説明

遮水シートの融着部分の融着状態を検査する検査方法および熱融着装置

【課題】遮水シートの融着部分の融着状態の検査の負担を軽減するための技術を提案する。
【解決手段】遮水シートの融着部分の表面の温度が遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に、順次、融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィー装置20により画像化し、その画像に基づいて遮水シートの融着部分の融着状態を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水シートの融着部分の融着状態を検査する検査方法、および熱融着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処分場は、地面を掘り下げ、或いは揚壁を構築するなどして設けられた凹面を備えており、その底から廃棄物を順次埋め立てるようになっている。この廃棄物処分場では、凹面内に投棄された廃棄物から生じる汚水が外部の土壌に拡散しないようにすることが極めて重要であり、合成樹脂シートやゴムシートよりなる高い遮水性能を有する遮水シートを凹面の全体に敷設することによって、汚水の外部拡散が防止されている。
この遮水シートの敷設は、実際には、遮水性を有するシート材を順次接合させて行う。
【0003】
このシート材の接合方法としては、図5に示すように、隣り合うシート材100の端部同士を重ね、空洞部分110を有するように、重なり部分の両端を熱融着させて接合する方法がある。また、隣り合うシート材100の端部同士を重ね、この重なり部分を熱融着し、重なり部分の上側に位置するシート材100の端部に樹脂120を盛り、図6のように接合する方法がある。
【0004】
シート材同士の融着部分に不具合がある場合(例えば、融着部分の融着が不十分である等)、形成された遮水シートがその遮水機能を発揮できなくなってしまうため、遮水シートを敷設した後、この融着部分の融着状態を検査することが必要とされている。
遮水シートの融着部分の融着状態に不具合があるか否かの検査方法は、前述したシート材の接合方法のうち、前者の接合方法によって融着された融着部分に対しては、融着により成形される空洞部分110に中空の針を入れ、これを介して空洞部分110内に空気を送り込んで加圧し、圧力損失が所定の値以下であるか否かにより、融着部分における不具合の有無の検査がされている。また、前述したシート材の接合方法のうち、後者の接合方法によって融着された融着部分に対しては、融着部分の周囲に石けん水を散布した後、該箇所を箱で覆って密閉し、この密閉空間をテスト用機材により減圧し、所定時間内に気泡が出ないかどうかにより、融着部分における破損の有無の検査がされている。
しかし、前述したシート材の接合方法のうち、前者の接合方法による融着部分に対する検査では、シート材の一辺ごとに検査を行う必要があるため、手間と時間が非常にかかり、コスト的な負担も過大になりがちである。また、不具合があることを発見できても、不具合がある具体的な位置まで特定することが難しく、また、加圧自体が不具合の原因となる可能性もある。さらに、前述したシート材の接合方法のうち、後者の接合方法による融着部分に対する検査は、箱をずらしながら、繰り返し検査を行う必要があるため、前者の接合方法による融着部分に対する検査が一回の検査でシート材の一辺全体に対して行えるのに対し、一回の検査でシート材の一辺における一部についてしか行えない。
このように、これらの融着部分に対する検査は、労力的な負担、コスト的な負担が過大になりがちである。
【0005】
このような負担を軽減すべく、融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィー(例えば、携帯熱赤外画像計測装置)により画像化する検査方法も存在する。この検査方法は、融着部分に不具合がある場合、融着部分に不具合がある箇所とその他の箇所とでは熱伝導率が異なるため、遮水シートの温度が変化していくとき、遮水シートの表面にこの熱伝導率の相違に基づく温度差が生じるという機序に着目し、遮水シートの表面の温度差を検出することによって融着部分を検査するものである。このようなサーモグラフィーを用いた検査方法によれば、遮水シートの融着部分における温度差を画像化することができるため、例えば検査を行う者がその画像を目視することにより、融着部分の融着状態に不具合がないかどうかを検査することができる。
【0006】
しかしながら、以上のような遮水シートの融着部分の融着状態のサーモグラフィーを用いた検査は、時間的、労力的な要因から、遮水シートを敷設する作業を行ってから日を改めて行われることが多い。
このため、サーモグラフィーを用いて融着部分の融着状態の検査を行う際には遮水シートに熱を加えて遮水シートの温度を上昇させて検査する必要があり、労力的、時間的、およびコスト的な負担はまだ相当なものとなっている。
【特許文献1】特開2005−98959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑み、遮水シートの融着部分の融着状態の検査の負担を軽減するための技術を提案することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、本出願は、以下のような検査方法を提供する。
すなわち、本発明は、遮水性を有する複数のシート材の隣接する端部同士を、一方から他方に向けて、端部に沿って、順次、熱融着機により熱融着することによって、廃棄物が埋め立てられる凹面に敷設されるものであり、前記廃棄物から発生する浸出水が前記凹面から漏水することを防止するための遮水シートを形成する際に、前記シート材の前記熱融着させた融着部分の融着状態を検査する方法を提供する。この方法は、前記融着部分の表面の温度が前記遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に、前記端部に沿って、順次、前記融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィーにより画像化し、その画像に基づいて前記遮水シートの融着部分の融着状態を検査する方法である。
このような方法によれば、融着部分の表面の温度が遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に、端部に沿って、順次、融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィーにより画像化するようになっている。つまり、融着状態を検査する際に、複数のシート材の隣接する端部同士を融着する際に与えられた熱を利用することができるため、遮水シートに再度熱を加えて遮水シートの融着部分の温度を上昇させる必要がない。また、遮水シートを形成するための融着作業に並行して、融着部分に不具合がないかどうかの検査作業(画像化作業)をまとめて行うことができる。よって、労力的、時間的、およびコスト的な負担を軽減することができる。
【0009】
前記サーモグラフィーによる画像化は、融着部分の表面の温度が遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に行えばよい。
例えば、前記熱融着機により前記複数のシート材の端部同士を熱融着させてから1分以内、可能であれば30秒以内に行うことができる。このように、熱融着機により前記複数のシート材の端部同士を熱融着させた直後にサーモグラフィーによる画像化を行えば、複数のシート材の隣接する端部同士を融着する際に与えられた熱を利用して融着部分の融着状態の検査を行うに十分である。
あるいは、前記サーモグラフィーによる画像化は、一般的なサーモグラフィーを用いて画像化された熱画像を見た場合に、検査を行う作業者が視覚的に熱画像における温度差を把握することによりシート材の融着状態を認識できるような温度差が、前記融着部分の表面の温度と、前記遮水シートの前記融着部分以外の表面の温度との間にあるうちに行うことができる。より具体的には、融着部分の表面の温度と、前記遮水シートの前記融着部分以外の表面の温度との差が例えば2℃以上あるときに、前記サーモグラフィーによる画像化を行うことができる。融着部分の表面の温度と、遮水シートの融着部分以外の表面の温度との温度差が2℃以上(例えば5℃や7℃)あれば、一般的なサーモグラフィーを用いて画像化された熱画像を見た場合に、検査を行う作業者が熱画像における温度差からシート材の融着状態をを視覚的に認識することができるからである。なお、融着部分の表面の温度と、遮水シートの融着部分以外の表面の温度との温度差は、2℃以上に限られず、融着部分の表面の温度と、遮水シートの融着部分以外の表面の温度との温度差が少しでもあれば、例えば、その温度差により、検査を行う作業者が熱画像からシート材の融着状態を視覚的に認識することができるのであれば、2℃以下、例えば1℃であってもよい。
例えば、前記熱融着機により、シート材の隣接する端部同士を、一方から他方に向けて、端部に沿って、順次行う前記熱融着を、隣り合う前記シート材の端部同士を重ねた場合における重なり部分の両端を、その間に空洞部分を残すようにしながら熱融着させることにより行うとともに、前記サーモグラフィーによる画像化は、前記重なり部分の両端である融着部分に対応する前記シート材の表面の温度と、前記空洞部分に対応する前記シート材の表面の温度との差が2℃以上あるときに行うことができる。
【0010】
また、前記サーモグラフィーを、前記熱融着機の後方を移動させてもよい。こうすれば、シート材の隣接する端部同士が熱融着機により融着された直後に、この融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィーにより画像化することができる。
【0011】
以上のような本出願の検査方法の効果は、例えば本出願が提供する以下の熱融着装置により得ることができる。
本出願が提供する熱融着装置は、廃棄物が埋め立てられる凹面に敷設されるものであり、前記廃棄物から発生する浸出水が前記凹面から漏水することを防止するための遮水シートを形成すべく、前記凹面に敷設された遮水性を有する複数のシート材の端部同士を、一方から他方に向け、端部に沿って、順次、熱融着させる、熱融着機と、前記熱融着機により熱融着させた前記シート材の融着部分の表面の温度分布を画像化する、サーモグラフィーと、を有しており、前記サーモグラフィーは、前記融着部分を画像化できるように、前記熱融着機に取り付けられており、前記サーモグラフィーによる前記画像化は、前記遮水シートの融着部分の表面の温度が遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に、前記端部に沿って、順次、行われるようになっている。
この熱融着装置には、融着部分を画像化できるような状態で、サーモグラフィーが熱融着機に取り付けられている。よって、熱融着機の動作に合わせ、サーモグラフィーを、熱融着機の後方を移動させることができ、融着部分を、順次、適切に画像化することができる。
また、熱融着機とサーモグラフィーが一体に構成されているので、サーモグラフィーの、熱融着機に対する相対的な位置を一定にすることができ、融着部分をもれなく画像化することが期待できる。
【0012】
前記サーモグラフィーは、その焦点位置が前記熱融着機の相対的な位置に対して一定となるように、前記熱融着機に取り付けられていてもよい。このように、その焦点位置が熱融着機の相対的な位置に対して一定となるように、熱融着機にサーモグラフィーが取り付けられていれば、熱融着機やサーモグラフィーが移動しても焦点があった状態でぶれることなく、順次融着部分を画像化し続けることができる。
【0013】
前記熱融着装置は、手動によって移動させるように構成してもよいが、前記複数のシート材の一方から他方に向け、端部に沿って自走する、自走手段をさらに有していてもよい。自走する自走手段を有していれば、作業者の労力的な負担をより軽減することができる。
【0014】
前記サーモグラフィーは、前記複数のシート材の端部同士を前記熱融着機により熱融着させてから1分以内、できれば30秒以内に、前記融着部分を画像化するようになっていてもよい。
具体的には、熱融着させてから1分以内、できれば30秒以内に、融着部分を画像化するように、熱融着機とサーモグラフィーの相対的な位置、熱融着装置の走行速度等を決定してもよい。
また、前記サーモグラフィーは、前記融着部分の表面の温度と、前記遮水シートの前記融着部分以外の表面の温度との差が2℃以上ある間に、前記融着部分を画像化するようになっていてもよい。
例えば、前記熱融着機は、隣り合う前記シート材の端部同士を重ねた場合における重なり部分の両端を、その間に空洞部分を残すようにしながら熱融着させるようになっており、前記サーモグラフィーは、前記重なり部分の両端である融着部分に対応する前記シート材の表面の温度と、前記空洞部分に対応する前記シート材の表面の温度との差が2℃以上ある間に、前記融着部分を画像化するようになっていてもよい。
【0015】
前記サーモグラフィーにより画像化した画像データを保存する、保存手段をさらに有していてもよい。
保存手段に画像化した画像データを保存するようにすれば、融着部分に不具合があるかどうかを後から確認することができる。また、融着部分の不具合の有無だけでなく、不具合がある箇所を特定することができるようになる。
なお、この保存手段は、熱融着装置の内部に設けられていてもよいし、熱融着装置の外側にあってもよい。また、熱融着装置の内部に設けられている場合、熱融着装置から保存手段を取り外せるようになっていてもよい。
【0016】
前記熱融着装置は、前記サーモグラフィーにより画像化した画像データを表示する表示手段をさらに有していてもよい。
このような表示手段を有する熱融着装置によれば、融着部分の不具合の有無を融着作業をしながら(または作業現場で他の機器を使用せずに)把握することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の、遮水シートの融着部分の融着状態を検査する方法、および熱融着装置によれば、遮水シートの融着部分の融着状態の検査の負担を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の遮水シートの融着部分の融着状態を検査する方法の、好ましい実施形態について説明する。
【0019】
<第1実施形態>
この遮水シートの融着部分の融着状態を検査する方法は、遮水シートの融着部分の表面の温度が遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に、順次、融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィー装置により画像化し、その画像に基づいて遮水シートの融着部分の融着状態を検査するものである。
【0020】
この方法は、例えば、以下に説明する本発明の熱融着装置を用いて実行される。図1は、この熱融着装置1の構成を示す図である。
図1に示すように、本発明の熱融着装置1は、凹面に敷設された遮水性を有する複数のシート材の端部同士を熱融着させる熱融着機10と、熱融着機10により熱融着させたシート材の融着部分の表面の温度分布を画像化するサーモグラフィー装置20と、を有している。
簡単にいうと、本実施形態の熱融着装置1は、例えばライスター社の「ツイニーT型」、「コメット型」(商標)、パフニッポンピーエム社の「パフ8365型」(商標)、HT社の「ウォルフ型」(商標)等の市販の自走型の熱融着機にサーモグラフィー装置20を取り付けることによって構成することができる。
【0021】
遮水シートは、廃棄物が埋め立てられる凹面に敷設され、凹面に埋め立てられる廃棄物から発生する浸出水の、凹面からの漏水を防止するためのものであり、シート材を複数接合することにより構成される。
シート材は、遮水性能を有するものとなっており、その素材は、遮水性能を有する限りどのようなものであってもよいが、例えば高密度ポリエチレンにより構成されるものとすることができる。また、その形状は、必ずしもこれに限られないが、矩形とされる。遮水シートは、隣接するシート材同士の端部を、遮水性能を維持できるように順次熱融着して接合し、凹面の全体を覆うように敷設することによって、敷設されることになる。
【0022】
熱融着機10は、この遮水シートを形成すべく、シート材同士を順次熱融着するための装置であり、重ね合わせたシート材の重なり部分に熱風を吹き付け、この部分を加熱溶融させるためのヒータ部11と、加熱溶融させた重なり部分を挟み込んで圧着し、両シート材を一体化させるための一対のローラである上側ローラ12a、下側ローラ12bと、熱融着装置1を自走させるための複数の自走ローラ13と、その先端にサーモグラフィー装置20を取り付けるための、熱融着機10の自走方向と逆側に伸び、その先端が一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12bの後方に位置するアーム部14と、を有する。なお、熱融着機10の自走方向側(図1における左側)を前方、自走方向と逆側(図1における右側)を後方、とする。
ヒータ部11は、重ね合わせたシート材の重なり部分に熱風を吹き付けるためのヒータノズル11aと、図示しない熱風発生機構と、を備えている。ヒータノズル11aは、熱融着機10により熱融着を行う際、図1に矢印で示される一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12bの回転方向に位置するシート材の重なり部分の間に差し込むことができるように、移動可能に支持されている。
【0023】
一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12bは、熱融着機10本体の後方側に、それぞれ取付アーム17a、17bを介して取り付けられている。
図2は、下側ローラ12bを熱融着機10本体に取り付ける取付アーム17bの構成を示す図である。
この図に示すように、下側ローラ12bの回転の中心にある軸部120aは、略コ字状に形成されたアーム部材170と接続されている。
アーム部材170は、長細い直方形状の部材170aと、この直方形状の部材170aの両端に同一方向に略平行に取り付けられた長細い直方形状の部材170b、170cと、を有している。部材170cの長さは、シート材の重なり部分の幅よりも長く構成されており、部材170bの長さは、部材170cよりもずっと短く構成されている。
下側ローラ12bの軸部120aは、この部材170bの先端と接続されている。
このアーム部材170の部材170cの先端は、その一端が熱融着機10本体に取り付けられており、アーム部材170を含む面と略垂直方向に伸びる長細い直方形状の部材180の他端と、接続されている。
熱融着機10の使用時には、図2に示すように、重なり合うシート材100の間に部材170cを挟み込む。
この一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12bは、隣り合うシート材の重なり部分の中心に空洞部分が形成されるように、シート材の重なり部分の両端を圧着するように、上側ローラ12aおよび下側ローラ12bの中央部が互いに接触しないように断面凹型に形成されており、図5に示した融着部分が形成されるようになっている。本実施形態の一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12bはこのような形状のローラであるものとして説明するが、これに限られず、図6に示した融着部分が形成されるように、シート材の重なり部分全体を圧着するようになっていてもよい。
【0024】
これらのヒータ部11、一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12b、および自走ローラ13の動作は、熱融着装置制御機構15によって制御される。
なお、本実施形態の自走ローラ13は、図示しないセンサによりシート材の重なり部分を検知し、この重なり部分に沿って動くように制御される。
また、自走ローラ13の自走速度は、ヒータノズル11aによりシート材の重なり部分が加熱される温度、一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12bの回転速度、および圧着力などの条件に対して適した速度となるように制御される。
本実施形態では、アーム部14の先端に取り付られるサーモグラフィー装置20による測定が、シート材の重なり部分が熱融着機10により熱融着されてから約30秒以内に行うことができるように、熱融着機10とサーモグラフィー装置20の相対的な位置、熱融着装置1の走行速度等が決定される。すなわち、本実施形態では、サーモグラフィー装置20による測定が、シート材の重なり部分が熱融着機10により熱融着されてから約30秒以内に行うことができるように、熱融着機10とサーモグラフィー装置20の相対的な位置、熱融着装置1の走行速度等が決定されるが、これに限られず、熱融着機10とサーモグラフィー装置20の相対的な位置、熱融着装置1の走行速度等は、融着部分の表面の温度が遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前(好ましくは1分以内)に、順次、融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィーにより画像化することができるように決定することができる。また、例えば、融着部分の表面の温度と、遮水シートの融着部分以外の表面の温度との差があるとき、例えば2℃以上あるときに、順次、融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィーにより画像化することができるように決定してもよい。具体的には、重なり部分の両端である融着部分に対応するシート材の表面の温度と、空洞部分に対応するシート材の表面の温度との差が2℃以上あるときに、順次、融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィーにより画像化することができるように、熱融着機10とサーモグラフィー装置20の相対的な位置、熱融着装置1の走行速度等を決定してもよい。
融着部分の表面の温度と、遮水シートの融着部分以外の表面の温度との温度差が5℃や7℃のように2℃以上あれば、一般的なサーモグラフィーを用いて画像化された熱画像を見た場合に、検査を行う作業者が熱画像における温度差からシート材の融着状態をを視覚的に認識することができるからである。なお、融着部分の表面の温度と、遮水シートの融着部分以外の表面の温度との温度差は、2℃以上に限られず、融着部分の表面の温度と、遮水シートの融着部分以外の表面の温度との温度差が少しでもあれば、例えば、その温度差により、検査を行う作業者が熱画像からシート材の融着状態を視覚的に認識することができるのであれば、2℃以下、例えば1℃であってもよい。すなわち、一般的なサーモグラフィーを用いて画像化された熱画像を見た場合に、検査を行う作業者が視覚的に熱画像における温度差を把握することによりシート材の融着状態を認識できるような温度差が、前記融着部分の表面の温度と、前記遮水シートの前記融着部分以外の表面の温度との間にあるうちにサーモグラフィーによる画像化を行うことができればよい。
本実施形態のアーム部14は、熱融着装置1の不使用時にコンパクトにできるように、伸縮自在に構成されているが、必ずしもこのように構成する必要はない。
【0025】
本実施形態の熱融着機10は以上のような構成のものとして説明するが、熱融着機10は、必ずしも自走するように構成されている必要はなく、手動で移動させられるようになっていてもよい。この場合、熱融着装置1は、例えばライスター社の「ライスタートリアック型」(商標)、ムンシュ社の「押出溶接機U5R型」(商標)、ガンデル社の「ガンデル押出溶接機」(商標)等の市販の手動型の熱融着機に、サーモグラフィー装置20を取り付けることによって構成することができる。
また、本実施形態のヒータ部11は、重ね合わせたシート材の重なり部分に熱風を吹き付けてこの部分を溶融させるような構成になっているが、これに限られず、重ね合わせたシート材の重なり部分に高温のコテを接触させて溶融させるような構成になっていてもよい。
【0026】
サーモグラフィー装置20は、被検物である遮水シートの融着部分の表面の温度分布を検出する装置であり、融着部分の温度分布を検出し、画像化して表示・記録できるようになっている。
具体的には、融着部分から放射される赤外線を検出するセンサを備えるカメラ部21と、このカメラ部21からの信号を処理して、モニタやメモリに出力する図示しない信号処理部とを有するように構成されている。信号処理部は、モニタと、図示しないメモリを含んでいる。モニタは、入力されたデータに基づき温度分布を色分けして表示するものであり、メモリは、入力されたデータを記録・保存するものである。
このサーモグラフィー装置20は、カメラ部21が融着部分をもれなく捉えることができ、その焦点位置が融着部分に合うような位置、角度で、熱融着機10から伸びるアーム部14の先端に取付られている。本実施形態では、サーモグラフィー装置20は、融着部分の真上を移動するように取り付けられている。
本実施形態のサーモグラフィー装置20は上述のようなものとして記載するが、これに限られず、少なくとも温度分布を検出することができるように構成されていればよい。
また、メモリは、本実施形態ではサーモグラフィー装置20内に、取り外し可能に設けられているものとして記載するが、これに限られず、取り外しできないようにサーモグラフィー装置20に内蔵されていてもよいし、サーモグラフィー装置20の外部に設けられていてもよい。
【0027】
次に、この熱融着装置1の動作について説明する。
まず、重ね合わせたシート材の重なり部分の一端部を、熱融着機10の一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12bの間に挟み込む。具体的には、図2に示すように、重ね合わせたシート材100の間に部材170cを挟み込む。
続いて、ヒータノズル11aをシート材100の重なり部分の間に差し込む。
【0028】
ヒータノズル11aをシート材100の重なり部分の間に差し込んだ状態で熱融着装置1を稼働させると、自走ローラ13がシート材100の重なり部分に沿って前方に動くと共に、図3に示すように、熱融着機10のヒータノズル11aから順次シート材100の重なり部分に向けて熱風が噴射され、重なり部分の表面が溶融される。また、自走ローラ13の回転速度と同じ速度で一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12bが回転し、溶融した重なり部分が順次一対の上側ローラ12aおよび下側ローラ12bの間に送り込まれ、圧着される。このようにして、重なり部分が熱融着される。
【0029】
また、熱融着装置1を稼働させると、同時にサーモグラフィー装置20による測定が開始される。すなわち、図3に示すように、サーモグラフィー装置20のカメラ部21のセンサにより、熱融着された直後の重なり部分である、融着部分の表面から放射される赤外線の放射エネルギーが非接触で測定される。
測定された信号は信号処理部に送られ、赤外線放射強度の分布、すなわち温度分布が、モニタに画像として表示される。
また、この画像データは、本実施形態では、メモリの一例であるディスクに保存される。
【0030】
融着部分に不具合がある場合、当該融着部分とその他の融着部分では、熱伝導率の相違から、融着部分の表面の温度に温度差が生じるため、サーモグラフィー装置20によって得られた画像データに温度差がある場所があるか否かを検査する者がモニタで評価または後で他のパソコン等のディスプレイで評価し、融着部分の融着状態を検査する。
図4は、サーモグラフィー装置20によって得られた画像の一例を示す写真である。この写真から分かるように、融着部分に不具合がある箇所の温度は、他の融着部分の箇所の温度と異なり、この例では、融着部分に不具合がある箇所の温度は、他の融着部分の箇所の温度よりも低くなっている。
なお、熱融着装置の一対のローラがシート材の重なり部分全体を圧着するような形状となっており、融着部分が図6のように融着される場合であっても、融着部分に不具合がある箇所の温度が他の融着部分の箇所の温度よりも低くなり、不具合がある融着部分を検出することができる。
【0031】
以上のように、本実施形態の熱融着装置1によれば、遮水シートを形成する融着作業と並行して、融着部分に不具合がないかどうかを検査するための画像化作業をまとめて行うことができる。
すなわち、サーモグラフィー装置20は、複数のシート材の端部同士を熱融着機10により熱融着させてから約30秒以内に、融着部分を画像化するようになっているので、融着部分の表面の温度が遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に、順次、融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィーにより画像化することができ、融着状態を検査する際に、複数のシート材の隣接する端部同士を融着する際に与えられた熱を利用することができる。よって、遮水シートに再度熱を加えて遮水シートの融着部分の温度を検査作業のために上昇させる必要がなく、また、融着作業と画像化作業とを一度に行うことができるので、労力的、時間的、およびコスト的な負担を軽減することができる。
【0032】
また、熱融着装置1においては、熱融着機10とサーモグラフィー装置20が一体に構成されているので、サーモグラフィー装置20の、融着部分に対する相対的な位置を一定にすることができ、熱融着機10の動作に合わせてサーモグラフィー装置20を移動させることができる。
【0033】
また、熱融着装置1には、融着部分をもれなく画像化でき、その焦点位置が一定となるように(融着部分に合うように)、サーモグラフィー装置20が熱融着機10に取り付けられているので、熱融着機10およびサーモグラフィー装置20を移動させる進行方向や速度がずれることがなく、融着部分をもれなく、焦点がぶれることなく画像化することができる。
【0034】
また、熱融着装置1は、自走するように構成されているので、労力的な負担をより軽減することができる。
【0035】
また、サーモグラフィー装置20により画像化した画像データはメモリに保存されるようになっているので、融着部分に不具合があるかどうかを後から確認することができる。また、融着部分の不具合の有無だけでなく、不具合がある箇所を特定することができる。
さらに、熱融着装置1は、サーモグラフィー装置20により画像化した画像データを表示するモニタを有するので、融着部分の不具合の有無を融着作業をしながら(または作業現場で他の機器を使用せずに)把握することもできる。
【0036】
<第2実施形態>
なお、本発明の、遮水シートの融着部分の融着状態を検査する検査方法は、以上説明した熱融着装置1を用いて実行する必要はなく、必ずしも熱融着機とサーモグラフィー装置が一体となっている必要はない。
具体的には、以下の第2実施形態に示すようにして、遮水シートの融着部分の融着状態を検査するようになっていてもよい。
【0037】
本実施形態の検査方法は、自走式の熱融着機と、熱融着機と一体となっていないサーモグラフィー装置と、を用いて実行することができる。
この自走式の熱融着機は、第1実施形態の熱融着機10とほぼ同様の構成からなる熱融着機であるが、アーム部14を備えていない。すなわち、本実施形態の熱融着機として、第1実施形態で例に挙げたような市販の自走式の熱融着機自体を用いることができる。
サーモグラフィー装置は、第1実施形態のサーモグラフィー装置20と同様の構成からなる装置である。このサーモグラフィー装置は、熱融着機に取り付けられておらず、作業者がこのサーモグラフィー装置を移動するようになっている。
具体的には、この自走式の熱融着機を稼働させると、シート材の重なり部分が順次、溶融・圧着され、この重なり部分が熱融着されることとなる。この熱融着機により熱融着された融着部分を、サーモグラフィー装置のカメラ部のセンサが順次捉えることができるように、この熱融着機の後を、作業者がサーモグラフィー装置を持って、移動する。
こうすれば、第1実施形態の熱融着装置1を使用した場合と同じように、融着部分の表面の温度が遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に、順次、融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィーにより画像化することができ、融着状態を検査する際に、複数のシート材の隣接する端部同士を融着する際に与えられた熱を利用することができる。
このサーモグラフィーによる画像化は、熱融着機により複数のシート材の端部同士を熱融着させてから1分以内、可能であれば30秒以内に行うことが好ましい。このように、熱融着機により複数のシート材の端部同士を熱融着させた直後にサーモグラフィーによる画像化を行えば、複数のシート材の隣接する端部同士を融着する際に与えられた熱を利用して融着部分の融着状態の検査を行うに十分である。
なお、本実施形態においては、自走式の熱融着機を使用するものとして説明したが、第1実施形態に例示したような手動式の熱融着機を使用しても構わない。
また、サーモグラフィー装置を作業者が持って移動する代わりに、サーモグラフィー装置に台車等の移動手段を取り付け、自走または手動により移動させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態の熱融着装置の構成を示す図。
【図2】本実施形態の熱融着装置の下側ローラの取付状態の説明図。
【図3】本実施形態の熱融着装置の使用状態を示す図。
【図4】融着部分に不具合がある箇所を、サーモグラフィー装置により画像化した写真。
【図5】隣り合うシート材同士の接合状態を示す図。
【図6】隣り合うシート材同士の接合状態を示す図。
【符号の説明】
【0039】
1 熱融着装置
10 熱融着機
11 ヒータ部
11a ヒータノズル
12a、12b ローラ
13 自走ローラ
14 アーム部
20 サーモグラフィー装置
21 カメラ部
100 シート材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮水性を有する複数のシート材の隣接する端部同士を、一方から他方に向けて、端部に沿って、順次、熱融着機により熱融着することによって、廃棄物が埋め立てられる凹面に敷設されるものであり、前記廃棄物から発生する浸出水が前記凹面から漏水することを防止するための遮水シートを形成する際に、前記シート材の前記熱融着させた融着部分の融着状態を検査する方法であって、
前記融着部分の表面の温度が前記遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に、前記端部に沿って、順次、前記融着部分の表面の温度分布をサーモグラフィーにより画像化し、その画像に基づいて前記遮水シートの融着部分の融着状態を検査する、
遮水シートの融着部分の融着状態を検査する検査方法。
【請求項2】
前記サーモグラフィーによる画像化は、前記熱融着機により前記複数のシート材の端部同士を熱融着させてから1分以内に行う、
請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
前記サーモグラフィーによる画像化は、前記融着部分の表面の温度と、前記遮水シートの前記融着部分以外の表面の温度との差が2℃以上あるときに行う、
請求項1記載の検査方法。
【請求項4】
前記熱融着機により、シート材の隣接する端部同士を、一方から他方に向けて、端部に沿って、順次行う前記熱融着を、隣り合う前記シート材の端部同士を重ねた場合における重なり部分の両端を、その間に空洞部分を残すようにしながら熱融着させることにより行うとともに、
前記サーモグラフィーによる画像化は、前記重なり部分の両端である融着部分に対応する前記シート材の表面の温度と、前記空洞部分に対応する前記シート材の表面の温度との差が2℃以上あるときに行う、
請求項3記載の検査方法。
【請求項5】
前記サーモグラフィーを、前記熱融着機の後方を移動させる、
請求項1または2記載の検査方法。
【請求項6】
廃棄物が埋め立てられる凹面に敷設されるものであり、前記廃棄物から発生する浸出水が前記凹面から漏水することを防止するための遮水シートを形成すべく、前記凹面に敷設された遮水性を有する複数のシート材の端部同士を、一方から他方に向け、端部に沿って、順次、熱融着させる、熱融着機と、
前記熱融着機により熱融着させた前記シート材の融着部分の表面の温度分布を画像化する、サーモグラフィーと、を有しており、
前記サーモグラフィーは、前記融着部分を画像化できるように、前記熱融着機に取り付けられており、
前記サーモグラフィーによる前記画像化は、前記遮水シートの融着部分の表面の温度が遮水シートの他の部分の表面の温度まで下がる前に、前記端部に沿って、順次、行われるようになっている、
熱融着装置。
【請求項7】
前記複数のシート材の一方から他方に向け、端部に沿って自走する、自走手段をさらに有する、
請求項6記載の熱融着装置。
【請求項8】
前記サーモグラフィーは、前記複数のシート材の端部同士を前記熱融着機により熱融着させてから1分以内に、前記融着部分を画像化するようになっている、
請求項6または7記載の熱融着装置。
【請求項9】
前記サーモグラフィーにより画像化した画像データを保存する、保存手段をさらに有する、
請求項6ないし8のいずれかの項記載の熱融着装置。
【請求項10】
前記サーモグラフィーにより画像化した画像データを表示する、表示手段をさらに有する、
請求項6ないし9のいずれかの項記載の熱融着装置。
【請求項11】
前記サーモグラフィーは、その焦点位置が前記熱融着機の相対的な位置に対して一定となるように、前記熱融着機に取り付けられている、
請求項6ないし10のいずれかの項記載の熱融着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−89437(P2008−89437A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271270(P2006−271270)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【出願人】(501142777)
【Fターム(参考)】