説明

転がり軸受

【課題】安価なアルミナ材(Al)の酸化系セラミックの転動体を使用するとともに、導電性を有する接触式のシール部材の使用、及びシールリップ部への導電性グリースの塗布により、安価な電食対策転がり軸受を提供すること。
【解決手段】転動体3に、アルミナ材の酸化系セラミック材を用い、外・内輪1,2と転動体3との電流を絶縁する。ここで、材料に用いるアルミナ(Al)は、純度が99.5%以上(JIS規格:R1401−2)で、気密質でポアが無いものが好ましい。また、導電性を有するゴムを材料とした接触式のシール部材を用いることにより、漏れ電流の回路を形成させる。さらに、シール部材のシールリップの接触部に、導電性カーボン等を含有した導電性グリースを充填して、通電を図る機構となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、家電用エアコンファンモータ等、インバータ制御により運転される電動モータ、及び、電気ノイズを発生する前記インバータ制御系機器の近傍に設置される電動モータ等の回転支持部分を構成する転がり軸受の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上述したような製品は、電動モータの多機能化に対し、その電圧と周波数により高度な制御が可能となるインバータ制御が主流となりつつある。
【0003】
この形態の電動モータに組み込まれる転がり軸受、或は、その近傍に設置される転がり軸受は、インバータ制御回路からの高周波の電流が軸受内を通過することにより起こる電食と呼ばれる損傷を受けることがある。
【0004】
これに対し、従来、例えば転動体に窒化珪素セラミックを使用し、絶縁することにより、電食の損傷を回避する対策がある。
【特許文献1】特開2001−41248号公報
【特許文献2】特開平11−280767号公報
【特許文献3】実開平5−33658号公報
【特許文献4】特開昭64−6517号公報
【特許文献5】特開昭58−113628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記対策における、窒化珪素セラミックの転動体は、非常に高価であり、一般的な対策とは言い難い。
【0006】
また、転動体での絶縁がなされた場合、流れてきた漏れ電流は、その他導電性部位にその経路をかえて迂回し、軸受以外の部位に損傷を与える恐れがある。
【0007】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、前記環境で用いられる電動モータに組み込まれる転がり軸受に、窒化珪素よりも安価なアルミナ材(Al)の酸化系セラミックの転動体を使用するとともに、導電性を有する接触式のシール部材の使用、及びシールリップ部への導電性グリースの塗布により、安価な電食対策転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明に係る転がり軸受は、外輪と内輪の間に、転動体が転動自在に介装してある転がり軸受に於いて、
前記転動体に、高純度アルミナ(Al)を材料とした酸化系セラミックが使用してある。
【0009】
好適には、外輪と内輪の側部に、導電性を有するゴム材を使用した接触式のシール部材が設けてある。
【0010】
また、好適には、前記シール部材のシールリップの接触面に、又は、前記外輪又は内輪のシール溝に、導電性グリースが塗布してある。
【0011】
さらに、好適には、前記シール部材のシールリップの接触面に、又は、前記外輪又は内輪のシール溝に、微細な凹部又は凸部が形成してある。
【0012】
さらに、好適には、前記シール部材のシールリップは、導電性グリースを保持できるように形成してある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルミナ材(Al)の酸化系セラミックの転動体を使用することにより、転動体と内・外輪における絶縁を図ることにより、軸受の損傷を避けるとともに、導電性を有する接触式のシール部材の使用、及びシールリップ部への導電性グリース塗布により、流れてきた漏れ電流を迂回(通過)させることにより、その他の部位の電気的な損傷を防止することが、安価に可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る転がり軸受を図面を参照しつつ説明する。
【0015】
(本発明の実施の形態の全体構成)
本発明の実施の形態では、転動体に、アルミナ材の酸化系セラミック材を用い、内・外輪と転動体との電流を絶縁する。
【0016】
ここで、材料に用いるアルミナ(Al)は、純度が99.5%以上(JIS規格:R1401−2)で、気密質でポアが無いものが好ましい。
【0017】
また、導電性を有するゴムを材料とした接触式のシール部材を用いることにより、漏れ電流の回路を形成させる。
【0018】
さらに、通常の接触式のシール部材を備えた軸受が回転した場合、シール部材のシールリップの接触部と内・外輪との間には、微小な油膜が生成されるため、僅かな電気抵抗の増加が懸念される。
【0019】
本発明の実施の形態では、シールリップの接触部に、導電性カーボン等を含有した導電性グリースを充填して、通電を図る機構となっている。
【0020】
以上、本発明の実施の形態によれば、アルミナ材(Al)の酸化系セラミックの転動体を使用することにより、転動体と内・外輪における絶縁を図ることにより、軸受の損傷を避けるとともに、導電性を有する接触式のシール部材の使用、及びシールリップ部への導電性グリース塗布により、流れてきた漏れ電流を迂回(通過)させることにより、その他の部位の電気的な損傷を防止することが、安価に可能である。
【0021】
また、内・外輪間の導通を完全に遮断するものではないので、静電気等が溜まることもなく、安定して安全に使用できる。
【0022】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る転がり軸受(玉軸受)の断面図である。
【0023】
図1に示すように、外輪1と内輪2との間に、転動体3が転動自在に介装してあり、転動体3は、保持器4により所定間隔に維持するようになっている。
【0024】
本実施の形態では、上記のように、転動体3に、アルミナ材(Al)の酸化系セラミック材を用いて、外・内輪1,2と転動体3との電流が絶縁してある。
【0025】
外輪1及び内輪2の両側部には、それぞれ、シール溝11,12が形成してある。
【0026】
外輪1のシール溝11には、芯金部材21を埋設したシール部材20が装着してあり、そのシールリップ22は、内輪2のシール溝12に接触するように構成してある。
【0027】
シール部材20においては、ゴム素材の部分に導電性素材を用いでおり、シールリップ22の接触面22aの外あたりの位置で、内輪2のシール溝12に接触している。
【0028】
これにより、外輪1に電気が流れた場合は、シール部材20を通して、内輪2に電気が流れる構造になっている。
【0029】
図2は、本発明の第1実施の形態に係り、シール部材のシールリップの接触面の拡大図である。
【0030】
シールリップ22の接触面22aには、金型にディンプル状の凹部を多数放電加工等で設ける事により、図2に示すように、0.01mm〜0.10mmの微細な凸部30が形成してある。なお、シール溝12側に、このような微細な凸部30が形成してあってもよい。また、凸部30に代えて、凹部が形成してあってもよい。
【0031】
図1に示すように、シール部材20のシールリップ22は、導電性グリースを保持できるように形成してある。すなわち、内輪2のシール溝12とシール部材20のシールリップ22との間には、導電性グリースを保持する空間Sがあり、ここに導電性グリースを封入する。
【0032】
以上から、従来軸受に電流が流れる際に、外輪1→転動体3→内輪2と電気が通っていたものが、外輪1→シール部材20→内輪2と通るため、軸受軌道面に損傷が発生しない。
【0033】
また、従来は、シール部材20の接触面に軸受の封入グリースが流れ込み抵抗値が増大し、シール部材20の導電性が落ちていく傾向があったが、シールリップ22の接触面22aに凸部30又は凹部を設けることと、導電性グリースを接触面22aに塗布することにより、導電性の劣化を抑えることができる。
【0034】
シール部材20の形状が接触面22aに塗布した導電性グリースを保持する形状になっているため、導電性グリースの潤滑を維持することができ、導電性グリースの軸受内部、軸受外部への漏れを防ぐこともできる。
【0035】
また、接触面22aに凸部30又は凹部があるため、従来の接触式のシール部材よりもトルクを低くすることができ、シール音も防止できる。
【0036】
シールリップ22の接触面22aが全周接触でなく、数点接触にすることにより、トルクを低くすることができる。
【0037】
軸受は、軸受に電気が流れた際に、電流が転動体3を流れずに、導電性のシール部材20を通って流れるため、電食の発生を抑えることができる。
【0038】
また、シールリップ22の接触面22aに、導電性グリースを塗布することにより、導電性の劣化を防ぎ、導電性を長時間維持することができる。
【0039】
シールリップ22の接触面22aに微細な凸部30又は凹部を設けることにより、摩擦抵抗を減らすことができ、シール音の発生を防止できる。
【0040】
従来の窒化珪素セラミックボールによる対策は、コストが高かったが、本実施の形態では、アルミナ材(Al)の酸化系セラミック材を用いたセラミックボールにより、安価な素材で構成されているため、製造コストを抑えることができる。
【0041】
尚、本実施の形態は、ゴムシールでの例を示したが、本発明は、金属シールド板のラビリンス部に導電性のグリースを塗布することも有効である。
【0042】
(第2実施の形態)
図3は、本発明の第2実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。
【0043】
本実施の形態は、シールリップ22が内あたりの例を示す。即ち、内輪2のシール溝12の内方側に、シールリップ22の接触面22aが接触している。
【0044】
その他の構成、作用、及び効果は、上述した第1実施の形態と同様である。
【0045】
(第3実施の形態)
図4は、本発明の第3実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。
【0046】
本実施の形態は、シールリップ22が中央あたりの例を示す。即ち、内輪2のシール溝12の略中央に、シールリップ22の接触面22aが接触している。
【0047】
その他の構成、作用、及び効果は、上述した第1実施の形態と同様である。
【0048】
(第4実施の形態)
図5は、本発明の第4実施の形態に係り、(a)は、シール部材の断面図であり、(b)は、シールリップの全周接触の例を示し、(c)は、シールリップの4点接触の例を示す。
【0049】
図5(a)において、シール部材20のシールリップ22は、その幅がdである接触面22aを有している。
【0050】
図5(b)に示すように、シールリップ22の接触面22aは、全周接触に構成してあってもよく、また、図5(c)に示すように、数点(図示例のように、4点)接触に構成してあってもよい。
【0051】
その他の構成、作用、及び効果は、上述した第1実施の形態と同様である。
【0052】
(第5実施の形態)
図6は、本発明の第5実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。
【0053】
本実施の形態では、内輪2のシール溝12とシール部材20のシールリップ22との間には、導電性グリースを保持する空間Sがあり、ここに導電性グリースを封入する。軸受は、軸受に電気が流れた際に、電流が転動体3を流れずに、軸受の両側部にある導電性のシール部材20及び導電性グリースを通って流れるため、電食の発生を抑えることができる。
【0054】
一方、外輪1及び内輪2の軌道面と、転動体3との間には、通常のグリースが塗布してある。このグリースは、定常回転時に油膜が十分にできる粘度であり、且つ、体積抵抗の高いものである。
【0055】
その結果、シール部材20の方へより一層放電し易くなる。また、音響特性や耐久性も優れている。
【0056】
その他の構成、作用、及び効果は、上述した第1実施の形態と同様である。
【0057】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、導電性のシール部材20を用いるのは、片面のみの使用でもよい。また、導電性のシール部材20は、内輪接触でも、外輪接触でもよい。
【実施例】
【0058】
本発明を適用した転がり軸受の効果を確認する為に行った電食耐久試験結果について、以下に説明する。
試験条件:
回転数: 1500min−1
予圧: 3.7N
印加電流:10mA
試験時間:500hour
試験試料:
表1の様に、グリース種類をパラメータに試料を3種類用意した。
【表1】

上記の条件及び試料を、各5個にて電食耐久試験を行い、0〜500時間で軸受回転振動値が回転初期の5倍を、NGと判定した。
【0059】
表2に、前記試験の結果を示す。
【表2】

試験の結果、従来例では、初期の100時間後に、NG品が発生した。それに対して、本発明の適用仕様では、完全な対策効果が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図2】本発明の第1実施の形態に係り、シール部材のシールリップの接触面の拡大図である。
【図3】本発明の第2実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図4】本発明の第3実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図5】本発明の第4実施の形態に係り、(a)は、シール部材の断面図であり、(b)は、シールリップの全周接触の例を示し、(c)は、シールリップの4点接触の例を示す。
【図6】本発明の第5実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 外輪
2 内輪
3 転動体
4 保持器
11,12 シール溝
20 シール部材
21 芯金部材
22 シールリップ
22a 接触面
30 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪の間に、転動体が転動自在に介装してある転がり軸受に於いて、
前記転動体に、高純度アルミナ(Al)を材料とした酸化系セラミックが使用してあることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
外輪と内輪の側部に、導電性を有するゴム材を使用した接触式のシール部材が設けてあることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記シール部材のシールリップの接触面に、又は、前記外輪又は内輪のシール溝に、導電性グリースが塗布してあることを特徴とする請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記シール部材のシールリップの接触面に、又は、前記外輪又は内輪のシール溝に、微細な凹部又は凸部が形成してあることを特徴とする請求項2又は3に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記シール部材のシールリップは、導電性グリースを保持できるように形成してあることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−177956(P2007−177956A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379166(P2005−379166)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】