説明

配合されている分子の制御放出用の固形放出系およびその製造方法

【課題】本発明は、ゲスト物質を投与するための固形剤型放出系の用具の提供。
【解決手段】本発明は、用具が治療薬剤及びガラス形成性のポリオール及び/又は疎水性炭水化物誘導体(HDC)を含んでなる組成物を含み、HDCが炭水化物幹鎖を有し、前記炭水化物幹鎖の一を超えるヒドロキシル基が低い親水性を有するその誘導体により置換されている、治療薬剤の、局所、皮下、皮内あるいは経皮放出用具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、分子を貯蔵、分布および制御放出するための固形放出系に関し、さらに特にガラス質媒体およびゲスト物質からなる固形剤型放出系に関する。このような放出系の製造方法および使用方法がまた提供される。
【背景技術】
【0002】
固形放出系は、不安定な分子、特に生体活性物質、例えば医薬剤、酵素、ワクチンおよび生物学的調節剤肥料、例えば肥料、殺虫剤およびフェロモン類の制御放出などの広く種々の用途に有用である。
生体組織、例えば粘膜、皮膚、眼、皮下、皮内および肺などへの生体活性物質の固形剤型放出は、液体の局所投与、いわゆる「貼布剤」を経る経皮投与、および皮下組織注射などの従来の方法に優る数種の利点を有する。固形剤型放出は、固形剤型の直接経皮放出によって、慣用の針および注射器の使用を排除することにより感染の危険を減少させることができ、多回用量バイアルよりもさらに正確な薬用量を与えることができ、さらにまた皮下組織注射がしばしば伴う不快感を最低にするかまたは排除することができる。数種の固形剤型放出系が開発されており、この中には経皮放出用具および発射性放出用具が包含される。
【0003】
局所放出は傷治癒用の抗生物質などの種々の生体活性物質用に利用されている。これらの局所用軟膏、ゲル、クリーム等は有効性を持続するためにしばしば再施用しなければならない。これは特に、火傷および潰瘍の場合に困難である。
医薬の経皮投与に使用されている用具(device)は通常、医薬の貯蔵層を備えた皮膚に接着させる積層複合体、すなわち経皮貼布剤からなり、このような複合体は例えば米国特許第4,906,463号に記載されている。しかしながら、かなりの医薬は経皮放出には適しておらず、またこのような放出が可能なものでも、経皮医薬放出率は完全ではない。
皮下移植可能な治療系がまた、数か月または数年の延長された期間にわたり或る種の医薬剤をゆっくりと放出するために処方されている。周知の例には、ステロイドホルモン類放出用のノルプラント(Norplant)(登録商標)がある。
【0004】
膜浸透性型制御医薬放出系では、医薬を速度制限性のポリマー膜により包まれている隔室内に封入する。この医薬貯蔵体は医薬粒子または固形医薬の液体またはマトリックス型分散媒質中の分散液(または溶液)を含有することができる。このポリマー膜は同種または異種の無孔質ポリマー材料あるいは微孔質または半透過性膜から構成することができる。ポリマー膜の内部への医薬貯蔵体の封入は、成型、カプセル封入、微小カプセル封入またはその他の技術によって達成することができる。インプラントは内部芯部中の医薬の溶解および外側マトリックスを横切るゆっくりした拡散によって医薬を放出する。この種の移植可能な治療用具からの医薬の放出は比較的一定でなければならず、かつまたポリマー膜内の医薬の溶解速度または横切る拡散速度あるいは微孔質または半透過性膜にほとんど依存する。内部芯部は経過時間にわたり実質的に溶解することができる。しかしながら、現在使用されている用具では、外側マトリックスは溶解しない。
インプラントは、皮膚を切開し、皮膚と筋肉との間にインプラントを押し込むことによって皮下に配置される。それらの使用の終了時には、溶解しない場合には、これらのインプラントは外科的に取り除かねばならない。米国特許第4,244,949号に記載されているインプラントは、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などの不活性プラスティックの外側マトリックスを有する。この型式の移植可能な治療系の例には、プロゲスタサートIUD(Progestasert IUD)およびオキュザート(Ocusert)系がある。
【0005】
別種の移植可能な治療系には、マトリックス拡散型制御医薬放出系が包含される。この医薬貯蔵体は親脂質性または親水性ポリマーマトリックス全体に医薬粒子を均一に分散させることによって形成される。このポリマーマトリックス中への医薬粒子の分散は、医薬を粘性の液状ポリマーまたは半固体状ポリマーと室温で混合し、次いでこのポリマーを架橋結合させることによって、あるいは医薬粒子を高められた温度で融解したポリマーと混合することによって行うことができる。医薬粒子および(または)ポリマーを有機溶剤中に溶解し、次いで混合し、高められた温度でまたは減圧で、型中において溶剤を蒸発させることによって形成することもできる。この型式の放出用具からの医薬放出速度は一定ではない。この型式の移植可能な治療系の例には、避妊用膣リングおよびコンピュドース(Compudose)インプラントがある。PCT/GB90/00497には、移植可能な用具を形成するための除放出性ガラス状系が記載されている。ここに記載されているインプラントは生体吸収性であり、外科的に取り除く必要はない。しかしながら、挿入は外科的手段によるものである。さらにまた、これらの用具では、配合できる生体活性物質の種類が厳格に制限され、当該放出用具中に配合できるためには、生体活性物質は熱および(または)溶剤に対して安定でなければならない。
【0006】
微小貯蔵体溶解−制御性医薬放出系では、水混和性ポリマーの水性溶液中の医薬粒子の懸濁液である医薬貯蔵体は、ポリマーマトリックス中の多数の分離した非浸食性の顕微鏡的大きさの医薬貯蔵体の均質分散体を形成している。この微細分散は高エネルギー分散技術を用いて生じさせることができる。この型式の医薬放出用具からの医薬の放出は、界面分配またはマトリックス拡散−制御プロセスのどちらかに従う。この型式の医薬放出用具の例には、シンクロ−メート−Cインプラント(Syncro−Mate−C Implant)がある。
注型ポリマーインプラントの場合には、有機溶剤に耐えることができない生体活性物質は使用に適しない。押出し成型ポリマー系の場合には、当該インプラントの形成に必要な高められた温度に耐えることができない生体活性物質に使用するには適していない。全部の場合に、特に長期間にわたり体温で不安定な生体活性物質に使用するには適していない。
粘膜表面に、特に「吸入により」(鼻−咽頭部および肺に)エアロゾル形で投与するための各種剤型が提供されている。吸入医薬投与用の製剤は一般に、医薬剤の液状製剤およびこの液をエアロゾル形で放出する用具からなる。米国特許第5,011,678号には、医薬活性物質、生体適合性両親媒性ステロイド類および生体適合性(ヒドロ/フルオロ)炭素推進剤を含有する適当な製剤が記載されている。米国特許第5,006,343号には、リポソーム、医薬活性物質およびこのリポソームを肺表面を横切る移送を増強するのに有効な量の胞状界面活性蛋白質を含有する適当な製剤が記載されている。
【0007】
エアロゾル型製剤を使用する場合の欠点の一つは、水性懸濁液または溶液中に医薬剤を保持すると凝集を導くことがあり、またその活性および生体利用性の損失を導くことがあることにある。活性の損失は冷蔵により部分的に防止することができる。しかしながら、これはこれらの製剤の有用性を制限する。このことは、ペプチド類およびホルモン類の場合に特に真実のものとなる。例えば、合成ゴナドトロピン放出性ホルモン(GnRH)類縁体、例えばアゴニストナファレリンまたはアンタゴニストガニレレックス等は、高力値、増大した疎水性度および膜結合性を有するようにデザインされる。これらの化合物は、水性溶液中で凝集し、時間経過とともに粘度を増加する定められた構造に形成するのに充分な疎水性を有する。従って、鼻または肺内におけるこの製剤の生体利用性は、格別に低いことがある。粉末状製剤を使用することによって、これらの欠点のかなりは克服される。このような粉末に要求される粒子サイズは、肺内放出において深部胞状体に沈着させるために、0.5〜5ミクロンである。不幸なことに、このような粒子サイズの粉末は水を吸収し、凝集する傾向を有し、従って深部胞状体空間への粉末の沈着は減少される。さらに大きい粒子サイズを有する粉末は鼻−咽頭部への放出には適しているが、このような粉末の凝集傾向は接触する粒子表面面積を減少させ、これらの膜を通過する吸収を減少させる。静電気相互作用によって形成される凝集体を解体する用具が現在使用されている[例えば、タルボハラー(Turbohaler)(登録商標)]。しかしながら、これらの用具は水誘発凝集体は解体しない。水分を吸収せず、凝集しない粉末を獲得することは有利であり、これにより医薬の肺濃度は増加される。
【0008】
発射経皮投与用の固形剤型放出媒質がまた開発されている。例えば、米国特許第3,948,263号には、外側ポリマー殻内に封入されている生体活性物質からなる動物用発射型インプラントが獣医用に開示されている。同様に、米国特許第4,326,524号には、外側ケースを備えていない生体活性物質および不活性結合剤からなる固形剤型発射型注入製剤が記載されている。放出は圧縮気体または爆発による。インプラント用の発射型注入製剤により担持されているゼラチンで覆われたトランキライザー性物質がまた、米国特許第979,993号に記載されている。しかしながら、これらの発射型用具は、放出される剤型が、代表的にはミリメーター単位の比較的大きいサイズを有することから、大型動物の獣医用途にのみ適したものである。
【0009】
細胞レベルでの発射型放出がまた、成功している。この発射型投与の一般原則は、圧縮気体の放出により生成される超音波波頭を使用して、隣接するチャンバー中に含有されている粒子を噴射させることにある。例えば、タングステン微細噴射粒子上に吸着されている核酸の生きている内皮植物細胞中への放出が成功している。クライン(Klein)によるNature,327:70〜73(1987)を参照できる。より良好に制御されている用具に粒子流入ガン(PIG)がある。バイン(Vain)等によるPlant Cell,Tissue and Culture,33:237〜246(1993)。気体圧力を使用して医薬含有アンプルを燃焼させる用具が開示されている。米国特許第4,790,824号およびPCT/GB94/00753。流体を注入する数種の用具がまた、米国特許第5,312,335号および同第4,680,027号に記載されている。しかしながら、発射型放出に適する製剤は数種しか存在していない。現在の形態の粉末状医薬製剤は発射型投与には適していない。利用できる粉末形態の粒子は不規則で、大きさ、形状および濃度が相違している。この均一性の欠落は、投与期間中の皮膚表面における粉末沈着および損失をもたらし、また皮下および皮膚内部組織への放出の深さの点で制御および一貫性に問題を生じさせる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、発射型放出の場合に、一定の大きさ、形状、濃度および溶解速度を備えた固形剤型放出系を提供して、より均一な分布を確保すると有利である。媒質の形状を制御して、内皮および皮膚の硬質層への浸透を促進または制御できる場合には、もう一つの利点が生じる。小型の放出系、好ましくは高い惰性を有する放出性を備えたカプセルはまた、投与の快適さを増大させ、かつまた組織損傷を最低にする。このような固形剤型放出系は、放出される放出媒質も、またゲスト物質も、その効力が減少されないように製造しなければならない。さらにまた、ゲスト物質は、これを媒質内にまたは媒質上に付加した場合に、効果的な投与を達成することができ、かつまた付加放出系の貯蔵が容易であるように、安定でなければならない。固形剤型放出系を得て、この放出系を投与するためには、当該固形剤型放出媒質の製造およびゲスト物質によるその付加が比較的簡単で、かつまた経済的であるべきである。
本明細書に引用した刊行物の全部を引用によりここに組み入れる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の要旨
本発明は、固形放出系を得るために、広く種々の物質または「ゲスト」を付加するのに適している固形のガラス状放出媒質を包含する。このガラス状放出媒質の選択は、ゲスト物質の種類および当該ゲスト物質の所望の放出速度によって決定される。広く種々の放出速度および放出形式を備えている。好適ゲスト物質、緩衝剤、アジュバントおよび追加の安定剤がまた提供される。本発明による放出系は、種々の投与形式に応じて大きさおよび形状を整えることができる。
本発明は、安定ポリオール(SP)およびゲスト物質からなる迅速溶解性の固形剤型放出系を包含する。これらの放出系は、均一な粒子サイズの粒子におよびまた大型の移植可能な形態に製剤化することができる。
【0012】
本発明はさらにまた、疎水性の誘導体化炭水化物類(HDC)から形成される新規ガラス状媒質を包含する。これらのHDC類は無毒性であり、これらの系からのゲスト物質の放出は延長された経過時間にわたるゲスト物質の放出を格別に制御することができる。HDC放出系からの放出は、失透現象、溶解および(または)加水分解によって行うことができる。本発明によるHDC放出系は疎水性ゲスト物質、例えば殺虫剤、フェロモン類、ステロイドホルモン類、ペプチド類、ペプチド偽装物質、抗生物質およびその他の有機薬剤、例えば合成コルチコステロイド類、気管支拡張剤および免疫調節剤およびまた免疫抑制剤(例えばシクロスポリンA(CSA))の放出に独特に適している。
【0013】
本発明はさらにまた、種々のガラス状媒質の共配合(coformulation)により、新規な組合わせ放出系を提供することを包含する。この組合わせ放出系はSP類および(または)その他のゆっくり水に溶解するガラス状物質、例えばカルボキシレート、硝酸塩およびリン酸塩ガラスと組合わせたHDC類からなり、広く種々の新規性質を備えた固形剤型放出系を提供する。
本発明は多相放出のための固形剤型放出系を包含し、この放出系は、その中に中空隔室を有する水性溶液中で徐々に溶解するHDCからなる外側部分および隔室内に存在する内部部分からなる。この内部分は少なくとも1種のSPおよび治療有効量の少なくとも1種のゲスト物質からなる。
【0014】
本発明はまた、前記固形剤型放出系を提供し、この系を生物学的組織に投与することによって生体活性物質を投与する方法を提供する。この投与は、粘膜、経口、局所、皮下、皮内、筋肉内、血管内および吸入によることができる。
本発明はさらにまた、固形剤型放出系の製造方法を包含する。SPおよび(または)HDC、ゲスト物質およびその他の成分を混合し、広く種々の方法により処理する。この処理方法には、融解物中への溶解および引続く冷却、噴霧乾燥、凍結乾燥、空気乾燥、減圧乾燥、流動床乾燥、共沈殿および超臨界流体蒸発が包含される。生成するガラス状物質は加熱して軟化させることができ、次いで押出し、延伸または紡糸成型して、固形または中空の繊維状物を形成することができる。乾燥した成分はまた、水性または有機溶液と混合することができ、次いで例えば噴霧乾燥、凍結乾燥、空気乾燥、減圧乾燥、流動床乾燥、共沈殿および超臨界流体蒸発によって乾燥させることができる。
【0015】
本発明はまた、ゲスト物質の除放出または拍動放出に適する放出系の製造方法を提供する。この方法は、安定ガラス形成性ポリオールおよび(または)HDC類および(または)SPに比較して遅い溶解速度または分解速度を備えたその他のガラス生成材料の固溶液中にゲスト物質を配合し、次いでこの生成物を前記のとおりに処理することを包含する。これらの材料の割合は、広く種々の正確に規定された放出速度が得られるように制御することができる。ここで生成されるSPおよび(または)HDC類およびその他の水溶性および(または)生体分解性ガラス類、プラスティック類およびガラス改質剤の共配合物がまた、本発明に包含される。
本発明の固形剤型系および方法はまた、比較的均一なサイズ分布を有する繊維状物、球状体、錠剤、ディスク、粒子および針状物を包含する固形剤型を包含する。この媒質はまた、顕微鏡的大きさ、または肉眼で見える大きさのいずれであることもできる。
【0016】
広く種々のゲスト物質が本発明に従い使用するのに適しており、これらには、これらに制限されないものとして、診断剤、治療剤、予防剤およびその他の活性剤が包含される。本発明による放出系およびその使用は、ゲスト物質の放出に種種の投与手法を提供し、農業、動物医学およびヒト用途を包含する広い範囲の用途に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は固形剤型放出系を包含し、この放出系は固形剤型放出媒質およびゲスト物質からなる。この放出系は、そこに配合されているゲスト物質の正確な放出速度を提供するように調合されている。この放出系は、生体活性分子をヒトを包含する動物に供給するのに特に適している。
これらに制限されないものとして、粘膜、経口、局所、皮下および皮内、筋肉内、血管内および吸入を包含する治療剤の放出方法がまた包含される。
本発明はまた、この放出系の製造方法を包含する。
【0018】
本明細書で使用されているものとして、「固形剤型」(solid dose)の用語は、媒質中に配合されるゲスト物質が液体形態ではなく、固体形態であることを意味し、固体形態が放出に使用される形態である。ゲスト物質は、分子、巨大分子および微小分子集合体、合成および天然およびまた細胞断片、生存しているおよび死滅している細胞、細菌およびウイルス、ならびにその他の当該媒質に配合できる活性物質である。広く種々のゲスト物質が本発明で適しており、以下で説明する。ゲスト物質の「有効量」の用語は、所望の効果を達成するための量を意味する。例えば、生体活性物質の場合に、有効量は所望の生理学的反応が行われる量である。この媒質は固体形態であり、無定形またはガラス質の性状を有する。その他の添加剤、緩衝剤、染料などを当該放出系に配合することができる。本明細書で使用されているものとして、「媒質」(vehicle)の用語は、特許請求されている発明を具体化するガラス形成物質の全部を包含する。「放出系」(delivery system)の用語は、媒質およびゲスト物質を包含する固形剤型形態を包含する。特定の媒質から形成された放出系には、別段の記載がないかぎり、別々の名称を与え、これらの用語で示されている放出系はいずれも、これらのそれぞれを包含するものとする。
【0019】
一態様において、本発明はゲスト物質の迅速放出速度を備えた固形剤型系に関する。この態様では、媒質はSPである。本発明により、SP類を処理して、微小球状体または針状物形態の均一な粒子サイズ分布を備えた粉末を得ることができることが見出された。SP類を処理してまた、移植可能な用具の調製に適する肉眼で見える大きさの放出剤型を形成することもできる。広く種々の剤型およびこれらの剤型の製造方法が本明細書に記載されている。これらのSP類は、別様では変性条件が生体活性物質の固形剤型の形成を不可能にする場合に、特に有用であることが見出された。特に、このような条件には高められた温度(生体活性物質が別様では変性される温度以上の温度)および有機溶剤の存在が包含される。
もう一つの態様において、本発明はゲスト物質の新規で一定の制御可能な放出速度を備えた固形剤型系に関する。この態様では、媒質は有機カルボキシレートガラスである。本発明により有機カルボキシレートが溶剤蒸発によって安定な無定形媒質を形成することが見出された。これらの有機ガラスは、使用したカルボキシレートアニオンと金属カチオンとの複合体に依存して、配合されているゲスト物質を正確に一定の速度で放出する。SP類からなる媒質と同様に、これらのガラスは単独で、または他の有機カルボキシレートおよび(または)SP類および(または)HDC類との混合物として処理して、微小球状体、針状物および(または)移植可能な用具の形態で均一な粒子サイズ分布を有する粉末を得ることができ、これらから肉眼で見ることができる広く種々の放出形態を形成することができる。
【0020】
さらに別の態様において、本発明はゲスト物質の新規で一定の制御可能な放出速度を備えた固形剤型系に関する。この態様では、媒質は疎水性炭水化物誘導体(HDC)である。本発明により、HDCが水性条件の下に炭水化物、当該炭水化物の誘導体化に使用される疎水性基(1種または2種以上)および誘導体化度に依存して正確に一定の速度でゲスト物質を放出する安定なガラス状媒質を形成することが見出された。SP類からなる媒質と同様に、HDCからなる媒質を処理して、微小球状体および針状物の形態で均一な粒子サイズ分布を有する粉末を得ることができる。HDC類を処理してまた、肉眼で見ることができる広く種々の放出形態を形成することができる。
これらの剤型およびこの剤型の製造方法が本明細書に記載されている。これらの放出系は、水性溶剤中で不溶性であることから有効生理学的濃度を得ることができないか、または剤型中への配合が困難である疎水性ゲスト物質のための放出系を提供しようとする場合のように、ゲスト物質の性質が固形剤型の調製を不可能にしている場合に特に有用である。
【0021】
本発明による放出系は、固形媒質中のゲスト物質の固溶体、エマルジョン、懸濁液または凝集体として存在する。ゲスト物質は、単独よりも、媒質内で高温に対して耐性である。正確な温度耐性は使用される媒質に依存する。従って、放出系の成分は処理期間中、ゲスト物質が損傷されない短期間の間、融解物として保持することができる。同様な方法で、放出系をさらに処理することができ、硝酸塩および(または)カルボキシレートおよび(または)HDC類および(または)その他のガラス形成性物質との焼結期間中の損傷に対して耐性にすることができる。
本発明はさらにまた、各種放出媒質および放出系を共配合して、広く種々の組合わせ放出媒質を提供することを包含する。
本発明は製剤およびこの製剤の製造方法を包含する。単独の形態でも使用できるが、1種以上の媒質、1種以上のゲスト物質および1種以上の添加剤を存在させることもできる。これらの成分の有効量の決定は、当業者の技術範囲内にある。
【0022】
安定ポリオール放出系
本発明はその放出媒質が安定ポリオールを含有する固形剤型放出系を包含する。これらの放出系を、「SP放出系」と命名する。本発明により、SP放出系を処理して、ゲスト物質の治療投与に特に適する広く種々の固形剤型を形成することができることが見出だされた。
SP類には、これらに制限されないものとして、炭水化物類が包含される。本明細書で使用するものとして、「炭水化物」の用語は、単糖類、二糖類、三糖類、オリゴ糖類およびそれらの対応する糖アルコール、多糖類および化学的に変性された炭水化物、例えばヒドロキシエチルデンプンおよび糖コポリマー[フィコル(Ficoll)]を包含する。天然および合成の両方の炭水化物が本発明で使用するのに適している。合成炭水化物には、これらに制限されないものとして、そのグリコシド結合がチオールまたは炭素結合によって置き換えられているものが包含される。D形およびL形の両方の炭水化物を使用することができる。炭水化物は非還元性であっても、または還元性であってもよい。適当な媒質は、ゲスト物質を、変性、凝集またはその他のメカニズムにより活性を格別に損うことなく乾燥および保存できるものである。活性損失の防止は、以下に説明するように、メイラード(Maillard)反応の抑制剤などの各種添加剤によって増大させることができる。このような抑制剤の添加は、還元性炭水化物と組合わせると特に好ましい。
【0023】
本発明で使用するのに適する還元性炭水化物は当業者に知られており、これらに制限されないものとして、グルコース、マルトース、ラクトース、フラクトース、ガラクトース、マンノース、マルツロース、イソ−マルツロースおよびラクツロースを包含する。
非還元性炭水化物には、これらに制限されないものとして、トレハロース、ラフィノース、スタチオース、スクロースおよびデキストランが包含される。その他の有用な炭水化物には、糖アルコール類および他の直鎖状ポリアルコール類から選択されるポリヒドロキシ化合物の非還元性グリコシド類が包含される。糖アルコールグリコシド類は好適なモノグリコシドであり、この化合物は特に、ラクトース、マルトース、ラクツロースおよびマルツロースなどの二糖類の還元によって得られる。そのグリコシド基は好ましくは、グリコシドまたはガラクトシドであり、糖アルコールは好ましくは、ソルビトール(グルシトール)である。特に好適な炭水化物は、マルチトール(4−O−β−D−グルコピラノシル−D−グルシトール)、ラクチトール(4−O−β−D−ガラクトピラノシル−D−グルシトール)、パラチニット(GPS、α−D−グルコピラノシル−1→6−ソルビトールとGPM、α−D−グルコピラノシル−1→6−マンニトールとの混合物)、および各糖アルコール類、成分GPSおよびGPMである。
好ましくは、SPは水和物として存在する炭水化物であり、これにはトレハロース、ラクチトールおよびパラチニットが包含される。最も好適には、SPはトレハロースである。本発明により、驚くべきことに、トレハロースのような或る種の糖水和物を含有する固形剤型放出系は、別種の炭水化物を含有する固形剤型の「粘着性」もしくは「接着性」を欠いていることが見出された。従って、製造、包装および投与にとって、トレハロースは好適SPである。
【0024】
トレハロース(α−D−グルコピラノシル−α−D−グルコピラノシド)は、天然産出物であり、損傷を伴うことなく乾燥させることができ、かつまた再水和した場合に、生き返ることができる或る種の植物および動物における乾きによる損傷を防止することが初期に見出だされていた非還元性二糖類である。トレハロースは、脱水期間中の蛋白質、ウイルスおよび食品の変性を防止するのに有用であることが証明されている。米国特許第4,891,319号;同第5,149,653号;同第5,026,566号;ブラークレイ(Blakeley)等によるLancet,336:854〜855(1990);ローザー(Roser)によるTrends in Food Sci.and Tech.,166〜169(1991年7月);コラコ(Colaco)等によるBiotechnol.Internat.,345〜350(1992);ローザー(Roser)によるBioPharm.4:47〜53(1991);コラコ(Colaco)等によるBio/Tech.,10:1007〜1011(1992);およびローザー(Roser)等によるNew Scientist,25〜28頁(1993年5月)参照。
【0025】
本発明で使用するのに適するその他のSP類は、例えばWO91/18091,同87/00196および米国特許第4,891,319号および同第5,098,893号に記載されており、これらには、乾燥および保存中の分子を安定化するガラスとして、使用前に再構成して使用するポリオールの使用が開示されている。本発明に包含される固形剤型は、配合されているゲスト物質の制御放出用の放出系として、直接使用するのに適することがここに見出された。さらにまた、これらのポリオール類は他の無定型マトリックスと組合わせて使用して、放出系を形成することができ、この放出系は広い範囲または放出速度を有し、そして容易にかつまた正確に制御可能であって、独特の固形剤型系を提供することがここに見出された。
【0026】
本発明によってまた、好ましくは有機溶剤中に可溶性のゲスト物質をトレハロース中で有機/水性溶剤混合物から乾燥させ、水性溶剤中でその場で容易に再構成される共配合物を得ることができることが見出された。本発明はこの方法で得られる固形剤型系を包含する。これにより得られる乾燥材料および製剤の製造方法が本発明により提供される。ゲスト物質を、有効量のトレハロースと組合わせて有機/水性溶剤中に溶解し、次いで乾燥させる。これによりトレハロースガラス中のゲスト物質の固溶液、エマルジョン、懸濁液または凝集体が得られる。これらは次いで水性溶液中に容易に溶解して、不溶性のゲスト物質が細かく分散した懸濁液が得られる。本発明により、1:1エタノール:水混合物中のトレハロース溶液中で、免疫抑制剤CSA(この化合物は水中で貧弱な溶解性を示し、通常油エマルジョンとして投与される)を乾燥させることができ、CSA含有トレハロースの清明なガラスを得ることができることが見出された。このガラスは融解でき、これにより自由流動性の粉末が得られる。この粉末はまた錠剤に形成することができ、水を添加すると即時に溶解し、水中にCSAが微細に分散している懸濁液を生成する。
【0027】
HDC放出系
本発明はさらにまた、その媒質が少なくとも1種のHDCを含有する固形剤型放出系を包含する。これらを「HDC放出系」と命名する。HDCは固形剤型媒質の形成に使用するのに適するもう一つの別群の無毒性炭水化物誘導体を構成している。かなりのHDCが合成されているが、それらのフェーシャルガラス(facial glass)形成の利点は従来報告されていない。従って、本発明はこれらのHDCのガラス状形態を包含する。この形態はまた、無定型マトリックス形成性組成物と称される。このHDC放出系はゲスト物質の制御された、拍動放出または遅延放出に使用するのに特に適している。本明細書に記載されているゲスト物質の全部をHDC放出系に配合することができる。本明細書に示されているように、HDCは急冷融解物からまたは蒸発有機溶剤からガラスを容易に形成する。HDCはまた、SP類について説明した方法によって処理することができる。
【0028】
本明細書で使用されるものとして、HDCはそのヒドロキシル基の少なくとも1個が疎水性基により置換されている疎水性に誘導体化された広く種々の炭水化物を意味し、これらに制限されないものとして、エステル類およびエーテル類を包含する。
適当なHDCの多数の例およびそれらの合成は、Developmentin Food Carbohydrate−2、C.K.Lee編集、Applied Science出版社、ロンドン(1980)に記載されている。その他の合成は、例えばアコー(Akoh)等によるJ.Food Sci.,52:1570(1987);カーン(Khan)等によるTetra.Letts.,34:7767(1993);カーン(Khan)によるPure & Appl.Chem.,56:833〜844(1984);およびカーン(Khan)等によるCarb.Res.,198:275〜283(1990)に記載されている。HDCの特定の例には、これらに制限されないものとして、ソルビトールヘキサアセテート(SHAC)、α−グルコースペンタアセテート(α−GPAC)、β−グルコースペンタアセテート(β−GPAC)、1−O−オクチル−β−D−グルコーステトラアセテート(OGTA)、トレハロースオクタアセテート(TOAC)、トレハロースオクタプロパノエート(TOPR)、スクロースオクタアセテート(SOAC)、セロビオースオクタアセテート(COAC)、ラフィノースウンデカアセテート(RUDA)、スクロースオクタプロパノエート、セロビオースオクタプロパノエート、ラフィノースウンデカプロパノエート、テトラ−O−メチルトレハロースおよびジ−O−メチル−ヘキサ−O−アセチルスクロースが包含される。炭水化物がトレハロースである場合の適当なHDCの例には下記の化合物がある:
式1


式1において、Rはヒドロキシル基を表わし、あるいはRはその親水性度が貧弱な誘導体、例えばエステルまたはエーテルであり、あるいはまたRの少なくとも1個がヒドロキシル基ではなく、疎水性誘導体であるそのいずれかの官能性修飾基である。適当な官能性修飾基は、これらに制限されないものとして、その酸素原子の代わりにヘテロ原子、例えばNまたはSを有する修飾基を包含する。この置換度の程度はまた、変化させることができ、相違する誘導体の混合物であることもできる。そのヒドロキシル基の完全置換を生じさせる必要はなく、物理的性質(例えば溶解性)の変更を任意に行うことができる。RはC以上のいずれの鎖長も有することができ、直鎖状、環状または修飾形態であることができる。式1は二糖類トレハロースを示しているが、本明細書で言及する炭水化物はいずれも、炭水化物幹鎖を有するものであればよく、そのグリコシド架橋の位置およびサッカライド鎖長は変化させることができる。代表的には、価格および合成効率の観点から、実用的範囲は五糖類である。しかしながら、本発明はいずれか特定の種類のサッカライド、グリコシド架橋または鎖長に制限されるものではない。HDCの種々の別の観点にも制限はない。例えば、各HDCのサッカライド部分はまた、変化させることができ、サッカライド間のグリコシド結合の位置および種類も変えることができ、かつまた置換基の種類をHDCの範囲内で変えることができる。エステルおよびエーテルによる混合置換を有するHDCの代表例には、1−O−オクチル−β−D−グルコピラノシド2,3,4,5−テトラアセテートがある:
式2


式中、RはOCCHである。
【0029】
組成中の僅かな変更によってHDCの性質の変更できることは、特にそれらの性質、特に生体浸食性の変化が結晶化度の部分にしばしば依存するポリマー系に比較して、これらを固形剤型媒質に特異的に適するものとする。本発明によるHDC放出系は、ゲスト物質の放出速度などについて正確な性質を有するものに特別に仕立てることができる。このような特別の仕立ては、特定の炭水化物の修飾によって、あるいは相違する種々のHDCを組合わせることによって、変えることができる。
純粋な単一のHDCガラスは、室温および少なくとも60%までの湿度において安定であることが見出された。しかしながら、或る種のゲスト物質が配合されているHDCガラスの混合物は、驚くべきことに、室温および少なくとも95%までの湿度においても安定である。格別の吸水性を有するゲスト物質、例えば合成コルチコステロイド、6α,9α−ジフルオロ−11β,21−ジヒドロキシ−16α,17α−プロピルメチレンジオキシ−4−プレグネン−3,20−ジオン(XPDO)の10%(重量/容量)を配合しても、このHDCガラスは室温で95%までの相対湿度に一か月さらされた場合でも安定であって、しかも液体水が添加されると、5〜10分以内にこのゲスト物質を即座に放出する。HDCガラス安定性に対する同一の効果が、ゲストとして配合された10%(重量/容量)CSA含有TOACガラスでも見出された。
【0030】
本発明によりここに、これらと同一レベルで別のHDCを添加することによって、95%相対湿度で失透現象に対して等しい耐性を備えた混合HDCガラスを製造できることが見出された。すなわち、10%(重量/容量)のGPACまたはTOPRを含有するTOACガラスは、95%相対湿度における失透に対して完全な耐性を示した。注目すべきことに、これらの複合HDCガラスは、液体水に対して相違する挙動を示す。GPAC/TOACガラスは、TOPR/TOACガラスよりも迅速に表面から失透を生じた。図13、図14参照。この複合HDCガラスの溶解速度を特定に仕立てることができることは、これらのガラスを制御放出放出系として特に有用なものとする。
HDCガラスは、溶剤の蒸発からまたはHDC融解物の急冷によって形成することができる。或る種のHDCガラスは低い軟化点を有することから、医薬および生物学的分子などの熱不安定性ゲスト物質を当該放出系の製造中にHDC融解物中に分解させることなく配合することができる。驚くべきことに、これらのゲスト物質は、無定型マトリックス形成性製剤が水性溶液中で浸食されると、ゼロオーダーの放出動態を示した。放出の後に、表面失透が進行する。このHDC放出系は、前記したもののように、如何なる形状または形態にも成形することができる。このような成形は、当業者に公知の方法によって、押出し、成型などによることができる。このHDC放出媒質は無毒性であり、かつまたそこに配合することができる如何なる溶質に対しても不活性である。
【0031】
これらのHDC放出系は、マトリックスおよび(または)コーティングとして調製した場合に、これを水性環境に置くと、不均質な表面浸食を受ける。いずれか一つの理論に結び付けられないが、それらの分解の一つの可能なメカニズムは、過飽和が内面で生じるに従い内部表面失透を伴って始まり、次いで表面層のより遅い速度での引き続く浸食および(または)溶解が生じる。このマトリックスは、成分を注意深く選択することによって、所望の失透速度が得られるように変えることができ、これにより失透したマトリックスとして、ゲストの放出に対する障害とならずにゲスト物質の所望の放出速度が得られる。
HDC融解物は、多くの有機分子のための優れた溶剤である。それ故に、この融解物は別段では調合が困難な生体活性物質の放出に使用するのに適するものとされる。20重量%以上の有機分子をHDC放出系中に配合することができる。HDCが不活性であり、そこに配合されるゲスト物質またはそれらの溶質に対して反応性を示さないことに注目されるべきである。以下でさらに詳細に説明するように、HDCはSP放出系の微細懸濁液の分散液の形成に適しており、複合組成の放出系を生成させる。
【0032】
成分HDCは、確立されている化学的または酵素による合成原理を用いて高純度で合成される。HDCおよびゲスト物質を先ず、適当なモル比で一緒に混合し、次いで清明になるまで融解させる。適当な融解条件は、これらに制限されないものとして、100〜150℃の開放型ガラスフラスコ中での1〜2分間の融解を包含する。これにより当該融解物中にゲスト物質を溶解させ、必要に応じて、例えば黄銅板上に注入するか、または放出媒質を成型するための金属鋳型中に注入することによって僅かに冷却することができる流体融解物が得られ、次いで急冷してガラスを生成させる。どちらの方法でも、融解温度を注意深く調節し、この予備融解されたHDC組成物中に、または急冷前の冷却KDC融解物中に撹拌によってゲスト物質を配合することができる。
このHDC融解物は熱に対して安定であり、変性を伴わずに有機分子の配合を可能にし、あるいはそれらの物理的性質を変えることなく、芯粒子の懸濁を可能にする。このガラス融解物はまた、ミクロンサイズの粒子の被覆に使用することができ、これは治療薬剤の吸入投与用の吸水性活性物質を含有する非吸水性粉末の調製に特に重要である。
【0033】
別法として、ガラス質HDC放出媒質をHDCの蒸発により形成することもでき、次いで配合されるゲスト物質を溶剤または溶剤混合物中の溶液として配合する。成分HDCは多くの有機溶剤に容易に溶解する。適当な溶剤には、これらに制限されないものとして、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)および高級アルコールが包含される。この溶剤の種類は、これらが放出系の形成に際して完全に除去されることから、重要ではない。成分HDCおよびゲスト物質の両方が溶剤に可溶性であると好ましい。しかしながら、溶剤はHDCを溶解させることもあり、この場合はゲスト物質は懸濁させることができる。この溶剤の濃縮による結晶化は、より有用なHDCでは生じない。その代わりに、無定型固形物が生成される。この生成物は急冷ガラスに類似した性質を有する。従ってまた、ゲスト物質を溶液から、または粒子懸濁液として配合することができる。
【0034】
HDCガラスの転移温度(Tg)は低く、代表的には70℃よりも低い。驚くべきことに、この温度は融解温度から予想することはできない。一般に、冷却融解物からの、あるいは溶剤の減少による結晶化傾向は小さい。Tgに近い温度における融解物の失透および流動化は、別の誘導体化した糖および或る種の有機活性物質などの改質剤により制御することができる。以下に示す例に記載のとおりに製造された下記の2種の錠剤は、単独でまたは複合ガラスに使用するのに適する種々のHDCのTgおよび融解温度を提供する。
【0035】

【0036】

【0037】
本発明はさらにまた、相違するHDCの組合わせからなる放出媒質を包含し、本発明によりこれらが高度に制御可能なTgおよびその他の物理化学的性質、例えば粘度および水分解性に対する耐性などを有する新規放出媒質を提供することが見出された。
【0038】
組合わせ放出系
本発明はまた、HDC類およびSP類および(または)その他のガラス形成性物質を共配合物としておよびまたその他の組合わせとして含有する固形剤型放出系を包含する。これらを「組合わせ放出系」と命名する。
少なくとも2種の組合わせ放出系はHDCとSPとを共配合して、放出系を形成することによって製造される。一例においては、微小球状のSP放出系をHDC放出系内に懸濁させる。第二の例では、微小球状のHDC放出系をSP放出系内に懸濁させる。これらの組合わせ放出系は少なくとも2種の相違するゲスト物質、すなわち一方が疎水性であり、そして他方が親水性であるゲストを相違する放出速度で放出することができる。
【0039】
別の組合わせ放出系は一方の放出系を他方の放出系でコーティングすることによって形成される。例えば、移植可能な形態のSP放出系をHDCの層またはHDC放出系で被覆して、SP放出系中のゲスト物質の遅延放出または相違するゲスト物質の順次的放出を得ることができる。このような種々の形態を想定することができる。このコーティングの数に理論的な制限はなく、その決定は当業者の技術範囲内にある。
この組合わせ放出系はまた、腔を有する中空円柱状媒質を放出系(SP、HDCまたは組合わせ)または放出媒質から押出し成型し、次いでこの腔にもう1種の放出系を充填することによって形成することもできる。これらの製剤は注射可能なまたは移植可能な用具の形成に特に適している。
【0040】
放出系中のその他の成分
別種のガラス
以下で説明するように、本発明の放出系は、少なくとも1種の生理学的に許容されるガラスをさらに含有することができる。適当なガラスには、これらに制限されないものとして、カルボキシレート、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、HDC類およびその組合わせが包含される。カルボキシレートは従来、ゆっくりと水に溶解するガラスが必要な場合に使用されており、これらのかなりは水中で貧弱な溶解性を示すのみである。適当なこのようなガラスは、これらに制限されないものとして、PCT/GB90/00497に記載のガラスを包含する。しかしながら、これらのカルボキシレートガラスの生成は従来、融解物の急冷によってのみなされていた。カルボキシレートの融解に必要な高められた温度は、特に熱不安定傾向を有する生体活性物質の場合に、ガラス質放出系の形成に使用できるカルボキシレートを厳重に制限する。本発明により、驚くべきことに、カルボキシレートガラスを、ガラス形成性金属カルボキシレートおよび配合しようとするゲスト物質を含有する溶剤の蒸発によって容易に生成させることができることが見出された。従って、本発明はカルボキシレート成分を適当な溶剤中に溶解し、次いでその溶剤を蒸発させて、ガラス質生成物を生成させることからなる固形剤型媒質および放出系の製造方法を包含する。カルボキシレート混合物を使用することもでき、また別のガラス形成性成分の混合物を使用することもでき、これにより新規放出系を生成することができる。この新規放出系はまた、本発明に包含される。
この放出系はまた、予め定められた溶解速度を有する1枚または2枚以上の生理学的に許容されるガラスの層で被覆することもできる。
これは、ゲスト物質の拍動放出に特に効果的である。この組成物はまた、別の水溶性で生体分解性のガラス形成剤をさらに含有することができる。適当なガラス形成剤は、これらに制限されないものとして、ラクチドおよびラクチド/グリコライドコポリマー、グリコライドポリマーおよびその他のポリエステル類、ポリオルトエステル類ならびにポリ酸無水物を包含する。
【0041】
ゲスト物質
本発明の媒質および方法に使用することができるゲスト物質の種類の例は、染料および香料などの工業的化学品およびインビボおよびインビトロで使用するのに適する医療および農業用の生体活性物質を包含する。適当な生体活性物質は、これらに制限されないものとして、医薬剤、治療および予防剤ならびに殺虫剤およびフェロモンなどの農業用化学品を包含する。
適当な医薬剤は、これらに制限されないものとして、抗炎症薬、鎮痛薬、抗関節炎薬、抗けいれん薬、抗うつ剤、抗精神薬、トランキライザー、不安解消薬、麻酔拮抗剤、抗パーキンソン病薬、コリン作動性作用薬、化学療法剤、免疫抑制剤、抗ウイルス薬、抗生物質、食欲抑制剤、制吐剤、抗コリン作動薬、抗ヒスタミン剤、抗片頭痛剤、冠状血管、脳または抹消血管拡張剤、ホルモン系薬、避妊薬、抗血栓症薬、利尿剤、血圧降下剤、心臓血管系医薬、オピオイド類などを包含する。
適当な治療および予防剤は、これらに制限されないものとして、いずれかの治療効果を有する生体改質剤を包含する。このような改質剤には、これらに制限されないものとして、細胞レベル以下構造物(subcellular composition)、ウイルスおよび分子が包含され、分子には、これらに制限されないものとして、脂質、有機物質、蛋白質およびペプチド類(合成および天然)、ペプチド偽似物質、ホルモン類(ペプチド、ステロイドおよびコルチコステロイド)、DおよびLアミノ酸ポリマー、オリゴ糖類、多糖類、ヌクレオチド類、オリゴヌクレオチド類および、DNAおよびRNAを包含する核酸類、蛋白質−核酸ハイブリド、小型分子およびその生理学的に活性な類縁体が包含される。さらにまた、この改質剤は天然供給源から誘導することができ、あるいは組換えまたは合成手段により製造することができ、類縁体、アゴニストおよび同族体を包含する。
本明細書で使用されているものとして、「蛋白質」はまたペプチドおよびポリペプチドとも記されている。このような蛋白質は、これらに制限されないものとして、酵素、バイオ医薬品、成長ホルモン類、成長因子類、インシュリン、モノクローナル抗体、インターフェロン、インターロイキンおよびサイトカインを包含する。
【0042】
有機物質は、これらに制限されないものとして、医薬として活性な化学物質を包含する。例えば、代表的有機物質は、これらに制限されないものとして、ビタミン類、神経伝達物質、抗微生物剤、抗ヒスタミン剤、鎮痛剤および免疫抑制剤を包含する。
適当なステロイドホルモン類は、これらに制限されないものとして、コルチコステロイド類、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロンおよびその生理学的に活性な類縁体を包含する。多くのステロイドホルモンの類縁体が当技術で公知であり、これらに制限されないものとして、SH−135およびタモキシフェン(tamoxifen)を包含する。プロゲステロン、テストステロンおよびその類縁体などの多くのステロイドホルモン類は、これらが経皮吸収されず、2〜3の類縁体を除いて、経口投与ではいわゆる肝臓一次通過メカニズムによって分解されることから、本発明で使用するのに特に適している。
本明細書で使用されているものとして、「核酸」には、当業者に公知のすべての治療有効核酸が包含され、これらに制限されないものとして、DNA、RNAおよびその生理学的に活性な類縁体が包含される。ヌクレオチド類は、単一の遺伝子をコードすることができるか、または組換えDNA技術で公知のいずれかのベクターであることができ、これらに制限されないものとして、プラスミド、レトロウイルスおよびアデノ−随伴ウイルスを包含する。好ましくは、ヌクレオチド類は粉末形態の固形剤型系として投与される。
従って、予防的生体活性物質および担体を含有する固形剤型放出系を構成する組成物がまた本発明に包含される。好適組成物はワクチンで使用されるものなどの免疫原を包含する。この組成物は免疫感作またはブースター接種に有効な免疫原を免疫感作量で含有すると好ましい。適当な免疫原は、これらに制限されないものとして、生きている弱めたウイルス、抗原をコードするヌクレオチドベクター、細菌、抗原、抗原+アジュバントおよび担体に結合させたハプテンを包含する。特に好適な免疫原はジフテリア菌、破傷風菌、百日咳、ボツリヌス菌、コレラ菌、テング病菌、A、CおよびE型肝炎、ヘモフィラスインフルエンザb、ヘルペスウイルス、ヘリコバクテリウム ピロリ(Helicobacterium pylori)、インフルエンザ、日本脳炎、髄膜炎菌A、BおよびC、はしか、おたふくかぜ、乳頭腫ウイルス、肺炎球菌、ポリオ、風疹、ロタウイルス、呼吸器シンシチウムウイルス、シゲラ、ツベルクリン、黄熱病菌およびその組合わせに対する免疫応答を生じさせるのに有効な免疫原である。
【0043】
免疫原はまた、分子生物学的技術を用いて組換えペプチドを生成させるか、または病原体に由来する蛋白質の1部分または2部分以上を含有する融合蛋白質を生成させることによって製造することもできる。例えば、対象の抗原およびコレラ毒素のBサブユニットを含有する融合蛋白質は、対象の抗原に対する免疫応答を誘発させることが証明されている。サンチェス(Sanchez)等によるProc.Natl.Acad.Sci.USA,86:481〜485(1989)。
好ましくは、免疫原含有製剤は、当該免疫原に対する免疫応答を増大させるのに充分なアジュバントを含有する。適当なアジュバントは、これらに制限されないものとして、アルミニウム塩、スクアレン混合物(SAF−1)、ムラミルペプチド、サポニン誘導体、マイコバクテリウム(mycobacterium)細胞壁調製物、モノホスホリル脂質A、ミコール酸誘導体、非イオン性ブロツクコポリマー界面活性剤、キリ(Quil)A、コレラ毒素Bサブユニット、ポリホスファゼンおよび誘導体、および免疫刺激性複合体(ISCM)、例えばタカハシ(Takahashi)等によりNature,344:873〜875(1990)に開示されたものを包含する。獣医用および動物において抗体を産生させるために使用する場合には、フロインドアジュバントのマイトジェン成分を使用することができる。
全部の免疫原含有製剤において、当該免疫原の免疫学的有効量は経験的に決定しなければならない。考慮すべき因子には、免疫原度、免疫原がアジュバントまたは担体蛋白質またはその他の担体と結合しているかまたは共有結合しているかあるいは否か、投与経路、および免疫感作量の投与回数が包含される。このような因子はワクチン技術で公知であり、免疫学の当業者に周知であり、独自の実験を行うことなく決定することができる。
ゲスト物質および(または)媒質がカルボキシルおよびアミノ、イミノまたはグアニジノ基を含有している場合には、本発明の放出系はまた、組成物中のアミノ基と反応性カルボニル基との縮合を防止するのに充分に有効な量で、マイラード(Maillard)反応の生理学的に許容される抑制剤の少なくとも1種を含有すると好ましい。
【0044】
マイラード反応抑制剤は当技術で公知である。この抑制剤はアミノ基と反応性カルボニル基との縮合を防止または実質的に防止するのに充分な量で存在させる。代表的には、アミノ基は生体活性物質の上に存在し、そしてカルボニル基は炭水化物の上に存在する。この逆の場合もある。しかしながら、このアミノ基とカルボニル基とは、生体活性物質内または炭水化物内のどちらかで分子内反応する。種々の化合物がマイラード反応に対する抑制作用を有することが知られており、これらを本明細書に記載の製剤に使用する。これらの化合物は一般に、競合性または非競合性の抑制剤である。競合性抑制剤には、これらに制限されないものとして、アミノ酸残基(DおよびLの両方)、アミノ酸残基の組合わせおよびペプチドが包含される。リジン、アルギニン、ヒスチジンおよびトリプトファンは特に好適である。リジンおよびアルギニンは最も有効である。かなりの公知の非競合性抑制剤が存在している。これらには、これらに制限されないものとして、アミノグアニジンおよび誘導体および4−ヒドロキシ−5,8−ジオキソキノリン誘導体が包含され、適当なマイラード抑制剤はEP−A−0433679に記載されている化合物である。
【0045】
剤型
上記剤型に加えて、相違する用途に適する種々の別の剤型が本発明によって提供される。
本発明は内皮の浸透に適するおよび発射型放出に適する寸法および形状を有する放出系を包含する。この場合の適当な媒質サイズはミクロン単位であり、好ましくは1〜5ミクロン径および5〜150ミクロン長さの範囲にある。この寸法は内皮を通過して皮下および皮内、筋肉内、血管組織への浸透を可能にする。この寸法の放出系は、その顕微鏡倍率でのその形状に関係なく、顕微鏡で粉末形態であるように見える。
発射型放出系の好適形状は微小針状物または微細繊維状物である。この微細繊維状物の製造は比較的簡単で、かつまた経済的であり、ガラス状形態の媒質およびゲスト物質からなる安定な放出系をもたらす。追加の安定剤、緩衝剤、ガラス類およびポリマーをまた前記処理中に添加することができる。大部分の不安定な生体分子のかなりは、トレハロース中での乾燥により安定化すると、それらの表面の大部分を媒質と接触させないかぎり、高温(例えば、60〜100℃)に耐えることができる。
【0046】
70℃の温度で、一か月にわたり耐えることができ[コラコ(Colaco)等によるBio/Technology,10:1007〜1011(1992)]、さらに高温ではより短い期間になる。本明細書に示されている結果は、トレハロース中で乾燥させた蛍光蛋白質フィコエリスリンが100℃で少なくとも一か月間、その官能性活性の検知できる損失を伴うことなく保存できることを示す。別の媒質はトレハロースよりも低温で保護される。この最高保護温度は実験により決定しなければならず、独自の実験を行うことなく当業者の技術範囲内にある。
本発明の原則に従い製造された微小繊維状物は、比較的大きい外観比、すなわち径に対する長さを有しており、好ましくは1〜5ミクロン径および5〜150ミクロン長さの範囲を有する。この大きい外観比は、以下で詳細に説明するように、微小繊維状物が発射型微小注入器の胴体部分と平行に整列する傾向を有することから、発射型放出時点での増大した「直角方向」浸透をもたらす。さらに長い微小繊維状物も慣用の衝撃発射型用具を用いて、あるいはトロカールによって注入することができる。別法として、充分の収縮性を有する顕微鏡的大きさのガラス針状物は皮膚を通して直接に駆動することができ、ゲスト物質を皮下、皮内または筋肉内に投与することができる。
【0047】
本発明の放出系のもう一つの好適態様は、好ましくは狭いサイズ分布を有する均一な微小球状体を包含する。この形状は、放出系の浸透深さの制御を増すことが望まれる場合に特に有用である。このような制御は、例えばワクチンを内皮の基底層に、皮内に、筋肉内にまたは血管内に放出させ、抗原を皮膚のランゲルハンス細胞近くに持ち込み、最適の免疫応答を誘発させる場合に有用である。
本発明はまた、ゲスト物質を放出するための中空繊維状物を包含する。中空ビレットをガラス質媒質の局部的軟化を生じさせるゾーン炉に通して延伸することによって、細い中空針状物を形成することができる。これらの針状物は、融解および延伸処理中に微細な粉末を導入することによって、微細に粉末化された安定化合物で充填することができる。この中空繊維状物はまた、熱可塑性物質、有機ポリマーおよび(または)炭水化物および(または)それ自体が水にゆっくりと、または急速に溶解するそして(または)生体分解性でありうるHDCから製造することもできる。
本発明による放出系の別の態様は、中空媒質を包含し、この媒質は貧弱な水溶性を有するガラスまたはプラスティックからなり、ここに充填することができ、また場合により、前記放出系を被覆することもできる。
本発明のもう一つの態様では、媒質および別の貧弱な水溶性を有する共配合物が包含される。例えば、媒質と水溶性ガラス、例えばリン酸塩ガラス、硝酸塩ガラスまたは炭水化物ガラスあるいは生体分解性プラスティック、例えばラクチドまたはラクチド/グリコライドコポリマーとの共配合物を生成して、生体活性物質の遅延放出用のさらにゆっくりと浸食される媒質を得ることができる。
【0048】
放出系の製造方法
本発明はさらにまた、固形剤型系の製造方法を包含する。露呈時間を制限するかぎり、乾燥媒質中に混合されているゲスト物質を加熱して、ガラスを流動体化し、次いで生成物に対する損傷を伴うことなく繊維として注入成型または延伸成型することができる。繊維はビレットから延伸し、これらを冷却して固化させ、次いでドラム上に巻き付けることができ、あるいはこれらをば媒質の融点以上に加熱されている急速回転シリンダーの細い孔に通して延伸成型することもできる。固有に脆弱性を有することから、これらの繊維は短い長さに切断、破壊、粉砕もしくはチップ状にすることができ、長い円柱状棒状体または針状物を形成することができる。生成される繊維の径を変えることによって、微小から肉眼で見える大きさまで変化する針状物、すなわち数ミクロンから数ミリメーター単位までの厚みを有する針状物を形成することができる。綿飴製造機は細い径を有する微小繊維の製造に使用するのに適することが見出された。最適条件は各媒質について実験的に決定しなければならないが、このような決定は当業者に周知である。
【0049】
本発明の微小球状体を製造するためには、放出系の所望の用途に応じて、数種の方法を使用することができる。適当な方法は、これらに制限されないものとして、噴霧乾燥、凍結乾燥、空気乾燥、減圧乾燥、流動床乾燥、ミリング、共沈殿および超臨界流体蒸発を包含する。噴霧乾燥、凍結乾燥、空気乾燥、減圧乾燥、流動床乾燥および超臨界流体蒸発の場合には、諸成分(SPおよび(または)HDC、および(または)その他のガラス形成物質、ゲスト物質、緩衝剤など)を先ず、適当な溶剤に溶解する。ミリングの場合には、諸成分から溶剤蒸発または融解物の急冷によって形成されたガラスを乾燥形態で粉砕し、次いで当業者に公知の方法によって処理する。共沈殿の場合には、諸成分を有機状態で混合し、次いで以下で説明するように処理する。
噴霧乾燥を使用してゲスト物質を媒質に付加することができる。諸成分を適当な溶剤条件下に混合し、次いで正確なノズルを用いて乾燥させ、乾燥室内で極めて均一な滴状物を生成させる。適当な噴霧乾燥機は、これらに制限されないものとして、ブッチ(Buchi)、NIRO、APVおよびラブ−プラント(Lab−plant)噴霧乾燥機を包含し、これらは製造業者の指示に従い使用することができる。
一連の炭水化物は、当該炭水化物の融点が低すぎることから、噴霧乾燥に使用するには不適である。この場合には、噴霧乾燥は乾燥した無定型物質をもたらし、乾燥室の側面に接着する。一般に、噴霧乾燥室の操作温度よりも低い融点を有する炭水化物は、噴霧乾燥に使用するには不適である。例えば、パラチニットおよびラクチトールは慣用の条件下での噴霧乾燥に使用するには適さない。従って、適当な炭水化物の決定は、既知の融点に基づきなすことができ、または実験により決定することができる。このような決定は当業者の技術範囲内にある。
本発明による放出媒質として微小球状体を製造する別法では、水性相としての媒質溶液中のゲスト物質および有機相としてのガラス形成物の水性相/有機性相エマルジョンを調製する。この逆も可能である。次いで、このエマルジョン小滴を乾燥させて、ガラス形成物の無定型マトリックス中のゲスト物質および媒質の固溶液を生成させる。この方法の変法では、このエマルジョンを媒質中の固溶液中のゲスト物質から形成することができ、この場合には、2種の相違するガラス形成物および(または)ポリマーを一緒に、1種の溶剤中に溶解するか、または2種の別々の溶剤に溶解する。この(またはこれらの)溶剤を次いで蒸発により除去し、二重のまたは多壁状の微小球状体を得る。多壁状の微小球状体の製造に適する方法は、例えばペカレク(Pekarek)等によるNature,367:258〜260(1994)および米国特許第4,861,627号に記載されている。
【0050】
本発明の放出系はまた、SPおよび疎水性ゲスト物質の有機溶液から乾燥させて、固溶液中に均一に分布したゲスト物質を含有するガラスまたはポリオールガラス中の細かい懸濁液を形成することができる。これらのガラス質材料を次いで、粉砕または微粉砕して、均一に定められている寸法を有する微小粒子を生成する。
ゲスト物質および媒質はまた、共沈殿させて、高品質の粉末を生成することもできる。共沈殿は、例えばエアブラシを用いて、各種成分および(または)ポリマーガラス形成物のどちらも溶解しない氷冷却したアセトンなどの液体中にこれらの成分を噴霧することによって行われる。
本発明はまた、ゲスト物質を放出するための中空繊維状物を包含する。加熱した中空ビレットに注入することによって、細かい中空の針状物を形成することができる。これらは、その融解および延伸処理中に、細かい粉末を導入することにより細かい粉末状の安定化した化合物を含有させることができる。この中空繊維状物は、熱可塑性材料、有機ポリマーおよび(または)炭水化物および(または)それ自体がゆっくりと、または急速に水に溶解し、そして(または)生体分解することができるHDCガラスから製造することができる。
本発明による放出媒体の別の態様は中空媒質を包含し、この中空媒質は、充填されており、場合によりSPおよび(または)HDCガラスおよびゲスト物質で被覆されている貧弱な水溶性を有するガラスまたはプラスティックからなる。ゆっくりと水に溶解する有機または無機ガラスの細い中空繊維状物は、中空ビレットから延伸することができ、この処理中に、このビレットの中空腔に、従って繊維状物の中空腔に、細かく粉末状のSP放出系を導入することができる。本発明のもう一つの態様は、媒質および別種の水溶性物質の共配合物を包含する。例えば、媒質と水溶性物質、例えばリン酸塩ガラス(Pilking Glass社)またはラクチドまたはラクチド/グリコライドコポリマーなどの生体分解性プラスティックとを共配合すると、よりゆっくりと浸食され、ゲスト物質を遅延放出する媒質が生成される。このような共配合物を生成させるためには、ゲスト物質を含有する細かく粉末状にしたガラスを細かく粉末状にしたカルボキシレートガラスと密に混合し、次いで共焼結させることができる。別法として、金属カルボキシレートガラスが放出系よりも低い融点を有する場合には、得られた融解物の急冷に際して、放出系をカルボキシレートガラス内に封入物として均一に埋め込むことができる。この生成物を粉砕すると、比較的急速な媒質の溶解度とゆっくりした溶解度のカルボキシレートガラスとの中間の溶解度を有する細かい粉末が得られる。
【0051】
別の共配合物は、カルボキシレートは溶解性であるが、無定型粉末は不溶性である有機溶剤から乾燥してカルボキシレートガラスを形成することによって、細かい粉末状のガラス質放出系がカルボキシレートガラス内に封入されている均一な懸濁液の使用を包含する。この生成物は粉砕すると、細かい粉末を得ることができ、この粉末は比較的急速に溶解する放出系がゆっくりと溶解する(すなわち、慣用の除放系に比較して)カルボキシレートガラス内に取り込まれている。拍動放出方式は、相違する溶解速度を有するガラスを使用する反復封入サイクルによって、または多種の共配合物の粉末を所望の範囲の放出特性が得られるように混合することによって達成することができる。このガラスはまた、延伸または紡糸成型して、微小繊維状物または肉眼で見える大きさの針状物を生成することができ、この生成物は除放性インプラントとして使用できることに留意すべきである。いずれの放出系製剤も、投与に際してゲスト物質を放出することができるようなものであるべきであり、また投与される物質の安定性に不当な作用をもたらさないものであるべきことは明白である。
前記したように、誘導体化した炭水化物のガラスはまた、本発明で使用するのに適している。適当な誘導体化炭水化物は、これらに制限されないものとして、炭水化物のエステル類、エーテル類、イミド類およびその他の貧弱な水溶解性を備えた誘導体およびポリマーを包含する。
この放出系には、充分な量の媒質を含有するゲスト物質の溶液を乾燥させ、乾燥に際してガラスを形成させることによって、ゲスト物質を付加することができる。この乾燥は当業者に公知の如何なる方法によっても達成することができ、これには、これらに制限されないものとして、凍結乾燥、減圧、噴霧、ベルト、空気または流動床乾燥が包含される。この乾燥した材料は粉砕して、細かい粉末を生成することができ、次いでこの生成物をポリオールガラスまたは共配合物とともに処理することができる。
【0052】
使用する放出媒質に依存して、相違する投与手法を得ることができる。本発明の放出媒質は、放出系が容易に溶解する場合に、投与後にゲスト物質の迅速な放出または激しい放出を提供することができる。ゆっくりと水に溶解するガラスおよびプラスティック、例えばリン酸塩、硝酸塩またはカルボキシレートガラスとラクチド/グリコライド、グルクロニドまたはポリヒドロキシブチレートプラスティックおよびポリエステルとの共配合物は、よりゆっくりした放出および延長された投薬効果を備えた、よりゆっくり溶解する媒質を提供する。ゲスト物質が付加されている急速溶解性のSPおよび(または)HDCガラスを充填し、被覆されている中空でゆっくりと水に溶解する媒質を利用することによって、プライミングおよびブースター効果を実現することができる。ゲスト物質が付加されているガラスコーティングは急速に溶解して、初期投薬効果をあげることができる。この媒質の中空外側壁部分は溶解するが、投薬作用は存在せず、初期プライミング投薬の後に、中空外側壁部分が溶解により取り去られた時点で、内部充填物のブースター投薬が生じる。このような拍動型放出方式は免疫原性組成物の放出に特に有用である。拍動型放出の多彩な効果が望まれる場合には、無添加媒質の層とゲスト物質を添加した媒質層との組合わせを備えた放出媒質を構築することができる。
1種以上のゲスト物質の放出はまた、相違する物質またはその混合物を付加した媒質の複数のコーティングまたは層からなる放出系を用いて達成することができる。本発明による固形剤型放出系の投与は別の慣用の治療と組合わせて使用することができ、およびまた別の治療剤、予防剤または診断物質と共に投与することもできる。
【0053】
放出方法
本発明はさらに、固形剤型系の放出方法を包含する。
ゲスト物質の適当な放出方法は、これらに制限されないものとして、局所投与、経皮投与、経粘膜投与、筋肉内投与、血管内投与および吸入(気管支経由および歯槽経由を包含する鼻−咽頭部および肺)を包含する。局所投与は、例えば放出系がそこに分散されている包帯またはバンドエージにより、あるいは放出系を切り傷または傷口中に直接に投与することによる。放出系の除放性ビーズまたは微小球状体をそこに分散して含有するクリームまたは軟膏は、例えば局所用軟膏または傷口充填剤として使用するのに適している。
経皮施用用の製剤は、均一な寸法を有する微小針状物または微小ビーズの形態の放出系の粉末であると好ましい。より大きい肉眼で見える大きさの針状物およびビーズ形態の放出系はまた、皮下移植および延長された期間にわたる医薬放出の目的で提供される。この粒子サイズはこれらが投与に際して皮膚に与える損傷が最低であるのに充分に小さくなければならない。粉末形態の放出系は、約10〜1000ミクロンの長さおよび1〜150ミクロンの径を有する微小針状物であることができる。この粉末は一回用量で包装することができ、封止し、殺菌することができる。
適当な経皮投与方法は、これらに制限されないものとして、直接衝撃、発射、トローカーおよび液体ジェット放出を包含する。直接衝撃型放出の場合には、光ファイバーの製造に使用されている方法などの無機ガラス形成技術で周知の方法によって、肉眼で見える大きさの針状物を正確に形成することができる。これらの針状物は、正確に形成されている密封された適合するプラスティック製円筒体内に入れることができ、その駆動はプランジャーにより皮膚を通して直接に行われる。発射型投与は、比較的痛みがないことから好ましい。一般に、放出系をヘリウムまたはその他の気体のショック波で加速させ、内皮中に発射する。発射型放出に適する用具は、PCT/GB94/00753に記載されている。液体ジェット放出に適する用具は、メディ−ジェクト(Medi−Ject)用具[Diabetes Car,1b,1479〜1484(1993)]である。このような液体ジェット用具には、慣用の衝撃発射用具の使用によるまたはトローカーによる放出も可能であるより大きい肉眼で見える大きさの針状物を使用すると特に有利である。
【0054】
経皮投与に際しては、以下で説明するように、放出系の浸透度は、発射式マイクロインジェクターによるばかりでなく、また粉末粒子の形状およびサイズによって或る程度まで制御することができる。例えば、比較的均一で、かつまた小さい程度の浸透が望まれる場合には、本発明の実施に対して微小球状体がより適することがある。より大きい浸透度が望まれる場合には、肉眼で見える大きさの針状物が好適である。
微小針状物の外観比(すなわち、長さ対径)は大きいことから、これらは類似の径を有する球状粒子に比較して大容積を有する。これらが皮膚に「直角」の衝撃を与えることができる場合には、それらのより大きい容積が同一速度でより大きいモーメントを与え、従ってこれらは組織中に深く浸透する。無作為に配向された微小針状物を気体の層状流中に置くと、これらはそれら自体で空気流の方向に配列する。従って、気体噴射発射式注入器では、これらが直角に皮膚に追突し、浸透が確実なものとされる。
経粘膜放出に適する放出系は、これらに制限されないものとして、粘膜接着性ウエファー、薄膜または粉末、経口放出用のトローチ、ペッサリーおよびリングならびに膣または子宮頸管用のその他の用具を包含する。
胃腸投与に適する製剤は、これらに制限されないものとして、消化される医薬として許容される粉末、錠剤、カプセル剤およびピル、ならびに直腸投与用の座薬を包含する。
皮下投与に適する製剤は、これらに制限されないものとして、各種インプラントを包含する。好ましくは、これらのインプラントは、挿入が容易であるように肉眼で見える大きさの平円盤状、球状または円柱状形状であり、迅速放出または徐放出のどちらも可能である。完全インプラントは体液に溶解するから、このインプラントの取り出しは不必要である。さらにまた、このインプラントは合成ポリマーを含有しておらず、かつまた生体分解性である。
眼投与に適する製剤は、微小製剤であるかまたは肉眼で見える大きさの製剤であるかに制限されず、塩類溶液滴剤、これらを含有するクリームおよび軟膏、およびまた下まぶた近くの下方結膜円蓋に心地好く適応する丸底形状の棒状体を包含する。
【0055】
吸入による投与に適する製剤は、これらに制限されないものとして、粉末形態の放出系を包含する。この粉末は0.1〜10ミクロンの粒子サイズを有すると好ましい。さらに好ましくは、この粒子サイズは0.5〜5ミクロンである。最も好ましくは、この粒子サイズは1〜4ミクロンである。特に肺投与用の場合に、好適粒子サイズは2.5〜3ミクロンである。
粉末状SP放出媒質はまた、有効量の生理学的に許容される分子水ポンプ緩衝剤(molecular water pump buffer;MWPB)を含有すると好ましい。MWPBは製剤から水を失なわせる作用をする生理学的に許容される塩であり、これによって大気湿度における結晶化水の水蒸気は20℃で少なくとも14mmHg(2000Pa)になり、媒質のガラス形成を妨げない。MWPBの有効量は、水吸収度を充分に減少させて、実質的な凝集を防止する量であり、例えば50%モル比の硫酸カリウムがある。硫酸ナトリウムおよび乳酸カルシウムもまた好適塩であり、硫酸カリウムは最も好ましい。
複合HDC放出系は、吸入による投与剤型として特に有用である。例えば10%(重量/容量)α−GPAC/TOAC混合放出系は、95%相対湿度(RH)に対して耐性であるが、液体水と接触すると再結晶化し、そこに配合されているゲスト物質の全部を放出する。これらの粉末は、好ましくは歯槽で液体に叩かれると失透し、ゲスト物質を放出するが、湿った気管気道ではゲスト物質を放出しない。この挙動は吸入用粉末にとって重要である。
この粉末を充填したアトマイザーおよびベイパライザーがまた、本発明に包含される。粉末の吸入による放出に適する種々の用具が存在する。リンドバーグ(Lindberg)によるSummary of Lecture at Management Forum,1993年12月6〜7日,“Creating the Future for Portable Inhalers”(1993)参照。
本発明は各種のその他の固形剤型放出系をまた包含する。これらの放出系は広く種々の非医薬ゲスト物質の放出に適している。例えば、農業用ゲスト物質が配合されているHDCガラスは、熱帯地方でも乾燥状態で保存することができ、植物表面または地面で液体水と接触すると殺虫剤または生物学的制御剤を放出する。酵素を配合したHDCガラスは、洗濯用洗剤に添加するのに有用であり、これは高湿度においてさえも酵素を安定に保ち、しかも水と接触すると酵素を放出する。多くの別の態様が特許請求されている本発明に包含され、当該用具にかかわる当業者の技術範囲内にある。
下記の例は本発明を説明するために示すものであって、本発明を制限するものではない。
【0056】
例1
微小繊維状SPガラス質固形剤型放出系の製造方法
a)SP微小繊維状物の形成
MWPBおよび蛍光アルガル(algal)蛋白質フィコエリスチン1mg/mlを含有するトレハロース、ラクチトール、パラチニットまたはGPSの20%溶液を減圧(80mTorr)の下に16時間乾燥させることによって、ガラスを形成した。このガラスを家庭用コーヒーミルで粉砕して、粗い粉末を生成させ、この粉末を使用して、カンド K1 カンディ フロス 綿飴製造機(Kando K1 Kandy Floss cotton candy machine)(ドイツ国特許第1533012号)の紡糸用ヘッドに充填した。次いでモーターのスイッチを入れ、粉末状の糖ガラスを5〜9の基準設定の下に加熱した。紡糸用ヘッドにおける滞在時間は、2〜10分間であり、このヘッドを絶え間なく上に上げることによって連続処理を維持した。
生成された繊維状物を家庭用コーヒー粉砕機で粉砕した。得られた結果を表3に示す。この表3は形成された針状物の平均値を示している。これらのデータは3種全部の糖ガラスについて、基準設定を下げると、より細かい径の微小針状物が生成されることを示している。トレハロースの場合に、設定6で15ミクロンの平均径を有する微小針状物が、そして設定9で40ミクロンの平均径を有する微小針状物が得られた。GPSの場合には、設定9で15ミクロンの平均径を有する微小針状物が得られた。緩衝塩を含有するガラスから形成された微小針状物は、大気温度および湿度で乾燥状態を保持していた。フィコエリスチンを含有する微小針状物はその蛍光によって評価して、生物学的活性の保有を示した。
【0057】

【0058】
b)二成分系SP/有機複合ガラス微小繊維状物の形成
トレハロース、オクタン酸ナトリウムおよび水の5:1:1混合物を、減圧下(80mTorr)に16時間乾燥させることによって、ガラスを形成した。このガラスを家庭用コーヒーミルで粉砕して、粗い粉末を生成させ、この粉末を使用して、カンド K1 カンディ フロス 綿飴製造機の紡糸用ヘッドに充填した。次いでモーターのスイッチを入れ、粉末状の二成分系炭水化物/有機ガラスを5〜9の基準設定の下に加熱した。純粋なトレハロースガラスの場合には、基準設定を下げるに従い、より細かい径の微小針状物が生成された。この二成分系混合物ガラスは、相当する純粋トレハロースガラスに比較して、有意に相違する引張物性を有するガラスが得られるように特別に仕立てることができる。紡糸用ヘッドにおける滞在時間はまた、2〜10分間であり、このヘッドを絶え間なく上に上げることによって連続処理を維持した。得られた結果は、ガラスの種々の融点および溶解時間および生成する微小繊維状物の種々の物理的性質の変更が、炭水化物/有機分子および使用比率の両方を変えることによって達成できることを示している。
【0059】
例2
粉末状SPガラス質固形剤型放出系の製造方法
a)SPガラス質放出媒質中への活性物質の配合および微細粉末の生成
MWPBおよび蛋白質を等モル比で含有するトレハロース、ラクチトール、パラチニット、GPMまたはGPSの20%溶液を減圧下(80mTorr)に16時間凍結乾燥させることによってガラスを形成した。これらのガラスを、トロースト(Trost)空気噴射ミルを用いて粉末化した。この微細粉末の粒子サイズをマルバーン マスターサイザー(Malvern Mastersizer)レーザー粒子寸法測定器を用いて測定した。0.5Mトレハロースおよび0.5M乳酸カルシウムの原液から得られた微細粉末の場合について得られた結果は、1/1ミクロンの平均粒子径を有する単分散粒子分布を示した(図1)。このMWPB含有粉末は、大気温度および湿度に延長された期間にわたりさらされても、自由流動性粉末のままであり、粒子サイズの変化、凝集および水の吸収は示さなかった(図2Aおよび2B)。
【0060】
b)SPガラス質放出媒質中への活性物質の配合および噴霧乾燥粉末の生成
MWPB塩および蛋白質(フィコエリスチン)を含有するトレハロースの20%溶液を、ラブ−プラント(Lab−plant)噴霧乾燥機で、500〜550ml/時間のポンプ速度および180℃の入口温度において乾燥させた。粒子サイズはシンパテック(SympaTec)レーザー粒子寸法測定器を用いて測定した。この噴霧乾燥した粉末は、粉末発射用具で粒子として効果的に使用するのに充分な狭いピークサイズ分布を備えている単分散粒子分散を示した。図3に示されている結果において、0.5Mトレハロースおよび0.5M乳酸カルシウムの混合物をラブ−プラント噴霧乾燥機で噴霧乾燥させることによって生成された噴霧乾燥粉末の粒子サイズ分析は平均8.55ミクロンの粒子径を示した。これは狭いピーク分布が得られたことを示している。
この平均粒子サイズの変更は、噴霧乾燥させる混合物の組成を変えることによって、あるいは使用する噴霧乾燥ノズル部品の特徴を変えることによって、達成することができる。図4に示されている結果は、図3に示されている噴霧乾燥粉末の粒子サイズ分析値を、ノズル部品が相違しているブッチ(Buchi)噴霧乾燥機で同一混合物を乾燥させることによって得られた噴霧乾燥粉末と比較するものである。図4に示されているピーク分布は、等しく狭い範囲を示すが、その平均粒子サイズはこの場合には、7.55ミクロンである。
これらのデータは、相違する噴霧乾燥処理によって得られた粒子が等しく、発射用具用の製剤を提供するのに適することを示している。粒子サイズの変更可能性が相違する浸透特性を有する製剤で得られることに注目すべきである。このことは、浸透が粒子モーメントの関数であり、かつまた分布が粒子サイズの散在の関数であることから、皮内放出、筋肉内放出または血管内放出の決定に特に重要である。
【0061】
c)有機溶剤からの乾燥によるSPガラス質放出媒質中への活性物質の配合
トレハロース20%を含有するエタノール:水の1:1混合物中のCSAの50mg/ml溶液を、大気温度で空気乾燥させ、固体懸濁液または固溶液中にCSAを含有するトレハロースガラスを形成した。このガラスを、例1に記載の方法に従い、粉砕し、粉末を生成した。この粉末は大気温度および湿度で自由流動性のままであった。この粉末に水を添加すると、トレハロースが溶解し、CSAの均一水性溶液が生成された。
【0062】
d)共沈殿によるSPガラス質放出媒質中への活性物質の配合
MWPBおよび蛋白質(フィコエリスチン)を含有するトレハロース、ラクチトール、パラチニット、GPMまたはGPSの20%溶液をアセトン−固形二酸化炭素冷凍浴中に噴霧することによって乾燥させた。この沈殿した粉末を遠心分離または濾過により分離し、次いで空気乾燥させて、残留溶剤を除去した。この粉末はまた、単分散粒子分布を示し、緩衝剤塩を含有する粉末は大気温度および湿度で乾燥状態のままであった。
【0063】
e)有機溶剤からの乾燥によるSP中に疎水性活性物質を含有する複合ガラス質固形剤型放出媒質の形成
複合ガラス(composit glasses)の生成に、2種の相違する溶剤系を使用した。第一の場合は、CSAを無水エタノール中に溶解し、次いで等量の水をゆっくり添加し、各添加に際して沈殿するCSAを再溶解させた。次いでトレハロースを50%(容量/容量)エタノール溶液に、50%(重量/容量)の最終濃度にまで溶解した。この混合溶剤をホットプレート上で70℃において蒸発させることによって複合ガラスを生成させた。第二の場合には、CSAおよびトレハロースを両方ともにDMF中に溶解し、次いで前記のとおりに蒸発させて、複合ガラスを生成させた。両方の場合に、僅かに不透明なガラスが得られた。このガラス薄膜の上に数滴の水を乗せ、このガラスの溶解性および放出性を評価した。
得られた結果は、これらのガラスが格別に相違していることを示した。DMFから生成されたガラスは明白に疎水性の表面を有しており、撥水性であった。これらは水と接触すると、次第に不透明な白色の破片および沈殿したCSAの凝集を発現した。50%エタノールから生成されたガラスは親水性であった。これらは水中に急速に溶解し、そうすることによって、雲状の非常に細かいCSA粒子を放出した。この後者のガラスはCSAをトレハロースガラス中の細かい固体懸濁液または固溶液中に含有するものと見做され、トレハロースが溶解すると、沈殿としてCSAを放出する。従って、この剤型は放出後のその均一性および微細分離性に基づき高度の生体利用性を備えたCSA用に非常に有用な剤型である。
相違する溶剤から乾燥させた後の同一組成のガラスの相違する挙動は、溶剤蒸発中に相違するガラス沈着パターン全体にわたる正確な制御が達成される興味深く、かつまた有用な方法であることを示唆している。CSAはDMF中でトレハロースよりもさらに可溶性であることから、この溶剤から製造されたトレハロース中の10〜20%CSAの複合ガラスは、親水性のトレハロース芯部と疎水性のCSAコーティングとを有するものと見做される。これに反して、50%エタノール蒸発の場合には、97%共沸によるエタノールの早過ぎる消失がシロップ状トレハロースにより取り囲まれている溶液からのCSAの流出を生じさせ、次いで連続相として固化し、この固化はCSAのトレハロースガラス固体エマルジョンを導く。
【0064】
例3
トレハロース中で乾燥させることによる蛋白質の有機溶剤および高められた温度に対する保護
a)トレハロース中で乾燥させることによって行われるアセトンに対するホースラディシュペルカキシダーゼおよびアルカリホスファターゼの保護
0.1mg/mlホースラディシュペルオキシダーゼ溶液または1mg/mlアルカリホスファターゼ/4mg/mlウシ血清アルブミン溶液を、50%トレハロースとともに、またはトレハロースの不存在下に、FTSシステム凍結乾燥機で乾燥させた。この乾燥機は、減圧乾燥機として使用し、混合物は凍結させることなく乾燥させた。一定量の溶剤を4回添加し、この溶液を蒸発乾燥させた。その内容物を水5ミリリッター中に再溶解し、次いで酵素活性を連続希釈法により市販の「キット」(kit)試薬を用いて評価した。このアルカリホスファターゼキットは、シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)から入手し、ホースラディシュペルオキシダーゼキットは、キールケガード アンド ペリイ ラボラトリイ社(Kirkegaard & Perry Laboratories Inc.)から入手した。図5Aおよび5Bに示されているように、トレハロースとともに乾燥させた酵素は、トレハロースを用いずに乾燥させた酵素に比較して、アセトンに対してより耐性であった。
【0065】
b)トレハロース中で乾燥させることによって行われる有機溶剤に対するフィコエリスチンの保護
400μg/mlフィコエリスチン溶液を、20%トレハロースとともに、またはトレハロースの不存在下に、ラブコンコ(Labconco)凍結乾燥機で凍結乾燥させた。この乾燥した蛋白質粉末を多種の有機溶剤に72時間さらした。フィコエリスチンはアセトン、アセトニトリル、クロロホルムおよびメタノール中で蛍光を残した。ピリジン中では、フィコエリスチンは24〜48時間蛍光を残したが、72時間で湿り始め、蛍光を失った。ジメチルスルホキシド中では、粉末は溶解するが、フィコエリスチンは蛍光を残した。
【0066】
c)トレハロース中で乾燥させた後の100℃に対するフィコエリスチンの保護
400μg/mlフィコエリスチン溶液を、20%トレハロースとともに、またはトレハロースの不存在下に、FTS乾燥機で凍結乾燥させた。この乾燥した蛋白質は、その官能性活性を失うことなく、100℃で一か月間保存された。
【0067】
例4
複合SPおよび(または)HDCおよび(または)カルボキシレートガラス中に配合されたゲスト物質を含有するガラス質固形剤型放出系の製造
a)蒸発による複合SP/有機ガラスからのガラス質固形剤型放出系の共配合
MB9を含有するトレハロースの微粒子を、例2bに記載のとおりに噴霧乾燥によって製造した。この乾燥させた溶液は、0.39Mトレハロースおよび0.14M乳酸カルシウムおよび0.5%MB9を含有していた。これらの粒子をトルエン中のパルミチン酸アエン(ZnC16)の飽和溶液に添加し、次いで60℃から30℃までに冷却させることによって、これらの粒子を被覆した。これによりZnC16層が粒子上に沈着した。この粒子を次いで減圧濾過して、過剰のZnC16を除去し、アセトンで洗浄し、次いで空気乾燥させた。生成する粉末は少なくとも3日間、水中で湿らずに残留した(この粒子は沈むことなく水上を浮動するか、またはMB9を放出し、その後に徐々に染料を水中に放出した)。すなわち、別様では水溶解性の粉末を、ZnC16などの金属カルボキシレートで被覆することによって水不透過性にすることができる。この被覆材料がほとんど結晶化した状態にあり、ガラスではないことに注目されるべきである。従って、ゲスト物質が懸濁されている固相は水不透過性であるガラス相である必要はない。
【0068】
b)蒸発による活性物質含有SPおよび有機ガラスからのガラス質固形剤型放出系の共配合
フィコエリスチンを含有する粉末状トレハロースガラスを、混合カルボキシレートガラス、すなわちオクタン酸ナトリウムとエチルヘキサン酸アエンとの1:1混合物に添加し、過剰のクロロホルムに溶解し、次いで室温でN流下に蒸発させ、固体懸濁液または溶液中のフィコエリスチン含有カルボキシレートガラスを形成した。この共配合ガラスは水中で少なくとも48時間不溶性のままであった。このフィコエリスチン粉末は、初期有機溶液中および最終ガラス中の両方で、蛍光を残していた。
【0069】
c)共融解による活性物質含有SPおよび有機ガラスからのガラス質固形剤型放出系の共配合
オクタン酸ナトリウムとエチルヘキサン酸アエンとの1:1混合物の融解物を急冷することによって形成された予め調製した有機ガラスを、95℃で軟化させ、次いでこの融解物にフィコエリスチンを含有する粉末状トレハロースガラスを添加した。生成した混合物を15℃に予め冷却したアルミニウムブロック上で直ちに急冷した。封入されたフィコエリスチンを含有する清明なカルボキシレートガラスが形成された。この生成物は、蛍光によるその能力により評価して、その生物学的官能性を保有していた。共配合物中のカルボキシレートおよび有機成分の種類および比率を変えると、それらの水中における溶解度の差異から評価して、或る範囲の除放特性を有するガラスが得られる。
【0070】
d)蒸発による活性物質含有SPおよびHDCガラスからのガラス質固形剤型放出系の共配合
この放出系は、ブッチ(Buchi)B−191噴霧乾燥機を使用する噴霧乾燥によって製造した。予め形成し、噴霧乾燥させたトレハロース/MB0染料(1%)の6μm粒子(0.264g)を、ジクロロメタン(100ml)中のTOAC(4g)およびアゾベンゼン(0.029g)の溶液中に懸濁し、40℃の入口温度で噴霧乾燥させた。曇った黄色の疎水性粉末が得られた。この粉末はTOACガラス、配合されている黄色染料アゾベンゼンおよびトレハロースガラスが配合青色染料MB9を封入しているものである。水性溶液中に浸すと、この複合放出媒質は高水溶性を有する青色染料MB9の遅延放出を示した。
【0071】
e)蒸発による活性物質およびプラスティクを含有するSPガラスからのガラス質固形剤型放出系の共配合
例1に従い製造したフィコエリスチン含有粉末状トレハロースガラスを、過剰量のクロロホルムに溶解したペルスペックス(perspex)の溶液に添加し、次いで室温でN流下に蒸発させ、固溶液中にフィコエリスチン粉末を含有する固形ペルスペックスブロックを形成した。このフィコエリスチン粉末は初期有機溶液中および再形成された固形ペルスペックス中の両方でその蛍光を保有していた。また、この固形ペルスペックスは4週間後でも水に対して不透過性であった。同様の結果が、ジクロロメタン中に溶解したポリエステルおよびジメチルスルホキシド中に溶解したポリウレタンでも得られた。
【0072】
例5
放出系が充填されている中空針状物の製造
中央空洞が例1に従い製造されたフィコエリスチン含有粉末状トレハロースガラスにより充填されているトレハロースガラス管のビレットの一端を、ゾーン型炉中で融解させ、この繊維状物を回転している金属ドラム上に一定の速度で巻き付けることによって、繊維を延伸成型した。形成された中空繊維状物は、細かい粉末状のトレハロース−で安定化された化合物を含有しており、いずれか所望の寸法に切断することができる。このような中空繊維状物はまた、生体分解性の熱可塑性材料または有機またはHDCから製造することもでき、生成する繊維状物の径を変えることによって、微小から肉眼で見える大きさまで変化する、すなわちミクロン単位の厚みからミリメーター単位の厚みまで変化する針状物を形成することができる。これらの中空繊維状物には、本明細書に記載の固形剤型媒質のいずれもを充填することができる。
【0073】
例6
固形剤型放出系の発射式放出
粉末状ガラスを、圧縮気体の放出により発生される加圧ショック波を用いて、超音波速度で発進させることによって皮膚に注入した。この粉末はロート型空洞の広い方の末端に結合されているチャンバー内に保持し、その狭い方の末端にはマイラー(mylar)薄膜により封止されている圧縮気体のカートリッジを付けた。超音波ショック波は、このマイラー薄膜を破裂させることによって発生させた。別法として、タイマー中継−駆動ソレノイド(timer relay−driven solenoid)を使用して、より低いヘリウム圧で機能できるようにヘリウム放出を制御することもできる。これは植物組織形質転換にファイナー(Finer)により開発された粒子流入ガン(PIG)で使用される原理である。バイン(Vain)等によるPlant Cell Tissue and Organ Culture,33:237〜246(1993)。
【0074】
例7
蒸発による有機ガラスからの固形剤型放出系の製造
a)溶剤蒸発によるカルボキシレート固形剤型放出系の製造
ヘキサン酸アルミニウムを、追跡染料としての1重量%MB9の細かい懸濁液とともに、クロロホルム中に溶解した(0.5g/10ml)。ケイ酸塩ガラススライド上で注型し、温い空気流中で溶剤を蒸発させることによって、薄い無定型薄膜(100〜200μm厚み)を形成した。蒸留水中への染料の放出を5時間にわたり追跡し、図6に示した。これらのガラスの失透は見られず、かつまたこの薄膜は透明なままであったが、染料が媒質中に拡散するに従い脱色された。
上記のとおりにして、ネオデカン酸カルシウムをクロロホルム中に溶解(0.5g/10ml)することによって、無定形薄膜をまた形成した。これらのより厚い(1〜2mm厚み)薄膜からの染料の放出をまた、24時間にわたり追跡し、図6に示した。アルミニウム薄膜の場合と異なり、このネオデカン酸カルシウム薄膜は、この薄膜を溶解した後に、そのCa2+の原子吸収スペクトル分析により追跡した。
【0075】
b)カルボキシレートガラス中に配合された活性物質含有SPガラスからの溶剤蒸発による複合ガラス質固形剤型放出系の製造
1重量%MB9を配合したグルコースガラスの薄膜を、その融解物からの急冷によって形成した。これらの薄膜に、クロロホルム中の金属カルボキシレート溶液(0.5g/10ml)の蒸発によって無定形金属カルボキシレート薄膜を薄く(100μm厚み)被覆した。使用した金属カルボキシレートはヘキサン酸アルミニウム、オクタン酸アルミニウム、ネオデカン酸カルシウムおよびイソステアリン酸マグネシウムであった。これらの薄膜の溶解を、蒸留水中への染料の放出により追跡した。これらの放出系は数分から数時間の経過時間にわたり染料の遅延放出を示した。しかしながら、イソステアリン酸マグネシウムから形成した薄膜の場合には、10日間にわたる染料の遅延放出を示した。
【0076】
例8
HDC固形剤型系の製造
数種のHDCガラスを、融解および急冷によって製造した。下記の例において、成分HDCはアルドリッチケミカル社(Aldrich Chemical)から購入したが、TOPRはアコー(Akoh)等により開示された方法(1987)に従い合成した。これらの成分は、あったとしても僅かな分解を伴うガラスを形成した。フラクトース、スクロースおよび若干の程度で、グルコースは検知できる分解または重合を伴い融解した。α−D−グルコースペンタアセテートなどのエステルはその融点で安定であり、急冷すると、清明な無色のガラスを形成した。さらに安定なエーテルおよびエステル誘導体は、反応性有機物質、例えば殺虫剤および生物殺傷剤の封入に明白に有利である。
特に低い融点を有するHDC類は急冷後に、軟質のワックス状ガラスを形成する。ガラス質α−D−グルコースペンタアセテートのnmrスペクトルは、結晶化したα−D−グルコースペンタアセテートのnmrスペクトルと同一であることが見出された。
α−D−グルコースペンタアセテートから形成されたガラスは水中で貧弱な溶解性を示す。このエステルから製造したディスク(20mm径および2.5mm厚み)を流動水中に入れると、10日間でその元の重量の約33%を失った。類似の寸法を有するもう1種のガラスディスクを、α−D−グルコースペンタアセテートから形成し、水1リットル中に入れ、水は毎日取り替えた。7日後に、このガラスはその元の重量の20%を失った。このガラスからの封入されているアシドブルー(Acid Blue)染料の放出速度は図7に示されているように全く一定であった。この染料放出速度は、一日目は早く、放出は主として、ガラスディスクの表面から生じた。
ガラス中の数種の有機物質の封入において、優れた回収率が得られた。2重量/重量%で表4に列挙されている有機物質を含有するα−D−グルコースペンタアセテートのガラスディスクを、融解および急冷により製造し、次いで粉砕した。ホトクロームII(Photochrome II)は5−クロロ−1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]−ナフト[2,1−b][1,4]−オキサジンである。封入された物質はメタノールおよび水などの適当な溶剤により抽出した。得られた結果を表4に示す。
【0077】

【0078】
アシドブルー129の放出速度は、溶解速度およびガラスの形状に依存することが見出された。殺虫剤などのオキサジアゾンはこの融解ガラス中に問題なく、約15重量/重量%で容易に溶解した。
【0079】
例9
融解物からの急冷によるガラス質HDC固形剤型放出系の形成および放出性質
a)融解物からの単純および複合ガラス質HDC固形剤型放出系の形成およびその放出性質
以下の実験において、単一材料または混合組成物から、放出系を予め形成した。この形成は、成分HDCを一緒に密に粉砕し、次いで炉内で、120〜140℃および正常雰囲気下に注意して制御融解させて、融解物を形成した。この融解物を黄銅ブロック上に注入することによってガラスに急冷した。このガラスは次いで、細かく粉砕した。
この粉砕したガラスをMB9染料(1重量%または5重量%)と混合した後に、140℃で再融解させた。この融解物を急冷して、小型ガラスビーズ(2,5mm径)を形成し、これらを制御放出実験に使用した。
封入された染料の制御放出は、指示されているように、これらの3種のビーズを脱イオン水またはPBS溶液25mlまたは50ml中に大気温度(27〜30℃)または37℃で懸濁することによって追跡した。この媒質は、定期的に撹拌し、設定間隔(一般に、72時間間隔)で新鮮な媒質により置き換える時を除いて、変化させなかった。単一HDCガラスおよび複合HDCガラスの両方を形成した。形成された複合HDCガラスを表5に示す。染料放出は分光光度測定法(516nmλmax)により測定し、その結果を図6〜14に示す。TOACガラスはゼロオーダーの放出特性を示す。別のHDCを複合HDC組成物にガラス改質剤として使用すると、所望の放出特性を有するガラスを特別に製造することができる。
【0080】
図8はTOAC放出系のゼロオーダーの放出特性を示すグラフである。図8において、この結果はそこに2重量%の量で均一に分散されているMB9染料を含有するTOACガラスディスクから得られたものである。放出は穏やかに撹拌しながら25℃で制御し、媒質は一定の間隔で取り替えた。55日間にわたるMB9染料の直線状放出に注目されるべきである。図8に示されている結果は、純粋HDCガラス質放出媒質系がゲスト物質のゼロオーダー放出を与えることを示している。図9〜14に示されている結果は、放出系中の相違するHDC比を変えることによる、炭水化物幹鎖長さを変えることによる、およびまた炭水化物幹鎖における誘導体の種類を変えることによる、放出速度の変化を示している。それぞれの場合に、HDC放出系がゲスト物質に対しておよびまたその放出に関して特別に計画できることは明白である。
図9は2種の相違するHDCの比を放出系中で変えた場合に得られた結果を示している。MB9の放出速度は、図8について上記したとおりにしてTOAC/RUDAから測定した。この放出速度から組成の相違による変化を見ることができるが、その放出速度はRUDAの濃度には無関係であった。例えば、75%TOAC(25%RUDA)の場合に、より早い放出速度が見られ、95%TOACの場合に、最低の放出速度が見られた。従って、これらの放出系の速度は容易に実験的に誘導することができる。
図10は相違する量でTOACを含有するHDCの相違する3種の共配合物のTgの変化を比較したものである。3種の相違する共配合物、TOAC/SHAC、TOAC/RUDAおよびTOAC/α−GPACについて、TOACのモル%を増加させながら試験した。これらの結果は、この媒質のTgがこれらの共配合物中のTOACのモル%に従い直接的に高くなることを示している。TOAC/α−GPACおよびTOAC/SHACは固有には、より低いTgを有する。
図11はTOAC/RUDAおよびRUDA単独の2種の相違する共配合物からのMB9染料の放出パーセントを比較するものである。RUDAは5日間で染料の約60%の初期放出および次の25日間にわたるより少ないパーセントのゆっくりした染料放出を伴う、二相型の放出速度を有する。RUDA単独の放出速度はTOACの存在によって実質的に変更される。50%RUDA形成物は、10%RUDA形成物に比較して、より大きいほとんど直線に近い放出速度を示す。
【0081】
図12はSOACまたはCOACのどちらかとTOAC(75%)との共配合物からのMB9染料の放出を比較するものであり、炭水化物幹鎖を変えることによる効果を示している。この結果は放出速度がこの手段で変化することを示している。TOAC/COAC共配合物は、TOAC/COAC共配合物に比較して、増加した放出速度を示した。
図13は相違する炭水化物幹鎖長さを有する2種のHDC成分、TOACおよびα−GPACの共配合物からのMB9染料の放出速度を比較するものである。放出速度はTOACの重量パーセントには直接に関係しなかった。すなわち、50%TOACが最低の放出速度を有するのに対して25%TOACは最高の速度を有していた。この場合もまた、これらの速度は実験的に容易に決定することができる。
図14は同一の炭水化物幹鎖を有するが、相違する誘導体である2種の相違するHDCの共配合物からのMB9染料の放出速度を比較するものである。これらの結果はTOAC放出系に25%TOPRを添加すると、ゲスト物質の放出速度が劇的に減少されることを示している。
【0082】
表 5
ガラス系 MB9重量% 温度/℃ %比
1.TOAC 1および5 RT,37 100
2.RUDA 1および5 RT 100
3.TOAC/SOAC 1 RT 75(重量)
4.TOAC/αGPAC 1 RT,37 75(重量)
5.TOAC/COAC 1 RT 75(重量)
6.TOAC/TOPR 1 RT 75(重量)
7.TOAC/βGPAC 1 RT 75(重量)
8.TOAC/αGPAC 1 RT 90,75,50,25
(モル%)
9.TOAC/RUDA 1 RT 90,75,50,25
(モル%)
【0083】
b)融解物の急冷によるHDC中へのゲスト物質の配合
TOAC中に合成コルチコステロイドXPDO(以下で説明する)を溶解し、次いで急冷することによって、ガラス質固形剤型放出系の形成を達成した。水性溶液中におけるMB9の放出を観察することによって、これらの実験をガラス内における当該ステロイドの適応性、引き続くステロイドの回収および水性溶液中へのMB9の放出により評価して、形成された放出系の性質に対するXPDOが有する効果を試験した。TOAC(3.21g)を150℃で予め融解し、次いでガラスに急冷した。このガラスをXPDO(0.15g)とともに細かく粉砕し、次いで再融解した。この清明な融解物を再度急冷して、複合HDC/活性物質ガラスを形成した。レオメトリック サイエンテフィックの示差走査熱量測定計(Rheometric Scientific Differential Scanning Calorimeter)(DSC)において窒素雰囲気下に10゜/分の加熱速度で熱分析を行った。下記の試料を製造した:
1.TOAC/XPDO(5重量%) Tg=50.6℃
2.TOAC/XPDO(5重量%) Tg=50.9℃
+MB9(1重量%)
3.TOAC単独 Tg=50.1℃
4.TOAC/MB9(2重量%) Tg=50.3℃
図15に示されているように、ガラス質HDC固形剤型放出系の放出特性をTOAC/XPDOからのMB9の放出を追跡することによって評価した。ガラス質HDC固形剤型放出系中の活性物質の安定性を評価するために、当該ガラスをアセトニトリル中に溶解することによってXPDOを試料から回収し、次いでHPLCにより分析した。45℃で4週間の保存後でさえも、このゲスト物質の完全回収が見出された。
【0084】
例10
溶剤蒸発によるガラス質HDC固形剤型放出系の形成
a)溶剤蒸発によるHDCガラスの形成
上記したように、TOACは融解物からの急冷により良好な放出媒質を形成することが見出された。これらの放出系は低い融点および非常に小さい結晶化傾向を有する。一連の実験を次いで、3×1インチのソーダ−ガラススライド上で溶剤蒸発により生成させたTOACガラスについて行った。
ジクロロメタン(DCM)およびクロロホルムはTOACのための標準的溶剤である。TOACはまた、アセトニトリルなどの別の溶剤にも可溶性である。引き続く実験の全部ではDCMを使用した。
ガラスは、65℃に設定したホットプレート上でTOACの25%溶液からDCMを蒸発させることによって形成した(50%溶液はしばしば、ピペット先端に結晶を沈着した)。完全乾燥の或る時点まで2時間、乾燥を行い、完全乾燥までの時点まで乾燥させた。エッペンドルフ(Eppendorf)型ピペットを使用してホットプレート上に直接配置したスライド上に100μlづつ分配し、次いで清潔な取り出し用ピペットを用いて約50μlづつ取り出すことによって均一なガラスを製造した。ガラスは非常に清明であり、かつまた製造の始めには接着性であったが、室温(RT)で50〜60%相対湿度(RRH)において一か月間の間に次第に再結晶化した。
50%トレハロース溶液から水の蒸発により同様に製造されたトレハロースガラスは、形成の初期には清明であったが、数週間の間に次第に再結晶化した。
【0085】
b)溶剤蒸発によるHDCガラス中への活性物質の配合;吸入投与に適する粉末
XPDOはステロイド系抗炎症化合物である。化学的には、6α,9α−ジフルオロ−11β,21−ジヒドロキシ−16α,17α−プロピルメチレンジオキシ−4−プレグネン−3,20−ジオンである。XPDOはラセンとして結晶化し、この結晶はゼオライトを想像させる様相で水分子と結合している長い分子内空隙を残して針状物中に一緒に詰込まれている。この構造は、このステロイドを充分に吸水性にしており、好適投与方法である乾燥粉末吸入剤としての使用を排除している。無定形(非結晶)形態では、XPDOは吸水性ではないが、化学的に不安定である。この化合物のトレハロースによる安定化の研究は、非吸水性の粉末が製造できなかったことから成功しなかった。
従って、DCM中に結晶TOACおよびXPDOの両方を溶解し、次いでホットプレート上で70℃において溶剤を蒸発させることによって、XPDOをTOACガラス中に配合した。XPDOは最終TOACガラス中の総固体含有量の10%および20%の割合で使用した。これらのガラスは完全に水を含有しておらず、透明であった。75%、81%、90%および95%のRHで4週間保存した場合に、これらは再結晶などのガラス構造の変化を示さなかった。
しかしながら、液体水に浸した場合には、これらのガラスの表面はゆっくりと再結晶化した。水を添加して15〜30分以内に反転顕微鏡下にTOACの顕微鏡的大きさのピラミッド状結晶を見出すことができた。結晶化は徐々に進行し、さらに数分以内に、XPDOの代表的針状形状の結晶の小さい集団が出現した。針状形状のXPDO結晶、またピラミッド状のTOAC結晶はどちらもその下のガラスに接着するから、これらは洗浄することにより新しいガラス表面を容易に回復し、次いでゆっくりと溶解する。TOAC結晶からXPDOを完全に除去すると、ガラス状TOACマトリックス中に予め配合されている当該分子が液相に確実に放出される。
【0086】
c)溶剤蒸発によるHDCガラス中への活性物質の配合;吸入投与に適する噴霧乾燥粉末
DCM中に溶解した合成コルチコステロイドXPDOを使用して実験を行った。この溶液は40℃の入口温度を用いてブッチB−191噴霧乾燥機で噴霧乾燥させた。これにより無定形の細かい白色粉末が得られた。この粉末は固溶液中にXPDOを含有していた。XPDOは20重量%で配合した。この粉末は熱分析により確認して、完全に無定形であった(Tg=46℃)。
分析のために、この粉末をアセトニトリル中に溶解し、次いでリン酸ナトリウム緩衝剤含有アセトニトリルで希釈することによって、この噴霧乾燥粉末からXPDOを抽出し、次いでHPLCにより分析した。試料はXPDOの安定性試験まで噴霧乾燥製剤中に45℃で準備し、飽和硫酸アエンで覆って保存した(RH:80〜85%)。
この噴霧乾燥粉末0.0868gを、リン酸ナトリウム緩衝液10ml中で10分間振り混ぜることにより当該緩衝液中に放出させた。この懸濁液を次いで、0.2μmフィルターに通して濾過した。HPLCにより分析して、XPDOが水性溶液中に効果的に放出されるものと結論された。水性溶液中に短時間浸すことによって、この放出系からのステロイドの生体利用性を試験した。この噴霧乾燥製剤中のステロイドの安定性を高い湿度および45℃で試験した(吸入可能な粉末として使用する場合には、この両方の因子が重要である)。得られた結果は、ガラス中における湿度に対する高い耐性、ガラス中における安定性およびインビボ試験において容易な生体利用性を示した。この噴霧乾燥粉末は45℃および85%RHで4週間保存した後でも、当該噴霧乾燥ガラス粉末のHPLC分析で、如何なる分解の証拠も示さなかった。
【0087】
d)溶剤蒸発によるHDCガラス中へのゲスト物質の配合;徐放性CSA
シクロスポリン[CSA、サンドイムネ(Sandimmune)(登録商標)]は、特に臓器移植患者の免疫抑制剤として使用される疎水性環状ペプチドである。CSAは経口によりまたは血管内に投与される。この化合物は投与に際してアルコール中に溶解する。臨床使用の際には、この医薬の血中レベルが小腸付近(空腸)からの信頼できない吸収によって重篤な変調を受ける。この問題が、CSAを吸収に適する形態で数時間の間一定の速度で放出させることによって解消することができた。
結晶TOACおよびCSAの両方をDCM中に溶解し、次いでホットプレート上で70℃において溶剤を蒸発させることによって、CSAをTOAC中に配合した。CSAは、最終TOACガラス中の総固体含有量の5%、10%および20%の割合で使用した。これらのガラスは完全に水を含有しておらず、透明であった。75%、81%、90%および95%のRHで4週間保存した場合に、これらは再結晶などのガラス構造の変化を示さなかった。液体水に浸した場合には、これらのガラスは、XPDO含有ガラスと同様の挙動を示した。すなわち、これらのガラスはゆっくりと再結晶化し、TOAC結晶とCSA結晶とに分離した。
【0088】
e)溶剤蒸発による複合HDCガラスのガラス質固形剤型放出媒質の形成
TOACに加えて、2種の別の疎水性に変性された単糖類、α−GPACおよびTOPRを混合物中で実験し、改良された性質を有する混合ガラスを得た。
結晶成分を種々の割合で混合し、ホットプレート上における溶剤DCMの蒸発により、または150℃で融解し、次いで黄銅プレート上で急冷することにより、ガラスを生成させることによって、これらの1対のHDCの混合ガラスを製造した。
生成するガラスを、二つの方法により制御放出マトリックスとしてのそれらの有用性について試験した。第一の方法では、これらを高いRHおよびRTにさらした際の失透に対する耐性能力について評価した。第二の方法では、これらを水またはリン酸塩−緩衝塩類溶液(PBS)中に浸し、それらの溶解性および表面再結晶化による浸食速度について試験した。
α−GPACおよびβ−GPACの両方の単独成分ガラスは、その融解物からの急冷により製造することができたのみであった。溶剤を蒸発させると、このHDCは常に結晶化した。TOACおよびTOPRの単独成分ガラスは、溶剤蒸発によるかまたは急冷により容易に製造することができたが、高いRHにおいては、失透に対して非常に感受性であり、75%〜95%のRHに一夜さらすと、顕微鏡スライド上で薄いガラス薄膜の完全な再結晶化および急冷したディスクの表面の再結晶化を示した。この混合ガラスは、表6に記載されているように挙動した。
【0089】

【0090】
得られた結果は、相違するRHの作用が非常に均一であることを示している。純粋TOACおよび複合ガラスの若干は、75%〜95%のRHで全部が結晶化するのに対して、他の複合ガラスは被験RHの全部で無定形のままであった。
TOAC中の10%α−GPACおよび10%TORPガラスおよび50:50モル比TOAC:α−GPACガラスをまた水に浸し、湿った空気ではなく、液体水の中におけるそれらの失透速度を試験した。第一のガラスは20〜30分以内に再結晶化したが、第二のガラスは4時間後に数個の小さい結晶を発現した。これに対して、50:50ガラスは4日間にわたり変化しなかった。これは、このガラスが驚くほど低い溶解性を有することを示している。
肺深部への医薬の粉末放出用の媒質として、TOACガラス中の10%α−GPACは、吸入器および気道で体験するような95%RHに対して同一時間にわたり耐性であり、歯槽の裏側の液層におけるような液体水中で迅速に再結晶化する非常に望ましい性質を示す。
10%またはそれ以上のα−グルコースペンタアセテートまたはトレハロースオクタプロパノエートを添加した、またはこれらを添加していないTOACのガラスは大気RHで或る範囲の耐性および溶解速度を示し、従ってこのようなガラス中に分散された医薬の制御放出の程度は特別に調整することができる。
【0091】
f)溶剤蒸発による複合、徐放性HDCおよび(または)SPガラス中への活性物質の配合
最高の有用性を備えているものとするには、HDCの徐放特性が疎水性分子および親水性分子の両方に対して使用可能でなければならない。前者は、溶剤蒸発によりまたは融解物中への直接溶解および引き続く急冷により、HDCの1種中の固溶液として容易に製造することができる。親水性分子はHDCに直接に溶解しない。
本発明により、親水性物質を非常に均一にかつまた有用な分布をもってHDCマトリックス中に配合する格別に有用な方法が見出された。この方法は、親水性物質としてトレハロースをそして疎水性物質としてTOACを使用することによって充分に説明することができる。修飾したトレハロースおよび天然トレハロースの両方に良好な溶剤はDMFおよびDMSOである。DMF中の10%トレハロースおよび90%TOACの溶液を蒸発乾燥させると、霜降りのまたは不透明な外観を有するガラスが得られる。顕微鏡下で、これは連続マトリックス中に均一サイズの球状ガラスビーズが非常に不均一に分布しているように見える(図16および17)。接眼グラティキュールで粗く測定して、この微小ビーズの大きさは約4マイクロメーター径である。
【0092】
この2相の確認は、少量の強度に疎水性の脂質染料であるオイルレッドO(Oil Red O)を少量の親水性染料であるメチレングリーン(Methylene Green)とともにDMFの溶液中に配合し、次いでガラスを生成させることによって証明した。予想されたように、疎水性オイルレッドOは連続相中に排他的に分配され、他方親水性のメチレングリーンは不連続な均一粒子中に排他的に分配され、これらの粒子がトレハロースであることが判った(図18)。すなわち、生成された複合ガラスは、疎水性のゲスト物質、XPDO、CSAまたはオイルレッドOの場合に見られるような固溶液ではなく、非常に均一で、かつまた安定なガラス「固体エマルジョン」(solid emulsion)または「固体懸濁液」(solid suspension)からなるものであった。
トレハロースおよびTOACの同一混合物をDMSO中の溶液から蒸発させた場合には、この複合ガラスの外観は相違している。この場合には、ガラスは一層透明であり、かつまた顕微鏡下に不連続トレハロース相に2形態があることが見出された。この一形態は連続マトリックス全体に均一に分散している極小のトレハロース粒子の非常に細かい分散相である。もう一つの形態は複合ガラスの中央にクラスターとして濃縮されている大型の球状トレハロースビーズからなる。
いずれか一つの理論に結び付けることは望まないが、見出された相違するパターンは使用溶剤中における2種の炭水化物の溶解度の差を反映しており、この差により溶剤蒸発の相違する段階で溶液からのそれらの沈着が生起したものと見做される。この説明を確認するための示唆的証拠は、逆配向で複合ガラスを生成する実験、すなわち親水性の連続マトリックス中に細かく分散されている疎水性のゲスト物質を用いる実験で見出された。
【0093】
g)HDCガラスの毒性
脱イオン化水中のTOACの飽和溶液(20ml中の0.42g)を、アフリカン グリーン モンキー(African Green monkey)の腎臓由来セルライン、ベロ(Vero)を使用して、10倍一連希釈によりまたは組織培養培地にTOAC粉末を直接添加することにより、インビトロで毒性について試験した。1週間の培養で毒作用は観察されず、かつまた細胞分裂は正常であった。
前記に本発明を例により幾分詳細に説明し、理解を明確にするために実施例を記載したが、或る種の変更および修正をなしうることは当業者にとって明白である。従って、これらの説明および例は、添付請求の範囲により定められている本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、吸入による投与に適する微細トレハロースガラス粉末の粒子サイズ分布を示すグラフである。図1は例2で説明されている。
【図2A】図2Aは、トレハロース/分子水ポンプ緩衝塩(MWPB)ガラス粉末に関する粒子サイズ分布を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、各種トレハロース/MWPBおよびトレハロース/クロライドガラス粉末の、室温において相違する相対湿度の下に保存した後の水吸収度を示すグラフである。図2Bには、51%の相対湿度およびMWPB(■)、80%の相対湿度およびMWPB(|)、51%の相対湿度およびクロライド(□)および80%の相対湿度およびクロライド(X)が示されている。図2は、例2で説明されている。
【図3】図3は、ラブ−プラント(Lab−plant)噴霧乾燥機における噴霧乾燥により得られたトレハロース/ガラス粉末の粒子サイズ分布を示すグラフである。図3は例2で説明されている。
【図4】図4は、2種の相違する噴霧乾燥機(指示されているとおりのラブ−プラント(□)およびブッチ(Buchi)(▲))を用いて製造されたトレハロースガラス粉末(0.5Mトレハロース/0.5M乳酸カルシウム)に関する粒子サイズ分布を示すグラフである。図4は例2で説明されている。
【図5A】図5Aは、酵素をトレハロースとともに乾燥させることによって行われたホースラディッシュペルオキシダーゼのアセトンに対する耐性を示すグラフである。溶剤未使用プラストレハロース(○)、溶剤未使用マイナストレハロース(●)、アセトンプラストレハロース(底部が開いている四角形)およびアセトンマイナストレハロース(頂上が開いている四角形)の場合の平均値を示している。
【図5B】図5Bは、酵素をトレハロースとともに乾燥させることによって行われたアルカリホスファターゼのアセトンに対する耐性を示すグラフである。図5Bにおいて、白丸印は溶剤にさらさずに、トレハロースをプラスした場合を示し、黒丸印は溶剤にさらさずに、トレハロースをマイナスした場合を示し、底部が開いている四角形印はアセトンプラストレハロースの平均を示し、そして頂上が開いている四角形印はアセトンマイナストレハロースの平均を示す。図5は例3で説明されている。
【図6】図6は、選択された金属カルボキシレートガラス状薄膜からのMB9放出を示すグラフである。四角形印はアルミニウムヘキサノエート薄膜(100〜200ミクロン)を示しており、放出はこの薄膜の溶解によって進行する。丸印はカルシウムネオデカノエート薄膜(1〜2mm)を示しており、放出はこの薄膜の溶解によって進行する。図6は例7で説明されている。
【図7】図7は、α−D−グルコースペンタアセテート(α−GPAC)ガラスディスクからのカプセル封入されたアシドブルー(Acid Blue)129染料の速度を示すグラフである。図7は例8で説明されている。
【図8】図8は、トレハロースオクタアセテート(TOAC)ガラスディスクからPBS溶液中へのMB9放出を示すグラフである。図8は例9で説明されている。
【図9】図9は、TOAC/RUDA(トレハロースオクタアセテート/ラフィノースウンデカアセテート)マトリックスから脱イオン水中へのMB9放出を示すグラフである。各種濃度が示されている:95%TOAC、0.61重量%染料(□);75%TOAC、1.17重量%染料(○);50%TOAC、2.09重量%染料(△);TOAC単独、1.39重量%染料(◇)およびRUDA単独、4重量%染料(▽)。図9は例9で説明されている。
【図10】図10は、2種のHDCと共配合したTOACモル%に対してグラフにしたTgの変化を示すグラフである。四角形印はトレハロースオクタアセテート/ソルビトールヘキサアセテート(TOAC/SHAC)ガラスの場合を表わす。丸印はTOAC/RUDAガラスの場合を表わす。三角形印はトレハロースオクタアセテート/α−D−グルコースペンタアセテート(TOAC/α−GPAC)ガラスの場合を表わす。図10は例9で説明されている。
【図11】図11は、選択されたTOAC/RUDAガラス球状体からPBS中へのMB9の平均放出%を示すグラフである(n=4)。丸印は50%RUDAの場合を示す。三角形印はRUDA単独の場合を示す。図11は例9で説明されている。
【図12】図12は、TOAC+25%SOAC(■)および25%COAC(●)共配合物(n=5)からのMB9(1重量%)の平均放出%を示すグラフである。図12は例9で説明されている。
【図13】図13は、90:10(■)、75:25(●)、50:50(△)および25:75(▽)の比率に従うTOAC/α−GPACからのMB9(1重量%)の平均放出%を示すグラフである(n=4)。図13は例9で説明されている。
【図14】図14は、TOAC(■)およびTOAC/TOPR(25重量%)(●)からのMB9の放出を示すグラフである(n=5)。図14は例9で説明されている。
【図15】図15は、TOAC単独(■)およびTOAC+XPDO(5%)(●)からのMB9(1重量%)放出を示すグラフである(n=5)。図15は例9で説明されている。
【図16】図16は、ジメチルホルムアミド(DMF)から乾燥させたTOAC中の10%トレハロースからなる共配合ガラスの薄膜の顕微鏡写真である。図16は例10で説明されている。
【図17】図17は、図16の共配合ガラスの薄膜の倍率を上げた顕微鏡写真である。図17は例10で説明されている。
【図18】図18は、DMFから乾燥させたメチルグリーンおよびオイルレッドO含有TOAC中の10%トレハロースからなる共配合ガラスの顕微鏡写真である。図18は例10で説明されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用具が治療薬剤及びガラス形成性のポリオール類及び/又は疎水性炭水化物誘導体(HDC)を含んでなる組成物を含み、HDCが炭水化物幹鎖を有し、前記炭水化物幹鎖の一を超えるヒドロキシル基が低い親水性を有するその誘導体により置換されている、治療薬剤の、局所、皮下、皮内あるいは経皮放出用具。
【請求項2】
組成物が単糖類よりも高い炭水化物であり、かつ、噴霧乾燥及び貯蔵期間中、治療薬を安定化することができるポリオール類を含んでなる、請求項2に記載の用具。
【請求項3】
治療薬剤が蛋白質、ペプチド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドあるいは核酸である、請求項1又は2に記載の用具。
【請求項4】
治療薬剤が酵素、成長ホルモン、成長因子、モノクローナル抗体、インターフェロン、インターロイキンあるいはサイトカインである、請求項1又は2に記載の用具。
【請求項5】
治療薬剤がシクロスポリンA、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、エストラジオール、SH−135あるいはタモキシフェンである、請求項1又は2に記載の用具。
【請求項6】
治療薬剤がインシュリンである、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
ガラス形成性のポリオール類が二糖類、三糖類及びオリゴ糖類、それらの対応する糖アルコール類、多糖類及び化学的に変性された炭水化物類から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の用具。
【請求項8】
ガラス形成性のポリオール類が糖アルコール類及びその他の直鎖状ポリアルコール類から選択されるポリヒドロキシ化合物の非還元性グリコシドである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の用具。
【請求項9】
ガラス形成性のポリオール類がトレハロース、マルトース、ラクトース、マルツロース、イソマルツロース、ラクツロース、ラフィノース、スタチオース、メレチトース、デキストラン、マルチトール、ラクチトール、α−D−グルコピラノシル−1→6−ソルビトール、α−D−グルコピラノシル−1→6−マンニトールあるいはパラチニットである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の用具。
【請求項10】
ガラス形成性のポリオール類がトレハロースである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の用具。
【請求項11】
組成物が針状物、微小繊維物、粒子あるいは粉末の形態である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の用具。
【請求項12】
組成物が1〜50μm径および5〜150μm長さを有する針状物の形態である、請求項11に記載の用具。
【請求項13】
組成物が0.1〜4mm径および1〜30mm長さを有する針状物の形態である、請求項11に記載の用具。
【請求項14】
治療薬剤がワクチン用の予防薬である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の用具。
【請求項15】
治療薬剤が免疫原である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の用具。
【請求項16】
治療薬剤がDNAである、請求項15に記載の用具。
【請求項17】
治療薬剤が抗原およびアジュバントを含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の用具。
【請求項18】
発射型放出用具である、請求項1〜17のいずれかに記載の用具。
【請求項19】
局所、皮下、皮内あるいは経皮放出による治療薬剤投与のための、請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物製造用の治療薬剤の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−56898(P2006−56898A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284596(P2005−284596)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【分割の表示】特願平8−506345の分割
【原出願日】平成7年8月4日(1995.8.4)
【出願人】(502409606)エラン・ドラッグ・デリバリー・リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】Elan Drug Delivery Limited
【Fターム(参考)】