説明

車載装置および認知支援システム

【課題】車載装置のコスト低減を図るとともに、ドライバーの死角から自車両に接近する移動物体の検出漏れを防止しつつ、検出した移動物体の存在をドライバーに対して確実に認識させること。
【解決手段】歪曲した受光部により広角な範囲の映像を車載装置が撮像し、撮像された映像に基づいて撮像部の設置方向および設置方向以外の方向から自車両に接近する移動物体を車載装置が検出し、検出された移動物体と自車両とが衝突する可能性を示す衝突危険度を車載装置が判定し、判定された衝突危険度に応じて移動物体の存在を報知するように車載装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載されている車載装置および認知支援システムに関し、特に、車載装置のコスト低減を図ることができるとともに、ドライバーの死角から自車両に接近する移動物体の検出漏れを防止しつつ、検出した移動物体の存在をドライバーに対して確実に認識させることができる車載装置および認知支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラによる撮像映像やセンサ等によって車両周辺の移動物体を検出し、自車両と移動物体とが接触する恐れがある場合に、危険性を報知する車載装置が多く開発されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、自動車等の車両に搭載された複数の車載カメラによって撮像された映像から、自車両に接触の恐れがある障害物を検出し、その旨をドライバーへ報知する車載装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、車両の車載カメラによって撮像された映像を解析することでドライバーの死角から自車両に接近しようとする車両を検出し、接近車両がある旨を報知することによってドライバーに対して注意を喚起する車載装置が開示されている。
【0005】
具体的には、特許文献2に記載の車載装置は、プリズムが内蔵された1台の車載カメラによって自車両の左側および右側を同時に撮像する。そして、特許文献2に記載の車載装置は、撮像された左右の映像を並べて表示することで、接近車両の報知を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−69806号公報
【特許文献2】特開2004−274538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の車載装置は、複数の車載カメラを必要とするため、車載カメラに要するコストが膨らんでしまうという問題があった。
【0008】
また、特許文献2の車載装置は、左側と右側との映像を並べて表示装置に表示するため、ドライバーにとって、左右間の距離感を把握することが困難であるという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献2の車載装置の車載カメラでは、左側と右側との映像が撮像されるが、前方の映像は撮像されない。すなわち、車載カメラの前方は死角となるため、自車両に危険を及ぼす可能性が高い接近車両を検出することはできない。このため、前方の安全確認はドライバーの視野で補わなくてはならないが、ドライバーの視野だけで、かかる死角を網羅することは困難である。
【0010】
これらのことから、車載装置のコスト低減を図ることができるとともに、ドライバーの死角から自車両に接近する移動物体の検出漏れを防止しつつ、検出した移動物体の存在をドライバーに対して確実に認識させることができる車載装置および認知支援システムをいかにして実現するかが大きな課題となっている。
【0011】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであって、車載装置のコスト低減を図ることができるとともに、ドライバーの死角から自車両に接近する移動物体の検出漏れを防止しつつ、検出した移動物体の存在をドライバーに対して確実に認識させることができる車載装置および認知支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、車両に搭載されている車載装置であって、歪曲した受光部により広角な範囲の映像を撮像する撮像手段と、前記撮像手段によって撮像された前記映像に基づいて前記撮像手段の設置方向および前記設置方向以外の方向から自車両に接近する移動物体を検出する移動物体検出手段と、前記移動物体検出手段によって検出された前記移動物体と前記自車両とが衝突する可能性を示す衝突危険度を判定する衝突危険度判定手段と、前記衝突危険度判定手段によって判定された前記衝突危険度に応じて前記移動物体の存在を報知する移動物体報知手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、車両に搭載されている車載装置と、前記車載装置と無線通信を行う地上サーバ装置とから構成される認知支援システムであって、前記車載装置または前記地上サーバ装置は、前記車載装置から受信した映像に基づいて前記車載装置を搭載した車両に接近する移動物体を検出する移動物体検出手段と、前記移動物体検出手段によって検出された前記移動物体と前記車両とが衝突する可能性を示す衝突危険度を判定する衝突危険度判定手段とを備え、前記車載装置は、歪曲した受光部により広角な範囲の映像を撮像する撮像手段と、前記衝突危険度判定手段によって判定された前記衝突危険度に応じて前記移動物体の存在を報知する移動物体報知手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歪曲した受光部により広角な範囲の映像を車載装置が撮像し、撮像された映像に基づいて撮像部の設置方向および設置方向以外の方向から自車両に接近する移動物体を車載装置が検出し、検出された移動物体と自車両とが衝突する可能性を示す衝突危険度を車載装置が判定し、判定された衝突危険度に応じて移動物体の存在を車載装置が報知することとしたので、車載装置のコスト低減を図ることができるとともに、ドライバーの死角から自車両に接近する移動物体の検出漏れを防止しつつ、検出した移動物体の存在をドライバーに対して確実に認識させることができる車載装置および認知支援システムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係る車載装置および認知支援システムの概要を示す図である。
【図2】図2は、本実施例に係る車載装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、映像補正処理を説明するための図である。
【図4】図4は、移動物体検出処理を説明するための図である。
【図5】図5は、衝突危険度判定処理を説明するための図その1である。
【図6】図6は、衝突危険度判定処理を説明するための図その2である。
【図7】図7は、車載装置が実行する移動物体認知支援処理手順の概要を示すフローチャートである。
【図8】図8は、超広角カメラの設置方向の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る車載装置および認知支援システムの好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る車載装置および認知支援システムの概要について図1を用いて説明した後に、本発明に係る車載装置および認知支援システムについての実施例を図2〜図8を用いて説明することとする。
【0017】
まず、本発明に係る車載装置および認知支援システムの概要について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る車載装置および認知支援システムの概要を示す図である。
【0018】
図1の(A)および(B)に示すように、本発明に係る車載装置および認知支援システムでは、車両に設置された超広角カメラで撮像された広角な映像に基づいて移動物体を検出し、検出された移動物体が自車両に衝突する危険度を判定し、判定された衝突危険度に応じて移動物体の強調表示を行う。
【0019】
すなわち、本発明に係る車載装置および認知支援システムは、単独の超広角カメラで広範囲の画像を取得しつつ、取得した画像の中から検出した危険性が高い移動物体を報知することによって、ドライバーに対する認知支援を行う点に主たる特徴がある。
【0020】
以下、かかる特徴点について具体的に説明する。図1の(A)に示すように、前方を見ているドライバーの視野は、斜線で示した部分である。そして、斜線で示した部分以外の領域は、ドライバーの死角である。
【0021】
ここで、本発明に係る車載装置は、自車両の前方に設置された超広角カメラと接続されている。そして、この超広角カメラの撮像範囲(以下、「視野」と記載する)は、同図の円弧状に示した範囲となり、ドライバーの視野と死角とを含む広角な範囲となる。したがって、超広角カメラを使用した場合は、自車両の左右の映像を撮像するために左右の2箇所にカメラを設置する必要はない。
【0022】
そして、図1の(A)に示すように、自車両が交差点に進入しようとしており、交差点の左側道路からは接近車両Aが自車両側に向かって走行しているとする。また、交差点の右側道路からは、接近車両Bが自車両側に向かって走行しているものとする。
【0023】
自車両に設置された超広角カメラは、図1の円弧状に示した範囲の映像を撮像する。ここで、超広角カメラで撮像された映像は、遠方部分、特に、映像の左右部分の解像度が低いため、移動物体が視認しづらい。そこで、本発明に係る車載装置は、撮像された映像の解像度の補完を行い、左右部分の歪みの補正を行う。これにより、映像の鮮明度を向上させることができる。
【0024】
また、本発明に係る車載装置は、補正された映像に基づいて移動物体の検出を行う。これにより、従来の車載装置では、見落とされていたような移動物体を検出することができる。さらに、本発明に係る車載装置は、補正された映像および自車両に搭載されているレーダから受け取った情報に基づいて移動物体情報を取得する。ここで、移動物体情報には、自車両と移動物体との距離、自車両に対する移動物体の接近方向および移動物体の移動速度が含まれる。
【0025】
また、本発明に係る車載装置は、自車両の走行速度、走行方向および走行位置を含んだ自車両情報を各種センサの情報に基づいて取得する。その後、本発明に係る車載装置は、自車両情報と移動物体情報とに基づいて自車両と移動物体とが衝突する可能性を示す衝突危険度を判定する。衝突危険度の判定方法の詳細については後述することとする。
【0026】
そして、図1の(B)に示すように、本発明に係る車載装置は、衝突危険度の高い移動物体については、枠を点滅させたり、移動物体の色を変更したりといった強調表示を行ってディスプレイ等の表示部へ表示する。
【0027】
このように、本発明に係る車載装置および認知支援システムは、車両に設置された超広角カメラで撮像された映像に基づいて移動物体を検出し、検出された移動物体が自車両に衝突する危険度を判定し、判定された衝突危険度に応じて移動物体の強調表示を行うこととした。
【0028】
したがって、本発明に係る車載装置および認知支援システムによれば、車載装置にかかるコスト削減を図ることができるとともに、ドライバーの死角を含む広角な範囲から自車両に接近する移動物体の検出漏れを防止しつつ、検出した移動物体の存在をドライバーに対して確実に認識させることができる。
【実施例】
【0029】
以下では、図1を用いて概要を説明した車載装置および認知支援システムについての実施例を詳細に説明する。まず、本実施例に係る車載装置10の構成について図2を用いて説明する。
【0030】
図2は、本実施例に係る車載装置10の構成を示すブロック図である。なお、図2では、車載装置10の特徴点を説明するために必要な構成要素のみを抜粋して示している。同図に示すように、車載装置10は、超広角カメラ11と、レーダ群12と、ディスプレイ13と、センサ群14と、制御部15を備えている。また、制御部15は、映像取得部15aと、映像補正部15bと、移動物体検出部15cと、移動物体情報取得部15dと、衝突危険度判定部15eと、移動物体報知部15fとをさらに備えている。
【0031】
超広角カメラ11は、レンズに相当する受光部が歪曲していることにより焦点距離が短いため広角な範囲、たとえば、視野が190度の範囲の映像を撮像することができるカメラである。この超広角カメラ11は、車両の前方に設置されており、車両の前方、左方および右方を撮像するものとする。なお、本実施例では、超広角カメラ11が車両の前方に設置された場合について説明するが、車両の後方、左方または右方に超広角カメラ11を設置することとしてもよい。
【0032】
レーダ群12は、電磁波を対象物に向けて発信し、その反射波を測定することにより、対象物までの距離や方向を取得するレーダ装置群であり、たとえば、ミリ波レーダやレーザレーダ等で構成されるデバイスである。このレーダ群12は、自車両と移動物体との距離、自車両に対する移動物体の接近方向および移動物体の移動速度を含んだ移動物体情報を取得する。また、レーダ群12は、取得した移動物体情報を移動物体情報取得部15dへ渡す処理を併せて行う。なお、レーダ群12を単独のレーダ装置で構成することとしてもよい。
【0033】
ディスプレイ13は、超広角カメラ11で撮像された映像を表示する表示装置であり、カーナビゲーション機能を有する車載装置10であれば、道路地図や目的地までの進路を表示する場合もある。
【0034】
センサ群14は、音や光等の計測の対象となる物理量を検知する各種センサであり、たとえば、ジャイロセンサ、舵角センサ、GPS(Global Positioning System)受信機および速度センサ等で構成されるデバイスである。
【0035】
センサ群14は、自車両の走行速度、走行方向および走行位置を含んだ自車両情報を取得する。具体的には、ジャイロセンサで検出された角度情報および舵角センサで検出された自車両のハンドルの向き等によって自車両の走行方向を取得する。また、GPS受信機からの情報によって、自車両の走行位置を取得し、速度センサの情報によって、自車両の絶対速度を取得する。また、センサ群14は、取得した自車両情報を衝突危険度判定部15eへ渡す処理を併せて行う。
【0036】
制御部15は、車載装置10の全体制御を行う制御部である。映像取得部15aは、超広角カメラ11が撮像した映像を取得する処理を行う処理部である。また、この映像取得部15aは、取得した映像を映像補正部15bへ渡す処理を併せて行う。
【0037】
映像補正部15bは、映像取得部15aから受け取った映像の歪みを補正して、映像の鮮明度を向上させる処理を行う処理部である。ここで、映像補正処理の具体例について、図3を用いて説明する。
【0038】
図3は、映像補正処理を説明するための図である。なお、図3の(A)には、超広角カメラ11で撮像された映像を、図3の(B)には、映像補正処理を行った後の映像を、それぞれ示している。
【0039】
図3の(A)に示すように、超広角カメラ11で撮像された映像は、遠方部分、特に、映像の左右部分の映像が歪んで、小さく縮んだ映像となる。さらに、縮んだ映像となってしまった部分は、解像度が低くなってしまう。
【0040】
そこで、映像補正部15bは、映像内の領域に応じて解像度の補正量を変化させつつ、超広角カメラ11で撮像された映像の補正処理を行う。なお、図3の(A)の矢印は、補正量の大きさを指すものとする。そして、補正処理の手法としては、たとえば、公知技術である「超解像技術」や地図投影法のひとつであるいわゆる「円筒図法」等を利用することができる。
【0041】
ここで、「超解像技術」は、解像度を向上するために画素数を増やして解像度の補完を行う技術である。具体的には、「超解像技術」は、映像をタイムスライスした複数の画像の画素の情報に基づいて対象画像の解像度の補完を行う技術である。
【0042】
映像補正部15bは、「超解像技術」を用いることによって、図3の(A)に示すように、特に解像度の低い映像の左右部分や移動物体が出現する地平線領域付近は、補正量を大きくし、映像中央部分は、補正量を小さくし、解像度の補完を行う。
【0043】
つづいて、映像補正部15bは、「円筒図法」によって、超広角カメラ11で撮像された映像の歪みを補正する。このようにすることによって、図3の(B)に示すように、映像補正処理後の映像は、後述する移動物体検出部15cの検出精度向上に寄与する。そして、映像補正処理後の映像をそのままディスプレイ13へ表示した場合であっても、ドライバーは、距離感を掴みやすくなる。
【0044】
図2の説明に戻り、車載装置10についての説明をつづける。移動物体検出部15cは、映像補正部15bによって補正された映像に基づいてオプティカルフローを算出することによって移動物体の検出する処理を行う処理部である。なお、オプティカルフローとは、時間的に連続する画像の中で物体の動きをベクトルで表したものである。
【0045】
ここで、具体的な移動物体検出処理について、図4を用いて説明する。図4は、移動物体検出処理を説明するための図である。なお、図4の(A)には、オプティカルフローを説明するための図を、図4の(B)には、代表点の一例を、それぞれ示している。
【0046】
図4の(A)は、時間的に連続する2枚の画像を重畳させて表示したものとする。ここでは、時刻tの画像を破線で図示し、時刻t’の画像を実線で図示する。なお、時刻tは時刻t’よりも前の時刻とする。
【0047】
まず、移動物体検出部15cは、時刻tの画像から特徴点を検出する。ここでは、破線の丸印で示した4つが特徴点として検出されたものとする。つづいて、移動物体検出部15cは、時刻t’の画像から特徴点を検出する。ここでは、実線の丸印で示した4つが特徴点として検出されたものとする。
【0048】
ここで、時刻tの各特徴点から時刻t’の各特徴点へ向かうベクトルがオプティカルフローである。そして、生成されたオプティカルフローから自車両の動きを差し引くことで、対象物の動きベクトル(以下、単に「動きベクトル」と記載する)を検出することができる。
【0049】
そして、移動物体検出部15cは、検出された動きベクトルに基づいて移動物体の検出を行う。移動物体検出部15cは、動きベクトルの長さが0より大きい場合、対象物は移動しているものとして、対象物を移動物体であると判定する。さらに、移動物体検出部15cは、動きベクトルの方向に基づいて自車両に接近してくるか否かを判定する。
【0050】
なお、動きベクトルの長さが0を基準として、移動物体の検出を行うこととしたが、所定の閾値を基準として、移動物体の検出を行うこととしてもよい。また、所定の物体に対して検出された特徴点を全て使用する必要はなく、図4の(B)に示すように、点a、点b、点cおよび点dが特徴点として検出された場合、たとえば、点cと点dとを代表点として抽出し、移動物体の検出を行うこととしてもよい。このようにして、移動物体検出部15cは、移動物体の検出を行う。
【0051】
図2の説明に戻り、車載装置10についての説明をつづける。移動物体情報取得部15dは、移動物体検出部15cが検出した移動物体について、レーダ群12から自車両と移動物体との距離、自車両に対する移動物体の接近方向および移動物体の移動速度を含んだ移動物体情報を取得する処理を行う処理部である。
【0052】
衝突危険度判定部15eは、移動物体検出部15cが検出した移動物体について、移動物体情報取得部15dが取得した移動物体情報と、センサ群14から取得した自車両情報とに基づいて自車両と移動物体とが衝突する可能性を示す衝突危険度を判定する処理を行う処理部である。
【0053】
ここで、具体的な衝突危険度判定処理について、図5および図6を用いて説明する。図5および図6は、衝突危険度判定処理を説明するための図その1およびその2である。
【0054】
まず、図5の(A)に示すように、自車両が交差点にさしかかったとする。そして、自車両が進入しようとしている道路左側からは、接近車両Aが自車両側に向かって速度Aで走行している。また、かかる道路右側からは、接近車両Bが自車両側に向かって速度Bで走行している。なお、速度を示す矢印の長さは速度に比例するものとする。したがって、同図に示した場合には、速度A<速度Bである。
【0055】
この場合、自車両と接近車両Aとの距離および自車両と接近車両Bとの距離を比較すると、双方の距離は、ほぼ同じである。しかし、接近車両Aの速度Aと接近車両Bの速度Bとを比較すると、速度A<速度Bであるので、衝突危険度判定部15eは、接近車両Aより接近車両Bの方が、自車両と衝突する可能性を示す衝突危険度が高いと判定する。
【0056】
つづいて、図5の(A)とは異なるシチュエーションについて説明する。図5の(B)に示すように、自車両が交差点にさしかかっており、自車両が進入しようとしている道路右側からは、接近車両Cが自車両側に向かって速度Cで走行しているとする。ここで、速度Cは、図5の(A)に示した速度Bと同じであるとする。
【0057】
この場合、自車両と接近車両Cとの距離は、図5の(A)に示した接近車両Bと自車両との距離よりもはるかに長い、すなわち、接近車両Cは、走行速度が速くても遠方を走行中である。したがって、衝突危険度判定部15eは、接近車両Bより接近車両Cの方が、衝突危険度が低いと判定する。
【0058】
また、図5の(C)に示すように、自車両が速度Dで交差点を左折中に、歩行者が速度Eで横断歩道を渡り始めたとする。ここで、速度Eは歩行速度であるので、速度Bや速度Cと比較するとはるかに遅い。
【0059】
しかし、自車両と移動物体である歩行者とは相対的に接近している状態にあり、しかも、自車両から非常に近い位置にある。このため、衝突危険度判定部15eは、歩行者の衝突危険度が非常に高いと判定する。
【0060】
このように、衝突危険度判定部15eは、移動物体情報および自車両情報に基づいて算出した自車両と接近車両との距離、自車両と接近車両との相対速度および自車両に対する移動物体の接近方向等に基づいて衝突危険度を判定する。これにより、衝突危険度を精度良く判定することができる。
【0061】
なお、衝突危険度判定部15eでは、衝突危険度が高いまたは低いと判定するように説明したが、距離や相対速度の値に応じて衝突危険度を数値、たとえば、衝突危険度1〜5と示すこととしてもよい。
【0062】
また、衝突危険度判定部15eは、移動物体情報および自車両情報に基づいて衝突危険度を判定することとしたが、車載装置10に備える図示しないカーナビゲーション機能から地図情報を取得したり、ウインカーの状態を取得したりして衝突危険度を判定することとしてもよい。
【0063】
たとえば、図6に示すように、自車両が交差点に進入しようとして、交差点手前で停車したとする。そして、自車両が進入しようとしている道路左側からは、接近車両Aが自車両側に向かって速度Aで走行しているとする。また、かかる道路右側からは、接近車両Bが自車両側に向かって速度Bで走行しているとする。ここで、速度Aと速度Bとは同じであるとする。
【0064】
ここで、衝突危険度判定部15eは、自車両が左ウインカーを出している状態であるという情報を取得した場合には、自車両がかかる交差点に進入してからの走行方向(図6の黒矢印)は左であると判定する。また、衝突危険度判定部15eは、地図情報を取得することで、図6に示す交差点が片側2車線ずつの幅の広い道であり、接近車両Bは、自車両が合流する車線と同方向の車線を走行し、接近車両は、自車両が合流する車線の反対車線を走行していると判定する。
【0065】
したがって、衝突危険度判定部15eは、接近車両Bの衝突危険度が高いと判定する。一方、接近車両Aについては、速度Aが接近車両Bと同じ速度であり、自車両との距離についてもほぼ同じであるが、反対車線を走行中の接近車両Aは、衝突危険度が低いと判定する。
【0066】
このように、衝突危険度判定部15eは、レーダ群12またはセンサ群14以外からの情報等によって衝突危険度を判定することとしてもよい。
【0067】
図2の説明に戻り、車載装置10についての説明をつづける。移動物体報知部15fは、衝突危険度判定部15eで判定した衝突危険度に応じて移動物体を強調表示してディスプレイ13に表示する処理を行う処理部である。たとえば、移動物体報知部15fは、超広角カメラ11が撮像した映像に重畳させて、移動物体の速度および自車両との距離を表示する。
【0068】
また、移動物体報知部15fは、移動物体の衝突危険度が高い場合、移動物体に強調表示をして、ディスプレイ13に表示することとしてもよい。たとえば、移動物体報知部15fは、かかる移動物体に囲み枠を表示したり、囲み枠または映像全体を点滅させたり、色を変更して表示を行う。
【0069】
さらに、衝突危険度によって、点滅回数を変化させたり、色を変化させたりすることとしてもよい。たとえば、衝突危険度が高・中・低と3ランク設定される場合は、衝突危険度:高の点滅回数は10回で色は赤、衝突危険度:中の点滅回数は5回で色は黄色、衝突危険度:低の点滅回数は3回で色は白と表示することとしてもよい。
【0070】
なお、強調表示を重畳表示する対象となる映像は、超広角カメラ11が撮像した映像(図3の(A)参照)でもよいし、映像補正部15bによって補正後の映像(図3の(B)参照)でもよい。
【0071】
また、移動物体報知部15fは、移動物体検出部15cによって検出された移動物体が、超広角カメラ11が撮像した映像(図3の(A)参照)の歪みが所定値以上である映像部分に含まれる場合、移動物体を強調表示することとしてもよい。
【0072】
歪みの値は、道路上の白線等の直線と推定される部分などの映像が、歪みがないとした場合を想定した映像とを比較した歪みの大きさによって定められる。たとえば、図3の(A)の矢印の大きさが歪みの大きさを指す。また、受光部の歪曲の大きさから映像上の一定範囲を強調表示する部分としてもよい。
【0073】
超広角カメラ11は、受光部が歪曲しているので、撮像した映像の周辺部分が中心部より歪んで表示される。このため、周辺部分の映像はドライバーにとって認識しにくいものとなる。したがって、移動物体が映像の周辺部分に含まれる場合には、移動物体の存在を強調した情報を移動物体の映像に重畳して表示することで、ドライバーによる移動物体の視認性を向上することができる。
【0074】
このように、衝突危険度が高い移動物体を強調表示することで、車載装置10は、衝突危険度とともに移動物体の存在をドライバーに対して確実に認識させることができる。
【0075】
つぎに、本実施例に係る車載装置10および認知支援システムが実行する処理について図7を用いて説明する。図7は、車載装置10が実行する移動物体認知支援処理手順の概要を示すフローチャートである。
【0076】
図7に示すように、映像取得部15aは、超広角カメラ11で撮像した映像を取得し(ステップS101)、映像補正部15bは、ステップS101で取得した映像の補正を行う(ステップS102)。
【0077】
そして、移動物体検出部15cは、ステップS102で補正した映像に基づいて移動物体の検出を行い(ステップS103)、移動物体が検出されたか否かを判定する(ステップS104)。
【0078】
そして、移動物体検出部15cが移動物体を検出し、移動物体ありと判定した場合には(ステップS104,Yes)、移動物体情報取得部15dは、検出された移動物体に対する移動物体情報をレーダ群12から取得する(ステップS105)。
【0079】
一方、移動物体検出部15cが、移動物体を検出せず、移動物体なしと判定した場合には(ステップS104,No)、処理を終了する。
【0080】
その後、衝突危険度判定部15eは、ステップS105で取得した移動物体情報とセンサ群14から取得した自車両情報とに基づいて自車両と移動物体とが衝突する可能性を示す衝突危険度を判定する(ステップS106)。
【0081】
そして、衝突危険度判定部15eは、衝突危険度が高い、すなわち、自車両と移動物体とが衝突する危険があるか否かを判定する(ステップS107)。そして、衝突危険度判定部15eが、衝突の危険があると判定した場合には(ステップS107,Yes)、移動物体報知部15fは、衝突危険度に応じて移動物体を強調表示してディスプレイ13に表示して(ステップS108)、車載装置10が実行する移動物体認知支援処理を終了する。
【0082】
一方、衝突危険度判定部15eが、衝突の危険がないと判定した場合に(ステップS107,No)、処理を終了する。
【0083】
ところで、本実施例においては、超広角カメラ11を車両の前方に設置する場合について説明した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。そこで、以下では、超広角カメラ11を車両の前方以外に設置する場合の変形例について、図8を用いて説明する。
【0084】
図8は、超広角カメラの設置方向の一例を示す図である。なお、図8の(A)には、超広角カメラ11を車両の左方に設置した例を、図8の(B)には、超広角カメラ11を車両の後方に設置した例を、それぞれ示している。
【0085】
図8の(A)に示すように、超広角カメラ11を左方に設置した自車両が交差点で左折しようとした際に、自車両の左後方から、二輪車が走行してきた場合について説明する。この場合、自車両の左方に超広角カメラ11が設置されているので、超広角カメラ11の視野は、同図の円弧状に示した範囲、すなわち、左方、前方および後方となる。
【0086】
したがって、超広角カメラ11は、自車両の左後方から接近する二輪車を撮像することができる。これにより、車載装置10は、かかる二輪車を衝突危険度が高い移動物体と判定し、強調表示して表示することができる。この場合、たとえ自車両のすぐ後方に後続車両が連なっていたとしても、車載装置10は、衝突危険度の高い移動物体を、ドライバーに対して確実に認識させることができる。
【0087】
つづいて、図8の(B)に示すように、超広角カメラ11を後方に設置した自車両が片側2車線ある道路の左車線を走行中に、右車線に車線変更しようとした際に、自車両の右後方から、右車線側を接近車両が走行してきた場合について説明する。
【0088】
この場合、自車両の後方に超広角カメラ11が設置されているので、超広角カメラ11の撮像範囲は、同図の円弧状に示した範囲、すなわち、後方、左方および右方となる。
【0089】
したがって、超広角カメラ11は、自車両の右後方を走行する接近車両を撮像することができる。これにより、車載装置10は、車線変更時にも、後方からの接近車両を強調表示して表示することによって、ドライバーに対して衝突危険度の高い移動物体を確実に認識させることができる。
【0090】
なお、ここでは、自車両の後方に超広角カメラ11を設置する旨を説明したが、超広角カメラ11を右方に設置することとしても、同様の効果が得られる。このようにすることによって、自車両にいずれの方向から移動物体が接近する場合であっても、検出漏れを防止することができる。
【0091】
以上のように、本実施例および本変形例に係る車載装置および認知支援システムは、超広角カメラが歪曲した受光部により広角な範囲の映像を撮像し、移動物体検出部が超広角カメラによって撮像された映像に基づいて超広角カメラの設置方向および設置方向以外の方向から自車両に接近する移動物体を検出し、衝突危険度判定部が移動物体検出部によって検出された移動物体と自車両とが衝突する可能性を示す衝突危険度を判定し、移動物体報知部が衝突危険度判定部によって判定された衝突危険度に応じて移動物体の存在を報知するように車載装置を構成した。したがって、車載装置のコスト削減を図ることができるとともに、ドライバーの死角から自車両に接近する移動物体の検出漏れを防止しつつ、検出した移動物体の存在をドライバーに対して確実に認識させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明に係る車載装置および認知支援システムは、ドライバーの死角から自車両に接近する移動物体の検出漏れを防止するために有用であり、特に、車載装置のコスト削減を図りつつ、検出した移動物体の存在をドライバーに対して確実に認識させたい場合に適している。
【符号の説明】
【0093】
10 車載装置
11 超広角カメラ
12 レーダ群
13 ディスプレイ
14 センサ群
15 制御部
15a 映像取得部
15b 映像補正部
15c 移動物体検出部
15d 移動物体情報取得部
15e 衝突危険度判定部
15f 移動物体報知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されている車載装置であって、
歪曲した受光部により広角な範囲の映像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段によって撮像された前記映像に基づいて前記撮像手段の設置方向および前記設置方向以外の方向から自車両に接近する移動物体を検出する移動物体検出手段と、
前記移動物体検出手段によって検出された前記移動物体と前記自車両とが衝突する可能性を示す衝突危険度を判定する衝突危険度判定手段と、
前記衝突危険度判定手段によって判定された前記衝突危険度に応じて前記移動物体の存在を報知する移動物体報知手段と
を備えたことを特徴とする車載装置。
【請求項2】
前記移動物体検出手段によって検出された前記移動物体と前記自車両との距離、前記自車両に対する前記移動物体の接近方向および前記移動物体の移動速度を移動物体情報として取得する移動物体情報取得手段
をさらに備え、
前記衝突危険度判定手段は、
前記自車両の走行速度および走行方向を含んだ自車両情報と前記移動物体情報取得手段によって取得された前記移動物体情報とに基づいて前記衝突危険度を判定することを特徴とする請求項1に記載の車載装置。
【請求項3】
前記移動物体報知手段は、
前記移動物体検出手段により検出された前記移動物体が、前記撮像手段によって撮像された前記映像の周辺部分に含まれる場合、前記移動物体の存在を強調した情報を前記移動物体が含まれる映像に重畳して表示することを特徴とする請求項1または2に記載の車載装置。
【請求項4】
前記撮像手段は、
前記自車両の前方、後方、右方または左方のいずれか一箇所、または、二箇所以上を組合せた位置に設置されることを特徴とする請求項1、2または3に記載の車載装置。
【請求項5】
前記撮像手段によって撮像された前記映像の歪みを補正する映像補正手段
をさらに備え、
前記移動物体検出手段は、
前記映像補正手段によって補正された前記映像に基づいて前記自車両に接近する前記移動物体を検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の車載装置。
【請求項6】
前記移動物体報知手段は、
前記衝突危険度判定手段によって判定された前記衝突危険度に基づいて前記移動物体の存在を強調した情報を前記移動物体検出手段により検出された前記移動物体が含まれる前記映像に重畳して表示することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の車載装置。
【請求項7】
車両に搭載されている車載装置と、前記車載装置と無線通信を行う地上サーバ装置とから構成される認知支援システムであって、
前記車載装置または前記地上サーバ装置は、
前記車載装置から受信した映像に基づいて前記車載装置を搭載した車両に接近する移動物体を検出する移動物体検出手段と、
前記移動物体検出手段によって検出された前記移動物体と前記車両とが衝突する可能性を示す衝突危険度を判定する衝突危険度判定手段と
を備え、
前記車載装置は、
歪曲した受光部により広角な範囲の映像を撮像する撮像手段と、
前記衝突危険度判定手段によって判定された前記衝突危険度に応じて前記移動物体の存在を報知する移動物体報知手段と
を備えたことを特徴とする認知支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−118482(P2011−118482A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272859(P2009−272859)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】