説明

酸化亜鉛多孔質電極の製造方法ならびに色素増感型太陽電池

【課題】高温での熱処理や強酸、強塩基など過酷な反応条件を要することなく、高性能な金属酸化多孔質電極を製造する方法を提供すること。光電変換効率、短絡光電流、開回路電圧、曲線因子等の種々の性能に優れる色素増感型太陽電池を提供すること。
【解決手段】上記金属酸化物多孔質電極は、基板上に形成された酸化亜鉛の微粒子膜を、極性溶剤を主成分とする浸漬液に浸漬する工程を含む方法によって製造される。上記浸漬液は、好ましくは金属酸化物、金属塩化合物および金属アルコキシド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。ただし、上記金属酸化物、金属塩化合物および金属アルコキシド化合物に含まれる金属元素は、亜鉛、または酸化物としたときにそのバンドギャップが酸化亜鉛よりも広く且つ伝導帯準位が酸化亜鉛よりも卑の金属元素である。
色素増感型太陽電池は、上記の酸化亜鉛多孔質電極に増感色素を担持した光電極を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に色素増感型太陽電池の光電極用材料として好適に使用できる酸化亜鉛多孔質電極の製造方法ならびに該酸化亜鉛多孔質電極に増感色素を担持した光電極を具備する色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池の光電極材料に用いられる導電性の酸化物多孔質電極の作製には、酸化チタン微粒子と分散剤となる界面活性剤等とを混合して調製したペーストを、透明導電性ガラス基板上に均一に塗布し、これを400〜500℃で熱処理して有機成分を燃焼、除去することで作製する、O’ReganとGratzelらが考案した手法(非特許文献1)が最も一般的に用いられている。酸化物として他の酸化物、例えば酸化亜鉛、酸化スズ等を用いた微粒子膜も同様の手法によって作製されているほか、電解合成法、ゾルゲル法、電気泳動を用いる手法(特許文献1)等も知られている。しかし、いずれの場合も結晶相の形成や粒子同士の焼結のために400℃以上の高温における熱処理が必要であるため、導電性基板として用いることができる材料が限定されてしまい、プラスティックフィルム等の軽量、安価な材料を使用することができないという問題がある。
【0003】
光触媒用の金属酸化物膜としては、室温でコートし、乾燥させるのみで酸化チタン被膜を作製できるコーティング液も製品化されてはいる。しかし、この技術によると、粒子同士のネッキングが起こらないために膜に導電性がなく、色素増感型太陽電池の光電極用材料としては使用できない。
また、有機物を含まない酸化チタンの水性懸濁液を導電性基板上にコートし、低温で焼成することにより導電性の薄膜を作製しうることが報告されているが(非特許文献2)、この技術によると色素増感型太陽電池の光電極用材料として必要な膜の厚さを得られない問題がある。
また、有機分散剤を含まない半導体微粒子のペーストを導電性基板に塗布後、高圧でプレスすることによる製膜法が考案され、熱処理を施すことなく光電極用材料を作製できることが報告されている(非特許文献3)が、得られる膜の微細構造に問題があり、微弱光では高い性能を有するものの、太陽光程度の強い光強度になると、電解質の輸送が頭打ちとなって電流が光強度に追従しなくなってしまう問題がある。更にこのような物理的手法を用いて作製された金属酸化物膜は、膜形成条件の改良による特性向上は望めない。例えば上記のプレス法によって作製した金属酸化物膜に熱処理を施しても、これを用いた太陽電池の性能向上は全く見られない(非特許文献4)。
【0004】
上記の焼結や圧着等の物理的手法に対して、化学的な手法によって酸化チタンの多孔質電極を作製する方法も知られている。酸化チタン微粒子と溶媒との混練によって調製したペーストにチタンアルコキシド等の結着剤を添加し、このペーストを塗布し次いで溶媒を除去することによって導電性基板上に膜を形成し、更にこれをオートクレーブの気相中に設置して100℃前後において水蒸気処理することにより、加えたチタンアルコキシドが加水分解され、更に酸化チタンに結晶化されることで、酸化チタン微粒子同士の結着が促進される。この手法は樹脂基板に対しても適用可能である(特許文献2)。この手法はバッチ式の処理であるために生産性には問題があるが、これをさらに改良した技術として、同様の原料を用いて塗布によって形成した膜に、酸素気流中において紫外光を照射する、いわゆるUV−オゾン処理を施し、これによって原料中のチタンアルコキシドを分解する技術が提案されている(特許文献3)。この技術は、非加熱、常温、常圧下の反応で酸化チタンの多孔質電極を簡易に作製できる方法であり、生産性にも優れる。
【0005】
しかしながら、上記の低温プロセスによって得られる多孔質電極は、グレッツェルらの高温焼結法によって得られる電極に比べてその性能に劣ることが指摘されている。それは特に照射フォトン数あたり外部回路に流れる電流の電子数への変換効率、いわゆる外部量子効率(IPCE値)に顕著に現れる。グレッツェルらの太陽電池ではIPCE値が80%以上と高いのに対し、低温合成された酸化チタン電極を用いた太陽電池ではこれがせいぜい40〜50%程度にとどまる。これは、低温合成された酸化チタン電極においては、酸化チタン粒子同士のネッキングが不足し、色素励起状態から注入された電子の拡散が遅いため、電荷の捕集効率が低いことが主な原因であると考えられている。
一方、低温プロセスによって優れた性能を有する金属酸化物電極を作製する試みとして、酸化チタンよりも反応性の高い酸化亜鉛を電極材料とすることが知られている。例えば亜鉛塩の水溶液に特定のテンプレート化合物を添加した電解浴から、カソード電解析出によって高結晶性の酸化亜鉛とテンプレート化合物とからなる複合体薄膜を形成した後に、適宜洗浄処理によってテンプレート化合物を除去することにより、酸化亜鉛多孔質薄膜を得る方法が提案されている(特許文献4)。この場合、酸化亜鉛微粒子をつなぎ合わせることで多孔質形状を得るのではなく、結晶そのものが多孔質形状に成長するように工夫されたものであり、電子輸送の妨げとなる結晶粒界が存在しないために、色素増感型太陽電池の光電極用材料として好ましい性質を示す。しかしながら、この手法は特定の製造条件を満たすことが必要であり、プロセスの高速化にも有利とは言い難い。
高温処理を伴わず、簡易且つ温和なプロセスによって、優れた性能の光電極用材料として作用する金属酸化物多孔質電極を製造する方法はいまだ知られていない。
【特許文献1】特開平11−310898号公報
【特許文献2】特許第3692472号明細書
【特許文献3】特許第3671183号明細書
【特許文献4】特開2004−6235号公報
【非特許文献1】B. O’Regan and M. Gratzel, Nature, 353, 737(1991).
【非特許文献2】F. Pichot, S.Ferrere, R.J. Pitts and B.A. Gregg, Langmuir, 16, 5626 (1999).
【非特許文献3】H. Lindstrom,A. Holmberg, E. Magnusson, S.-E. Lindquist, L. Malmqvist, A. Hagfeldt, NanoLett. 2001, 1, 97.
【非特許文献4】H. Lindstrom,E. Magnusson, A. Holmberg, S. Sodergren, S.-E. Lindquist, A. Hagfeldt, Sol. Energ. Mater. Sol. Cells 2002, 73, 91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温での熱処理や強酸、強塩基など過酷な反応条件を要することなく、高性能な金属酸化物多孔質電極を製造する手法を提供することにある。本発明の別の目的は、光電変換効率、短絡光電流、開回路電圧、曲線因子等の種々の性能に優れる色素増感型太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本発明の上記目的は第一に、
基板上に形成された酸化亜鉛の微粒子膜を極性溶剤を主成分とする浸漬液に浸漬する工程を含む、酸化亜鉛多孔質電極の製造方法によって達成される。上記極性溶剤は、酸化亜鉛を微量溶解する性質を持つものである。
本発明の上記目的は第二に、上記の方法により製造された酸化亜鉛多孔質電極によって達成される。
本発明の上記目的は第三に、上記の酸化亜鉛多孔質電極に増感色素を担持した光電極を具備する色素増感型太陽電池によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の酸化亜鉛多孔質電極の製造方法に使用することのできる基板は、光入射基板として機能するので透明であることが好ましいほかは、その材質に特に制限はない。基板としては例えばガラス、樹脂等を使用することができるが、本発明の方法は、後述するように高温もしくは高圧または強酸もしくは強塩基条件下といった過酷な条件の採用が不要なので、融点が低く、またガラスに比べて化学的に活性な樹脂であってもこれを基板として使用できる利点がある。このような樹脂としては、例えば再生セルロース、ジアセテートセルロース、トリアセテートセルロース、テトラアセチルセルロース、アミロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、シクロオレフィンポリマー、ノルボルネン樹脂、ポリスチレン、塩酸ゴム、ナイロン、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニル、ポリ四フッ化エチレン等が挙げられる。
これらのうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリアリレート、シクロオレフィンポリマーまたはノルボルネン樹脂が好ましい。
基板の厚さは5μm〜50mmであることが好ましく、25μm〜10mmであることがより好ましい。
【0009】
基板は、その片面に導電層が形成されていることが好ましい。導電層は透明であることが好ましく、例えばスズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、フッ素ドープ酸化インジウム、亜鉛ドープ酸化インジウム、ガリウムドープ酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛等を好ましく使用することができる。
導電層の厚さとしては、好ましくは5〜1,000nmであり、10〜500nmであることがより好ましい。
基板の片面に導電層を形成するには公知の方法、例えば化学気相蒸着法、スパッタリング法、真空蒸着法等を利用することができる。
【0010】
上記の如き基板上に形成される酸化亜鉛の膜は、酸化亜鉛の微粒子からなる微粒子膜である。かかる酸化亜鉛微粒子膜の厚さとしては、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
酸化亜鉛の微粒子膜は、多孔質であり、そのラフネスファクターが15以上であることが好ましく、50〜10,000であることがより好ましく、更に100〜2,000であることが好ましい。なお、ここでいうラフネスファクターとは、酸化亜鉛微粒子膜の表面積を、微粒子膜の基板上への投影面積で除した値をいう。
酸化亜鉛の微粒子膜について上記した膜厚、ラフネスファクター等の形態上の特徴は、後述する浸漬処理によっても実質的には変化せず、本発明の酸化亜鉛多孔質電極においてそのまま維持されることとなる。
【0011】
上記の如き酸化亜鉛の微粒子膜を基板上に形成するための方法としては、例えば酸化亜鉛の微粒子と有機溶媒とを含有するペーストを基板に塗布し次いで有機溶媒を除去することにより膜を形成する方法を挙げることができる。
酸化亜鉛の微粒子と有機溶媒とを含有するペーストを用いる方法によると、使用する酸化亜鉛微粒子を適宜に選択することにより、形成される酸化亜鉛微粒子膜の個々の微粒子の大きさ、ラフネスファクター等を容易にコントロールできる利点を有する。この場合、ペーストに含有される酸化亜鉛微粒子の平均粒径としては、1〜500nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。酸化亜鉛微粒子は必ずしもその粒径がそろっている必要はなく、粒径分布が広い粒子でも好ましく使用できる。
【0012】
ペーストの調製に使用できる溶媒としては、例えば水、アルコール等を用いることができる。
アルコールとしては炭素数1〜6のアルコールを好ましく使用でき、具体的には例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等を挙げることができる。
ペーストは上記の酸化亜鉛微粒子及び有機溶媒のほか、任意的にその他の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては例えば分散剤を挙げることができる。
上記の分散剤は、酸化亜鉛に配位する性質を持った官能基を有する化合物からなることが好ましい。かかる官能基としては、例えばアミノ基、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、ケトン基、ヒドロキシル基およびホスホン酸基からなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。上記化合物はオリゴマーや高分子量体であってもよい。
【0013】
上記アミノ基を有する分散剤としては、例えばアミルアミン、メタンジアミン、ブチルアミン、プロパノールアミン、プロピルアミン、エタノールアミン、エチルエタノールアミン、2−エチルヘキシルアミン、エチルメチルアミン、エチルベンジルアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、エチレンジアミン(EDA)、オクチルアミン、オレイルアミン、シクロオクチルアミン、シクロブチルアミン、シクロプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジ2−エチルヘキシルアミン、ジエチレントリアミン、ジフェニルアミン、ジブチルアミン、ジプロピルアミン、ジヘキシルアミン、ジペンチルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルエチレンジアミン、ジメチルオクチルアミン、1,3−ジメチルブチルアミン、1,3−ジアミノプロパン、ジメチル−1,3−プロパンジアミン、ジメチルヘキシルアミン、アミノ−ブタノール、アミノ−プロパノール、アミノ−プロパンジオール、N−アセチルアミノエタノール、2−(2−アミノエチルアミノ)−エタノール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチルアミン、セチルアミン、トリイソプロパノールアミン、トリイソペンチルアミン、1,2−ジアミノプロパン、トリエタノールアミン、トリオクチルアミン、トリチルアミン、ビス(2−アミノエチル)1,3−プロパンジアミン、ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(3−アミノプロピル)1,3−プロパンジアミン、ビス(3−アミノプロピル)メチルアミン、ビス(2−エチルヘキシル)アミン、ビス(トリメチルシリル)アミン、ブチルアミン、ブチルイソプロピルアミン、プロパンジアミン、プロピルジアミン、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、2−メチル−シクロヘキシルアミン、メチル−プロピルアミン、メチルベンジルアミン、モノエタノールアミン、ラウリルアミン、ノニルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレシジアミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルエタノールアミン等;
【0014】
カルボキシル基を有する分散剤としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸等;
リン酸基を有する分散剤としては、例えばリン酸モノアルキルエステル類、リン酸ジアルキルエステル類、リン酸化脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類(以上において、アルキル基の有する炭素数は、好ましくは1〜10である。)等を挙げることができ、その具体例として例えばリン酸ジブチル、リン酸ブチル、リン酸ジメチル、リン酸メチル、リン酸プロピル、リン酸ジプロピル、リン酸ジフェニル、リン酸フェニル、リン酸イソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸nブチル−2−エチルヘキシル等;
亜リン酸基を有する分散剤としては、例えば亜リン酸モノアルキルエステル化合物、亜リン酸ジアルキルエステル化合物(以上において、アルキル基の有する炭素数は、好ましくは1〜10である。)等を挙げることができ、その具体例として例えば亜リン酸ジブチル、亜リン酸ブチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸メチル、亜リン酸プロピル、亜リン酸ジプロピル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸フェニル、亜リン酸イソプロピル、亜リン酸ジイソプロピル、亜リン酸nブチル−2−エチルヘキシル等;
【0015】
ケトン基を有する分散剤としては、例えばアセチルアセトン(ACAC)、ジピパロイルメタン(dpm)、ヘキサフルオロアセチルアセトン(hfa)、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオアセトン(TMOD)、テノイルトリフルオロアセトン(TTA)、1−フェニル−3−イソヘプチ−1,3−プロパンジオン、ジベンゾイルメタン(DBM)、ステアロイルベンゾイルメタン(SBM)、ベンゾイルアセトン、アセチルアセトン、デヒドロ酢酸、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、トリフルオロアセチルアセトン、プロピオニルアセトン、ベンゾイルアセトン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、ジベンゾイルメタン等;
ヒドロキシル基を有する分散剤としては、例えばメタノール、エタノール、エチレングリコール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、フェノール、カテコール等;
ホスホン酸基を有する分散剤としては、例えばヘキシルホスホン酸、n−オクチルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸等を、それぞれ挙げることができる。
分散剤の使用量としては溶媒の量に対して0.01〜50体積%であることが好ましく、0.1〜10体積%であることがより好ましい。
【0016】
ペーストは、金属酸化物粒子および有機溶媒ならびに任意的に添加されるその他の添加剤を混合し、攪拌することにより調製することができる。攪拌は、超音波破砕機、ボールミル、自転公転ミキサー、マグネチックスターラー等の適宜の攪拌装置を使用して実施できる。攪拌は、必要に応じて冷却しつつ行ってもよい。
ペーストの粘度は好ましくは100Pa・s以下であり、このようなペースト粘度を与える酸化亜鉛微粒子の含量としては、ペースト全量に対して好ましくは0.1〜60重量%であるが、最適のペースト粘度および酸化亜鉛微粒子の含量は採用する塗布方法により異なる。
【0017】
上記ペーストは、次いで基板の導電層を有する面上に塗布される。塗布方法としては、例えばドクターブレード法、ガラス棒による塗布、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、グラビア印刷法等を採用することが可能である。
塗布法としてドクターブレード法またはガラス棒による塗布を採用する場合のペースト粘度は、好ましくは0.001〜10 Pa・sであり、より好ましくは0.008〜0.1 Pa・sである。この場合のペースト中の酸化亜鉛微粒子の含量は、好ましくは1〜50重量%であり、より好ましくは10〜35重量%である。
スクリーン印刷法を採用する場合のペースト粘度は、好ましくは0.1〜100 Pa・sであり、より好ましくは1〜10 Pa・sである。この場合のペースト中の酸化亜鉛微粒子の含量は、好ましくは1〜50重量%であり、より好ましくは10〜35重量%である。
スプレー塗布法を採用する場合のペースト粘度は、好ましくは100 mPa・s以下であり、より好ましくは20 mPa・s以下である。この場合のペースト中の酸化亜鉛微粒子の含量は、好ましくは1〜40重量%であり、より好ましくは5〜32重量%である。
次いで基板上に塗布されたペーストから溶媒を除去することにより、酸化亜鉛の微粒子膜が形成される。溶媒除去の際の条件は、使用する有機溶媒の種類やペースト中の酸化亜鉛微粒子含量により異なるが、大体の目安として、温度が好ましくは20〜120℃であり、時間が好ましくは1〜15分程度である。
【0018】
本発明の酸化亜鉛多孔質電極の製造方法においては、上記のようにして基板上に形成された酸化亜鉛の微粒子膜を、次いで極性溶剤を主成分とする浸漬液に浸漬する。ここで、「極性溶剤を主成分とする」とは、浸漬液が極性溶剤のみからなるか、あるいは極性溶剤を溶媒とする溶液からなることを意味する。
ここで使用できる極性溶剤は、プロトン性溶媒および非プロトン性溶媒に分けることができる。上記プロトン性溶媒としては、例えば水、エタノール、酢酸等を挙げることができる。上記非プロトン性溶媒としては、例えばアセトニトリル、アセトン等を挙げることができる。
浸漬液の主成分である極性溶剤としては、水が好ましい。
上記の如き浸漬液に対する酸化亜鉛の溶解性は極めて低いがごく僅かに溶解するため、上記浸漬液を用いた浸漬処理により膜中の酸化亜鉛のうち極微量が溶解しこれが再析出することにより、酸化亜鉛の微粒子間のネッキング(連結)が進行し、膜の機械的強度が向上すると共に膜の導電性の向上が実現される。本発明の方法は、このような浸漬処理を含む工程で酸化亜鉛の多孔質電極を製造することにより、高温もしくは高圧または強酸もしくは強塩基条件下の処理工程を経ることなく高品位の酸化亜鉛多孔質電極を与えることができる利点を有する。
【0019】
浸漬液は、上記の如き極性溶剤のほか、金属酸化物、金属塩化合物および金属アルコキシド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することができる。ただし、上記金属酸化物、金属塩化合物および金属アルコキシド化合物に含まれる金属元素は、亜鉛、または酸化物としたときにそのバンドギャップが酸化亜鉛よりも広く且つ伝導帯準位が酸化亜鉛よりも卑である金属元素である。
上記のとおり、基板上の膜を構成する酸化亜鉛の浸漬液に対する溶解度は極めて低いが、若干は溶解するため、膜中の酸化亜鉛の量に対する極性溶剤の量が過大である場合には、膜が基板から剥離したり、膜がばらばらに崩壊してしまうことがある。これを抑止するために、膜を構成する金属酸化物と同種の金属酸化物である酸化亜鉛を予め含有させ、酸化亜鉛の溶解度を抑制した浸漬液を用いて浸漬処理を行うことが効果的である。この場合の浸漬液中の酸化亜鉛の濃度は、溶解する範囲で任意の濃度とすることができ、飽和溶液でもよい。
酸化亜鉛の例えば飽和溶液を用いて浸漬処理を行うと、基板上の酸化亜鉛の微粒子膜はこれ以上溶液に溶解しなくなるが、全く変化が起こらないということではなく、溶解と析出とが平衡状態にあるから溶解と再析出を繰り返す。そのため、この場合でも膜表面の再結晶化と微粒子間のネッキングは進行する。
【0020】
また、浸漬処理に用いる浸漬液は、そのバンドギャップが酸化亜鉛よりも広く且つ伝導帯準位が酸化亜鉛よりも卑である金属酸化物(以下、「特定金属酸化物」という。)を含有することができる。このような特定金属酸化物を含有する浸漬液を用いて浸漬処理を行うことにより、膜の機械的強度および導電性が向上することのほか、浸漬処理後の膜を色素増感型太陽電池の光電極用として使用した場合に起電力が向上する効果が得られる。これは、上記の如き特定金属酸化物を含有する浸漬液を用いた浸漬処理により、基板上に形成された酸化亜鉛の微粒子膜のネッキングが進行すると共に、膜の表面に特定金属酸化物の被膜が形成されることによる。この被膜の存在により、色素励起状態から酸化亜鉛膜中に注入された電子の電解液への逆移動を抑制するという有利な効果が生ずる。電子の逆移動が抑制されることにより、光が定常的に照射された場合に多孔質酸化亜鉛電極中の電子濃度が高くなるため、電池の起電力が向上することになる。
かかる特定金属酸化物に含まれる金属元素としては、例えばマグネシウム、チタン、ハフニウム、ニオブ、タンタル、クロミウム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、カドミウム、アルミニウム、インジウム、ケイ素、スズまたはアンチモンを挙げることができる。
特に好ましい特定金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化ケイ素または酸化ジルコニウムを挙げることができる。
浸漬液中の金属酸化物の濃度は、溶解する範囲で任意の濃度とすることができ、飽和溶液であってもよい。
【0021】
浸漬処理に用いる浸漬液には、上記した酸化亜鉛もしくは特定金属酸化物に代えて、またはこれらとともに、対応する金属元素の金属塩化合物および金属アルコキシドからなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。
金属塩化合物の種類としては、例えば金属の水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、重炭酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩等を例示することができる。金属アルコキシドのアルコキシル基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソペンチルオキシ基等を挙げることができる。これらのうち、金属の炭酸塩、炭素数1〜20のカルボン酸の金属塩または炭素数1〜20のアルコキシル基を有する金属アルコキシドの使用が好ましい。
このような金属塩化合物および金属アルコキシドから選択される少なくとも1種を含有する浸漬液を用いて浸漬処理を行うことにより、これらに含まれる金属原子に対応する金属酸化物を含有する浸漬液を用いた浸漬処理と同様の効果を得ることができる。
金属塩化合物または金属アルコキシドに含まれる金属原子としては、上記した特定金属酸化物に含まれる金属原子と同様の金属原子が好ましい。
特に好ましい金属塩化合物または金属アルコキシドとしては、例えばマグネシウムエトキシド、酢酸マグネシウム等を挙げることができる。
浸漬液中の金属塩化合物または金属アルコキシドの濃度は、溶解しうる範囲であれば任意に選ぶことができるが、好ましくは0.1〜30mmol/Lである。
【0022】
浸漬処理に用いる浸漬液は、更に酸または塩基を含有することができる。
かかる酸としては、例えば塩酸、酢酸等を挙げることができる。
また、かかる塩基としては、例えばアンモニア等を挙げることができる。
浸漬処理に用いる浸漬液は、これら酸または塩基の添加によりそのpHを調整することができる。浸漬液のpHを適当な範囲に調整することにより、浸漬処理時間の短縮を図ることができる。
【0023】
浸漬処理には、何らの溶質を含有しない極性溶剤のみからなる浸漬液を使用することができ、また、上記の金属酸化物、金属塩化合物、金属アルコキシド、酸および塩基からなる群から選ばれる少なくとも1種ならびに極性溶剤を含有する浸漬液を使用することができる。後者の場合には、金属酸化物、金属塩化合物、金属アルコキシド、酸または塩基のうちの1種類および極性溶剤を含有する浸漬液であってもよく、金属酸化物、金属塩化合物、金属アルコキシド、酸および塩基のうちの2種以上と極性溶剤とを含有する浸漬液であってもよい。
浸漬液としては、特に、水のみからなる浸漬液、酸化亜鉛および水からなる浸漬液、特定金属酸化物および水からなる浸漬液、金属塩化合物および水からなる浸漬液、金属アルコキシドおよび水からなる浸漬液、酸および水からなる浸漬液、塩基および水からなる浸漬液、酸化亜鉛および特定金属酸化物ならびに水からなる浸漬液を使用することが好ましい。
【0024】
浸漬処理の際の浸漬液の温度としては、溶媒が液体状態にある凝固点以上沸点以下であれば任意に選ぶことができる。例えば使用する溶媒が水の場合、常圧下においては0〜100℃だが、オートクレーブ等の耐圧容器を用いればより高い温度での処理も可能となる。処理温度をより高くすることにより、浸漬処理による溶解再析出反応の速度が増大するので、短い処理時間でネッキング促進等の効果を得ることができる。しかし、反応が過剰に速く進行すると、反応時間を最適に制御することが困難となるので、再現良く処理の効果が得られるように温度と時間双方を制御することが必要である。溶解再析出反応が過度に進行すると、膜が多孔質構造から緻密な構造に変化し、増感色素を吸着するための表面積が減ずるため、電池の性能が大幅に低下してしまう場合がある。
このような理由から、処理温度および時間は、処理液に使用する溶媒および溶質の種類や濃度、さらに浸漬液のpH等を考慮して最適条件を選択するべきである。例えば極性溶剤として水を用いる場合には、20〜80℃が好ましい温度範囲であり、処理時間としては1〜60分が好ましい。
浸漬処理後の酸化亜鉛の膜は、その後必要に応じて洗浄し、極性溶剤を除去することにより、本発明の酸化亜鉛多孔質電極とすることができる。極性溶剤の除去に際しては、浸漬後の膜を、例えば空気中で加熱する方法、減圧にて乾燥する方法等によることができる。この場合の加熱温度は使用する基板の耐熱温度以下、即ち概ね40〜150℃の範囲で選べばよく、加熱時間は好ましくは5〜120分である。なお、基板材料にガラス等の耐熱性材料を用いた場合でも、加熱温度を過度に高くすると酸化亜鉛の結晶化が進行し、膜の多孔質構造が失われる場合があるので、加熱温度は300℃以下の温度とすることが好ましい。
【0025】
上記の如くして製造された本発明の酸化亜鉛多孔質電極は、高温もしくは高圧または強酸もしくは強塩基条件下等の過酷な製造工程を経由していない。また、浸漬前の酸化亜鉛の微粒子膜の形状がほぼ維持されている。しかし、それにもかかわらず浸漬前の微粒子膜と比較して機械的強度、導電性が顕著に向上している。
また、本発明の酸化亜鉛多孔質電極の製造方法において、浸漬液が特定金属酸化物またはこれに対応する金属塩化合物もしくは金属アルコキシドを含有するものである場合、本発明の酸化亜鉛多孔質電極は、その表面に特定金属酸化物の被膜を有する。この場合の被膜の量としては、被膜中の特定金属酸化物中の金属原子の量が、酸化亜鉛多孔質電極中の亜鉛原子の量に対して0.01〜1モル%であることが好ましい。
このような本発明の酸化亜鉛多孔質電極は、色素増感型太陽電池の光電極用材料、エレクトロクロミックディスプレイにおける透明導電膜、キャパシタ、二次電池の電極材料等として、好適に使用することができる。本発明の酸化亜鉛多孔質電極は、これらの用途のうち色素増感型太陽電池の光電極用材料として特に好適に使用される。
【0026】
以下、本発明の酸化亜鉛多孔質電極に増感色素を担持した光電極を具備する本発明の色素増感型太陽電池について説明する。
本発明の色素増感型太陽電池は、少なくとも上記の如くして製造された基板上の酸化亜鉛多孔質電極に増感色素を担持した光電極、これと対峙する対電極を有する基板および前記光電極と対電極との間に配置された電解質層を備える。
使用できる増感色素としては、従来の色素増感型太陽電池で使用されうる色素であればすべて使用でき、例えば無機顔料、有機金属錯体、有機色素または天然色素を挙げることができる。
上記無機顔料としては、バンドギャップが比較的狭く、可視光領域に高い吸収係数を有する化合物半導体およびこれらの固溶体の微粒子を用いることが好ましい。このような化合物半導体としては、例えばCdS、CdSe、CdTe、ZnSe、ZnTe、PbS、PbSe、PbTe、HgS、HgSe、In、CuInSe等を挙げることができる。これらの化合物半導体は、結晶サイズが数十nm以下となった場合にバンドギャップがバルク体よりも大きくなる量子サイズ効果を示すので、本発明の酸化亜鉛多孔質電極のエネルギー準位に適合するようにバンドギャップを制御することも可能である。
上記有機金属錯体としては、可視光領域に強い吸収を有し、そのLUMOレベルが酸化亜鉛の伝導帯端よりも卑なエネルギー準位を持っており、酸化亜鉛表面に結合するカルボキシル基やスルホン酸基等のアンカー基を分子内に有している有機金属錯体が好ましい。このような有機金属錯体としては、例えばRuL(X)、RuL、RuL、OsL、OsL(ここで、nは1または2であり、Xは−NCS、−NCO、HOまたは−NCSeであり、Lはビピリジル構造およびアンカー基を有する配位子を表す。有機金属錯体がLを複数有する場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、テトラ(4−カルボキシフェニル)ポルフィリン金属錯体、フタロシアニンテトラカルボン酸金属錯体、フタロシアニンテトラスルホン酸金属錯体等が挙げられる。
【0027】
上記有機色素としては、可視光領域に強い吸収を有し、そのLUMOレベルが酸化亜鉛の伝導帯端よりも卑なエネルギー準位を持っており、酸化亜鉛表面に結合するカルボキシル基やスルホン酸基等のアンカー基を分子内に有している有機色素であることが好ましい。このような有機色素としては、例えば9−フェニルキサンテン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、テトラフェニルメタン系色素、キノン系色素、アゾ系色素、インジゴ系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、インドレニン系色素、スチリル系色素、スクアリリウム系色素、ヘプタメチンシアニン系色素等が挙げられる。
上記天然色素としては、例えばビートレッド、ラック、アナトー、ベニバナ(黄色)、紅麹、クチナシ(青)、クチナシ(黄)、コチニール、紫芋、カカオ、タマリンド、赤キャベツ、ウコン等の色素を挙げることができる。
これらの増感色素のうち、好ましい色素としては、例えばEosinY、三菱製紙(株)製のD149、D102、D131等を挙げることができる。このうち、EosinYおよびD149は、それぞれ下記の構造式で表される色素である。
【0028】
【化1】

【0029】
基板上の酸化亜鉛多孔質電極に増感色素を担持させるには、例えば増感色素を適当な溶媒に溶解して溶液とし、これに基板上の酸化亜鉛多孔質電極を浸漬する方法によることができる。ここで使用できる溶媒としては、上記増感色素を溶解可能なものであればすべて使用することができるが、例えば水、アルコール、芳香族化合物、ジメチルホルムアミドおよびアセトニトリルならびにこれらの混合溶媒等を挙げることができる。上記アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブチルアルコール等を挙げることができる。上記芳香族化合物としては、例えばトルエン、キシレン等を挙げることができる。これらのうち、増感色素の溶解性等の観点から、エタノール、アセトニトリル、t−ブチルアルコールが好ましい。
増感色素溶液中の色素濃度としては、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.1〜1重量%であることがより好ましい。
色素担持の際の浸漬温度は20〜90℃であることが好ましく、浸漬時間は5〜120分であることが好ましい。
増感色素を担持するための浸漬処理を施した後の酸化亜鉛多孔質電極は、好ましくは増感色素溶液の溶媒として用いたのと同じ溶媒で洗浄し次いで溶媒を除去することにより、色素増感型太陽電池用の光電極とすることができる。
【0030】
上記の光電極と対峙する対電極およびこれを形成する基板には、本発明の酸化亜鉛多孔質電極の製造に用いる基板および導電層として前記したところと同様のものを用いることができる他、光学的に透明である必要がないため、炭素や金属等の導電性材料を用いることもできる。
対電極は、電解質層に接触する表面に白金、炭素等の微粒子が担持されていることが好ましい。これらの微粒子は、酸化還元対の還元のための触媒として機能することにより、反応に要する過電圧を低減する効果を有する。これら触媒の担持は、スパッタリング法等の適宜の方法により行うことができる。
【0031】
上記電解質層としては、電解質を含有する電解質溶液であることが好ましい。電解質溶液が含有する電解質は、酸化体と還元体からなる酸化還元対であることが好ましい。本明細書において、酸化還元対とは、酸化還元反応において可逆的に酸化体および還元体の形で相互に変換しうる一対の化学種を意味する。このような酸化還元対としては、例えば塩素化合物−塩素、ヨウ素化合物−ヨウ素、臭素化合物−臭素、タリウムイオン(III)−タリウムイオン(I)、水銀イオン(II)−水銀イオン(I)、ルテニウムイオン(III)−ルテニウムイオン(II)、銅イオン(II)−銅イオン(I)、鉄イオン(III)−鉄イオン(II)、コバルトイオン(III)―コバルトイオン(II)、バナジウムイオン(III)−バナジウムイオン(II)、マンガン酸イオン−過マンガン酸イオン、フェリシアン化物−フェロシアン化物、キノン−ヒドロキノン、フマル酸−コハク酸等が挙げられる。酸化還元性を有する金属イオンについては、これらに適宜配位子が配位した錯イオンとしてこれらを用いても良い。これらのうち、ヨウ素化合物−ヨウ素が好ましい。ヨウ素化合物としては例えばヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム等の金属ヨウ化物、テトラアルキルアンモニウムヨージド、ピリジニウムヨージド等のヨウ化4級アンモニウム塩、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム等のヨウ化イミダゾリウム化合物が特に好ましい。上記テトラアルキルアンモニウムヨージドに含まれるアルキル基としては、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基がより好ましい。
【0032】
上記電解質を溶解するために使用される溶媒は、好ましくは上記の如き酸化還元対を溶解してイオン伝導性に優れた電解液を生成するものが好ましい。かかる溶媒としては水もしくは有機溶媒またはこれらの混合溶媒を挙げることができる。
有機溶媒としては、例えばカーボネート化合物、含窒素複素環化合物、ニトリル化合物、アルコール等が挙げられる。上記カーボネート化合物としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等;
上記含窒素複素環化合物としては、例えば3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等;
上記ニトリル化合物としては、例えばアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、吉草酸ニトリル等;
上記アルコールとしては、例えばエチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等を、それぞれ挙げることができる。これらのうち、カーボネート化合物、ニトリル化合物が好ましく、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネイト、アセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリルがより好ましい。
電解質溶液中の酸化還元対の濃度としては、酸化体の濃度として好ましくは0.001〜1mol/L、より好ましくは0.01〜0.5mol/Lであり、還元体の濃度として好ましくは0.001〜1mol/L、より好ましくは0.01〜0.5mol/Lである。
本発明の色素増感型太陽電池において、光電極と対電極との間隙、すなわち電解質層の厚さとしては、好ましくは6〜500 μmであり、より好ましくは10〜50 μmである。
本発明の色素増感型太陽電池は、その側面を適当なシール剤で封止して使用されることが好ましい。
【0033】
上記したような本発明の色素増感型太陽電池は、高温もしくは高圧または強酸もしくは強塩基条件下等の過酷な製造工程を経由していない酸化亜鉛多孔質電極を使用しているにもかかわらず、後述の実施例から明らかなように光電変換効率、短絡光電流、開回路電圧、曲線因子といった太陽電池としての諸特性に優れる。
【実施例】
【0034】
以下の実施例および比較例において使用した水はすべて純水製造装置により精製した純水である。
実施例1
本実施例では、酸化亜鉛微粒子膜に対する水または各種水溶液の浸漬処理の効果を調べた。
〔酸化亜鉛ペーストの調製〕
マッフル炉(ADVANTEC製、型式「FUW232PA」)を用いて、酸化亜鉛MZ−500粉末(テイカ(株)製、平均粒径25nm)を空気中450℃にて30分間加熱した。亜鉛粉末2.60gをエタノール7mLに投入し、超音波破砕機(BRANSON社製、形式「SONIFIRE 450」)を使用して冷却しながら10分間攪拌することにより、濃度32重量%の酸化亜鉛ペーストを得た。
〔導電性基板上へのペースト塗布および風乾処理〕
フッ素ドープ酸化スズ(FTO)導電膜付きガラス基板(10Ω/sq.)にスペーサーとなるスコッチテープ(商品名、3M社製、厚さ0.054mm)2枚を一定間隔で貼り付けたものに、上記で調製した酸化亜鉛ペーストをガラス棒を用いて均一に塗布した。塗布後、大気下で2分間放置することにより、導電性基板上の酸化亜鉛の微粒子膜を得た。同様にして、酸化亜鉛の微粒子膜を有する基板を数枚作製した。得られた膜の厚さを(株)小坂製作所製の表面粗さ計「SE−2300」で測定したところ、いずれも10〜12μmの範囲であった。また、後述する浸漬処理等によってその膜厚はほぼ変化せず、上記の範囲内であった。
〔浸漬処理および乾燥処理〕
上記で得た導電性基板上の酸化亜鉛の微粒子膜につき、水または表1に記載の各種水溶液に40℃にて10分間浸漬した後、空気中100℃で1時間乾燥することにより導電性基板上に酸化亜鉛多孔質電極を得た。この浸漬処理による導電膜の導電性の低下は全く見られなかった。
なお、各水溶液の調製に用いた溶質は以下のとおりである。
酸化亜鉛:テイカ(株)製
酸化マグネシウム:和光純薬工業(株)製
マグネシウムエトキシド:SIGMA−ALDRICH製
酢酸マグネシウム:和光純薬工業(株)製
酸化モリブデン:ナカライテスク(株)製
【0035】
〔太陽電池の製造〕
上記で得た浸漬処理後の導電性基板上の酸化亜鉛多孔質電極を、0.5mmol/LのEosinY(色素、SIGMA−ALDRICH製)のエタノール溶液中に入れ、90℃にて簡易還流を30分間行った。次いでこの多孔質膜をエタノールで洗浄し風乾することにより、酸化亜鉛多孔質膜に増感色素を吸着させた。
この増感色素を吸着した多孔質膜を光電極とし、白金微粒子のスパッタリングによって表面を修飾したフッ素ドープ酸化スズ(FTO)付きガラス基板を対向電極として両電極を対向させ、両電極の間隙に毛管現象により電解質溶液を導入して、光電極の実効面積約0.2cmの太陽電池を作製した。なお、電解質溶液としては、0.05mol/Lのヨウ素(MERCK社製)および0.5mol/Lのテトラ−n−プロピルアンモニウムヨージド(東京化成工業(株)製)を含有するプロピレンカーボネート(ナカライテスク(株)製)溶液を用いた。
また、浸漬処理を行っていない酸化亜鉛の膜についても上記と同様にして太陽電池の製造を試みた。
ここで、浸漬処理を行った7種の酸化亜鉛膜については太陽電池の製造を問題なく行うことができた。これに対し、浸漬処理を行っていない酸化亜鉛膜は脆くて剥がれ落ちやすかったため、数枚の膜を作製してその各々について太陽電池の製造を試み、最も良好に製造できた一個につき評価を行った。
〔太陽電池の評価〕
電池性能の評価は、AM1.5擬似太陽光(100mWcm−2)照射下におけるI−V特性の測定により行った。これらの測定には、山下電装(株)製の光源「YSS−150A」および英弘精機(株)製の太陽電池評価装置「I−Vカーブトレーサー MP−160」を用いた。
上記で製造した各太陽電池の短絡光電流密度(Jsc)、開回路電圧(Voc)、曲線因子(FF:Fill Factor)および変換効率(η)を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示したとおり、酸化亜鉛微粒子膜に対して水または各種金属酸化物、金属塩化合物もしくは金属アルコキシドの水溶液を用いた浸漬処理を施すことにより、太陽電池特性が向上することが分かった。浸漬液として酸化亜鉛の飽和水溶液を使用した場合には、特に短絡光電流の向上効果が大きかった。また、酸化マグネシウムの水溶液による浸漬処理を行うことにより、VocおよびFFの顕著な向上が見られ、変換効率の向上に寄与した。
【0038】
〔膜の形状変化〕
上記で作製した酸化亜鉛電極のうち、浸漬処理を行わなかった基板および酸化亜鉛飽和水溶液による浸漬処理を行った後の電極の走査型電子顕微鏡写真を図1に示した。40℃にて10分間の浸漬処理を施した酸化亜鉛膜(図4(b))は、浸漬処理を行っていない酸化亜鉛膜(図4(a))と同様に酸化亜鉛の各粒子を確認することができ、浸漬処理によって顕著な形状変化は起こっていないことが分かった。しかしこれらの膜を上記「太陽電池の製造」に記載した条件でEosinY色素溶液に浸漬したときに吸着された色素量は、浸漬処理行っていない電極につき9.82×10−8(mol/cm)であるのに対し、浸漬処理を行った電極につき5.40×10−8(mol/cm)であり、浸漬処理により、色素の吸着量が減少した。なお、上記色素吸着量の単位における面積は、酸化亜鉛電極の基板上への投影面積である。両電極の膜厚は上記のとおりほぼ同じであることから、色素吸着量の減少は電極の比表面積が減少したことに起因するものと推定される。
また、これらの酸化亜鉛電極を用いた太陽電池の性能には顕著な相違が見られ、光電流値は浸漬処理を行った電極(実験番号1−3)が5.59(mA/cm)と、未処理電極(実験番号1−0)の4.08(mA/cm)を大きく上回った。これは、浸漬処理により微粒子同士のネッキングが促進され、色素から注入された電子の膜中の拡散が容易になったことで、電荷の捕集効率が向上した効果であると推定される。
【0039】
〔EDX元素分析〕
表2に、実験番号1−0(浸漬処理なし)および1−3(酸化マグネシウム水溶液により浸漬処理)の酸化亜鉛膜のエネルギー分散型蛍光X線元素分析(EDX元素分析)の結果を示した。実験番号1−3の膜には亜鉛原子に対して約0.25モル%のマグネシウム原子が存在していることが確認され、酸化マグネシウム水溶液による浸漬処理によって酸化亜鉛の表面に容易に酸化マグネシウムの皮膜が形成できることが分かった。表1に示したとおり、実験番号1−3の太陽電池は、1−0の太陽電池に比べ、開回路電圧(Voc)の向上が著しい。酸化マグネシウムの皮膜が形成されることで、光励起された色素から多孔質酸化亜鉛電極内に注入された電子の電解液中のヨウ素との再結合反応が抑制されたことが、この電圧向上の理由と考えられる。
【0040】
【表2】

【0041】
また、酸化亜鉛の微粒子膜を形成する基板としてスズドープ酸化インジウム(ITO)導電膜付きポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基板(20Ω/sq.)を用い、対向電極として白金微粒子のスパッタリングによって表面を修飾したITO導電膜付きPETフィルム基板を用いたほかは上記と同様にして各種の太陽電池を製造して評価したところ、上記と同様の傾向が見られた。
【0042】
実施例2
浸漬液に酸またはアルカリを添加することによる処理時間の短縮を試みた。
実施例1において浸漬液として1mmol/Lのアンモニア水(pH10.1)もしくは1mmol/Lの塩酸(pH3.3)または酸化亜鉛を飽和させた1mmol/Lのアンモニア水(pH10.1)もしくは酸化亜鉛を飽和させた1mmol/Lの塩酸(pH6.0)を用い、処理温度を40℃、処理時間を1分とした他は実施例1と同様にして太陽電池を製造し評価した。評価結果を、実験番号1−0および1−1の結果と共に表3に示した。
溶液のpHを変えることでより短い浸漬処理時間で、実験番号1−1の処理と同等の効果を示すことがわかった。
なお、各浸漬液の調製には以下の試薬を用いた。
アンモニア水:ナカライテスク(株)製
塩酸:ナカライテスク(株)製
【0043】
【表3】

【0044】
実施例3
本実施例では、本発明の効果を伝統的な半導体電極である酸化チタン電極との比較により調べた。
〔本発明の方法を用いた太陽電池の作製〕
実施例1における〔酸化亜鉛ペーストの調製〕および〔導電性基板上へのペースト塗布および風乾処理〕に準じて導電膜上に酸化亜鉛の微粒子膜を有する基板を数枚作製した。そのうちの1枚につき、水に40℃にて10分間浸漬した後、空気中100℃で1時間乾燥した。また、別の1枚につき、酸化亜鉛の飽和水溶液に40℃にて60分間浸漬し、空気中100℃で1時間乾燥した。残りの酸化亜鉛膜については浸漬処理を行わなかった。
上記の基板につきそれぞれ、実施例1の〔太陽電池の製造〕において色素としてEosinYの代わりにD149(三菱製紙(株)製)を用いたほかは実施例1と同様にして、3種の太陽電池を製造した。なお、浸漬処理を行っていない酸化亜鉛膜については、数枚の酸化亜鉛膜を準備しそれぞれ太陽電池の製造を試み、最も良好に製造できた1個を採用した。
【0045】
〔低温作製した酸化チタン電極を有する太陽電池の作製〕
酸化チタン粒子AMT100(テイカ(株)製、粒径6nm)を空気中450℃にて30分間加熱した後、0.10mol/Lのチタンテトライソプロポキシド(SIGMA−ALDRICH製)および0.96mol/Lのアセチルアセトン(和光純薬工業(株)製)を含有するエタノール(和光純薬工業(株)製)に20重量%となる量加え、超音波分散することによりコーティング用ペーストを調製した。これをガラス棒を用いてFTO導電膜付きガラス基板の導電膜上に塗布し、室温で風乾した後、UV−オゾン処理を行い、導電膜上に酸化チタン電極を有する基板を得た。
この基板につき、実施例1の〔太陽電池の製造〕において色素としてEosinYの代わりにD149(三菱製紙(株)製)を用いたほかは実施例1と同様にして、低温作製した酸化チタン光電極を有する太陽電池を製造した。
〔太陽電池の評価〕
上記で製造した4種の太陽電池のそれぞれにつき、実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示した。また、分光計器(株)製、分光感度測定装置「CEP−2000」を用いて一定フォトン数(1016cm−2・s−1)照射下における光電流作用スペクトルを測定した。各波長における外部量子効率(IPCE値)のグラフを図2に示した。図2によると、電極として酸化亜鉛を用いることにより低温処理の酸化チタン電極を上回るIPCE値を示すが、本発明の方法により製造された酸化亜鉛電極は、更に高いIPCE値を示した。
次に、実験番号3−1、3−3および3−4の太陽電池に用いたD149を吸着させた酸化亜鉛膜の吸収スペクトルを(株)日立製作所製、U4000型紫外可視分光光度計を用いて測定した。このチャートを図3に示した。図3を見ると、酸化亜鉛膜、酸化チタン膜ともに吸収のピーク付近でAbs.が1.3を超えていた。このことは、酸化亜鉛、酸化チタンともに入射光の95%以上を吸収していることを示しており、両者のIPCE値の相違はフォトンの吸収効率の差では説明できないこととなる。酸化亜鉛の方が高いIPCE値を示したことは、光生成した電荷の捕集効率の点で、酸化亜鉛の方が優れており、さらに温水処理によって微粒子同士のネッキングが促進されて、より電荷の輸送が容易となったことによると推定される。
【0046】
【表4】

【0047】
実施例4
浸漬処理液の温度と浸漬処理時間が及ぼす効果の相違について調べた。
実施例1の〔酸化亜鉛ペーストの調製〕および〔導電性基板上へのペースト塗布および風乾処理〕と同様にして、導電膜上に酸化亜鉛の微粒子膜を有する基板を数枚作製した。浸漬液には酸化亜鉛飽和水溶液を用い、その温度および浸漬時間を変量としてこれらの基板の浸漬処理を行った。また、処理後の膜を用いて、実施例1と同様にして太陽電池を製造し、評価した。
〔太陽電池の評価結果〕
室温(22℃)、50および80℃において、浸漬時間を1分から180分の間で変化させて浸漬処理を行った。これらの処理を行った酸化亜鉛膜を用いた太陽電池の短絡光電流密度と変換効率を図4に示した。
いずれの温度でも、1分間の処理で光電流は大幅に向上した。22℃では浸漬時間10分以上では光電流値はほぼ一定値となるのに対し、50℃では時間の延長に伴って光電流はやや低下する傾向が見られた。80℃では1分間の浸漬処理により光電流値は全実験中で最大の値に達した。
変換効率について見ると、22℃の場合は光電流がほぼ一定であるにもかかわらず、変換効率は処理時間の延長に伴って緩やかな増大を示した。これは、処理時間を長くすることで、曲線因子(FF)が改善される傾向があったためである。処理温度50℃では処理時間10分から30分程度で変換効率は最大となり、処理温度80℃ではより短い時間で最大値を示す傾向が見られた。すなわち、処理温度が高くなるに連れて、最適な処理時間が短くなっていることがわかる。
これは、処理溶液の温度が高いほど酸化亜鉛の溶解再析出反応速度が増大するため、より短い処理時間で効果が現れることを示している。
〔膜の形状変化〕
処理温度80℃の処理前後における膜の形態変化を、図5の走査型電子顕微鏡写真に示した。1分間の浸漬処理により、酸化亜鉛微粒子の形状がやや判別しづらくなっているものの、いまだ多孔質構造は維持されていることがわかる。
【0048】
実施例5
酸化亜鉛ペースト中に分散剤を添加することによって膜の固着性を向上することを試みた。
実施例1の〔酸化亜鉛ペーストの調製〕において、エタノールに対して0.5体積%のアセチルアセトン(ACAC)(和光純薬工業(株)製)または5体積%のエチレンジアミン(EDA)(ナカライテスク(株)製)を加えた水溶液を酸化亜鉛粉末と混練し、酸化亜鉛ペーストを調製した。これを〔導電性基板上へのペースト塗布および風乾処理〕においてフッ素ドープ酸化スズ(FTO)付きガラス基板(FTOガラス)またはスズドープ酸化インジウム(ITO)導電膜付きポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基板(ITO/PET)上に酸化亜鉛の微粒子膜を有する基板を添加剤ごとに数枚ずつ作製した。これらの基板を酸化亜鉛飽和水溶液を浸漬処理液として40℃にて10分間浸漬処理した後、空気中100℃で1時間乾燥した。添加剤につきそれぞれ1枚については浸漬処理を行わず、後述の密着性試験に供した。
エチレンジアミンを含有する酸化亜鉛ペーストから作製した膜につき、熱分析システム(DSC、TG/DTA、TMA)(エスアイアイ・テクノロジー(株)製、EXSTAR−6000)を用いて熱分析を行い、膜内に残存している分散剤(EDA)を確認した。ここで得られたチャートを図6に示した。図6に示された示差熱測定の結果から、酸化亜鉛ペースト中の分散剤は、膜形成後の浸漬処理により除去できることが分かった。
〔太陽電池の評価〕
上記で作製した基板を用いて、実施例1と同様にして太陽電池を製造し評価を行った。評価結果を表5に示した。表5から明らかなとおり、 分散剤を添加することにより短絡光電流および曲線因子が向上し、FTOガラス基板を用いたセルにおいて電池特性が向上することがわかった。
【0049】
【表5】

【0050】
〔膜の密着性試験〕
浸漬処理を行わなかった各酸化亜鉛電極の表面にスコッチテープを貼り、剥がしてみたところ、分散剤を使用しなかった膜では膜全体が剥離したのに対し、分散剤を使用した膜では膜表面が剥がれただけであった。添加剤を加えることで、膜の密着性が向上することが分かった。
また、ITO/PETフィルム基板上に酸化亜鉛ペーストを塗布した際、分散剤なしのものは、温水処理の過程やセル作製時に膜の剥離がみられ、セルの作製が困難であった(実験6−2)が、分散剤を添加したものでは膜の剥離は見られなかった。このことから、酸化亜鉛ペーストに分散剤を添加することにより、基板との密着の良い膜を形成することが可能になることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1の酸化亜鉛膜の走査型電子顕微鏡写真である。図1(a)が未処理の酸化亜鉛膜であり、図1(b)が浸漬処理後の酸化亜鉛膜である。
【図2】実施例3で製造した各太陽電池の各波長における外部量子効率を示したグラフである。
【図3】実施例3で作製した酸化亜鉛膜および酸化チタン膜にD149色素を吸着させたときの膜の各波長の光の吸収スペクトルである。
【図4】実施例4で製造した各太陽電池の短絡電流密度および変換効率を、横軸を浸漬処理時間として示したグラフである。
【図5】実施例4で作製した酸化亜鉛膜の走査型電子顕微鏡写真である。図5(a)、(b)が浸漬処理を行っていない酸化亜鉛膜であり、図5(c)、(d)が80℃にて1分間浸漬処理を行った膜である。
【図6】実施例5で作製した酸化亜鉛膜の示差熱測定のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された酸化亜鉛の微粒子膜を、極性溶剤を主成分とする浸漬液に浸漬する工程を含むことを特徴とする、酸化亜鉛多孔質電極の製造方法。
【請求項2】
浸漬液が、金属酸化物、金属塩化合物および金属アルコキシド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものである、請求項1に記載の酸化亜鉛多孔質電極の製造方法。
ただし、上記金属酸化物、金属塩化合物および金属アルコキシド化合物に含まれる金属元素は、亜鉛、または酸化物としたときにそのバンドギャップが酸化亜鉛よりも広く且つ伝導帯準位が酸化亜鉛よりも卑である金属元素である。
【請求項3】
上記金属酸化物、金属塩化合物および金属アルコキシド化合物に含まれる金属元素が、亜鉛、マグネシウム、チタン、ハフニウム、ニオブ、タンタル、クロミウム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、カドミウム、アルミニウム、インジウム、ケイ素、スズまたはアンチモンである、請求項2に記載の酸化亜鉛多孔質電極の製造方法。
【請求項4】
浸漬液が、酸または塩基を含有するものである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の酸化亜鉛多孔質電極の製造方法。
【請求項5】
基板上に形成された酸化亜鉛の微粒子膜が、酸化亜鉛微粒子と有機溶媒とを含有するペーストから形成されたものである、請求項1に記載の酸化亜鉛多孔質電極の製造方法。
【請求項6】
ペーストが、更にアミノ基、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、ケトン基、ヒドロキシル基およびホスホン酸基から選択される少なくとも1種の基を有する化合物からなる分散剤を含有する、請求項5に記載の酸化亜鉛多孔質電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法により製造された酸化亜鉛多孔質電極。
【請求項8】
マグネシウム、チタン、ハフニウム、ニオブ、タンタル、クロミウム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、カドミウム、アルミニウム、インジウム、ケイ素、スズおよびアンチモンから選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物の被膜を表面に有する、請求項7に記載の酸化亜鉛多孔質電極。
【請求項9】
請求項7または8に記載の酸化亜鉛多孔質電極に増感色素を担持した光電極を具備することを特徴とする、色素増感型太陽電池。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−62181(P2008−62181A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242619(P2006−242619)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】