説明

転写体の製造方法、光硬化性組成物、および微細構造体の製造方法

【課題】転写体の製造方法、光硬化性組成物、および該光硬化性組成物を用いた微細構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成しうる含フッ素単量体(A)および重合開始剤(B)を含有する硬化性組成物を、最小寸法が50μm以下のパターンが表面に形成されたモールドと接触した状態で硬化させるモールドのパターンが転写された転写体の製造方法、ならびに微細パターンの反転パターンを有するモールドの該反転パターン面と、基材表面との間に挟持して押圧した後に光照射により硬化することによって、微細パターンを表面に有する硬化物を形成する光硬化性組成物であり、かつ主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成する、たとえばCF=CFCFC(CF)(OH)CHCH=CHと光重合開始剤を含み実質的に溶媒を含まない光硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドの微細パターンが転写された転写体の製造方法、光硬化性組成物、および該光硬化性組成物を用いた微細構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造において、50μm以下の微細なパターンの形成および生産性を両立させる技術として、基板上に設けられた転写層に、モールドの微細パターンを転写する技術、いわゆるナノインプリント技術が知られている(特許文献1〜5参照)。また、微細なパターンを寸法精度よく転写する技術として、転写層に紫外線硬化性樹脂を使用した室温でのナノインプリント技術が知られている(特許文献6、7参照)。
【0003】
しかし、転写層に紫外線硬化性樹脂を使用したナノインプリント技術の場合、紫外線硬化樹脂がモールドに密着してしまうため、モールドの表面にフッ素系または珪素系の離型剤を塗布する手間が必要であった。また、離型剤自体の膜厚、離型剤の塗布ムラ等により、モールドのパターンを精密に転写することは困難であった。また、離型剤の一部がモールドから剥離する等、離型剤に寿命があることから、大量生産時に連続して精密にパターンを転写することは困難であった。
【0004】
また、通常の紫外線硬化性樹脂の硬化物は、透明性等の光学的特性が不充分であり、光導波路等の光学素子用の材料に適していなかった。
【0005】
光学的特性に優れた材料としては、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が知られている(特許文献8参照)。そして、この含フッ素重合体を加工した光導波路が知られている(特許文献9参照)。
【0006】
特許文献9におけるパターン形成方法としては、フォトリソグラフィー法が用いられている。しかし、フォトリソグラフィー法は、成膜、エッチング、後処理等の多くの工程が必要であり、生産性に劣っていた。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5772905号明細書
【特許文献2】特開2000−323461号公報
【特許文献3】特開2003−155365号公報
【特許文献4】米国特許第6482742号明細書
【特許文献5】米国特許第6719915号明細書
【特許文献6】米国特許第6696220号明細書
【特許文献7】特開2004−71934号公報
【特許文献8】特開2000−1511号公報
【特許文献9】特開2000−81519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、モールドのパターンを連続して精密に転写でき、かつ光学的特性に優れる転写体を生産性よく得ることができる転写体の製造方法を提供することにある。また本発明の目的は、微細構造体を形成する光硬化性組成物、および該光硬化性組成物を用いた微細構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の転写体の製造方法は、モールドのパターンが転写された転写体の製造方法であって、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成しうる含フッ素単量体(A)および重合開始剤(B)を含有する硬化性組成物を、最小寸法が50μm以下のパターンが表面に形成されたモールドと接触した状態で硬化させることを特徴とする。
【0010】
前記含フッ素単量体(A)は、炭素−炭素2重結合を2つ有する線状の含フッ素単量体、または炭素−炭素2重結合および含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ炭素−炭素2重結合を構成する少なくとも1つの炭素原子が含フッ素脂肪族環構造の一部を構成する含フッ素単量体を含有することが好ましい。
【0011】
前記重合開始剤(B)は、光重合開始剤であることが好ましい。
【0012】
本発明の光硬化性組成物は、微細パターンの反転パターンを有するモールドの該反転パターン面と、基材表面との間に挟持して押圧した後に硬化させることによって、硬化物の微細パターンを基材表面に形成するための光硬化性組成物であり、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を重合により形成する下式(z)で表されるモノマーと光重合開始剤を含み、かつ実質的に溶媒を含まないことを特徴とする。
CF=CX−Y−CX=CH (z)。
【0013】
式中の基は、下記の意味を示す(以下同様。)。
,X:それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基。
Y:メチレン、ジメチレンおよびトリメチレンから選ばれる基を主鎖とし、該主鎖中の水素原子が、フッ素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数1〜6のアルキル基、および炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基からなる群から選ばれる基で置換された基であり、かつ該基中の炭素原子−水素原子結合を形成する水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された基。
【0014】
前記微細パターンは、凹凸構造からなり、凸構造部の高さの平均が1nm〜500μmであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の転写体の製造方法によれば、モールドのパターンを転写体に連続して精密に転写できる。また、本発明の転写体の製造方法によれば、光学的特性に優れる転写体を生産性よく製造できる。本発明の光硬化性組成物は、光重合開始剤に対して相溶性の高い特定のフルオロモノマーと光重合開始剤とを必須とすることから、均一な組成物となり相分離の問題もない。よって、本発明の硬化性組成物からは硬度等の物性に優れた硬化物を容易に形成できる。また本発明の光硬化性組成物とその硬化物は、離型性に優れることからモールドからの剥離が容易であり微細パターンを高精度に転写できる。したがって、光硬化性組成物の硬化物の微細パターンが表面に形成された基材からなる微細構造体を容易かつ高精度に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の転写体の製造方法は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成しうる含フッ素単量体(A)(以下、単に含フッ素単量体(A)とも記す。)および重合開始剤(B)を含有する硬化性組成物を、最小寸法が50μm以下のパターンが表面に形成されたモールドと接触した状態で硬化させる方法であり、たとえば、図1に示すように、硬化性組成物11を基板12上に塗布する工程(以下、塗布工程と記す。)と、図2に示すように、表面に凹凸パターン13が形成されたモールド14を、凹凸パターン13が硬化性組成物11に接触するように、基板12上の硬化性組成物11に押しつける工程(以下、型押し工程と記す。)と、モールド14を硬化性組成物11に押しつけた状態で硬化性組成物11を硬化させる工程(以下、硬化工程と記す。)と、図3に示すように、モールド14の凹凸パターン13に対応した凹凸パターン15が転写された硬化性組成物の硬化物16からモールド14を分離する工程(以下、離型工程と記す。)とを有する方法である。
【0017】
<塗布工程>
硬化性組成物11を基板12上に塗布する方法としては、ポッティング法、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法、ダイコート法、ラングミュアープロジェット法、真空蒸着法等が挙げられる。
【0018】
基板12がモールド14よりも大きい場合、硬化性組成物11を基板12全面に塗布してもよいし、モールド14を型押しする範囲のみに硬化性組成物11が存在するように、硬化性組成物11を基板12の一部に塗布してもよい。
【0019】
(基板)
基板12としては、シリコンウェハ、ガラス、石英ガラス、金属等の無機材料からなる基板;フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機材料からなる基板等が挙げられる。硬化性組成物11との密着性を向上させるために、基板12に、粗面処理、シランカップリング処理、シラザン処理等の表面処理を施してもよい。
【0020】
(硬化性組成物)
硬化性組成物11は、含フッ素単量体(A)、および重合開始剤(B)を含有するものであり、必要に応じてフッ素原子を含まない重合性化合物(C)(以下、他の重合性化合物(C)とも記す。)、光増感剤(D)、溶剤(E)、含フッ素単量体(A)以外の含フッ素化合物(F)をさらに含有していてもよい。
【0021】
(含フッ素単量体(A))
含フッ素単量体(A)は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成しうるものであればよい。「主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する」とは、脂肪族環を構成する炭素原子の1つ以上が、含フッ素重合体の主鎖の一部を構成していることを意味する。また、該脂肪族環を構成する原子の一部が酸素原子であってもよい。
【0022】
含フッ素単量体(A)としては、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成しうる、炭素−炭素2重結合を2つ有する線状の含フッ素単量体(A1)(以下、含フッ素単量体(A1)とも記す。);炭素−炭素2重結合および含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ炭素−炭素2重結合を構成する少なくとも1つの炭素原子が含フッ素脂肪族環構造の一部を構成する含フッ素単量体(A2)(以下、含フッ素単量体(A2)とも記す。)が好ましい。
【0023】
含フッ素単量体(A1)としては、下式(1)で表される含フッ素単量体(以下、モノマー1と記す。)が好ましい。含フッ素単量体(A2)としては、下式(2)または下式(3)で表される、炭素−炭素2重結合を1つ有する含フッ素単量体(以下、それぞれモノマー2、モノマー3と記す。)、下式(4)または下式(5)で表される、炭素−炭素2重結合を2つ有する含フッ素単量体(以下、それぞれモノマー4、モノマー5と記す。
)が好ましい。
【0024】
【化1】

【0025】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
【0026】
モノマー1中、R11、R12、R13、R14、R15、およびR16は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基、または炭素数1〜3のポリフルオロアルキル基を表し、少なくとも1つはフッ素原子である。Q11およびQ12は、それぞれ独立に、単結合、酸素原子、メチレン基、ジフルオロメチレン基、オキシジフルオロメチレン基、もしくはフッ素原子、炭素数1〜3のペルフルオロアルキル基または炭素数1〜3のペルフルオロアルコキシ基で置換されたメチレン基を表し、R17は、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、または炭素数1〜3のポルフルオロアルキル基を表し、R18は、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、もしくは炭素数1〜3のポリフルオロアルキル基、水酸基、スルホニル基、チオール基、カルボキシル基、およびアミノ基から選ばれる官能基を有する炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基を表す。
【0027】
モノマー2中、R21およびR22は、それぞれ独立に、フッ素原子、飽和の1価含フッ素有機基、またはこれらが共同で形成する2価含フッ素有機基(Q21)を表し、R23は、フッ素原子または飽和の1価含フッ素有機基を表し、Q22は、エーテル性酸素原子またはジフルオロメチレン基を表す。
【0028】
21、R22、およびR23としては、それぞれ独立に、フッ素原子、エーテル性酸素原子を有してもよいポリフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有してもよいポリフルオロアルコシキ基が好ましく、フッ素原子、炭素数1〜2のペルフルオロアルキル基、または炭素数1〜2のペルフルオロアルコキシ基が特に好ましい。
【0029】
21とR22とが2価含フッ素有機基(Q21)を形成する場合、Q21としては、炭素−炭素結合間にヘテロ原子(エーテル性酸素原子が好ましい。)が挿入された構造を2個以上含む含フッ素アルキレン基が好ましい。該基は直鎖構造であってもペルフロオロアルキル基を分岐部分とする分岐構造の基であってもよい。
【0030】
モノマー3中、R31およびR32は、それぞれ独立に、フッ素原子または飽和の1価含フッ素有機基を表す。
【0031】
31およびR32としては、それぞれ独立に、フッ素原子、エーテル性酸素原子を有してもよいポリフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有してもよいポリフルオロアルコシキ基が好ましく、フッ素原子、炭素数1〜2のペルフルオロアルキル基、または炭素数1〜2のペルフルオロアルコキシ基が特に好ましい。
【0032】
モノマー4中、Q41は、単結合、酸素原子、またはエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基を表す。
【0033】
モノマー5中、Q51およびQ52は、それぞれ独立に、単結合、酸素原子、またはエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基を表す。
【0034】
モノマー1としては、たとえば、下式のものが挙げられる。
CF=CFCFCF=CF
CF=CFOCFCF=CF
CF=CFOCFCFCF=CF
CF=CFOCF(CF)CFCF=CF
CF=CFOCFCF(CF)CF=CF
CF=CFOCFOCF=CF
CF=CFOCFCF(CF)OCFCF=CF
CF=CFCFC(OH)(CF)CHCHCH=CH
CF=CFCFC(OH)(CF)CHCH=CH
CF=CFCFC(OH)(CF)CH=CH
CF=CFCFC(OH)(OCHOCH)CHCH=CH
CF=CFCHCH(C(CFOH)CHCH=CH
CF=CFCHCH(CHC(CFOH)CHCH=CH
CF=CFCHCH(CHCHC(CFOH)CHCH=CH
CF=CFCHCH(COOCH)CHCH=CH
【0035】
モノマー2としては、たとえば、下式のものが挙げられる。
【0036】
【化2】

【0037】
モノマー3としては、たとえば、下式のものが挙げられる。
【0038】
【化3】

【0039】
モノマー4としては、たとえば、下式のものが挙げられる。
【0040】
【化4】

【0041】
含フッ素単量体(A)のフッ素含有量は、40〜70質量%が好ましく、45〜65質量%が特に好ましい。含フッ素単量体(A)のフッ素含有量を40質量%以上とすることで、硬化後の硬化性組成物11(硬化物16)がモールド14に密着することなく、離型性がさらによくなる。含フッ素単量体(A)のフッ素含有量を70質量%以下とすることで、含フッ素単量体(A)と重合開始剤(B)との相溶性がよくなり、硬化が均一に進行する。本発明におけるフッ素含有量とは、含フッ素単量体(A)を構成するすべての原子に占めるフッ素原子の質量割合である。
【0042】
(重合開始剤(B))
重合開始剤(B)としては、光重合開始剤、熱重合開始剤等が挙げられる。本発明においては、得られるパターンの寸法精度がよいことから、光重合方式による硬化が好適である。よって、重合開始剤(B)としては、光重合開始剤が好ましい。
【0043】
光重合開始剤は、光によりラジカル反応またはイオン反応を引き起こすものであり、ラジカル反応を引き起こす光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤としては、下記の光重合開始剤が挙げられる。
【0044】
アセトフェノン系の光重合開始剤:アセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、クロロアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2’−フェニルアセトフェノン、2−アミノアセトフェノン、ジアルキルアミノアセトフェノン等。
【0045】
ベンゾイン系の光重合開始剤:ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール等。
【0046】
ベンゾフェノン系の光重合開始剤:ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシプロピルベンゾフェノン、アクリルベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、ペルフルオロベンゾフェノン等。
【0047】
チオキサントン系の光重合開始剤:チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ジメチルチオキサントン等。
【0048】
その他の光重合開始剤:α−アシルオキシムエステル、ベンジル−(o−エトキシカルボニル)−α−モノオキシム、アシルホスフィンオキサイド、グリオキシエステル、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、テトラメチルチウラムスルフィド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート等。
【0049】
フッ素原子を有する光重合開始剤:ペルフルオロtert−ブチルペルオキシド、ペルフルオロベンゾイルペルオキシド等。
【0050】
熱重合開始剤としては、10時間半減温度が30〜130℃である含フッ素有機過酸化物が好ましい。10時間半減温度とは、熱重合開始剤が熱分解し10時間で熱重合開始剤の質量が半分となるのに必要な温度である。好ましい10時間半減温度は40〜100℃である。
【0051】
含フッ素有機過酸化物としては、含フッ素ジアシルペルオキシド、含フッ素ペルオキシジカーボネート、含フッ素ペルオキシエステル、含フッ素ジアルキルペルオキシド、または含フッ素ジアリールペルオキシドが好ましい。より好ましい含フッ素有機過酸化物は、含フッ素ジアルキルペルオキシドである。含フッ素有機過酸化物の骨格構造における、アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよく、またアラルキル基、すなわちアリール基で置換されたアルキル基でもよい。また、含フッ素有機過酸化物は、ペルフルオロ化合物であることが相溶性、熱安定性の点からより好ましく、分子中のフッ素原子の一部が水素原子、塩素原子または臭素原子に置換されていてもよい。
【0052】
含フッ素ジアシルペルオキシドとしては、[C65 C(O)O]2 、[C65 C(CH32 C(O)O]2 、[CF3 OCF2 CF2 C(O)O]2 、[CF3 CH2 C(O)O]2 、[(CF32 CHC(O)O]2 、[(CF33 CC(O)O]2 等が挙げられる。ただし、C65 はペルフルオロフェニル基を示す。以下も同様である。
【0053】
含フッ素ペルオキシジカーボネートとしては、[(CF32 CHOC(O)O]2 、[CF3 (CF2w CH2 OC(O)O]2 (w=1〜3)、[C65 OC(O)O]2 、[C65 CH2 OC(O)O]2 等が挙げられる。
【0054】
含フッ素ペルオキシエステルとしては、CF3 CF2 CH2 OOC(O)C(CF33 、(CF32 CHOOC(O)C(CF33 、(CF32 CHOOC(O)CH2 CF2 CF3 、CF3 CF2 CHOOC(O)CH2 CF2 CF3 、CF3 CF2 CHOOC(O)C65 、(CF32 CHOOC(O)C65 等が挙げられる。
【0055】
含フッ素ジアルキルペルオキシドとしては、[CF364 C(CF32O]2 、[(CF33 CO]2 、C65 C(CF32 OOC(CF33 等が挙げられる。
ただし、C64 は1,4−ペルフルオロフェニレン基を示す。
【0056】
含フッ素ジアリールペルオキシドとしては、[C65 O]2 等が挙げられる。
【0057】
重合開始剤(B)は、含フッ素単量体(A)および他の重合性化合物(C)の合計100質量部に対して、0.05質量部以上を用いることが好ましく、0.1〜10質量部を用いることが特に好ましい。0.05質量部以上とすることにより、硬化が充分に進行し、硬化物に含フッ素単量体(A)が残存することがなく、10質量部以下とすることにより、硬化物の分子量が充分に高くなり、得られる精密パターンの機械特性が損なわれることがない。
【0058】
(他の重合性化合物(C))
他の重合性化合物(C)は、前記含フッ素単量体(A)と共重合可能であるフッ素原子を含まない重合性化合物、または前記含フッ素単量体(A)以外の含フッ素単量体である。
【0059】
前者の重合性化合物(C)としては、下記の化合物等が挙げられる。
炭化水素系オレフィン:エチレン、プロピレン、ブテン、ノルボルネン等。
炭化水素系ジエン:ノルボルナジエン、ブタジエン等。
炭化水素系アルケニルエーテル:シクロヘキシルメチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル等。
【0060】
炭化水素系ビニルエステル:酢酸ビニル、ビニルピバレート等。
(メタ)アクリル酸誘導体:(メタ)アクリル酸、芳香族系の(メタ)アクリレート[フェノキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート等。]、炭化水素系の(メタ)アクリレート[ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アリルアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタアエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等。]、エーテル性酸素原子を含む炭化水素系の(メタ)アクリレート[エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、テトラヒドロフルフリールアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリオキシエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等。]、官能基を含む炭化水素系の(メタ)アクリレート[2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−ビニルピロリドン、ジメチルアミノエチルメタクリレート等。]、シリコーン系のアクリレート等。
その他の化合物:無水マレイン酸、ビニレンカーボネート等。
【0061】
スチレンおよびその誘導体:スチレン、tert−ブトキシスチレン、2−メトキシ−4−ビニルフェノール、tert−ブチル−4−ビニルフェニルカルボネート等。
ただし、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸基を意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0062】
後者の含フッ素単量体としては、下記の化合物が挙げられる。
ポリフルオロオレフィン:CF2=CF2、CF2=CHF、CF2=CH2、CHF=CH2、CF2=CFCF3、CH2=CFCF3、CH2=CX1F1(RF1は炭素数1〜8のポリフルオロアルキル基を表し、X1 は水素原子またはフッ素原子を表す。)(CH2=CFCF2CF3、CH2=CF(CF24H、CH2=CHCF2CF3、CH2=CH(CF24F等。)等。
クロロフルオロオレフィン:CF2=CFCl等。
ポリフルオロ(アルケニルエーテル):CF2=CFORF2(RF2は炭素数1〜8のエーテル性酸素原子を含有してもよいポリフルオロアルキル基を表す。)、CF2=CFO(CF23F、CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF23F、CF2=CFOCH2CF3、CF2=CFCF2ORF3(RF3は炭素数1〜8のエーテル性酸素原子を含有してもよいポリフルオロアルキル基を表す。)(CF2=CFCF2O(CF23F等。)等。
ポリフルオロビニルエステル:CH2=CHOC(O)CF3等。
【0063】
他の重合性化合物(C)と、含フッ素単量体(A)との割合(質量比)は、0:100から99.5:0.5が好ましく、0:100から50:50がより好ましい。また、他の重合性化合物(C)と、含フッ素単量体(A)との割合は、硬化性組成物のフッ素含有量が40〜70質量%となり、かつ、含フッ素単量体(A)と他の重合性化合物(C)とが硬化してなる硬化物の水に対する接触角が75度以上となるような割合であることが好ましい。
【0064】
(光増感剤(D))
光増感剤(D)としては、n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、アリルチオ尿素、s−ベンジスイソチウロニウム−p−トルエンスルフィネート、トリエチルアミン、ジエチルアミノエチルメタクリレート、トリエチレンテトラミン、4,4’−ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン等のアミン化合物が挙げられる。
【0065】
光増感剤(D)は、重合開始剤(B)に対して0倍モルから4倍モルが好ましく、0倍モルから2倍モルがより好ましい。光増感剤(D)を重合開始剤(B)に対して4倍モル以下とすることで、硬化物の分子量が充分に高くなり、得られる精密パターンの機械的特性が損なわれることがない。
【0066】
(溶剤(E))
硬化性組成物11には、必要に応じて溶剤(E)を加えてもよい。溶剤(E)を加える場合には、次の型押し工程の前に、硬化性組成物を基板に塗布した後に加熱して、溶剤(E)を蒸発させる必要がある。溶剤(E)としては、硬化性組成物を均一に溶解する、沸点が100℃から200℃の溶剤が好ましい。また、溶剤(E)を蒸発させるときの加熱温度は、使用する溶剤に応じて、50℃から200℃が好ましい。
【0067】
溶剤(E)としては、たとえば、キシレン、酢酸ブチル等のフッ素原子を含まない有機溶剤;ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、メチルペルフルオロイソプロピルエーテル、メチル(ペルフルオロヘキシルメチル)エーテル、メチルペルフルオロオクチルエーテル等の含フッ素有機溶剤が挙げられる。
【0068】
(含フッ素化合物(F))
硬化する際の体積収縮を抑制する、硬化物16のフレキシビリティーを保持する等の観点から、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体と相溶性のある、分子量が1000〜100000である含フッ素化合物(F)をさらに含むことが好ましい。含フッ素化合物(F)の含有量は、硬化性組成物(100質量%)中、5〜30質量%が好ましい。該含有量が5質量%以上であると、硬化物の体積収縮を抑制する効果が得られ、30質量%以下であると重合体の良好な透明性を維持できる。含フッ素化合物(F)としては、含フッ素重合体またはペルフルオロポリエーテルが好ましい。
【0069】
含フッ素重合体としては、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、およびクロロトリフルオロエチレンから選ばれる1種以上を重合した含フッ素オリゴマーが好ましい。
【0070】
ペルフルオロポリエーテルとしては、(CF2CF2O)単位、(CF2CF(CF3)O)単位、(CF2O)単位、(CF2CF2CF2O)単位、および(CF2CF2CF2CF2O)単位から選ばれる1種以上の単位を含むペルフルオロポリエーテルが好ましい。
【0071】
<型押し工程>
型押し工程においては、表面に凹凸パターン13が形成されたモールド14を、基板12上の硬化性組成物11に押しつける。
【0072】
モールド14を基板12上の硬化性組成物11に押しつけるときのプレス圧力(ゲージ圧)は、硬化性組成物11の粘度の観点から、10MPa以下でよい。
【0073】
(モールド)
モールド14の材質としては、光を透過する材質、すなわち、石英ガラス、紫外線透過ガラス、サファイヤ、ダイアモンド、ポリジメチルシロキサン等のシリコン材料、フッ素樹脂、その他光を透過する樹脂材料等が挙げられる。また、基板12が光を透過する材質であれば、モールド14は光を透過しなくてもよい。光を透過しないモールド14の材質としては、シリコンウェハ、SiC基板、マイカ基板等が挙げられる。また、加熱によって硬化性組成物11を硬化させる場合には、基板12およびモールド14は光を透過しなくてもよい。
【0074】
モールド14表面に形成される凹凸パターン13の形状は、得ようとする転写体に応じて適宜決定される。
【0075】
本発明においては、凹凸パターン13の最小寸法が、50μm以下、より小さくは500nm以下、さらに小さくは50nm以下であっても、該微細パターンを精密に硬化性組成物11に転写できる。本発明における凹凸パターンの最小寸法とは、凸部の高さの最小値、凹部の深さの最小値、凸部または凹部の幅の最小値、および凸部または凹部の長さの最小値のうち、最も小さい寸法を意味する。なお、最小値の下限は特に限定されず、1nm以上が好ましい。
【0076】
<硬化工程>
硬化の方法は、硬化性組成物11を硬化させる方法であれば特に限定されない。硬化性組成物11の重合開始剤(B)の種類にしたがって、熱および/または光照射により硬化性組成物11を硬化させる方法が好ましい。硬化が低温(0〜60℃)で進行し反応収率が高い観点から、重合開始剤(B)として前記光重合開始剤を用い、光照射により硬化性組成物11を硬化させる方法が特に好ましい。硬化を低温で行う場合、温度による硬化物の体積変化と硬化に伴う着色とが抑制される効果がある。
【0077】
光照射の方法としては、図4に示すように、モールド14が光を透過する材質の場合、モールド14側から光を照射する方法、基板12が光を透過する材質の場合、基板12側から光を照射する方法が挙げられる。
【0078】
光照射に用いる光としては、光重合開始剤が反応する光であればよい。光重合開始剤が容易に反応し、硬化性組成物をより低温で硬化させることができる観点から、400nm以下の波長の光(紫外線、X線、γ線等の活性エネルギー線)が好ましい。操作性の観点から、200〜400nmの波長の光が特に好ましい。
【0079】
また、光照射時に、全体を加熱することにより、硬化性組成物11の硬化を加速させてもよい。加熱する場合の温度範囲は、300℃以下が好ましく、0〜60℃がより好ましく、25〜50℃が特に好ましい。該温度範囲において、硬化物に形成されるパターン形状の精度が高く保持される。また、光照射を行わずに、加熱のみで硬化性組成物11を硬化させてもよい。
【0080】
<離型工程>
硬化工程後、25℃付近で、または硬化工程で加熱した場合は25℃付近まで冷却して、モールド14を硬化性組成物の硬化物16から分離することにより、モールド14の凹凸パターン13に対応した、硬化した硬化性組成物11からなる精密な凹凸パターン15が基板12表面に形成された転写体が得られる。
【0081】
<他の形成方法>
本発明の転写体の製造方法は、硬化性組成物がモールドのパターン面と基板との間に挟持される方法であれば特に限定されず、モールド14と硬化性組成物11とを接触させ、モールド14の凹凸パターン13を硬化性組成物11に転写できる方法であればよい。
【0082】
他の製造方法としては、たとえば、基板12と、表面に凹凸パターン13が形成されたモールド14とを、凹凸パターン13が基板12側になるように接近または接触させる工程と、硬化性組成物11を、基板12とモールド14との間に、毛細管現象、吸引等により充填する工程と、基板12とモールド14とが接近または接触した状態で硬化性組成物11に光を照射して硬化性組成物11を硬化させる工程と、硬化性組成物の硬化物16からモールド14を分離する工程とを有する方法が挙げられる。
【0083】
また、他の製造方法としては、硬化性組成物11を、表面に凹凸パターン13が形成されたモールド14の凹凸パターン13上に流し込み等により塗布する工程と、基板12をモールド14上の硬化性組成物11に押しつける工程と、基板12を硬化性組成物11に押しつけた状態で硬化性組成物11に光を照射して硬化性組成物11を硬化させる工程と、硬化性組成物の硬化物16からモールド14を分離する工程とを有する方法が挙げられる。
【0084】
本発明の転写体の製造方法によれば、硬化性組成物11が、含フッ素単量体(A)を含有しているため、硬化後の硬化性組成物11自体の離型性がよく、モールド14に離型剤を塗布する必要がない。そのため、モールド14の凹凸パターン13を硬化性組成物11に精密に転写できる。また、モールド14に離型剤を塗布する必要がないため、連続して凹凸パターン13を転写でき、転写体を生産性よく製造できる。さらに、モールド14に離型剤を塗布する手間が省けるため、転写体の生産性がさらによくなる。さらに、離型剤によるパターンの汚染がない。
【0085】
また、硬化性組成物11が、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成しうる含フッ素単量体(A)を含有しているため、硬化性組成物の硬化物16に、透明性等に優れる、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が含まれる。そのため、光学的特性に優れる転写体を得ることができる。また、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体は、弾性率、降伏伸度、弾性伸度が大きいため、耐衝撃性に優れる転写体を得ることができる。
【0086】
<転写体>
本発明における転写体は、本発明の転写体の製造方法によって、凹凸パターン15が形成された硬化物16が転写された部材である。硬化物16は、耐熱性、耐薬品性、離型性、光学特性(透明性や低屈折率性)等の物性に優れうる。
【0087】
本発明における転写体は、マイクロレンズアレイ、光導波路、光スイッチング、フレネルゾーンプレート、バイナリー光学素子、ブレーズ光学素子、フォトニクス結晶等の光学素子;AR(Anti Reflection)コート部材、バイオチップ、μ−TAS(Micro−Total Analysis Systems)用のチップ、マイクロリアクターチップ、記録メディア、ディスプレイ材料、触媒の担持体、フィルター、センサー部材等として有用である。
【0088】
本発明の光硬化性組成物は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を重合により形成する下式(z)で表されるモノマー(以下、モノマーzという。)を含む。
CF=CX−Y−CX=CH (z)。
【0089】
モノマーzは、下式(Z1)で表されるモノマー単位、下式(Z2)で表されるモノマー単位、および下式(Z3)で表されるモノマー単位からなる群から選ばれる少なくとも1つのモノマー単位を重合により形成する。
【0090】
【化5】

【0091】
は、フッ素原子であるのが好ましい。Xは、水素原子であるのが好ましい。
Yは、−CFC(CF)(OH)CH−、−CFC(CF)(OH)−、−CFC(CF)(OCHOCH)CH−、−CHCH(CHC(CFOH)CH−、または−CHCH(CHC(CFOH)−が特に好ましい。ただし、基の向きは左側がCF=CX−に結合することを意味する。
【0092】
モノマーzの具体例としては、下記モノマーが挙げられる。
CF=CFCFC(CF)(OH)CHCH=CH
CF=CFCFC(CF)(OH)CH=CH
CF=CFCFC(CF)(OCHOCH)CHCH=CH
CF=CFCHCH(CHC(CFOH)CHCH=CH
CF=CFCHCH(CHC(CFOH)CH=CH
【0093】
モノマーzは、1種のみを用いても2種以上を用いてもよい。また本発明の光硬化性組成物は、モノマーz以外のモノマー(以下、モノマーwという。)を含んでいてもよい。
【0094】
モノマーwは、オレフィン、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、スチレンおよびその誘導体、もしくは(メタ)アクリル酸およびその誘導体が好ましい。モノマーwは、フッ素原子を含んでいてもよい。
【0095】
オレフィンとしては、:ノルボルネン、ノルボルナジエン、ブタジエン等が挙げられる。
【0096】
(メタ)アクリル酸およびその誘導体としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)メタクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、メチルアダマンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリオキシエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、CH=CHCOO(CH(CFF、CH=C(CH)COO(CH(CFF、CH=CHCOO(CH(CFF、CH=C(CH)COO(CH(CFF、CH=CHCOOCHCFO(CFCFO)CFCHOCOCH=CH、CH=C(CH)COOCHCFO(CFCFO)CFCHOCOC(CH)=CH、CH=CHCOOCH(CFCHOCOCH=CH、CH=C(CH)COOCH(CFCHOCOC(CH)=CH等が挙げられる。
【0097】
ビニルエーテルの具体例としては、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
ビニルエステルの具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(イソ)酪酸ビニル、吉草酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。
アリルエーテルの具体例としては、エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、(イソ)ブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等が挙げられる。
アリルエステルの具体例としては、エチルアリルエステル、プロピルアリルエステル、イソブチルアリルエステル等が挙げられる。
【0098】
スチレンおよびその誘導体の具体例としては、スチレン、tert−ブトキシスチレン、2−メトキシ−4−ビニルフェノール、tert−ブチル−4−ビニルフェニルカルボネート等が挙げられる。
【0099】
本発明の光硬化性組成物がモノマーwを含む場合、モノマーwとモノマーzの総量に対するモノマーwの含有量は、30質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのが特に好ましい。また本発明の硬化性組成物がモノマーwを含む場合、モノマーz中に含まれるフッ素原子の総量は、モノマーzとモノマーwの総量に対して30質量%以上であるのが好ましく、45質量%以上であるのが特に好ましい。また該フッ素原子の総量は、60質量%以下であるのが好ましい。
【0100】
本発明の光硬化性組成物におけるモノマーwとモノマーzの総量(本発明の光硬化性組成物がモノマーwを含まない場合には、モノマーzの総量。)は、50質量%以上であるのが好ましく、75質量%以上であるのが特に好ましい。
【0101】
本発明の光硬化性組成物は光重合開始剤を含む。光重合開始剤とは光によりラジカル反応またはイオン反応を引き起こす化合物である。光重合開始剤は、含フッ素有機化合物が好ましい。光重合開始剤は、フッ素原子を含有する光重合開始剤であっても、フッ素原子を含有しない光重合開始剤であってもよい。モノマーzは、炭素原子に結合した水素原子を有し、フッ素原子を含有しない光重合開始剤に対しても高い相溶性を有する。そのためフッ素原子を含有しない光重合開始剤を用いた場合でも、本発明の光硬化性組成物は相分離せずに均一な組成物を形成する。光重合開始剤の具体例としては、上記光重合開始剤が挙げられる。
【0102】
モノマーzの総量(光硬化性組成物がモノマーwを含む場合には、モノマーzとモノマーwの総量。)に対する光重合開始剤の含有量(以下、開始剤含有量ともいう。)は、0.05〜12質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、1〜10質量%が特に好ましく、2.5〜8質量%が最も好ましい。
【0103】
本発明の光硬化性組成物は、実質的に溶媒を含まない。実質的に溶媒を含まないとは、たとえば、光硬化性組成物の調整に際して用いた溶媒が残存溶媒として含まれていてもよいことをいう。この場合も、溶媒は極力、光硬化性組成物から留去されているのが好ましい。本発明の光硬化性組成物は、モノマーzと光重合開始剤の相溶性が高いため、溶媒がなくても均一な組成物が形成される。本発明の光硬化性組成物は、直接、モールドの反転パターン面と基材表面との間に挟持して押圧できる。また光硬化性組成物が実質的に溶媒を含まないため、硬化における光硬化性組成物の体積収縮が小さいという効果もある。
【0104】
本発明の光硬化性組成物は、含フッ素界面活性剤を含むのが好ましい。含フッ素界面活性剤を含む場合、光硬化性組成物とその硬化物の離型性がさらに向上しモールドからの円滑がより容易である。また含フッ素界面活性剤は、モノマーzと光重合開始剤に対して高い相溶性を有し光硬化性組成物の安定性をより向上させる。含フッ素界面活性剤のフッ素含有量は、10〜70質量%が好ましく、20〜40質量%が特に好ましい。含フッ素界面活性剤は、水溶性であっても脂溶性であってもよい。
含フッ素界面活性剤は、アニオン性含フッ素界面活性剤、カチオン性含フッ素界面活性剤、両性含フッ素界面活性剤、またはノニオン性含フッ素界面活性剤であるのが好ましい。モノマー(A)とモノマー(C)に対する相溶性が特に優れることから、ノニオン性含フッ素界面活性剤であるのが特に好ましい。
【0105】
アニオン性含フッ素界面活性剤としては、ポリフルオロアルキルカルボン酸塩、ポリフルオロアルキル燐酸エステル、ポリフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。これらの界面活性剤の具体例としては、サーフロンS−111(商品名、セイミケミカル社製)、フロラードFC−143(商品名、スリーエム社製)、メガファークF−120(商品名、大日本インキ工業社製)等が挙げられる。
【0106】
カチオン性含フッ素界面活性剤としては、ポリフルオロアルキル基を有する脂肪族第1級アミン酸、ポリフルオロアルキル基を有する脂肪族第2級アミン酸、ポリフルオロアルキルスルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。これらの界面活性剤の具体例としては、サーフロンS−121(商品名、セイミケミカル社製)、フロラードFC−134(商品名、スリーエム社製)、メガファークF−150(商品名、大日本インキ工業社製)等が挙げられる。
【0107】
両性含フッ素界面活性剤としては、ポリフルオロアルキルベタイン等が挙げられる。これらの界面活性剤の具体例としては、サーフロンS−132(商品名、セイミケミカル社製)、フロラードFX−172(商品名、スリーエム社製)、メガファークF−120(商品名、大日本インキ工業社製)等が挙げられる。
【0108】
ノニオン性含フッ素界面活性剤としては、ポリフルオロアルキルアミンオキサイド、またはポリフルオロアルキル・アルキレンオキサイド付加物、またはR基を有するモノマーに基づくモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。ノニオン性含フッ素界面活性剤は、R基を有するモノマーに基づくモノマー単位を含むオリゴマー(質量平均分子量は1000〜8000)が好ましい。R基を有するモノマーは、フルオロ(メタ)アクリレートであるのが好ましく、フルオロアルキル(メタ)アクリレートであるのが特に好ましい。
【0109】
ノニオン性含フッ素界面活性剤の具体例としては、サーフロンS−145(商品名、セイミケミカル社製)、サーフロンS−393(商品名、セイミケミカル社製)、サーフロンKH−20(商品名、セイミケミカル社製)、サーフロンKH−40(商品名、セイミケミカル社製)、フロラードFC−170(商品名、スリーエム社製)、フロラードFC−430(商品名、スリーエム社製)、メガファークF−141(商品名、大日本インキ工業社製)等が挙げられる。
【0110】
本発明の光硬化性組成物は、モノマーzの総量(本発明の光硬化性組成物が、モノマーzとモノマーwを含む場合は、モノマーzとモノマーwの総量。)に対して含フッ素界面活性剤の0.1超〜5質量%を含むのが好ましく、0.5〜2.5質量%を含むのが特に好ましい。
【0111】
本発明の光硬化性組成物は、微細パターンの反転パターンを有するモールド(以下、単にモールドともいう。)の該反転パターン面と基材表面との間に挟持して押圧した後に硬化させることによって、硬化物の微細パターンを基材表面に形成するために用いられる。本発明の光硬化性組成物は、モールドの反転パターン面と基材表面との間に挟持して押圧したまま硬化させてもよく、モールドの反転パターン面と基材表面との間に挟持して押圧した後にモールドを剥離させてから硬化させてもよい。
【0112】
基材表面に形成される微細パターンは、光硬化性組成物の硬化物からなる凹凸構造によって形成される。この凹凸構造を有する構造体を以下、凹凸構造体という。凹凸構造体は光硬化性組成物の硬化物からなり、基材表面に配置され、微細パターンを形成している。凹凸構造体は、凹凸形状を表面に有する連続体からなる層構造を有していてもよく、独立した突起体の集合からなる構造を有していてもよい。前者は、基材表面を覆う硬化物の層からなりその硬化物の層の表面が凹凸形状をなしている構造をいう。後者は、硬化物からなる突起体が基材表面に独立して多数存在し、基材表面からなる凹部とともに凹凸形状をなしている構造をいう。いずれの場合も凸構造をなす部分(突起体)は光硬化性組成物の硬化物からなる。さらに、凹凸構造体はそれら2つの構造を基材表面の異なる位置で併有する構造を有していてもよい。
【0113】
微細パターンはこの凹凸構造により形成される。凹凸構造体の凸構造をなす部分や突起体(以下、両者を凸構造部という。)は硬化物層表面や基材表面に線状や点状に存在し、その線や点の形状は特に限定されない。線状の凸構造部は直線に限られず、曲線や折れ曲がり形状であってもよい。またその線が多数平行に存在して縞状をなしていてもよい。線状の凸構造部の断面形状(線の伸びる方向に対して直角方向の断面の形状。)は特に限定されるものではなく、例えば長方形、台形、三角形、半円形等が挙げられる。点状の凸構造部の形状もまた特に限定されるものではない。例えば、底面形状が長方形、正方形、菱形、6角形、三角形、円形等である柱状や錐状の形状、半球形、多面体形などが挙げられる。
【0114】
線状の凸構造部の幅(底部の幅をいう)の平均は1nm〜100μmが好ましく、10nm〜10μmが特に好ましい。点状の凸構造部の底面の長さの平均は1nm〜100μmが好ましく、10nm〜10μmが特に好ましい。ただし、この点状の凸構造部の底面の長さとは、点が線に近い形状に伸びている場合は、その伸びた方向とは直角方向の長さをいい、そうでない場合は底面形状の最大長さをいう。線状および点状の凸構造部の高さの平均は1nm〜100μmが好ましく、10nm〜10μmが特に好ましい。さらに、凹凸構造が密集している部分において、隣接する凸構造部間の距離(底部間の距離をいう。)の平均は1nm〜500μmが好ましく、10nm〜50μmが特に好ましい。このように、凸構造におけるこれらの最小寸法は、500μm以下が好ましく、50μm以下が特に好ましい。下限は1nmが好ましい。この最小寸法とは上記凸構造部の幅、長さおよび高さのうち最小のものをいう。
【0115】
基材は平面状の基材であっても曲面状の基材であってもよい。基材としては、シリコンウェハ、ガラス、石英ガラス、金属等の無機材料製基材;フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機材料製基材が挙げられる。表面処理(シランカップリング処理、シラザン処理等。)により光硬化性組成物との密着性を向上させた基材を用いてもよい。
【0116】
モールドは上記微細パターンの反転パターンを有する。反転パターンとは上記微細パターンにおける凹凸構造が逆になった(すなわち、凹が凸に、凸が凹になった)パターンをいう。モールドにおける反転パターンの形状は上記微細パターンに対応する凹凸構造を有する。すなわち、上記微細パターンの凸構造部の形状は反転パターンにおける凹構造部の形状となる。反転パターンの凹構造部の形状や寸法は上記微細パターンの形状や寸法に対応する。ただし、反転パターンの凹構造部の深さ(上記微細パターンの凸構造部の高さに対応する。)は上記微細パターンの凸構造部の高さとは異なる場合があり得る。その場合も含め、反転パターンの凹構造における最小寸法は、500μm以下が好ましく、50μm以下が特に好ましい。また、下限は1nmが好ましい。本発明の光硬化性組成物はモールドにおけるこのような微細な反転パターンであっても微細なパターンが高精度で転写された硬化物を形成できる。
モールドとしては、シリコンウェハ、SiC、マイカ等の非透光材料製モールド;ガラス、ポリジメチルシロキサン、透明フッ素樹脂等の透光材料製モールドが挙げられる。本発明におけるモールドまたは基材の少なくとも一方は、透光材料製である。
【0117】
本発明は、本発明の光硬化性組成物を微細パターンの反転パターンを有するモールドの該反転パターン面と基材表面との間に挟持して押圧する工程(以下、工程1という。)、光照射により光硬化性組成物を硬化させて硬化物を形成する工程(以下、工程2という。)、該硬化物からモールドを剥離する工程(以下、工程3という。)を順に行う、光硬化性組成物の硬化物の微細パターンが表面に形成された基材からなる微細構造体(以下、単に微細構造体ともいう。)の製造方法を提供する。
【0118】
工程1の具体的な態様としては、下記工程11、下記工程12、および下記工程13が挙げられる。
工程11:光硬化性組成物を基材表面に配置し、次いで光硬化性組成物がモールドのパターン面に接するように、該基材と前記モールドとを挟持して押圧する工程。
工程12:光硬化性組成物をモールドのパターン面に配置し、次いで基材表面が光硬化性組成物に接するように、前記基材と該モールドとを挟持して押圧する工程。
工程13:基材とモールドを組み合わせて、基材表面とモールドのパターン面との間に空隙を形成し、次いで該空隙に光硬化性組成物を充填して、モールドのパターン面と基材の間に光硬化性組成物を挟持して押圧する工程。
【0119】
工程11および工程12における光硬化性組成物の配置は、ポッティング法、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法、ダイコート法、ラングミュアープロジェット法、真空蒸着法等の方法を用い、光硬化性組成物を基材表面に被覆して行うのが好ましい。光硬化性組成物は、基材全面に被覆させても基材一部のみに被覆させてもよい。基材とモールドを押圧する際のプレス圧力(ゲージ圧)は、0超〜10MPaが好ましく、0.1〜5MPaがより好ましい。
工程13において、空隙に光硬化性組成物を充填する方法としては、毛細管現象により空隙に光硬化性組成物を吸引する方法が挙げられる。
【0120】
工程2における光照射は、200〜400nmの波長光を照射して行うのが好ましい。照射時の系の温度は0〜60℃であるのが好ましい。
【0121】
また本発明は、本発明の光硬化性組成物を基材表面と微細パターンの反転パターンを有するモールドの該反転パターン面との間に挟持して押圧する工程(以下、工程4という。)、光硬化性組成物からモールドを剥離する工程(以下、工程5という。)、光硬化性組成物を硬化させて硬化物を形成する工程(以下、工程6という。)を順に行う微細構造体の製造方法を提供する。
【0122】
工程4の具体的な態様としては、前記工程1の具体的な態様(下記工程11、下記工程12、下記工程13等。)と同じ態様が挙げられる。
工程6における光照射は、200〜400nmの波長光を照射して行うのが好ましい。照射時の系の温度は0〜60℃であるのが好ましい。
【0123】
本発明の製造方法で得られた微細構造体は、光硬化性組成物の硬化物の微細パターンが表面に形成された基材からなる微細構造体である。該微細構造体は、耐熱性、耐薬品性、離型性、光学特性(透明性や低屈折率性)等の物性に優れる。
【0124】
該微細構造体は、マイクロレンズアレイ、光導波路、光スイッチング、フレネルゾーンプレート、バイナリー素子、ブレーズ素子、フォトニクス結晶等の光学素子;AR(Anti Reflection)コート部材、バイオチップ、μ−TAS(Micro−Total Analysis Systems)用のチップ、マイクロリアクターチップ、記録メディア、ディスプレイ材料、触媒の担持体、フィルター、センサー部材等として有用である。
【実施例】
【0125】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0126】
CF=CFCFC(CF)(OH)CHCH=CH(フッ素含有量56質量%)をモノマーzと、CF=CFCFC(CF)(OCHOCH)CHCH=CH(フッ素含有量48質量%)をモノマーzと記す。
【0127】
フッ素原子を含有しない光重合開始剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製のイルカギュア907(商品名)を開始剤1と、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製のイルカギュア651(商品名)を開始剤2と、フッ素原子を含有する光重合開始剤であるペルフルオロベンゾイルペルオキシドを開始剤3と記す。
【0128】
(実施例1)
紫外線をカットしたクリーンルーム内にて、6mlのバイヤル容器に、モノマーzの0.98gを加えた。つぎに、開始剤1の0.02gを加えて混合し、硬化性組成物を得た。
【0129】
シリコンウェハ上に光硬化性組成物の約1μLを滴下して、シリコンウェハ上に該光硬化性組成物からなる層を形成する。図5に示す、幅400nm、深さ100nm、長さ5mmの溝が刻まれた石英モールドをシリコンウェハ上の硬化性組成物層に押しつけ、25℃で、2MPaの圧力(ゲージ圧)でプレスする。石英モールド越しに、硬化性組成物に紫外線を30秒照射した後、硬化した硬化性組成物から石英モールドをゆっくりと分離する。シリコンウェハ上には、石英モールドの溝に対応した、硬化した硬化性組成物からなる凸状パターンが形成されている。該凸状パターンの寸法(幅(nm)、高さ(nm))、モールドの離型性について評価する。
【0130】
評価結果を表1に示す。離型性については、モールドを硬化性組成物から分離できない場合を×、超音波等の操作でモールドを光硬化性組成物から分離できる場合を△、特別な操作なしにモールドを光硬化性組成物から分離できる場合を○と評価する。
【0131】
(実施例2)
紫外線をカットしたクリーンルーム内にて、6mlのバイヤル容器に、モノマーzの0.98gを加えた。つぎに、開始剤1の0.02gを加えて混合し、硬化性組成物を得た。
【0132】
該硬化性組成物を使用した以外は、実施例1と同様にしてシリコンウェハ上に硬化した硬化性組成物からなる凸状パターンを形成する。該凸状パターンの寸法(幅(nm)、高さ(nm))、モールドの離型性について評価する。評価結果を表1に示す。
【0133】
(実施例3)
紫外線をカットしたクリーンルーム内にて、6mlのバイヤル容器に、モノマーzの0.98gを加えた。つぎに、開始剤3の0.02gを加えて混合し、硬化性組成物を得た。
【0134】
該硬化性組成物を使用した以外は、実施例1と同様にしてシリコンウェハ上に硬化した硬化性組成物からなる凸状パターンを形成する。該凸状パターンの寸法(幅(nm)、高さ(nm))、モールドの離型性について評価する。評価結果を表1に示す。
【0135】
(実施例4)
紫外線をカットしたクリーンルーム内にて、6mlのバイヤル容器に、モノマーz
の0.89g、およびCF=CFOCFCFCF=CFの0.10g(フッ素含有量57質量%)を加えた。つぎに、開始剤1の0.01gを加えて混合し、硬化性組成物を得た。
【0136】
該硬化性組成物を使用した以外は、実施例1と同様にしてシリコンウェハ上に硬化した硬化性組成物からなる凸状パターンを形成する。該凸状パターンの寸法(幅(nm)、高さ(nm))、モールドの離型性について評価する。評価結果を表1に示す。
【0137】
(実施例5)
紫外線をカットしたクリーンルーム内にて、6mlのバイヤル容器に、モノマーzの0.18g、およびCF=CFOCFCFCF=CFの0.80gを加えた。つぎに、開始剤3の0.02gを加えて混合し、硬化性組成物を得た。
【0138】
該硬化性組成物を使用した以外は、実施例1と同様にしてシリコンウェハ上に硬化した硬化性組成物からなる凸状パターンを形成する。該凸状パターンの寸法(幅(nm)、高さ(nm))、モールドの離型性について評価する。評価結果を表1に示す。
【0139】
【表1】

【0140】
含フッ素単量体(A)を含有する光硬化性組成物を使用した実施例1〜5においては、石英モールドの溝パターンに対応する凸状パターンを精密にシリコンウェハ上に転写できる。
【0141】
(実施例6)光硬化性組成物、および微細構造体の製造例(その1)
バイヤル容器中で、モノマーzの0.90gおよび開始剤1の0.10gを順に混合して光硬化性組成物1を得た。シリコンウェハ上に光硬化性組成物1の約1μLを滴下して、シリコンウェハ上に光硬化性組成物1からなる層を形成した。実施例1と同じ石英製モールドを該層側に押しつけて、25℃にて、2MPaの圧力(ゲージ圧)でプレスした。
【0142】
1.5kHz〜2.0kHzにおける主波長光が255nm、315nmおよび365nmの高圧水銀灯(照射強度63mJ/cm)をモールド側から30秒間、照射して光硬化性組成物1を硬化させた。つぎに、モールドをシリコンウェハから剥離して、光硬化性組成物1の硬化物の、モールドの凹構造が反転した凸構造(幅395nm、高さ92nmの凸構造。)からなる微細パターンが表面に形成されたシリコンウェハからなる微細構造体を得た。
【0143】
(実施例7)光硬化性組成物、および微細構造体の製造例(その2)
バイヤル容器中で、モノマーzの0.90g、開始剤1の0.10gを順に混合して光硬化性組成物2を得た。光硬化性組成物2を用いる以外は実施例6と同様にして、光硬化性組成物2の硬化物の、モールドの凹構造が反転した凸構造(幅395nm、高さ97nmの凸構造。)からなる微細パターンが表面に形成されたシリコンウェハからなる微細構造体を得た。
【0144】
(実施例8)光硬化性組成物、および微細構造体の製造例(その3)
バイヤル容器中に、モノマーzの0.45g、CH(OCOCH=CH)(CHOCOCH=CHの0.10g、CH=CHCOO(CHCHO)COCH=CHの0.40g、ノニオン性含フッ素界面活性剤の0.01g、および開始剤2の0.04gを順に混合して光硬化性組成物3を得た。光硬化性組成物3を用いる以外は実施例6と同様にして、光硬化性組成物3の硬化物の、モールドの凹構造が反転した凸構造からなる微細パターンが表面に形成されたシリコンウェハからなる微細構造体を得た。
【0145】
(実施例9)光硬化性組成物、および微細構造体の製造例(その4)
シリコンウェハ基板の表面に、透明フッ素樹脂(旭硝子社製、商品名「サイトップ」)製シート(膜厚100μm、縦横2cm四方)を載せた。シートを160℃に加熱してから、幅40nm、高さ100nm、長さ5mmの凸構造を有する石英製モールドとシートを接触させて、10MPaにてプレスした。シートを25℃まで冷却してから、モールドを剥離し、該モールドの凸構造が反転した幅約40nm、深さ約100nm、長さ約5mmの凹構造を有する最表面に有する透明フッ素樹脂シートを得た。ガラス製の円柱(直径1.6cm)に該シートを巻きつけ、端をテープで接着して円柱状モールドを得た。
【0146】
つぎに、実施例1の硬化性組成物(約1μL)をシリコンウェハ上に滴下し、シリコンウェハ表面に硬化性組成物からなる層を形成させた。該円柱状モールドを該層上に押し付けながら回転させた。つぎに例6と同じ高圧水銀灯を15秒間、照射して該層中の硬化性組成物を硬化させた。その結果、光硬化性組成物の硬化物の、モールドの凹構造が反転した凸構造からなる微細パターンが表面に形成されたシリコンウェハからなる微細構造体を得た。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の転写体の製造方法は、光学素子(マイクロレンズアレイ、光導波路、光スイッチング、フレネルゾーンプレート、バイナリー光学素子、ブレーズ光学素子、フォトニクス結晶等)、ARコート部材、バイオチップ、μ−TAS用チップ、マイクロリアクターチップ、記録メディア、ディスプレイ材料、触媒の担持体、フィルター、センサー部材等の製造方法;半導体装置の製造プロセスにおける微細加工方法に利用できる。
【0148】
また、本発明の硬化性組成物を用いることにより、所望の物性と微細パターンを有する微細構造体を効率よく高精度に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】硬化性組成物を基板上に塗布した様子を示す概略断面図である。
【図2】モールドを基板上の硬化性組成物に押しつけた様子を示す概略断面図である。
【図3】硬化した硬化性組成物からモールドを分離した様子を示す概略断面図である。
【図4】モールドを硬化性組成物に押しつけた状態で硬化性組成物に光を照射する様子を示す概略断面図である。
【図5】実施例にて使用された石英モールドを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0150】
11:硬化性組成物
12:基板
13:凹凸パターン
14:モールド
16:硬化性組成物の硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドのパターンが転写された転写体の製造方法であって、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成しうる含フッ素単量体(A)および重合開始剤(B)を含有する硬化性組成物を、最小寸法が50μm以下のパターンが表面に形成されたモールドと接触した状態で硬化させることを特徴とする転写体の製造方法。
【請求項2】
含フッ素単量体(A)が、炭素−炭素2重結合を2つ有する線状の含フッ素単量体を含有する請求項1記載の転写体の製造方法。
【請求項3】
含フッ素単量体(A)が、炭素−炭素2重結合および含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ炭素−炭素2重結合を構成する少なくとも1つの炭素原子が含フッ素脂肪族環構造の一部を構成する含フッ素単量体を含有する請求項1または2記載の転写体の製造方法。
【請求項4】
重合開始剤(B)が光重合開始剤である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の転写体の製造方法。
【請求項5】
微細パターンの反転パターンを有するモールドの該反転パターン面と、基材表面との間に挟持して押圧した後に光照射により硬化させることによって、硬化物の微細パターンを基材表面に形成するための光硬化性組成物であり、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を重合により形成する下式(z)で表されるモノマーと光重合開始剤を含み、かつ実質的に溶媒を含まないことを特徴とする光硬化性組成物。
CF=CX−Y−CX=CH (z)
式中の基は、下記の意味を示す。
,X:それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基。
Y:メチレン、ジメチレンおよびトリメチレンから選ばれる基を主鎖とし、該主鎖中の水素原子が、フッ素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数1〜6のアルキル基、および炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基からなる群から選ばれる基で置換された基であり、かつ該基中の炭素原子−水素原子結合を形成する水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された基。
【請求項6】
微細パターンが、凹凸構造からなり、凸構造部の高さの平均が1nm〜500μmである請求項5に記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
光硬化性組成物が、含フッ素界面活性剤を含む請求項5または6に記載の光硬化性組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の光硬化性組成物を、微細パターンの反転パターンを有するモールドの該反転パターン面と基材表面の間に挟持して押圧する工程、光照射により光硬化性組成物を硬化させて硬化物を形成する工程、該硬化物からモールドを剥離する工程を順に行う、光硬化性組成物の硬化物の微細パターンが表面に形成された基材からなる微細構造体の製造方法。
【請求項9】
微細パターンが、凹凸構造からなり、凸構造部の高さの平均が1nm〜500μmである請求項8に記載の光硬化性組成物。
【請求項10】
請求項5〜7のいずれかに記載の光硬化性組成物を、微細パターンの反転パターンを有するモールドの該反転パターン面と基材表面の間に挟持して押圧する工程、光硬化性組成物からモールドを剥離する工程、光照射により光硬化性組成物を硬化させて硬化物を形成する工程を順に行う、光硬化性組成物の硬化物の微細パターンが表面に形成された基材からなる微細構造体の製造方法。
【請求項11】
微細パターンが、凹凸構造からなり、凸構造部の高さの平均が1nm〜500μmである請求項10に記載の光硬化性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−110997(P2006−110997A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238817(P2005−238817)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】