転動装置
【課題】内部の圧力上昇が生じにくいことに加えて、異物が外部から内部に侵入しにくく且つ内部の潤滑剤の過剰な漏出が生じにくいボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじ1のシール装置14は略環状の弾性体21を2個備えており、弾性体21,21は軸方向隙間22を空けてナット12に固定されている。シール装置14には、隙間17の内部と外部とを連通して隙間17の内部の空気を外部に排出する排出孔20が設けられている。この排出孔20は、3つの孔が直列に連結してなる。3つの孔のうち両端の孔23,23は弾性体21,21に形成されている。また、3つの孔のうち中央の孔は、2個の弾性体21,21の間に形成されている軸方向隙間22である。軸方向隙間22の断面積は孔23,23の断面積よりも大きく、3つの孔のうちで最大である。このような排出孔20の形態により、排出孔20にラビリンス構造が構成されている。
【解決手段】ボールねじ1のシール装置14は略環状の弾性体21を2個備えており、弾性体21,21は軸方向隙間22を空けてナット12に固定されている。シール装置14には、隙間17の内部と外部とを連通して隙間17の内部の空気を外部に排出する排出孔20が設けられている。この排出孔20は、3つの孔が直列に連結してなる。3つの孔のうち両端の孔23,23は弾性体21,21に形成されている。また、3つの孔のうち中央の孔は、2個の弾性体21,21の間に形成されている軸方向隙間22である。軸方向隙間22の断面積は孔23,23の断面積よりも大きく、3つの孔のうちで最大である。このような排出孔20の形態により、排出孔20にラビリンス構造が構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ,ローラねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング,ボールスプライン,転がり軸受等の転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路内に転動自在に装填された複数のボールと、を備える。そして、ボールを介してねじ軸に螺合されているナットとねじ軸とを相対回転運動させると、ボールの転動を介してねじ軸とナットとが軸方向に相対移動するようになっている。
【0003】
ねじ軸の外周面とナットの内周面との間に形成される隙間の開口を密封するシールがナットの軸方向両端部に設けられているボールねじがあるが、このようなボールねじの内部に、自動給脂装置等でグリースを連続的に補給したり、手動又は電動のグリースガンでグリースを高圧で補給したりすると、ボールねじの内部の圧力が上昇し、ボール転走路の始点と終点とを連通させて無端状のボール通路を形成するボール循環部品(例えばリターンチューブ)が損傷したりナットから脱落したりするおそれがあった。また、シールのリップ部がめくれ上がって損傷するおそれもあった。
【0004】
そこで、ボールねじの内部から外部にグリース又は空気を排出する排出孔を設けて、ボールねじの内部の圧力が異常に上昇することを防止する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ボールねじの内部の過剰なグリースを外部に排出する潤滑剤排出孔をナットに設けたボールねじが開示されている。また、特許文献2には、ボールねじの内部の空気を外部に排出する通気孔をシールに設けたボールねじが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−291861号公報
【特許文献2】特開2003−343686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示のボールねじは、潤滑剤排出孔が直線状の貫通孔で構成されており、且つ、ナットの外周面に開口する開口部分に形成された埋め栓装着用ねじ切り部を除いて潤滑剤排出孔の断面形状が一定であった。そのため、前記開口部分に埋め栓を装着せずにボールねじを使用した場合には、ボールねじの外部の異物が潤滑剤排出孔を通って内部に侵入するおそれがあった。また、ボールねじの内部のグリースが潤滑剤排出孔を通って過剰に漏出してしまうおそれがあった。
また、特許文献2に開示のボールねじも同様に、ボールねじの外部の異物が通気孔を通って内部に侵入するおそれがあった。また、ボールねじの内部の空気のみならず、グリースが通気孔を通って漏出してしまうおそれがあった。
【0007】
これらの潤滑剤排出孔や通気孔の開口に栓を取り付け、給脂時のみに栓を取り外せばよいが、通常ボールねじは機械の内部に組み込まれているので、給脂時に栓の取り外し及び再取り付けを行うことは容易ではない。また、ボールねじの内部圧力に応じて自動的に開閉する機構を開口に設ければよいが、このような機構を設けるとボールねじの製造コストが上昇するという問題点がある。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、内部の圧力上昇が生じにくいことに加えて、異物が外部から内部に侵入しにくく且つ内部の潤滑剤の過剰な漏出が生じにくい転動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の態様は次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係る転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成される隙間の開口を密封するシールと、を備えるとともに、前記隙間の内部と外部とを連通して前記隙間の内部の潤滑剤及び空気の少なくとも一方を外部に排出する排出孔を、前記外方部材及び前記シールの少なくとも一方に備え、前記排出孔は、少なくとも3つの孔が直列に連結してなり、隣接する3つの孔のうち中央の孔の断面積を最大又は最小とすることにより構成されたラビリンス構造を有する。
【0009】
このような転動装置においては、前記排出孔を構成する前記各孔の連結部のうち少なくとも一部は屈曲していることが好ましい。
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することが可能である。例えば、ボールねじ,ローラねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング,ボールスプライン,転がり軸受等である。
【0010】
また、本発明における内方部材とは、転動装置がボールねじ及びローラねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリング及びボールスプラインの場合には軸、同じく転がり軸受の場合には内輪をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置がボールねじ及びローラねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリング及びボールスプラインの場合には外筒、同じく転がり軸受の場合には外輪をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の転動装置は、ラビリンス構造を有する排出孔を備えているので、内部の圧力上昇が生じにくいことに加えて、異物が外部から内部に侵入しにくく且つ内部の潤滑剤の過剰な漏出が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る転動装置の第一実施形態であるボールねじの構造を説明する断面図である。
【図2】ナットの一部を切断して示した図1のボールねじの側面図である。
【図3】図1のボールねじの正面図である。
【図4】シール装置に備えられた2個の弾性体の正面図である。
【図5】第一実施形態のボールねじの変形例を説明するナットの断面図である。
【図6】本発明に係る転動装置の第二実施形態であるボールねじの構造を説明する正面図である。
【図7】第二実施形態のボールねじのシール装置に備えられた2個の弾性体の正面図である。
【図8】本発明に係る転動装置の第三実施形態であるボールねじの構造を説明する部分断面図である。
【図9】本発明に係る転動装置の第四実施形態であるボールスプラインの構造を説明する断面図である。
【図10】図9のボールスプラインのA−A断面図である。
【図11】本発明に係る転動装置の第五実施形態であるリニアガイド装置の構造を説明する斜視図である。
【図12】図11のリニアガイド装置が備えるシール装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第一実施形態〕
図1は、本発明に係る転動装置の第一実施形態であるボールねじの構造を説明する断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図1に示すように、ボールねじ10は、螺旋状のねじ溝11aを外周面に有するねじ軸11と、ねじ軸11のねじ溝11aに対向する螺旋状のねじ溝12aを内周面に有するナット12と、両ねじ溝11a,12aにより形成される螺旋状のボール転走路15内に転動自在に装填された複数のボール13と、ボール13をボール転走路15の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路(図示せず)と、を備えている。
【0014】
すなわち、ボール13は、ボール転走路15内を移動しつつねじ軸11の回りを回ってボール転走路15の終点に至り、そこでボール循環路の一方の端部から掬い上げられてボール循環路内を通り、ボール循環路の他方の端部からボール転走路15の始点に戻されるようになっている。
なお、ボール循環路としては、リターンチューブ、コマ、デフレクタ等を用いることができる。また、ねじ溝11a,12aの断面形状(ねじ溝11a,12aの連続方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。さらに、ねじ軸11,ナット12,及びボール13の材質は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能である。例えば、金属(鋼等),焼結合金,セラミック,樹脂があげられる。
【0015】
また、ねじ軸11の外周面とナット12の内周面との間に形成される隙間17内には、グリース,潤滑油等の潤滑剤(図示せず)が配されており、両ねじ溝11a,12aとボール13の潤滑に供される。さらに、内径端部がねじ軸11に接触して隙間17の開口を密封する略環状のシール装置14,14が、ナット12の軸方向両端部の内周面に装着されていて、このシール装置14,14によって潤滑剤がボールねじ10の内部に封入されるとともに、ボールねじ10の外部から内部への異物の侵入が防止される。
【0016】
さらに、このボールねじ10には、ナット12の外周面と内周面を貫通する貫通孔からなる給脂孔18が設けられており、自動給脂装置や手動又は電動のグリースガンを用いて、ナット12の外周面に形成された開口から給脂孔18を通じてボールねじ10の内部に潤滑剤を供給できるようになっている。
このようなボールねじ10は、ボール13を介してねじ軸11に螺合されているナット12とねじ軸11とを相対回転運動させると、ボール13の転動を介してねじ軸11とナット12とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転走路15とボール循環路により無端状のボール通路が形成されており、ボール転走路15内を転動するボール13が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸11とナット12とは継続的に相対移動することができる。
【0017】
ここで、シール装置14について、図2〜4を参照しながら詳細に説明する。図2は、ナット12のうちシール装置14の周辺部分のみを切断して示したボールねじ10の側面図であり、図3はボールねじ10の正面図である。また、図4は、シール装置14に備えられた2個の弾性体の正面図である。
シール装置14は略環状の弾性体21,21を2個備えており、これら2個の弾性体21,21は同心に配され、軸方向隙間22を空けて並んだ状態でナット12に固定されている。そして、これら2個の弾性体21,21の内径端部がそれぞれねじ軸11に接触することにより、隙間17の開口を密封している。
【0018】
このシール装置14には、隙間17の内部と外部とを連通して隙間17の内部の空気を外部に排出する排出孔20が設けられている。よって、自動給脂装置や手動又は電動のグリースガンを用いて、給脂孔18を通じてボールねじ10の内部に潤滑剤を供給した際には、ボールねじ10の内部の空気が潤滑剤に押し出されて排出孔20から外部に放出されるので、ボールねじ10の内部に潤滑剤を円滑に供給することができる。また、ボールねじ10の内部の空気圧上昇が生じにくいので、シール装置14のリップ部(弾性体21の内径端部)がめくれ上がって損傷するおそれがほとんどない。
【0019】
そして、この排出孔20は、ラビリンス構造を有している。すなわち、この排出孔20は、3つの孔が直列に連結してなり、これら3つの孔の中で中央の孔の断面積(孔の連続方向に直交する平面で切断した場合の断面積)を最大とすることにより、前記ラビリンス構造が構成されている。
排出孔20を構成する3つの孔のうち両端の孔23,23は、弾性体21,21に形成されており、弾性体21を軸方向に貫通している。本実施形態においては、これら2個の孔23,23の断面形状及び断面積は同一としたが、断面形状及び断面積の一方又は両方が異なっていてもよい。
【0020】
また、図4の(a)は軸方向外側に配された弾性体21の正面図であり、(b)は軸方向内側に配された弾性体21の正面図であるが、孔23,23は径方向同位置且つ周方向同位相に形成されているので、図3,4から分かるように、これら孔23,23は全く同位置に形成されていることとなり、その結果、これら孔23,23は一直線上に並ぶこととなる。
【0021】
排出孔20を構成する3つの孔のうち中央の孔は、2個の弾性体21,21の間に形成されている軸方向隙間22である。このように、排出孔20は、弾性体21,21の孔23,23と軸方向隙間22とが直列に連結してなり、その形状は直線状である。そして、軸方向隙間22の断面積は孔23,23の断面積よりも大きく、3つの孔のうちで最大となっている。
【0022】
上記のような排出孔20の形態により、排出孔20にラビリンス構造が構成されている。よって、このラビリンス構造により排出孔20がシールされるため、排出孔20の開口に栓を取り付けなくても、ボールねじ10の外部の異物が排出孔20を介して内部に侵入することや、ボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することは、ほとんどない。
【0023】
また、弾性体21の孔23よりも断面積の大きい軸方向隙間22は、異物や潤滑剤を保持する溜まり部としても機能する。すなわち、軸方向外側の弾性体21の孔23を通過した異物や、軸方向内側の弾性体21の孔23を通過した潤滑剤が、軸方向隙間22内に貯留されるため、ボールねじ10の外部の異物が排出孔20を介して内部に侵入することや、ボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することが、より抑制される。
【0024】
なお、本実施形態においては、排出孔20を構成する3つの孔のうち中央の孔の断面積を最大としたが、最小としてもラビリンス構造を構成することができる。また、排出孔20を構成する孔の数は3個に限定されるものではなく、4個以上でもよいことは勿論である。排出孔20を構成する孔の数が4個以上の場合には、そのうち3個の孔によって上記のようなラビリンス構造が構成されていればよい。さらに、排出孔20が備えるラビリンス構造は1個に限定されるものではなく、複数のラビリンス構造を備えていてもよい。
【0025】
さらに、本実施形態においては、弾性体21の孔23の断面形状を円形としたが、これに限定されるものではなく、半円形、楕円形、多角形(三角形、四角形等)など、いかなる断面形状でも差し支えない。さらに、弾性体21における孔23を形成する径方向位置は特に限定されるものではなく、弾性体21の外径端部に形成しても差し支えない。ただし、内径端部に孔23を形成することは避けるべきである。内径端部に孔23を形成すると、異物や潤滑剤が孔23を通過する確率が大幅に上昇するおそれがある。さらに、1個のシール装置14に複数の排出孔20を設けてもよい。
【0026】
さらに、本実施形態においては、弾性体21の形状は平板状であったが、図5に示すように、弾性体21の内径端部が軸方向に湾曲した形状でもよい。そして、ねじ軸11のねじ溝11aのねじ溝面のうち、溝底と溝縁との間の部分に、弾性体21の内径端部を摺接させるとよい。そうすれば、シール装置14の密封性が向上するため、排出孔20の前記効果が高まる。なお、図5においては、軸方向隙間22の図示は省略してある。
【0027】
〔第二実施形態〕
図6は、本発明に係る転動装置の第二実施形態であるボールねじの構造を説明する正面図であり、図7は、シール装置14に備えられた2個の弾性体の正面図である。第二実施形態のボールねじの構成及び作用効果等は、第一実施形態とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。なお、図6,7においては、図1〜4と同一又は相当する部分には、図1〜4と同一の符号を付してある。
【0028】
図7の(a)は軸方向外側に配された弾性体21の正面図であり、(b)は軸方向内側に配された弾性体21の正面図であるが、孔23,23は径方向同位置且つ周方向異位相に形成されているので、図6,7から分かるように、これら孔23,23は異なる位置に形成されていることとなり、その結果、これら孔23,23は一直線上には並んでいないこととなる。
【0029】
第一実施形態と同様に、排出孔20を構成する3つの孔のうち中央の孔は、2個の弾性体21,21の間に形成されている軸方向隙間22である。排出孔20は、弾性体21,21の孔23,23と軸方向隙間22とが直列に連結してなるが、孔23,23は一直線上には並んでいないので、排出孔20の形状は屈曲していることとなる。そして、軸方向隙間22の断面積は孔23,23の断面積よりも大きく、3つの孔のうちで最大となっている。
【0030】
上記のような排出孔20の形態により、排出孔20にラビリンス構造が構成されているが、第二実施形態の場合は排出孔20を構成する3つの孔の連結部が屈曲しているので、ラビリンス構造による排出孔20の密封性が、第一実施形態の場合よりも優れている。よって、このラビリンス構造によって排出孔20がシールされるため、排出孔20の開口に栓を取り付けなくても、ボールねじ10の外部の異物が排出孔20を介して内部に侵入することや、ボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することは、ほとんどない。
【0031】
なお、図7から分かるように、弾性体21の内径端部の形状は真円形ではなく、ねじ軸11の外周面のうちランド部に摺接する部分は、ねじ軸11の半径と同一の曲率半径を有する円弧状であり、ねじ溝11aに摺接する部分は、ねじ軸11の半径よりも大きな曲率半径を有する円弧状である。そして、図7から分かるように、弾性体21の内径端部の形状は線対称であるが、対称軸に対して周方向同位相の位置(もちろん径方向同位置)に孔23を形成すれば、軸方向外側の弾性体21と軸方向内側の弾性体21とに同種の弾性体を使用することができる。
【0032】
〔第三実施形態〕
図8は、本発明に係る転動装置の第三実施形態であるボールねじの構造を説明する図であり、ナット12のうちシール装置14の周辺部分のみを切断して示したボールねじ10の側面図である。第三実施形態のボールねじの構成及び作用効果等は、第一,第二実施形態とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。なお、図8においては、図1〜4と同一又は相当する部分には、図1〜4と同一の符号を付してある。
【0033】
第三実施形態のボールねじの構成は第一,第二実施形態とほぼ同様であるが、シール装置14には排出孔20は形成されておらず、通常のシール装置が用いられている。その代わりに、隙間17の内部と外部とを連通して隙間17の内部の潤滑剤及び空気を外部に排出する排出孔20が、ナット12軸方向両端部に設けられている。
よって、自動給脂装置や手動又は電動のグリースガンを用いて、給脂孔18を通じてボールねじ10の内部に潤滑剤を供給した際には、ボールねじ10の内部の空気が潤滑剤に押し出されて排出孔20から外部に放出されるので、ボールねじ10の内部に潤滑剤を円滑に供給することができる。また、ボールねじ10の内部の空気圧上昇が生じにくいので、シール装置14のリップ部(弾性体21の内径端部)がめくれ上がって損傷するおそれがほとんどない。
【0034】
さらに、給脂孔18を通じてボールねじ10の内部に潤滑剤を供給した際には、ボールねじ10の内部の過剰な潤滑剤が排出孔20から外部に排出されるので、ボールねじ10の内部の潤滑剤圧力が上昇することはなく、適正な潤滑剤圧力が維持される。よって、ボール循環路を構成するリターンチューブ等のボール循環部品が損傷したりナット12から脱落したりするおそれがほとんどない。また、潤滑剤圧力により、シール装置14のリップ部(弾性体21の内径端部)がめくれ上がって損傷するおそれがほとんどない。
【0035】
そして、この排出孔20は、5つの孔が直列に連結してなる。すなわち、排出孔20は、ナット12の外周面に開口し径方向に延びる第一孔31と、第一孔31よりも断面積が小さく且つ第一孔31に連続して同方向に延びる第二孔32と、第二孔32よりも断面積が大きく且つ第二孔32に連続して軸方向に延びる第三孔33と、第三孔33よりも断面積が大きく且つ第三孔33に連続して径方向に延びる第四孔34と、第四孔34よりも断面積が小さく且つ第四孔34に連続して同方向に延びナット12の内周面に開口する第五孔35と、からなる。
【0036】
上記のような排出孔20の形態により、排出孔20にラビリンス構造が構成されている。すなわち、第一〜第三孔31,32,33のうち中央の第二孔32の断面積が最小であるため、第一〜第三孔31,32,33により第一のラビリンス構造が構成され、第三〜第五孔33,34,35のうち中央の第四孔34の断面積が最大であるため、第三〜第五孔33,34,35により第二のラビリンス構造が構成されている。よって、これらのラビリンス構造によって排出孔20がシールされる。また、第一〜第五孔31,32,33,34,35の各連結部が屈曲しているので、ラビリンス構造による排出孔20の密封性が、屈曲していない場合よりも高められている。
【0037】
このようなラビリンス構造によって排出孔20がシールされるため、排出孔20の開口に栓を取り付けなくても、ボールねじ10の外部の異物が排出孔20を介して内部に侵入することや、給脂孔18を通じての潤滑剤の供給時以外にボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することは、ほとんどない。
また、排出孔20の屈曲部には、凹部からなり異物や潤滑剤を保持する溜まり部37が設けられている。よって、第一孔31の開口から侵入した異物や、第五孔35から排出孔20内に入った潤滑剤が、溜まり部37内に貯留されるため、ボールねじ10の外部の異物が内部に侵入することや、給脂孔18を通じての潤滑剤の供給時以外にボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することが、より抑制される。
【0038】
なお、本実施形態においては、第一〜第五孔31,32,33,34,35の断面形状を円形としたが、これに限定されるものではなく、半円形、楕円形、多角形(三角形、四角形等)など、いかなる断面形状でも差し支えない。また、排出孔20を設ける軸方向位置は特に限定されるものではなく、ナット12の軸方向中央部に形成しても差し支えない。さらに、ナット12に設ける排出孔20の数は特に限定されるものではなく、1個でもよいし3個以上でもよい。
さらに、上記のようにナット12に排出孔20を設けるとともに、第一及び第二実施形態の一方又は両方の排出孔20を、シール装置14に設けてもよい。
【0039】
〔第四実施形態〕
図9は、本発明に係る転動装置の第四実施形態であるボールスプラインの構造を説明する断面図である。また、図10は、図9のボールスプラインのA−A断面図である。
図9,10に示すように、ボールスプライン40は、案内軸としてのスプライン軸41と、このスプライン軸41の外周に遊嵌する可動体としての外筒42と、この外筒42の両端にエンドキャップ43,43を介して組み付けられたシール装置45,45と、を備えており、スプライン軸41の外周面には直線状の転動体転動溝(以下、「スプライン溝」と記す)46,46,46がスプライン軸41の軸方向に沿って形成されている。
【0040】
これらのスプライン溝46,46,46は外筒42の内周面に形成されたスプライン溝47,47,47とそれぞれ対向しており、スプライン軸41又は外筒42のいずれか一方をスプライン軸41の軸方向に移動させると外筒42に組み込まれた多数の球状転動体48がスプライン溝46,47間を転動するようになっている。なお、スプライン溝46,47間を転動した球状転動体48は外筒42内に形成された転動体戻し路49,49,49(図9,10を参照)を通って元の位置に戻されるようになっている。また、外筒42の内周面に形成されたスプライン溝47,47,47の溝面には、外筒42に設けた給脂孔(図示せず)からグリース等の潤滑剤が供給できるようになっている。
【0041】
図9には図示されていないが、シール装置45には、第一又は第二実施形態の排出孔20と同様の排出孔が設けられている。よって、第一,第二実施形態と同様の効果が奏される。もちろん、シール装置45に排出孔を設ける代わりに、第三実施形態の排出孔20と同様の排出孔を外筒42に設けてもよいし、シール装置45と外筒42の両方に排出孔を設けてもよい。
【0042】
〔第五実施形態〕
図11は、本発明に係る転動装置の第五実施形態であるリニアガイド装置の斜視図である。また、図12は、図11のリニアガイド装置が備えるシール装置の正面図である。
図11に示すように、リニアガイド装置50は、軸方向に延びる案内レール51と、この案内レール51に移動可能に取り付けられたスライダ52と、このスライダ52の軸方向両端にエンドキャップ53,53を介して取り付けられたシール装置55,55と、を備えており、案内レール51の左右両側面には転動体転動溝56が軸方向に沿って形成されている。
【0043】
この転動体転動溝56はスライダ52の内側面に形成された転動体転動溝(図示せず)と対向しており、案内レール51又はスライダ52のいずれか一方が軸方向に移動するとスライダ52に組み込まれた多数の球状転動体(図示せず)が上記両転動体転動溝間を転動するようになっている。両転動体転動溝間を転動した球状転動体はスライダ52内に形成された転動体戻し路(図示せず)を転動して元の位置に戻されるようになっている。
【0044】
また、シール装置55は略コ字状に形成されており、このシール装置55の内側面には、案内レール51の転動体転動溝56に摺接するリップ部55aが突出するように設けられている。さらに、スライダ52の内側面に形成された転動体転動溝の溝面には、スライダ52に設けた給脂孔(図示せず)からグリース等の潤滑剤が供給されるようになっている。
【0045】
図12に示すように、シール装置55は、第一又は第二実施形態の排出孔20と同様の排出孔57が設けられている。よって、第一,第二実施形態と同様の効果が奏される。もちろん、シール装置55に排出孔57を設ける代わりに、第三実施形態の排出孔20と同様の排出孔をスライダ52に設けてもよいし、シール装置55とスライダ52の両方に排出孔を設けてもよい。
【0046】
なお、上記第一〜第五実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は上記第一〜第五実施形態に限定されるものではない。例えば、第一〜第五実施形態においては、転動装置の例としてボールねじ、ボールスプライン、及びリニアガイド装置をあげて説明したが、本発明は他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ローラねじ,直動ベアリング,転がり軸受等である。
【符号の説明】
【0047】
10 ボールねじ
11 ねじ軸
11a ねじ溝
12 ナット
12a ねじ溝
13 ボール
14 シール装置
15 ボール転走路
17 隙間
18 給脂孔
20 排出孔
21 弾性体
22 軸方向隙間
23 孔
31〜35 第一〜第五孔
40 ボールスプライン
41 スプライン軸
42 外筒
45 シール装置
46 スプライン溝
47 スプライン溝
48 球状転動体
50 リニアガイド装置
51 案内レール
52 スライダ
55 シール装置
56 転動体転動溝
57 排出孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ,ローラねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング,ボールスプライン,転がり軸受等の転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路内に転動自在に装填された複数のボールと、を備える。そして、ボールを介してねじ軸に螺合されているナットとねじ軸とを相対回転運動させると、ボールの転動を介してねじ軸とナットとが軸方向に相対移動するようになっている。
【0003】
ねじ軸の外周面とナットの内周面との間に形成される隙間の開口を密封するシールがナットの軸方向両端部に設けられているボールねじがあるが、このようなボールねじの内部に、自動給脂装置等でグリースを連続的に補給したり、手動又は電動のグリースガンでグリースを高圧で補給したりすると、ボールねじの内部の圧力が上昇し、ボール転走路の始点と終点とを連通させて無端状のボール通路を形成するボール循環部品(例えばリターンチューブ)が損傷したりナットから脱落したりするおそれがあった。また、シールのリップ部がめくれ上がって損傷するおそれもあった。
【0004】
そこで、ボールねじの内部から外部にグリース又は空気を排出する排出孔を設けて、ボールねじの内部の圧力が異常に上昇することを防止する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ボールねじの内部の過剰なグリースを外部に排出する潤滑剤排出孔をナットに設けたボールねじが開示されている。また、特許文献2には、ボールねじの内部の空気を外部に排出する通気孔をシールに設けたボールねじが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−291861号公報
【特許文献2】特開2003−343686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示のボールねじは、潤滑剤排出孔が直線状の貫通孔で構成されており、且つ、ナットの外周面に開口する開口部分に形成された埋め栓装着用ねじ切り部を除いて潤滑剤排出孔の断面形状が一定であった。そのため、前記開口部分に埋め栓を装着せずにボールねじを使用した場合には、ボールねじの外部の異物が潤滑剤排出孔を通って内部に侵入するおそれがあった。また、ボールねじの内部のグリースが潤滑剤排出孔を通って過剰に漏出してしまうおそれがあった。
また、特許文献2に開示のボールねじも同様に、ボールねじの外部の異物が通気孔を通って内部に侵入するおそれがあった。また、ボールねじの内部の空気のみならず、グリースが通気孔を通って漏出してしまうおそれがあった。
【0007】
これらの潤滑剤排出孔や通気孔の開口に栓を取り付け、給脂時のみに栓を取り外せばよいが、通常ボールねじは機械の内部に組み込まれているので、給脂時に栓の取り外し及び再取り付けを行うことは容易ではない。また、ボールねじの内部圧力に応じて自動的に開閉する機構を開口に設ければよいが、このような機構を設けるとボールねじの製造コストが上昇するという問題点がある。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、内部の圧力上昇が生じにくいことに加えて、異物が外部から内部に侵入しにくく且つ内部の潤滑剤の過剰な漏出が生じにくい転動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の態様は次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係る転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成される隙間の開口を密封するシールと、を備えるとともに、前記隙間の内部と外部とを連通して前記隙間の内部の潤滑剤及び空気の少なくとも一方を外部に排出する排出孔を、前記外方部材及び前記シールの少なくとも一方に備え、前記排出孔は、少なくとも3つの孔が直列に連結してなり、隣接する3つの孔のうち中央の孔の断面積を最大又は最小とすることにより構成されたラビリンス構造を有する。
【0009】
このような転動装置においては、前記排出孔を構成する前記各孔の連結部のうち少なくとも一部は屈曲していることが好ましい。
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することが可能である。例えば、ボールねじ,ローラねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング,ボールスプライン,転がり軸受等である。
【0010】
また、本発明における内方部材とは、転動装置がボールねじ及びローラねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリング及びボールスプラインの場合には軸、同じく転がり軸受の場合には内輪をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置がボールねじ及びローラねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリング及びボールスプラインの場合には外筒、同じく転がり軸受の場合には外輪をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の転動装置は、ラビリンス構造を有する排出孔を備えているので、内部の圧力上昇が生じにくいことに加えて、異物が外部から内部に侵入しにくく且つ内部の潤滑剤の過剰な漏出が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る転動装置の第一実施形態であるボールねじの構造を説明する断面図である。
【図2】ナットの一部を切断して示した図1のボールねじの側面図である。
【図3】図1のボールねじの正面図である。
【図4】シール装置に備えられた2個の弾性体の正面図である。
【図5】第一実施形態のボールねじの変形例を説明するナットの断面図である。
【図6】本発明に係る転動装置の第二実施形態であるボールねじの構造を説明する正面図である。
【図7】第二実施形態のボールねじのシール装置に備えられた2個の弾性体の正面図である。
【図8】本発明に係る転動装置の第三実施形態であるボールねじの構造を説明する部分断面図である。
【図9】本発明に係る転動装置の第四実施形態であるボールスプラインの構造を説明する断面図である。
【図10】図9のボールスプラインのA−A断面図である。
【図11】本発明に係る転動装置の第五実施形態であるリニアガイド装置の構造を説明する斜視図である。
【図12】図11のリニアガイド装置が備えるシール装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第一実施形態〕
図1は、本発明に係る転動装置の第一実施形態であるボールねじの構造を説明する断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図1に示すように、ボールねじ10は、螺旋状のねじ溝11aを外周面に有するねじ軸11と、ねじ軸11のねじ溝11aに対向する螺旋状のねじ溝12aを内周面に有するナット12と、両ねじ溝11a,12aにより形成される螺旋状のボール転走路15内に転動自在に装填された複数のボール13と、ボール13をボール転走路15の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路(図示せず)と、を備えている。
【0014】
すなわち、ボール13は、ボール転走路15内を移動しつつねじ軸11の回りを回ってボール転走路15の終点に至り、そこでボール循環路の一方の端部から掬い上げられてボール循環路内を通り、ボール循環路の他方の端部からボール転走路15の始点に戻されるようになっている。
なお、ボール循環路としては、リターンチューブ、コマ、デフレクタ等を用いることができる。また、ねじ溝11a,12aの断面形状(ねじ溝11a,12aの連続方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。さらに、ねじ軸11,ナット12,及びボール13の材質は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能である。例えば、金属(鋼等),焼結合金,セラミック,樹脂があげられる。
【0015】
また、ねじ軸11の外周面とナット12の内周面との間に形成される隙間17内には、グリース,潤滑油等の潤滑剤(図示せず)が配されており、両ねじ溝11a,12aとボール13の潤滑に供される。さらに、内径端部がねじ軸11に接触して隙間17の開口を密封する略環状のシール装置14,14が、ナット12の軸方向両端部の内周面に装着されていて、このシール装置14,14によって潤滑剤がボールねじ10の内部に封入されるとともに、ボールねじ10の外部から内部への異物の侵入が防止される。
【0016】
さらに、このボールねじ10には、ナット12の外周面と内周面を貫通する貫通孔からなる給脂孔18が設けられており、自動給脂装置や手動又は電動のグリースガンを用いて、ナット12の外周面に形成された開口から給脂孔18を通じてボールねじ10の内部に潤滑剤を供給できるようになっている。
このようなボールねじ10は、ボール13を介してねじ軸11に螺合されているナット12とねじ軸11とを相対回転運動させると、ボール13の転動を介してねじ軸11とナット12とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転走路15とボール循環路により無端状のボール通路が形成されており、ボール転走路15内を転動するボール13が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸11とナット12とは継続的に相対移動することができる。
【0017】
ここで、シール装置14について、図2〜4を参照しながら詳細に説明する。図2は、ナット12のうちシール装置14の周辺部分のみを切断して示したボールねじ10の側面図であり、図3はボールねじ10の正面図である。また、図4は、シール装置14に備えられた2個の弾性体の正面図である。
シール装置14は略環状の弾性体21,21を2個備えており、これら2個の弾性体21,21は同心に配され、軸方向隙間22を空けて並んだ状態でナット12に固定されている。そして、これら2個の弾性体21,21の内径端部がそれぞれねじ軸11に接触することにより、隙間17の開口を密封している。
【0018】
このシール装置14には、隙間17の内部と外部とを連通して隙間17の内部の空気を外部に排出する排出孔20が設けられている。よって、自動給脂装置や手動又は電動のグリースガンを用いて、給脂孔18を通じてボールねじ10の内部に潤滑剤を供給した際には、ボールねじ10の内部の空気が潤滑剤に押し出されて排出孔20から外部に放出されるので、ボールねじ10の内部に潤滑剤を円滑に供給することができる。また、ボールねじ10の内部の空気圧上昇が生じにくいので、シール装置14のリップ部(弾性体21の内径端部)がめくれ上がって損傷するおそれがほとんどない。
【0019】
そして、この排出孔20は、ラビリンス構造を有している。すなわち、この排出孔20は、3つの孔が直列に連結してなり、これら3つの孔の中で中央の孔の断面積(孔の連続方向に直交する平面で切断した場合の断面積)を最大とすることにより、前記ラビリンス構造が構成されている。
排出孔20を構成する3つの孔のうち両端の孔23,23は、弾性体21,21に形成されており、弾性体21を軸方向に貫通している。本実施形態においては、これら2個の孔23,23の断面形状及び断面積は同一としたが、断面形状及び断面積の一方又は両方が異なっていてもよい。
【0020】
また、図4の(a)は軸方向外側に配された弾性体21の正面図であり、(b)は軸方向内側に配された弾性体21の正面図であるが、孔23,23は径方向同位置且つ周方向同位相に形成されているので、図3,4から分かるように、これら孔23,23は全く同位置に形成されていることとなり、その結果、これら孔23,23は一直線上に並ぶこととなる。
【0021】
排出孔20を構成する3つの孔のうち中央の孔は、2個の弾性体21,21の間に形成されている軸方向隙間22である。このように、排出孔20は、弾性体21,21の孔23,23と軸方向隙間22とが直列に連結してなり、その形状は直線状である。そして、軸方向隙間22の断面積は孔23,23の断面積よりも大きく、3つの孔のうちで最大となっている。
【0022】
上記のような排出孔20の形態により、排出孔20にラビリンス構造が構成されている。よって、このラビリンス構造により排出孔20がシールされるため、排出孔20の開口に栓を取り付けなくても、ボールねじ10の外部の異物が排出孔20を介して内部に侵入することや、ボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することは、ほとんどない。
【0023】
また、弾性体21の孔23よりも断面積の大きい軸方向隙間22は、異物や潤滑剤を保持する溜まり部としても機能する。すなわち、軸方向外側の弾性体21の孔23を通過した異物や、軸方向内側の弾性体21の孔23を通過した潤滑剤が、軸方向隙間22内に貯留されるため、ボールねじ10の外部の異物が排出孔20を介して内部に侵入することや、ボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することが、より抑制される。
【0024】
なお、本実施形態においては、排出孔20を構成する3つの孔のうち中央の孔の断面積を最大としたが、最小としてもラビリンス構造を構成することができる。また、排出孔20を構成する孔の数は3個に限定されるものではなく、4個以上でもよいことは勿論である。排出孔20を構成する孔の数が4個以上の場合には、そのうち3個の孔によって上記のようなラビリンス構造が構成されていればよい。さらに、排出孔20が備えるラビリンス構造は1個に限定されるものではなく、複数のラビリンス構造を備えていてもよい。
【0025】
さらに、本実施形態においては、弾性体21の孔23の断面形状を円形としたが、これに限定されるものではなく、半円形、楕円形、多角形(三角形、四角形等)など、いかなる断面形状でも差し支えない。さらに、弾性体21における孔23を形成する径方向位置は特に限定されるものではなく、弾性体21の外径端部に形成しても差し支えない。ただし、内径端部に孔23を形成することは避けるべきである。内径端部に孔23を形成すると、異物や潤滑剤が孔23を通過する確率が大幅に上昇するおそれがある。さらに、1個のシール装置14に複数の排出孔20を設けてもよい。
【0026】
さらに、本実施形態においては、弾性体21の形状は平板状であったが、図5に示すように、弾性体21の内径端部が軸方向に湾曲した形状でもよい。そして、ねじ軸11のねじ溝11aのねじ溝面のうち、溝底と溝縁との間の部分に、弾性体21の内径端部を摺接させるとよい。そうすれば、シール装置14の密封性が向上するため、排出孔20の前記効果が高まる。なお、図5においては、軸方向隙間22の図示は省略してある。
【0027】
〔第二実施形態〕
図6は、本発明に係る転動装置の第二実施形態であるボールねじの構造を説明する正面図であり、図7は、シール装置14に備えられた2個の弾性体の正面図である。第二実施形態のボールねじの構成及び作用効果等は、第一実施形態とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。なお、図6,7においては、図1〜4と同一又は相当する部分には、図1〜4と同一の符号を付してある。
【0028】
図7の(a)は軸方向外側に配された弾性体21の正面図であり、(b)は軸方向内側に配された弾性体21の正面図であるが、孔23,23は径方向同位置且つ周方向異位相に形成されているので、図6,7から分かるように、これら孔23,23は異なる位置に形成されていることとなり、その結果、これら孔23,23は一直線上には並んでいないこととなる。
【0029】
第一実施形態と同様に、排出孔20を構成する3つの孔のうち中央の孔は、2個の弾性体21,21の間に形成されている軸方向隙間22である。排出孔20は、弾性体21,21の孔23,23と軸方向隙間22とが直列に連結してなるが、孔23,23は一直線上には並んでいないので、排出孔20の形状は屈曲していることとなる。そして、軸方向隙間22の断面積は孔23,23の断面積よりも大きく、3つの孔のうちで最大となっている。
【0030】
上記のような排出孔20の形態により、排出孔20にラビリンス構造が構成されているが、第二実施形態の場合は排出孔20を構成する3つの孔の連結部が屈曲しているので、ラビリンス構造による排出孔20の密封性が、第一実施形態の場合よりも優れている。よって、このラビリンス構造によって排出孔20がシールされるため、排出孔20の開口に栓を取り付けなくても、ボールねじ10の外部の異物が排出孔20を介して内部に侵入することや、ボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することは、ほとんどない。
【0031】
なお、図7から分かるように、弾性体21の内径端部の形状は真円形ではなく、ねじ軸11の外周面のうちランド部に摺接する部分は、ねじ軸11の半径と同一の曲率半径を有する円弧状であり、ねじ溝11aに摺接する部分は、ねじ軸11の半径よりも大きな曲率半径を有する円弧状である。そして、図7から分かるように、弾性体21の内径端部の形状は線対称であるが、対称軸に対して周方向同位相の位置(もちろん径方向同位置)に孔23を形成すれば、軸方向外側の弾性体21と軸方向内側の弾性体21とに同種の弾性体を使用することができる。
【0032】
〔第三実施形態〕
図8は、本発明に係る転動装置の第三実施形態であるボールねじの構造を説明する図であり、ナット12のうちシール装置14の周辺部分のみを切断して示したボールねじ10の側面図である。第三実施形態のボールねじの構成及び作用効果等は、第一,第二実施形態とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。なお、図8においては、図1〜4と同一又は相当する部分には、図1〜4と同一の符号を付してある。
【0033】
第三実施形態のボールねじの構成は第一,第二実施形態とほぼ同様であるが、シール装置14には排出孔20は形成されておらず、通常のシール装置が用いられている。その代わりに、隙間17の内部と外部とを連通して隙間17の内部の潤滑剤及び空気を外部に排出する排出孔20が、ナット12軸方向両端部に設けられている。
よって、自動給脂装置や手動又は電動のグリースガンを用いて、給脂孔18を通じてボールねじ10の内部に潤滑剤を供給した際には、ボールねじ10の内部の空気が潤滑剤に押し出されて排出孔20から外部に放出されるので、ボールねじ10の内部に潤滑剤を円滑に供給することができる。また、ボールねじ10の内部の空気圧上昇が生じにくいので、シール装置14のリップ部(弾性体21の内径端部)がめくれ上がって損傷するおそれがほとんどない。
【0034】
さらに、給脂孔18を通じてボールねじ10の内部に潤滑剤を供給した際には、ボールねじ10の内部の過剰な潤滑剤が排出孔20から外部に排出されるので、ボールねじ10の内部の潤滑剤圧力が上昇することはなく、適正な潤滑剤圧力が維持される。よって、ボール循環路を構成するリターンチューブ等のボール循環部品が損傷したりナット12から脱落したりするおそれがほとんどない。また、潤滑剤圧力により、シール装置14のリップ部(弾性体21の内径端部)がめくれ上がって損傷するおそれがほとんどない。
【0035】
そして、この排出孔20は、5つの孔が直列に連結してなる。すなわち、排出孔20は、ナット12の外周面に開口し径方向に延びる第一孔31と、第一孔31よりも断面積が小さく且つ第一孔31に連続して同方向に延びる第二孔32と、第二孔32よりも断面積が大きく且つ第二孔32に連続して軸方向に延びる第三孔33と、第三孔33よりも断面積が大きく且つ第三孔33に連続して径方向に延びる第四孔34と、第四孔34よりも断面積が小さく且つ第四孔34に連続して同方向に延びナット12の内周面に開口する第五孔35と、からなる。
【0036】
上記のような排出孔20の形態により、排出孔20にラビリンス構造が構成されている。すなわち、第一〜第三孔31,32,33のうち中央の第二孔32の断面積が最小であるため、第一〜第三孔31,32,33により第一のラビリンス構造が構成され、第三〜第五孔33,34,35のうち中央の第四孔34の断面積が最大であるため、第三〜第五孔33,34,35により第二のラビリンス構造が構成されている。よって、これらのラビリンス構造によって排出孔20がシールされる。また、第一〜第五孔31,32,33,34,35の各連結部が屈曲しているので、ラビリンス構造による排出孔20の密封性が、屈曲していない場合よりも高められている。
【0037】
このようなラビリンス構造によって排出孔20がシールされるため、排出孔20の開口に栓を取り付けなくても、ボールねじ10の外部の異物が排出孔20を介して内部に侵入することや、給脂孔18を通じての潤滑剤の供給時以外にボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することは、ほとんどない。
また、排出孔20の屈曲部には、凹部からなり異物や潤滑剤を保持する溜まり部37が設けられている。よって、第一孔31の開口から侵入した異物や、第五孔35から排出孔20内に入った潤滑剤が、溜まり部37内に貯留されるため、ボールねじ10の外部の異物が内部に侵入することや、給脂孔18を通じての潤滑剤の供給時以外にボールねじ10の内部の潤滑剤が排出孔20を介して外部に漏出することが、より抑制される。
【0038】
なお、本実施形態においては、第一〜第五孔31,32,33,34,35の断面形状を円形としたが、これに限定されるものではなく、半円形、楕円形、多角形(三角形、四角形等)など、いかなる断面形状でも差し支えない。また、排出孔20を設ける軸方向位置は特に限定されるものではなく、ナット12の軸方向中央部に形成しても差し支えない。さらに、ナット12に設ける排出孔20の数は特に限定されるものではなく、1個でもよいし3個以上でもよい。
さらに、上記のようにナット12に排出孔20を設けるとともに、第一及び第二実施形態の一方又は両方の排出孔20を、シール装置14に設けてもよい。
【0039】
〔第四実施形態〕
図9は、本発明に係る転動装置の第四実施形態であるボールスプラインの構造を説明する断面図である。また、図10は、図9のボールスプラインのA−A断面図である。
図9,10に示すように、ボールスプライン40は、案内軸としてのスプライン軸41と、このスプライン軸41の外周に遊嵌する可動体としての外筒42と、この外筒42の両端にエンドキャップ43,43を介して組み付けられたシール装置45,45と、を備えており、スプライン軸41の外周面には直線状の転動体転動溝(以下、「スプライン溝」と記す)46,46,46がスプライン軸41の軸方向に沿って形成されている。
【0040】
これらのスプライン溝46,46,46は外筒42の内周面に形成されたスプライン溝47,47,47とそれぞれ対向しており、スプライン軸41又は外筒42のいずれか一方をスプライン軸41の軸方向に移動させると外筒42に組み込まれた多数の球状転動体48がスプライン溝46,47間を転動するようになっている。なお、スプライン溝46,47間を転動した球状転動体48は外筒42内に形成された転動体戻し路49,49,49(図9,10を参照)を通って元の位置に戻されるようになっている。また、外筒42の内周面に形成されたスプライン溝47,47,47の溝面には、外筒42に設けた給脂孔(図示せず)からグリース等の潤滑剤が供給できるようになっている。
【0041】
図9には図示されていないが、シール装置45には、第一又は第二実施形態の排出孔20と同様の排出孔が設けられている。よって、第一,第二実施形態と同様の効果が奏される。もちろん、シール装置45に排出孔を設ける代わりに、第三実施形態の排出孔20と同様の排出孔を外筒42に設けてもよいし、シール装置45と外筒42の両方に排出孔を設けてもよい。
【0042】
〔第五実施形態〕
図11は、本発明に係る転動装置の第五実施形態であるリニアガイド装置の斜視図である。また、図12は、図11のリニアガイド装置が備えるシール装置の正面図である。
図11に示すように、リニアガイド装置50は、軸方向に延びる案内レール51と、この案内レール51に移動可能に取り付けられたスライダ52と、このスライダ52の軸方向両端にエンドキャップ53,53を介して取り付けられたシール装置55,55と、を備えており、案内レール51の左右両側面には転動体転動溝56が軸方向に沿って形成されている。
【0043】
この転動体転動溝56はスライダ52の内側面に形成された転動体転動溝(図示せず)と対向しており、案内レール51又はスライダ52のいずれか一方が軸方向に移動するとスライダ52に組み込まれた多数の球状転動体(図示せず)が上記両転動体転動溝間を転動するようになっている。両転動体転動溝間を転動した球状転動体はスライダ52内に形成された転動体戻し路(図示せず)を転動して元の位置に戻されるようになっている。
【0044】
また、シール装置55は略コ字状に形成されており、このシール装置55の内側面には、案内レール51の転動体転動溝56に摺接するリップ部55aが突出するように設けられている。さらに、スライダ52の内側面に形成された転動体転動溝の溝面には、スライダ52に設けた給脂孔(図示せず)からグリース等の潤滑剤が供給されるようになっている。
【0045】
図12に示すように、シール装置55は、第一又は第二実施形態の排出孔20と同様の排出孔57が設けられている。よって、第一,第二実施形態と同様の効果が奏される。もちろん、シール装置55に排出孔57を設ける代わりに、第三実施形態の排出孔20と同様の排出孔をスライダ52に設けてもよいし、シール装置55とスライダ52の両方に排出孔を設けてもよい。
【0046】
なお、上記第一〜第五実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は上記第一〜第五実施形態に限定されるものではない。例えば、第一〜第五実施形態においては、転動装置の例としてボールねじ、ボールスプライン、及びリニアガイド装置をあげて説明したが、本発明は他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ローラねじ,直動ベアリング,転がり軸受等である。
【符号の説明】
【0047】
10 ボールねじ
11 ねじ軸
11a ねじ溝
12 ナット
12a ねじ溝
13 ボール
14 シール装置
15 ボール転走路
17 隙間
18 給脂孔
20 排出孔
21 弾性体
22 軸方向隙間
23 孔
31〜35 第一〜第五孔
40 ボールスプライン
41 スプライン軸
42 外筒
45 シール装置
46 スプライン溝
47 スプライン溝
48 球状転動体
50 リニアガイド装置
51 案内レール
52 スライダ
55 シール装置
56 転動体転動溝
57 排出孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成される隙間の開口を密封するシールと、を備えるとともに、前記隙間の内部と外部とを連通して前記隙間の内部の潤滑剤及び空気の少なくとも一方を外部に排出する排出孔を、前記外方部材及び前記シールの少なくとも一方に備え、
前記排出孔は、少なくとも3つの孔が直列に連結してなり、隣接する3つの孔のうち中央の孔の断面積を最大又は最小とすることにより構成されたラビリンス構造を有することを特徴とする転動装置。
【請求項2】
前記排出孔を構成する前記各孔の連結部のうち少なくとも一部は屈曲していることを特徴とする請求項1に記載の転動装置。
【請求項1】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成される隙間の開口を密封するシールと、を備えるとともに、前記隙間の内部と外部とを連通して前記隙間の内部の潤滑剤及び空気の少なくとも一方を外部に排出する排出孔を、前記外方部材及び前記シールの少なくとも一方に備え、
前記排出孔は、少なくとも3つの孔が直列に連結してなり、隣接する3つの孔のうち中央の孔の断面積を最大又は最小とすることにより構成されたラビリンス構造を有することを特徴とする転動装置。
【請求項2】
前記排出孔を構成する前記各孔の連結部のうち少なくとも一部は屈曲していることを特徴とする請求項1に記載の転動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−24319(P2013−24319A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159237(P2011−159237)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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