説明

近赤外線遮蔽フィルム

【課題】十分な反射防止性能、帯電防止性能、近赤外線吸収能を有しながら、ハードコート層を積層していなくても耐熱性等に優れる近赤外線遮蔽フィルムを提供する。
【解決手段】透明基材フィルムの一方面に低屈折率層が直接積層されており、他方面に近赤外線吸収粘着層が積層されている。低屈折率層は、(a)多官能(メタ)アクリレート100質量部あたり、 (b)中空シリカ微粒子40〜250質量部、(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体1〜25質量部を含む。(c)中の、π共役系導電性高分子とドーパントの質量比は1:1〜1:5である。近赤外線吸収粘着層は、酸価が20mgKOH/g以下の(メタ)アクリル系樹脂を含む(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物と、(e)ジイモニウム系色素又はフタロシアニン系色素とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマディスプレイパネル(PDP)等に適用され、十分な反射防止性能および近赤外線吸収能を有し、かつ帯電防止性能にも優れた近赤外線遮蔽フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会において、電子ディスプレイ等の光エレクトロニクス機器はテレビジョンやパーソナルコンピュータのモニター用等として著しい進歩を遂げ、広く普及している。中でもプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと称すことがある)は、電子ディスプレイパネルの大型化や薄型化に伴って注目を浴びているが、動作原理上発せられる近赤外線によってリモートコントロール機器等の周辺機器の誤動作を招くといった問題がある。また、近年、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイパネル等の電子画像表示装置(電子ディスプレイ)は、大型化に伴い外光の映り込みによる表示される画像の視認性の低下が問題となっている。そのため、近赤外線遮蔽フィルムに反射防止層を設けることで、画像の視認性を高める方法が一般的に採用されている。さらに、静電気によるディスプレイ表面への塵埃などの付着を防止するために、これらの近赤外線遮蔽フィルムには帯電防止性能を有していることが求められている。
【0003】
これらの諸問題を解決するために、PDPの光学フィルタに用いられる反射防止層(低屈折率層)とジイモニウム系色素またはフタロシアニン系色素を使用した近赤外線吸収粘着剤を塗布してなる近赤外線吸収粘着層とを複合化した近赤外線遮蔽フィルムが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、帯電防止性を付与するために、π共役系導電性高分子が各種の帯電防止剤や電極材料等の工業材料として使用されている。このπ共役系導電性高分子は、ドーパントと呼ばれる物質をドーピングすることによって、高い導電性が付与される。例えば、π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体と多官能(メタ)アクリレートとを含有するコーティング剤組成物が知られている(特許文献2)。
【0005】
また、透明基材フィルムの一方面にハードコート層および低屈折率層を積層し、他方面に近赤外線吸収層が備えられてなる帯電防止性能を有する近赤外線遮蔽フィルムが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−502563号公報
【特許文献2】特開2008−222850号公報
【特許文献3】特開2009−31506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の近赤外線遮蔽フィルムは、帯電防止性能を発現するための帯電防止剤等の材料を含んでいないため、ディスプレイ表面に塵埃が付着しやすく、汚れが目立ってしまい、画像が見づらくなってしまう。さらに、ディスプレイ製造工程において、塵埃の混入により不具合が発生してしまうこともある。
【0008】
これに対し、特許文献2には帯電防止性を有する複合体が記載されているが、このようなπ共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体は屈折率がおよそ1.5と高いことから、従来は高屈折率な層を形成するための材料として使用されるのが一般的であり、そのままでは低屈折率層を形成することはできない。
【0009】
特許文献3では、透明基材フィルムと低屈折率層との間にハードコート層を形成していることから塗工回数が増えてしまうため、生産性が低下する。加えて、近赤外線遮蔽フィルムには、その製造時や使用時における十分な耐熱性や耐擦傷性が求められている。しかし、特許文献3の問題を解決するために単にハードコート層を廃しただけでは、近赤外線遮蔽フィルムの耐熱性や耐擦傷性が低下してしまう。
【0010】
そこで本発明の目的とするところは、十分な反射防止性能を有しながら帯電防止性能に優れるとともに、近赤外線吸収能にも優れ、さらにハードコート層を積層していなくても耐熱性、耐擦傷性、及び鉛筆硬度に優れる近赤外線遮蔽フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、透明基材フィルムの一方面に低屈折率層が直接積層されており、前記透明基材フィルムの他方面に近赤外線吸収粘着層が積層されている近赤外線遮蔽フィルムであって、前記低屈折率層は、(a)多官能(メタ)アクリレートと、(b)中空シリカ微粒子と、(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体と、を含有し、前記(a)多官能(メタ)アクリレート100質量部あたり、前記(b)中空シリカ微粒子40〜250質量部、前記(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体1〜25質量部を含むとともに、前記(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体中の、π共役系導電性高分子とドーパントの質量比が1:1〜1:5であり、前記近赤外線吸収粘着層は、(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物と、(e)近赤外線吸収色素とを含み、前記(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物は、酸価が0〜20mgKOH/gの(メタ)アクリル系樹脂を含み、前記(e)近赤外線吸収色素は、ジイモニウム系色素又はフタロシアニン系色素であることを特徴とする。
【0012】
第2の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、第1の発明において、前記π共役系導電性高分子がポリチオフェン類であることを特徴とする。
【0013】
第3の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、第2の発明において、前記ポリチオフェン類がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)であることを特徴とする。
【0014】
第4の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、第1の発明において、前記π共役系導電性高分子がポリピロール類又はポリアニリン類であることを特徴とする。
【0015】
第5の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、第1から第4のいずれかの発明において、前記ドーパントがポリアニオンであることを特徴とする。
【0016】
第6の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、第5の発明において、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明の近赤外線遮蔽フィルムによれば、次のような効果を発揮することができる。低屈折率層が反射防止効果を有するため、本発明の近赤外線遮蔽フィルムをプラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネル等の電子画像表示装置のディスプレイ表面に貼合せた場合に、蛍光灯などの外部光源から照射された光線の反射を抑え、ディスプレイに表示される画像の視認性を高めることができる。同時に、低屈折率層にはπ共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体が含まれていることから、近赤外線遮蔽フィルムが帯電防止作用を有し、ディスプレイ表面に貼られた近赤外線遮蔽フィルムへの静電気による塵埃などの付着を抑えることができる。
【0018】
その上、主に(a)多官能(メタ)アクリレートの硬化物のもつ性質に基づいて、ハードコート層を設けていなくても近赤外線遮蔽フィルムの耐擦傷性及び鉛筆硬度を向上させることができる。加えて、(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体中のπ共役系導電性高分子とドーパントの質量比が1:1〜1:5に設定されていることから、良好な導電性を発現できるとともに、良好な耐熱性を発揮することができる。また、透明基材フィルムの他方面に近赤外線吸収粘着層が積層されていることで、モジュールから発せられる近赤外線によってリモートコントロールされる周辺機器の誤作動を防止できる。
【0019】
第2の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、前記π共役系導電性高分子がポリチオフェン類であることから、第1の発明の効果に加えて、より少ない含有量で良好な導電性を発現することができる。
【0020】
第3の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、前記ポリチオフェン類がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)であることから、第2の発明の効果に加えて、さらに少ない含有量で良好な導電性を発現することができる上に、材料を容易に入手することが可能である。
【0021】
第4の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、前記π共役系導電性高分子がポリピロール類又はポリアニリン類であることから、第1の発明の効果に加えて、より少ない含有量で良好な導電性を発現することができる。
【0022】
第5の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、前記ドーパントがポリアニオンであることから、第1から第4のいずれかの発明の効果に加えて、より少ない含有量で良好な導電性を発現することができる。
【0023】
第6の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸であることから第5の発明の効果に加えて、より少ない含有量で良好な導電性を発現できる上に、材料を容易に入手することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<透明基材フィルム>
本発明の近赤外線遮蔽フィルムに用いられる透明基材フィルムは、透明性を有している限り特に制限されないが、光の反射を抑えるため屈折率(n)が1.55〜1.70の範囲内のものが好ましい。そのような透明基材フィルムを形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET、n=1.65)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC、n=1.59)、ポリアリレート(PAR、n=1.60)及びポリエーテルスルフォン(PES、n=1.65)等が好ましい。これらのうちポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが成形の容易性の点で好ましい。
【0025】
透明基材フィルムの厚みは、好ましくは25〜400μm、さらに好ましくは50〜200μmである。なお、透明基材フィルムには、各種の添加剤が含まれていてもよい。そのような添加剤としては、例えば紫外線吸収剤、帯電防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、難燃剤等が挙げられる。また、透明基材フィルムと低屈折率層の密着性を高めるために、透明基材フィルムと低屈折率層の間に公知の干渉防止層を設けてもよい。なお、干渉防止層は、透明基材フィルムの製造時に公知の方法で透明基材フィルム表面に形成することができ、或いは予め干渉防止層が形成された透明基材フィルムの市販品を使用することもできる。
【0026】
<低屈折率層>
低屈折率層は、(a)多官能(メタ)アクリレート、(b)中空シリカ微粒子、及び(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体(導電性高分子、錯体)、を含有する低屈折率層用塗液の硬化物である。低屈折率層の厚みは、kλ/4とすることが光の干渉作用により表面反射が減少し、透過率が向上するため好ましい。ここで、λは光の波長400〜650nm、kは1又は3を表す。このように低屈折率層の厚みをkλ/4とすることで反射防止の効果をより高めることができる。この場合、kが1のときには、反射防止性能(視感度反射率)が向上し、kが3のときには耐擦傷性が向上する。
【0027】
低屈折率層の屈折率は1.20〜1.44であることが好ましい。屈折率が1.20未満の場合には、後述の中空シリカ微粒子含有量との関係で多官能(メタ)アクリレートの含有量が相対的に少なくなるため、低屈折率層は十分な塗膜強度を有することが難しくなる。一方、屈折率が1.44を超える場合には、十分な反射防止性能が得られない。
【0028】
〔多官能(メタ)アクリレート〕
(a)多官能(メタ)アクリレートは、紫外線や電子線のような活性エネルギー線を照射することにより硬化反応を生じる樹脂であり、その種類は特に制限されない。塗膜の強度や耐擦傷性を向上させるという観点から、単官能(メタ)アクリレートではなく、多官能(メタ)アクリレートが用いられる。ここで、単官能(メタ)アクリレートとは、分子内に1個のアクリロイル基(CH=CHCO−)又はメタクリロイル基(CH=C(CH)CO−)を有する樹脂を示し、多官能(メタ)アクリレートとは分子内に2個以上のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する樹脂を示す。
【0029】
この多官能(メタ)アクリレートは特に制限されず、公知の多官能(メタ)アクリレートを使用することができる。また、低屈折率層の屈折率をより低くするため、含フッ素多官能(メタ)アクリレートを使用することもできる。多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば2〜6官能のアクリレートが用いられる。具体的には、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、エステルアクリレート等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
〔中空シリカ微粒子〕
(b)中空シリカ微粒子は、シリカ(二酸化珪素、SiO)がほぼ球状に形成され、その外殻内に中空部を有する微粒子である。中空シリカ微粒子の平均粒子径は好ましくは10〜100nm、より好ましくは20〜60nmである。中空シリカ微粒子の平均粒子径が10nmより小さい場合、中空シリカ微粒子の製造が難しくなって好ましくない。一方、平均粒子径が100nmより大きい場合、低屈折率層における光の散乱が大きくなり、薄膜においては反射が大きくなり、反射防止機能が低下する。尚、本発明における平均粒子径とは、nanotracUPA−EX150〔日機装(株)製の粒度分布測定機〕を用いて動的光散乱理論/周波数マトリックス解析法(FFT法)により測定した値のことをいう。
【0031】
この中空シリカ微粒子は、有機溶剤に分散して使用する。該中空シリカ微粒子は、例えば特開2006−21938号公報に開示された、外殻内部に空洞を有する中空で球状のシリカ系微粒子の製造方法により合成することもできる。この方法に基づいて、後述する各実施例や比較例において変性中空シリカ微粒子(ゾル)が製造されている。また、中空シリカ微粒子の表面を、重合性二重結合を有するシランカップリング剤によって変性した変性中空シリカ微粒子を使用することもできる。
【0032】
〔π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体〕
(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体とは、π共役系導電性高分子をドーパントによりドーピングしたものを示す。その屈折率はおよそ1.5である。π共役系導電性高分子を単独で用いても導電性は発現されないが、ドーパントによりドーピングすることによって、π共役系導電性高分子上を自由に動くことが可能な電子が生じ、導電性が得られるようになる。
【0033】
π共役系導電性高分子は、分子構造中にπ共役構造(二重結合が単結合を隔てて隣接している構造)を有する高分子化合物である。ここでの高分子化合物とは、分子量が10,000以上の化合物のことを示す。π共役系導電性高分子としては、公知のものを使用することができる。このうち、導電性及び外部環境における安定性の点からポリチオフェン類、ポリピロール類又はポリアニリン類を用いるのが好ましく、特にポリチオフェン類を用いるのが好ましい。
【0034】
ポリチオフェン類の具体例としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)等が挙げられる。ポリピロール類の具体例としては、ポリ(3-ブチルピロール)やポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)等が挙げられる。ポリアニリン類の具体例としては、ポリ(2-メチルアニリン)や、ポリ(3-イソブチルアニリン)等が挙げられる。
【0035】
ドーパント(dopant)は、π共役系導電性高分子をドーピング(錯体形成)することにより、π共役系導電性高分子上を自由に動くことが可能な電子を生じさせ、π共役系導電性高分子に導電性を発現させる物質である。ドーパントは、公知のものを使用することができる。このうち、π共役系導電性高分子をドーピングした際の導電性をより高めることができるという点から、ポリアニオンをドーパントとすることが特に好ましい。
【0036】
ポリアニオンとは、分子内にアニオン性基を有する化合物である。ポリアニオンの具体例として、例えばポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリチエニルメチルスルホン酸などが挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。π共役系導電性高分子とドーパントの組み合わせは特に制限されないが、導電性及び材料の入手の容易性の点からポリチオフェン類とポリアニオンの組み合わせが好ましく、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸の組み合わせがより好ましい。
【0037】
π共役系導電性高分子とドーパントの質量比は1:1〜1:5であることが必要である。π共役系導電性高分子に対してドーパントの質量比が1:1よりも小さい場合には、π共役系導電性高分子が十分にドーピングされず、複合体の導電性が低下する。一方、π共役系導電性高分子に対してドーパントの質量比が1:5よりも大きい場合には、過剰に存在するドーパントの影響により、複合体の耐熱性が悪化する。π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体としては、公知の方法により合成したものを使用すればよい。また、π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体の水分散体を有機溶剤で置き換えて使用してもよい。
【0038】
低屈折率層用塗液における(a)多官能(メタ)アクリレート、(b)中空シリカ微粒子、(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体の各々の含有量は、(a)多官能(メタ)アクリレート100質量部あたり、(b)中空シリカ微粒子40〜250質量部(中空シリカ微粒子分散ゾル中の固形分換算値)、(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体1〜25質量部(固形分換算値)である。中空シリカ微粒子の含有量が40質量部よりも少ない場合には、低屈折率層の屈折率低減効果が低く近赤外線遮蔽フィルムの十分な反射防止性能が得られない。一方、250質量部よりも多い場合には、多官能(メタ)アクリレートの含有量が相対的に少なくなるので近赤外線遮蔽フィルムの耐擦傷性が低下する。
【0039】
また、π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体の含有量が1質量部よりも少ない場合には、近赤外線遮蔽フィルムの十分な帯電防止性能が得られず、25質量部よりも多い場合には、相対的に多官能(メタ)アクリレートの含有量が減少するため、近赤外線遮蔽フィルムの耐擦傷性が低下する。
【0040】
〔希釈溶剤〕
低屈折率層用塗液には任意の溶媒を用いることができる。溶媒として具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、メチルグリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が挙げられる。
【0041】
〔その他の成分〕
また、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分を低屈折率層用塗液に添加することができる。そのようなその他の成分としては、例えば重合体、重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤及びレベリング剤等の添加剤が挙げられる。
【0042】
<低屈折率層の形成方法>
透明基材フィルムの表面(一方面)に低屈折率層を形成する方法は特に制限されないが、低屈折率層用塗液をロールコート法、スピンコート法、コイルバー法、ディップコート法、ダイコート法等の塗布方法により透明基材フィルムの表面に塗布した後、紫外線や電子線を照射する方法等が挙げられる。このような方法により、低屈折率層用塗液が硬化して硬化物が得られ、低屈折率層が形成される。低屈折率層用塗液の塗布方法としては、ロールコート法等の低屈折率層を連続的に形成できる方法が生産性の点より好ましい。
【0043】
また、低屈折率層用塗液をロールコート法、スピンコート法、コイルバー法、ディップコート法、ダイコート法等の塗布方法により透明基材フィルム表面に塗布する前に、透明基材フィルム表面にコロナ放電処理等の前処理を施してもよい。
【0044】
<近赤外線吸収性粘着層>
近赤外線吸収粘着層は、近赤外線吸収機能と粘着機能を併せ持った機能層であり、透明基材に対して低屈折率層を積層した反対側の他方面に積層される。近赤外線吸収性粘着層は、(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物と(e)近赤外線吸収色素とを含む近赤外線吸収性粘着剤の硬化により形成される。近赤外線吸収性粘着層の膜厚は特に限定されるものではないが、15〜30μmが好ましく、20〜25μmがさらに好ましい。
【0045】
近赤外線吸収粘着層を透明基材フィルムの裏面(他方面)に設ける方法としては、近赤外線吸収性粘着剤をウェットコート法により塗布する方法であれば特に制限されず、例えばグラビアコート法、スピンコート法、ダイコート法等の従来公知の塗工方法を採用することができる。
【0046】
〔(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物〕
本発明における(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物は、例えばメチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とを重合した重合体等を用いることができる。(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物を形成する単量体は特に制限されず、従来公知の重合体を用いることができる。
【0047】
(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物の酸価は0〜20mgKOH/gであり、好ましくは0〜15mgKOH/gであり、より好ましくは0〜10mgKOH/gである。この酸価が20mgKOH/gより大きい場合には、(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物に近赤外線吸収色素を添加した際に近赤外線吸収色素の劣化が促進されるため好ましくない。
【0048】
(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物を形成する単量体は特に制限されず、例えばメチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とを重合した重合体を用いることができる。また、(メタ)アクリレートの他に、例えばエチレン、酢酸ビニル、スチレン等の不飽和二重結合を有するオレフィン系単量体、ビニル系単量体との共重合体も用いることができる。
【0049】
(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸のほか、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する単量体や、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボキシル基を有する単量体等のイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基と反応する官能基を有する単量体を含有させて形成されていても良い。これにより、該官能基を有する単量体が前記(メタ)アクリル酸と共重合して官能基を有する(メタ)アクリル系樹脂を得ることができ、この官能基がイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基と反応して架橋構造を形成し、近赤外線吸収性粘着層の機械的強度等を高めることができる。
【0050】
(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物に使用される架橋剤は特に限定されないが、例えばイソシアネート系架橋剤等が好適に用いられる。粘着樹脂組成物には、本発明の機能を損なわない限りにおいて、その他の添加剤が添加されていても良い。その他の添加剤としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられるが、これらに制限されない。また、その他の添加剤は従来公知の化合物を用いることができる。
【0051】
〔近赤外線吸収色素〕
本発明における(e)近赤外線吸収色素は、ジイモニウム系色素又はフタロシアニン系色素より選ばれる。これらの近赤外線吸収色素は光の波長800〜1100nmに極大吸収波長を有するため可視光線を不必要に吸収することがなく、PDP等に使用する上で十分な近赤外線吸収能を発揮することができる。
【0052】
これらのジイモニウム系色素又はフタロシアニン系色素より選ばれる近赤外線吸収色素は特に制限されず、従来公知の化合物又は市販品を用いることができる。このようなジイモニウム系色素としては、例えばCIR−1085、CIR−RL〔以上、日本カーリット(株)製のジイモニウム系色素の商品名〕、IRG−022、IRG−067〔以上、日本化薬(株)製のジイモニウム系色素の商品名〕等、フタロシアニン系色素としては、例えばイーエクスカラーIR−10A、イーエクスカラーIR−12、イーエクスカラーIR−14、TX−EX−820、TX−EX−906B、TX−EX−910B、TX−EX−915〔以上、(株)日本触媒製のフタロシアニン系色素の商品名〕等がそれぞれ挙げられる。
【0053】
近赤外線吸収色素の含有量は、(d)(メタ)アクリル系樹脂組成物100質量部に対して0.5〜3.0質量部が好ましい。該近赤外線吸収色素の含有量が0.5〜3.0質量部であれば実用上近赤外線吸収能と可視光線の透過率が十分な近赤外線吸収粘着層を得ることができる。近赤外線吸収色素の含有量が0.5質量部より少ない場合、近赤外線吸収能を十分に発揮することができず、可視光線の透過率も低下する傾向を示す。一方、その含有量が3.0質量部より多い場合、近赤外線吸収粘着層の粘着性能が低下するなどの傾向を示す。
【0054】
近赤外線吸収色素は有機溶剤に溶解させて用いるが、耐久性能を高めるために微粒子分散状態で用いても良い。この場合、平均粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子分散状態で存在することが好ましく、平均粒子径が0.005〜0.03μmの微粒子分散状態で存在することがさらに好ましい。平均粒子径が0.1μmを超えると光の散乱により白ボケを生ずるため不適当であり、平均粒子径が0.001μm未満であると溶解により耐久性能を十分に発現することができないという弊害がある。
【0055】
近赤外線吸収色素の分散方法は特に限定されず、従来公知の分散方法を用いることができる。例えば、有機溶剤にジイモニウム塩化合物を少量ずつ撹拌しながら添加してゆき、ガラスビーズを加えてペイントシェイカーで物理的に粉砕する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0056】
〔色補正色素〕
また、近赤外線吸収粘着層には、光の波長380〜780nm(可視光線の波長域)の領域に極大吸収波長を有する色補正色素を含有させることができる。この色補正色素を含むことにより、近赤外線吸収粘着層をPDP等に使用した際に色再現性を向上させることができる。光の波長380〜780nmの領域に極大吸収波長を有する色補正色素は特に制限されず、例えばアザポルフィリン系化合物、シアニン系化合物、その他スクアリリウム系化合物、アゾメチン系化合物、ポリメチン系化合物、キサンテン系化合物、ピロメテン系化合物、イソインドリノン系化合物、キナクリドン系化合物、ジケトピロロピロール系化合物、アントラキノン系化合物、ジオキサジン系化合物等、従来公知の化合物を用いることができる。中でも、耐久性能の良好なアザポルフィリン系化合物が好ましい。アザポルフィリン系化合物の中では、吸収特性の良好なテトラアザポルフィリン系化合物が好ましく、市販品としては、例えばTAP‐2、TAP‐18(山田化学工業(株)製テトラアザポリフィリン化合物)、PD‐320、PD‐321(山本化成(株)製テトラアザポリフィリン化合物)等が用いられる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、各例における部は質量部を示し、%は質量%を表す。
【0058】
〔低屈折率層用塗液の調製〕
(a)多官能(メタ)アクリレートとして、以下の市販品を用いた。なお、後述の表1〜5には、(a)多官能(メタ)アクリレートの種類を市販品名で表示している。
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製、商品名:DPHA、6官能アクリレート)
UV7600B:日本合成化学工業(株)製、商品名:紫光UV7600B、6官能ウレタンアクリレート
PE−3A:ペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートPE−3A、3官能アクリレート)
OD2H2A:1,10-ジアクリロイルオキシ-2,9-ジヒドロキシ-4,4,5,5,6,6,7,7,-オクタフルオロデカン(2官能アクリレート)
【0059】
(b)中空シリカ微粒子としては、平均粒子径60nm、屈折率1.25、空隙率40〜45%、比表面積130m/g、熱質量測定法(TG)による質量減少割合が3.6%の変性中空シリカ微粒子が分散されたオルガノゾル(変性中空シリカ微粒子分散ゾル)として用いた。なお、(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体の組成は、後述の表1〜5に示す。当該表1〜5において、(b)中空シリカ微粒子及び(c)複合体の配合割合は、固形分換算値である。
【0060】
(低屈折率層用塗液(L−1〜L−14)の調製)
表1に示す配合割合の上記低屈折率層用組成物(a)、(b)、(c)と、光重合開始剤〔チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名:イルガキュア907〕12.5部と、イソプロピルアルコール4000部とを混合して、低屈折率層用塗液(L−1〜L−14)を調製した。
【0061】
(低屈折率層用塗液(L−15〜L−18)の調製)
低屈折率層用の組成物(a)、(b)、(c)を表2で示した通りとした以外は、低屈折率層用塗液(L−1〜L−14)の調製と同様にして低屈折率層用塗液(L−15〜L−18)を調製した。
【0062】
(低屈折率層用塗液(L−19〜L−23)の調製)
低屈折率層用の組成物(a)、(b)、(c)を表3で示した通りとした以外は、低屈折率層用塗液(L−1〜L−14)の調製と同様にして低屈折率層用塗液(L−19〜L−23)を調製した。
【0063】
(低屈折率層用塗液(L−24〜L−28)の調製)
低屈折率層用の組成物(a)、(b)、(c)を表4で示した通りとした以外は、低屈折率層用塗液(L−1〜L−14)の調製と同様にして低屈折率層用塗液(L−24〜L−28)を調製した。
【0064】
(低屈折率層用塗液(L−29〜L−35)の調製)
低屈折率層用の組成物(a)、(b)、(c)を表5で示した通りとした以外は、低屈折率層用塗液(L−1〜L−14)の調製と同様にして低屈折率層用塗液(L−29〜L−35)を調製した。
【0065】
(近赤外線吸収性粘着剤B−1の調製)
n‐ブチルアクリレート(nBA)94.6質量部、アクリル酸(AA)4.4質量部、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)1質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.4質量部、酢酸エチル90質量部、トルエン60質量部を混合し、窒素雰囲気下で混合物を65℃に加温して10時間重合反応を行い、アクリル樹脂組成物(酸価9mgKOH/g)を調製した。このアクリル樹脂組成物にコロネートL〔日本ポリウレタン(株)製ポリイソシアネート〕1質量部、および固形分濃度が20質量%となるように酢酸エチルを加えることにより、(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物の固形分濃度20質量%溶液a−1を得た。次に、ガラス容器に、(e)近赤外線吸収色素としてジイモニウム系色素であるビス[ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸]‐N,N,N’,N’‐テトラキス[p‐ジ(イソプロピルオキシエチル)アミノフェニル]‐p‐フェニレンジアミン0.2質量部、トルエン3.8質量部、および粒径0.8mmのガラスビーズをそれぞれ加えてペイントシェイカーで3時間撹拌振とうした後、ガラスビーズを濾別して、ジイモニウム系色素の微粒子分散液b−1(固形分濃度5質量%、平均粒子径0.015μm)を得た。なお、近赤外線吸収色素の平均粒子径は、nanotracUPA‐EX150(日機装(株)製粒度分布測定機)を用いて動的光散乱理論/周波数マトリックス解析法(FFT法)により測定した。続いて、500質量部の(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物の固形分濃度20質量%溶液a−1に、上記微粒子分散液b−1を26質量部(固形分換算1.3質量部)加えて撹拌混合することにより、近赤外線吸収性粘着剤B−1を得た。
【0066】
(近赤外線吸収性粘着剤B−2の調製)
n‐ブチルアクリレート(nBA)95.4質量部、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)4.6質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部、酢酸エチル90質量部、トルエン60質量部を混合し、窒素雰囲気下で混合物を65℃に加温して14時間重合反応を行い、アクリル樹脂組成物(酸価0mgKOH/g)を調製した。このアクリル樹脂組成物にBHS8515〔東洋インキ製造(株)製ポリイソシアネート〕1質量部、および固形分濃度が20質量%となるように酢酸エチルを加えることにより、(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物の固形分濃度20質量%溶液a−2を得た。次に、ガラス容器に(e)近赤外線吸収色素としてジイモニウム系色素であるビス(ヘキサフルオロアンチモン酸)‐N,N,N’,N’‐テトラキス[p‐ジ(シクロヘキシルエチル)アミノフェニル]‐p‐フェニレンジアミン0.2質量部、トルエン3.8質量部、および粒径0.8mmのガラスビーズをそれぞれ加えてペイントシェイカーで4時間撹拌振とうした後、ガラスビーズを濾別して、ジイモニウム系色素の微粒子分散液b−2(固形分濃度5質量%、平均粒子径0.010μm)を得た。続いて、500質量部の(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物の固形分濃度20質量%溶液a−2に、上記微粒子分散液b−2を26質量部(固形分換算1.3質量部)、色補正色素として、PD‐320〔山本化成(株)製テトラアザポルフィリン化合物〕0.11質量部を加えて撹拌混合することにより、近赤外線吸収性粘着剤B−2を得た。
【0067】
(近赤外線吸収性粘着剤B−3の調製)
上記(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物の固形分濃度20質量%溶液a−1(500質量部)に、(e)赤外線吸収色素としてIR−14〔(株)日本触媒製フタロシアニン化合物〕0.3質量部、TXEX820〔(株)日本触媒製フタロシアニン化合物〕0.55質量部、及びTXEX915〔(株)日本触媒製フタロシアニン化合物〕0.58質量部と、色補正色素としてTAP‐2〔山田化学工業(株)製テトラアザポルフィリン化合物〕0.12質量部を加えて撹拌混合することにより、近赤外線吸収性粘着剤B−3を得た。
【0068】
(実施例1−1)
厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製の透明基材フィルム〔東洋紡績(株)製、商品名:A4300〕上に低屈折率層用塗液L−1を、硬化後の光学膜厚がkλ/4(k:1、λ:550nm)になるようにグラビアコート法で塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの紫外線を照射して硬化させた。続いて、近赤外線吸収性粘着剤B−1をPET製のセパレートフィルム上に乾燥後の厚みが25μmとなるようにオートアプリケーターを用いて塗布し、90℃で2分間乾燥後、透明基材ルフィルムの低屈折率層を形成した面とは反対の他方面に貼合して30℃で5日間保存することにより、実施例1−1の近赤外線遮蔽フィルムを得た。当該実施例1−1の近赤外線遮蔽フィルムの850nm透過率は12%、950nm透過率は5%であった。
【0069】
得られた実施例1−1の近赤外線遮蔽フィルムについて、視感度反射率、表面抵抗率、表面硬度、耐熱性、耐擦傷性、近赤外線吸収能の評価を以下に記載する方法で行い、それらの評価結果を表1に示す。
(1)視感度反射率
測定面の裏面反射を除くため、裏面をサンドペーパーで粗し、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計〔日本分光(株)製、商品名:U−best560〕により、光の波長380nm〜780nmの5°、−5°正反射スペクトルを測定した。得られる380nm〜780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JIS Z8701で想定されているXYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値Yを視感度反射率(%)とした。
(2)表面抵抗率
デジタル絶縁計〔東亜DKK(株)製、商品名:SM−8220〕を用いて、反射防止フィルムの表面抵抗率(Ω/□)を測定した。なお、表1〜表3において、「RANGE OVER」は表面抵抗率が測定限界を超えるほど高くなったことを意味する。
(3)耐熱性
反射防止フィルムを80℃に設定された恒温槽の中に放置し、1000時間後に恒温槽から取り出して表面抵抗率を測定した。恒温槽に入れる前に測定した表面抵抗率と比較して、表面抵抗率の上昇が2桁以内に抑えられていれば○、表面抵抗率が3桁以上上昇した場合には×とした。
(4)耐擦傷性
(株)本光製作所製消しゴム摩耗試験機の先端に、#0000のスチールウールを固定し、2.5N(250gf)及び1N(100gf)の荷重をかけて、反射防止フィルム表面上を10回往復摩擦した後の表面の傷を目視で観察し、以下のA〜Eの6段階で評価した。
A:傷なし、A':傷1〜3本、B:傷4〜10本、C:傷11〜20本、D:傷21〜30本、E:31本以上
(5)近赤外線吸収能
UV‐1600PC((株)島津製作所製分光光度計の製品名)を用いて測定した。波長850nm、及び950nmにおける近赤外線透過率がいずれも15%未満であれば○、15%以上であれば×とした。
【0070】
(実施例1−2〜実施例1−14)
実施例1−1において、低屈折率層用塗液(L−1)の代わりに、低屈折率層用塗液(L−2〜L−14)を用い、近赤外線吸収粘着剤として(B−1〜B−3)を用いた以外は実施例1−1と同様にして、実施例1−2〜実施例1−14の近赤外線遮蔽フィルムを得た。得られた各近赤外線遮蔽フィルムについて、視感度反射率、表面抵抗率、耐熱性、耐擦傷性、近赤外線吸収能の評価を実施例1−1と同様の方法で行った結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示したように、実施例1−1〜実施例1−14では、単層構成で十分な反射防止性能を有し、帯電防止性能にも優れ、かつ耐熱性及び耐擦傷性も良好な近赤外線遮蔽フィルムを得ることができた。
【0073】
(実施例2−1〜実施例2−4)
実施例1−1において、低屈折率層用塗液(L−1)の代わりに、低屈折率層用塗液(L−15〜L−18)を用い、近赤外線吸収粘着剤として(B−1〜B−3)を用いた以外は実施例1−1と同様にして、実施例2−1〜実施例2−4の近赤外線遮蔽フィルムを得た。得られた各近赤外線遮蔽フィルムについて、視感度反射率、表面抵抗率、耐熱性、耐擦傷性、近赤外線吸収能の評価を実施例1−1と同様の方法で行った結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示したように、実施例2−1〜実施例2−4では、単層構成で良好な反射防止性能を有し、帯電防止性能が良く、かつ耐熱性及び耐擦傷性も良好な近赤外線遮蔽フィルムを得ることができた。
【0076】
(実施例3−1〜実施例3−5)
実施例1−1において、低屈折率層用塗液(L−1)の代わりに、低屈折率層用塗液(L−19〜L−23)を用い、近赤外線吸収粘着剤として(B−1〜B−3)を用いた以外は実施例1−1と同様にして、実施例3−1〜実施例3−5の近赤外線遮蔽フィルムを得た。得られた各近赤外線遮蔽フィルムについて、視感度反射率、表面抵抗率、耐熱性、耐擦傷性、近赤外線吸収能の評価を実施例1−1と同様の方法で行った結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
表3に示したように、実施例3−1〜実施例3−5では、単層構成で良好な反射防止性能を有し、帯電防止性能が良好で、かつ耐熱性及び耐擦傷性も良好な近赤外線遮蔽フィルムを得ることができた。
【0079】
(実施例4−1〜実施例4−5)
実施例1−1において、低屈折率層用塗液(L−1)の代わりに、低屈折率層用塗液(L−24〜L−28)を用い、近赤外線吸収粘着剤として(B−1〜B−3)を用いた以外は実施例1−1と同様にして、実施例4−1〜実施例4−5の近赤外線遮蔽フィルムを得た。得られた各近赤外線遮蔽フィルムについて、視感度反射率、表面抵抗率、耐熱性、耐擦傷性、近赤外線吸収能の評価を実施例1−1と同様の方法で行った結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
表4に示したように、実施例4−1〜実施例4−5では、単層構成で良好な反射防止性能を有し、帯電防止性能が良く、かつ耐熱性及び耐擦傷性も良好な近赤外線フィルムを得ることができた。
【0082】
(比較例1−1〜比較例1−6)
実施例1−1において、低屈折率層用塗液(L−1)の代わりに、低屈折率層用塗液(L−29〜L−34)を用い、近赤外線吸収粘着剤として(B−1〜B−3)を用いた以外は実施例1−1と同様にして、比較例1−1〜比較例1−6の近赤外線遮蔽フィルムを得た。得られた各近赤外線遮蔽フィルムについて、視感度反射率、表面抵抗率、耐熱性、耐擦傷性、近赤外線吸収能の評価を実施例1−1と同様の方法で行った結果を表5に示す。
【0083】
(比較例1−7)
厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム〔東洋紡績(株)製、商品名:A4300〕の上に低屈折率層用塗液(L−35)を、硬化後の光学膜厚がkλ/4(k:1、λ:550nm)になるようにグラビアコート法で塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの紫外線を照射して硬化させた。得られた比較例1−7の近赤外線遮蔽フィルムについて、視感度反射率、表面抵抗率、耐熱性、耐擦傷性、近赤外線吸収能の評価を実施例1−1と同様の方法で行った結果を表5に示す。
【0084】
【表5】

【0085】
表5に示したように、比較例1−1では、π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体を有していないことから、帯電防止性能が発現されないという結果に到った。また、比較例1−2では、π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体の含有量が多いため、相対的に多官能(メタ)アクリレートの含有量が減少し、耐擦傷性が悪化するという結果であった。比較例1−3では、中空シリカ微粒子の含有量が過少であるため、硬化膜の屈折率が十分に低下せず、視感度反射率が高くなって反射防止性能が劣るという結果を招いた。
【0086】
また、比較例1−4では、中空シリカ微粒子の含有量が過剰であるため、相対的に多官能(メタ)アクリレートの含有量が減少し、耐擦傷性が悪化するという結果に到った。比較例1−5では、π共役系導電性高分子に対してドーパントの量が過少であるため、π共役系導電性高分子が十分にドーピングされず、導電性が低くなり、帯電防止性が低下した。比較例1−6では、π共役系導電性高分子に対してドーパントの量が多過ぎるため、過剰に存在するドーパントの影響により、耐熱性が悪化した。さらに、比較例1−7では、近赤外線吸収性粘着層がないため、近赤外線吸収能が悪い結果となった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの一方面に低屈折率層が直接積層されており、前記透明基材フィルムの他方面に近赤外線吸収粘着層が積層されている近赤外線遮蔽フィルムであって、
前記低屈折率層は、(a)多官能(メタ)アクリレートと、(b)中空シリカ微粒子と、(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体と、を含有し、
前記(a)多官能(メタ)アクリレート100質量部あたり、前記(b)中空シリカ微粒子40〜250質量部、前記(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体1〜25質量部を含むとともに、
前記(c)π共役系導電性高分子とドーパントからなる複合体中の、π共役系導電性高分子とドーパントの質量比が1:1〜1:5であり、
前記近赤外線吸収層は、(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物と、(e)近赤外線吸収色素とを含み、
前記(d)(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物は、酸価が0〜20mgKOH/gの(メタ)アクリル系樹脂を含み、
前記(e)近赤外線吸収色素は、ジイモニウム系色素又はフタロシアニン系色素である近赤外線遮蔽フィルム。
【請求項2】
前記π共役系導電性高分子がポリチオフェン類であることを特徴とする、請求項1に記載の近赤外線遮蔽フィルム。
【請求項3】
前記ポリチオフェン類がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)であることを特徴とする、請求項2に記載の近赤外線遮蔽フィルム。
【請求項4】
前記π共役系導電性高分子がポリピロール類又はポリアニリン類であることを特徴とする、請求項1に記載の近赤外線遮蔽フィルム。
【請求項5】
前記ドーパントがポリアニオンであることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽フィルム。
【請求項6】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸であることを特徴とする、請求項5に記載の近赤外線遮蔽フィルム。



【公開番号】特開2012−220658(P2012−220658A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85183(P2011−85183)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】