説明

遠心圧縮機

【課題】インレット部にエルボ状に接続された上流管路を有する遠心圧縮機において、予旋回を制御しうる新規な手段を提供する。
【解決手段】エルボ状に相互接続されたインレット部3と上流管路4との接続点の近傍に、板状の流路制御フラップ10を旋回可能に設置する。流路制御フラップ10の角度を変更することにより、従来のVIGVのような複雑な構造を用いることなく、インレット部3内の旋回流を制御することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサホイールに臨んで形成されたインレット部と、このインレット部にエルボ状に接続された上流管路とを有する遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可変入口案内翼(Variable Inlet Guide Vane,以下VIGVという)を有する遠心圧縮機が種々提案されている(例えば、特許文献1)。このVIGVは、遠心圧縮機のコンプレッサホイールの上流側に隣接するインレット部に、放射状に配置された複数の静翼を設置してなり、これら複数の静翼の傾き角を制御することで、コンプレッサホイールに流入する空気に予旋回を与えて、遠心圧縮機の流量特性を変化させている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−190557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、遠心圧縮機の配置上の理由などから、遠心圧縮機のインレット部に上流管路をエルボ状に接続する場合がある。このような構造では、たとえVIGVを設けても、エルボ状となった流路の形状に起因してインレット部内に生じる乱流により、予旋回を正確に制御することが困難になる場合がある。
【0005】
そこで本発明の目的は、インレット部にエルボ状に接続された上流管路を有する遠心圧縮機において、予旋回を制御しうる新規な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の本発明は、コンプレッサホイールに臨んで形成されたインレット部と、前記インレット部の上流側に隣接し、前記インレット部にエルボ状に接続された上流管路とを備えた遠心圧縮機であって、前記インレット部と前記上流管路との接続点の近傍に、板状の流路制御フラップが旋回可能に設置され、当該流路制御フラップによって前記インレット部内の旋回流が制御されることを特徴とする遠心圧縮機である。
【0007】
第1の本発明では、エルボ状に相互接続されたインレット部と上流管路との接続点の近傍に、板状の流路制御フラップが旋回可能に設置されているので、この流路制御フラップの角度を変更することにより、従来のVIGVのような複雑な構造を用いることなく、インレット部内の旋回流を制御することが可能になる。
【0008】
本発明では、給気流量および前記コンプレッサホイールの回転数に基づいて前記流路制御フラップを制御する制御手段を更に備えるのが好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態について、以下に図面に従って説明する。図1において、本発明の実施形態に係る遠心圧縮機1は、自動車用内燃機関の過給機であるターボチャージャの一部として構成されている。遠心圧縮機1は、コンプレッサホイール2に臨んで形成されたインレット部3と、前記インレット部3の上流側に隣接し、前記インレット部3にエルボ状に接続された上流管路4とを備える。インレット部3は概ね円筒形であり、上流管路4の断面形状は概ね矩形である。上流管路4の断面形状の横寸法D(図2参照)は、インレット部3の内径Dと等しくされている。
【0010】
コンプレッサホイール2は、ロータ軸を介して、不図示のタービンホイールに固定されている。ロータ軸はハウジング6に回転可能に保持されている。上流管路4の上流側は、スロットル弁およびエアクリーナを有する吸気経路を経て外気に連通している。コンプレッサホイールの下流側に設けられたスクロール部7は、不図示のエンジンの吸気ポートに連通している。
【0011】
インレット部3と上流管路4との接続点の近傍には、単一の平板状の流路制御フラップ10が旋回可能に設置されている。流路制御フラップ10は概ね矩形であり、その下流側の端部で、ロータリアクチュエータ11の旋回軸12に固定されている。ロータリアクチュエータ11としてはステップモータが好適に採用される。
【0012】
旋回軸12の軸線は、上流管路4内の流れ方向に平行な中心線4aと、インレット部3の流れ方向であるロータ軸の軸線5aとがなす中立面M(図2参照)に含まれ、且つ上流管路4の流れ方向4aに概ね垂直である。流路制御フラップ10は、中立面Mと一致し又は平行な中立姿勢をとることができる。また流路制御フラップ10が旋回軸12を中心に旋回した場合には、その先端部10aの変位に応じて、流路制御フラップ10を挟む両側の流路P1,P2の実質的な開口面積の割合が変化する。したがって、流路制御フラップ10を利用して、インレット部3内の旋回流Rfの方向および速度を制御することができる。図2では、旋回流Rfはコンプレッサホイール2の回転方向Rwと同方向であり、これによってコンプレッサホイール2に予旋回を与えている状態が示されている。
【0013】
インレット部3内に生じた旋回流とコンプレッサホイール2との相対流入角β(図示せず)は、上流管路4内の幾何的寸法を示す各固定値(インレット部3と上流管路4との交差角θ、インレット部の内径D、上流管路4の断面の縦寸法aおよび横寸法D)と、変数であるコンプレッサホイール2の回転数Nt、上流管路4内の体積流量Q、および流路制御フラップ10が中立面Mに対してなす角度γを含む関数として求めることができる。したがって、実現したい相対流入角βが与えられれば、当該関数によって、現在のコンプレッサホイール2の回転数Ntおよび体積流量Qに基づいて、流路制御フラップ10の角度γを算出することができる。なお相対流入角βは、旋回流の周方向成分がコンプレッサホイール2に対してなす角である。
【0014】
そのような関数は、例えば以下のように導出することができる。体積流量をQとすると、コンプレッサホイール2に流入する軸流方向速度成分C1は式(1)で与えられる。
C1=Q/(π/4*D2) ・・・(1)
【0015】
上流管路4内におけるロータ軸に垂直な方向の速度成分V1は式(2)で与えられる。
V1=Q/(D*a)*sinθ ・・・(2)
【0016】
上流管路4内の流れが均一であると仮定して、流路制御フラップ10の角度γの場合における流路P2を流れる流量は式(3)で、また流路P1で与えられる流量は式(4)で与えられる。
Q2=(D/2+r*sinγ)/D*Q ・・・(3)
Q1=(D/2-r*sinγ)/D*Q ・・・(4)
【0017】
流路P1,P2を通る流れは上流管路4の管壁に沿って流れ、インレット部3内で衝突する。ロータ軸に垂直な方向について、流路P1,P2を通る流れ乗り軌跡の差ΔFは、密度をρとすると式(5)で与えられる。
ΔF=ρ*Q2*V1-ρ*Q1*V1=ρ*{(D/2+r*sinγ)/D*Q}*{Q/(D*a)*sinθ}-ρ*{(D/2-r*sinγ)/D*Q}*{Q/(D*a)*sinθ} ・・・(5)
【0018】
合流後の速度V1’は式(6)となる。
V1'=2*r*Q*sinγ*sinθ/(a*D)
【0019】
回転によるコンプレッサホイール2の入口の旋回方向速度成分U1は、回転速度をNtとすると式(7)のとおりである。
U1=Nt*D*π ・・・(7)
【0020】
相対流入速度の周方向成分Wrは式(8)のとおりである。
Wr=U1-V1'=Nt*D*π-2*r*Q*sinγ*sinθ/(a*D) ・・・(8)
【0021】
ゆえに相対流入角βは、式(9)のとおりとなる。この式(9)に基づいて、実現したい相対流入角βから、流路制御フラップ10の角度γを算出することができる。
tanβ=Wr-C1= Nt*D*π-2*r*Q*sinγ*sinθ/(a*D)/{Q/(π/4*D2)} ・・・(9)
【0022】
ロータリアクチュエータ11を制御する電子制御装置(ECU)21は、図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポートおよび不揮発性メモリ等を含むものである。ECU21の入力ポートには、ロータ軸の近傍に設置されロータ軸の回転数を検出する回転センサ22、および吸気通路に設けられ吸入空気量を検出するエアフローメータ23等の各種センサ類が、不図示のA/D変換器を介して接続されている。ECU21では、エンジンの状態を示すこれらの検出信号に基づいて夫々の値が算出され、後述のとおり処理される。ECU21の出力ポートには、不図示のD/A変換器および駆動回路を介して、ロータリアクチュエータ11が接続されている。
【0023】
ECU21のROMには、圧縮機性能マップが格納されている。この圧縮機性能マップは、遠心圧縮機1内の吸気流量すなわち体積流量Q、コンプレッサホイール2の前後の圧力比、およびこれらによって定義される座標平面中の領域ごとに予め定められた相対流入角βとの関係を示すものである。遠心圧縮機1は、この圧縮機性能マップにおいてサージラインSLよりも大流量側で運転される。
【0024】
以上のとおり構成された本実施形態の動作の一例について説明する。図4において、まずECU21は、回転センサ22によって検出される回転数(S10)、およびエアフローメータ23によって検出される吸入空気量(S20)をそれぞれ読み込む。次に、これらの検出値に基づいて圧縮機性能マップを参照することにより、相対流入角βの目標値が算出される(S30)。
【0025】
ここで、図3に示されるように、サージラインに隣接する低速領域Aでは、相対流入角βは、コンプレッサホイール2に予旋回を与える角度となるように、すなわちコンプレッサホイールの翼角と相対流入角とを一致させるように設定される。これは、低速領域でも流れの剥離を低減してサージの発生を抑制するためである。
【0026】
また、遠心圧縮機1の効率のピーク領域を中心とした所定の高効率領域を含む中立領域Bでは、コンプレッサホイールの翼角と相対流入角とが一致しているので旋回流を発生しないよう、相対流入角βは中立位置に設定される。
【0027】
また、高効率領域よりも大流量側の高速領域Cでは、相対流入角βは、コンプレッサホイール2に予旋回を与えるように設定される。これは、コンプレッサホイール2における衝撃波の発生を抑制するためである。
【0028】
このようにして相対流入角βの目標値が設定されると、次にECU21は、設定された相対流入角βと、各種変数の現在値とに基づき、上記所定の関数により、流路制御フラップ10の角度γの目標を算出すると共に、この目標値と現在値とが一致するように、ロータリアクチュエータ11に対して制御出力を行う(S40)。
【0029】
以上の処理は、エンジンの運転中にわたって繰返し実行される。以上の処理の結果、本実施形態では、流路制御フラップ10によってコンプレッサホイール2の予旋回が制御される。すなわち、流路制御フラップ10の角度γは、サージラインに隣接する低速領域A、および高効率領域よりも大流量側の高速領域Cではコンプレッサホイール2に予旋回を与えるように制御され、また中立領域Aでは中立位置となるように制御される。その結果、遠心圧縮機1は、圧縮機性能マップにおいて作動線Opのとおり、サージラインSLよりも大流量側で運転されることになる。
【0030】
以上のとおり、本実施形態では、エルボ状に相互接続されたインレット部3と上流管路4との接続点の近傍に、板状の流路制御フラップ10が旋回可能に設置されているので、この流路制御フラップ10の角度を変更することにより、従来のVIGVのような複雑な構造を用いることなく、インレット部3内の旋回流を制御することが可能になる。
【0031】
また本実施形態では、給気流量およびコンプレッサホイール2の回転数に基づいて流路制御フラップ10を制御するので、コンプレッサホイール2の運動を考慮した旋回流の制御が可能になる。
【0032】
なお、上記実施形態では、本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明については、特許請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明は特許請求の範囲およびその等価物の範囲および趣旨に含まれる修正および変更を包含するものである。例えば、上記実施形態では、インレット部3と上流管路4との交差角θを直角に近い角度としたが、本発明における交差角θはインレット部3と上流管路4とがエルボ状、すなわち0°より大きく90°以下の範囲で交叉して接続された場合を広く含む。ただし、交差角θは45°以上90°以下、より好適には60°以上90°以下とすることができる。
【0033】
また、上記実施形態では流路制御フラップ10を概ね矩形の平板状としたが、本発明における流路制御フラップは矩形でなくてもよく、また曲面状でもよく、また断面形状は水滴形状など厚さが不均一であってもよい。また、上記実施形態では流路制御フラップをその下流側の端部を中心に旋回するようにしたが、流路制御フラップの旋回軸は該フラップの上流側の端部であっても、また流れ方向における中間部であってもよい。また上記実施形態では旋回軸12の軸線を、上流管路4の流れ方向4aに概ね垂直としたが、旋回軸の方向は例えばロータ軸の軸線5aに一致させるなど、上記以外の方向としてもよい。さらに、上流管路4の断面形状は矩形でなくともよい。
【0034】
また、上記実施形態では、流路制御フラップ10の角度γにつき、サージラインに隣接する低速領域A、および高効率領域よりも大流量側の高速領域Cではコンプレッサホイール2に予旋回を与えるように設定し、また高効率領域を含む中立領域Bでは中立位置に設定したが、このような設定は例示にすぎず、本発明における流路制御フラップの角度は、サージラインを変化させるように設定するなど、遠心圧縮機1の運転上の必要に応じて任意に設定・制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る遠心圧縮機の概略構成を示す側面図である。
【図2】遠心圧縮機の正面図である。
【図3】圧縮機性能マップの設定例を示すグラフである。
【図4】ECUにおける制御の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 遠心圧縮機
2 コンプレッサホイール
3 インレット部
4 上流管路
7 スクロール部
10 流路制御フラップ
11 ロータリアクチュエータ
Rf 旋回流
Rw コンプレッサホイールの回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサホイールに臨んで形成されたインレット部と、前記インレット部の上流側に隣接し、前記インレット部にエルボ状に接続された上流管路とを備えた遠心圧縮機であって、
前記インレット部と前記上流管路との接続点の近傍に、板状の流路制御フラップが旋回可能に設置され、当該流路制御フラップによって前記インレット部内の旋回流が制御されることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の遠心圧縮機であって、
給気流量および前記コンプレッサホイールの回転数に基づいて前記流路制御フラップを制御する制御手段を更に備えたことを特徴とする遠心圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−211697(P2007−211697A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33027(P2006−33027)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】