説明

酸化マグネシウム単結晶及びその製造方法

【課題】 電子ビーム蒸着法等により蒸着した際に、成膜速度を低減することなくスプラッシュの発生を防止しうる酸化マグネシウム(MgO)単結晶蒸着材を得るためのMgO単結晶、並びに、例えば超伝導特性に優れた超伝導体薄膜を形成しうるMgO単結晶基板を得るためのMgO単結晶を提供すること。
【解決手段】 カルシウム含有量が150×10-6〜1000×10-6kg/kg、ケイ素含有量が、10×10-6kg/kg以下のMgO単結晶であって、MgO単結晶の研磨面をTOF−SIMSにより分析したときのカルシウムフラグメントイオン検出量の変動がCV値で30%以下であるMgO単結晶である。また、このMgO単結晶から得られるMgO単結晶蒸着材及び薄膜形成用MgO単結晶基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」という)用保護膜を、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法などの真空蒸着法を使用して製造する際に、蒸着源として使用される酸化マグネシウム(MgO)単結晶、及び、例えば酸化物超伝導体薄膜を形成するためのMgO単結晶基板を得るためのMgO単結晶、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電発光現象を利用したPDPは、大型化しやすい平面ディスプレイとしてその開発が進められている。透明電極がガラス誘電体で覆われている構造のAC型のPDPでは、イオン衝撃のスパッタリングにより誘電体表面が変質して放電電圧が上昇することを防止するために、この誘電体上に保護膜を形成することが一般的である。この保護膜は、低い放電電圧を有し、耐スパッタリング性に優れていることが要求される。
【0003】
かかる要求を満足する保護膜として、従来から、MgO膜が使用されている。MgO膜は耐スパッタリング性に優れ、かつ、二次電子の放出係数が大きい絶縁物であるため、放電開始電圧を下げることができ、PDPの長寿命化に寄与する。
【0004】
現在、MgO膜は、MgO蒸着材を電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法などの真空蒸着法により誘電体上に形成することが一般的である。MgO蒸着材としては、高純度MgO多結晶の焼結体、単結晶を解砕したものなどが使用されている。
【0005】
MgO多結晶焼結体は、成膜速度が遅く、成膜時に蒸着材の飛散(スプラッシュ)が発生しやすいため、均一な保護膜を得ることが困難であった。そこで、高純度、かつ、高密度で、平均結晶粒径を特定範囲に制御したMgO多結晶の焼結ペレット、あるいは、高純度、かつ、高密度で、カーボンの含有量を特定量以下に制御したMgO多結晶の焼結ペレットを蒸着材として使用することにより、蒸着時のスプラッシュの発生を低減し、均一な保護膜を得ることが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
さらには、MgO多結晶焼結体よりなる蒸着材の体積や表面粗さを特定することにより、電子ビームが照射される領域の蒸着材の実質的な表面積を増やし、成膜速度を向上させることが提案されている(特許文献3、特許文献4、特許文献5)。また、MgO多結晶焼結体中に、アルカリ土類金属酸化物を特定量分散させることにより、成膜速度を向上させたものも提案されている(特許文献6)。
【0007】
しかしながら、上記のように製造方法に改良を加えて得られたMgO多結晶焼結体は、蒸着時の成膜速度の向上やスプラッシュ発生の抑制にある程度の効果は見られるものの、いまだ満足すべき保護膜であるとは言い難い。それに加えて、多結晶焼結体の粒界は元来格子歪が集中しており、蒸着材表面に露出する粒界濃度にばらつきが生じやすく、そのためMgOの蒸発量が変動しやすいという根本的な問題もある。
【0008】
一方、MgO単結晶蒸着材を得るための生産方法として、回転刃による衝撃力でMgO単結晶を解砕する方法が採用されている。MgO単結晶を解砕して得られた蒸着材は、成膜速度が比較的速く、良好な保護膜が得られる。しかし、このような解砕方法により製造されたMgO単結晶蒸着材は、その形状が不定形であることなどに起因して、スプラッシュが発生する場合がある。そのため、特に大型基板に成膜した場合、均一な膜質を有する保護膜が得られにくいという問題がある。
【0009】
そこで、成膜装置や成膜条件に応じてMgOの粒度を最適化することにより、成膜速度とスプラッシュの発生頻度とのバランスを図り、生産性と膜質の向上を両立することが行われている。このように粒度を最適化して得られたMgO単結晶は、成膜速度を向上することができるものの、スプラッシュの発生は十分に抑制することはできず、最終的に得られるMgO膜の均質性という点からみて、いまだ満足すべきものとはいえない。
【0010】
さらに、MgO単結晶中に含有される酸化カルシウム(CaO)量と二酸化ケイ素(SiO2)量、及び、両者の比を特定することにより耐水性を向上させたMgO蒸着材が提案されている(特許文献7)。しかし、この蒸着材を使用すると真空到達時間の短縮効果は認められるものの、均質で膜質の良好な保護膜が得られにくい。
【0011】
一方で、MgO単結晶は、蒸着材だけではなく、酸化物超伝導体と格子整合性がよく、しかも熱膨張率が一致することから、これらの酸化物超伝導体薄膜を形成するための基板として、重用されている。特に、誘電率が低く、高周波における誘電損失が小さいため、高周波デバイスに用いられる酸化物超伝導薄膜用の基板として注目されている。
【0012】
上記の酸化物超伝導体用のMgO単結晶基板は、大きなサイズの単結晶を得る方法(特許文献8、特許文献9)、結晶性の良好な単結晶を得る方法(特許文献10)、基板の表面性状を改善する方法(特許文献11、特許文献12、特許文献13)等、数多くの改善方法が提案されているが、必ずしも満足すべき酸化物超伝導体薄膜を得ることができないという問題がある。
【0013】
【特許文献1】特開平10−297956号公報
【特許文献2】特開2000−063171号公報
【特許文献3】特開2004−43955号公報
【特許文献4】特開2004−43956号公報
【特許文献5】特開2004−84016号公報
【特許文献6】特開2000−290062号公報
【特許文献7】特開2000−103614号公報
【特許文献8】特開平02−263794号公報
【特許文献9】特開平05−170430号公報
【特許文献10】特開平06−405887号公報
【特許文献11】特開平09−309799号公報
【特許文献12】特開2000−86400号公報
【特許文献13】特開平11−349399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法などの真空蒸着法を使用して基板上にMgO膜を成膜するためにターゲット材となるMgO蒸着材用のMgO単結晶、及び、例えば酸化物超伝導体薄膜を形成するためのMgO単結晶基板を得るためのMgO単結晶、及び、このMgO単結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一般に、成膜速度は、蒸着材からのMgOの蒸発量に依存しており、蒸発速度を一定に保つことにより、膜質を向上することができる。このため、高い蒸発速度を保持することができる蒸着材が、保護膜の生産性と、品質の両面から求められている。しかし、例えば電子ビーム蒸着法において、電子ビームの照射単位面積あたりの蒸着材表面積を増加させるなどの方法で蒸発速度を高めた場合、スプラッシュの発生頻度が増加し、蒸発速度の変動が著しくなるため、膜質が低下するという問題がある。
【0016】
本発明者らは、蒸着材中の不純物元素の含有量とその分布状態が、成膜速度とスプラッシュの発生頻度に及ぼす影響を検討した結果、カルシウム(Ca)含有量の増加に伴って成膜速度が増加し、Ca元素が偏在相を形成せずに均一に分布するほど、スプラッシュの発生頻度が低下するという事実、及びCa偏在相の量は、Caフラグメントイオン検出量の変動を示すCV値で表すことができることを見出した。そして、従来用いられているMgO単結晶蒸着材よりも、さらにCa偏在相が少なく、Ca元素の分布が均一である単結晶を得るために、電融条件を種々検討した結果、CaO量、及びCaO量とSiO2量との比(CaO/SiO2)が特定範囲にある原料を用い、かつ、MgOの溶融過程である電融工程後半に、電気炉の外周部、又は炉底部の少なくとも一つを強制冷却した場合に、Ca元素が偏在相を形成せず、極めて均一に分布し、その結果、スプラッシュが発生することがないMgO単結晶蒸着材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明によれば、Ca含有量が150×10-6〜1000×10-6kg/kg、ケイ素(Si)含有量が、10×10-6kg/kg以下のMgO単結晶であって、前記MgO単結晶の研磨面をTOF−SIMSにより分析したときのCaフラグメントイオン検出量の変動がCV値で30%以下であるMgO単結晶が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、上記のMgO単結晶を、体積が15×10-9〜1200×10-93になるように解砕して得られるMgO単結晶蒸着材、並びに、上記のMgO単結晶を加工することにより得られる薄膜形成用MgO単結晶基板が提供される。
【0019】
さらに、本発明によれば、MgO純度が98%以上で、CaO及びSiO2を含有し、CaOの含有量が、0.05×10-2〜0.50×10-2kg/kgであり、かつ、SiO2の含有量に対するCaOの含有量の重量比(CaO/SiO2)が0.5以上である原料MgOをアーク電融する工程と、アーク電融する工程の後半に、電気炉の外周部、又は、炉底部の少なくとも一つを強制冷却する工程とを含むMgO単結晶の製造方法が提供される。
【0020】
本発明のMgO単結晶は、Ca含有量が150×10-6〜1000×10-6kg/kgであり、かつ、Si含有量が、10×10-6kg/kg以下であり、このCa元素の偏在相の形成をできるだけ少なくし、均一に分布させることにより、スプラッシュの発生を防止することができる。具体的には、MgO単結晶の研磨面をTOF−SIMS(飛行型二次イオン質量分析計)により分析したときのCaフラグメントイオン検出量の変動が、CV値で30%以下である。
【0021】
本発明において、このTOF−SIMS分析は次のようにして実施する。測定試料をラッピング、ポリッシュなどにより研磨し、平滑面を形成する。この平滑面の所定領域について、例えば、69Ga+を加速、収束させた一次イオンビームを照射し、正二次イオンをマッピング分析する。そして、40Ca+のカウント数の平均値と標準偏差から算出したCV値、すなわち、CV値(%)=100×標準偏差/平均値を変動率として規定する。
【0022】
CV値が30%を超える場合は、微細なCa偏在相が存在するため、スプラッシュの発生頻度が急激に増加する。また、Caが偏在相を形成せず、MgO単結晶中に均一に存在すればするほど、蒸発速度が一定となり、膜質が向上するので、CV値は小さいほどよい。CV値は、好ましくは、25%以下であり、より好ましくは、20%以下である。
【0023】
さらに、MgO単結晶中のCa含有量は、150×10-6〜1000×10-6kg/kgであることが必要である。Ca含有量が、150×10-6kg/kg未満の場合には、Caによる成膜速度の向上効果が十分に発揮されない可能性があり、一方、Ca含有量が、1000×10-6kg/kgを超える場合には、成膜速度は向上するものの、得られる保護膜中の不純物としてのCa含有量が過度に多くなるため、膜質が低下するおそれがある。Ca含有量は、好ましくは、200×10-6〜800×10-6kg/kgである。
【0024】
さらに、MgO単結晶中のSi含有量は、10×10-6kg/kg以下であることが必要である。SiはCaと反応しやすく、容易に偏在相を形成するので、Si含有量が10×10-6kg/kgを超えると、MgO単結晶中に分散していた微小なCa偏在相が集合し粗大化するため、その領域の蒸発速度が過大となってしまい、スプラッシュを防止することが困難となる。このような粗大化したCa偏在相は、それ自体の存在確率が低いために、上述したTOF−SIMSによる分析時に、所定の観察領域に含まれない場合が多く、CV値としては現れない可能性がある。したがって、Si含有量とCV値との両者をそれぞれ所定範囲に制御することが、スプラッシュの発生の原因となるCa偏在相の形成を防止する上で重要である。
【0025】
上記のMgO単結晶を、体積が15×10-9〜1200×10-93になるように解砕して得られるMgO単結晶蒸着材は、スプラッシュの発生を防止でき、真空蒸着用の蒸着材として優れている。
【0026】
さらには、上記のMgO単結晶を、劈開、ラッピング、ポリッシュなどの加工工程を経て、例えば酸化物超伝導体薄膜の形成に好適な薄膜形成用MgO単結晶基板とすることも可能である。
【0027】
次いで、本発明のMgO単結晶の製造方法について説明する。アーク電融法によりMgO単結晶を製造する場合、原料MgOの品質が重要となる。原料MgOの品質としては、MgO純度が98%以上で、CaO及びSiO2とを含有し、CaOの含有量が0.05×10-2〜0.50×10-2kg/kgであり、かつ、SiO2の含有量に対するCaOの含有量の重量比(CaO/SiO2)が0.5以上である。原料中のCaO含有量が、0.05×10-2kg/kg未満の場合は、MgO単結晶中のCa含有量が極端に少なくなりCaの存在による成膜速度の向上効果が得られず、CaO含有量が、0.50×10-2kg/kgを超える場合には、MgO単結晶中のCa含有量が過大となり、得られる保護膜中のCa不純物量が増大し、膜質が低下する。さらに、原料MgO中のCaOとSiO2との比すなわちCaO/SiO2が0.5未満の場合は、アーク電融工程の後半に強制冷却制御を行ったとしても、Ca偏在相の形成を完全に防止することができない。
【0028】
本発明のMgO単結晶の製造方法は、アーク電融工程の後半に、電気炉の外周部又は炉底部の少なくとも一つを強制冷却する。ここで「アーク電融工程の後半」とは、電融のための全通電時間を100%としたとき、全通電時間のうちの70%を経過した以降の時間帯を意味する。例えば、全通電時間が40時間の場合、通電時間が28時間を経過した以降の時間帯をいう。また、強制冷却する時間は、全通電時間の30%以下で、3%以上あればよい。冷却方法としては、空冷、水冷などの方法がある。この強制冷却の効果は必ずしも明らかではないが、アーク電融の終了前に強制冷却することにより、加熱されている融液上面から強制冷却面への熱流束が増加し、MgO単結晶の成長面におけるCaとSiの偏析係数がそれぞれ変化し、Caの偏在相の形成を防止できるものと推察される。
【0029】
上記の製造方法により得られた本発明のMgO単結晶は、不純物として含有されるCaが偏在相を形成することなく、均一に分散しているので、MgO保護膜用の蒸着材として使用した際、蒸発面からの蒸発速度を一定に保つことができ、結果として、スプラッシュの発生が防止され、得られる保護膜の膜質が向上する。さらに、このMgO単結晶を超伝導薄膜などの薄膜形成用の基板として使用すると、高品質の超伝導体薄膜を形成することができる。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
1.アーク電融法によるMgO単結晶の製造
(MgO単結晶A)
CaO濃度0.20×10-2kg/kg、SiO2濃度0.17×10-2kg/kgのマグネシアクリンカー(直径5mm以下)5tを、内径1.5m、高さ1.5mの電気炉に装入して、厚さ1.3mのマグネシアクリンカー層を形成した。これに、上部より予め30〜390メッシュに粒度調整した粉末状のマグネシアを2t装入して厚さ0.2mのマグネシア粉末層を形成した。これを、予め電気炉内に深く埋設しておいたカーボン電極を用いて、40時間通電(電力14000kWH)し、通電終了5時間前から、電気炉の外周部を空冷により強制冷却し、MgO単結晶Aを得た。
【0032】
(MgO単結晶B)
強制冷却する部位を炉底部に変えた以外は、上記MgO単結晶Aと同様にして、MgO単結晶Bを得た。
【0033】
(MgO単結晶C)
CaO濃度0.08×10-2kg/kg、SiO2濃度0.10×10-2kg/kgのマグネシアクリンカーを用い、25時間(電力9000kWH)通電し、通電終了3時間前から炉底部を強制冷却したこと以外は、MgO単結晶Aと同様にして、MgO単結晶Cを得た。
【0034】
(MgO単結晶D)
CaO濃度0.30×10-2kg/kg、SiO2濃度0.12×10-2kg/kgのマグネシアクリンカーを用い、30時間(電力12000kWH)通電し、通電終了7時間前から炉底部を強制冷却したこと以外は、MgO単結晶Aと同様にして、MgO単結晶Dを得た。
【0035】
(MgO単結晶E)
強制冷却を行わないこと以外は、MgO単結晶Aと同様にして、MgO単結晶Eを得た。
【0036】
(MgO単結晶F)
CaO濃度0.12×10-2kg/kg、SiO2濃度0.31×10-2kg/kgのマグネシアクリンカーを用いたこと以外は、MgO単結晶Bと同様にしてMgO単結晶Fを得た。
なお、これらのMgO単結晶A〜Fの品質を、その原料の品質と併せて表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
1.MgO単結晶蒸着材の製造及びその評価
実施例1
MgO単結晶Aを解砕し、4メッシュパス、5.5メッシュオンのものを蒸着材とした。加工した蒸着材の中から、無作為に10個の試料を採取し、後述する方法で体積を測定した後、最も体積の大きい試料をTOF−SIMS分析に供し、残りの試料をICP発光分光分析に供した。その後、電子ビーム蒸着装置を用いて成膜し、スプラッシュの発生状態、成膜速度、二次電子放出係数をそれぞれ後述する条件で評価し、結果を表2に示した。
【0039】
実施例2
MgO単結晶Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして蒸着材を得て、その評価結果を表2に示した。
【0040】
実施例3
MgO単結晶Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして蒸着材を得て、その評価結果を表2に示した。
【0041】
実施例4
MgO単結晶Dを解砕し、4.7メッシュパス、6.5メッシュオンのものを蒸着材としたこと以外は、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表2に示した。
【0042】
実施例5
3.5メッシュパス、4メッシュオンのものを蒸着材としたこと以外は、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表2に示した。
【0043】
実施例6
2.5メッシュパス、3.5メッシュオンのものを蒸着材としたこと以外は、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表2に示した。
【0044】
実施例7
MgO単結晶Aを解砕し、6.5メッシュパス、8.6メッシュオンのものを蒸着材としたこと以外は、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表2に示した。
【0045】
実施例8
MgO単結晶Aを、12×10-3m、12×10-3m、10×10-3mに劈開し、7.5メッシュの金網で篩い、微細粒子を除去したものを蒸着材としたこと以外は実施例1と同様にして評価を行い、結果を表2に示した。
【0046】
比較例1
MgO単結晶Eを用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表2に示した。
【0047】
比較例2
MgO単結晶Fを用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表2に示した。
【0048】
比較例3
純度99.93質量%の高純度多結晶MgOを造粒した後、直径10×10-3m、厚さ2×10-3mの金型を用いて、800×104kg/m2の圧力で成型し、電気炉にて1873K×10800秒(3時間)焼成したものを蒸着材として、実施例1と同様にして評価を行い、結果を表2に示した。なお、焼結体中のCa濃度は、120×10-6kg/kg、Si濃度は45×10-6kg/kgであった。
【0049】
【表2】

【0050】
1.酸化物超伝導体薄膜用MgO単結晶基板の製造及びその評価
実施例9
MgO単結晶Aを劈開により加工し、ラッピング、ポリッシュを経て、表面粗度Ra=3×10-10m以下、大きさ10×10×0.5[10-3m]の基板に加工した。その後、後述する条件で、基板上に酸化物超伝導体薄膜を形成し、超伝導物性を評価し、結果を表3に示した。
【0051】
比較例4
MgO単結晶Eを使用したこと以外は、実施例9と同様にして基板を製造し、同様の評価を行い、結果を表3に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
1.評価方法
(TOF−SIMS分析)
測定試料をラッピング、ポリッシュにより研磨し、表面粗度(Ra)が1.0×10-9mの平滑な面に加工した。研磨した測定試料を、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)装置Physical Electronics社製 TFS−2000を用い、240×10-6m四方の領域について、69Ga+を、25kVで加速してφ1×10-6mに収束した一次イオンビームを試料に照射し、正二次イオンをマッピング分析した。40Ca+のカウント数の平均値と標準偏差から算出したCV値を変動率とした。
CV値=100×標準偏差/平均値
【0054】
(不純物の測定方法)
Ca、Si不純物量は、ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製SPS−1700VR)を用い、試料を酸溶解した後、測定した。
【0055】
(体積の測定方法)
蒸着材の外形寸法をノギスにより測定し、算出した。
【0056】
(MgO保護膜の形成方法)
MgO単結晶蒸着材を、電子ビーム蒸着装置を使用して、ステンレス基板上に60秒間成膜した。このときの膜厚を測定して、成膜速度を算出した。ついで、この成膜速度から成膜条件を決定し、膜厚が100×10-9mになるように成膜して、評価用の試料を得た。なお、電子ビーム蒸着は、加速電圧15kV、蒸着圧力1×10-2Pa、蒸着距離0.6mで行った。
【0057】
(膜厚評価方法)
単一波長エリプソ装置を用い、He−Neレーザ(波長623.8×10-9m)を異なる2つの入射角(55degree、70degree)で入射させてエリプソ測定を行い、フィッティング解析により膜厚を求めた。
【0058】
(スプラッシュ評価方法)
保護膜形成中の状態を、装置の窓から目視観察し、スプラッシュの発生を5段階評価した。スプラッシュが発生しなかった場合を「1」、スプラッシュが頻繁に発生した場合を「5」とした。
【0059】
(二次電子放出係数の測定方法)
得られた成膜試料を、二次電子測定装置のターゲット位置に配置し、高真空中で活性化処理を行った後、二次電子放出係数を測定した。なお、測定時の試料温度は573K、イオン加速電圧は300Vとした。
【0060】
(超伝導体薄膜の形成方法)
MgO単結晶基板上に、Bi−Sr−Ca−Cu−O系超伝導体薄膜をRFスパッタリング法により成膜した。成膜条件は下記の通りである。
スパッタリングガス:Ar:O2=8:2
スパッタリング圧力:2Pa
基板温度:1003K
高周波周波数:13.56MHz
高周波電力:65W
成膜速度:1.4×10-10m/s
膜厚:6000×10-10
ターゲット組成:Bi:Sr:Ca:Cu=2.5:2.1:1.0:2.0
このような条件で成膜した超伝導体薄膜を、蛍光X線分析法で分析した結果、Bi:Sr:Ca:Cu=2:2:1:2であることを確認した。このBi−Sr−Ca−Cu−O系超伝導体薄膜の超伝導物性は、四端子法により、臨界温度(Tc)及び臨界電流密度(Ic)を測定して、結果をそれぞれ表3に示した。
【0061】
以上の結果から明らかなように、本発明のMgO単結晶A〜Dから得られた蒸着材をターゲット材として電子ビーム蒸着法によりMgO保護膜を形成すると、蒸着時に成膜速度を低減することなく、スプラッシュの発生が防止され、さらに品質の良好なMgO保護膜が得られることが確認された。また、本発明のMgO単結晶を蒸着材として用いる場合は、MgO単結晶を解砕して得られる蒸着材の体積が所定範囲となるようにすることにより、スプラッシュの発生防止効果がより向上することが確認された。さらに、本発明のMgO単結晶を超伝導体薄膜形成用基板として使用すると、形成された超伝導体薄膜の超伝導特性が向上することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム含有量が150×10-6〜1000×10-6kg/kg、ケイ素含有量が10×10-6kg/kg以下の酸化マグネシウム単結晶であって、前記酸化マグネシウム単結晶の研磨面をTOF−SIMSにより分析したときのカルシウムフラグメントイオン検出量の変動がCV値で30%以下であることを特徴とする酸化マグネシウム単結晶。
【請求項2】
請求項1記載の酸化マグネシウム単結晶を、体積が15×10-9〜1200×10-93になるように解砕して得られる、酸化マグネシウム単結晶蒸着材。
【請求項3】
請求項1記載の酸化マグネシウム単結晶を加工することにより得られる、薄膜形成用酸化マグネシウム単結晶基板。
【請求項4】
酸化マグネシウム純度が98%以上で、酸化カルシウム及び二酸化ケイ素を含有し、前記酸化カルシウムの含有量が0.05×10-2〜0.50×10-2kg/kgであり、かつ、前記二酸化ケイ素の含有量に対する前記酸化カルシウムの含有量の重量比(CaO/SiO2)が0.5以上である原料酸化マグネシウムをアーク電融する工程と、前記アーク電融する工程の後半に、電気炉の外周部、又は、炉底部の少なくとも一つを強制冷却する工程と、を含むことを特徴とする酸化マグネシウム単結晶の製造方法。

【公開番号】特開2006−265058(P2006−265058A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87967(P2005−87967)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000108764)タテホ化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】