説明

酸化物超伝導体薄膜素子

本発明の目的は、叙上の従来の問題を解消し、優れた性能を示す酸化物超伝導体を低い基板温度で成膜した酸化物超伝導体薄膜素子を提供することである。本発明は、少なくとも基板と酸化物超伝導体薄膜から構成され、該酸化物超伝導体薄膜が、Yb1−xNdBaCu7−yであって、xが0.01〜0.30、yが0.00〜0.20である組成を有し、結晶粒のc軸が基板に垂直に配向された酸化物超伝導体薄膜素子に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、酸化物超伝導体を用いた薄膜素子に関する。より詳しくは、YbおよびNdを含む酸化物超伝導体を用いた薄膜素子に関する。
【背景技術】
酸化物超伝導体(RBaCu7−y;ここでRはY、Gd、Eu、Nd、Ho、Yb、Tb、Sm、Pr、Dy、Lu、ErおよびTmの群から選ばれた1種以上の元素)は、臨界温度が高く、従来用いられていた高価な液体ヘリウム冷媒に代わり安価な液体チッ素冷媒が利用できるため、これら材料を薄膜化して電力輸送用線材や、超高速演算素子などへの応用が期待されている。しかし、酸化物超伝導体が薄膜化されたときにも優れた特性(高い臨界温度、高い臨界電流密度)を示すためには、斜方晶をとるこれら酸化物超伝導体材料結晶粒のc軸が基板に対して垂直に配向(以下、c軸配向という)することが必要である。
たとえば、大電流素子にYb1−xNdBaCu7−y系材料の使用が検討されている(たとえば、特開平9−87094号公報参照。)。しかし、特開平9−87094号公報の場合、溶融加工法を用いて線材が作製されており、結晶粒が電流伝送方向に対してランダムに配向されている。このため、特開平9−87094号公報に記載の酸化物超伝導材料においては、充分な電流密度が得られない。
加えて従来これら酸化物超伝導材料を薄膜素子に応用するためには多層にわたる積層化プロセスが必要で、このためには、薄膜作製時の基板温度をできるだけ低く抑える必要がある。
しかし酸化物超伝導体において、▲1▼結晶粒をc軸配向させる、▲2▼薄膜作製時の基板温度をできるだけ低く抑えるという2つの課題を同時に達成することは従来できていない。
たとえば、YbBaCu7−y系酸化物超伝導体薄膜を形成するための工程で、700〜750℃以下の低い基板温度では、結晶粒がa軸配向となったり、あるいはa軸配向した結晶粒がかなりの量混在するため、充分にc軸配向させることはできない。一方、基板温度が高いほど容易にc軸配向するものの、750℃を超えると、Baの下地バッファ層への拡散が顕著になり、下地バッファ層の特性に劣化が生じるという問題がある。
さらに、大電流輸送用線材へ応用する場合、線材として流すことのできる全電流(すなわち、電流密度×膜厚)をできる限り大きくする必要がある。しかし従前のYbBaCu7−y薄膜では、膜厚の増加とともに臨界電流密度が急激に減少し、充分な全電流が得られないという問題もある。
【発明の開示】
本発明の目的は、叙上の従来の問題を解消し、優れた性能を示す酸化物超伝導体を低い基板温度で成膜した酸化物超伝導体薄膜素子を提供することである。
すなわち、本発明は、少なくとも基板と酸化物超伝導体薄膜から構成され、該酸化物超伝導体薄膜が、Yb1−xNdBaCu7−yであって、xが0.01〜0.30、yが0.00〜0.20である組成を有し、結晶粒のc軸が基板に垂直に配向された酸化物超伝導体薄膜素子に関する。
前記薄膜の膜厚は、0.15μm〜10.0μmであることが好ましい。
前記薄膜の膜厚は、0.15μm〜1.0μmであることがより好ましい。
前記薄膜の膜厚は、0.25μm〜1.0μmであることがさらに好ましい。
また、本発明はxが0.01〜0.30であり、yが0.00〜0.20であるYb1−xNdBaCu7−yの組成からなる焼結体をターゲットとして基板上に蒸着する工程において、前記基板の温度が650℃〜850℃である酸化物超伝導体薄膜素子の製法に関する。
前記基板の温度は、750℃〜850℃であることが好ましい。
さらに、本発明は、少なくとも基板と酸化物超伝導体薄膜から構成され、該酸化物超伝導体薄膜が、2種類の希土類元素を含み、それぞれの希土類元素を単体で含む酸化物超伝導体のあいだの融点の差が10℃以上であって、前記酸化物超伝導体薄膜の膜厚が0.25〜0.75μmの範囲において、5×10〜13×10A/cmの臨界電流密度、または、前記酸化物超伝導体薄膜の膜厚が0.25〜1μmの範囲において、2×10〜4×10A/cmの臨界電流密度を示し、結晶粒のc軸が基板に垂直に配向された酸化物超伝導体薄膜素子に関する。
従来よりYbの一部をNdに置換した組成の開示はあった(特開平9−87094号公報)が、薄膜化の実施はなかった。本発明によれば、Yb1−xNdBaCu7−y系において、x=0.01〜0.30、さらに好ましくはx=0.05〜0.25、またy=0.00〜0.20、さらに好ましくはy=0.00〜0.05の組成範囲では、低い薄膜形成温度でも、5×10〜13×10A/cmと高い臨界電流密度を示す酸化物超伝導体薄膜が得られている。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の、酸化物超伝導薄膜素子の構成を示す図である。
図2は本発明の実施例における、(Yb1−xNd)BaCu7−y系の、パルスレーザ蒸着用ターゲットにおける不純物相の混在比を示すグラフである。
図3は本発明の実施例における、(Yb1−xNd)BaCu7−y系の、パルスレーザ蒸着用ターゲットにおける超伝導転移温度(Tc)を示すグラフである。
図4は(Yb0.9Nd0.1)BaCu7−y薄膜における、温度77°Kでの臨界電流密度(Jc)の膜厚依存性を示すグラフである。
図5は(Yb0.9Nd0.1)BaCu7−y薄膜における、温度77°Kでの臨界電流密度(Jc)の膜厚依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の酸化物超伝導体薄膜素子を、添付した図面を参照しつつ、以下に詳細に説明する。
本発明は、少なくとも基板と酸化物超伝導体薄膜から構成され、該酸化物超伝導体薄膜が、Yb1−xNdBaCu7−yであって、xが0.01〜0.30、yが0.00〜0.20である組成を有し、結晶粒のc軸が基板に垂直に配向された酸化物超伝導体薄膜素子である。
xは、0.05〜0.25が好ましく、0.1〜0.2がより好ましい。また、yは、0.00〜0.05が好ましく、0.00〜0.03がより好ましい。xが0.01〜0.30、yが0.00〜0.20の範囲外である場合は、不純物相であるBaCuOやYbBaCuO(以下211相)の割合が増加、あるいは超伝導転移温度が低下する。
前記薄膜の膜厚は、0.15μm〜10.0μmである。膜厚は、0.15μm〜1.0μmが好ましく、0.25μm〜1.0μmがより好ましい。薄膜の膜厚が、0.15μmより小さいと基板やバッファ層の影響を受けやすいため、反応層が生成することにより十分な臨界電流密度が得られない傾向にある。
ここで、結晶粒のc軸が基板に垂直に配向されているとは、薄膜を構成している結晶粒のうち、大部分(90%以上)の結晶粒において、そのc軸が基板に垂直であることをいう。
また、本発明は、xが0.01〜0.30であり、yが0.00〜0.20であるYb1−xNdBaCu7−yの組成からなる焼結体をターゲットとして基板上に蒸着する工程において、前記基板の温度が650℃〜850℃である酸化物超伝導体薄膜素子の製法に関する。
前記基板の温度は、750℃〜850℃が好ましく、750℃〜800℃がより好ましい。前記基板の温度が650℃より低いと超伝導体薄膜の結晶性が低下し、かつ結晶粒のc軸が基板に垂直に配向しにくくなり、850℃より高いと超伝導体薄膜と基板、あるいはバッファ層との反応が進むため結晶粒の配向に乱れが生ずることとなる。
少なくとも基板と酸化物超伝導体薄膜から構成され、該酸化物超伝導体薄膜が、2種類の希土類元素を含み、それぞれの希土類元素を単体で含む酸化物超伝導体のあいだの融点の差が10℃以上であって、前記酸化物超伝導体薄膜の膜厚が0.25〜0.75μmの範囲において、5×10〜13×10A/cmの臨界電流密度、または、前記酸化物超伝導体薄膜の膜厚が0.25〜1μmの範囲において、2×10〜4×10A/cmの臨界電流密度を示し、結晶粒のc軸が基板に垂直に配向された酸化物超伝導体薄膜素子に関する。
それぞれの希土類元素を単体で含む酸化物超伝導体のあいだの融点の差は、10℃〜160℃が好ましく、40℃〜160℃がより好ましい。融点の差が10℃未満の場合は、ピニングセンタが導入されないため、十分な臨界電流密度が得られなくなる。
前記酸化物超伝導体薄膜の膜厚が、0.25〜0.75μmの範囲においては、5×10A/cm以上の臨界電流密度を示すことが好ましい。臨界電流密度が5×10A/cmより小さい場合は、本素子を電力輸送や強磁場発生へ応用することが難しくなる。
前記酸化物超伝導体薄膜の膜厚が、0.25〜1μmの範囲においては、2×10A/cm以上の臨界電流密度を示すことが好ましい。
臨界電流密度が2×10A/cmより小さい場合は、十分な電力輸送特性が得られない。
図1は、本発明の酸化物超伝導体薄膜素子の断面図、図2は、本発明の酸化物超伝導体薄膜形成用ターゲット焼結体における、不純物相混在比のNd濃度依存性を示すグラフ、図3は本発明の酸化物超伝導体薄膜形成用ターゲット焼結体における臨界温度のNd濃度依存性を示すグラフ、図4、図5は本発明および比較例の酸化物超伝導体薄膜における臨界電流密度の膜厚依存性を示すグラフである。
基板1上に、酸化物超伝導体薄膜2が設けられている(図1の(a)参照)。基板1は、ハステロイなどのNi系合金であり、またMgO単結晶なども用いられる。基板がNi系合金の場合、基板1と酸化物超伝導体薄膜2の反応を防ぐため、CeOなどの酸化物バッファ層3を挿入することもある(図1の(b)参照)。
この場合、酸化物超伝導体薄膜2を形成するとき、基板温度が高いほど、結晶粒はc軸が基板に垂直に配向しやすく、優れた特性(高い臨界温度、高い臨界電流密度)が得られる一方、基板と酸化物超伝導体薄膜、あるいは酸化物バッファ層と酸化物超伝導体薄膜との反応は、基板温度が高いほど顕著となり、多くの場合、酸化物超伝導体中のBaの拡散によって酸化物バッファ層の特性が劣化してしまう。
実施の形態1
酸化物超伝導体薄膜2は、パルスレーザ蒸着法などを用いて形成される。まず、パルスレーザ蒸着用の酸化物超伝導体ターゲットは、つぎのようにして作製される。
各金属元素の酸化物、炭酸塩などを出発材料とし、粉砕混合する(工程A)。
工程Aで得られた粉体を、大気ないし酸素雰囲気中880〜910℃の温度で12〜48時間焼結する。場合によっては、この工程を複数回繰り返す(工程B)。
工程Bで得られた焼結体を、粉砕、混合し、所定の形状に成形後、さらに大気ないし酸素雰囲気中900〜930℃程度の温度まで昇温し12〜96時間焼結する(工程C)。
工程Cで得られた焼結体をさらに、粉砕、混合し所定の形状に成形後、酸素ガスフロー中で880℃〜910℃で12〜96時間昇温し酸素アニールを行ない、そののち所定の条件で冷却される(工程D)。
工程A、B、CおよびDを経て得られた、(Yb1−xNd)BaCu7−y系のターゲットにおいて、xが0.01〜0.30、yが0.00〜0.10なる組成を選択することにより、図2に見られるように不純物相であるBaCuOやYbBaCuO(以下211相)の割合が減少し、単一の結晶相を含むことになる。図3に見られるように、この組成範囲では、臨界温度が高い良好なターゲットが得られる。
この焼結体を、パルスレーザ蒸着の際のターゲットとして使用し、超伝導体薄膜を作製する。レーザはArF、KrF、XeClなどのエキシマレーザを使用して成膜する。
このターゲットを用い、パルスレーザ蒸着法によって薄膜を形成する。そのとき、基板温度を650℃〜850℃とする。図4は基板温度を750〜850℃とした場合の酸化物超伝導体薄膜の臨界電流密度を示しており、図5は基板温度を650〜750℃とした場合の臨界電流密度を示している。図中実施例はNdを含む実施例を示し、比較例はNdを含まない例を示している。
このように低い基板温度で薄膜形成を行なうにもかかわらず、(Yb−xNd)BaCu7−y薄膜はc軸配向することがわかった。図4に示すようにNdを添加しない(x=0)場合、0.2μmの膜厚では10〜10A/cmの臨界電流密度が得られるものの、膜厚の増加によって臨界電流密度が著しく減少し、0.5μmの膜厚では2×10A/cmまでも低下する。一方、Ybをx=0.10だけNdに置換した場合、臨界電流密度は膜厚の増加に対してほとんど低下しない。その結果、0.25〜0.75μmの膜厚領域で5×10〜13×10A/cmの高い臨界電流密度が得られ、さらに1μmまで膜厚を増加しても臨界電流密度は2×10〜4×10A/cmと、Ndを添加しない同厚の場合に比べ、30〜60倍もの高い臨界電流密度が得られることがわかった(図4参照)。また、膜厚を0.25μmに減少しても同程度の臨界電流密度が得られる。
実施の形態2
実施の形態2としては、2種類の希土類元素を含む酸化物超伝導体(R1−xR’BaCu7−y;ここでRおよびR’はY、Gd、Eu、Nd、Ho、Yb、Tb、Sm、Pr、Dy、Lu、ErおよびTmの群から選ばれる元素)であって、それぞれの希土類元素を単体で含む酸化物超伝導体の融点の差が10℃以上あることである。一般的に酸化物超伝導体の臨界電流密度を向上させるためには、超伝導相を高品質化するだけでなく、侵入した磁束が動かないようにピニングセンタを導入する必要がある。融点の異なる2種類の酸化物超伝導体が混在することにより、高融点側の酸化物超伝導体相の部分が有効なピニングセンタとして作用し、高磁界まで超伝導状態を維持できるためと考えられる。
たとえば、NdBaCu7−y系の融点はYbBaCu7−y系の融点に比べて約100℃高い。この場合、少量混合されるNd側がピニングセンタとして働くことになる。YbとNdを含む系では融点の差が約100℃であるが、ピニングセンタの形成という観点からは配向性に差が出る領域が形成されればよいので、融点の差が10℃以上であればよいと考えられる。
【実施例】
以下、本発明を実施例および比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
Yb、Nd、BaCO、(またはBaO)およびCuO粉体を出発原料とし、Yb:Nd:Ba:Cuが1−x:x:2:3(x=0.05、0.1、0.15、0.2、0.3)のモル比になるように秤量し、充分に粉砕・混合した(工程A)。
工程Aで得た粉体を電気炉において空気中で900℃、12時間焼成を行なった。これにより得られた粉体を充分に粉砕、混合した。この工程は2回繰り返した(工程B)。
工程Bで得られた粉体を、充分に粉砕・混合したのち、加圧によりペレット化し、空気中で910℃、48時間焼成した(工程C)。
工程Cで得られたペレットを充分に粉砕混合したのち、再度ペレット化し、このペレットを酸素ガスフロー中で910℃まで昇温し、12時間保持し、そののち500℃まで冷却し24時間保持したのち、炉冷することにより酸素アニールを行なった(工程D)。
以上の工程A、B、CおよびDを経て得られた焼結体試料について粉末X線回折法により試料に含まれる不純物相について調べた。その結果を図2に示す、図の縦軸は123相に対する211相の相対強度を示している。Nd置換量xが増加するにつれて、試料に含まれる不純物相の割合が減少し、x=0.1以上では、超伝導相のみが検出され、不純物相は検出されなかった。
またこれらの工程A、B、CおよびDを経て得られた試料について電気抵抗率の温度変化を測定し、超伝導転移温度Tcを調べた。その結果、Nd置換量xが増加するとTcが上昇し、x=0.1の場合にTcは最大値95°Kを示した(図3参照)。
以上、工程A、B、CおよびDを経て得られた焼結体を、ターゲットとして使用し、パルスレーザ蒸着法により薄膜を形成した。レーザはArFエキシマレーザで、基板はMgO(100)単結晶を用いた。基板温度は600〜850℃で、膜厚0.2μmから1μmのものが得られ、いずれも結晶粒がc軸配向していた。
これら薄膜の温度77°Kにおける臨界電流密度を計測したところ、基板温度を750〜850℃とした場合、0.25〜0.75μmの膜厚領域で5×10〜13×10A/cmの高い臨界電流密度が得られ、かつ膜厚が増加しても臨界電流密度はほとんど減少しなかった。その結果、膜厚が1μmまで増加しても、臨界電流密度は2〜4×10A/cmと依然高い値であった(図4参照)。
一方、基板温度を600〜750℃とした場合、基板温度を750〜850℃とした場合と比較して、臨界電流密度の値はごくわずか低下するものの、膜厚に対する傾向はほぼ同様であった(図5参照)。
比較例
実施例と同じ方法で、Ndを含まない薄膜を作製した。
Ndを含まない薄膜の場合、図4および図5から明らかなように、臨界電流密度は、膜厚が0.2μmでは10〜10A/cm程度であるものの、膜厚の増加と共に急激に低下し、0.25μm以上の膜厚では10A/cmまたはそれ以下にまで減少する。このため比較例では、とくに0.5〜0.75μmの膜厚で、実施例の約1/50の臨界電流密度しか得られなかった。
本発明の酸化物超伝導体薄膜素子によれば、液体ヘリウム冷媒が不要となるため、冷却効率が数100倍になる。また、従来の銅線を使用した電力ケーブル管路と同じ大きさでも10倍以上の送電容量が可能となる。この酸化物超伝導薄膜素子を磁石に適用する場合、たとえばBi系酸化物高温超伝導体では、磁場中で臨界電流密度が急激に低下するという材料本来の物性により、77°Kで約1Tまでの磁場しか発生できなかったのに対し、その数倍の発生磁場が可能となるため、超強力磁石が得られると期待される。これにより、たとえば磁気分離装置の分離効率を10倍以上効率化できる。また臨界電流密度の増加により、超伝導発電機のサイズを1/2以下に小型化できるだけでなく、負荷変動に対する安定性が大きくなるため、現行送電設備のままでも送電容量を50%増強できる。また医療分野への応用としては、磁気共鳴撮像装置(MRI)の信号強度が40倍に向上し高解像度化が期待される。
本発明の酸化物超伝導体薄膜素子の製法によれば、低温の基板温度で膜形成するため、酸化物超伝導体薄膜を形成するあいだに、素子の他の要素が反応劣化することなく、かつ結晶粒のc軸が基板に対し垂直に配向するので、膜厚が0.25〜0.75μmの範囲で5×10〜13×10A/cmの臨界電流密度が得られ、膜厚が1μmまで増加しても、2×10〜4×10A/cmの臨界電流密度が得られた。このように膜厚が大きくても、従来の酸化物超伝導体薄膜に比べて数十倍の臨界電流密度が得られるので、格段に高性能の酸化物超伝導体薄膜素子が実現でき、前記電力分野や医療技術分野のごとき多くの応用分野において、技術的および経済的に多大の改良が可能となる。
【産業上の利用可能性】
本発明の酸化物超伝導体薄膜素子の製法によれば、(Yb1−xNd)BaCu7−y系において、xが0.01〜0.30であり、かつyが0.00〜0.20であり、薄膜の結晶粒のc軸が基板に垂直に配向し、成膜時の基板温度が650〜850℃の条件下で薄膜形成したことにより、素子の他の要素が反応劣化することなく、かつ広い膜厚範囲で、5×10〜13×10A/cmと優れた臨界電流密度を示す酸化物超伝導体薄膜素子が得られる。

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基板と酸化物超伝導体薄膜から構成され、該酸化物超伝導体薄膜が、Yb1−xNdBaCu7−yであって、xが0.01〜0.30、yが0.00〜0.20である組成を有し、結晶粒のc軸が基板に垂直に配向された酸化物超伝導体薄膜素子。
【請求項2】
前記薄膜の膜厚が0.15μm〜10.0μmである請求の範囲第1項記載の酸化物超伝導体薄膜素子。
【請求項3】
前記薄膜の膜厚が0.15μm〜1.0μmである請求の範囲第2項記載の酸化物超伝導体薄膜素子。
【請求項4】
前記薄膜の膜厚が0.25μm〜1.0μmである請求の範囲第3項記載の酸化物超伝導体薄膜素子。
【請求項5】
xが0.01〜0.30であり、yが0.00〜0.20であるYb1−xNdBaCu7−yの組成からなる焼結体をターゲットとして基板上に蒸着する工程において、前記基板の温度が650℃〜850℃である酸化物超伝導体薄膜素子の製法。
【請求項6】
前記基板の温度が750℃〜850℃である請求の範囲第5項記載の酸化物超伝導体薄膜素子の製法。
【請求項7】
少なくとも基板と酸化物超伝導体薄膜から構成され、該酸化物超伝導体薄膜が、2種類の希土類元素を含み、それぞれの希土類元素を単体で含む酸化物超伝導体のあいだの融点の差が10℃以上であって、前記酸化物超伝導体薄膜の膜厚が0.25〜0.75μmの範囲において、5×10〜13×10A/cmの臨界電流密度、または、前記酸化物超伝導体薄膜の膜厚が0.25〜1μmの範囲において、2×10〜4×10A/cmの臨界電流密度を示し、結晶粒のc軸が基板に垂直に配向された酸化物超伝導体薄膜素子。

【国際公開番号】WO2004/038816
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546397(P2004−546397)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011954
【国際出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2002年9月24日(社)応用物理学会発行の「2002年(平成14年)秋季第63回応用物理学会学術講演会講演予稿集第1分冊」に発表
【出願人】(802000020)財団法人浜松科学技術研究振興会 (63)
【Fターム(参考)】