説明

運転支援装置

【課題】特定の進路にのみ進行可能な時間を有する交差点にて停止支援を行う場合において、停止支援による煩わしさを低減すると共に、車両を停止線で確実に停止可能とする。
【解決手段】運転支援装置1は、警報装置4、ブレーキアシスト装置5及びECU6を備えている。この運転支援装置1では、信号機に矢灯器が設けられている交差点で警報出力を行う場合、右折行動待機位置に停止可能な第1警報タイミングを警報条件として設定する。つまり、警報出力の開始タイミングを、停止線に停止可能な第2警報タイミングよりも遅らせている。よって、矢灯器方路に進行する自車両10においては停止支援による煩わしさが低減される。加えて、ブレーキアシスト装置5を備えていることから、停止線で停止する自車両10は、BAによって停止線で確実に停止可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の運転を支援するための運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の運転支援装置としては、交差点に進入する車両に対し停止支援を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような運転支援装置では、車両が交差点に進入するときに当該交差点の信号機が赤信号であると予測されると、例えば信号機の点灯状況の情報提供、又は停止線で停止させる自動制動等の停止支援が行われる。これにより、車両を停止線で確実に停止させることが図られている。
【特許文献1】特開2002−373396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したような運転支援装置では、特定の進路にのみ進行可能な時間を有する交差点(例えば、信号機に矢灯器が設けられている交差点)で停止支援を行う際、次の問題がある。すなわち、信号機が赤信号で矢灯器が点灯している場合においては、車両の進行方向によって赤信号(停止)と青信号(進行)とが混在することになる。しかし、交差点における車両の進路を特定するのは困難であることから、矢灯器方路に進行する車両に対しても、停止線で停止するよう停止支援が行われてしまう。よって、かかる停止支援は、矢灯器方路に進行する車両にとっては誤支援となり煩わしいものとなるという問題がある。
【0004】
ここで、停止支援による煩わしさを低減するため、停止支援の開始タイミングを遅らすことも考えられる。しかし、この場合には、停止支援の開始タイミングが遅れることから、停止線で停止する車両が確実に停止できないおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、特定の進路にのみ進行可能な時間を有する交差点にて停止支援を行う場合において、停止支援による煩わしさを低減すると共に、車両を停止線で確実に停止させることが可能な運転支援装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る運転支援装置は、交差点に進入する車両に対し停止支援を行う運転支援装置であって、ブレーキ操作量に応じてブレーキ力をアシストするブレーキアシスト機能を作動させるためのブレーキアシスト手段と、停止支援を実行する支援実行手段と、を備え、支援実行手段は、特定の進路にのみ進行可能な時間を有する交差点に車両が進入する場合、停止支援の開始タイミングを、当該交差点の停止線で車両を停止させる停止支援の開始タイミングよりも遅らせることを特徴とする。
【0007】
この運転支援装置では、例えば、信号機に矢灯器が設けられている交差点で停止支援を行う場合、停止支援の開始タイミングを遅らせるため、矢灯器方路に進行する車両においては停止支援による煩わしさが低減されることとなる。このとき、ブレーキアシスト機能を作動させるためのブレーキアシスト手段を備えているため、停止線で停止する車両にあっては、停止支援の開始タイミングを遅らせても停止線で確実に停止することが可能となる。従って、本発明によれば、停止支援による煩わしさを低減できると共に、車両を停止線で確実に停止させることが可能となる。
【0008】

ここで、支援実行手段は、具体的には、右方路又は左方路にのみ進行可能な時間を有する交差点に車両が進入する場合、当該交差点の右折行動待機位置又は左折行動待機位置で車両を停止させる停止支援を実行する場合がある。
【0009】
また、支援実行手段は、車両の速度が、停止線で停止するようにブレーキアシスト機能を作動させたときの停止特性に基づいて設定された下限速度以上の場合に、停止支援を実行することが好ましい。この場合、停止線で停止する車両は、ブレーキアシスト機能によって停止線で一層確実に停止される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の進路にのみ可能な時間を有する交差点にて停止支援を行う場合において、停止支援による煩わしさを低減すると共に、車両を停止線で確実に停止させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る運転支援装置を示す概略構成図である。図1に示すように、本実施形態の運転支援装置1は、交差点に進入する自車両(車両)10に対し停止支援を行うものである。この運転支援装置1は、自車両10に搭載されており、インフラ情報取得装置2、車両情報取得装置3、警報装置4、ブレーキアシスト装置5及びECU6を備えている。
【0013】
インフラ情報取得装置2は、インフラ情報を受信し取得するためのものであり、例えば、光ビーコンやナビゲーションシステムが用いられている。ここでのインフラ情報取得装置2は、例えば、信号機の種類、矢灯器を含めた信号サイクル、車線数、右左折専用レーンの有無、停止線までの距離、停止線と交差点中央との間の距離及び自車両10が走行している車線位置等をインフラ情報として取得する。
【0014】
車両情報取得装置3は、車両情報を所得するためのものである。ここでの車両情報取得装置3は、例えば、車速、ブレーキ操作量(踏力)、ハンドルの操舵角及びウィンカの作動状態等を車両情報として取得する。
【0015】
警報装置4は、停止支援のための警報をドライバに対して出力するものである。なお、警報装置4に代えて又は加えて、交差点の信号機の点灯状況等の情報をドライバに対し提供する情報提供装置、及び停止支援のための注意喚起をドライバに対し行う注意喚起装置を用いてもよい。
【0016】
ブレーキアシスト装置5は、ブレーキ操作量に応じてブレーキ力をアシストするブレーキアシスト機能(Brake Assist:以下、単に「BA」という)を発揮させるためのものである。このブレーキアシスト装置5によれば、例えば緊急ブレーキ操作が実行された際、通常時に比して大きなブレーキ力(制動力)を発生させることができる。
【0017】
ECU6は、例えばCPU、ROM、及びRAM等から構成されている。ECU6は、情報取得装置2,3から入力された各情報に基づいて警報装置4を作動させる。具体的には、自車両10位置を演算して道路線形上に照らし合わせることで、交差点の信号機との位置関係(例えば、残距離等)を認識する。そして、赤信号で自車両10が交差点に差し掛かると判断した場合、ドライバに警報出力を行う(詳しくは後述)。また、ECU6は、車両情報取得装置3から入力されたブレーキ操作量に基づいてブレーキアシスト装置5を作動させ、BAを発生させる。
【0018】
次に、説明した運転支援装置1の処理について、図2に示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、以下の説明においては、図3に示すように、信号機11に右折の矢灯器12が設けられている交差点(特定の進路にのみ進行可能な時間を有する交差点)13で警報出力を停止支援として行う場合を例示して説明する。
【0019】
まず、情報取得装置2,3によってインフラ情報及び車両情報を取得する(S1)。続いて、取得したインフラ情報及び車両情報に基づいて、ECU6にて次の処理を実行する。
【0020】
すなわち、信号機11の種類に基づいて信号機11に矢灯器12が設けられているか否かを判定する(S2)。信号機11に矢灯器12が設けられていると判定された場合、自車両10が交差点13に進入する際の信号機11の点灯状態を判定する(S3→S4)。そして、自車両10が交差点13に進入する際、矢灯器12が点灯中か否か、及び矢灯器12の方路を判定する(S4)。
【0021】
図4は、インフラ情報取得装置で取得された信号サイクルを示す概略図である。図中において左から右に向かう方向が時間tの進む方向であり、青、黄1、赤1、矢印、黄2及び赤2が信号機11の点灯状態を示している。ここでは、矢灯器12が点灯中か否かの判定は、自車両10が交差点13に進入する際に信号機の点灯状態が範囲A(矢印及び黄2)にあるか否かで行われている。
【0022】
ここで、自車両10が矢灯器12点灯中に交差点13に進入すると判定された場合、交差点13において右折の際に待機する位置である右折行動待機位置14に停止可能な第1警報タイミングを、警報条件として設定する(S5→S6)。ここでは、右折行動待機位置は、交差点中央としている。
【0023】
一方、自車両10が矢灯器12点灯中に交差点13に進入しないと判定され、且つ、信号機11の点灯状態が赤信号と判定された場合、停止線15に停止可能な第2警報タイミングを、警報条件として設定する(S7→S8)。そして、自車両10の車両状態が、設定された警報条件に該当したとき、警報出力が実行されることとなる。
【0024】
図5は、警報タイミングの一例を示す線図である。図中において、横軸が自車両10からの交差点13の停止線15までの距離Lを示し、縦軸が自車両10の車速Vを示す。図5に示すように、第1警報タイミングは、右折行動待機位置14にて車速0となる限界停止曲線L1であり、例えば、下式(1)示す数式で表される。第2警報タイミングは、停止線15にて車速0となる限界停止曲線L2であり、例えば、下式(2)示す数式で表される。
L1=V/2G−La …(1)
L2=V/2G …(2)
但し、G:限界減速加速度
La:停止線15から右折行動待機位置14までの距離
【0025】
続いて、自車両10が矢灯器12点灯中に交差点13に進入すると判定された場合、自車両10の進行方向を判定する(S9)。自車両10が矢灯器12方路へ進行すると判定された場合、警報条件をクリアする(S10→S11)。なお、自車両10の進行方向の判定は、例えば、ウィンカ点灯の有無、操舵角の変化の有無、及びルート案内の内容等に基づいて行われる。
【0026】
そして、交差点13を通過したか否かが判定され(S12)、交差点13を通過したと判定された場合には、処理を終了する。一方、交差点13を通過したと判定されない場合には、上記S3に戻り、その後、処理が繰り返される。
【0027】
ここで、運転支援装置1は、上述したようにブレーキアシスト装置5を備えている。よって、右折行動待機位置14に停止可能な第1警報タイミングが警報条件として設定されても(上記S6)、ドライバがブレーキを踏むとBAが発揮されて自車両10が停止線15で確実に停止されることとなる。
【0028】
また、運転支援装置1では、図5に示すように、自車両10の速度V及び距離Lが動作領域Rにあるときに、警報出力が行われる。この動作領域Rは、BAによって停止線15で停止可能な運転支援装置1の保障領域である。具体的には、動作領域Rは、下式(3),(4)に表されるように、限界停止曲線L1と、BAによって停止線15で停止する限界停止曲線(停止特性)Lbaとの交点によって設定された下限速度Vx以上の領域である。従って、上記S1にて取得された車速が下限速度Vxよりも小さい場合、処理がそのまま終了されることになる。
Lba=V2/2(G+Gba) …(3)
上記式(2),(3)より、
Vx=√{2La(G+Gba)G/Gba} …(4)
但し、Gba:BA量(BAによりアシストされるブレーキ力)
【0029】
以上において、ブレーキアシスト装置5及びブレーキアシスト装置5を作動させるECU6がブレーキアシスト手段を構成し、警報装置4及び警報装置4を作動させるECU6が支援実行手段を構成する。
【0030】
以上、運転支援装置1では、信号機11に矢灯器12が設けられている交差点13で警報出力を行う場合、右折行動待機位置14に停止可能な第1警報タイミングを警報条件として設定する(S6)。つまり、警報出力の開始タイミングを、停止線15に停止可能な第2警報タイミングよりも遅らせている。よって、矢灯器12方路に進行する自車両10においては停止支援による煩わしさが低減されることとなる。
【0031】
このとき、上述したように、ブレーキアシスト装置5を備えているため、警報出力の開始タイミングを遅らせても、停止線15で停止する自車両10は停止線15で確実に停止することが可能となる。従って、本実施形態によれば、警報出力の煩わしさを低減できると共に、自車両10を停止線15で確実に停止させることが可能となる。
【0032】
なお、従来の運転支援装置では、安全を考慮するため、警報出力の開始タイミングが早く設定されていることから、多くのドライバが警報出力に対し煩わしさを感じているという実情がある。従って、本実施形態の上記効果、すなわち警報出力の煩わしさを低減できるという効果は、顕著である。
【0033】
また、ドライバの右折準備行動(周囲確認やウィンカー等)は各ドライバでバラツキがある。また、右折専用車線が無い交差点においては、右折の直前まで進行方向を判断し難い。よって、交差点13において自車両10の進路方向を特定するのが、通常困難とされている。この点において、本実施形態では、上述したように、矢灯器12方路に進行する自車両10に対しては停止支援による煩わしさが低減されると共に、停止線15で停止する自車両10に対しては停止線15で確実に停止可能とされるため、本実施形態は、特に有効なものといえる。
【0034】
また、運転支援装置1では、上述したように、下限速度Vx以上の動作領域Rに自車両10の速度がある場合に、警報出力を実行している。これにより、下限速度Vx以上の速度では、BAを作動させることで、自車両10を停止線15で一層確実に停止させることが可能である。また、このように、動作条件に下限速度Vxを設定することにより、赤信号に気付いているのにも関わらず、減速行動時の車速の微妙な振れのために警報出力が行われてしまうという煩わしさをも軽減することができる。
【0035】
また、上述したように、下限速度Vxは、BA特性に基づいて設定されている。よって、BA量を調整することで、運転支援装置1の動作領域Rを所望に設定可能となる。つまり、下限速度Vxを下げたい場合には、BA量を増やし、BA量を減らしたい場合には、下限速度Vxをあげることで可能となる。例えば、La=10.5[m]、G=0.2[g]とし、下限速度をVx=20[km/h]と設定したい場合には、上記式(4)より、Gba=0.03[g]となる。なお、かかる設定の際、BAによって停止線15で必ず停止すべく、図5に示す動作領域では、限界停止曲線Lbaが一番上にくるように設定する必要がある。
【0036】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、右方路の矢灯器12が設置された交差点に進入する車両に対し停止支援を行ったが、左方路、直進方路の矢灯器が設置された交差点に進入する車両に停止支援を行ってもよい。なお、左方路の矢灯器が設置された交差点では、左折行動待機位置(例えば、交差点中央と停止線との間の位置)で車両を停止させる停止支援が実行される。
【0037】
また、第1及び第2警報タイミングは、ドライバの停止可能な限界減速加速度Gを学習させ、この学習した限界減速加速度Gに基づいて設定してもよい。この場合、例えば、強い減速加速度を出すことができないドライバに対しては、かかる学習により警報タイミングが早められる。これにより、安全且つ違和感の無い警報タイミングを設定することが可能となる。
【0038】
なお、常にBAが有効に機能する状態であれば、上記S3〜5,S7,8を含まず、第1警報タイミングを警報条件として常に設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る運転支援装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の走行支援装置の動作フローを示すフローチャートである。
【図3】交差点周辺の道路構造を示す平面図である。
【図4】インフラ情報取得装置で取得された信号サイクルを示す概略図である。
【図5】警報タイミングの一例を示す線図である。
【符号の説明】
【0040】
1…運転支援装置、4…警報装置(支援実行手段)、5…ブレーキアシスト装置(ブレーキアシスト手段)、6…ECU(ブレーキアシスト手段,支援実行手段)、10…自車両(車両)、13…交差点、14…右折行動待機位置、Vx…下限速度。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差点に進入する車両に対し停止支援を行う運転支援装置であって、
ブレーキ操作量に応じてブレーキ力をアシストするブレーキアシスト機能を作動させるためのブレーキアシスト手段と、
前記停止支援を実行する支援実行手段と、を備え、
前記支援実行手段は、特定の進路にのみ進行可能な時間を有する交差点に前記車両が進入する場合、実行する停止支援の開始タイミングを、当該交差点の停止線で前記車両を停止させる停止支援の開始タイミングよりも遅らせることを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記支援実行手段は、右方路又は左方路にのみ進行可能な時間を有する交差点に前記車両が進入する場合、当該交差点の右折行動待機位置又は左折行動待機位置で前記車両を停止させる停止支援を実行することを特徴とする請求項1記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記支援実行手段は、前記車両の速度が、前記停止線で停止するように前記ブレーキアシスト機能を作動させたときの停止特性に基づいて設定された下限速度以上の場合に、停止支援を実行することを特徴とする請求項1又は2記載の運転支援装置。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−3239(P2010−3239A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163506(P2008−163506)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】