説明

過給機

【課題】タービン羽根車へ内燃機関の排ガスを導入するための排ガス通路における排ガスの通過効率を向上させ、タービン羽根車へ効率よく排ガスを供給すること。
【解決手段】この過給機1は、内燃機関が排出した排ガスで駆動されて圧縮用羽根車3Iを駆動するタービン羽根車2Iと、前記内燃機関から排出される排ガスをタービン羽根車2Iに導く固定ノズル10とを備える。固定ノズル10には、内燃機関から排出された排ガスが通過する排ガス通路11が複数形成される。この排ガス通路11は、スロート部の通路断面が円形状で、排ガス通路入口部及び排ガス通路出口部の通路断面は四角形に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関から排出される排ガスでタービン羽根車を回転させ、これによって圧縮機を駆動して前記内燃機関に対して過給する過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関が排出する排ガスの運動エネルギを利用してタービン羽根車を駆動し、これによって圧縮機を駆動して空気を強制的に内燃機関の燃焼室へ送り込み、当該燃焼室への空気の充填効率を高める過給機が種々提案され、実用化されている。このような過給機では、いわゆるラジアルタービンが用いられる。近年においては、タービン側のノズルベーンを可変構造として過給圧力を制御する、いわゆるVG(Variable Geometry:可変容量)式のターボチャージャーが実用化され、用いられるようになってきている。例えば、特許文献1には、タービン動翼へのガス流入路を形成する複数の固定ノズルと、前記固定ノズルの間のガス流入路を遮蔽し、かつ流入路の遮蔽量を可変とする遮蔽部材とを備えるラジアル式タービンが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−299403号公報 第2ページ、図1、図2、図3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された上記ガス流入路では、流路断面が矩形であるため流入路内の流れが不均一となり、流入路を通過するガスを効率よくタービン動翼へ導けないおそれがある。そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、タービン羽根車へ内燃機関の排ガスを導入するための排ガス通路における排ガスの通過効率を向上させ、タービン羽根車へ効率よく排ガスを供給できる過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る過給機は、内燃機関が排出した排ガスで駆動されて圧縮用羽根車を駆動するタービン羽根車と、前記排ガスの入口から前記排ガスの出口に向かって通路断面積が変化する排ガス通路が内部に複数形成されて、前記内燃機関から排出される前記排ガスを前記タービン羽根車に導く固定ノズルと、を含み、前記排ガス通路の通路断面積が最も小さくなる部分の通路断面は、前記排ガス通路の通路断面積が前記排ガス通路全体にわたって一定であると仮定した場合に、通路断面内の周長が前記排ガス通路の中で最も短くなるような形状であることを特徴とする。
【0006】
この過給機は、内燃機関が排出した排ガスをタービン羽根車へ導くための排ガス通路の通路断面積が、前記排ガス通路全体にわたって一定であると仮定した場合には、前記排ガス通路の通路断面積が最も小さくなる部分(最小通路断面積部分という)の通路断面を、通路断面内の周長が前記排ガス通路の中で最も短くなるような形状とする。これによって、最小通路断面積部分においては、壁面抵抗を排ガス通路の中で最も小さくすることができるので、最小通路断面積部分における排ガスの流れをより均一にできる。その結果、タービン羽根車へ供給される排ガスのエネルギ損失を抑制して、効率的にタービン羽根車へ排ガスを供給して、タービン羽根車の駆動効率を向上させることができる。
【0007】
次の本発明に係る過給機は、前記過給機において、複数の前記排ガス通路のうち少なくとも一つの内部に配置され、当該排ガス通路内を進退することにより、当該排ガス通路内を通過する前記排ガスの流量を調整する排ガス流量調整手段を備えることを特徴とする。
【0008】
次の本発明に係る過給機は、前記過給機において、前記排ガス通路の通路断面積が最も小さくなる部分の通路断面は円形状であることを特徴とする。
【0009】
次の本発明に係る過給機は、前記過給機において、前記排ガス通路の通路入口部における流路断面、及び前記排ガス通路の通路出口部における流路断面は、四角形状であることを特徴とする。
【0010】
次の本発明に係る過給機は、前記過給機において、前記排ガス通路の通路入口部における流路断面、及び前記排ガス通路の通路出口部における流路断面は、四角形状の角部が円弧状であることを特徴とする。
【0011】
次の本発明に係る過給機は、前記過給機において、前記固定ノズルは中抜きの円盤形状であり、盤面に対して垂直方向における前記固定ノズルの寸法は、前記排ガスの入口側から前記排ガスの出口側に向かって小さくなることを特徴とする。
【0012】
次の本発明に係る過給機は、前記過給機において、前記固定ノズルは、複数のリブを2枚の側板部で挟持して、隣接する前記リブの間に前記排ガス通路を形成するものであり、すべての前記リブと2枚の側板部とは、一体に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る過給機は、タービン羽根車へ内燃機関の排ガスを導入するための排ガス通路における排ガスの通過効率を向上させ、タービン羽根車へ効率よく排ガスを供給できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0015】
本実施形態は、内燃機関が排出した排ガスをタービン羽根車へ導くための排ガス通路の通路断面積が、前記排ガス通路全体にわたって一定であると仮定した場合には、前記排ガス通路の通路断面積が最も小さくなる部分の通路断面を、通路断面内の周長が前記排ガス通路の中で最も短くなるような形状(例えば円形)とする点に特徴がある。
【0016】
図1は、本実施形態に係る過給機の構成を示す一部断面図である。図1を用いて、本実施形態に係る過給機の構成を説明する。本実施形態に係る過給機1は、いわゆるターボチャージャーであり、内燃機関が排出した排ガスでタービン羽根車2Iを駆動し、このタービン羽根車2Iと同軸上に備えられる圧縮機3の圧縮用羽根車3Iを駆動することによって、前記内燃機関の燃焼室へ高圧の空気を過給する装置である。本実施形態に係る過給機1は、乗用車やバス、トラック等の車両に搭載され、動力発生源となる内燃機関(ガソリン機関やディーゼル機関)に対して好適に適用できる。
【0017】
本実施形態に係る過給機1は、いわゆる可変容量式のターボチャージャーである。可変容量式のターボチャージャーは、例えば、タービン入口に可変ノズル機構を設け、内燃機関の運転条件に応じて可変ノズルの開度を調整することによって、内燃機関に対する過給圧力を調整するものである。例えば、内燃機関が低回転で運転されており、排ガスの流量が小さい場合には、可変ノズルの開度を絞ることにより過給圧力を上昇させて内燃機関のトルクを向上させる。また、内燃機関が低回転で運転されている場合には、可変ノズルの開度を大きくすることによって内燃機関の背圧を低下させて、内燃機関の燃料消費を改善する。このように、可変容量式のターボチャージャーでは、内燃機関の運転条件に応じた適切な過給圧力で過給することができる。
【0018】
図1に示すように、過給機1は、タービン2と圧縮機3とで構成されており、過給機筐体1Kによって両者が一体に構成される。過給機筐体1K内には、渦巻き状の筐体内排ガス通路2C及び渦巻き状の筐体内空気通路3Cが形成される。タービン2は、内燃機関から排出される排ガスによって駆動されるタービン羽根車2Iを備えている。タービン羽根車2Iと筐体内排ガス通路2Cとの間には、排ガス通路からタービン羽根車2Iへ供給される排ガスが通過する複数の排ガス通路11を有する固定ノズル10が設けられる。
【0019】
排ガス通路11内には、タービン羽根車2Iへ供給される排ガスの流量を調整するための排ガス流量調整手段としてバルブ6が配置される。この過給機1では、バルブ6が排ガス通路11内を進退することで、筐体内排ガス通路2Cからタービン羽根車2Iへ供給される排ガスの流量が調整される。これによって、タービン羽根車2Iの回転数が変更されるので、過給機1の過給圧力が変更される。バルブ6は、環状部材8に取り付けられる。また、環状部材8は、第1連結部材21及び第2連結部材22を介して、固定ノズル10の排ガス通路11内でバルブ6を進退させる。環状部材8は、ECU(Electronic Control Unit)30によって制御される、過給圧力制御手段であるアクチュエータ20によって動作する。この構成については後述する。
【0020】
ここで、上記バルブ6、固定ノズル10、環状部材13等は、耐熱性や耐食性等の要求に応じて、ステンレス、チタンとアルミニウムとの合金、ニッケル基合金等、種々の金属を用いて形成することができる。また、使用条件によっては、耐熱樹脂等のような金属以外の材質を用いてもよい。
【0021】
タービン羽根車2Iと圧縮用羽根車3Iとは連結軸4で連結されている。連結軸4は、過給機筐体1Kに取り付けられる軸受5によって支持される。これによって、タービン羽根車2Iと圧縮用羽根車3Iとは、連結軸4及び軸受5を介して過給機筐体1Kに回転可能に支持される。本実施形態において、軸受5はいわゆる滑り軸受であり、過給機1の運転中においては、連結軸4と軸受5との間に潤滑油を介在させ、この潤滑油による流体潤滑で、タービン羽根車2Iと圧縮用羽根車3Iとを回転可能に支持する。なお、軸受5の種類はこれに限定されるものではなく、例えば、転がり軸受を用いてもよい。
【0022】
タービン羽根車2Iと圧縮用羽根車3Iとは連結軸4で連結されているため、タービン羽根車2Iが排ガスによって回転すると、これにともなって圧縮用羽根車3Iも回転する。これによって、圧縮機入口3INから空気Airが吸い込まれる。この空気Airは、圧縮用羽根車3Iによって運動エネルギが与えられた後、圧縮用羽根車3Iの外周側に配置される筐体内空気通路3Cへ吐出される。これによって、圧縮機入口3INから吸い込まれた空気Airは、大気圧よりも高圧に圧縮されて内燃機関の燃焼室へ供給される。次に、本実施形態に係る過給機1が備える固定ノズル10について詳細に説明する。なお、次の説明では、適宜図1を参照されたい。
【0023】
図2は、本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルの全体を示す斜視図である。図3は、本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルの側面図である。図4は、図3のB−B断面図であり、本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルの内部構造を示す平面図である。図2〜図4に示すように、本実施形態に係る過給機が備える固定ノズル10は、中抜きの円盤状(いわゆるドーナツ状)である。図2〜図4に示すように、固定ノズル10の内部は、複数の仕切部材であるリブ12によって仕切られており、隣接するリブ12の間に排ガス通路11が形成される。これによって、排ガス通路11は、固定ノズル10の外周部10oと内周部10iとを連通する。排ガス通路11は、隣接するリブ12と、2枚のドーナツ状の側板部10pとで囲まれる空間であり、管状の通路である。これによって、排ガスが、排ガス通路11を通過している間に、排ガス通路11の外部へ漏れることを効果的に抑制できる。
【0024】
図2、図3に示すように固定ノズル10は、2枚のドーナツ状の側板部10pで、複数のリブ12を挟持するような構成である。本実施形態において、固定ノズル10は、2枚のドーナツ状の側板部10p、及び複数のリブ12はすべて一体で構成される。これによって、固定ノズル10の強度を向上させることができる。固定ノズル10は、例えば、鋳造や焼結によって一体成型することによって、2枚のドーナツ状の側板部10p、及び複数のリブ12をすべて一体で構成することができる。また、ドーナツ状の円盤に、切削等によって排ガス通路11を形成してもよい。
【0025】
図1に示すように、固定ノズル10の外周部10oの外側には、過給機1の筐体内排ガス通路2Cが配置され、また、固定ノズル10の内周部10iの内側には、タービン羽根車2Iが配置される。図2、図4に示すように、排ガス通路11は、固定ノズル10の外周部10oから内周部10iに向かって貫通しているので、筐体内排ガス通路2C内に導入された内燃機関の排ガスは、排ガス通路11を通ってタービン羽根車2Iへ供給される。次に、固定ノズル10の子午断面形状を説明する。
【0026】
図5は、本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルの子午断面形状を示す断面図である。ここで、固定ノズル10の子午断面とは、固定ノズル10の中心軸Z(本実施形態においては、タービン羽根車2Iの回転軸と同じ)と平行、かつ前記中心軸Zを通る平面で、固定ノズル10を切った場合の断面である。図4においては、一点鎖線D−Dと平行、かつ一点鎖線D−Dを含む平面で、固定ノズル10を切った場合の断面である。
【0027】
図5に示すように、固定ノズル10の外周部10oにおける幅Hoは、固定ノズル10の内周部10iおける幅Hiよりも大きい。すなわち、固定ノズル10の厚さH、すなわち、ドーナツ状の固定ノズル10の盤面に対して直交する方向における固定ノズル10の寸法は、固定ノズル10の外周部10oから内周部10iへ向かって小さくなる。これによって、固定ノズル10をコンパクトにすることができるので、過給機1の過給機筐体1K(図1参照)内に固定ノズル10を組み込む際の自由度が向上する。また、固定ノズル10をコンパクトにできるので、過給機1の過給機筐体1Kをコンパクトにすることもできる。
【0028】
さらに、内周部10iには排ガス通路11が開口するが、排ガス通路11の開口が存在しない領域では、前記開口から排ガスが流出する際に、開口が存在しない領域で排ガスの剥離が発生し、タービン羽根車2Iに対して効率よく排ガスが流入しなくなる。本実施形態では、上記構成とすることにより、内周部10iにおいては排ガス通路11の開口が存在しない領域を少なくすることができる。その結果、内周部10iにおける排ガスの剥離を抑制できるので、排ガスを、効率よくタービン羽根車2Iへ導くことができる。次に、固定ノズル10の排ガス通路11について説明する。
【0029】
図6は、本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルに設けられる排ガス通路の説明図である。図6は、図4の一部を拡大して示してある。図7−1〜図7−4は、固定ノズルに形成される排ガス通路のスロート部の形状を説明する平面図である。図8−1〜図8−3は、固定ノズルに形成される排ガス通路の通路入口部及び通路出口部の形状を説明する平面図である。図6に示すように、本実施形態に係る固定ノズル10が備える排ガス通路11は、通路入口部(排ガスの入口)11iから通路出口部(排ガスの出口)11eに向かって、通路断面積が変化する。
【0030】
ここで、通路断面積、及びスロート部について説明する。通路断面積は、固定ノズル10の側板部10pに対して直交する平面で排ガス通路11を切ったときにおける排ガス通路11の通路断面における、断面内の面積をいう。また、排ガス通路11のスロート部11thとは、排ガス通路11において、最も通路断面積が小さくなる部分をいう。本実施形態において、スロート部11thは、図6に示すように、通路出口部11eにおけるリブ(12a)の端部を通り、かつ当該リブ(12a)に隣接して当該リブ(12a)とともに排ガス通路11を形成するリブ(12b)と直交する平面で、排ガス通路11が切られる部分である。
【0031】
本実施形態に係る固定ノズル10は、排ガス通路11の通路断面積が最も小さくなる部分、すなわちスロート部11thの通路断面は、次のように構成される。すなわち、スロート部11thにおける通路断面は、排ガス通路11の通路断面積が、排ガス通路11全体にわたって一定であると仮定した場合に、排ガス通路11の断面内における周長(通路断面内周長)が排ガス通路11の中で最も短くなるような形状に構成される。
【0032】
このような通路断面の形状としては、例えば、図7−1に示すような円形がある。例えば、通路断面の形状が円形の場合と正方形の場合とを比較する。通路断面の形状を直径dの円形とした場合と、一辺がaの正方形とした場合とにおいて、通路断面積は等しいと仮定する。この場合、通路断面積Aは式(1)、式(2)のようになる。また、通路断面内周長Cは、式(3)、式(4)のようになる。ここで、式(1)、(3)が円形の場合を示し、式(2)、(4)が正方形の場合を示す。なお、添字cは円形を意味し、添字sは正方形を意味する。
A=π×d2/4・・(1)
A=a2・・・・・・(2)
c=π×d・・・・(3)
s=4×a・・・・(4)
【0033】
円形の場合と正方形の場合とで、通路断面積はAで等しいので、式(1)=式(2)となり、d=2×a/√πとなる。これより、円形の場合における通路断面周長Cc=2×a×√πとなる。正方形の場合における通路断面周長Csは4×aなので、Cc<Csとなる。通路断面の形状を直径dの円形とした場合と、一辺がbの正六角形とした場合とを同様に比較すると、正六角形の面積A=3×b2×√3/2、正六角形の通路断面周長Ch=6×b、円形の場合における通路断面周長Cc=b×√(6×π×√3)なので、Cc<Chとなる。ここで、添字hは正六角形を意味する。
【0034】
したがって、スロート部11thにおける通路断面を円形とし、スロート部11th以外の通路断面を正方形や正六角形とすれば、排ガス通路11の通路断面積が排ガス通路11全体にわたって一定であると仮定した場合に、スロート部11thは、通路断面内周長が排ガス通路11の中で最も短くなるような形状に形成される。
【0035】
スロート部11thにおける通路断面は、例えば、図7−2に示すような、辺Lの両端を半径rの円弧でつなぎ、四角形の角部を半径rの円弧(曲面)で構成した四角形状としてもよい。また、図7−3に示すような、2本の直線Lと半径rの2個の半円とで形成された長円形状としてもよい。さらに、図7−4に示すような長径がra、短径はrbの楕円形状としてもよい。
【0036】
本実施形態において、排ガス通路11のスロート部11thにおける通路断面は円形状とすることが好ましい。ここで、円形状には、円形の他、四角形の角部を円弧(曲面)で構成した四角形状(図7−2参照)、多角形(正多角形が好ましい)の角部を円弧(曲面)で構成した多角形状、長円形状(図7−3)、楕円形状(図7−4)、状等も含まれる。ただし、いずれの形状においても、排ガス通路11の通路断面積が排ガス通路11全体にわたって一定であると仮定した場合に、スロート部11thにおける通路断面内の周長が排ガス通路11の中で最も短くなる関係を満たす必要がある。
【0037】
排ガス通路11のスロート部11thにおける通路断面を上述したような形状に設定すると、スロート部11thにおける排ガスの接触面積を他の部分よりも小さくすることができる。これによって、スロート部11thにおいては、壁面抵抗を排ガス通路11の中で最も小さくすることができるので、スロート部11thにおける排ガスの流れをより均一にできる。その結果、タービン羽根車2Iへ供給される排ガスのエネルギ損失を抑制して、効率的にタービン羽根車2Iへ排ガスを供給し、タービン羽根車2Iの駆動効率を向上させることができる。なお、スロート部11thにおける壁面抵抗の低減、流れの均一化を図る観点からは、スロート部11thにおける通路断面は、より円に近い形状が好ましく、最も好ましいのは円である。
【0038】
次に、排ガス通路の通路入口部及び通路出口部の形状を説明する。図8−1に示すように、固定ノズルNの通路入口部Iの形状を円形とすると、排ガスが流入しない領域(図8−1のTrで示す領域)が発生する。また、固定ノズルNの通路出口部Eの形状を円形とすると、排ガスが流出しない領域(図8−1のTrで示す領域)が発生する。この領域Trの部分では、排ガスの流れがないため、排ガスが剥離しやすくなり、排ガスが排ガス通路へ流入する際、あるいは排ガスが排ガス通路から流出する際の効率が低下する。その結果、タービン羽根車2Iへ排ガスを供給する際の効率が低下する。
【0039】
本実施形態に係る固定ノズル10では、図8−2、図8−3に示すように、排ガス通路11の通路入口部11i及び通路出口部11eの形状(平面形状)は、四角形状とする。これによって、排ガスが流入、あるいは流出しない領域(図8−1のTrで示す領域)を小さく抑えることができるので、固定ノズルの通路出口部を円形とした場合と比較して、排ガス通路11の通路入口部11iへ効率的に排ガスを導入させることができる。また、上記構成によって、排ガス通路11の通路出口部11eから効率的に排ガスをタービン羽根車2Iへ供給することができる。これらの作用によって、本実施形態に係る固定ノズル10では、タービン羽根車2Iを効率的に駆動することができるので、過給機1の性能が向上する。
【0040】
図8−2に示すように、排ガス通路11の通路入口部11i及び通路出口部11eは、辺La、Lbの両端を半径rの円弧(半径rの曲面)でつなぐことにより、四角形の角部Cを円弧で構成することが好ましい。これによって、排ガス通路11の壁面抵抗を低下させ、より効率的に排ガスを流すことができる。また、四角形の角部Cを円弧で構成することにより、排ガス通路11を比較的容易に形成することができるので、固定ノズル10の製造も容易になる。なお、図8−3に示すように、排ガス通路11の通路入口部11i及び通路出口部11eは、角部Cに円弧を設けない形状としてもよい。
【0041】
このように、本実施形態において、排ガス通路11の通路入口部11i及び通路出口部11eの形状(平面形状)を四角形状にするという場合には、角部が円弧状の形状も含まれる。また、四角形というときには、正方形、長方形いずれも含まれる。ここで、いずれの形状においても、排ガス通路11の通路断面積が排ガス通路11全体にわたって一定であると仮定した場合に、スロート部11thにおける通路断面内の周長が排ガス通路11の中で最も短くなる関係を満たす必要がある。
【0042】
本実施形態において、通路入口部11i、スロート部11th、通路出口部11eは、形状、寸法が異なる。このため、本実施形態では、通路入口部11i、スロート部11th及び通路出口部11eを滑らかにつないで排ガス通路11を形成する。これによって、排ガス通路11の通路抵抗増加が抑制されて、排ガスの流れが滑らかになるので、排ガスを効率よく流してタービン羽根車2Iへ供給することができる。
【0043】
本実施形態に係る固定ノズル10は、上述したように、バルブ6と組み合わせて用いられるが、必ずしもバルブ6と組み合わせる必要はない。すなわち、本実施形態に係る固定ノズル10を単独で用いて、タービン羽根車2Iへ排ガスを導いてもよい。この場合、固定上述した固定ノズル10の構成とすることにより、上述したような、排ガスを効率よくタービン羽根車2Iに供給できる、過給機1の過給機筐体をコンパクトにできる等の効果が得られる。次に、本実施形態に係る過給機1において、過給圧力を調整する手法を説明する。次の説明においては、適宜図1を参照されたい。
【0044】
図9は、本実施形態に係る過給機において排ガスの流量を調整する構造を示す説明図である。図10、図11は、本実施形態に係る過給機の過給圧力を調整する手法を示す説明図である。上述したように、本実施形態に係る過給機1で過給圧力を調整する際には、排ガス通路11内に配置されたバルブ6が排ガス通路11内を進退することで、筐体内排ガス通路2Cからタービン羽根車2Iへ供給される排ガスの流量を調整し、過給機1の過給圧力を変更する。
【0045】
図9に示すように、バルブ6は、一端部が回動部7で環状部材8に取り付けられる。これによって、バルブ6は、環状部材8に対して回動可能に取り付けられる。環状部材8には、その周方向に向かって複数のバルブ6が取り付けられる。図10、図11に示すように、バルブ6は、固定ノズル10の排ガス通路11の出口に向かって細くなっている。すなわち、バルブ6は、環状部材8へ取り付けられる端部とは反対側の端部に向かって、テーパー状に形成される。
【0046】
環状部材8は、固定ノズル10の外周に沿って固定ノズルの中心軸Zと同軸に配置される。また、環状部材8は、第1連結部材21及び第2連結部材22を介して、過給圧力制御手段であるアクチュエータ20に連結される。アクチュエータ20は、ECU30によって制御される。このような構成により、環状部材8は、固定ノズル10の周方向に対して回動可能に構成される。図10、図11に示すように、環状部材をその周方向に回動させることにより、排ガス通路11内でバルブ6を進退させることができる。
【0047】
上述したように、固定ノズル10の排ガス通路11は、通路入口部からスロート部に向かって通路断面積が小さくなるように形成される。そして、排ガスは、排ガス通路11とバルブ6との間を流れてタービン羽根車2Iへ供給される。このような構成により、図10、図11に示すように、環状部材8を回動させ、バルブ6を排ガス通路11内で進退させると、排ガス通路11とバルブ6との間に形成される隙間Sの大きさが変化する。これによって、排ガス通路11を通ってスロート部11th(図6参照)を通過する排ガスの流量を変化させることができる。次に、スロート部11thを通過する排ガスの流量を変化させて過給圧力を調整する際の動作を説明する。
【0048】
図12−1〜図12−3は、本実施形態に係る過給機で過給圧力を調整する際における排ガス通路の状態を示す説明図である。図12−1は、排ガスの流量が相対的に低い場合の排ガス通路断面を示しており、図12−2は、排ガスの流量が相対的に中程度の場合の排ガス通路断面を示しており、図12−3は、排ガスの流量が相対的に高い場合の排ガス通路断面を示している。
【0049】
内燃機関の燃焼室から排出された排ガスExは、過給機筐体1Kの筐体内排ガス通路2C(図1参照)を通って、固定ノズル10の排ガス通路11内へ流入する(図10、図11)。そして、排ガスExは、バルブ6と排ガス通路11との間の隙間Sで流路を絞られて流速を増し、固定ノズル10内周面側における排ガス通路11の開口部(通路出口)から流出して、タービン羽根車2I(図1参照)へ供給される。
【0050】
内燃機関から排出される排ガスの流量が相対的に低い場合、アクチュエータ20による環状部材8の回動制御によって、バルブ6の進量(すなわち、固定ノズル10の内周部側への動作量)を最大限の値として、排ガスExの通過する通路断面積を小さく設定する(図10、図12−1参照)。一方、内燃機関から排出される排ガスの流量が相対的に高い場合には、図11、図12−2に示すように、バルブ6の退量(すなわち、固定ノズル10の外周部側への動作量)を最大限の値として、排ガスExの通過する通路断面積を大きく(全開)設定する。内燃機関から排出される排ガスの流量が相対的に中程度である場合には、これら低流量時と高流量時との中間的な位置にバルブ6を配置すればよい(図12−2参照)。
【0051】
このように、流量が制御され、固定ノズル10の排ガス通路11を通過した排ガスExは、タービン羽根車2Iに流入し、タービン羽根車2Iを通過する際に膨張仕事をして、タービン羽根車2Iを回転させる。これによってタービン羽根車2Iが動力を発生し、タービン羽根車2Iと同軸に取り付けられた圧縮用羽根車3Iを回転させ、内燃機関へ供給する空気を加圧する。バルブ6の進退量が変化することによって固定ノズル10の排ガス通路11を通過する排ガスExの流量が変化すれば、タービン羽根車2Iが発生する動力も変化するので、圧縮機3で発生可能な圧力も変化する。このように、本実施形態に係る過給機1では、バルブ6の進退量を変更することにより、過給圧力を制御することができる。
【0052】
図13は、本実施形態の変形例に係る過給機の構成を示す一部断面図である。本変形例に係る過給機1aは、いわゆるツインノズル式のターボチャージャーであり、内燃機関の排ガスは、高流量用排ガス通路2Chと低流量用第排ガス通路2Clとに分かれて流入してからタービン羽根車2Iへ供給される。他の構成は、上記実施形態に係る過給機1と同様の構成である。
【0053】
過給機1aの過給機筐体1K内には、高流量用排ガス通路2Chと低流量用第排ガス通路2Clとが形成される。そして、高流量用排ガス通路2Chとタービン羽根車2Iとの間には、上述した固定ノズル10(図2等参照)が配置される。固定ノズル10の排ガス通路11内には、バルブ6が配置される。固定ノズル10やバルブ6の構成、動作については上述した通りなので、説明を省略する。
【0054】
低流量用第排ガス通路2Clとタービン羽根車2Iとの間には、低流量用固定ノズル10aが配置される。低流量用固定ノズル10aは、上述した固定ノズル10(図2等参照)と異なる構造のものを用いてもよいが、タービン羽根車2Iへ効率よく排ガスを供給するという観点から、上述した固定ノズル10(図2等参照)と同一の構造のものを用いることが好ましい。この変形例に係る過給機1aでは、低流量用固定ノズル10aに、上述した固定ノズル10(図2等参照)と同一の構造のものを用いている。なお、低流量用固定ノズル10aの排ガス通路11aには、バルブは設けられない。
【0055】
このように構成した過給機1aは、排ガスの流量が相対的に低い場合、バルブ6を固定ノズル10の内周側へ最大限移動させることにより、固定ノズル10の排ガス通路11を全閉にして、内燃機関から排出された排ガスが、低流量用固定ノズル10aの排ガス通路11aのみを通過するようにする。一方、排ガスの流量が相対的に高い場合には、バルブ6を固定ノズル10の外周側へ最大限移動させることにより、固定ノズル10の排ガス通路11を全開にして、固定ノズル10の排ガス通路11及び低流量用固定ノズル10aの排ガス通路11aの両方を排ガスが通過するように設定する。また、排ガスの流量が相対的に中程度である場合には、バルブ6を固定ノズル10の外周側と内周側との中間位置へ移動させることによって、固定ノズル10の排ガス通路11を半開にし、この半開の固定ノズル10の排ガス通路11と低流量用固定ノズル10aの排ガス通路11aとを排ガスが通過するように設定する。
【0056】
以上、本実施形態では、過給機において、内燃機関が排出した排ガスをタービン羽根車へ導くための排ガス通路の通路断面積が、前記排ガス通路全体にわたって一定であると仮定した場合には、前記排ガス通路のスロート部の通路断面を、通路断面内の周長が前記排ガス通路の中で最も短くなるような形状とする。これによって、スロート部においては、壁面抵抗を排ガス通路の中で最も小さくすることができるので、スロート部における排ガスの流れをより均一にできる。その結果、タービン羽根車へ供給される排ガスのエネルギ損失を抑制して、効率的にタービン羽根車へ排ガスを供給して、タービン羽根車の駆動効率を向上させることができる。
【0057】
また、管状の排ガス通路を通って排ガスがタービン羽根車へ供給されるため、排ガス通路の外部へ漏れる排ガスはほとんどない。これによって、内燃機関が排出した排ガスを、無駄なくタービン羽根車へ導入できるので、排ガスを効率的に利用して、タービンの効率を向上させることができる。さらに、管状の排ガス通路の内部で排ガス流量調整手段であるバルブを進退させるので、排ガスの流量を調整する構造全体においても、排ガスの漏れは極めて少ない。これによって、内燃機関が排出した排ガスの流量に適した通路断面積としつつ、前記排ガスを無駄なくタービン羽根車へ導入できるので、排ガスを効率的に利用して、タービンの効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、この発明に係る可変容量タービンは、内燃機関が排出する排ガスによって前記内燃機関を過給する過給機に有用であり、特に、タービン羽根車へ効率よく排ガスを供給することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態に係る過給機の構成を示す一部断面図である。
【図2】本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルの全体を示す斜視図である。
【図3】本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルの側面図である。
【図4】図3のB−B断面図であり、本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルの内部構造を示す平面図である。
【図5】本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルの子午断面形状を示す断面図である。
【図6】本実施形態に係る過給機が備える固定ノズルに設けられる排ガス通路の説明図である。
【図7−1】固定ノズルに形成される排ガス通路のスロート部の形状を説明する平面図である。
【図7−2】固定ノズルに形成される排ガス通路のスロート部の形状を説明する平面図である。
【図7−3】固定ノズルに形成される排ガス通路のスロート部の形状を説明する平面図である。
【図7−4】固定ノズルに形成される排ガス通路のスロート部の形状を説明する平面図である。
【図8−1】固定ノズルに形成される排ガス通路の通路入口部及び通路出口部の形状を説明する平面図である。
【図8−2】固定ノズルに形成される排ガス通路の通路入口部及び通路出口部の形状を説明する平面図である。
【図8−3】固定ノズルに形成される排ガス通路の通路入口部及び通路出口部の形状を説明する平面図である。
【図9】本実施形態に係る過給機において排ガスの流量を調整する構造を示す説明図である。
【図10】本実施形態に係る過給機の過給圧力を調整する手法を示す説明図である。
【図11】本実施形態に係る過給機の過給圧力を調整する手法を示す説明図である。
【図12−1】本実施形態に係る過給機で過給圧力を調整する際における排ガス通路の状態を示す説明図である。
【図12−2】本実施形態に係る過給機で過給圧力を調整する際における排ガス通路の状態を示す説明図である。
【図12−3】本実施形態に係る過給機で過給圧力を調整する際における排ガス通路の状態を示す説明図である。
【図13】本実施形態の変形例に係る過給機の構成を示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1、1a 過給機
1K 過給機筐体
2 タービン
2I タービン羽根車
2Ch 高流量用排ガス通路
2Cl 低流量用第排ガス通路
2C 筐体内排ガス通路
3 圧縮機
3I 圧縮用羽根車
3IN 圧縮機入口
3C 筐体内空気通路
6 バルブ
7 回動部
8 環状部材
10 固定ノズル
10a 低流量用固定ノズル
10o 外周部
10p 側板部
10i 内周部
11、11a 排ガス通路
11e 通路出口部
11i 通路入口部
11th スロート部
12 リブ
13 環状部材
20 アクチュエータ
21 第1連結部材
22 第2連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関が排出した排ガスで駆動されて圧縮用羽根車を駆動するタービン羽根車と、
前記排ガスの入口から前記排ガスの出口に向かって通路断面積が変化する排ガス通路が内部に複数形成されて、前記内燃機関から排出される前記排ガスを前記タービン羽根車に導く固定ノズルと、を含み、
前記排ガス通路の通路断面積が最も小さくなる部分の通路断面は、前記排ガス通路の通路断面積が前記排ガス通路全体にわたって一定であると仮定した場合に、通路断面内の周長が前記排ガス通路の中で最も短くなるような形状であることを特徴とする過給機。
【請求項2】
複数の前記排ガス通路のうち少なくとも一つの内部に配置され、当該排ガス通路内を進退することにより、当該排ガス通路内を通過する前記排ガスの流量を調整する排ガス流量調整手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の過給機。
【請求項3】
前記排ガス通路の通路断面積が最も小さくなる部分の通路断面は円形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の過給機。
【請求項4】
前記排ガス通路の通路入口部における流路断面、及び前記排ガス通路の通路出口部における流路断面は、四角形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の過給機。
【請求項5】
前記排ガス通路の通路入口部における流路断面、及び前記排ガス通路の通路出口部における流路断面は、四角形状の角部が円弧状であることを特徴とする請求項4に記載の過給機。
【請求項6】
前記固定ノズルは中抜きの円盤形状であり、盤面に対して垂直方向における前記固定ノズルの寸法は、前記排ガスの入口側から前記排ガスの出口側に向かって小さくなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の過給機。
【請求項7】
前記固定ノズルは、複数のリブを2枚の側板部で挟持して、隣接する前記リブの間に前記排ガス通路を形成するものであり、
すべての前記リブと2枚の側板部とは、一体に形成されることを特徴とする請求項6に記載の過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−95613(P2008−95613A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279151(P2006−279151)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】