説明

酸化物超伝導体用テープ基材の研磨方法並びに酸化物超伝導体及び酸化物超伝導体用基材

【課題】超伝導薄膜の臨界電流を向上させるべく、テープ状金属基材の表面の結晶配向性を高めるための表面研磨方法を提供する。
【解決手段】テープ状基材110と、テープ状基材110の上に形成された中間層と、中間層の上に形成された酸化物超伝導薄膜層とから成る酸化物超伝導体において、テープ状基材の被研磨面を研磨する方法は、テープ状基材110を連続走行させながら、被研磨面を研磨する工程であって、研磨工程は、初期研磨103及び仕上げ研磨104を含むところの工程から成り、最終的に、被研磨面の表面平均粗さRaが2ナノメートル以下となり、中間層の面内配向性Δφが5°以下となることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ状の基材表面に酸化物超伝導薄膜を形成するために、被研磨面を研磨するための方法及び酸化物超伝導体用基材に関し、特に、金属から成るテープ状基材の被研磨面をナノメートルオーダーに研磨仕上げし、これに中間層を形成した酸化物超伝導体用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超伝導体は、液体窒素温度を超える臨界温度を示す優れた超伝導体である。
【0003】
その超伝導テープ状線材の典型例は、Ni系合金からなる、ハステロイ合金テープの表面に、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法などにより結晶配向制御したイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)の多結晶配向膜を形成し、この多結晶配向膜上にYBCO(例えば、YBa2Cu3O7-y)系酸化物超伝導膜を形成して得たテープ状線材が挙げられる。(例えば、特開平9−120719号)
【特許文献1】特開平9−120719号
【0004】
現在、この種の酸化物超伝導体を実用的に使用するためには、種々の解決すべき問題が存在する。
【0005】
その一つが、酸化物超伝導体の臨界電流密度が低いという点である。これは、酸化物超伝導体の結晶自体に電気的な異方性が存在することが大きな原因である。特に酸化物超伝導体はその結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流し難いことが知られている。したがって、酸化物超伝導体を基材上に形成してこれを超伝導体として使用するためには、基材上に結晶配向性の良好な状態の酸化物超伝導体を形成し、電気を流そうとする方向に酸化物超伝導体の結晶のa軸あるいはb軸を配向させ、その他の方向に酸化物超伝導体のc軸を配向させることが必要となる。
【0006】
この方法として、ここに参考文献として組み込む特開平6−145677号及び特開2003−36742号には、長尺のテープ状金属基材の表面に結晶配向制御した中間層を設け、その上に酸化物超伝導体を成膜する方法が開示されている。
【特許文献2】特開平6−145977号
【特許文献3】特開2003−36742号
【0007】
中間層膜の配向性を良くすれば、その上に形成される超伝導膜の配向性が向上する。特に、高い2軸配向性を得ることが高い臨界電流(Ic)及び臨界電流密度(Jc)をもつ超伝導膜を得るために必須である。
【0008】
ここで、形成すべき中間層の結晶性は、下地となるテープ状の基材表面の結晶性に依存するため、配向性のよい中間層を得るにはテープ状基材の結晶方位及び面内配向性が重要となる。
【0009】
そこで、中間層膜を配向性良く結晶化させるためには、テープ基材表面を数ナノレベルの平滑性と均一性を持つように仕上げる必要がある。
【0010】
他の方法として、ここに参考文献として組み込む米国特許第6,908,362号に、ニッケルまたはニッケル合金のテープ表面を精密に研磨した後、酸化物超伝導膜を形成する方法が開示されている。
【特許文献4】米国特許第6,908,362号明細書
【0011】
一方、超電導の実用化を妨げているもう一つの問題に、磁束量子の振る舞いがある。超伝導体に電流が流れて発生するローレンツ力は磁束量子を動かそうとするが、磁束量子が動いてしまうと熱が発生し、超電導状態が壊れてしまう。従って、磁束量子が動かないようにピン止め(ピンニング)できれば、超伝導体に流すことができる臨界電流(Ic)を大きくすることが可能となる。
【特許文献5】特開平6−145977号
【特許文献6】特開2003−36742号
【0012】
以上の従来技術文献は、いずれも基材表面を平坦かつ平滑に研磨しておくことが重要であることを教示している。
【0013】
しかしながら、機械的研磨により、テープ状基材表面を、数ナノレベルのオーダーに研磨することは技術的に困難であり、これまでに例が無かった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のように、高い臨界電流を得るためには、テープ状金属基材の表面が十分平坦で、結晶配向をしやすい面を形成する必要がある。したがって、薄膜を形成すべきテープ状金属基材の表面は、ナノメートルのオーダーで研磨仕上げし、かつ結晶配向性が良くなるように形成する必要がある。
【0015】
本願発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記困難を克服することに成功した。本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、超伝導膜の臨界電流を向上させるべく、テープ状金属基材の表面を数ナノメートルのオーダーで研磨仕上げし、その上に形成される中間層の結晶配向性を高めるための、機械的な表面研磨方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のひとつの態様において、テープ状基材と、テープ状基材の上に形成された中間層と、中間層の上に形成された酸化物超伝導薄膜層とから成る酸化物超伝導体において、テープ状基材の被研磨面を研磨する方法は、
テープ状基材を連続走行させながら、被研磨面を研磨する工程であって、上記研磨工程は、初期研磨及び仕上げ研磨を含むところの工程から成り、最終的に、被研磨面の表面平均粗さRaが2ナノメートル以下となり、中間層の面内配向性Δφが5°以下となることを特徴とする。
【0017】
ひとつの実施例において、初期研磨は、被研磨面をランダム研磨する少なくとも1段の第1研磨工程から成り、仕上げ研磨は、被研磨面をランダム研磨する少なくとも1段の第2研磨工程から成る。
【0018】
他の実施例において、仕上げ研磨は、被研磨面を走行方向に沿って研磨する少なくとも1段の第2研磨工程から成る。
【0019】
この場合、第2研磨工程により、被研磨面に走行方向に沿った研磨痕が形成される。
【0020】
具体的には、テープ状基材は、ニッケル、ニッケル合金及びステンレスから成るグループから選択される材料を圧延加工して製造される。
【0021】
好適には、研磨工程は、合成樹脂から成る発泡体及び繊維を使用したパッドまたはテープ体を使って、スラリーを供給しながら研磨する工程から成る。
【0022】
具体的には、スラリーは、研磨砥粒、水及び水に添加剤を加えたものから成り、研磨砥粒は、単結晶または多結晶ダイヤモンド、ヒュームドシリカ、コロイドシリカ、アルミナ、cBN及びSiCから成るグループから選択される少なくともひとつから成る。
【0023】
好適には、研磨砥粒は、第1研磨工程においてその平均粒径が0.1μm〜3μmであるものが選択され、第2研磨工程においてその平均粒径が0.02μm〜0.5μmであるものが選択される。
【0024】
具体的には、第2研磨工程で使用される研磨砥粒はダイヤモンド砥粒であり、基材の長手方向に研磨される。
【0025】
本発明のひとつの態様において、中間層の厚さは、1μm以下である。
【0026】
本発明の他の態様において、上記ひとつの態様に記載の方法により研磨されたテープ状基材と、テープ状基材の被研磨面上に形成された中間層と、中間層の上に形成された酸化物超伝導薄膜層と、から成り、テープ状基材の平均表面粗さRaが2ナノメートル以下であり、中間層の面内配向性Δφが5°以下となることを特徴とする酸化物超伝導体が与えられる。
【0027】
本発明のさらに他の態様において、上記ひとつの態様に記載の方法により研磨されたテープ状基材と、テープ状基材の被研磨面上に形成された中間層と、から成り、テープ状基材の平均表面粗さRaが2ナノメートル以下であり、中間層の面内配向性Δφが5°以下となることを特徴とする酸化物超伝導体用ベース基材が与えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本願発明を詳細に説明する。ここで説明される実施例は本発明を制限するものではない。
【0029】
本発明に係る、テープ状基材と、該テープ状基材の上に形成された中間層と、該中間層の上に形成された酸化物超伝導薄膜層とから成る酸化物超伝導体において、該テープ状基材の被研磨面を研磨する方法は、テープ状基材を連続走行させながら、初期研磨及び仕上げ研磨を行い、最終的に、被研磨面の表面平均粗さRaが2ナノメートル以下となるように研磨する工程から成り、それにより中間層の面内配向性Δφが5°以下となることを特徴とする。初期研磨は、テープ状基材の被研磨面をランダム研磨する少なくとも1段の第1研磨工程から成り、仕上げ研磨はテープ状基材の被研磨面をランダム研磨する少なくとも1段の第2研磨工程から成る。
【0030】
ここで、テープ状金属基材として、耐高温、耐食性に優れた、純Ni、Ni−Cr、Ni−WなどのNi基合金、純Cu、Cu−NiなどのCu基合金基板またはFe−Si、ステンレスなどのFe基合金が使用可能である。具体的には、酸化物超伝導膜を形成するために、耐食性及び耐熱性の優れた、ハステロイ(Haynes International,Inc.の商標)、インコネル(The International Nikel Company,Inc.の商標)、Ni−5%W等のNi合金が使用可能である。これらの基材は、圧延技術により、厚さ0.05mm〜0.5mm、幅2mm〜100mm、長さ数百メートルに加工される。金属圧延材料は、多結晶からなり、圧延方向に配向した結晶構造を有する。
【0031】
このテープ状基材は、圧延方向に線状のスクラッチまたは結晶欠陥が形成されている。本発明では、先ず、圧延によって形成された表面のスクラッチ又は結晶欠陥を、ランダムな回転研磨方式で除去し、その後、さらにランダム研磨して被研磨面を平滑に仕上げる。被研磨面の上に中間層膜及び超伝導膜を順に堆積させることにより、臨界電流の高い酸化物超伝導体を形成することができる。
【0032】
第1研磨工程の主たる目的は、圧延処理によって生じたテープ状金属基材表面の傷、欠陥等を除去することである。第1研磨工程による研磨処理を経たテープ状基材の平均表面粗さ(Ra)は10nm以下で、5nm以下であるが好ましい。
【0033】
第2研磨工程は、最終仕上げの工程であり、その目的は、面内配向性の良い中間層膜をその上に形成するために、結晶配向性の良いテープ状基材表面を形成することである。第2研磨工程による研磨処理を経たテープ状基材の平均表面粗さ(Ra)は5nm以下、好ましくは2nm以下、さらに好ましくは1nm以下に仕上げる。
【0034】
図1は、本発明に係る酸化物超伝導体用テープ状基材を研磨する方法に使用される研磨システムの一例を略示したものである。研磨システム100は、送り出し部101a、バックテンション部102、第1研磨処理部103、第2研磨処理部104、洗浄処理部105、検査部160、ワーク送り駆動部106、及び巻き取り部101bから成る。
【0035】
送り出し部101aの巻き出しリールに巻かれたテープ状金属基材110は、バックテンション部102を通過し、第1研磨処理部103に入る。まず、テープ状基材110に対して、第1研磨処理部103で、以下に詳細に説明する第1研磨工程が実行される。続いて、テープ状基材110は第2研磨処理部104に進み、そこで以下に詳細に説明する第2研磨工程が実行される。その後、テープ状基材110は洗浄処理部105に進み、そこで最終清浄工程が実行される。こうして仕上げられたテープ状基材110は、以下で詳細に説明する検査部160において、表面粗さRa及び研磨痕が観測される。その後、テープ状基材110はワーク送り駆動部106を通過し、最終的に巻き取り部101bの巻き取りリールに巻き取られる。
【0036】
研磨工程を実行後に、テープ状基材110を水洗浄(120a、120b、120c)するのが好ましい。そうすることにより、残留砥粒、研磨屑及びスラリー残渣が除去される。
【0037】
以下で詳細に説明するように、テープ状基材の走行は、バックテンション部102とワーク送り駆動部106とにより、所定のテンションを保持した状態で制御される。また、テープ状基材の位置ずれを防止するために、以下で詳細に説明する複数の幅規制ガイド(140a、140b、140c)が適当な間隔で配置される。さらに、緩み検知センサー(150a、150b)を巻き出しリールの下流側及び巻き取りリールの上流側に配置することにより、テープ状基材110の緩みを検知し、巻き取りリールの回転速度を制御することができる。
【0038】
一定のテンションが与えられたテープ状金属基材110は第1研磨処理部103において、第1研磨工程にかけられる。図1の研磨システムでは、テープ状金属基材110の下側面111を研磨するように描かれているが、本願はこれに限定されるものではなく、テープ状基材の上側面を研磨するようにシステムを構成することもできる。
【0039】
第1研磨処理部103は、研磨ヘッド401及び押圧機構440から成る少なくともひとつの研磨ステーション(103a、103b)、並びに研磨ステーションの下流側に設けられた少なくともひとつの洗浄装置(120a、120b)から成る。図2(A)、(B)、(C)は、それぞれ、研磨ヘッド401の一例の正面図、平面図及び側面図を示したものである。研磨ヘッド401は、研磨テープ410を研磨テーブル413上に送り出すための送り出し機構部と、研磨テーブル413を研磨面に垂直な軸線xの回りに回転させるための回転機構部とから成る。
【0040】
送り出し機構部は、研磨テープ410が巻かれた送り出しリール411と、少なくともひとつの支持ローラと、研磨後の研磨テープを巻き取るための巻取りリール412と、送り出しリール411と巻取りリール412に動的に連結した駆動モータ(図示せず)から成る。これらはハウジング414内に収容されている。研磨テープ410として、発泡ポリウレタン、スエード、又はポリエステルやナイロンからなる、織布、不織布、植毛布などが使用可能である。付加的に、ハウジング414は研磨中にスラリーが外部に飛散するのを防止するためのカバー420に覆われている。モータを駆動することにより、研磨テープ410が送り出しリール411から送り出され、支持リールを介して、研磨テーブル413上を通過し、最後に巻取りリール412に巻き取られる。研磨テーブル413上には常に未使用の研磨テープ410が送られ、テープ状金属基材110の被研磨面を研磨する。研磨の際には、上記したスラリーを供給するのが好ましい。好適に、スラリーは、研磨砥粒、水及び水に添加剤(例えば、潤滑剤及び砥粒分散剤)を加えたものから成る。研磨砥粒として、これに限定されないが、ダイヤモンド(単結晶、多結晶)、シリカ(コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ)、アルミナ、SiC及びcBN等を使用することができる。好適には、スラリーの研磨砥粒の平均粒径は、第1研磨工程において、0.1μm〜3μmであり、第2研磨工程において0.02μm〜0.5μmである。なお、各研磨工程において、研磨装置を複数台設け、それぞれ砥粒の粒径を変えることもできる。あるいは、同じ粒径の砥粒で連続研磨をすることもできる。これにより、被研磨面の要求及び研磨時間の短縮に対応することができる。
【0041】
一方、回転機構部は、上記ハウジング414の下方にあって研磨テーブル413の上記回転軸xと同軸に結合されたスピンドル416と、モータ417と、モータ417の回転動力をスピンドル416に伝達するためのベルト415とから成る。さらに、モータ417とハウジング414を支持するための支持台419が設けられる。スピンドル416は支持台419の内部にあって支持台419に関して回転可能に取り付けられている。付加的に、支持台419は2本のレール421に載置されており、研磨ステーションをレール上で移動させるためのハンドル420が支持台419に結合されている。モータ417を駆動することにより、ベルト415を介して回転動力がスピンドル416に伝達され、ハウジング414が軸線xの回りに回転する。さらに、研磨ステーションを複数段設けることも可能である。この場合、ハウジングの回転方向(すなわち、研磨テープの回転方向)を反対にすることにより、研磨効率を上げることができる。
【0042】
変形的に、図2(D)に示されるように、モータ417’が支持台419の内部に収容されてもよい。
【0043】
図2(E)は、研磨ヘッドの他の例を示したものである。図2(E)に示す例では、研磨テープの代わりに研磨パッドが使用される。研磨ヘッド430は、テープ状基材110を研磨する研磨パッド431が貼り付けられたプラテン432、プラテン432を支持するスピンドル433、ベルト436及びモータ434から成る。スピンドル433は支持台435に回転可能に取り付けられており、モータ434は該支持台435の内部に収容されている。モータ435を駆動することにより、ベルト436を介して回転動力がスピンドル433に伝達され、研磨パッド431が回転してテープ状基材110を研磨する。研磨の際には、上記したスラリーを研磨パッド431の略中心部に供給するのが好ましい。
【0044】
次に、押圧機構440について説明する。図3(A)及び(B)は、それぞれ本発明に係る研磨システムで使用される押圧機構440の正面図及び側面図を示す。押圧機構440は、エアーシリンダ441、加圧板443、テープ状基材の走行方向に沿って加圧板443の中心線上に設けられた押さえ板445から成る。押さえ板445の下面にはテープ状基材110の幅に対応する案内溝446が設けられ、研磨処理中におけるテープ状基材110の位置ずれの発生が防止される。押さえ板445は、テープ状金属基材110のサイズ(幅、厚み)に応じて、適宜交換可能である。付加的に、押圧機構440の側面には位置調整ハンドル442が結合されており、テープ状金属基材110の幅の中心と押圧機構440の中心が一致するように調整される。そうすることにより、エアーシリンダ441からの圧力が加圧板443及び押さえ板445を介して、テープ状基材110に伝達される。さらに、加圧板443の上部には調整ネジ444が設けられている。研磨処理前に、該調整ネジ444により、加圧板443と研磨テーブル413との平行度が調整される。加圧機構は、これに限定されるものではなく、他の加圧機構が使用されてもよい。
【0045】
図4(A)及び(B)は、それぞれ本発明に係るテープ基材の第2研磨工程で使用される研磨ヘッド610の好適実施例の正面図及び側面図である。研磨ヘッド610は、例えば、ステンレス製の円筒ドラムベースに樹脂製シート602を巻きつけた円筒ドラム601、円筒ドラム601を回転させるための駆動モータ603、駆動輪等の駆動機構(図示せず)から成る。樹脂製シート602として、発泡ポリウレタン、織布、不織布などが使用される。円筒ドラム601は、ハウジング606内に収容されている。付加的に、円筒ドラム601をテープ状基材110の走行方向に対して直角方向にオッシレーション動作させるためのモータ605を含むことができる。このオッシレーション動作により、テープ状金属基材110が円筒ドラム601の同一箇所で研磨されることが防止される。研磨の際には、上記したスラリーを樹脂製シート602の上に供給するのが好ましい。
【0046】
図5(A)及び(B)は、それぞれ本発明に係るテープ基材の第2研磨工程で使用される研磨ヘッド620の他の実施例の正面図及び側面図である。研磨ヘッド620は、研磨ベルト621をテープ状基材110に押し付けるためのコンタクトローラ622、研磨ベルト駆動手段623、支持ローラ625、研磨ベルト駆動手段623に結合する駆動モータ624から成る。コンタクトローラ622、支持ローラ625及び研磨ベルト駆動手段623は、ハウジング628内に収容されている。研磨ベルト621として、合成繊維製の織布若しくは不織布または発泡体から成るテープが使用される。駆動モータ624を作動させると、ベルト駆動手段623により研磨ベルト621がコンタクトローラ622及び支持ローラ625を介して走行し、テープ状基材110の被研磨面を研磨する。研磨の際には、上記したスラリーを研磨ベルト621上に供給するのが好ましい。付加的に、コンタクトローラ622をテープ状基材110の走行方向に対して直角方向にオッシレーション動作させるためのモータ626を含むことができる。このオッシレーション動作により、テープ状金属基材110が研磨ベルト621の同一箇所で研磨されることが防止される。
【0047】
上記研磨ヘッド610及び620の特徴は、円筒ドラム601あるいは研磨ベルト621の研磨面がテープ状基材110の走行方向またはその逆方向に回転する点にある。研磨ヘッド610または620は、図3で説明した加圧機構440とともに研磨ステーションを構成する。第2研磨工程において、複数段の研磨ステーションを直列に配置することが可能である。この場合には、各研磨ステーションの下流側に上記した洗浄装置を配置するのが好ましい。
【0048】
上記した第2研磨処理部104において、テープ状金属基材110は、第2研磨工程にかけられる。図1に示す研磨システムの例において、第2研磨工程は、2段階のランダム研磨方式で実行される。研磨に際して、研磨粒子、水及び水に添加剤(例えば、潤滑剤及び砥粒分散剤)を加えたものから成るスラリーを使用するのが好ましい。砥粒として、これに限定されないが、SiO2、Al2O3、ダイヤモンド、cBN、SiC、コロイダルシリカなどが使用できる。使用する砥粒の平均粒径は0.02〜0.1μm、好ましくは0.02〜0.07μmである。
【0049】
上記研磨システムは、研磨条件に応じた装置の組み換えによって、適当な研磨プログラムを組むことができる。例えば、各研磨工程を複数段設ける場合には、各段の研磨条件(例えば、研磨ヘッドの回転速度、スラリーの砥粒粒径など)を適宜調節することも可能である。
【0050】
上記したように、本発明に係る酸化物超伝導体用テープ状基材の研磨方法に従う第1研磨工程は、平均表面粗さRaが10nm以下、好ましくは5nm以下になるようにテープ状基材の被研磨面を研磨する工程から成る。
【0051】
また、上記したように、本発明に係る酸化物超伝導体用テープ状基材の研磨方法に従う第2研磨工程は、平均表面粗さRaが5nm以下、好ましくは2nm以下、さらに好ましくは1nm以下になるように、テープ状基材の被研磨面を研磨する工程から成る。
【0052】
好適には、第1研磨工程は、通常のランダム研磨であり、第2研磨工程の最終仕上げはテープ状基材の走行方向に沿った研磨痕が被研磨面に形成されるように研磨する。
【0053】
こうして得られたテープ状基材の表面に中間層を形成する。IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法、あるいはISD(Inclined Substrate Deposition)法により、MgO、CeO2、SrTiO2及びY2O3で安定化したジルコニア(YSZ)膜が、面内二軸配向性を有する中間層として蒸着される。中間層の上に酸化物超伝導体膜が蒸着される。かくして、テープ状基材及び中間層が酸化物超伝導体膜の基材と成る。本発明により、結晶配向性に優れた中間層を形成することが可能となり、結果として、臨界電流の高い超伝導薄膜を形成することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明に従い、さまざまな研磨条件でテープ状基材を研磨し、その上に蒸着した中間層の配向性を調べる実験を行ったので説明する。
【0055】
研磨装置は、図1に示した連続研磨システムを使用した。各研磨工程で研磨処理は、研磨プログラムに従い、単一または複数段研磨とした。複数段研磨の場合、スラリーの砥粒が粗いものから細かいもの、及び、ランダム研磨、走行方向(電流通電方向)研磨を適宜変更して行った。
【0056】
テープ状金属基材しては、ハステロイC-276(例えば、58%Ni−17%Mo−15%Cr−5%Fe−4%W)を使用した。これらの基材は、圧延技術により、厚さ0.1mm、幅10mm、長さ数百メートルに加工されたものである。図4は、研磨前のテープ状基材表面のコンピュータ画像写真(AFM)である。研磨前の基材の平均表面粗さRaは15〜30nmであった。最大表面粗さRmaxは200〜500nmで、急峻な突起部は圧延により生じた圧延痕である。
【0057】
配向性中間層として、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)装置によりMgO膜(面内二軸配向膜)を成膜した。ここで注意すべき点は、従来の中間層の厚さは1μm以上のものが使用されているということである。これは一般に中間層が厚い方がΔφの値が低くなる傾向があるためである。しかしながら本願では、あえて中間層の厚さを1μm以下(特定的に約0.5μm)にして実験を行ったものである。
【0058】
アシストビームは基材表面の法線方向から55°の角度で入射させた。成膜条件は、基板温度が500〜600℃、酸素雰囲気で、圧力が数百mTorr(x0.133Pa)であった。
【0059】
面内配向度(Δφ)及び垂直配向度(Δω)の測定は、X線極図形測定により求めた半値全幅(FWMH)を評価することにより行った。
【0060】
1.比較例1
研磨プログラム:第1研磨工程(図1の103)のみの1段ランダム研磨(103aのみ)を実行した。スラリーは、平均粒径D50が1μmの多結晶ダイヤモンドを使用した。添加剤は、グリコール化合物、グリセリン、脂肪酸を添加した30wt%の水溶液を使用、pH8に調整した。研磨ヘッドに発泡ポリウレタンテープを送りながら回転させ、押し圧パッドの間にテープ状基材を通して、研磨スラリーを供給しながら以下の条件で研磨した。
研磨ヘッドの回転数:60rpm
加圧力:300g/cm
スラリー流量:10ml/min
テープ基材送り速度:20m/hr
【0061】
2.比較例2
研磨プログラム:第1研磨工程(図1の103)のみで、比較例1と同一条件で同一方式の研磨機を2台直列(図1の103a+103b)に配置し、2段のランダム研磨を実行した。他の研磨条件は、比較例1と同じである。
【0062】
3.実施例1
研磨プログラム:
(1)第1研磨工程(図1の103)は、研磨ヘッドに発泡ポリウレタンテープを送りながら回転させ、押し圧パッドの間にテープ状基材を通して、研磨スラリーを供給しながら、以下の研磨条件で2段のランダム研磨(図1の103a+103b)を実行した。1段目のスラリーは平均粒径D50が1μm、2段目のスラリーは平均粒径D50が0.5μmの、それぞれ多結晶ダイヤモンドを使用した。添加剤は、グリコール化合物、グリセリン、脂肪酸を添加した30wt%の水溶液を使用、pH8に調整した。
研磨ヘッドの回転数:60rpm
加圧力:300g/cm
スラリー流量:10ml/min
テープ基材送り速度:20m/hr
(2)第2研磨工程(図1の104)は、研磨ヘッドにポリエステル繊維からなる不織布テープを送りながら回転させ、押し圧パッドの間にテープ状基材を通して、研磨スラリーを供給しながら、以下の研磨条件で、第1研磨工程と同一方式のランダム研磨装置を使用した。スラリーは、平均粒径D50が0.03μmのコロイダルシリカを使用した。添加剤は、花王株式会社製デモールEPに、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カリウム、グリセリンを添加した水溶液を使用、pH9に調整した。
研磨ヘッドの回転数:60rpm
加圧力:200g/cm
スラリー流量:10ml/min
テープ基材送り速度:20m/hr
【0063】
4.実施例2
研磨プログラム:
(1)第1研磨工程(図1の103)は、実施例1と同じ研磨条件で実行した
(2)第2研磨工程(図1の104)は、実施例1と同一条件で同一方式の研磨機を2台直列(図1の104a+104b)に配置し、2段のランダム研磨を行った。その他の研磨条件は、実施例1と同じである。
【0064】
5.実施例3
研磨プログラム:
(1)第1研磨工程(図1の103)は、実施例1と同じ研磨条件で実行した
(2)第2研磨工程(図1の104)は、同一方式の研磨機を2台直列に配置した2段走行方向研磨(図1の104a+104b)を実行した。スラリーは平均粒径D50が1μmの多結晶ダイヤモンドを使用した。その他の研磨条件は、実施例1と同じである。
【0065】
<評価>
テープ状基材を研磨した後の、被研磨面平均表面粗さ(Ra)、RMS(Root Mean Square)「平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根」、及び研磨面に中間層膜を形成した後の、中間層の面内配向性及び垂直配向性について評価した。研磨後のテープ状基材の表面の平均表面粗さ(Ra)及びRMSは、走査型プローブ顕微鏡(ナノスコープDimention3100シリーズ、デジタルインスツルメント社)を使用して計測した。
【0066】
図6から図11は、テープ状基材表面の任意の10μm×10μmの範囲を走査したものを三次元画像化したコンピュータ画像写真(AFM)を示す。図6は、研磨前のテープ基材表面を示す。図7及び8は、それぞれ比較例1及び比較例2の研磨後のテープ状基材の表面状態を示す。図9、10及び11は、ぞれぞれ実施例1、実施例2及び実施例3の研磨後のテープ状基材の表面状態を示す。
【0067】
表1は、比較試験結果を示したものである。
【0068】
【表1】

表1に示すように、テープ状基材の被研磨面の表面粗さRaが2nm以下(好ましくは1nm以下)でかつRMSが2.0nm以下(好ましくは1.5nm以下)になるように研磨すると、中間層膜(MgO)の面内配向性(Δφ)が5°以下、及び垂直配向性(Δω)が1.5°以下となり、極めて優れた配向性を示すことがわかった。
【0069】
また、ランダム研磨のみの実施例2と、ランダム研磨と走行方向研磨を組み合わせた実施例3とを比較すると、Raに関しては実施例3の方が実施例2よりも高いにも係らず、Δφに関しては実施例3の方が低く、4°以下という極めて高い平坦性を実現できることがわかった。このことから、Δφの値はRaよりも研磨方向に依存し、特に走行方向研磨により改善されることがわかった。
【0070】
さらに、本発明に係る研磨方法によれば、中間層の厚さが1μm以下(実施例では0.5μm)で、Δφが4°以下の面内配向性を実現できることもわかった。したがって、超電導薄膜全体をより薄く形成することが可能となり、多方面での応用が期待できる。
【0071】
本発明は、特定の実施例に関して説明されたが、これらの実施例は例示に過ぎず、本願発明を限定するものではない。例えば、ランダム研磨装置の段数、研磨テープまたはパッドの材質、研磨ヘッドの回転数、加圧力の大きさ、スラリーの種類、粒径及び流量、テープ基材の送り速度などは適宜変更可能である。これらの変更は、すべて本願発明の思想及び態様の範囲に包含されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、本発明に係るテープ状基材の研磨方法を実行する研磨システムの一例を略示したものである。
【図2】図2(A)、(B)、(C)は、本発明に係るテープ状基材の研磨方法を実行する研磨システムで使用されるランダム研磨における研磨ヘッドの正面図、平面図、側面図をそれぞれ示し、図2(D)は、研磨ヘッドの実施例を示し、図2(E)は研磨ヘッドを使用した変形例である。
【図3】図3(A)及び(B)は、本発明に係るテープ状基材の研磨方法を実行する研磨システムで使用される押し圧機構の正面図及び側面図を示す。
【図4】図4(A)及び(B)は、本発明に係るテープ状基材の研磨方法を実行する研磨システムの走行方向研磨で使用される研磨ヘッドの正面図及び側面図をそれぞれ示す。
【図5】図5(A)及び(B)は、本発明に係るテープ状基材の研磨方法を実行する研磨システムの走行方向研磨で使用される研磨ヘッドの他の例の正面図及び側面図をそれぞれ示す。
【図6】図6は、研磨前のテープ状基材表面のコンピュータ画像(AFM)の図である。
【図7】図7は、比較例1の研磨後の表面のコンピュータ画像(AFM)の図である。
【図8】図8は比較例2の研磨後の表面のコンピュータ画像(AFM)の図である。
【図9】図9は実施例1の研磨後の表面のコンピュータ画像(AFM)の図である。
【図10】図10は実施例2の研磨後の表面のコンピュータ画像(AFM)の図である。
【図11】図11は実施例3の研磨後の表面のコンピュータ画像(AFM)の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状基材と、前記テープ状基材の上に形成された中間層と、前記中間層の上に形成された酸化物超伝導薄膜層とから成る酸化物超伝導体において、前記テープ状基材の被研磨面を研磨する方法であって、
前記テープ状基材を連続走行させながら、被研磨面を研磨する工程であって、前記研磨工程は、初期研磨及び仕上げ研磨を含むところの工程から成り、最終的に、前記被研磨面の表面平均粗さRaが2ナノメートル以下となり、前記中間層の面内配向性Δφが5°以下となることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記初期研磨は、前記被研磨面をランダム研磨する少なくとも1段の第1研磨工程から成る、ところの方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記仕上げ研磨は、前記被研磨面をランダム研磨する少なくとも1段の第2研磨工程から成る、ところの方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、前記仕上げ研磨は、前記被研磨面を走行方向に沿って研磨する少なくとも1段の第2研磨工程から成る、ところの方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、第2研磨工程により、前記被研磨面上に走行方向に沿った研磨痕が形成される、ところの方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法であって、前記テープ状基材は、ニッケル、ニッケル合金及びステンレスから成るグループから選択される材料を圧延加工して製造される、ところの方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法であって、前記研磨工程は、合成樹脂から成る発泡体及び繊維を使用したパッドまたはテープ体を使って、スラリーを供給しながら研磨する工程から成る、ところの方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記スラリーは、研磨砥粒、水及び水に添加剤を加えたものから成り、前記研磨砥粒は、単結晶または多結晶ダイヤモンド、ヒュームドシリカ、コロイドシリカ、アルミナ、cBN及びSiCから成るグループから選択される少なくともひとつから成る、ところの方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記研磨砥粒は、前記第1研磨工程においてその平均粒径が0.1μm〜3μmであるものが選択され、前記第2研磨工程においてその平均粒径が0.02μm〜0.5μmであるものが選択される、ところの方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、前記第2研磨工程で使用される研磨砥粒はダイヤモンド砥粒であり、基材の長手方向に研磨される、ところの方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の方法であって、前記中間層は、厚さが1μm以下である、ところの方法。
【請求項12】
酸化物超伝導体であって、
請求項1に記載の方法により研磨されたテープ状基材と、
前記テープ状基材の被研磨面上に形成された中間層と、
前記中間層の上に形成された酸化物超伝導薄膜層と、
から成り、
前記テープ状基材の平均表面粗さRaが2ナノメートル以下であり、前記中間層の面内配向性Δφが5°以下となることを特徴とする酸化物超伝導体。
【請求項13】
請求12に記載の酸化物超伝導体であって、前記テープ状基材は、ニッケル、ニッケル合金及びステンレスから成るグループから選択される材料を圧延加工して製造される、ところの酸化物超伝導体。
【請求項14】
請求項12に記載の酸化物超伝導体であって、前記中間層は、厚さが1μm以下である、ところの酸化物超伝導体。
【請求項15】
酸化物超伝導体用ベース基材であって、
請求項1に記載の方法により研磨されたテープ状基材と、
前記テープ状基材の被研磨面上に形成された中間層と、
から成り、
前記テープ状基材の平均表面粗さRaが2ナノメートル以下であり、前記中間層の面内配向性Δφが5°以下となることを特徴とする酸化物超伝導体用ベース基材。
【請求項16】
請求項15に記載の酸化物超伝導体用ベース基材であって、前記テープ状基材は、ニッケル、ニッケル合金及びステンレスから成るグループから選択される材料を圧延加工して製造される、ところの酸化物超伝導体用ベース基材。
【請求項17】
請求項15に記載の酸化物超伝導体用ベース基材であって、前記中間層は、厚さが1μm以下である、ところの酸化物超伝導体用ベース基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−49451(P2008−49451A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229710(P2006−229710)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】