説明

逓倍型の水晶発振器

【目的】特に出力周波数としての逓倍周波数のズレ及びバラツキを防止し、さらにはスプリアスを抑制した逓倍型発振器を提供する。
【構成】アース用金属膜を両主面に有する中間基板の両側に実装基板を積層してなる多層基板と、前記多層基板の一主面に少なくとも逓倍用のLCフィルタを配置してなる逓倍型の水晶発振器において、前記LCフィルタの配置領域と対向する前記中間基板の一主面に設けられた前記アース用金属膜には、開口部が設けられて生地が露出した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はLCフィルタを用いた逓倍型の水晶発振器(以下、逓倍型発振器とする)を技術分野とし、特に積層基板に回路素子を配置した逓倍型発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)水晶発振器は周波数及び時間の基準源として各種電子機器に組み込まれ、光通信等の台頭により例えば622MHzとした高周波化が進行している。このようなものの一つに、水晶発振器の発振周波数の高調波をLCフィルタによって選択した逓倍型発振器がある。
【0003】
(従来技術の一例)第4図は一従来例を説明する図で、同図(a)は逓倍型発振器の概略回路図、同図(b)は同構造断面図である。
【0004】
逓倍型発振器は基本的に発振回路1と逓倍回路2とからなる。発振回路1は例えばコルピッツ型からなり、共振回路3と発振用増幅器4からなる。共振回路3はインダクタ成分とした水晶振動子5と分割コンデンサC1、C2からなる。発振用増幅器4は例えばトランジスタからなり、共振回路3に接続して発振周波数f0を帰還増幅する。
【0005】
発振周波数f0は共振回路3に概ね依存し、厳格には水晶振動子5から見た回路側の直列容量(所謂負荷容量CL)によって決定される。ここでは、発振周波数f0を155MHzとする。このような発振回路1では、図示しない周波数スペクトラムに示されるように、発振周波数f0の基本波成分f1(f0=f1)に対して高調波成分f2、f3・・fnを生ずる。
【0006】
逓倍回路2は発振用増幅器4のコレクタ側に接続し、LCフィルタ6を多段接続する。LCフィルタはいずれもチップ状としたインダクタLとコンデンサCからなる。但し、最終段のLCフィルタ6Cは分割コンデンサC1、C2とする。ここでは、3個のLCフィルタ6(abc)を多段接続し、フィルタ特性の減衰傾度を急峻とする。
【0007】
各LCフィルタ6(abc)は発振周波数f0の高調波成分fnのうち、例えば4倍波f4に同調する値(622MHz)に設定される。各LCフィルタ6(abc)は結合コンデンサC3によって高周波的に接続する。そして、最終段の分割コンデンサC1、C2の間から分圧された出力周波数(逓倍周波数)f0′を得る。なお、図中の符号R1、R2、R3はバイアス抵抗、C3はバイパスコンデンサ、Vccは電源、Voutは出力である。
【0008】
そして、通常では、LCフィルタ6を含むチップ状の各回路素子7は多層基板8の両主面に設けられる「第4図(b)」。多層基板8はそれぞれがガラスエポキシ材からなり、中間基板8aの両側に実装基板8(bc)を積層してなる。中間基板8aの両主面にはアース用金属膜9(ab)が形成され、多層基板8の両主面間での電気的結合を防止する。アース用金属膜9(ab)は、中間基板8aの一主面のみでは反りを生ずるために両主面に形成される。
【特許文献1】特開平2002−57527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(従来技術の問題点)しかしながら、上記構成の逓倍型発振器では、出力周波数(逓倍周波数)f0′が特に低域側にズレるとともに、バラツキを生ずる問題があった。すなわち、中間基板8aにはアース用金属膜9が形成される。なお、アース用金属膜9と電源Vccとは高周波的に同電位になる(これにより、各フィルタ6a、6b、6cは多段接続となる)。このため、第5図(拡大断面図)に示したように各LCフィルタ6との間に浮遊容量Caを生じ、特にLCフィルタ6と並列接続してコンデンサCの容量値に加算される。
【0010】
浮遊容量CaはLCフィルタを構成するチップ状としたインダクタ及びコンデンサの実装端子10及び両者を接続する図示しない回路パターン(導電路)さらには接続端からの導電路とアース用金属膜9等との間に生じる。この中でも、インダクタ及びコンデンサの表面実装端子の面積が大きいので、これによる浮遊容量が最も大きい。なお、図では一段目のLCフィルタ6のみに浮遊容量Caを記入している。
【0011】
このことから、LCフィルタ6の同調周波数を低下させて、逓倍周波数f0′が低域側にズレる問題があった。また、浮遊容量Caは構造や湿気等の環境に依存して変化することから、出力としての逓倍周波数f0′にもバラツキを生ずる問題があった。
【0012】
また、多段接続されたLCフィルタ6(abc)の入出力端XY間には浮遊容量Cbが付加される「前第3図」。したがって、本来であれば、第6図の曲線(イ)で示す減衰飽和するフィルタ特性に対して、浮遊容量Cbによって高域側に減衰極Pを生じてそれ以降では減衰量が低下する特性になる「同図(ロ)」。このことから、高域側での雑音が抑制されず、スプリアスが発生する問題もあった。
【0013】
(発明の目的)本発明は、特に出力周波数としての逓倍周波数のズレ及びバラツキを防止し、さらにはスプリアスを抑制した逓倍型発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、特許請求の範囲(請求項1)に示したように、アース用金属膜を両主面に有する中間基板の両側に実装基板を積層してなる多層基板と、前記多層基板の一主面に少なくとも逓倍用のLCフィルタを配置してなる逓倍型の水晶発振器において、前記LCフィルタの配置領域と対向する前記中間基板の一主面に設けられた前記アース用金属膜には、開口部が設けられて生地が露出した構成とする。
【発明の効果】
【0015】
このような構成であれば、LCフィルタの配置領域と対向する中間基板の一主面のアース用金属膜には生地を露出した開口部を有する。これにより、LCフィルタの配置領域と対向するアース用金属膜は中間基板の他主面になり、両者間の距離を大きくして浮遊容量を小さくする。したがって、LCフィルタの同調周波数の低域側への変化を軽減し、出力としての逓倍周波数のズレ及びバラツキを小さくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の請求項2に示したように、請求項1の前記開口部は前記LCフィルタの各チップ素子を接続する回路パターンを含めた外周を囲む領域とする。これにより、コンデンサとインダクタを接続する回路パターンを含めたLCフィルタとアース用金属膜との間に発生する浮遊容量を小さくする。
【0017】
同請求項3では、請求項1の前記開口部は前記LCフィルタを構成する各チップ素子の外周を囲む領域とする。これにより、LCフィルタを構成する各チップ素子との間に発生する浮遊容量を小さくする。この場合、中間基板の一主面の開口部を小さくするので、アース用金属膜の除去される面積も小さくして両主面間での対称性を良好にして反り等を防止する。
【0018】
同請求項4では請求項1の前記開口部は前記LCフィルタを構成する各チップ素子の表面実装端子の外周を囲む領域とする。これにより、特に電極面積の大きい各チップ素子の実装端子との間に発生する浮遊容量を小さくする。この場合、
さらに、両主面間でのアース用金属膜の対称性を良好にして反り等を防止する。
【0019】
請求項5では、請求項1の前記LCフィルタは複数個が多段接続されて、前記複数個のLCフィルタの配置領域と対向する前記中間基板の一主面に設けられた前記アース用金属膜には、開口部が設けられて生地が露出した構成とする。これにより、多段接続されたフィルタ特性の減衰傾度を高める。そして、前述同様に逓倍周波数のズレ及び変化を防止する。
【0020】
さらに、多段接続されたLCフィルタの出力と高周波的にアース接地となる電源との間に接続する浮遊容量を小さくする。したがって、減衰極の発生を防止して帯域外での補償減衰量を確保し、スプリアスの発生を抑制する。
【実施例】
【0021】
第1図は本発明の一実施例を説明する逓倍型発振器の構造図で、同図(a)は一部断面図、同図(bc)は一部平面図である。なお、前従来例と同一部分には同番号を付与してその説明は簡略又は省略する。
【0022】
逓倍型発振器は前述したように水晶振動子5をインダクタ成分とした共振回路3及び発振用増幅器4を有する発振回路1と、多段接続のLCフィルタ6(abc)を有する逓倍回路2とからなる。そして、中間基板8aの両主面にアース用金属膜9を有し、両側に実装基板8bを積層してなる多層基板8にLCフィルタ6(abc)を含む各回路素子7を配置してなる「前第3図参照」。
【0023】
各LCフィルタは6(abc)は積層基板8(一方の実装基板8b)の一主面に配置される。そして、一方の実装基板8bと対向する中間基板8aの一主面に設けられたアース用金属膜9aには、各LCフィルタ6(abc)毎の配置領域に対向して開口部11が設けられる。開口部11(abc)は生地が露出して無金属膜とする。
【0024】
ここでの各開口部11(abc)換言すると各LCフィルタ6(abc)の配置領域は、それぞれ各LCフィルタを構成するチップ状としたインダクタL及びコンデンサCを接続する回路パターン(符号なしの黒色部)を含めた外周を囲む領域とする。
【0025】
なお、第1図(ab)は一段目と二段目のLCフィルタ6(ab)に対向して、同図(c)は三段目のLCフィルタ6cに対応した平面図である。これらの図で一方の実装基板8bは実質的に省略されている。
【0026】
このような構成であれば、各LCフィルタ6(abc)は、中間基板8aの他主面のアース用金属膜9とは対向する。したがって、アース用金属膜9との距離を大きくするので、各LCフィルタ6(abc)に並列接続する浮遊容量Ca′は従来(Ca)よりも小さくなる。
【0027】
これにより、浮遊容量Ca′の影響を小さくして、各LCフィルタ(abc)での同調周波数の低域側への変化を防止する。したがって、出力周波数としての逓倍周波数f0′の低域側へのズレを防止する。また、浮遊容量Caを小さくするので、その変化も小さく逓倍周波数f0のバラツキをも防止する。
【0028】
そして、最終段のLCフィルタ6cのインダクタLと分割コンデンサC1、C2との出力端側となる接続端とアース用金属膜9bとの間の浮遊容量Cbも小さくなる。したがって、減衰極Pの発生を防止して帯域外の減衰量を大きくしてスプリアスの発生を抑制する。
【0029】
(他の事項)上記実施例では各LCフィルタ6(abc)の配置領域ごとに開口部を設けたが、例えば第2図に示したように、LCフィルタ6(abc)を接続する回路パターンを含めた配置領域に開口部11を設けてもよい「特に請求項5に相当する」。この場合、LCフィルタ6(abc)を接続する回路パターンによる浮遊容量も小さくするので、さらに逓倍周波数f0′のズレ等の効果を高める。
【0030】
また、第3図に示したように、各フィルタ6(abc)を構成するインダクタ及びコンデンサ毎に開口部11を設けてもよい「請求項3に相当」。さらに、各チップ素子の表面実装端子の外周を囲む領域ごとに開口部11を設けてもよい「不図示、請求項4に相当」。これらの場合でも同様の効果を奏する。
【0031】
また、LCフィルタ6は3個を多段接続したが、2個又は4個以上でも同様の効果を奏する。さらには、LCフィルタ6は1個でも逓倍周波数のズレ及び変化を防止できて有効である。また、単に逓倍型として説明したが、例えば逓倍型とした電圧制御発振器でも同様であり、発振用増幅器はカスケード接続等としてもよく、特に制約を受けることはない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例を説明する逓倍型発振器の構造図で、同図(a)は一部断面図、同図(bc)は一部平面図である。
【図2】本発明の他の実施例を説明する逓倍型発振器の一部平面図である。
【図3】本発明のさらに他の実施例を説明する逓倍型発振器の一部断面図である。
【図4】従来例を説明する逓倍型発振器の図で、同図(a)は概略回路図、同図(b)は断面図である。
【図5】従来例を説明する逓倍型発振器の一部断面図である。
【図6】従来例を説明するフィルタ特性図である。
【符号の説明】
【0033】
1 発振回路、2 逓倍回路、3 共振回路、4 発振用増幅器、5 水晶振動子、6 LCフィルタ、7 回路素子、8 多層基板、9 アース用金属膜、10 実装端子、11 開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アース用金属膜を両主面に有する中間基板の両側に実装基板を積層してなる多層基板と、前記多層基板の一主面に少なくとも逓倍用のLCフィルタを配置してなる逓倍型の水晶発振器において、前記LCフィルタの配置領域と対向する前記中間基板の一主面に設けられた前記アース用金属膜には、開口部が設けられて生地が露出したことを特徴とする逓倍型の水晶発振器。
【請求項2】
請求項1において、前記開口部は前記LCフィルタの各チップ素子を接続する回路パターンを含めた外周を囲む領域である逓倍型の水晶発振器。
【請求項3】
請求項1において、前記開口部は前記LCフィルタを構成する各チップ素子の外周を囲む領域である逓倍型の水晶発振器。
【請求項4】
請求項1において、前記開口部は前記LCフィルタを構成する各チップ素子の表面実装端子の外周を囲む領域である逓倍型の水晶発振器。
【請求項5】
請求項1において、前記LCフィルタは複数個が多段接続されて、前記複数個のLCフィルタの配置領域と対向する前記中間基板の一主面に設けられた前記アース用金属膜には、開口部が設けられて生地が露出したことを特徴とする逓倍型の水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−33349(P2006−33349A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208552(P2004−208552)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】