説明

車載電子制御装置用電源回路

【課題】車載電子制御装置の電気的負荷と電子制御回路へ電源を供給する電源回路において、電気的負荷を駆動する回路と電子制御回路へ電源を送る回路におけるノイズフィルタ回路の使用状態を改良することによりノイズの低減を確保しながら、ノイズフィルタの実装面積の縮小化、コストダウンを図ることができる。
【解決手段】車載電子制御装置(ECU)の電源回路10は、バッテリ電源Bからの電源ラインLB にノイズフィルタ回路11を設け、その下流を電子制御回路20への電源ラインLB2と電気的負荷のソレノイド16への電源ラインLB1に分岐し、ノイズフィルタ回路11を共通に用いる。電源ラインLB1には半導体スイッチング素子を含むPWM方式の駆動回路13、電源ラインLB2には半導体スイッチング素子を含むスイッチング電源回路15(DC−DCコンバータ)が設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のブレーキ装置を制御する車載電子制御装置の電源ラインにおけるノイズフィルタ回路の簡略化を図った車載電子制御装置用電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキ装置を制御する車載電子制御装置(ECU)は、車両の走行状態や液圧回路の液圧等の各種センサからの信号に基づいて制御信号を出力するマイクロコンピュータによる電子制御回路と、入力側の各種センサ、監視回路等と、出力側の電磁弁、液圧ポンプ用のモータ、フェールセーフリレー等の電気的負荷を含む電気、電子部品を集約してIC化した周辺ICとを備えている。このECUでは、バッテリ電源からフェールセーフリレーや電磁弁のソレノイド等の電気的負荷へ電源ラインから電源を供給すると共に、周辺ICやマイクロコンピュータへ電源を供給するラインが設けられている。
【0003】
このようなバッテリ電源から電気的負荷と、周辺ICやマイクロコンピュータのような電子回路へ電源を供給する電源ラインは、それぞれの対象に応じて異なる電圧で供給されるのが一般的であり、その一例として特許文献1では、バッテリ電圧VB (例42V)からマイクロコンピュータへは電圧V1 (例14V)で、センサを駆動する電圧はV2 (例24V)でというように異なる電源電圧を供給している。そして、このようなバッテリ電源の電圧と異なる電源電圧を必要とするそれぞれの回路へは、それぞれDC−DCコンバータを介して所定の電源電圧に変換して供給しているが、DC−DCコンバータを含む複数のスイッチングレギュレータを用いると、各々のスイッチング電源回路のスイッチングノイズが協調し合い、さらなるラジオノイズの悪化を招くため、この先行例では複数のスイッチング素子の発振回路の発振周波数を異なる周波数に設定し、ラジオノイズを低減するようにしている。
【0004】
これに対し、ブレーキ装置用の車載電子制御装置(ECU)では、電気的負荷、特に電磁弁のソレノイドへの電源ラインへは、従来はシリーズ電源が供給されていたが、最近では図2に示すように、シリーズ電源に代えてソレノイド6の駆動用として熱損失の小さい半導体スイッチング素子を用いたPWM駆動回路3を介して電源ラインLB から電源電圧VB が供給されるようになっている。2はフェールセーフリレーである。このようなスイッチング電源を使用する場合、スイッチングノイズの影響でラジオノイズ等の悪化を招くため、電源ラインLB 中にノイズフィルタ回路1bを挿入している。この場合、マイクロコンピュータへの電源ラインIGの電圧を所定電圧VOUT に設定するためのDC−DCコンバータによるスイッチング電源回路5に対してもスイッチング素子のノイズ低減のため別途ノイズフィルタ回路1aが挿入されている。
【0005】
このため、PWM駆動回路3とスイッチング電源回路5のそれぞれに対し、ノイズフィルタを必要とすることとなる。しかし、フィルタ回路の特徴として、部品サイズが大きく、従って基板実装面積が大きくなるという難点があり、ECUの小型化の支障となり、コストが上昇するという点で改善すべき問題が残されている。
【特許文献1】特開2003−309968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記の問題に留意して、車載電子制御装置の電気的負荷と電子制御回路へ電源を供給する電源回路において、電気的負荷を駆動する回路と電子制御回路へ電源を送る回路におけるノイズフィルタ回路の使用状態を改良することによりノイズの低減を確保しながら、ノイズフィルタの実装面積の縮小化、コストダウンを図ることができる車載電子制御装置用電源回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の問題に留意して、車載バッテリ電源Bから電源を供給する電源ラインLB にノイズフィルタ回路11を設け、このラインのノイズフィルタ回路11より下流を、マイクロコンピュータ22、周辺IC21を含む電子制御回路20へ起動回路14と半導体スイッチング素子を含むスイッチング電源回路15を介して電源供給する電源ラインLB2と、上記電子制御回路20により制御される電気的負荷に半導体スイッチング素子を含む駆動回路13を介して電源を供給する電源ラインLB1とに分岐して、ノイズフィルタ回路11を上記下流側の2つの電源ラインLB1,LB2に共用するようにした車載電子制御装置用電源回路の構成としたのである。
【0008】
このような構成の電源回路によれば、電子制御回路20へ所定電圧の電源を供給する電源ラインLB2と、電気的負荷へ電源を供給する電源ラインLB1に対し、共通のノイズフィルタ回路11を用いることができ、下流の電源ラインでのノイズの低減を確保しつつ、ノイズフィルタ回路11の部品点数を減少させて回路の合理化、実装面積の減少化が可能となる。
【0009】
ノイズフィルタ回路11ではバッテリ電源Bから供給される電流、電圧の変動を抑制して下流側へノイズが伝達されるのを防止しつつ電源を供給する。又、ノイズフィルタ回路11の下流で電子制御回路20へ電源を供給する電源ラインLB2は、バッテリ電源Bの電圧より低い電圧の電源を供給するため、スイッチング電源回路15を設けて所定の電圧に変換する。このスイッチング電源回路15には一般に半導体スイッチング素子が用いられ、所定の周期でスイッチング操作される。このためスイッチング動作により生じる脈流はスイッチング電源回路15に含まれる平滑回路で平滑化されノイズの発生が抑制される。
【0010】
なお、起動回路は電子制御回路20のマイクロコンピュータ22、周辺IC21をイグニッションスイッチの信号に基づいて瞬時に立上げるために挿入されている。ノイズフィルタ回路11の下流の電気的負荷へ電源を供給する電源ラインLB1は、半導体スイッチング素子を含む駆動回路13によりソレノイドのような負荷をPWM駆動し熱損失の小さい状態で作動させる。このようなスイッチング動作時に生じるノイズも上流側のノイズフィルタ回路11により抑制され、電源回路でのノイズが共通のノイズフィルタ回路11で抑制されることとなる。
【0011】
上記スイッチング電源回路15は、半導体スイッチング素子15a、及びLC回路(コイル15b、コンデンサ15c、ダイオード15dを含む)から成るDC−DCコンバータを用いる。バッテリ電源の電圧(24V)を、電子制御回路20の動作電圧(5V又は3.3V)に降圧するためである。又、電気的負荷のソレノイド16は、複数組設けられ、各ソレノイドへの電源ラインは複数のPWM駆動回路へ分岐して接続され、それぞれのソレノイドを熱損失の小さい手段で駆動する。
【発明の効果】
【0012】
この発明の請求項1による車載電子制御装置用電源回路は、バッテリ電源からの電力を共通のノイズフィルタ回路を有する電源ラインを介して送り、その下流を分岐して電子制御回路と電気的負荷のそれぞれに分岐された電源ラインで給電し、下流側へのノイズ伝達の抑制を確保しつつノイズフィルタ回路を共通化したから、電気的負荷や電子制御回路のように異なる電圧電源を必要とし、かつ半導体スイッチング素子を用いた回路に生じるノイズを低減しつつ、ノイズフィルタ回路の部品点数の減少を図り、基板への実装面積の縮小に寄与し、かつコストダウンを可能とするという利点が得られる。
【0013】
請求項2の発明では、電気的負荷をソレノイドとし、このソレノイドの駆動回路をPWM駆動回路、そしてスイッチング電源回路を半導体素子によるDC−DCコンバータとしたことから、電子制御回路20に必要な所定の電圧に変換して電源電圧を供給し、かつラジオノイズを発生する電気的負荷に対し熱損失の小さい作動を経済的コストで実現することができる。請求項3の発明では、ソレノイドを複数組とし、複数のPWM駆動回路へ電源ラインを分岐して各ソレノイドを駆動するようにしたことから、共通のノイズフィルタ回路により複数のPWM駆動回路とスイッチング電源回路のノイズ低減を図ることができることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、実施形態の車載電子制御装置(ECU)用電源回路の概略系統図である。上記周辺IC21、マイクロコンピュータ22等を含む電子制御回路20は、車両のブレーキ装置を液圧回路を介して制御するように主として液圧回路に設けられた電磁弁、液圧ポンプ等を駆動する。上記電子制御回路の制御方式は、例えばABS制御や走行安定制御、その他各種の制御方式があり、いずれの場合も電磁弁のソレノイドを駆動制御することによりそれぞれの制御が行なわれる。このような電子制御回路、及びソレノイド、ポンプモータへ電源を供給するこの実施形態の電源回路10は、次のように構成されている。
【0015】
図示のように、電源回路10のバッテリBの電源ラインLB は、ノイズフィルタ回路11を介してノイズ除去した後、P点で電源ラインLB1とLB2の2つに分岐される。一方の電源ラインLB1は、フェールセーフリレー12を経てPWM駆動方式の駆動回路13へ接続され、この駆動回路13により電磁弁のソレノイド16を駆動するように電力を供給する。他方の電源ラインLB2は、起動回路14を経てスイッチング電源回路15で所定の電圧に変換され、所定電圧の電源ラインLB2’を介して電子制御回路20の周辺IC21、マイクロコンピュータ22に電源を供給する。
【0016】
バッテリ電源Bからの電源ラインLB 上のノイズフィルタ回路11は、図示のように、コイル11aとコンデンサ11b,11bとから成るLCフィルタ回路である。一方の電源ラインLB1上のフェールセーフリレー12は、MOSFETの半導体スイッチング素子が用いられ、マイクロコンピュータ22を含む電子制御回路20の起動後直ちにオンの信号が電子制御回路20の周辺IC21から送られて通電状態とされ、異常がない限り通電状態に保持される。駆動回路13は、従来のシリーズ電源供給方式に代えて、熱損失の小さいMOSFET半導体スイッチング素子を用い、マイクロコンピュータ22からの制御信号に基づいてソレノイド16をPWM駆動する。なお、ソレノイド16は、実際の車両では複数個用いられるが、簡略化のため代表例の2つのみを図示している。各ソレノイド16に1つの駆動回路13が対応し、駆動回路13も複数組設けられている。
【0017】
P点で分岐された他方の電源ラインLB2上の起動回路14は、実際のECUでは電子制御回路20が2系統独立に設けられ、それぞれの電子制御回路が他の車載電子制御回路へのゲートウェイ機能を果すために必要とされるものである。起動回路14はMOSFET半導体スイッチング素子14aを用い、バッテリ電源Bからの電源ラインから分岐されたライン上でイグニッションスイッチSIGを経て送られるラインIGの入力を、例えば図1の(b)図に一例として示すオペアンプによる起動信号回路14’を介して出力信号に変換し、このような回路の出力信号を起動信号として起動回路14を導通状態とする。なお、この起動回路14はこの発明の趣旨には直接関係しないため、詳細な説明は省略する。
【0018】
スイッチング電源回路15は、MOSFET半導体のスイッチング素子15a、コイル15b、コンデンサ15c、ダイオード15dから成る降圧型DC−DCコンバータであり、例えばバッテリ電源電圧24Vを5V又は3.3Vの電圧VB’に降圧して出力する。この出力は、周辺IC21、マイクロコンピュータ22の電源として供給される。なお、図示していないがスイッチング素子15aを駆動する駆動回路が設けられており、DC−DCコンバータとして作動するのに必要な所定の周波数の信号によりオン、オフ制御される。
【0019】
上記の構成とした実施形態の電源回路によれば、PWM方式の駆動回路13、スイッチング電源回路15は半導体のスイッチング素子をいずれも有し、それぞれの動作周期で駆動され、そのスイッチング動作によるノイズを完全に除去することはできないが、分岐された電気的負荷用の電源ラインLB1と電子制御回路20用の電源ラインLB2に対し共通のノイズフィルタ回路11を用いることにより基本的なノイズ除去作用は確保される。そして、ノイズフィルタ回路11を共通化することによりECUの基板に対し実装面積が縮小され、コストダウンを図ることができる。
【0020】
バッテリ電源Bからの電圧VB を2つの電源ラインLB1とLB2へ供給する場合、イグニッションスイッチSIGが投入されると、電圧VB を信号入力として起動回路14が作動することにより電圧VB’の電源がスイッチング電源回路15を経て電子制御回路の周辺IC21、マイクロコンピュータ22へ供給され、ECUが起動する。その結果、周辺IC21からフェールセーフリレー12がオンとなり、駆動回路13が作動可能な状態となる。
【0021】
マイクロコンピュータ22等の演算、周辺IC21との間の接続端子の異常等の故障が発生した場合、周辺IC21からフェールセーフリレー12への信号を遮断することによってフェールセーフリレー12をオフとし、ソレノイド16への電源供給を断つこともできる。これは、電源ラインLB2に起動回路14を設けることによって、共通化されたノイズフィルタ回路11を用いたソレノイド16へ電源を供給する電源ラインLB1で駆動回路13を作動させることができるようにしたからである。
【0022】
なお、半導体スイッチング素子を含むスイッチング電源回路15と駆動回路13の動作周期はそれぞれ異なるため、スイッチングノイズの影響が協調することはない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
この発明の車載電子制御装置用電源回路は、電気的負荷と電子制御回路への電源ラインに共通のノイズフィルタ回路を備えたものであり、異なる電源電圧で作動する複数の電源ラインを有し、ラジオノイズが協調する可能性のあるスイッチング素子を有する回路に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態の車載電子制御装置の電源回路の概略系統図
【図2】従来例の車載電子制御装置の電源回路の概略系統図
【符号の説明】
【0025】
10 電源回路
11 ノイズフィルタ回路
12 フェールセーフリレー
13 PWM駆動回路
14 起動回路
14’ 起動信号回路
15 スイッチング電源回路
16 ソレノイド
20 電子制御回路
21 周辺IC
22 マイクロコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載バッテリ電源(B)から電源を供給する電源ライン(LB)にノイズフィルタ回路(11)を設け、このラインのノイズフィルタ回路(11)より下流を、マイクロコンピュータ(22)、周辺IC(21)を含む電子制御回路(20)へ起動回路(14)と半導体スイッチング素子を含むスイッチング電源回路(15)を介して電源供給する電源ライン(LB2)と、上記電子制御回路(20)により制御される電気的負荷に半導体スイッチング素子を含む駆動回路(13)を介して電源を供給する電源ライン(LB1)とに分岐して、ノイズフィルタ回路(11)を上記下流側の2つの電源ライン(LB1,LB2)に共用するようにした車載電子制御装置用電源回路。
【請求項2】
前記電気的負荷を電磁弁のソレノイド(16)とし、このソレノイド(16)を駆動する駆動回路(13)を半導体スイッチング素子を用いたPWM駆動回路とし、スイッチング電源回路(15)を半導体スイッチング素子とLC回路から成るDC−DCコンバータとしたことを特徴とする請求項1に記載の車載電子制御装置用電源回路。
【請求項3】
前記電気的負荷のソレノイド(16)を複数組設け、各ソレノイドへの電源ラインを複数のPWM駆動回路へ分岐して接続したことを特徴とする請求項2に記載の車載電子制御装置用電源回路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−320130(P2006−320130A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141103(P2005−141103)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】