過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置
【課題】 溶射材料を十分な速度で急冷することができ、もって過冷却液相金属皮膜(アモルファス金属皮膜を含む)を形成することが可能な溶射装置を提供する。
【解決手段】 母材Mの表面に過冷却液相金属の皮膜を形成するため、溶射材料を含む火炎Fを噴射するとともに、噴射された火炎Fを、それが母材に至る前より冷却する。火炎Fを冷却するためには、たとえば、火炎Fの長さ方向における複数箇所で、外側から火炎の内部に向けて水ミストHを吹き込む。
【解決手段】 母材Mの表面に過冷却液相金属の皮膜を形成するため、溶射材料を含む火炎Fを噴射するとともに、噴射された火炎Fを、それが母材に至る前より冷却する。火炎Fを冷却するためには、たとえば、火炎Fの長さ方向における複数箇所で、外側から火炎の内部に向けて水ミストHを吹き込む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、金属等の母材の表面に、過冷却液相金属(過冷却液相を経由した金属。アモルファス金属を含む)の皮膜を形成するための溶射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファス(非晶質)金属は、結晶状態と相違する不規則な原子配列をもつ金属であり、機械的強度や耐食性が高く磁気的特性にもすぐれるため、その製造方法や用途について種々の研究・開発がなされている。物体の表面に溶射によってアモルファス皮膜を形成する技術に関してもさまざまな提案がなされている。アモルファス皮膜が溶射にて形成できるなら、大気中で簡単に作業が行えて、広い面積部分に対しても容易に施工できるというメリットがあるからである。なお、完全なアモルファス金属でなく一部がアモルファス化した過冷却液相金属であっても、一般に機械的強度や耐食性、磁気的特性等に関してすぐれた性質を発揮する。
【0003】
下記の特許文献1では、プラズマ溶射等によって溶解した合金原料を火炎とともに吹き飛ばし、高速回転する基体(母材)に吹き付けて冷却することによりアモルファス合金を得る、という金属皮膜の形成方法が記載されている。使用する装置は図11に示すとおりであり、ノズル5から噴射する火炎F中に金属粉体を供給し溶融させて基体Mに吹き付け、急冷して基体M上にアモルファス皮膜を作る。図中の符号9は冷却ガスを吹き付ける冷却ノズルである。図のように基体Mとして丸棒状のものを使用すれば、その表面にシームレスパイプ状のアモルファス合金が得られるとされている。
【特許文献1】特開昭55−88927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
母材に対し火炎とともに溶射材料を吹き付けてアモルファス金属や過冷却液相金属を得るためには、火炎によって一旦溶融させた溶射材料をきわめて急速に(つまり材料が過冷却状態になるくらい短時間に温度降下するように)冷却する必要がある。上記の特許文献1にも、102〜104℃/secの速さで合金を急冷する旨が記載されている。
【0005】
しかし実際には、アモルファスまたは過冷却液相が形成される程度に溶射材料を急冷することは容易ではない。火炎とともに噴射された直後など、2000℃を超える高温状態にある材料なら104℃/sec程度かそれ以上の速さで急冷することができても、それが数百℃程度にまで温度降下したのちは、周囲との温度差が小さくなる等の理由により、同様の冷却速度を実現することも最低到達温度を十分に下げることも困難なのである。そのような事情により、材料(とくに融点が500℃以下の低融点金属)をアモルファス化することは難しく、過冷却液相にすることもできにくい。
【0006】
請求項に係る発明は、溶射材料を十分な速度で低温度まで急冷することができ、もって過冷却液相金属皮膜(アモルファス金属皮膜を含む)を形成することが可能な溶射装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項に係る発明の溶射装置は、母材表面に過冷却液相金属の皮膜を形成する溶射装置であって、溶射材料を含む火炎(「火炎」にはアークまたはプラズマジェットを含む。以下も同様)を噴射するとともに、噴射された火炎を、それが母材に至る前より冷却することを特徴とするものである。
この溶射装置によれば、噴射口を出た火炎が冷却され、母材に達する前に相当に温度降下させられる。そしてそれにともない、火炎により一旦溶融させられた溶射材料が火炎の下流側部分等において強く冷却される。したがって、上述のように通常なら十分な冷却速度・最低到達温度を実現しがたい後半部分(比較的低い温度域)においても溶射材料を十分に強く冷却することができ、当該材料を過冷却液相金属皮膜として母材表面に形成することが可能になる。
【0008】
火炎を冷却するためには、上記火炎の噴射口の周囲から、火炎に接する外周部分を流れて次第に火炎の中心線に近づくよう、火炎の中心線に対して9〜12°(好ましくは10°)の角度で冷却ガスを吹き出すようにすると好ましい。
このように冷却ガスを吹き出すなら、当該ガスで火炎の温度を下げるとともに、火炎の広がりを抑えてその長さを短くでき、したがって噴射口から遠くない位置で火炎の温度を低くすることが可能になる。噴射口に近い位置で火炎の温度を下げられるということは、火炎中で一旦溶融した材料を急冷できることにほかならない。噴射口の周囲から冷却ガスを吹き出すと、高温域において火炎を冷却する効果も得られるので、溶射材料を急冷して過冷却液相金属皮膜を形成するうえで有利である。なお、火炎の中心線に対して冷却ガスを7°以下または中心線から遠ざかる向きに吹き出す場合と比べると、上記のとおり中心線に近づく9〜12°の角度で吹き出す場合には、火炎の温度を下げるとともに火炎の広がりを抑えてその長さを短く作用が顕著である(図7〜図9を参照)。
【0009】
さらに、溶射材料の噴出口を火炎の噴射口にて囲まれた位置に設け、その口径を4〜6mm(好ましくは5mm)とするのが好ましい。
溶射材料の噴出口の口径を4〜6mmと大きくすることにより溶射材料が高温度で多量に噴出されるようなり、また、前記のとおり噴射角度9〜12°で吹き出す冷却ガスの作用により、噴射口に近い上流側部分で火炎が冷却されるとともにその広がりが抑えられて火炎長さが短くなる。そうすると、火炎とともに溶射材料を急速に強く冷却できることになる。
【0010】
火炎の下流側部分を冷却するために、火炎の長さ方向における複数箇所で、火炎と離れた外側から火炎の内部に向けてガスまたはミストを含むガスを吹き込むのが好ましい。
ガスまたはミストを含むガスをこのようにして火炎の長さ方向における複数箇所で火炎の内部に吹き込むと、火炎の下流側部分を効果的に冷却することができるため、過冷却液相金属皮膜の形成上有利である。火炎の噴射口の周囲から冷却ガスを吹き出すこととしても、噴射口の周囲にはガスの吹き出し部を設けるスペースが広くは存在しないので、必ずしも十分な量のガスを吹き出して十分な冷却を実現できるとは限らない。その点、火炎と離れた外側からガス等を吹き込むこととすれば、多量の吹き込みが可能となって一層効果的に火炎の冷却が行えるのである。なお、ガスまたはミストを含むガスは、長さ方向だけでなく火炎の周方向における複数箇所から吹き込むようにするとよい。
ガスまたはミストを含むガスとしては、たとえば、ミスト化した水を空気中に混入させたもの(水ミスト)を使用すると、微細な(100μ程度の)水粒子が有する気化熱のために高い冷却能力が発揮される。また水ミストは、火炎と接しても燃焼しないなど、不利な化学反応を引き起こすことがない点でも有利である。
【0011】
ミストを含む上記のガスとして、水ミストを含む空気を、母材(被溶射材)の表面に達するように吹き込むのが有利である。水ミストが、ミストの状態で、つまり全量が気化してしまうまでに母材に届くようにすれば、母材の表面で水ミストが気化して母材を冷却する結果、母材がたとえば80℃程度以下に冷却され、溶射材料による過冷却液相金属皮膜が形成されやすくなる。
【0012】
上記の装置ではとくに、噴射口の出口での火炎の温度を1000〜2600℃とし、上記のとおり冷却することにより、噴射口から300mm以内(好ましくは200mm以内)の箇所で当該火炎の温度を80℃以下にするのがよい。
そのようにすれば、噴出口を出た溶射材料をきわめて急速に冷却することになる。噴出口からの溶射材料の噴出速度を、溶射ガンとして一般的な30m/sec程度とすると、溶射材料の80℃までの平均冷却速度は約20万℃/秒以上となり、過冷却液相金属皮膜の形成に適した冷却速度となる。つまり、火炎温度がこのように80℃以下の温度となる箇所に母材を置けば、溶射材料は過冷却の液相状態で母材上に付着し、過冷却液相金属皮膜(またはアモルファス皮膜)となる。
【0013】
あるいは、上記の装置において、噴出口の出口近くでの火炎の温度を1000〜2600℃とし、上記のとおり冷却することにより、噴出口を出たのち1/100秒以内に当該火炎を80℃以下にするのもよい。
そうする場合にも、噴出口を出た溶射材料を80℃以下の温度にまで平均20万℃/秒以上という高速度で冷却することとなり、過冷却液相金属皮膜の形成に適している。上記と同様、火炎温度が80℃以下の温度となる箇所に母材を置けば、溶射材料は過冷却の液相状態で母材上に付着して過冷却液相金属皮膜となる。
【0014】
上記発明の溶射装置は、噴射口を出た当初の火炎を80万〜140万℃/秒の速度で170℃まで冷却するとともに、80℃に達する時点の火炎を4万〜20万℃/秒の速度で冷却するものとするのがとくに好ましい。
前記したとおり、火炎が高温度である前半の冷却とは違って、火炎が数百℃程度以下になる後半の冷却を高速かつ十分には行いがたく、そのために溶射材料を過冷却液相にもアモルファスにもできないことが一般的には多い。しかし、上記のように火炎の下流側部分を冷却してこのように後半の冷却を強くすれば、過冷却液相金属皮膜等の形成を円滑に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
請求項に係る溶射装置は、火炎を冷却することにより、十分な冷却速度と最低到達温度とを実現することができ、もって当該材料を過冷却液相金属皮膜(またはアモルファス金属皮膜)として母材表面に形成することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の実施に関する形態を図1〜図9に紹介する。図1は実験で使用した溶射装置1を示す図であって、図1(a)は溶射装置1の全体構成図、同(b)はその溶射装置1における火炎温度の分布を示す図である。図2は溶射ガン2の構造を示す図で、図2(a)は全体図、同(b)は同(a)におけるb部(先端部)の詳細図である。図3は、Zn(95%)−Mg(5%)合金の冷却曲線に溶射装置1および他の溶射装置による冷却経過を書き込んだ線図である。図4(a)・(b)・(c)は、溶射装置1に関し溶射中の火炎の状態を示す図であって、同(a)・(b)は火炎の中心線に沿ってその温度の変化を示す線図(同(a)は高温部、同(b)は低温部である)、同(c)はサーマルビジョンで撮影した火炎の温度分布である。図5は、母材Mに貼り付けた熱電対による溶射中の温度測定結果であり、図6は溶射後の母材Mの表面写真である。図7の(a)・(b)は、他の一般的な溶射装置に関して溶射中の火炎の状態を示す、それぞれ図4(a)・(c)と同様の図である。図8(a)・(b)および図9(a)・(b)は、噴射筒6からのエアGの影響を示すための図であって、火炎中心の温度分布(各図(a))とサーマルビジョンによる撮影画像(各図(b))とを表すものである。また図10は、図3のものとは別の合金で形成した溶射皮膜についてX線回折測定結果を示す線図である。
【0017】
まず、図1・図2に基づいて溶射装置1の構成を説明する。溶射装置1は市販の溶射ガン2をベースにしたもので、ガス供給管3等より燃料(アセチレンおよび酸素のそれぞれ)を供給するとともに粉末供給管4より金属粉末およびキャリアガスを供給し、溶射材料(供給された金属粉末が溶融したもの)を含む火炎Fを、溶射ガン2の主ノズル(火口)5から図示右方へ噴射することができる。主ノズル5のうち、図2(b)に示す中央部の噴出口5aより溶射材料が噴出し、その周囲にある複数の噴射口5bより、アセチレンと酸素との混合ガスが燃焼してなる火炎Fが噴射される。
【0018】
実験で使用した溶射装置1は、上記した市販の溶射ガン2に下記a)〜c)のような改変を施している。すなわち、
a) 溶射ガン2の先端付近に支持枠7を設け、図1(a)のようにその支持枠7に複数本のミスト噴射ノズル10(11・12・13・14)を取り付けた。ノズル10のそれぞれは内径が5〜10mm程度の金属管であり、いずれも、支持枠7上に取り付けた基部から溶射ガン2の主ノズル5の外側を火炎Fの噴射方向とほぼ並行に延び、先端部を図のように火炎Fの中心線寄りに傾斜させている。先端部の位置によって、1次ノズル11、2次ノズル12、3次ノズル13、4次ノズル14と名付けている。1次ノズル11は主ノズル5から60mm程度下流側の位置に先端(開口)を設けて噴射先をさらに20〜30mmだけ下流側の火炎中心に向け、他のノズル12・13・14は、この順に主ノズル5から離れた位置に先端を設けて同様に噴射先をそれぞれやや下流側の火炎中心に向けている。これらにより、火炎Fの下流側部分(主ノズル5から母材Mまでのうち後半の約2分の1の範囲)に外側から、冷却用のたとえば水ミストHを吹き付けるのである。ノズル10としては、上記のように1〜4次の各ノズル11〜14を火炎Fの長さ方向に分けて配置したほか、火炎Fの周囲にも、45°〜72°の間隔をおいて各ノズル11〜14を複数本ずつ設けている。また支持枠7に取り付けた各ノズル10の基部は、支持枠7の背部(火炎Fの噴射向きと逆の側)に設けた継手16aに通じていて、その継手16aによりフレキシブルホース16と接続している。なお、支持枠7は実験用のものであり、それを使用せずにミスト噴射ノズル10を配置することも可能である。また、ノズル10(11・12・13・14)の長さや先端の位置、角度、ミスト噴射量等は、冷却条件等に応じて適宜に変更することが可能である。後述するように、ミストを含ませないでエア(または他の気体)のみを噴射することもできる。
【0019】
b) ミスト噴射ノズル10(11〜14)のそれぞれの管の上流側には、上記のフレキシブルホース16を介してミスト発生器15を接続している。ミスト発生器15としては、潤滑油供給に使用する市販のオイルミスト発生器(ルブリケーター)を流用しており、潤滑油に代えて水をその給液部に入れておくことにより、水を霧状(水ミスト)にして空気とともに各ノズル10内に送り込む。溶射装置1は、こうして水ミストHを、上記したノズル10の先端から火炎Fに向けて噴射するのである。ミスト発生器15に何の液体も入れないこととすれば、ミストを含まないエア(または他の気体)をノズル10の先から噴射することができる。
なお、水ミストHを噴射するための手段は上記に限るものではない。むしろ、水とエアとの各配管の先に専用ノズル(二流体ノズル)を取り付けて、そこでミストを発生させるのが一般的である。しかし現在のところそのような専用ノズルは、大きさの点で、溶射ガン2の主ノズル5の先を囲むように複数配置することが難しいため、実験では上記のようにオイルミスト発生器を流用した。潤滑油に代えて水を同発生器に入れることにより水ミストHが発生することは、事前にテストを行って確認した。二流体型の上記した専用ノズルなども、大きさに関する課題が解決されれば溶射装置1において適切に使用できる。
【0020】
c) 溶射ガン2としては、図2(a)・(b)のように、火炎Fを吹き出す主ノズル5の周囲にガス噴射筒(エアキャップ)6を有し、溶射ガン2の本体の冷却および火炎Fの温度コントロール等の目的でそれより冷却ガス(たとえば常温エアG)を吹き出せる型式を採用している。この溶射装置1では、そうした噴射筒6の吹出し孔6aを改造して当該ガスの噴射向きに特有の角度をもたせるとともに、主ノズル5における溶射材料の噴出口5aの口径を大きめに設定し直している。すなわち、冷却ガスの噴射角度としては、外周から次第に火炎Fの中心線に近づくように図示のとおり火炎Fの中心線方向と10°(または9〜12°)の角度をもたせ、主ノズル5の噴出口5aの口径(直径)は5.0mm(または4〜6mm)と市販品(口径は3.0mm)より6割程度大きくした。噴出口5aの口径を大きくしたのは、溶射材料が高温度で多量に噴出され得るようにしたもので、また、冷却ガスの噴射角度として中心線寄りへの10°を設定したのは、噴射筒6からのエアGにより火炎Fを上流側部分(主ノズル5に近い位置)で冷却するとともにその広がりを抑えて火炎長さを短くするためである。なお、ミスト噴射ノズル10による火炎Fの冷却(ミストを噴射しない場合を含む)を「外部冷却」と呼び、ガス噴射筒6からのガスによる冷却を「内部冷却」と呼んで両者を区別することができる。
【0021】
このように改変を加えた図1・図2の溶射装置1を使用すると、主ノズル5から噴射された火炎F(溶射材料を含む)は、溶射距離とともに図1(b)のように温度降下する。すなわち、主ノズル5を出た直後には、その口径が大きく設定されていること等により火炎Fは1000〜2600℃の高温度である(溶射材料の成分等によって異なる)が、前半(母材Mまでの距離の約2分の1まで)のうちに170℃程度に下がり、その後は、やや冷却速度を落としながら母材Mの直前で最下点温度として80℃以下にまで下がる。前半の温度降下は、噴射筒6からのエアGによる冷却と、ミスト噴射ノズル10のうち1次ノズル11等による冷却の効果であると考えられ、また後半の温度降下は、それ以降のミスト噴射ノズル10による冷却が効いていると考えられる。後半において冷却速度が遅くなるのは、火炎Fの温度低下にともなって周囲温度との差が小さくなるためで、ノズル10からのミスト噴射を行わないとしたら後半の冷却速度の低下はさらに著しい。
【0022】
以上のような特徴をもつ溶射装置1を用いた試験により、鉄板の表面上に、溶射によって過冷却液相金属皮膜を形成することができた。試験では、図1(a)のように、主ノズル5の先端開口から約150mmの距離に鉄板製の母材Mを置き、溶射材料としてたとえばMg(マグネシウム)およびZn(亜鉛)を含む金属粉末(Zn(95%)、Mg(5%))を供給して溶射を行った。以下に、発明者らが行った試験の結果等を紹介する。
【0023】
試験中の火炎Fの温度分布を測定すると図4(a)〜(c)のとおりであった。図4(a)・(b)は火炎Fの中心線に沿ってその温度の変化を示す線図(各縦軸は温度指標、横軸は左方の主ノズル5からの相対位置を示す)である。図4(a)は高温域の測定結果であり、同(b)は低温域の測定結果である(測定レンジと測定器の表示機能との関係で図4(a)のうち低温域(200℃以下の部分)にはエラーが表れている)。火炎Fの温度が、当初の高温域(1000〜1500℃)から顕著に降下し、母材Mに近い後半部分においては80℃以下にまで温度降下している。80℃以下という温度はMgZnの合金の融点をはるかに下回るが、溶射材料はこの温度においても過冷却の溶融状態にあり、母材Mの表面上に付着して固体となる。
また、図4(c)はサーマルビジョンによる火炎Fの撮影画像であり、左方に主ノズル5があり右方に母材Mがある。画像では、左右に延びたミスト噴射ノズル10によって火炎Fの一部が遮られているが、火炎Fにおける高温度の範囲がかなり短いことが観察される。
なおサーマルビジョンとは、日本アビオニクス株式会社製の赤外線カメラ(商品名「コンパクトサーモ」。「サーモ」とも呼ぶ)をさす。サーマルビジョンによる測定はε(放射率)0.10で行っている。
【0024】
実験では、母材Mとした薄い鉄板の裏面に熱電対を貼り付けて、溶射中の母材Mの温度変化を測定した。図5はその温度測定結果であり、母材Mの温度は70℃以上には上昇していないことが分かる。火炎Fが水ミストH等で十分に冷却されること、また、一部の水ミストHが気化していない状態で母材Mに当たってその表面を冷却することが、母材Mの温度上昇が抑制される理由であると考えられる。
【0025】
図7(a)・(b)には、比較例として、他の溶射装置を使用する場合の火炎Fの状態を示している。すなわち、ミスト噴射ノズル10を備えず、噴射筒6からの冷却ガスを火炎Fの中心線から離れる向き(発散向き)に吹き出す一般の溶射ガンによって図1(a)と同様に母材Mに向け火炎F(溶射材料を含む)を噴射する場合の、火炎Fの中心線に沿った温度変化(図7(a))と、サーマルビジョンによる火炎Fの画像(図7(b))とを示している。図(b)のように火炎Fは長く、母材Mに当たって戻る部分があること等の影響で火炎Fの温度は後半になってもほとんど下がらない。図示の例は極端な一例であり、ミスト噴射をしないとき母材Mに近いほど火炎Fの温度がつねに高くなるわけではないが、後半における火炎Fの温度降下は、図4の場合に比べて顕著に鈍くなる。
【0026】
図4・図7のようにして測定した火炎Fの温度変化を、低融点(融点475℃)であるZn−Mg合金の冷却曲線(縦軸は温度、横軸は冷却時間)の図中に示すと図3のようになる。図3は、重量比でZn(95%)、Mg(5%)の混合粉末での実績を示している。図1の溶射装置1を使用し、ミスト噴射ノズル10から十分な量の水ミストHを噴射するとともに噴射筒6からエアGを噴射しながら溶射を行う場合には、折れ線ABC(接近した3本をさす)にしたがって火炎Fの温度を下げることができた。線分ABの間では、主ノズル5を出た当初の 1000〜1500℃の火炎Fを、概ね80万℃/秒の速度で170℃前後まで冷却し、それにつづく線分BCの間、すなわち80℃に達する前後の火炎Fを約10万℃/秒の速度で冷却していることになる。そして全体としては、主ノズル5を出たのち1/1000〜2/1000秒後に当該火炎Fの温度を80℃以下にまで下げている。
【0027】
図3に示す折れ線ABCにしたがって火炎Fの温度を下げた場合には、アモルファス金属またはそれに近い過冷却液相金属の皮膜が母材Mの表面上に形成されている。実際、母材M上の金属皮膜についての金属反射度(X線回折分析でのX線強度値であり、低いほどアモルファス化が高い)は、最小のもので8000cpsと低かった。このような金属皮膜には、機械的強度や耐食性等に関してすぐれた性質が備わっている。図3から分かるように、最低温度が下がるにつれて、また冷却速度が上がるにつれて、金属反射度が下がっている。
母材Mの表面に形成された過冷却液相金属皮膜の外観写真(ほぼ原寸大)を、図6に示す。また、使用したX線回折分析(XRD法)の測定器と測定条件については以下のとおりである。
分析装置 : RINT2000(RIGAKU製)
分析条件
管球 : Cu
電圧 : 40kV
電流 : 200mA
測定角度(2θ): 5〜120°
ステップ : 0.02°
スキャンスピード: 4°/min
【0028】
一方、水ミストHの噴射ノズル10の本数を半分に減らした場合には、火炎Fの温度変化は図3中の折れ線ADEまたはAFGに沿うこととなった。これらは、各冷却曲線では最終温度の到達温度も高く、金属反射率はそれぞれ20000cps以上となった。
【0029】
図3の折れ線ABCにしたがって火炎Fを温度降下させたときの溶射等の条件はつぎのとおりである。
供給した燃料ガスの種類および量 : 酸素2.1 m3/h、アセチレン1.8 m3/h
供給した金属粉末の種類と使用量 : ZnMg粉末(重量比でZn95%、Mg5%)
使用量 3〜10 g/min
火炎Fの噴射速度 : 30〜40 m/sec
火炎Fの最高温度 : 800〜1000℃(サーモの測定値による)
火炎Fの最下点温度 : 90〜100℃(サーモの測定値による)
エアの噴射量 : 1段階毎1〜2 m3/min
水ミストHの噴射量 : 1段階毎0.75〜1.25 ml/s
(「1段階」とは、先端部位置のほぼ等しい噴射ノズル11〜14の各群をさす)
【0030】
実験では、噴射筒6からのエアGの影響についても調査した。すなわち、主ノズル5の口径を5.0mmとし、水ミストHは噴射しないこととして、溶射の際、上記したとおり噴射角度(火炎Fの中心線方向との角度)が10°の噴射筒6を使用してエアGを噴射する場合と、噴射角度が中心線寄りに7°のものを使用した場合とについて、火炎の状態を観察した。エアGの圧力はともに0.5MPaとしている。前者の場合の火炎Fの温度変化とサーマルビジョンによる温度分布とを図8(a)・(b)に示し、後者の場合の同様の結果を図9(a)・(b)に示した。
図8(噴射角度が10°の場合)では火炎Fが短く(約150mm)、火炎Fの先の方でその温度が下がっていることが観察される。一方、図9(噴射角度が7°の場合)では火炎Fが長く(約250mm)、先端付近の温度も下がりにくいことが分かる。
【0031】
なお、上記ではMgZn合金の溶射について示したが、溶射装置1で他の材料を溶射する場合にも、母材上に過冷却液相金属またはアモルファス金属の皮膜を形成することが可能である。その一例として、高融点(融点1500℃以上)の高耐食性材料であるFe70Cr10P13C7につき、粉末材料をもとに上述の溶射装置1によって母材M上に溶射したところ、アモルファス皮膜の形成に成功した。その皮膜についてのX線回折測定結果を図10に示す。非晶質であることを示す明瞭なハローピークが確認できる。結晶化度を測定したところ約20%(80%が非晶質)であった。なお、この合金の溶射の際は、外部冷却(図1のミスト噴射ノズル10による冷却)のために、ミストを含まないエアを噴射した。内部冷却のみを行って外部冷却を全く行わない場合にも、結晶化度44%(56%が非晶質)を実現できた。この合金の溶射においては、その他の点でも、前記したMgZn合金の場合とは溶射条件の一部(主ノズルから母材までの距離が200mmである等)が多少相違する。
【0032】
過冷却液相金属皮膜(ないしアモルファス金属皮膜)を形成するための手段は、上記で使用した溶射装置1に限るものではない。たとえば、外部冷却のためのミスト噴射ノズル10(図1参照)は、各ノズルの位置や向きを図示以外の設定にすることができ、主ノズル5を囲む特定の円上の箇所から、多少の広がり角をもって放射状に水ミスト等を噴射するようにすることも可能である。また、上記の溶射装置1はいわゆるフレーム式の溶射機をもとに構成したが、アーク式溶射機またはプラズマ式溶射機によって溶射装置1を構成することも可能である。アーク式溶射機の場合にはアークの一部を冷却し、プラズマ式溶射機の場合にはプラズマジェットの一部を冷却するとよい。溶射材料として、粉末材料に代えて線材等を使用することも可能である。
【0033】
母材上に形成される過冷却液相金属皮膜(ないしアモルファス金属皮膜)の表面粗度については、溶射材料とする粉末の粒度、外部冷却のためのガスの噴射圧力・噴射量、主ノズルと母材との間の距離などによって調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】発明の溶射装置1を示す図であって、図1(a)は溶射装置1の全体構成図、同(b)はその溶射装置1における火炎温度の分布を示す図である。
【図2】溶射ガン2の構造を示す図で、図2(a)は全体図、同(b)は同(a)におけるb部詳細図である。
【図3】Zn−Mg合金の冷却曲線に発明の溶射装置および他の溶射装置による火炎の冷却経過を書き込んだ線図である。
【図4】発明の溶射装置1に関し溶射中の火炎の状態を示す図であって、図4(a)・(b)は火炎の中心線に沿ってその温度の変化を示す線図、同(c)はサーマルビジョンで撮影した火炎の温度分布である。
【図5】母材Mの表面に貼り付けた熱電対による母材Mの温度測定結果である。
【図6】溶射後の母材Mの表面を示す写真である。
【図7】他の一般的な溶射装置に関して溶射中の火炎の状態を示す図であって、図7(a)は火炎の中心線に沿ってその温度の変化を示す線図、同(b)はサーマルビジョンで撮影した火炎の温度分布である。
【図8】エアGを吹き出す噴射筒6として、噴射角度が10°のものを使用した場合の火炎の状態を示す図であって、図8(a)は火炎の中心線に沿ってその温度の変化を示す線図、同(b))はサーマルビジョンで撮影した火炎の温度分布である。
【図9】比較例として、エアGを吹き出す噴射筒6として噴射角度が7°のものを使用した場合の火炎の状態を示す図であって、図8(a)・(b)と同様にして得た図を図9(a)・(b)に示している。
【図10】図3のものとは別の合金で形成した溶射皮膜についてX線回折測定結果を示す線図である。
【図11】従来の溶射装置を示す概念図である。
【符号の説明】
【0035】
1 溶射装置
5 主ノズル
6 ガス噴射筒
10(11・12・13・14) ミスト噴射ノズル
F 火炎
G エア(冷却ガス)
H 水ミスト
M 母材
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、金属等の母材の表面に、過冷却液相金属(過冷却液相を経由した金属。アモルファス金属を含む)の皮膜を形成するための溶射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファス(非晶質)金属は、結晶状態と相違する不規則な原子配列をもつ金属であり、機械的強度や耐食性が高く磁気的特性にもすぐれるため、その製造方法や用途について種々の研究・開発がなされている。物体の表面に溶射によってアモルファス皮膜を形成する技術に関してもさまざまな提案がなされている。アモルファス皮膜が溶射にて形成できるなら、大気中で簡単に作業が行えて、広い面積部分に対しても容易に施工できるというメリットがあるからである。なお、完全なアモルファス金属でなく一部がアモルファス化した過冷却液相金属であっても、一般に機械的強度や耐食性、磁気的特性等に関してすぐれた性質を発揮する。
【0003】
下記の特許文献1では、プラズマ溶射等によって溶解した合金原料を火炎とともに吹き飛ばし、高速回転する基体(母材)に吹き付けて冷却することによりアモルファス合金を得る、という金属皮膜の形成方法が記載されている。使用する装置は図11に示すとおりであり、ノズル5から噴射する火炎F中に金属粉体を供給し溶融させて基体Mに吹き付け、急冷して基体M上にアモルファス皮膜を作る。図中の符号9は冷却ガスを吹き付ける冷却ノズルである。図のように基体Mとして丸棒状のものを使用すれば、その表面にシームレスパイプ状のアモルファス合金が得られるとされている。
【特許文献1】特開昭55−88927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
母材に対し火炎とともに溶射材料を吹き付けてアモルファス金属や過冷却液相金属を得るためには、火炎によって一旦溶融させた溶射材料をきわめて急速に(つまり材料が過冷却状態になるくらい短時間に温度降下するように)冷却する必要がある。上記の特許文献1にも、102〜104℃/secの速さで合金を急冷する旨が記載されている。
【0005】
しかし実際には、アモルファスまたは過冷却液相が形成される程度に溶射材料を急冷することは容易ではない。火炎とともに噴射された直後など、2000℃を超える高温状態にある材料なら104℃/sec程度かそれ以上の速さで急冷することができても、それが数百℃程度にまで温度降下したのちは、周囲との温度差が小さくなる等の理由により、同様の冷却速度を実現することも最低到達温度を十分に下げることも困難なのである。そのような事情により、材料(とくに融点が500℃以下の低融点金属)をアモルファス化することは難しく、過冷却液相にすることもできにくい。
【0006】
請求項に係る発明は、溶射材料を十分な速度で低温度まで急冷することができ、もって過冷却液相金属皮膜(アモルファス金属皮膜を含む)を形成することが可能な溶射装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項に係る発明の溶射装置は、母材表面に過冷却液相金属の皮膜を形成する溶射装置であって、溶射材料を含む火炎(「火炎」にはアークまたはプラズマジェットを含む。以下も同様)を噴射するとともに、噴射された火炎を、それが母材に至る前より冷却することを特徴とするものである。
この溶射装置によれば、噴射口を出た火炎が冷却され、母材に達する前に相当に温度降下させられる。そしてそれにともない、火炎により一旦溶融させられた溶射材料が火炎の下流側部分等において強く冷却される。したがって、上述のように通常なら十分な冷却速度・最低到達温度を実現しがたい後半部分(比較的低い温度域)においても溶射材料を十分に強く冷却することができ、当該材料を過冷却液相金属皮膜として母材表面に形成することが可能になる。
【0008】
火炎を冷却するためには、上記火炎の噴射口の周囲から、火炎に接する外周部分を流れて次第に火炎の中心線に近づくよう、火炎の中心線に対して9〜12°(好ましくは10°)の角度で冷却ガスを吹き出すようにすると好ましい。
このように冷却ガスを吹き出すなら、当該ガスで火炎の温度を下げるとともに、火炎の広がりを抑えてその長さを短くでき、したがって噴射口から遠くない位置で火炎の温度を低くすることが可能になる。噴射口に近い位置で火炎の温度を下げられるということは、火炎中で一旦溶融した材料を急冷できることにほかならない。噴射口の周囲から冷却ガスを吹き出すと、高温域において火炎を冷却する効果も得られるので、溶射材料を急冷して過冷却液相金属皮膜を形成するうえで有利である。なお、火炎の中心線に対して冷却ガスを7°以下または中心線から遠ざかる向きに吹き出す場合と比べると、上記のとおり中心線に近づく9〜12°の角度で吹き出す場合には、火炎の温度を下げるとともに火炎の広がりを抑えてその長さを短く作用が顕著である(図7〜図9を参照)。
【0009】
さらに、溶射材料の噴出口を火炎の噴射口にて囲まれた位置に設け、その口径を4〜6mm(好ましくは5mm)とするのが好ましい。
溶射材料の噴出口の口径を4〜6mmと大きくすることにより溶射材料が高温度で多量に噴出されるようなり、また、前記のとおり噴射角度9〜12°で吹き出す冷却ガスの作用により、噴射口に近い上流側部分で火炎が冷却されるとともにその広がりが抑えられて火炎長さが短くなる。そうすると、火炎とともに溶射材料を急速に強く冷却できることになる。
【0010】
火炎の下流側部分を冷却するために、火炎の長さ方向における複数箇所で、火炎と離れた外側から火炎の内部に向けてガスまたはミストを含むガスを吹き込むのが好ましい。
ガスまたはミストを含むガスをこのようにして火炎の長さ方向における複数箇所で火炎の内部に吹き込むと、火炎の下流側部分を効果的に冷却することができるため、過冷却液相金属皮膜の形成上有利である。火炎の噴射口の周囲から冷却ガスを吹き出すこととしても、噴射口の周囲にはガスの吹き出し部を設けるスペースが広くは存在しないので、必ずしも十分な量のガスを吹き出して十分な冷却を実現できるとは限らない。その点、火炎と離れた外側からガス等を吹き込むこととすれば、多量の吹き込みが可能となって一層効果的に火炎の冷却が行えるのである。なお、ガスまたはミストを含むガスは、長さ方向だけでなく火炎の周方向における複数箇所から吹き込むようにするとよい。
ガスまたはミストを含むガスとしては、たとえば、ミスト化した水を空気中に混入させたもの(水ミスト)を使用すると、微細な(100μ程度の)水粒子が有する気化熱のために高い冷却能力が発揮される。また水ミストは、火炎と接しても燃焼しないなど、不利な化学反応を引き起こすことがない点でも有利である。
【0011】
ミストを含む上記のガスとして、水ミストを含む空気を、母材(被溶射材)の表面に達するように吹き込むのが有利である。水ミストが、ミストの状態で、つまり全量が気化してしまうまでに母材に届くようにすれば、母材の表面で水ミストが気化して母材を冷却する結果、母材がたとえば80℃程度以下に冷却され、溶射材料による過冷却液相金属皮膜が形成されやすくなる。
【0012】
上記の装置ではとくに、噴射口の出口での火炎の温度を1000〜2600℃とし、上記のとおり冷却することにより、噴射口から300mm以内(好ましくは200mm以内)の箇所で当該火炎の温度を80℃以下にするのがよい。
そのようにすれば、噴出口を出た溶射材料をきわめて急速に冷却することになる。噴出口からの溶射材料の噴出速度を、溶射ガンとして一般的な30m/sec程度とすると、溶射材料の80℃までの平均冷却速度は約20万℃/秒以上となり、過冷却液相金属皮膜の形成に適した冷却速度となる。つまり、火炎温度がこのように80℃以下の温度となる箇所に母材を置けば、溶射材料は過冷却の液相状態で母材上に付着し、過冷却液相金属皮膜(またはアモルファス皮膜)となる。
【0013】
あるいは、上記の装置において、噴出口の出口近くでの火炎の温度を1000〜2600℃とし、上記のとおり冷却することにより、噴出口を出たのち1/100秒以内に当該火炎を80℃以下にするのもよい。
そうする場合にも、噴出口を出た溶射材料を80℃以下の温度にまで平均20万℃/秒以上という高速度で冷却することとなり、過冷却液相金属皮膜の形成に適している。上記と同様、火炎温度が80℃以下の温度となる箇所に母材を置けば、溶射材料は過冷却の液相状態で母材上に付着して過冷却液相金属皮膜となる。
【0014】
上記発明の溶射装置は、噴射口を出た当初の火炎を80万〜140万℃/秒の速度で170℃まで冷却するとともに、80℃に達する時点の火炎を4万〜20万℃/秒の速度で冷却するものとするのがとくに好ましい。
前記したとおり、火炎が高温度である前半の冷却とは違って、火炎が数百℃程度以下になる後半の冷却を高速かつ十分には行いがたく、そのために溶射材料を過冷却液相にもアモルファスにもできないことが一般的には多い。しかし、上記のように火炎の下流側部分を冷却してこのように後半の冷却を強くすれば、過冷却液相金属皮膜等の形成を円滑に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
請求項に係る溶射装置は、火炎を冷却することにより、十分な冷却速度と最低到達温度とを実現することができ、もって当該材料を過冷却液相金属皮膜(またはアモルファス金属皮膜)として母材表面に形成することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の実施に関する形態を図1〜図9に紹介する。図1は実験で使用した溶射装置1を示す図であって、図1(a)は溶射装置1の全体構成図、同(b)はその溶射装置1における火炎温度の分布を示す図である。図2は溶射ガン2の構造を示す図で、図2(a)は全体図、同(b)は同(a)におけるb部(先端部)の詳細図である。図3は、Zn(95%)−Mg(5%)合金の冷却曲線に溶射装置1および他の溶射装置による冷却経過を書き込んだ線図である。図4(a)・(b)・(c)は、溶射装置1に関し溶射中の火炎の状態を示す図であって、同(a)・(b)は火炎の中心線に沿ってその温度の変化を示す線図(同(a)は高温部、同(b)は低温部である)、同(c)はサーマルビジョンで撮影した火炎の温度分布である。図5は、母材Mに貼り付けた熱電対による溶射中の温度測定結果であり、図6は溶射後の母材Mの表面写真である。図7の(a)・(b)は、他の一般的な溶射装置に関して溶射中の火炎の状態を示す、それぞれ図4(a)・(c)と同様の図である。図8(a)・(b)および図9(a)・(b)は、噴射筒6からのエアGの影響を示すための図であって、火炎中心の温度分布(各図(a))とサーマルビジョンによる撮影画像(各図(b))とを表すものである。また図10は、図3のものとは別の合金で形成した溶射皮膜についてX線回折測定結果を示す線図である。
【0017】
まず、図1・図2に基づいて溶射装置1の構成を説明する。溶射装置1は市販の溶射ガン2をベースにしたもので、ガス供給管3等より燃料(アセチレンおよび酸素のそれぞれ)を供給するとともに粉末供給管4より金属粉末およびキャリアガスを供給し、溶射材料(供給された金属粉末が溶融したもの)を含む火炎Fを、溶射ガン2の主ノズル(火口)5から図示右方へ噴射することができる。主ノズル5のうち、図2(b)に示す中央部の噴出口5aより溶射材料が噴出し、その周囲にある複数の噴射口5bより、アセチレンと酸素との混合ガスが燃焼してなる火炎Fが噴射される。
【0018】
実験で使用した溶射装置1は、上記した市販の溶射ガン2に下記a)〜c)のような改変を施している。すなわち、
a) 溶射ガン2の先端付近に支持枠7を設け、図1(a)のようにその支持枠7に複数本のミスト噴射ノズル10(11・12・13・14)を取り付けた。ノズル10のそれぞれは内径が5〜10mm程度の金属管であり、いずれも、支持枠7上に取り付けた基部から溶射ガン2の主ノズル5の外側を火炎Fの噴射方向とほぼ並行に延び、先端部を図のように火炎Fの中心線寄りに傾斜させている。先端部の位置によって、1次ノズル11、2次ノズル12、3次ノズル13、4次ノズル14と名付けている。1次ノズル11は主ノズル5から60mm程度下流側の位置に先端(開口)を設けて噴射先をさらに20〜30mmだけ下流側の火炎中心に向け、他のノズル12・13・14は、この順に主ノズル5から離れた位置に先端を設けて同様に噴射先をそれぞれやや下流側の火炎中心に向けている。これらにより、火炎Fの下流側部分(主ノズル5から母材Mまでのうち後半の約2分の1の範囲)に外側から、冷却用のたとえば水ミストHを吹き付けるのである。ノズル10としては、上記のように1〜4次の各ノズル11〜14を火炎Fの長さ方向に分けて配置したほか、火炎Fの周囲にも、45°〜72°の間隔をおいて各ノズル11〜14を複数本ずつ設けている。また支持枠7に取り付けた各ノズル10の基部は、支持枠7の背部(火炎Fの噴射向きと逆の側)に設けた継手16aに通じていて、その継手16aによりフレキシブルホース16と接続している。なお、支持枠7は実験用のものであり、それを使用せずにミスト噴射ノズル10を配置することも可能である。また、ノズル10(11・12・13・14)の長さや先端の位置、角度、ミスト噴射量等は、冷却条件等に応じて適宜に変更することが可能である。後述するように、ミストを含ませないでエア(または他の気体)のみを噴射することもできる。
【0019】
b) ミスト噴射ノズル10(11〜14)のそれぞれの管の上流側には、上記のフレキシブルホース16を介してミスト発生器15を接続している。ミスト発生器15としては、潤滑油供給に使用する市販のオイルミスト発生器(ルブリケーター)を流用しており、潤滑油に代えて水をその給液部に入れておくことにより、水を霧状(水ミスト)にして空気とともに各ノズル10内に送り込む。溶射装置1は、こうして水ミストHを、上記したノズル10の先端から火炎Fに向けて噴射するのである。ミスト発生器15に何の液体も入れないこととすれば、ミストを含まないエア(または他の気体)をノズル10の先から噴射することができる。
なお、水ミストHを噴射するための手段は上記に限るものではない。むしろ、水とエアとの各配管の先に専用ノズル(二流体ノズル)を取り付けて、そこでミストを発生させるのが一般的である。しかし現在のところそのような専用ノズルは、大きさの点で、溶射ガン2の主ノズル5の先を囲むように複数配置することが難しいため、実験では上記のようにオイルミスト発生器を流用した。潤滑油に代えて水を同発生器に入れることにより水ミストHが発生することは、事前にテストを行って確認した。二流体型の上記した専用ノズルなども、大きさに関する課題が解決されれば溶射装置1において適切に使用できる。
【0020】
c) 溶射ガン2としては、図2(a)・(b)のように、火炎Fを吹き出す主ノズル5の周囲にガス噴射筒(エアキャップ)6を有し、溶射ガン2の本体の冷却および火炎Fの温度コントロール等の目的でそれより冷却ガス(たとえば常温エアG)を吹き出せる型式を採用している。この溶射装置1では、そうした噴射筒6の吹出し孔6aを改造して当該ガスの噴射向きに特有の角度をもたせるとともに、主ノズル5における溶射材料の噴出口5aの口径を大きめに設定し直している。すなわち、冷却ガスの噴射角度としては、外周から次第に火炎Fの中心線に近づくように図示のとおり火炎Fの中心線方向と10°(または9〜12°)の角度をもたせ、主ノズル5の噴出口5aの口径(直径)は5.0mm(または4〜6mm)と市販品(口径は3.0mm)より6割程度大きくした。噴出口5aの口径を大きくしたのは、溶射材料が高温度で多量に噴出され得るようにしたもので、また、冷却ガスの噴射角度として中心線寄りへの10°を設定したのは、噴射筒6からのエアGにより火炎Fを上流側部分(主ノズル5に近い位置)で冷却するとともにその広がりを抑えて火炎長さを短くするためである。なお、ミスト噴射ノズル10による火炎Fの冷却(ミストを噴射しない場合を含む)を「外部冷却」と呼び、ガス噴射筒6からのガスによる冷却を「内部冷却」と呼んで両者を区別することができる。
【0021】
このように改変を加えた図1・図2の溶射装置1を使用すると、主ノズル5から噴射された火炎F(溶射材料を含む)は、溶射距離とともに図1(b)のように温度降下する。すなわち、主ノズル5を出た直後には、その口径が大きく設定されていること等により火炎Fは1000〜2600℃の高温度である(溶射材料の成分等によって異なる)が、前半(母材Mまでの距離の約2分の1まで)のうちに170℃程度に下がり、その後は、やや冷却速度を落としながら母材Mの直前で最下点温度として80℃以下にまで下がる。前半の温度降下は、噴射筒6からのエアGによる冷却と、ミスト噴射ノズル10のうち1次ノズル11等による冷却の効果であると考えられ、また後半の温度降下は、それ以降のミスト噴射ノズル10による冷却が効いていると考えられる。後半において冷却速度が遅くなるのは、火炎Fの温度低下にともなって周囲温度との差が小さくなるためで、ノズル10からのミスト噴射を行わないとしたら後半の冷却速度の低下はさらに著しい。
【0022】
以上のような特徴をもつ溶射装置1を用いた試験により、鉄板の表面上に、溶射によって過冷却液相金属皮膜を形成することができた。試験では、図1(a)のように、主ノズル5の先端開口から約150mmの距離に鉄板製の母材Mを置き、溶射材料としてたとえばMg(マグネシウム)およびZn(亜鉛)を含む金属粉末(Zn(95%)、Mg(5%))を供給して溶射を行った。以下に、発明者らが行った試験の結果等を紹介する。
【0023】
試験中の火炎Fの温度分布を測定すると図4(a)〜(c)のとおりであった。図4(a)・(b)は火炎Fの中心線に沿ってその温度の変化を示す線図(各縦軸は温度指標、横軸は左方の主ノズル5からの相対位置を示す)である。図4(a)は高温域の測定結果であり、同(b)は低温域の測定結果である(測定レンジと測定器の表示機能との関係で図4(a)のうち低温域(200℃以下の部分)にはエラーが表れている)。火炎Fの温度が、当初の高温域(1000〜1500℃)から顕著に降下し、母材Mに近い後半部分においては80℃以下にまで温度降下している。80℃以下という温度はMgZnの合金の融点をはるかに下回るが、溶射材料はこの温度においても過冷却の溶融状態にあり、母材Mの表面上に付着して固体となる。
また、図4(c)はサーマルビジョンによる火炎Fの撮影画像であり、左方に主ノズル5があり右方に母材Mがある。画像では、左右に延びたミスト噴射ノズル10によって火炎Fの一部が遮られているが、火炎Fにおける高温度の範囲がかなり短いことが観察される。
なおサーマルビジョンとは、日本アビオニクス株式会社製の赤外線カメラ(商品名「コンパクトサーモ」。「サーモ」とも呼ぶ)をさす。サーマルビジョンによる測定はε(放射率)0.10で行っている。
【0024】
実験では、母材Mとした薄い鉄板の裏面に熱電対を貼り付けて、溶射中の母材Mの温度変化を測定した。図5はその温度測定結果であり、母材Mの温度は70℃以上には上昇していないことが分かる。火炎Fが水ミストH等で十分に冷却されること、また、一部の水ミストHが気化していない状態で母材Mに当たってその表面を冷却することが、母材Mの温度上昇が抑制される理由であると考えられる。
【0025】
図7(a)・(b)には、比較例として、他の溶射装置を使用する場合の火炎Fの状態を示している。すなわち、ミスト噴射ノズル10を備えず、噴射筒6からの冷却ガスを火炎Fの中心線から離れる向き(発散向き)に吹き出す一般の溶射ガンによって図1(a)と同様に母材Mに向け火炎F(溶射材料を含む)を噴射する場合の、火炎Fの中心線に沿った温度変化(図7(a))と、サーマルビジョンによる火炎Fの画像(図7(b))とを示している。図(b)のように火炎Fは長く、母材Mに当たって戻る部分があること等の影響で火炎Fの温度は後半になってもほとんど下がらない。図示の例は極端な一例であり、ミスト噴射をしないとき母材Mに近いほど火炎Fの温度がつねに高くなるわけではないが、後半における火炎Fの温度降下は、図4の場合に比べて顕著に鈍くなる。
【0026】
図4・図7のようにして測定した火炎Fの温度変化を、低融点(融点475℃)であるZn−Mg合金の冷却曲線(縦軸は温度、横軸は冷却時間)の図中に示すと図3のようになる。図3は、重量比でZn(95%)、Mg(5%)の混合粉末での実績を示している。図1の溶射装置1を使用し、ミスト噴射ノズル10から十分な量の水ミストHを噴射するとともに噴射筒6からエアGを噴射しながら溶射を行う場合には、折れ線ABC(接近した3本をさす)にしたがって火炎Fの温度を下げることができた。線分ABの間では、主ノズル5を出た当初の 1000〜1500℃の火炎Fを、概ね80万℃/秒の速度で170℃前後まで冷却し、それにつづく線分BCの間、すなわち80℃に達する前後の火炎Fを約10万℃/秒の速度で冷却していることになる。そして全体としては、主ノズル5を出たのち1/1000〜2/1000秒後に当該火炎Fの温度を80℃以下にまで下げている。
【0027】
図3に示す折れ線ABCにしたがって火炎Fの温度を下げた場合には、アモルファス金属またはそれに近い過冷却液相金属の皮膜が母材Mの表面上に形成されている。実際、母材M上の金属皮膜についての金属反射度(X線回折分析でのX線強度値であり、低いほどアモルファス化が高い)は、最小のもので8000cpsと低かった。このような金属皮膜には、機械的強度や耐食性等に関してすぐれた性質が備わっている。図3から分かるように、最低温度が下がるにつれて、また冷却速度が上がるにつれて、金属反射度が下がっている。
母材Mの表面に形成された過冷却液相金属皮膜の外観写真(ほぼ原寸大)を、図6に示す。また、使用したX線回折分析(XRD法)の測定器と測定条件については以下のとおりである。
分析装置 : RINT2000(RIGAKU製)
分析条件
管球 : Cu
電圧 : 40kV
電流 : 200mA
測定角度(2θ): 5〜120°
ステップ : 0.02°
スキャンスピード: 4°/min
【0028】
一方、水ミストHの噴射ノズル10の本数を半分に減らした場合には、火炎Fの温度変化は図3中の折れ線ADEまたはAFGに沿うこととなった。これらは、各冷却曲線では最終温度の到達温度も高く、金属反射率はそれぞれ20000cps以上となった。
【0029】
図3の折れ線ABCにしたがって火炎Fを温度降下させたときの溶射等の条件はつぎのとおりである。
供給した燃料ガスの種類および量 : 酸素2.1 m3/h、アセチレン1.8 m3/h
供給した金属粉末の種類と使用量 : ZnMg粉末(重量比でZn95%、Mg5%)
使用量 3〜10 g/min
火炎Fの噴射速度 : 30〜40 m/sec
火炎Fの最高温度 : 800〜1000℃(サーモの測定値による)
火炎Fの最下点温度 : 90〜100℃(サーモの測定値による)
エアの噴射量 : 1段階毎1〜2 m3/min
水ミストHの噴射量 : 1段階毎0.75〜1.25 ml/s
(「1段階」とは、先端部位置のほぼ等しい噴射ノズル11〜14の各群をさす)
【0030】
実験では、噴射筒6からのエアGの影響についても調査した。すなわち、主ノズル5の口径を5.0mmとし、水ミストHは噴射しないこととして、溶射の際、上記したとおり噴射角度(火炎Fの中心線方向との角度)が10°の噴射筒6を使用してエアGを噴射する場合と、噴射角度が中心線寄りに7°のものを使用した場合とについて、火炎の状態を観察した。エアGの圧力はともに0.5MPaとしている。前者の場合の火炎Fの温度変化とサーマルビジョンによる温度分布とを図8(a)・(b)に示し、後者の場合の同様の結果を図9(a)・(b)に示した。
図8(噴射角度が10°の場合)では火炎Fが短く(約150mm)、火炎Fの先の方でその温度が下がっていることが観察される。一方、図9(噴射角度が7°の場合)では火炎Fが長く(約250mm)、先端付近の温度も下がりにくいことが分かる。
【0031】
なお、上記ではMgZn合金の溶射について示したが、溶射装置1で他の材料を溶射する場合にも、母材上に過冷却液相金属またはアモルファス金属の皮膜を形成することが可能である。その一例として、高融点(融点1500℃以上)の高耐食性材料であるFe70Cr10P13C7につき、粉末材料をもとに上述の溶射装置1によって母材M上に溶射したところ、アモルファス皮膜の形成に成功した。その皮膜についてのX線回折測定結果を図10に示す。非晶質であることを示す明瞭なハローピークが確認できる。結晶化度を測定したところ約20%(80%が非晶質)であった。なお、この合金の溶射の際は、外部冷却(図1のミスト噴射ノズル10による冷却)のために、ミストを含まないエアを噴射した。内部冷却のみを行って外部冷却を全く行わない場合にも、結晶化度44%(56%が非晶質)を実現できた。この合金の溶射においては、その他の点でも、前記したMgZn合金の場合とは溶射条件の一部(主ノズルから母材までの距離が200mmである等)が多少相違する。
【0032】
過冷却液相金属皮膜(ないしアモルファス金属皮膜)を形成するための手段は、上記で使用した溶射装置1に限るものではない。たとえば、外部冷却のためのミスト噴射ノズル10(図1参照)は、各ノズルの位置や向きを図示以外の設定にすることができ、主ノズル5を囲む特定の円上の箇所から、多少の広がり角をもって放射状に水ミスト等を噴射するようにすることも可能である。また、上記の溶射装置1はいわゆるフレーム式の溶射機をもとに構成したが、アーク式溶射機またはプラズマ式溶射機によって溶射装置1を構成することも可能である。アーク式溶射機の場合にはアークの一部を冷却し、プラズマ式溶射機の場合にはプラズマジェットの一部を冷却するとよい。溶射材料として、粉末材料に代えて線材等を使用することも可能である。
【0033】
母材上に形成される過冷却液相金属皮膜(ないしアモルファス金属皮膜)の表面粗度については、溶射材料とする粉末の粒度、外部冷却のためのガスの噴射圧力・噴射量、主ノズルと母材との間の距離などによって調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】発明の溶射装置1を示す図であって、図1(a)は溶射装置1の全体構成図、同(b)はその溶射装置1における火炎温度の分布を示す図である。
【図2】溶射ガン2の構造を示す図で、図2(a)は全体図、同(b)は同(a)におけるb部詳細図である。
【図3】Zn−Mg合金の冷却曲線に発明の溶射装置および他の溶射装置による火炎の冷却経過を書き込んだ線図である。
【図4】発明の溶射装置1に関し溶射中の火炎の状態を示す図であって、図4(a)・(b)は火炎の中心線に沿ってその温度の変化を示す線図、同(c)はサーマルビジョンで撮影した火炎の温度分布である。
【図5】母材Mの表面に貼り付けた熱電対による母材Mの温度測定結果である。
【図6】溶射後の母材Mの表面を示す写真である。
【図7】他の一般的な溶射装置に関して溶射中の火炎の状態を示す図であって、図7(a)は火炎の中心線に沿ってその温度の変化を示す線図、同(b)はサーマルビジョンで撮影した火炎の温度分布である。
【図8】エアGを吹き出す噴射筒6として、噴射角度が10°のものを使用した場合の火炎の状態を示す図であって、図8(a)は火炎の中心線に沿ってその温度の変化を示す線図、同(b))はサーマルビジョンで撮影した火炎の温度分布である。
【図9】比較例として、エアGを吹き出す噴射筒6として噴射角度が7°のものを使用した場合の火炎の状態を示す図であって、図8(a)・(b)と同様にして得た図を図9(a)・(b)に示している。
【図10】図3のものとは別の合金で形成した溶射皮膜についてX線回折測定結果を示す線図である。
【図11】従来の溶射装置を示す概念図である。
【符号の説明】
【0035】
1 溶射装置
5 主ノズル
6 ガス噴射筒
10(11・12・13・14) ミスト噴射ノズル
F 火炎
G エア(冷却ガス)
H 水ミスト
M 母材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材表面に過冷却液相金属の皮膜を形成する溶射装置であって、
溶射材料を含む火炎を噴射するとともに、噴射された火炎を、それが母材に至る前より冷却することを特徴とする過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項2】
上記火炎の噴射口の周囲から、火炎に接する外周部分を流れて次第に火炎の中心線に近づくよう、火炎の中心線に対して9〜12°の角度で冷却ガスを吹き出すことを特徴とする請求項1に記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項3】
溶射材料の噴出口が火炎の噴射口にて囲まれた位置にあり、その口径が4〜6mmであることを特徴とする請求項2に記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項4】
火炎の下流側部分を冷却するために、火炎の長さ方向における複数箇所で、火炎と離れた外側から火炎の内部に向けてガスまたはミストを含むガスを吹き込むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項5】
ミストを含むガスとして、水ミストを含む空気を、母材表面に達するように吹き込むことを特徴とする請求項4に記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項6】
噴射口の出口での火炎の温度を1000〜2600℃とし、上記のとおり冷却することにより噴射口から300mm以内の箇所で当該火炎の温度を80℃以下にすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項7】
噴射口の出口での火炎の温度を1000〜2600℃とし、上記のとおり冷却することにより、噴射口を出たのち1/100秒以内に当該火炎を80℃以下にすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項8】
噴射口を出た当初の火炎を80万〜140万℃/秒の速度で170℃まで冷却するとともに、80℃に達する時点の火炎を4万〜20万℃/秒の速度で冷却することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項1】
母材表面に過冷却液相金属の皮膜を形成する溶射装置であって、
溶射材料を含む火炎を噴射するとともに、噴射された火炎を、それが母材に至る前より冷却することを特徴とする過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項2】
上記火炎の噴射口の周囲から、火炎に接する外周部分を流れて次第に火炎の中心線に近づくよう、火炎の中心線に対して9〜12°の角度で冷却ガスを吹き出すことを特徴とする請求項1に記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項3】
溶射材料の噴出口が火炎の噴射口にて囲まれた位置にあり、その口径が4〜6mmであることを特徴とする請求項2に記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項4】
火炎の下流側部分を冷却するために、火炎の長さ方向における複数箇所で、火炎と離れた外側から火炎の内部に向けてガスまたはミストを含むガスを吹き込むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項5】
ミストを含むガスとして、水ミストを含む空気を、母材表面に達するように吹き込むことを特徴とする請求項4に記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項6】
噴射口の出口での火炎の温度を1000〜2600℃とし、上記のとおり冷却することにより噴射口から300mm以内の箇所で当該火炎の温度を80℃以下にすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項7】
噴射口の出口での火炎の温度を1000〜2600℃とし、上記のとおり冷却することにより、噴射口を出たのち1/100秒以内に当該火炎を80℃以下にすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【請求項8】
噴射口を出た当初の火炎を80万〜140万℃/秒の速度で170℃まで冷却するとともに、80℃に達する時点の火炎を4万〜20万℃/秒の速度で冷却することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載した過冷却液相金属皮膜の形成用溶射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図10】
【図11】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図5】
【図10】
【図11】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2008−43869(P2008−43869A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221112(P2006−221112)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(000150280)株式会社中山製鋼所 (26)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(000150280)株式会社中山製鋼所 (26)
【Fターム(参考)】
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