説明

連続鋳造装置、連続鋳造方法及び鋳塊

【課題】酸化物等の介在物や不純物元素が鋳塊内に混入することなく高品質な鋳塊が得られるとともに、引き抜き速度を上昇させて生産効率を大幅に向上させることが可能な連続鋳造方法、連続鋳造装置及びこれにより得られる鋳塊を提供する。
【解決手段】溶湯1を一方向凝固させて得られた鋳塊2を連続的に製出する連続鋳造装置10であって、溶湯1を保持する溶湯保持部20と、水平方向一方側端部が溶湯保持部20の下方に位置させられた鋳型30と、を備え、鋳型30は、水平方向他方側に向かうにしたがい漸次下方に向かうように水平面に対して傾斜して延在する底面部31を有し、底面部31に冷却手段35が設けられており、溶湯保持部20から供給された溶湯1を冷却手段35によって一方向凝固させ、得られた鋳塊2を鋳型30の底面部31に沿って連続的に引き抜くことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコンなどの溶湯を一方向凝固させて得られた鋳塊を連続的に製出するための連続鋳造装置、連続鋳造方法及びこれにより得られる鋳塊に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用素材として用いられるシリコンは、凝固時に膨張する金属であるため、鋳造を行う場合、溶湯が鋳塊の内部に残存しないように一方向凝固させることが求められる。
また、一方向凝固することにより、不純物元素が固相(鋳塊)から液相(溶湯)に排出されるため、純度の高い鋳塊を得ることが可能となる。
【0003】
従来、シリコンを一方向凝固させる鋳造装置としては、例えば特許文献1に開示されているように、筒状をなす鋳型の上方開口部から溶湯を供給して鋳型の側壁から冷却を行うとともに、鋳型の下方開口部から鋳塊を下方に向けて引き抜くものが提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載された鋳造装置では、下方から上方に向けて結晶を成長させるとともに得られた鋳塊を下方に向けて引き抜いているので、結晶の成長速度が律速となって、引き抜き速度を上昇させて生産効率を向上させることが困難であった。
【0004】
そこで、特許文献2には、一方向凝固されたシリコンの鋳塊を効率的に生産するために、溶湯が保持される凝固槽の側壁を開放し、凝固したシリコンを開放した側壁を通って水平方向に対して斜め上方向に引き抜くシリコンの鋳造方法が開示されている。
特許文献2に記載されたシリコンの鋳造方法では、結晶の成長方向と鋳塊の引き抜き方向が異なるので、結晶の成長速度が阻害とならず、引き抜き速度を上昇させることが可能となる。
【特許文献1】特開平08−310898号公報
【特許文献2】特開平10−182286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2に記載された鋳造方法では、凝固槽の側壁を開放して、この開放した部分から鋳塊を斜め上方向に引き抜くことで、凝固槽の側壁と鋳塊とによって溶湯を保持する構成とされている。これにより、鋳塊と溶湯との凝固界面が水平方向に対して傾斜することになる。
すると、溶湯中に浮遊する酸化物等の介在物が凝固界面に捕捉されて鋳塊内に取り込まれやすくなり、鋳塊の品質が著しく低下してしまうおそれがあった。また、シリコン中の不純物元素は、固相(鋳塊)から液相(溶湯)へと排出されることになるが、凝固界面が水平面に対して傾斜しているので、この不純物元素の濃度が鋳塊の厚さ方向で変動するおそれがあった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、酸化物等の介在物や不純物元素が鋳塊内に混入することなく高品質な鋳塊が得られるとともに、引き抜き速度を上昇させて生産効率を大幅に向上させることが可能な連続鋳造方法、連続鋳造装置及びこれにより得られる鋳塊を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明に係る連続鋳造装置は、溶湯を一方向凝固させて得られた鋳塊を連続的に製出する連続鋳造装置であって、前記溶湯を保持する溶湯保持部と、水平方向一方側端部が前記溶湯保持部の下方に位置させられた鋳型と、を備え、前記鋳型は、水平方向他方側に向かうにしたがい漸次下方に向かうように水平面に対して傾斜して延在する底面部を有し、該底面部に冷却手段が設けられており、前記溶湯保持部から供給された前記溶湯を前記冷却手段によって一方向凝固させ、得られた前記鋳塊を前記鋳型の前記底面部に沿って連続的に引き抜くことを特徴としている。
【0008】
この構成の連続鋳造装置においては、水平方向他方側に向かうにしたがい漸次下方に向けて傾斜した底面部を有する鋳型の水平方向一方側端部に溶湯保持部が位置させられており、前記底面部に冷却手段が設けられているので、溶湯保持部の供給部から供給された溶湯は、鋳型の底面部に備えられた冷却手段によって冷却されて凝固することになり、底面部からの冷却と溶湯保持部からの入熱のバランスによって凝固界面が水平方向に延在することになる。
【0009】
これにより、溶湯保持部内の溶湯中に浮遊する介在物は溶湯保持部の下方で凝固する鋳塊から離れて位置することになり、介在物の鋳塊内部への混入を防止できる。また、固相(鋳塊)から液相(溶湯)へと排出される不純物元素は、鋳塊の上方に位置する溶湯保持部に濃縮されることになり、高純度の鋳塊を得ることができる。
さらに、結晶の成長方向と鋳塊の引き抜き方向が異なるので、結晶の成長速度に律速されることなく、引き抜き速度を上昇させることができ、生産効率を大幅に向上させることが可能となる。
また、鋳型と溶湯とが接触せず、凝固した鋳塊のみが鋳型と接触するので、鋳型の劣化を防止でき、鋳造コストを大幅に低減することができる。
【0010】
ここで、前記溶湯保持部を電磁力によって保持する構成としてもよい。
この場合、溶湯を電磁力で保持することで、耐火物と溶湯との接触を抑制することが可能となる。これにより、溶湯と耐火物との反応を抑えて酸化物等の介在物の発生及びSiOなどのガスの発生を防止することができる。また、電磁力によって溶湯を保持する際に副次的に溶湯の加熱も行われることになるので、溶湯と鋳塊との間の温度差を大きくして一方向凝固を促進することができる。
【0011】
また、前記底面部の表面温度を、その延在方向において異なるように構成してもよい。
この場合、底面部の延在方向、すなわち、鋳塊の引き抜き方向に沿って底面部の表面温度を設定することで、結晶の成長を制御して高品質な鋳塊を得ることができる。例えば、溶湯保持部の下方において、溶湯保持部と底面部とが近接する側の底面部の表面温度を高くし、溶湯保持部と底面部とが離間するにつれて底面部の表面温度を低くするように調整することで、溶湯と鋳塊との凝固界面を安定して水平に保つことが可能となる。また、溶湯保持部と底面部とが近接する部分の底面部の表面温度を高くすることで、溶湯保持部の内部へと鋳塊が成長していくことを抑制して、鋳塊の引き抜きをスムーズに行うことができる。
【0012】
また、前記鋳型の前記底面部の表面温度を、水平方向他方側かつ下方側に向かうにしたがい漸次低くなるように設定してもよい。
この場合、鋳塊が水平方向他方側かつ下方側に向けて引き抜かれていくにしたがい底面部の温度が低くなるので、一方向凝固させた鋳塊の等温面が水平となり、凝固界面の水平度を向上させることができる。
【0013】
ここで、前記鋳型の前記底面部の表面温度の最高温度を、前記鋳塊の融点直下に設定してもよい。
この場合、底面部の表面温度の最高温度を鋳塊の融点直下に設定することによって、底面部の水平方向一方側部分において溶湯が急冷されることを防止でき、鋳塊の引き抜きをスムーズに行うことができる。
【0014】
また、前記鋳型の側面部を断熱する構成としてもよい。
この場合、鋳型内の溶湯が側面部から冷却されることがなく、底面部からのみ結晶を成長させて一方向凝固した鋳塊を確実に製出することができる。
【0015】
さらに、前記溶湯保持部に、前記溶湯を外部に排出する排出手段を設けてもよい。
この場合、凝固が進行するに連れて不純物元素が溶湯保持部内で濃縮していくため、不純物濃度が所定値まで上昇した時点で溶湯保持部内の溶湯を排出することにより、高純度の鋳塊を長時間にわたって製出することができる。また、溶湯保持部内の溶湯中に浮遊する介在物等も排出でき、介在物の混入を確実に防止することができる。
【0016】
また、前記鋳型を、分割された複数のユニットが前記鋳型の延在方向に連設されて構成されるものとし、前記溶湯保持部側から順次前記ユニットを送り込むとともに、前記ユニットを前記鋳塊とともに引き抜くように構成してもよい。
この場合、ユニットを鋳塊とともに引き抜くことにより、鋳型と鋳塊との摺接を抑制して鋳塊の表面欠陥を防止することができる。また、溶湯保持部側のユニットが逐次更新されるため、鋳型の劣化による鋳塊品質の低下を防止できる。
【0017】
さらに、本発明に係る連続鋳造方法は、前述の連続鋳造装置を用いて、一方向凝固された鋳塊を、水平方向一方側に向かうにしたがい漸次下方に向かうように水平面に対して傾斜する方向に引き抜くことを特徴としている。
【0018】
この構成の連続鋳造方法によれば、溶湯保持部の溶湯と鋳型内の鋳塊との凝固界面を水平方向に延在するようにして凝固を進行させることにより、介在物の混入や不純物元素の少ない高品質な鋳塊を得ることができる。また、結晶の成長方向(凝固の進行方向)と鋳塊の引き抜き方向とを異ならせることで、引き抜き速度を上昇させて生産効率を大幅に向上させることができる。
【0019】
また、本発明に係る鋳塊は、前述の連続鋳造装置によって製出され、結晶の成長方向が、鋳塊の厚さ方向に対して角度θで交差するように構成されており、該角度θが、0°<θ≦20°の範囲内に設定されていることを特徴としている。
【0020】
前述の連続鋳造装置によって製出された鋳塊においては、冷却手段を備えた底面部と溶湯保持部との間で結晶が底面部から溶湯保持部側に向けて成長するので、結晶の成長方向が鋳塊の厚さ方向に対して傾斜することになる。結晶の成長方向とは、鋳塊の下面から上面に向かって成長した鋳塊を構成する結晶粒の長軸に平行で下面から上方に向かうベクトルの方向であり、角度θはこのベクトルと鋳塊の下面の法線とのなす角度である。ここで、この傾斜角度θは、底面部の延在方向と凝固界面の延在方向(水平方向)とがなす角度と一致する。ここで、結晶の成長方向と鋳塊の厚さ方向とがなす角度θを20°以下とすることにより、引き抜き速度を確実に向上させることができる。さらに、鋳塊を厚さ方向に切断した場合に、切断面と交差する結晶粒界の数が抑えられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、酸化物等の介在物や不純物元素が鋳塊内に混入することなく高品質な鋳塊が得られるとともに、引き抜き速度を上昇させて生産効率を大幅に向上させることが可能な連続鋳造方法、連続鋳造装置及びこれにより得られる高品質な鋳塊を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1及び図2に、本発明の第1の実施形態である連続鋳造装置10を示す。
本実施形態である連続鋳造装置10は、太陽電池用素材として用いられる6〜7Nクラスの純度のシリコン鋳塊2を連続に製出するためのものであり、シリコン溶湯1を保持するための溶湯保持部20と、この溶湯保持部20の下方に位置する鋳型30と、を備えている。
【0023】
溶湯保持部20の上方には、図1に示すように、金属シリコン粉末を貯留する原料ホッパー5と、原料ホッパー5から供給された金属シリコン粉末を溶解してシリコン溶湯1を生成する溶解炉6とが配設されている。
ここで、溶解炉6は、分割された水冷銅ルツボを用いて金属シリコン粉末を誘導加熱する、いわゆるスカル溶解炉とされており、耐火物を使用しないため、シリコン溶湯1への不純物の混入が抑制されている。この溶解炉6の底部には、溶湯保持部20へシリコン溶湯1を出湯するための出湯口7が設けられており、シリコン溶湯1の出湯状態を凍結弁を用いて調整する構成とされている。
【0024】
溶湯保持部20は、保持用電磁コイル22を有しており、電流と磁界との相互作用によるピンチ力を利用して、シリコン溶湯1を保持する構成とされている。つまり、耐火材等で構成された容器内にシリコン溶湯1を保持するのではなく、シリコン溶湯1を浮遊させた状態で保持しているのである。
本実施形態においては、溶湯保持部20において保持されているシリコン溶湯1を排出するための排出制御用電磁コイル23が設けられており、排出されたシリコン溶湯1が貯留される貯留部24が配置されている。
【0025】
溶湯保持部20の上部には、シリコン溶湯1を保温するためのカーボンヒータ25が配設されている。このカーボンヒータ25の一部には孔部26が形成されており、溶解炉6から出湯されたシリコン溶湯1は孔部26を通じて溶湯保持部20へと供給される。このカーボンヒータ25と溶湯保持部20に保持されたシリコン溶湯1との間には空隙が画成されており、この空隙に不活性ガス(図1においてはArガス)を流通させる不活性ガス導入手段27が設けられている。
【0026】
そして、溶湯保持部20には下方側に向けて溶湯を供給する供給部21が設けられており、この供給部21が鋳型30の水平方向一方側(図1において左側)に位置するように構成されている。この供給部21の水平方向長さ(図1において左右方向長さ)は、3000mm〜300mmの範囲内に設定されており、本実施形態においては1500mmとされている。
【0027】
鋳型30は、図1に示すように、溶湯保持部20が配設された水平方向一方側から水平方向他方側(図1において右側)に向かうにしたがい漸次下方に向かうように水平面に対して傾斜する底面部31と図2に示すように底面部31に対して直交するように延在する側壁32とからなる断面コの字状をなす本体部33と、図1及び図2に示すように底面部31に対向配置される蓋部34とを有している。なお、蓋部34は、図1に示すように鋳型30の水平方向他方側部分にのみ配置されている。
【0028】
ここで、鋳型30の底面部31の延在方向と水平面とがなす角度θは、0°<θ≦20°の範囲内に設定されており、本実施形態においてはθ=7.66°とされている。また、底面部31の幅(図2において左右方向長さ)は、150mm〜3000mmの範囲内に設定されており、本実施形態においては1000mmとされている。さらに、側壁32の高さ(図2において上下方向長さ)は、20mm〜500mmの範囲内に設定されており、本実施形態においては200mmとされている。
【0029】
鋳型30の底面部31には、パネル状の冷却手段35が設けられている。この冷却手段35によって、底面部31の表面温度は、底面部31(鋳型30)の延在方向において異なるように調整されている。本実施形態では、冷却手段35の水平方向一方側部分(図1の矢印U)の底面部31の表面温度が最も高く設定されており、シリコンの融点直下である1410℃とされ、冷却手段35の水平方向他方側部分(図1の矢印V)の底面部31の表面温度が800℃とされている。
【0030】
また、図2に示すように鋳型30の側方には断熱材36が配設されており、鋳型30の側壁32部分からの放熱が抑制されている。
さらに、鋳型30の引き抜き方向下流側には、図1に示すように、製出されたシリコン鋳塊2の温度を調節する温度調節器9が設けられている。
【0031】
次に、本実施形態である連続鋳造装置10による連続鋳造方法について説明する。
原料ホッパー5から溶解炉6へと金属シリコン粉末が供給される。溶解炉6では、誘導加熱によって金属シリコン粉末が溶融されてシリコン溶湯1が生成される。そして、溶解炉6の底部に設けられた出湯口7からシリコン溶湯1が溶湯保持部20へと供給される。
【0032】
溶湯保持部20においては、保持用電磁コイル22のピンチ力によってシリコン溶湯1が保持されるとともに、供給部21が鋳型30の底面部31に向けられている。
ここで、鋳型30の底面部31に設けられた冷却手段35によって抜熱されることで、底面部31側から凝固が一方向に進行していくことになる。
【0033】
このとき、鋳型30の底面部31の表面温度が底面部31(鋳型30)の延在方向において異なるように調整されており、本実施形態では、冷却手段35の水平方向一方側部分(図1の矢印U)の表面温度が1410℃とされ、冷却手段35の水平方向他方側部分(図1の矢印V)の表面温度が800℃とされているので、シリコン鋳塊2(固相)とシリコン溶湯1(液相)との凝固界面が、図1に示すように水平となり、溶湯保持部20の供給部21に位置することになる。
【0034】
このように鋳型30の底面部31側から凝固が一方向に進行することにより、シリコン鋳塊2(固相)の不純物元素は溶湯保持部20内のシリコン溶湯1(液相)へと排出される。よって、時間が経過するに連れて溶湯保持部20内のシリコン溶湯1の不純物元素が濃縮されていくことになる。そこで、所定時間経過した時点で、排出制御用電磁コイル23によってシリコン溶湯1を貯留部24へと排出し、溶解炉6から溶湯保持部20にシリコン溶湯1を新たに供給するように構成されている。
【0035】
一方向凝固によって形成されたシリコン鋳塊2は、鋳型30(底面部31)に沿って、つまり、水平方向他方側(図1において右側)に向かうにしたがい漸次下方に向かうように水平面に対して傾斜する方向に向けて引き抜かれていく。そして、引き抜かれたシリコン鋳塊2は、温度調節器9によって温度調整される。これにより、板厚t(200mm)、幅W(1000mm)の板状のシリコン鋳塊2が連続的に製出されることになる。
【0036】
このようにして製出されたシリコン鋳塊2は、図3に示すように、結晶の成長方向がシリコン鋳塊2の厚さ方向(図3において上下方向)に対して角度θで交差するように構成されている。つまり、本実施形態の連続鋳造装置10によって製出されたシリコン鋳塊2においては、冷却手段35を備えた底面部31と溶湯保持部20との間で結晶が底面部31から溶湯保持部20側に向けて成長することになり、結晶の成長方向がシリコン鋳塊2の厚さ方向に対して、底面部31の延在方向と凝固界面の延在方向(水平方向)とがなす角度θで傾斜することになるのである。
【0037】
本実施形態である連続鋳造装置10によれば、凝固界面が、図1に示すように水平方向に延在させられているので、溶湯保持部20内のシリコン溶湯1中を浮遊する介在物が、溶湯保持部20の下方で凝固するシリコン鋳塊2から離れたところに存在することになり、シリコン鋳塊2への介在物の混入を防止できる。また、固相(シリコン鋳塊2)から液相(シリコン溶湯1)へと排出される不純物元素は、シリコン鋳塊2の上方に位置する溶湯保持部20に確実に排出されることになり、高純度の品質の良いシリコン鋳塊2を得ることができる。
【0038】
そして、凝固方向(結晶の成長方向)とシリコン鋳塊2の引き抜き方向が異なるので、凝固速度(結晶の成長速度)に律速されることなく、シリコン鋳塊2の引き抜き速度を上昇させることができ、生産効率を大幅に向上させることができる。
また、鋳型30とシリコン溶湯1とが接触せず、凝固したシリコン鋳塊2のみが鋳型30と接触するので、鋳型30の劣化を防止でき、鋳造コストを大幅に低減することができる。
【0039】
さらに、溶湯保持部20を保持用電磁コイル22のピンチ力によってシリコン溶湯1を保持するように構成されているので、耐火物とシリコン溶湯1との接触を抑制することができ、シリコン溶湯1と耐火物との反応を抑えて酸化物等の介在物の発生を防止することができる。また、保持用電磁コイル22のピンチ力によってシリコン溶湯1を保持する際に副次的にシリコン溶湯1の加熱も行われることになるので、シリコン溶湯1とシリコン鋳塊2との間に温度差を設けて一方向凝固を促進することができる。
【0040】
また、鋳型30の底面部31の表面温度が、その延在方向において異なるように構成されており、特に、本実施形態では、溶湯保持部20が位置する鋳型30の水平方向一方側部分の底面部31の表面温度が1410℃とシリコンの融点近傍とされているので、溶湯保持部20の内部へとシリコン鋳塊2が成長していくことを抑制して、シリコン鋳塊2の引き抜きをスムーズに行うことができる。また、底面部31の表面温度を調整することで、凝固界面を水平方向に延在させることができる。
【0041】
また、溶湯保持部20には、シリコン溶湯1を排出する排出制御用電磁コイル23が設けられており、所定時間経過時に溶湯保持部20内のシリコン溶湯1を排出するように構成されているので、不純物元素が濃縮されたシリコン溶湯1を排出して、溶解炉6から新たなシリコン溶湯1を得ることで、高純度のシリコン鋳塊2を長時間にわたって製出することができる。また、溶湯保持部20に浮遊する介在物等も同時に排出でき、介在物の混入を確実に防止できる。
【0042】
さらに、本実施形態においては、溶湯保持部20のシリコン溶湯1とカーボンヒータ25との間に画成された空隙に、不活性ガス(Arガス)を導入する不活性ガス導入手段27を備えているので、シリコン溶湯1から生成するシリカガス(SiO)を溶湯保持部20の外部へと排出することができ、シリコン鋳塊2の純度をさらに高めることができる。
また、溶湯保持部20の上にカーボンヒータ25が配設されているので、シリコン溶湯1の温度を維持することができ、シリコン溶湯1とシリコン鋳塊2との間に温度差を設けて一方向凝固を促進することができる。
【0043】
また、本実施形態である連続鋳造装置10によって製出されたシリコン鋳塊2は、結晶の成長方向が、シリコン鋳塊2の厚さ方向に対して角度θで交差するように構成されており、この角度θが、0°<θ≦20°の範囲内に設定されているので、シリコン鋳塊2を厚さ方向に切断する場合に、切断面と交差する結晶粒界の数が抑えられる。したがって、太陽電池用の板材を成形した場合に、板材の厚さ方向において結晶粒界が存在しないように構成でき、高品質の板材を提供することが可能となる。
【0044】
次に、本発明の第2の実施形態について添付した図面を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図4に、本発明の第2の実施形態である連続鋳造装置50を示す。
第2の実施形態である連続鋳造装置50においては、鋳型60がその延在方向において複数のユニット63、64が連設されることで構成されているのである。
【0045】
この連続鋳造装置50によって鋳造する場合には、溶湯保持部20の供給部21が位置する側からユニット63、64を順次送り込むとともに、ユニット63、64がシリコン鋳塊2とともに引き抜かれていくように構成されている。つまり、鋳型60を構成するユニット63、64が順次更新され、シリコン鋳塊2と鋳型60とが一体となって引き抜かれていくのである。
【0046】
この構成の連続鋳造装置50によれば、シリコン鋳塊2と接触するユニット63、64をシリコン鋳塊2とともに引き抜くことにより、シリコン鋳塊2と鋳型60との摺動を防止でき、シリコン鋳塊2の表面欠陥を防止することができる。また、溶湯保持部20側に位置するユニット63、64が順次更新されるので、鋳型60の劣化がなく、長時間にわたって安定した高品質のシリコン鋳塊2を得ることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、太陽電池用のシリコン鋳塊を製出するものとして説明したが、これに限定されることはなく、その他の金属や半導体等を一方向凝固させた鋳塊を製出するものであってもよい。
【0048】
また、溶湯保持部を、電磁コイルのピンチ力によって溶湯を保持するものとして説明したが、これに限定されることはなく、耐火物等で構成した溶湯保持部であってもよい。保持する溶湯と耐火物との反応性を考慮して適宜選択すればよい。
さらに、金属シリコン粉末を、いわゆるスカル溶解炉で溶解してシリコン溶湯を生成するように構成したもので説明したが、これに限定されることはなく、その他の溶解方法で溶解してもよい。
また、溶湯保持部の供給部の大きさや鋳型の大きさは、本実施形態に限定されることはなく、これらの寸法は任意に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態である連続鋳造装置の概略説明図である。
【図2】図1におけるX−X断面図である。
【図3】図1に示す連続鋳造装置により製出された鋳塊の引き抜き方向に沿った断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態である連続鋳造装置の概略説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 シリコン溶湯(溶湯)
2 シリコン鋳塊(鋳塊)
10、50 連続鋳造装置
20 溶湯保持部
22 電磁コイル
23 排出制御用コイル(排出手段)
30、60 鋳型
31 底面部
35 冷却手段
63、64 ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を一方向凝固させて得られた鋳塊を連続的に製出する連続鋳造装置であって、
前記溶湯を保持する溶湯保持部と、水平方向一方側端部が前記溶湯保持部の下方に位置させられた鋳型と、を備え、
前記鋳型は、水平方向他方側に向かうにしたがい漸次下方に向かうように水平面に対して傾斜して延在する底面部を有し、該底面部に冷却手段が設けられており、
前記溶湯保持部から供給された前記溶湯を前記冷却手段によって一方向凝固させ、得られた前記鋳塊を前記鋳型の前記底面部に沿って連続的に引き抜くことを特徴とする連続鋳造装置。
【請求項2】
前記溶湯保持部は、前記溶湯を電磁力によって保持する構成とされていることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造装置。
【請求項3】
前記鋳型の前記底面部の表面温度が、その延在方向において異なるように設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の連続鋳造装置。
【請求項4】
前記鋳型の前記底面部の表面温度が、水平方向他方側かつ下方側に向かうにしたがい漸次低くなるように設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の連続鋳造装置。
【請求項5】
前記鋳型の前記底面部の表面温度の最高温度が、前記鋳塊の融点直下に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の連続鋳造装置。
【請求項6】
前記鋳型の側面部が断熱されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の連続鋳造装置。
【請求項7】
前記溶湯保持部には、前記溶湯を外部に排出する排出手段が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の連続鋳造装置。
【請求項8】
前記鋳型は、分割された複数のユニットが前記鋳型の延在方向に連設されることで構成されており、前記溶湯保持部側から順次前記ユニットが送り込まれ、前記ユニットが前記鋳塊とともに引き抜かれていくことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の連続鋳造装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の連続鋳造装置を用いて、一方向凝固された鋳塊を、水平方向一方側に向かうにしたがい漸次下方に向かうように水平面に対して傾斜する方向に引き抜くことを特徴とする連続鋳造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の連続鋳造装置によって製出され、結晶の成長方向が、鋳塊の厚さ方向に対して角度θで交差するように構成されており、該角度θが、0°<θ≦20°の範囲内に設定されていることを特徴とする鋳塊。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−143795(P2009−143795A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294653(P2008−294653)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】