説明

配線基板およびその製造方法

【課題】 径の異なる複数のビア導体を有する場合において、ビア導体の抵抗値が大きくなること、およびビア導体の周辺にクラックが発生することを抑制できる信頼性の高い配線基板を提供する。
【解決手段】 配線基板1は、セラミックスからなる絶縁基板2と、絶縁基板2に設けられたビア導体3とを備え、ビア導体3は、両端部で径が異なるテーパ形状であり、かつセラミックスに含まれる絶縁成分5を有しており、ビア導体3内における絶縁成分5の質量比は、ビア導体3内の径が大きくなるに従って大きくなっている。ビア導体3の径の小さい方では要求される低い抵抗値を満足し、径の大きい方では周辺のクラックの発生を抑制できるので、信頼性が高いものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスからなる絶縁基板を備えた配線基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、集積回路を形成した半導体基板やコンデンサ等の電子部品を、それらが有する接続端子をビア導体を有する回路を形成したセラミック基板からなる配線基板のビア導体へ接続パッドを介して接続した電子装置が作製され、様々な分野で使用されている。このような電子装置では、様々な大きさの接続端子を持つ半導体基板や電子部品を接続するために、配線基板においては、各々の接続端子に対応した接続パッドやその接続パッドに接続されたビア導体を適切に配置する必要がある。ここで、配線基板であるセラミック基板に形成されるビア導体の径や配置等は、そのビア導体に接続される電子部品の大きさや種類に応じて設定される接続パッドや配線導体に対応させることによって異なることから、種々の径や配置のビア導体を有するセラミック基板が使用されている。
【0003】
配線基板にビア導体を形成する方法としては、セラミックスからなる絶縁基板となるセラミックグリーンシートに形成したビア孔に、ビア導体となる導体ペーストを充填して焼成するという製造過程を経るのが一般的である。ここで、ビア孔を形成する方法としては、従来は金属等よりなる打ち抜きピンが適宜配置された金型を用いる方法から、COレーザやUV−YAGレーザといったレーザを用いる方法が適用されるようになってきている。そのレーザを用いる場合は、ビア孔の径や配置に対応した種々の径や配置の打ち抜きピンを有する金型を作製するためのコストが低減できる。また、金型でビア孔を加工する場合と異なり、レーザで加工されたビア孔は、セラミックグリーンシートの表面と裏面で径の大きさが異なる、いわゆるテーパ形状を有するものとなる。
【0004】
そのようなセラミック基板からなる配線基板に対して、ビア導体と絶縁基板となるセラミックスとの収縮挙動の違いによる、ビア導体の周辺に発生するクラック等を抑制するために、ビア導体を形成する導体ペーストにセラミック粉末を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−81351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、テーパ形状を有するビア導体について、径の小さい方と径の大きい方とに同じ比率でセラミック粉末を添加した場合には、径の小さい方では、抵抗が大きくなってしまうため、ビア導体に要求される低い抵抗値を満足することができなくなってしまい、電気信号等が良好に通らなくなるという問題がある。一方で、径が大きい方では、セラミックスからなる絶縁基板よりも熱膨張係数の大きい金属からなる導体成分の絶対量が多いことから、焼成して冷却する際にビア導体と絶縁基板との間の熱収縮差が大きくなるので、貫通導体の周囲の絶縁基板や貫通導体と絶縁基板との界面近傍にクラックが発生しやすくなるという問題がある。従って、様々な種類の半導体基板や電子部品を接続するためには、テーパ形状を有するビア導体として径の小さい方と大きい方との径の差が大きいビア導体を配置すると、ビア導体の全体で同じ導体ペーストを用いて形成したのでは、ビア導体の抵抗値を低く維持することとクラック等の発生を抑制することとを同時に達成することが困難になるという問題がある。
【0007】
すなわち、テーパ形状を有するビア導体が形成されているセラミック基板からなる配線基板において、ビア導体に要求される抵抗値を満足することおよびビア導体の周辺にクラックが発生することを抑制できることの両方を兼ね備えた信頼性の高い配線基板が求められているという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の配線基板は、セラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板に設けられたビア導体とを備え、該ビア導体は、両端部で径が異なるテーパ形状であり、かつ前記セラミックスに含まれる絶縁成分を有しており、前記ビア導体内における前記絶縁成分の質量比は、前記ビア導体の径が大きくなるに従って大きくなっていることを特徴とするものである。
【0009】
好ましくは、上記本発明の配線基板において、前記ビア導体は、径が小さい方の端部が、前記絶縁基板の表面に露出していることを特徴とするものである。
【0010】
また好ましくは、上記本発明の配線基板において、前記絶縁成分は、前記ビア導体の導体成分のTMA法により求めた収縮開始温度よりも低い軟化点を有するガラス成分と、前記絶縁基板の焼成温度よりもTMA法により求めた収縮開始温度が高いセラミック成分とからなり、前記絶縁成分中の前記ガラス成分の比率は、前記ビア導体の径が大きくなるに従って大きくなっていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の配線基板の製造方法は、セラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板に設けられたビア導体とを備えた配線基板の製造方法であって、複数のセラミックグリーンシートを準備する準備工程と、前記複数のセラミックグリーンシートに両端部で径が異なるテーパ形状の貫通孔を形成する形成工程と、前記貫通孔に、前記セラミックスに含まれる絶縁成分を有する導体ペーストをそれぞれ充填する充填工程と、前記複数のセラミックグリーンシートを積層する積層工程と、積層した前記複数のセラミックグリーンシートを焼成する焼成工程とを有し、前記充填工程において、前記貫通孔の径が大きくなるほど前記絶縁成分の質量比が大きくなるように前記導体ペーストを充填することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の配線基板によれば、テーパ形状のビア導体内における絶縁成分の質量比が、ビア導体の径が大きくなるに従って大きくなっていることから、テーパ形状を有するビア導体において、ビア導体に要求される低い抵抗値を満足することおよびビア導体の周辺にクラックが発生することを抑制できることの両方を兼ね備えた信頼性の高い配線基板を実現することができる。
【0013】
本発明の配線基板の製造方法によれば、上記各工程を備えていることから、テーパ形状を有するビア導体において、ビア導体に要求される低い抵抗値を満足することおよびビア導体の周辺にクラックが発生することを抑制できることの両方を兼ね備えた信頼性の高い配線基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の配線基板の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、それぞれ本発明の配線基板の製造方法の実施の形態の一例を工程順に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態の例について説明する。
【0016】
図1は、本発明の配線基板の実施の形態の一例における構成例を示す断面図である。図1に示されるように、本例の配線基板1は、セラミックスからなる絶縁基板2と、絶縁基板2に設けられた複数のビア導体3とを備える。このビア導体3は、絶縁基板2を構成する絶縁層に設けられた貫通孔に導体が充填されて形成されている貫通導体である。また、配線基板1の表面および内部には、広面積のいわゆるベタパターンや、配線導体である線状のラインパターンよりなる、回路4を備える。複数のビア導体3は、上端と下端とで径が異なるテーパ形状を有する複数のビア導体を含んでおり、それらテーパ形状を有する各ビア導体3は絶縁成分5をそれぞれ含む。また、回路4は、絶縁基板2の内部および表面に設けられ、ビア導体3と同様に絶縁成分5を含んでいる。ここで、絶縁成分5は、絶縁基板2に含まれるセラミックスと同じくセラミックスからなるものである。
【0017】
例えば、セラミックスからなる絶縁基板2は、酸化アルミニウム質焼結体,窒化アルミニウム質焼結体,ムライト質焼結体,炭化珪素質焼結体、窒化珪素質焼結体、またはガラスセラミックス焼結体等のセラミック材料により形成される。そして、ビア導体3が有するセラミックスからなる絶縁成分5も、これらセラミック材料により形成される。
【0018】
ここで、本例の配線基板1では、テーパ形状のビア導体3は、両端部で径が異なる形状のものであり、かつ絶縁基板2を形成しているセラミックスに含まれる絶縁成分5を有しており、ビア導体3内における絶縁成分5の質量比は、ビア導体3の径が大きくなるに従って大きくなっている。このように、ビア導体3内における絶縁成分5の質量比が、ビア導体3の径が大きくなるに従って大きくなっているものとすると、絶縁成分5の質量比をビア導体3の全体で同じにした場合と比べて、径の小さい方の抵抗値が大きくなり過ぎることを抑制して所望の低い抵抗値を満足することができ、一方で径の大きい方のビア導体3の熱膨張係数を調整して、周辺の絶縁基板2にクラックが発生することを抑制することができる。
【0019】
ビア導体3における絶縁成分5の質量比は、絶縁基板2に用いるセラミック材料およびビア導体3に用いる導体成分によって異なり、両者の熱膨張係数の差が小さくなるように適宜調整すればよい。例えば、絶縁基板2がAl粉末とSiO−B−Alガラス粉末とを含むガラスセラミックスからなり、ビア導体3が、導体成分が銅(Cu)からなり、絶縁成分5がSiO−B−Alガラス粉末とSiO粉末とからなる場合であれば、ビア導体3の径の小さい方が30μmの場合は絶縁成分5の添加量(質量比)は5乃至10質量%とし、それに対して径の大きい方が150μmの場合は絶縁成分5の添加量(質量比)は15乃至30質量%と大きくすると、ビア導体3の径の小さい方では抵抗値を低く維持して要求値を満足させることができ、かつ径の大きい方では周辺の絶縁基板2にクラックが発生することを十分に抑制することができるものとなる。
【0020】
また、本例の配線基板1では、ビア導体3は、径が小さい方の端部が、絶縁基板2の表面に露出していることが好ましい。このように、テーパ形状であるビア導体3の径が小さい方の端部が絶縁基板2の表面に露出しているようにすると、ビア導体3の径の小さい方では絶縁成分5の添加量が少ないため、焼成後、配線基板1の表面に露出したビア導体3の端部にめっきを施した場合に、ビア導体3の端部の表面にめっき皮膜が形成されやすくなり、電子部品を接続する際の半田の接合強度や接合信頼性等を改善することができる。
【0021】
また、本例の配線基板1では、絶縁成分5は、軟化点がビア導体3の導体成分のTMA法(Thermomechanical Analysis:熱機械分析)によって求めた収縮開始温度よりも低いガラス成分と、TMA法によって求めた収縮開始温度が絶縁基板2の焼成温度よりも高いセラミック成分とからなり、絶縁成分5中のガラス成分の比率は、ビア導体3の径が大きくなるに従って大きくなっていることが好ましい。
【0022】
これは、絶縁成分5を、ビア導体3を構成する導体成分のTMA法によって求めた収縮開始温度よりも軟化点が低いガラス成分と、絶縁基板2の焼成温度よりもTMA法によって求めた収縮開始温度が高いセラミック成分とからなるものとすることで、配線基板1の焼成時におけるビア導体3の導体成分と絶縁基板2との収縮開始温度の差に応じて、収縮開始温度の異なるガラス成分とセラミック成分の比率を調整してビア導体3の収縮開始温度を調整することによって、ビア導体3と絶縁基板2の収縮開始温度の差によるクラックの発生も抑制することができるからである。例えば、ビア導体3に使用される導体成分として収縮開始温度が絶縁基板2より低い材料を使用した場合には、セラミック成分の比率を高くしてビア導体3の収縮開始温度を高くすることによって、また、導体成分として収縮開始温度が絶縁基板2より高い材料を使用した場合には、ガラス成分の比率を高くしてビア導体3の収縮開始温度を低くすることによって、ビア導体3の焼結挙動を絶縁基板2の焼結挙動に近づけるような調整を行なうことができる。
【0023】
また、ビア導体3の径が大きいと、焼成中に絶縁基板2からビア導体3に拡散してくるガラス成分がビア導体3の中心部までは至らないので、焼結助剤であるガラス成分の少ないビア導体3の中心部では導体成分の焼結が進まずに空孔が発生しやすくなってビア導体3の電気抵抗値が高くなってしまう。これに対して、ビア導体3の径が大きくなるのに応じてガラス成分の比率を大きくすることで、ビア導体3の中心部にもガラス成分が存在するようになることから、ビア導体3の中心部でも十分に焼結が促進されるので、ビア導体の抵抗値が高くなってしまうことを抑えることができる。
【0024】
ここで、ビア導体3の導体成分および絶縁成分5のセラミック成分についてのTMA法によって求めた収縮開始温度とは、JIS R3102「ガラスの平均線膨張係数の試験方法」に準じて測定して求めたものであり、ビア導体3の導体成分からなる試料粉末および絶縁成分5のセラミック成分からなる試料粉末をそれぞれ250メッシュの篩に通して、得られた粉を成形金型に入れ、3乃至10MPa程度の圧力で常温にて5乃至30秒程度プレスすることによって、直径6mmおよび高さ10mmの円柱状のバルクを成形し、このバルクを用いて、空気または窒素等の雰囲気中で10℃/分の昇温速度で焼成しながら、そのときの高さ方向の寸法の変化を熱機械分析(TMA)法で測定して、それによって求められた、バルクが収縮を開始する温度である。
【0025】
絶縁成分5中のガラス成分の比率は、例えば、ビア導体3の径の小さい方が30μmの場合の絶縁成分5中のガラス成分の比率を10乃至30質量%とし、ビア導体3の径の大きい方が150μmの場合の絶縁成分5中のガラス成分の比率を30乃至80質量%とすると、絶縁成分5の添加量がそれぞれ3乃至8質量%および10乃至20質量%であれば、ビア導体3の周辺における絶縁基板2のクラックの発生を抑制し、かつ径が150μmと大きい方のビア導体3での中心部の空孔の発生を抑制することができる。また、ガラス成分の比率を調整することで、ビア導体3に添加する絶縁成分5の添加量を抑制することが出来るため、ビア導体3の抵抗値を抑制することができる。
【0026】
絶縁成分5中のガラス成分としては、例えばSiO−B系、SiO−B−Al系,SiO−B−Al−MO系(ただし、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO−Al−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は同じまたは異なってCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO−B−Al−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は上記と同じである),SiO−B−M3O系(ただし、M3はLi、NaまたはKを示す),もしくはSiO−B−Al−M3O系(ただし、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等が挙げられる。
【0027】
なお、ガラス成分の軟化点は、ビア導体3の導体成分のTMA法によって求めた収縮開始温度よりも10乃至100℃度程度低いことが好ましい。この範囲であれば、ガラス成分によるビア導体3の効果的な収縮調整が可能となり、好ましい。例えば、ビア導体3の導体成分のTMA法によって求めた収縮開始温度が800℃程度の銅であれば、絶縁成分5のガラス成分として軟化点が700乃至790℃程度のものを用いることにより、ガラス成分によるビア導体3の効果的な収縮調整が可能となる。
【0028】
また、絶縁成分5のセラミック成分としては、絶縁基板2を構成するセラミックスと同様のものを用いることができ、例えば、Al,SiO,ZrOとアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,TiOとアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,ならびにAlおよびSiOから選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等が挙げられる。
【0029】
絶縁成分5のセラミック成分のTMA法によって求めた収縮開始温度は、絶縁基板2の焼成温度より100℃以上高いことが好ましい。この範囲であれば、セラミック成分によるビア導体3の効果的な収縮調整が可能となり、好ましい。例えば、絶縁基板2の焼成温度が1000℃程度であれば、TMA法によって求めた収縮開始温度が1100℃以上のアルミナ,シリカまたは二酸化チタン等を絶縁成分5のセラミック成分に用いることにより、セラミック成分によるビア導体3の効果的な収縮調整が可能となる。
【0030】
また、ビア導体3や回路4の導体材料としては、例えばタングステン(W),モリブデン(Mo),マンガン(Mn),金(Au),銀(Ag),銅(Cu),パラジウム(Pd)および白金(Pt)のうち1種または2種以上が挙げられ、絶縁基板2の材料等により使い分けることが可能である。ここで、銅,銀もしくは金を用いると、ビア導体3および回路4の抵抗値が低くなるため、高周波の信号が通りやすくなることから、好ましい。
【0031】
また、回路4における、広面積のいわゆるベタパターンや、配線導体である線状のラインパターンについても絶縁成分5と同様の絶縁成分を有するものとするときには、その質量比は、広面積のパターンであるベタパターンにおける絶縁成分5の質量比を線状のパターンであるラインパターンにおける質量比よりも高くすることにより、ビア導体3における場合と同様に、ベタパターンの周辺における絶縁基板2のクラックの発生を抑制し、かつラインパターンの抵抗値を低く維持することができるので、好ましい。例えば、幅が50μm程度のラインパターンでは絶縁成分の質量比は1乃至8質量%程度とし、ベタパターンでは絶縁成分の質量比は5乃至15質量%程度とすることで、ベタパターンの周辺における絶縁基板2のクラックの発生を抑制し、かつラインパターンの抵抗値を低く維持することができる。
【0032】
次に、本発明の配線基板の製造方法の実施の形態の例について、配線基板1を例にとって図2を参照しつつ説明する。図2(a)〜(c)は、配線基板1の製造方法の一例をそれぞれ工程順に示した断面図であり、図2において図1に示す配線基板1に対応する部位には同じ符号を括弧を付して示してある。
【0033】
まず、図2(a)に示すように、絶縁基板2となるセラミックグリーンシート6に、両端部で異なる径を持つ、ビア導体3を形成するための貫通孔であるテーパ形状のビア孔7を複数形成する。セラミックグリーンシート6は、例えば酸化アルミニウム,酸化珪素および酸化カルシウム等の原料粉末を、バインダ樹脂および溶剤とともに混練してスラリーを得て、このスラリーをドクターブレード法もしくはリップコータ法等によってキャリア上にシート状に成形して形成される。ここでセラミックグリーンシート6にテーパ形状のビア孔7を形成する方法としては、COレーザやUV−YAGレーザ等のレーザ光を照射する方法等を採用することができる。ここで、ビア孔7を形成する方法としてレーザ光を照射する方法を用いると、セラミックグリーンシート6をキャリア付きのままでビア孔7形成に使用できることから、工程中や保管中等のセラミックグリーンシート6の寸法変動を抑えることができるので、好ましい。
【0034】
次に、図2(b)に示すように、テーパ形状のビア孔7へビア導体3となる導体ペーストを充填し、それに接続するようにセラミックグリーンシート6の表面に回路4となる導体ペーストを塗布する。この場合に、ビア孔7へ導体ペーストを充填する工程と、セラミックグリーンシート6の表面に導体ペーストを塗布する工程とは、どちらが先でもよい。また、ビア孔7へ導体ペーストを充填する方法およびセラミックグリーンシート6の表面に導体ペーストを塗布する方法としては、印刷用のマスクの開口部から導体ペーストを塗布するスクリーン印刷法およびインクジェットやディスペンサー等の導体ペーストを直接描画する方法等のいずれの方法も適用することができる。
【0035】
このような導体ペーストは、導体成分となる導体粒子8および絶縁成分5となる絶縁粒子9にバインダ樹脂および溶剤を調合して、加熱および混合することにより作製される。
【0036】
導体粒子8は、例えばタングステン(W),モリブデン(Mo),マンガン(Mn),金(Au),銀(Ag),銅(Cu),パラジウム(Pd)または白金(Pt)等の金属粉末をアトマイズ法または還元法等により処理して製造されたものであり、必要により酸化防止または凝集防止等の処理を行なってもよい。導体粒子8が2種類以上の場合は、2種類以上の粉末を混合してもよいし、合金またはコーティング等により2種類以上の金属材料が一体となった粉末を用いてもよい。また、分級等により微粉末または粗粉末を除去して粒度分布を所望の分布に調整したものであってもよい。
【0037】
また、絶縁成分5となる絶縁粒子9は、SiO−B系,SiO−B−Al系,SiO−B−Al−MO系(ただし、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO−Al−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は同じまたは異なってCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO−B−Al−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は上記と同じである),SiO−B−M3O系(ただし、M3はLi、NaまたはKを示す),もしくはSiO−B−Al−M3O系(ただし、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等のガラス粉末や、Al,SiO,ZrOとアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,TiOとアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,ならびにAlおよびSiOから選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末を、アトマイズ法により製造したものや、ボールミル等で粉砕処理したもの等を用いることができる。また、必要により酸化防止または凝集防止等の処理を行なってもよい。絶縁粒子9が2種類以上の場合は、2種類以上の粉末を混合してもよいし、コーティング等により2種類以上の絶縁材料が一体となった粉末を用いてもよい。また、分級等により微粉末または粗粉末を除去して粒度分布を所望の分布に調整したものであってもよい。
【0038】
ここで、テーパ形状のビア導体3における絶縁成分5の質量比を、ビア導体3の径が大きくなるに従って大きくなっているように調整するために、導体ペーストに含まれる絶縁粒子9の添加量(質量比)を調整したものをビア孔7(ビア導体3)の径の大きさに応じて複数作製し、ビア孔7の径の大きさに応じた導体ペーストを用いて、ビア孔7への導体ペーストの充填を複数回に分けて行なう。これにより、径が大きくなるに従って絶縁成分5の質量比が大きくなっているテーパ形状のビア導体3を形成することができる。ここで、充填の回数は、ビア導体3の両端部の径の差や、ビア導体3の両端部における絶縁成分5の質量比の差等によって設定すればよい。例えば、ビア導体3の両端部の径の差が100μm以下の場合や、ビア導体3の両端部間における絶縁成分5の質量比の差が10%以下の場合であれば、ビア孔7の径の小さい側への絶縁粒子9の添加量(質量比)が少ない導体ペーストの充填とビア孔7の径の大きい側への絶縁粒子9の添加量(質量比)が多い導体ペーストの充填との2回程度の充填の回数とすればよい。また、ビア導体3の両端部の径の差が100μmより大きい場合や、ビア導体3の両端部間における絶縁成分5の質量比の差が10%より大きい場合であれば、充填の回数を3回程度とすればよい。このようにすることにより、ビア導体3の長さ(深さ)方向の全域にわたって、径に応じた絶縁成分5の質量比とすることができる。
【0039】
導体ペーストに含まれるバインダ樹脂は、従来から導体ペーストに使用されているものが使用可能である。例えば、アクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラール系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。樹脂の選定に当たっては、焼成工程での分解および揮発性を考慮すると、アクリル系またはアルキド系の有機バインダが好ましい。また、樹脂の添加量としては、導体ペーストに用いる導体粒子8および絶縁粒子9の種類等により異なるが、焼成時に分解・除去されやすく、かつ導体粒子8および絶縁粒子9を良好に分散できる量であればよく、その目安としては導体粒子8に対して5乃至20質量%程度が望ましい。また、溶剤としては、テルピネオール,ブチルカルビトールアセテートおよびフタル酸等の可塑剤等が使用可能である。
【0040】
ここで、ビア孔7を充填するための導体ペーストに、導体ペースト中の溶剤成分がセラミックグリーンシート6へ浸透するのを抑制する浸透抑制剤を添加すると、導体ペーストの充填の際に、導体ペーストからセラミックグリーンシート6に導体ペーストに含まれる溶剤がセラミックグリーンシート6に吸収されにくくなるため、充填中に導体ペーストの粘度が上昇しにくくなり、安定した充填が行なえるようになる。このように、導体ペーストをセラミックグリーンシート6への溶剤成分の浸透を抑制する浸透抑制剤を有するものとすると、特にビア孔7の径が小さい場合に、および導体ペーストの粘度が高い場合においても、導体ペーストをビア孔7に良好に充填しやすくなる。その結果、ビア導体3の周辺部やビア導体3の内部において、導体ペーストの乾燥収縮に伴うクラックが発生しにくくなる。
【0041】
この浸透抑制剤の添加量は、ビア孔7の径の大きさにより調整するとよい。具体的には、ビア孔7の径が大きいものほど浸透抑制剤の添加量を少なくするとよい。このようにすると、径の大きいビア孔7において、導体ペーストの埋め込み時にセラミックグリーンシート6の裏表面への導体ペーストの滲み等が発生しにくくなり、かつ径の小さいビア孔7においてもビア孔7への充填性が向上することから、ビア導体3の周辺部や周辺の絶縁基板2に、またビア導体3の内部にクラックが発生しにくくなる。この場合には、複数の添加量を変更した導体ペーストを準備し、ビア孔7の径の大きさに応じて使い分けて、複数回充填することによって、良好な充填を行なうことができる。
【0042】
このような浸透抑制剤の添加量としては、例えば、ビア孔7の径が40μmと小さいときは10乃至20質量%の範囲であれば、一方、ビア孔7の径の大きさが100μmと大きいときは0.1乃至5質量%の範囲であれば、ビア孔7の径の大きさが40μm程度と小さいときにおいては充填性を向上させることができ、一方、ビア孔7の径の大きさが100μm程度と大きいときにおいては導体ペーストの滲みの発生が低減できるので、好ましい。
【0043】
また、浸透抑制剤は、ひまし油を含むことが好ましい。浸透抑制剤がひまし油を含むこにより、ひまし油に含まれる網目構造に溶剤が保持されるため、導体ペーストから溶剤がセラミックグリーンシート6に浸透したり揮発したりするのを効果的に抑制することができる。また、ひまし油による網目構造の保持力を調整することにより、導体ペーストの充填時に網目構造から溶剤が放出されるようにすることもできるため、その場合には導体ペーストの粘度を低下させることができ、ビア孔7に導体ペーストを充填しやすくなる。よって、ビア導体3の周辺部やビア導体3の内部において、導体ペーストの乾燥収縮に伴うクラックの発生を抑制することができる。ここで用いるひまし油には、水素を添加したもの等が適用できる。水素添加ひまし油は、導体ペーストに含まれる溶剤と水素結合することで溶剤の保持力をより強固にすることができることから、より少ない浸透抑制剤の添加量でも導体ペーストを良好に充填できるようになるので、好ましい。
【0044】
また、導体ペーストの製造において、浸透抑制剤とバインダ樹脂と溶剤とをあらかじめ加熱および混合しておき、その後に導体粒子8および絶縁粒子9と加熱および混合する方法によれば、導体粒子8および絶縁粒子9の表面に浸透抑制剤が付着して固化したりせず、バインダ樹脂および溶剤中(以下、樹脂等ともいう)に浸透抑制剤が分散しやすくなることから、より少ない浸透抑制剤の添加量でも、導体ペーストの充填時において、導体ペーストに含まれる溶剤がセラミックグリーンシート6に浸透しにくくなり吸収されにくくなる。このとき、浸透抑制剤と樹脂等とをあらかじめ加熱する際の温度は、導体ペーストを作製する際に加熱する温度よりも高い方が好ましい。これは、そのようにすると、経時変化による浸透抑制剤と樹脂等との分離が無く、分散後の状態がより安定しやすくなるからである。浸透抑制剤と樹脂等とをあらかじめ加熱する際の温度は、樹脂等および浸透抑制剤の種類により異なるが、バインダ樹脂としてアクリル樹脂を、溶剤としてテルピネオールをそれぞれ用いる場合は、30乃至80℃の範囲であれば、分散後に放置しておいても導体ペーストが樹脂等と浸透抑制剤とに分離することを抑制することができ、より少ない浸透抑制剤の添加量でも、ビア孔7への導体ペーストの充填時において導体ペーストに含まれる溶剤がセラミックグリーンシート6に吸収されにくくなる。
【0045】
また、ビア導体3を形成するためのビア孔7に充填される導体ペーストと、回路4を形成するためのセラミックグリーンシート6の表面に塗布される導体ペーストとは、同じものを使用してもよいが、ビア孔7に充填される導体ペーストに含まれる導体粒子8の粒度分布を、回路4を形成する導体ペーストに含まれる導体粒子8の粒度分布よりも広くすると、焼成の際の収縮挙動の調整がより容易となり、ビア導体3の周辺の絶縁基板2にクラックが発生しにくくなる。
【0046】
また、PETフィルム等のキャリア上に載置されたセラミックグリーンシート6にレーザ光を照射することによってビア孔7を形成し、そのビア孔7に導体ペーストの充填を行ない、充填後にセラミックグリーンシート6からキャリアを剥離すると、セラミックグリーンシート6の表面への導体ペーストの滲みがなくなることから、高密度にビア孔7を形成しても、それに充填した導体ペーストの滲みによるビア導体3間の短絡が発生しにくくなる。
【0047】
最後に、図2(c)に示すように、ビア孔7に導体ペーストが充填され、表面に回路4となる導体ペーストが塗布されたセラミックグリーンシート6を複数枚積層し、この積層体の焼成を行なうことにより、配線基板1が完成する。なお、焼成後に、配線基板1の断面を研磨する等の破壊検査またはX線等による透過光を用いた非破壊検査等によって、ビア導体3に含まれる絶縁成分5および回路4に含まれる絶縁成分の状態を確認することができる。
【0048】
絶縁成分5の粒径の大きさの算出方法としては、例えば、ビア導体3の断面を研磨して絶縁成分5の最大長および絶縁成分5の面積を測定し、その面積と同じ面積を持つ円の直径を絶縁成分5の粒径の大きさとする方法、またはビア導体3を透過X線により投影した画像から絶縁成分5の領域を検出して、あるいはビア導体3のX線断層写真から絶縁成分5の部分を検出して絶縁成分5の体積を測定し、その測定した体積と同じ体積を持つ球の直径を絶縁成分5の粒径の大きさとする方法がある。同様に、ビア導体3における絶縁成分5の質量比についても、ビア導体3の面積に占める絶縁成分5の面積、またはビア導体3の体積に占める絶縁成分5の体積を測定することにより、ビア導体3における絶縁成分5の質量比を算出することができる。
【0049】
ここで、絶縁基板2としてガラスセラミックスのような低温焼結材料を用いる場合は、複数枚のセラミックグリーンシート6を積層した積層体の上下面にさらに拘束グリーンシートを積層して焼成し、焼成後に拘束シートを除去するようにすれば、より高寸法精度の配線基板1を得ることが可能となるので、好ましい。なお、この拘束グリーンシートは、Al等の難焼結性無機材料を主成分とするグリーンシートであり、絶縁基板2の焼成時に収縮しないものである。この拘束グリーンシートが積層された積層体は、収縮しない拘束グリーンシートにより積層平面方向(x−y平面方向)の収縮が抑制され、主に積層方向(z方向)に収縮するので、焼成収縮に伴う絶縁基板2の寸法ばらつきが抑制される。
【0050】
ここで、配線基板1の表面に形成される回路4に絶縁成分が含まれていれば、回路4に含まれる絶縁成分と拘束グリーンシートとの反応によって両者の接合強度が増し、より収縮しにくくなるので好ましいが、絶縁成分の比率が大きい場合は、特に回路4の接触面積が小さい場合には回路4と拘束グリーンシートとの接合強度が強くなり、焼成後に拘束グリーンシートが完全に除去できなかったり、あるいは回路4が絶縁基板2から剥がれたりすることがある。また逆に、絶縁成分の比率が小さい場合は、特に回路4の接触面積が大きい場合には回路4と拘束グリーンシートとの接合強度が弱くなり、絶縁基板2の寸法ばらつきが発生することがある。この場合には、前述のように回路4の面積の大きさに応じて含有させる絶縁成分の質量比を変化させると、回路4との接触面積に関わらず拘束グリーンシートを容易に除去することができ、かつ回路4と拘束グリーンシートとの接合強度が適度になり、絶縁基板2の寸法ばらつきが抑制されることから、好ましい。
【0051】
また、この拘束グリーンシートには、難焼結性無機成分に加えて、絶縁基板2の焼成温度以下の軟化点を有するガラス成分、例えばセラミックグリーンシート6中のガラス成分と同じガラス成分を含有させるとよい。そうすると、焼成中にこのガラス成分が軟化してセラミックグリーンシート6と結合することにより、セラミックグリーンシート6と拘束グリーンシートとの結合が強固となり、より確実な拘束力が得られる。このときのガラス成分の含有量は、難焼結性無機成分とガラス成分とを合わせた無機成分の量に対して外添加で0.5乃至15質量%とするとよく、これによって、拘束力が向上し、かつ拘束グリーンシートの焼成収縮が0.5%以下に抑えられる。
【0052】
またこの場合は、回路4に含まれる絶縁成分と拘束グリーンシートに含まれるガラス成分とが反応することから、回路4に含まれる絶縁成分の質量比をより少なくしても、拘束グリーンシートとの接合強度を適度に確保することができるとともに、絶縁基板2の寸法ばらつきを抑制できるので、好ましい。
【0053】
焼成後の配線基板1からの拘束シートの除去方法としては、例えば研磨,ウォータージェット,ケミカルブラスト,サンドブラストまたはウェットブラスト(砥粒と水とを空気圧により噴射させる方法)等が挙げられる。
【0054】
なお、ビア導体3には、絶縁基板2を構成する各絶縁層を貫通するものだけではなく、絶縁基板2の全体を貫通するものも含まれる。
【0055】
焼成後の配線基板1の表面に形成された回路4の表面には、腐食防止のために、または半田や金属ワイヤ等の、外部の配線基板や実装される電子部品との接続手段との良好な接続のために、ニッケル(Ni)や金(Au)のめっきを施すとよい。
【0056】
なお、本発明は上述の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内であれば、種々の変形は可能である。
【実施例】
【0057】
[第1の実施例]
本発明の配線基板の第1の実施例について以下に説明する。
【0058】
まず、Alからなるセラミック粉末およびSiO−B−Alからなるガラス粉末を混合したものを100質量部として、アクリル系のバインダ樹脂を10質量部、および可塑剤を1質量部添加し、トルエンおよび酢酸エチルを溶剤としてボールミルにより40時間混合し、スラリーを調製した。このスラリーからダイコーターシート成形機を用いて、成形速度が2m/分で成形シート幅が250mmの条件にてポリエチレンテレフタレート(PET)のシートからなる支持体上に塗布して、厚みが50μmのセラミックグリーンシートを形成した。
【0059】
次に、導体粒子としてのCu粉末に対して、SiO−B−Alからなる軟化点が600℃のガラス粉末とSiO粉末とを質量比が1:1で混合したものを絶縁粒子として、3,5,10,15,20,30および40質量%の添加量(絶縁成分の質量比に相当)で添加し、アクリル系のバインダ樹脂およびテルピネオール(TPO)からなる溶剤と混合して、導体ペーストを作製した。
【0060】
次に、レーザ光を発生するレーザ装置としてCOレーザ装置を用い、セラミックグリーンシートに径の大きさが小さい方の径は30μmで大きい方の径は150μmであるビア孔としてのテーパ状の貫通孔を、200μm間隔で縦横20列の計各400個形成した。形成した貫通孔には、絶縁粒子の添加量の異なる導体ペーストを充填した。この導体ペーストを埋め込んだセラミックグリーンシートを4枚重ね合わせて厚み方向に5MPaの圧力および80℃の温度で加熱圧着して、セラミックグリーンシート積層体を作製した。それから、得られたセラミックグリーンシート積層体中のバインダ樹脂および溶剤等の有機成分や、有機成分が分解した後に残留するカーボンを除去するため、7.33kPaの分圧の水蒸気を含んだ窒素雰囲気中に約700℃の温度で1時間保持する熱処理を行なった後、還元雰囲気中にて約1000℃の温度で1時間保持して、ビア導体における絶縁成分の質量比が異なる、評価用の試料1〜7の配線基板を作製した。
【0061】
そして、これら試料1〜7の配線基板について、双眼顕微鏡によりビア導体近傍のクラック発生の有無を観察し、ビア導体の表裏面に抵抗測定器の電極端子を当ててビア導体の抵抗値を測定した。
【0062】
これら試料1〜7について、導体ペーストに添加した絶縁粒子の添加量(絶縁成分の質量比)と、クラックおよび抵抗値の評価の結果とを表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示す結果において、「クラック」欄の「○」は、ビア導体近傍のクラックの発生が見られず、優れていたことを示す。一方、「△」は、一部のビア導体近傍に実用上は支障がない程度ではあるがわずかにクラックの発生が確認されたことを示す。また、「抵抗値」欄の「○」は、抵抗要求値を十分に満足し、優れていたことを示す。一方、「△」は、一部のビア導体の抵抗値が要求値の上限程度でやや高かったものを示す。
【0065】
表1に示す結果から明らかなように、導体ペーストに添加する絶縁粒子の添加量(ビア導体における絶縁成分の質量比)が15質量%未満の試料1,2,3では、ビア導体近傍にわずかにクラックが発生した(表中の「クラック」の欄に「△」で示す)。このクラックは、試料1では両端部の近傍に、試料2および3では径が150μmである端部側に発生していた。また、導体ペーストに添加した絶縁粒子の添加量(ビア導体における絶縁成分の質量比)が10質量%より多い試料4,5,6,7では、抵抗値が抵抗要求値の上限程度でやや高い値を示した(表中の「抵抗値」の欄に「△」で示す)。このように、テーパ状のビア導体内において、同じ絶縁成分の添加量とした試料1乃至7の試料においては、ビア導体近傍にクラックの発生が無く、抵抗要求値も満足するものはみられなかった(表中の「総合判定」の欄に「△」で示す)。
【0066】
次に、上記と同様のセラミックグリーンシートの貫通孔に、支持体側から導体ペーストを径の大きさに応じて絶縁成分の含有量が異なるように変更して、複数回に分けて充填して埋め込んだ以外は上記と同様にして、評価用の実施例1〜20の配線基板を作製した。貫通孔への導体ペーストの充填は、径が30μmである端部側には、絶縁粒子の添加量が3,5,10,15質量%である導体ペーストを充填し、径が150μmである端部側には、絶縁粒子の添加量が10,15,20,30,40質量%である導体ペーストを充填した。
【0067】
そして、これら実施例1〜20の配線基板について、双眼顕微鏡によりビア導体近傍のクラック発生の有無を観察し、ビア導体の表裏面に抵抗測定器の電極端子を当ててビア導体の抵抗値を測定した。
【0068】
これら実施例1〜20について、導体ペーストに添加した絶縁粒子の添加量(絶縁成分の質量比)と、クラックおよび抵抗値の評価の結果とを表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示す結果において、「クラック」欄の「○」および「△」は、表1に示す試料1〜7と同じ基準で評価した結果を示す。
【0071】
表2に示す結果から明らかなように、径が30μmの端部における導体ペーストに添加した絶縁粒子の添加量(ビア導体における絶縁成分の質量比)が5質量%未満である(3質量%である)か、径が150μmの端部の絶縁粒子の添加量が15質量%未満である(10質量%である)実施例1,2,3,4,5,6,11,16では、ビア導体近傍にわずかにクラックが発生した(表中の「クラック」の欄に「△」で示す)。そのうち、実施例1,2,3,4,5ではビア導体の径が30μmの端部側にクラックが発生し、実施例1,6,11,16ではビア導体の径が150μmの端部側にクラックが発生した。また、径が30μmの端部の絶縁粒子の添加量が10質量%より多い(15質量%である)実施例16,17,18,19,20、および、径が150μmの端部の絶縁粒子の添加量が30質量%より多い(40質量%である)実施例5,10,15,20では、抵抗値が抵抗要求値の上限程度でやや高い値を示した(表中の「抵抗値」の欄に「△」で示す)。
【0072】
これに対して、径が30μmの端部の絶縁粒子の添加量が5質量%および10質量%であり、径が150μmの端部の絶縁粒子の添加量が15質量%,20質量%および30質量%である、実施例7,8,9,12,13,14では、ビア導体近傍にクラックの発生が無く、抵抗要求値も十分に満足する優れたものであった(表中の「総合判定」の欄に「○」で示す)。
【0073】
以上の第1の実施例の結果から、テーパ形状のビア導体内における絶縁成分の質量比を、ビア導体の径が大きくなるに従って大きくすることによって、ビア導体に要求される低い抵抗値を満足することおよびビア導体の周辺にクラックが発生することを抑制できることの両方を兼ね備えた配線基板を実現することができると言える。
【0074】
[第2の実施例]
本発明の配線基板の第2の実施例について以下に説明する。
【0075】
まず、Alから成るセラミック粉末およびSiO−B−Alからなるガラス粉末を混合したものを100質量部として、アクリル系のバインダ樹脂を10質量部、および可塑剤を1質量部添加し、トルエンおよび酢酸エチルを溶剤としてボールミルにより40時間混合し、スラリーを調製した。このスラリーからダイコーターシート成形機を用いて、成形速度が2m/分で成形シート幅が250mmの条件にてポリエチレンテレフタレート(PET)のシートからなる支持体上に塗布して、厚みが50μmのセラミックグリーンシートを形成した。
【0076】
次に、導体粒子としてのCu粉末に対して、SiO−B−Alからなる軟化点が600℃のガラス粉末とSiO粉末とを9.5:0.5,9:1,7:3,5:5,3:7,1:9および0.5:9.5の比率(質量比)で混合したものを絶縁粒子として、それぞれCu粉末に対して、1,3,5,10および15質量%の添加量(絶縁成分の質量比に相当)で添加し、アクリル系のバインダ樹脂およびテルピネオール(TPO)からなる溶剤と混合して、導体ペーストを作製した。なお、Cu粉末のTMA法によって求めた収縮開始温度は800℃であり、SiO粉末のTMA法によって求めた収縮開始温度は1100℃以上であった。
【0077】
次に、レーザ光を発生するレーザ装置としてCOレーザ装置を用い、セラミックグリーンシートに径の大きさが両端でそれぞれ30μmおよび150μmのビア孔としてのテーパ状の貫通孔を、200μm間隔で縦横20列の計各400個形成した。形成した貫通孔には、支持体側から導体ペーストを径の大きさに応じて変更し、複数回に分けて充填して埋め込んだ。貫通孔への導体ペーストの充填は、径が30μmである端部側には、絶縁粒子の添加量が1,3,5,10,15質量%である導体ペーストを充填し、それに対応する径が150μmである端部側には、絶縁粒子の添加量が3,5,10,15,20質量%である導体ペーストを充填することで、ビア導体の径が大きい方のビア導体内における絶縁成分の質量比が大きくなるようにした。
【0078】
この導体ペーストを埋め込んだセラミックグリーンシートをそれぞれ4枚重ね合わせて厚み方向に5MPaの圧力および80℃の温度で加熱圧着して、セラミックグリーンシート積層体を作製した。それから、得られたセラミックグリーンシート積層体中のバインダ樹脂および溶剤等の有機成分や、有機成分が分解した後に残留するカーボンを除去するため、7.33kPaの分圧の水蒸気を含んだ窒素雰囲気中に約700℃の温度で1時間保持する熱処理を行なった後、還元雰囲気中にて約1000℃の温度で1時間保持して、ビア導体における絶縁成分の質量比が異なる、評価用の実施例21〜27の配線基板を作製した。
【0079】
そして、これら実施例21〜27の配線基板について、双眼顕微鏡によりビア導体近傍のクラック発生の有無の観察を行なった。
【0080】
これらの実施例についての、ビア導体の径別の、絶縁成分の添加量(質量比)別および導体ペーストに添加したセラミック成分の添加量別の評価の結果を、径が30μmの端部側の観察結果について表3に示し、径が150μmの端部側の観察結果について表4にそれぞれ示す。
【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
表3および表4に示す結果において、「クラック」欄の「○」および「△」は、表1に示す試料1〜7と同じ基準で評価した結果を示す。
【0084】
表3に示す結果から明らかなように、ガラス粉末とSiO粉末との比率即ちガラス成分:セラミック成分=5:5である第1の実施例において、クラックが発生した絶縁成分の添加量が3質量%の場合であっても、ガラス成分:セラミック成分が9.5:0.5,9:1および7:3とガラス成分の比率を大きくした実施例21,22および23では、ビア導体近傍にクラックの発生のないものとなった。また、第1の実施例においてクラックが発生しなかった、絶縁成分の添加量が5質量%および10質量%の場合であっても、ガラス成分:セラミック成分が1:9および0.5:9.5とガラス成分の比率を小さくした実施例26および27では、実用上は支障がない程度ではあるが、ビア導体近傍にわずかにクラックの発生が見られた。
【0085】
表4に示す結果から明らかなように、第1の実施例においてクラックが発生した絶縁成分の添加加量が10質量%であっても、ガラス成分:セラミック成分が9.5:0.5および9:1の実施例31および32では、ビア導体近傍にクラックの発生が無く、優れたものであった。また、第1の実施例においてクラックが発生しなかった、絶縁成分の添加量が15質量%の場合であっても、ガラス成分:セラミック成分が1:9および0.5:9.5とガラス成分の比率を小さくした実施例36および37では、実用上は支障がない程度ではあるが、ビア導体近傍にわずかにクラックの発生が見られた。
【0086】
実施例31〜実施例37において、径が30μmの端部側における絶縁成分の添加量が10質量%以下であるものについては、抵抗要求値も十分に満足するものであった。
【0087】
第2の実施例の結果から、ビア導体内における絶縁成分中のガラス成分の比率を多くすることで、より少ない絶縁成分の量であってもクラックの発生を抑えることができると言える。
【符号の説明】
【0088】
1:配線基板
2:絶縁基板
3:ビア導体
4:回路
5:絶縁成分
6:セラミックグリーンシート
7:ビア孔
8:導体粒子
9:絶縁粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板に設けられたビア導体とを備え、該ビア導体は、両端部で径が異なるテーパ形状であり、かつ前記セラミックスに含まれる絶縁成分を有しており、前記ビア導体内における前記絶縁成分の質量比は、前記ビア導体の径が大きくなるに従って大きくなっていることを特徴とする配線基板。
【請求項2】
前記ビア導体は、径が小さい方の端部が、前記絶縁基板の表面に露出していることを特徴とする請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
前記絶縁成分は、前記ビア導体の導体成分のTMA法により求めた収縮開始温度よりも低い軟化点を有するガラス成分と、前記絶縁基板の焼成温度よりもTMA法により求めた収縮開始温度が高いセラミック成分とからなり、前記絶縁成分中の前記ガラス成分の比率は、前記ビア導体内の径が大きくなるに従って大きくなっていることを特徴とする請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項4】
セラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板に設けられたビア導体とを備えた配線基板の製造方法であって、複数のセラミックグリーンシートを準備する準備工程と、前記複数のセラミックグリーンシートに両端部で径が異なるテーパ形状の貫通孔を形成する形成工程と、前記貫通孔に、前記セラミックスに含まれる絶縁成分を有する導体ペーストをそれぞれ充填する充填工程と、前記複数のセラミックグリーンシートを積層する積層工程と、積層した前記複数のセラミックグリーンシートを焼成する焼成工程とを有し、前記充填工程において、前記貫通孔の径が大きくなるほど前記絶縁成分の質量比が大きくなるように前記導体ペーストを充填することを特徴とする配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−71369(P2011−71369A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221883(P2009−221883)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】