説明

軟磁性薄膜、その製造方法、垂直磁気記録媒体および磁気記録再生装置

【課題】 垂直磁気記録媒体に適用した場合に、垂直方向の記録磁界を優先的に強め、かつ急峻化することができる軟磁性薄膜、その生産性の高い製造方法、トラック走行方向の磁化応答性に優れた高品質の垂直磁気記録媒体およびこの垂直磁気記録媒体を備えた垂直磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】 本軟磁性薄膜は、金属イオンとしてCoイオン、Feイオン、Niイオンを含有し、錯化剤およびホウ素系還元剤を含有し、金属イオンの濃度比率が、モル単位で、0.15≦(Niイオン/全金属イオン)≦0.40、0.50≦(Coイオン量/全金属イオン量)≦0.80および、0.05≦(Feイオン量/全金属イオン量)≦0.15である無電解めっき浴中に基板を浸漬し、基板面に平行な5〜2000Oeの範囲の磁場中で無電解めっきを行って得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ等の、磁気的に情報の記録および/または再生を行う磁気記録再生装置用媒体(磁気記録媒体)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の進展とともに、情報記録装置の中心的役割を担うハードディスクドライブ(HDD)の高密度化が求められており、近年では、HDDの記録密度は年率50%以上というスピードで向上している。このような高い記録密度を実現するために、従来の長手磁気記録に対し、隣接するビットの磁化が対向せず、互いのビットを強め合う性質がある垂直磁気記録方式が有効と考えられている。垂直磁気記録では、垂直磁化膜よりなる情報記録層の下部に軟磁性裏打ち層を形成した磁気記録媒体と単磁極ヘッドとを組み合わせることで、急峻な磁化遷移領域が形成できる。
【非特許文献1】「ザ・ジャーナル・オブ・エレクトロアナリティカル・ケミストリー(The Journal of Electroanalytical Chemistry)」,2000年,第491号,p.197〜202
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
垂直磁気記録媒体に軟磁性裏打ち層を付与することは非常に効果的である。しかしながら、その適当とされる膜厚は、200〜400nm以上と、情報記録層の倍以上の厚さが必要であり、従来の媒体各層の成膜に用いられるスパッタリング法でそのすべてを形成すると生産コストが非常に割高となり、量産化が困難である。
【0004】
これに対し、無電解めっき法はその成膜スピードが速いため厚膜の形成が容易であり、かつ比較的広い範囲に均一に成膜することができ、なおかつバッチ処理が可能であるため、非常に生産性に優れ、量産化に有利な成膜法である。
【0005】
一方、垂直磁気記録媒体の軟磁性裏打ち層としてはある程度大きい異方性磁界(Hk)が必要であるとされるが、従来の無電解めっき法による軟磁性裏打ち層を用いる場合、充分な大きさのHkを有する無電解めっき法による軟磁性裏打ち層は知られていなかった。
【0006】
たとえば、Co77Ni13Fe9B1(原子%)の組成の軟磁性裏打ち層が知られているが、Hkは大きくても20〜30Oe程度であった(非特許文献1参照。)。
【0007】
また、Niが20原子%を超えるCoNiFeB系の無電解軟磁性薄膜の報告例はない。これは従来の無電解めっき法による軟磁性薄膜が主に記録ヘッドのコア材としての適用を考慮していたため、飽和磁束密度(Bs)が1.5T以下に劣化する、Niが20原子%を超える組成範囲についてはあまり検討されなかったためであると考えられる。
【0008】
しかしながら、垂直磁気記録媒体の軟磁性裏打ち層としての適用を考えた場合、Bsが多少劣化しても所望の磁気異方性付与と磁化応答特性とを与えることのできる軟磁性裏打ち層を得ることは有意義であると考えられる。
【0009】
本発明は、垂直磁気記録媒体に不可欠な磁気特性、すなわち、大きな異方性磁界を有する軟磁性薄膜を提供することを目的としている。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、Co、Fe、NiおよびBを含有する軟磁性薄膜であって、軟磁性薄膜中のCo、Fe、NiおよびBの合計を100原子%とした場合に、Co含有量が40〜75原子%、Fe含有量が4〜20原子%、Ni含有量が20〜40原子%、B含有量が0.5〜5原子%の範囲にあり、軟磁性薄膜が無電解めっき法により形成されたものであり、軟磁性薄膜の異方性磁界(Hk)が30Oe以上である軟磁性薄膜が提供される。
【0011】
保磁力(Hc)が10Oe以下であることおよび、金属イオンとしてCoイオン、FeイオンおよびNiイオンを含有し、錯化剤およびホウ素系還元剤を含有し、金属イオンの濃度比率が、モル単位で、0.15≦(Niイオン/全金属イオン)≦0.40である無電解めっき浴中に基板を浸漬して無電解めっきを行って形成されたものであることが好ましい。
【0012】
本発明態様により、垂直磁気記録媒体に適用した場合に、垂直方向の記録磁界を優先的に強め、かつ急峻化することができる軟磁性薄膜が得られる。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、金属イオンとしてCoイオン、Feイオン、Niイオンを含有し、錯化剤およびホウ素系還元剤を含有し、金属イオンの濃度比率が、モル単位で、0.15≦(Niイオン/全金属イオン)≦0.40、0.50≦(Coイオン量/全金属イオン量)≦0.80および、0.05≦(Feイオン量/全金属イオン量)≦0.15である無電解めっき浴中に基板を浸漬し、基板面に平行な5〜2000Oeの範囲の磁場中で無電解めっきを行う軟磁性薄膜製造方法が提供される。
【0014】
無電解めっき中に、無電解めっき浴中で、基板を、基板面の中心を通る、基板面に垂直な線を回転軸として回転させ、その周速または回転数をコントロールすることが好ましい。
【0015】
本発明態様により、垂直磁気記録媒体に適用した場合に、垂直方向の記録磁界を優先的に強め、かつ急峻化することができる軟磁性薄膜を生産性よく得ることが可能となる。
【0016】
本発明の他の態様によれば、ディスク面に対し垂直方向に磁化容易軸を有する硬磁性膜を情報記録層として用いる垂直磁気記録用媒体であって、情報記録層の下に、上記の軟磁性薄膜よりなる軟磁性裏打ち層または上記の軟磁性薄膜製造方法によって製造された軟磁性薄膜よりなる軟磁性裏打ち層を設けた垂直磁気記録媒体、ならびにこれらの垂直磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置が提供される。
【0017】
本発明態様により、トラック走行方向の磁化応答性に優れた高品質の垂直磁気記録媒体およびこの垂直磁気記録媒体を備えた垂直磁気記録再生装置を実現できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、垂直磁気記録媒体に適用した場合に、垂直方向の記録磁界を優先的に強め、かつ急峻化することができる軟磁性薄膜が得られる。本軟磁性薄膜は生産性よく得ることが可能である。また、トラック走行方向の磁化応答性に優れた高品質の垂直磁気記録媒体およびこの垂直磁気記録媒体を備えた垂直磁気記録再生装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を図、表、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0020】
以下、本発明に係る軟磁性薄膜を、その主たる用途である垂直磁気記録媒体用の裏打ち層としての用途に関連して説明するが、本発明に係る軟磁性薄膜は、本発明の趣旨に反しない限り、どのような用途に使用してもよい。
【0021】
まず、垂直磁気記録媒体の構成について説明する。図1は垂直磁気記録媒体の一例の側断面図である。図1に示すように、垂直磁気記録媒体10は、基板1上に、軟磁性裏打ち層2、シード層3、非磁性中間層4、情報記録層5、媒体保護層6および媒体潤滑層7が順次積層された構成となっている。情報記録層は、硬磁性の垂直磁化膜からなり、軟磁性裏打ち層は、水平方向に磁化可能な軟磁性の膜からなっている。なお、他の構成もあり得る。たとえば後述する実施例1では、軟磁性裏打ち層の下に密着膜および下地層を設けている。
【0022】
本発明に係る軟磁性薄膜は、上記したような構成の軟磁性裏打ち層として使用できる。その特徴は、Co、Fe、NiおよびBを含有する軟磁性薄膜であって、軟磁性薄膜中のCo、Fe、NiおよびBの合計を100原子%とした場合に、Co含有量が40〜75原子%、Fe含有量が4〜20原子%、Ni含有量が20〜40原子%、B含有量が0.5〜5原子%の範囲にあり、軟磁性薄膜が無電解めっき法により形成されたものであり、軟磁性薄膜のHkが30Oe以上である点にある。
【0023】
このような構成にすることにより、垂直磁気記録媒体に適用した場合に、垂直方向の記録磁界を優先的に強め、かつ急峻化することができる軟磁性薄膜が得られる。
【0024】
軟磁性薄膜は、保磁力(Hc)が10Oe以下であることが好ましい。10Oeを超えると垂直磁化記録媒体の軟磁性裏打ち層としてヘッドからの磁界に対する応答性が悪くなり、媒体のノイズが増加する。
【0025】
Co,Fe,NiおよびBの含有量は、Co,Fe,NiおよびBの合計量を100原子%としたときの値であり、従って、Co,Fe,NiおよびBの含有量が100原子%を超える場合は含まれない。なお、本発明に係る軟磁性薄膜には、これら以外の物質が含まれることもあるが、一般的には0.1重量ppmを超えることはない。不純物としては、カーボン、酸素、硫黄、ナトリウムが含まれることはそれほど問題ではないが、それら以外の場合には、軟磁性薄膜としての性能に悪影響が出ないよう注意を払うべきである。
【0026】
上記の各組成の内、特にNi含有量が重要である。20原子%未満では、充分高いHkを実現できない。40原子%を超えると保磁力Hcが増加し良好な軟磁気特性が得られない。
【0027】
他の成分については、Co含有量が下限を切るとHkの低下及びHcの増加を招く。上限を超えるとHcの増加が起こり、得られるめっき膜も外観が悪く金属光沢の無いものが得られ易くなる。Fe含有量が下限を切るとHcが増加し、上限を超えるとHcの増加が起こると共にめっき浴が不安定となり、析出速度の大幅な低下、めっき中のめっき成分の析出などが起こりやすくなる。B含有量が下限を切ると金属への還元が不十分になる場合があり得る。5原子%を超えることは事実上不可能である。
【0028】
本軟磁性薄膜の膜厚については特に制限はなく、用途に応じて適宜定めることができるが、一般的には0.1〜2μmの範囲が好ましい。
【0029】
本発明の軟磁性薄膜は、金属イオンとしてCoイオン、Feイオン、Niイオンを含有し、錯化剤およびホウ素系還元剤を含有し、金属イオンの濃度比率が、モル単位で、0.15≦(Niイオン/全金属イオン)≦0.40である条件で無電解めっき浴中に基板を浸漬することで製造することができる。
【0030】
本発明に係る軟磁性薄膜製造方法により、垂直磁気記録媒体に適用した場合に、垂直方向の記録磁界を優先的に強め、かつ急峻化することができる軟磁性薄膜を、生産性よく得ることが可能である。
【0031】
無電解めっき浴中のCoイオン、FeイオンおよびNiイオンについての対イオンについては特に制限はなく、公知のものを使用することができる。硫酸イオン、塩化物イオン等を例示することができる。
【0032】
錯化剤は、Co、FeおよびNiに配位して、無電解めっき浴での溶解安定性を与える役割を有する。錯化剤の種類については、Co、FeおよびNiに配位し得る公知の化合物中から適宜選択することができる。酒石酸、コハク酸、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸などのカルボン酸及びこれらの塩を例示することができる。この中で、めっき浴の安定性を高める点で、酒石酸、クエン酸の複合錯化剤が特に好ましい。錯化剤の含有量については、無電解めっき浴での溶解安定性が確保される限り特に制限はない。
【0033】
ホウ素系還元剤は、Coイオン、FeイオンおよびNiイオンを金属に還元する役割を有する。ホウ素系還元剤の種類については、Coイオン、FeイオンおよびNiイオンを金属に還元し得る公知の化合物中から適宜選択することができる。ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウムおよびトリメチルアミンボランを例示することができる。この中で、ジメチルアミンボランが特に好ましい。
【0034】
無電解めっき浴中には、Coイオン、Feイオン、Niイオンおよびこれらの対イオン、錯化剤およびホウ素系還元剤以外に、アルカリ等のpH調整剤、応力緩和剤、界面活性剤、pH緩衝剤、安定剤等を含有させてもよい。
【0035】
金属イオンの濃度比率については、モル単位で、0.15≦(Niイオン量/全金属イオン量)≦0.40の範囲が好ましい。ここで、全金属イオン量とはCoイオン、FeイオンおよびNiイオンの総量を意味する。この範囲より低いと大きいHkが得られ難くなる。この範囲を超えるとHcが増大し良好な軟磁気特性が得られない。なお、無電解めっき浴の他の金属成分については、0.50≦(Coイオン量/全金属イオン量)≦0.80、0.05≦(Feイオン量/全金属イオン量)≦0.15の範囲が好ましい。
【0036】
上記のような範囲を選択することにより、軟磁性薄膜中のCo、Fe、NiおよびBの合計を100原子%とした場合に、Co含有量が40〜75原子%、Fe含有量が4〜20原子%、Ni含有量が20〜40原子%、B含有量が0.5〜5原子%の範囲にすることが容易になり、高いHkを実現しやすくなる。なお、Bの濃度については、金属イオンの還元が充分行われるように決めるべきである。その意味で、軟磁性薄膜中のB含有量が0.5〜5原子%になるようにめっき浴中のホウ素系還元剤の濃度を決定することが好ましい。
【0037】
軟磁性薄膜のHkは、無電解めっき浴中で、基板面に平行な磁場を掛けつつ無電解めっきを行うことで向上させることができる。この磁場としては、5〜2000Oeの範囲が好ましい。この範囲より小さいと磁場を掛けた効果が十分に発揮できない場合があり、大きいと、十分なHkは得られるものの磁区が明確に形成されすぎてしまい、裏打ち層の磁区由来のノイズが増大する。基板面に平行である程度については厳密性はそれほど要求されない。通常は目で見て平行であると認識できれば充分である。
【0038】
その際、基板を、基板面の中心を通る、基板面に垂直な線を回転軸として回転させ、その回転の程度をコントロールすることが好ましい。回転の程度は、その周速または回転数をコントロールすることによって行うことができる。回転の程度が低いとHkが小さくなる。また、回転の程度があまり高いと基板上へのめっき析出が妨げられるようになる。なお、めっき浴内を、たとえば通常の撹拌翼を使用して、撹拌してもよいことは言うまでもない。
【0039】
上記の各態様の軟磁性薄膜は、垂直磁気記録媒体に適用した場合に、垂直方向の記録磁界を優先的に強め、かつ急峻化することができるので、図1に示したような、ディスク面に対し垂直方向に磁化容易軸を有する硬磁性膜を情報記録層として用いる垂直磁気記録媒体に使用される軟磁性裏打ち層として使用すれば、トラック走行方向の磁化応答性に優れた高品質の垂直磁気記録媒体を得ることができ、垂直磁気記録再生装置に好適に適用できるようになる。
【実施例】
【0040】
次に本発明の実施例および比較例を詳述する。
【0041】
[実施例1]
以下に示すような構成の積層膜を作製し、その磁気特性を評価した。
【0042】
まず、次のような構成の積層膜を作製した。
【0043】
基板(直径2.5インチ(換算値は6.4cm)のガラスディスク)/密着膜(Cr,膜厚15nm)/下地層(NiP,膜厚80nm)/軟磁性裏打ち層(無電解めっき法によるCoNiFeB膜)
軟磁性裏打ち層の無電解めっきは、めっき液として、金属源としてのCo、FeおよびNiの硫酸塩、錯化剤としてのクエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、ホウ素系還元剤としてのジメチルアミンボランを、純水に溶解した溶液を使用した。その際水酸化ナトリウムを添加してpHを9.0に調整した。めっき浴中には、下地層まで積層した基板を垂直に配置し、めっき操作中、この基板を、基板面の中心を通る、基板面に垂直な線を回転軸として、30回転/分(rpm)で回転した。
【0044】
このめっき液の金属イオン濃度を、0.12≦(Niイオン/全金属イオン)≦0.40、0.50≦(Coイオン量/全金属イオン量)≦0.80および、0.05≦(Feイオン量/全金属イオン量)≦0.15の範囲で変更し、種々の軟磁性薄膜を作製した。生成する軟磁性薄膜の膜厚は500〜2000nmとした。なお、めっき操作中、後述する図2中、*印を付けて示してある場合については基板面に平行な200Oeの磁場を印加した。
【0045】
膜厚1000nmの軟磁性薄膜が15〜20分で作製された。スパッタリングで同程度の膜厚を得るには、一般的に20〜30分を要する。めっき法は100枚単位の大量の基板を順次浸漬することによる一括成膜が可能であるがスパッタリングは20〜25枚毎のバッチ式成膜であるので、本製造方法により単位時間あたりの成膜可能枚数を大幅に向上できることが理解される。
【0046】
生成した軟磁性薄膜のHkは振動試料型磁力計(VSM)により測定した。表1に、上記めっき浴から作製された種々のCoNiFeB膜の膜中のNi組成およびHkを示す。Ni原子%は、軟磁性薄膜中のCo、Fe、NiおよびBの合計を100原子%とした場合の割合である。なお、表3には、全成分の割合が示されている。
【0047】
表1において、Ni組成の少ない膜は浴中のNiイオン濃度の小さい無電解めっき浴から作製されたものである。このことから、めっき浴中のNiイオン濃度を変化させることで容易に膜中のNi組成の制御が可能であることが理解できる。
【0048】
また、表1のように、軟磁性薄膜中のNi含有量が増加するに従ってHkが増加する傾向を示し、おおむね20原子%以上が好ましいことが判った。なお、参考として、表1には、各金属組成を基に、表2に示す各構成金属のBs値から計算した飽和磁束密度(Bs)の値も示してある。Ni含有量の増大によりBsは低下したが、垂直磁気記録用媒体用として使用するにはいずれも充分な値であった。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

図2は、表1における軟磁性薄膜中のNi含有量とHk、および飽和磁束密度Bsの値の関係を図示したものである。ここでNi=20原子%においてHkが30Oeを超えているもの(点d)は、めっき中に、基板面に平行な500Oeの磁場を印加したものであり、これをめっき中に磁場を印加しなかった場合(点c)と比較すると、膜組成の制御に加えて、適切な磁場の印加を行うことにより、軟磁性薄膜のHkを容易に30Oe以上にすることができることが理解される。
【0052】
[実施例2]
次に、図2にa,bで示す軟磁性膜を従来膜の例として採用し、本発明に係る軟磁性膜として、図2のd,eに示す軟磁性膜を採用して、下記のような構成の積層膜を作製し、垂直磁気記録媒体とした上で、記録再生特性を評価した。
【0053】
基板(2.5インチ直径のガラスディスク)/密着膜(Cr,膜厚15nm)/下地層(NiP,膜厚80nm)/無電解めっき法によるCoNiFeB軟磁性裏打ち層(a,b,d,e)/中間層(Ta/Ru,スパッタリング法,膜厚5/15nm)/情報記録層(CoCrPt−SiO2,スパッタリング法,膜厚20nm)/保護層(窒化カーボン,膜厚5nm)
それぞれの軟磁性裏打ち層(a,b,d,e)を有する垂直磁気記録媒体をそれぞれ媒体A,B,D,Eとした。記録再生特性において最も重要な指標の一つである出力/ノイズ比(S/N比)を、従来膜aを用いた媒体Aと比較し、ΔS/Nとしてま
とめた結果を表4に示す。なお、表4のBs値はVSMによる実測値である。表4に示されるように、従来膜aを用いた媒体Aに比べ、Hkを高めた本発明膜d,e用いた媒体D,Eは、ΔS/Nで0.8〜1.1dBと大幅な特性の向上が認められた。
これは、高いHkの軟磁性裏打ち層を用いた効果により記録再生時におけるトラック走行方向の磁化応答性が向上し、ノイズが減少した効果であると考えられる。また、従来膜bではHcが10Oeを超えているため媒体ノイズが増大しており、S/N比の向上は認められなかった。
【0054】
このようにして、トラック走行方向の磁化応答性に優れた高品質の垂直磁気記録媒体が得られた。
【0055】
【表4】

[実施例3]
図2のdの組成について、基板の回転数を変更した以外は実施例1と同様にして軟磁性薄膜を作製したところ、表5および図3に示す結果を得た。これらの結果より、基板を回転させることが有用であること、その際に回転の程度をコントロールすることにより、Hkの値を調整できることが理解される。なお、基板を回転させず、あるいは低い回転数を基板に与えた場合にHkが低いのは、金属の析出に伴い基板周辺の金属(Ni)濃度が相対的に低下するためと思われる。高い回転数を基板に与えた場合に金属の析出が認められなかったのは、金属の基板への付着が回転により物理的に阻害された結果、基板上での析出反応が進行しなかったものと考えられる。
【0056】
【表5】

[実施例4]
図2のdの組成について、磁場を5,10,2000Oeと変えた以外は実施例1と同様にして軟磁性薄膜を作製したところ、いずれもHkが30〜35Oeの間に収まった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】垂直磁気記録媒体の一例の側断面図である。
【図2】めっき軟磁性薄膜中のNi含有量とHk(実験値)およびBs(計算値)の関係を示したグラフである。
【図3】基板の回転数とHkとの関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 基板
2 軟磁性裏打ち層
3 シード層
4 非磁性中間層
5 情報記録層
6 媒体保護層
7 媒体潤滑層
10 垂直磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co、Fe、NiおよびBを含有する軟磁性薄膜であって、
当該軟磁性薄膜中のCo、Fe、NiおよびBの合計を100原子%とした場合に、Co含有量が40〜75原子%、Fe含有量が4〜20原子%、Ni含有量が20〜40原子%、B含有量が0.5〜5原子%の範囲にあり、
当該軟磁性薄膜が無電解めっき法により形成されたものであり、
当該軟磁性薄膜の異方性磁界(Hk)が30Oe以上である、
軟磁性薄膜。
【請求項2】
保磁力(Hc)が10Oe以下である、請求項1に記載の軟磁性薄膜。
【請求項3】
前記軟磁性薄膜が、
金属イオンとしてCoイオン、FeイオンおよびNiイオンを含有し、
錯化剤およびホウ素系還元剤を含有し、
金属イオンの濃度比率が、モル単位で、0.15≦(Niイオン/全金属イオン)≦0.40である
無電解めっき浴中に基板を浸漬して無電解めっきを行って形成されたものである、請求項1または2に記載の軟磁性薄膜。
【請求項4】
金属イオンとしてCoイオン、Feイオン、Niイオンを含有し、
錯化剤およびホウ素系還元剤を含有し、
金属イオンの濃度比率が、モル単位で、
0.15≦(Niイオン/全金属イオン)≦0.40、
0.50≦(Coイオン量/全金属イオン量)≦0.80および、
0.05≦(Feイオン量/全金属イオン量)≦0.15、
である無電解めっき浴中に基板を浸漬し、
当該基板面に平行な5〜2000Oeの範囲の磁場中で無電解めっきを行う、
軟磁性薄膜製造方法。
【請求項5】
前記無電解めっき中に、前記無電解めっき浴中で、前記基板を、基板面の中心を通る、基板面に垂直な線を回転軸として回転させ、その周速または回転数をコントロールする、請求項4に記載の軟磁性薄膜製造方法。
【請求項6】
ディスク面に対し垂直方向に磁化容易軸を有する硬磁性膜を情報記録層として用いる垂直磁気記録用媒体であって、当該情報記録層の下に、請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性薄膜よりなる軟磁性裏打ち層を設けた垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
ディスク面に対し垂直方向に磁化容易軸を有する硬磁性膜を情報記録層として用いる垂直磁気記録用媒体であって、当該情報記録層の下に、請求項4または5に記載の軟磁性薄膜製造方法によって製造された軟磁性薄膜よりなる軟磁性裏打ち層を設けた垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の垂直磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−173403(P2006−173403A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364850(P2004−364850)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】