説明

転写体ならびに含浸体およびそれらの製造方法

【課題】本発明では、熱可塑性樹脂フィルムへの略垂直配向カーボンナノチューブ群の転写技術を確立することを目的とする。
【解決手段】下記工程(I)〜(III)を含むことを特徴とする転写体の製造方法;
工程(I):基板1の表面に対して略垂直に形成されているCNT群2の、該基板1の表面に接していない側の先端部2bを、熱可塑性樹脂フィルム3により被覆し、該フィルム3を形成している熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜溶融温度以下の温度に加熱することによって、該先端部2bを該フィルム3中に埋没または該フィルムに貫通させる工程、工程(II):該フィルム3を冷却することによって、該先端部2bと該フィルム3とを接着させ、該基板1と該CNT群2と該フィルム3とが一体となった構成物10を得る工程、および 工程(III):該構成物10から該基板1のみを剥離することによって、該CNT群2と該フィルム3とが一体となった転写体11を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写体ならびに含浸体およびそれらの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、カーボンナノチューブ群を熱可塑性樹脂フィルムに転写した転写体、ならびにカーボンナノチューブ群と熱可塑性材料とからなる含浸体、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板平面に対して略垂直に整列して成長させたカーボンナノチューブ(以下「CNT」ともいう。)群を、用途に応じて任意の基板に転写する技術が種々検討されている。
【0003】
例えば、相変化材料として、2液硬化性のシリコーンゴムや流動性パラフィン、熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させた溶液等の含浸物を基板上の上記CNT群に含浸させた後、この相変化材料を硬化させ、相変化材料(含浸物)で保持された状態のCNT群を基板からカット加工した後、相変化材料の相変化温度以上まで加熱し、その後冷却してCNT群の端部を露頭(exposure)させることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、このように含浸させる方法では、CNT群の先端が含浸物中に埋没するおそれがある。埋没した場合には、必要に応じて余剰の含浸物を研磨等によって除去し、CNT群を露頭させる必要がある。また、埋没させないように作製した場合、硬化した含浸物と基板との密着性が強い場合には固着して剥離する事ができない。また、CNT群と含浸物との複合体(含浸体)が充分な厚みを有さない場合、剥離の工程で含浸体が破壊するおそれがある。
【0005】
一方、特許文献2では、熱可塑性樹脂からなるシートへの転写も検討されており、シートを熱可塑性樹脂の軟化温度以上かつ溶融温度以下に加温して融着させる方法が提示されている。この方法では、CNT群の先端とシートとを接着するので、基板から剥離する際に、厚みが充分なくてもシート自体の補強効果によって容易に基板から剥がす事ができる。
【0006】
しかしながら、特許文献2では、転写の際、シートの温度をシートの軟化温度以上かつ溶融温度以下とする以外の条件は記載されておらず、用途によっては強度が不充分なことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−295120号公報
【特許文献2】特開2004−337731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムへの略垂直配向カーボンナノチューブ(CNT)群の転写技術を確立することを目的とする。
本発明は、従来では基板からの剥離の際に問題があった含浸の方法にも応用することができる、カーボンナノチューブ(CNT)群と熱可塑性樹脂フィルムからなる複合体(転写体)の製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
さらに、本発明は、カーボンナノチューブ(CNT)群中の空隙を他の成分(含浸物)で充填してなる含浸体の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来の含浸による方法のみでは、カーボンナノチューブの長さがミクロンオーダーの場合には、CNT先端の露頭の制御が困難である。さらに、上述のように埋没せずにCNT群に含浸物を含浸できたとしても、基板からの剥離が困難な場合がある。
【0011】
また、特許文献2では熱可塑性樹脂フィルムをCNTと融着する温度条件以外の条件は提示されておらず、転写中または転写後のサンプルに加圧する手法に関する条件も提示されていない。
【0012】
そこで、本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意検討した結果、図1に示すように、(1)転写対象を熱可塑性樹脂フィルム3とすれば、略垂直配向CNT群2の先端部2bを熱可塑性樹脂フィルム3で被覆し、熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に該フィルム3を加熱、好ましくはさらに加圧することによって、該先端部2bを該フィルム3中に埋没または該フィルム3に貫通させることが可能であることを見出し、さらに
(2)得られた転写体11を熱可塑性樹脂フィルム3または含浸物4(ただし、含浸物4が熱可塑性物質の場合に限る。)に、それぞれの樹脂を軟化温度以上〜分解温度未満の温度で加熱、好ましくはさらに加圧するとCNT群2の露頭を制御した含浸体4が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の転写体の製造方法は、下記工程(I)〜(III)を含むことを特徴とする。
工程(I):基板1の表面に対して略垂直に形成されているカーボンナノチューブ群2の、該基板1の表面に接していない側の先端部2bを、熱可塑性樹脂フィルム3により被覆し、該フィルム3を形成している熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に該フィルム3を加熱することによって、該先端部2bを該フィルム3中に埋没または該フィルムに貫通させる工程、
工程(II):該フィルム3を冷却することによって、該先端部2bと該フィルム3とを接着させ、該基板1と該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった構成物10を得る工程、および
工程(III):該構成物10から該基板1のみを剥離することによって、該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった転写体11を得る工程。
【0014】
上記熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度での溶融粘度は、103以上が好ましく、104〜105Pがより好ましく、特に熱可塑性フッ素樹脂であることが好ましい。
【0015】
上記工程(I)の加熱の際、0.01〜5kgf/cm2の面圧で、60分間以内の時間で加圧することが好ましい。
上記工程(II)の冷却は、急冷であっても徐冷であってもよい。
【0016】
また、本発明の転写体は、上記製造方法によって製造されることを特徴とし、本発明の異方導電性シートは、該転写体を用いてなることを特徴とする。
さらに、本発明の管路に気体を導入することによって気体濃度を感知することができるセンサー素子は、上記工程(II)の冷却が急冷である場合、このような製造方法によって製造される転写体を用いてなることを特徴とし、本発明の電界放出電子源は、該工程(II)の冷却が徐冷である場合、このような製造方法によって製造される転写体を用いてなることを特徴とする。
【0017】
本発明の含浸体の製造方法は、上記工程(I)〜(III)、ならびに下記工程(VI)および(VII)を含むことを特徴とし、さらに下記工程(VIII)を含むことが好ましい。
【0018】
工程(VI):該転写体1が有するカーボンナノチューブ群2の空隙に、含浸物4を満たすことによって、該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3と該含浸物4とが一体となった複合材料12を得る工程、
工程(VII):該複合材料12から該フィルム3のみを剥離することによって、該カーボンナノチューブ群2と該含浸物4とが一体となった含浸体13を得る工程、および
工程(VIII):上記工程(VII)で得られた含浸体13を、上記含浸物4の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に加熱することによって、該含浸体13に含まれるカーボンナノチューブ群2の先端部2aを該含浸物4から露出(露頭)させる工程。
【0019】
上記工程(VIII)の加熱の際、0.01〜5kgf/cm2の面圧で、60分間以内の時間で加圧することが好ましい。
上記含浸物は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の含浸体は、上記製造方法によって製造されることを特徴とし、熱伝導シートまたは異方導電性シートに用いることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、略垂直配向したカーボンナノチューブ群を任意の基材に転写することができる転写体(CNT群が熱可塑性樹脂フィルムに略垂直に立設した転写体)の製造方法を提供することができる。
【0022】
転写体はそれ自体、電界放出電子源、異方導電性シートなどとして使用することもできるし、また、他の物質への転写や含浸し、熱伝導シートなどを得るために用いることもできる。
【0023】
また、本発明では、上記転写体に、さらに熱可塑性樹脂フィルム転写することにより二重転写体が得られ、該フィルム面に垂直な方向に配向(縦配向)したカーボンナノチューブ群を含む積層構造(例えば、管路に気体を導入することによって気体濃度を感知することができるセンサー素子など)とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1(a)〜(c)は、本発明の転写体11の製造方法を模式的に示した図であり、図1(a)〜(e)は、本発明の含浸体13の製造方法を模式的に示した図である。
【図2】図2(a)は、矩形状の本発明の転写体11を2枚、該転写体11が有するCNT群2を互いに内側(向き合うように)にして重ね合わせ、転写体11を形成している熱可塑性樹脂フィルム3の両端のみを熱融着することによって壁面を形成し、得られた管路(矢印)を気体(ガス)や液体等が通過(導入)する様を模式的に示した気体濃度を感知することができるセンサー素子14の斜視図を示す。
【0025】
この図2(a)において、管路構造14の表面(管路の外壁としての熱可塑性樹脂フィルム3の表面)にCNT群2は露頭していても、していなくてもよく、管路の片側は閉じて袋状になっていてもよい。
【0026】
図2(b)は、転写体11が有する熱可塑性樹脂フィルム3の一方面にフィルム状の電極5を設け、さらに電極5に熱可塑性樹脂フィルム3の他方面に導出するリード線6を接続したもの(電極付センサー用部材)を2枚準備し、これら電極付センサー用部材のCNT群2を内側にして(互いに向き合うようにして)重ね合わせてなる、管路に気体を導入することによって気体濃度を感知することができるセンサー15の縦断面図を模式的に示したものである。
【0027】
熱可塑性樹脂フィルム3の一方面からのCNT群2の露頭を制御することによって、CNT群2とフィルム状の電極5とは電気的に接続することができる。
また、フィルム状の電極5の、熱可塑性樹脂フィルム3と接する表面にエッチング処理(凸部形成処理)を施すことによって、フィルム状の電極5と熱可塑性樹脂フィルム3とを接合させることができる(アンカー効果)とともに、フィルム状の電極5の凸部が熱可塑性樹脂フィルム3にめり込むため、CNT群2とフィルム状の電極5との電気的な接続が可能となる。なお、フィルム状の電極5は、必ずしもフィルム状である必要はなく、メッシュ状であっても、加圧することで熱可塑性樹脂フィルム3にめり込むため、CNT群2との電気的な接続が可能となる。
【図3】図3は、含浸体13の表面4sと、該表面4sとは反対の表面4s’との間の電気抵抗値を、2端子法による電気測定用機器16を使用して測定する模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の転写体および含浸体の好適な製造方法について図1により具体的に説明する。
なお、図1(a)〜(c)は、本発明の転写体11の製造方法を模式的に示した図であり、図1(a)〜(e)は、本発明の含浸体13の製造方法を模式的に示した図である。
【0029】
<転写体の製造方法>
本発明の転写体の製造方法は、下記工程(I)、(II)および(III)を含むことを特徴とするものであって、さらに下記工程(IV)および(V)を含んでもよい。
【0030】
工程(I):基板1の表面に対して略垂直に形成されているカーボンナノチューブ群2の、該基板1の表面に接していない側の先端部2bを、熱可塑性樹脂フィルム3により被覆し(あるいは該フィルム3の表面と当接させ)、該フィルム3を形成している熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に該フィルム3を加熱することによって、該先端部2bを該フィルム3中に埋没または該フィルムに貫通させる工程。
【0031】
工程(II):上記フィルム3を冷却することによって、上記先端部2bと該フィルム3とを接着(結合)させ、基板1とカーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった構成物10を得る工程。
【0032】
工程(III):上記構成物10から基板1のみを剥離することによって、カーボンナノチューブ群2と上記フィルム3とが一体となった転写体11を得る工程。
工程(IV):上記転写体11が有するカーボンナノチューブ群2の、上記フィルム3の表面に接していない側の先端部2aを、該フィルム3を形成している熱可塑性樹脂と同じであっても異なっていてもよい熱可塑性樹脂(R)からなるフィルムにより被覆し、該熱可塑性樹脂(R)の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に加熱することによって、該先端部2aを該熱可塑性樹脂(R)からなるフィルム中に埋没または該フィルムに貫通させる工程。
【0033】
工程(V):上記熱可塑性樹脂(R)からなるフィルムを冷却することによって、上記先端部2aと該熱可塑性樹脂(R)からなるフィルムとを接着させ、上記転写体11と該熱可塑性樹脂(R)からなるフィルムとが一体となった二重転写体を得る工程。
【0034】
[熱可塑性樹脂フィルムへのCNT群の立設工程(I)]
工程(I)とは、基板1の表面に対して略垂直に形成されているカーボンナノチューブ(CNT)群2の、該基板1の表面に接していない側の先端部2bを、熱可塑性樹脂フィルム3により被覆しあるいは該フィルム3と当接し(図示せず)、該フィルム3を形成している熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に該フィルム3を加熱することによって、該先端部2bを該フィルム3中に埋没または該フィルムに貫通させる工程である。
【0035】
「基板1」としては、従来公知のものを広く使用でき、例えば、シリコン基板やガラス基板などが挙げられる。
本発明において、「基板1の表面に対して略垂直に形成されているCNT群2」は、財団法人 大阪科学技術センターから入手したものを用いた。なお、CNT群の長さは、公称値で50〜150μm、CNTの直径は5〜20nm程度であり、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT;多層CNT)である。なお、CNT群2は、図1(a)に示すように、シリコン基板1の上に略垂直に立っている。
【0036】
加熱する温度が上記範囲内であると、CNT群2の先端部2bが樹脂に確実に固定できることから好適である。
「熱可塑性樹脂フィルム3」は、1層単独で用いても、2層以上を積層して用いてもよい。2層以上を積層する場合、熱可塑性樹脂フィルム3以外の層は、熱可塑性樹脂以外の樹脂から形成されるフィルムであっても、金属箔などであってもよい。ただし、2層以上を積層したものの第1層目(CNT群2の先端部2bが被覆される側)は、熱可塑性樹脂フィルム3である。
【0037】
熱可塑性樹脂フィルム3以外の層が金属箔などの金属層である場合、熱可塑性樹脂フィルム3と金属層とが一体となったものを作製する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム3の、CNT群2の先端部2bが被覆される側とは反対の面に、金属板を接着させるか、またはメッキ処理を施す方法、あらかじめ溶媒に溶解させた熱可塑性樹脂を金属板に塗布・乾燥させて熱可塑性樹脂層を形成する方法などが挙げられる。なお、前者の作製方法において、熱可塑性樹脂フィルム3に金属層を設ける工程は、工程(I)の前であっても、工程(I)と同時であっても、工程(I)の後であってもよい。
【0038】
「熱可塑性樹脂」は、離型性に優れた熱可塑性樹脂が好ましく、軟化温度以上〜分解温度未満の温度での溶融粘度が、望ましくは103P(ポアズ)以上、より望ましくは103〜105P、さらに望ましくは103〜105Pである熱可塑性樹脂がより好ましく、特に熱可塑性フッ素樹脂が好ましい。
【0039】
熱可塑性樹脂の、軟化温度以上〜分解温度未満の温度での溶融粘度が上記範囲内であると、転写時の加熱(好ましくは加熱および加圧)時に、軟化または溶融した熱可塑性樹脂がCNT群2中へ流れ込むこと(毛細管現象)なく、CNT同士の間の微細なナノ空間を保持したまま、CNT群2の先端部2b付近のみで軟化または溶融しCNT群2を転写(保持)できることから好適である。
【0040】
「熱可塑性フッ素樹脂」としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)(PCTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、低融点エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(例えば、旭硝子(株)製の「アフロンLM−ETFE」(商品名))、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。
【0041】
表1に、これら熱可塑性フッ素樹脂の軟化温度および分解温度をまとめる。表中の数値は代表値であり、共重合比が変化することによって取り得る数値は異なる。
なお、本発明において、「軟化温度」とは、ASTM D648に準拠し、0.45MPaで変形し始める温度と定義し、「分解温度」とは、JIS K7120に準拠し、示差熱天秤(TG−DTA)を用いた熱重量測定を行い、初期重量の0.5%に相当する重量が減少した時点での温度と定義する。
【0042】
【表1】

なお、PFAは、モノマーとしてテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとを用いて、懸濁重合、乳化重合または溶液重合により共重合したものであり、本発明において、PFAとしては、テトラフルオロエチレンから導かれる構造単位を1〜99重量%、およびパーフルオロアルキルビニルエーテルから導かれる構造単位を99〜1重量%含有することが好ましい。ただし、テトラフルオロエチレンから導かれる構造単位とパーフルオロアルキルビニルエーテルから導かれる構造単位との合計を100重量%とする。また、PFAは、市販の物を用いてもよく、例えば、住友スリーエム(株)製の「Dyneon PFA」(商品名)、旭硝子(株)製の「Fluon(登録商標)PFA」(商品名)などが好適である。
【0043】
熱可塑性樹脂は、1種単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
また、目的に応じて、他の材料を配合することができる。他の材料としては、例えば、カーボン材料等のフィラーなどが挙げられる。これらのうち、カーボン材料が好ましく、カーボン材料としては、例えば、炭素繊維、カーボンブラック、アセチレンブラックなどが挙げられる。
【0044】
熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜100重量部のフィラーを配合することによって、電気伝導および熱伝導に優れた転写体、複合材料または含浸体を得ることができる。
【0045】
熱可塑性樹脂フィルムの成形法としては、溶融成形法や溶媒に溶解しキャスティング(キャスト成形)法などの従来公知の方法が挙げられ、本発明は特に限定されない。
熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜50μmである。該フィルムの厚さが上記範囲内であると、CNT群2の先端部2bを露出させたい場合に有利であることから好適である。
【0046】
この立設工程(I)における該フィルム3の加熱時には、カーボンナノチューブ(CNT)群2の先端部2bが、加熱状態の熱可塑性樹脂フィルム3の表面よりその内部に埋没または貫通し、該フィルム3をその後冷却させた際に、該フィルム3とCNT群2の先端部2bとが、良好に結合(接着)、付着あるいは突き刺さっており、該フィルム3からCNT群2が脱落、抜け落ちる、CNT群2が折損、崩壊するなどのないようにすることが望ましい。
【0047】
これらのことを考慮すると、この立設工程(I)では、該フィルム3の軟化の程度等を考慮して、必要により、加熱状態の該フィルム3の背後からカーボンナノチューブ群2に向かって該加熱状態のフィルム3と基板1とを適度の圧力、好ましくは0.01〜5kgf/cm2、より好ましくは0.1〜1kgf/cm2の面圧で;好ましくは60分間以内、より好ましくは45分間以内の時間(特に平板プレスで加圧する場合、その時間は10〜60分間が好ましく、10〜45分間がより好ましい。)で加圧することが望ましい。このような面圧で加圧すると、CNT群2が熱可塑性樹脂フィルム3を貫通し、CNT群2の先端部2bが露出させられるため好適である。
加圧方法としては、例えば、平板プレス、ロール押出しなどが挙げられ、本発明はこれらに限定されない。
【0048】
[基板/CNT/フィルム一体化(構成物)形成工程(II)]
工程(II)とは、上記熱可塑性樹脂フィルム3を冷却、好ましくは急冷することによって、上記CNT群2が有する先端部2bと該フィルム3とを接着(結合)させ、上記基板1と該CNT群2と該フィルム3とが一体となった構成物10を得る工程である。
【0049】
なお、本発明において「急冷」とは、例えば、10℃程度またはそれ以下の温度の流水中に浸し、CNT群2の先端部2bを埋没させた熱可塑性樹脂フィルム3を流水と同じ程度の温度まで冷却することをいい、より詳細には、1分間程度で品温から室温まで熱可塑性樹脂フィルム3の温度が低下することが望ましい。
冷却は、上記条件を満たす限り、環境中に放置する自然冷却でも、冷却装置を用いた強制冷却でもよいが、強制空冷が転写体11の品質が良好な点で好ましい。
【0050】
[構成物からの基板剥離工程(III)]
工程(III)とは、上記工程(II)で得られた構成物10を、該構成物10から該基板1のみを剥離することによって、該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった転写体11を得る工程である。
【0051】
上記構成物10から基板1のみを剥離する方法としては、例えば、50〜60℃程度の温水中に浸して剥離する方法、ピンセット等により引っ張って剥離する方法などが挙げられる。これら方法のうち、温水中に浸して剥離する方法が好ましい。この方法によると、基板1とCNT群2と熱可塑性樹脂フィルム3とが一体となった構成物10から基板1を剥離する際、該構成物10が破壊されずに基板1を剥離することができるため好適である。
【0052】
[フィルム/CNT/フィルム一体化形成工程(IV)]
工程(IV)とは、上記工程(III)で得られた転写体11が有するカーボンナノチューブ群2の、上記熱可塑性樹脂フィルム3の表面に接していない側の先端部2aを、該フィルム3を形成している熱可塑性樹脂と同じであっても異なっていてもよい熱可塑性樹脂(R)からなるフィルム(図に示さず)により被覆し、該熱可塑性樹脂(R)の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に加熱することによって、該先端部2aを該熱可塑性樹脂(R)からなるフィルム中に埋没させる工程である。
【0053】
上記「熱可塑性樹脂(R)」としては、上述した「熱可塑性樹脂」と同じであっても異なっていてもよい。
上記「熱可塑性樹脂(R)からなるフィルム」は、1層単独で用いても、2層以上を積層して用いてもよい。2層以上を積層する場合、該フィルム以外の層は、熱可塑性樹脂(R)以外の樹脂から形成されるフィルムであっても、金属箔などであってもよい。ただし、2層以上を積層したものの第1層目(CNT群2の先端部2aが被覆される側)は、熱可塑性樹脂(R)からなるフィルムである。
【0054】
[二重転写体を得る工程(V)]
工程(V)とは、上記熱可塑性樹脂(R)からなるフィルムを冷却、好ましくは急冷することによって、上記先端部2aと該熱可塑性樹脂(R)からなるフィルムとを接着させ、上記転写体11と該熱可塑性樹脂(R)からなるフィルムとか一体となった二重転写体(図に示さず)を得る工程である。
【0055】
<転写体>
本発明の転写体は、上記工程(I)〜(III)を含む「転写体の製造方法」によって製造されることを特徴とするものである。
【0056】
このような転写体は、例えば、管路に気体を導入することによって気体濃度を感知することができるセンサー素子、異方導電性シート(このようなシートは、フィルムや板の形態も含み、板、シートおよびフィルムをまとめて「シート」ということがある。)などに用いることができる。なお、管路に気体を導入することによって気体濃度を感知することができるセンサー素子14の一態様(斜視図)として図2(a)に示すものが挙げられ、またこのような管路構造を有するセンサー15の一態様(縦断面図)として図2(b)に記載したものが挙げられる。
また、本発明の転写体は、上記工程(II)の冷却が徐冷の場合、例えば、電界放出電子源、異方導電性シートなどに用いることができる。
【0057】
<含浸体の製造方法>
本発明の含浸体の製造方法は、下記工程(I)、(II)、(III)、(VI)および(VII)を含む、好ましくは下記工程(I)、(II)、(III)、(VI)、(VII)および(VIII)を含むことを特徴とするものである。
【0058】
なお、含浸体の製造工程において、特に断らない限り、基本的には、上記転写体の製造工程と同一の工程(例えば、工程(I)〜(III))には、同一の工程番号を付し、また、同一の部品、材料等には同一の附番を付している。
【0059】
工程(I):基板1の表面に対して略垂直に形成されているカーボンナノチューブ群2の、該基板1の表面に接していない側の先端部2bを、熱可塑性樹脂フィルム3により被覆し、該フィルム3を形成している熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に加熱することによって、該先端部2bを該フィルム3中に埋没または該フィルム3に貫通させる工程。
【0060】
工程(II):該フィルム3を冷却することによって、該先端部2bと該フィルム3とを接着させ、該基板1と該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった構成物10を得る工程。
【0061】
工程(III):該構成物10から該基板1のみを剥離することによって、該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった転写体11を得る工程。
工程(VI):該転写体1が有するカーボンナノチューブ群2の空隙に、含浸物4を満たすことによって、該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3と該含浸物4とが一体となった複合材料12を得る工程。
【0062】
工程(VII):該複合材料12から該フィルム3のみを剥離することによって、該カーボンナノチューブ群2と該含浸物4とが一体となった含浸体13を得る工程。および
工程(VIII):上記工程(VII)で得られた含浸体13を、上記含浸物4の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に加熱することによって、該含浸体13に含まれるカーボンナノチューブ群2の先端部2aを該含浸物4から露出させる工程。
【0063】
[工程(I)、(II)および(III)]
工程(I)、(II)、(II’)および(III)は、それぞれ上記「転写体の製造方法」に記載した工程(I)、(II)、(II’)および(III)と同様である。
【0064】
[含浸物冷却による複合材料形成工程(VI)]
工程(VI)とは、上記工程(III)で得られた転写体11が有するCNT群2の空隙に、含浸物4を満たすことによって、該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3と該含浸物4とが一体となった複合材料12を得る工程である。
【0065】
このような含浸物4は、熱可塑性樹脂が好ましく、溶融粘度が103P以下の熱可塑性樹脂がより好ましい。
「熱可塑性樹脂」としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドなどであってもよく、熱可塑性フッ素樹脂であってもよい。
【0066】
「熱可塑性フッ素樹脂」の例示としては、上述したものが挙げられる。また、熱可塑性フッ素樹脂は、市販の物を用いてもよく、例えば、住友スリーエム(株)製の「THV220A」(商品名)などが好適である。
【0067】
含浸物4をCNT群2の空隙に満たす方法としては、熱可塑性樹脂を溶融させてCNT群2に流し込む方法であってもよく、例えば2−ブタノンなどの溶媒に溶解してCNT群2に流し込み、その後溶媒を揮発させる方法であってもよい。前者の方法の場合、熱可塑性樹脂の溶融粘度が103P以下であると、溶融温度以上〜分解温度未満の熱可塑性樹脂を、転写体11が有するCNT群2の空隙に短時間で満たすことができるので好適である。
【0068】
含浸物4は、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
また、含浸物4には、例えば、カーボン材料等のフィラーなどの他の材料が配合されていてもよい。
「他の材料」の好ましい態様およびその理由は、熱可塑性樹脂の項で述べたことと同様である。
【0069】
[フィルム剥離による含浸体形成工程(VII)]
工程(VII)とは、上記工程(VI)で得られた複合材料12から上記熱可塑性樹脂フィルム3のみを剥離することによって、上記カーボンナノチューブ群2と該含浸物4とが一体となった含浸体13を得る工程である。
【0070】
熱可塑性樹脂フィルム3の剥離条件としては、上述したように、用いられたフィルム3を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度での、該フィルム3の再加熱でCNT群2が良好に該フィルム3から剥離(脱離)可能であるような条件であることが望ましい。
【0071】
[加熱によるCNT先端部露頭工程(VIII)]
工程(VIII)とは、上記工程(VII)の後に含まれることが好ましく、上記工程(VII)で得られた含浸体13を、上記含浸物4の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に加熱することによって、該含浸体13に含まれるカーボンナノチューブ群2の先端部2aを該含浸物4から露出(露頭)させる工程である。
【0072】
該含浸体13の軟化の程度等を考慮して、必要により、加熱状態の含浸体13を適度の圧力、好ましくは0.01〜5kgf/cm2、より好ましくは0.1〜1kgf/cm2の面圧で;好ましくは60分間以内、より好ましくは45分間以内の時間(特に平板プレスで加圧する場合、その時間は10〜60分間が好ましく、10〜45分間がより好ましい。)で加圧することが望ましい。このような面圧で加圧すると、CNT群2が含浸物4を貫通し、CNT群2の先端部2aが露出させられるため好適である。
【0073】
加圧方法としては、例えば、平板プレス、ロール押出しなどが挙げられ、本発明はこれらに限定されない。
なお、本発明において、「露頭」とは、図1(d)のXに示すように、含浸物4の表面4sからCNT群2の先端部2aが完全に露出する、または含浸物4の表面4sの高さと、CNT群2の先端部2aの高さとが同程度であることを意味する。
【0074】
電気的な意味での露頭の程度については、後述する。
このようにカーボンナノチューブ群2が含浸物4から露頭(露出)し、さらには突出していると、最終的に得られた本発明の含浸体13を、電気機器(例:半導体製造装置など)、電子部品等の放熱シート、冷却シートなどの熱伝導シートとして用いる際に、放熱シートの等の表面に接する半導体チップなどの熱を効率良く系外に放出できるため好ましい。
【0075】
また、本発明の含浸体13を、例えば、温度センサー、感圧センサーなどとして用いる際に、感度(精度)よく、温度検知や圧力検知できるため好ましい。
その他、本発明の含浸体13を、異方導電性膜として用いると、微細な配線間隔に対応できるため好適である。
【0076】
<含浸体>
本発明の含浸体は、上記「含浸体の製造方法」によって製造されることを特徴とするものである。
【0077】
このような含浸体は、従来品に比して、電気および熱等の伝導媒体であるカーボン材料が極めて高い精度で配向しているという特徴を有しており、例えば、熱伝導シート、異方導電性シート、半導体チップや電子部品の放熱シートなどに好適に用いることができる。
【0078】
本発明の含浸体において、カーボンナノチューブ群2の露頭の程度として、含浸物4の表面4sと、該表面4sとは反対の表面4s’との'間の電気抵抗値を、2端子法により測定した場合(図3に示す。)、電気抵抗値が103Ω以下であるとき、例えば、電気伝導性に優れるため異方導電性膜などの用途に好適であり、電気抵抗値が104〜106Ωであるとき、例えば、熱伝導性に優れるため熱伝導シートなどの用途に好適であり、電気抵抗値が107Ω以上であるとき、例えば、絶縁性に優れるため、電気回路と直に接する熱伝導シートなどの用途に好適である。
【実施例】
【0079】
次に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
得られた転写体11、複合材料12および含浸体13が有するCNT群2の露頭の程度、工程(III)における基板1の剥離性、ならびに含浸体13が有するCNT群2の分布性を以下のように評価した。
【0080】
(カーボンナノチューブ群2の露頭の程度)
CNT群2の露頭の程度は、転写体11が有する熱可塑性フィルム3の表面3sとCNT群先端2aとの間;複合材料12が有する含浸物4の表面4sと熱可塑性フィルム3の表面3sとの間;および、含浸体13が有する含浸物4の表面4sと該表面4sとは反対の表面4s’との間(図3に示す。);のそれぞれの電気抵抗値を、2端子法により測定し、下記にしたがい評価した。なお、表面3s、4sまたは4s’に電気抵抗測定用端子を接触させる際、CNT群2が完全に露頭している場合、該端子は、CNT群先端2aまたは2bに接触した状態となっている。
A:電気抵抗値が103Ω以下である。
B:電気抵抗値が104〜106Ωである。
C:電気抵抗値が107Ω以上である。
【0081】
(基板1の剥離性)
基板1の離型性は、工程(III)において、CNT群2と熱可塑性樹脂フィルム3とが一体となった構成物10から基板1を剥離する際、転写体11が破壊されずに得られた場合を「○」と評価し、転写体11が破壊されたか、または該構成物10と基板1とが固着して剥離できなかった場合を「×」と評価した。
【0082】
(含浸体13が有するCNT群2の分布性)
含浸体13が有するCNT群2の分布性は、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡で観察して均一に分布された場合を「○」と評価し、不均一(例えば、斑状など)に分布された場合を「×」と評価した。
【0083】
[実施例1]
工程(I)として、基板1の表面に対して略垂直に形成されているCNT群2(カーボンナノチューブ群の長さは、約100μmであった。)の、該基板1の表面に接していない側の先端部2bを、熱可塑性樹脂フィルム3として、厚さ12.5μmのPFAフィルム(ダイキン工業(株)製の「AF00125」)により被覆し、350℃に加熱することによって、CNT群2の先端部2bをPFAフィルム中に埋没させた。
【0084】
工程(II)として、PFAフィルムを冷却することによって、CNT群2の先端部2bとPFAフィルムとを接着させ、基板1とCNT群2とPFAフィルムとが一体となった構成物10を得た。
【0085】
工程(III)として、該構成物10を60℃の温水中に入れ、該構成物10から基板1のみを剥離することによって、転写体11を得た。
得られた転写体11が有するCNT群2の露頭の程度、および工程(III)における基板1の剥離性の評価結果を表2に示す。
【0086】
[実施例2]
実施例1において、PFAフィルム(厚さ12.5μm)の代わりに、厚さ25μmのPFAフィルム(ダイキン工業(株)製の「AF00250」)を用いた以外は実施例1と同様にして転写体11を得た。得られた転写体11の評価結果を表2に示す。
【0087】
[実施例3]
実施例2において、工程(I)の加熱の際、3kgf/cm2の面圧で10分間加圧を行った以外は実施例2と同様にして転写体11を得た。得られた転写体11の評価結果を表2に示す。
【0088】
[実施例4]
実施例1において、PFAフィルムの代わりに、粒子状の熱可塑性フッ素樹脂(住友スリーエム(株)製の「THV220A」)と炭素繊維(帝人(株)製の「R−A301」)とを2−ブタノンに溶解させ、均一に混合し、キャスト法により厚さ50μmのフィルム状に成形したもの(該熱可塑性フッ素樹脂が90重量%、炭素繊維が10重量%含有されている。)を用い、さらに工程(I)の加熱する温度を200℃に変更した以外は実施例1と同様にして転写体11を得た。
得られた転写体11の評価結果を表2に示す。
【0089】
[実施例5]
工程(VI)として、実施例1で得られた転写体11が有するCNT群2の空隙に、溶融した含浸物4として、実施例4で用いた熱可塑性フッ素樹脂を満たした後に冷却することによって、複合材料12を得た。
得られた複合材料12の評価結果を表2に示す。
【0090】
[実施例6]
まず、実施例3において、厚さ25μmのPFAフィルム(AF00250)の代わりに厚さ12.5μmのPFAフィルム(AF00125)を用いた以外は実施例3と同様にして転写体11を得た。
【0091】
工程(VI)として、得られた転写体11が有するCNT群2の空隙に、溶融した含浸物4として、実施例4で用いた熱可塑性フッ素樹脂を満たした後に冷却することによって、複合材料12を得た。
得られた複合材料12の評価結果を表2に示す。
【0092】
[実施例7]
工程(VII)として、実施例5で得られた複合材料12からPFAフィルムのみを剥離することによって、含浸体13を得た。
得られた含浸体13の評価結果を表2に示す。
【0093】
[実施例8]
まず、実施例5において、含浸物4として、粒子状の熱可塑性フッ素樹脂(住友スリーエム(株)製の「THV220A」)と炭素繊維(帝人(株)製の「R−A301」)とを2−ブタノンに溶解し、均一に混合した後、2−ブタノンを除去したもの(該熱可塑性フッ素樹脂が90重量%、炭素繊維が10重量%含有されている。)を用いた以外は実施例5と同様にして複合材料12を得た。
【0094】
工程(VII)として、得られた複合材料12からPFAフィルムのみを剥離することによって、含浸体13を得た。
得られた含浸体13の評価結果を表2に示す。
【0095】
[実施例9]
実施例1において、工程(II)の冷却を急冷(1分間流水中に浸し、室温と同程度の温度まで低下させた。)に変更した以外は実施例1と同様にして転写体11を得た。
得られた転写体11の評価結果を表2に示す。
【0096】
[実施例10]
実施例2において、工程(I)の加熱する温度を250℃に変更した以外は実施例2と同様にして転写体11を得た。
得られた転写体11の評価結果を表2に示す。
【0097】
[実施例11]
実施例3において、工程(I)の加熱する温度を250℃に変更した以外は実施例3と同様にして転写体11を得た。
得られた転写体11の評価結果を表2に示す。
【0098】
[参考例1]
まず、基板1の表面に対して略垂直に形成されているCNT群2の空隙に、溶融した2液硬化性シリコーンゴム(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「TSE3032」)を満たした後に冷却することによって、複合材料12を得た。
【0099】
次に、得られた複合材料12から基材1のみを剥離することによって、含浸体13を得た。
得られた含浸体13の評価結果を表2に示す。
【0100】
[比較例1]
参考例1において、シリコーンゴムの代わりに、2−ブタノンを除去した熱可塑性フッ素樹脂(THV220A)を用いた以外は参考例1と同様にして含浸体13を得た。
得られた含浸体13の評価結果を表2に示す。
【0101】
[比較例2]
実施例9において、急冷する代わりに徐冷(25℃の空気中で60分間自然放冷した。)した以外は実施例9と同様にして転写体11を得た。
得られた転写体11の評価結果を表2に示す。
【0102】
【表2】

実施例9の熱可塑性樹脂フィルム転写後の冷却方法として、急冷した方が樹脂が瞬時に硬化するため転写されたカーボンナノチューブ群2が均一に転写されたことがわかった。
【0103】
一方、比較例5のように徐冷(空冷)すると、樹脂が徐々に硬化(収縮)するため、その応力によりカーボンナノチューブ群2が斑状に転写された。これは、カーボンナノチューブ群2が基板1の表面に均一に分布していないことが要因と推定される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の転写体11は、管路構造を有するセンサーなどに好適であり、本発明の含浸体13は、熱伝導シートなどに好適である。
【符号の説明】
【0105】
1・・・・・・基板(材質:シリコン基板)
2・・・・・・カーボンナノチューブ群
2a・・・・・・カーボンナノチューブ群の基板1側先端部
2b・・・・・・カーボンナノチューブ群の他端側先端部
3・・・・・・熱可塑性樹脂フィルム
3s・・・・・・熱可塑性樹脂フィルム3の表面
4・・・・・・含浸物
4s・・・・・・含浸物4の表面
4s’・・・・・・含浸物4の表面4sとは反対の表面
X・・・・・・CNT群2の露頭
5・・・・・・電極
6・・・・・・リード線
10・・・・・・基板1とCNT群2と熱可塑性樹脂フィルム3とが一体となった構成物
11・・・・・・転写体
12・・・・・・複合材料
13・・・・・・含浸体
14・・・・・・管路に気体を導入することによって気体濃度を感知することができるセンサー素子
15・・・・・・管路に気体を導入することによって気体濃度を感知することができるセンサー
16・・・・・・2端子法による電気抵抗測定用機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(I)〜(III)を含むことを特徴とする転写体の製造方法;
工程(I):基板1の表面に対して略垂直に形成されているカーボンナノチューブ群2の、該基板1の表面に接していない側の先端部2bを、熱可塑性樹脂フィルム3により被覆し、該フィルム3を形成している熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に該フィルム3を加熱することによって、該先端部2bを該フィルム3中に埋没または該フィルム3に貫通させる工程、
工程(II):該フィルム3を冷却することによって、該先端部2bと該フィルム3とを接着させ、該基板1と該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった構成物10を得る工程、および
工程(III):該構成物10から該基板1のみを剥離することによって、該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった転写体11を得る工程。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度での溶融粘度が、103〜105Pであることを特徴とする請求項1に記載の転写体の製造方法。
【請求項3】
上記熱可塑性樹脂が、熱可塑性フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の転写体の製造方法。
【請求項4】
上記工程(I)の加熱の際、0.01〜5kgf/cm2の面圧で、60分間以内の時間で加圧することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転写体の製造方法。
【請求項5】
上記工程(II)の冷却が、急冷であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転写体の製造方法。
【請求項6】
上記工程(II)の冷却が、徐冷であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転写体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって製造されることを特徴とする転写体。
【請求項8】
請求項7に記載の転写体を用いてなることを特徴とする異方導電性シート。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって製造される転写体を用いてなることを特徴とする管路に気体を導入することによって気体濃度を感知することができるセンサー素子。
【請求項10】
請求項1〜4および6のいずれかに記載の製造方法によって製造される転写体を用いてなることを特徴とする電界放出電子源。
【請求項11】
下記工程(I)〜(V)を含むことを特徴とする含浸体の製造方法;
工程(I):基板1の表面に対して略垂直に形成されているカーボンナノチューブ群2の、該基板1の表面に接していない側の先端部2bを、熱可塑性樹脂フィルム3により被覆し、該フィルム3を形成している熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に該フィルム3を加熱することによって、該先端部2bを該フィルム3中に埋没または該フィルム3に貫通させる工程、
工程(II):該フィルム3を冷却することによって、該先端部2bと該フィルム3とを接着させ、該基板1と該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった構成物10を得る工程、
工程(III):該構成物10を温水中に入れ、該構成物10から該基板1のみを剥離することによって、該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3とが一体となった転写体11を得る工程、
工程(VI):該転写体1が有するカーボンナノチューブ群2の空隙に、含浸物4を満たすことによって、該カーボンナノチューブ群2と該フィルム3と該含浸物4とが一体となった複合材料12を得る工程、および
工程(VII):該複合材料12から該フィルム3のみを剥離することによって、該カーボンナノチューブ群2と該含浸物4とが一体となった含浸体13を得る工程。
【請求項12】
さらに、下記工程(VIII)を含むことを特徴とする請求項11に記載の含浸体の製造方法;
工程(VIII):上記工程(VII)で得られた含浸体13を、上記含浸物4の軟化温度以上〜分解温度未満の温度に加熱することによって、該含浸体13に含まれるカーボンナノチューブ群2の先端部2aを該含浸物4から露出させる工程。
【請求項13】
上記熱可塑性樹脂の軟化温度以上〜分解温度未満の温度での溶融粘度が、103〜105Pであることを特徴とする請求項11または12に記載の転写体の製造方法。
【請求項14】
上記熱可塑性樹脂が、熱可塑性フッ素樹脂であることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の含浸体の製造方法。
【請求項15】
上記工程(I)および/または(VIII)の加熱の際、0.01〜5kgf/cm2の面圧で、60分間以内の時間で加圧することを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の含浸体の製造方法。
【請求項16】
上記工程(II)の冷却が、急冷であることを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の含浸体の製造方法。
【請求項17】
上記工程(II)の冷却が、徐冷であることを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の含浸体の製造方法。
【請求項18】
上記含浸物4が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項11〜17のいずれかに記載の含浸体の製造方法。
【請求項19】
請求項11〜18のいずれかに記載の製造方法によって製造されることを特徴とする含浸体。
【請求項20】
熱伝導シートまたは異方導電性シートに用いられることを特徴とする請求項19に記載の含浸体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−240871(P2010−240871A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88987(P2009−88987)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】