説明

酸化ストレスに関連する疾患および病気の処置のためのN−アセチルシステインアミド(NACアミド)

N−アセチルシステインアミド(NACアミド)およびその誘導体を有する方法ならびに組成物を、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物の疾患、疾病、病気および病状のための処置および療法において使用する。グルタチオンの新しいソースを提供するためのみならず、細胞および組織における酸化ストレスおよびフリーラジカル酸化物質の形成および過剰生産を抑制、防止、または妨害するために、薬学的または生理学的に許容されるNACアミドまたはその誘導体の組成物を、単独、または適切な他の薬剤と併用して投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は概して、抗酸化物質を用いる、ヒトを含む哺乳類の疾患の処置に関する。より具体的には、本発明は、それを必要とする哺乳類に、単独で、または他の薬剤と併用して、N−アセチルシステインアミド(NACアミド)またはその誘導体の投与を含む、様々な疾患および病気の処置および療法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
酸化ストレスは、タンパク質、DNA、および脂質に損傷の原因になる、神経変性および加齢に関連した疾患の進行において重要な役割を果たす。低分子量、疎水性の抗酸化物質化合物は、急性呼吸促迫症候群、筋萎縮性側索硬化症、アテローム硬化性心臓血管疾患、多臓器機能不全のような末梢組織の病気、ならびに中枢神経系神経変性疾病(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病およびクロイツフェルトヤコブ病)の処置において有効である。酸化ストレスは、原因として、他のタイプの疾病と同様に、パーキンソン病、アルツハイマー病およびクロイツフェルトヤコブ病の発症に関係している(D.Atlasらの特許文献1)。
【0003】
細胞抗酸化物質の欠乏は、高分子の破壊、脂質過酸化反応、毒素の集溜および最終的には細胞死の原因となる、過度のフリーラジカルを引き起こす可能性がある。この細胞の酸化の防止において抗酸化物質化合物は重要なので、グルタチオン(GSH)(γ−グルタミルシステイニルグリシン)などの天然抗酸化物質は、継続的に組織に供給される。GSHは大部分の細胞によって合成され、また身体内の適当な酸化状態を維持するのに関与する主要な細胞抗酸化物質のうちの1つである。酸化させるとき、GSHは、グルタチオンレダクターゼを生成する臓器において再循環してもよい二量体、GSSGを形成する。成人では、抑制されたGSHは、主に肝臓において、少しばかり、骨格筋ならびに赤血球および白血球によって、GSSGから生成され、また血流を通して身体の他の組織に行き渡る。
【0004】
しかしながら、特定の病気のもとでは、GSHの正常で生理学的な供給は不十分であり、その行き渡りが不適切であるか、または局所的な酸化要求量が、細胞の酸化を防止するのに高過ぎる。他の状態では、GSHなどの、細胞抗酸化物質の生成および要求量は不適合であり、従って、身体にこれらの分子の不十分な濃度をもたらす。他の場合では、特定の組織または生物学的な工程は、それらの細胞内濃度が抑圧されるように、抗酸化物質を消費する。どちらの場合も、例えば、グルタチオンなどの抗酸化物質の血清濃度が上昇することにより、細胞に向けることができる抗酸化物質の量が増える。細胞取り込みのための促進輸送系では、取り込みを推進する濃度勾配は増加する。
【0005】
グルタチオンN−アセチルシステインアミド(NACアミド)、N−アセチルシステイン(NAC)のアミド形成は、低分子量チオール抗酸化物質およびCu2+キレート剤である。NACアミドは、細胞損傷に対して保護効果を提供する。NACアミドは、赤血球(RBC)におけるtert.−ブチルヒドロキシペルオキシド(BuOOH)誘発細胞内の酸化を抑制し、RBCでのBuOOH誘発チオール減少およびヘモグロビン酸化を遅らせることが知られている。この外部から加えられたNACアミドによるチオール劣化のRBCの回復は、NAC使用で見られるより非常に大きくなった。NACとは異なって、NACアミドは、ヘモグロビンを酸化から保護した。(非特許文献1)。無細胞系では、NACアミドは、酸化型グルタチオン(GSSG)と反応して抑制グルタチオン(GSH)を生成することが示された。NACアミドは、直ちに細胞膜を通過し、細胞内のGSHのに活力を与え、細胞の酸化還元機構に組み入れることにより、細胞を酸化から保護する。中性カルボキシル基のために、NACアミドは、脂溶性および細胞透過性の向上した性質を有する。(例えば、D.Atlasらの特許文献2を参照)。NACアミドはまた、血液脳関門のみならず細胞膜も通過する状態では、NACおよびGSHより優れている。
【0006】
NACアミドは、タンパク質およびDNAの合成、輸送、酵素活性、代謝、およびフリーラジカルな媒介損傷からの細胞の保護を含む、多くの重要な生物学的現象において、直接的または間接的に作用する可能性がある。NACアミドは、身体内の適当な酸化状態を維持するのに関与する強力な細胞抗酸化物質である。NACアミドは、酸化生体分子をそれらのもとの活性還元型に再循環させることができ、より有効でない場合、抗酸化物質として、GSHと同じように、ことによるとそれ以上に有効となる可能性がある。
【0007】
興奮性アミノ酸の一つであるグルタミン酸、は、中枢神経系(CNS)において主要な神経伝達物質のうちの1つである。細胞外グルタミン酸値の上昇は、高血糖症、虚血、低酸素症を含む多くのCNS疾病(非特許文献2)、ならびにハンチントン病、アルツハイマー病、およびパーキンソン病などの慢性疾病(非特許文献3;ならびに非特許文献4)のみならず急性神経損傷にも関与することが知られている。2つの仕組みが、グルタミン酸の毒性を説明するために提議されている。第1の仕組みは、グルタミン酸の興奮毒性を、3つのタイプの興奮性アミノ酸の受容体を通して媒介されていると説明する(非特許文献5)。受容体媒介のグルタミン酸の興奮毒性に加えて、細胞外グルタミン酸の上昇値は、細胞GSH濃度において目立った減少をもたらすシスチンの取り込みを抑制し、酸化ストレスの誘導をもたらすこともまた提議されている(非特許文献6)。
【0008】
システインは細胞内のGSH合成のための必須成分である。酸化還元の不安定な性質のために、ほとんど全ての細胞外システインは、その酸化状態である、シスチンの形でで主に存在し、それはシスチン/グルタミン酸トランスポーター、Xc−系を介して細胞によって取り込まれる。研究は、グルタミン酸およびシスチンは、同じトランスポーターを共有し、従って、細胞外グルタミン酸値の上昇は、細胞内のGSHの減少をもたらすシスチンの輸送を競合的に抑制することを提示している(非特許文献7;ならびに非特許文献8)。抑制グルタチオンの減少は、細胞の抗酸化物質能力の低下、ROS(活性酸素種)の蓄積、および最終的にアポトーシス細胞死をもたらす。いくつかの研究は、未熟な皮質ニューロン(非特許文献9;および非特許文献10)、乏突起膠細胞(非特許文献11)、培養ラットの星状細胞(非特許文献12)、神経芽細胞腫細胞(非特許文献13)、およびPC12細胞(非特許文献14)を含み、様々な細胞株において、グルタミン酸による酸化ストレスの誘導を実証してきた。
【0009】
NAC、リポ酸(LA)、(非特許文献15)、トコフェロール(非特許文献16)、およびプロブコール(非特許文献17)などのある種の抗酸化物質は、GSHに活力を与えることにより、グルタミン酸の細胞毒性に対して大抵は保護することができる。しかしながら、脳虚血およびパーキンソン病などのある種の神経系疾患では、これらの抗酸化物質の薬剤は、血液脳関門によって妨げられるので、脳の領域における組織のGSHの増進は獲得することはできない(非特許文献18、および非特許文献19)。
【0010】
脳および/または末梢神経組織に影響を及ぼすような神経変性疾病に加えて、ぜんそく、呼吸器関連疾患などの他の疾患、および例えば、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルーゲーリック病)、アテローム硬化性心臓血管疾患および多臓器機能不全などの病気は、酸化物質の過剰生産または免疫系の細胞による活性酸素種に関係している。
【0011】
多くの他の疾患の状態は、GSHなどの抗酸化物質の濃度の抑制に特に関連づけられている。局所的に特定の臓器または全身性のどちらかにおける抗酸化物質の濃度の低下は、HIV/AIDS、糖尿病および黄斑変性を含む臨床的に定義される多くの疾患および疾患状態と関連づけられ、これら全ては、過剰フリーラジカル反応および不十分な抗酸化物質により進行する。他の慢性的な病気はまた、心不全ならびに関連する病気および病状、血管形成術の後の冠動脈再狭窄、真性糖尿病および黄斑変性を含む、抗酸化物質欠乏、酸化ストレスおよびフリーラジカル形成に関連している可能性がある。
【0012】
臨床および前臨床の研究は、フリーラジカル疾病の範囲と不十分な抗酸化物質の濃度との間の関連を例証してきた。糖尿病性合併症は、細胞性酵素の糖化を促進することによって、抗酸化物質化合物の合成経路を不活性化する、高血糖性の症状の出現の結果であると報告されている。前記結果は、(糖尿病)患者における白内障、高血圧、閉塞性アテローム硬化性心臓血管疾患の有病率、および感染に対する感受性に関連している可能性のある、糖尿病患者における抗酸化物質欠乏である。
【0013】
高い濃度のGSHなどの抗酸化物質は、血小板、血管内皮細胞、マクロファージ、細胞傷害性Tリンパ球および他の免疫系成分の適当な作用に必要となると例証されてきた。近年、ヒト免疫不全ウイルス、HIVに感染している患者は、血漿、他の体液、マクロファージなどの、特定の細胞型において、低いGSH濃度を示すことが発見されてきた。これらの低いGSH濃度は、GSH合成における欠陥によるものではないようである。抗酸化物質欠乏は、HIVを患う患者の低い生存率に関与しているとみられている(1997、PNAS USA、第94巻、ページ1967〜1972)。これらの疾患の種類における細胞抗酸化物質の低い濃度により、フリーラジカル反応は疾病をますます刺激し悪化させることができるので、細胞において抗酸化物質の濃度を上昇させることは、HIV/AIDSおよび他の疾病において重要であることが広く認識されている。
【0014】
HIVは、細胞器官および高分子の完全な消耗および破壊のみならず、抗酸化物質分子の破壊をもたらす、病理学的フリーラジカル反応を開始することが知られている。哺乳類の細胞では、例えば、抑制抗酸化物質の細胞内の低い濃度およびフリーラジカルの比較的高い濃度の酸化ストレスは、mRNAへのDNAの細胞性転写を順に活性化する、NF−κBおよびTNF−αを含む、特定のサイトカインを活性化し、ポリペプチド配列へのmRNAの翻訳をもたらす。ウイルスに感染した細胞では、ウイルスゲノムは転写され、RNAウイルスおよびのレトロウイルスのウイルス複製に一般に必要なウイルスのRNA生成をもたらす。これらの工程は、細胞の比較的酸化した状態、ストレスから生じる病気、抗酸化物質の低い濃度、または抑制細胞産物の生成を必要とする。細胞性転写を活性化する機構は、進化的に高度に保存され、従って、一連の変異はこの工程を避ける、またはこの経路において突然変異酵素および受容体遺伝子産物を有する生命体は、生存者によく適しているという見込みはない。従って、細胞の比較的抑制された状態(酸化還元電位)を維持することによって、後期のウイルス複製におけるステップに必要なウイルス転写を妨げる。
【0015】
ウイルス複製の酸化的な細胞内の病状の増幅効果は、GSHなどの抗酸化物質を分解させる、様々なウイルスおよびウイルス産物の作用によって度合いを増す。例えば、非常に多くのジスルフィド結合を有するHIV表面糖タンパク質であるgpl20は通常、感染した細胞の表面上に存在する。gpl20はGSHを酸化させ、細胞内のGSH濃度の抑制をもたらす。他方では、GSHは、gpl20のジスルフィド結合を抑制し、従って、ウイルス感染価に必要な、それの生物学的な活性を抑制または除去する。その結果、GSHなどの抗酸化物質は、かかる酸化タンパク質の生成を抑止し、一旦形成されると、それらを分解する。ウイルス遺伝子産物を活発に複製している細胞では、細胞が低いウイルス活性を有する比較的静止した段階から大量のウイルス複製および細胞死を有する活動期へ移動する可能性がある、事象が次々と起こる可能性がある。これは、酸化還元電位における変化を伴う。抗酸化物質の適正な濃度を維持することによって、この次へのつながりを妨げる可能性がある。
【0016】
HIVは、2つの圧倒的に多い経路、すなわち、汚染血液および/または性交によって感染する。小児科の症例では、新生児の約2分の1は胎内で感染し、2分の1は出産時に感染する。まん延の時期が知られているので、この状況は感染の予防の研究を可能にする。最初は、ウイルスの大量の複製を有する、インフルエンザの重症例に似た強烈なウイルス感染がある。数週間以内に、身体が非常にうまく免疫防御を開始するように、この急性期は自然発生的に通過する。それ以来、その個人には、感染表面上の発現はない。しかしながら、ウイルスは、様々な体腔で発見される、例えば、リンパ節、リンパ結節、マクロファージおよび特定の樹枝状多細胞などの免疫系細胞および組織内で複製を継続する。
【0017】
人目につかず広範囲に及ぶそのような感染は、単にウイルスの問題ではない。複製をすることに加え、ウイルスは、毒性または上昇値において様々なフリーラジカルおよび様々なサイトカインの過剰生成を引き起こす。サイトカインは、多数の反応の徴候となり、また通常極めて低い濃度で存在する、普通に発生する生化学物質である。最終的には、外見的には鎮静期のHIV感染の平均で7〜10年後に、腐食性のフリーラジカルおよびサイトカインの毒性の濃度は、感染した個人にさせる表面上の症状を引き起こし始め、免疫系における不全が開始する。15−HPETEなどの物質は免疫抑制物質であり、またTNF−αは他の毒性の因子の中でも筋肉疲労を引き起こす。ウイルス粒子の数は増加し、また患者は、その個人が死亡する前に、2年から4年続く場合がある、後天性免疫不全症候群、AIDSを発現する。従って、AIDSは、ウイルス感染が、疾患の病因の切っても切れない部分と信じられているが、単にウイルス感染ではない。
【0018】
さらに、HIVは突然変異する強力な能力を有する。その能力が、ワクチンを製造する、または長期にわたる抗ウイルス剤の医薬治療を開発することを困難にさせるのである。現在の複雑な投薬計画によってうまく治療できない人が増加するにつれて、耐性ウイルス株の数も増加する。HIVの耐性株は特に、ウイルスの危険な個体群であり、また無視するこができない健康への害を引き起こす。これらの耐性HIVの突然変異体はまた、極めて悪性なウイルス型の活性を抑制することができるワクチンの開発に困難性を追加する。さらに、ウイルスと大部分は無関係となる可能性のあるフリーラジカルおよびサイトカインの継続的な生成は、AIDSを患う患者の免疫系、消化管、神経系、およびの他の多くの臓器の機能障害を永続させる。刊行されている科学文献は、これらの多様性のある臓器系の機能障害は、ウイルスまたはそのフリーラジカルによって生じる抗酸化物質の化合物の全身欠乏が原因であると指摘している。例えば、GSHは、抗酸化物質対フリーラジカルの主要な防護手段であるので、HIV感染ではそれが消費される。GSH濃度の低下のさらなる原因は、gpl20細胞表面タンパク質などの、HIVタンパク質における多くのジスルフィド結合の存在である。ジスルフィド結合はGSHと反応して、それを酸化させる。従って、他の抗酸化物質は、正常な機能がHIV感染によって悪影響を及ぼすGSHなどの抗酸化物質を置換するために使用する必要がある。
【0019】
現在のHIV/AIDSの医薬品は、1つの工程において2つの異なる標的に同時に影響を及ぼす、医薬品相乗作用の概念の良い利点を得ている。効果は追加作用以上のものである。現在使用している薬物は、ウイルス複製の長い経路において2つの非常に異なる点を抑制するために選択された。当業者によって理解されるウイルス複製の経路は、米国特許6,420,429号に説明されている。新しい抗HIV/AIDS療法は、逆転写酵素抑制剤およびプロテアーゼ抑制剤の種類の追加の薬剤を含む。さらに、薬物は、短い長さの線をそれより長い線につなぎ合わせるのと同じように、HIVのDNAを感染細胞のDNAに溶け込ませる、ウイルスのインテグラーゼ酵素を妨げるよう発達過程にある。HIVは移動標的であるように思われ、急速に変化するように見えるので、見通しは芳しくないように見えるが、ワクチンの開発はさらに継続する。ワクチンの開発は、ウイルスの免疫細胞の親和性によってもまた阻害される。
【0020】
HIVに感染している個人は、血清酸可溶性チオール、および血漿、末梢血単球および肺上皮被覆液中のGSHなどの抗酸化物質の濃度が低くなる。さらに、細胞内のGSH濃度が高いCD4およびCD8T細胞は、HIV感染が進行するにつれて、選択的に消失することが知られている。炎症性のサイトカインは、抗酸化物質化合物が減少した細胞において、さらに効率良くHIVの複製を刺激するので、特にかかるサイトカインの濃度が高くなった個人において、この欠乏は、HIV複製を可能にし、疾患の進行を早める。さらに、GSHなどの抗酸化物質の減少はまた、アポトーシスまたはプログラム細胞死として知られている過程に関連する。従って、人工的にGSHを減少する細胞間の過程は、たとえその過程自体が死をもたらすものではなくても、細胞死につながる可能性がある。
【0021】
真性糖尿病(「糖尿病」)は、初期の段階または自己免疫(I型、IDDM)および晩期発症型または非インスリン依存性(II型、NIDDM)の2つの形態が知られている。I型は、糖尿病の症例の約30%を構成している。残りの症例は、II型である。一般に、糖尿病の発病は、I型は突然であり、II型は潜行性または慢性である。症状は、I型に関連して、ゆっくりと着実に体重が減る、多尿、空腹感およびのどの渇きを含む。肥満はしばしばII型に関連し、感染しやすい個人において原因因子であると考えられてきた。血糖値はしばしば高く、尿に糖が頻繁に混じる。病気を治療しないまま放置すると、被害者は、飲酒している人に似ている悪臭のある息のするケトアシドーシスを発現する可能性がある。未治療の糖尿病の早急な内科的合併症は、神経系症状、さらに糖尿病性昏睡までも含むことができる。
【0022】
高血糖(血糖値濃度が非常に高い)の継続的で致命的な発生のために、糖化と称する非酵素的化学反応は、細胞内でしばしば発生し、必須酵素の慢性的な非活性化の原因となる。最も重要な酵素のうちの1つであるγ−グルタミル−システイン合成酵素は糖化され、直ちに不活性化する。この酵素は、肝臓内のグルタチオンの生合成における最も重要なステップにおいて関与する。この特定の糖化の最終結果は、糖尿病患者でのGSHの生成における欠乏である。
【0023】
GSHは、例えば、ミトコンドリア内のATPと称される化学的エネルギーを生成するような、多面的な、必須機能のために身体全体にわたり要求度が高い。GSHの欠乏または欠如のために、脳細胞、心臓細胞、神経細胞、血液細胞および他の多くの細胞型は、正常に機能することができず、また酸化ストレスおよびフリーラジカル形成に関連するアポトーシスを通して破壊され得る。GSHは、ヒトの身体において主要な抗酸化物質であり、また新規に合成することができる唯一のものである。さらにそれは、植物および動物の両方において、最も一般的な低分子量のチオールである。GSHがなければ、免疫系は機能することができず、また中枢神経系および末梢神経系は異常となり、ひいては機能が止まる。一酸化窒素の担体としてのGSHに依存しているので、血管緊張、心臓血管系の調整に関与する血管拡張剤は、うまく機能せず、結果的に役に立たなくなる。全ての上皮細胞はGSHを必要とするように見えるので、GSHなしでは、小腸の上皮細胞もまた正常に機能せず、また価値のある微量栄養素は失われ、栄養素には障害が起き、また細菌は侵入門戸を得て、感染を引き起こす。
【0024】
糖尿病では、GSHの前駆体の使用は、糖化による律速酵素の破壊のためにGSHの欠乏の調整に役立つことができない。GSHの欠乏が深刻になるにつれて、よく知られている糖尿病の続発症がより重篤に進行する。糖尿病患者において利用できるGSHの供給は不十分なであるので、糖尿病患者に発現する合併症は、本質的にどんどん進行するフリーラジカルの損傷によるものである。例えば、HIV/AIDSの状況と同様に、GSH濃度が低下するとき、免疫系は虚脱に近づくので、糖尿病の個人はより感染しやすくなる。さらに、末梢血管系は構成されるようになり、また血管拡張(弛緩)の性質を効率的に発揮するために一酸化窒素を一定に保つのに不十分な量ではGSHは利用できないので、四肢への血液供給は、大幅に減少する。壊疽はよく起こる続発症であり、次に続く切断はしばしば、後年に生じる。末梢神経障害、足および下肢の一般の感覚消失が発現し、しばしば制御できないしゃく熱またはそう痒などの異常な知覚が続く。網膜症および腎症は、例えば、新しい血管壁の脆弱性のためにしばしば出血する、新しい血管および毛細血管の過剰な出芽および増殖である微小血管障害が実質的な原因となる後期の事象である。この出血は、網膜および腎臓に損傷を引き起こし、結果として失明および人工透析を必要とする腎機能停止が生じる。さらに、GSH欠乏が深まるにつれて、白内障の発生の頻度が高まる。大動脈および中動脈は、早期の心筋梗塞、およびさらに重度となる重症のアテローム硬化性心臓血管疾患が加速した部位となる。重症なアテローム硬化性心臓血管疾患を治療するのに、冠動脈血管形成術を使用する場合、糖尿病患者は、再狭窄と称する、心臓血管が再び狭くなる傾向が強くなっているようである。
【0025】
失明の原因としての黄斑変性は、母集団年齢が高まるにつれ、浮上する問題である。加齢に関連した黄斑変性(ARMD)は、遅い(乾燥型)または速い(湿潤型)の破壊の発病および眼斑における桿体および錐体の回復できない消失のどちらかによって特徴付けられる。斑は、網膜のほぼ中心であり、眼の水晶体は最も強い光に集中する。桿体および錐体として知られている視細胞は、中枢神経系の副産物および活動性部分である。それらは、顔および顔の表情などの詳細を見るための細かい視覚的弁別、読書、運転、機械および電気機器の操作、ならびに周囲の一般的認知に関与しており、必要不可欠である。最終的に、桿体および錐体の破壊は、機能的、法的な失明につながる。病気に関連する明らかな痛みがないので、発病の第1の警告は通常、顕著な視力の喪失である。これは、すでに後期の事象を示す場合がある。この病理学的過程では、本当に第1の事象のうちの1つは、黄斑または黄点での網膜の表面上に沈着する黄色い物質の斑または広範性の滴のどちらかとして最初に出現する、「ドルーゼン」と称される物質の形成であると今では考えられている。これは、日光が水晶体によって集中し、眼力のための桿体の最も高い密度を含む網膜の領域である。色を検出する錐体が、この疾患と同様に消失するが、失明を引き起こす桿体の消失であると信じられている。ドルーゼンは、化学的に分析されており、またフリーラジカル反応によって過酸化物にされる脂質の混合物で構成されていることが分かっている。
【0026】
網膜色素上皮(RPE)細胞の消失は、ARMDで最初に発生すると信じられている。一旦網膜斑の領域がRPE細胞を欠くと、桿体の消失、また最終的にはいくつかの錐体の消失が発生する。最後には、毛細血管の出芽が始まり、後期のARMDに関連する一般的な細小血管障害が発生する。さらに、RPE細胞は、正常に機能するために大量のGSHを必要とすることが知られている。GSH濃度がRPE細胞の培養において非常に低下するとき、RPE細胞は死滅を開始する。これらの細胞の培養が培地のGSHによって補足される場合、それらは活況を呈する。細胞培養の研究によって示されるように、疾患の進行の速度は、網膜内、および恐らくこれらの細胞内のGSHにおけるより深刻な欠乏によって決定されるということが明らかになっている。
【0027】
「近」紫外線(UVB)および主に日光からの高輝度の視光は、ARMDの強力な要因であると一般に信じられている。淡色の虹彩を有する人々は、戸外で仕事を継続する人々および日光が最も強烈な赤道域にいる人々と同様に、黄斑変性の危険性の高い母集団を構成する。例えば、喫煙などの、フリーラジカルな追加の行動は、発現しているARMDの危険性を増加させる。いくつかの取り組みが、化学療法を含め、ARMDと闘うための治療が不成功に終わっている。現在、ARMDを治療するための有効な療法はない。、新生血管増殖を焼灼することによって、疾患の遅い発病の形態で生成される損傷を遅らせるために広く使用されてきた、レーザー療法が開発されてきた。しかしながら、疾患が進行し始めると、その疾患がもたらす結果が確実となる。
【0028】
リンパ球の作用へのチオールおよび特にGSHの重要性は、長年にわたり知られてきた。適当な濃度のGSHは、混合リンパ球反応、T−細胞増殖、T−およびB−細胞分化、細胞傷害性のT−細胞活性、およびナチュラルキラー細胞活性のために必要とされる。適当なGSH濃度は、好中球での微小管重合のために必要であることが分かっている。腹腔内に投与されたGSHは、マウスでの細胞傷害性のT−リンパ球の活性化を増大し、食餌療法のGSHは、老齢のマウスにおいてGSHの脾臓の状態を改善し、T−細胞媒介の免疫応答を向上させることが分かっている。マクロファージの存在は、それらの周辺の活性リンパ球の細胞内GSH濃度の大幅な増加をもたらすことができる。マクロファージは、強力な膜輸送系を介してシスチンを摂取し、細胞外空間に放流する、大量のシステインを生成する。マクロファージのGSH濃度(および、ひいてはシステイン相当物)は、外因性のGSHによって増大することができると例証されてきた。T−細胞は、自身のシステインを生成することはできず、GSHの合成の律速前駆体としてT−細胞に必要とされる。マイトジェン刺激性のリンパ球における細胞内のGSH濃度およびDNA合成の活性は、外因性システインによって激しく増大されるが、シスチンによっては増大されない。T−細胞では、シスチンのための膜輸送活性は、システインよりも10倍低い。結果として、T−細胞は、健康的な生理学上の条件下でさえ、システインのベースライン供給が低い。マクロファージのシステイン供給機能は、T−細胞が、GSHの少ない状態からGSHの豊富な状態へ移行することができる機構の重要な部分である。
【0029】
T−細胞の活性化のための細胞内のGSH濃度の重要性は確立している。T−細胞でのGSH濃度は、GSHを使用した治療後に上昇することが報告されており、この上昇は、無傷のGSHの取り込みによるもの、細胞外破壊、破壊産物の輸送、およびそれに続く細胞内のGSH合成によるものかどうかは不明確である。10%〜40%のGSHの減少により、in vitroでのT−細胞活性化を完全に抑制することができる。細胞内のGSHの減少は、反応の初期において、マイトジェン誘発性の細胞核サイズの変態を抑制することが分かっている。システインおよびGSHの減少はまた、同種異系の混合リンパ球培養の後期において、循環T−細胞クローンなどの活性T−細胞、および活性細胞傷害性のT−リンパ球前駆体細胞の機能に影響を及ぼす。前活性CTL前駆体細胞の継続増殖および/または細胞傷害性のエフェクター細胞内のそれらの機能分化のみならず、IL−2依存性のT−細胞クローンにおけるDNA合成およびタンパク質合成は、GSH減少に対して感受性が非常に高い。
【0030】
グルタチオンの状態は、酸化的な損傷に対する保護の主要な決定因子である。GSHは、一方で、グルタチオンペルオキシダーゼによって触媒作用を及ぼす反応において過酸化水素および有機ヒドロペルオキシドを減少させることによって、また他方では、酸化物質ストレスを誘導できる求電子性の生体異物の中間体を共役させることによって作用する。疑いなく、腎臓は毒素および老廃物の除去において機能し、尿細管の上皮組織は様々な毒性化合物にさらされるために、尿細管の上皮細胞はGSHの濃度が高い。細胞外培地から細胞に輸送される、GSHは、腸および肺からの分離細胞を、t−ブチルヒドロペルオキシド、メナジオンまたはパラコート誘発の毒性から実質上保護する。腎臓分離細胞はまた、酸化物質の損傷から保護するためにGSHの内因性合成を補足することができるGSHを輸送する。肝臓のGSHの含有量はまた、外因性のGSHの存在において増量(すなわち、倍に)することが報告されている。これは、腸および肺胞の細胞のために報告されているように、直接的な輸送によるものか、または細胞外劣化、輸送、および細胞内の再合成によるもののどちらかである可能性がある。
【0031】
GSHのシステイン部分の求核硫黄原子は、毒性求電子試薬によって誘発される弊害から細胞を保護する機構として役立つ。グルタチオンS−共役の生合成は、薬物および化学解毒の重要な機構であることは確立されている。基質のGSH共役は一般に、GSHおよびグルタチオンSトランスファーゼ活性を必要とする。特定であるが、重複もしている基質を有する複合グルタチオンSトランスファーゼの存在により、酵素系は多様な化合物に対処できる。いくつかの種類の化合物は、グルタチオン共役形成によって、毒性の代謝産物に変換させると信じられている。例えば、ハロゲン化アルケン、ヒドロキノン、およびキノンは、GSHとのS−共役の形成を介して毒性代謝産物を形成することが分かっている。腎臓は、この経路によって代謝させる化合物のための主要な標的臓器である。腎臓に対する選択的毒性は、近位尿細管細胞におけるS−共役の過程によって形成される中間体を蓄積する、およびこれらの中間体を毒性代謝産物に生物的に活性化させる腎臓の能力の結果である。
【0032】
ラットおよびマウスに対するモルヒネおよび関連化合物の投与は、肝臓のGSHの最大約50%の消失をもたらす。モルヒネは、モルヒネ6−デヒドロゲナーゼ活性による、皮下注射によるマウスではモルヒネより9倍毒性がある、非常に肝細胞毒の化合物のモルヒノンへ生体輸送されることが知られている。モルヒノンは、グルタチオンS−共役の形成を可能する、α、β不飽和ケトンを保有する。この共役の形成は、細胞GSHの消失と相互に関連がある。この経路は、モルヒネのための主要な解毒過程を表す。GSHを使用した前治療は、マウスではモルヒネにより誘発される致死性から保護する。
【0033】
マウスの神経芽細胞腫細胞でのメチル水銀の有害効果は、GSHの共同投与により大幅に防止される。GSHは、メチル水銀と複合化し、細胞への輸送を防止し、細胞損傷を防止するために細胞抗酸化物質の可能性を向上させる場合がある。メチル水銀は、チューブリンスルフヒドリル基の酸化により、および過酸化傷害による変化によって細胞微小管にて有害効果を発揮すると信じられている。GSHはまた、ニッケルおよびカドミウムなどの他の重金属による毒作用から保護する。
【0034】
腎臓解毒作用およびその毒性における知られている役割のために、GSHは、全身毒性を抑制するために、シスプラチンなどの腎毒性薬剤とともに癌化学療法を受けている患者のための補助療法として調査されてきた。1つの研究では、進行性の腫瘍性疾患を患う患者に、シクロホスファミド1回分の前後すぐに、2,500mg2回の分割量のGSHを静脈内投与した。GSHは良好な耐容性を示し、予想外の毒性を生成しなかった。顕微鏡的血尿を含む膀胱損傷の不足は、この化合物の保護役を支援する。他の研究は、シスプラチンおよび/またはシクロホスファミドの併用療法とのGSH静脈内共同投与は、これらの薬物の望ましい細胞傷害性効果を過度に妨害しない一方で、関連する腎臓毒性を抑制することを示している。
【0035】
GSHは極端な低毒性を有し、また経口LD50の計量は、どんな毒性効果をも調べるために動物によって摂取されなければならない、GSHの単なる質量のために、実行が困難である。GSHは、特にアスコルビン酸欠乏の症例において毒性になることができ、またこれらの効果は、非アスコルビン酸欠乏の動物においては、毒性はこの投与量では見られなかったが、この2倍の投与量では見られた一方で、例えば、3回の分割量で3.75mmol/kg毎日(1,152mg/kg毎日)を投与したアスコルビン酸欠乏のモルモットにおいて例証される場合がある。
【0036】
酸化ストレスおよび酸素フリーラジカルの存在ならびに細胞および組織において関連する疾患発症に関係している多くの疾患を処置するために、当該分野において他の化合物および治療上の側面の必要性がある。疾患の発症における酸化高ストレスを克服するために、安全で、さらにもっと強力な、GSH以外の抗酸化化合物が必要となる。理想的には、かかる化合物は、血液脳関門を直ちに渡り、細胞膜を容易に通過すべきである。ビタミンEおよびCなどの抗酸化物質は、特にビタミンEについて言えば、抗酸化作用を提供するために、細胞質に達っするよう細胞膜を通って効率的に渡らないので、酸化ストレスを低下させる際に完全に有効ではない。
【特許文献1】米国特許第6,420,429号
【特許文献2】米国特許第5,874,468号
【非特許文献1】L.Grinbergら、Free Radic Biol Med.、2005 Jan 1、38(l):136−45
【非特許文献2】Choi、D.W.、Neuron、l(8):623−34、1988
【非特許文献3】Meldrum B.およびGarthwaite J.、Trends Pharmacol Sci.、11(9):379−87、1990
【非特許文献4】Coyle J.T.およびPuttfarcken P.、Science、262(5134):689−95、1993
【非特許文献5】Monaghan D.T.ら、Annu Rev Pharmacol Toxicol.、29:365−402、1989
【非特許文献6】Murphy T.H.ら、Neuron、2(6):1547−58、1989
【非特許文献7】Bannai S.およびKitamura E.、J Biol Chem.255(6):2372−6、1980
【非特許文献8】Bannai S.、Biochem Biophys Acta.、779(3):289−306,1984
【非特許文献9】Murphy T.H.ら、FASEB J.、4(6):1624−33、1990
【非特許文献10】Sagara J.ら、J Neurochem.、61(5):1667−71、1993
【非特許文献11】Oka A.ら、J Neurosci.、13(4):1441−53、1993
【非特許文献12】Cho Y.およびBannai S.、J Neurochem.、55(6):2091−7、1990
【非特許文献13】Murphy T.H.ら、Neuron.、2(6):1547−58、1989
【非特許文献14】Froissard P.およびDuval D.、Neurochem Int.、24(5):485−93、1994
【非特許文献15】Han D.ら、Am J Physiol.、273:1771−8、1997
【非特許文献16】Pereira C.M.およびOliveira C.R.、Free Radic Biol Med.、23(4):637−47、1997
【非特許文献17】Naito M.ら、Neurosci Lett.、186(2−3):211−3、1995
【非特許文献18】Panigrahi M.ら、Brain Res.、717(l−2):184−8、1996
【非特許文献19】Gotz M.E.ら、J Neural Transm Suppl、29:241−9、1990
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0037】
(発明の要旨)
本発明は、前記身体の細胞、組織および臓器において酸化ストレスの前記副作用および/またはフリーラジカルの前記生成に起因する、または関連する疾病、病気、病状および疾患を処置するための新しい適用における、強力な抗酸化物質N−アセチルシステインアミド(NACアミド)もしくはその誘導体、または、生理学的に許容されるその誘導体、塩、またはエステルの使用を提供する。NACアミドおよびその誘導体は、疾病、病気、病状および疾患などの改善および治療のための方法および組成物の使用のために提供される。
【0038】
本明細書で使用されるように、本発明の文脈での「被検体」は、限定することなく、哺乳動物(例えば、ヒト、家畜(domestic animal)および猫、犬、畜牛および馬などを含む家畜(livestock))を網羅する。「それを必要とする被検体」とは、本明細書に開示されるように、NACアミドまたはその誘導体の投与または導入が、当業者によって有益であると見なされる、疾病、病気、病状および疾患の1つ以上の発現を有する被検体である。
【0039】
本発明の側面では、NACアミドを含む方法および組成物は、抗酸化物質を細胞および組織に提供し、生命体内の、酸化ストレスおよび細胞の酸化の前記副作用を抑制する。本発明は、酸化ストレスを抑制するのに有効な量のNACアミドまたはその誘導体の薬学的に許容される処方物を、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物に投与することによって、本明細書に説明している前記病気、疾患、病状に関連する酸化ストレスを抑制する方法を提供する。
【0040】
本発明の他の側面では、NACアミドおよびその誘導体は、前記酸化物質の過剰生産および/またはフリーラジカル酸素種に関連する疾病、病気、病理または疾患を患う生命体を処置するために提供される。本発明に従い、NACアミド治療は、予防薬または治療薬となり得る。
【0041】
「治療上の処置」または「治療上の効果」は、防止(preventative)もしくは予防(prophylactic)効果、または疾病、病気、病理もしくは疾患またはその続発症の徴候もしくは症状の重篤性の緩和を獲得する工程を含み、他の処置方法(例えば、化学療法および放射線療法)によってもたらされるものを含み、本発明の前記方法によって治療される被検体の前記病気における、身体検査、研究室、または機器による方法で検出でき、当業者によって統計的および/または臨床的に有意であると見なされるどんな改善をも意味する。
【0042】
「予防薬の処置」または「予防薬の効果」は、他の処置法(例えば、化学療法および放射線療法)によってもたらされるものを含み、身体検査、研究室、または機器による方法で検出でき、当業者によって統計的および/または臨床的に有意であると見なされる疾病、病気、病理、もしくは疾患またはその続発症の徴候および症状の前記重篤性のどんな再燃の防止のみならず、本発明の前記方法によって処置される被検体の前記病気におけるどんな悪化の予防をも意味する。
【0043】
本発明の他の側面では、NACアミドは、局所に適用する場合、皮膚、髪、爪、および粘膜表面の審美的病気および皮膚疾患の処置および/または予防に使用する。本発明に従って、(a)NACアミド、もしくはその誘導体、またはその適切な塩またはエステル、NACアミドもしくはその誘導体を含む、生理学的に許容される組成物、および(b)局所的に許容される媒体または担体を含む、局所性投与のための組成物を提供する。本発明はまた、患者の患部に対するNACアミドまたはNACアミド誘導体を含む組成物の局所性投与を必要とする審美的病気および/または皮膚疾患の前記処置および/または予防のための方法を提供する。
【0044】
さらに他の側面では、本発明は、NACアミドもしくはその誘導体、または薬学的に許容される塩もしくはエステルを使用して、癌および前癌状態の療法のために有効な方法および組成物を提供する。本発明は具体的には、アポトーシスが癌または前癌状態の細胞において、選択的に誘発される、NACアミドまたはその誘導体を含む、方法および組成物に関する。
【0045】
他の側面では、本発明は、同種移植患者における移植片拒絶の前記抑圧のためのNACアミドまたはその誘導体を含む組成物および方法を提供する。
【0046】
他の側面では、本発明は、幹細胞移植ための幹細胞、具体的には、ヒトを含む、受容動物への導入前に、in vitroで培養された幹細胞の前記増殖を支援または助長するための方法におけるNACアミドまたはその誘導体を提供する。
【0047】
他の側面では、本発明は、治療上有効な量のNACアミドもしくはその誘導体および薬学的に許容されるその組成物の前記投与に関与する、被検体における中枢神経系(CNS)の損傷または疾患、外傷性脳損傷、神経毒性または記憶障害の抑制、予防、処置、または予防および処置の両方の方法を提供する。
【0048】
他の側面では、本発明は、微生物を殺傷またはその前記増殖を抑制するための前記白血球の能力を向上させるために、HIF−1またはHIF−1αの細胞濃度を高めるのに有効な量のNACアミドを提供することによって、前記微生物を殺傷またはその前記増殖を抑制する方法を提供する。さらに、本発明に従って、例えば、微生物、ウイルス、マイコプラズマなどを殺傷またはその増殖を抑制する際の、また本明細書でさらに説明するように、結果として生じる疾患および病気を処置する際の、生体防御の目的のための対策としてNACアミドを使用する。
【0049】
他の側面では、本発明は、正常な細胞に、癌においてのみ以前に発見されてきたRho GTP加水分解酵素の異型、前記Rac1bタンパク質を発現させることが分かっている、MMP−3などのメタロプロテイナーゼの前記効果によって生じる組織破壊を防止する方法を提供する。Rac1bは、大量の組織分裂を引き起こす主遺伝子を活性化することにより癌を促進することができる、高度な活性酸素種(ROS)の前記生成を刺激する。本発明に従って、NACアミドをそれが必要な細胞、組織、および/または被検体の前記身体に投与または導入することによってRac1bを誘発するROSの生成の前記効果を防ぐために、組織損傷および劣化を引き起こす前記経路での分子を標的にするために、NACアミドを使用する。従って、MMP−3および逆に作用する機能を抑制するために、前記EMTを誘発するためにROSが遺伝子を活性化させる前記工程によって直接または間接的にROSを標的にするためにNACアミドを使用することができる。
【0050】
本発明の他の側面は、前記内因性生成を刺激するための一定期間に、それが必要な細胞、組織、および/または被検体にNACアミドを投入する工程または導入する工程を含む、サイトカインおよび造血因子の内因性生成を刺激する方法を提供する。前記免疫系を調節する因子であり、またその生物学的な活動は、様々な原因の造血および免疫抑制(例えば、赤血球、脊髄、またはリンパ球の抑圧だが限定されない)に関与するもののみならず、新生物および感染病などの多様なヒトがかかる疾患に関与する、例えば、TNF−α、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−I、IL−2、IL−6、IL−IO、エリスロポエチン、G−CSF、M−CSF、およびGM−CSF、だがこれらに限定されないサイトカインおよび造血因子の生成を刺激するためにNACアミドを使用することができる。これらのサイトカインおよび造血因子の外因性投与は、許容される製剤の前記不足、それらの法外な費用、生物学的な媒体における短い半減期、用量決定における困難、多くの毒性のアレルギー効果に関連する制限を有するので、NACアミドによるこれらのサイトカインおよび造血因子の内因性生成の刺激はとりわけ有利である。
【0051】
他の実施態様では、本発明は、細胞、組織、および/または被検体において遺伝子発現でのNACアミドの応答変化を検出するためのNACアミドを含み、遺伝子発現において変化を誘発するために、一定期間NACアミドまたはNACアミドの誘導体を前記細胞、組織、および/または被検体に、投与する工程または導入する工程と、遺伝子発現における前記変化を検出する工程とを含む、方法および組成物を網羅する。NACアミドおよびその誘導体は、数ある中でもアポトーシス、血管形成、走化性に関与する遺伝子などの遺伝子発現において変化を誘発することができる。
【0052】
他の側面では、本発明は、NACアミドの方向をもった送達(directed delivery)を、葉酸(葉酸塩)またはグルタチオンのための受容体の高い濃度を示す癌細胞などの細胞に提供する。この側面に従って、NACアミド(「NACA」)は共役を形成するために、前記受容体(例えば、葉酸またはグルタチオン)のためのリガンドに結合され、その後このNACA−リガンドの共役は、当業者に知られている手順を利用して、直ちに注入可能なナノ粒子に被覆または吸着する。この側面に従って、NACアミド(「ナノNACA粒子」)を含む前記ナノ粒子は、前記NACアミドがその望ましい効果を発揮する癌または腫瘍細胞によって選択的に取り込まれることができる。従って、本発明は、リガンドのための表面受容体の高い濃度を発現する宿主細胞に対して、NACアミドの方向をもった送達の方法であって、前記方法は、(a)NACアミドリガンドの共役を形成するために、NACアミドを前記表面受容体リガンドに結合させる工程と、(b)前記NACアミドリガンドの共役をナノ粒子に吸着させる工程と、(c)(b)の前記ナノ粒子を前記宿主に導入する工程とを含む方法を提供する。本発明は、リガンドのための表面受容体の高い濃度を発現する宿主細胞に対して、NACアミドの方向をもった送達の方法であって、前記方法は、(a)アセチル化樹枝状ナノポリマーをリガンドに共役させる工程と、(b)NACアミドリガンドナノ粒子を形成するために、(a)の前記共役リガンドをNACアミドに結合させる工程と、(c)(b)の前記ナノ粒子を前記宿主に導入する工程とを含む方法をさらに提供する。
【0053】
本発明の他の側面は、前記式Iの化合物を提供する。
【0054】
【化13】

式Iにおいて、 RはOH、SH、またはS−S−Z;
XはCまたはN;
YはNH、OH、CH−C=O、またはNH−CH
は存在しない、H、または=O
は存在しない、または
【0055】
【化14】

式Iにおいて: Rは、NHまたはO;
は、CF、NH、またはCH
および式Iにおいて: Zは、
【0056】
【化15】

がS−S−Zなら、XおよびX’は同一、YおよびY’は同一、RおよびRは同一、ならびにRおよびRは同一を条件とする。
【0057】
本発明は、本明細書に開示する前記化合物を含むNACアミド化合物およびNACアミド誘導体をさらに提供する。
【0058】
他の側面では、本発明の前記化合物のL−異性体またはD−異性体を調整するための工程を提供し、第1の混合物を生成するために、塩基をL−またはD−シスチンジアミドジヒドロクロライドに加える工程と、その後、真空下で前記第1の混合物を加熱する工程と;メタノール溶液を前記加熱した第1の混合物に加える工程と;第1の残渣を獲得するために、前記混合物を塩酸アルコールで酸性にする工程と;前記第1の残渣を、アンモニアで飽和したメタノールを有する第1の溶液に溶解させる工程と;第2の混合物を生成するために、第2の溶液を前記溶解した第1の残渣に加える工程と;前記第2の混合物を沈殿させて、洗浄する工程と;第2の残渣を獲得するために、前記第2の混合物をろ過し、乾燥させる工程と;第3の混合物を生成するために、前記第2の残渣と液体アンモニアおよび塩化アンモニウムのエタノール溶液を混合する工程と;前記第3の混合物をろ過し、乾燥させる工程により、前記L−またはD−異性体化合物を調製する工程とを含む。
【0059】
いくつかの実施態様では、前記工程は、エーテルに前記L−またはD−異性体化合物を溶解させる工程と;第4の混合物を生成するために、水素化アルミニウムリチウム、酢酸エチル、および水のエーテル溶液を前記溶解したL−またはD−異性体化合物に加える工程と、;前記第4の混合物をろ過し、乾燥させる工程により、前記L−またはD−異性体化合物を調製する工程とをさらに含む。
【0060】
本発明の別の側面は、本明細書に開示している前記化合物のL−異性体またはD−異性体を調整する工程を提供し、第1の混合物を生成するために、S−ベンジル−L−またはD−システインメチルエステル塩酸塩またはO−ベンジル−L−またはL−セリンメチルエステル塩酸塩を塩基と混合する工程と;エーテルを前記第1の混合物に加える工程と;前記第1の混合物をろ過し、濃縮する工程と;第1の残渣を獲得するために、工程(c)および(d)を繰り返す工程と;第2の混合物を生成するために、酢酸エチルおよび第1の溶液を前記第1の残渣に加える工程と;第2の残渣を生成するために、前記第2の混合物をろ過し、乾燥させる工程と;第3の混合物を生成するために、前記第2の残渣と液体アンモニア、ナトリウム金属、および塩化アンモニウムのエタノール溶液を混合する工程と;前記第3の混合物をろ過し、乾燥させる工程により、前記L−またはD−異性体化合物を調製する工程とを含む。
【0061】
本発明のさらに他の側面は、本明細書に開示している化合物を調製するための工程を提供し、第1の混合物を生成するために、シスタミンジヒドロクロライドとアンモニア、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を混合する工程と;沈殿させるために、前記第1の混合物を放置する工程と;第1の残渣を生成するために、前記第1の混合物をろ過し、乾燥させる工程と;第2の混合物を生成するために、前記第2の残渣と液体アンモニア、ナトリウム金属、および塩化アンモニウムのエタノール溶液を混合する工程と;前記第2の混合物をろ過し、乾燥させる工程により、前記化合物を調製する工程とを含む。
【0062】
本発明は、本明細書に開示しているNACアミドまたはNACアミドの誘導体を含む食品添加物をさらに提供する。
【0063】
本発明によって提供される追加の側面、特長および利点は、後述の詳細な説明および例証から明白となるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
(発明の詳細な説明)
本発明は、酸化ストレスおよび/または、フリーラジカル生成が、体内の細胞と、組織と、臓器とに損傷(頻繁に全身性損傷)を起こす様々な疾病、病気、病状および疾患に使用される有効かつ強力な抗酸化物質、グルタチオンN−アセチルシステインアミド(NACアミド)、(図1)または生理学的あるいは薬学的に許容されるその誘導体、塩、エステルの使用に関する。本発明は、処置および本発明における治療上の方法に使用されるNACアミド(例えば、水溶性NACアミド)、生理学的に許容されるその誘導体、塩、あるいはエステルを含む薬学的に許容される組成物を包含する。
【0065】
N−アセチルシステイン(NAC)のアミドの形態であるグルタチオンN―アセチルシステインアミド(NACアミド)は、新規低分子量チオール抗酸化物質およびCu2+キレート剤である。NACアミドは、フリーラジカルのスカベンジャーとしての役割上、細胞損傷に対し保護効果がある。哺乳動物の赤血球(RBC)において、NACアミドは、t−ブチルヒドロキシペルオキシド(BuOOH)誘発細胞内酸化を阻害し、RBC内のBuOOH誘発チオール減少およびヘモグロビン酸化を遅延すると示されている。NACアミドを外部に塗布することで、チオールが減少したRBCの回復は、NACを使用した時よりも、非常に大きかった。NACとは異なって、NACアミドは、ヘモグロビンを酸化から保護した。(L.Grinbergら、Free Radic Biol Med.、2005年1月1日、38(l):136−45)。無細胞系では、還元型グルタチオン(GSH)を生成するために、NACアミドは酸化型グルタチオン(GSSG)と反応することが知られていた。NACアミドは、細胞の酸化還元機構に合併しながら、細胞膜を容易に透過し、細胞内GSHを補充し、細胞を酸化から保護する。中性カルボキシル基のため、NACアミドは、脂溶性および細胞の透過性の向上した性質を有する。(例えば、D.Atlasらの米国特許5,874,468号を参照)。NACアミドはまた、血液脳関門のみならず細胞膜も通過する状態では、NACおよびGSHより優れている。NACアミドは、D・Atlasらへの米国特許6,420,429号に記載されている通りに調製され、その内容物は、ここに参照することにより組み込まれる。
【0066】
NACアミドは、タンパク質およびDNAの合成、輸送、酵素活性、代謝、およびフリーラジカルな媒介損傷からの細胞の保護を含む多くの重要な生物学的現象において、直接的または間接的に機能する可能性がある。NACアミドは、細胞内の適当な酸化状態を維持するのに関与する強力な細胞抗酸化物質である。NACアミドは、多くの細胞で合成され、酸化生体分子をそれらのもとの活性還元型に再循環させることができる。抗酸化物質として、NACアミドは、GSHと同じように、ことによるとそれ以上に有効となる可能性がある。
【0067】
一つの実施形態において、本発明は、特に神経細胞および組織の神経変性疾患におけるグルタミン酸塩誘発細胞毒性の防止、減少、保護、あるいは緩和するためのNACアミドを含む方法および組成物を包括する(実施例1参照)。本実施形態において、NACアミドは、グルタミン酸塩により誘発された酸化毒性の影響から神経組織の細胞を保護する。理論に固着されないように、NACアミド処理は、病的細胞内のGSHぺルオキシダーゼ活性の基質として、GSHを供給するために機能することができる。本発明において、NACアミドは、脂質過酸化反応を抑制し、活性酸素種(ROS)を清掃し、酸化ストレスに対し、闘い、克服するGSHの細胞内レベルを強化する。さらに、NACアミドは鉛をキレートし、鉛誘導性酸化ストレスを予防することができる。NACアミドは、脳に侵入し、抗酸化作用を行うために容易に血液脳関門を通過するため、脳およびその関連部に影響する神経障害および疾患に対し、特に有益で有利である。
【0068】
本実施形態における処置可能な異なる神経変性疾病および疾患は、脳虚血、パーキンソン病を含む。NMDA受容体アンタゴニストとして作用し、抗アポトーシスタンパクBcl−2の細胞内レベルを強化し、グルタチオンに対する抗酸化物質を増加することにより、NACアミドは、誘導てんかん性発作に対する抵抗性を提供するため、発病中の脳損傷の減少と、ミトコンドリア作用への影響を通し、外傷性脳損傷中の保護目的と、炎症の減少および減衰と、低下したかん流疾患によるかん流の向上と、外傷性脳損傷の減少と、クロイツフェルト・ヤコブ病等のプリオン病および狂牛病の治療とのために使用することが出来る。NACアミドは、特に一次知覚神経細胞の死を予防するために、神経系予防と、ミトコンドリア保存と、神経損傷後に見込まれ治療とに使用することが出来る。
【0069】
その他の実施形態において、本発明は、細胞および組織を放射線誘導性酸化ストレスから保護するためのNACアミドを含む方法および組成物を含む。本実施形態において、NACアミドは、放射線誘導性酸化ストレスから組織を守る上で、NACよりも優れている(実施例2)。チェルノブイル事件後の医療危機および、テロリストによる核攻撃の脅威により、高線量の全身被ばくが生じ、高線量の放射線被ばくに起因する3つの可能性のある致死的な脳血管、胃腸および造血の臨床的症候群の誘導により死に至るという関心が高まった。前駆症候群の後の胃腸症候群と、骨髄死の併発は、不可逆性ショックを引き起こす脱水症と貧血と、感染とを誘発する。亜急性の胃腸症候群および造血症候群に対する現在の処置は、脱水症と感染を防止および骨髄再生を促進するための血漿量増大と、血小板と、抗生物質などの支持治療を含む。10Gy以上の放射線量へのヒトの全身暴露は、一様に致命的であるとされている。治療処置で、15Gyまでの全身照射は生存可能であるが、20Gyを超越した場合の症状は、対処不可能である。
【0070】
照射後観察された組織損傷は、タンパクと脂質とDNAの酸化に導く組織の微妙な酸化促進剤/抗酸化剤の均衡を崩壊する、活性酸素種(ROS)の過剰生産が一因である。例えば、グルコサミンシンテターゼ活性部位スルフヒドリル基の酸化は、胃腸症候群の毒性における鍵となる因子である。ROSに暴露されたとき、ポリ不飽和脂肪酸は、酸化され、金属存在下で、マロンジアルデヒド(MDA)などの炭化水素とアルデヒドに分解するヒドロペルオキシドになることが出来る。この脂質の過酸化は、増加した膜の浸透性および膜タンパクの酸化と通して膜機能の重度の損傷を引き起こす可能性がある。DNAの酸化は、鎖分解および結果として起こる改変あるいは細胞死につながることがある。GSHは、ROSの清掃および、血漿と、脳と、腎臓と、肝臓と、肺などの組織内の酸化均衡の維持に関与する主要な細胞内チオールである。本実施形態において、NACアミドは、放射線被ばく後のこれら組織内のGSHレベルを著しく向上する(実施例2)。放射線暴露による脊髄損傷の防止にも、NACアミドの使用が包含される。
【0071】
その他の実施形態において、本発明は、それを必要とする細胞と組織および/またはその被験体に、内因性の産生を刺激する期間、NACアミドの投与あるいは導入を含むサイトカインおよび造血因子の内因性の産生を刺激するためのNACアミドを含む方法および組成物を含む。NACアミドは、免疫システムを調整する因子であり、その生物活動は、腫瘍性疾患と、感染症のみならず、様々な原因による造血および免疫機能低下(赤血球、骨髄系、またはリンパ球の抑制など制限無く)など様々なヒトの疾患に関与するTNF−α、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−I、IL−2、IL−6、IL−10、エリスロポエチン、G−CSF、M−CSFおよびGM−CSFとを含む(ただし必ずしもこれに限定されない)サイトカインおよび造血因子の産生を刺激するために使用する事が出来る。
【0072】
ここに記載された通り、「内因性」は細胞、組織、生命体および被験体内に自然に生じることを意味する。
【0073】
その他の実施形態において、本発明は、細胞、組織および/または被験体内の遺伝子発現におけるNACアミドの応答変化を検出するためのNACアミドを含む方法および組成物を包含し、遺伝子発現において変化を誘導する期間、NACアミドまたはNACアミドの誘導体を細胞、組織、および/または被験体に投与または導入する工程と、遺伝子発現の変化を発見する工程を包含する。細胞とは、内皮細胞、平滑筋細胞、免疫細胞(例えば、赤血球、リンパ球、または骨髄系細胞)と、赤血球、リンパ球、骨髄系細胞の前駆細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞などである。組織とは、髪、肌、または爪の組織、血管組織、脳組織、またその他の多数の組織を含む被験体のいかなる組織である。遺伝子発現の変化は、マイクロアレイ解析によって検出されるのが好ましいが、その他の検出法は、制限無く、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(PT−PCR)、ノーザンブロット法、免疫蛍光発光、免疫ブロット法または酵素結合のイムノソルベントアッセイを包含することが出来るという意味であり、これら全ては、これらの当業者によく知られている技法である。
【0074】
NACアミドおよびNACアミドの誘導体は、例えば、抗血管新生効果を示す内皮細胞内で変化を誘導することができる。NACは、培養において内皮細胞の走化性を抑制し、抗酸化作用およびアンギオスタチンの上方制御を介し、血管の増殖および分化に関与する遺伝子の調整を含む抗血管新生効果を生じると言われている(Pfeffer、Uら、(2005)Mut.Res.591:198−211)。したがって、NACアミドおよびNACアミド誘導体は、例えば、腫瘍の成長および転移を阻止または抑制することで、抗がん剤として血管新生を抑制するために使用することが出来る。
【0075】
細胞、組織、および/あるいは被験体は、NACアミドあるいはNACアミドの誘導体の存在下において、刺激物にさらされることが出来る。例えば、刺激物には、ケモカインCXCL1−16、CCL1−27、XCL1、XCL2、RANTES、MIP1−5(α、β、γアイソフォーム)、MCP−1から5などの走化剤または化学誘引物質剤の存在下で培養された細胞が含まれる。細胞、組織、および被験体は、薬学的薬剤、薬、または処置様式により刺激されることもある。刺激後、DNA,RNAまたはタンパク質は、細胞、組織、および/または被験体から単離され、遺伝子発現の変化が検出できる。例えば、総RNAは、当該分野において公知の従来技術により、細胞から単離することができ、生じるcDNAは、合成され続いてマイクロアレイ解析用のシリコンチップなどの固相担体にハイブリダイズされる。刺激に応じた遺伝子発現の発現データおよび変化は、その後、GeneSpring(Silicon Genetics)などのコンピューターソフトウェアプログラムを用いて解析される。
【0076】
遺伝子発現において変化を示すそのような遺伝子の非制限的な例として、細胞接着、アポトーシスと、ケモカインおよびサイトカイン生合成と、細胞外マトリックス成分の合成と、内皮細胞と、炎症と、MAPキナーゼと、メタロプロテイナーゼとNF−κBと、一酸化炭素と、形質転換増殖因子(TGF)シグナル伝達と、血管に関わるあるいは付随する遺伝子が挙げられる。Pfefferらは、調節された(例えば上方制御あるいは下方制御された)複数のNAC応答遺伝子として、HSP40(熱ショックタンパク質40;DnaJホモログ)と、SERCA2(心筋内のCa2+輸送ATPase)と、MKP2(MAPキナーゼホスファターゼ)と、TIP30(HIV−1 Tat相互作用タンパク質2)と、BTG1(B細胞転座遺伝子1)と、TXL(チオレドキシン様)と、CRADD(デス(death)受容体アダプタータンパク質)と、WSX1(サイトカイン受容体クラスI)と、EMAP2(内皮単球活性タンパク質)と、Jagged1(ノッチ受容体用リガンド)と、MEA5(ヒアルロノグルコサミニダーゼ)と、VRNA(インテグリンαV)と、COL4A1(コラーゲンαlタイプIV)と、uPA(ウロキナーゼ・プラスミノーゲン活性化因子)と、CPE(カルボキシペプチダーゼE)と、TSPAN−6(膜貫通4スーパーファミリーメンバー6)と、FGFB(塩基性線維芽細胞増殖因子)と、I−TRAF(TRAF相互作用因子)と、CDHH(カドへリン13)と、IL10RB(インターロイキンー10受容体β)と、MAP−1(アポトーシス1のモジュレータ)と、hCOX−2(シクロオキシゲナーゼー2)と、CAS−L(Casのようなドッキングタンパク質)、CED−6(CED−6タンパク質)と、CX37(ギャップ結合タンパク質α4)と、ABCG1(ATP結合カセットタンパク質、サブファミリーG)、TRAIL(TNFリガンドスーパーファミリーメンバー10)と、ESEL(内皮接着分子1、セレクチンE)と、CHOP(DNA−損傷−誘導型転写3)と、PIM2(pim−2癌遺伝子)と、MIF−I(ホモシステイン−誘導タンパク質)と、PIG−A(ホスファチジルイノシトールグリカン、クラスA)と、KIAA0062と、HK2(ヘキソキナーゼ2)と、UDPGDH(UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ)と、ERF2(ジンク・フィンガータンパク質36、C3H2型様)と、RAMP(ジンク・フィンガータンパク質198)と、Docl(卵巣癌1に下方制御された)と、GBP−I(グアニル酸結合タンパク質1、インターフェロン誘導性)と、GR(グルココルチコイド受容体)と、ENH(LIMタンパク質−エニグマホモログ)と、Id−2H(DNA結合2の阻害物質)と、BPGM(2,3−ビスホスホグリセリン酸ムターゼ)と、HOXA4(ホメオボックスA10)と、EFNB2(ephrin−B2)と、ART4(Dombrock blood群)と、KIAA0740(タンパク質1を含むRho−関連BTBドメイン)が含まれると報告した。
【0077】
その他の実施形態において、本発明は、感染性薬剤および他の異物を食菌し、微生物を排除するために、活性酸素種およびタンパク質分解酵素により媒介されて、マクロファージおよび好中球を刺激するためのNACアミドを含む方法および組成物を含む。NACアミドは、グルタチオンの効用を上げ、マクロファージ機能を向上するために使用することができる。グルタチオン効用を上げることは、次に胎児性アルコール症候群の肺胞機能を向上させ、未熟な肺胞マクロファージ機能を強化するになる。
【0078】
その他実施形態において、本発明は、不可逆的鎌状細胞赤血球の形成を妨げる細胞内還元型グルタチオンレベルを上げるためのNACアミドを含む方法および組成物を含む。鎌状細胞貧血症およびサラセミアの防止および処置するためのNACアミドの投与に関する方法が提供される。
【0079】
その他の実施形態において、本発明は、持続した高頻度インターフェロンγおよび細胞を生産する腫瘍壊死因子αにより示される通り、サイトカインパターンが調整される組織病理学的調整の機構を介し、リーシュマニアを処理するためのNACアミドを含む方法および組成物を含む。NACアミドは、2つのグルタチオンとともに、動物におけるエフェクター反応の調整に使用される。
【0080】
実施一形態において、NACアミドは、サイトカイン合成と、活性化と、下流のプロセスの下方制御するため、および/または、炎症誘発性シグナルにおいて拮抗作用を与えるために使用される。そのような効果は、サイトカインが疾患の病態生理学に関与する多くの疾患の処置において、効果的である。例えば、酸化ストレスのメディエーターであるサイトカインは、GSH/酸化型グルタチオンジスルフィド(GSSG)輸送および再循環に作用することにより酸化還元平衡を修正することができる。(サイトカインのグルタチオン媒介制御および抗酸化物質の役割に関する総説については、JJ.Haddad,2005,Mol.Immunol.,42(9):987−1014、および JJ.Haddad,2002,Cellular Signalling,14(11):879−897を参照)。その上、ある薬物の投与に関連した肝臓損傷は、炎症誘発性のサイトカインまたは成長因子(例えば、インターフェロンγ)の無調節な生成を刺激する炎症状態により開始あるいは増大される、薬物代謝および薬物消失に関与する酵素およびタンパク質の下方制御につながる。したがって、NACアミドまたはその誘導体は、炎症誘発性サイトカインレベルを減少することができる薬剤として、薬物誘発肝臓細胞毒性(hepatocytoxicity)毒性の抑制および/または取り扱いに有効である。
【0081】
その他の実施形態において、本発明は、化学療法後あるいは途中の骨髄毒性に対するグルタチオン減少の有無に関わらないアルキル化剤を含む癌防御物質として使用するNACアミドおよびその誘導体を含む方法および組成物を含む。
【0082】
その他の実施形態において、本発明は、敗血症、とくにバクテリア敗血症および、グラム陰性敗血性ショック含む敗血性ショックの様々な面を処置するためのNACアミドあるいはその誘導体を含む方法あるいは組成物を含む。NACアミドおよびその誘導体は、発熱性サイトカインの刺激、合成、または放出を妨げるため、また、炎症誘発性サイトカインをコードする遺伝子の調節を通して炎症の起因元を抑制するために、ヒトの末梢血単核球を通して作用することにより、ヒトブドウ球菌エンテロトキシンA(SCC)熱を防止する核因子NF−κBのインヒビターとして作用する。本実施形態において、NACアミドまたはその誘導体は、脂質過酸化反応を抑制するため、および急性化膿性髄膜炎および脳炎の子供の疾患状態を改善するために使用される。NACアミドおよびその誘導体は、百日咳菌による百日咳毒素分泌物を抑制するためおよび、炎症を制限し強力宿主防衛を高めることによる致死的な敗血症の処置のために使用される。低下した細菌コロニーが生存を高めるため、好中球の感染部位および遠位部位への移動は、上方制御され、また最適なGSHレベルは、敗血症に効果的に対応するために重要である。その上、免疫細胞により放出されたROSは、敗血症および敗血症ショックにおける重要なメディエーターである。正常な免疫応答中、抗酸化物質は、主に炎症誘発性メディエーターの調節を介し、進行中の免疫応答を下方制御する働きをする。
【0083】
他の実施形態において、NACアミドまたはその誘導体を含む方法および組成物は、微生物など(例えば、バクテリアと、寄生虫と、線虫と、酵母菌と、真菌と、変形体と、マイコプラズマと、胞子)が原因でおこる感染および疾患(例えば、マラリア感染と、結核とリケッチア感染)の処置に使用することができる。関連側面において、ヒトに疾患をもたらす連鎖球菌、ブドウ球菌、サルモネラ菌、バチルス(結核菌)等などの多種のバクテリアによる感染は、低酸素症誘発転写因子1またはHIF−1のレベルを上げるための体内の白血球(すなわち白血球細胞)による直接反応を誘発することが最近発見された。HIF−1タンパク質は、細胞DNAに結合し、低酸素環境において細胞機能の手助けをするために特異遺伝子を活性化する。代わりに、HIF−1は、バクテリアを殺傷するために協力しあう、低分子タンパク質と、酵素と、酸化窒素などの抗菌性化合物を生成および放出するために、白血球細胞を刺激する。その上、感染部位に生じる低酸素レベルは、基本的に侵入した微生物を摂取および破壊するマクロファージおよび好中球のHIF−1を活性化することが発見された。白血球細胞内のHIF−1レベルが上がるほど、抗バクテリアの活性も上がる。本発明の本側面および白血球細胞の死滅機能を制御する場合におけるHIF−1の影響を考慮して、バクテリア等の直接死滅に対する代替法とは、バクテリア死滅能力をブースト(boost)するために白血球細胞内のHIF−1の活性を促進する小分子などの薬剤を使用し、その結果、免疫系の自然防御機構の作用を通し、感染に対する解決を促進する。その薬剤の一つが、NACアミドであり、これはHIF−1、すなわちHIF−1αの細胞レベルを増加させ、その結果、微生物を死滅するためにマクロファージなどの白血球細胞の能力を強化し微生物の増殖を死滅あるいは阻害する方法に用いることができる。NACアミドの脂溶性および細胞透過性の強力な特質を有しないN−アセチル−L−システイン、NAC、グルタチオン(GSH)前駆体およびROSスカベンジャーでは、上皮細胞内においてHIF−1αを誘発することが示されているので(JJ.E.Haddadら、2000、J.Biol.Chem.,275:21130−21139)、これらの細胞の殺菌潜在能力を活性化させるために白血球細胞内のHIF−1α生成を調整するNACアミドの使用は、本発明によって提供される改善された抗酸化物質処置として受け入れられている。本発明は、さらに、バクテリア感染、とくに抗生物質耐性または、結核を引き起こす微生物などの多抗生物質耐性における処置として使用される場合の静菌性薬剤として、NACアミドまたはその誘導体の使用法を目的としている。
【0084】
関連形態において、本発明は、感染または汚染微生物の死滅を誘発するための生態防御薬としてのNACアミドまたはその誘導体の使用を目的としている。これらの種類の微生物は、一般に広りそして/または抗生物質耐性となるように遺伝子的に修正された場合、健康への深刻な害を及ぼすことがある。以下の一覧は、NACアミドおよびその誘導体が適切な対応策として提供され、罹患生命体および/またはその細胞を処置するために単独あるいは他の活性化合物、薬剤、物質と併用して使用される微生物、ウイルス、疾患および薬剤の種類を説明する。
【0085】
伝染性疾患:アフラトキシン、アルファウイルス東部ウマ脳炎ウイルス、アルファウイルスベネズエラウマ脳炎ウイルス、抗生物質耐性マイコバクテリア結核、アレナウイルスフニンウイルス、アレナウイルスラッサ熱ウイルス、回虫(線虫)、鳥インフルエンザ、炭疽菌(炭疽菌)、ボレリア菌、ブルセラ菌、セパシア菌槌骨(鼻疽)、オウム病クラミジア(オウム病)、クラミジアトラコマチル(トラコーマ)、ボツリヌス菌(ボツリヌス中毒症)、ウェルシュ菌(ガス壊疽)、コクシジオイデス・イミティス、コクシエラ・バーネッティ(Q熱リケッチア)、クリプトスポリジウム・パルバム、渦鞭毛藻神経毒素(麻痺性貝毒)、メジナ虫(糸状虫)、エボラウイルス、赤痢アメーバ(アメーバ症)、ウェルシュ菌のイプシロン毒素、大腸菌、フラビ・ウイルス属黄熱病ウイルス(ウエスト・ナイル・ウイルス、デング熱など)、野兎病菌(野兎病菌)、ランブル鞭毛虫(ランブル鞭毛虫症)、ハンタウイルス、ヘニパウィルス、ウイルス属ニパウイルス(ニパ脳炎)、HIVおよびAIDS、インフルエンザ、ドノバン・リーシュマニア、マールブルグ・ウイルス、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、ライ菌(ハンセン病)、マイコバクテリウム・ウルセランス(ブルーリ腫瘍)、ナイロウイルスクリミア・コンゴ出血熱、アメリカ鉤虫/ズビニ鉤虫(鉤虫)、回旋糸状虫(糸状虫症)、オルトポックスウイルス、原病性ヘモフィルス、原病性サルモネラ菌、原病性赤痢菌、原病性連鎖球菌、静脈ウイルスリフトバレー熱ウイルス、熱帯熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫(マラリア)、リシン毒素(トウゴマ油)、リケッチア・リケッチイ(ロッキー山紅斑熱)、リケッチア・チフィ(発疹チフス)、サルモネラ・チフィ(腸チフス)、マンソン住血吸虫、S.住血吸虫、S.日本住血吸虫、シゲラ・ディゼンテリエ、天然痘、ブドウ球菌腸毒素B、ダニ媒介脳炎ウイルス、ダニ媒介出血熱ウイルス、トキソプラズマ原虫、トレポネーマ、トリコテセン系マイコトキシン、ヒト鞭虫(鞭虫)、トリパノソーマ・ブルーセイ、ガンビアトリパノソーマおよびローデシアトリパノソーマ、ビブリオ種(コレラ)、バンクロフト糸状虫およびマレー糸状虫、ペスト菌(黒死病)。
【0086】
その他の害:ルイサイトと、窒素と、硫黄マスタードとを含むびらん剤、水素シアン化合物とシアン塩化物とを含む血液剤、ハイブリッド生命体と、遺伝子組み換え生命体と、抗生物誘発毒素と、自己免疫ペプチドと、免疫模倣剤と、両生物兵器と、ステルスウイルスと、生体調節因子および生物モジュレータとを含む外来剤、ヒ素と、鉛と、水銀とを含む重金属、BZを含む無能力化剤、タブンと、サリンと、ソマンと、GFと,VXと,V−ガスと、第三世代神経ガスと、有機リン農薬と、カルバメイト系殺虫剤とを含む神経ガス、ホスゲンおよび塩素塩化ビニルを含む肺薬剤である核物質および放射線物質、ベンジンと、クロロホルムと、トリハロメタンとを含む揮発性剤。本発明において、NACアミドおよびその誘導体は、バイオテロに関連した、および/またはバイオテロにより生じた、既知および新興の自然伝染性疾患と、外傷(例えば過剰出血)と、その他の事象に対する刷新的な処置としての役目を果たすことが出来る。
【0087】
実例的に、発疹チフスおよび斑点熱リケッチア症の発症の原因となるリケッチアは、血管内皮細胞内に侵入後、特に脳および肺において、深刻な有害な血管症状および出血症状(例えば、血管の浸透性および浮腫の増大)を引き起こす。R.リケッチア感染した内皮細胞は、細胞膜に過酸化的損傷を引き起こすROSを生成する。(DJ・Silvermanら、1990、Ann.N.Y.Acad.Sci,590:111−117;D.H.Walkerら、2003、Ann.N.Y.Acad.Sci.,990:1−11).R.リケッチア感染した内皮細胞に対する酸化ストレス媒介損傷が、GSHなどの宿主成分の減少および、ROS誘発損傷に対する宿主防衛として働くカタラーゼのレベルに関連しているため、過酸化水素およびROSの濃度は、細胞内で増加しROS誘発細胞損傷を引き起こす。同じように、マイコプラズマ(例えばマイコプラズマニューモニエ)に感染した細胞(例えば線維芽細胞)もまた、過酸化水素の細胞内濃度増加およびカタラーゼ濃度減少を生じ、それにより、感染細胞の死につながる酸化ストレスをもたらす。(M.Almagorら、1986、Infect.Immun.,52(1):240−244)。リケッチアや、マイコプラズなどの微生物を感染により細胞内に誘発された酸化ストレスの改善効果を提供するために、NACアミドおよびその誘導体は、治療上の抗酸化物質として感染宿主に提供される。本発明による、細胞および/または生命体(例えば感染した宿主哺乳動物)への、単独あるいは、他の薬剤および/または抗酸化物質と併用したNACアミドの投与により、微生物の感染により誘発された酸化的損傷の量および範囲が制限できる。
【0088】
別の実施形態では、本発明は、脳室周囲白質軟化症(PVL)の防止に使用するためのNACアミドまたはその誘導体を備える方法および組成物を含む。NACアミドまたはその誘導体は、神経保護を提供し、また発達中の脳の白質損傷におけるLPS誘発炎症反応に対するOPCの変性を減衰し得る。さらに、NACアミドまたはその誘導体は、PVLおよび脳性麻痺(CP)のリスクを最小限にする手段としての胎盤感染の処置として使用してよい。
【0089】
別の実施形態では、本発明は、骨粗しょう症処置のためのNACアミドまたはその誘導体を備える方法および組成物を含む。腫瘍壊死因子のメンバーであるRANKLは、その関連受容体であるRANKの結合を通して、破骨細胞の分化、活性化、および生存を規制する。RANKは、いくつかのTNF受容体関連因子(TRAF)と相互に作用し、Akt、NF−κB、およびMAPKを含む信号伝達分子を活性化させることができる。受容体活性化による活性酸素種の一時的上昇は、細胞の二次情報伝達物質としての機能を果たすことが示されてきたが、RANK信号経路におけるROSの関与は、特徴が明らかにされていない。RANKLは、ROS生成および破骨細胞を刺激することができる。この実施形態によると、NACアミドを使用して破骨細胞を前処置あるいは処置し、RANKL誘発Akt、NF−κB、およびERKの活性化低下を達成することができる。NACアミドによるNF−κB活性の低下は、IKK活性およびIκBαリン酸化反応の減少と関連付けてよい。NACアミドまたはその誘導体による前処置は、骨再吸収活性および破骨細胞生存に要求される、RANKL誘発アクチン環形成を低下させるために使用することができる。NACアミドまたはその誘導体を備える方法および組成物は、破骨細胞の妨害および干渉により、骨粗しょう症を改善するために使用され、またRANKL誘発細胞機能を低下させることにより、反応性酸化ストレスレベルを下げ、骨量の減少を防止する有益な効果を有することができる。
【0090】
関連する実施形態では、NACアミドまたはその誘導体は、反応性酸化種(ROS)による破骨細胞刺激を媒介するチオールチオレドキシン−1を妨害することにより、また、特にエストロゲンが欠乏している状況で骨量の減少の原因となるTNF−αを妨害することにより、骨粗しょう症処置に使用される。
【0091】
別の実施形態では、本発明は、多嚢胞性卵巣症候群の処置に使用されるNACアミドまたはその誘導体を備える方法および組成物を含む。NACアミドまたはその誘導体は、PCOS多嚢胞性卵巣症候群におけるホモシステインおよび脂質状態を回復させるための処置上の薬剤として使用してもよい。
【0092】
別の実施形態では、本発明は、例えば硫黄マスタード(HD誘発肺損傷)などの毒物暴露、およびそれに関わる病気の処置および療法におけるNACアミドまたはその誘導体の使用を包含する。毒素に暴露されてきたあるいは毒物暴露を患う個人に対する、NACアミドまたはその誘導体による処置は、炎症反応の低下を実現するために、好中球数を減少させてよい。NACアミドおよびその誘導体は、硫黄マスタード蒸気暴露に誘発された肺損傷を有する患者に対する処置化合物として有効であってよい。NACアミドまたはその誘導体は、経口あるいは気管支肺胞洗浄としてのいずれかで投与することができる。抗グルタミン酸毒素活性を有する薬剤として、NACアミドおよびその誘導体は、CW、発疱剤、硫黄マスタード、ナイトロジェンマスタード、クロロエチルアミン、ルイサイト、神経ガスO−エチルS−(2−[ジ−イソプロピルアミノ]エチル)メチルホスホロチオエート(VX)、タブン(GA)およびサリン(GB)、およびソマンDG、および血液剤クアノゲンクロライドを含む人工的な軍事用薬剤における脳および/または肺損傷、および認知機能障害を妨げるための方法および組成物において有効であり、また有機リンに誘発される痙攣および神経病理学的損傷の防止に有効である。
【0093】
別の実施形態では、本発明は、熱傷の処置における使用のためのNACアミドを備える方法および組成物を含む。NACアミドまたはその誘導体は、NF−κBを妨げることができ、火傷および火傷敗血症を減少させることが示されてきた。NACアミドまたはその誘導体を使用して、微小血管循環を保護し、組織脂質過酸化反応を減少させ、心拍出量を向上させ、要求される急速輸液の量を減少させることができる。NACアミドまたはその誘導体は、火傷に関連する心臓のNF−κB核移動の防止およびTNF−α、IL−1β、およびIL−6の心筋細胞分泌の向上に、また心臓の機能不全を改善するために使用することができる。細胞酸化ストレスと火傷媒介損傷との関連は、NACアミドまたはその誘導体を、熱傷患者の組織および臓器を保護するために、フリーラジカル形成を阻害する、および/またはフリーラジカルを除去することができる抗酸化物質として処方するための手段を提供する。
【0094】
別の実施形態では、本発明は、大気汚染およびディーゼル排気微粒子の悪影響による肺損傷の防止に使用するためのNACアミドあるいはNACアミドの誘導体を備える方法および組成物を含む。
【0095】
別の実施形態では、本発明は、循環器疾患および病気の処置および療法に使用されるNACアミドまたはその誘導体を備える方法および組成物を含む。NACアミドおよびその誘導体は、アンジオテンシン変換酵素の遮断薬として使用することができる。急性心筋梗塞では、NACアミドまたはその誘導体は、酸化ストレスを減少させるために使用することができ、またより速いかん流、左室のより優れた維持、梗塞面積の減少、広範囲および局所的左室機能のより優れた維持、およびQSR複合体形態とECGの修正のために使用することができる。NACアミドまたはその誘導体は、実験的脳梗塞における脳の保護および炎症の低減を有し、局所性脳虚血の処置に使用することもできる。NACアミドは、再かん流傷害、また心筋内皮細胞および間質組織のアポトーシスの処置に使用することができる。栄養補助食品として、NACアミドまたはその誘導体は、酸化窒素レベルの上昇を援助し、循環器疾患の管理に重要な役割を果たし、循環器疾患における慢性炎症を低減し、冠状動脈および頸動脈に設置された心血管ステントの再狭窄を防止してよい。NACアミドおよびその誘導体は、酸化ストレスの防止および左室リモデリング改善により、MIおよび心筋症後の心不全の防止に使用することができる。この能力でのNACアミドまたはNACアミドの誘導体の使用は、酸化ストレスの心筋血管の機能不全および高血圧への関与に対応し、心筋微小血管系を保護するための抗酸化物質戦略の役割を提供する。NACアミドまたはその誘導体は、筋肉中の酸化タンパク質の防止に使用することもできる。
【0096】
本発明の別の実施形態では、NACアミドまたはその誘導体を備える方法および組成物は、動脈硬化の処置、および冠動脈狭窄の記録を有する高脂血および正常脂血の個人における、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールの血中濃度の増加のために使用することができる。NACアミドまたはその誘導体は、冠動脈およびアルファ−ベータストレスを低減し、さらに心筋梗塞を防止し、体脂肪を減少させることにより、特に過体重あるいは肥満の個人において、耐糖能を向上させるためにも使用することができる。NACアミドまたはその誘導体は、高齢者において、筋肉機能を向上させ、腫瘍壊死因子のレベルを下げるために使用することができる。
【0097】
他の実施形態では、本発明は、血小板における酸化ストレスの改善による、サラセミア血液の処置での、NACアミドまたはその誘導体を備える方法および組成物の使用を対象としている。血小板の活性化は、血栓塞栓の結果につながり、凝固能亢進状態を引き起こすが、これは抗酸化NACアミドまたはその誘導体による処置に適している。一つの実施形態では、NACアミドまたはその誘導体は、好中球機能を促進させる創傷被覆材として有効である。一つの実施形態では、NACアミドまたはその誘導体は、糖尿病患者における心臓血管系危険因子であるレプチンの効果を妨げるために使用される。一つの実施形態では、NACアミドまたはその誘導体は、高い尿中排せつ量を有する総血漿ホモシステインおよびシステイン値の処置、また高ホモシステイン血症の病状の処置に使用され、酸化ストレスを改善する。ホモシステイン値の上昇は、アテローム硬化性心臓血管疾患、静脈血栓症、心臓発作、および卒中、さらに神経管欠損、および新生組織形成などの血管疾患の著しい危険をもたらす。ホモシステインは、フリーラジカル反応を促進する。ホモシステイン代謝障害を有する患者では、比較的高い値のホモシステインが血中に存在する。そのため、本発明に従って、NACアミドまたはその誘導体は、高濃度のホモシステインを有する患者に投与される。一つの実施形態では、NACアミドまたはその誘導体は、アルキル化剤などの化学療法のあとまたは最中に、グルタチオン枯渇を付随して、あるいは付随せずに、骨髄毒性に対する癌防御物質として使用される。一つの実施形態では、NACアミドまたはその誘導体は、リチウム誘発腎不全の処置に使用される。一つの実施形態では、NACアミドまたはその誘導体は、前立腺癌の発癌および炎症となる可能性がある前立腺炎症の処置に使用される。
【0098】
別の実施形態では、NACアミドまたはその誘導体は、肺疾患薬、特に酸素媒介の肺疾患に使用される。NACアミドまたはその誘導体は、冠動脈手術中に心肺バイパスの酸素化を改善することが可能で、慢性閉塞性肺疾患および肺高血圧の処置に有効である。一つの実施形態では、NACアミドまたはその誘導体は、抗酸化物質の減少を誘発する可能性がある高エネルギーインパルス音放出による、肺損傷の処置に使用される。したがって、NACアミドあるいはその誘導体の投与は、有益な抗酸化物質源を供給する。NACアミドまたはその誘導体は、音放出への暴露の前に栄養補助食品として供給されると、特に有効である。NACアミドまたはその誘導体は、酸化ストレスの上昇を伴うぜんそくの処置に有効である。NACアミドまたはその誘導体は、成人呼吸窮迫症候群の処置、肺線維症、特発性肺線維症、およびアスベスト暴露の処置、および慢性肺拒絶反応の処置に有効である。さらに、NACアミドまたはその誘導体は、職業性イソシアネート暴露、およびイソシアネート−タンパク質共役と気道上皮細胞毒性との2つの過程により発現すると考えられているイソシアネートアレルギーの発現のための使用を意図している。さらに具体的には、NACアミドまたはその誘導体は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の細胞タンパク質との共役を防ぎ、イソシアネート暴露後のヒトの気道上皮細胞に対するHDI毒性を減少させる役割を果たすことができる。したがって、NACアミドまたはその誘導体は、この労働災害に関連するアレルギー感作およびぜんそくの発現を防止する役に立つ。
【0099】
別の実施形態では、本発明は、慢性的あるいは急性的に感染した細胞におけるHIV複製を阻害するための、NACアミドまたはその誘導体の使用を包含する。NACアミドおよびその誘導体は、統合HIVゲノムの発現を妨害し、それによりAZT、ddI、ddC、D4Tなどの現在採用される抗レトロウイルス薬とは違う方式でウイルスを攻撃するため、NACアミドはGSH代償療法に使用することができる。NACアミドまたはその誘導体は、1)HIV感染におけるB−リンパ球によるTNF−αの分泌過多、および2)HIVのgp120タンパク質によるアラキドン酸代謝の触媒作用に起因するであろう、HIV感染における過剰なフリーラジカル反応に対抗する際にも有益である。免疫系の主要な細胞型による抗酸化物質に対する生理学的要件、およびマクロファージの細胞内抗酸化物質を取り込む能力、また代謝的にT−リンパ球と相互に作用して間接的に抗酸化物質の濃度を上昇させる能力は、NACアミドまたはその誘導体が、HIV/AIDS患者における抗酸化物質欠乏を補正するのに有効であるさらなる理由を提供する。NACアミドおよびその誘導体は、ゲル誘発チオールの膣内挿入による使用で、膣組織において、ウイルスおよびバクテリア種の抑制剤としての役割を果たす。
【0100】
HIVは、抗酸化分子の破壊だけでなく、GSH枯渇や細胞器官および高分子の破壊にも繋がる病的フリーラジカル反応を開始させることで知られているため、NACアミドおよびその誘導体は、それを必要とする哺乳動物における抗酸化物質の濃度を回復させ、固有点でウイルスの複製を拘束し、有毒なフリーラジカル、プロスタグランジン、TNF−α、インターロイキン、および免疫抑制性であり、筋肉の消耗および神経症状の原因となる酸化脂質およびタンパク質のスペクトルの生成を特異的に防止するために使用することができる。抗酸化物質の濃度を元に戻すためのNACアミドまたはその誘導体の投与は、安全かつ経済的に、疾患の進行を遅延させ、あるいは停止させることができる。
【0101】
HIVによる感染など、一定のウイルス感染は、抗酸化物質の濃度の減少に関連しているため、本発明の一つの側面は、AD3の導入あるいは投与によって、HIVの複製を妨げ、HIV感染に関連する事象のカスケードを防止、遅延、減少、あるいは緩和することにより、感染細胞における抗酸化物質の細胞内濃度を増加させ、また細胞外の抗酸化物質を増加させるためのものである。AIDSもGSSG濃度の低下に関連する可能性があるため、ある量のNACアミドを、それを必要とする細胞および/または個人に提供することにより、GSHなどの抗酸化物質の新規合成への妨害、またHIV感染細胞で発生する可能性がある既存のGSHの酸化を克服することができる。本発明に従うと、NACアミドまたはその誘導体は、サイトカイン刺激性のHIV発現、および急性的に感染した細胞、慢性的に感染した細胞、および正常な末梢血単核細胞における複製を阻害するために使用される。NACアミドまたはその誘導体は、慢性的に感染した細胞におけるTNF−αまたはIL−6により誘発されるHIV発現の濃度依存性阻害を達成するために使用することができる。NACアミドの細胞膜を通過する優れた能力と高度な親油性により、NACアミドおよびその誘導体は、NACあるいはGSHと比較して、2倍、5倍、10倍9、100倍、1,000倍、10,000倍あるいはそれ以下など、より低い濃度で使用することができる。
【0102】
さらに、感染細胞におけるHIVによる抗酸化物質の減少は、アポトーシスとして知られる過程あるいはプログラム細胞死に関連する。NACアミドまたはその誘導体をHIVに感染した個人および/または細胞に提供することにより、GSHを人工的に激減させ、また細胞死に繋がってよい細胞内過程は、防止、妨害、減少させることができる。同様に、NACアミドチオールは、ウエスト・ナイル・ウイルスからの生物複製の遮断薬、またウエスト・ナイル・ウイルス感染、また他のRNAおよびDNAウィルス感染後の細胞変性効果から細胞を保護するものとして使用される。
【0103】
本発明に従うと、NACアミドまたはその誘導体は、処置あるいは療法の方法に適した、当業者には当然であるいくつかの経路により投与してよい。NACアミドおよびその誘導体投与の経路および形態の例としては、皮下、静脈、筋肉内、および胸骨内を含む、注射による非経口経路が挙げられるが、これに限定されない。その他の投与形態には、経口、吸入、外用、経鼻、髄腔内、皮内、点眼、膣内、直腸内、経皮、腸内、注入カニューレ、持続放出、および舌下経路が含まれるが、これに限定されない。NACアミドおよびその誘導体の投与は、持続注入によっておこなってもよい。本発明の一実施形態では、NACアミドおよびその誘導体の投与は、内視鏡手術により媒介されてよい。脳を冒すさまざまな神経系疾患あるいは障害の処置のために、NACアミドまたはその誘導体は、脳室の内側を覆う組織に導入することができる。脳のほぼ全領域の脳室系は、疾患あるいは障害に冒された脳のさまざまな部分に容易に到達することを可能とする。例えば、処置のために、カニューレや浸透圧ポンプなどの機器を埋め込み、NACアミドあるいは薬学的に許容される組成物の要素としてのその誘導体などの処置化合物を投与することができる。NACアミドおよびその誘導体の直接注入も包含される。例えば、脳室と多くの脳の領域との近接性は、NACアミドによる処置部位あるいはその周辺に分泌あるいは導入された神経物質の拡散を助長する。
【0104】
受容者への投与、例えば注入投与では、水溶性NACアミドまたはその誘導体を含有するよう処方された組成物あるいは調製液は、通常滅菌溶液あるいは懸濁液中に加えられる。あるいは、NACアミドまたはその誘導体は、防腐剤、安定剤、および溶液または懸濁液を受容者の体液(血液など)と等張にする物質を含有してよい、薬学的および生理学的に許容される水性または油性媒体に再懸濁することができる。使用に適切な賦形剤の例としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、0.15M水性塩化ナトリウム溶液、デキストロース、グリセロール、希エタノールなど、およびその混合物が挙げられるが、これらに限定されない。例となる安定剤は、ポリエチレングリコール、タンパク質、サッカリド、アミノ酸、無機酸、および有機酸であり、これらは単体で使用しても、混合物としてもよい。
【0105】
外用投与のためのNACアミドまたはその誘導体を含有する製剤は、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、坐薬、滴剤、液体、スプレー、および粉剤を含んでよいが、これらに限定されない。NACアミドまたはその誘導体は、パッドあるいはスポンジに吸収された液体、ゲル、クリーム、およびゼリーの形状で粘膜に投与してよい。従来の薬剤担体、水性、粉末、または油性基剤、増粘剤などは、必要あるいは望ましくてよい。経口投与のためのNACアミドまたはその誘導体を含有する組成物には、粉剤または顆粒、水あるいは非水性媒体を用いた懸濁液あるいは溶液、サッシェ、カプセル、または錠剤が含まれる。増粘剤、希釈剤、香料、分散補助剤、乳化剤、または結合剤は、望ましくてよい。非経口的投与のための製剤には、緩衝剤、希釈剤、およびその他の適切な添加剤も含んでよい滅菌溶液が含まれるが、これに限定されない。
【0106】
本発明は、好ましくはヒトである哺乳動物による消費用のNACアミドまたはその誘導体を含有する食品添加物も提供する。NACアミドおよびその他のシステイン誘導体は、ニンニク、胡椒、ターメリック、アスパラガス、およびタマネギを含むがこれに限定されない、さまざまな食品で検出されている。例としては、Hsu,C.C.らによる、J.Nutr.134:149−152(2004)、およびDemirkol,O.らによる、J.Agric.Food Chem.52(2004)を参照されたい。食品添加物は、食材に添加することが意図される液体あるいは固体材料に、NACアミドあるいはその誘導体を備えることができる。食品添加物は、特に飲食によるヒトの消費を意図し、ミネラル、炭水化物(糖を含む)、タンパク質、および/または脂肪の形状で栄養素または刺激物を含有してよい、未加工、調理済み、加工済みのあらゆる製品を含む「食品成分」に添加することができるが、これら食品成分はここに提供されるNACアミドまたはNACアミドの誘導体を備える食品添加物を組み込むことで加工されてきた。この加工食品成分は、「機能性食材または食品成分」と特徴付けることもできる。「食材」は、純粋な飲料水を意味するとも理解することができる。
【0107】
「食品添加物」と言う用語は、食材に添加することを意図されたあらゆる液体または固体材料を意味すると理解される。この材料は、例えば、塩または味あるいは風味を増強または修正するその他あらゆるものなど、明確な味および/または風味を有することができる。ただし、NACアミドまたはNACアミド誘導体を備える食品添加物は、必ずしも明確な味および/または風味を有する薬剤でなくてもよいことに留意されたい。
【0108】
NACアミド、またはNACアミドの食品添加剤と併用して添加することができる他の食品添加物には、風味を「はっきり」させために添加され、また防腐剤および抗酸化物質としての役割も果たす、酢、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸などの酸、酸性度調節剤、固化防止剤、消泡剤、ビタミンCおよびビタミンEなどのトコフェロールなどの抗酸化物質、スターチなどの充填剤、食品着色料、保色剤、乳化剤風味、調味料、保湿剤、防腐剤、高圧ガス、安定剤、寒天やペクチンなどの増粘剤およびゲル化剤、および甘味料が含まれるが、これに限定されない。
【0109】
NACアミドまたはその誘導体の用量、量、または分量、また使用される投与経路は、個別基準で決定され、当業者に既知の、同種の用途あるいは適応症で使用される量に相当する。当業者には当然なように、投薬は、処置される病気の重症度および反応性によるが、通常は1日1回以上であり、処置過程は数日から数ヶ月、あるいは治癒がもたらされるまで、または病状の減退が達成されるまで継続される。当業者は、最適な用量、投薬法、繰り返し率を容易に判断することができる。例えば、経口投与の投与形態のための製剤処方は、NACアミド、または薬学的に許容される塩、エステル、またはその誘導体を、1用量当り少なくとも25〜500mgに相当する量、あるいは1用量当り少なくとも50〜350mgに相当する量、あるいは1用量当り少なくとも50〜150mgに相当する量、あるいは1用量当り少なくとも25〜250mgに相当する量、あるいは1用量当り少なくとも50mgに相当する量で含有することができる。NACアミドまたはその誘導体は、ヒトにもヒト以外の哺乳動物にも投与することができる。したがって、ヒトおよび動物医学双方での用途を有する。
【0110】
NACアミドの適切なエステルの例には、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステル、t−ブチルエステル、コレステリルエステル、イソプロピルエステル、およびグリセリルエステルから選択されるアルキルおよびアリールエステルが含まれる。
【0111】
ここに記載されるように、AIDS、糖尿病、黄斑変性、うっ血性心不全、循環器疾患および冠動脈再狭窄、肺疾患、ぜんそく、中毒性および伝染性肝炎などのウィルス感染、狂犬病、HIV、敗血症、骨粗しょう症、毒物暴露、放射線被ばく、熱傷、プリオン病、神経系疾患、血液疾患、動脈疾患、筋肉疾患、腫瘍および癌を含む、多数の病気、疾患、および病状は、細胞内抗酸化物質の濃度の低下に関連すると考えられる。これらの疾患および病気の多くは、不十分なグルタチオン濃度による可能性がある。さらに、毒素、放射能、薬物療法などへの暴露は、各種癌化学療法を含み、フリーラジカル反応を引き起こす可能性がある。したがって、本発明は、特に経口投与に便利かつ有効な処方で、これらの疾患および病気を処置することができる薬剤としてNACアミドまたはその誘導体を提供する。外因性のNACアミドまたはその誘導体の投与は、栄養補助食品として使用でき、肝臓のGSH産出量を補完あるいは補充し、生物内の減弱した状態の管理を支援することができる。フリーラジカル反応を緩和できないと、重篤な高分子の損傷だけでなく、脂質過酸化反応および毒性化合物の生成をも引き起こす可能性のある望ましくない連鎖の発生を許す。十分な濃度のGSHを維持することは、これらのフリーラジカル反応を妨げるために必要である。天然GSH濃度が弱体化あるいは脅かされる場合に、NACアミドまたはその誘導体は、効率的で有効な改善措置を提供することができる。
【0112】
NACアミドは、銅および鉛を有するキレート化錯体を形成することができる。NACアミドは、血漿中に銅を有する循環錯体を形成することもできる。したがって、NACアミドまたはその誘導体は、金属毒性を処置するために投与することができる。NACアミド金属錯体は排泄されるため、金属負荷を低減する。したがって、NACアミドまたはその誘導体は、例えば鉄、銅、ニッケル、鉛、カドミウム、水銀、バナジウム、マンガン、コバルト、プルトニウム、ウラン、ポロニウムなどの超ウラン金属などのさまざまな金属に関連する毒性の処置のために投与してよい。NACアミドのキレート化特性は、抗酸化特性とは独立していることを留意されたい。しかしながら、例えば鉄など、金属毒性のいくつかは、フリーラジカル媒介であるため、NACアミド投与は、かかる状況では特に有利であってよい。
【0113】
高いバイオアベイラビリティを提供するために、NACアミドまたはその誘導体は、経口投与の場合、比較的高濃度で、例えば十二指腸など粘膜の近接に提供されてよい。したがって、NACアミドまたはその誘導体は、空腹時に単回のボーラスとして投与することができる。好ましい用量は、約100〜10,000mgのNACアミド、あるいは約250〜3,000mgのNACアミドである。さらに、NACアミドまたはNACアミド誘導体製剤は、アスコルビン酸などの還元剤によって安定化し、保存中および吸収前の消化管での酸化を抑えてよい。アスコルビン酸結晶の使用は、高度なカプセル封入を提供し、封入装置の潤滑剤としての役割を果たすという付加利益を有する。2分割ゼラチンカプセルなどのカプセルは、NACアミドを大気や湿気から保護しつつ、胃中で素早く溶解させる剤形である。カプセルは、多くの供給元から入手してよい00サイズの標準2分割ハードゼラチンカプセルであることが望ましい。充填後、カプセルは、保存中の酸化を抑えるために、窒素下で保存されることが望ましい。カプセルは、参照することによって全体として本書に組み込まれる、米国特許第5,204,114号の方法に従って、帯電防止剤および安定剤としてのアスコルビン酸結晶を使用して、充填されることが望ましい。さらに、各カプセルは、500mgのNACアミドと250mgのアスコルビン酸結晶を含有することが望ましい。望ましい組成物には、他の賦形剤または充填剤が含まれないが、その他の適合する充填剤または賦形剤が添加されてもよい。異なる量および比率のNACアミドおよび安定剤が使用されてもよいが、標準00カプセルを充填し、有効な安定性と高用量を提供することから、これらの量が望ましい。さらに、炭酸カルシウムは不純物を含有し、また胃酸を中性化する塩基としての作用により、小腸内でのNACアミドの劣化を促進する可能性があるため、炭酸カルシウムの添加は避けられる。
【0114】
NACアミドまたはその誘導体は、長期間にわたり有利に投与される。したがって、有効な組み合わせは、NACアミドまたはNACアミド誘導体と、慢性症状の処置を意図する薬物とを含む。かかる薬物は、空腹時に吸収がよく、有害な相互作用あるいは結合吸収の低下または変動を有さない。ある特定の薬物の分類には、中枢および末梢のアドレナリンまたはカテコール系(catecholenergic)作動薬、あるいは再取り込み遮断薬が含まれるが、これらは神経毒性、心筋症、およびその他の臓器損傷を含む多数の毒性効果を発生する可能性がある。これらの薬物は、例えば、心臓、循環器官、肺の薬物療法、麻酔薬、および向精神/抗精神病薬剤として使用される。これらの薬物のうちいくつかは、興奮剤、幻覚剤、および他の種類の精神作用として、乱用の可能性も有する。フリーラジカル開始に関連するその他の薬物には、ソラジン、三環系抗うつ剤、キノロン系抗生物質、ベンゾジアゼピン系薬、アセトアミノフェン、およびアルコールが含まれる。そのため、NACアミドまたはその誘導体は、哺乳動物においてフリーラジカル反応を開始することができる有効な薬品量に従って、約50〜10,000mgでの経口製剤処方で、有利に提供することができる。この薬品は、例えばアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、ヒスタミン、コリン、GABA、精神作用、キノン、キノロン、三環系、および/またはステロイド薬剤である。
【0115】
以下の本発明の側面では、NACアミドまたはその誘導体の製剤は、有利なGSH投与の代替物を提供する。NACアミドまたはその誘導体は、脂溶性および細胞透過性という有益な特性を備え、それによりGSH、NAC、または他の化合物よりも素早く細胞に侵入し、素早く血液脳関門に浸潤することができる。NACアミドまたはその誘導体のこの特性は、投与後のバイオアベイラビリティを向上させ、ここに述べられるさまざまな疾患、障害、病状、および病気に対し、より高度な処置を提供してよい。
【0116】
肝臓グルタチオンは、アミノグリコシド系抗生物質、アセトミノフェン、モルヒネ、および他のアヘン剤を含む多数の薬剤の代謝、異化、および/または排出において消費される。肝臓グルタチオンの減少は、肝臓の損傷あるいは中毒性肝炎を引き起こす可能性がある。高コレステロール血症の処置に使用される高用量のナイアシンもまた、中毒性肝炎に関連付けられてきた。したがって本発明は、保有する肝臓グルタチオンを消費する有効な薬品量と連動して投与される、約50〜10,000mgの量での、NACアミドまたはその誘導体を備える経口製剤処方を包含する。
【0117】
多くの病態は、肝臓の損傷をもたらす。この損傷は、次いで、肝臓のグルタチオン保有量を減少させ、肝臓が酸化型グルタチオンをその還元型に変換する能力を低下させる。他の病態は、グルタチオン代謝の低下に関連する。これらの病気には、伝染性および中毒性肝炎、肝硬変、肝臓の原発性および転移性癌、外傷性および医原性肝臓損傷あるいは切除が含まれる。本発明は、NACアミドまたはNACアミドの誘導体、および抗ウイルスまたは抗新生物薬剤を備える製剤処方を包含する。抗ウイルスまたは抗新生物薬剤は、例えばヌクレオシド類似体である。
【0118】
グルタチオンが分解され、尿中にシステインが排出される可能性がある。そのため非常に高い用量のグルタチオンは、システイン尿をもたらし、これはシステイン結石をもたらす可能性がある。その他の長期毒性または有害作用がもたらされる可能性もある。そのため、長期間にわたる約10gmを超える量の日常摂取は、医学的に監視されるべきである。一方、1回の用量が約50mgを下回る場合、十二指腸内腔の濃度を、高レベルの吸収を実現するための高濃度にまで上昇させ、臨床的有益性を提供するには不十分である。したがって、本発明による製剤は、50mgを超えるNACアミドまたはNACアミド誘導体含有量を有し、合計が1日最高約10,000mgとなる1回以上の投薬により提供される。
【0119】
HIV感染の処置では、空腹時の比較的高い容量、つまり1日1〜3グラムのグルタチオンのボーラスは、2つの有益な効果を有すると考えられている。まず、HIV感染は、PBM、肺、およびその他の組織における細胞内グルタチオン濃度の減少に関連がある。さらに、細胞内グルタチオン濃度を上昇させることにより、これらの細胞の機能は正常に戻る可能性があると考えられている。したがって、本発明によるNACアミドまたはその誘導体の投与は、HIV感染の影響を処置する。NACアミドまたはその誘導体の経口投与は、任意でアスコルビン酸および/または抗レトロウイルス薬剤と併用される。レトロウイルス感染に伴う転写機構と制御は、異なるウイルス型間で比較的保存されていると考えられていることを留意されたい。したがって、後期レトロウイルス抑制は、さまざまな型のヒトレトロウイルスおよび類似動物レトロウイルスに対し期待される。生体外試験では、感染単球において、グルタチオンの細胞内濃度を正常範囲の最高値まで上昇させることにより、これらの細胞からのHIVの生成は、約35日間抑制される可能性があることがわかっている。これは、NF−κBおよびTNF−αを含むサイトカインの細胞転写の活性化の妨害に関連すると考えられる。そのため、HIV感染者の伝染力は低下され、伝染を防止する役に立つ可能性がある。このウイルス量の減少は、体内の非感染であるが感染しやすい細胞が存在しつづけることを可能とする。
【0120】
本方法に従って投与されるNACアミドまたはその誘導体は、うっ血性心不全(CHF)の治療に使用することができる。CHFには、2つの欠陥があると考えられる。まず、心筋が弱くなり、心臓肥大を引き起こす。次に、末梢血管痙攣が存在し、末梢抵抗の増加を引き起こすと考えられる。NACアミドまたはその誘導体は、酸化窒素の効果を促進するのに有効となることが可能で、したがって血管収縮および末梢血管抵抗を減少させ、同時に組織への血流を増加させることにより、これらの患者に有益となることが可能である。そのため本発明は、例えば、ジギタリス配糖体、ドーパミン、メチルドーパ、フェノキシベンザミン、ドブタミン、テルブタリン、アムリノン、イソプロテレノール、ベータ遮断薬、ベラパミル、プロプラノロール、ナドロール、チモロール、ピンドロール、アルプレノロール、オクスプレノロール、ソタロール、メトプロロール、アテノロール、アセブトロール、ベバントロール、トラモロール、ラベタロール、ジルチアゼム、ジピリダモール、ブレチリウム、フェニトイン、キニジン、クロニジン、プロカインアミド、アセカイニド、アミオダロン、ジソピラミド、エンカイニド、フレカニド、ロルカイニド、メキシレチン、トカイニド、カプトプリル、ミノキシジル、ニフェジピン、アルブテロール、パーギリンなどのカルシウムチャンネル遮断薬、ニトロプルシド、ニトログリセリン、フェントラミン、フェノキシベンザミン、ヒドラジド、プラゾシン、トリマゾシン、トラゾリン、トリマゾシンを含む血管拡張剤、硝酸イソソルビド、四硝酸エリトリチル、アスピリン、パパベリン、シクランデレート、イソクスプリン、ナイアシン、ニコチニルアルコール、ナイリドリン、フロセミド、エタクリン酸、スピロノラクトン、トリアムテリン、アミロリド、チアジド、ブメタニド、カフェイン、テオフィリン、ニコチン、カプトプリル、サララシン、およびカリウム塩を含む利尿薬などのうっ血性心不全薬物処置と併用しての、NACアミドまたはその誘導体の経口投与を包含する。
【0121】
他のその実施形態において、本発明は、経口投与による様々な肝炎の処置のためのNACアミドおよびその誘導体を包含する。例えば、アルコールおよびアセトアミノフェンは、肝細胞毒であり、肝細胞グルタチオンのレベルの低下をもたらす。したがって、これらの毒性は、NACアミドおよびその誘導体の使用した本発明にしたがって処理される。NACアミドおよびその誘導体は、細胞または臓器の他の種類への、細胞あるいは還元型グルタチオンレベルにおけるフリーラジカルの損傷をもたらす毒性の処置においても有効である。
【0122】
糖尿病、特にコントロール不良の糖尿病は、機能または調整を損なう様々な酵素およびタンパク質の糖化を生じる。特に、還元型グルタチオン(例えばグルタチオンレダクターゼ)を生成する酵素は、グリコシル化され機能不能になる。したがって、糖尿病は、還元型グルタチオンのレベルと関係し、実際、糖尿病の二次的症状の多くは、グルタチオンの代謝異常に起因すると考えられる。本発明において、NACアミドまたはその誘導体は、主要な第二症状を抑制するために糖尿病患者を補うために使用することが出来る。本発明は、NACアミドおよび抗高血糖性薬を含む経口製剤処方も包含する。
【0123】
グルタチオンの高い正常レベルは、鎮静の受容体を無活性化する。したがって、NACアミドまたはその誘導体の使用は、肥満および/または摂食障害と、タバコ(ニコチン)およびアヘン耽溺を含む他の嗜癖障害または脅迫障害の処置に効果的である。本発明は、ニコチンに関連したNACアミドおよびその誘導体の投与も包含する。ニコチンの生理学的効果は、周知である。NACアミドまたはその誘導体は、血管拡張を生じ、脳血流を向上させ、それにより大脳機能の強化効果を生じる。
【0124】
哺乳動物において、血漿内のグルタチオンのレベルは、ミクロモル範囲と比較的低いが、一方、細胞内レベルでは、ミリモル範囲が一般的である。したがって、細胞内サイトゾルタンパク質は、細胞外タンパク質よりも、グルタチオンの高濃縮の影響を非常に受けやすい。細胞器官である小胞体は、細胞から輸送するためにタンパク質の工程に関連する。小胞体は、シトソルに比べ、比較的酸化状態を有し、それにより、正常活性に頻繁に必要なタンパク質のジスルフィド結合の形成を行う別の細胞内コンパートメントをシトソルから形成することが発見された。いくつかの病理状態において、細胞は、細胞から輸送するためのタンパク質を生成するように誘発され、これらのタンパク質の生成および輸送の妨害により病状の進行が妨げられる。例えば、多くのウイルス性の感染は、感染力のためのウイルス性タンパク質の細胞生成に頼っている。これらのタンパク質生成の妨害は、感染力を妨げる。同様に、特定の病状は、存在し、機能する特定の細胞表面受容体に関する。いずれにしても、これらのタンパク質を生成するために誘導された細胞は、小胞体内の還元型グルタチオンを激減する。グルタチオンを搾取する細胞は、血漿からグルタチオンを吸収する傾向があり、存在量により制限出来ることが知られている。したがって、一時的でも、血漿グルタチオンレベルを増加することにより、小胞体内の還元性条件は、妨害され、タンパク質生成を妨げる。正常な細胞もまた、ある妨害の影響を受けやすい。しかしながら、ウイルス感染細胞または異常刺激された細胞において、正常な調節機構は、損なわれる可能性があり、小胞体内の酸化還元状況は細胞外グルタチオンの効用で制御されない。NACアミドおよびその誘導体の投与は、GSHおよびGSHの効果に活力を与える役割を果たし、そのような状態に対し目覚しい効果を与える。
【0125】
DNAウイルスであるヘルペスウイルスの再生は、細胞外グルタチオンの投与により、細胞培養内で抑制あるいは低減される。DNAウイルスの例は、単純ヘルペスウイルスI型と、単純ヘルペスウイルスII型と、帯状疱疹と、サイトメガロウイルスと、エプスタイン・バーウイルスなどが含まれる。したがって、本発明において、DNAウイルスおよびヘルペスウィルス感染は、NACアミドおよびその誘導体の投与によって処置される。さらに、RNAウイルスである狂犬病ウイルスによる感染は、グルタチオンの投与により処置される。標準的処置が可能であり、時宜に投与された時点でまさに有効であるが、グルタチオンは、ある特定の状況において有効である。したがって、狂犬病ウイルス感染は、少なくとも一部において、本発明におけるNACアミドおよびその誘導体の投与により処置される。狂犬病において可能な一つの処置は、免疫血清である。本発明は、単独あるいは、一つ以上の免疫グロブリンと併用したNACアミドおよびその誘導体の非経口投与を包含する。
【0126】
冠状動脈性心臓病のリスクは、高脂肪の食事の消費により増加し、フラボノイド類に加えてビタミンE、Cなどの抗酸化ビタミンの摂取によって減少する。高脂肪食は、酸化ストレスを通じて内皮機能を低下させ、一酸化窒素の可用性の低下をもたらす。ビタミンCとEは、高脂肪食の後の内皮細胞の一酸化窒素産生によって起こる血管収縮を回復することが分かっている。本発明によると、NACアミドまたはその誘導体は血管疾患に取り組むために、予防的に投与されるかもしれない。
【0127】
いくつかの種類のフリーラジカルの中には、質的な違いがあることが分かっている。従って、それらの形成率は、同時に制御されなければならないかもしれない異なる種類の誘発物質と同様に異なる。例えば、黄斑変性を持つ人々にとっては、強い直射日光や煙草の煙への連続的で無防備な目の曝露は、この疾患の制御のための治療薬として使用される抗酸化物質からもたらされる利点を制限するものである。従って、本発明の一態様は、酸化作用、フリーラジカル産生作用、およびイオン化作用を低下させるだけでなく、全身的または特定の臓器における抗酸化物質濃度を上昇させることにより相乗的な治療を患者に提供する。この場合、NACアミド治療は、必要に応じて紫外線遮断サングラスと喫煙休止計画によって補完されるものである。NACアミドまたはその誘導体は、必要ならばα−コハク酸トコフェロールとの組み合わせで使用することができる。フリーラジカルは異なる誘発物質と共に組織や細胞の様々な部位または下位部位に発生する。例えば、脳または脊髄の外傷において、有害なフリーラジカルは神経線維を隔離する脂肪の(脂質の)鞘、すなわち髄鞘の中にある。極めて高用量の合成副腎皮質ステロイドである、5〜10gのコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム(MPSS)の24時間投与すると、脳と脊髄に急速に到達して急速にミエリンの中に拡散し、外傷誘発性のラジカルを中和する。従って本発明は、NACアミドまたはNACアミド誘導体と糖質コルチコイド剤の組み合わせで構成される薬剤合成物を提供する。
【0128】
本発明によると、経口投与されたNACアミドまたはその誘導体は、グルタチオンの細胞濃度を上昇させ、多くの病理学的過程を阻害することができる。例えばNACアミドは、主としてAIDSの徴候や症状に関与する腐食性のフリーラジカルと毒性のサイトカインを産生する、ほぼ自己永続的で強力な生化学的サイクルの抑制に使用できる。これらの生化学的サイクルは、相当な量のグルタチオンを破壊するが、それらは最終的には十分な継続するNACアミド治療を用いて制御され、正常化される。典型例は、活性化マクロファージからの15HPETE(15−ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸)という物質の過剰産生である。15HPETEは破壊的な免疫抑制物質であり、非破壊的な良性分子への変換のためにグルタチオンを必要とする。問題は、ひとたびマクロファージが活性化されると正常化するのが難しいとうことである。細胞内では、NF−κBの活性化の阻害、ウィルス複製を促進するHIVのTAT遺伝子産物の抑制、ウィルス外皮のgp120蛋白の分解などによるウィルスDNAの活性化の阻止によって、GSHはフリーラジカルやサイトカインの産生を抑制し、リンパ球やマクロファージの機能障害を修正し、肺やその他の臓器中の防御細胞を増強し、ならびに全ての主要感染細胞種におけるAIDSウィルスの複製を停止させる。NACアミドはgp120蛋白を崩壊させるために提供されることができ、それにより患者内部の他の細胞だけでなく、ことによると他の人々へのウィルスの伝播を防止する潜在的な形態を提供する。
【0129】
古典的な抗ウィルス剤または抗レトロウィルス剤(逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害剤)に加えて、その他の多くの治療法がAIDS患者に有効である可能性があり、また本発明はNACアミドまたはその誘導体と次の薬剤の組み合わせを提供する。シクロポリンA、サリドマイド、ペントキシフィリン、セレン、デスフェロキサミン、2L−オキソチアゾリジン、2Lオキソチアゾリジン−4−カルボン酸塩、ジエチルジチオカルバミン酸塩(DDTC)、BHA、ノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)、グルカ酸、EDTA、R−PIA、α−リポ酸、ケルセチン、タンニン酸、2’−ヒドロキシカルコン、2−ヒドロキシカルコン、フラボン、α−アンゲリカラクトン、フラキセチン、クルクミン、プロブコール、ビンロウジュ。
【0130】
炎症反応には大きな酸化的破壊が伴い、大量のフリーラジカルをもたらす。従って、NACアミドとその誘導体は炎症性疾患の処置に適用されるかもしれない。NACアミドまたはその誘導体は一次損傷と共に、二次反応の好ましくない特徴も有利に減少させるかもしれない。本発明によると、NACアミドまたはその誘導体は各種の関節炎、炎症性大腸炎などの炎症性疾患に苦しむ患者に投与されるかもしれない。本発明はまた、NACアミドまたはNACアミド誘導体と鎮痛剤または抗炎症剤、例えば、麻薬性麻酔剤、メペリジン、プロポキシフェン、ナルブフィン、ペンタゾシン、ブプレノルフィン、アスピリン、インドメタシン、ジフルニサル、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、クロフェナム酸塩、ゾメピラク、ペニシラミン、フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、アザチオプリン、シクロホスファミド、レバミゾール、プレドニゾン、プレドニゾロン、β−メタゾン、トリアムシノロン、およびメチルプレドニゾロンなどを含む、麻薬性作動薬、糖質コルチコイド、または非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)などの複合薬剤療法を提供する。NACアミドとその誘導体はまた、耳下腺炎、子宮頸部異形成、アルツハイマー病、パーキンソン病、アミノキノリン中毒、ゲンタマイシン中毒、ピューロマイシン中毒、アミノグリコシド腎臓毒性、パラセタモール、アセトアミノフェン、ならびにフェナセチン中毒の処置に有益であるかもしれない。
【0131】
NACアミドまたはその誘導体は、ウィルス汚染性の液体または汚染された可能性がある液体に、ウィルスを不活化するために添加されるかもしれない。例えばこれは、発症作用のあるウィルス蛋白の減少により起こる。一つの実施形態によると、NACアミドまたはその誘導体は輸血の前に血液または血液成分に添加される。添加されたNACアミドまたはNACアミドの誘導体は、約100μMから、約500mMまたは溶解限度のいずれか低い方までの範囲の濃度、より好ましくは約10〜50mMの濃度で加えられる。加えて、全血、濃縮赤血球、またはその他の血液成分(白血球、血小板)へのNACアミドまたはその誘導体の添加は、細胞または構成成分の貯蔵寿命および/または品質の向上のために使用されるかもしれない。
【0132】
別の実施形態では、局所に適用される場合、本発明は、皮膚、髪、爪、および粘膜面の審美的状態や皮膚科的疾患の処置および/または予防におけるNACアミドまたはその誘導体、薬学的に許容される塩またはそのエステルの使用を含む。本発明に従って、(a)NACアミドまたはその誘導体、適切な塩またはそのエステル、またはNACアミドを含む薬学的に許容される合成物、(b)局所的に許容される賦形剤または担体を含む局所性投与用の合成物が提供される。本発明はまた、患者の病変部へのNACアミド含有合成物、またはNACアミド誘導体含有合成物の局所性投与を必要とする、審美的状態および/または皮膚科的疾患の処置および/または予防のための手法を提供する。そのような合成物や手法は、特に目や口の周りのしわ、顔のラインやくぼみ、皮膚のしわ、しみや褪色、および同類のものの処置同様に、老化防止処置や療法に有用である。
【0133】
別の実施形態では、本発明は、NACアミドまたはその誘導体、またはその薬学的に許容される塩またはエステルを活用する癌治療や前癌治療に有用である手法や合成物を提供する。本発明は特に、癌や前癌病変の細胞にアポトーシスが選択的に誘発される、NACアミドまたはその誘導体を含む合成物や手法に関連する。また別の実施形態では、本発明は効果的な量のNACアミドまたはその誘導体を被験体に投与することによって、前癌状態の細胞のアポトーシスを選択的に誘発する手法に関連する。この実施形態において、NACアミドまたはその誘導体を被験体に局所的に投与できる。別の実施形態では、本発明は効果的な量のNACアミドまたはその誘導体を被験体に投与することによって、癌細胞内に選択的にアポトーシス誘発する手法に関連する。この実施形態においてNACアミドまたはその誘導体を被験体に局所的に投与できる。選択的アポトーシスとは、対応する正常な非形質転換細胞がNACアミド誘導性の細胞死を経験しない状態をいう。さらに別の実施形態では、本発明は、患者の非癌細胞に比べて癌細胞のアポトーシスへの感受性が増強されるように、化学療法または放射線療法の補助としてNACアミドまたはその誘導体を患者に投与することにより、患者の体内に存在する癌細胞の数を減少させることからなる手法に関連する。さらに進めた実施形態では、本発明は、効果的な量のNACアミドまたはその誘導体を、p53遺伝子療法を含むp53療法の補助として投与することからなる手法に関連する。通常、アポトーシスが誘発される癌細胞または前癌状態の細胞は、少なくとも一つの機能性p53対立遺伝子を示すものである。ある例では、NACアミドの投与は、変異p53蛋白の形態および/または活性の、機能状態への回復をもたらす。内因性の機能性p53対立遺伝子は、p53遺伝子療法を含むp53療法からなる手法に必要でないことを理解されるものである。
【0134】
本発明の別の実施形態では、過剰増殖性疾患または良性の非増殖性疾患で発生する細胞を選択的に誘発するためのNACアミドまたはその誘導体の投与からなる手法が提供される。本発明の別の実施形態は、細胞とある量のNACアミドまたはその誘導体を接触させて細胞周期の特定の段階において選択的に細胞を停止させることからなる、選択的な細胞周期停止の手法におけるNACアミドまたはその誘導体の使用を含む。例えば、NACアミドの投与は、G1期の長引く移行につながるかもしれない。この細胞周期停止は、p21の発現の増加の影響を受けるかもしれない。本発明の手法はまた、腫瘍の血管新生の緩和または抑制に、または癌細胞の分化の誘発に活用できる。
【0135】
別のその側面において、本発明は癌に侵された臓器における組織の構成の損傷や個々の癌細胞のゲノム安定性の消失につながる、微小環境からの不全シグナルによって誘発される可能性がある癌や腫瘍の処置のための、NACアミドまたはその誘導体の使用を目的としている。組織構造の損傷は特定の癌につながる可能性がある。この過程に関与するのは、マトリクス・メタロプロテイナーゼ(MMP)であり、これは生物の発達の最中や障害治癒の最中だけでなく、腫瘍形成または発癌の進展にも重要な酵素である。タンパク質分解酵素は基底膜や細胞外マトリックス(ECM)の構造要素を分解し、上皮細胞をシート束ねる接点を分解することにより腫瘍細胞や転移の浸潤を可能にするため、特にMMPは微小環境シグナルに著しく寄与する。MMPはまた細胞結合した不活性前駆体型の増殖因子の放出、細胞‐細胞や細胞‐ECM接着分子の分解、前駆体チモーゲン型のその他のMMPの活性化、ならびにMMPやその他のプロテアーゼの阻害剤の不活化などを行える。さらにこれらの酵素は、上皮細胞が隣接する細胞から分離して自由になり、体内を動き回る能力を獲得することを引き起こす一つの細胞状態から別の状態への移行、すなわち上皮から間葉への移行(EMT)を誘発する。この過程が胚や、乳癌などの癌の通常の進展に必須である一方で、EMTは腫瘍細胞に可動性を与え、腫瘍細胞がリンパ管壁または血管壁などの障害物を通過するのを助け、ひいては転移を促進する。
【0136】
MMP−3は、培養下およびトランスジェニックマウスの乳房上皮細胞で、形質転換を誘発するために観察される特定の種類のメタロプロテイナーゼである。MMP−3は正常細胞にRac1b蛋白という、以前は癌にのみ認められていたRho GTP加水分解酵素の異型を発現させることが分かっている。Rac1bは細胞骨格を劇的に変化させ、これは上皮細胞の周囲の細胞からの分離と移動を促進する(D.C.Radiskyら、2005、Nature、436:123−127)。Rac1bによって誘発された細胞骨格の変化は活性酸素種(ROS)と呼ばれる極めて反応性に富む酸素分子の産生を刺激し、これは組織の崩壊を導きゲノムDNAを傷害することにより癌を進展させることができる。Rac1bによって誘発されたROSの増加はEMTを制御する主要遺伝子を活性化し、これはその後次々とつながる大規模な組織崩壊を開始し、DNAの広範な部位の欠失または重複を引き起こすなど、ゲノムDNAに直接作用することによって癌の進展を促進する。組織構造を変化させることによって、MMPはまた腫瘍遺伝子を活性化し、生物のゲノム内にあるDNAの完全性を構成することができる。
【0137】
乳癌などの癌、特に異常な細胞構造や機能や組織の完全性の損失を導く前述したメカニズムと関係しているものの処置については、本発明に従ったNACアミドをROSの効果の阻害に使用できる。これは例えば、上皮から間葉への変化に至る経路に存在する分子に作用するためまたは目標を定めるために、必要としている被験体の細胞、組織および/または体へNACアミドまたはその誘導体を投与または導入することにより達成される。それに応じて、MMP−3とその機能、例えばMMP3誘導性の細胞運動性、浸潤、および形態学的変化と同様に、MMP−3誘導性の上皮型サイトケラチンの下方制御や間葉系のビメンチンの上方制御を抑制するのにNACアミドまたはその誘導体を使用できる。NACアミドまたはその誘導体はまた、間接的または直接的にROSを目標とするために、ならびに/またはROSがそれによってEMTを誘発する遺伝子を活性化する過程を目標とするために使用できる。
【0138】
別の実施形態では、本発明は同種移植患者における移植片拒絶の抑制のためのNACアミドまたはその誘導体から構成される合成物と手法を含む。
【0139】
別の実施形態では、本発明は幹細胞移植のための幹細胞、特に人間を含む移植を受ける動物への導入に先立って生体外で培養される幹細胞の成長を支援または助成する手法におけるNACアミドまたはNACアミドの誘導体を提供する。
【0140】
別の実施形態では、本発明は患者の中枢神経系(CNS)障害または疾患、神経毒性、記憶障害の抑制、防止、処置、または防止と処置の両方の手法を提供し、これには治療効果のある量のNACアミドまたはその誘導体またはその薬学的に許容される合成物の投与が関係する。中枢神経系傷害または疾患の例には、外傷性脳損傷(TBI)、外傷後てんかん(PTE)、脳卒中、脳虚血、パーキンソン病、拳闘家認知症、ハンチントン病、アルツハイマー病などの脳の神経変性疾患、放射線、電離プラズマまたは鉄プラズマへの曝露、神経性ガス、シアン化物、毒性濃度の酸素により誘発される発作に続発する脳損傷、中枢神経系マラリアまたは抗マラリア薬の処置による神経毒性、ならびにその他の中枢神経系外傷が含まれる。他の関連する実施形態では、本発明は治療効果のある量のNACアミドまたはその誘導体を含む合成物の被験体への投与からなる、中枢神経系傷害または疾患に苦しむ被験体の処置の手法を含む。別の実施形態では、本発明は治療効果のある量のNACアミドまたはその誘導体を含む合成物の被験体への投与からなる被験体の中枢神経系傷害または疾患を防止または抑制する手法に関連する。他の実施形態では、本発明は治療効果のある量のNACアミドまたはその誘導体を含む配合の被験体への投与からなる患者の神経毒性または記憶障害を防止、抑制、または処置する手法を含む。うつ病や統合失調症などの病気や疾患のための電気ショック療法によって記憶障害が誘発される可能性がある場合は、記憶障害を軽減するために合成物は電気ショック療法の前に投与されるかもしれない。関連する実施形態では、中枢神経系傷害または疾患は外傷性脳損傷(TBI)、外傷後てんかん(PTE)、脳卒中、脳虚血、または神経変性疾患であるかもしれない。関連する実施形態では、中枢神経系傷害は、フルードパーカッション(fluid percussion)、被験体の頭部などに鈍器によりもたらされる外傷、被験体の頭部を貫通する物体によってもたらされる外傷、放射線、電離プラズマまたは鉄プラズマへ、神経性ガス、シアン化物、毒性濃度の酸素、中枢神経系マラリアまたは抗マラリア薬への曝露によって誘発されるかもしれない。本発明の実施形態では、患者に投与される治療効果のある量のNACアミドまたはその誘導体は、適切な治療効果を得るために必要な量で、例えば、被験体の体重1kgにつき約0.001mg〜約20mg、好ましくは被験体の体重1kgにつき約1mg〜約10mg、より好ましくは被験体の体重1kgにつき約3mg〜約10mgである。追加的な実施形態では、被験体に投与される1日のNACアミドまたはその誘導体の総量は、約50mg〜約1200mg、または約100mg〜約1000mg、または約200mg〜約800mg、または約300mg〜約600mgである。
【0141】
他の実施形態では、本発明は、被験体が中枢神経系傷害または疾患のリスクにさらされる、もしくはさらされそうになる前に、または被験体が神経毒性または記憶障害または両方を引き起こす可能性のある条件にさらされる前に、中枢神経系傷害または疾患などのリスクに被験体がさらされる前の期間においてNACアミドまたはその誘導体を被験体に投与することにより被験体(例えば人間を含む動物)を処置する手法を含む。実例として、中枢神経系傷害または疾患、神経毒性または記憶障害の原因となる可能性のある条件には、電気ショック療法、外傷性脳損傷(TBI)、外傷後てんかん(PTE)、脳卒中、脳虚血、神経変性疾患、fluid percussion、被験体の頭部に衝撃を与える鈍器、被験体の頭部を貫通する物体、放射線、電離プラズマまたは鉄プラズマ、神経性ガス、シアン化物、毒性濃度の酸素、中枢神経系マラリア、および抗マラリア薬が含まれる。中枢神経系傷害または疾患、神経毒性または記憶障害の原因となる可能性のあるその他の条件には、中枢神経系の虚血、低酸素症、または塞栓症のリスクに関連する特定の医学的手技または条件、例えば脳腫瘍、脳外科手術、その他の脳関連疾患、心臓切開手術、頸動脈血管内膜切除術、大動脈瘤根治術、心房細動、心停止、心臓またはその他のカテーテル、静脈炎、血栓症、長期のベッド休養、長期のうっ血(例えば航空機、鉄道、車またはその他の輸送手段による宇宙旅行または長期旅行)、空気/ガス塞栓症または減圧症に続発する中枢神経系の外傷など含まれるがこれに限定されるものではない。その期間は、予想される曝露の時間の約72時間前、または予想される曝露の時間の約48時間前、または予想される曝露の時間の約12時間前、または予想される曝露の時間の約4時間前、または予想される曝露の時間の約30分〜2時間前であるかもしれない。NACアミドの投与は、処置の最初から処置の最後まで続くかもしれない。例えば、経皮貼布または徐放製剤がNACアミドまたはその誘導体を所定の時間の間被験体に連続的に投与するために使用されるかもしれない。もう一つの方法として、NACアミドまたはその誘導体が被験体に一定期間ごとに投与されるかもしれない。例えば、NACアミドまたはその誘導体は予想される曝露の時間の約24時間前に最初に投与され、それ以後約2時間ごとに投与されるかもしれない。これら本発明の実施形態については、NACアミドまたはNACアミド誘導体含有合成物はさらに薬学的に許容される賦形剤を含むかもしれず、合成物は静脈内的、皮内的、皮下的、経口的、経皮的、経粘膜的、直腸投与で投与されるかもしれない。
【0142】
他の実施形態では、本発明は治療効果のある量のNACアミドまたはその誘導体と薬学的に許容される賦形剤で構成される、被験体の中枢神経系傷害、疾患、または神経毒性の処置または予防のための薬剤合成物を含む。さらなる実施形態では、本発明は治療効果のある量のNACアミドまたはその誘導体からなる合成物で構成されるキットを含む。そのキットは、使用説明書だけでなく、注射針、吸入器、経皮貼布剤などの合成物を被験体に投与する器具をさらに含むかもしれない。
【0143】
本発明の別の実施形態では、NACアミドまたはその誘導体を含む抗癌処置は明確に癌や腫瘍細胞を目標とするようにデザインされている。この実施形態はNACアミドまたはその誘導体の癌や腫瘍細胞への、生体内、生体外での投与のためのナノサイズ粒子の使用を目標としている。この実施形態によると、癌細胞はビタミン葉酸(すなわち葉酸塩)に対する受容体をより多く発現し、正常で健康な細胞より多くの葉酸を吸収し、選択的に目標とされることができる。そのために、コア型またはシェル型ナノゲルまたはナノ粒子は、NACアミドまたはその誘導体に共役、または結合している葉酸または葉酸塩で、その細胞受容体と部位を結び付けている葉酸を分離または崩壊させることなく官能化される。そのような官能化されたナノ粒子は、被験体、特に上皮性腫瘍などの癌を持ち葉酸塩が不足している被験体で、選択的に葉酸−NACアミド(または葉酸−NACアミド誘導体)ナノ粒子を結合し、それらを取り込む葉酸受容体を、癌細胞が過剰に持つ被験体に導入が可能である。癌細胞の内部では、NACアミドまたはその誘導体は、癌細胞の発現、刺激、および/または維持する役割を担うROSおよび/またはその他の標的分子を抑制すること、ならびに/または最終的に癌細胞を破壊することによりその治療効果を発揮する。
【0144】
実例としては、J.F.Kukowska−Latalloら、2005、Cancer Res.、Jun 15;65(12):5317−24に記載されているように、葉酸受容体発現(過剰発現)腫瘍や癌細胞を標的とするために、直径が5nmより小さいPAMAMデンドリティックポリマーがNACアミドの担体として使用される。アセチル化デンドリマーは標的因子として葉酸に共役され、その後NACアミドまたはその誘導体およびフルオレセインまたは6−カルボキシテトラメチルローダミンのいずれかに結合される。もう一つの方法として、NACアミドまたはその誘導体は抱合体を形成するために葉酸に結合され、その抱合体はナノ粒子に結合される。これらの抱合体は、静脈注射によって癌、特に葉酸受容体を過剰発現している腫瘍を持つ患者または哺乳動物に注入される。葉酸結合ナノ粒子はその結果、投与後腫瘍と組織内に集まり、そこではNACアミドまたはNAC誘導体が細胞内でROSと相互に作用でき、ならびに/または腫瘍細胞を殺すために他の分子を標的にできる。葉酸を標的としたポリマーの腫瘍組織の局在性は遊離葉酸の事前の静脈内注入により、減弱されるかもしれない。
【0145】
同様の実施形態では、ポリマーまたはナノ粒子は、グルタチオン−NACアミドまたはグルタチオン−NACアミド誘導体抱合体を発現するために官能化され、これはその後その細胞表面に増加したグルタチオン受容体を発現する癌細胞に、NACアミドまたはその誘導体を届けるために利用される。NACアミド−グルタチオンナノ粒子はその後、グルタチオン受容体を持つそれらの癌細胞を標的とし、細胞に選択的に取り込まれる。これらの実施形態では、本発明は葉酸(葉酸塩)またはグルタチオンに対する高濃度の受容体を発現する癌細胞などの細胞へのNACアミドまたはその誘導体の指定送達を提供する。これらの実施形態に従って、NACアミド(「NACA」)またはその誘導体は、抱合体を形成するために細胞表面の受容体(例えば葉酸またはグルタチオン)のためのリガンドに結合される。このNACA−リガンド結合体を当業者に既知の手順を用いて、注入可能なナノ粒子の表面にかぶせるまたは吸着させる。それにしたがって、NACアミドまたはその誘導体を含むこのナノ粒子(「ナノ−NACA粒子」)はNACアミドがその望ましい効果を発揮する癌または腫瘍細胞に選択的に取り込まれるかもしれない。
【0146】
ある実施形態では、本発明はリガンドに対する高濃度の表面受容体を発現する宿主細胞へのNACアミドまたはその誘導体の指定送達の方法を導き、これはa)リガンドへアセチル化デンドリティックナノポリマーを結合させる、b)手順(a)の結合リガンドを、NACアミド−リガンドナノ粒子を形成するためにNACアミドまたはその誘導体に結合させる、ならびにc)宿主に(b)のナノ粒子を注入することから構成される。別の実施形態では、本発明はリガンドに対する高濃度の表面受容体を発現する宿主細胞へのNACアミドまたはその誘導体の指定送達の方法を導き、これはa)NACアミド−リガンド結合体を形成するために、NACアミドまたはその誘導体を表面受容体リガンドへ結合させる、b)NACアミド−リガンド結合体をナノ粒子表面に吸着させる、そしてc)(b)のナノ粒子を宿主へ注入することからなる。
【0147】
本発明の別の実施形態は式I
【0148】
【化16】

の化合物を提供し、
ここで、RはOH、SH、またはS−S−Zであり、
XはCまたはNであり、
YはNH、OH、CH−C=O、またはNH−CHであり、
は存在しないか、H、または=Oであり、
は存在しないかまたは、
【0149】
【化17】

ここで、RはNHまたはOであり、
はCF、NH、またはCHであり、
またここでZは
【0150】
【化18】

であり、もしRがS−S−Zならば、XとX’が同じ、YとY’が同じ、RとRが同じ、そしてRとRが同じである。
【0151】
一つの実施形態では、RはS、XはC、YはNH−CH、RはH、Rは、
【0152】
【化19】

はO、そしてRはCHである。別の実施形態では、RはS、XはN、YはCH−C=O、RはH、そしてRは存在しない。
【0153】
本発明はまた、上記式Iの化合物を提供し、ここでRはS、XはC、YはNH、Rは=O、R
【0154】
【化20】

はO、そしてRはCFである。本発明の化合物にはまた、式Iの化合物が含まれ、ここでRはO、XはC、YはNH、R
は=O、R
【0155】
【化21】

はO、そしてRはCHである。式Iの化合物がまた本発明により提供され、ここでRはS、XはC、YはOH、Rは存在せず、R
【0156】
【化22】

はO、そしてRはCH、またはここでRはS、XはC、YはNH、Rは=O、R
【0157】
【化23】

はNH、そしてRはNHである。本発明の別の実施形態は、式Iの化合物を提供し、ここでRはO、XはC、YはOH、Rは存在せず、R
【0158】
【化24】

はO、そしてRはCHであり、あるいはここでRはS、XはC、YはNH、Rは=O、R
【0159】
【化25】

はO、そしてRはCHである。さらなる実施形態では、本発明は式Iの化合物を提供し、ここでRはS−S−Z、XはC、YはNH、Rは=O、R
【0160】
【化26】

はO、そしてRはCHである。
【0161】
ここで開示される化合物はキラルな、すなわちL−異性体、D−異性体などの光学異性体であってよく、またはD−異性体、L−異性体のラセミ混合物であってもよい。好ましい化合物には以下が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0162】
【化27】

一つの実施形態では、化合物IからXVIIIはNACアミドまたはNACアミド誘導体を含む。
【0163】
別の実施形態では、本発明の化合物のL−異性体またはD−異性体を調製するためのプロセスが提供され、これは、一次混合物を形成するためにL−シスチンジアミドジヒドロクロライドまたはD−シスチンジアミドジヒドロクロライドに基剤を添加し、続いて一次混合物を真空下で加熱すること、メタノール溶液を加熱した一次混合物に添加すること、一次残渣を得るためにこの混合物を塩酸アルコールを用いて酸性にすること、アンモニアで飽和したメタノールからなる一次溶液に一次残渣を溶解すること、二次混合物を作成するために溶解した一次残渣に二次溶液を添加すること、二次混合物を沈殿させ、洗浄すること、二次残渣を得るためにこの二次混合物をろ過し乾燥させること、三次混合物を作成するために二次残渣を液体アンモニア、そして塩化アンモニウムのエタノール溶液と混合すること、そして三次混合物をろ過し乾燥させ、これによりL−異性体化合物またはD−異性体化合物を調製することから構成される。
【0164】
基剤は液体アンモニアまたはメチルアミンを含んでもよい。二次溶液は水、酢酸塩、無水物を含み、ここで酢酸塩は酢酸ナトリウムまたはトリフルオロ酢酸ナトリウムを含んでもよく、無水物は無水酢酸または無水トリフルオロ酢酸を含んでもよい。もう一つの方法として、二次溶液は、ジクロロメタン、トリエチルアミン、およびl,3−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−2−メチル−2−プソイドウレアを含んでもよい。液体アンモニアと塩化アンモニウムのエタノール溶液に加えて、二次残渣はさらにナトリウム金属と混合されてもよい。
【0165】
いくつかの実施形態では、このプロセスはさらに、L−異性体またはD−異性体化合物をエーテルに溶解させること、四次混合物を作成するために水素化アルミニウムリチウムのエーテル溶液、酢酸エチル、水を溶解したL−異性体またはD−異性体化合物に添加すること、四次混合物をろ過して乾燥させ、これによりL−異性体またはD−異性体化合物を調製することから構成される。
【0166】
式IIとIIIの化合物は、L−シスチンジアミドジヒドロクロライドまたはD−シスチンジアミドジヒドロクロライドを液体アンモニアと混合すること、揮発性物質を除去するために混合物を温めること、混合物を真空で50℃に温めること、温かいメタノール溶液を添加すること、溶液をろ過すること、一次残渣を得るためにろ過したものを塩酸アルコールを用いて酸性にし、一次残渣をアンモニアで飽和したメタノール溶液に溶解すること、濃縮乾固させること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、50℃に温度を上昇させること、混合物を沈殿させて混合物を水で洗浄すること、粗固形物をろ過すること、二次残渣を得るために混合物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合させること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【0167】
式IVとVの化合物はL−シスチンジアミドジヒドロクロライドまたはD−シスチンジアミドジヒドロクロライドをメチルアミンと混合すること、揮発性物質を除去するために混合物を温めること、混合物を真空で50℃に温めること、温かいメタノール溶液を添加すること、溶液をろ過すること、一次残渣を得るためにろ過物を塩酸アルコールを用いて酸性にすること、アンモニアで飽和したメタノール溶液に一次残渣を溶解すること、濃縮乾固させること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、温度を50℃に上昇させること、混合物を沈殿させて混合物を水で洗浄すること、粗固形物をろ過すること、二次残渣を得るために混合物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合させること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【0168】
式VIIとVIIIの化合物はL−シスチンジアミドジヒドロクロライドまたはD−シスチンジアミドジヒドロクロライドをアンモニアと混合すること、揮発性物質を除去するために混合物を温めること、混合物を真空で50℃に温めること、温かいメタノール溶液を添加すること、溶液をろ過すること、一次残渣を得るためにろ過物を塩酸アルコールを用いて酸性にすること、アンモニアで飽和したメタノール溶液に一次残渣を溶解すること、濃縮乾固させること、水、トリフルオロ酢酸ナトリウム、および無水トリフルオロ酢酸を添加すること、温度を50℃に上昇させること、混合物を沈殿させて混合物を水で洗浄すること、粗固形物をろ過すること、二次残渣を得るために混合物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合させること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【0169】
式XIIIとXIVの化合物は、L−シスチンジアミドジヒドロクロライドまたはD−シスチンジアミドジヒドロクロライドをアンモニアと混合すること、揮発性物質を除去するために混合物を温めること、混合物を真空で50℃に温めること、温かいメタノール溶液を添加すること、溶液をろ過すること、一次残渣を得るためにろ過物を塩酸アルコールを用いて酸性にすること、アンモニアで飽和したメタノール溶液に一次残渣を溶解すること、濃縮乾固させること、ジクロロメタン、トリエチルアミン、およびl,3−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−2−メチル−2−プソイドウレアを添加すること、温度を0℃に低下させること、混合物を沈殿させて混合物を水で洗浄すること、粗固形物をろ過すること、二次残渣を得るために混合物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合させること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【0170】
式XIとXIIの化合物はL−またはD−シスチンジアミドジヒドロクロライドを液体アンモニアと混合すること、揮発性物質を除去するために混合物を温めること、混合物を真空で50℃に温めること、温かいメタノール溶液を添加すること、溶液をろ過すること、一次残渣を得るためにろ過物を塩酸アルコールを用いて酸性にすること、アンモニアで飽和したメタノール溶液に一次残渣を溶解すること、濃縮乾固させること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、温度を50℃に上昇させること、混合物を沈殿させること、混合物を水で洗浄すること、粗固形物をろ過すること、二次残渣を得るために混合物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合させること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、三次残渣をエーテルに溶解すること、水素化アルミニウムリチウムのエーテル溶液をゆっくりと添加すること、酢酸エチルをゆっくりと添加すること、水をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、四次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから四次残渣を晶出させることによって調製される。
【0171】
式XVIIとXVIIIの化合物は、L−シスチンジアミドジヒドロクロライドまたはD−シスチンジアミドジヒドロクロライドを液体アンモニアと混合すること、揮発性物質を除去するために混合物を温めること、混合物を真空で50℃に温めること、温かいメタノール溶液を添加すること、溶液をろ過すること、一次残渣を得るためにろ過物を塩酸アルコールを用いて酸性にすること、アンモニアで飽和したメタノール溶液に一次残渣を溶解すること、濃縮乾固させること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、温度を50℃に上昇させること、混合物を沈殿させること、混合物を水で洗浄すること、粗固形物をろ過すること、二次残渣を得るために混合物を乾燥させること、ならびにイソプロパノールから二次残渣を晶出させることによって調製される。
【0172】
本発明の別の実施形態は、ここで開示される化合物のL−異性体またはD−異性体を調製するためのプロセスを提供し、これはS−ベンジル−L−システインメチルエステル塩酸塩またはD−システインメチルエステル塩酸塩、またはO−ベンジル−L−セリンメチルエステル塩酸塩またはD−セリンメチルエステル塩酸塩を基剤と混合して一次混合物を作成すること、一次混合物にエーテルを添加すること、一次混合物をろ過して濃縮すること、(c)と(d)の工程を繰り返し一次残渣を得ること、酢酸エチルと一次溶液を一次残渣に添加して二次混合物を作成すること、二次混合物をろ過して乾燥させて二次残渣を作成すること、二次残渣を液体アンモニア、ナトリウム金属、および塩化アンモニウムのエタノール溶液と混合して三次混合物を作成すること、三次混合物をろ過して乾燥させ、これによりL−異性体またはD−異性体化合物を調製することから構成される。
【0173】
基剤は液体アンモニアまたはメチルアミンを含んでもよい。二次溶液は水、酢酸塩、無水物を含み、ここで酢酸塩は酢酸ナトリウムまたはトリフルオロ酢酸ナトリウムを含んでもよく、無水物は無水酢酸または無水トリフルオロ酢酸を含んでもよい。もう一つの方法として、二次溶液は、ジクロロメタン、トリエチルアミン、およびl,3−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−2−メチル−2−プソイドウレアを含んでもよい。
【0174】
いくつかの実施形態では、このプロセスはさらに、L−異性体またはD−異性体化合物をエーテルに溶解させること、四次混合物を作成するために水素化アルミニウムリチウムのエーテル溶液、酢酸エチル、水を、溶解したL−異性体またはD−異性体化合物に添加すること、四次混合物をろ過して乾燥させ、これによりL−異性体またはD−異性体化合物を調製することから構成される。
【0175】
式IIとIIIの化合物はS−ベンジル−L−システインメチルエステル塩酸塩またはD−システインメチルエステル塩酸塩を冷たいアンモニアのメタノール溶液と混合すること、アンモニアの気流を混合物上に通すこと、フラスコをしっかりと密封すること、混合物を濃縮させること、エーテルを添加すること、溶液をろ過すること、ろ過物を濃縮すること、エーテルを添加しもう一度ろ過して残渣を得ること、残渣を酢酸エチルで懸濁すること、無水酢酸をこの懸濁液に添加すること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、温度を65℃に上昇させること、混合物を冷却すること、粗固形物をろ過すること、酢酸エチルで洗浄すること、二次残渣を得るために沈殿物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合すること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【0176】
式IVとVの化合物は、S−ベンジル−L−システインメチルエステル塩酸塩またはD−システインメチルエステル塩酸塩を冷たいメチルアミンのメタノール溶液と混合すること、メチルアミンの気流を混合物上に通すこと、フラスコをしっかりと密封すること、混合物を濃縮させること、エーテルを添加すること、溶液をろ過すること、ろ過物を濃縮すること、エーテルを添加しもう一度ろ過して残渣を得ること、残渣を酢酸エチルで懸濁すること、無水酢酸をこの懸濁液に添加すること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、温度を65℃に上昇させること、混合物を冷却すること、粗固形物をろ過すること、酢酸エチルで洗浄すること、二次残渣を得るために沈殿物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合すること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【0177】
式VIIとVIIIの化合物は、S−ベンジル−L−システインメチルエステル塩酸塩またはD−システインメチルエステル塩酸塩を冷たいアンモニアのメタノール溶液と混合すること、メチルアミンの気流を混合物上に通すこと、フラスコをしっかりと密封すること、混合物を濃縮させること、エーテルを添加すること、溶液をろ過すること、ろ過物を濃縮すること、エーテルを添加しもう一度ろ過して残渣を得ること、残渣を酢酸エチルで懸濁すること、無水トリフルオロ酢酸をこの懸濁液に添加すること、水、トリフルオロ酢酸ナトリウム、および無水トリフルオロ酢酸を添加すること、温度を65℃に上昇させること、混合物を冷却すること、粗固形物をろ過すること、酢酸エチルで洗浄すること、二次残渣を得るために沈殿物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合すること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【0178】
式IXとXの化合物は、O−ベンジル−L−セリンメチルエステル塩酸塩またはD−セリンメチルエステル塩酸塩を冷たいアンモニアのメタノール溶液と混合すること、メチルアミンの気流を混合物上に通すこと、フラスコをしっかりと密封すること、混合物を濃縮させること、エーテルを添加すること、溶液をろ過すること、ろ過物を濃縮すること、エーテルを添加しもう一度ろ過して残渣を得ること、残渣を酢酸エチルで懸濁すること、無水酢酸をこの懸濁液に添加すること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、温度を65℃に上昇させること、混合物を冷却すること、粗固形物をろ過すること、酢酸エチルで洗浄すること、二次残渣を得るために沈殿物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合すること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【0179】
式XIIIとXIVの化合物は、S−ベンジル−L−システインメチルエステル塩酸塩またはD−システインメチルエステル塩酸塩を冷たいアンモニアのメタノール溶液と混合すること、アンモニアの気流を混合物上に通すこと、フラスコをしっかりと密封すること、混合物を濃縮させること、エーテルを添加すること、溶液をろ過すること、ろ過物を濃縮すること、エーテルを添加しもう一度ろ過して残渣を得ること、残渣を酢酸エチルで懸濁すること、無水酢酸をこの懸濁液に添加すること、ジクロロメタン、トリエチルアミン、およびl,3−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−2−メチル−2−プソイドウレアを添加すること、温度を0℃に下げること、混合物を沈殿させること、混合物を水で洗浄すること、粗固形物をろ過すること、二次残渣を得るために混合物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合すること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【0180】
式XIとXIIの化合物は、(a)S−ベンジル−L−システインメチルエステル塩酸塩またはD−システインメチルエステル塩酸塩を冷たいアンモニアのメタノール溶液と混合すること、アンモニアの気流を混合物上に通すこと、フラスコをしっかりと密封すること、混合物を濃縮させること、エーテルを添加すること、溶液をろ過すること、ろ過物を濃縮すること、エーテルを添加しもう一度ろ過して残渣を得ること、残渣を酢酸エチルで懸濁すること、無水酢酸をこの懸濁液に添加すること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、温度を65℃に上昇させること、混合物を冷却すること、粗固形物をろ過すること、酢酸エチルで洗浄すること、二次残渣を得るために沈殿物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合すること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、三次残渣をエーテルに溶解すること、水素化アルミニウムリチウムのエーテル溶液をゆっくりと添加すること、酢酸エチルをゆっくりと添加すること、水をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、四次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから四次残渣を晶出させることによって調製される。
【0181】
式XVとXVIの化合物は、(a)O−ベンジル−L−セリンメチルエステル塩酸塩またはD−セリンメチルエステル塩酸塩を冷たいアンモニアのメタノール溶液と混合すること、アンモニアの気流を混合物上に通すこと、フラスコをしっかりと密封すること、混合物を濃縮させること、エーテルを添加すること、溶液をろ過すること、ろ過物を濃縮すること、エーテルを添加しもう一度ろ過して残渣を得ること、残渣を酢酸エチルで懸濁すること、無水酢酸をこの懸濁液に添加すること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、温度を65℃に上昇させること、混合物を冷却すること、粗固形物をろ過すること、酢酸エチルで洗浄すること、二次残渣を得るために沈殿物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合すること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、三次残渣をエーテルに溶解すること、水素化アルミニウムリチウムのエーテル溶液をゆっくりと添加すること、酢酸エチルをゆっくりと添加すること、水をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、四次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから四次残渣を晶出させることによって調製される。
【0182】
本発明のさらに別の実施形態は、ここで開示される化合物を調製するためのプロセスを提供し、シスタミン二塩酸塩とアンモニア、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を混合して一次混合物を生成すること、一次混合物を沈殿させること、一次混合物をろ過して乾燥させて一次残渣を生成すること、二次残渣を液体アンモニア、ナトリウム金属、および塩化アンモニウムのエタノール溶液と混合して二次混合物を生成すること、二次混合物をろ過して乾燥させ、これにより化合物を調製することから構成される。
【0183】
式VIの化合物は、シスタミン二塩酸塩をアンモニアと混合すること、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を添加すること、温度を50℃に上昇させること、混合物を沈殿させること、混合物を水で洗浄すること、粗固形物をろ過すること、二次残渣を得るために混合物を乾燥させること、二次残渣を液体アンモニアと混合すること、ナトリウム金属をゆっくりと添加すること、溶媒を除去すること、塩化アンモニウムのエタノール溶液をゆっくりと添加すること、無機塩類をろ過し分離すること、三次残渣を得るためにろ過物を濃縮して冷却すること、ならびにイソプロパノールから三次残渣を晶出させることによって調製される。
【実施例】
【0184】
(実施例1)
本実施例ではNACアミドを、PC12細胞のグルタミン酸によって誘発される酸化毒性に対する保護作用について評価した。
【0185】
材料と方法:N−(1−ピレニル)−マレイミド(NPM)をAldrich(Milwaukee、WI、米国)より購入した。N−アセチルシステインアミドはNovia Pharmaceuticals(イスラエル)より得た。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)グレード溶剤はFisher Scientific (Fair Lawn、NJ)より購入した。その他の全ての試薬はSigma(St.Louis、MO、米国)より購入した。
【0186】
細胞培養と毒性試験:PC12細胞の保存培養液はATCCより購入し、75cmの組織培養フラスコで、RPMI 1640で培養し、10%(v/v)熱不活性化ウマ血清と5%(v/v)ウシ胎仔血清を補充し、1%(v/v)ペニシリンとストレプトマイシンを添加した。培養液は5%COを含む湿潤環境で37℃に維持した。細胞を週に2回継代した。特記しないかぎり、全ての実験はDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM)を分化培地として用いて行い、0.5%(v/v)ウシ胎仔血清、1%(v/v)ペニシリンおよびストレプトマイシンを補充した。形態学的評価のため、PC12細胞を25x10細胞/ウェル濃度で24穴のコラーゲンコートプレートに接種した。プレートを3つずつ5つのグループに分けた。1)対照:グルタミン酸なし、NACアミドなし、2)神経成長因子(NGF)対照:NGF(100ng/ml)、グルタミン酸なし、NACアミドなし、3)NACアミドのみ:NGF(100ng/ml)、グルタミン酸なし、NACアミド(750μM)、4)グルタミン酸のみ:NGF(100ng/ml)、グルタミン酸(10mM)、NACアミドなし、および5)グルタミン酸+NACアミド:NGF(100ng/ml)、グルタミン酸(10mM)、NACアミド(750μM)である。グループIを除いて、全てのウェルに100ng/mlのNGFを一日おきに加えた。1週間後、細胞を10mMのグルタミン酸と、NACアミドを用いてまたは用いずに24時間処理した(対照は除く)。24時間後、細胞を0.5%(v/v)グルタルアルデヒド/PBSで固定し、顕微鏡写真を撮影した。
【0187】
LDHアッセイ:乳酸脱水素酵素(LDH)アッセイについては、細胞を2.5x10細胞/ウェル濃度で24穴コラーゲンコート培養プレートに接種し、24時間後、培地を所望濃度のグルタミン酸とNACアミドを含む新しいDMEM培地と交換した。所望する培養時間の後、放出されるLDH活性を以下に記載のようなキットを用いて測定した。MTSアッセイについて、細胞を10細胞/ウェル濃度で24穴コラーゲンコートプレートに接種した。実験の最後に、記述したように細胞生存率を、キットを用いてアッセイした。LDH活性アッセイをCytoTox96(登録商標)Non−Radioactive Cytotoxicity Assay kit(Promega、Madison、WI、米国)を用いて行い、細胞溶解の際に放出される安定した細胞質内酵素であるLDHの活性を定量的に測定した[Technical Bulletin No.163,Promega]。培養上清中のLDHを30分の結合酵素アッセイ(coupled enzymatic assay)で測定すると、テトラゾリウム塩の赤色ホルマザン産物への転換がもたらされた。形成された着色の量は細胞膜の損傷の度合いに比例した。吸光度データをBMGマイクロプレートリーダー(BMG Labtechnologies,Inc.、Durham、NC、米国)を用いて490nmにて収集した。LDH漏出量はグルタミン酸のみ(100%)で処理された細胞における最大LDH放出量の割合(%)で、以下の式に従って表された。
【0188】
【化28】

MTSアッセイ:MTSアッセイ(Cell Titer96(登録商標)Aqueous One solution cell proliferation Assay,Promega)は、投与した(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム分子内塩(MTS)[21]が生存細胞によって培地に溶解する着色ホルマザン産物に生体還元される細胞増殖アッセイである。490nmの吸光度は培養液中の生存細胞の数に比例する。
【0189】
GSH測定:GSHの細胞濃度はWinters R.A.ら、Anal Biochem.、227(1):14−21,1995で記述される方法を用いて測定した。GSH測定のために、細胞は80,000細胞/cmの濃度でポリ−D−リジンコート(0.05mg/ml)75cmフラスコ(5ml/フラスコ)に接種した。24時間後、フラスコをグルタミン酸(10mM)、またはBSO(0.2mM)またはグルタミン酸+BSO+NACアミド(750μM)を含む新鮮培地を用いて370℃にてまた24時間培養した。培養の後、細胞を培養液から取り出し、セリンホウ酸塩緩衝液(100mMのトリス塩酸、10mMのホウ酸、5mMのL−セリン、1mMのDETAPAC、pH7.4)内でホモジナイズした。20μlの希釈細胞ホモジネートを230μlのセリンホウ酸塩緩衝液と750μlのNPM(1mM/アセトニトリル)に加えた。得られる溶液を室温で5分間培養した。反応を5μlの2N塩酸を加えて停止させた。試料はその後0.2μmのAcrodiscフィルターでろ過し、HPLCシステムに注入した。
【0190】
MDA測定:溶液を調製するために、350μlの未加工細胞ホモジネート、100μlの500ppmBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)、および550μlの10%TCA(トリクロロ酢酸)を混合し、30分間煮沸した。試験管を氷上で冷却し、2500rpmで10分間遠心分離した。500μlの上清を取り、500μlのTBA(チオバルビツール酸)を加えた。試験管を再び30分間煮沸し、その後氷上で冷却した。この溶液から、500μlを取り1.0mlのn−ブタノールに加えボルテックス後、相分離を促進するために60gで5分間遠心分離した。その後最上層を0.45μmのフィルターでろ過し、逆相HPLCシステムの5μmのC18カラム(250x4.6mm)に注入した。移動相は5mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)が69.4%、アセトニトリルが30%、およびTHF(テトラヒドロフラン)が0.6%で構成されている。励起波長は515nmで発光波長は550nmとした(Draper H.H.ら、Free Radic Biol Med.、15(4):353−63,1993)。
【0191】
タンパク質定量と統計分析:タンパク質濃度を、クマシー・ブルー(Bio−Rad)を用いたBradford法により定量した(Bradford M.M.、Anal Biochem.、72:248−54,1976)。データは平均値±SDで表した。対照と実験グループ間の有意差の分析に一元配置分散分析試験を用いた。
【0192】
本実施例はNACアミドがグルタミン酸毒性に対して細胞を保護することを示す。グルタミン酸毒性は1)グルタミン酸存在下でのPC12細胞の形態学的評価、2)グルタミン酸への曝露から24時間後の培地内に放出されるLDH量の測定、および3)MTSアッセイを用いた細胞生存率の測定によって評価した。図2A〜Dに示すとおり、細胞は対照細胞に比べて、10mMグルタミン酸の存在下でその神経突起の正常形態を完全に失っていた。NACアミドがグルタミン酸毒性から細胞を保護できるかどうかを決定するために、PC12細胞を750μMのNACアミドの存在下で10mMグルタミン酸に24時間曝露し、光学顕微鏡で細胞生存率を試験した。NACアミドの添加は、神経突起のブレブ形成をわずかに低下させることによりPC12細胞をグルタミン酸毒性から保護した。
【0193】
NACアミドによりもたらされる保護を定量化するために、PC12細胞をNACアミドの存在下で10mMグルタミン酸に24時間曝露し、その後放出されたLDH量を、LDHアッセイを用いて測定した。図3に示すように、アッセイにおいて750μMのNACアミドの含有は、10mMグルタミン酸の存在下においてもなお、細胞傷害から細胞を完全に保護した(放出されたLDHの%は28.9±3.7%)。細胞をNACアミドの存在下で10mMグルタミン酸に24時間曝露すると同様の結果が得られ、細胞生存率をMTSアッセイによって評価した。
【0194】
例1の結果はNACアミド処置が有意にPC12細胞のGSH濃度を上昇させることを示している。細胞を10mMのグルタミン酸に曝露すると、GSH濃度の有意な低下が認められた(表1)。
表1:NACアミドの、BSOとグルタミン酸の存在下での細胞内GSH濃度への影響
【0195】
【表1】

PC12細胞を接種し24時間培養した後、それらをGLU(10mM)、NACアミド(750μM)、GLU(10mM)+NACアミド(750μM)、GLU(10mM)+BSO(0.2mM)+NACアミド(750μM)、またはBSO(0.2mM)のいずれかで処理した。20時間後、細胞を取り出し、本文中に記述するようにGSH濃度を分析した。数値は、平均値±SDを示す。対照と比較して統計的な差の値をP<0.05と決定した。グルタミン酸処置グループと比較して**P<0.001。グルタミン酸処置グループと比較して***P<0.05。750μMの濃度と24時間の処置時間にて、NACアミドは対照グループに比べてPC12細胞のGSH濃度を2倍上昇させた。興味深いことに、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞をNACアミドとともに培養すると、同様の結果が得られた(データ示さず)。
【0196】
GSHの細胞内濃度を10mMグルタミン酸とともに24時間培養したPC12細胞で測定し、NACアミドの影響を分析した。NACアミドを用いた細胞の処理は、グルタミン酸処理後に通常発生する細胞GSH濃度の著しい減少を防いだ(表1)。ブチオニンスルホキシイミン(BSO)がγ−GCS活性を抑制し、これにより細胞内GSHの減少の原因となる一方で、グルタミン酸はシスチンの取り込みを抑制し、細胞GSHの損失をもたらす。NACアミドによる細胞内GSHの上昇がγ−GCS依存性かどうかを決定するため、細胞を0.2mMBSOで処理した。グルタミン酸とBSOの同時処理は細胞GSHをほぼ検出不能な濃度にまで減少させた(表1)。興味深いことに、GSH合成停止細胞においては、NACアミド処理は効果的であり、細胞のGSH濃度の56%を維持した。NACアミドはさらに細胞内過酸化物蓄積から細胞を保護した。マロンジアルデヒド(MDA)は、脂質に対するフリーラジカルの攻撃の副産物である。MDA濃度の著しい上昇が、対応する対照細胞と比べてグルタミン酸曝露細胞に認められた(表2)。NACアミドでの処理はMDA濃度を低下させることにより、グルタミン酸毒性から細胞を完全に保護した。
【0197】
表2:グルタミン酸曝露PC12細胞のMDA濃度に対するNACアミドの効果
【0198】
【表2】

細胞を接種し24時間培養した後、それらをNACアミド(750μM)の存在下、または非存在下でグルタミン酸(10mM)に曝露した。24時間後、細胞を採取し、マロンジアルデヒド濃度を測定した。数値は平均値±SDを示す。対照と比べて統計的な差の値をP<0.002と**P<0.05と決定した。グルタミン酸処置グループと比較して***P<0.05。
【0199】
本実施例では、細胞内GSH濃度、MDA濃度、LDH活性における各種の潜在的な有害な変化によって、高濃度のグルタミン酸誘発酸化毒性が特徴付けられ、PC12細胞生存率の低下をもたらすことが見出された。NACアミドでの処理は細胞内GSHを上昇させ、MDA濃度を低下させ、これによりグルタミン酸誘発細胞毒性を軽減した。LDHおよびMTSアッセイにより評価を行った。グルタミン酸細胞毒性は、グルタミン酸受容体の活性化を通じた興奮作用か、GSH濃度の減少につながるシスチンの取り込みの抑制のいずれかに起因するとされてきた。PC12細胞はNMDA受容体を発現するが、NMDAがPC12細胞死に影響を与えないことから、グルタミン酸によって示される毒性は単にこれらの受容体の存在に関わっているわけではない。高濃度のグルタミン酸による細胞内酸化還元ホメオスタシスの崩壊は、in vivoでの細胞傷害の原因となる主要メカニズムであると考えられている。例えば脳虚血などの条件下では、細胞外グルタミン酸濃度は対照に比べて800%上昇し、これはシスチンの取り込みを阻害することにより脳GSH濃度を低下させる。GSHは抗酸化物質防御と酸化還元調節に重要な役割を果たす。GSHの欠乏は、各種の神経変性疾患に関連付けられている。細胞内GSH濃度をXcシステムおよびASCシステムによって測定した。ASCシステムがシスチンの細胞輸送を仲介するNa+依存性中性アミノ酸トランスポーターであるのに対して、Xcシステムは細胞内でグルタミン酸と交換にシスチンを輸送する。続く取り込みでは、細胞内グルタチオン合成のためにシスチンはシステインに還元される。しかし、グルタミン酸濃度の上昇はシスチンの取り込みを阻害し、結果として細胞が利用できるシステインを制限し、GSH減少に導く。
【0200】
本実施例では、PC12細胞のグルタミン酸との培養は、対照グループと比べて、GSHの減少(表1)とシステイン濃度の減少(図4)をもたらした。システイン濃度の減少は、過剰なグルタミン酸の存在がシスチンの取り込みを抑制し、これがGSH濃度の減少を導いたことを示す。NACアミド処理は、対照グループに比べてGSH(表1)およびシステイン濃度(図5)を上昇することができ、グルタミン酸の抑制作用を効果的に逆転させた。GSHおよびシステイン濃度の上昇は、NACアミドがマウスに投与された30分後にも認められた。NACアミドがシステインの供給を促進することに関する考えられるメカニズムは、細胞内部に容易に到達することと、システインを形成するために脱アセチル化物になることによるかもしれない。NACアミドがGSH合成停止細胞内のGSH濃度を回復することができるかどうかを理解するために、PC12細胞をNACアミド(750μM)の存在下でグルタミン酸(10mM)に加えてBSO(0.2mM)とともに培養した。結果はBSOの存在下でNACアミドが細胞内GSH濃度を上昇させたことを示し、効果がγ−GCS依存性であることを示唆していた。従って、NACアミド自体はGSH合成のためのスルフヒドリル基供与体として働くかもしれない。
【0201】
要約すると、実施例1はNACアミドがグルタミン酸誘発性の細胞GSHの損失の阻止と過酸化脂質の抑制によって、PC12細胞をグルタミン酸誘発細胞毒性から保護することを示す。これらの研究はまた、GSH合成停止細胞におけるNACアミドによるGSH合成の回復がγ−GCS依存性であることを示す。理論に縛られることを願うことなく、NACアミドがGSHを増加することができる、考えられるメカニズムは1)律速基質システインを細胞に供給することと、2)非酵素的チオール・ジスルフィド交換によってGSSGをGSHに還元することである。酸化ストレスが関与していると思われるグルタミン酸誘発細胞毒性に対するNACアミドの保護作用を考慮すると、NACアミドは脳の特定の部位においてGSH濃度が減少している脳虚血やパーキンソン病などの神経変性障害の処置において役割を果たすことができる。
【0202】
(実施例2)
本実施例はNACアミドの放射線防護効果を試験する。放射線暴露に対するNACアミドの保護作用を評価するために、GSH濃度の上昇と酸化ストレスパラメータのそれらの対照値への回復に関してNACアミドの放射線防護作用をNACのそれと比較した。
【0203】
動物試験: ラットの放射線照射をRolla、MissouriにあるPhelps County Regional Medical CenterのRadiation Oncology DepartmentにてVarian linear accelerator、Clinac1800モデルにより生成した16MeVビームを用いて人道的動物実験プロトコルの基準に従って行った。20x20または25x25cm域を使用し、出力率は週に一度チェックした。12匹の動物を、1グループ3匹ずつの4グループに分けた(対照、XRT、NACアミド+XRTおよびNAC+XRT)。放射線(XRT)対照には16MeV電子の6Gyによって全身照射を行った。NACアミド+XRTグループには、500mg/kg/日のNACアミドを照射の直前と殺処分までの照射後3日間与えた。ラットは麻酔し、ヘパリン添加血液を心臓穿刺術を通じて採取した。殺処分に続いて、肝臓、肺、脳、および脾臓を摘出し、ホモジナイズまで−70℃で保存した。
【0204】
全ての実験は、Charles River Laboratories Inc.(Portage、MI)より購入した体重約250gアルビノSASCO Sprague Dawleyの成体雌ラットを用いて行った。12匹のラットは紙箱に入れて輸送された(各箱に4匹ずつ)。ラットは血清学的、細菌学的、病理学的、寄生虫学的情報を含む証明書とともに届けられた。ラットは4つのケージに分けられ(各ケージに3匹ずつ)、12時間の明暗サイクルを維持するように装備された恒温室(20℃)に入れられた。標準ラット食(Purina rat chow)と水道水を個々のガラス瓶に供給し、無制限に与えた。水は毎日交換した。動物の体重はNACアミド処置溶液を与える前に量り、NACアミドは経口的に与えたが飲料水または餌の中には入れなかったため、摂取した餌の量と消費した水は測定しなかった。
【0205】
NACアミドは、分析証明書とMSDS(ロット番号40233−64)を含めてNovetide Ltd(Haifa Bay、イスラエル)から提供された。NACアミド給餌溶液は、1.25gのNACアミド固体試料を秤量し、(HR−120型電子てんびん、A&D Company limited、日本。S/N:12202464)、10ml PBS溶液に添加して投与の直前に毎日に新しく調製し、氷上に静置した。この溶液の1mlを動物給餌用医用針と3ml BD Luer−Lok Tipシリンジを用いてラットごとに経口的に投与(胃管栄養)した。ラットには全身単回6Gy/16MeVのX線照射を行い、各グループ3匹のラットを蓋付きのバケツに入れて同時に放射線を照射した。毎日同じ時間に体重1kgあたり500mgのNACアミドを動物に投与した。
【0206】
すべての結果は全ての組織サンプルについて、タンパク質含有量の単位(mg)あたりの値に正規化された。
【0207】
代表的標準曲線:
−GSH:y=8.57544x−425.092、R2=0.9997
−CYS:y=7.53294x+184.35、R2=0.9995
GSHおよびCYS濃度については、250μLの組織ホモジネートを750μLのNPM溶液と反応させるために使用したため、全量は1000μLであった。
【0208】
一例として:
サンプルにおけるGSHのピーク面積は90860.25である。GSH濃度(nM)は標準曲線から計算される。サンプルのタンパク質含有量(mg/ml)、例えば16.5mg/mlを測定した後の、計算は以下の通りである。
[(90860.25+425.092)/8.57544nmol/L]*[1L/1000mL]*[1000μL/250μL]/(16.5mg/ml)=2.58nmol GSH/mgタンパク質
−MDA:y=26.6869x+370.488、R2=0.9990
MDA濃度については、350μLの組織ホモジネートを100μLの500ppm BHT溶液と550μLの10%TCA溶液と反応させるために使用したため、ここでの全量は1000μLであった。溶液全量を煮沸した後、500μLを取って500μL TBAと反応させたので、ここでの全量もまた1000μLであった。
【0209】
一例として:
サンプルにおけるMDAのピーク面積は65289.23である。MDA濃度(nM)は標準曲線から計算される。サンプルのタンパク質含有量(mg/ml)、例えば16.5mg/mlを測定した後の、得られる計算は以下の通りである。
[(65289.23−370.488)/26.6869nmol/L]*[1L/1000mL]*[1000μL/350μL]*[1000μL/500μL]/(16.5mg/ml)*100=84.3nmol MDA/100mgタンパク質
−カタラーゼ:
比活性のための計算:
アッセイ溶液において、
k(酵素活性)=1/60*ln(A0/A60)*(反応液の全量/サンプルの量)
A0−0秒における吸光度
A60−60秒における吸光度
サンプル中、K(比活性)=k/タンパク質濃度である。
【0210】
動物における酸化ストレスパラメータ:血液サンプルを採取した後、動物を冷えた抗酸化物質緩衝液でまず灌流し、その後肝臓、脳、および腎臓試料を無菌的に採取し、氷冷生理食塩水ですすぎ、氷上に保ったシャーレの中に置いた。GSH、GSSG、およびMDA測定のために−70℃に保たれた組織試料を作成した。
【0211】
グルタチオン(GSH)およびグルタチオンジスルフィド(GSSG)測定:細胞または組織サンプルを氷上でホモジナイズし、N−(l−ピレニル)−マレイミド(NPM)で誘導体化した。誘導体化したサンプルを1mL/Lの酢酸およびo−リン酸を含む水35%、アセトニトリル65%の移動相を持つ逆相HPLCシステム3μmのC18カラム(Column Engineering)に注入した(R.Wintersら、Anal.Biochem.、227:14−21(1995)およびH.H.Draperら、Free Rad.Biol.Med.、15:353−363(1993))。マロンジアルデヒド(MDA)測定をJ.Gutteridge、Anal.Biochem.、69:518−526(1975)に記述されるように行った。
【0212】
酵素活性アッセイ:カタラーゼ(CAT)活性を分光光度法で測定し、M.Bradford、Anal.Biochem.、72:248−256(1976)で記述されるようにκ単位/mgタンパク質とκ単位/10細胞で表した。
【0213】
統計学的分析:集計した値は平均値±標準偏差を示す。実験グループおよび対照グループから得られるデータの分析のため、GraphPad Software、San Diego、CA製のInStat(登録商標)は一元配置分散分析(ANOVA)、Student−Newman−Keuls Multiple Comparisons Testを用いる。p値<0.05は有意と考える。
【0214】
本実施例において記載される試験の結果を、以下の表に提供する。これらの表では、AD4はNACアミドと同義である。
【0215】
表3 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の脳内GSHおよびCYS濃度
【0216】
【表3】

表4 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の肝臓内GSHおよびCYS濃度
【0217】
【表4】

表5 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の腎臓内GSHおよびCYS濃度
【0218】
【表5】

表6 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の肺内GSHおよびCYS濃度
【0219】
【表6】

表7 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の血漿GSHおよびCYS濃度
【0220】
【表7】

*CTRグループと比較してP<0.05、**XRT単独グループと比較してP<0.005、***XRT+AD4処置グループと比較してP<0.05。
【0221】
表8 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の脳内MDA濃度
【0222】
【表8】

表9 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の肝臓内MDA濃度
【0223】
【表9】

表10 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の腎臓内MDA濃度
【0224】
【表10】

表11 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の肺内MDA濃度
【0225】
【表11】

*CTRグループと比較してP<0.05
**XRT単独グループと比較してP<0.005
***XRT+AD4処置グループと比較してP<0.05。
【0226】
表12 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の腎臓内カタラーゼ活性:
【0227】
【表12】

表13 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の肺内カタラーゼ活性:
【0228】
【表13】

表14 AD4またはNAC投与(500mg/kg経口投与)とともに6Gy全身X線照射をした後の肝臓内カタラーゼ活性。
【0229】
【表14】

*CTRグループと比較してP<0.05、**XRT単独グループと比較してP<0.05
***XRT+AD4処置グループと比較してP<0.05。
【0230】
提示されたデータは、放射線誘発酸化ストレスにおいてNACアミドが強力なチオール抗酸化物質として働くという知見を裏付けるものである。恐らくはNACが細胞膜を越えないために、NACは組織内GSH濃度を上昇させない。血漿Cys濃度が有意に上昇したが、これは肝臓には反映されなかった。NACは通常、GSHプールへの要求が増加した間だけGSHを提供する。
【0231】
照射に際して、酸素が電子を受け入れるのを通じて活性酸素種が形成され、これはフリーラジカル連鎖反応に関与し、細胞の酸化促進/抗酸化バランスの崩壊を通じて細胞に対して高度な傷害を与える。正常細胞の傷害は放射線量と放射線治療の処置容積を制限する。チオールによる正常組織の放射線防護は放射線量を増加できる1つの方法を提示する。本実施例の焦点は、全ての動物で致死的な胃腸症候群および造血症状が進展することを保証するのに十分な6Gyの全身放射線量を用いて、NACアミドの放射線防護作用を検討することである。分析のために選択された時点である4日間は、動物が胃腸症候群のために死に始めるが、造血症状には初期変化のみを示すことが予想されるであろう時間に近似する。
【0232】
GSHはγ−グルタミル−システイニル−グリシンからなるトリペプチドであり、主要な水溶性細胞内遊離チオールであって、放射線防護物質として働く。GSHによる放射線防護のいくつかの明確なメカニズムは識別でき、これにはラジカル消去、傷害された分子への水素供与、過酸化物の低減、およびタンパク質チオール酸化状態の保護が含まれる。GSHは照射後の組織において減少することが示されている。GSHは内因性の放射線保護物質であるため、GSH濃度の変更は放射線保護として有用かもしれない。γ−グルタミル−システイン合成に対するその明確なKm値がアミノ酸の細胞内濃度に近いことから、システインはGSH合成において律速段階を提供する。しかし、システインの投与は、それが急速に自動的に酸化しヒドロキシルラジカルやチイル(thiyl)ラジカルの産生につながる可能性があるため、細胞内GSHを上昇させるのに望ましい方法ではない。
【0233】
NACは粘液溶解薬でパラセタモール中毒の処置物質であるシステインアナログであり、肝臓GSH合成を促進する。これは細胞膜を通り抜け、GSSG還元酵素を刺激しながらも急速に脱アセチル化されL−システインとなる。NACは肝臓GSH濃度を急速に上昇させることができ、これら濃度を少なくとも6時間維持する(B.Wongら、J.Pharm.Sci.、75:878−880(1986))。NACはまたチャイニーズハムスター卵巣細胞をGSH補充による細胞の酸化状態の回復を通じて鉛毒性およびδ−アミノレブリン酸誘発毒性から保護することが示されてきた。NACがC57BL/6マウスの肝臓と脳を鉛中毒の結果としてGSH減少から保護することが示されてきた。インドメタシン、WR−2721、システアミン、およびジエチルジチオカルバミン酸塩などの選ばれたチオール類は、高濃度において細胞毒性を誘発するが、その放射線保護作用が報告されている。ヒト顆粒球−マクロファージコロニー形成細胞においてNACの放射線防護作用が示されてきた。しかし、より放射線耐性のSW−1573ヒト肺扁平上皮癌の細胞株が、NACによるX線誘発性の細胞死から保護されないことも示されてきた。NACアミドはより脂肪親和性でNACよりも容易に細胞膜を通り抜けることができる。本実施例では、NACアミドの放射線防護機能を、GSH濃度の上昇と酸化ストレスパラメータの対照値への回復という点からNACのそれと比較した。
【0234】
ヒドロキシルラジカルなどの活性酸素種への膜脂質の曝露は、多価不飽和脂肪酸部分で連鎖反応を先導する可能性があり、これは過酸化をもたらし膜機能の低下の原因となる。MDAは極めて不安定な過酸化脂質の分解産物である。本実施例で認められたように、Sprague Dawleyラットへの照射は、肝臓および肺内のMDA濃度の上昇をもたらした。NACを用いた処理では、MDA濃度に有意な変化がなかったのに対して、照射と共にNACアミドを用いた処理では、肺MDA濃度は有意に減少した。
【0235】
複合生物体においては核酸に対してだけでなく膜脂質およびタンパク質において、いくらか潜在的に重要なROSの効果が存在することが明らかとなったが、放射線生物学の分野では放射線被ばくによる個々の細胞殺傷のメカニズムが、直接的または間接的な、特に細胞核内のDNAに対するイオン化効果によるものであることが一般的に認められている。さらに、いわゆる「胃腸症候群」をモデル化した条件下における無傷動物への急激な全身照射は、消化管とは別の種々の組織における変化の原因となり、これらの作用のいくつかはNACアミドの使用により改善される。「胃腸症候群」などの特定の症候群は、複数の組織や臓器における複合的な変化を実際に伴う可能性がある。放射線肺炎は、肺癌を持つ患者への治療照射において重大な危険となりうる。NACアミドはそのような合併症から保護するためのチオール放射線防護物質としての使用を考慮されるかもしれない。従って、本発明に基づき、NACアミドは血漿および肝臓内のチオール濃度を有意に上昇させ、NACよりも放射線防護剤としてより良く機能する。
【0236】
(実施例3)
本実施例では、ヒトに適した処置レジメンを記述する。NACアミドを、一日に1〜3gの間の量を2回に分けて、食間に(空腹時に)投与する。カプセル化されたNACアミド(500mgのNACアミドと、必要に応じて250mgのUSPグレード結晶アスコルビン酸、0.9mgを超えないステアリン酸マグネシウム、NFグレードをOO型ゼラチンカプセルに含有するNACアミド処方物)が投与に適している。外因性NACアミドの投与は、人体における多量のグルタチオンの産生にも関わらず、用量反応効果を患者にもたらすことが予想される。
【0237】
(実施例4)
本実施例では、代謝の間に肝臓でグルタチオンを消費し、また過剰用量では、酸化的損傷による肝臓障害の原因となる薬剤である、アセトアミノフェンの有害な作用を改善するための組合せ薬学的組成物について記述する。この組成物は、500mgのNACアミド、250mgの結晶アスコルビン酸、および350mgのアセトアミノフェンを含有する。
【0238】
(実施例5)
本実施例では、過剰なフリーラジカル反応に関連している可能性がある遅発性ジスキネジーなどの副作用の原因となるフェノチアジン系薬剤である、クロルプロマジンの有害な作用を改善するための組合せ薬学的組成物について記述する。この組成物は、500mgのNACアミド、250mgの結晶アスコルビン酸、および200mgのクロルプロマジンを含有する。
【0239】
(実施例6)
本実施例では、各種の毒性に関連があるかもしれない薬剤クラスであるアミノグリコシド系薬剤(抗生物質)の有害な作用を改善するための組合せ薬学的組成物について記述し、これらの例としてはネオマイシン、カナマイシン、アミカシン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、シソミシン、ネチルミシン、およびトブラマイシンなどを含むがこれに限定されるものではない。この傷害は酸化的損傷または代謝中のグルタチオンの消費に関連があるかもしれない。本発明に基づく組成物は、静脈内処方物であり、有効量のアミノグリコシドや約10−20mg/kg量のNACアミドが含まれる。5−10mg/kg量のアスコルビン酸が安定剤として添加されるかもしれない。
【0240】
(実施例7)
本実施例では、NACアミドを含む尿道挿入を記述する。単位用量につき200mgのNACアミド、50mgのアスコルビン酸を含む組成物を、カラゲナンおよび/またはアガロースと水と急速ゲル化組成物にて混合し、直径約3mm、長さ約30mmの円筒状型にゲル化させる。組成物を、0.1〜10%の間のNACアミドをニトロソNACアミドに変換するために、一酸化窒素に曝露する。その後ゲル化したアガロースを、縮小を可能にする条件下で凍結乾燥する。凍結乾燥したゲルを、ホイルパウチまたはホイルの「気泡パック(bubble−pack)」などの気体遮断パッケージに詰める。その後、凍結乾燥したゲルは、経粘膜的投与のためのニトロソNACアミドの供給源として用いられるかもしれない。円筒型の凍結乾燥されたゲルは、性不能症の処置のために男性の尿道に挿入されるか、または全身性の血管拡張のために舌下に投与されるかもしれない。
【0241】
(実施例8)
本実施例では、例えば40歳を越えた男性における血管疾患の予防のための経口処方物を記述する。この組成物は、500mgのNACアミド、250mgのUSPグレード結晶アスコルビン酸、および50mgのUSPグレードアセチルサリチル酸(アスピリン)をOO型ゼラチンカプセルに含有する。典型的な投与は、一日2回である。アセチルサリチル酸は、放出を遅らせるために、カプセルに入った腸溶性放出ペレット剤で提供されるかもしれない。
【0242】
(実施例9)
本実施例は、血管疾患の予防のための経口処方物を記述する。この組成物は、500mgのNACアミド、200mgのUSPグレード結晶アスコルビン酸、および200mgのアルギニンをOO型ゼラチンカプセルに含有する。アルギニンは、一酸化窒素産生の通常の開始物質である。アルギニンは、通常限られた供給状態にあるため、アルギニンの相対的な欠乏は、血管内皮機能の障害をもたらすかもしれない。
【0243】
(実施例10)
本実施例は、血管疾患の予防のための経口処方物を記述する。この組成物は、500mgのNACアミド、200mgのUSPグレード結晶アスコルビン酸、および200mgのビタミンEコハク酸塩をOO型ゼラチンカプセルに含有する。ビタミンEの消費は、心臓発作やその他の血管疾患のリスクを低下させる。ビタミンEコハク酸塩(α−コハク酸トコフェロール)は乾燥粉末である。
【0244】
(実施例11)
本実施例は、血管疾患の予防のための経口処方物を記述する。広範な基質特異性を持つ非特異性エステラーゼが血漿中に存在する。本発明に従って、エステルは、効率的な投与、高いバイオアベイラビリティ、薬学的な安定性を提供するのに有用な併用療法である薬剤の間で形成される。好ましいエステル類には、α−トコフェロール−アスコルビン酸塩、α−トコフェロール−サリチル酸塩、およびアスコルビル酸−サリチル酸塩が含まれる。トコフェロールエステルは、分子を還元状態に保ち、エステル開裂後の最大の抗酸化能を可能にする。これらのエステルは単独で投与されるか、またはNACアミドなどの他の薬剤との組み合わせで投与されるかもしれない。代表的に、炎症性疾患の予防に対しては一日につき100mg相当、または処置に対しては1用量あたり750〜1000mg相当の有効量のサリチル酸塩を送達するためにエステル類が投与される。トコフェロールは、100〜500IU相当の量で投与される。アスコルビン酸塩は、1000mg相当までの量で投与される。アベイラビリティを高めるために、非特異性エステラーゼはカプセルの溶解後にエステルを開裂するための処方物で提供されるかもしれない。従って、細菌酵素またはサッカロミセス(酵母)酵素、または濃縮酵素製剤などの非特異性エステラーゼは、カプセルに入った粉末剤またはペレット剤として処方物に含有されるかもしれない。
【0245】
(実施例12)
本実施例は、血管疾患の予防のための経口処方物を記述する。この組成物は、500mgの還元型NACアミド、200mgのUSPグレード結晶アスコルビン酸、および100mgのノルジヒドログアイアレチン酸をOO型ゼラチンカプセルに含有する。典型的な投与は一日2回である。ノルジヒドログアイアレチン酸は良く知られたリポキシゲナーゼ阻害剤である。従って、この組成物は、炎症過程の処置、または血管疾患の予防に用いられるかもしれない。
【0246】
(実施例13)
本実施例では、NACまたはNACアミド(TOVA)の存在下または非存在下でX線の全身単回照射(XRT)を受けたラットの生存率を観察する試験について記述する。この実験では、体重約150〜200gの範囲の39匹の雌Sprague−Dawleyラットを全身単回X線照射(9Gy、16Mev)に曝露した。同グループはNACまたはTOVAのいずれかを受けるように指定された。前処理グループ(各グループn=6)については、NACまたはTOVAの最初の処置を照射の30分から1時間前に施した。後処理グループ(各グループn=6)については、NACまたはTOVAの最初の処置を照射の30分から1時間後に施した。NACまたはTOVAを投与されるグループについては、同量(500mg/kgのNACまたはTOVAを毎日)を4または5日連続で施した。
【0247】
グループ1は、対照グループ(n=3)であり、ここではXRTなしでラットに毎日同量の生理食塩水を5日連続で与えた。グループ2のラット(n=3)には、XRTなしで毎日500mg/kg体重のNAC量で、NACのみを5日連続で与えた。グループ3のラット(n=3)には、XRTなしで毎日500mg/kg体重のTOVA量で、TOVAのみを5日連続で与えた。グループ4のラット(n=6)には放射線(XRT)のみ与え、全身単回XRT照射の後に毎日同量の生理食塩水を5日連続で与えた。
【0248】
グループ5のラットには、XRTの前に、500mg/kg体重のNAC処置を一度与え(XRT+NAC前処理)、その後XRT後に毎日500mg/kg体重のNACを4日連続投与した。グループ6のラットには、XRTを与え、その後XRT後に1日量500mg/kg体重のNACを5日連続投与した(XRT+NAC後処理)。グループ7のラットには、XRTの前に500mg/kg体重のNAC処置を一度与え(XRT+TOVA前処理)、その後XRT後に毎日500mg/kg体重のTOVAを4日連続投与した。グループ8のラットにはXRTを与え、その後XRT後に1日量500mg/kg体重のTOVAを5日連続投与した(XRT+TOVA後処理)。その後全てのラットに、処置後、通常給餌を与えた。
【0249】
ラットを一日に2回観察し、各グループ内のラットの生存状況を記録する。実験の最後に平均生存日数を各グループについて計算し、3グループのラットの生存率の差異と比較した。その後、以下の表に示すように、照射を受けたラットの生存率に関するNACおよびTOVA処置の放射線防護作用を評価した。
【0250】
表15は、NACまたはTOVAをXRT処置の前後に投与した条件下で生存した動物の数を示す。
【0251】
【表15】

表16 XRT処置前後にNACまたはTOVAを受けたラットの生存率(%)を示す。
【0252】
【表16】

図6は、表16に示される生存率(%)を比較するグラフ表示である。これらの結果は、XRT前にNACまたはTOVAで前処理を受けたラットが、XRTを単独で受けたラットよりも高い生存率を持つことを示す。
【0253】
本明細書に引用する全ての特許出願、公開された出願、特許、文章、参考文献は、参照としてその全体が本明細書に援用される。
【0254】
記載した本発明の精神と範囲から逸脱することなく、上記の方法や組成物において各種の変更が行えるように、上記の説明に含まれる、添付図面に示される、または添付の請求項で定義される全ての対象物が限定的な意義ではなく実例として解釈されることを意図するものである。
【図面の簡単な説明】
【0255】
【図1】図1Aは、Nアセチルシステインの構造を示す図である。図1Bは、アセチルシステインアミド(NACアミド)の構造を示す図である。
【図2】図2A〜2Dは、グルタミン酸に対するPC12細胞の細胞傷害反応およびNACアミドによる保護を示す図である。PC12細胞を、24穴のウエルプレートに25×10細胞/ウェル濃度でプレート固定し、培地で24時間培養した。実施例1に記載の通り、NACアミド有りまたは無しで、10mM Gluにより処理あるいは処理されなかった(対照)。24時間後、細胞は、分析され、撮影された。図2Aは対照、図2BはNACアミドのみ(NACA)、図2Cは、グルタミン酸のみ、図2Dはグルタミン酸およびNACAの図である。
【図3】図3は、グルタミン酸細胞毒性に対するNACアミドの保護効果を示す図である。細胞をプレート固定し、培地で24時間培養した。その後NACアミド有りまたは無しで、10mM Gluにより処理あるいは処理されなかった(対照)。24時間後、LDH放出%は、LDH分析を用いて決定された。数値は平均値±SDを示す。対照と比較して統計的な差の値をP<0.0001および**P<0.05と決定した。グルタミン酸処理群と比較して***P<0.0001と決定した。
【図4】図4は、グルタミン酸誘発細胞毒性に対するNACアミドの効果を示す図である。細胞を、24時間、NACアミド有りまたは無しで、10mM GIuに暴露し、効果を対照と比較した。細胞生存率は、MTSアッセイにより定量された。数値は平均値±SDを示す。対照と比較して統計的な差の値をP<0.0005および**P<0.05と決定した。グルタミン酸処理群と比較して***P<0.05と決定した。
【図5】図5は、PC12細胞内のシステインに対するNACアミド(NACアミド)の効果を示す図である。細胞をプレート固定し、24時間培養し、NACアミド(750μM)が存在下または非存在下で、グルタミン酸(10mM)に暴露した。24時間後、細胞は採取され、システインレベルが測定された。数値は平均値±SDを示す。対照と比較して統計的な差の値をP<0.005と**P<0.05と決定した。グルタミン酸処理群と比較して***P<0.05と決定した。
【図6】図6は、処置前または処置後でNACあるいはNACアミド(TOVA)と組合わせるX線照射処置後のSDラットの生存率の比較を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞および組織において酸化物質の過剰生産を抑制するために、グルタチオン濃度を増やすための薬学的組成物であって、N−アセチルシステインアミド(NACアミド)、またはその薬学的に許容される塩、エステル、または誘導体を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
生命体の細胞および組織において抗酸化物質の濃度を増やすための方法であって、抗酸化物質の濃度を増やすのに有効な量のNACアミドを前記生命体に投与する工程を含む、方法。
【請求項3】
前記生命体は、酸化物質の過剰生産に関連する病状、疾患、疾病、または病変を患うヒトである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記病状、疾患、疾病または病変は、AIDS、糖尿病、黄斑変性、うっ血性心不全、循環器疾患、冠動脈再狭窄、肺疾患、炎症性疾患、喘息、RNAウイルス感染、DNAウイルス感染、敗血症、敗血症、骨粗しょう症、骨疾患、微生物による感染、毒物暴露、放射線被ばく、熱傷、プリオン病、神経系疾患、血液疾患、血液細胞疾患、動脈疾患および筋肉疾患で構成される群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記病状、疾患、疾病、または病変はマラリアである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記病状、疾患、疾病、または病変は結核である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記血液疾患は鎌状赤血球貧血である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
生命体を放射線誘発性の酸化ストレスから保護する方法であって、NACアミドまたはNACアミドの誘導体の放射線防護のための量を前記生命体に投与する工程を含む方法。
【請求項9】
500mg/kgの量のNACアミドまたはNACアミドの誘導体を経口投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
生命体でのチオール抗酸化物質の濃度を増やす方法であって、チオール抗酸化物質の濃度を増やすために有効な量のNACアミドまたはNACアミドの誘導体を前記生命体に投与する工程を含む方法。
【請求項11】
前記チオール抗酸化物質は、グルタチオンまたはシステインである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記チオール抗酸化物質の濃度は、肝臓および血漿で増える、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
500mg/kgの量でNACアミドまたはNACアミドの誘導体を経口投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
感染宿主の細胞でのバクテリアを殺傷またはその増殖を抑制する方法であって、
前記宿主の白血球でのHIF−1またはHIF−1αの生成を誘発するのに有効な量のNACアミドまたはNACアミドの誘導体を提供し、それにより前記微生物を殺傷またはその増殖を抑制するために前記白血球の能力を向上させる工程を含む、方法。
【請求項15】
メタロプロテイナーゼ活性に関連するRac1b−誘発性ROS生成の効果を妨げる方法であって、
NACアミドまたはNACアミドの誘導体を、それを必要とする細胞、組織、および/または被検体に投与または導入し、それにより組織損傷および劣化を引き起こす前記経路での分子を標的にする工程を含む、方法。
【請求項16】
Rac1b−誘発性ROS生成でのMMP−3メタロプロテイナーゼの効果を妨げる、または抑制する方法であって、
組織損傷および劣化を引き起こすMMP−3の前記活性を妨げるまたは抑制するために、NACアミドまたはNACアミドの誘導体を、それを必要とする細胞、組織、および/または被検体に投与または導入する工程を含む、方法。
【請求項17】
サイトカインおよび造血因子の内因性生成を刺激する方法であって、
所定の望ましい治療上の効果を得るよう、前記内因性生成を刺激するために、NACアミドまたはNACアミドの誘導体を、それを必要とする細胞、組織、および/または被検体に一定期間投与または導入する工程を含む、方法。
【請求項18】
細胞、組織、および/また被検体での遺伝子発現におけるNACアミド応答変化を検出する方法であって、
遺伝子発現における変化を誘発するために、NACアミドまたはNACアミドの誘導体を、細胞、組織、および/または被検体に一定期間投与または導入する工程と、遺伝子発現における変化を検出する工程を含む、方法。
【請求項19】
前記細胞は内皮細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記組織は血管組織である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
遺伝子発現における前記変化は、マイクロアレイ解析、RT−PCR、ノーザンブロット法、免疫蛍光測定法、免疫ブロット法、または酸素免疫測定法によって検出される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
ナノ粒子に結合されるNACアミドまたはNACアミドの誘導体を投与または提供する工程を含む、請求項2、10、14、15、16、17、または18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
リガンドのための高濃度の表面受容体を発現する宿主細胞に対する、NACアミドまたはNACアミドの誘導体の方向をもった送達の方法であって、
a)NACアミドリガンド結合体を形成するために、NACアミドまたはNACアミドの誘導体を前記表面受容体リガンドに結合させる工程と、
b)前記NACアミドリガンド結合体をナノ粒子に吸着させる工程と、
c)工程(b)の前記ナノ粒子を前記宿主に導入する工程と、
を含む方法。
【請求項24】
リガンドのための高濃度の表面受容体を発現する宿主細胞に対する、NACアミドまたはNACアミドの誘導体の方向をもった送達の方法であって、
a)アセチル化樹枝状ナノポリマーをリガンドに結合体化させる工程と、
b)NACアミドリガンドナノ粒子を形成するために、工程(a)の前記結合体化リガンドをNACアミドまたはNACアミドの誘導体に結合させる工程と、
c)工程(b)の前記ナノ粒子を前記宿主に導入する工程を含む、方法。
【請求項25】
前記リガンドは葉酸またはグルタチオンである、請求項23または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ナノ粒子はPAMAM樹枝状ポリマーである、請求項23または請求項24に記載の方法。
【請求項27】
式I
【化1】

の化合物であって、
式中、RはOH、SH、またはS−S−Z;
XはCまたはN;
YはNH、OH、CH−C=O、またはNH−CH
は存在しないか、H、または=O
は存在しないか、または
【化2】

であり、
ここで、RはNHまたはO;
は、CF、NH、またはCHであり
そして、Zは
【化3】

であり、
ただしRがS−S−Zの場合は、XおよびX’は同一、YおよびY’は同一、RおよびRは同一、ならびにRおよびRは同一である、化合物。
【請求項28】
はS、XはC、YはNH、Rは=O、R
【化4】

はO、およびRはCHである、請求項27に記載の化合物。
【請求項29】
前記化合物はキラルであり、またD−異性体、L−異性体、ならびにD−およびL−異性体のラセミ混合物で構成される群から選択される、請求項28に記載の化合物。
【請求項30】
はS、XはC、YはNH−CH、RはH、R
【化5】

はO、およびRはCHである、請求項27に記載の化合物。
【請求項31】
前記化合物はキラルであり、そしてD−異性体、L−異性体、ならびにD−およびL−異性体のラセミ混合物で構成される群から選択される、請求項30に記載の化合物。
【請求項32】
はS、XはN、YはCH−C=O、RはH、およびRは存在しない、請求項27に記載の化合物。
【請求項33】
はS、XはC、YはNH、Rは=O、R
【化6】

はO、およびRはCFである、請求項27に記載の化合物。
【請求項34】
前記化合物はキラルであり、そしてD−異性体、L−異性体、ならびにD−およびL−異性体のラセミ混合物で構成される群から選択される、請求項33に記載の化合物。
【請求項35】
はO、XはC、YはNH、Rは=O、R
【化7】

はO、およびRはCHである、請求項27に記載の化合物。
【請求項36】
前記化合物はキラルであり、そしてD−異性体、L−異性体、ならびにD−およびL−異性体のラセミ混合物で構成される群から選択される、請求項35に記載の化合物。
【請求項37】
はS、XはC、YはOH、Rは存在しない、R
【化8】

はO、およびRはCHである、請求項27に記載の化合物。
【請求項38】
前記化合物はキラルであり、そしてD−異性体、L−異性体、ならびにD−およびL−異性体のラセミ混合物で構成される群から選択される、請求項37に記載の化合物。
【請求項39】
はS、XはC、YはNH、Rは=O、R
【化9】

はNH、およびRはNHである、請求項27に記載の化合物。
【請求項40】
前記化合物はキラルであり、そしてD−異性体、L−異性体、ならびにD−およびL−異性体のラセミ混合物で構成される群から選択される、請求項39に記載の化合物。
【請求項41】
はO、XはC、YはOH、Rは存在しない、R
【化10】

はO、およびRはCHである、請求項27に記載の化合物。
【請求項42】
前記化合物はキラルであり、そしてD−異性体、L−異性体、ならびにD−およびL−異性体のラセミ混合物で構成される群から選択される、請求項41に記載の化合物。
【請求項43】
はS−S−Z、XはC、YはNH、Rは=O、R
【化11】

はO、およびRはCHである、請求項27に記載の化合物。
【請求項44】
前記化合物はキラルであり、そしてD−異性体、L−異性体、ならびにD−およびL−異性体のラセミ混合物で構成される群から選択される、請求項43に記載の化合物。
【請求項45】
(a)第1の混合物を生成するために、塩基をL−シスチンジアミドジヒドロクロライドに加え、その後真空下で前記第1の混合物を加熱する工程;
(b)メタノール溶液を前記加熱した第1の混合物に加える工程;
(c)第1の残渣を得るために、前記混合物を塩酸アルコールで酸性にする工程;
(d)前記第1の残渣を、アンモニアで飽和したメタノールを含む第1の溶液に溶解させる工程;
(e)第2の混合物を生成するために、第2の溶液を前記溶解した第1の残渣に加える工程;
(f)前記第2の混合物を沈殿させて、洗浄する工程;
(g)第2の残渣を得るために、前記第2の混合物をろ過し、乾燥させる工程と;
(h)第3の混合物を生成するために、前記第2の残渣と液体アンモニアおよび塩化アンモニウムのエタノール溶液を混合する工程;および
(i)前記第3の混合物をろ過し、乾燥させ、それにより前記L−異性体化合物を調製する工程を含む、請求項27の前記化合物のL−異性体を調製するプロセス。
【請求項46】
前記塩基は、液体アンモニアまたはメチルアミンを含む、請求項45に記載のプロセス。
【請求項47】
前記第2の溶液は、水、酢酸塩、および無水物を含む、請求項45に記載のプロセス。
【請求項48】
前記酢酸塩は、酢酸ナトリウムまたはトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む、請求項47に記載のプロセス。
【請求項49】
前記無水物は、無水酢酸または無水トリフルオロ酢酸を含む、請求項47に記載のプロセス。
【請求項50】
前記第2の溶液は、ジクロロメタン、トリエチルアミン、および1,3−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−2−メチル−2−チオプソイドウレアを含む、請求項45に記載のプロセス。
【請求項51】
工程(h)は、ナトリウム金属の存在下で、前記第2の残渣を混合する工程をさらに含む、請求項45に記載のプロセス。
【請求項52】
(j)エーテルに前記L−異性体化合物を溶解させる工程;
(k)第4の混合物を生成するために、水素化アルミニウムリチウム、酢酸エチル、および水のエーテル溶液を前記溶解したL−異性体化合物に加える工程;および
(l)前記第4の混合物をろ過し、乾燥させ、それにより前記L−異性体化合物を調製する工程をさらに含む、請求項45に記載のプロセス。
【請求項53】
(a)第1の混合物を生成するために、塩基をD−シスチンジアミドジヒドロクロライドに加え、その後真空下で前記第1の混合物を加熱する工程;
(b)メタノール溶液を前記加熱した第1の混合物に加える工程;
(c)第1の残渣を得るために、前記混合物を塩酸アルコールで酸性にする工程;
(d)前記第1の残渣を、アンモニアで飽和したメタノールを含む第1の溶液に溶解させる工程;
(e)第2の混合物を生成するために、第2の溶液を前記溶解した第1の残渣に加える工程;
(f)前記第2の混合物を沈殿させて、洗浄する工程;
(g)第2の残渣を得るために、前記第2の混合物をろ過し、乾燥させる工程;
(h)第3の混合物を生成するために、前記第2の残渣と液体アンモニア、ナトリウム金属、および塩化アンモニウムのエタノール溶液を混合する工程;および
(i)前記第3の混合物をろ過し、乾燥させ、それにより前記L−異性体化合物を調製する工程を含む、請求項27に記載の前記化合物のD−異性体を調製するプロセス。
【請求項54】
前記塩基は、液体アンモニアまたはメチルアミンを含む、請求項53に記載のプロセス。
【請求項55】
前記第2の溶液は、水、酢酸塩、および無水物を含む、請求項53に記載のプロセス。
【請求項56】
前記酢酸塩は、酢酸ナトリウムまたはトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む、請求項55に記載のプロセス。
【請求項57】
前記無水物は、無水酢酸または無水トリフルオロ酢酸を含む、請求項55に記載のプロセス。
【請求項58】
前記第2の溶液は、ジクロロメタン、トリエチルアミン、および1,3−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−2−メチル−2−チオプソイドウレアを含む、請求項53に記載のプロセス。
【請求項59】
工程(h)は、ナトリウム金属の存在下で、前記第2の残渣を混合する工程をさらに含む、請求項53に記載のプロセス。
【請求項60】
(j)エーテルに前記D−異性体化合物を溶解させる工程;
(k)第4の混合物を生成するために、水素化アルミニウムリチウム、酢酸エチル、および水のエーテル溶液を前記溶解したD−異性体化合物に加える工程と;および
(l)前記第4の混合物をろ過し、乾燥させ、それにより前記D−異性体化合物を調製する工程をさらに含む、請求項53に記載のプロセス。
【請求項61】
(a)第1の混合物を生成するために、S−ベンジル−L−システインメチルエステル塩酸塩またはO−ベンジル−L−セリンメチルエステル塩酸塩を塩基と混合する工程;
(b)エーテルを前記第1の混合物に加える工程;
(c)前記第1の混合物をろ過し、濃縮する工程;
(d)第1の残渣を得るために、工程(c)および(d)を繰り返す工程;
(e)第2の混合物を生成するために、酢酸エチルおよび第1の溶液を前記第1の残渣に加える工程;
(f)第2の残渣を生成するために、前記第2の混合物をろ過し、乾燥させる工程;
(g)第3の混合物を生成するために、前記第2の残渣と液体アンモニア、ナトリウム金属、および塩化アンモニウムのエタノール溶液を混合する工程;および
(h)前記第3の混合物をろ過し、乾燥させ、それにより前記L−異性体化合物を調製する工程を含む、請求項27に記載の前記化合物のL−異性体を調製するプロセス。
【請求項62】
前記塩基は、アンモニアまたはメチルアミンのメタノール溶液を含む、請求項61に記載のプロセス。
【請求項63】
前記第2の溶液は、水、酢酸塩、および無水物を含む、請求項61に記載のプロセス。
【請求項64】
前記酢酸塩は、酢酸ナトリウムまたはトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む、請求項63に記載のプロセス。
【請求項65】
前記無水物は、無水酢酸または無水トリフルオロ酢酸を含む、請求項63に記載のプロセス。
【請求項66】
前記第2の溶液は、ジクロロメタン、トリエチルアミン、および1,3−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−2−メチル−2−チオプソイドウレアを含む、請求項61に記載のプロセス。
【請求項67】
(j)エーテルに前記L−異性体化合物を溶解させる工程;
(k)第4の混合物を生成するために、水素化アルミニウムリチウム、酢酸エチル、および水のエーテル溶液を前記溶解したL−異性体化合物に加える工程と;および
(l)前記第4の混合物をろ過し、乾燥させ、それにより前記L−異性体化合物を調製する工程をさらに含む、請求項61に記載のプロセス。
【請求項68】
(a)第1の混合物を生成するために、S−ベンジル−D−システインメチルエステル塩酸塩またはO−ベンジル−D−セリンメチルエステル塩酸塩を塩基と混合する工程;
(b)エーテルを前記第1の混合物に加える工程;
(c)前記第1の混合物をろ過し、濃縮する工程;
(d)第1の残渣を得るために、工程(c)および(d)を繰り返す工程;
(e)第2の混合物を生成するために、酢酸エチルおよび第1の溶液を前記第1の残渣に加える工程;
(f)第2の残渣を生成するために、前記第2の混合物をろ過し、乾燥させる工程と;
(g)第3の混合物を生成するために、前記第2の残渣と液体アンモニア、ナトリウム金属、および塩化アンモニウムのエタノール溶液を混合する工程と;および
(h)前記第3の混合物をろ過し、乾燥させ、それにより前記D−異性体化合物を調製する工程を含む、請求項27に記載の前記化合物のD−異性体を調製するプロセス。
【請求項69】
前記塩基は、アンモニアまたはメチルアミンのメタノール溶液を含む、請求項68に記載のプロセス。
【請求項70】
前記第2の溶液は、水、酢酸塩、および無水物を含む、請求項68に記載のプロセス。
【請求項71】
前記酢酸塩は、酢酸ナトリウムまたはトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む、請求項70に記載のプロセス。
【請求項72】
前記無水物は、無水酢酸または無水トリフルオロ酢酸を含む、請求項70に記載のプロセス。
【請求項73】
前記第2の溶液は、ジクロロメタン、トリエチルアミン、および1,3−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−2−メチル−2−チオプソイドウレアを含む、請求項68に記載のプロセス。
【請求項74】
(j)エーテルに前記D−異性体化合物を溶解させる工程;
(k)第4の混合物を生成するために、水素化アルミニウムリチウム、酢酸エチル、および水のエーテル溶液を前記溶解したD−異性体化合物に加える工程;および
(l)前記第4の混合物をろ過し、乾燥させ、それにより前記D−異性体化合物を調製する工程をさらに含む、請求項68に記載のプロセス。
【請求項75】
(a)第1の混合物を生成するために、シスタミンジヒドロクロライドとアンモニア、水、酢酸ナトリウム、および無水酢酸を混合する工程;
(b)沈殿させるために、前記第1の混合物を放置する工程;
(c)第1の残渣を生成するために、前記第1の混合物をろ過し、乾燥させる工程と;
(d)第2の混合物を生成するために、前記第2の残渣と液体アンモニア、ナトリウム金属、および塩化アンモニウムのエタノール溶液を混合する工程;および
(e)前記第2の混合物をろ過し、乾燥させ、それにより前記化合物を調製する工程を含む、請求項27に記載の化合物を調製するプロセス。
【請求項76】
【化12】

で構成される群から選択されるNACアミド化合物または誘導体。
【請求項77】
請求項76に記載のNACアミドまたはNACアミド誘導体を含む、食品添加物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−538586(P2008−538586A)
【公表日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507992(P2008−507992)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/015548
【国際公開番号】WO2006/116353
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(507348034)
【Fターム(参考)】