説明

酸化マグネシウム粉末の製造法、熱硬化性樹脂組成物の製造法、プリプレグおよび積層板の製造法

【課題】吸湿性を小さく改善した酸化マグネシウム粉末を簡易な方法で製造する。また、この酸化マグネシウム粉末を含み、耐湿特性、加工性に優れかつ熱伝導性が良好な電気絶縁層のための熱硬化性樹脂組成物を製造する。
【解決手段】酸化マグネシウム粉末は、シリカ含有量が1〜6質量%である酸化マグネシウムを原料として使用し、これを1650℃〜1800℃で焼成することにより、表面にシリカ膜を形成する。熱硬化性樹脂組成物は、前記酸化マグネシウム粉末の平均粒径d1を、10μm≦d1≦80μmの範囲とし、熱硬化性樹脂固形分と酸化マグネシウム粉末を合わせた体積中に、前記酸化マグネシウム粉末の含有量が20〜80体積%となるように混合する。酸化マグネシウム粉末の一部を他の無機充填材に置換えることができる。無機充填材の平均粒径は、0.1〜50μm、含有量は15〜30体積%が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム粉末の製造法に関する。また、この酸化マグネシウム粉末を含む熱硬化性樹脂組成物の製造法に関する。さらには、この樹脂組成物を用いたプリプレグの製造法、当該プリプレグにより構成される電気絶縁層又は電気絶縁層となる積層板の製造法に関する。この電気絶縁層は、耐湿特性、加工性に優れかつ熱伝導性が良好で、発熱部品を実装するプリント配線板等の電気配線板の絶縁層として好適である。
【背景技術】
【0002】
電子機器の軽薄短小化に伴い、電子機器に搭載するプリント配線板には、配線を微細化する技術と部品を高密度に実装する技術が求められている。その一方で、プリント配線板には、実装部品が発した熱を放散する高熱伝導の特性も求められている。特に、自動車などにおける電子回路では、各種制御操作に大電流を使用するので、導電回路の抵抗に起因する発熱やパワー素子からの発熱が著しい。従って、プリント配線板の熱伝導の特性は高レベルであることが必須となってきている。
【0003】
プリント配線板の電気絶縁層は、熱硬化性樹脂で構成されている。現状においては、プリント配線板の電気絶縁層の熱伝導性を向上させる目的で、熱硬化性樹脂に無機充填材を添加することが広く行なわれている。例えば、無機充填材として熱伝導率の高いアルミナ粒子を熱硬化性樹脂に添加し、その熱硬化性樹脂組成物で構成された電気絶縁層の熱伝導性を向上させることが知られている。しかし、アルミナ粒子は硬度が非常に高いので、これを添加した熱硬化性樹脂の電気絶縁層は加工性が劣る。この理由で、アルミナ粒子以外の無機充填材を熱硬化性樹脂に添加する例もある。
【0004】
酸化マグネシウムの熱伝導率はアルミナの熱伝導率と同等である。酸化マグネシウムの硬度はアルミナの硬度より低いので、酸化マグネシウム粉末を添加した樹脂成形体の加工性は良好である。しかしながら、酸化マグネシウムは吸湿性が大きいので、プリント配線板等の電気絶縁用途に酸化マグネシウムを使用すると、電気絶縁層の耐湿特性(特に、吸湿した後の電気絶縁性)が低下するという問題がある。
【0005】
上記の耐湿特性を上げる対策として、例えば、特許文献1には、酸化マグネシウム粉末の表面をシリカで被覆することが開示されている。その具体的な製造法として、次の1)〜4)がある。
1)酸化マグネシウム粉末にシリカを溶射する。
2)酸化マグネシウム粉末にシリカを化学蒸着させる。
3)酸化マグネシウム粉末に微粉シリカを噴霧し接着させる。
4)酸化マグネシウム粉末に微粉シリカを混合して焼成する。
また、特許文献2には、酸化マグネシウム粉末の表面をシランカップリング剤で処理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−283648号公報
【特許文献2】特開平3−79666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された酸化マグネシウム粉末は、次のように多段階で製造される。まず、酸化マグネシウム粉末を焼成する。その後に、酸化マグネシウム粉末に、溶射、化学蒸着又は噴霧接着の手段によりシリカ膜を形成し、酸化マグネシウム粉末表面を被覆する。あるいは、酸化マグネシウム粉末に微粉シリカを混合して焼成することにより、酸化マグネシウム粉末表面をシリカ膜で被覆する。このような手段であるため、製造工程が増加し製造のための設備が必要になるという問題がある。また、特許文献2に記載された技術は、プリント配線板等の電気絶縁用途において、耐湿特性のレベルが不充分であるという問題がある。プリント配線板の電気絶縁層の吸湿処理試験を実施すると、シランカップリング剤により表面処理された酸化マグネシウム粉末と樹脂との僅かな隙間の界面から吸湿が進行し、プリント配線板の電気絶縁層が膨張したり、電気絶縁層の絶縁性が低下する。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、吸湿性を小さくする改善をした酸化マグネシウム粉末を簡易な方法で製造することである。また、この酸化マグネシウム粉末を含み、耐湿特性、加工性に優れかつ熱伝導性が良好な電気絶縁層のための熱硬化性樹脂組成物を製造することである。さらには、この樹脂組成物を用いたプリプレグを製造し、当該プリプレグにより構成される積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る酸化マグネシウム粉末の製造法は、シリカ含有量が1〜6質量%である酸化マグネシウムを原料として使用する。そして、この酸化マグネシウムを1650℃〜1800℃で焼成することにより、酸化マグネシウム粉末の表面にシリカ膜を形成することを特徴とする(請求項1)。
【0010】
本発明に係る第1の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、酸化マグネシウム粉末を含む熱硬化性樹脂組成物の製造法であって、前記酸化マグネシウム粉末は、上記の方法により製造されたものであり、かつ、平均粒径d1を、10μm≦d1≦80μmの範囲とする。そして、熱硬化性樹脂固形分と酸化マグネシウム粉末を合わせた体積中に、前記酸化マグネシウム粉末の含有量が20〜80体積%となるように混合することを特徴とする(請求項2)。
【0011】
また、本発明に係る第2の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、酸化マグネシウム粉末を含む熱硬化性樹脂組成物の製造法であって、前記請求項2において酸化マグネシウム粉末の一部を酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材に置換え、前記無機充填材は、平均粒径d2を、0.1μm≦d2≦50μmの範囲とする。そして、熱硬化性樹脂固形分と酸化マグネシウム粉末と無機充填材を合わせた体積中に、前記酸化マグネシウム粉末の含有量が5〜50体積%、無機充填材の含有量が15〜30体積%となるように混合することを特徴とする(請求項3)。
【0012】
上記の樹脂組成物の製造法において、好ましくは、前記酸化マグネシウム粉末が、カップリング剤又は分散剤にて表面処理を施されたものである(請求項4)。
【0013】
また、好ましくは、熱硬化性樹脂組成物が、(式1)で示す分子構造に代表される、液晶性エポキシ樹脂モノマを配合したエポキシ樹脂組成物である(請求項5)。
【0014】
【化1】

【0015】
さらに好ましくは、上記(式1)においてRが水素である、(式2)で示す分子構造の液晶性エポキシ樹脂モノマを配合したエポキシ樹脂組成物である(請求項6)。
【0016】
【化2】

【0017】
本発明に係るプリプレグの製造法は、上記の方法により製造された熱硬化性樹脂組成物をシート状に形成し、これを、加熱して乾燥することを特徴とする(請求項7)。
本発明に係る積層板の製造法は、上記の方法により製造されたプリプレグを、電気絶縁層を構成するためのプリプレグ層の全部又は一部の層として使用し加熱加圧成形することを特徴とする(請求項8)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る酸化マグネシウム粉末の製造法は、シリカ含有量が1〜6質量%である酸化マグネシウムを原料として使用し、この酸化マグネシウムを1650℃〜1800℃(シリカの融点付近の温度)で焼成する。この操作により、酸化マグネシウム粉末の表面に溶け出したシリカが、酸化マグネシウム粉末と完全に分離することなく、酸化マグネシウム粉末の表面を被覆して、酸化マグネシウム粉末の表面にシリカ膜を形成する。このため、特許文献1に記載されたような特殊な工程を必要とせず、従来の酸化マグネシウム粉末の焼成工程を経るだけで済み、製造工程を簡略化することができる。また、酸化マグネシウム粉末の表面がシリカ膜で被覆されているので、酸化マグネシウム粉末の吸湿性を改善することができる。
【0019】
また、本発明に係る第1の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、上記の方法により製造された酸化マグネシウム粉末を熱硬化性樹脂に混合し、前記酸化マグネシウム粉末の平均粒径及び含有量を特定することにより、耐湿特性、加工性に優れかつ熱伝導性が良好な電気絶縁層のための熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
さらに、本発明に係る第2の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、前記酸化マグネシウム粉末の一部を酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材に置換えて混合し、前記酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の平均粒径及び含有量を特定することにより、耐湿特性、加工性に優れかつ熱伝導性が良好な電気絶縁層のための熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0021】
上述のように、本発明によれば、原料となる酸化マグネシウム中のシリカ含有量と焼成温度を特定することで、耐湿特性、加工性に優れかつ熱伝導性が良好な絶縁層を製造することができ、当該絶縁層はプリント配線板等の電気配線板に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の酸化マグネシウム粉末は、具体的には、例えば、次のようにして製造することができる。まず、海水あるいは塩化マグネシウム水溶液に水酸化カルシウムを加えて水酸化マグネシウムを析出させる。これを濾過することにより分離した水酸化マグネシウムを焼成し、原料となる酸化マグネシウムの1次粒子を製造する。そして、この原料となる酸化マグネシウムを焼成することにより、酸化マグネシウム粉末を製造する。
【0023】
このとき、原料となる酸化マグネシウムは、シリカ含有量が1〜6質量%であるものを使用する。シリカ含有量が1質量%より少ないと、溶融したシリカが酸化マグネシウム粉末の表面を充分に覆うことができず、酸化マグネシウム粉末の吸湿性を小さくする改善をすることができない。また、6質量%より多いと、酸化マグネシウム粉末の表面を覆うシリカ膜の厚みが厚くなるため、酸化マグネシウム本来の熱伝導率を発揮できず、樹脂成形物の熱伝導性が低下する。ここで、シリカ含有量とは、原料となる酸化マグネシウムの全質量(シリカ等を含む)を100質量%としたときの値をいう。なお、原料となる酸化マグネシウムのシリカ含有量は、例えば、海水中の珪酸の量を変えることで調整することができる。また、水酸化マグネシウムを焼成するときの焼成温度や焼成時間を変えることで調整することもできる。
【0024】
また、焼成温度は、1650℃〜1800℃(シリカの融点付近の温度)とする。焼成温度が1650℃より低いと、シリカが溶融しないため、酸化マグネシウム粉末の表面を覆うことができず、酸化マグネシウム粉末の吸湿性を小さくする改善をすることができない。また、1800℃より高いと、溶融したシリカが酸化マグネシウム粉末と分離するため、シリカ膜を形成できず、酸化マグネシウム粉末の吸湿性を小さくする改善をすることができない。
【0025】
本発明に係る第1の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、上記の方法により製造された酸化マグネシウム粉末を混合し、酸化マグネシウム粉末の平均粒径d1を、10μm≦d1≦80μmの範囲とする。平均粒径d1が10μmより小さいと、酸化マグネシウム粉末と樹脂との接触点が増えるため、樹脂との界面が熱抵抗となり、熱伝導率が向上しない。また、80μmより大きいと、吸湿しやすくなるため、耐湿特性(特に、吸湿した後の絶縁性)が低下する。
【0026】
なお、平均粒径d1及び後述するd2は、公知のレーザー回折・散乱法による粒度測定装置(例えば、日機装株式会社製「マイクロトラックSPA−7997型」)を用いて測定したものである。ここで、レーザー回折・散乱法とは、充填材粒子にレーザー光を照射したとき、粒子径により散乱光の強度パターンが変化することを利用した測定法である。
【0027】
本発明に係る第2の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、上記の方法により製造された酸化マグネシウム粉末と前記酸化マグネシウム粉末の一部を酸化マグネシウム以外の無機充填材に置換えて、これらを混合する。無機充填材は、電気絶縁性を有していればよく、例えば、窒化ホウ素、アルミナ、シリカ、酸化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、水酸化アルミニウム、タルク等であり、特に限定するものではない。なお、無機充填材の熱伝導率が20W/m・K以上であることが好ましい。これにより、樹脂成形物の熱伝導率をさらに向上させることができる。また、平均粒径d2を、0.1μm≦d2≦50μmの範囲とする。平均粒径d2が0.1μmより小さいと、無機充填材と樹脂との接触点が増えるため、無機充填材と樹脂との界面が熱抵抗となり、熱伝導率が向上しない。また、50μmより大きいと、吸湿しやすくなるため、耐湿特性(特に、吸湿した後の絶縁性)が低下する。
【0028】
上記酸化マグネシウム粉末が、カップリング剤又は分散剤にて表面処理を施されたものであると、耐湿特性が向上するため好ましい。カップリング剤は、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等であり、また、分散剤は、リン酸エステル類等であり、特に限定するものではない。これらの処理は、簡易な工程を追加することで、実施することができる。
【0029】
そして、第1の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、熱硬化性樹脂固形分と酸化マグネシウム粉末を合わせた体積中に、酸化マグネシウム粉末の含有量が、20〜80体積%となるように混合する。酸化マグネシウム粉末の含有量が20体積%より少ないと、樹脂組成物の熱伝導性が充分に得られない。また、80体積%より多いと、樹脂組成物の粘度が上がりすぎるため、シート状に付形したり、シート状繊維基材に含浸することができず、外観の均一なプリプレグを製造することはできない。
【0030】
また、第2の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、熱硬化性樹脂固形分と酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填とを合わせた体積中に、酸化マグネシウム粉末の含有量が5〜50体積%となるように、酸化マグネシウム粉末と前記無機充填材の総含有量が20〜80体積%となるように混合する。酸化マグネシウム粉末の含有量を5〜50体積%とすることにより、充分な耐湿特性、加工性及び熱伝導性を確保することができる。また、酸化マグネシウム粉末と無機充填材の総含有量が20体積%より少ないと、樹脂組成物の熱伝導性が充分に得られない。また、80体積%より多いと、樹脂組成物の粘度が上がりすぎるため、外観の均一なプリプレグを製造することはできない。
【0031】
上記の酸化マグネシウム粉末、無機充填材と熱硬化性樹脂組成物を混練・混合してワニスを調製する際、熱硬化性樹脂組成物に酸化マグネシウム粉末、無機充填材を添加していくと、酸化マグネシウム粉末、無機充填材のチキソ性および凝集性のため、ワニスの粘度が増大する。そこで、強力なせん断力を発生する分散機を選択することで、酸化マグネシウム粉末、無機充填材の分散性がよくなりワニスの粘度も低下するため、80体積%までの酸化マグネシウム粉末、無機充填材の添加が可能となる。強力なせん断力を発生する分散機は、例えば、ボールミル、ビーズミル、三本ロールミルやその原理を応用した分散機などが挙げられる。
【0032】
本発明を実施するに当り、プリプレグの製造は、一般的に行なわれている製造法を適用することができる。例えば、酸化マグネシウム粉末、無機充填材を含む熱硬化性樹脂組成物のワニスをシート状繊維基材に含浸し加熱による乾燥をして、半硬化状態とする。
【0033】
本発明に使用できるシート状繊維基材は、ガラス繊維や有機繊維の織布や不織布であり、特に限定するものではない。例えば、ガラス繊維織布を使用することができる。ガラスの種類は強度や電気特性が良好なEガラスが好ましい。また、ワニスを含浸するシート状繊維基材は、目空き量の大きいものが好ましいため、開繊処理をされていないガラス繊維織布を使用するのがよい。また、ガラス繊維不織布基材も使用することができ、特に限定するものではない。
なお、目空き量とは、ガラス繊維織布を上から見たときに現われる、ガラス繊維糸の経糸と緯糸で囲まれた空隙部分ひと升目の面積である。また、開繊処理とは、前記の経糸・緯糸には、多数のフィラメントを撚り合わせて一本の糸として用いられているが、この一本の糸のフィラメント間を広げて間隔を開ける(ばらけさせる)ことである。
【0034】
別のプリプレグの製造法は、前記ワニスを離型性のフィルム等に塗布し加熱による乾燥をして、半硬化状態とする。離型性のフィルムは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の離型性のよいフィルムである。これら離型性のフィルムに前記ワニスを塗布して半硬化状態とした後に離型性のフィルムをはがして使用する。別の形態では、離型性のフィルムとして銅箔やアルミニウム箔等の金属箔を使用する。これに前記ワニスを塗布して半硬化状態とした後、そのまま金属板や金属箔に貼り付けるが、特に限定するものではない。
【0035】
プリプレグの層を加熱加圧成形して絶縁層とする際に、銅箔ないし銅板をプリプレグの層に重ねて成形し一体に接着することができる。酸化マグネシウム粉末と無機充填材の総含有量を上述した80体積%以下にすれば、銅箔ないし銅板との接着性に特に問題となるところはない。当該プリプレグは、予め準備したプリント配線板同士を重ねて一体化し多層プリント配線板とするときの接着層として使用することもできる。
本発明に係るプリプレグにより形成した絶縁層を備えたプリント配線板は、実装部品や制御回路から発生した熱が絶縁層を介して反対面に配置した銅箔ないし銅板に伝わり熱放散される。
【0036】
本発明に使用する熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂モノマと硬化剤とから生成されたものを用いることができる。エポキシ樹脂モノマは、ビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシやその誘導体などの一般的なエポキシ樹脂モノマや、ターフェニル型エポキシ、ビフェニル型エポキシなどの液晶性エポキシ樹脂モノマはいずれも使用できる。なお、液晶性エポキシ樹脂モノマを使用すると、樹脂成形物の熱伝導率が向上するため好ましい。その中でも、(式1)で示されるような分子構造式のビフェニル骨格あるいはビフェニル誘導体の骨格をもち、1分子中に2個以上のエポキシ基をもつエポキシ樹脂モノマは熱伝導率が向上するためより好ましい。
【0037】
【化3】

【0038】
さらに好ましくは、上記(式1)においてRが水素である、(式2)で示される分子構造式のものを選択する。ビフェニル基がより配列しやすいため、熱伝導率をより高くすることができる。また、ビフェニル骨格あるいはビフェニル誘導体の骨格は同一分子内に2つ以上あってもよい。
【0039】
【化4】

【0040】
エポキシ樹脂モノマに配合する硬化剤は、エポキシ樹脂モノマの硬化反応を進行させるために従来用いられている硬化剤を使用することができる。例えば、フェノール類又はその化合物、アミン化合物やその誘導体、酸無水物、イミダゾールやその誘導体などが挙げられる。また、硬化促進剤は、エポキシ樹脂モノマとフェノール類又はその化合物、アミン類またはその化合物との重縮合反応を進行させるために従来用いられている硬化促進剤を使用することができる。例えば、トリフェニルホスフィン、イミダゾールやその誘導体、三級アミン化合物やその誘導体などが挙げられる。
【0041】
エポキシ樹脂モノマと硬化剤、酸化マグネシウム粉末、無機充填材、硬化促進剤を配合したエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて難燃剤や希釈剤、可塑剤、カップリング剤等を含むことができる。また、必要に応じて溶剤を使用することができる。これらの使用が、樹脂成形物の熱伝導性に影響を与えることはない。
【0042】
本発明に係るプリプレグを、電気絶縁層を構成するためのプリプレグ層の全部又は一部の層として用い、これを加熱加圧成形した絶縁層を備えたプリント配線板は、熱伝導率が向上するので、高温雰囲気下での使用が想定される自動車機器用のプリント配線板や、パソコン等の高密度実装プリント配線板に好適である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明に係る実施例を示し、本発明について詳細に説明する。尚、以下の実施例および比較例において、「部」とは「質量部」を意味する。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、本実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
酸化マグネシウム粉末を、次のようにして準備した。まず、海水に水酸化カルシウムを加えて水酸化マグネシウムを析出させる。これを濾過することにより分離した水酸化マグネシウムを焼成することで原料となる酸化マグネシウムの1次粒子を製造する。そして、この原料となる酸化マグネシウムを焼成することにより、酸化マグネシウム粉末を製造する。このとき、原料となる酸化マグネシウム中のシリカ含有量は1質量%、焼成温度は1700℃、得られた酸化マグネシウム粉末の平均粒径は、20μmである。なお、原料となる酸化マグネシウム中のシリカ含有量は、海水中の珪酸の量により調整した。また、平均粒径は、日機装株式会社製「マイクロトラックSPA−7997型」を用いて測定した。
【0045】
まず、エポキシ樹脂モノマ成分としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「EP828」,エポキシ当量185)100部を用意し、これをメチルイソブチルケトン(和光純薬製)100部に100℃で溶解し、室温に戻した。
次に、硬化剤として1,5−ジアミノナフタレン(和光純薬製「1,5−DAN」,アミン当量40)25部を用意し、これをメチルイソブチルケトン(和光純薬製)100部に100℃で溶解し、室温に戻した。
【0046】
上記のエポキシ樹脂モノマ溶液と硬化剤溶液を混合・撹拌して均一なワニスを作製し、この混合物(熱硬化性樹脂ワニス)に、上記の酸化マグネシウム粉末340部(熱硬化性樹脂固形分と酸化マグネシウム粉末を合わせた体積中の46体積%に相当、以下体積%のみ表記する)およびメチルイソブチルケトン(和光純薬製)67部を加えて混練し、エポキシ樹脂ワニスを調製した。
【0047】
上記のエポキシ樹脂ワニスを、厚さ100μmのガラス繊維不織布基材に含浸し加熱による乾燥をして半硬化状態のプリプレグを得た。
作製したプリプレグ4枚とその両側に厚さ18μmの銅箔(福田金属製「CF−T9C」)を配置し、温度175℃、圧力4MPaの条件で90分間加熱加圧形成して一体化し、厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0048】
実施例1で得た銅張り積層板について厚さ方向の熱伝導率、耐湿絶縁性、ドリル加工性を測定した結果を、エポキシ樹脂組成物の配合組成と共に表1にまとめて示す。なお、エポキシ樹脂組成物の配合組成は、各成分の固形分の合計体積を100体積%としたときの値を記載した。測定方法は、以下に示すとおりである。
厚さ方向の熱伝導率:銅張り積層板の銅箔をエッチングにより除去した後、50mm×120mmの板状試料を切り出し、プローブ法に準拠して室温で測定した。
耐湿絶縁性:銅張り積層板の銅箔をエッチング加工し、導体幅150μm、導体間隔150μmのくし型パターンを形成した。この試料を85℃−85%の恒温恒湿槽中に入れ、導体間に50Vの電圧をかけた。そして、500時間経過後に導体間の絶縁抵抗を測定した。そのとき1.0×10Ω以上であれば「○」、1.0×10Ω未満であれば「×」の評価とした。
ドリル加工性:銅張り積層板に、φ1.0mmのドリルを使用して、孔明けを3000穴行なった。その孔明けの前と後にドリル刃の面積を測定し、孔明け前のドリル刃の面積を100%としたときの孔明け後のドリル刃の面積を、孔明け後の摩耗量とした。孔明け後の摩耗量が20%未満であれば「○」、20%以上であれば「×」の評価とした。
なお、上記評価の「○」は「良好」、「×」は「不良」を意味する。
【0049】
実施例1においては、積層板の厚さ方向の熱伝導率が3.5W/m・Kであり、積層板の耐湿絶縁性、ドリル加工性共に良好であった。
【0050】
比較例1
実施例1において、シリカ膜を形成していない酸化マグネシウム粉末として、汎用の酸化マグネシウム(協和化学製「3320」,平均粒径20μm)をシランカップリング剤処理したものを用いる以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
比較例1においては、酸化マグネシウム粉末のシランカップリング剤による表面処理だけでは充分でなく、積層板の耐湿絶縁性が悪化した。
【0051】
比較例2
実施例1において、酸化マグネシウム粉末の代わりに、アルミナ(デンカ製「DAW−10」,平均粒径10μm)を46体積%使用する以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
比較例2においては、積層板の厚さ方向の熱伝導率と耐湿絶縁性は実施例1とほぼ同等であったが、ドリル加工性が悪化した。
【0052】
実施例2
実施例1において、「EP828」の代わりに、ビフェニル骨格をもつエポキシ樹脂モノマ(ジャパンエポキシレジン製「YL6121H」,エポキシ当量175)を用いる以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。尚、「YL6121H」は、既述の分子構造式(式1)において、R=−CH,n=0.1であるエポキシ樹脂モノマと分子構造式(式2)において、m=0.1であるエポキシ樹脂モノマを等モルで含有するエポキシ樹脂モノマである。
この積層板の厚さ方向の熱伝導率は5.7W/m・Kと大きく向上した。
【0053】
実施例3、4
実施例2において、原料となる酸化マグネシウム中のシリカ含有量を、それぞれ表1に示すように変えて焼成した酸化マグネシウム粉末を使用する以外は、実施例2と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
これら積層板の厚さ方向の熱伝導率を測定した結果、シリカ含有量が増加すると積層板の厚さ方向の熱伝導率は若干低下したものの、良好な値であった。
【0054】
比較例3、4
実施例2において、原料となる酸化マグネシウム中のシリカ含有量を、それぞれ表3に示すように変えて焼成した酸化マグネシウム粉末を使用する以外は、実施例2と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
これら積層板の厚さ方向の熱伝導率及び耐湿絶縁性を測定した結果、シリカ含有量が0.1質量%(比較例3)では、溶融したシリカが酸化マグネシウム粉末の表面を充分に覆うことができず、積層板の耐湿絶縁性が低下した。また、シリカの含有量が7.5質量%(比較例4)では、酸化マグネシウム粉末の表面を覆うシリカ膜の厚みが厚くなるため、シリカ膜が熱抵抗になり、積層板の厚さ方向の熱伝導率が2.8W/m・Kと実施例2より大きく悪化した。
【0055】
実施例5
実施例2において、酸化マグネシウム粉末の焼成温度を1800℃にした酸化マグネシウム粉末を使用する以外は、実施例2と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
実施例5においては、積層板の厚さ方向の熱伝導率、耐湿絶縁性、ドリル加工性共に良好であった。
【0056】
比較例5、6
実施例2において、酸化マグネシウム粉末の焼成温度をそれぞれ1500℃(比較例5)、1900℃(比較例6)にした酸化マグネシウム粉末を使用する以外は、実施例2と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
焼成温度が1500℃(比較例5)では、酸化マグネシウム中のシリカが溶融しないため、シリカ膜が酸化マグネシウム粉末の表面を覆うことができず、積層板の耐湿絶縁性が悪化した。また、焼成温度が1900℃(比較例6)では、溶融したシリカが揮発してしまい、酸化マグネシウム粉末表面にシリカ膜を形成することができず、積層板の耐湿絶縁性が悪化した。
【0057】
実施例6、7
実施例2において、酸化マグネシウム粉末の平均粒径をそれぞれ10μm(実施例6)、80μm(実施例7)にした酸化マグネシウム粉末を使用する以外は実施例2と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
実施例6、7においては、積層板の厚さ方向の熱伝導率、耐湿絶縁性、ドリル加工性共に良好であった。
【0058】
比較例7、8
実施例2において、酸化マグネシウム粉末の平均粒径をそれぞれ5μm(比較例7)、100μm(比較例8)にした酸化マグネシウム粉末を使用する以外は実施例2と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
平均粒径が5μm(比較例7)では、粒径が小さいため、積層板の厚さ方向の熱伝導率が悪化した。また、平均粒径が100μm(比較例8)では、粒径が大きいため、積層板の耐湿絶縁性が悪化した。
【0059】
実施例8、9
実施例2において、酸化マグネシウム粉末の含有量をそれぞれ20体積%(実施例8)、80体積%(実施例9)にしたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は実施例2と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
酸化マグネシウム粉末の含有量が20体積%(実施例8)では、積層板の厚さ方向の熱伝導率が若干低下したものの、良好な値であった。また、酸化マグネシウム粉末の含有量が80体積%(実施例9)では、積層板の厚さ方向の熱伝導率が大きく向上し、また耐湿絶縁性、ドリル加工性も良好であった。
【0060】
比較例9、10
実施例2において、酸化マグネシウム粉末の含有量をそれぞれ15体積%(比較例9)、85体積%(比較例10)にしたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は実施例2と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
酸化マグネシウム粉末の含有量が15体積%(比較例9)では、積層板の厚さ方向の熱伝導率が大きく低下した。また、酸化マグネシウム粉末の含有量が85体積%(比較例10)では、ワニスの粘度が高くなり、ガラス繊維不織布基材に均一に含浸できなかったため、積層板は得られなかった。
【0061】
実施例10〜12
実施例2において、酸化マグネシウム粉末の含有量を半分に減らして23体積%とする。そして、残りの半分を、酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材として、アルミナ(実施例10)、水酸化アルミニウム(実施例11)、シリカ(実施例12)のそれぞれとし、その含有量を23体積%としたエポキシ樹脂ワニスを使用する。それ以外は、実施例2と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。なお、使用した酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材は、下記のとおりである。
アルミナ (熱伝導率:30W/m・K、平均粒径:20μm)
水酸化アルミニウム(熱伝導率:3W/m・K、平均粒径:10μm)
シリカ (熱伝導率:1W/m・K、平均粒径:20μm)
これら積層板の厚さ方向の熱伝導率を測定した結果、酸化マグネシウム(熱伝導率:35W/m・K)より熱伝導率の低い水酸化アルミニウム(実施例11)やシリカ(実施例12)の配合では、積層板の厚さ方向の熱伝導率は若干低下したものの、良好な値であった。また、積層板の耐湿絶縁性やドリル加工性も良好であった。
【0062】
比較例11、12
実施例10において、アルミナの平均粒径をそれぞれ0.05μm(比較例11)、60μm(比較例12)にしたアルミナを使用する以外は、実施例10と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
アルミナの平均粒径が0.05μm(比較例11)では、粒径が小さいため、積層板の厚さ方向の熱伝導率が3.0W/m・Kと実施例10より大きく悪化した。また、アルミナの平均粒径が60μm(比較例12)では、粒径が大きいため、積層板の耐湿絶縁性やドリル加工性が悪化した。
【0063】
実施例13
実施例10において、酸化マグネシウム粉末の含有量を5体積%、アルミナの含有量を15体積%(酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の総含有量を20体積%)としたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例10と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の総含有量が20体積%では、積層板の厚さ方向の熱伝導率が若干低下したものの、良好な値であった。
【0064】
実施例14
実施例10において、酸化マグネシウム粉末の含有量を50体積%、アルミナの含有量を30体積%(酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の総含有量を80体積%)としたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例10と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
酸化マグネシウム粉末と無機充填材の総含有量が80体積%では、積層板の厚さ方向の熱伝導率が大きく向上し、また耐湿絶縁性、ドリル加工性も良好であった。
【0065】
比較例13
実施例10において、酸化マグネシウム粉末の含有量を5体積%、アルミナの含有量を10体積%(酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の総含有量を15体積%)としたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例10と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の総含有量が15体積%では、積層板の厚さ方向の熱伝導率が大きく低下した。
【0066】
比較例14
実施例10において、酸化マグネシウム粉末の含有量を50体積%、アルミナの含有量を35体積%(酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の総含有量を85体積%)としたエポキシ樹脂ワニスを使用する以外は、実施例10と同様にしてプリプレグおよび銅張り積層板を得た。
酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の総含有量が85体積%では、ワニスの粘度が高くなり、ガラス繊維不織布基材に均一に含浸できなかったため、積層板は得られなかった。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
表1〜4から明らかなように、本発明に係る酸化マグネシウム粉末の製造法は、シリカ含有量が1〜6質量%である酸化マグネシウムを原料として使用し、この酸化マグネシウムを1650℃〜1800℃で焼成することにより、耐湿特性、加工性に優れかつ熱伝導性が良好な絶縁層を製造することができることが理解できる(実施例2〜5と比較例3〜6の対照)。比較例3では、酸化マグネシウムのシリカ含有量が少ないため、耐湿絶縁性が低下している。比較例4では、酸化マグネシウムのシリカ含有量が多いため、積層板の厚さ方向の熱伝導率が低下している。また、比較例5では、酸化マグネシウムの焼成温度が低いため、積層板の耐湿絶縁性が低下している。比較例6では、酸化マグネシウムの焼成温度が高いため、積層板の耐湿絶縁性が低下している。
【0072】
また、本発明に係る第1の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、上記の方法により製造された酸化マグネシウム粉末を熱硬化性樹脂と混合し、前記酸化マグネシウム粉末の平均粒径及び含有量を特定することにより、耐湿特性、加工性に優れかつ熱伝導性が良好な熱硬化性樹脂組成物を得ることができることが理解できる(実施例2、6〜9と比較例7〜10の対照)。比較例7では、酸化マグネシウム粉末の平均粒径が小さいため、積層板の厚さ方向の熱伝導率が低下している。比較例8では、酸化マグネシウム粉末の平均粒径が大きいため、積層板の耐湿絶縁性が低下している。また、比較例9では、酸化マグネシウム粉末の含有量が少ないため、積層板の厚さ方向の熱伝導率が低下している。比較例10では、酸化マグネシウム粉末の含有量が多いため、樹脂組成物の粘度が高くなり、シート状繊維基材に均一に含浸することができず、外観の均一なプリプレグを製造することができなかった。
【0073】
さらに、本発明に係る第2の熱硬化性樹脂組成物の製造法は、上記の方法により製造された酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材を混合し、前記酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の平均粒径及び含有量を特定することにより、耐湿特性、加工性に優れかつ熱伝導性が良好な絶縁層を製造することができる熱硬化性樹脂組成物を得ることができることが理解できる(実施例10〜14と比較例11〜14の対照)。比較例11では、酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の平均粒径が小さいため、厚さ方向の熱伝導率が低下している。比較例12では、酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の平均粒径が大きいため、耐湿絶縁性が低下している。比較例13では、酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の総含有量が少ないため、厚さ方向の熱伝導率が低下している。比較例14では、酸化マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材の総含有量が多いため、樹脂組成物の粘度が高くなり、シート状繊維基材に均一に含浸することができず、外観の均一なプリプレグを製造することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ含有量が1〜6質量%である酸化マグネシウムを原料として使用し、この酸化マグネシウムを1650℃〜1800℃で焼成することにより、酸化マグネシウム粉末の表面にシリカ膜を形成することを特徴とする酸化マグネシウム粉末の製造法。
【請求項2】
酸化マグネシウム粉末を含む熱硬化性樹脂組成物の製造法であって、
前記酸化マグネシウム粉末は、請求項1記載の方法により製造されたものであり、かつ、平均粒径d1が、10μm≦d1≦80μmの範囲であり、
熱硬化性樹脂固形分と酸化マグネシウム粉末を合わせた体積中に、前記酸化マグネシウム粉末の含有量が20〜80体積%となるように混合することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物の製造法。
【請求項3】
前記酸化マグネシウム粉末の一部を酸化マグネシウム粉末以外の無機充填材に置換え、
前記無機充填材は、平均粒径d2が、0.1μm≦d2≦50μmの範囲であり、
熱硬化性樹脂固形分と酸化マグネシウム粉末と無機充填材を合わせた体積中に、前記酸化マグネシウム粉末の含有量が5〜50体積%、無機充填材の含有量が15〜30体積%となるように混合することを特徴とする請求項2記載の熱硬化性樹脂組成物の製造法。
【請求項4】
前記酸化マグネシウム粉末が、カップリング剤又は分散剤にて表面処理を施されたものであることを特徴とする請求項2又は3記載の熱硬化性樹脂組成物の製造法。
【請求項5】
熱硬化性樹脂組成物が、(式1)で示す分子構造に代表される、液晶性エポキシ樹脂モノマを配合したエポキシ樹脂組成物であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の製造法。
【化1】

【請求項6】
(式1)においてRが水素である、(式2)で示す分子構造の液晶性エポキシ樹脂モノマを配合したエポキシ樹脂組成物であることを特徴とする請求項5記載の熱硬化性樹脂組成物の製造法。
【化2】

【請求項7】
請求項2〜6のいずれかに記載の方法により製造された熱硬化性樹脂組成物をシート状に形成し、これを加熱して乾燥することを特徴とするプリプレグの製造法。
【請求項8】
請求項7記載の方法により製造されたプリプレグを、電気絶縁層を構成するためのプリプレグ層の全部又は一部の層として使用し加熱加圧成形することを特徴とする積層板の製造法。

【公開番号】特開2012−116715(P2012−116715A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268924(P2010−268924)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】