説明

転がり軸受

【課題】劣化や性能低下が生じにくく、音響が問題となるような小型モータ等にも適用することができる転がり軸受を提供すること。
【解決手段】内・外輪1,2間に転動自在に配された複数の転動体3、転動体3を保持する保持器4、内・外輪1,2との間を密封するシール5を備え、保持器4又はシール5内側部には、マイクロカプセルが2〜50重量%配合されたグリース6が、規定封入量の40〜60重量%封入され、残りの60〜40重量%のマイクロカプセルを配合しないグリース7が、内・外輪1,2の軌道面1a,2aに封入されている。マイクロカプセルは、潤滑油又は潤滑剤用添加剤がカプセル全重量に対して10重量%以上内包されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセルを配合したグリースを用いて、潤滑性能と使用寿命の向上を図った転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電動射出成形機に用いられるボールねじや連続鋳造機に用いられる転がり軸受のような高荷重、低速条件で使用される転動装置においては、高温、高荷重、高速という過酷な条件で使用される場合が多くなっている。また、メンテナンスフリー化の要望も一層強くなっている。このため、上記のような転動装置には、より高性能な潤滑剤が望まれていた。
【0003】
一方、転がり軸受の潤滑においては、接触する金属の二面間の摩擦係数は、用いた潤滑油の絶対粘度、軸受荷重、回転速度に応じて変動する。即ち、摩擦面間に厚い油膜が形成される完全潤滑状態では、金属二面間の接触はほとんど起こらないので、摩擦係数は極めて小さい。
【0004】
しかしながら、部分的に金属接触が生じている混合潤滑状態や、油膜が破れて金属接触が生じている境界潤滑状態では、摩擦面に焼付き等の損傷が生じる恐れがある。そこで、このような損傷を防止するために、潤滑剤には極圧剤、摩擦防止剤等の添加剤が添加されている。そして、このような添加剤は、添加量が多ければ添加効果も高い傾向がある。
【0005】
ところで、金属二面間の接触部は、高温・高面圧となり、反応性が高い状態にある。そのため、前記接触部に供給された潤滑剤中の添加剤、例えば、塩素化パラフィン、ジベンジルサルファイド、トリクレジルホスフェート、等のような塩素、イオウ、リン等を含む有機化合物が金属と容易に反応して、前記接触部に金属塩化物、金属イオウ化合物、金属リン化合物等が生成する。そして、この金属化合物が、前記接触部に焼付きや摩耗が生じることを抑制する。
【0006】
しかしながら、極圧剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤は、化学的活性が強い化合物であるため、潤滑油やグリースに直接添加した場合で、特に、長期間にわたる使用の場合には、以下のような不都合を引き起こす恐れがあった。
(1)潤滑油や基油の劣化を促進する。
(2)潤滑油やグリースに添加されている他の添加剤と反応する。
(3)転がり軸受の構成部材(軌道輪、転動体、保持器等)を腐食する。
(4)グリースにおいては、増ちょう剤との相互作用によりグリースを軟化させたり、硬化させたりする。
(5)化学的に活性の高い添加剤は、空気や基油と接触すると化学反応を起こし易いので、潤滑剤の使用時には、添加剤の効果が低下している。
(6)2種以上の添加剤が併用される場合には、添加剤同士で反応を起こし、潤滑剤の使用時には添加剤の効果が低下している。
【0007】
このような問題の対策として、特許文献1では、転がり軸受の軌道面や転動体表面に、予め、化学反応膜を設ける方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2に示されているように、上記添加剤をカプセル化して添加したグリースを用いて上記の不具合をなくし、転走部分のみカプセルが破壊されることによって、その潤滑作用を発揮させるという提案もなされている。
【特許文献1】特許第2969700号公報
【特許文献2】特開2005−036212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の特許文献1の転がり軸受においては、転がり軸受を製造するために必要な工数が増えると共に、コスト高になるという問題点があった。また、転がり軸受を使用することによって化学反応膜が損傷した場合は、転がり軸受全体を交換する必要がある等の問題点も有している。
【0010】
また、特許文献2の場合、カプセル破壊時に騒音が増大してしまうために、ピボット軸受や小型モータ用といった小径軸受には適用することは難しい。
【0011】
そこで、本発明は、上述した従来の不具合を解消して、劣化や性能低下が生じにくく、音響が問題となるような小型モータ等にも適用することができる転がり軸受を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するために、本発明は、外周面に軌道面を有する内輪と、内周面に軌道面を有する外輪と、これら両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪と外輪との間に前記複数の転動体を保持する保持器と、前記内輪と外輪との間を密封するシールとを備えた転がり軸受において、前記保持器又は前記シール内側部には、マイクロカプセルが2〜50重量%配合されたグリースが、規定封入量の40〜60重量%封入され、残りの60〜40重量%の前記マイクロカプセルを配合しないグリースが、前記内輪と外輪との軌道面に封入されており、前記マイクロカプセルは、潤滑油又は潤滑剤用添加剤がカプセル全重量に対して10重量%以上内包されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、添加剤を内包したマイクロカプセルを配合したグリースが、シール及び保持器部に封入されているので、劣化や性能低下が生じにくくなるという効果がある。
【0014】
また、流動性のある軌道面には、マイクロカプセルを添加しないグリースを封入しているので、回転初期の音響を低減させることができ、小径の軸受でもカプセル添加グリースを使用することが可能となる。
【0015】
さらに、シール内側部や保持器上にあるマイクロカプセルは、少しずつ軌道面に入り込んで、時間の経過と共に、内包物が流出して潤滑効果を発揮することができる。また、シールに残ったカプセルは、破壊されなくても徐々に内包物質のみを放出していく効果である徐放効果が見られているため、同様の潤滑効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態を示す転がり玉軸受の軸方向断面図である。
【0018】
本発明の転がり玉軸受は、図1に示すように、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、この軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体である玉3と、内輪1と外輪2との間に複数の玉3を保持する保持器4と、内輪1と外輪2との間の空間を密封するシール5とを備えている。
【0019】
保持器4又はシール5内側部には、マイクロカプセルを添加したグリース6が規定封入量の40〜60重量%封入されている。残りの60〜40重量%は、マイクロカプセル(以後、カプセルと言う)を添加しないグリース7で、これが内輪1と外輪2の軌道面1a,2a間に封入され、両軌道面1a,2aと玉3との間の潤滑が行われるようになっている。
【0020】
このグリース6は、潤滑油又は潤滑剤用添加剤がカプセル全重量に対して10重量%以上内包されたカプセルが、2〜50重量%配合されたものである。
【0021】
カプセルを添加しないグリース7は、製造過程において、加熱されることが多く、使用時においても連続的に供給されることが少ないので、ある程度の耐熱性が要求される。そのため、基油の40℃における動粘度は、15mm/s以上であることが好ましい。但し、動粘度が1500mm/sを越えると基油のせん断抵抗が大きいため、転がり軸受を含む転動装置には適さなくなる。
【0022】
内輪1、外輪2、玉3の材料としては、軸受に一般的に用いられている高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)やステンレス、セラミックス、樹脂等を用いることができる。金属やセラミックスの場合には、レーザ加工、放電加工、エッチング加工、ドリル等を用いた機械加工、等により表面に微細な加工をすることができるので、特に、本発明の転動装置の材料としては好適と言える。
【0023】
上記カプセルの内包物質である潤滑油用又は潤滑剤用添加剤の割合は、カプセル全重量に対して10重量%以上であることが好ましい。10重量%未満であると、内包物質の割合が低過ぎて期待する効果である添加剤の添加効果等が得られにくい。内包量の上限は、カプセル形状が安定に保てる範囲であれば、特に限定はしない。
【0024】
カプセルの粒径は、特に、限定されるものではないが、好ましい粒径は、0.01〜5μmである。5μmを越えると、保持器4又はシール5部のグリース6が回転初期に掻き取られ、軌道面1a,2aに急に入ってしまった場合、グリース中のカプセルが異物として作用するおそれがあり、騒音が増大すると考えられる。
【0025】
一方、カプセルの粒径が0.01μm未満である場合、軌道面1a,2aにカプセルが移動した場合、破壊されにくい。また、軌道面1a,2aに移動することなく未流動部分に残ってしまった場合、カプセルの粒径が小さ過ぎるため、カプセルの徐放効果、すなわちカプセルが物理的に破壊されなくても少しずつ内包物が放出される効果が小さくなり、添加剤の添加効果が不十分となる恐れがある。
【0026】
本発明に使用されるカプセルの膜剤は、特に限定されるものではないが、具体的にはメチロール化メラミン膜、ポリウレタン系膜、ポリイミド系膜、等が挙げられ、耐熱面、耐久性を考えると、in situ法によって合成されるメチロール化メラミン膜が特に好ましい。また、本発明はカプセルの徐放効果を有効に作用させることが必要であるため、メラミン膜にウレアやベンゾグアナミンを混合させてカプセル内包物の放出量を調整することも可能である。
【0027】
カプセルを製造する方法は、特に限定されるものではなく、内包物質の性質やカプセルを構成する材料の性質等を考慮して適宜選択される。具体例としては、界面重合法、in situ重合法、相分離法、液中乾燥法、オリフィス法、スプレードライ法、気中懸濁被膜法、ハイブリダンザー法等があげられる。均一な粒径を有するカプセルを製造するためには、カプセルの製造条件を適宜調整することが好ましいが、粒度分布を有するカプセルから、遠心分離法やフィルター法によって均一な粒径を有するカプセルを分離しても良い。
【0028】
〔基油について〕
グリースの基油については、その種類は限定されるものではなく、グリースや潤滑油の基油として一般的に使用される基油であれば使用することができる。
【0029】
基油の具体例としては、鉱油、合成油及び動植物油等があげられる。鉱油としては、減圧蒸留、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて用いることができる。そして、粘度指数が100以上となるように精製した鉱油が好ましいが、粘度指数が120以上となるように精製した鉱油が一層好ましい。
【0030】
合成油としては、合成炭化水素、エステル油、エーテル油、シリコーン油、フッ素油等があげられる。
【0031】
合成炭化水素油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブデン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物等があげられる。また、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン又はモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等の、アルキルナフタレン等もあげられる。
【0032】
また、エステル油としては、ジブチルセバケート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチルアセチルリシノレート等のジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル油、一塩基酸及び二塩基酸の混合脂肪酸と多価アルコールとのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等があげられる。
【0033】
さらに、エーテル油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等があげられる。また、耐熱性を考慮すると、チオエーテル系のエーテル油も好適である。例えば、(ジ)アルキルジフェニルチオエーテル油、(ジ)アルキルポリフェニルチオエーテル油、テトラフェニルチオエーテル油、ペンタフェニルチオエーテル油があげられる。
【0034】
上記以外の合成油としては、トリクレジルフォスフェート、パーフルオロアルキルエーテル油等があげられる。また、動植物油としては、牛脂、豚油、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油又はその水素化物等があげられる。これらの基油は、単独で用いても良いし、2種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0035】
〔増ちょう剤について〕
グリースの増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、用途や使用条件に応じて適宜選択することができる。
【0036】
例えば、金属石鹸(金属は、アルミニウム、バリウム、カルシウム、リチウム、ナトリウム等)や金属複合石鹸(金属はアルミニウム、カルシウム、リチウム等)があげられる。また、ウレア化合物(ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア等)、無機系化合物(シリカゲル、ベントナイト等)、ウレタン化合物、ウレア・ウレタン化合物、ナトリウムテレフタラメート化合物、フッ素樹脂等も使用することができる。
【0037】
〔極圧剤について〕
添加剤としてカプセルに内包する極圧剤の種類は、特に限定されるものではないが、(a)硫黄を含有する化合物からなる極圧剤、(b)リンを含有する化合物からなる極圧剤、(c)ハロゲンを含有する化合物からなる極圧剤のうち、少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
上記(a)の極圧剤としては、硫化鯨油等の硫化油脂類、硫化オレフィン類、メルカプタン類、サルファイド類、スルホキシド類、スルホン類、ジチオカルバミン酸、ジチオホスホン酸等有機硫黄化合物があげられる。これらの中でも、硫化オレフィン類、メルカプタン類、サルファイド類、スルホキシド類、スルホン類、ジチオカルバミン酸、ジチオホスホン酸がより好ましい。
【0039】
硫化オレフィン類は、例えば、炭素数2〜8のオレフィン、又はそれから誘導される低分子量ポリオレフィンの硫化物であり、硫化ペンテン、硫化ブチレン、硫化オクテン等が好ましい。
【0040】
メルカプタン類は、例えば、炭素数4〜20のアルキルメルカプタン及びメルカプト脂肪酸エステルであり、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、第3ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、第3ノニルメルカプタン、第3ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸ブチル、チオプロピオン酸エチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が好ましい。
【0041】
サルファイド類は、例えば、炭素数4〜18の炭化水素類(例えば、アルキル、フェニル、ベンジル、シンナミル、アリル)のモノサルファイド(−S−)、ジサルファイド(−S−S−)、ポリサルファイド(−S−SS−)、であり、ジブチルモノサルフィド、ジブチルジサルファイド、ジフェニルサルファイド、ジベンジルサルファイド等が好ましい。
【0042】
スルホキシド類は、例えば、炭素数4〜20の炭化水素類(例えば、アルキル、フェニル、ベンジル、シンナミル、アリル)のスルホキシドであり、ジブチルスルホキシド、ジベンジルスルホキシド等が好ましい。
【0043】
スルホン類は、例えば、炭素数4〜20の炭化水素類(例えば、アルキル、フェニル、ベンジル、シンナミル、アリル)のスルホンであり、ジブチルスルホン、ジドデシルスルホン、フェニルスルホン等が好ましい。
【0044】
ジチオリン酸、ジチオホスホン酸としては、金属ジヒドロカルビルジチオフォスフェート類、金属ジヒドロカルビルジチオカーバメート類等の金属化合物があげられる。
【0045】
金属ジヒドロカルビルジチオフォスフェート類は、各ヒドロカルビル基が炭素数4〜20の炭化水素である金属ジヒドロカルビルジチオフォスフェートであり、例えば、亜鉛ジメチルジチオフォスフェート、亜鉛ブチルイソオクチルジチオフォスフェート、亜鉛ジ(4−メチル−2−ペンチル)ジチオフォスフェート、亜鉛ジ(テトラプロペニルフェニル)ジチオフォスフェート、亜鉛(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオフォスフェート、亜鉛(イソオクチル)ジチオフォスフェート、亜鉛(エチルフェニル)ジチオフォスフェート、亜鉛(アミル)ジチオフォスフェート、亜鉛ジ(ヘキシル)ジチオフォスフェート等があげられる。
【0046】
金属ジヒドロカルビルジチオフォスフェート類の金属は、亜鉛(Zn)の他、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、ビスマス(Bi)等が好ましい。
【0047】
金属ジヒドロカルビルジチオカーバメート類は、各ヒドロカルビル基が炭素数4〜20の炭化水素である金属ジヒドロカルビルジチオカーバメートであり、例えば、亜鉛ジメチルジチオカーバメート、亜鉛ブチルイソオクチルジチオカーバメート、亜鉛ジ(4−メチル−2−ペンチル)ジチオカーバメート、亜鉛ジ(テトラプロペニルフェニル)ジチオカーバメート、亜鉛(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオカーバメート、亜鉛(イソオクチル)ジチオカーバメート、亜鉛(エチルフェニル)ジチオカーバメート、亜鉛(アミル)ジチオカーバメート、亜鉛ジ(ヘキシル)ジチオカーバメート等があげられる。
【0048】
金属ジヒドロカルビルジチオカーバメート類の金属は、亜鉛(Zn)の他、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)等が好ましい。
【0049】
上記(b)の極圧剤としては、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、正リン酸類、酸性リン酸エステル類、ジチオリン酸類等のリン化合物があげられ、これらの中でも、亜リン酸エステル類、正リン酸エステル類、酸性リン酸エステル類等が好適である。
【0050】
亜リン酸エステル類は、例えば、炭素数1〜18の炭化水素類(例えば、アルキル、フェニル、ベンジル、クレジル、シンナミル、アリル)の亜リン酸エステルであり、トリオクチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリクレンジフォスファイト、ビス−2−エチルヘキシルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、ジブチルハイドロジェンフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、ジラウリルハイドロジェンフォスファイト、ジフェニルモノデシルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、ジフェニルハイドロジェンフォスファイト等が好ましい。
【0051】
正リン酸エステル類は、例えば、炭素数1〜18の炭化水素類(例えば、アルキル、フェニル、ベンジル、クレジル、シンナミル、アリル)の正リン酸エステルであり、トリフェニルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)フォスフェート、トリデシルフォスフェート、ジフェニルモノ(2−エチルヘキシル)フォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリステアリルホスフェート等が好ましい。
【0052】
酸性リン酸エステル類は、例えば、炭素数1〜20のモノ又はジヒドロカルビルアシッドフォスフェートであり、メチルアシッドフォスフェート、イソプロピルアシッドフォスフェート、ブチルアシッドフォスフェート、2−エチルヘキシルアシッドフォスフェート、イソデシルアシッドフォスフェート、トリデシルアシッドフォスフェート、ラウリルアシッドフォスフェート等が好ましい。
【0053】
上記(c)の極圧剤としては、有機ハロゲン化合物があげられ、その中でも、塩素化パラフィン類、塩素化油脂類等の有機塩素化合物が好ましい。塩素化パラフィン類としては、例えば、n−オクチルクロライド、塩化パラフィン、塩化オクタデシルがあげられ、塩素化油脂類としては、例えば、塩化鯨油があげられる。
【0054】
〔その他の添加剤について〕
転がり軸受を含む転動装置用潤滑剤組成物には、極圧剤に限らず、潤滑剤に一般的に使用される各種添加剤を使用することができる。添加剤は、カプセルに内包して潤滑剤組成物に添加しても良いし、カプセルに内包せずに直接添加しても良い。添加剤としては、特に、酸化防止剤、防錆剤、金属腐食防止剤が好ましい。また必要に応じて、添加剤として泡立ち防止剤、着色剤、固体潤滑剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤等を使用しても良い。これらの添加剤は単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。2種以上の添加剤を組み合わせて用いる場合は、1個のマイクロカプセルに複数の添加剤を内包したマイクロカプセルを用いても良い。但し、添加剤同士が化学反応を起こさないことが好ましい。内包する添加剤の種類が異なるマイクロカプセルを複数併用しても良い。
【0055】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ジアルキルジチオカルバミン酸塩化合物等があげられる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン、ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジピリジルアミン、フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、p,p’−ジオクチルフェニルアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、等があげられる。これらの中では、フェニル−α−ナフチルアミンが特に好ましい。
【0056】
また、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−tert−ジブチルフェノール、ジ−tert−ブチルクレゾール等があげられる。これらの中では、2,6−ジ−tert−ジブチルフェノールが特に好ましい。
【0057】
さらに、ジアルキルジチオカルバミン酸塩化合物の具体例としては、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸鉄、ジエチルジチオカルバミン酸セレニウム、ジエチルジチオカルバミン酸テレニウム、及びブチルキサントゲン酸亜鉛等があげられる。これらの中では、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛が特に好ましい。
【0058】
また、防錆剤の具体例としては、アルケニルコハク酸誘導体、スルホン酸塩、ソルビタンモノオレート等があげられる。
【0059】
さらに、金属腐食防止剤の具体例としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体があげられ、油性向上剤の具体例としては、オレイン酸等の脂肪酸や、オレイルアルコール等の脂肪族アルコールがあげられる。さらに、固体潤滑剤の具体例としては、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)があげられ、粘度指数向上剤の具体例としては、ポリメタクリレート、ポロイソブチレンがあげられる。
【0060】
以下、比較例と実施例から本発明をさらに具体的に説明する。
【0061】
表1は、本発明の転がり軸受の各実施例に用いたグリースの組成及び試験結果を示す。表2は、本発明の転がり軸受の各比較例に用いたグリースの組成及び試験結果を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1,2に示した組成のグリースを用いて、以下に示す各試験を行った。なお、軌道面、シール、保持器に封入するグリースの割合、及び各試験によって得られた結果を表1に併記した。表中のカプセル化は、特許文献2を基にして行った。
【0065】
また、本実施例に用いたカプセルの内包物としてSP系添加剤の一つであるイルガルーブ63(カプセル全量に対する内包量は約20重量%;チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を用いた。ベースグリースとしては、基油がエーテル油(40℃における基油動粘度100mm/s)、増ちょう剤としてジウレア化合物であるものを用いた(混和ちょう度260)。
【0066】
以下のような方法で音響(騒音)試験を実施した。
608VV軸受(外径22mm、内径8mm、幅7mm)に、表1,2のグリースを、軸受の軌道面(溝部)と、シール及び保持器部に、表1,2に併記した割合で別々に、合計0.16g封入した。室温にて、内輪回転数を1800rpm、アキシアル荷重3kgfという条件で1分間回転させ、その時のアンデロン値を初期音響値とした。実施例1の測定結果を1として、実施例1に対する相対評価を表1,2に示した。
【0067】
次に、焼付き寿命試験について説明する。
6203VV軸受(外径40mm、内径17mm、幅12mm)に、表1,2のグリースを、軌道面(溝部)と、シール及び保持器部に、表に併記した割合で別々に、合計1.0g封入した。雰囲気温度160℃、内輪回転数を6000rpm、アキシアル荷重20kgfという条件で焼付け寿命試験行った。実施例1での焼付き時間を1として、実施例1に対する相対評価を表1,2に示した。
【0068】
図2は、シール・保持器部用グリースのカプセル配合割合と初期音響比及び焼付き寿命比との関係を示す特性線図である。
【0069】
表1の実施例1,4,5〜7及び比較例3,5の試験結果を用いて、シール及び保持器部に封入するグリースのマイクロカプセルの配合割合(重量%)における、初期音響比及び焼付き寿命比の値の変化を図2に示している。
【0070】
同図において、―◆―は初期音響比、―■―は焼付き寿命比を各々示している。シール及び保持器部に封入するグリースのカプセルの配合割合が20重量%の実施例1と比較して、配合割合が20重量%以下の時は、焼付き寿命比が小さくなっているが、音響比は小さくなるという利点がある。一方、カプセルの配合割合が20重量%の実施例1と比較して、20重量%以上50重量%以下の時は、音響比は大きくなっていくが、焼付き寿命比は実施例1より大きくなるという利点がある。
【0071】
したがって、シール及び保持器部に封入するグリースのカプセルの配合割合が、2重量%以上50重量%以下のAで示す範囲が、実際に使用できる望ましい範囲ということができる。しかし、焼付き寿命比がそれほど小さくならず、音響比がそれほど大きくならない10重量%以上40重量%以下のBで示す範囲で使用するのが、さらに好ましいと言える。
【0072】
したがって、図1に示した転がり軸受のシール5及び保持器4部に封入されるグリースに添加するカプセルのグリース全量に対する配合量は、2重量%以上50重量%未満が好ましい。2重量%未満であるとカプセル内包物質の効果はほとんど得られない。また、50重量%以上とすると初期のグリースが極端に硬くなってしまい、軸受内の流動性が悪くなり、結果としてカプセルから放出される内包物質の効果が得られにくくなる。
【0073】
また、表1の全体的な結果と、表2の比較例1,2,5から、シール5及び保持器4部には、カプセルを添加したグリースが封入規定量の40〜60重量%封入し、残りの60〜40重量%は、カプセルを添加しないグリースを溝(内輪1と外輪2の軌道面1a,2a)に封入するのが好ましいことが分かる。
【0074】
以上説明したように、本発明の転がり軸受には、添加剤を内包したカプセルを配合したグリース組成物が、シール5及び保持器4部に封入されているので、劣化や性能低下が生じにくい。
【0075】
また、従来、潤滑目的でカプセルを使用する場合、小径の軸受等には騒音が問題となって適用が難しかったが、カプセル添加グリースは、軸受内で比較的流動性が少ない部分に封入し、流動性のある軌道面1a,2aには、カプセル無添加グリースを封入することによって、初期の音響を減少させることができるので、小径の軸受でもカプセル添加グリースを使用することが可能となる。このように、本発明は、様々な大きさの軸受にも適用可能となる。
【0076】
シール5内側部や保持器4上にあるカプセルは、少しずつ軌道面1a,2aに入り込み、回転時間の経過と共に破壊されることによって、その内包物が流出して潤滑効果を発揮することができる。また、シール5に残ったままのカプセルは、カプセルが破壊されなくても徐々に内包物質のみを放出していく効果である徐放効果が確認されているため、必要以上に軌道面1a,2aに入り込まなくてもその効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態を示す転がり玉軸受の軸方向断面図である。
【図2】シール・保持器部用グリースのカプセル配合割合と初期音響比及び焼付き寿命比との関係を示す特性線図である。
【符号の説明】
【0078】
1 内輪
1a 内輪軌道面
2 外輪
2a 外輪軌道面
3 玉
4 保持器
5 シール
6 カプセル添加グリース
7 カプセル無添加グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に軌道面を有する内輪と、内周面に軌道面を有する外輪と、これら両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪と外輪との間に前記複数の転動体を保持する保持器と、前記内輪と外輪との間を密封するシールとを備えた転がり軸受において、
前記保持器又は前記シール内側部には、マイクロカプセルが2〜50重量%配合されたグリースが、規定封入量の40〜60重量%封入され、残りの60〜40重量%の前記マイクロカプセルを配合しないグリースが、前記内輪と外輪との軌道面に封入されており、前記マイクロカプセルは、潤滑油又は潤滑剤用添加剤がカプセル全重量に対して10重量%以上内包されていることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−249078(P2008−249078A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93627(P2007−93627)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】