説明

過給機

【課題】
中実構造のコンプレッサ翼車を有する過給機に於いて、前記コンプレッサ翼車と回転軸との着脱が、確実に又前記コンプレッサ翼車を損傷させることなく行える様にする。
【解決手段】
回転軸2に螺着された中実構造のコンプレッサ翼車8を有する過給機1に於いて、コンプレッサ翼車の先端部に前記コンプレッサ翼車より高強度、高硬度材質から成り、工具掛り部を有する治具35を着脱可能とし、該治具と前記先端部間にはトルク伝達を行う係合機構が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の出力増大、燃焼効率の向上の為設けられる過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過給機は、排気ガスによって駆動されるタービンによりコンプレッサを回転し、該コンプレッサからの圧縮空気を内燃機関に過給する構成となっている。
【0003】
従来より、タービン翼車より回転軸が延出し、該回転軸がコンプレッサ翼車を貫通し、貫通した回転軸にナット掛することで、前記コンプレッサ翼車を前記回転軸に固定し、タービン翼車とコンプレッサ翼車とが一体的に回転する様にしている。
【0004】
前記タービン翼車は高熱の排気ガスによって回転される為、鉄系の耐熱合金が用いられ、前記コンプレッサ翼車にはアルミ合金が用いられている。
【0005】
近年、内燃機関の一層の出力増大、燃焼効率の向上が求められ、過給機に対してより高い圧力比が要求されるが、過給機の構造上から得られる圧力比、即ちコンプレッサ翼車の回転数には限界があった。
【0006】
上記した過給機では、コンプレッサ翼車を回転軸が貫通している為、貫通孔に遠心応力が集中して発生する。特に、貫通孔のコンプレッサ翼車の最大径部に対応する部分には最大遠心応力が発生し、発生した応力が許容値を超える虞れがある。従って、最大遠心応力が許容値以下とする制限により、圧力比に限界を生じていた。
【0007】
この為、特許文献1に示される様に、コンプレッサ翼車に回転軸を貫通させず、コンプレッサ翼車を中実構造とし、回転軸の先端部を前記コンプレッサ翼車に螺合、固着した過給機がある。
【0008】
貫通孔を穿設しないコンプレッサ翼車(以下中実コンプレッサ翼車)では、遠心応力が分散され、最大遠心応力が大幅に低減する。この為、圧力比を増大させることができる。
【0009】
又、前記コンプレッサ翼車には該コンプレッサ翼車を回転軸に螺着する為、前記コンプレッサ翼車の中心先端部に6角形状の工具掛り部が形成されており、該工具掛り部にスパナ等の工具を掛けて前記コンプレッサ翼車を回転させ、前記回転軸に固着していた。
【0010】
ところが、前記コンプレッサ翼車はアルミ合金製であり、工具に比べ強度が低く、又柔らかいので、前記工具掛り部は損傷し易いという問題がある。更に、前記コンプレッサ翼車は保守等により前記回転軸に対して、着脱する必要があり、着脱作業は注意を要するものであった。
【0011】
【特許文献1】米国特許第5193989号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は斯かる実情に鑑み、中実構造のコンプレッサ翼車を有する過給機に於いて、コンプレッサ翼車と回転軸との着脱が、確実に又コンプレッサ翼車を損傷させることなく行える様にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、回転軸に螺着された中実構造のコンプレッサ翼車を有する過給機に於いて、コンプレッサ翼車の先端部に前記コンプレッサ翼車より高強度、高硬度材質から成り、工具掛り部を有する治具を着脱可能とし、該治具と前記先端部間にはトルク伝達を行う係合機構が形成される過給機に係るものである。
【0014】
又本発明は、前記係合機構は前記先端部に形成された凹部と、前記工具掛り部から突設された連結子とから構成され、前記凹部と前記連結子が嵌脱可能である過給機に係り、又前記治具は前記先端部に外嵌し、前記係合機構は前記治具の内面、前記先端部の外面のいずれか一方に形成された係合溝と、いずれか他方に形成された係合突条から構成され、前記係合溝と前記係合突条が嵌脱可能である過給機に係るものである。
【0015】
又本発明は、前記凹部は、前記先端部に所要数穿設された穴であり、前記連結子は前記穴に嵌脱可能な棒状の突起である過給機に係り、更に又前記凹部は、前記先端部に放射状に刻設されたスリット溝であり、前記連結子は中心から放射状に突設され、前記スリット溝に嵌脱可能な矩形片である過給機に係るものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回転軸に螺着された中実構造のコンプレッサ翼車を有する過給機に於いて、コンプレッサ翼車の先端部に前記コンプレッサ翼車より高強度、高硬度材質から成り、工具掛り部を有する治具を着脱可能とし、該治具と前記先端部間にはトルク伝達を行う係合機構が形成されるので、前記コンプレッサ翼車の前記回転軸への着脱時は、前記治具を前記コンプレッサ翼車の先端部に装着し、前記治具に工具を掛けて充分な締付け力で前記コンプレッサ翼車を前記回転軸に取付けることができ、又工具による前記コンプレッサ翼車への損傷を防止でき、更に前記コンプレッサ翼車の回転バランスの調整に前記先端部の切除等で対応でき、回転バランスの調整を容易に行えるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0018】
先ず、図1に於いて、本願発明が実施される過給機の一例を説明する。
【0019】
過給機1は、回転軸2を共有するタービン3とコンプレッサ4によって構成されている。
【0020】
前記回転軸2は軸受ハウジング5に軸受6を介して回転自在に支持され、前記回転軸2の一端にはタービン翼車7が設けられ、他端にはアルミ合金製で中実構造のコンプレッサ翼車8が設けられている。
【0021】
前記回転軸2と前記タービン翼車7とは一体物であり、又前記回転軸2の他端部が前記コンプレッサ翼車8に螺合、固着されている。
【0022】
前記タービン翼車7は前記軸受ハウジング5に取付けられたタービンハウジング12に収納され、前記コンプレッサ翼車8は前記軸受ハウジング5に取付けられたコンプレッサハウジング13に収納されている。
【0023】
前記タービン翼車7、前記タービンハウジング12等によって前記タービン3が構成され、前記コンプレッサ翼車8、前記コンプレッサハウジング13等によって前記コンプレッサ4が構成される。
【0024】
前記タービンハウジング12は排気ガス流入口14、排気ガス流出口15を有し、前記排気ガス流入口14には内燃機関からの排気ガスが流入し、前記排気ガス流出口15からは排気エネルギによって前記タービン翼車7を回転した後の排気ガスが排気される。
【0025】
前記コンプレッサハウジング13は、吸入口16、吐出口17を有し、前記コンプレッサ翼車8が前記回転軸2を介して前記タービン翼車7により回転されることで、前記吸入口16より吸入した空気を圧縮し、前記吐出口17より圧縮空気を内燃機関に給気する。
【0026】
次に、図2を参照して前記回転軸2と前記コンプレッサ翼車8との結合部を説明する。
【0027】
前記回転軸2の前記軸受6より更に延出する部分は、前記回転軸2に対して小径の嵌合軸部21及び該嵌合軸部21より小径の螺子部22によって構成されている。
【0028】
前記コンプレッサ翼車8は、ディスク部8aと該ディスク部8aに摩擦接合(摩擦溶接)されたボス部8bによって構成され、前記ディスク部8aは、例えばアルミ合金製であり、前記ボス部8bは、例えば鋼製、或は鋼合金である。又、前記ディスク部8aと前記ボス部8bの接合面8cは、前記コンプレッサ翼車8の最大径位置Mより前記タービン3側に位置し、最大径位置Mに到達しない様に設定されている。
【0029】
前記ボス部8bには盲螺子穴23が穿設され、該盲螺子穴23(螺子の下穴も含めて)の最深位置は、前記コンプレッサ翼車8の最大径位置Mに到達しない様に設定されている。好ましくは、前記接合面8cにも到達しない様に設定される。又、前記盲螺子穴23の開口端部には該盲螺子穴23より大径の嵌合部穴部24が形成されている。
【0030】
前記螺子部22に前記コンプレッサ翼車8が螺着され、前記嵌合軸部21に前記嵌合部穴部24が嵌合することで、前記回転軸2と前記コンプレッサ翼車8との芯が合致する様になっている。
【0031】
前記ディスク部8aの前記コンプレッサ翼車8側の端面と前記回転軸2の端面との間には、該回転軸2側からスラストカラー25、スペーサリング26、スラストカラー27、油切り28が介設され、又前記スラストカラー25と前記スラストカラー27との間に設けられるスラスト軸受29は前記軸受ハウジング5に固定される。
【0032】
前記コンプレッサ翼車8を前記螺子部22に締込み、固着することで、前記コンプレッサ翼車8と前記回転軸2、前記スラストカラー25、前記スペーサリング26、前記スラストカラー27、前記油切り28が一体化して回転する。
【0033】
前記軸受ハウジング5には給油口31が穿設され、更に該給油口31に連通し、複数に分岐した導通油路32が設けられ、該導通油路32の一部は前記軸受6に開口し、一部は前記スラスト軸受29を通って前記スペーサリング26の外周面に開口する。従って、給油された潤滑油の一部は前記導通油路32を経て前記スペーサリング26の外周面、更に前記スラスト軸受29と前記スラストカラー25,27との相対する面に供給される様になっている。
【0034】
而して、前記スラスト軸受29と前記スラストカラー25,27との間が潤滑され、前記回転軸2に作用するスラスト荷重は前記スラスト軸受29を介して前記軸受ハウジング5に支持される様になっている。
【0035】
本発明は上記した様に、前記回転軸2の端部を前記コンプレッサ翼車8に貫通させないで、前記盲螺子穴23に螺着し、又前記コンプレッサ翼車8に穿設する前記盲螺子穴23の最深位置を前記コンプレッサ翼車8の最大径位置Mに到達しない様にしたので、遠心力が最大となる部分は中実となり、遠心力によって発生する応力は均一に分散され、特定の部位に応力が集中することが避けられる。
【0036】
次に、前記コンプレッサ翼車8を前記回転軸2に螺着する場合について説明する。
【0037】
図3に示す様に、前記ディスク部8aの吸入口16側の先端部(以下、先端部)には、同一円周上に複数の凹部34が穿設されている。本実施の形態では、該凹部34は円周6等分した位置に穿設された断面円の穴を示している。
【0038】
該凹部34には、前記コンプレッサ翼車8を回転させる場合の治具35が着脱可能であり、該治具35を介してトルクを前記コンプレッサ翼車8に伝達する手段となる。
【0039】
図4、図5は、前記治具35を示しており、該治具35は、前記コンプレッサ翼車8より高強度、高硬度材料である鋼製、或は鉄系の合金鋼等の鉄系金属材料で製作されており、工具掛り部としての6角形状の頭部36と、該頭部36より突出する6本の連結子37とを有しており、該連結子37は断面が円であり、円周6等分した位置にあり、前記凹部34と嵌脱可能となっている。
【0040】
該凹部34と前記連結子37は、前記治具35と前記コンプレッサ翼車8との間の係合機構を構成する。
【0041】
該コンプレッサ翼車8を前記回転軸2に締込む場合は、前記連結子37を前記凹部34に嵌合させ、前記治具35を前記ディスク部8aの先端部に装着する。前記頭部36にスパナ等の工具を掛けて回転力を与える。前記治具35を介して前記コンプレッサ翼車8が回転され、前記螺子部22に螺着され、更に締込まれる。前記コンプレッサ翼車8取付け後は、前記治具35は除去する。
【0042】
前記連結子37の本数は、締込む際のトルクの大きさによって決定する。高強度で、硬度の大きい前記治具35を介して、前記コンプレッサ翼車8を締付けるので、工具により前記治具35を損傷することがない。又、トルクは前記連結子37によって分散して伝達されるので、前記凹部34を損傷、更に前記コンプレッサ翼車8を損傷させることがなく、又該コンプレッサ翼車8に充分な締付け力を与えることができる。尚、前記連結子37の本数は前記コンプレッサ翼車8の材質がアルミ等であることを考慮すると6本又は6本より多いことが望ましい。
【0043】
次に、該コンプレッサ翼車8は製作誤差等により個体差があり、個々に回転バランスを調整する必要がある。
【0044】
前記コンプレッサ翼車8の回転バランスを調整する場合は、前記ディスク部8aの先端部の一部38を切除するか、或は前記先端部の周囲近傍に穴39を穿設し、該穴39に比重の大きい金属の部材、例えば銅線等を埋込む。
【0045】
前記ディスク部8aの先端部露出部分には、締付けの為の工具等が直接掛ることがないので、前記先端部から一部38を切除する際の制約が少なく、回転バランスの調整は容易である。
【0046】
又、前記治具35と前記ディスク部8aとの係合の態様としては、前記凹部34を中心に穿設された6角穴とし、前記連結子37を中心に突設し、又該連結子37の断面を6角としてもよい。
【0047】
図6は、前記ディスク部8a先端部と前記治具35との他の係合機構を示している。尚、図中、簡略化の為、前記コンプレッサ翼車8は先端部のみ示している。
【0048】
前記ディスク部8aには凹部として該ディスク部8aに中心を通る3本のスリット溝51が等角度間隔で形成される。
【0049】
前記治具35は6角形状の頭部35aを有し、該頭部35aから連結子52が突設される。該連結子52は、中心から6方向に等角度で放射状に延出する矩形片から構成され、断面がアスタリスク状であり、前記スリット溝51に嵌脱可能となっている。
【0050】
該スリット溝51と前記連結子52は係合機構を構成し、前記治具35に加えられたトルクは前記連結子52、前記スリット溝51を介して前記ディスク部8aに伝達される。
【0051】
図7は、前記ディスク部8a先端部と前記治具35との更に他の係合機構を示し、該係合機構では、前記治具35が前記ディスク部8aに外嵌する。
【0052】
該ディスク部8aの先端部、外周面に中心軸と平行に所要本数、例えば6本の係合溝53を形成する。該係合溝53は円周6等分した位置に設けられ、断面形状は、例えば半円状である。
【0053】
前記治具35に嵌合孔54を穿設し、該嵌合孔54の内周面に係合突条55を形成したものであり、前記治具35が前記ディスク部8aに嵌合すると共に前記係合突条55が前記係合溝53に嵌合する様にしたものである。
【0054】
本実施例の場合、前記係合突条55と前記係合溝53とが係合機構を構成する。
【0055】
図8は、前記ディスク部8a先端部と前記治具35との更に他の係合機構を示し、該係合機構では、図7で示す係合機構と同様、前記治具35が前記ディスク部8aに外嵌する。
【0056】
該ディスク部8aの先端部、外周面に中心軸と平行に所要本数、例えば12本の係合突条56を形成する。該係合突条56は円周12等分した位置に設けられ、断面形状は、例えば3角形状である。
【0057】
前記治具35に嵌合孔57を穿設し、該嵌合孔57の内周面に係合溝58を形成したものであり、前記治具35が前記ディスク部8aに嵌合すると共に前記係合溝58と前記係合突条56とが嵌合する様にしたものである。
【0058】
本実施例の場合、該係合突条56と前記係合溝58とが係合機構を構成する。
【0059】
尚、前記治具35と前記ディスク部8a間でトルクを伝達する係合機構は、種々考えられ、上記した係合機構に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明が実施される過給機の一例を示す断面図である。
【図2】該過給機に於ける回転軸とコンプレッサ翼車との結合部の拡大断面図である。
【図3】該コンプレッサ翼車の先端部の側面図である。
【図4】該コンプレッサ翼車の先端部に嵌合可能な治具の側面図である。
【図5】該治具の正面図である。
【図6】コンプレッサ翼車の先端部、治具の他の例を示す斜視図である。
【図7】コンプレッサ翼車の先端部、治具の更に他の例を示す斜視図である。
【図8】コンプレッサ翼車の先端部、治具の更に他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
1 過給機
2 回転軸
3 タービン
4 コンプレッサ
7 タービン翼車
8 コンプレッサ翼車
8a ディスク部
8b ボス部
8c 接合面
21 嵌合軸部
22 螺子部
23 盲螺子穴
24 嵌合部穴部
34 凹部
35 治具
37 連結子
51 スリット溝
52 連結子
53 係合溝
55 係合突条
56 係合突条
58 係合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に螺着された中実構造のコンプレッサ翼車を有する過給機に於いて、コンプレッサ翼車の先端部に前記コンプレッサ翼車より高強度、高硬度材質から成り、工具掛り部を有する治具を着脱可能とし、該治具と前記先端部間にはトルク伝達を行う係合機構が形成されることを特徴とする過給機。
【請求項2】
前記係合機構は前記先端部に形成された凹部と、前記工具掛り部から突設された連結子とから構成され、前記凹部と前記連結子が嵌脱可能である請求項1の過給機。
【請求項3】
前記治具は前記先端部に外嵌し、前記係合機構は前記治具の内面、前記先端部の外面のいずれか一方に形成された係合溝と、いずれか他方に形成された係合突条から構成され、前記係合溝と前記係合突条が嵌脱可能である請求項1の過給機。
【請求項4】
前記凹部は、前記先端部に所要数穿設された穴であり、前記連結子は前記穴に嵌脱可能な棒状の突起である請求項2の過給機。
【請求項5】
前記凹部は、前記先端部に放射状に刻設されたスリット溝であり、前記連結子は中心から放射状に突設され、前記スリット溝に嵌脱可能な矩形片である請求項2の過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−209867(P2009−209867A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55834(P2008−55834)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】