説明

酸化亜鉛系導電性積層体及びその製造方法並びに電子デバイス

【課題】酸化亜鉛を有する透明導電膜を含み、シート抵抗が低く、かつ、湿熱条件後においてもシート抵抗の変動が少なく、屈曲性に優れた酸化亜鉛系導電性積層体及びその製造方法並びに酸化亜鉛系導電性積層体を用いた電子デバイスを提供する。
【解決手段】酸化亜鉛系導電性積層体1は、基材11の少なくとも片面に、アンダーコート層12と、透明導電膜13とが形成された酸化亜鉛系導電性積層体であって、透明導電膜は、酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を複数層形成してなり、かつ透明導電膜のキャリア密度が2.0×1020〜9.8×1020cm−3であり、酸化亜鉛系導電性積層体は、直径15mm丸棒に対して透明導電膜を内側にして屈曲させ、屈曲前後でのシート抵抗値変化率が50以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化亜鉛系導電性積層体及びその製造方法並びに電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電膜として、ITOが用いられている。しかし、ITOは希少金属であるインジウムを使用しているので、ITOの代替透明導電材料として酸化亜鉛系導電材料が提案されている。
【0003】
例えば、オレフィン系樹脂を含む透明基板上に、酸化亜鉛を含む導電膜を形成して、光透過率の高い透明導電膜積層体を形成することが知られている(例えば特許文献1参照)が、特許文献1に記載の透明導電膜積層体は、抵抗値が十分に低いとは言えない場合もあり、かつ、ITOと比較して湿熱条件下でシート抵抗値が劣化してしまう。
【0004】
このため、酸化ガリウム−酸化亜鉛系透明導電膜において、酸化ガリウムのドーピング量を非常に多くしてかつ400nmの厚みにすることで湿熱条件下でのシート抵抗値を制御することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかし透明導電膜を400nm成膜する必要があり生産性が著しく劣ることになる。さらにドーピングする酸化ガリウム量が非常に多く原材料のコスト面からも現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】2008−226641号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS 89,091904(2006)
【0007】
一方、フレキシブルフィルム基板上に液晶や有機エレクトロルミネセンス等に代表されるフレキシブルデバイスが近年報告されている。フレキシブルデバイスに使用される電極としては透明導電膜であるITOが代表的である。しかしながら、ITOは、前述しているように稀少金属であるインジウムを主成分としていることから、ITO以外の材料の提案が望まれている。
【0008】
また、このようなフレキシブルデバイスに透明導電膜を用いる場合、屈曲したとしても屈曲前後においてシート抵抗値の変化が少ない特性、即ち屈曲性が求められているものの、十分な屈曲性を有するものは得られていないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決することにあり、酸化亜鉛を有する透明導電膜を含み、シート抵抗が低く、かつ、湿熱条件後においてもシート抵抗の変動が少なく、また屈曲性に優れた酸化亜鉛系導電性積層体及びその製造方法並びに酸化亜鉛系導電性積層体を用いた電子デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明者らは、透明導電膜の成膜工程において、基材に負荷される温度を可能な限り低温化にし、熱収縮応力を低減させることで、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明によれば、下記(1)〜(3)の酸化亜鉛系導電性積層体が提供される。
【0012】
(1)本発明の酸化亜鉛系導電性積層体は、基材の少なくとも片面に、アンダーコート層と、透明導電膜とが形成された酸化亜鉛系導電性積層体であって、前記透明導電膜は、酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を複数層形成してなり、かつ該透明導電膜のキャリア密度が2.0×1020〜9.8×1020cm−3であり、該酸化亜鉛系導電性積層体は、直径15mm丸棒に対して透明導電膜を内側にして屈曲させ、屈曲前後でのシート抵抗値変化率が50以下であることを特徴とする。
【0013】
(2)前記透明導電層の厚みが、50〜250nmであることを特徴とする(1)に記載の酸化亜鉛系導電性積層体にある。
【0014】
(3)前記酸化亜鉛系導電性積層体の初期シート抵抗R0が700Ω/□以下であり、前記酸化亜鉛系導電性積層体は、60℃、90%RH環境下および60℃環境下にそれぞれ7日間投入後のシート抵抗値をR1、R2とした場合に、そのシート抵抗値の第1変化率T1=(R1−R0)/R0の値が1.0以下であり、かつシート抵抗値の第2変化率T2=(R2−R0)/R0の値が4.0以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の酸化亜鉛系導電性積層体にある。
【0015】
本発明によれば、下記(4)の酸化亜鉛系導電性積層体の製造方法が提供される。
(4)基材の少なくとも片面に、アンダーコート層と、透明導電膜とが形成された酸化亜鉛系導電性積層体の製造方法であって、基材上に、アンダーコート層を形成するアンダーコート層形成工程と、アンダーコート層上に、イオンプレーティング法により酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を複数層形成して前記透明導電膜を形成する透明導電層形成工程とを有することを特徴とする(1)に記載の亜鉛系導電性積層体の製造方法にある。イオンプレーティング法により酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電膜を形成することで、簡易に、キャリア密度が2.0×1020〜9.8×1020cm−3である透明導電膜を形成することができる。
【0016】
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載の酸化亜鉛系導電性積層体を有することを特徴とする電子デバイスにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酸化亜鉛系導電性積層体によれば、シート抵抗が700Ω/□以下、かつ、湿熱条件後においてもシート抵抗の変動が少なく、屈曲性も良好であるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】積層体の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の酸化亜鉛系導電性積層体について図1を用いて説明する。本発明の酸化亜鉛系導電性積層体1は、基材11の少なくとも片面に、アンダーコート層12と、透明導電膜13とが形成されてなる。
【0020】
以下、酸化亜鉛系導電性積層体1について詳細に説明する。
【0021】
(基材)
基材11は、酸化亜鉛系導電性積層体1の目的に合致するものであれば特に制限されず、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体、ポリウレタン系ポリマー、熱硬化型もしくは放射線硬化型樹脂を用いて熱や放射線で硬化したフィルム等が挙げられる。またこれらに酸化防止剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を透明性、導電性を損なわない範囲で含んでも良い。
【0022】
これらの中でも、透明性に優れ、かつ、汎用性があることから、ポリエステル、ポリアミドまたはシクロオレフィン系ポリマーが好ましく、ポリエステルまたはシクロオレフィン系ポリマーがより好ましい。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。ポリアミドとしては、全芳香族ポリアミド、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン共重合体等が挙げられる。
【0023】
シクロオレフィン系ポリマーとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、およびこれらの水素化物が挙げられる。その具体例としては、アペル(三井化学社製のエチレン−シクロオレフィン共重合体)、アートン(JSR社製のノルボルネン系重合体)、ゼオノア(日本ゼオン社製のノルボルネン系重合体)等が挙げられる。
【0024】
基材11の厚みは0.01〜0.5mmであり、好ましくは0.05〜0.25mmである。これらの範囲であれば、透明性および屈曲性の点で好ましいだけでなく、かつ、取扱いが容易である。
【0025】
本発明において、基材11は、透明性の指標として全光線透過率が70%以上、ヘイズ値が10%以下であることが好ましい。これらの透明性を達成するために、上述した基材11に低屈折率材料や高屈折率材料の層を各々積層することも可能である。
【0026】
(アンダーコート層)
アンダーコート層12は、本実施形態においては、透明導電膜13の劣化を防止してシート抵抗値の安定性を高めるために設けている。即ち、アンダーコート層12を設けることで、基材11中に含有される成分、例えば、オリゴマー成分や低分子成分が透明導電膜13中に拡散して透明導電膜13が劣化されてしまうことを抑制したり、基材11と透明導電膜13との密着性を向上させることができる。このようにアンダーコート層12により透明導電膜13の劣化を抑制することで、透明導電膜13の耐湿性を高めることができ、結果、透明導電膜13のシート抵抗値が安定する。
【0027】
アンダーコート層12としては、上述したように透明導電膜13の劣化を抑制することができれば特に制限されるものではないが、エネルギー線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂からなるものが挙げられる。好ましくは、エネルギー線硬化型樹脂としてのアクリレート系モノマーに熱可塑性樹脂や各種添加剤を加えることで得られるアンダーコート層用コート剤を用いることで、目的とするアンダーコート層を設けることができる。具体的には分子量1000未満の多官能(メタ)アクリレート系モノマーを好ましく挙げることができる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの総称であり、他の「(メタ)」もこれに準拠する。また、重合体とは単独重合体及び共重合体の総称であるものとする。
【0028】
この分子量1000未満の多官能(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、ジ(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート、エチレンオキサイド変性ヘキサヒドロフタル酸ジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、アダマンタンジアクリレートなどの2官能型;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどの3官能型;ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能型;プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能型;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能型などが挙げられる。
【0029】
これらの中で、3官能型の(メタ)アクリレート、特にペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0030】
本発明において、これらの多官能(メタ)アクリレート系モノマーは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、骨格構造に環状構造を有するものを含有することが好ましい。環状構造は、炭素環式構造でも、複素環式構造でもよく、また、単環式構造でも多環式構造でもよい。このような多官能(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えばジ(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどのイソシアヌレート構造を有するもの、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート、エチレンオキサイド変性ヘキサヒドロフタル酸ジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、アダマンタンジアクリレートなどが好適である。
【0031】
また、エネルギー線硬化型樹脂として活性エネルギー線硬化型のアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。このアクリレート系オリゴマーは重量平均分子量50,000以下のものが好ましい。このようなアクリレート系オリゴマーの例としては、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエーテルアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、シリコーンアクリレート系などが挙げられる。
【0032】
ここで、ポリエステルアクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシアクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレートオリゴマーも用いることができる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、ポリオールアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0033】
上記アクリレート系オリゴマーの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法で測定した標準ポリスチレン換算の値で、50,000以下が好ましく、より好ましくは500〜50,000、さらに好ましくは3,000〜40,000の範囲で選定される。
【0034】
これらのアクリレート系オリゴマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの中で、ウレタンアクリレート系を用いることが好ましい。
【0035】
また、エネルギー線硬化型樹脂として(メタ)アクリロイル基を有する基が側鎖に導入されたアダクトアクリレート系ポリマーを用いることもできる。このようなアダクトアクリレート系ポリマーは、既存の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体において(メタ)アクリル酸エステルと、分子内に架橋性官能基を有する単量体との共重合体を用い、該共重合体の架橋性官能基の一部に、(メタ)アクリロイル基及び架橋性官能基と反応する基を有する化合物を反応させることにより得ることができる。該アダクトアクリレート系ポリマーの重量平均分子量は、GPC法で測定した標準ポリスチレン換算で、通常50万〜200万である。前記の多官能アクリレート系モノマー、アクリレート系オリゴマー及びアダクトアクリレート系ポリマーの中から、適宜1種を選び用いてもよく、2種以上を選び併用してもよい。
【0036】
さらにアンダーコート層12中に基材11とアンダーコート層12の密着性を高めることを目的に熱可塑性樹脂を添加しても良い。熱可塑性樹脂としても、特に制限されるものではなく、様々な樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂などが好適である。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
ここで、ポリエステル系樹脂としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシドやプロピレンオキシド付加物などのアルコール成分の中から選ばれる少なくとも1種と、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその酸無水物などのカルボン酸成分の中から選ばれる少なくとも1種とを縮重合させて得られた重合体などを挙げることができる。
【0038】
また、ポリエステルウレタン系樹脂としては、前記のアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られた末端にヒドロキシル基を有するポリエステルポリオールに、各種のポリイソシアナート化合物を反応させて得られた重合体などを挙げることができる。
【0039】
さらに、アクリル系樹脂としては、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中から選ばれる少なくとも1種の単量体の重合体、又は前記の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと他の共重合可能な単量体との共重合体などを挙げることができる。
【0040】
これらの中で、特にポリエステル系樹脂及び/又はポリエステルウレタン系樹脂が好ましい。
【0041】
また、アンダーコート層用コート剤には、所望により光重合開始剤を含有させることができる。この光重合開始剤は、エネルギー線硬化型樹脂の重合機構により適宜選択される。ラジカル重合型の光重合性モノマーやオリゴマーに対する光重合開始剤としては、例えばベンソイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2−(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミノ安息香酸エステル、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]、2,4,6−トリメチルベンゾイルージフェニルーフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、その配合量は、エネルギー線硬化型樹脂100質量部に対して、通常0.01〜20質量部の範囲で選ばれる。カチオン重合型の光重合性モノマーやオリゴマーに対する光重合開始剤としては、例えば芳香族スルホニウムイオン、芳香族オキソスルホニウムイオン、芳香族ヨードニウムイオンなどのオニウムと、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネートなどの陰イオンとからなる化合物が挙げられる。
【0042】
本発明において、アンダーコート層12は、エネルギー線硬化型樹脂と、熱可塑性樹脂と、溶剤とを含有するアンダーコート層用コート剤を基材上に塗布し、加熱により溶剤を除去した後、エネルギー線を照射して硬化させることが好ましい。
【0043】
ここで、アンダーコート層用コート剤におけるエネルギー線硬化型樹脂と、熱可塑性樹脂との含有比率は、好ましくは質量基準で100:0.1〜100:20の範囲で選定される。エネルギー線硬化型樹脂100質量部に対し、熱可塑性樹脂の含有量が0.1〜20質量部であると、層間密着性及び導電層の耐湿熱性が向上するが、この範囲を外れるとこれらの効果が顕著ではない傾向となる。
【0044】
その他、アンダーコート層用コート剤には添加剤を添加することも可能である。添加剤としては、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤などを、それぞれ所定の割合で加え、溶解又は分散させることにより、調製することができる。
【0045】
本実施形態においては、アンダーコート層用コート剤は、基材11の表面に塗布され、希釈剤を含む場合は乾燥した後にエネルギー線を照射されて、硬化されアンダーコート層12を形成する。
【0046】
アンダーコート層用コート剤の基材11への塗布方法は、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンコート法など公知の塗布方法が挙げられる。
【0047】
照射されるエネルギー線は、種々のエネルギー線発生装置から発生するエネルギー線が用いられる。例えば、紫外線は、通常は紫外線ランプから輻射される紫外線が用いられる。この紫外線ランプとしては、通常波長300〜400nmの領域にスペクトル分布を有する紫外線を発光する、高圧水銀ランプ、ヒュ−ジョンHランプ、キセノンランプ等の紫外線ランプが用いられ、照射量は通常50〜3000mJ/cmが好ましい。
【0048】
このようにして形成されたアンダーコート層12は、膜厚が0.01〜20μmであることが好ましく、特に0.05〜5μmであることが好ましい。
【0049】
(透明導電膜)
本実施形態において、透明導電膜13は、酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層が複数積層されてなる。透明導電膜13を複数積層したのは、以下のような理由である。つまり、膜厚が厚い方が比抵抗が低くなり、透明導電膜としては好ましいが、後述するように例えば透明導電膜13をイオンプレーティング装置により成膜する場合、基材11への熱負荷は、チャンバー内でプラズマ中に曝される時間が長いほど大きくなる。したがって、1回の成膜厚みを薄くしてプラズマに曝される時間を短くすることで、基材11の熱負荷による変形を抑制している。即ち、基材に負荷される温度を可能な限り低温にし、基材11に加わる熱収縮応力を低減させ、基材11の変形を抑制している。
【0050】
例えば、所望のシート抵抗値とすべく、透明導電膜13を150nmの膜厚とした場合、1回の成膜で透明導電膜13を150nmの厚みで形成すると、基材11への熱負荷が大きく基材11が変形してしまう。これに対し、透明導電層の膜厚を30nmとしてこれを5回繰り返すことで合計150nm膜厚の透明導電膜13を形成すれば、基材11への熱負荷が小さく、基材11の変形を抑制できる。
【0051】
このように本実施形態においては、この基材11への熱負荷を小さくするために、透明導電層を複数積層して透明導電膜13を形成している。
【0052】
このような透明導電膜13の膜厚は、50〜250nm、好ましくは70〜200nm、より好ましくは100〜150nmの範囲である。透明導電膜13の厚みが250nmよりも厚いと、透明導電膜13の収縮応力が大きくなり、透明導電膜13に割れが入ってしまう。透明導電膜13の膜厚が50nm未満であると、比抵抗が高く、所望のシート抵抗値が得られないことがある。なお、透明導電膜13の膜厚は所望するシート抵抗値に応じて適宜設定することができる。
【0053】
また、透明導電膜13は、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下の厚みである透明導電層が複数積層されてなることが望ましい。各透明導電層の厚みが50nm以下であれば、基材11への熱負荷をかけず、かつ、透明導電膜13の膜質も良く形成することができる。
【0054】
また、透明導電膜13を複数の透明導電層を複数積層して形成することで、後述するイオンプレーティング法による透明導電膜13の成膜条件を、層ごとに容易に変更できる。具体的にはチャンバー室内に導入するアルゴン流量と酸素流量とを変化させることで、透明導電膜13の結晶性やキャリア密度、移動度を調整することが可能となる。この結果、所望するシート抵抗値を実現することができる。
【0055】
また、本実施形態における透明導電膜13のキャリア密度は、2.0×1020〜9.8×1020cm−3である。透明導電膜13のキャリア密度がこの範囲にあることで、透明導電膜13のシート抵抗を低くすると同時に、湿熱条件下においてもシート抵抗を長期間安定とすることができる。また、キャリア密度がこの範囲であることで、透明導電膜13の光学特性、具体的には全光線透過率が高くなる。
【0056】
透明導電膜13のキャリア密度は、公知の方法により求めることができ、例えば、実施例で詳しく説明するが、VAN DER PAUW法によるHALL効果測定方法により求めることができる。
【0057】
透明導電膜13における酸化亜鉛系導電材料は、酸化亜鉛を主体とするものであり、好ましくは、酸化亜鉛を85質量%以上、好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上含有することが挙げられる。酸化亜鉛系導電材料のその他の組成は特に限定されず、例えば、アルミニウム、ガリウム、ホウ素、ケイ素、スズ、インジウム、ゲルマニウム、アンチモン、イリジウム、レニウム、セリウム、ジルコニウム、スカンジウムおよびイットリウムなど各種添加元素、添加剤を添加されたものでもよい。これらの各種添加元素、添加剤は、少なくとも1種以上含んでいてもよい。また、これらの各種添加元素、添加剤は0.05〜15質量%含まれていることが好ましく、より好ましくは、0.5〜10質量%含まれていることである。また、これらの各種添加元素、添加剤を2種類以上含有する場合には、添加量を15質量%以下、好ましくは10質量%以下とするように添加することが好ましい。特に、これらの各種添加元素、添加剤の中でも、三酸化二ガリウムが好ましく、三酸化二ガリウムを1〜10質量%の範囲で添加した酸化亜鉛であると、透明導電膜13の導電性が良好である。
【0058】
また、本実施形態にかかる透明導電膜13は、X線回折装置を用いて、半価幅、c軸方向やa軸方向の格子定数を求めることで、透明導電膜13の結晶構造を調べることができる。測定は公知の方法で行うことができ、実施例の方法で行うことができる。また、透明導電膜13の熱応力や収縮応力は、例えば、X線回折の結果を元に、文献(JOURNAL OF PHYSICS, CONDENSED MATTER VOLUME 7,NUMBER48,PP.9147,1995 ; CHEMICAL MATERIALS,Vol.8,PP433,1996)に開示される方法により、見積もることができる。本実施形態にかかる透明導電膜13は、具体的には、Out of Plane測定による2θが34.420°付近の(002)面のピークが確認される。また、2θが72.563°付近の(004)面のピークは全く確認されない。更にIn Plane測定における2θχが31.772°付近の(100)面、66.384°付近の(200)面、110.404°付近の(300)面のピークが確認されている。
【0059】
即ち、本実施形態にかかる透明導電膜13は基材11上に酸化亜鉛系透明導電材料からなる透明導電層がc軸配向した結晶構造である。この場合、c軸の格子定数は、例えば5.23〜5.25Åである。屈曲性と透明導電膜13の構造との関係は、一概に規定することは難しいものの、多層化することで、c軸の格子定数が大きくなる傾向にあり、それに伴って屈曲性も向上する傾向にある。
【0060】
次に、本発明にかかる透明導電膜13の成膜方法について説明する。透明導電膜13は、上述したアンダーコート層12上に、酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を公知の方法により成膜することができ、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、化学気相成長法などで成膜することができるが、イオンプレーティング法に成膜することが好ましい。イオンプレーティング法は例えばスパッタ法に比べて飛来粒子の持つ運動エネルギーが小さいために、粒子が衝突するときにアンダーコート層12や成膜される透明導電層に与えるダメージが小さく、厚さ方向において配向性の高い、結晶性の良好な透明導電膜13が得られるからである。
【0061】
なお、透明導電膜13をアンダーコート層12上に成膜する前に、前処理として基材11の融点を超えない温度領域で真空もしくは大気圧下で加熱処理や、プラズマ処理や紫外線照射処理を行う工程を設けても良い。
【0062】
イオンプレーティング法を実行するイオンプレーティング装置は、チャンバー内に設置された圧力勾配型プラズマガンを用いて、柱状もしくは棒状に加工された蒸着材料が直接プラズマビームに曝されるものである。プラズマビームに曝された蒸着材料は徐々に加熱されることにより、蒸着材料が昇華し、プラズマビームによってイオン化され、アンダーコート層12に付着し、透明導電層が成膜される。成膜工程は背圧を1.0×10−3Pa以下、好ましくは5.0×10−5Pa以下の圧力下において、アルゴンと酸素をチャンバー内に導入することでチャンバー内圧力を0.01〜5Pa程度の範囲で制御する。
イオンプレーティング装置においては、チャンバー内に導入するアルゴンと酸素流量の比を調整することができ、アンダーコート層12上に、酸素ガス流量とアルゴン流量の比率を1:40〜1:1の範囲内で酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を複数層形成し、酸素分圧は概ね1.0×10−1Pa〜1.0×10−3Paである。
【0063】
ここで、アルゴン流量は5〜1000sccmの範囲が好ましく、50〜300sccmの範囲であることが好ましい。また、酸素流量は5sccmより大きく100sccm未満であり、好ましくは10〜50sccm、より好ましくは15〜25sccmである。これらの範囲で透明導電層を複数層形成することで、上述した所望のキャリア密度の透明導電膜13を得ることができる。なお、酸素流量が5sccm以下である場合は、所望のキャリア密度の透明導電膜13を得ることができないだけでなく、可視光領域の透過率が小さく透明性が良くない。また酸素流量が100sccm以上である場合も、所望のキャリア密度の透明導電膜13を得ることができないだけではなく、透明導電膜13のシート抵抗値が高い値となり、目的とするシート抵抗値を達成することが難しい。
【0064】
また、透明導電膜の最外層に配置される透明導電層は、成膜室内に導入される酸素流量ガスとアルゴン流量ガスの比率を1:39〜1:1の範囲である。この範囲であれば、前述した透明導電膜13のキャリア密度を所望の範囲とすることができる。好ましくは、成膜室内に導入される酸素流量ガスとアルゴン流量ガスの比率を1:20〜1:8の範囲にすることである。この範囲とすることで、湿熱条件下でのシート抵抗値をより抑制する効果がある。
【0065】
また、チャンバー内部には5〜30℃以下の温度で制御された冷却水を流すことで、成膜工程中でのチャンバー内の温度上昇を防止することができる。好ましい成膜温度としては、基材11近傍の温度が10〜50℃である。また透明導電膜13の成膜は、基材11を搬送しながら行ってもよく、成膜工程中の基材11の搬送速度は、基材近傍付近の温度が前述した範囲になれば特に限定されない。例えば、実施例においては、搬送速度が1.0m/min以上の高速で搬送することで基材11近傍の温度を10〜50℃の低温にすることが可能である。このように高速搬送することで、アンダーコート層12が受ける熱ダメージを抑えることができる。なお、透明導電膜13を構成する透明導電層を複数形成する場合には、複数の成膜チャンバーが並設されたイオンプレーティング装置を用いて、この複数の成膜チャンバー間を移動させることで透明導電層を複数形成すればよい。
【0066】
(酸化亜鉛系導電性積層体)
このようにして形成された本実施形態の酸化亜鉛系導電性積層体1は、基材11の少なくとも片面に、アンダーコート層12と、透明導電膜13とが形成された酸化亜鉛系導電性積層体であって、透明導電膜13は、酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を複数層形成してなり、かつ、該透明導電膜13のキャリア密度が所定の範囲にある。
【0067】
また、本実施形態の酸化亜鉛系導電性積層体1は、低いシート抵抗値と優れた耐湿性および優れた屈曲性を有している。シート抵抗値及び耐湿性については、具体的には、本実施形態の酸化亜鉛系導電性積層体1は、酸化亜鉛系導電性積層体1の初期シート抵抗R0が700Ω/□以下であり、かつ、60℃、90%RH環境下および60℃環境下にそれぞれ7日間投入後のシート抵抗値をR1、R2とし、シート抵抗値の第1変化率T1、第2変化率T2を下記式(1)(2)とした場合、第1変化率T1が1.0以下、かつ第2変化率T2が4.0以下であり、透明導電膜13の厚みが100nm以上250nm以下であることが好ましい。なお、酸化亜鉛系導電性積層体1のシート抵抗値は、公知の方法(例えば、四探針法定電流印加方式)により測定することができる。
T1=(R1−R0)/R0・・・(1)
T2=(R2−R0)/R0・・・(2)
【0068】
屈曲性については、具体的には、本発明の酸化亜鉛系導電性積層体1は、直径15mmのアクリル丸棒を用いて透明導電膜13側を内側にして屈曲させ、屈曲前後でのシート抵抗値変化率T3、屈曲前のシート抵抗値R0、屈曲後のシート抵抗値R3を下記式(3)とした場合、シート抵抗値変化率T3は50以下である。得られる酸化亜鉛系導電性積層体1のシート抵抗値変化率T3が50以下であると、屈曲前後でのシート抵抗値の上昇を抑制することができ、実用範囲上問題ないレベルである。
T3=R3/R0・・・(3)
【0069】
ここで、本発明でいう屈曲性とは、前述の丸棒を用いて屈曲させた時に、シート抵抗値変化率が小さな値を得た時に、屈曲性が良いとするものである。屈曲性は、基材上に透明導電膜を成膜する工程においてロール・ツー・ロール方式で巻き取る場合に必要な特性である。得られる酸化亜鉛系導電性積層体1の屈曲性が良い、即ち前述のシート抵抗値変化率T3が50以下であると、酸化亜鉛系導電性積層体1を、電子デバイス、例えばフレキシブルな電子ペーパーやタッチパネルの表示面として、又は電界発光素子デバイスや有機薄膜太陽電池デバイスのような光電変換素子や熱電変換素子等の半導体素子の電極として使用するのに適している。
【0070】
また、本発明の酸化亜鉛系導電性積層体1は優れた透明性を有している。本発明の酸化亜鉛系導電性積層体1の透明性が高いことは、全光線透過率が高いことから確認することができ、全光線透過率が70%以上である。また、ヘイズ値が10%以下であることが好ましい。なお、全光線透過率およびヘイズ値は、公知の可視光透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0071】
また、これらの透明性を達成するために、酸化亜鉛系導電性積層体1は低屈折率層や高屈折率層を有していても良い。
【0072】
(電子デバイス)
本発明の酸化亜鉛系導電性積層体1は、シート抵抗が700Ω/□以下、かつ、湿熱条件後においてもシート抵抗の変動が少なく、屈曲性も良好であるという優れた効果を有しているので、電子デバイス用部品として好適である。
【0073】
本発明の電子デバイスは、本発明の酸化亜鉛系導電性積層体1を備える。具体例としては、電子ペーパー、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ等のディスプレイ部材の表示面として用いることができ、また、太陽電池、有機トランジスタ、熱電変換素子等の半導体素子の電極として用いることができる。この場合に、本発明の電子デバイスは、本発明の酸化亜鉛系導電性積層体1を備えているので、シート抵抗値が低く、かつ、湿熱条件後においてもシート抵抗の変動が少なく、屈曲性も良好である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0075】
(1)全光線透過率
JIS K 7361−1に準拠し、日本電色工業(株)製「NDH2000」を用いて基材および酸化亜鉛系導電性積層体1を測定した。
【0076】
(2)ヘイズ値
JIS K 7136に準拠し、日本電色工業(株)製「NDH2000」を用いて基材および酸化亜鉛系導電性積層体1を測定した。
【0077】
(3)シート抵抗値
酸化亜鉛系導電性積層体1のシート抵抗値を測定する装置として、三菱化学社製「LORESTA―GP MCP−T600」を使用した。またプローブは(株)三菱化学アナリック社製「PROBE TYPE LSP」を用いた。なお、測定は23℃50%RH環境下で行った。
【0078】
(4)移動度およびキャリア密度
酸化亜鉛系導電性積層体1をVAN DER PAUW法によるHALL効果測定方法により測定を行った。東朋テクノロジー社製HL5500PCホール効果測定装置を用いた。先端がΦ250μmに加工されたプローブを使用した。
【0079】
(5)耐湿熱試験
酸化亜鉛系導電性積層体1を60℃および60℃、90%RH(RH:相対湿度)環境下にそれぞれ7日間投入した。取り出し後、23℃50%RH環境下で1日調温・調湿を行い、シート抵抗値を測定した。投入前のシート抵抗値R0と、60℃環境下に7日間投入後のシート抵抗値R1、60℃、90%RH環境下に7日間投入後のシート抵抗値R2の値から、シート抵抗値の第1変化率T1及び第2変化率T2は以下のような計算式で求めた。
T1=(R1−R0)/R0
T2=(R2−R0)/R0
【0080】
(6)屈曲性試験
直径15mmのアクリル丸棒を用いて酸化亜鉛系導電性積層体1の透明導電膜13側を内側にして屈曲させて、30秒間屈曲させた状態で、屈曲前後でのシート抵抗値変化率T3を以下の式で求めた。屈曲前のシート抵抗値R0、屈曲後のシート抵抗値R3とした。
T3=R3/R0
【0081】
(7)X線回折
株式会社リガク社製X線回折装置を使用した。サンプルフォルダの固定には株式会社リガク製ポーラステーブルを使用した。以下に示す測定条件により測定を行い、半価幅の算出は株式会社リガク社製解析ソフト(商品名:ATXデータ処理ソフトウェア(32bit版)を用い、Psedo Voigt法から各ピークのフィッティングにより行った。またc軸の格子定数は以下に示す算出式から計算した。
【0082】
<Out−of−Plane測定>
X線源:Cu−Ka1 波長1.540Å
光学系:並行ビーム光学系
スリット条件:
S1:幅10mm 高さ1mm
S2:幅10mm 高さ0.5mm
RS:幅10mm 高さ1mm
GS:なし
スキャン速度:2°/min
測定角度:20°〜90°
【0083】
<In−Plane測定>
X線源:Cu―Ka1線 波長1.540Å
光学系:並行ビーム光学系
スリット条件:
S1:幅10mm 高さ0.2mm
ソーラスリット:0.48°
S2:幅10mm 高さ0.1mm
RS:なし
GS:なし
スキャン速度:1°/min
測定角度:20°〜120°
【0084】
<c軸の格子定数算出式>
(002)のピークから、ブラッグの式(4)に従い面間隔dを求めて、六方晶系の(hkl)面の格子定数a、cと面間隔dの関係式(5)から格子定数を求めた。半価幅の1/20の誤差として格子定数を算出した。
(hkl)面の面間隔d、格子定数a、cの関係は以下のようになる。


(002)面を上記式(5)にあてはめると、c=2dとなり、面間隔dの値を用いて格子定数cを求めた。
【0085】
(8)酸化亜鉛系導電性積層体の評価
(8)−1 外観観察
酸化亜鉛系導電性積層体1の透明導電膜13側を観察し、変形・反り・割れが見られないものを○、変形・反り・割れが見られたものを×とした。
(8)−2 光学特性
全光線透過率の値は70%以上の値を示し、かつ、ヘイズ値は10%以内であるものを○とし、それ以外を×とした。
【0086】
(実施例1)
基材11として、東洋紡績社製(厚み188μm)のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであるコスモシャインA4300を用いて、以下に示す材料によりアンダーコート層用コート剤を調製し、基材11としてのPETフィルムの易接着面側にバーコーター#12によって乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、80℃で1分間乾燥させた後、紫外線を照射し(照射条件:高圧水銀ランプ 照度310mW/cm,光量300mJ/cm)、アンダーコート層12を設けた。
【0087】
(アンダーコート層用コート剤)
新中村化学工業社製 A−TMM−3(ペンタエリスリトールトリアクリレート) 100質量部
新中村化学工業社製 U−4HA(ウレタンアクリレート) 20質量部
三洋化成工業社製 サンプレンIB422(アクリル変性ポリエステル系無黄変ポリウレタン樹脂) 2質量部
光重合開始剤としてチバ・ジャパン社製 IRGACURE184 4質量部
東レ・ダウコーニング社製 SH−28PA 0.03質量部
トルエン 100質量部
エチルセルソルブ 140質量部
【0088】
次いで、アンダーコート層12が形成された基材11(サンプルサイズ:150mm×150mm)を真空乾燥機にて90℃で1時間乾燥して水分や低分子成分等の微量不純物を除去した。その後以下に示す成膜条件でイオンプレーティング法により透明導電膜13を成膜し、酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0089】
(成膜条件)
蒸発原材料:三酸化二ガリウムを4重量%添加した酸化亜鉛焼結体
放電電圧:68V
放電電流:143A
成膜室に導入する酸素流量:アルゴン流量の比率 1:20(導入酸素流量:10sccm)
成膜回数:4回
酸化亜鉛系透明導電膜の膜厚:130nm
【0090】
(実施例2)
実施例1の成膜条件の成膜室に導入する酸素流量:アルゴン流量の比率 1:13(導入酸素流量を15sccm)とした以外は実施例1に従って酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0091】
(実施例3)
実施例1の成膜条件の成膜室に導入する酸素流量:アルゴン流量の比率 1:10(導入酸素流量を20sccm)とした以外は実施例1に従って酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0092】
(実施例4)
実施例1の成膜条件の成膜室に導入する酸素流量:アルゴン流量の比率 1:8(導入酸素流量を25sccm)とした以外は実施例1に従って酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0093】
(実施例5)
実施例1の成膜条件の成膜室に導入する酸素流量:アルゴン流量の比率 1:4(導入酸素流量を50sccm)とした以外は実施例1に従って酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0094】
(実施例6)
基材11として、帝人デュポンフィルム社製(厚み200μm)のポリエチレンナフタレート(PEN、商品名:テオネックスQ65FA)の易接着面に実施例1と同様のアンダーコート層用コート剤を塗布し、実施例1に準じてアンダーコート層12を作製した。その後、実施例3に準じて透明導電膜13を成膜し、酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0095】
(実施例7)
基材11として、帝人デュポンフィルム社製(厚み200μm)のポリエチレンナフタレート(PEN、商品名:テオネックスQ65FA)の易接着面に実施例1と同様のアンダーコート層用コート剤を塗布し、実施例1に準じてアンダーコート層12を作製した。その後、実施例1の成膜室に導入する酸素流量は同様にして、酸素流量:アルゴン流量の比率を1:10の条件で1回成膜を行い、次いで、この層上に実施例1の成膜室に導入する酸素流量:アルゴン流量の比率を1:13の条件で2回成膜を行い、更にこの層上に実施例1の成膜室に導入する酸素流量:アルゴン流量の比率を1:10の条件で1回成膜を行った。すなわち4回成膜することで透明導電膜13を作製し、酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0096】
(実施例8)
基材11として、帝人デュポンフィルム社製(厚み200μm)のポリエチレンナフタレート(PEN、商品名:テオネックスQ65FA)の易接着面に実施例1と同様のアンダーコート層用コート剤を塗布し、実施例1に準じてアンダーコート層を作製した。その後、成膜回数を2回に変えた以外は実施例3の成膜条件と同様にして透明導電膜13を作製し酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0097】
(比較例1)
成膜回数を1回として厚さ130nmの1層からなる透明導電膜13を形成した点以外は実施例6に従って酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0098】
(比較例2)
成膜室に導入する酸素流量:アルゴン流量の比率を1:40(導入酸素流量を5sccm)とした以外は実施例1に従って酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0099】
(比較例3)
成膜室に導入する酸素流量:アルゴン流量の比率を1:1(導入酸素流量を100sccm)とした以外は実施例1に従って透明導電積層体1を得た。
【0100】
(比較例4)
実施例1の基材11にアンダーコート層12を設けない以外は実施例1に従って酸化亜鉛系導電性積層体1を得た。
【0101】
これらの各実施例及び各比較例の結果を表1、表2に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
全ての実施例において、全光線透過率の値は70%以上の値を示し、かつ、ヘイズ値は10%以内であり、十分な透明性があった。さらに、全ての実施例において透明導電膜13のキャリア密度が2.0×1020〜9.8×1020cm−3であった。また、全ての実施例において、透明導電膜13成膜後の初期のシート抵抗R0が700Ω/□以下となり、かつ、湿熱条件後においてもシート抵抗値変化T1が1.0以下であり、T2が4以下となることがわかった。なお、シート抵抗値の変化率T2が本実施例における評価方法で4よりも大きいと、実使用に耐えることが難しい。また、1層からなる透明導電膜を形成した比較例1と実施例6とを比較することにより、透明導電膜13の成膜回数を複数回に分割した実施例6は、基材11にかかる熱負荷を低減して基材11の劣化を十分に抑制し、透明導電膜13の変形・反り・割れが見られなかった。また、実施例6は、比較例1に比べてシート抵抗値の変化率及び屈曲性に対して効果が大きいことが分かった。
【0105】
さらに、成膜条件が同じであり、成膜回数が異なる実施例6、実施例8、比較例1のX線回折の結果を比較すると、実施例6、実施例8のように、透明導電膜13の成膜回数を複数回にし、透明導電膜13が酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を複数層形成することにより、c軸の格子定数は比較例1に比べ大きくなる傾向があり、T3が小さくなり、屈曲性が良好になる傾向が確認された。また、a軸の格子定数は透明導電膜13の成膜回数に依存せずほぼ同じ値を示すことも判明した。すなわち、結晶構造のひずみや格子欠陥等の影響も考慮しないとならないが、透明導電膜13のc軸の格子定数が屈曲性に影響することが示唆される。
【0106】
また、アンダーコート層を設けなかった比較例4と実施例1〜6とを比較することにより、アンダーコート層12を設けることで、耐湿熱試験後のシート抵抗値が安定することが分かった。
【0107】
さらにまた、比較例2、3と実施例1〜6とを比較することにより、キャリア密度が所定の範囲(2.0×1020〜9.8×1020cm−3)である実施例1〜6は、シート抵抗は低く、さらにシート抵抗値の変化率が小さく、耐湿性も良好であることがわかった。一方、比較例2は、シート抵抗値の変化率が大きく耐湿性が悪く、比較例3は、初期のシート抵抗も高く、さらにシート抵抗値の変化率も大きく耐湿性も悪かった。
【0108】
これらの各実施例及び各比較例から、酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を複数層形成されてなり、かつ、キャリア密度が所定の範囲にある透明導電膜13を形成すると共に、アンダーコート層12を設けることで、所望の酸化亜鉛系導電性積層体1が形成できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の酸化亜鉛系導電性積層体は、フレキシブルなディスプレイ部材の表示面として、また、太陽電池、有機トランジスタ、熱電変換素子等半導体素子の電極として好適に用いることができる。
【0110】
本発明の酸化亜鉛系導電性積層体の製造方法によれば、耐湿性が高く、屈曲性に優れた酸化亜鉛系導電性積層体を製造することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 酸化亜鉛系導電性積層体、 11 基材、 12 アンダーコート層、 13 透明導電膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に、アンダーコート層と、透明導電膜とが形成された酸化亜鉛系導電性積層体であって、
前記透明導電膜は、酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を複数層形成してなり、かつ該透明導電膜のキャリア密度が2.0×1020〜9.8×1020cm−3であり、
該酸化亜鉛系導電性積層体は、直径15mm丸棒に対して透明導電膜を内側にして屈曲させ、屈曲前後でのシート抵抗値変化率が50以下であることを特徴とする酸化亜鉛系導電性積層体。
【請求項2】
前記透明導電膜の厚みが、50〜250nmであることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系導電性積層体。
【請求項3】
前記酸化亜鉛系導電性積層体の初期シート抵抗R0が700Ω/□以下であり、
前記酸化亜鉛系導電性積層体は、60℃、90%RH環境下および60℃環境下にそれぞれ7日間投入後のシート抵抗値をR1、R2とした場合に、そのシート抵抗値の第1変化率T1=(R1−R0)/R0の値が1.0以下であり、かつシート抵抗値の第2変化率T2=(R2−R0)/R0の値が4.0以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化亜鉛系導電性積層体。
【請求項4】
基材の少なくとも片面に、アンダーコート層と、透明導電膜とが形成された酸化亜鉛系導電性積層体の製造方法であって、
基材上に、アンダーコート層を形成するアンダーコート層形成工程と、
アンダーコート層上に、イオンプレーティング法により酸化亜鉛系導電材料からなる透明導電層を複数層形成して前記透明導電膜を形成する透明導電層形成工程とを有することを特徴とする酸化亜鉛系導電性積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化亜鉛系導電性積層体を有することを特徴とする電子デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2011−243334(P2011−243334A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112580(P2010−112580)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人応用物理学会、2010年春季 第57回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集、平成22年3月3日
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】