説明

軸固定型動圧流体軸受モータ及び記録ディスク装置

【課題】
新規な潤滑流体封止構造を提案して,薄型化に適する両端軸固定型動圧流体軸受モータ及び記録ディスク装置を実現する。
【解決手段】
スリーブ上下端にベアリング部を有してスリーブ外周下部に潤滑流体溜まり部を有する軸固定構造に於いて,回動するスリーブ内にスリーブ上端からスリーブ下端外径近傍に至る連通領域を形成し,スリーブ上端面の静止部と回転部間に於いて潤滑流体を遠心力により連通領域内に振り切りスリーブ下端外径近傍にまで移送させ,固定軸とスリーブ間には潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送する動圧グルーブを有して動圧グルーブと遠心力により潤滑流体を循環させて潤滑流体を封止する。軸長方向にスペースを要しない封止構造を実現し,薄型の記録ディスク装置を実現可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,記録ディスク装置用の動圧流体軸受モータに拘わり,特に従来のテーパーシールに替わる新規の潤滑流体封止構造を用いた軸固定型動圧流体軸受モータ及び記録ディスク装置に拘わる。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気ディスク装置(HDD)用動圧流体軸受モータの軸受構造は潤滑流体と大気との境界を唯一つとして潤滑流体封止が容易な軸回転構造が主体であった。これに対して軸の両端を固定する両端軸固定型動圧流体軸受モータは振動環境下でも回転部の高精度な姿勢保持能力に優れ,また薄型HDDでは筐体中央部を軸で支持出来る利点もある。その為,両端軸固定型動圧流体軸受の小型化が待望されていたのであるが,比較的大型のモータでしか実現されていない。
【0003】
これは両端軸固定型動圧流体軸受が潤滑流体と大気との境界を二以上有して潤滑流体漏れを起こしやすい事,部材数が多くて小型化が難しい事等の理由に依る。動圧流体軸受の主要部である動圧グルーブは回転時に潤滑流体を一方に圧送するポンプ作用により局所的に潤滑流体圧力を高めて回動する部材を非接触支持している。しかしながら動圧グルーブによる潤滑流体圧送能力は動圧グルーブの寸法形状及び部材間の間隙等に大きく依存し,それら諸元はサブミクロンメートルレベルの精度を要して量産で均一に寸法形状を維持する事は事実上不可能である。設計上は平衡で有る筈のヘリングボーングルーブが間隙の傾斜或いは加工精度のばらつきから何れかの方向に潤滑流体を圧送してしまう事は屡々起こり得る。量産時に於ける加工精度ばらつきを許容して尚かつ潤滑流体封止の完全を期すると,米国特許5516212に記述されるように全ての動圧グルーブに圧力平衡用チャネルを具備する非現実的な構造となる。
【0004】
米国特許5516212と趣旨を同じくしながら実現可能な構造として加工精度のばらつき,或いは遠心力存在下でも潤滑流体漏れを解決し得た構造は数例のみである。しかしながら,過去に実現された両端軸固定型動圧流体軸受モータの例は専ら多数の磁気ディスクを搭載して高速回転を前提にした大型の構造であり,小径の磁気ディスク2枚程度以下の小型用途には適合させ難い。すなわち,米国特許5876124に見られるように軸長方向に部材が多いのでそのまま小型化しても上下ラジアルベアリング間のスパンを確保出来ずに回転部の姿勢を高精度に維持出来ない。また何よりも部材数が多く,低コスト化が困難である。
【0005】
薄型HDD用の両端軸固定型動圧流体軸受モータに適するとして特開2003−153484,特開2004−204942等が提案されている。何れもラジアルベアリング部の両側にスラストベアリング部を有する構造であるが,量産時に遭遇しがちな動圧グルーブの寸法形状及びベアリング間隙等バラツキへの対処策が不十分である。前者は下側のスラストベアリング部の潤滑流体が遠心力で漏れ出る可能性がある。軸長方向に部材が多く,ラジアルベアリングスパンを確保できないので回転部姿勢を高精度に維持する事は出来ない。後者の構造はラジアルベアリング径が大きくて軸損が大の欠陥がある。
【0006】
薄型HDD用の両端軸固定型動圧流体軸受モータに適する他の構造は軸受け部の縦断面を図14(b)に簡略化して示している米国特許5533811の提案である。スリーブ外周下部に潤滑流体溜まり部146を有して薄型モータの軸受構造に適している。しかしながらこの提案はテーパーシール部での潤滑流体保持力を十分に大と出来る条件で潤滑流体を封止できるが,テーパーシール部に十分な長さを確保できない小型モータ領域では二つのスラストベアリング141,142端間の平衡チャネル143を通じて回転時には遠心力で潤滑流体が外周側の潤滑流体溜まり部146に移動して上部のスラストベアリング141領域に潤滑流体を保持できない。米国特許5876124に示す構造は図14(a)に簡略化して示すように上下対称の潤滑流体溜まり部144,145から遠心力を利用してスラストベアリング141,142の外周領域及び平衡チャネル143に圧力を加えて潤滑流体を保持している。
【0007】
動圧流体軸受モータの潤滑流体封止構造に広く用いられているテーパーシール構造もまた薄型HDDでは大きな制約条件である。テーパーシールは潤滑流体の表面張力を利用した封止方法で一般にテーパーシールの開角は10度以下が強度の点で望ましいとされる。さらにテーパーシールの最大間隙は0.3ミリメートル程度が妥当であるが,各部の寸法精度を上げて0.2ミリメートルに抑えてもテーパーシールの長さは開角を10度とすると1.1ミリメートル余となる。厚み3ミリメートル程度以下のHDD用動圧流体軸受モータを実現するには潤滑流体封止を含めて各処で不十分さを認識しながら妥協をせざるを得ない状態である。
【0008】
【特許文献1】米国特許5516212「Hydrodynamic bearing with controlled lubricant pressure distribution」
【特許文献2】特開2004−204942「動圧軸受装置」
【特許文献3】特開2003−153484「軸受モータ」
【特許文献4】米国特許5876124「Hydrodynamic bearing unit」
【特許文献5】米国特許5533811「Hydrodynamic bearing having inverted surface tension seals」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって,解決しようとする課題は,両端軸固定型に適する新規な潤滑流体封止構造を提案して,薄型に於いても回転部の姿勢を高精度に維持する軸固定型動圧流体軸受モータ,及び記録ディスク装置を創出提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明による軸固定型動圧流体軸受モータは,固定軸と,軸外周と微小隙間を有して回転自在に勘合するスリーブと,軸に固定されてスリーブの上端面と間隙を持って対向する第1環状部材と,軸に固定されてスリーブ下端及び外周下部と間隙を持って対向する第2環状部材と,スリーブと軸及び第1,第2環状部材との間隙に連続的に存在してスリーブ上端面とスリーブ外周下部の少なくとも2カ所に大気との境界面を持つ潤滑流体とを少なくとも有して構成される動圧流体軸受モータに於いて,流入部を第1環状部材外周近傍のスリーブ上端面に及び排出部をスリーブ下端外径近傍に有する連通領域をスリーブ内には有し,連通領域内にはさらに境界面を有して排出部で前記スリーブと第2環状部材との間隙内の潤滑流体に連続する潤滑流体を有するよう設定し,スリーブ上端面と第1環状部材との何れかの面には動圧グルーブを,スリーブ内周面と固定軸及び或いは第2環状部材との対向面の何れかには動圧グルーブを有し,後者の動圧グルーブの少なくとも一つは不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとしてスリーブ内周面上端方向に潤滑流体圧送能力を持たせて回転時に第1環状部材外周に潤滑流体を移送し,第1環状部材外周近傍で潤滑流体を遠心力で流入部内に振り切り,遠心力で流入部内に振り切られた潤滑流体を遠心力及び或いは周方向に傾斜した連通領域により排出部方向に駆動して循環させ,蓮通領域排出部近傍での潤滑流体圧力を調整する潤滑流体圧力調整手段を前記連通領域排出部近傍及び或いは前記連通領域内にさらに有して,潤滑流体を封止することを特徴とする。
【0011】
図15には本発明による軸固定型動圧流体軸受モータの潤滑流体封止構造をモデル的に示してある。同図に於いて,番号151はスリーブ下部外径近傍の潤滑流体溜まり部を,番号152は蓮通領域内の潤滑流体溜まり部を,番号157は潤滑流体を,番号153はベアリング部の動圧グルーブをそれぞれ示し,動圧グルーブ153が前記151及び152で示す潤滑流体溜まり部から潤滑流体を引き込む構造をモデル的に示している。潤滑流体157の境界158及び159に於いては潤滑流体の表面張力により番号15a,15bで示すようにそれぞれの潤滑流体溜まり部で潤滑流体を上方に引く力が働き,動圧グルーブ153の下方に引く力とで潤滑流体157は封止される。その間,動圧グルーブ153により引き込まれた潤滑流体は番号155で示したスリーブ上端面外周で遠心力により振り切られて潤滑流体溜まり部152に流入する。流入した潤滑流体は潤滑流体溜まり部152のメニスカスを広げ,上方に引く力15bを弱める事になるので潤滑流体は下方に移送され蓮通領域の排出部154で合流する。全体の潤滑流体157の量は常に一定に保たれるので潤滑流体溜まり部151及び152の潤滑流体内の圧力が合流点である潤滑流体溜まり部152の排出部154近傍で等しくなるよう潤滑流体は封止される。
【0012】
この潤滑流体封止のモデルに於いて,不安定要因は蓮通領域内の潤滑流体に作用する遠心力であり,番号15cで遠心力による潤滑流体の圧力増分を示している。遠心力による圧力増分15cが小さい場合には境界159が下方に移動して境界159の曲率を小として圧力増分15cを補償できるが,高速回転で遠心力による圧力増分15cが過大になると,上記封止の条件が成立し難くなり,潤滑流体が偏在し,漏れる結果となる。
【0013】
連通領域排出部近傍或いは蓮通領域内に配置する潤滑流体圧力調整手段は排出部近傍(図15で154)に於ける蓮通領域内(図15で潤滑流体溜まり部152)及びスリーブ下部外径近傍(図15で潤滑流体溜まり部151)の潤滑流体圧力を調整平衡させる機能を有する。潤滑流体圧力調整手段としては,スリーブ外周下部の形状を下端から上に行くほどに縮径させて遠心力を利用する方法に加えて圧力調整範囲を大きく確保できる請求項2,3,4,5,6に規定する手段がある。
【0014】
番号156で示す点線は遠心力で振り切られ,潤滑流体溜まり部152に流入する潤滑流体の循環経路を示し,従来一般に用いられてきた潤滑流体の循環構造に比して潤滑流体が連続していない特徴がある。循環路内の潤滑流体を不連続にすることで潤滑流体封止の条件設定を容易としている。
【0015】
請求項2の発明は,請求項1に於ける潤滑流体圧力調整手段として連通領域排出部とスリーブ外周下部の潤滑流体境界面との間に潤滑流体を前記連通領域排出部方向に圧送する動圧グルーブを配置した事を特徴とする。
【0016】
請求項3の発明は,請求項1に於ける潤滑流体圧力調整手段として回転力を利用して潤滑流体を連通領域排出部から流入部方向に押し込むよう連通領域排出部近傍の連通領域形状を周方向に傾斜させた事を特徴とする。
【0017】
請求項4の発明は,請求項1に於ける潤滑流体圧力調整手段として連通領域排出部の回転方向後部と第2環状部材との間隙を局部的に小とし,回転力を利用して潤滑流体を連通領域排出部から流入部方向に押し込む事を特徴とする。請求項3の発明と組み合わせて効果的に潤滑流体を蓮通領域流入部方向に押し込む圧力を発生させる事が出来る。
【0018】
請求項5の発明は,請求項1に於ける潤滑流体圧力調整手段として蓮通領域は排出部方向に徐々に間隙が小となる傾斜間隙領域を有する事を特徴とする。蓮通領域内の傾斜間隙を構成する部材は相対的に移動しないので傾斜間隙領域の最小間隙を10ミクロンメートル程度の微小間隙を実現でき,表面張力による潤滑流体保持力を大と出来る。
【0019】
請求項6の発明は,請求項5に於いて,蓮通領域内の前記傾斜間隙領域を軸長方向と平行に配置した事を特徴とする。遠心力は径方向外方に作用するので蓮通領域内の潤滑領域滞留領域の径方向厚みを数十ミクロンメートル以下に設定して遠心力による潤滑流体圧力増分を抑制する。
【0020】
具体的な構造としてはスリーブを内筒,外筒の二重構成としてそれらの間隙に蓮通領域を形成するとし,内筒外周面の下半分を下方に徐々に径が大となる円錐形状に形成,或いは内筒外周面を平面状且つ傾斜させるよう加工して外筒と組み合わせる事により所望の傾斜間隙領域を形成する。
【0021】
請求項7の発明は,請求項1に於いて,回転時に動圧グルーブによりスリーブ上端面に圧送する潤滑流体の流量は,スリーブ上端面及び対向する第1環状部材とで構成するスラストベアリング領域から遠心力によって流れ出る流量以上として前記スラストベアリング領域に気泡を巻き込まないよう構成した事を特徴とする。回転時に動圧グルーブによりスリーブ上端方向に圧送する潤滑流体の流量は,スリーブ上端面と対向する第1環状部材の何れかの面に形成するスラストベアリング領域から遠心力によって流れ出る潤滑流体量以上として前記スラストベアリング領域に気泡を巻き込まないよう構成した事を特徴とする。
【0022】
スリーブ上端面にあるスラストベアリング用動圧グルーブの外周部は潤滑流体が滞留していない連通領域上端部に開放されているので回転時に遠心力によってその外周端から潤滑流体が流れ出てその動圧グルーブ外周部では潤滑流体不足となって気泡が混入する。スラストベアリング領域から遠心力によって流れ出る潤滑流体量とは,スラストベアリング領域の内周側からは何ら圧力を加えない状態でその外周部から遠心力により流れ出る潤滑流体の量を示し,遠心力に起因して流れ出る以上の潤滑流体量を内周側から供給してスラストベアリング領域に於ける潤滑流体不足の事態を避け,気泡混入を防止する。
【0023】
請求項8の発明は,請求項1に於いて,スリーブ上端面に圧送される潤滑流体がスリーブ上端面及び対向する第1環状部材とで構成するスラストベアリング領域に滞留するように流入部の開口断面積を制限して潤滑流体の流路抵抗を大とした事を特徴とする。
【0024】
請求項9の発明は,請求項1に於いて,第1環状部材とスリーブ上端面とで構成するスラストベアリング領域から流入部には段差を設け,潤滑流体が前記段差を乗り越えて流入部に振り切られる構造として前記スラストベアリング領域に潤滑流体を滞留させるよう構成した事を特徴とする。前記段差の目的はスラストベアリング領域に外周壁を設けて外径方向への流路抵抗を大にする事であり,スリーブ上端面側或いは第1環状部材側の何れの側にも設けることができる。
【0025】
請求項10の発明は,請求項1に於いて,固定軸は円筒軸として,スリーブの上下端面と第1,第2環状部材とがそれぞれ対向し,少なくともスリーブ下端面と対向する第2環状部材面の何れかに配置された動圧グルーブは内径方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとすることを特徴とする。
【0026】
請求項11の発明は,請求項10に於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面の何れかには一つのラジアルベアリングとしてヘリングボーングルーブ或いはスリーブ上端面方向に潤滑流体を圧送する不平衡ヘリングボーングルーブを有し,第1環状部材とスリーブ上端面の対向する面の何れかにはポンプインのスパイラルグルーブを有し,第2環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかには潤滑流体を内径方向に圧送する能力を有する不平衡のヘリングボーングルーブを配置したことを特徴とする。
【0027】
スリーブ下端面のスラストベアリングで回転部の姿勢復元力を発生させ,薄型の動圧流体軸受モータを実現する。
【0028】
請求項12の発明は,請求項10に於いて,第1環状部材とスリーブ上端面の何れか及び第2環状部材とスリーブ下端面の何れかにはポンプインのスパイラルグルーブを有し,軸外周面とスリーブ内周面の何れかには二つの不平衡ヘリングボーングルーブを有してそれぞれの不平衡ヘリングボーングルーブは隣接する前記スパイラルグルーブの方向に潤滑流体圧送能力を有してそれぞれ前記スパイラルグルーブと協働でスリーブ上下面での潤滑流体圧力を高め,スリーブを浮上支持することを特徴とする。
【0029】
請求項13の発明は,請求項10に於いて,スリーブ下端面と対向する第2環状部材の一部をフランジとして円筒軸と一体構造のT字状軸とし,フランジ部の径方向面と軸方向面でベースプレートに固定する。フランジ部の径方向面でベースプレート面上の位置を規制し,フランジ部のスリーブ下端面と対向する面外周部とベースプレートとで軸方向位置を規制する。フランジ部分の厚みを小としてもT字状軸のベースプレートに対する直角度及び固定強度を確保してラジアルベアリング領域を大に出来る事を特徴とする。
【0030】
請求項14の発明は,請求項1に於いて,固定軸は上端方向に先細となる円錐凸形状としてスリーブは前記軸に勘合する円錐凹形状とし,軸及びスリーブ間に一以上の動圧グルーブを有し,少なくともその一つの動圧グルーブはスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有することを特徴とする。
【0031】
第1環状部材とスリーブ上端面との間に有するスラストベアリングが発生する軸方向負荷容量と,スリーブ内周面と軸との間にある動圧グルーブが発生する軸方向負荷容量が平衡する位置で回転部を浮上支持し,後者の動圧グルーブが発生する径方向負荷容量で回転部を軸に調芯する。
【0032】
請求項15の発明による記録ディスク装置は,筐体と,記録ディスクと,記録ディスクを搭載回転させるモータと,記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを少なくとも有し,前記モータとして請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータを使用し,前記モータの固定軸を筐体中央部の支柱としたことを特徴とする。前記モータの固定軸を支柱とする事で筐体を補強できて,より薄型のHDDを実現可能とする。特に脆弱な筐体を使用せざるを得ない厚さ3ミリメートル程度以下のHDDが本発明で実用レベルとなる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば,二つの潤滑流体境界面を有する軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,回動するスリーブ内にスリーブ上端からスリーブ下端外径近傍に至る連通領域を形成し,上側スラストベアリング外径近傍の潤滑流体を遠心力により連通領域に振り切りスリーブ下端外径近傍にまで移送させ,固定軸とスリーブ間には潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送する動圧グルーブを有し,動圧グルーブと遠心力により潤滑流体を循環させて潤滑流体を封止する。
【0034】
さらに,連通領域は潤滑流体を表面張力によって保持できる程に小さい間隙で構成し,静止時には潤滑流体を連通領域に吸収保持して漏れ難くし,回転時には遠心力により潤滑流体を連通領域から排出してベアリング領域に供給する。
【0035】
両端軸固定型軸受でスリーブ上端近傍での潤滑流体漏れが最も懸念されるが,潤滑流体に作用する遠心力によりスリーブ中の連通領域に振り切る新規な潤滑流体封止概念で解決し,気泡排除機能も同時に実現する。この薄型の軸固定型動圧流体軸受モータを用いて回転部姿勢を高精度に維持しながら薄型の記録ディスク装置を実現出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に本発明による軸固定型動圧流体軸受モータ及び記録ディスク装置について,その実施例及び原理作用等を図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0037】
図1は,本発明の第一の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。固定軸は円筒軸及び第2環状部材のスリーブ下端面と対向する部分(以下,フランジ部16と称する)を一体化させたT字状軸11であり,スリーブは内筒12及び外筒13とより構成され,内筒12は軸11外周と微小隙間を有して回転自在に勘合され,その下端面はフランジ部16と微小隙間を有して対向する。さらにスリーブ内筒12上端面は軸11に固定される第1環状部材14と微小隙間を有して対向する。番号1cは第1環状部材14外周近傍からスリーブ下端外径近傍に至る連通領域で潤滑流体が循環するチャネルである。
【0038】
請求項1に規定する第2環状部材はフランジ部16と,ベースプレート1dの一部17とに対応する(以下,番号17で示す部分を環状部材と称する)。潤滑流体は内筒12と第1環状部材14,軸11,フランジ部16との間隙及び外筒13外周と環状部材17との間隙に連続して充填され,大気との境界面を内筒12の上端面及び外筒13外周下部に有する。
【0039】
軸11の一部であるフランジ部16の径方向の面1kをベースプレート1dとの位置確定に用い,軸方向の面1jで直角度及び接着強度を確保してベースプレート1dに固定する。番号1fはローターマグネットを,番号1eは磁気ディスクを搭載するハブを,番号1gはステータコアを,番号1hは回転駆動用のコイルをそれぞれ示す。
【0040】
図2は本実施例で採用した蓮通領域1cを実現するスリーブ内筒12,外筒13の構造例を示す。図2(b)は内筒12の斜視図を,図2(a)は内筒12にカバー15,外筒13を組み合わせた構造の斜視図を示している。
【0041】
図2(b)に示した内筒12は上端面に径方向の凹状溝23を持ち,番号21は軸11を挿通させる中心孔を,番号22は第1環状部材14と対向するスラストベアリング面を,番号24は内筒12外周面を斜めにカットした平坦面を,番号26は平坦面24以外の外周面を,番号25は凹状溝をそれぞれ示す。図2(a)に於いて,内筒12の外周面26を外筒13内周面と密着固定させ,内筒12外周の平坦面24と外筒13内周面との間に断面を図1に示すように下方に徐々に間隙を小とする傾斜間隙部を形成する。ハッチされた番号29で示す領域は潤滑流体の存在領域を,番号27はエア部を,番号28は潤滑流体の境界をそれぞれ示す。
【0042】
図2では蓮通領域1cの傾斜間隙部をスリーブ内筒12外周部を平坦面でカットして形成したが,スリーブ内筒12の下半分を徐々に径を大にする円錐形状として形成する事も出来る。
【0043】
本実施例に於ける潤滑流体圧力調整手段は内筒12及び外筒13間の間隙に構成した軸長方向に略平行な傾斜間隙部及びスパイラルグルーブ1aの一部である。傾斜間隙部の最小間隙をほぼゼロと小として表面張力による潤滑流体保持力を大に出来,また潤滑流体の滞留部である傾斜間隙部を軸長方向に平行に構成して潤滑流体の径方向厚みを小として遠心力による潤滑流体圧力増分を微小に抑えている。
【0044】
本実施例では傾斜間隙部に於ける潤滑流体の径方向厚みを小として潤滑流体に作用する遠心力に軽減しているので傾斜間隙部に於ける潤滑流体境界の径方向厚みは慎重に管理する必要がある。量産時に各部寸法,潤滑流体の注入量等のばらつきは避けられないので軸受部を組み立て後に前記傾斜間隙部に於ける潤滑流体境界の位置或いは径方向厚みを確認する事が望ましい。本実施例に於いては潤滑流体注入,上記潤滑流体境界の位置或いは径方向厚みを確認後にカバー15を装着固定できる構造で動作条件を厳密に設定でき,またカバー15を透明体として組み立て後にも上記潤滑流体境界の位置或いは径方向厚みを確認出来る。
【0045】
内筒12は切削加工によって形成する他に焼結合金の型成形によっても形成でき,その場合には上記凹状溝23,25,平坦面24を型により形成できるので製造コストを低減できる。さらに第1環状部材表面に設けられているスパイラルグルーブ1bをスラスト面22に配置し,内筒12の型成型時に同時形成する事も出来る。また,外筒13をプレス成形によって構成する際に外筒13の内周面に凹凸を同時に形成して連通領域1cを構成することも出来る。
【0046】
図1,図2(a)に示す外筒13に固定されて第1環状部材14上端の一部と対向しているカバー15は第1環状部材14とラビリンスを構成し,連通領域1c内の空気の軸受外への流路抵抗を大にして潤滑流体の蒸気圧を高め,潤滑流体の蒸発を抑制する。
【0047】
図3は図1に於ける軸受部を拡大して示し,動作原理を説明する。図3では判りやすいように左半分のみに連通領域1c,不平衡ヘリングボーングルーブ18,19,スパイラルグルーブ1a,1bを示し,右半分には潤滑流体の移動方向32,33を点線で示す。フランジ部16にはポンプインのスパイラルグルーブ1aを,内筒12上端面と対向する第1環状部材14にはポンプインのスパイラルグルーブ1bを,内筒12内周面には二つの不平衡ヘリングボーングルーブ18,19をそれぞれ有する。ヘリングボーングルーブは互いの方向に潤滑流体を圧送する対のスパイラルグルーブで構成され,潤滑流体の圧送能力を等しく構成しない場合は不平衡のヘリングボーングルーブとして一方向に潤滑流体圧送能力を有する。不平衡ヘリングボーングルーブ18は上方に,不平衡ヘリングボーングルーブ19は下方に潤滑流体圧送能力を有する。番号34は外筒13外周下部における潤滑流体境界面を示す。
【0048】
スパイラルグルーブ1aと不平衡ヘリングボーングルーブ18とは潤滑流体を軸11の上方に圧送する能力を,スパイラルグルーブ1bと不平衡ヘリングボーングルーブ19とは軸11の下方に潤滑流体を圧送する能力を有するが,本実施例では潤滑流体を軸11の上方及び第1環状部材14外周方向に圧送する力が勝るよう設定し,回転時には常に潤滑流体を軸11の上方側に圧送して循環させる。したがって,潤滑流体は点線32で示す方向に流動し,第1環状部材14外周端から潤滑流体は直接作用する遠心力に駆動されて内筒12上端面に沿って流出し,外筒13と内筒12間の間隙で構成する連通領域1cに流入する。連通領域1c内の潤滑流体は更に遠心力によって加速されて境界28以下の潤滑流体に合流する。点線33は連通領域1c内を流動する潤滑流体の方向を示している。従来は第1環状部材14外周部にテーパーシール構造を有して軸長方向に多大のスペースを費やしていたが,本実施例では潤滑流体に直接作用する遠心力により潤滑流体をスリーブ内筒12上端面に沿って連通領域1c内に流入させるので軸長方向にスペースを要しない封止構造を実現している。
【0049】
第1環状部材14外周領域31は潤滑流体と大気との境界面を有する。静止時には表面張力により静止した潤滑流体境界面が存するが,回転時には潤滑流体が内筒12上端面に沿って移動する。遠心力は潤滑流体に直接作用し,連通領域1cの上端部は第1環状部材14外周から遠心力の駆動する方向にあるので潤滑流体を確実に流入させる。
【0050】
スパイラルグルーブ1bはポンプインタイプであるので潤滑流体を内径側に圧送し,不平衡ヘリングボーングルーブ18及びスパイラルグルーブ1aによる潤滑流体圧送能力と協働して内筒12上端面と第1環状部材14間の潤滑流体圧力を高める。しかし,第1環状部材14外周領域31で半ば開放されているので潤滑流体は径方向外方に流出し,スパイラルグルーブ1b外径近傍で潤滑流体は負圧状態となり気泡が混入しやすい。本発明ではスパイラルグルーブ1bの内径側への潤滑流体圧送能力を凌駕して常に内径側から潤滑流体を径方向外方に流す設定として気泡混入を抑制し,スパイラルグルーブ1bの機能低下を防いでいる。さらにスパイラルグルーブ1bの径は従来の密閉流体内に於ける径よりも大きめとしても機能低下を補償出来る。また,連通領域1cの上端部23の開口面積を微小としてスパイラルグルーブ1b近傍の潤滑流体を確保する構造も効果がある。
【0051】
上記潤滑流体封止の構造は気泡排除の機能をも有する。すなわち,軸11と内筒12間に気泡が存在しても潤滑流体の点線32に示す流れによってスリーブ上端面にまで運ばれて第1環状部材14外周領域31では大気に接し振り切られ,潤滑流体には連通領域1c内で遠心力が働いて点線33に示すように駆動されるが,気泡に働く遠心力は小さいので大気に解放される。
【0052】
本実施例では動圧グルーブ1a,19,18,1bにより番号32で示す正味の潤滑流体流れを作り,第一環状部材14の外周端で潤滑流体を連通領域1c内に遠心力で振り切る。起動直後或いは停止直前で回転速度が小さいので遠心力は微小となるが,内筒12とフランジ16との間隙は小でスパイラルグルーブ1aは無視できない程度の潤滑流体圧送能力を持つ。番号32,33で示す潤滑流体流れに乱れを生じる可能性有るが,ポンプインのスパイラルグルーブ1aより内周領域にスパイラルグルーブ1aより浅い溝で形成するポンプアウトのスパイラルグルーブを配置して内筒12とフランジ16との間隙が小の場合に外径方向の潤滑流体圧送能力を生じさせて対処する事が出来る。動圧グルーブの流体圧送能力は動圧グルーブの配置された間隙と溝深さの比で決まって,最適となる条件があり,どちらにずれても流体圧送能力は減少する。前記ポンプアウトのスパイラルグルーブの溝深さとして1ミクロンメートル程度を選択すれば,起動或いは停止時の内筒12とフランジ16との間隙が小の場合に潤滑流体圧送能力を相殺し,また速やかにスリーブ下端領域での潤滑流体圧力を増大させてスリーブを浮上させる効果もある。内筒12とフランジ16との間隙が1ミクロンメートルの数倍程度に大となれば,前記ポンプアウトのスパイラルグルーブの影響は無視できるほどとなるので上記に説明した本実施例の動作を損なう事は無い。
【0053】
図4,図5を用いて静止時及び回転時に於ける潤滑流体の挙動をさらに説明する。図4(a)は内筒12上端面及び近傍の平面図を示し,図4(b)は図3と同様に軸受部の縦断面を示す。動作を説明する為に左半分は静止時の状態を,右半分は回転時の状態をそれぞれ示し,番号42はスリーブの回転方向を示す。
【0054】
図4(b)に於いて,左半分は静止時の状態を示して内筒12はフランジ部16に接触し,右半分は回転時の状態を示して内筒12は浮上している様子を示している。図4の左右の図に於いて,注目すべき点は潤滑流体の位置である。左半分では潤滑流体が連通領域1c内にもかなり滞留するが(番号43で示す),右半分の連通領域1c内では潤滑流体の量は少ない。その結果,外筒13と環状部材17間に滞留する潤滑流体の量は異なり,左半分の境界44と右半分の境界34のように位置が異なる。
【0055】
図4(a)で第1環状部材14に相当する領域(点線41で示す円内)にはスパイラルグルーブ1bを示している。スパイラルグルーブ1bは第1環状部材表面に配置されているが,相対的な位置が判りやすいようにスラスト面22上に投影して示している。
【0056】
連通領域1cの断面及び上端部は図4(a)に示され,本実施例で断面は三日月状である。連通領域の三日月状断面の両側間隙に潤滑流体が保持されて移動し,中央の間隙大の部分でエアが流通する構造となる。
【0057】
静止時に潤滑流体を連通領域1cに引き込む量は連通領域1cの収容能力による。連通領域1cの容積を調整することによって静止時に外筒13と環状部材17間に滞留させる潤滑流体の量を調整できる。これはまた連通領域1c内の間隙と外筒13と環状部材17間の間隙にも依存する。回転起動するに際して潤滑流体は連通領域1cから供給されるが,時間遅れがあるので起動時の潤滑が不十分となる可能性があり,これは上記寸法諸元の調整により静止時にも外筒13と環状部材17間に適当な量の潤滑流体が常に滞留するよう設定する。
【0058】
本実施例に於いて,潤滑流体は循環過程で第1環状部材14外周領域31で大気と接し,遠心力で外径方向に駆動されるので必然的に気泡と分離される。このように気泡は原理的に分離除去されるので本実施例の動圧流体軸受では潤滑流体の注入には特別の真空プロセスを必要とせず大気中で注入が可能である。
【0059】
軸11をベースプレート1dに固定した後,潤滑流体を滴下してスリーブを装着し,潤滑流体が軸11と内筒12間の間隙を移動する時間が掛かる事を利用してその間に第1環状部材14を軸11に圧入固定する事が出来る。或いはカバー15装着前に潤滑流体を注入し,カバー15を接着固定しても良い。カバー15は潤滑流体と接しないので潤滑流体注入後に於いても接着固定に不都合を生じない。注入された潤滑流体はモータを回転させる事により所定位置に自動配分される。
【0060】
図5(a),(b)を用いて連通領域排出部(下端部に相当)近傍の潤滑流体圧力分布を説明する。連通領域1c内に於いて潤滑流体は遠心力により外径方向の移送圧力を受けるが,その移送圧力に抗する潤滑流体圧力調整手段は内筒12及び外筒13間の間隙に構成した軸長方向に略平行な傾斜間隙部及びスパイラルグルーブ1aの一部である。傾斜間隙部の最小間隙をほぼゼロとして表面張力による潤滑流体保持力を大に出来る事,また潤滑流体の滞留部である傾斜間隙部を軸長方向に平行に構成して潤滑流体の径方向厚みを小として遠心力による潤滑流体圧力増分を微小に抑え,スパイラルグルーブ1aの一部がその圧力増分への対抗力を発生する。
【0061】
すなわち図5(a)に示すように連通領域1cの下端部53はスパイラルグルーブ1a領域に開口している。図5(a)の点線54に沿って潤滑流体圧力分布を図5(b)に示すが,横軸に点線54上の各点を,縦軸に大気圧P0を基準に潤滑流体圧力を示している。
【0062】
潤滑流体の境界34内側の点55では大気圧P0より低く,外筒13外周部はその下端から上方に縮径しているので外筒13外周下端近傍の点56では遠心力により圧力が若干高められ,点57では連通領域1cの下端部53より外径側のスパイラルグルーブ1a部分で圧力が高められる事が示されている。連通領域1c内の下端部53近傍には潤滑流体が滞留し,境界28の内側の点58では大気圧P0より低い。境界28には常に潤滑流体が流れ込み,メニスカスが形成され難い部分もあるが,傾斜間隙領域すなわち境界28を周方向に広く広げる事により流入する潤滑流体の影響を軽減する。
【0063】
この図5(b)に示すような圧力分布で潤滑流体は釣り合い,定常状態となる。スリーブ外周の潤滑流体が増えて境界面34が上昇すると境界面の曲率半径は大となって点55に於ける圧力は増大して大気圧P0に近づき,一方連通領域1cの傾斜間隙領域内の潤滑流体が増えると点57点−58間の圧力差が大となる。したがって,常に図5(b)示すように潤滑流体圧力が連続となるよう連通領域1c内及びスリーブ外周部に潤滑流体が配分され安定する。
【0064】
連通領域下端53と境界面34との間に動圧グルーブが配置されない場合には,点56,57に於ける圧力が点55から遠心力によって高めらる事が潤滑流体境界面安定の条件となる。この条件を満たすために連通領域下端53近傍の諸元は制約を受けるが,本実施例のようにスパイラルグルーブ1aの一部を連通領域下端53と境界面34との間に配置する事によって設計の自由度を増す事が出来る。比較的低回転速度である場合には遠心力は小で蓮通領域1c内の傾斜間隙領域の保持力のみでも潤滑流体を保持できる。
【0065】
スパイラルグルーブ1aが発生する潤滑流体の周方向圧力分布はスパイラルグルーブ1aの凹部,凸部に対応して周期的に変化する。その為,本実施例のように潤滑流体圧力調整手段としてフランジ部16表面に形成されたスパイラルグルーブ1aの一部を用いた場合に連通領域1c内の潤滑流体への圧力が周期的に変動して不具合を起こす可能性がある。その際の対処策は連通領域下端53に対応するフランジ部16表面に環状グルーブを形成して圧力変動を周方向に平均化する,或いはスリーブ下端面にスパイラルグルーブ1aを形成する事である。
【0066】
本実施例では連通領域1cの平均間隙を50ミクロンメートル程度に設定して静止時には潤滑流体を吸収して潤滑流体境界を引き込む構成としているが,回転起動及び停止の過程で潤滑流体の潤滑流体境界が移動し,過度的に不安定となる可能性がある。その場合には連通領域1cの間隙を調整して回転時及び静止時の潤滑流体境界28を同じくし,回転起動及び停止の過程で潤滑流体の潤滑流体境界の移動量を小にする設定も可能である。
【0067】
本実施例の軸固定型動圧流体軸受モータは,高速回転用途で使われる事が多いが,高速回転でスパイラルグルーブ1a外周部は負圧を生じやすい部分であるので拡大した図5(a)を用いて対処策を説明する。スパイラルグルーブ1aでは潤滑流体が内径方向に圧送される一方で,それより外周部では外径方向への遠心力が働くので潤滑流体圧力は低下して負圧となり,気泡が滞留しやすくなる。本実施例ではスパイラルグルーブ1aの位置及び外筒13外周下部の形状により上記問題を回避し,高速回転に適する構造としている。
【0068】
外筒13外周下部の潤滑流体溜まり部では外筒13の回転と共に近傍の潤滑流体は回転流動し,対向する静止部材である環状部材17近傍(番号52で示す)の潤滑流体は静止している。本実施例ではスパイラルグルーブ1aの外径が内筒12外径より大に,つまり潤滑流体の境界34の高速流動側(番号51で示す)より外径側に配置してある。さらにスリーブ外筒13の外周は下端より上方に離れるに従って縮径する形状とする。したがって潤滑流体境界面34の高速流動側51はスリーブ外周下端より内径側に位置するので高速で回転流動する潤滑流体に作用する遠心力は外筒13表面に沿って積算され,潤滑流体内の圧力は外筒13下端の外周近傍で最も高くなる。このようにスパイラルグルーブ1aの外径近傍に遠心力を利用して圧力を加え,負圧発生を防止する構造としている。
【0069】
本実施例では連通領域1cをスリーブの内筒12,外筒13間の間隙として形成したが,内筒12を微小な隙間を多く有する多孔質素材で形成してそれら微小空孔で連通領域1cを形成することも可能である。外筒13内に焼結合金素材を充填させて内筒12を形成する構造として同時にヘリングボーングルーブ18,19をも形成できる。微小な空孔はヘリングボーングルーブ18,19,スパイラルグルーブ1bの形成された領域表面にも存在し,潤滑流体はそれら表面の隙間からも内筒12内に浸透し,スパイラルグルーブ1bでは潤滑流体不足を生じる可能性がある。この場合には外筒13との境界近傍を除く内筒12の表面の微小隙間に潤滑性の良い樹脂を含浸させて封孔処理を行って対処する。
【実施例2】
【0070】
図6に示す第二の実施例は図1に示す第一の実施例からスリーブ上端近傍及び第1環状部材,カバー,連通領域,潤滑流体圧力調整手段等の構造を変更したのみであるので軸受部のみを拡大して示す。他の部分は図1の実施例と同じで説明は省略する。図6は図4と同様に左半分は静止状態を,右半分はスリーブが回転している状態を示し,それぞれ回転部の上下位置及び潤滑流体の位置に差がある。また,図7は内筒,外筒,カバーの斜視図を示す。
【0071】
図6,図7に於いて,内筒61はその上端面に第1環状部材63と対向して勘合する環状凹部71を有し,内筒61及び外筒62間で形成する連通領域1c’の流入部となる上端72は環状凹部71底面より上に配置する。さらにカバー64は内筒61外周端と間隙を有して連通領域1c’の環状開口66を形成する。
【0072】
内筒61の外周表面に設けた凹状溝73は直線的な図2の凹状溝25とは異なり,周方向に傾斜して形成されている。傾斜の方向は回転時に潤滑流体が押し込まれる方向である。さらに凹状溝73の下端は蓮通領域1c’の排出部67であり,排出部67に関して回転方向後方は環状部材17との間隙を小として潤滑流体が排出部67から蓮通領域に押し込まれるよう構成してある。すなわち排出部67の回転方向後方では番号75で示すよう外筒62の下端部が垂下し,回転方向前方では外筒62の下端部76が下端部75より上にあるような形状としてある。
【0073】
図6左半分に於いて静止時に潤滑流体は番号65で示すように連通領域1c’内に入り込み,境界面を内側に引き込んで潤滑流体保持力を強化する。右半分の図では連通領域1c’内で滞留している潤滑流体は少ない。環状部材17と外筒62間の潤滑流体は左半分の図では少なく,右半分の図では多くなっている。
【0074】
回転時に第一の実施例で図3を用いて説明したと同様に潤滑流体は動圧グルーブ1a,18によりスリーブ内筒61上端面に移送され,流入部となる凹状溝72を介して連通領域1c’内に振り切られる。流入部72はスラスト面となる環状凹部71底面より上に配置されているので潤滑流体は環状凹部71底面より高い位置で連通領域1c’に振り切られる事になり,環状凹部71には常に流入部72と環状凹部71底面間の段差に相当する深さの潤滑流体が滞留する事になる。図8はスリーブ内筒61上端部及び第1環状部材63近傍の拡大断面図を示している。番号82は流入部72と環状凹部71底面間の段差量を示し,番号81は前記段差を乗り越えて連通領域1c’に振り切られる潤滑流体の移動方向を示している。
【0075】
回転時に第1環状部材63と環状凹部71底面との間隙は設計により異なるが数ミクロンメートルから20ミクロンメートル程度であるので段差量82は最大の間隙以上として例えば20ミクロンメートル以上の適当な値に設定する。第一の実施例に比してスラストベアリング領域に於ける潤滑流体保持の安定性を向上できる利点がある。
【0076】
環状開口66の開口は内筒61とカバー64の軸方向の位置をずらして構成し,その開口間隙を第1環状部材63と内筒61上端面間の間隙より大として衝撃が加えられた際に第1環状部材63と内筒61上端面間の間隙から噴出する潤滑流体を収容するよう配置する。
【0077】
図9はスリーブ外周下部の潤滑流体溜まり部と連通領域1c’排出部近傍に於ける潤滑流体の圧力分布を説明するための図で,図9(a)はスリーブ外周下部の潤滑流体溜まり部の断面と連通領域1c’下端部の模式図を示し,図9(b)は潤滑流体の圧力分布を示す。図9(a)に於いて番号91はスリーブ外周下部の潤滑流体を,番号67は連通領域1c’の排出部となる下端部を,番号93は連通領域1c’内の潤滑流体を示す。点線94に沿って境界面34の内側の点95,排出部67近傍の点96,連通領域1c’内凹状溝73内の点97,境界28の内側の点98に於ける潤滑流体圧力を図9(b)に示す。図9(b)の横軸は点線94に沿った点95,96,97,98の位置を,縦軸は大気圧P0を基準にした圧力を示している。
【0078】
境界面34より内部の点95の圧力は大気圧より低く,排出部67近傍の点96では点95と等しいか或いは潤滑流体に働く遠心力により若干高くなり,潤滑流体93の境界面28の内側98では大気圧P0より低く,点97では潤滑流体が押し込まれて回転時に高められる事が示されている。
【実施例3】
【0079】
第一,第二の実施例はラジアルベアリングとして二つの不平衡ヘリングボーングルーブを有する例であったが,図10(a),(b)に示す第三の実施例はラジアルベアリングとしてただ一つの不平衡ヘリングボーングルーブを有して薄型に適した構造である。
【0080】
同図に於いて,固定軸は円筒軸及びスリーブ下端面と対向する第2環状部材の一部(以下,フランジ103と称する)を一体化させたT字状軸101である。スリーブはスリーブ内筒102はハブ107の一部と一体化して構成され,スリーブ内筒102は軸101外周と微小隙間を有して回転自在に勘合され,その下端面はフランジ103と微小隙間を有して対向する。さらにスリーブ内筒102上端面近傍の構成は図6,7,8に示した第二の実施例と同様であり,スリーブ内筒102上端面は環状凹部を有し,軸101に固定される第1環状部材104と微小隙間を有して対向する。
【0081】
請求項1に規定する第2環状部材はフランジ103と,ベースプレート10gの一部105とに対応する(以下,番号105で示す部分を環状部材と称する)。潤滑流体はスリーブ内筒102と第1環状部材104,軸101,フランジ103との間隙及びスリーブ外周と環状部材105との間隙に連続して充填され,大気との境界面をスリーブ内筒102の上端面及びスリーブ外周下部に有する。番号106はカバーを示す。連通領域108はスリーブ内筒102とハブ107との間隙で構成され,詳細は図11で説明する。番号10cはローターマグネットを,番号107は磁気ディスクを搭載するハブを,番号10eはステータコアを,番号10fは回転駆動用のコイルをそれぞれ示す。
【0082】
動圧グルーブ構成は,スリーブ内筒102内周面にスリーブ内筒102上端方向に圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ109,フランジ103には内径方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ10a,第1環状部材104にはポンプインのスパイラルグルーブ10bを有し,それらの動圧グルーブ全体として潤滑流体を第1環状部材104外周側に圧送し続けるよう設定する。回転時に不平衡ヘリングボーングルーブ10aはスリーブ内筒102下端面とフランジ103間の潤滑流体圧力を高めて軸方向の負荷容量を発生させると共に潤滑流体をスリーブ内筒102上端面方向に圧送する。スパイラルグルーブ10bは回転と共に潤滑流体を内径方向に圧送し,一方不平衡ヘリングボーングルーブ10a,109は潤滑流体をスリーブ102上端面方向に圧送するのでスリーブ内筒102上端面と第1環状部材104間の圧力は高められて軸方向負荷容量を発生させ,不平衡ヘリングボーングルーブ10aが発生させる軸方向負荷容量と釣り合う位置でスリーブを浮上支持する。
【0083】
不平衡ヘリングボーングルーブ109は径方向の負荷容量を発生させて回転部を軸101に調芯させるが,回転部が傾いた場合に十分な姿勢復元のモーメント力を発生させることは出来ない。本実施例ではスラストベアリングである不平衡ヘリングボーングルーブ10aが回転部姿勢の復元モーメント力を発生させる。すなわち,回転部が傾くとスリーブ内筒102の上下端面も傾き,フランジ103との間隙が変化する。間隙が大小に変化した領域で不平衡ヘリングボーングルーブ10aがその径方向中間で局部的に圧力を高める程度は間隙に反比例するので回転部の姿勢復元のモーメント力を発生し,回転部姿勢を復元する。
【0084】
図11は第三の実施例で採用した蓮通領域108を実現するスリーブ内筒102,ハブ107の一部を示す。図11(b)は内筒102の斜視図を,図11(a)は内筒102にカバー106,ハブ107の一部を組み合わせた構造の斜視図を示している。
【0085】
図11(b)に示したスリーブ内筒102は上端面に径方向の凹状溝72を持ち,番号21は軸101を挿通させる中心孔を,番号71はスラスト面を,番号111はスリーブ内筒102外周面の円錐面を,番号112は凹状溝を,番号113は円錐面111以外の外周面をそれぞれ示す。図11(a)に於いて,スリーブ内筒102の外周面113をハブ107内周面と密着固定させ,スリーブ内筒102の円錐面111とハブ107内周面との間に断面を図10に示すように下方に徐々に間隙を小とする傾斜間隙部を形成する。ハッチされた番号116で示す領域は潤滑流体の存在領域を,番号114はエア部を,番号105は潤滑流体の境界をそれぞれ示す。番号71,72の意味及び関係は図7と同じである。
【0086】
本実施例に於ける潤滑流体圧力調整手段はスリーブ内筒102及びハブ107間の間隙に構成した軸長方向に略平行な傾斜間隙部である。傾斜間隙部の最小間隙をほぼゼロと小として表面張力による潤滑流体保持力を大に出来る事,また潤滑流体の滞留部である傾斜間隙部を軸長方向に平行に構成して潤滑流体の径方向厚みを小として遠心力による潤滑流体圧力増分を微小に抑える事で小型・低速回転領域で安定な潤滑流体封止を実現している。
【0087】
第1環状部材104は軸101に圧入固定するので軸101との直角度は量産時にばらつくのは避けられない。しかし,本実施例では上部スラストベアリングとしてスパイラルグルーブ10bを採用したので第1環状部材は小径で十分であり,第1環状部材104と軸101との直角度仕様を緩和できる。上部スラストベアリングをヘリングボーングルーブとする構成も本発明に含まれて回転部の姿勢復元力への寄与を期待できるが,その場合には第1環状部材の径を大にする必要がある。
【0088】
第三の実施例での動圧グルーブの構成は,上部スラストベアリングをスパイラルグルーブ10bとして軸方向負荷容量のみ発生させ,下部スラストベアリングにより回転部の姿勢復元力を得る構成であるので上下スラストベアリングのパラメータ選定には最適な関係が存在する。すなわち,上下のスラストベアリングでの負荷容量は各スラストベアリング部の間隙に反比例し,また下部スラストベアリングから得る姿勢復元モーメントも間隙に反比例する関係にある。上下スラストベアリングでの間隙の和は一定であるので前記姿勢復元モ−メントが最小になる関係は存在する。量産段階で上下スラストベアリングでの間隙の和の変動は避けられないが,可能な限り姿勢復元モーメントは大にしたいので上下スラストベアリングでの間隙の和の変動範囲を考慮し,姿勢復元モーメントが最小となる間隙を避けるようにパラメータを設定する。
【0089】
スリーブ外周下部に潤滑流体溜まり部を持ち,二つのスラストベアリングを有する軸固定構造動圧流体軸受は,従来有効な潤滑流体シールを実現できなかったが,本発明は第一,第二,第三の実施例の構成及び動作原理を説明したように,確実な潤滑流体シール構造を提供する。本発明により薄型の軸固定構造動圧流体軸受モータを実現でき,またラジアルベアリング領域を最大限に確保できるので同一の厚みであればNRROの小さい動圧軸受モータを提供する。
【実施例4】
【0090】
第一,第二,第三の実施例は固定軸を円筒軸とする構造であった。第四の実施例は図12に示すように固定軸を円錐形状とする円錐軸受である。図12に示す第四の実施例は第三の実施例に於けるラジアル軸受及びスリーブ下端のスラスト軸受を円錐軸受で代替している。図12に示す第四の実施例はかなりの部分を図10に示す第三の実施例と同じくしているので共通の部分には同一の番号を付し,異なっている部分についてのみ説明する。
【0091】
固定軸121は上部方向に縮径する凸状円錐面であり,スリーブ内筒122は凹状円錐面を有して固定軸121に勘合する。番号123はフランジ部でベースプレートに固定され,スリーブは図10と同様にスリーブ内筒122とハブ107の一部とで形成され,それらの間隙に連通領域108を有する。
【0092】
スリーブ内筒122内周面には不平衡ヘリングボーングルーブ124を有して回転時に潤滑流体をスリーブ内筒122上端方向に移送し,第1環状部材104外周領域で潤滑流体を遠心力で連通領域108内に振り切る。
【0093】
不平衡ヘリングボーングルーブ124が回転時に発生する負荷容量の軸方向成分とスパイラルグルーブ10bが不平衡ヘリングボーングルーブ124と協働で発生する負荷容量とが釣り合う位置でスリーブ内筒122を含む回転部は浮上支持され,不平衡ヘリングボーングルーブ124が回転時に発生する負荷容量の径方向成分によりスリーブ内筒122は軸121に調芯される。
【0094】
本実施例によれば,固定軸121を型成型で構成でき,ラジアルベアリング部の間隙調整を不要とする利点がある他,第三の実施例に比して更に薄型に構成できる利点がある。
【実施例5】
【0095】
本発明の第五の実施例として薄型のHDDを構成した例を示す。図13には第三の実施例である図10の軸固定構造動圧流体軸受モータを用いて構成した薄型HDD構成の例を示す。
【0096】
図13(a)に示した薄型HDDはベースプレート10gとなる筐体131上に軸固定構造動圧流体軸受モータ136が形成され,磁気ディスク133が前記モータ136に装着され,磁気ディスク133上の所定位置に磁気ヘッド134を位置決めするアクチュエータ135が配置されている。筐体カバー132は筐体131に固定され,軸101は筐体カバー132に下側から当接して筐体カバー132を支持する構成である。電子回路或いはHDD内環境を制御するフィルター機構等は図示されてない。
【0097】
図13に於いて,軸固定構造動圧流体軸受モータ136には内部の軸受のみを示し,図13(b)に拡大図を示す。本実施例では磁気ディスクの径として25ミリメートル程度,薄型HDDの厚みとして2.5ミリメートル程度を想定している。
【0098】
HDDの厚みが制約されているので軸101を筐体カバー132に固定するボルトは略し,軸101は筐体カバー132に内部から当接して筐体カバー132の内側への変形防止の支柱として使用している。番号137は筐体カバー132と第1環状部材104間の間隙を,番号138は第1の環状部材104の厚みを示す。番号139はスリーブ102の軸方向長さを,番号13aはフランジ部103の厚みをそれぞれ示す。
【0099】
番号137で示す寸法は0.1ミリメートルに,第1環状部材104は軸101との直角度を確保する必要があるので0.7ミリメートルに,また番号13aで示す寸法は0.5ミリメートルに設定すると,HDDの全体の厚み2.5ミリメートルから前記寸法及び筐体カバー132の厚みとして0.2ミリメートルを差し引くと有効なラジアルベアリング部の長さ139として1.0ミリメートルが確保できる。ラジアルベアリング用ヘリングボーングルーブは一つであり,1ミリメートル程度あれば設定できるので2.5ミリメートル厚の薄型HDDが実現できることになる。
【0100】
以上,実施例を挙げて本発明の動作原理及び構造を説明した。上記実施例は本発明の動作原理を説明するために数例を挙げたのみであって本発明の趣旨を逸脱しない範囲で材料及び構造等の変形が可能なことはもちろんで上記の説明が本発明の範囲を限定しない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明では従来のテーパーシールに替わる新規な潤滑流体封止構造を提案し,動作原理と共にその特徴を説明した。薄型でも潤滑流体漏れの無い軸固定型動圧流体軸受モータを実現したので回転部姿勢を高精度に維持する必要のある高速の記録ディスク装置用モータ及び筐体カバーの支柱が必要な薄型記録ディスク装置に特に適する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】第一の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図2】図1に於けるスリーブの内筒及び外筒の斜視図を示す。
【図3】図1に於ける軸受部の拡大された縦断面図を示す。
【図4】図1に於ける軸受部の拡大された縦断面図及び平面図を示す。
【図5】図1のスリーブ下端部の拡大図及び圧力分布を示す。
【図6】第二の実施例である軸固定型動圧流体軸受の縦断面図を示す。
【図7】図6に於けるスリーブの内筒及び外筒の斜視図を示す。
【図8】図6に於けるスリーブ上端近傍の拡大断面図を示す。
【図9】図6のスリーブ下端部の拡大図及び圧力分布を示す。
【図10】第三の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図11】図10に於けるスリーブの内筒及びハブの外筒部分の斜視図を示す。
【図12】第四の実施例である軸固定型動圧流体軸受の縦断面図を示す。
【図13】第五の実施例である薄型記録ディスク装置の縦断面図を示す。
【図14】米国特許5876124及び米国特許5533811の軸受け部縦断面図を示す。
【図15】本発明による潤滑流体封止の構造をモデル化して示す。11・・・T字状軸, 12・・・スリーブ内筒,13・・・スリーブ外筒, 14・・・第1環状部材,15・・・カバー, 16・・・フランジ部,17・・・環状部材, 18,19・・不平衡ヘリングボーングルーブ,1a,1b・・スパイラルグルーブ, 1c,1c’・・連通領域,1d・・・ベースプレート, 1e・・・ハブ,1f・・・ローターマグネット, 1g・・・ステータコア,1h・・・コイル, 1j・・・フランジ部の軸方向面,1k・・・フランジ部の径方向面,21・・・内筒12の中心孔, 22・・・スラスト面,23・・・凹状溝, 24・・・平坦面,25・・・凹状溝, 26・・・平坦面24以外の外周面,27・・・エア部, 28・・・潤滑流体の境界,29・・・潤滑流体の存在領域,31・・・第1環状部材外周領域, 32,33・・潤滑流体の移動方向,34・・・潤滑流体の境界面,41・・・第1環状部材外径位置, 42・・・スリーブの回転方向,43・・・連通領域1c内の潤滑流体, 44・・・潤滑流体境界,51・・・潤滑流体境界面34と外筒13外周との交点,52・・・潤滑流体境界面34と環状部材17との交点,53・・・連通領域1cの下端部(排出部),54・・・点線,55,56,57,58・・点線54上の点,61・・・内筒, 62・・・外筒,63・・・第1環状部材, 64・・・カバー,65・・・潤滑流体, 66・・・環状開口,67・・・排出部,71・・・環状凹部, 72・・・凹状溝(流入部),73・・・凹状溝, 74・・・回転方向,75・・・排出部67より回転方向後方の外筒62下端部,76・・・排出部67より回転方向前方の外筒62下端部,81・・・潤滑流体の流れ方向, 82・・・流入部の段差量,91,93・・潤滑流体, 94・・・点線,95,96,97,98・・点線94上の点,101・・・軸, 102・・・スリーブ内筒,103・・・フランジ部, 104・・・第1環状部材,105・・・環状部材, 106・・・カバー,107・・・ハブ, 108・・・連通領域,109・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,10a・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,10b・・・スパイラルグルーブ, 10c・・・ロータマグネット,10d・・・ディスク搭載面, 10e・・・ステータ,10f・・・コイル, 10g・・・ベースプレート,111・・・円錐面, 112・・・凹状溝,113・・・円錐面以外のスリーブ102外周面,114・・・エア部, 115・・・潤滑流体の境界,116・・・潤滑流体の存在領域,121・・・円錐軸, 122・・・スリーブ内筒,123・・・フランジ部, 124・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,131・・・筐体, 132・・・筐体カバー,133・・・磁気ディスク, 134・・・磁気ヘッド,135・・・アクチュエータ, 136・・・軸固定構造動圧流体軸受モータ,137・・・カバー132下面から第1環状部材までの距離138・・・第1環状部材104の厚み,139・・・スリーブの軸方向長さ, 13a・・・フランジ部厚み,141,142・・スラストベアリング, 143・・・平衡チャネル,144,145,146・・潤滑流体溜まり部,151・・・スリーブ下部近傍の潤滑流体溜まり部,152・・・蓮通領域内の潤滑流体溜まり部,153・・・動圧グルーブ, 154・・・排出部,155・・・スリーブ上端面外周部,156・・・遠心力で振り切られた潤滑流体の循環経路,157・・・潤滑流体, 158,159・・潤滑流体境界,15a,15b・・潤滑流体溜まり部で潤滑流体を上方に引く力,15c・・・遠心力による圧力増分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定軸と,軸外周と微小隙間を有して回転自在に勘合するスリーブと,軸に固定されてスリーブの上端面と間隙を持って対向する第1環状部材と,軸に固定されてスリーブ下端及び外周下部と間隙を持って対向する第2環状部材と,スリーブと軸及び第1,第2環状部材との間隙に連続的に存在してスリーブ上端面とスリーブ外周下部の少なくとも2カ所に大気との境界面を持つ潤滑流体とを少なくとも有して構成される動圧流体軸受モータに於いて,流入部を第1環状部材外周近傍のスリーブ上端面に及び排出部をスリーブ下端外径近傍に有する連通領域をスリーブ内には有し,連通領域内にはさらに境界面を有して排出部で前記スリーブと第2環状部材との間隙内の潤滑流体に連続する潤滑流体を有するよう設定し,スリーブ上端面と第1環状部材との何れかの面には動圧グルーブを,スリーブ内周面と固定軸及び或いは第2環状部材との対向面の何れかには動圧グルーブを有し,後者の動圧グルーブの少なくとも一つは不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとしてスリーブ内周面上端方向に潤滑流体圧送能力を持たせて回転時に第1環状部材外周に潤滑流体を移送し,第1環状部材外周近傍で潤滑流体を遠心力で流入部内に振り切り,遠心力で流入部内に振り切られた潤滑流体を遠心力及び或いは周方向に傾斜した連通領域により排出部方向に駆動して循環させ,蓮通領域排出部近傍での潤滑流体圧力を調整する潤滑流体圧力調整手段を前記連通領域排出部近傍及び或いは前記連通領域内にさらに有して,潤滑流体を封止することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項2】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として連通領域排出部とスリーブ外周下部の潤滑流体境界面との間に潤滑流体を前記連通領域排出部方向に圧送する動圧グルーブを配置した事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項3】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として回転力を利用して潤滑流体を連通領域排出部から流入部方向に押し込むよう連通領域排出部近傍の連通領域形状を周方向に傾斜させた事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項4】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として連通領域排出部の回転方向後部と第2環状部材との間隙を局部的に小とし,回転力を利用して潤滑流体を連通領域排出部から流入部方向に押し込む事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項5】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として蓮通領域は排出部方向に徐々に間隙が小となる傾斜間隙領域を有する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項6】
請求項5記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,蓮通領域内の前記傾斜間隙領域を軸長方向と平行に配置した事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項7】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,回転時に動圧グルーブによりスリーブ上端面に圧送する潤滑流体の流量は,スリーブ上端面及び対向する第1環状部材とで構成するスラストベアリング領域から遠心力によって流れ出る流量以上として前記スラストベアリング領域に気泡を巻き込まないよう構成した事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項8】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ上端面に圧送される潤滑流体がスリーブ上端面及び対向する第1環状部材とで構成するスラストベアリング領域に滞留するように流入部の開口断面積を制限して潤滑流体の流路抵抗を大とした事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項9】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,第1環状部材とスリーブ上端面とで構成するスラストベアリング領域から流入部には段差を設け,潤滑流体が前記段差を乗り越えて連通領域上端に振り切られる構造として前記スラストベアリング領域に潤滑流体を滞留させるよう構成した事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項10】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,固定軸は円筒状とし,スリーブは円筒状内周面を有して軸に回動可能に勘合し,且つ軸と直交する第1,第2環状部材とスリーブ上下端面とがそれぞれ対向し,スリーブ下端面と対向する第2環状部材面との何れかに配置された動圧グルーブは内径方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとすることを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項11】
請求項10記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面の何れかには一つのラジアルベアリングとしてヘリングボーングルーブ或いはスリーブ上端面方向に潤滑流体を圧送する不平衡ヘリングボーングルーブを有し,第1環状部材とスリーブ上端面の対向する面の何れかにはポンプインのスパイラルグルーブを有し,第2環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかには潤滑流体を内径方向に圧送する能力を有する不平衡のヘリングボーングルーブを配置したことを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項12】
請求項10記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,第1環状部材とスリーブ上端面の何れか及び第2環状部材とスリーブ下端面の何れかにはポンプインのスパイラルグルーブを有し,軸外周面とスリーブ内周面の何れかには二つの不平衡ヘリングボーングルーブを有してそれぞれの不平衡ヘリングボーングルーブは隣接する前記スパイラルグルーブの方向に潤滑流体圧送能力を有してそれぞれ前記スパイラルグルーブと協働でスリーブ上下面での潤滑流体圧力を高め,スリーブを浮上支持することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項13】
請求項10記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ下端面と対向する第2環状部材の一部をフランジとして円筒軸と一体構造のT字状軸とし,フランジ部の径方向面及び軸方向面でベースプレートと固定される構造とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項14】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,固定軸は上端方向に先細となる円錐凸形状として,スリーブは前記軸に勘合する円錐凹形状とし,軸及びスリーブ間に一以上の動圧グルーブを有し,少なくとも前記動圧グルーブの一つはスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有し,軸及びスリーブ間の動圧グルーブが発生する軸方向負荷容量と第1の環状部材及びスリーブ上端面間の動圧グルーブの発生する負荷容量とが平衡する位置でスリーブを浮上支持することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項15】
筐体と,記録ディスクと,記録ディスクを搭載回転させるモータと,記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを少なくとも有する記録ディスク装置であって,前記モータとして請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータを使用し,前記モータの固定軸を筐体中央部の支柱として薄板状の筐体で構成可能としたことを特徴とする記録ディスク装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−283964(P2006−283964A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173103(P2005−173103)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(302014011)有限会社クラ技術研究所 (29)
【Fターム(参考)】