説明

運搬容器用の射出成形金型及び運搬容器

【課題】底板下面に複数本の細幅リブと中空の太幅リブが格子状に設けられた運搬容器をガスアシスト成形法により成形するにあたり、容器の底板下面に残る穴を出来る限り小さくし、太幅リブの中空部内に液類が浸入し難い構成のものとする。
【解決手段】固定型(11)と可動型(12)で容器形状をなすキャビティ(13)を画成し、容器の底板下面に対応するキャビティ(13)の上面部(13a)であって、太幅リブが配置された底板下面中央部の対応位置と、細幅リブが配置された底板下面周辺部の対応位置とに樹脂通路と加圧ガス通路とに連通したピンゲート(14、15)をそれぞれ設けて射出成形金型を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬容器を成形するための射出成形金型の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製の運搬容器は、部品を移送する通い箱や物流過程で物品を配送する容器などとして利用され、重量物を収納して輸送したり、これを多段に積み重ねて保管したりした際に、大きな荷重がかかる容器底板が変形を来し易い。
そのため、図6に示されるように、容器の底板下面に格子状にリブを設け、剛性を高めて底板の変形を防止するようにしている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
一方、底板の剛性を高めるために、設置するリブの数を増やしたりリブを太くしたりしたのでは、容器の重量が増し、容器の取り扱いに不便を来してしまう。これを解決すべく、底板下面に設ける格子状のリブの一部を太幅とし、この太幅のリブをガスアシスト成形法により中空に成形した構成の運搬容器が本出願人により提案されている(特願2007−118811号)。
【0004】
【特許文献1】実開昭62−150323号公報
【特許文献2】特開2000−226021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に運搬容器の射出成形金型は、固定型と可動型とで容器形状をなすキャビティを画成し、容器の底板下面に対応するキャビティの上面部中央に樹脂通路と連通したセンターゲートを配置して構成され、さらにセンターゲートからキャビティ内に加圧ガスを圧入する機構を設けることにより、底板下面のリブを中空に成形した容器を得ることができる。
この場合に、運搬容器の底板下面中央には、センターゲートの切断跡である、リブ内側の中空部分と連通した小径の穴が開いたままとなり、屋外で容器を取り扱ったときなどに、この穴からリブの中空部内に水や油などの液類が入り込み易い。そして、中空部内に液類が滞留していた容器を使用した際に、前記穴から液類が漏れ出て床面や容器に収納されていた物品を汚してしまうことがあった。
【0006】
前記センターゲートを断面積が極めて小さなピンゲートとすれば、成形後に残る穴は小さくなるが、成形する容器の嵩の大きさによってはキャビティに充填した溶融樹脂の流動が不充分となる虞がある。
また、ピンゲートやサブマリンゲート方式で小さなゲート径によるガスアシスト成形は行われているが、何れも多点ゲートから加圧ガスを圧入するものである。容器の底板の剛性を高めるには底板下面の対向側辺間に太幅リブを架け渡して設けることが好ましく、このような分断されていない太幅リブを多点ゲートから加圧ガスを圧入する場合は、リブ内部でガスがぶつかり合うことを考慮して成形条件を精密に調整し制御する必要があり、多点ゲートで一繋がりのリブを均等な肉厚で中空に成形することは困難であった。
【0007】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、底板下面に複数本の細幅リブと中空の太幅リブが格子状に設けられた運搬容器をガスアシスト成形法により成形するにあたり、容器の底板下面に残る穴を出来る限り小さくし、太幅リブの中空部内に液類が浸入し難い構成のものとすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明は、底板下面に複数本の細幅リブと中空の太幅リブとが縦横に交差して並設した構成を有する運搬容器の射出成形金型において、固定型と可動型とで前記容器形状をなすキャビティが画成され、前記容器の底板下面に対応するキャビティの上面部であって、前記太幅リブが配置された底板下面中央部の対応位置と、前記細幅リブが配置された底板下面周辺部の対応位置とに、樹脂通路と加圧ガス通路に連通したゲートがそれぞれ設けられた構成を有することを特徴とする。
【0009】
加圧ガスを射出すれば、太幅リブの対応位置である底板下面中央部のゲートから当該太幅リブの前記構成の射出成形金型によれば、底板下面中央部と周辺部の各対応位置のゲートからキャビティ内に溶融樹脂を射出した後、両ゲートからキャビティ内に加圧ガスを圧入し、一定時間のガス保圧を行い、冷却させてから金型を開き、成形品を取り出す工程を経て、底板下面に中空の太幅リブと細幅リブを並設した本発明の運搬容器が成形される。
これによれば、キャビティに溶融樹脂を射出するゲートを複数配置したので、嵩の大きな容器を成形する場合でも樹脂をキャビティ内に十分に流動させて注入することが可能であり、これにより各ゲートを断面積が小さなピンゲートに設定することができる。例えば太幅リブの形成位置である容器の底板下面中央部の対応位置のゲートの内径を1.6〜2.4mmの範囲に設定した場合、成形された容器の底板下面中央部に残る穴の内径は1.0〜1.6mm程度となる。穴の大きさがこの範囲であれば、液類に作用する表面張力により、液類が穴の中に浸入することはなく、また、底板に残る穴が極めて小さいので外観上も穴が目立つことはない。
また、容器の底板下面周辺部の対応位置のゲートも、前記ゲートと同様にピンゲートとし、例えばその内径を0.5〜1.5mmの範囲に設定することができる。容器の底板下面周辺部の対応位置に設けるゲートは、成形する容器の形状や大きさなどに応じ、当該容器形状を画成するキャビティの上面内に適宜な数を適宜な位置に設けることができる。底板下面中央部の対応位置のゲートの周りで、複数のゲートを対称となる位置に配置してもよい。
また、本発明の射出成形金型によれば、太幅リブは容器の底板下面中央部の対応位置のゲートから加圧ガスが圧入されて中空に成形されるので、太幅リブの内部であるガスチャネルでガスがぶつかり合うことはなく、成形収縮のヒケや変形の発生が抑えられ、成形性が安定する。
【0010】
本発明の運搬容器は、ポリプロピレンやポリエチレンなどの合成樹脂材を用い、前記の通り、ガスアシスト成形法を採用した射出成形金型により成形することができる。本発明の運搬容器は、容器の底板下面に太幅リブと細幅リブを格子状に配置してあるので、両リブが補強効果を発揮して底板の剛性を高め、容器に重量物を収納した際に、底板に載せた重量物から下向きの大きな荷重がかかっても底板は変形し難く、撓んだり反ったりせずに元の形状を維持することができる。
また、太幅リブはその内部が空洞となっているので重量の増加は少なく、細いリブを多数列設したりリブの厚みを太くしたりして底板を補強する場合よりも容器は軽量となる。また、底板下面に縦横に細いリブのみを多数列設することに代えて太幅リブを設けることで、リブとリブの間のゴミが入り込むスペースが少なくなって底板下面に汚れが付着し難くなり、仮に付着しても簡単に除去することが可能となる。
なお、中空な太幅リブは、底板下面の中央部を通って対向する両辺に架設されたものであればその形状は問わず、対向両辺間を直線的に繋ぐものでも、リブの途中で屈曲し或いは分岐して繋ぐものでもよい。容器に収納した物品からの荷重は底板の中央部付近に集中することから、当該中央部分に適宜な間隔を開けて複数の太幅リブを並設することが好ましい。また、底板下面内での太幅リブの配置は適宜に設定され、平面視矩形状の底板であれば、その長手、短手何れかの方向のみに複数を列状に配置しても、両方向に交差状に配置してもよい。太幅リブの太さや配置間隔なども容器の成形仕様などに応じて適宜に設定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好適な一実施形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の射出成形金型を用いて成形される運搬容器の一実施形態の上面側と下面側の斜視図、図2は図1の容器の底板隅角部の縦断面を拡大して示した図、図3は図1の容器の底板隅角部の横断面を拡大して示した図、図4は図1の容器の成形に用いる本発明の射出成形金型の一実施形態の構成を示す要部拡大断面図、図5は図4の射出成形金型により容器を成形する工程を説明するための図である。
【0012】
先ず、本発明の射出成形金型を用いて成形される運搬容器の一例の構成を図1〜図3を参照して説明する。図示した形態の運搬容器1は、平面視矩形を呈する底板2を側板3、3、4、4で囲い、上面を開口した有底箱状に形成してある。
【0013】
側板3、3は底板2の短辺側二辺、側板4、4は長辺側二辺にそれぞれ連なって、底板2に対して略直角に折れて上方に適宜な高さで立ち上がり、各側板の上部を外方へ張り出したフランジ5としてある。底板2は、収納物品が載る上面2aを平坦に形成し、下面2bには、その周縁を下方へ適宜な長さで突出した細幅リブ6で囲い、その内側に細幅リブ6と同じ長さで下方へ突出した複数本の太幅リブ7と細幅リブ8とを縦横に交差させて一体に並設してある。
【0014】
より詳しくは、細幅リブ6は、底板下面2bの周縁に沿って設けられ、底板2及び側板3、4と略同じ肉厚に設けて形成してある。
太幅リブ7は、下面2bの中央部Oを通ってその短手両辺間に伸びたリブ71と、これと交差して下面2bの長手両辺間に並設した4本のリブ72からなり、各々図2に示されるように、細幅リブ6、8の幅(肉厚、t)よりも幅広(T)の太さに設定され、且つその内部を中空7aに設けて、下面2bを挟んで対向する細幅リブ6、6間に架設してある。
また、細幅リブ8は、細幅リブ6と略同じ幅(t)の太さに設定されており、下面2bの、細幅リブ6と太幅リブ7で区画される面内と各リブ72、72の間の面内とに、複数本を格子状に交差させて並設してある。なお、底板2の中央部の剛性を高めるため、下面2bの中央部における細幅リブ8の配置密度をその周辺部よりも大きくしてある。
【0015】
次に、運搬容器1を成形するための射出成形金型10の構成を説明する。
図4は本形態の射出成形金型10の要部拡大断面を示しており、同図に示されるように、この金型10は、固定型11と可動型12で容器1の形状をなすキャビティ13を画成し、容器1の下面2bに対応するキャビティ13の上面部13aに、ピンゲート14と四つのピンゲート15を設けて構成してある。なお、図4では四つのピンゲート15のうちの一つのみを示してある。
【0016】
より詳しくは、ピンゲート14は1.6mm程度の内径、ピンゲート15は1.0mm程度の内径にそれぞれ形成されており、それぞれのゲートに設置されたノズル16、17を介して樹脂通路と加圧ガス通路とに連通させてある。
キャビティ13の上面部13aにおける両ピンゲート14、15の設置位置は、図1(B)に示されるように、ピンゲート14が容器1の太幅リブ7が通る下面2bの中央部Oが面する対応位置、ピンゲート15が細幅リブ8が通る下面2bの周辺部C1〜C4が面する対応位置に各々設けてある。なお、周辺部C1〜C4は、それぞれ下面2bの中央部Oから等間隔離れ、且つC1とC3、C2とC4が中央部Oに関して対称位置となっている。
【0017】
このように構成された射出成形金型10によれば、図5に示されるように、固定型11と可動型12で画成されたキャビティ13内にピンゲート14とピンゲート15から溶融樹脂を射出し(同図(A))、次いで加圧ガスを射出し、ピンゲート14からキャビティ13内に加圧ガスが圧入されることにより太幅リブ7内を中空とした後(同図(B))、一定時間のガス保圧を行い、冷却させてから可動型12を作動させて金型を開き(同図(C))、成形品を取り出す工程を経て、容器1を成形することができる。なお、各ピンゲートが面する位置に残るバリは後加工により切除される。
【0018】
前記射出成形金型10により成形された容器1は、図5(C)に示されるように、ピンゲート14が面する底板下面12bの中央部Oである太幅リブ7の表面に、太幅リブ7の中空部7aと連通したゲート切断跡の穴9が残るが、この穴9は内径が1.0mm程度の極めて小さなものとなり、当該太幅リブ7の表面を水や油などの液類で漬しても、穴9内に浸入することはなく、外観上も目立つことはない。
また、容器1の下面2bに太幅リブ7と細幅リブ8を格子状に配置してあるので、両リブ7、8が補強効果を発揮して底板2の剛性が高められ、容器1に重量物を収納したとしても底板2が撓んだり反ったりするようなことはない。
【0019】
なお、図示した容器1の形態は一例であり、本発明は図示した形態に限定されず、他の適宜な形態で構成可能である。容器1の大きさや底板2を含めた各部の厚み、太幅リブ7と細幅リブ8の設置数やその配置などは、収納する物品の種類や大きさ、重量、或いは容器1の利用形態などに応じて適宜に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の射出成形金型を用いて成形される運搬容器の一実施形態の上面側(A)と下面側(B)の斜視図である。
【図2】図1の容器の底板隅角部の縦断面を拡大して示した図である。
【図3】図1の容器の底板隅角部の横断面を拡大して示した図である。
【図4】図1の容器の成形に用いる本発明の一実施形態の射出成形金型の構成を示す要部拡大断面図である。
【図5】図4の射出成形金型で容器を成形する工程を説明するための図である。
【図6】従来の運搬容器の下面側斜視図である。
【符号の説明】
【0021】
1 運搬容器、2 底板、2a 上面、2b 下面、3 (短手辺の)側板、4 (長手辺の)側板、5 フランジ、6 細幅リブ、7 太幅リブ、7a 中空(部)、8 細幅リブ、9 穴、10 射出成形金型、11 固定型、12 可動型、13 キャビティ、13a 上面部、14、15 ピンゲート、16、17 ノズル




【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板下面に複数本の細幅リブと中空の太幅リブとが縦横に交差して並設した構成を有する運搬容器の射出成形金型において、
固定型と可動型とで前記容器形状をなすキャビティが画成され、
前記容器の底板下面に対応するキャビティの上面部であって、前記太幅リブが配置された底板下面中央部の対応位置と、前記細幅リブが配置された底板下面周辺部の対応位置とに、樹脂通路と加圧ガス通路に連通したゲートがそれぞれ設けられた構成を有することを特徴とする運搬容器用の射出成形金型。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形金型において、底板下面中央部対応位置のゲートは1.6〜2.4mmの内径、底板下面周辺部対応位置のゲートは0.5〜1.5mmの内径に設定したことを特徴とする運搬容器用の射出成形金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の射出成形金型を用いて成形された運搬容器。
【請求項4】
太幅リブのみが中空に形成された請求項3に記載の運搬容器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−255412(P2009−255412A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107598(P2008−107598)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】