説明

転写因子阻害剤および関連する組成物、製剤および方法

本発明は、癌細胞に影響を与えるために有用な低分子、並びに関連する方法を提示する。本発明の化合物、製剤、キットおよび方法は、様々な研究目的、診断目的および治療目的のために有用である。STAT3阻害剤、特にLLL12、が開示される。STAT3阻害剤は、一般には乳癌を治療するため、そして特別には乳癌開始性細胞を治療するために、有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての相互参照
[0001] 本出願は、2009年11月24日に出願された米国仮出願No. 61/264,154による利益を請求、この出願の内容を、参照により本明細書中に援用する。
【0002】
連邦の支援による研究に関する言及
[0002] 本発明は、National Institutes for Healthにより授与されたグラントR21CA 133652-01(NIHR21)のもと、政府のサポートにより行われた。政府はm,本発明に対して特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本発明の技術分野
[0003] 本発明は、STAT3活性化を阻害する低分子の新たなクラスを見出したことに一部基づいている。STAT3活性化の阻害は、癌関連転写因子に影響を与え、それが次に、癌細胞のアポトーシスの増加を生じる。これらの新規のSTAT3活性化阻害剤を投与することに関連したその他の細胞機能作用が、示された。
【0004】
EFS-WEBを介して提出した配列表に関する参照
[0004] 本出願は、MPEP§ 1730 II.B.2(a)(A)において認められそして記載されるように、USPTO EFS-WEBサーバーを介して電気的に提出され、そしてこの電気的出願には、電気的に提出される配列(SEQ ID)表が含まれる。この配列表の全内容は、すべての目的のために参照により本明細書中に援用される。配列表は、電子的に提出された「.txt」ファイル上で以下のとおり特定される:604_50802_SEQLIST_OSU-00902.txt(2010年11月22日に作成、5,753 byteのサイズ)。
【0005】
発明の背景
[0005] 癌は、米国において2番目の死亡原因であり、4人の死者の1人に寄与する様々な形態を有する。およそ男性2人のうちの1人、女性3人のうちの1人は、それぞれの人生において浸潤性の癌と診断される。乳癌は、癌を患う女性の重要なタイプである。乳癌は、全ての新たに診断された女性における癌症例の1/4を超える程の原因であると考えられている。膵臓癌は、米国における癌死の4番目の原因である。診断しても予後が悪く、5年生存率はわずか5%である。世界では、膵臓癌の生存率はわずか1%である。脳の癌の一種である神経膠腫は、75%以上のすべての原発性悪性脳腫瘍の原因である。最も一般的なタイプの神経膠腫である、膠芽細胞腫が、最も重症でもある。この癌は、非常に攻撃的な癌であり、そして生存率が悪いままであり、ほとんどの事例において診断の2年以内に致死する。現在の治療法の下での症例の多さおよび生存率の悪さのため、癌に対する新しい標的治療を検索することが求められている。
【0006】
[0006] 転写シグナルトランスデューサおよびアクチベータ(STAT)タンパク質は、癌増殖に関与する転写因子である。STATは、サイトカインや増殖因子からのシグナルを中継することが知られている。STATの構成的な活性化が、腫瘍形成に寄与することが見出された。STAT3は特に、乳癌および膵臓癌および膠芽細胞腫を含む、幅広いヒトの悪性癌において構成的に活性である。STAT3は、悪性化を促進するその能力のために、オンコジーンであることが考えられる。実験は、構成的に活性なSTAT3が、細胞形質転換を誘導するために十分であることを示した。さらなる研究により、STAT3欠損線維芽細胞における形質転換に対する抵抗性が示される。構成的に活性なSTAT3は、非-悪性細胞の表現型を、悪性-様細胞にに変化させる潜在力を有することが示された。
【0007】
[0007] STAT3の永続的な活性化は、癌の誘導および癌の生存を促進するプロセスの両方において、関与している。チロシン705(Tyr705)残基がリン酸化される場合に、STAT3活性化が生じ、それが二量体化を引き起こし、そして細胞質から核へと転移する。核において、標的遺伝子に対するSTAT3の結合は、転写および増殖の亢進制御および抗-アポトーシス関連タンパク質の亢進制御を誘導する。したがって、構成的STAT3シグナル伝達は、細胞周期進行を促進し、そしてアポトーシスを防止することに関連し、それらは両方共悪性化の進行に寄与する。STAT3は、血管生成を促進することが見出された。さらに、永続的に活性化されたSTAT3は、免疫学的寛容を亢進させ、そして癌細胞が免疫監視を逃れることができるため、生得的免疫応答および獲得免疫応答の両方を悪化させるように機能している。さらに、これらの腫瘍の生存率は、STAT3シグナル伝達の存在に依存するようである。
【0008】
[0008] 腫瘍における構成的STAT3シグナル伝達の関与が、癌治療のための可能性のある標的として提示した。ドミナント-ネガティブSTAT3を使用してSTAT3シグナル伝達をブロックすることを目的とした実験、RNA干渉、そしてSTAT3アンチセンスオリゴヌクレオチドが試みられた。正常細胞においては、STAT3の阻害が、細胞に対して有害でもなければ毒性でもないこともまた、明らかになった。STAT3の腫瘍生成機能を考慮すると、STAT3シグナル伝達を直接的に標的とすることは、癌を治療するための潜在的な治療アプローチを示している。
【発明の概要】
【0009】
[0009] 本発明の発明者らは、本明細書中で、新たなクラスの低分子が、STAT3を阻害し、癌細胞のアポトーシスを生じることを、示した。
[0010] 本発明は、したがって、主作用は増加しつつ副作用は少なくした、効果的な治療剤、診断剤および予防剤に寄与する。本発明はまた、関連する化合物、製剤、組成物、キット、などを製造するための方法もまた提供する。
【0010】
発明の概要
[0011] 第1の幅広い側面において、一般式Iを有する化合物が提供される:
【0011】
【化1】

【0012】
[0012] 式中
R1、およびR2は、独立して、水素またはアルキルMであり、ここでMは1、2、3、4、5または6個の炭素であり;
R3、R5、R6、R8、およびR9は、独立して、水素、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、NO2、NH2、またはヒドロキシルであり;
R4およびR7は、独立して、アルキル、アルコキシ、O-アルキル、N-アルキル、芳香族基、複素環式芳香族基、環式基、または複素環式基である。
【0013】
[0013] R1、R2、R3、R4、R5、R7、R8およびR9は、それぞれ水素であり、そしてR6はヒドロキシであるものとして記載される化合物が好ましい。本明細書中に記載された化合物および医薬的に許容可能な賦形剤、担体、希釈剤または塩を含む、物質の組成物もまた、提供される。本発明の化合物に関連する、プロドラッグ、中間体、ラセミ体、および代謝物もまた、提供される。
【0014】
[0014] 例えば、式IIの化合物および医薬的に許容可能な賦形剤、担体、希釈剤または塩を含む物質の組成物として、式IIの化合物;
【0015】
【化2】

【0016】
が提供される。本発明の化合物に関連する、プロドラッグ、中間体、ラセミ体、および代謝物もまた、提供される。
[0015] 別の態様において、本明細書中において、以下の工程:
i) 非置換のまたは置換のナフタレンスルホニルクロリド化合物を窒素含有化合物と反応させて、非置換のまたは置換のナフタレンスルホニルアミンを形成させる工程、;
ii) 工程i)の非置換のまたは置換のナフタレンスルホニルアミンを酸化して、非置換のまたは置換のナフトキノン化合物を得る工程;および
iii) 3-ヒドロキシ-2-ピロンのDiels-Alder反応を介して、工程ii)の非置換のまたは置換のナフトキノン化合物を触媒し、式Iの化合物を得る工程;
を含む、式Iの化合物を合成する方法が提供される。
【0017】
[0016] 特定の態様において、工程i)の窒素含有化合物は、アンモニウムヒドロキシドを含み、そしてナフタレンスルホニルクロリドが非置換である。
[0017] 本発明の別の側面において、本明細書中に記載の式Iの化合物をSTAT3-発現細胞に導入する工程、そしてSTAT3活性化阻害を測定する工程を含む、細胞中でのSTAT3活性化を阻害する方法を提供する。阻害を、STAT3-関連作用、例えば:細胞アポトーシス;STAT3 SH2二量体化の阻害;STAT3リン酸化の発現レベルの減少;STAT3の下流標的の阻害、特にサイクリンの阻害;Bcl-2;およびサバイビンおよび/または切断されたPARPおよびカスパーゼ-3の誘導;MDA-MD-453乳癌細胞においてIL-6を誘導した後のリン酸化の減少;化合物導入後のSTAT3 DNA結合活性の減少;化合物導入後のSTAT3-依存的転写活性の減少;
を観察することにより測定する、方法が好ましい。
【0018】
[0018] 本発明の別の側面において、本明細書中に記載される式Iの化合物を投与することを含む、STAT3制御遺伝子の転写を阻害する方法を提供する。転写阻害を、逆転写酵素PCRを介して測定する方法が好ましい。
【0019】
[0019] 本発明の別の側面において、本明細書中に記載の式Iの化合物を、腫瘍細胞-含有培養液に対して投与することを含む、腫瘍細胞がコロニーを形成する能力を減少させる方法を提供する。腫瘍細胞-含有培養液が、哺乳動物細胞培養であるである方法が好ましいが、腫瘍細胞-含有培養液が哺乳動物である方法もまた好ましい。より好ましい方法は、哺乳動物は:ヒト;家畜;コンパニオン動物;および動物園動物から本質的になる群から選択されるものである。
【0020】
[0020] 本発明の別の側面において、本明細書中に記載の式Iの化合物を、腫瘍細胞-含有培養液に投与することを含む、腫瘍細胞遊走を阻害する方法を提供する。腫瘍細胞-含有培養液が、哺乳動物細胞培養である方法が好ましいが、腫瘍細胞-含有培養液が哺乳動物である方法もまた好ましい。哺乳動物が:ヒト;家畜;コンパニオン動物;および動物園動物から本質的になる群から選択されるものであることがより好ましい。
【0021】
[0021] 本発明の別の側面において、本明細書中に記載の式Iの化合物を腫瘍細胞-含有培養液に対して投与することを含む、腫瘍細胞増殖を阻害する方法を提示する。腫瘍細胞-含有培養液が哺乳動物細胞培養である方法が好ましく、腫瘍細胞-含有培養液が哺乳動物である方法も好ましい。より好ましい方法は、哺乳動物が:ヒト;家畜;コンパニオン動物;および動物園動物から本質的になる群から選択される方法である。
【0022】
[0022] 本発明の別の側面において、少なくとも1つの本明細書中に記載される式Iの化合物の医薬的に許容可能な製剤を投与する工程を含む、癌の治療が必要な患者において癌を治療する方法が提供される。治療される癌が:乳癌;膠芽細胞腫;および膵臓癌;から本質的になる群から選択される方法が好ましい。患者に対して、少なくとも1つの追加の化学療法薬を投与することをさらに含む方法が、より好ましい。追加の化学療法薬が、ドキソルビシン、ゲムシタビンまたはこれら2つの組み合わせである方法が、最も好ましい。
【0023】
[0023] 式Iの化合物を細胞サンプルに導入する工程、そしてSTAT3阻害を測定する工程を含む、サンプル中の癌細胞の存在を決定する方法もまた、本発明により提供される。
[0024] 式Iの化合物がSTAT3活性化を阻害する能力を、試験化合物がSTAT3活性化を阻害する能力と比較する工程を含む、STAT3活性化を阻害するために有用な化合物を同定する方法もまた、提供される。
【0024】
[0025] 式Iの化合物を含むキットもまた提供される。式Iの化合物を含み、そしてSTAT3転写を同定するために有用な核酸分子もまた含むキットは、適切である。
[0026] 定義
[0027] “観察する”は、本明細書中で記載される(1または複数の)科学的に信頼性のあるアッセイのいずれかを場合により使用すること、そしてコンピュータ生成および/または(1または複数の)アッセイのいずれかの結果の解析を場合により使用すること、を含む、科学的に信頼性のあるアッセイを介して、自然科学的特性(化学的特性、生物学的特性、結晶学的特性を含む)を確認することを意味する。
【0025】
[0028] 本明細書中におけるすべてのその他の用語は、世界的な科学分野において理解されている様な意味(科学的用語の場合)および/または一般的なU.S.での英語用法において理解されているような意味(非-科学的用語の場合)を有する。
【0026】
[0029] 添付の図面を参照する場合、本発明の様々な目的および利点が、当業者にとって以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
[0030] 本件出願は、カラーで描かれた1またはそれ以上の図面および/または1またはそれ以上の写真を含有する。カラーの図面のコピーおよび/または写真のコピーは、要求および必要な費用の支払があれば提供される。
【図1】[0031] 図1A-1B:(図1A)LLL12の合成(化学構造を含む)。(図1B)LLL12のコンピュータモデルは、STAT3 SH2ドメインに結合する。pTyr705-Leu706の棒球(ball-and-stick)モデルは、STAT3のホモ二量体化の間にSH2と組ませる結合様式である。LLL12は、その結合をpTyr705結合部位に対するより強力な結合を介して、その結合を効果的に置換することから、LLL12はSTAT3 SH2二量体化を効率的に阻害することができることが示される。
【図2−1】[0032] 図2A-2E:LLL12で処置された細胞のウェスタンブロット解析。構成的に活性なSTAT3を発現する癌細胞株、(図2A)MDA-MB-231、(図2B)SK-BR-3、(図2C)HPAC、(図2D)U87、は、LLL12での処置の後、STAT3リン酸化の発現レベルの減少を示す。STAT3の下流標的、サイクリンD1、Bcl-2、およびサバイビンを阻害した。切断されたPARPおよびカスパーゼ-3の誘導により、アポトーシスは示される。
【図2−2】図2A-2E:LLL12で処置された細胞のウェスタンブロット解析。
【図2−3】図2A-2E:LLL12で処置された細胞のウェスタンブロット解析。
【図2−4】図2A-2E:LLL12で処置された細胞のウェスタンブロット解析。
【図2−5】STAT3リン酸化、(図2E)ヒト膵管上皮細胞(HPDE)、ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)、ヒト肝細胞(HH)、および正常ヒト肺線維芽細胞(WI-38)、のレベルが上昇していない正常な細胞株は、LLL12での処置の後、切断されたPARPまたはカスパーゼ-3の誘導を示さなかった。
【図3】[0033] 図3:LLL12は、STAT3リン酸化を生じていないMDA-MB-453乳癌細胞においてIL-6により誘導されたSTAT3リン酸化を阻害する。細胞を一晩血清枯渇させ、その後非処置のままにするかまたはLLL12(0.5μΜ〜2μΜ)またはDMSOにより処置した。2時間後、非処置細胞およびLLL12処置細胞を、IL-6(25 ng/mL)により刺激した。細胞を30分の時点で回収し、ウェスタンブロットにより解析した。
【図4−1】[0034] 図4A-4D:LLL12は、STAT3 DNA結合活性およびSTAT3依存的転写活性に対する阻害作用を有する。(図4A)SK-BR-3の核抽出物、(図4B)MDA-MB-231の核抽出物、(図4C)HPACの核抽出物、および(図4D)U87癌細胞の核抽出物を、STAT3 DNA結合に関して解析した。STAT1 DNA結合は、STAT1タンパク質を超える、(図4B)MDA-MB-231癌細胞および(図4D)U87癌細胞中のLLL12のSTAT3に対する特異性を示すことも見られた。DMSOビヒクル対照と比較した統計的な有意性(P<0.05)を、アスタリスクで示す。
【図4−2】図4A-4D:LLL12は、STAT3 DNA結合活性およびSTAT3依存的転写活性に対する阻害作用を有する。
【図5】[0035] 図5A-5B:(図5A)STAT3-依存的転写活性を、ルシフェラーゼアッセイで解析した。STAT3-依存的ルシフェラーゼリポーター構築物、pLucTKS3を安定的に組み込むMDA-MB-231乳癌クローン化細胞を使用した。結果を、DMSOで処置したpLucT S3-トランスフェクトサンプルを100%として設定したものと比較して、報告する。DMSOと比較した統計的な有意性(P<0.05)を、アスタリスクで示す。(図5B)STAT3-制御遺伝子の転写を、LLL12により阻害する。逆転写酵素PCRは、LLL12で処置した後に、DMSO対照を超えて、STAT3標的遺伝子の発現の低下を示す。
【図6】[0036] 図6A-6C:(図6A)軟寒天中でのMDA-MB-231細胞のコロニー形成を、LLL12により阻害する。LLL12の強力さを、固定場所(anchorage)非依存的環境において、コロニー形成アッセイを介してさらに評価した。LLL12での処置は、DMSO対照と比較して、MDA-MB-231細胞がコロニーを形成する能力を大幅に減少させた。(図6B)LLL12は、MDA-MB-231乳癌細胞における細胞遊走を阻害する。創傷治癒アッセイは、LLL12が、MDA-MB-231細胞遊走に対して有意な影響力を有することが示される。細胞が遊走する能力は、LLL12の用量を増加させることによりますます阻害される。DMSO対照と比較した統計的な有意性(P<0.05)を、アスタリスクで示す。(図6C)MDA-MB-231細胞遊走に対するLLL12の作用が、細胞増殖を阻害するその能力によるものであったかどうかを決定するために、細胞生存率アッセイ(MTT)を行った。治療の時点(LLL12ありでの4時間後)および創傷治癒アッセイにおいて使用されるインキュベーション(LLL12なしでさらに20時間)を、生存率アッセイにおいて適用した。LLL12が細胞遊走を阻害する能力は、細胞増殖の阻害のために存在するものではないようである。
【図7】[0037] 図7A-7B:LLL12と化学療法剤、ドキソルビシンおよびゲムシタビン、との組み合わせ効果。(図7A)MDA-MB-231乳癌細胞を、LLL12とドキソルビシンの単独および組み合わせで処置した。(図7B)HPAC膵臓癌細胞を、LLL12とゲムシタビンの単独および組み合わせで処置した。細胞生存率を、MTTアッセイにより決定した。LLL12とドキソルビシンまたはゲムシタビンとの相乗的効果は、アスタリスクで示される。
【図8】[0038] 図8A-8B:STAT3-C発現のU87膠芽細胞腫細胞におけるLLL12-媒介性阻害に対する作用。細胞を、構成的に活性なSTAT3、STAT3-C、を発現するベクターにより、24時間トランスフェクトし、その後LLL12を用いてさらに24時間処置した。(図8A)LLL12誘導性カスパーゼ-3切断は、STAT3-Cタンパク質を発現させた際に、U87細胞中で救済された。(図8B)U87細胞におけるLLL12の細胞生存率の阻害を、MTTアッセイにおいて、STAT3-Cタンパク質の存在下で減少させた(*P<0.05)。
【図9−1】[0039] 図9A-9C:MDA-MB-231乳癌細胞(図9A)またはU87膠芽細胞腫細胞(図9B)による、マウス異種移植片中の腫瘍増殖に対する、LLL12の作用。腫瘍発生の後、マウスに対して、2.5-5 mg/kgのLLL12またはDMSOを毎日腫瘍内投与した(*P<0.05)。
【図9−2】これらのマウス由来のMDA-MB-231腫瘍組織サンプルのSTAT3のリン酸化は減少したが、ERK 1/2リン酸化は減少しなかった(図9C)。
【図10】[0040] 図10A-10B:LLL12は、STAT3リン酸化を阻害し、STAT3下流標的遺伝子(サイクリンD1、サバイビンおよびBcl-2)の発現を下方制御し、そして(図10A)PANC-1膵臓癌細胞および(図10B)U373膠芽細胞腫細胞においてアポトーシスを誘導する。
【図11】[0041] 図11A-11B:乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションのSTAT3リン酸化は、分離されていないALDH-サブポピュレーションよりも高い。(図11A)SUM159乳癌細胞におけるALDH酵素活性の代表的なフローサイトメトリー解析を示す。(図11B)ALDH+サブポピュレーションおよびALDH-サブポピュレーションを、フローサイトメトリーにより、MDA-MB-231、SUM159、およびSK-BR-3乳癌細胞から分離した。STAT3(Y705)のリン酸化、およびERK 1/2(T202/Y204)のリン酸化を、ウェスタンブロットにより検出した。
【図12−1】[0042] 図12A-12C:(図12A)LLL12は、STAT3リン酸化を阻害し、そしてALDH+乳癌始原細胞におけるアポトーシスを誘導する。ALDH+乳癌始原細胞を、5μΜのLLL12またはDMSOにより処置した。
【図12−2】(図12B)乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションにおける、STAT3下流標的遺伝子の発現のLLL12による阻害。(図12C)STAT3 shRNAは、STAT3リン酸化を阻害し、そしてLLL12の非存在下または存在下で、切断されたカスパーゼ-3を誘導する。
【図13−1】[0043] 図13A-13F:LLL12(図13A)およびStattic(図13B)は、MDA-MB-231、SUM159、およびSK-BR-3乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションを減少させた。LLL12-処置のDMSOと比較した統計的に有意な減少は、アスタリスクにより示される(P<0.05)。LLL12(図13C)、Stattic(図13D)、およびSTAT3 ShRNA(図13E)は、乳癌細胞ALDH+サブポピュレーションの細胞生存率を阻害する。CTL:GFPを発現する対照レンチウイルス。(図13F)LLL12およびStatticは、乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションの腫瘍球体(tumorsphere)形成を阻害した。腫瘍球体(tumorsphere)発生は、10〜15日後に、顕微鏡下にて観察された。
【図13−2】図13A-13F:LLL12(図13A)およびStattic(図13B)は、MDA-MB-231、SUM159、およびSK-BR-3乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションを減少させた。
【図14】[0044] 図14A-14F:LLL12は、マウス異種移植片における腫瘍増殖をMDA-MB-231乳癌始原細胞により抑制し(図14A〜図14C)そして乳腺脂肪体における腫瘍増殖をSUM159乳癌始原細胞(A+細胞)により抑制する(図14D〜図14F)。マウスには、毎日、5mg/kgのLLL12またはDMSOを腹腔内投与した。6匹のLLL12-処置マウスのすべてにおいて、DMSOビヒクル群と比較して、腫瘍体積の減少(図14Aおよび図14D)および腫瘍重量の減少(図14Bおよび図14E)が見られた(*P<0.05)。STAT3リン酸化を示すMDA-MB-231癌始原細胞から生成された腫瘍組織由来の代表的なサンプルの一つもまた、LLL12処置により阻害された(図14Cおよび図14F)。
【図15−1】[0045] 図15A-15F:乳癌細胞のALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションのSTAT3リン酸化は、分離されていないサブポピュレーションおよびALDH-/CD44+/CD24+サブポピュレーションよりも高い。(図15A)ALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションおよびALDH-/CD44+/CD24+サブポピュレーションを、フローサイトメトリーによりMDA-MB-231およびSUM-159乳癌細胞から分離した。STAT3(Y705)、およびERK 1/2(T202/Y204)のリン酸化を、ウェスタンブロットにより検出した。(図15A〜B)LLL12は、STAT3リン酸化を阻害し、そしてALDH+/CD44+/CD24-乳癌始原細胞におけるアポトーシスを誘導する。ALDH+/CD44+/CD24-乳癌始原細胞を、5μMのLLL12またはDMSOにより処置した。(図15A〜C)乳癌細胞のALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションにおける、LLL12によるSTAT3下流標的遺伝子の発現の阻害。(図15A〜D)LLL12は、乳癌細胞のALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションの細胞生存率を阻害した。(図15A〜E)LLL12は、乳癌細胞のALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションの腫瘍球体(tumorsphere)形成を阻害した。腫瘍球体(tumorsphere)発生を、10〜15日後に顕微鏡で観察した。(図15A〜F)LLL12は、マウス異種移植片における腫瘍増殖を、SUM-159乳癌始原細胞(ALDH+/CD44+/CD24-細胞)により抑制した。6匹すべてのLLL12-処置マウスにおいて、DMSOビヒクル群と比較して、腫瘍体積の減少が見られた(*P<0.05)。
【図15−2】腫瘍球体(tumorsphere)発生を、10〜15日後に顕微鏡で観察した。(図15A〜F)LLL12は、マウス異種移植片における腫瘍増殖を、SUM-159乳癌始原細胞(ALDH+/CD44+/CD24-細胞)により抑制した。6匹すべてのLLL12-処置マウスにおいて、DMSOビヒクル群と比較して、腫瘍体積の減少が見られた(*P<0.05)。
【図15−3】腫瘍球体(tumorsphere)発生を、10〜15日後に顕微鏡で観察した。(図15A〜F)LLL12は、マウス異種移植片における腫瘍増殖を、SUM-159乳癌始原細胞(ALDH+/CD44+/CD24-細胞)により抑制した。6匹すべてのLLL12-処置マウスにおいて、DMSOビヒクル群と比較して、腫瘍体積の減少が見られた(*P<0.05)。
【図16−1】[0046] 図16A-16B:ALDH 1のSTAT3リン酸化の染色の代表的なサンプル。
【図16−2】[0046] 図16A-16B:ALDH 1のSTAT3リン酸化の染色の代表的なサンプル。
【図17】[0047] 図17:LLL12合成および化合物。
【図18】[0048] 図18:LLL12は、分離されていないMDA-MB-231、SK-BR-3、およびSUM-159乳癌細胞株における、STAT3リン酸化を阻害する。
【図19−1】[0049] 図19:Statticは、ALDH+細胞におけるSTAT3リン酸化を減少する。
【図19−2】[0049] 図19:Statticは、ALDH+細胞におけるSTAT3リン酸化を減少する。
【図20】[0050] 図20:P-STAT3(Y705)およびALDH 1に対するin vivoでのビヒクルvs LLL12。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
[0051] 本発明は、非-ペプチド、細胞-透過性の、STAT3を標的とする低分子を提供する。これらの分子は、STAT3リン酸化の発現レベルが亢進された様々なヒト乳癌細胞株、膵臓癌細胞株および膠芽細胞腫癌細胞株において、(切断されたカスパーゼ-3およびポリ-ADPリボースポリメラーゼまたは“PARP”の上昇により示されたように)STAT3リン酸化(Tyr705)を阻害することそしてアポトーシスを誘導することが、新たに見出された。これらの分子はまた、MDA-MB-453乳癌細胞においてインターロイキン-6により誘導されたSTAT3リン酸化を阻害する。本発明の分子によるSTAT3シグナル伝達の阻害を、STAT3 DNA結合活性の阻害およびSTAT3-依存的転写ルシフェラーゼ活性の阻害により確認した。STAT3の下流標的、サイクリンD1、Bcl-2、およびサバイビンは、タンパク質レベルおよびmRNAレベルの両方において、下方制御された。本発明の分子は、細胞生存率の強力な阻害剤であり、IC50値が0.16μΜ〜3.09μΜの範囲にあり、報告されたJAK2阻害剤WP1066およびhSTAT3 SH2阻害剤S3I-201と比較して、STAT3リン酸化の発現レベルが亢進された6種の癌細胞株において、低い。さらに、これらの分子は、コロニー形成、細胞遊走を阻害し、ドキソルビシンおよびゲムシタビンと相乗的に作用する。さらに、これらの分子は、マウス異種移植片モデルにおける乳癌細胞増殖および膠芽細胞腫腫瘍増殖に対して強力な阻害活性を示す。この治験は、これらの分子が、乳癌細胞および膵臓癌細胞並びに構成的STAT3シグナル伝達を発現する膠芽細胞腫細胞に対する治療剤として有用であることを示すことを意味する。
【0029】
[0052] LLL12は、STAT3を標的とする新規な低分子である。
[0053] リン酸化チロシン705(pY705)は、それが二量体化のために必須であることから、STAT3の生物学的機能のために必須である。リン酸化チロシン705は、SH2ドメインのループ部分に位置し、そしていくつかの隣接するアミノ酸残基(ロイシン706、トレオニン708、およびフェニルアラニン710)と一緒に、その他のSTAT3モノマーのSH2ドメインの溝に対して、結合する。本発明の発明者らは、STAT3 SH2ドメインに結合する化合物、LLL12、を設計した。LLL12の構造および合成を、図1Aに示す。強力さおよび選択制を最適化するため、LLL12の主要な骨格は、STAT3のpY705結合部位に直接的に接触するフラグメントを含有する(図1B)。シミュレーションされたドッキングモデルは、LLL12のスルホンアミド尾部が、少なくとも3つの水素結合を有するSTAT3のpY705結合ポケットを専有することを示している。STAT3に対するLLL12のシミュレーションされた結合エネルギー(-7.8 Kcal/mol)は、構成的STAT3径路の強力な阻害剤となりうることを示唆している。
【0030】
[0054] LLL12は、ヒト乳癌細胞、および膵臓癌細胞および膠芽細胞腫細胞において、STAT3リン酸化を阻害しそしてアポトーシスを誘導する。
[0055] LLL12は、STAT3リン酸化の発現レベルが更新された乳癌細胞(MDA-MB-231およびSK-BR-3)、膵臓癌細胞(HPACおよびPANC-1)、および膠芽細胞腫細胞(U87およびU373)に対して、その作用を評価した。LLL12は、6種の癌細胞株のすべてにおいてチロシン残基705(Tyr705)におけるSTAT3リン酸化を阻害した(図2A-D)。LLL12は、その他のキナーゼ、例えばERK 1/2、mTOR、およびSrc、のリン酸化を阻害することが見出されず、このことはSTAT3に対する選択性を示した。図2A-Dにおいて示されるように、STAT3の下流標的、サイクリンD1、サバイビン、およびBcl-2など、は、LLL12により下方制御された。STAT3リン酸化のLLL12による阻害は、PARPおよびカスパーゼ-3の切断により示される様なアポトーシスの誘導と一貫しているようである(図2A-D)。LLL12の作用は、STAT3リン酸化の発現レベルが亢進されていない細胞[ヒト膵管上皮(HPDE)細胞、ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)、ヒト肝細胞(HH)、およびWI-38正常肺線維芽細胞]においても調べられた。LLL12は、これらの細胞株のいずれにおいても、切断されたPARPまたはカスパーゼ-3を誘導しなかった(図2E)。このことは、LLL12がSTAT3リン酸化の発現レベルが亢進された癌細胞に対して選択的であることを示している。
【0031】
[0056] LLL12は、IL-6により誘導されるSTAT3リン酸化を阻害する。
[0057] STAT3の活性化を、IL-6により誘導することができる。永続的にはリン酸化されたSTAT3を発現しないMDA-MB-453乳癌細胞を使用して、LLL12がIL-6誘導性のSTAT3リン酸化を阻害することができるかどうかを決定した。本発明の発明者らは、IL-6がMDA-MB-453細胞においてSTAT3リン酸化を刺激することを見出した。STAT3リン酸化のこの刺激は、用量-依存的様式でLLL12によりブロックされた(図3)。これらの結果は、LLL12が癌細胞においてSTAT3リン酸化の強力な阻害剤であることをサポートしている。
【0032】
[0058] LLL12は、STAT3 DNA結合を阻害する。
[0059] STAT3シグナル伝達のLLL12による阻害を確認するため、本発明の発明者らは、STAT3 DNA結合活性の阻害を調べた。LLL12は、乳癌細胞株、SK-BR-3(図4A)およびMDA-MB-231(図4B)、膵臓癌細胞株、HPAC(図4C)、および膠芽細胞腫細胞株、U87(図4D)において、STAT3 DNA結合活性の統計的に有意な阻害を引き起こした。LLL12は、STAT1 DNA結合活性を阻害せず(図4Bおよび4D)、このことはLLL12のSTAT1を超えるSTAT3に対する特異性を示す。
【0033】
[0060] LLL12は、STAT3-依存的転写活性およびSTAT3の下流標的の転写を阻害する。
[0061] 上述したように、STAT3は、標的遺伝子のプロモーターに対して結合し、そして増殖および抗-アポトーシス関連タンパク質の転写を誘導する。ついで、STAT3-依存的転写ルシフェラーゼ活性を、LLL12にて24時間処置した後、調べた。ルシフェラーゼアッセイにおいて見られるように(図5 A)、LLL12はまた、用量-依存的様式でSTAT3-依存的転写活性を阻害した。LLL12のSTAT3の阻害に対する影響をさらに解析するため、本発明の発明者らは、逆転写酵素PCRによるSTAT3の下流標的遺伝子の転写を見た。本発明の発明者らは、MDA-MB-231乳癌細胞、HPAC膵臓癌細胞およびU373膠芽細胞腫細胞を、LLL12(5または10μΜ)またはDMSOにより、24時間処置した。逆転写酵素PCRを、サイクリンD1、サバイビン、およびBcl-XLに関して実施した。本発明の発明者らは、LLL12での処置により、STAT3-制御された遺伝子の転写の阻害が生じることを見出した(図5B)。
【0034】
[0062] ヒトの乳癌細胞および膵臓癌細胞および膠芽細胞腫細胞における、LLL12による細胞増殖/生存率の阻害。
[0063] STAT3活性化は、細胞増殖および生存のために重要である。細胞生存率アッセイを実施して、ヒトの乳癌細胞および膵臓癌細胞および膠芽細胞腫細胞に対するLLL12の阻害作用を調べた。腫瘍細胞増殖/生存率における用量-依存的阻害が、処置の72時間後に見られた。IC50値を、LLL12およびその他の以前から特徴づけられている阻害剤について算出した(表2、実施例7);JAK2/STAT3阻害剤であるWP1066、およびSTAT3阻害剤であるS3I-201、。3種の化合物の阻害効率を比較した。LLL12は、解析されたすべての細胞株において、その他の利用可能な阻害剤よりも、細胞生存率の阻害において実質的に強力である。
【0035】
[0064] アンカー非依存性(Anchorage Independence)および細胞生存率。
[0065] 形質転換の指標は、細胞が基質への付着なしで増殖する能力である。アンカー非依存的増殖は、腫瘍の形成において極めて重要である。軟寒天コロニー形成アッセイにより、アンカー非依存的環境における薬物に対する腫瘍細胞感受性についての評価を提供する。それは、薬物の有効性を反映した、毒性のより感受性の高い測定と考えられている。というのも、細胞が増殖状態にある場合に解析されるためである。本発明の発明者らは、LLL12のSTAT3を阻害する能力が、軟寒天中でのMDA-MB-231細胞のコロニー形成に対して有している作用を調べた。DMSO対照と比較して、LLL12での処置により、コロニー形成において95%以上の減少が引き起こされた(図6A)。このアッセイの結果は、さらに、MTTアッセイにおいて見出されるものを確認し、LLL12が癌細胞生存率に対する強力な阻害剤であることをさらに確認する。
【0036】
[0066] LLL12は、MDA-MB-231乳癌細胞において細胞遊走を阻害する。
[0067]細胞遊走は、創傷治癒および腫瘍転移などの生理学的プロセスにおいて重要である。LLL12の細胞遊走に対する作用を評価するため、創傷治癒アッセイを行った。創傷を作製した後、細胞を様々な濃度のLLL12により処置した。処置は、4時間後に取り除いた。細胞を、24時間のあいだ露出領域中に遊走させた。2.5μΜまたはそれ以上の濃度のLLL12での処置により、細胞遊走の顕著な減少が生じた(図6B)。LLL12が細胞遊走を阻害する能力は、細胞増殖を阻害するその能力によるものではないようである。MTTアッセイは、遊走アッセイにおいて使用される用量および時間点が、細胞生存率に対して、最小の影響を有することを示す(図6C)。
【0037】
[0068] LLL12とドキソルビシンまたはゲムシタビンとの間での定量的組み合わせ作用。
[0069] 本発明の発明者らは、ドキソルビシンまたはゲムシタビンと相乗的様式で作用するLLL12の潜在性を評価した。MDA-MB-231乳癌細胞を、ドキソルビシンまたはLLL12により処置した。HPAC膵臓癌細胞を、ゲムシタビンまたはLLL12により処置した。処置により、用量依存的な細胞生存率の低下を生じた。処置の組み合わせ効果を調べるため、一定濃度のLLL12を、様々な濃度のドキソルビシンまたはゲムシタビンとともに使用した。72時間の処置の後、細胞生存率のより大幅な減少が組み合わせ処置において見出される(図7Aおよび7B)。各薬剤および濃度組み合わせについての組み合わせ指標(CI)を計算した。処置の組み合わせのすべてについてのCI値は、1未満であり、このことはLLL12とドキソルビシンまたはゲムシタビンとのあいだでの相乗性を示していた。LLL12と現在使用されている癌治療剤とにより見出される相乗効果は、癌療法において有用であることを証明することができた。
【0038】
[0070] 構成的に活性なSTAT3タンパク質の発現の、LLL12-媒介性阻害に対する作用。
[0071] LLL12阻害が実際にSTAT3の阻害を介したものであるのかを確認するため、U87膠芽細胞腫細胞を、STAT3、STAT3-C(マウスSTAT3)の構成的に活性な型によりトランスフェクトした。LLL12(2.5および5μΜ)は、Tyr705でのSTAT3リン酸化を阻害し、そしてU87細胞におけるカスパーゼ-3切断により示されたアポトーシスを誘導した(図8A)。しかしながら、U87細胞をSTAT3-C発現ベクターによりトランスフェクトした後も(図8A)、LLL12は、切断されたカスパーゼ-3を増加させなかった。Flag-STAT3の発現を、STAT3-C-トランスフェクトU87中で確認したが、非-トランスフェクトU87細胞では確認できなかった(図8A)。U87細胞におけるLLL12細胞生存率の阻害は、STAT3-C発現ベクターによるトランスフェクションにより、部分的に逆転もされた(図8B)。これらの結果は、STAT3-Cが少なくとも部分的にLLL12-媒介性阻害を救済することできることを示している。本発明の発明者らがSTAT3-Cによる完全な救済を観察していなかったという事実は、トランスフェクション効率によるもののようである。U87細胞の100%がトランスフェクトされているというわけではなく、そして細胞は、STAT3-Cを発現せず、そしてLLL12阻害に対して依然として感受性である。
【0039】
[0072] LLL12は、マウスモデルにおいてin vivoで腫瘍増殖を抑制する。
[0073] 本発明の発明者らは、LLL12がin vivoで抗-腫瘍作用を示すかどうかをさらに研究した。MDA-MB-231乳癌細胞またはU87膠芽細胞腫細胞株を移植することにより、そしてその後2.5および5 mg/kgのLLL12またはDMSOを腫瘍発生後毎日与えることにより、マウス異種移植実験を行った。図9に示されるように、LLL12は、MDA-MB-231(図9A)およびU87異種移植マウス(図9B)において、DMSO-処置対照と比較して、腫瘍増殖を顕著に阻害した。これらのマウス由来の腫瘍組織サンプルSTAT3リン酸化はLLL12により低下したが、ERK1/2リン酸化は低下せず(図9C)、このことはSTAT3の阻害がマウスにおける腫瘍増殖の抑制を生じることを示唆している。
【0040】
[0074] 薬物-類似性についての化合物評価。
[0075] LLL12の薬物-類似性特性を、QikProp(Schrodinger LLC)を使用して評価した。LLL12の吸収、分布、代謝、排出、および毒性(ADME/Tox)を比較した。分子、極性、溶解性、細胞透過性、血液脳関門、HERG K+閉塞、HSA結合、代謝安定性、などを含む、50個の“薬物-類似性”パラメータを評価した。LLL12は、相当な“薬物様”特性を示した。選択された強調は、以下に記載の通りである:(1)可能性のあるin vivo代謝反応が、1〜3の範囲である;(2)複合logP値は、-2〜2の範囲である;(3)HERG K+チャネルについての予測IC50値は、約-3であり、どのような場合にも-5よりも十分に高い;(4)予測Caco-2およびMCDK細胞透過性値はが許容可能である;(5)予測脳/血液分割係数が、-3以上である;(6)ヒト血清アルブミンに対する結合の予測指標が-0.5〜-0.8の範囲であり、-1.5〜1.5の推奨範囲に十分収まる;(7)予測ヒト経口吸収%が約60%である。既存の薬剤と比較して、LLL12は、SulfacytineおよびChlorthalidoneと90%類似する。
【0041】
[0076] 乳癌始原細胞。
[0077] 本発明は、STAT3リン酸化の亢進が乳癌始原細胞において発現されることを示す。結果から、STAT3が乳癌始原細胞における新規の治療標的であること、そして癌始原細胞の活性化STAT3の阻害が、乳癌に対するより有効な治療を提供することが示される。
【0042】
[0078] 現時点において、構成的STAT3シグナル伝達を標的とする主な努力は、癌細胞の全体を標的とするのみである。現在まで、膠芽細胞腫細胞を除く乳癌およびその他の癌幹細胞において、STAT3を標的とする報告は、発行されていない。ALDH1は、乳癌幹細胞の新たなマーカーであり、そして臨床的な結果がよくないことの全長であることを確認した。これらの結果は、分離されていない、乳癌細胞のALDH-、またはALDH-/CD44+/CD24-サブポピュレーションと比較して、初めて、乳癌細胞のALDH+およびALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションが、より高いレベルのSTAT3リン酸化を発現することを示す。この結果は、癌患者由来の臨床的乳癌組織におけるSTAT3リン酸化の核染色とALDHの発現との間に顕著な相関性が存在することを示す。これらの結果は、構成的STAT3シグナル伝達が、乳癌始原細胞における新規な治療標的であることを示す。
【0043】
[0079] 乳癌幹細胞におけるSTAT3の阻害を調べるため、本発明の発明者らは、2つのSTAT3阻害剤、LLL12およびStattic、並びにSTAT3 ShRNAの阻害作用を調べた。
[0080] LLL12は、新規でそしてLLL3のより強力な誘導体である。
【0044】
[0081] この結果から、LLL12が、STAT3リン酸化、細胞生存率、および腫瘍球体(tumorsphere)の形成を阻害する際、そしてMDA-MB-231、SUM159、およびSK-BR-3由来の乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションにおいてアポトーシスを誘導する際に強力であることが示される。Statticは、MDA-MB-231、SUM159、およびSK-BR-3由来の乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションにおける細胞生存率を阻害しそして腫瘍球体(tumorsphere)の形成を阻害することができる。しかしながら、これは、LLL12よりは強力ではなく、この観察は、STAT3に対する予測結合親和性がLLL12よりも弱いことと一貫している。さらに、STAT3 ShRNAもまた、ALDH+細胞におけるSTAT3リン酸化および細胞生存率を阻害する。LLL12はまた、幹細胞増殖および生存に関連する、Notch 1やNotch 3などの、ALDH+サブポピュレーションにおける推定STAT3またはIL-6下流標的遺伝子、並びに増殖および生存に関与する、サイクリンD1、サバイビン、Bcl-2、Bcl-XL、MMP-2、およびMMP-9などの、既知のSTAT3下流標的遺伝子、を下方制御することもできる。
【0045】
[0082] 本発明は、乳癌始原細胞におけるSTATSのLLL12-媒介性阻害の分子機構を提供する。
[0083] 本発明の発明者らは、LLL12、Stattic、およびSTAT3 ShRNAによるSTAT3阻害の、ALDH-サブポピュレーションに対する作用も調べた。それらのすべてが、何らかの阻害作用を示す。しかしながら、これは、ALDH-細胞が、特定レベルのSTAT3リン酸化を依然として発現し、そして分離されていない細胞よりもわずかに低いか、または分離されていない細胞とはわずかに異なる(ALDH+細胞よりも低いが)ためであろう。分離されていないMDA-MB-231、SUM-159、およびSK-BR-3乳癌細胞が、STAT3阻害剤に対して感受性であることが知られているため、わずかにより分化された癌幹細胞を含有していてもよいALDH-細胞が、STAT3阻害剤、LLL12、Stattic、並びにSTAT3 ShRNAによる阻害に対して感受性であるべきである。これらの結果は、STAT3阻害剤、LLL12およびStattticが、乳癌細胞のALDH+およびALDH-サブポピュレーションを両方共排除しうることを示す。
【0046】
[0084] これらの結果は、これらの癌始原細胞における構成的活性STAT3が、マウスにおいて腫瘍増殖を亢進させ、一方でLLL12によるSTAT3の阻害が、in vivoの異種移植片およびin vivo乳腺脂肪体マウスモデルにおいて、MDA-MB-231およびSUM-159 ALDH+細胞増殖を直接的に抑制した。さらに、LLL12でマウス異種移植片腫瘍モデルにおいてSUM-159 ALDH+/CD44+/CD24-細胞増殖も抑制する。これらのin vivoの結果は、LLL12を使用したin vitroでの癌始原細胞データと一貫しており、in vivoでのマウスモデルにおける乳癌始原細胞の腫瘍増殖の抑制に際して、LLL12が強力なSTAT3阻害剤であることを示唆した。
【0047】
[0085] In Vitro方法:本発明はまた、細胞を本明細書中の化合物を含有する有効量の組成物、またはその医薬的に許容可能な塩または水和物と接触させることにより、STAT3活性化、細胞増殖、増殖および遊走の捕捉および/または癌細胞のアポトーシスを選択的に阻害するためのin vitro方法を提供する。本発明の化合物、組成物、製剤などを使用する本発明の化合物を使用する競合的アッセイ、組織局在化アッセイ、毒性スクリーニングなどは、本発明の範囲内に入る。
【0048】
[0086] 本発明の方法は、in vitroで実施しうるが、この方法についての好ましい態様が、治療が必要な癌細胞を有する被験体に対して化合物を投与することにより、細胞をin vivoで接触させることを含むことを企図している。
【0049】
[0087] 本発明はさらに、以下の実施例において規定され、特に記載されていない限りにおいて、その際にすべての部および割合は重量比であり、そして温度は℃である。これらの実施例は、本発明の好ましい態様を示す一方で、説明のためにのみ供されることが理解されるべきである。上述した内容及びこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的な特徴を解明することができ、そして発明の本質および発明の範囲から離れることなく、発明の様々な変更および修飾を行い、様々な用途および条件に適合させることができる。本明細書中で参照される特許文献および非特許文献を含むすべての刊行物は、参照により明示的に援用される。以下の実施例は、本発明の特定の好ましい態様を説明することを意図しており、そしてその様に記載されていない限りは、請求の範囲において限定されるように発明の範囲を限定して解釈すべきものではない。データは、平均±SEMで示し、そしてStudentのt-テストを使用して比較した。優位性を、p<0.05で許容した。
【実施例】
【0050】
[0088] 実施例1:本発明の化合物の合成
[0089] LLL12の構造および合成を、図1Aに示す。強度および選択性を最適化するため、LLL12の主要な骨格を、STAT3のpY705結合部位と直接的に接触するフラグメントを含有するように設計した(図IB)。シミュレーションされたドッキングモデルによれば、LLL12のスルホンアミド尾部は、少なくとも3つの水素結合を有するSTAT3のpY705-結合ポケットを占有することが示された。コンピュータ-シミュレーションされたLLL12のSTAT3に対する結合エネルギーは、-7.8 Kcal/molであった。
【0051】
[0090] 化学物質および試薬:化学物質(Tyger Scientific, Ewing, NJから購入した3-ヒドロキシ-2-ピロン以外)およびシリカゲルを、Sigma-Aldrich Chemical Co.(Milwaukee, WI)から購入した。化学物質を、TLCそして核磁気共鳴によりその精製度をチェックした。溶融点を、Thomas Hooverキャピラリー溶融点装置条で測定し、そして補正しなかった。プロトン核磁気共鳴スペクトルは、Bruker Anance 300(300 MHz)分光光度計(Bilerica, MA)により得た。
【0052】
[0091] 化合物2の合成:ナフタレン塩化スルホニル(化合物1)(1 g、4.41 mmol)をアセトン(52 ml)中に溶解し、そして0℃にて30分間攪拌した。アンモニウムヒドロキシド(52 ml)を、0℃まで冷却し、そして上述の混合物に対して添加し、そして室温にて3時間攪拌した。次いで、アセトンを、減圧下にて除去した。残留物をジクロロメタン(100 ml)に溶解し、そして水(2×100 ml)で洗浄した。有機層を回収し、そして減圧下で蒸発させた。残留物をシリカカラムクロマトグラフィーにより精製し(ヘキサンEtOAc、3:1)、化合物2を得た(750 mg、82.1%);m.p. 147〜149℃(lit. 150℃)。
【0053】
[0092] 化合物3の合成:化合物2(500 mg、2.41 mmol)を、氷酢酸(5.0 ml)中に溶解した。三酸化クロム(1.08 g、10.85 mmol)を、水/氷酢酸(1:1、2 ml)中に溶解し、そして氷酢酸中化合物2の溶液に対して添加し、そして環流下15分間攪拌した。溶液を0℃にまで冷却し、そして水(25 ml)を添加し、そして得られた溶液を室温にて一晩攪拌した。反応混合物を水(500 ml)を用いて希釈し、そしてエーテル(3×100 ml)を用いて抽出した。有機層を回収し、そして減圧下で乾燥させて、そしてシリカカラムクロマトグラフィー酢酸エチル/ヘキサン(2:3)を用いて精製し、化合物3を得た(88 mg、15.4%);m.p.(187〜188℃);1 H NMR(300 MHz, DMSO)δ7.23(2H, d, J = 9 Hz), 7.43(2H, S), 8.11(1H, t, J = 9 Hz), 8.34(1H, d, J= 9 Hz), 8.515(1H, d, J=9 Hz).([M+Na]+ 260.7)。
【0054】
[0093] LLL12の合成:クロロホルム(14 ml)中化合物3の溶液(200mg、0.843 mmol)を、-20℃にて10分間攪拌し、その後トリエチルアミン(0.01 ml)を添加し、そして攪拌を-20℃にてさらに15分間継続した。クロロホルム(1 ml)中に溶解した3-ヒドロキシ-2-ピロン(化合物4)(86 mg、0.767 mmol)を、反応混合物に対して添加し、そして室温にて1時間攪拌した。溶媒を減圧下にて除去した。得られた残留物を水(50 ml)で希釈し、そして水溶液を酢酸エチル(3×50 ml)を用いて抽出した。有機層を分離し、乾燥し(brine)そして蒸発させた。粗生成物をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc、4:1)により精製し、LLL12を得た(50 mg、20%)。m.p.(179〜181℃);1H NMR(300 MHz, DMSO)δ7.42〜7.85(5H, m), 8.11(1H, m), 8.56(2H, m), 12.05(1H, s)。質量分析計([M+Na]+ 326.1)。
【0055】
[0094] LLL12の合成を、スルホニルクロリド1とアンモニウムヒドロキシドとの反応により開始して、2を形成した。2の酸化により、酸化クロム(VI)とともにナフトキノン3を得た。3-ヒドロキシ-2-ピロン4の化合物3との-20℃での塩基-触媒Diels-Alder反応により、LLL12が得られ、そして98:2の比の位置異性体である。
【0056】
[0095] 実施例2:LLL12は、ヒトの乳癌細胞および膵臓癌細胞および膠芽細胞腫細胞において、STAT3リン酸化を阻害し、そしてアポトーシスを誘導する
[0096] LLL12を、STAT3リン酸化の発現レベルが上昇した、乳癌細胞(MDA-MB-231およびSK-BR-3)、膵臓癌細胞(HPACおよびPANC-1)、および膠芽細胞腫細胞(U87およびU373)に対するその作用について評価した。
【0057】
[0097] ヒト乳癌細胞株(MDA-MB-231、MDA-MB-453、およびSK-BR-3)、ヒト膵臓癌細胞株(HPACおよびPANC-1)、膠芽細胞腫細胞株(U87)、ヒト肝細胞(HH)、および正常ヒト肺線維芽細胞(WI-38)を、American Type Culture Collectionから購入した。ヒト膠芽細胞腫細胞株(U373)を、Dr. Sean Lawler(The Ohio State University)から譲受した。ヒト乳房上皮細胞(HMEC)を、Lonza Walkersville, Inc.(Walkersville, MD)から購入し、そして5μg/Lのインスリン、1μg/mLのハイドロコルチゾン、10μg/mlの上皮細胞増殖因子、100μg/mLのコレラ毒素、5%のウシ胎仔血清(FBS)を添加した、Ham's F12培地(Mediatech)中で維持した。不死化ヒト膵管上皮(HPDE)細胞を、Dr. Ming-Sound Tsao(University of Toronto)から譲り受け、そして0.07 mM CaCl2を添加したCnT-07CF表皮ケラチノサイト培地(CELLnTEC Advanced Cell Systems, Bern, Switzerland)中で維持した。ヒト肝細胞(HH)を、%FBSを添加し、肝細胞増殖因子を添加した肝細胞培地(ScienCell)中で維持した。すべてのその他の細胞株は、10%FBS、4.5 g/L L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、そして1%のペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDulbecco改変Eagle培地中で維持した。すべての細胞株を、湿潤37℃のインキュベーター中で5%CO2中で保存した。
【0058】
[0098]ヒト乳癌細胞株(MDA-MB-231およびSK-BR-3)、ヒト膵臓癌細胞株(HP ACおよびPANC-1)、ヒト膠芽細胞腫細胞株(U87およびU373)、そしてヒト正常細胞株(HPDE、HMEC、HH、およびhWI-38)を、LLL12(5μΜまたは10μΜ)またはDMSOを用いて、60〜80%コンフルエントの状態の時に、10%FBSの存在下にて24時間処置し、その後プロテアーゼ阻害剤を含有する冷RIPA溶解バッファー中で溶解し、そしてSDS-PAGEに供した。リン酸-特異的STAT3(チロシン705)、リン酸-特異的ERK 1/2(トレオニン202/チロシン204)、リン酸-特異的Src(チロシン416)、リン酸-特異的mTOR(セリン2448)、切断ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)、切断カスパーゼ-3、サイクリンD、Bcl-2、サバイビン、およびGAPDHに対する1:1000希釈の抗体(Cell Signaling Tech.)を用いて、メンブレンをプローブした。メンブレンを、増感化学発光Plus試薬を使用して解析し、そしてStorm Scanner(Amersham Pharmacia Biotech Inc, Piscataway, NJ)を使用してスキャニングした。
【0059】
[0099] LLL12は、6種すべての癌細胞株において、チロシン残基705(Tyr705)でのSTAT3リン酸化を阻害した(図2A-D、図10)。LLL12は、ERK1/2、mTOR、およびSrcなどのその他のキナーゼのリン酸化を阻害することが見出されなかったことから、STAT3に対する選択性が示唆される。図2A-Dに示されるように、サイクリンD1、サバイビン、およびBcl-2などのSTAT3の下流標的は、LLL12により下方制御された。
【0060】
[00100] 具体的な理論に縛られるわけではないが、LLL12によるSTAT3リン酸化の阻害は、PARPおよびカスパーゼ-3の切断により証明されるように、アポトーシスの誘導と一貫しているようである(図2A-D、図10)。LLL12の作用は、STAT3リン酸化の発現レベルが亢進されていない細胞[ヒト膵管上皮(HPDE)細胞、ヒト乳房上皮細胞(HMEC)、ヒト肝細胞(HH)、およびWI-38正常肺線維芽細胞]においても調べられた。LLL12は、これらの細胞株のいずれにおいても、切断PARPまたはカスパーゼ-3を誘導しなかった(図2E)。このことは、LLL12がSTAT3リン酸化の発現レベルが亢進された癌細胞に対して選択的であることを示している。
【0061】
[00101] 実施例3:LLL12はIL-6により誘導されたSTAT3リン酸化を阻害する
[00102] STAT3の活性化は、IL-6により誘導することができる。MDA-MB-453乳癌細胞は、永続的にリン酸化されたSTAT3を発現するわけではないが、この細胞を使用して、LLL12がIL-6誘導性STAT3リン酸化を阻害することができるかどうかを決定した。この研究のこの結果は、IL-6が、MDA-MB-453細胞においてSTAT3リン酸化を刺激するということである。STAT3リン酸化のこの刺激は、用量-依存的様式でLLL12によりブロックされた(図3)。これらの結果は、LLL12が癌細胞におけるSTAT3リン酸化の強力な阻害剤であることをサポートしている。
【0062】
[00103] MDA-MB-453乳癌細胞を、10 cmプレートにまき、一晩接着させた。次の夜に、細胞を血清枯渇させた。ついで、細胞を非処置のままにし、またはLLL12(0.5μΜ〜2μΜ)またはDMSOにより処置した。2時間後、非処置細胞およびLLL12処置細胞を、IL-6(25 ng/mL)により刺激した。細胞を30分の時点で回収し、そしてウェスタンブロットにより解析した。
【0063】
[00104] 実施例4:LLL12は、STAT3 DNA結合を阻害する
[00105] LLL12によるSTAT3シグナル伝達の阻害を確認するため、STAT3 DNA結合活性の阻害を調べた。LLL12は、乳癌細胞株、SK-BR-3(図4A)およびMDA-MB-231(図4B)、膵臓癌細胞株、HPAC(図4C)、そして膠芽細胞腫細胞株、U87(図4D)における、STAT3 DNA結合活性の統計的に有意な阻害を引き起こした。
【0064】
[00106] 実施例5:LLL12は、STAT1 DNA結合活性を阻害せず(図4Bおよび4D)、このことはSTAT3に対するLLL12の特異性が、STAT1に対するものを超えていることを示す。
[00107] 60〜80%のコンフルエントの状態でのMDA-MB-231、SK-BR-3、HPAC、およびU87癌細胞を、LLL12(5μΜまたは10μΜ)またはDMSOとともに、10%FBSの存在下で24時間、処置した。核抽出キット(Clontech Inc.)を使用して、核抽出物を得た。ELISA-に基づく方法を提供して、転写因子によるDNA結合を検出するSTAT3またはSTAT1転写因子キット(Clontech Inc.)を使用して、核抽出物を、STAT3および/またはSTAT1 DNA結合活性に対して解析した。
【0065】
[00108] 実施例6:LLL12は、STAT3-依存性転写活性およびSTAT3の下流標的の転写を阻害する
[00109] STAT3の標的遺伝子のプロモータに対する結合は、いくかの増殖タンパク質および抗-アポトーシス関連タンパク質を誘導させる転写を誘導する。ついで、STAT3-依存的転写ルシフェラーゼ活性を、LLL12により処置してから24時間後に調べた。ルシフェラーゼアッセイにおいて見られるように(図5A)、LLL12はまた、用量-依存的様式で、STAT3-依存的転写活を阻害した。LLL12のSTAT3の阻害に対する影響をさらに解析するため、STAT3の下流標的遺伝子の転写を、逆転写酵素PCRにより研究した。MDA-MB-231乳癌細胞、HPAC膵臓癌細胞およびU373膠芽細胞腫細胞を、LLL12(5μΜまたは10μΜ)またはDMSOにより24時間処置した。逆転写酵素PCRを、サイクリンD1、サバイビン、およびBcl-XLについて実行した。LLL12による処置は、STAT3-制御遺伝子の転写の阻害を生じた(図5B)。
【0066】
[00110] STAT3-依存的転写ルシフェラーゼ活性を、STAT3-依存的ルシフェラーゼリポーター構築物、pLucTKS3を安定的に組み込むMDA-MB-231クローン化細胞を使用して測定した。細胞を6-ウェルプレート中でほぼコンフルエントになるまで増殖させ、そしてLLL12(1μΜ〜10μΜ)またはDMSOを有する5%FBS中で、24時間処置した。ルシフェラーゼアッセイ(Promega, Madison, WI)を製造者のプロトコルにしたがって実行した。任意に100%に設定したDMSOにより処置したpLucTKS3-トランスフェクト細胞と比較して、LLL12処置細胞のSTAT3ルシフェラーゼ活性を報告する。
【0067】
[00111] 逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
[00112] MDA-MB-231、HPAC、およびU373細胞を、60〜80%コンフルエントの状態の時に10%FBSの存在下にて24時間、LLL12(5μΜまたは10μΜ)またはDMSOにより処置した。ついで、細胞由来のRNAを、Uneasy Kits(Qiagen)を使用して回収した。STAT3下流標的遺伝子のプライマー配列および供給源情報は、追加のデータ表1に見ることができる。PCR増幅を、以下の条件:94℃にて5分、その後25サイクルの94℃・30秒、55℃・30秒、および72℃・30秒、そして72℃で5分の最終伸長;にて行った。
【0068】
【表1】

【0069】
[00114] 実施例7:ヒトの乳癌細胞および膵臓癌細胞および膠芽細胞腫細胞における、LLL12による細胞増殖/生存率の阻害
[00115] STAT3活性化は、腫瘍細胞増殖および細胞生存のために重要である。細胞生存率アッセイを行い、ヒトの乳癌細胞および膵臓癌細胞および膠芽細胞腫細胞の増殖および生存に対するLLL12の阻害作用を調べた。腫瘍細胞増殖/生存率における用量-依存的阻害を、処置の72時間後に確認した。IC50値を、LLL12について算出し、そしてその他の以前に特性決定された阻害剤(表2);WP1066、JAK2/STAT3阻害剤、およびS3I-20 STAT3阻害剤について算出した。3種の化合物の阻害効率を比較した。LLL12は、その他の利用可能な阻害剤と比較して解析したすべての細胞株において、細胞生存率の阻害で実質的により強力であった。
【0070】
[00116] LLL12、STAT3阻害剤、およびWP1066、JAK2阻害剤は、Dr. Kai Liの研究室(College of Pharmacy, The Ohio State University)において合成された。粉末を、滅菌ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解し、20 mMのストック溶液を作製した。ストック溶液の分注物を-20℃で保存した。STAT3 SH2阻害剤であるS3I-201を、Calbiochemから購入した。
【0071】
【表2】

【0072】
[00118] 実施例8:アンカー非依存性および細胞生存率。
[00119] 形質転換の指標は、基層への接着がない場合に、細胞が増殖する能力である。アンカー非依存的増殖は、腫瘍の形成において極めて重要である。軟寒天コロニー形成アッセイは、アンカー非依存的環境における薬物に対する腫瘍細胞感受性の評価を提供する。それは、毒性のより感受性の高い測定と考えられており、細胞が増殖段階にあるときに解析されるため、薬物の効率性を反映する。LLL12がMDA-MB-231細胞の軟寒天中でのSTAT3-関連コロニー形成を阻害する能力という効果が、検討された。DMSO対照と比較して、LLL12での処置は、コロニー形成において95%以上の減少を引き起こした(図6A)。このアッセイの結果は、さらに、MTTアッセイにおいてお見出されることが、LLL12が癌細胞生存率に対する強力な阻害剤であることを確認する。
【0073】
[00120]ヒト乳癌細胞株(MDA-MB-231およびSK-BR-3)、ヒト膵臓癌細胞株(PANC-1およびHPAC)、膠芽細胞腫細胞株(U87およびU373)を、96-ウェルプレートにウェル当たり3,000細胞の密度でまいた。異なる濃度のLLL12(0.1〜10μΜ)、WP1066(1〜10μΜ)、またはS3I-201(1〜100 M)を、10%FBSの存在下、プレートに三重にして添加した。細胞を、37℃にて72時間のあいだインキュベートした。3-(4,5-ジメチルチアゾリル)-2,5-ジフェニル臭化テトラゾリウム(MTT)生存率アッセイを、製造者のプロトコルにしたがって行った(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)。吸光度は、595 nmで読み取った。50%-最大阻害濃度(IC50)を、Sigma Plot 9.0ソフトウェア(Systat Software Inc., San Jose, CA)を使用して測定した。
【0074】
[00121] DMEM中10%FBSを含む0.6%寒天ゲルの基板を調製し、6-ウェル培養ディッシュのウェルに追加した。LLL12(1μΜまたは5μΜ)またはDMSOを添加した、DMEM中に10%FBSを含む0.4%寒天ゲル中で、アンカー非依存的増殖解析のため、MDA-MB-231乳癌細胞を、ウェル当たり5,000細胞の密度で、基板寒天の上部にプレーティングした。細胞を、37℃で維持し、そして2週間増殖させた。コロニーをMTT色素により染色した(100 L/ウェル)。コロニーの写真を、Leica MZ 16FA倒立顕微鏡(Leica Microsystems)を使用して、7.4 Slider Camera(Diagnostic Instruments Inc.)により撮影した。コロニーはカウントしてスコア化し、そして数をDMSO中で形成されたコロニーの%として正規化した。
【0075】
[00122] 実施例9LLL12は、MDA-MB-231乳癌細胞における細胞遊走を阻害する
[00123] 細胞遊走は、創傷治癒および腫瘍転移等の生理学的プロセスにおいて重要である。LLL12の細胞遊走に対うる作用を評価するため、創傷治癒アッセイを行った。創傷の形成の後、細胞を様々なの濃度のLLL12により処置した。処置を4時間後に除いた。細胞を剃毛した領域に、24時間、遊走させた。2.5μΜまたはそれ以上の濃度でのLLL12をもちいた処置は、細胞遊走の顕著な減少を火起こした(図6B)。具体的な理論に縛られるわけではないが、この研究は、LLL12が細胞遊走を阻害する能力が、LLL12の細胞増殖を阻害する能力を有しているためではないようであることを意味している。MTTアッセイは、遊走アッセイにおいて使用された用量および時間点が、細胞生存率に対しては最小の効果しか有さないことを示している(図6C)。
【0076】
[00124] MDA-MB-231乳癌細胞(ウェル当たり3×10s)を、6ウェルプレート中にまいた。約24時間後、細胞が100%コンフルエントであったとき、1 molピペットチップを使用して単層を掻き取り、そして1回洗浄して、非-接着細胞を除去した。新しい培地は、(1〜20μΜ)またはDMSOを添加した10%FBSの存在下でLLL12を添加した。処置を4時間後に除去し、そして新しい培地を追加した。処置なしでさらに20時間の後、細胞を顕微鏡下で観察した。対照における創傷が閉じた場合、遊走の阻害を、NIHウェブサイト(http://rsb.info.nih.gov/ij)から入手可能であるImageJソフトウェアを使用して評価した。創傷治癒の%は、以下の式:100−(最終領域/初期領域×100%)を使用して算出した。
【0077】
[00125] 実施例10:LLL12とドキソルビシンまたはゲムシタビンとの間の定量的組み合わせ効果
[00126] LLL12が相乗的様式でドキソルビシンまたはゲムシタビンとともに作用する潜在性を研究した。MDA-MB-231乳癌細胞を、ドキソルビシンまたはLLL12により処置した。HPAC膵臓癌細胞を、ゲムシタビンまたはLLL12により処置した。この処置により、細胞生存率の用量依存的減少が引き起こされた。これらの処置の組み合わせ効果を調べるため、一定濃度のLLL12を、様々な濃度のドキソルビシンまたはゲムシタビンとともに使用した。72時間の処置の後、組み合わせ処置の場合に、細胞生存率のより大幅な減少が見られた(図7Aおよび7B)。各薬剤および濃度の組み合わせについての組み合わせ指標(CI)を、算出した。すべての組み合わせ処置のCI値は、1未満であり、このことはLLL12とドキソルビシンまたはゲムシタビンとのあいだでの相乗作用を示している。LLL12と現在使用されている癌治療剤とにより見られた相乗効果は、癌治療に有用であることを証明している。
【0078】
[00127] MDA-MB-231乳癌細胞およびHPAC膵臓癌細胞を、96-ウェルプレート中に三重にしてウェル当たり3,000細胞の密度でまき、そしてLLL12(500 nM)およびドキソルビシン(100〜400 nM、Sigma- Aldrich, St. Louis, MO)、またはLLL12(1000 nΜ)およびゲムシタビン(100〜1000 nΜ、Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)により、10%FBSの存在下にて処置した。増殖阻害に関するLLL12およびドキソルビシン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)またはLLL12およびゲムシタビン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)の相乗的効果を、以下のようにして測定した。log(fa/fu)を、各化合物単独または組み合わせの濃度(D)に対してプロットする。ここで、faは、各濃度での細胞の影響を受けた画分であり、そしてfuは各濃度での細胞の影響を受けない画分である(1-fa)。Calcusynソフトウェア(Biosoft, Ferguson, MO)を使用して、各薬物および濃度組み合わせについての組み合わせ指標(CI)を決定した。1未満のCI値が相乗作用を示す。1と均等なCI値は相加作用を示す。1よりも大きいCI値は、アンタゴニスト作用を示す。
【0079】
[00128] 実施例11:構成的に活性なSTAT3タンパク質の発現の、LLL12-媒介性阻害に対する作用
[00129] LLL12阻害が実際にSTAT3の阻害を解するものであることを確認するため、U87膠芽細胞腫細胞を、構成的に活性なSTAT3型、STAT3-C(マウスSTAT3)によりトランスフェクトした。LLL12(2.5μΜおよび5μΜ)は、Tyr 705でSTAT3リン酸化を阻害し、そしてU87細胞でのカスパーゼ-3切断により示されるように、アポトーシスを誘導した(図8A)。しかしながら、LLL12は、U87細胞をSTAT3-C発現ベクターによりトランスフェクトした後に、切断されたカスパーゼ-3を増加しなかった(図8A)。Flag-STAT3の発現を、STAT3-C-トランスフェクトU87において確認したが、非-トランスフェクトU87細胞においては確認されなかった(図8A)。U87細胞におけるLLL12の細胞生存率の阻害は、STAT3-C発現ベクターによるトランスフェクションにより、部分的に逆転された(図8B)。これらの結果から、STAT3-Cは、少なくとも部分的にLLL12-媒介性阻害を救済することができることが示される。STAT3-Cによる完全な救済は得られなかったという事実は、トランスフェクション効率によるものである可能性がある。100%ではないU87細胞をトランスフェクトし、そしてSTAT3-Cを発現しない細胞が以前としてLLL12阻害に対して感受性であった。
【0080】
[00130] U87膠芽細胞腫細胞を、60-mm3ディッシュまたは96-ウェルプレートにまいた。第2日めに、細胞をFLAGエピトープによりタグ付加した構成的STAT3(STAT3-C)をコードするベクターにより、Lipofectamine 2000(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてトランスフェクトした。細胞を、LLL12(1〜5μΜ)またはDMSOを用いて、トランスフェクション後24時間処置した。24時間後、60-mm3ディッシュ中の細胞を回収し、ウェスタンブロットを行った。細胞生存率を、上述したように、96-ウェルプレート中でMTTアッセイにより測定した。
【0081】
[00131] 実施例12:LLL12は、in vivoでのマウスモデルにおいて、腫瘍増殖を抑制する
[00132] 本発明の発明者らは、LLL12がin vivoで抗-腫瘍効果を示すかどうかをさらに調べた。MDA-MB-231乳癌細胞またはU87膠芽細胞腫細胞株を移植し、そしてその後腫瘍発症後2.5および5 mg/kgのLLL12またはDMSOを毎日与えることにより、マウス異種移植実験を行った。図9に示されるように、LLL12は、MDA-MB-231(図9A)およびU87異種移植マウス(図9B)において、DMSO-処置対照と比較して、腫瘍増殖を顕著に阻害した。これらのマウス由来の腫瘍組織サンプルのSTAT3リン酸化は、LLL12により減少したが、ERK 1/2リン酸化は減少しなかった(図9C)ことから、STAT3の阻害は、マウスにおける腫瘍増殖の抑制を生じたこと示唆される。
【0082】
[00133] MDA-MB-231乳癌細胞(1×107)およびU87膠芽細胞腫細胞(5×106)を、Harlan(Indianapolis, IN, USA)から購入した4-週齢〜5-週齢のオス無胸腺ヌードマウスの右脇腹領域に注射した(s.c.)。腫瘍発生後、マウスを1群当たり5匹のマウスからなる3つの処置群に分割した:DMSOビヒクル対照、2.5および5 mg/kgのLLL12。腫瘍増殖を、腫瘍の長さ(L)および幅(W)を1日おきにキャリパーを用いて測定することにより決定し、そして腫瘍体積を、以下の式:体積=(π/6)LW2に基づいて算出した。処置の14日後に、犠死させたマウスから腫瘍を採取し、液体窒素中で瞬間凍結し、そして-80℃で保存した。腫瘍組織のホモジネートを溶解し、そしてSDS-PAGEにより分離して、ビヒクル処置マウスおよびLLL12処置マウスにおけるSTAT3リン酸化の発現を調べた。
【0083】
[00134] 実施例13:乳癌始原細胞実験
[00135] 細胞培養
[00136] MDA-MB-231およびSK-BR-3乳癌細胞を、American Type Culture Collection(Manassas, VA)から入手し、そして10%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen)を添加したDulbecco改変Eagle培地中で維持した。SUM159乳癌細胞をDr. Wichaから入手したが、商業的にも入手可能である(Asterand, Detroit, MI)。これらの3種の癌細胞株は日常的に試験し、そしてAmerican Type Culture CollectionおよびAsterandによりそれぞれ認証された。SUM159細胞を、5%FBS、5μg/mlインスリン、1μg/mlハイドロコルチゾンおよび10 ng/ml上皮細胞増殖因子を含有するHam's F12中で培養した。これら3種の乳癌細胞株はSTAT3リン酸化の発現レベルが亢進されているため、本発明の発明者らは、3ヶ月ごとにウェスタンブロットによりSTAT3リン酸化レベルを試験し、それらの細胞が依然としてこの腫瘍形成性表現型を維持していることを確認し、そして最後の試験をしたのは2010年8月であった。ALDH+およびALDH+/CD44+/CD24-細胞を、B27(Invitrogen)、20 ng/mL EGF(BD Biosciences)、4μg/mlゲンタマイシン(Invitrogen)、1 ng/mlヒドロコルチゾン(Sigma-Aldrich)、5μg/mlインスリンおよび100μΜβ-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich)を添加した、血清不含乳房上皮基礎培地(MEBM)(Clonetics division of Cambrex Bioscience)中で増殖させた。
【0084】
[00137] 乳癌細胞のALDH+およびALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションの分離
[00138] ALDEFLUORキット(StemCell Technologies)を使用して、知られている様な高いALDH酵素活性を有するポピュレーションを単離した。簡単に述べると、0.05%トリプシンを使用して細胞をトリプシン処理して単一細胞にし、そしてその後ALDH基質(BAAA、1×106細胞あたり1μmol/l)を含有するALDEFLUORアッセイバッファー中に懸濁し、その後37℃にて40分間インキュベートした。各サンプルについて、細胞の分注物を、15 mmol/Lのジエチルアミノベンズアルデヒド(DEAB)、特異的ALDH阻害剤、を含む同一条件下、ALDH-対照として染色した。抗-ヒトPE-CD24およびPE-Cy5-CD44抗体(BioLegend)を、CD44/CD24同定のために使用し、そしてALDH染色と組み合わせて、ALDH+/CD44+/CD24-およびALDH-/CD44+/CD24+細胞を分離した。解析を、FACStarPLUS(Becton Dickinion)フローサイトメトリーを使用して行った。STAT3阻害剤のALDH+細胞のサブポピュレーションに対する影響を評価するため、ALDH+/CD44+/CD24-細胞、ALDH-/CD44+/CD24+細胞、ALDH-細胞、および分離されていない乳癌細胞を、5μmol/lのLLL12または10μmol/L Statticを用いて24時間処置した;翌日に、細胞を回収して、ALDEFLUORアッセイを行った。
【0085】
[00139] 組織マイクロアレイスライド、免疫組織化学、および免疫蛍光染色。95例の乳癌症例を含有するヒト乳癌組織マイクロアレイスライドを、Biochain Institute, Incから入手した。これらのスライドを、60℃にて1時間焼いた。脱パラフィン化した後、スライドを、10 mMクエン酸ナトリウム(PH 6.0)または1 mM EDTA(PH 8.0)により充填された圧力鍋中で煮沸し、その後免疫組織化学または免疫蛍光染色に供した。リン酸化-STAT3(Tyr705)抗体(1:25;Signaling Technology, Beverly, MA)および/またはALDH1(1:100;BD Pharmingen, San Diego, CA)を使用した。免疫蛍光のため、スライドを両方の一次抗体とともにインキュベートし、そしてAlexa Fluor(登録商標)488結合抗-ウサギIgGおよびAlexa Fluor(登録商標)594結合抗-マウスIgG(Cell Signaling Technology, Beverly, MA)により4℃にて一晩、二重染色した。核をDAPIにより染色した。スライドを洗浄しそしてカバーした。
【0086】
[00140] 免疫組織化学のため、内在性ペルオキシダーゼ活性を、3%過酸化水素中で10分間インキュベートすることにより消去した。ブロッキングの後、スライドを、一次抗体とともに、4℃にて一晩インキュベートした。Histostain-Plus Kits(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造者により記載されるように使用した。最終的に、スライドをヘマトキシリンでカウンター染色し、そして長期保存のためにCRYSTAL/MOUNT(Biomeda Corp., Foster City, CA)でマウントした。免疫染色したスライドは、顕微鏡下でスコア化した。染色強度を、以下のスケールでスコア化した:0、染色なし;1、弱い染色;2、中程度の染色;そして3、強い染色。癌組織のほとんどまたはすべてが、領域の50%以上の染色を示した。組織マイクロアレイのスコア化を、二人の別個の研究者により行った。二人の研究者の間で矛盾するスコアが出たときは、再度スコア化し、単一の最終スコアに達した。リン酸化-STAT3およびALDH 1の間での相関の有意性を、それぞれ両方向性Pearsonカイ二乗(χ2)検定を使用して決定し、p<0.05を統計的に有意であると考えた。統計的な解析は、SPSS Version 12.0ソフトウェア(SPSS, Inc., Chicago, IL)を使用して行った。
【0087】
[00141] STAT3阻害剤
[00142] LLL12、STAT3阻害剤、を発明者の研究室のうちの一つで合成した。粉末をDMSO中に溶解し、20 mMのストック溶液を調製した。Statticは、以前に報告されたSTAT3阻害剤であるが、これをCalbiochem(San Diego, CA)から購入した。ヒトSTAT3を特異的に標的化するLentovirusのショートヘアピンRNA(ShRNA)、そして緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する対照レンチウイルスは、Columbia University のAntonio Iavaroneから提供を受けた。
【0088】
[00143] ウェスタンブロット解析
[00144] ALDH+およびALDH-サブポピュレーション、または乳癌細胞のALDH+/CD44+/CD24およびALDH-/CD44+/CD24+サブポピュレーションを、フローサイトメトリーにより分離した。ソーティングした後、ALDH+細胞およびALDH+/CD44+/CD24幹細胞を、超-低接着性6-ウェルプレート(Corning)中、血清不含幹細胞培地で培養し、癌幹細胞の特徴を維持した。ALDH-、ALDH-/CD44+/CD24+細胞および分離されていない細胞を、通常の培養液中で培養し、回収する前3日間同一の幹細胞培地に交換した。STAT3阻害剤の作用を評価するため、乳癌細胞のALDH+およびALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションを、5μmol/lのLLL12により24時間処置した。リン酸化-特異的STAT3(チロシン705)(P-STAT3、Y705)、ERK 1/2(トレオニン202/チロシン204)、切断ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)、切断カスパーゼ-3、およびGAPDHに対する抗体(Cell Signaling Tech.)を、ウェスタンブロットのために使用した。
【0089】
[00145] 逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
[00146] 乳癌細胞のALDH+およびALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションを、LLL12(5μΜ)またはDMSOを用いて24時間処置した。ついで、細胞由来のRNAを、RNeasy Kits(Qiagen)を使用して回収した。cDNAを、Omniscript RT(Qiagen)を使用して500 ngのRNAサンプルから構築した。プライマー配列情報を、表3に見出すことができる。
【0090】
【表3】

【0091】
[00147] 腫瘍球体(tumorsphere)培養
[00148] 腫瘍球体(tumorsphere)培養を、以前に記載したように行った(4)。ALDH+およびALDH+/CD44+/CD24-細胞を、単一細胞として、超-低接着性6-ウェルプレート中に50,000生細胞/ウェルの密度でまいた。細胞をまいたあと2日目に、ALDH+癌細胞を2.5〜10μmol/LのLLL12またはStatticにより処置した。腫瘍球体(tumorsphere))増殖を10〜15日後に顕微鏡下で観察した。
【0092】
[00149] キナーゼ活性アッセイ
[00150] 10種類の生成ヒトタンパク質キナーゼに対するLLL12の可能性のある効果を、Millipore UK Limited(Dundee, UK)およびReaction Biology Corp.(Malvern, PA)にてキナーゼプロファイラーアッセイにより行った。LLL12のキナーゼ活性に対するIC50阻害性値は、キナーゼアッセイにおける最高濃度として100μΜを使用して、10種の異なる濃度のLLL12を決定した。
【0093】
[00151] MTT細胞生存率アッセイ
[00152] 乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションを、96-ウェルプレート(3,000細胞/ウェル)中に三重にして血清不含乳房上皮基礎培地中でまいた。翌日、癌細胞を、1〜10μmol/LのLLL12、Stattic(Calbiochem.)により72時間、そしてSTAT3 ShRNAにより48時間、処置した。MTT(Thiazolyl Blue Tetrazolium Bromide, Sigma-Aldrich)アッセイを使用して、細胞生存率を測定した。
【0094】
[00153] マウス異種移植片腫瘍モデル
[00154] すべての動物研究を、Research Institute at Nationwide Children's HospitalにおけるIACUCおよびUniversity of Michigan のUniversity Committee on the Use and Care of Animalsにより承認された原理および標準的な手順にしたがって行った。MDA-MB-231およびSUM-159乳癌細胞のALDH+およびALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーション(1×105)それぞれを、Jackson Laboratoryから購入したメスNOD/SCIDマウスの脇腹領域に皮下注射した(s.c.)。腫瘍の発生後、マウスを6匹のマウス/群からなる2つの処置群に分割した:DMSOビヒクル対照および5mg/kgのLLL12。腫瘍増殖を腫瘍の長さ(L)および幅(W)を測定することにより決定し、そして腫瘍体積を以下の式:体積=(π/6)LW2に基づいて算出した。乳腺脂肪体実験について、本発明の発明者らは、以前に記載されたように、1×105のソートされたSUM 159 ALDH+細胞を注射し、NOD/SCIDマウス(The Jackson Laboratory)の脂肪体においてAldefluorキット(StemCell Technologies)を使用して評価した。細胞注射の19日後に、本発明の発明者らはランダムに平均体積がおよそ5mm3である2つの群にマウスを分け、そして処置を開始した。5mg/kgのLLL12(10%DMSO、18% Cremophor ELおよび72%滅菌5%デキストロース中に溶解したもの)またはビヒクルのみを、15日間にわたり、2つの群に対して腹腔内(i.p.)投与した。腫瘍をキャリパーを用いて3日ごとに測定し、そして体積を、V =π(幅2×長さ)/6を使用して算出した。処置の15日後に、腫瘍を安楽死させたマウスから回収し、液体窒素中で瞬間凍結し、そして-80℃で保存した。腫瘍組織をSTAT3リン酸化の発現について調べた。
【0095】
[00155] 実施例14:乳癌細胞のALDH+サブポピュレーション(BIC)は、高レベルのSTAT3リン酸化を発現する
[00156] 乳癌始原細胞におけるSTAT3の活性化型であるリン酸化STAT3の発現を調べるため、本発明の発明者らは、3種の乳癌細胞株、MDA-MB-231、SUM159、およびSK-BR-3のALDH+およびALDH-サブポピュレーションを分離した。SUM 159細胞の代表的な実施例を、図11Aに示す。乳癌細胞におけるALDH+(ALDHではなく)サブポピュレーションは、癌幹細胞特性をin vitroで示し、そしてマウス腫瘍モデル中でin vivoで示すことが示された。興味深いことに、結果から、乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションが分離されていないものと比較してより高いレベルのSTAT3リン酸化(チロシン残基705)を発現し、ALDH-サブポピュレーションが最低であったことが示された(図11B)。チロシン残基705(Y705)でのリン酸化は、STAT3を活性化するために重要である。トレオニン202/チロシン204(T202/Y204)でのERK 1/2リン酸化は、ALDH+サブポピュレーションにおいて一貫して高いわけではない。これらの結果は、ERKは、乳癌始原細胞において、少なくともこれらの3種の乳癌細胞株において、中心的な役割を果たしているわけではないようであることが示される。対照的に、STAT3径路は、ALDH+サブポピュレーションにおいて活性化されており、そして乳癌始原細胞においてより重要なものであるようである。本発明の発明者らはまた、組織マイクロアレイスライドを使用して、ヒト乳癌組織中でSTAT3リン酸化とALDH 1タンパク質発現を調べた。本発明の発明者らは、STAT3リン酸化の核染色とALDH 1の染色との間に顕著な関連性(P<0.01)が存在することを観察した。STAT3リン酸化の染色およびALDH 1の染色の代表的な実施例を、図16Aおよび16Bに示した。乳癌患者から得た結果は、STAT3リン酸化レベルの上昇が、乳癌始原細胞において発現されているという、乳癌細胞株中でのデータをサポートしている。本発明は、乳癌始原細胞がSTAT3リン酸化レベルの亢進を発言しており(表4)、それにより構成的STAT3シグナル伝達が乳癌始原細胞における新規の治療標的でありうることを示唆していることを示した最初の報告である。
【0096】
【表4】

【0097】
[00157] 低分子STAT3阻害剤であるLLL12は、STAT3リン酸化、STAT3下流標的を選択的に阻害し、そして乳癌細胞におけるアポトーシスを誘導する。
[00158] 乳癌始原細胞におけるSTAT3の重要な役割を確認するため、STAT3阻害剤、以前に報告されたSTAT3阻害剤LLL3の新規類似体であるLLL12(図17)を使用して、乳癌始原細胞中のSTAT3を標的とした。LLL12は、Y705でSTAT3 SH2ドメインと接触し、そしてAutoDockを介したコンピュータドッキングモデルではY705の近傍にあるサイドポケットに部分的に結合する。LLL12によるSTAT3の阻害を確認するため、本発明の発明者らは、3種の独立した乳癌細胞株におけるSTAT3リン酸化の阻害を調べた。結果から、分離されていないMDA-MB-231、SK-BR-3、およびSUM159乳癌細胞株において、LLL12がSTAT3リン酸化を阻害したことが示された(図18)。しかしながら、LLL12は、ERKのリン酸化を阻害しなかったことから、阻害がSTAT3に対して特異的であったことが示される。本発明の発明者らは、LLL12が、乳癌幹細胞生存率の阻害の部分的な原因となっている可能性があるSTAT3を阻害することに加えて、その他のヒトキナーゼ活性を阻害している可能性があるかどうかを調べた。LLL12は、SH2ドメインまたはSH2およびSH3ドメインの両方を含有するチロシンキナーゼ、Fes、JAK2、Bmx、c-SRC、PYK2、Syk、Fyn、およびYesに対して、僅かな阻害しか示さない(IC50は100μΜを超える)(表5)。LLL12はまた、AKT1、c-Raf、EGFR、ErB2/HER2、Met、mTOR、PDK1、PI3K、などを含む細胞増殖および細胞生存に関与するその他のタンパク質キナーゼに対して、僅かな阻害しか示さない(IC50は77.94μΜを超える)(表5)。知るかぎりでは、これは多数のヒトタンパク質および脂質キナーゼに対してその選択性について調べられた最初のSTAT3阻害剤であろう。LLL12はまた、STAT3を阻害したが、STAT1 DNA結合活性を阻害しなかった。これらの結果は、STAT3を阻害するためのLLL12の特異性を強力にサポートしており、そしてLLL12が乳癌始原細胞を阻害する能力は、STAT3の阻害によりものである。さらに、LLL12は、たとえばサイクリンD1、サバイビン、Bcl-2およびTwist 1などのSTAT3下流遺伝子の発現を減少させ、そして引き続いて切断PARPおよびカスパーゼ-3のレベルの上昇により示されるように、これらのヒト乳癌細胞のアポトーシスを誘導した(図18)。
【0098】
【表5】

【0099】
[00159] LLL12は、ALDH+細胞におけるSTAT3リン酸化およびSTAT3下流標的を阻害する
[00160] 本発明の発明者らは次に、LLL12の乳癌始原細胞に対する作用を調べ、そしてその結果からLLL12がSTAT3リン酸化を阻害しそしてMDA-MB-231、SUM 159、およびSK-BR-3のALDH+サブポピュレーションにおいて切断カスパーゼ-3を誘導することを示した(図2A)。LLL12によるSTAT3の阻害は、乳癌始原細胞中の癌細胞増殖、生存、および血管生成に関連する多数の既知のSTAT3-制御遺伝子(サイクリンD1、サバイビン、Bcl-2、Bcl-XL(9)、MMP-2、およびMMP-9など)の発現を下方制御する(図12B)。さらに、LLL12は、推定STAT3またはインターロイキン-6標的遺伝子と最近報告された乳癌始原細胞におけるTwist 1、Notch-1、およびNotch-3の発現を阻害する(図12B)。Twist 1は、上皮から間葉への遷移においてそして悪性形質転換において、重要な役割を果たしていることが示された。Notchシグナル伝達径路は、正常幹細胞の自己-再生および様々な組織への分化のために必須であることが知られており、そしてヒト癌幹細胞の自己-再生能および腫瘍形成性に関与していることが知られている。これらの結果から、LLL12が、STAT3リン酸化の阻害、STAT3-下流遺伝子の下方制御、およびこれらの乳癌始原細胞におけるアポトーシスの誘導の店でも強力であることが示される。本発明の発明者らはまた、STAT3 ShRNAがSTAT3リン酸化を阻害し、そしてLLL12の存在下または非存在下において、切断カスパーゼ-3を誘導することを観察した(図12C)。さらに、Statticもまた、ALDH+細胞においてSTAT3リン酸化を減少させる(追加の図4)。
【0100】
[00161] STAT3阻害剤、LLL12およびStatticは、乳癌細胞のALDH+サブポピュレーションを減少させることができる
[00162] 癌幹細胞は、乳癌に対して利用可能な現在の化学療法や放射線治療に対して抵抗性である。LLL12がALDH+サブポピュレーションを排除することができるかどうかを調べるため、本発明の発明者らは、癌細胞を処置し、そしてALDH+サブポピュレーションの割合に関してソーティングした。乳癌始原細胞がLLL12に対して抵抗性である場合、ALDH+サブポピュレーションは増加するはずである。しかしながら、結果から、LLL12がMDA-MB-231、SUM159、およびSK-BR-3癌細胞のALDH+サブポピュレーションを減少させることが示され(図13A)、このことから乳癌始原細胞のこのサブポピュレーションがLLL12-媒介性阻害に対して感受性であることが示唆される。本発明の発明者らは、10μMのStattic、別の以前に報告されたSTAT3阻害剤、もまた、ALDH+サブポピュレーションの割合を減少させることを見出した(図13B)。この結果から、STAT3径路が乳癌細胞中でのALDH+サブポピュレーションの維持に中心的な役割を果たしていることを確認する。
【0101】
[00163] ALDH+細胞は、STAT3阻害剤およびSTAT3 ShRNAによる阻害に対して感受性である。
[00164] さらに、本発明の発明者らは、LLL12(図13C)およびStattic(図3D)が、MDA-MB-231、SUM 159、およびSK-BR-3細胞からのALDH+サブポピュレーションの細胞生存率を阻害することができるが、LLL12は乳癌始原細胞の生存率の阻害の観点ではStatticよりも強力であることを見出した。同様に、STAT3 ShRNAは、ALDH+細胞の細胞生存率を低下させた(図13E)。これらの結果は、乳癌幹細胞がSTAT3阻害剤に対して感受性であることをサポートしている。さらに、乳房腫瘍幹細胞および前駆細胞が、アンカー-非依存的条件下で生存しそして増殖することができ、そして“腫瘍球体(tumorsphere)”と呼ばれた浮遊性の球体コロニーを形成することができた。これらの結果はまた、LLL12およびStatticが、SK-BR-3、MDA-MB-231、およびSUM159のALDH+サブポピュレーションにおいて腫瘍球体(tumorsphere)形成能力を阻害することができることを示した(図13F);同様に、LLL12は、比較した際に腫瘍球体(tumorsphere)形成を阻害する点においてStatticよりもより強力な活性を示す。一貫して、STAT3 SH2ドメインへの結合についてのコンピュータモデルにおいて、LLL12(-7.8 Kcal/mol)がStattic(-5.6 Kcal/mol)の場合と比較して57.8-倍強力なより高い予測結合親和性を示す。STAT3阻害剤およびSTAT3 ShRNAによるALDH-細胞の可能性のある効果もまた、調べた。LLL12、StatticおよびSTAT3 ShRNAによるALDH-細胞の阻害作用もまた存在する(図19)。このことは、ALDH+細胞が依然として、特定レベルのSTAT3リン酸化を発現するために、予測することができる(図11B)。
【0102】
[00165] LLL12は、マウス腫瘍異種移植片および/またはオルソトピックモデルにおいてin vivoで乳癌始原細胞の腫瘍増殖を抑制する
[00166] LLL12が、臨床的乳癌処置に関し治療的能力を有する可能性があるかどうかを調べるため、本発明の発明者らはさらに、-MB-231およびSUM159乳癌細胞から単離された乳癌始原細胞に対して、NOD/SCIDマウス異種移植片および乳腺脂肪体モデルそれぞれにおいてin vivoで、LLL12を試験した。LLL12の投与から得られた結果から、腫瘍体積(図14A)および腫瘍重量(図14B)、そして異種移植片マウスモデルにおけるMDA-MB-231乳癌始原細胞のSTAT3リン酸化(図14C)を、LLL12が有意に抑制することを示した(P<0.01)。同様の結果が、LLL12の治療において見出され、このことから、乳腺脂肪体マウスモデルにおけるSUM159乳癌始原細胞の腫瘍体積(図14D)および腫瘍塊(図14E)、およびSTAT3リン酸化(図14F)を、実質的に抑制する(P<0.01)ことを示している。これらの結果は、LLL12が乳癌始原細胞由来の腫瘍増殖をin vivoで抑制する際に強力絵あることが示された。
【0103】
[00167] 乳癌細胞のALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションが、高レベルのSTAT3リン酸化を発現し、そしてLLL12阻害に対して感受性である。
[00168] 細胞表面分子CD44を発現する(CD44+)が、CD24の発現は欠損するか低い(CD24low/-)乳癌細胞は、癌幹細胞としても記載された。したがって、本発明の発明者らは、ALDH+/CD44+/CD24-細胞を単離して、幹細胞ポピュレーションをさらに濃縮した(図20)。同様に、これらの結果から、MDA-MB-231およびSUM159乳癌細胞のALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションが、分離されていないそしてALDH-/CD44+/CD24+サブポピュレーションと比較して、より高いレベルのSTAT3リン酸化を発現することが示された(図15A)。本発明の発明者らは、次に、LLL12の乳癌始原細胞に対する作用を調べ、そして結果から、LLL12が、MDA-MB-231およびSUM159のALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションにおいて、STAT3リン酸化を阻害し、そしてカスパーゼ-3を誘導することが示された(図15B)。両方の細胞株においてmTORリン酸化がわずかに減少し、そしてSUM159におけるAKTリン酸化がわずかに減少し、しかしMDA-MB231細胞におけるAKTリン酸化は増加した(図15B)。LLL12によるSTAT3の阻害は、乳癌始原細胞における既知のSTAT3-制御遺伝子(例えば、サイクリンD1、サバイビン、Bcl-2、Bcl-XLおよびIL-6制御遺伝子、Notch 1等)の発現を下方制御する(図15C)。さらに、本発明の発明者らは、LLL12が、MDA-MB-231およびSUM159乳癌細胞のALDH+/CD44+/CD24+サブポピュレーションにおいて、細胞生存率を阻害したことを見出した(図15D)。さらに、LLL12は、MDA-MB-231およびSUM 159乳癌細胞のALDH+/CD44+/CD24-サブポピュレーションにおいて、腫瘍球体(tumorsphere)形成能力を阻害する(図15E)。LLL12がALDH+/CD44+/CD24-細胞に対する治療潜在性を有する可動化を決定するため、本発明の発明者らはさらに、ヌードマウス異種移植片モデルにおいてin vivoでSUM 159癌細胞から単離された乳癌始原細胞に対して、LLL12を試験した。LLL12の投与から得られた結果は、LLL12が、異種移植片マウスモデルにおけるSUM 159乳癌始原細胞の腫瘍体積を、有意に抑制することが示された(P<0.05)(図15F)。これらの結果は、さらに、乳癌始原細胞からのin vivoでの腫瘍増殖を抑制する際に、強力であることがさらに示された。
【0104】
[00169] 実施例14:LLL12および関連する化合物の利用
[00170] 本発明は、以前から知られている化合物、組成物、製剤、研究用ツール診断薬および治療薬、診断薬、および治療薬を超えて有利である選択肢を提供する。治療上の優越性に関して、本発明の化合物STAT3阻害に選択的であるため、本発明の化合物は以前に知られていた治療方法の潜在的な毒性の副作用を有さない。言い換えると、本発明において、非-癌性細胞に対してほとんどまたは全く影響を与えない化合物および方法が提供される。さらに、本発明の化合物の選択的な性質および強力さにより、従来の抗-癌剤との相乗的作用が可能になり、それによりいずれかの所定の治療の全体の毒性負荷を減少させることができる。実質的に、本発明の化合物により、従来の抗-癌治療がより低い用量でより高い効果を発揮することができるようになる。特定の限定的ではない例において、抗癌剤または従来の抗-癌剤の組み合わせについての有効用量(ED50)は、本発明の化合物と組み合わせて使用される場合、抗-癌剤単独の場合のED50と比較して低くすることができる。同様に、特定の限定的ではない態様において、そのような本発明における化合物との組み合わせで使用する場合の抗-癌剤またはそのような抗-癌剤の組み合わせについての治療指標(TI)は、従来の抗-癌剤処方のみの場合のTIと比較して大きい。
【0105】
[00171] さらに他の態様において、本発明の方法は、本発明の化合物をイオン化放射線、γ線、または粒子線を含む化学療法および/または放射線療法などの他の治療と組み合わせる。
【0106】
[00172] 用量および投与スケジュール:投与処方を、型、種、年齢、体重、性別および治療される癌のタイプ;治療される癌の重症度(すなわち、病期);投与経路;患者の腎臓機能および肝臓機能;および使用される特定の化合物またはその塩、を含む様々な因子にしたがって、選択することができる。通常の知識を有する医師または獣医師は、治療するため、例えば予防するため、阻害するため(完全にまたは部分的に)または疾患の進行を捕捉するため、に必要とされる薬物の有効量を容易に決定しそして処方することができる。
【0107】
[00173] 適切な用量の限定的ではない事例には、経口的に1日1回、1日2回、または1日3回、連続的に(毎日)または間欠的に(例えば、1週間に3〜5日)投与される、約25〜4000 mg/m2のあいだの全日用量が含まれていてもよい。例えば、組成物は、全日用量で投与しても、または1日2回および1日3回など複数の日用量に分けてもよい。
【0108】
[00174] 投与の適切な用量および方法のその他の限定的ではない事例には、カテーテルを介して腫瘍部位に直接的に静脈内投与することが含まれていてもよい。
[00175] さらに、投与には、連続的であっても、すなわち、毎日、または間欠的であってもよい。本明細書中で使用される場合、用語“間欠的”または“間欠的な”は、定期的な間隔または不定期の間隔のいずれかで停止そして開始することを意味する。例えば、間欠的な投与は、1週間に1〜6日の投与であってもよく、またはサイクル状(例えば、2〜8週連続的に毎日投与し、その後1週間まで何も投与しない休止期間を設けるなど)の投与を意味していてもよく、または1日おきの投与を意味していてもよい。
【0109】
[00176] さらに、組成物は、処方されたスケジュールのいずれかにしたがって、連続的に数週間、その後休止期間で投与することができる。例えば、組成物は、2〜8週間の処方されたスケジュールのいずれか1つにしたがって、その後1週間の休止期間、あるいは1日2回で1週間に3〜5回などで投与してもよい。
【0110】
[00177] 本明細書中に記載された様々な投与量および投与スケジュールは、単に特定の態様を記載したのみであり、そして本発明の幅広い概念を限定することを意図したものではないことは、当業者には明らかであるべきである。投与量および投与スケジュールのあらゆる順番、バリエーションおよび組み合わせが本発明の範囲に含まれる。
【0111】
[00178] 医薬組成物:本発明の化合物、およびその誘導体、フラグメント、類似体、ホモログ、医薬的に許容可能な塩または水和物、が、医薬的に許容可能な担体または賦形剤とともに、経口投与に適切な医薬組成物中に組み込まれていても良い。そのような組成物は、典型的には、治療上有効量の本明細書中に記載されるいずれかの化合物、および医薬的に許容可能な担体が含まれる。好ましくは、有効量は、適切な腫瘍細胞の最終分化を選択的に誘導するために有効な量そして患者において毒性を引き起こす量未満の量である。
【0112】
[00179] 担体または希釈剤として一般的に使用されるいずれかの不活性な賦形剤(例えば、ガム、スターチ、糖、セルロース材料、アクリレート、またはこれらの混合物等)を、本発明の製剤中で使用することができる。この組成物は、崩壊剤(例えば、クロスカルメロースナトリウム)および潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム)、をさらに含んでいてもよく、そしてさらに、結合剤、バッファー、プロテアーゼ阻害剤、界面活性剤、溶解剤、可塑剤、乳化剤、安定化剤、増粘剤、甘味料、フィルム形成剤、またはこれらのいずれかの組み合わせから選択される1またはそれ以上の添加剤を含んでいてもよい。さらに、本発明の組成物は、徐放性製剤であってもまたは即時放出製剤の形態であってもよい。
【0113】
[00180] 医薬組成物は、経口的に投与することができ、そして経口投与に適した形状で、すなわち、固体調製物または液体調製物として製剤化される。適切な固体経口製剤には、錠剤、カプセル、ピル、顆粒、ペレットなどが含まれる。適切な液体経口製剤には、溶液剤、懸濁剤、分散剤、乳化剤、油剤などが含まれる。
【0114】
[00181] 本明細書中で使用される場合、“医薬的に許容可能な担体”は、滅菌発熱物質不含水などの医薬的な投与に適合性の、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張性のそして吸収遅延剤などのいずれかそして全てが含まれることが意図される。適切な担体は、この分野における標準的な参考書である最新版のRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載されており、この内容を参照により本明細書中に援用する。そのような担体または希釈剤の好ましい事例には、水、塩類溶液、リンゲル液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンが含まれるが、これらには限定されない。リポソームおよび固定油などの非水性ビヒクルを使用することもできる。医薬的に活性な物質に対してそのような媒体および薬剤を使用することは、当該技術分野において周知である。いずれかの従来型の媒体または薬剤が活性化合物と不適合である場合を除き、組成物中でのそれらの使用が企図される。追加の活性化合物を、組成物中に組み込むこともできる。
【0115】
[00182] 限定的ではない固体担体/希釈剤の例には、ガム、スターチ(例えば、コーンスターチ、アルファ化でん粉(pregelatinized starch))、糖(例えば、ラクトース、マンニトール、スクロース、デキストロース)、セルロース系材料(例えば、微結晶セルロース)、アクリレート(例えば、ポリアクリル酸メチル)、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タルク、またはこれらの混合物が含まれるが、これらには限定されない。
【0116】
[00183] 液体製剤の限定的ではない事例において、医薬的に許容可能な担体は、水溶液剤または非水溶液剤、懸濁剤、乳化剤または油剤であってもよい。非-水溶性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水溶性の担体には水、アルコール性/水溶性溶液、塩類溶液およびバッファー化媒体を含む乳化剤または懸濁剤が含まれる。油剤の事例は、石油、動物由来の油剤、植物由来の油剤、または合成由来の油剤、例えば、ピーナツ油、大豆油、鉱油、オリーブ油、ひまわり油、および魚肝油がある。溶液剤または懸濁剤には、以下の構成成分が含まれていてもよい:注射用水、塩類溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸またはまたは亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;アセテート、サイトレートまたはホスフェートなどのバッファー、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの浸透圧の調整のための薬剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基により調整することができる。
【0117】
[00184] さらに、本発明の組成物は、結合剤(例えば、アカシア、コーンスターチ、ゼラチン、カルボマー、エチルセルロース、グアーガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン)、崩壊剤(例えば、コーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸、二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、グアーガム、デンプングリコール酸ナトリウム、プリモゲル)、様々なpHおよびイオン強度のバッファー(例えば、tris-HCl、アセテート、ホスフェート)、表面への吸着を防止するためのアルブミンまたはゼラチンなどの添加剤、洗浄剤(例えば、Tween 20、Tween 80、Pluronic F68、胆汁酸塩)、プロテアーゼ阻害剤、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、浸透亢進剤、溶解補助剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリコール)、流動促進剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、抗-酸化物質(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシアニソール)、安定化剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、増粘剤(例えば、カルボマー、コロイド状二酸化ケイ素、エチルセルロース、グアーガム)、甘味剤(例えば、スクロース、アスパルテーム、クエン酸)、着香剤(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、または有機着香剤)、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム)、流動-補助剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、可塑剤(例えば、フタル酸ジエチル、クエン酸トリエチル)、乳化剤(例えば、カルボマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム)、ポリマーコーティング(例えば、ポロキサマーまたはポロキサミン)、コーティングおよびフィルム形成剤(例えば、エチルセルロース、アクリレート、ポリメタクリレート)および/またはアジュバント、をさらに含んでいてもよい
[00185] 特定の態様において、活性化合物は、体内からの急速な排除に対して化合物を保護する担体とともに、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む徐放性製剤として、調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤を調製するための方法は、当業者には明らかである。材料は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Incから商業的に入手することもできる。リポソーム懸濁剤(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体により感染細胞を標的としたリポソームを含む)を、医薬的に許容可能な担体として使用することもできる。これらは、当業者に公知の方法にしたがって調製することができる。
【0118】
[00186] 投与の容易性および用量の均一性のため、単位投与剤形で経口組成物を製剤化することが特に好ましい。本明細書中で使用する場合の単位投与剤形は、治療される被験体に対して単位投与として適した物理的に個別の単位のことをいう;所定量の活性化合物を含有する各単位は、必要とされる医薬的担体と組み合わせて、所望の治療効果を生成するように算出される。本発明の単位投与剤形の明細は、活性化合物の独特の特性および達成される特定の治療効果、そして個体の治療のための活性化合物の合成の当該技術分野においてもともと存在していた限定により、そしてそれらに直接的に依存して、解釈される。
【0119】
[00187] 医薬組成物は、投与のための説明書とともに、容器、パック、またはディスペンサー中に含まれていてもよい。例えば、化合物は、処置の第1日に静脈から投与し、第2日およびその後の継続的な日に経口投与することができる。本発明の化合物を、疾患の進行を防止するためまたは腫瘍増殖を安定化するため、投与することができる。
【0120】
[00188] 活性構成成分を含有する医薬組成物の調製は、例えば、混合プロセス、顆粒化プロセス、または錠剤形成プロセスにより、当該技術分野において周知である。活性の治療有効成分は、医薬的に許容可能で活性有効成分と適合性の賦形剤とともにしばしば混合される。経口投与のため、活性薬剤を、この目的のために慣習的な添加剤、例えばビヒクル、安定か剤または不活性希釈剤、とともに混合し、そして慣習的な方法により投与のために適切な形態、例えば錠剤、コーティング錠剤、硬ゼラチンカプセルまたは軟ゼラチンカプセル、水溶性溶液剤アルコール性溶液剤または油性溶液剤などの上述したものに変換する。
【0121】
[00189] 患者に対して投与される化合物または製剤の量は、患者において毒性を生じさせうる量よりも少ない。特定の態様において、患者に対して投与される化合物の量は、患者の血漿中の化合物の濃度を、化合物の毒性レベルと同等またはそれを超えるレベルにまでする量未満である。好ましくは、患者の血漿内での化合物の濃度は、約10 nMに維持される。別の態様において、患者の血漿中の化合物の濃度は、約25 nMに維持される。別の態様において、患者の血漿中の化合物の濃度は、約50 nMに維持される。
【0122】
[00190] 別の態様において、患者の血漿中の化合物の濃度は、約10〜約50 nMの間の範囲に維持される。本発明の実施の際に、患者に対して投与すべき化合物の最適量は、使用される特定の化合物および治療される癌のタイプに依存する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式I:
【化1】

[式中、
i. R1、R2は、独立して、水素またはアルキルMであり、ここでMは、1、2、3、4、5または6つの炭素であり;
ii. R3、R5、R6、R8、R9は、独立して、水素、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、NO2、NH2、またはヒドロキシであり;および
iii. R4、R7は、独立して、アルキル、アルコキシ、O-アルキル、N-アルキル、芳香族化合物、ヘテロ芳香族化合物、環状化合物、またはヘテロ環状化合物である]
を有する化合物。
【請求項2】
R1、R2、R3、R4、R5、R7、R8およびR9は、それぞれ水素であり、そしてR6はヒドロキシである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物および医薬的に許容可能な賦形剤、担体、希釈剤または塩を含む、組成物。
【請求項4】
以下の工程:
i. 非置換のまたは置換のナフタレンスルホニルクロリド化合物を窒素含有化合物と反応させて、非置換のまたは置換のナフタレンスルホニルアミンを形成する工程;
ii. 工程i)の非置換のまたは置換のナフタレンスルホニルアミンを酸化して、非置換のまたは置換のナフトキノン化合物を得る工程;および
iii. 3-ヒドロキシ-2-ピロンのDiels-Alder反応を介して、工程ii)の非置換のまたは置換のナフトキノン化合物を触媒し、式Iの化合物を得る工程;
を含む、請求項1に記載の化合物を合成するための方法。
【請求項5】
工程i)の窒素含有化合物が、アンモニウムヒドロキシドを含み、そしてナフタレンスルホニルクロリドが非置換である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1の化合物をSTAT3-発現細胞に導入する工程、そしてSTAT3活性化阻害を測定する工程を含む、細胞中のSTAT3活性化を阻害する方法。
【請求項7】
阻害を、細胞アポトーシスを観察することにより測定する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
阻害を、STAT3 SH2二量体化の阻害を観察することにより測定する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
阻害を、STAT3リン酸化の発現レベルの減少を観察することにより測定される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
阻害を、STAT3の下流標的の阻害を観察することにより測定する、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
下流標的が、以下のもの:サイクリン;Bcl-2;およびサバイビン;からなる群から選択される。請求項10に記載の方法。
【請求項12】
阻害を、切断されたPARPおよびカスパーゼ-3の誘導を観察することにより測定する、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
阻害を、MDA-MD-453乳癌細胞においてIL-6を誘導し、そして誘導後のリン酸化の減少を観察することにより測定する、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
阻害を、化合物導入後のSTAT3 DNA結合活性の減少を観察することにより測定する、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
阻害を、化合物導入後のSTAT3-依存的転写活性の減少を観察することにより測定する、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載の化合物を投与することを含む、STAT3制御遺伝子の転写を阻害する方法。
【請求項17】
転写阻害を、逆転写酵素PCRを介して測定する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1に記載の化合物を、腫瘍細胞-含有培養液に対して投与することを含む、腫瘍細胞がコロニーを形成する能力を減少させる方法。
【請求項19】
腫瘍細胞-含有培養液が、哺乳動物細胞培養である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
腫瘍細胞-含有培養液が哺乳動物である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
哺乳動物が:ヒト;家畜;コンパニオン動物;および動物園動物から本質的になる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1に記載の化合物を、腫瘍細胞-含有培養液に投与することを含む、腫瘍細胞遊走を阻害する方法。
【請求項23】
腫瘍細胞-含有培養液が、哺乳動物細胞培養である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
腫瘍細胞-含有培養液が哺乳動物である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
哺乳動物が:ヒト;家畜;コンパニオン動物;および動物園動物;から本質的になる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1に記載の化合物を、腫瘍細胞-含有培養液に対して投与することを含む、腫瘍細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項27】
腫瘍細胞-含有培養液が、哺乳動物細胞培養である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
腫瘍細胞-含有培養液が哺乳動物である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
哺乳動物が:ヒト;家畜;コンパニオン動物;および動物園動物から本質的になる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
少なくとも1つの請求項1に記載される化合物の、治療的に有効な医薬的に許容可能な製剤を投与する工程を含む、癌の治療を必要とする患者における癌を治療する方法。
【請求項31】
治療される癌が:乳癌;膠芽細胞腫;および膵臓癌から本質的になる群から選択される、請求項30に記載される方法
【請求項32】
患者少なくとも1つの追加の化学療法薬を投与することをさらに含む、請求項30に記載される方法。
【請求項33】
追加の化学療法薬がドキソルビシンである、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
追加の化学療法薬がゲムシタビンである、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
追加の化学療法薬が、ドキソルビシンとゲムシタビンである、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
請求項1に記載の化合物を細胞サンプルに導入する工程、そしてSTAT3活性化が阻害されたかどうかを同定する工程を含む、サンプル中の癌細胞の存在を決定する方法。
【請求項37】
請求項1に記載の化合物がSTAT3活性化を阻害する能力を、試験化合物がSTAT3活性化を阻害する能力と比較する工程を含む、STAT3活性化を阻害するために有用な化合物を同定する方法。
【請求項38】
請求項1に記載の化合物を含むキット。
【請求項39】
STAT3転写を同定するために有用な核酸分子をさらに含む、請求項38に記載のキット。
【請求項40】
請求項2に記載される化合物および少なくとも1つの医薬的に許容可能な塩を含む、癌を治療するために有効な医薬的に許容可能な製剤。

【図3】
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【図9−1】
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【図16A】
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【図16B】
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【図19−1】
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【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図15−3】
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【図17】
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【図18】
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【図19−2】
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【図20】
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【公表番号】特表2013−512248(P2013−512248A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541155(P2012−541155)
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/057757
【国際公開番号】WO2011/066263
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(502071023)ジ・オハイオ・ステート・ユニバーシティ (12)
【Fターム(参考)】