aの作動、および作用効果について説明する。
【0038】
電源110の直流電力は、フィルタ120によって、電圧が一定に保たれ、更に高周波数の応答性が向上され、第1駆動部131、第2駆動部132に供給される。第1制御部151では、車両制御部から得られる第1電動機141の作動条件に応じて、第1電動機141用のパルス変調方式の電圧信号が設定される。同様に、第2制御部152では、空調制御部から得られる第2電動機142の作動条件に応じて、第2電動機142用のパルス変調方式の電圧信号が設定される。そして、各電圧信号は各ドライバ151b、152bからそれぞれ、第1駆動部131、第2駆動部132に出力される。各駆動部131、132においては、上記電圧信号に基づいて、電源110からフィルタ120を介して得られる直流電力を交流電力に変換して、変換した交流電力で、第1、第2電動機141、142を駆動させる。
【0039】
ここで、第1、第2電動機141、142が同時に駆動される際に、各電動機141、142から発生するリプルのキャリア周波数が同じで位相同期していると、各駆動部131、132に対して共有設定されるコンデンサ121に、電流振幅の増幅を伴う電流リプルを発生させてしまう場合がある。電流リプルにおける電流振幅の増幅量が大きいと、コンデンサ121における電流共振を起し、電流負荷が増大してしまい、コンデンサ121の寿命低下をきたしてしまう。
【0040】
そこで、本実施形態では、制御部150における第2制御部152(マイコン152a)は、図3に示すフローチャートに基づき、その電流リプルの発生を抑制するようにしている。即ち、図3のステップS100で、第2制御部152は、第1電動機141用に設定される電圧信号の第1キャリア周波数fpwm1を、送信部160によって第1制御部151(マイコン151a)から取得する。
【0041】
次に、ステップS110で、インバータ制御部1521において設定される第2電動機142用の第2キャリア周波数fpwm2を取得する。
【0042】
そして、ステップS120で、上記でそれぞれ取得した第1キャリア周波数fpwm1の値と、第2キャリア周波数fpwm2の値とが異なっているか否かを比較する。両キャリア周波数fpwm1、fpwm2の値が互いに異なっている場合であると、第2制御部152は、そのまま本制御を終了する。しかし、否の判定、即ち両キャリア周波数fpwm1、fpwm2の値が同一の場合であると、第2制御部152は、キャリア周波数選択部1522によって、第2電動機142用として本来設定された第2キャリア周波数fpwm2の値に対して、予め用意した複数の第2キャリア周波数の中から異なる値の第2キャリア周波数を選択する。そして、選択した異なる値の第2キャリア周波数を第2電動機142用に新たな第2キャリア周波数として設定し、電圧信号を設定し直して、第2電動機142を駆動させるようにしている。新たな第2キャリア周波数は、第1電動機141用の第1キャリア周波数fpwm1よりも大きい側、あるいは小さい側のいずれかで、第1キャリア周波数fpwm1に対して最も近い値の周波数が選択される。
【0043】
図4に示すように、本実施形態を採用していない場合であって、複数の電動機141、142用の両キャリア周波数fpwm1、fpwm2の値が同一の場合であると、第1電動機141から発生するリプル1(実線の正弦波モデル)と、第2電動機142から発生するリプル2(一点鎖線の正弦波モデル)とが、周波数同一で位相同期してしまうことから、リプル1およびリプル2によって形成される合計の電流リプル(破線で表示したリプル1+リプル2)の電流振幅が増幅してしまう。尚、図6に示す電流リプルは、図4の正弦波モデルに対して、実電流モデルで示したものであり、同様に合計の電流リプル(破線で表示したリプル1+リプル2)の電流振幅が増幅してしまう。
【0044】
しかしながら、図5に示すように、本実施形態では、複数の電動機141、142が同時に駆動される際に、第1、第2キャリア周波数fpwm1、fpwm2の値が同一の場合であると、第1電動機141用の第1キャリア周波数fpwm1に対して、第2電動機142用のキャリア周波数fpwm2の値を異なる値に設定するので、位相同期することがなく、合計の電流リプル(破線で表示したリプル1+リプル3)の電流振幅が増幅してしまうことを抑制すことができる。よって、背景技術の項で説明したような高度な制御を不用として安価な対応を可能とすると共に、コンデンサ121における電流共振の発生を抑え、電力負荷が増大することを抑制することができ、コンデンサ121の長寿命化を図ることができる。
【0045】
また、本実施形態では、第1電動機141用のキャリア周波数情報を、第1制御部151から第2制御部152に送信する送信部160を設けている。そして、送信部160によって送信されたキャリア周波数情報に基づいて、第1、第2キャリア周波数fpwm1、fpwm2の値を比較し、両キャリア周波数fpwm1、fpwm2の値が同一の場合であると、第2電動機142用の第2キャリア周波数fpwm2を異なる値に設定するキャリア周波数選択部1522を設けるようにしている。よって、送信部160によって、第1電動機141用のキャリア周波数情報を確実に把握することができるので、キャリア周波数選択部1522によって、第1キャリア周波数fpwm1とは異なる値となる第2電動機142用の第2キャリア周波数fpwm2を正確に設定することができる。
【0046】
また、第1電動機141は、車両の走行用モータであって、圧縮機用モータである第2電動機142に対して、設定された第1キャリア周波数fpwm1が変更されることなく優先的に維持されて、設定された作動条件のまま駆動されるようにしている。つまり、第1、第2キャリア周波数fpwm1、fpwm2が同一の場合であると、第1キャリア周波数fpwm1の値はそのままにして、第2キャリア周波数fpwm2の値を変更するようにしている。よって、設定された作動条件のまま第1電動機141を優先させて作動させることができるので、第1電動機141の機能を損なうことがない。
【0047】
尚、送信部160は、専用の通信によってインバータ制御部1521にキャリア周波数情報をリアルタイムで送る専用通信手段としても良い。これにより、第2制御部152は、時間遅れなくリアルタイムで第1電動機141用の第1キャリア周波数fpwm1を把握することができ、把握遅れに伴ってある時間帯だけ、第2電動機142用の第2キャリア周波数fpwm2を第1電動機141の第1キャリア周波数fpwm1と同一の値に設定してしまうことを防止できる。
【0048】
(第2実施形態)
第2実施形態のフローチャートを図7に示す。第2実施形態は、上記第1実施形態に対して、キャリア周波数選択部1522による第2キャリア周波数fpwm2の設定要領を変更したものである。具体的には、図7のフローチャートは、図3で説明したフローチャートのステップS130をステップS135に変更している。
【0049】
キャリア周波数選択部1522は、種々の第1キャリア周波数fpwm1の値に対して、異なる値となる第2キャリア周波数fpwm2であって、第1キャリア周波数fpwm1に対して、形成される合計の電流リプルが最小となる第2キャリア周波数fpwm2の組み合わせを予め記憶している。この第2キャリア周波数fpwm2を記憶させるにあたっては、種々の第1キャリア周波数fpwm1の値に対して、予め実験や数値解析等によって求められた合計の電流リプルが最小となる第2キャリア周波数fpwm2の値を設定しておけば良い。
【0050】
第2制御部152は、図7で示すステップS100、ステップS110の後に、ステップS120で、両キャリア周波数fpwm1、fpwm2の値が異なっているか否かを判定する。そして、両キャリア周波数fpwm1、fpwm2の値が同一であると判定すると(否定判定すると)、ステップS135で、キャリア周波数選択部1522によって、第2電動機142用の第2キャリア周波数fpwm2の値として、第1キャリア周波数fpwm1とは異なる値のキャリア周波数に設定する。加えて、合計の電流リプルが最小となるキャリア周波数を第2電動機141用の新たなキャリア周波数として設定し、電圧信号を設定し直して、第2電動機142を駆動させるようにしている。
【0051】
これにより、コンデンサ121に発生される合計の電流リプルは最小となって、電流リプルによるコンデンサ121への悪影響を最小限にすることができ、コンデンサ121の長寿命化の効果を更に高めることができる。
【0052】
尚、上記では、新たなキャリア周波数を設定するために、予め実験や数値解析等によって、合計の電流リプルが最小となる第2キャリア周波数fpwm2の値をキャリア周波数選択部1522に予め記憶させておくことを説明したが、これに限らず、ステップS135において、リアルタイムの評価関数を用いて、合計の電流リプルが最小となる第2キャリア周波数を都度求めて、求めた第2キャリア周波数の値を用いるようにしても良い。
【0053】
(第3実施形態)
第3実施形態のフローチャートを図8に示す。第3実施形態は、上記第1実施形態に対して、キャリア周波数選択部1522による第2キャリア周波数fpwm2の設定要領を変更したものである。
【0054】
第2制御部152は、図8に示すフローチャートに基づいて、第2キャリア周波数fpwm2の設定を行う。即ち、第2制御部152は、各電動機141、142が同時に駆動される際に、ステップS100で、送信部160によって第1電動機141用に設定される電圧信号の第1キャリア周波数fpwm1を取得する。
【0055】
次に、ステップS140で、第2電動機142用の第2キャリア周波数fpwm2として、上記で取得した第1キャリア周波数fpwm1とは異なる値を選択して、設定する。
【0056】
これにより、第1、第2キャリア周波数は、異なる値として設定されるので、上記第1実施形態と同様に、合計の電流リプルの電流振幅が増幅してしまうことを抑制すことができる。よって、高度な制御を不用として安価な対応を可能とすると共に、コンデンサ121における電流共振の発生を抑え、電力負荷が増大することを抑制することができ、コンデンサ121の長寿命化を図ることができる。
【0057】
(第4実施形態)
第4実施形態の電気システム100Bを図9に示す。第4実施形態の電気システム100Bは、上記第1実施形態の電気システム100Aに対して、制御部150における第1制御部151のマイコン(インバータ制御部)151aを、第2制御部152のマイコン152aと一体的に形成したものである。
【0058】
これにより、マイコン151aを含むマイコン152aが一体的に形成されるので、車両への搭載工数を低減することができる。
【0059】
(第5実施形態)
第5実施形態の電気システム100Cを図10に示す。第5実施形態の電気システム100Cは、上記第1実施形態の電気システム100Aに対して、送信部160を廃止して、新たに監視部170を設けたものである。
【0060】
監視部170は、第2制御部152(マイコン152a)に設けられた監視手段であり、第1制御部151内の情報、即ち第1キャリア周波数fpwm1の情報を常に監視し、第2制御部152は、第1キャリア周波数fpwm1の情報をリアルタイムで把握できるようにしている。
【0061】
本実施形態では、第2制御部152は、監視部170によって、第1電動機141用の第1キャリア周波数fpwm1の値がAからBに変更される情報を把握すると、第2電動機142用の第2キャリア周波数fpwm2の値として、変更前後のAおよびBとは共に異なるCの値を設定して、第2電動機142を駆動させる。
【0062】
これにより、上記のように第1キャリア周波数fpwm1の値が変更されるような場合であっても、監視部170によって第1電動機141用のキャリア周波数情報(変更前後の第1キャリア周波数fpwm1の値A、B)を確実に把握することができるので、第1電動機141用の第1キャリア周波数fpwm1の値に対して、異なる値の第2電動機142用の第2キャリア周波数fpwm2を正確に設定することができる。よって、上記第1実施形態と同様に、合計の電流リプルの電流振幅が増幅してしまうことを抑制すことができ、高度な制御を不用として安価な対応を可能とすると共に、コンデンサ121における電流共振の発生を抑え、電力負荷が増大することを抑制することができ、コンデンサ121の長寿命化を図ることができる。
【0063】
(その他の実施形態)
上記各実施形態では、第1電動機141を走行用モータとし、第2電動機142を圧縮機用モータとしたが、これに限らず、他のパワステ用モータ、送風機用モータ等を対象としても良い。また、対象とする電動機の数は、2つに限らず、3つ以上の場合でも良い。
【0064】
また、制御部150は、第1制御部151と第2制御部152とを備えるものとしたが、これに限らず、1つの制御部150で第1、第2の駆動部151、152を制御するものとしても良い。この場合、1つの制御部150内で、第1、第2キャリア周波数情報を共有できるので、送信部160、あるいは監視部170は、不用とすることができる。
【符号の説明】
【0065】
100A、100B、100C 車載用電気システム
110 電源(電源部)
121 コンデンサ(電気部品)
131 第1駆動部(駆動部)
132 第2駆動部(駆動部)
141 第1電動機(電動機)
142 第2電動機(電動機)
150 制御部
151 第1制御部
152 第2制御部
1522 キャリア周波数選択部(キャリア周波数選択手段)
160 送信部(送信手段、専用通信手段)
170 監視部(監視手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部(110)からの電力を調整して複数の電動機(141、142)をそれぞれ駆動させる複数の駆動部(131、132)と、
複数の前記電動機(141、142)の作動条件に応じてパルス幅変調方式の電圧信号をそれぞれ設定して、複数の前記駆動部(131、132)に出力し、複数の前記駆動部(131、132)を制御する制御部(150)とを備える車載用電気システムにおいて、
前記電源部(110)と複数の前記駆動部(131、132)との間には、複数の前記駆動部(131、132)が互いに共有する電気部品(121)が設けられており、
前記制御部(150)は、複数の前記駆動部(131、132)によって複数の前記電動機(141、142)を同時に駆動させる際に、複数の前記電動機(141、142)のうち、第1電動機(141)用の前記電圧信号における第1キャリア周波数(fpwm1)に対して、第2電動機(142)用の前記電圧信号における第2キャリア周波数(fpwm2)が同一となるとき、前記第2キャリア周波数(fpwm2)を前記第1キャリア周波数(fpwm1)に対して異なる値に設定して、前記駆動部(131、132)を制御することを特徴とする車載用電気システム。
【請求項2】
複数の前記駆動部(131、132)は、前記第1電動機(141)を駆動する第1駆動部(131)と、前記第2電動機(142)を駆動する第2駆動部(132)とを有しており、
前記制御部(150)は、前記第1駆動部(131)を制御する第1制御部(151)と、前記第2駆動部(132)を制御する第2制御部(152)とを有しており、
前記第1電動機(141)用のキャリア周波数情報を、前記第1制御部(151)から前記第2制御部(152)に送信する送信手段(160)と、
前記送信手段(160)によって送信された前記キャリア周波数情報に基づいて、前記第2電動機(142)用の前記第2キャリア周波数(fpwm2)を前記異なる値に設定するキャリア周波数選択手段(1522)とを備えることを特徴とする請求項1に記載の車載用電気システム。
【請求項3】
前記送信手段(160)は、前記第1制御部(151)から前記第2制御部(152)へのリアルタイムによる通信を可能とする専用通信手段(160)であることを特徴とする請求項2に記載の車載用電気システム。
【請求項4】
複数の前記駆動部(131、132)は、前記第1電動機(141)を駆動する第1駆動部(131)と、前記第2電動機(142)を駆動する第2駆動部(132)とを有しており、
前記制御部(150)は、前記第1駆動部(131)を制御する第1制御部(151)と、前記第2駆動部(132)を制御する第2制御部(152)とを有しており、
前記第2制御部(152)は、前記第1制御部(151)における前記第1電動機(141)用の前記第1キャリア周波数(fpwm1)を監視する監視手段(170)を備えており、前記監視手段(170)によって監視したキャリア周波数情報に基づいて、前記第2電動機(142)用の前記第2キャリア周波数(fpwm2)を前記異なる値に設定することを特徴とする請求項1に記載の車載用電気システム。
【請求項5】
前記制御部(150)は、前記第1電動機(141)用として設定されるキャリア周波数とは異なるキャリア周波数を前記第2電動機(142)用として予め複数用意しており、
設定された前記第1電動機(141)用の前記キャリア周波数情報に基づいて、前記予め用意した複数のキャリア周波数の中から前記第2電動機(142)用のキャリア周波数を設定することを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1つに記載の車載用電気システム。
【請求項6】
前記制御部(150)は、前記電気部品(121)に発生する電流リプルが最小となるように、前記第2電動機(142)用の前記第2キャリア周波数(fpwm2)を設定することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の車載用電気システム。
【請求項7】
前記第1電動機(141)は、前記第2電動機(142)に対して、設定された前記第1キャリア周波数(fpwm1)が変更されることなく優先的に維持されて、駆動されることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の車載用電気システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−157171(P2012−157171A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14395(P2011−14395)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】