説明

農業用ポリ乳酸フィルムおよびその製造方法

【課題】 フィルム表面への可塑剤のブリードが抑えられ、ブロッキングすることがなく、防曇性を長期間持続でき、かつ柔軟性および透明性の良好な農業用ポリ乳酸フィルム、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤と、防曇剤とを含有する樹脂組成物をフィルム状に成形し、これに結晶化処理を施す;または、前記ポリ乳酸系樹脂と、可塑剤とを含有する樹脂組成物をフィルム状に成形し、この表面に防曇性塗膜を設け、これに結晶化処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ポリ乳酸フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄後速やかに分解され、自然環境下で蓄積されることのない製品が望まれており、各種生分解性樹脂からなる製品が市販されている。Tダイ押出機によりフィルムに成形できる生分解性樹脂として、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂が知られている。ポリ乳酸は、透明性に優れているものの柔軟性に乏しい。そのため、可塑剤を配合してフィルムに柔軟性を付与することが試みられている。
しかしながら、ポリ乳酸に可塑剤を配合すると、成形したフィルム表面に可塑剤が経時的に滲み出てフィルムの外観を損なうブリード現象が生じ、また、製膜して巻き取ったフィルム同士が密着して剥がれないブロッキング現象が起きるという問題点がある。
【0003】
このような問題点を解決する目的で種々の提案がなされている。このような提案としては、例えば、結晶化促進剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物に関するもの(例えば、特許文献1参照)、結晶性ポリ乳酸系樹脂、可塑剤および結晶核剤を必須成分とする高結晶性ポリ乳酸樹脂組成物に関するもの(例えば、特許文献2参照)、特定のL−乳酸ポリマーと特定の可塑剤との混合物にSiO2 を含有させたL−乳酸ポリマー組成物に関するもの(例えば、特許文献3参照)、特定の乳酸系ポリエステルと可塑剤とを含有する組成物を成形後、結晶化させる乳酸系ポリエステル成形物(例えば、特許文献4参照)、結晶性の乳酸系樹脂と可塑剤とからなり、フィルム中の乳酸系樹脂成分が特定の結晶化熱量および融解熱量を有する生分解性軟質フィルムに関するもの(例えば、特許文献5参照)等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、これらの提案は、可塑化された軟質ポリ乳酸フィルムにおいて、透明性と柔軟性とを保ちつつ、可塑剤のフィルム表面へのブリードおよびフィルム同士のブロッキングを有効に抑制するという観点からは、必ずしも充分なものとは言えなかった。また、農業用フィルムにおいては、防曇剤が添加されるが、防曇剤のフィルム表面へのブリードに伴い、防曇性が低下するという問題もあった。
【特許文献1】特開2003−301097号公報
【特許文献2】特許第3410075号公報
【特許文献3】特許第3472644号公報
【特許文献4】特開平10−36651号公報
【特許文献5】特開2003−12834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、本発明の目的は、フィルム表面への添加剤のブリードが抑えられ、ブロッキングすることがなく、防曇性を長期間持続でき、かつ柔軟性および透明性の良好な農業用ポリ乳酸フィルム、およびその製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、透明性がさらに向上した農業用ポリ乳酸フィルム、およびこの農業用ポリ乳酸フィルムを効率よく製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、D体の比率が特定の範囲にある弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸と可塑剤等の添加剤とを含有する樹脂組成物をフィルムに成形し、該フィルムに結晶化処理を施すことにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の農業用ポリ乳酸フィルムは、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤と、防曇剤とを含有する樹脂組成物を成形し、結晶化処理を施したものである。
また、本発明の農業用ポリ乳酸フィルムは、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤とを含有する樹脂組成物を成形し、結晶化処理を施したフィルムと;フィルム表面に設けられた防曇性塗膜とを有するものである。
【0008】
前記ポリ乳酸系樹脂は、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜95質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸5〜50質量%からなるものであることが好ましい。
前記樹脂組成物は、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、防曇剤を0.5〜3質量部含有することが好ましい。
前記防曇性塗膜は、樹脂バインダー中にシリカゾルおよび/またはアルミナゾルが分散した塗膜であることが好ましい。
【0009】
前記樹脂組成物は、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、可塑剤を15〜50質量部含有することが好ましい。
前記樹脂組成物は、結晶核剤を含有することが好ましい。
前記樹脂組成物は、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、滑剤を0.01〜2質量部含有することが好ましい。
前記樹脂組成物は、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、紫外線吸収剤を0.05〜5質量部およびヒンダードアミン系光安定剤を0.05〜1質量部含有することが好ましい。
【0010】
本発明の農業用ポリ乳酸フィルムの結晶化熱量は、0〜2J/gであり、融解熱量は、3〜20J/gであることが好ましい。
D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸に由来する融解熱量は、0.1J/g以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の農業用ポリ乳酸フィルムの製造方法は、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤と、防曇剤とを含有する樹脂組成物を成形してフィルムとする工程と、フィルムに結晶化処理を施す工程とを有することを特徴とする。
また、本発明の農業用ポリ乳酸フィルムの製造方法は、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤とを含有する樹脂組成物を成形してフィルムとする工程と、フィルムに結晶化処理を施す工程と、フィルム表面に防曇性塗膜を設ける工程とを有することを特徴とする。
【0012】
前記ポリ乳酸系樹脂は、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜95質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸5〜50質量%からなるものであることが好ましい。
前記結晶化処理は、20〜100℃の温度での熱処理であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の農業用ポリ乳酸フィルムは、フィルム表面への可塑剤のブリードが抑えられ、ブロッキングすることがなく、防曇性を長期間持続でき、かつ柔軟性および透明性が良好である。また、本発明の農業用ポリ乳酸フィルムの製造方法によれば、フィルム表面への可塑剤のブリードが抑えられ、ブロッキングすることがなく、防曇性を長期間持続でき、かつ柔軟性および透明性の良好な農業用ポリ乳酸フィルムを得ることができる。
【0014】
また、ポリ乳酸系樹脂が、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜95質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸5〜50質量%からなるものであれば、透明性がさらに向上した農業用ポリ乳酸フィルムを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<ポリ乳酸系樹脂>
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるものであり、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜95質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸5〜50質量%からなるものが好ましい。
【0016】
(弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸)
本発明における弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸は、L−乳酸またはその環状二量体であるラクチドと、D−乳酸またはその環状二量体であるラクチドとをモノマーとして用い、これらを縮合重合または開環重合した共重合体であり、かつD体の比率(L−乳酸単位とD−乳酸単位とから構成される共重合体に占めるD−乳酸単位の組成比率)が7〜20%、好ましくは9〜18%、さらに好ましくは10〜15%のものである。本発明における「弱晶質性または非晶質性」とは、DSC(示差走査型熱量計)による測定によって得られたDSC曲線において融点を示さないものを意味する。
【0017】
弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸におけるD体の比率を7%以上とすることにより、ポリ乳酸の結晶性が充分に低くなり、可塑剤のフィルム表面へのブリードが抑えられる。また、D体の比率を7%以上とし、かつ結晶化処理を施すことによりフィルム同士のブロッキングが起きない。弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸におけるD体の比率が20%を超えるものは、入手性を考慮した場合、実用的ではない。
ポリ乳酸におけるD体の比率を7%以上とすると、通常、DSC曲線において明確な融点を示さなくなる、すなわち非晶性となる。なお、D体の比率が7%以上である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸であっても、後述の結晶化処理を施すことにより、結晶化させることができる。
【0018】
弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸は、少量のヒドロキシカルボン酸に由来する単位を含んでいてもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸の質量平均分子量は、フイルム強度、成形加工性等の観点から、1万〜100万程度が適当であり、3万〜50万程度が特に好ましい。
【0019】
(結晶性ポリ乳酸)
本発明における結晶性ポリ乳酸は、L−乳酸またはその環状二量体であるラクチドと、D−乳酸またはその環状二量体であるラクチドとをモノマーとして用い、これらを縮合重合または開環重合した共重合体であり、かつD体の比率(L−乳酸単位とD−乳酸単位とから構成される共重合体に占めるD−乳酸単位の組成比率)が0〜6%、好ましくは0〜5%のものである。本発明における「結晶性」とは、DSC(示差走査型熱量計)による測定によって得られたDSC曲線において融点を示すものを意味する。
【0020】
結晶性ポリ乳酸は、少量のヒドロキシカルボン酸に由来する単位を含んでいてもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
結晶性ポリ乳酸の質量平均分子量は、フイルム強度、成形加工性等の観点から、1万〜100万程度が適当であり、3万〜50万程度が特に好ましい。
【0021】
ポリ乳酸系樹脂(100質量%)における結晶性ポリ乳酸の含有量を5質量%以上とすることにより、後述の結晶化処理において、結晶化が促進され、結晶化が飽和に達する時間を短縮することができ、結果、フィルムの生産効率を向上させることができる。また、結晶化処理によるフィルムの透明性の低下が抑えられる。ポリ乳酸系樹脂(100質量%)における結晶性ポリ乳酸の含有量を50質量%以下とすることにより、高温条件下で長時間放置しても、可塑剤が揮発することによるフィルムの柔軟性の低下が抑えられ、使用時に高温に長時間晒されうる農業用フィルムとして使用しても問題になることはない。
【0022】
<可塑剤>
本発明における可塑剤としては、ポリ乳酸に好適に使用することできる可塑剤であればよく、特に限定されるのものではない。可塑剤としては、例えば、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の脂肪族アルコール系可塑剤;グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレート等のアセチル化モノグリセライド系可塑剤;乳酸エステル等の脂肪族エステル系可塑剤;ポリグリセリンの重合度が2〜4であり、アセチル化率が50〜100%であるポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤;アジピン酸エステル系可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ系可塑剤が挙げられる。これら可塑剤のうち、ポリ乳酸との相溶性および可塑化効果が良好である点から、アセチル化モノグリセライド系可塑剤またはポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤が好ましい。
【0023】
可塑剤の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、15〜50質量部が好ましく、20〜40質量部が特に好ましい。可塑剤の配合量を15質量部以上とすることにより、可塑化効果が充分となる。可塑剤の配合量を50質量部以下とすることにより、フィルムの粘着性が抑えられ、加工性が良好となる。
【0024】
<防曇剤>
本発明における防曇剤は、農業用ポリ乳酸フィルム中に含まれることにより、該フィルムに防曇性を付与するものである。樹脂組成物に配合される防曇剤としては、非イオン系、アニオン系またはカチオン系の界面活性剤が挙げられ、例えば、ポリオキシアルキレンエーテル、多価アルコールの部分エステル、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物の部分エステル等が挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリエチレングリコールモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート等が挙げられる。
【0025】
防曇剤の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、0.5〜3質量部が好ましく、1〜2.5質量部が特に好ましい。防曇剤の配合量を0.5質量部以上とすることにより、防曇性が充分となる。防曇剤の配合量を3質量部以下とすることにより、フィルム表面への防曇剤のブリードが抑えられる。
【0026】
<防曇性塗膜>
本発明においては、フィルム中に防曇剤を含ませる代わりに、フィルムの表面に防曇性塗膜を設けてもよい。
防曇性塗膜としては、防曇性能を発揮するシリカゾルおよび/またはアルミナゾルを樹脂バインダー中に分散させたものが好ましい。樹脂バインダーとしては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリル変成ウレタン樹脂等の水性樹脂バインダーが挙げられる。また、生分解性のポリ乳酸エマルジョンを樹脂バインダーとして用いてもよい。
この防曇性塗膜が形成された面を農業用ハウスの内面とすることにより、長期にわたって防曇性を発揮させることができる。
【0027】
<結晶核剤>
弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸の結晶化を促進させるために、樹脂組成物に結晶核剤を含有させてもよい。結晶核剤としては、タルク、カオリナイト、モンモリナイト等の珪酸塩化合物;酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種無機系結晶核剤;その他、各種有機結晶核剤が挙げられる。
結晶核剤の配合量は、ポリ乳酸100質量部あたり、0.05〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部が特に好ましい。
【0028】
<滑剤>
フィルム成形時のフィルムのロール離れを良好にするために、フィルムに滑剤を含有させてもよい。滑剤としては、ポリエチレンワックス、脂肪酸アミド、ステアリン酸等が挙げられる。
滑剤の配合量は、ポリ乳酸100質量部あたり、0.01〜2質量部が好ましく、0.1〜1.5質量部が特に好ましい。
【0029】
<無機化合物微粒子>
成形時にフィルムが金属ロールに粘着したり、フィルム同士がブロッキングすることを防ぐために、フィルムに無機化合物微粒子を含有させてもよい。無機化合物微粒子としては、長石、シリカ、タルク、カオリン等が挙げられる。無機化合物微粒子の平均粒子径は、1〜7μmが好ましい。
【0030】
無機化合物微粒子の配合量は、ポリ乳酸100質量部あたり、0.01〜2質量部が好ましく、0.1〜1.5質量部が特に好ましい。無機化合物微粒子の配合量を0.01質量部以上とすることにより、溶融フィルムの加工ロールへの粘着およびフィルム同士のブロッキングを充分に抑えることができる。無機化合物微粒子の配合量を2質量部以下とすることにより、フィルムの透明性を損なうことがない。
【0031】
<紫外線吸収剤およびヒンダードアミン系光安定剤>
フィルムの耐候性を向上させるために、フィルムに紫外線吸収剤およびヒンダードアミン系光安定剤を含ませることが好ましい。
【0032】
紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;サルチル酸系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0033】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、特開平1−197543号公報、特開平2−30529号公報に記載されているものを挙げることができる。具体的な市販の化合物を例示すれば、TINUVIN770、TINUVIN780、TINUVIN144、TINUVIN371、TINUVIN622LD、CHIMASSORB944(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、MARK LA−57、MARK LA−62、MARK LA−63、MARK LA−67、MARK LA−68(以上、旭電化工業(株)製)等が挙げられる。
【0034】
紫外線吸収剤の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、0.05〜5質量部が好ましく、0.1〜2質量部が特に好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、0.05〜1質量部が好ましく、0.1〜0.5質量部が特に好ましい。
【0035】
<他の添加成分>
フィルムには、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、他の添加成分を添加することができる。このような添加成分としては、例えば、無機系保温剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、着色剤、防カビ剤、加水分解防止剤等が挙げられる。また、問題を生じない程度の少量の他のポリ乳酸、他の生分解性樹脂、他の合成樹脂を配合してもよい。
【0036】
<フィルムの製造方法>
本発明の農業用ポリ乳酸フィルム製造方法は、上述の樹脂組成物を成形してフィルムとする工程(以下、成形工程とも記す。)と、該フィルムに結晶化処理を施す工程(以下、結晶化処理工程とも記す。)とを有する。また、フィルム表面に防曇性塗膜を設ける場合は、さらにフィルム表面に防曇性塗膜を設ける工程(以下、塗布工程とも記す。)を有する。
【0037】
成形工程に先立ち、まず、樹脂組成物の調製を行う。調製は、通常、混練によって行われる。混練方法としては、ペレット、粉体、固体の細片等の原料をヘンシェルミキサーまたはリボンミキサーで乾式混合し、単軸または2軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等の溶融混練機に供給して溶融混練する方法が挙げられる。具体的には、まず、原料をタンブラーにいれて10分〜20分攪拌混合する。ついで、単軸または2軸押出機等により140〜210℃の温度で溶融混練を行い、樹脂組成物のペレットを得る。
【0038】
(成形工程)
ついで、樹脂組成物のペレットを押出機に供給し、Tダイ押出成形、インフレーション成形等によってフィルム状に成形する。
【0039】
(塗布工程)
フィルム表面に防曇性塗膜を設ける場合、防曇性塗膜の密着性を向上させるために、あらかじめフィルムに放電処理等で表面処理を施すことが好ましい。
ついで、シリカゾルおよび/またはアルミナゾルと樹脂バインダーとからなる固形成分の分散液をフィルム表面に塗布、乾燥して防曇性塗膜を形成する。乾燥後の塗膜の厚さは、シリカゾルまたはアルミナゾルの濃度、使用する樹脂バインダーの種類によって異なるが、通常、0.5〜2μm程度である。
塗布工程は、結晶化処理工程の前に行ってもよく、結晶化処理工程の後に行ってもよい。
【0040】
(結晶化処理工程)
フィルムに結晶化処理を施して、フィルム中のポリ乳酸を結晶化させる。結晶化処理としては、フィルムを高温下に一定時間置く熱処理が挙げられる。加熱方法としては、高温の室内に置く方法、加熱ロールに通す方法、熱風を吹き付ける方法、マイクロ波または高周波をフィルムに直接照射する方法等が挙げられる。
【0041】
処理温度は、通常、処理前フィルムのガラス転移温度以上であり、かつ溶融開始温度以下である。処理温度としては、20〜100℃程度が適当である。
処理時間は、処理温度によって異なる。例えば、処理温度が60℃の場合、6時間程度処理すれば本発明の目的を達成することができる。6時間以上の時間を費やしても結晶化は徐々にしか進まない。
【0042】
結晶化処理を施すことにより、フィルム表面への可塑剤のブリードおよびフィルム同士のブロッキングを抑えることができ、また、処理後のフィルムの粘弾性において弾性が増す効果も認められ、応力による変形が起きても回復力が大きい。また、結晶化処理により防曇剤のブリードを抑制することができるので、長期にわたり防曇性を持続することができる。さらに、ポリ乳酸系樹脂が、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜95質量%と、D体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸5〜50質量%とからなるものであれば、結晶化処理前の透明性が損なわれることもない。このような作用効果を奏する理由は、結晶化処理を行った結果、フィルムの内部に少量の微細な結晶が均一に生じ、配合した可塑剤等の添加剤が微細な結晶間に捕捉されたためと考えられる。
【0043】
結晶化処理による結晶化の進行度合いおよび結晶化度は、後述する試験法により測定した結晶化熱量および融解熱量の多少により判別することができる。
農業用ポリ乳酸フィルムの結晶化処理は、結晶化処理された農業用ポリ乳酸フィルムの結晶化熱量が0〜2J/g、好ましくは0J/gになるような条件で行うことが好ましい。また、結晶化処理された農業用ポリ乳酸フィルムの融解熱量は、3〜20J/gであることが好ましい。さらに、130℃未満の温度領域に現れる弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸に由来する融解熱量は、0.1J/g以上であることが好ましい。
結晶化熱量および融解熱量を上記範囲内とすることにより、農業用ポリ乳酸フィルムのブロッキング防止性、ブリード防止性、透明性および柔軟性が良好となり、防曇性が長期間持続される。
【0044】
このようにして得られる、本発明の農業用ポリ乳酸フィルムは、単層フィルム、または2層以上の積層フィルムである。フィルム全体の厚さは、通常、50〜250μmであり、75〜200μmが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を示す。なお、本発明は、かかる実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例におけるフィルムのブロッキング防止性、ブリード防止性、透明性、柔軟性、防曇性の持続性、防曇性塗膜の密着性、結晶化処理による結晶化の進行度合い(結晶化熱量)、および結晶化度(融解熱量)は、以下に示す試験方法により測定、評価した。
【0046】
(1)ブロッキング防止性:
長さ160mm、幅25mm、厚さ0.1mmの試験片を2枚重ねて10kgの荷重を掛けた状態で温度を60℃に保ったパーフェクトオーブン中に1週間放置した後、2枚の試験片を剥がし、以下の基準で評価した。
○:抵抗なく剥がれる。
×:剥がすときに抵抗がある。
【0047】
(2)ブリード防止性:
長さ160mm、幅25mm、厚さ0.1mmの試験片を温度40℃、相対湿度90%に保った室内に3日間放置した後、目視により以下の基準で評価した。
○:可塑剤等の添加物のブリードがほとんど認められない。
△:可塑剤等の添加物のブリードが少し認められる。
×:可塑剤等の添加物のブリードが多く認められる。
【0048】
(3)透明性:
JIS K 7105に基づいて、全光線透過率および拡散透過率を求め、次式によりフィルムのヘーズを算出し、以下の基準で評価した。
ヘーズ(%)=(拡散透過率/全光線透過率)×100
◎:ヘーズ5%未満。
○:ヘーズ5%以上10%未満。
×:ヘーズ10%以上。
【0049】
(4−1)柔軟性(熱処理前):
長さ160mm、幅25mm、厚さ0.1mmの試験片のヤング率を測定し、以下の基準で評価した。
○:ヤング率500MPa未満。
×:ヤング率500MPa以上。
【0050】
(4−2)柔軟性(熱処理後):
長さ160mm、幅25mm、厚さ0.1mmの試験片を、温度を80℃に保ったパーフェクトオーブン中に3日間放置した後、試験片のヤング率を測定し、以下の基準で評価した。
○:ヤング率500MPa未満。
×:ヤング率500MPa以上。
【0051】
(5)防曇性の持続性:
屋外(滋賀県甲賀郡石部町所在の試験場)に設置した水槽の上に傾斜角30°で試料フィルムを展張し、約3ヶ月(平成15年10月中旬〜翌年1月中旬)経過後、フィルム内面に付着した水滴の状態を観察し、次の基準で評価した。
○:ほぼ完全に水膜を形成し、初期防曇性を維持している。
×:一様な水膜の形成が崩れ、防曇性が低下している。
【0052】
(5)防曇性塗膜の密着性(防曇性の持続性):
製造直後のフィルムおよび20℃に保った室内に10日間放置した後のフィルムについて、セロハンテープによる塗膜の剥離試験を行い、次の基準で評価した。
○:全く剥がれない。
×:部分的ないし全面的に剥がれる。
【0053】
(7)結晶化熱量および融解熱量:
フィルムを30℃で12時間減圧乾燥した後、4.0mg秤量して試料とした。パーキンエルマー社製DSC7示差走査型熱量計を用い、窒素ガス流通下、20℃/分の昇温速度で−50℃から200℃まで昇温しDSC曲線を得た。DSC曲線のチャートに現れた結晶化ピークおよび融解ピークの面積から試料1g当たりの結晶化熱量および融解熱量(J/g)を計測した。
【0054】
[実施例1〜6、比較例1〜11]
D体の比率がそれぞれ1%、6%、8%および12%であり、質量平均分子量が約19万である4種のポリDL乳酸、ポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤(理研ビタミン社製「リケマールPL−710」)、防曇剤(グリセリンモノステアレートとグリセリンモノパルミテートとの質量比率1/1の混合物)、紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品名「チヌビン327」)、ヒンダードアミン系光安定剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品名「チヌビン622」)、および滑剤(エルカ酸アマイド)を用意した。表1に示す各実施例および各比較例の配合組成にしたがって、9種の樹脂組成物を調製した。(数字は各配合成分の質量部数を示す。)9種のすべての樹脂組成物において、ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、紫外線吸収剤0.2質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.2質量部、および滑剤0.5質量部を配合した。
【0055】
ついで、押出機に各樹脂組成物を供給し、シリンダー温度140℃、ダイ温度135℃の条件でインフレーション成形し、厚さ100μmの9種のフィルムを得た。
得られたフィルムのうち1種を除いた8種の各フィルムを60℃の温度に保った室内で6時間置いて、フィルムに結晶化処理を施し、ポリ乳酸の結晶化を促進した。結晶化処理に際しては、フィルム同士が接触しないよう、フィルム間に薄紙を挟んで処理した。このように結晶化処理した8種のフィルム(実施例1〜6、比較例8および10)、および未処理の9種のフィルム(比較例1〜7、9および11)の計17種の各フィルムについて、結晶化熱量および融解熱量を測定するとともに、ブロッキング防止性、ブリード防止性、透明性、熱処理前の柔軟性、および防曇性の持続性の各評価試験を行った。測定値および評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すとおり、各比較例においては、D体濃度が7%以上のポリ乳酸を用いたものも、結晶化処理していないものは、ブロッキング防止性およびブリード防止性がともに不良であり、D体濃度が7%未満のものは、結晶化処理してもブリード防止性は改善されず、透明性や柔軟性は却って低下した。また、防曇性の持続性も不良ないし不充分であった。
これに対し、各実施例においては、いずれも結晶化処理によるブロッキング防止性およびブリード防止性の改善効果が顕著であり、透明性および柔軟性もほとんど低下せず良好であった。また、防曇性の持続性も改善され、満足できるものであった。
【0058】
つぎに、実施例2および比較例2について、前記試験法により、結晶融解ピークの有無および1g当たりの融解熱量をΔH(J/g)として計測した。各DSC曲線のチャートを図1および図2に示す。
実施例2は、結晶融解ピークが98.5℃に存在し、ΔHは17.2J/gであり、結晶化が確認された。一方、比較例2は、結晶融解ピークがなく、結晶化していなかった。
【0059】
以上の結果から、本発明の農業用ポリ乳酸フィルムは、熱処理等の結晶化処理によりフィルム内部に微細な結晶が少量均一に生じることによって、結晶化して弾性が適度に増すとともに結晶化処理前の透明性を損なうことがないものと考えられる。また、ブロッキング防止性およびブリード防止性の改善は、配合した可塑剤等が微細な結晶間に捕捉されたためと考えられる。
【0060】
[実施例7〜12、比較例12〜22]
D体の比率がそれぞれ1%、6%、8%および12%であり、質量平均分子量が約19万である4種のポリDL乳酸、ポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤(理研ビタミン社製「リケマールPL−710」)、紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品名「チヌビン327」)、ヒンダードアミン系光安定剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品名「チヌビン622」)、および滑剤(エルカ酸アマイド)を用意した。表2に示す各実施例および各比較例の配合組成にしたがって、9種の樹脂組成物を調製した。(数字は各配合成分の質量部数を示す。)9種のすべての樹脂組成物において、ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、紫外線吸収剤0.2質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.2質量部、および滑剤0.5質量部を配合した。
【0061】
ついで、押出機に各樹脂組成物を供給し、シリンダー温度140℃、ダイ温度135℃の条件でインフレーション成形し、厚さ100μmの9種のフィルムを得た。
得られた9種の各フィルムの表面に、まずコロナ放電処理を施し、ついで、シリカゾルとアクリルウレタン系樹脂バインダーとからなる固形成分を分散した水性液(固形分中のシリカゾル濃度約50質量%)を塗布、乾燥し、フィルムの表面に平均厚さ1.0μmのほぼ均一な厚さの防曇性塗膜を形成した。
【0062】
防曇性塗膜を有するフィルムのうち1種を除いた8種の各フィルムを60℃の温度に保った室内で6時間置いて、フィルムに結晶化処理を施し、ポリ乳酸の結晶化を促進した。結晶化処理に際しては、フィルム同士が接触しないよう、フィルム間に薄紙を挟んで処理した。このように結晶化処理した8種のフィルム(実施例7〜12、比較例19および21)、および未処理の9種のフィルム(比較例12〜18、20および22)の計17種の各フィルムについて、結晶化熱量および融解熱量を測定するとともに、ブロッキング防止性、ブリード防止性、透明性、熱処理前の柔軟性、および防曇性塗膜の密着性の各評価試験を行った。測定値および評価結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示すとおり、各比較例においては、D体濃度が7%以上のポリ乳酸を用いたものも、結晶化処理していないものは、ブロッキング防止性およびブリード防止性がともに不良であり、D体濃度が7%未満のものは、結晶化処理してもブリード防止性は改善されず、透明性や柔軟性は却って低下した。また、防曇性塗膜の密着性(防曇性の持続性)も不良ないし不充分であった。
これに対し、各実施例においては、いずれも結晶化処理によるブロッキング防止性およびブリード防止性の改善効果が顕著であり、透明性および柔軟性もほとんど低下せず良好であった。また、防曇性塗膜の密着性(防曇性の持続性)も改善され、満足できるものであった。
【0065】
つぎに、実施例8および比較例13について、前記試験法により、結晶融解ピークの有無および1g当たりの融解熱量をΔH(J/g)として計測した。
実施例8は、結晶融解ピークが98.5℃に存在し、ΔHは17.2J/gであり、結晶化が確認された。一方、比較例13は、結晶融解ピークがなく、結晶化していなかった。
【0066】
以上の結果から、本発明の農業用ポリ乳酸フィルムは、熱処理等の結晶化処理によりフィルム内部に微細な結晶が少量均一に生じることによって、結晶化して弾性が適度に増すとともに結晶化処理前の透明性を損なうことがないものと考えられる。また、ブロッキング防止性およびブリード防止性の改善は、配合した可塑剤等が微細な結晶間に捕捉されたためと考えられる。
【0067】
[実施例13〜18、比較例23〜28]
D体の比率がそれぞれ1%、6%および12%であり、質量平均分子量が約19万である3種のポリDL乳酸、ポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤(理研ビタミン社製「リケマールPL−710」)、防曇剤(グリセリンモノステアレートとグリセリンモノパルミテートとの質量比率1/1の混合物)、紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品名「チヌビン327」)、ヒンダードアミン系光安定剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品名「チヌビン622」)、および滑剤(エルカ酸アマイド)を用意した。表3に示す各実施例および各比較例の配合組成にしたがって、8種の樹脂組成物を調製した。(数字は各配合成分の重量部数を示す。)8種のすべての樹脂組成物において、ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、可塑剤25質量部、防曇剤2質量部、紫外線吸収剤0.2質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.2質量部、および滑剤0.5質量部を配合した。
【0068】
ついで、押出機に各樹脂組成物を供給し、シリンダー温度140℃、ダイ温度135℃の条件でインフレーション成形し、厚さ100μmの8種のフィルムを得た。
得られた8種の各フィルムを60℃の温度に保った室内で、表3に示す各実施例および各比較例に示した時間置いて、フィルムに結晶化処理を施し、ポリ乳酸の結晶化を促進した。結晶化処理に際しては、フィルム同士が接触しないよう、フィルム間に薄紙を挟んで処理した。このように結晶化処理した9種のフィルム(実施例13〜18および比較例23、24)および未処理の4種のフィルム(比較例25〜28)の計13種の各フィルムについて、結晶化熱量および融解熱量を測定するとともに、ブロッキング防止性、ブリード防止性、透明性、熱処理前後の柔軟性、および防曇性の持続性の各評価試験を行った。測定値および評価結果を表3に示す。
表3に示す融解熱量aは、DSC曲線のチャートにおいて、130℃未満の温度領域に現れる弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸に由来する融解ピークの熱量の値を表し、同様に、融解熱量bは、130℃以上の温度領域に現れる結晶性ポリ乳酸に由来する融解ピークの熱量の値を表す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3に示すとおり、弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸がほとんど全部を占めるフィルム(実施例17、18)では、結晶化処理を長時間行う必要があり、かつ、該結晶化処理によって透明性が若干低下する。D体の比率が0〜6%の結晶性ポリ乳酸が50質量%を超えるもの(比較例23および24)は、結晶化処理しても、ブリード防止性や高温処理後の柔軟性が不良であった。結晶化処理時間は短くて済むが、逆にこれ以上長くても上記の欠点は改善されない。また、D体の比率が濃度0〜6%の結晶性ポリ乳酸を5〜50質量%配合したものであっても、結晶化処理していないもの(比較例25〜28)は、いずれもブロッキング防止性およびブリード防止性が不良ないし不充分であった。また、いずれの比較例も、防曇性の持続性が不良ないし不充分であった。
【0071】
これに対し、実施例13〜16においては、いずれも短時間の結晶化処理によってブロッキング防止性およびブリード防止性の改善効果が顕著であり、透明性および柔軟性も良好であった。また、いずれの実施例も、防曇性の持続性が改善され、満足できるものであった。
また、上記の試験結果から、結晶化処理時間の短縮に関しては、より結晶化度の高い結晶性ポリ乳酸を配合することにより、大きい効果が得られることがわかった。
【0072】
また、実施例14で得られたフィルムのDSC曲線のチャートを図3に示し、比較例26について同様のチャートを図4に示す。
図3のチャートにおいては、結晶化ピークが現れず、結晶化が進んでいることが分かり、また、弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸に由来する融解ピークが130℃未満の温度領域に現れ、結晶性ポリ乳酸に由来する融解ピークが130℃以上の温度領域に現れている。図4のチャートにおいては、結晶化ピークが認められ、結晶化が不充分であることがわかり、また、弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸に由来する融解ピークが認められない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の農業用ポリ乳酸フィルムは、生分解性を有し、フィルム表面への添加剤のブリードが抑えられ、ブロッキングすることがなく、防曇性を長期間持続でき、かつ柔軟性および透明性が良好であり、各種農業用フィルムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例2のフィルムのDSC曲線を示すチャートである。
【図2】比較例2のフィルムのDSC曲線を示すチャートである。
【図3】実施例14のフィルムのDSC曲線を示すチャートである。
【図4】比較例26のフィルムのDSC曲線を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤と、防曇剤とを含有する樹脂組成物を成形し、結晶化処理を施した農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項2】
D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤とを含有する樹脂組成物を成形し、結晶化処理を施したフィルムと、
フィルム表面に設けられた防曇性塗膜と
を有する農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項3】
前記ポリ乳酸系樹脂が、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜95質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸5〜50質量%からなるものである請求項1または請求項2に記載の農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、防曇剤を0.5〜3質量部含有する請求項1に記載の農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項5】
前記防曇性塗膜が、樹脂バインダー中にシリカゾルおよび/またはアルミナゾルが分散した塗膜である請求項2に記載の農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、可塑剤を15〜50質量部含有する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、結晶核剤を含有する請求項1ないし6のいずれか一項に記載の農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項8】
前記樹脂組成物が、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、滑剤を0.01〜2質量部含有する請求項1ないし7のいずれか一項に記載の農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部あたり、紫外線吸収剤を0.05〜5質量部およびヒンダードアミン系光安定剤を0.05〜1質量部含有する請求項1ないし8のいずれか一項に記載の農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項10】
結晶化熱量が、0〜2J/gであり、融解熱量が、3〜20J/gである請求項1ないし9のいずれか一項に記載の農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項11】
D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸に由来する融解熱量が、0.1J/g以上である請求項10に記載の農業用ポリ乳酸フィルム。
【請求項12】
D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤と、防曇剤とを含有する樹脂組成物を成形してフィルムとする工程と、
フィルムに結晶化処理を施す工程と
を有することを特徴とする農業用ポリ乳酸フィルムの製造方法。
【請求項13】
D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜100質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸0〜50質量%からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤とを含有する樹脂組成物を成形してフィルムとする工程と、
フィルム表面に防曇性塗膜を設ける工程と
フィルムに結晶化処理を施す工程と、
を有することを特徴とする農業用ポリ乳酸フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ポリ乳酸系樹脂が、D体の比率が7〜20%である弱晶質性または非晶質性ポリ乳酸50〜95質量%およびD体の比率が0〜6%である結晶性ポリ乳酸5〜50質量%からなるものである請求項12または請求項13に記載の農業用ポリ乳酸フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記結晶化処理が、20〜100℃の温度での熱処理である請求項12ないし14のいずれか一項に記載の農業用ポリ乳酸フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−63308(P2006−63308A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31700(P2005−31700)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】