説明

遠心分離容器

【課題】遠心分離動作中に配管が外れてしまうことを防止するとともに、過大な力を加えて遠心分離された懸濁液を攪拌してしまうことなく、容易に配管を取り外す。
【解決手段】筒状の上部開口部7を有し、懸濁液Aを収容する容器本体2と、該容器本体2の上部開口部7に懸濁液Aを供給する配管3を液密状態に接続する接続部4とを備え、該接続部4が、配管3に固定され上部開口部7の外側に嵌合させられる筒状のキャップ部9と、該キャップ部9に設けられ、半径方向外方から挟み込むように加えられる押圧力によって、接続を解除する解除機構10とを備える遠心分離容器1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、配管を液密状態に着脱する機構として、例えば、シリンジの先端に注射針を着脱可能に接続するルアーロック機構が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
このルアーロック機構は、シリンジに対して注射針を回転させることにより、注射針側に設けられたテーパ状の筒状部と注射針側の相補的な形状の嵌合部とを密着させ、シリンジの先端に注射針を液密状態に接続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−119359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなルアーロック機構は、遠心分離容器への配管の取り付けには適していない。すなわち、組み付け時に操作者がきつく締結した場合には、その取り外しの際にも大きな力を掛けて回転させる必要がある。遠心分離容器から配管を取り外すのは、懸濁液の遠心分離の終了後であり、配管の取り外しの際に加える大きな力による衝撃によって遠心分離容器が振動させられると、折角、遠心分離によって層状に分離した成分が、再度攪拌されてしまうという不都合がある。
一方、組み付け時に操作者が緩く締結した場合には、遠心分離動作中に外れてしまう虞がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、遠心分離動作中に配管が外れてしまうことを防止するとともに、過大な力を加えて遠心分離された懸濁液を攪拌してしまうことなく、容易に配管を取り外すことができる遠心分離容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、筒状の上部開口部を有し、懸濁液を収容する容器本体と、該容器本体の前記上部開口部に前記懸濁液を供給する配管を液密状態に接続する接続部とを備え、該接続部が、前記配管に固定され前記上部開口部の外側に嵌合させられる筒状のキャップ部と、該キャップ部に設けられ、半径方向外方から挟み込むように加えられる押圧力によって、接続を解除する解除機構とを備える遠心分離容器を提供する。
【0007】
本発明によれば、接続部によって容器本体に配管を液密状態に接続した状態で、配管を介して容器本体内に懸濁液を供給し、容器本体に遠心力を加えることにより、容器本体内の懸濁液内の各成分を容器本体の底面方向に移動させ、比重に応じて層状に遠心分離させることができる。そして、遠心分離後に、解除機構を作動させて接続部による接続を解除することにより、容器本体から配管を取り外すことができる。
【0008】
この場合に、接続部は半径方向外方から挟み込むように押圧力を加えるだけで接続を解除できる。ネジ締結によって接続していた従来のルアーロック機構とは異なり、接続を解除するための押圧力が、相互に相殺する方向に加えられるので、容器本体に振動を与えることなく静かに接続を解除できる。その結果、容器本体内に層状に遠心分離された懸濁液の分離状態を乱すことなく、配管を取り外すことができる。
【0009】
上記発明においては、前記解除機構が、前記キャップ部の周方向の正反対に配置される位置に、周方向に沿って配される揺動軸回りにそれぞれ揺動可能に支持された2つの揺動片と、前記上部開口部側に設けられ前記揺動片の一端に設けた鉤部を係合させて、前記キャップ部の前記上部開口部に対する軸線方向の移動を係止する係合部とを備え、前記揺動片が、鉤部と係合部とを係合させた位置と係合を解除した位置との間で揺動可能に設けられていてもよい。
【0010】
このようにすることで、筒状の上部開口部にキャップ部を嵌合させ、キャップ部に設けた揺動片の鉤部を容器本体の上部開口部に設けられた係合部に係合させることにより、キャップ部の上部開口部に対する軸線方向の移動が係止され、キャップ部に取り付けた配管が上部開口部に液密状態に接続される。配管を取り外す際には、キャップ部の周方向の正反対に配置された2つの揺動片に、半径方向外方から挟み込むような押圧力を加えることにより、揺動片を揺動させて鉤部と係合部との係合を解除することにより、配管を取り付けたキャップを容器本体から容易に取り外すことができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記解除機構が、前記鉤部と前記係合部とを係合させる方向に前記揺動片を付勢する付勢部材を備えていてもよい。
このようにすることで、揺動片に押圧力を加えない状態では、揺動片は鉤部と係合部とを係合させる位置に付勢されて、配管の容器本体への接続状態が維持され、付勢部材による付勢力に抗して押圧力を付与することにより、接続状態を解除することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記キャップ部が、前記上部開口部側に固定される固定部と、前記配管に接続される可動部と、該可動部と固定部とを連結する薄肉部とを備え、前記解除機構が、半径方向外方から挟み込むように加えられる押圧力によって前記薄肉部を破断させてもよい。
このようにすることで、容器本体の上部開口部に固定された固定部と配管に接続された可動部とが薄肉部によって連結されている状態では、配管が上部開口部に液密状態に接続されており、押圧力を加えることで薄肉部を破断させれば、簡易に接続状態を解除して、配管を容器本体から取り外すことができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記解除機構が、前記薄肉部に接続し、前記押圧力によって変位させられることにより前記薄肉部を変形させるレバーを備えていてもよい。
このようにすることで、レバーを揺動させて梃子の原理により、薄肉部を容易に変形させて破断させ、さらに簡易に接続状態を解除して配管を容器本体から取り外すことができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記固定部と、前記可動部と、前記薄肉部と、前記レバーとが樹脂により一体的に成形されていてもよい。
このようにすることで、部品点数を減らすことができ、固定部を接着等によって容器本体の上部開口部に固定するだけで、薄肉部の破断により容易に配管を取り外すことができる遠心分離容器を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、遠心分離動作中に配管が外れてしまうことを防止するとともに、過大な力を加えて遠心分離された懸濁液を攪拌してしまうことなく、容易に配管を取り外すことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離容器を示す部分的な縦断面図である。
【図2】図1の遠心分離容器において、配管と容器本体との接続状態を解除する作業を説明する部分的な縦断面図である。
【図3】図2の作業により接続が解除された配管を容器本体から取り外す作業を説明する部分的な縦断面図である。
【図4】図1の遠心分離容器の変形例を示す部分的な縦断面図である。
【図5】図4の遠心分離容器において、配管と容器本体との接続状態を解除する作業を説明する部分的な縦断面図である。
【図6】図5の作業により接続が解除された配管を容器本体から取り外す作業を説明する部分的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る遠心分離容器1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1は、図1に示されるように、細胞懸濁液等の懸濁液Aを収容する容器本体2と、懸濁液Aを該容器本体2に供給する配管3を、容器本体2に着脱可能に接続する接続部4とを備えている。
【0018】
容器本体2は、懸濁液Aを収容する収容部5の上部に、該収容部5内へ貫通する貫通孔6を有する筒状部(上部開口部)7を備えている。筒状部7は、略円筒状に形成されている。貫通孔6の開口縁6aは先端に向かって漸次広がるテーパ内面状に形成されている。
筒状部7の外面には、軸方向の途中位置であって、周方向に正反対の位置に、半径方向内方に窪む凹部(係合部)8が設けられている。
【0019】
接続部4は、容器本体2の筒状部7の外面に嵌合させられて、配管3を容器本体2に固定するキャップ部9を備えている。
キャップ部9は、筒状部7の上部に被せられ、筒状部7の外面に嵌合する円筒状部分9aと、円筒状部分9aの外側の半径方向中央部に配管3を固定する配管固定部9bと、周方向の正反対の位置に、周方向に延びる揺動軸B回りに揺動可能に支持された2つの揺動片10とを備えている。
【0020】
円筒状部分9aの内側には、キャップ部9が筒状部7に嵌合させられたときに、貫通孔6のテーパ内面状の開口縁6aと相補的な形状を有するテーパ状の凸部9cが設けられている。キャップ部9には、配管固定部9bから凸部9cまでを軸方向に貫通する貫通孔9dが設けられている。
各揺動片10の先端には、筒状部7外面の凹部8に係合可能な形状を有する鉤部11が設けられている。また、揺動片10には、該揺動片10の鉤部11を半径方向内方に付勢するバネ(付勢部材)12が設けられている。
【0021】
筒状部7とキャップ部9との間には貫通孔6の外周を取り囲むリング板状のシール部材13が挟まれている。配管固定部9bに配管3を取り付けたキャップ部9を筒状部7に嵌合させると、凸部9cが開口縁6aに密着するとともに、シール部材13が圧縮されることによって配管3と貫通孔6とが液密状態に接続される。
そして、バネ12によって半径方向内方に付勢されている揺動片10の鉤部11が、筒状部7の外面に設けられた凹部8に係合して、キャップ部9が筒状部7に、軸方向に外れないように係止されるようになっている。
【0022】
一方、バネ12の付勢力に抗して揺動片10を揺動させると、鉤部11が凹部8から外れてキャップ部9の筒状部7への係止状態が解除されるようになっている。すなわち、キャップ部9の揺動片10によって、鉤部11と筒状部7の凹部8とによる配管3の容器本体2への取り付け状態を解除する解除機構が構成されている。
【0023】
このように構成された本実施形態に係る遠心分離容器1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1を用いて懸濁液Aを遠心分離するには、図示しない遠心分離装置に取り付けた容器本体2の筒状部7にキャップ部9を嵌合させ、揺動片10をバネ12の付勢力によって鉤部11が半径方向内方に向かう方向に揺動させることで鉤部11を筒状部7の凹部8に係合させてキャップ部9を筒状部7に取り付け状態に維持する。
【0024】
これにより、キャップ部9に取り付けた配管3と、筒状部7に設けられた貫通孔6とがキャップ部9に設けた貫通孔9dによって接続され、キャップ部9と筒状部7との間に挟まれたシール部材13が圧縮されて、貫通孔6,9dどうしが液密状態に接続される。
この状態で、配管3を介して懸濁液Aを供給すると、配管3からキャップ部9および筒状部7の貫通孔9d,6を通過して容器本体2内に懸濁液Aが供給される。
【0025】
遠心分離機を作動させて、遠心分離容器1を、その底面が半径方向外方に向かうように回転させると、懸濁液Aが、容器本体2内において、遠心力によって、比重差に応じて層状に分離される。そして、遠心分離機を停止させ、容器本体2から配管3を取り外すことにより、筒状部7の貫通孔6を介して、シリンジ等により、遠心分離された成分を別々に取り出すことが可能となる。
【0026】
この場合において、容器本体2から配管3を取り外すには、図2に示されるように、キャップ部9の半径方向の正反対位置に配置されている揺動片10を半径方向外方から挟み込むように指Cで押圧する。このときの押圧力Fがバネ12の付勢力を超えるように押圧することで、2つの揺動片10が揺動して鉤部11が凹部8から外れ、キャップ部9と筒状部7との接続状態が解除される。
【0027】
そして、図3に示されるように、容器本体2に対してキャップ部9を鉛直上方に持ち上げることにより、キャップ部9と筒状部7との嵌合状態を解除して、キャップ部9に取り付けられている配管3を容器本体2から取り外すことができる。
すなわち、本実施形態に係る遠心分離容器1によれば、半径方向外方から中心に向かって対向し、相互に相殺されるような押圧力Fをキャップ部9を挟み込むように加えるだけで、接続を解除するので、従来のルアーロック機構のように締結を解除するために過大な捻り力を作用させる必要がない。したがって、接続が解除される瞬間に容器本体2に大きな振動を与える虞がなく、配管3を容器本体2から静かに取り外すことができる。
【0028】
また、揺動片10をバネ12の付勢力によって揺動させて鉤部11を凹部8に係合させる接続方式であるため、接続状態が、従来のルアーロック機構のように接続作業を行う作業者に依存することなく、均一な接続状態を実現することができる。そして、ルアーロック機構のように緩く締結されてしまうこともないので、遠心分離動作中に容器本体2から配管3が外れてしまうことも防止することができるという利点がある。
【0029】
なお、本実施形態においては、揺動片10の先端の鉤部11を筒状部7の凹部8に係合させて配管3の容器本体2への接続状態を維持し、揺動片10を揺動させて鉤部11と凹部8との係合状態を解除したが、これに代えて、図4〜図6に示されるように薄肉部20を破断させることにより接続状態を解除する方式のものを採用してもよい。
【0030】
すなわち、図4に示される遠心分離容器1においては、キャップ部9に、容器本体2の筒状部7の外面に接着等により固定される固定部21と、配管3を固定する可動部22と、該可動部22と固定部21とを連結する薄肉部20とを備えている。薄肉部20は外力により破断しやすいように、固定部21あるいは可動部22よりも十分に薄肉に形成されている。図中符号Dは接着剤である。
【0031】
薄肉部20には、それぞれレバー23が設けられている。薄肉部20は、遠心分離動作中に作用する外力等に対しては、容器本体2に固定された固定部21に対して可動部22を接続状態に維持するが、レバー23に押圧力Fが加えられたときには、容易に破断されるような強度を有している。図5に示される例では、キャップ部9を半径方向外方から挟むように加えられる押圧力Fをレバー23に作用させることにより、梃子の原理によって押圧力Fを増幅し、薄肉部20を容易に破断させることができるようになっている。
【0032】
この場合においても、ルアーロック機構のようにキャップ部9に捻り力を作用させるのではなく、相互に相殺される方向に押圧力Fを作用させるだけで接続を解除できる。したがって、容器本体2を振動させずに済む。すなわち、容器本体2内に層状に遠心分離された懸濁液Aの各成分が振動によって混合されてしまう不都合の発生を防止しつつ、容器本体2から配管3を取り外すことができる。
【0033】
また、揺動片10やレバー23の形状や材質は特に限定されるものではなく、任意の形状や材質のものを採用してもよい。
また、薄肉部20を有する図4〜図6に示される遠心分離容器1によれば、樹脂により一体的に成形することができるという利点もある。
【符号の説明】
【0034】
A 懸濁液
B 揺動軸
F 押圧力
1 遠心分離容器
2 容器本体
3 配管
4 接続部
7 筒状部(上部開口部)
8 凹部(係合部)
9 キャップ部
10 揺動片(解除機構)
11 鉤部
12 バネ(付勢部材)
20 薄肉部
21 固定部
22 可動部
23 レバー(解除機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の上部開口部を有し、懸濁液を収容する容器本体と、
該容器本体の前記上部開口部に前記懸濁液を供給する配管を液密状態に接続する接続部とを備え、
該接続部が、前記配管に固定され前記上部開口部の外側に嵌合させられる筒状のキャップ部と、該キャップ部に設けられ、半径方向外方から挟み込むように加えられる押圧力によって、接続を解除する解除機構とを備える遠心分離容器。
【請求項2】
前記解除機構が、前記キャップ部の周方向の正反対に配置される位置に、周方向に沿って配される揺動軸回りにそれぞれ揺動可能に支持された2つの揺動片と、前記上部開口部側に設けられ前記揺動片の一端に設けた鉤部を係合させて、前記キャップ部の前記上部開口部に対する軸線方向の移動を係止する係合部とを備え、前記揺動片が、鉤部と係合部とを係合させた位置と係合を解除した位置との間で揺動可能に設けられている請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項3】
前記解除機構が、前記鉤部と前記係合部とを係合させる方向に前記揺動片を付勢する付勢部材を備える請求項2に記載の遠心分離容器。
【請求項4】
前記キャップ部が、前記上部開口部側に固定される固定部と、前記配管に接続される可動部と、該可動部と固定部とを連結する薄肉部とを備え、
前記解除機構が、半径方向外方から挟み込むように加えられる押圧力によって前記薄肉部を破断させる請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項5】
前記解除機構が、前記薄肉部に接続し、前記押圧力によって変位させられることにより前記薄肉部を変形させるレバーを備える請求項4に記載の遠心分離容器。
【請求項6】
前記固定部と、前記可動部と、前記薄肉部と、前記レバーとが樹脂により一体的に成形されている請求項5に記載の遠心分離容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45531(P2012−45531A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192687(P2010−192687)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】