説明

酸素センサの故障診断装置

【課題】酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定する。
【解決手段】排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、酸素センサに電圧を印加しそれを引き戻す過程で酸素センサの素子インピーダンスを検出する素子インピーダンス検出回路と、酸素センサの出力電圧を検出するためのセンサ出力電圧検出回路と、検出された前記印加前後の酸素センサ出力電圧の電圧差ΔVOXが所定値より大きいとき、少なくとも前記検出された素子インピーダンスの値に応じて、酸素センサの故障と、素子インピーダンス検出回路の故障とを区別して判定するインピーダンス基準故障判定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素センサの故障診断装置に係り、特に、内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒を利用した排気ガス浄化システムを備える内燃機関では、触媒による排気ガスの有害成分の浄化を有効に行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが欠かせない。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に、排気ガスの酸素濃度を検出する酸素センサを設け、その検出結果より空燃比を求めて、検出された空燃比を所定の目標空燃比に近づけるフィードバック制御を実施している。
【0003】
酸素センサは、排気通路内に突出するように配設された筒型の検出素子を備えている。検出素子は、その内面を大気(空気)に露呈するとともに、その外面は、センサカバーを通して流過する排気ガスに曝される。また検出素子は、内外の表面に電極が被覆された固体電解質により形成されている。固体電解質は、酸素がイオン化した状態でその内部を移動可能な固形物質を指し、酸素センサ用としては例えばジルコニアなどが利用されている。検出素子の内側の大気と外側の排気ガスとの酸素分圧に差が生じると、その分圧の差を縮小すべく、酸素分圧の高い側(通常は大気側)の酸素がイオン化して固体電解質を通り、酸素分圧の低い側(通常は排気ガス側)へと移動する。酸素分子はイオン化する過程で4価の電子を受け取り、イオン化した状態から分子に戻る過程で4価の電子を放出する。そのため、上記の酸素の移動に応じて検出素子の内外表面の電極で電子の移動が生じ、その結果、検出素子に起電力が発生する。こうして酸素センサは、大気と排気ガスとの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、より具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。
【0004】
ところで、酸素センサで発生した起電力は出力電圧として電子制御ユニットに送られる。一方、電子制御ユニットが異常な出力電圧を検知した場合、いずれかの箇所で故障が発生していると判断される。この故障部位の特定は、後の部品交換等の修理作業を迅速的確に行う上で重要である。かかる故障部位の特定を実行可能な故障診断装置としては、例えば、制御ユニットのポートの外部に生じたショートであるか、或いは制御ユニット内部のスイッチ素子の故障であるかを特定するものがある(特許文献1参照)。
【0005】
また、従来の故障診断装置としては、他に、酸素センサの出力信号がリッチ信号からリーン信号に反転する総回数に対し、吸入空気量の増大を伴って上記反転が行われる回数の割合が所定値以上であることに基づき、酸素センサの検出素子に微細な破損が生じていると判断するものがある(特許文献2参照)。また、酸素センサの出力電圧をモニタし、リーン信号の出力割合が所定値以上となる出力分布が確認されることをもって酸素センサの検出素子の欠損有りと判定し、同センサの異常診断を行うものがある(特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−140642号公報
【特許文献2】特開2004−346847号公報
【特許文献3】特開2003−14683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2,3にも述べられているように、酸素センサにおいて、検出素子にクラックが入ったり、検出素子が割れたりするという欠損故障が生じる場合がある。この欠損故障が生じると、検出素子の内外が連通し、本来大気が入っている検出素子の内側に排気ガスが出入りする。そして、この排気ガスの出入りによりセンサ出力電圧が変動する。よってこのセンサ出力電圧の変動を監視することにより酸素センサの故障を検出することができる。
【0008】
しかしながら、酸素センサ以外の電気回路部分で故障が発生した場合にも、酸素センサ故障時と同様に、変動を伴う信号が電子制御ユニットで得られる場合がある。この場合、電子制御ユニットにおいて、酸素センサの故障なのか回路の故障なのかを判別することができず、故障部位を正確に特定できないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定することができる酸素センサの故障診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、第1の発明は、
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、
前記酸素センサに対し所定の素子インピーダンス検出用電圧を印加しその後それを引き戻し、この印加過程で前記酸素センサの素子インピーダンスを検出する素子インピーダンス検出回路と、
前記酸素センサの出力電圧を検出するためのセンサ出力電圧検出回路と、
前記センサ出力電圧検出回路によって検出された前記印加前後の酸素センサ出力電圧の電圧差又はその絶対値が所定値より大きいとき、少なくとも前記素子インピーダンス検出回路により検出された素子インピーダンスの値に応じて、前記酸素センサの故障と、前記素子インピーダンス検出回路の故障とを区別して判定するインピーダンス基準故障判定手段と
を備えたことを特徴とする。
【0011】
センサ故障の場合と回路故障とのいずれの場合であっても、前記印加前後の酸素センサ出力電圧が異なり、その電圧差又はその絶対値が所定値より大きくなることがある。しかしながら、酸素センサの検出素子温度が活性温度より低い低温であると酸素センサは出力電圧を発することができない。酸素センサの素子インピーダンスの値は検出素子温度に相関する値である。これらの観点に鑑み、第1の発明では、素子インピーダンスの値の大小に応じて、センサ故障と回路故障とを区別して判定することとしている。これにより故障部位の特定が可能となり、精度の高い故障診断が可能となる。
【0012】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記インピーダンス基準故障判定手段は、前記検出された素子インピーダンスの値が所定値より大きいとき前記素子インピーダンス検出回路の故障と判定する
ことを特徴とする。
【0013】
また、第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記インピーダンス基準故障判定手段は、前記検出された素子インピーダンスの値が所定値より小さいとき前記酸素センサの故障と判定する
ことを特徴とする。
【0014】
また、第4の発明は、
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、
前記酸素センサに対し所定の素子インピーダンス検出用電圧を印加しその後それを引き戻し、この印加過程で前記酸素センサの素子インピーダンスを検出する素子インピーダンス検出回路と、
前記酸素センサの出力電圧を検出するためのセンサ出力電圧検出回路と、
前記内燃機関の吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
前記素子インピーダンス検出回路により検出された素子インピーダンスの値が所定値より小さいとき、少なくとも前記吸入空気量検出手段により検出された前記吸入空気量の値に応じて、前記酸素センサの故障と、前記素子インピーダンス検出回路の故障とを区別して判定する空気量基準故障判定手段と
を備えたことを特徴とする。
【0015】
酸素センサの素子インピーダンスの値が所定値より小さいとき(例えば検出素子温度が活性温度にあるとき)、酸素センサが故障状態にあれば、その出力電圧は、吸入空気量の値に応じて変動したりしなかったりする。よってこの特性を利用し、第4の発明では、吸入空気量の値に応じて、センサ故障と回路故障とを区別して判定することとしている。これによっても故障部位の特定が可能となり、精度の高い故障診断が可能となる。
【0016】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記酸素センサの出力電圧の変動積算量を算出する変動積算量算出手段をさらに備え、
前記空気量基準故障判定手段は、前記検出された吸入空気量の値が中程度の値であり、且つ、前記変動積算量算出手段により算出された変動積算量の値が所定値より大きいとき、前記酸素センサの故障と判定する
ことを特徴とする。
【0017】
また、第6の発明は、第4又は第5の発明において、
前記空気量基準故障判定手段は、前記検出された吸入空気量の値が低又は高程度の値であり、且つ、前記センサ出力電圧検出回路によって検出された前記印加前後の酸素センサ出力電圧の電圧差又はその絶対値が所定値より大きいとき、前記素子インピーダンス検出回路の故障と判定する
ことを特徴とする。
【0018】
また、第7の発明は、
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、
前記酸素センサに対し所定の素子インピーダンス検出用電圧を印加しその後それを引き戻し、この印加過程で前記酸素センサの素子インピーダンスを検出する素子インピーダンス検出回路と、
前記酸素センサの出力電圧を検出するためのセンサ出力電圧検出回路と、
前記内燃機関の吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
前記検出された酸素センサの出力電圧の変動積算量を算出する変動積算量算出手段と、
前記素子インピーダンス検出回路により検出された素子インピーダンスの値及び前記吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量の値の少なくとも一つと、前記センサ出力電圧検出回路によって検出された前記印加前後の酸素センサ出力電圧の電圧差又はその絶対値及び前記変動積算量算出手段により算出された変動積算量の値の少なくとも一つとに基づき、前記酸素センサの故障と、前記素子インピーダンス検出回路の故障とを区別して判定するインピーダンス・空気量基準故障判定手段と
を備えたことを特徴とする。
【0019】
この第7の発明において、好ましくは、インピーダンス・空気量基準故障判定手段は、前記素子インピーダンス検出回路により検出された素子インピーダンスの値が所定値より大きく、且つ、前記センサ出力電圧検出回路によって検出された前記印加前後の酸素センサ出力電圧の電圧差又はその絶対値が所定値より大きいとき、前記素子インピーダンス検出回路の故障と判定する。
【0020】
また第7の発明において、好ましくは、インピーダンス・空気量基準故障判定手段は、前記素子インピーダンス検出回路により検出された素子インピーダンスの値が所定値より小さく、前記吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量の値が低又は高程度の値であり、且つ、前記センサ出力電圧検出回路によって検出された前記印加前後の酸素センサ出力電圧の電圧差又はその絶対値が所定値より大きいとき、前記素子インピーダンス検出回路の故障と判定する。
【0021】
また第7の発明において、好ましくは、インピーダンス・空気量基準故障判定手段は、前記素子インピーダンス検出回路により検出された素子インピーダンスの値が所定値より小さく、前記吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量の値が中程度の値であり、且つ、前記変動積算量算出手段により算出された変動積算量の値が所定値より大きいとき、前記酸素センサの故障と判定する。
【0022】
また、第8の発明は、第1乃至第7いずれかの発明において、
前記素子インピーダンス検出回路の故障は、前記酸素センサからの電圧引き戻し時にONされるスイッチ素子の故障である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定し、故障部位の特定及び高精度な故障診断が可能になるという、優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0025】
本発明の適用される車載用内燃機関の排気ガス浄化システムの構成を、図1を参照して説明する。内燃機関10の吸気通路11には、その通路面積を可変とするスロットルバルブ15(本実施形態では電子制御式)が設けられ、その開度制御によりエアクリーナ14を通じて吸入される空気の量が調整される。ここで吸入された空気の量(吸入空気量)は、エアフローメータ16により検出されている。そして吸気通路11に吸入された空気は、スロットルバルブ15下流に設けられたインジェクタ17より噴射された燃料と混合された後、燃焼室12に送られて、そこで燃焼される。
【0026】
一方、燃焼室12での燃焼により生じた排気ガスが送られる排気通路13には、排気ガス中の有害成分を浄化する三元触媒18が設けられ、その上流側には触媒前酸素センサ19、その下流側には触媒後酸素センサ20がそれぞれ設けられている。
【0027】
三元触媒18は、燃焼される混合気の空燃比が理論空燃比近傍の狭い範囲(ウインドウ)でのみ、排気ガス中の主要有害成分(HC、CO、NOx)のすべてを効率的に浄化する。そうした三元触媒18を有効に機能させるには、混合気の空燃比を上記ウインドウの中心に合わせこむ、厳密なコントロールが必要となる。
【0028】
こうした空燃比の制御は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)22により行われる。ECU22には、上記エアフローメータ16や酸素センサ19,20、あるいはアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ21、機関回転速度を検出するNEセンサ23を始めとする各種センサ類の検出信号が入力されている。そしてそれらセンサ類の検出信号より把握される内燃機関10や車両の運転状況に応じて、上記スロットルバルブ15やインジェクタ17等を駆動制御して、上記のような空燃比の制御を行っている。そうした電子制御ユニット22による空燃比制御の概要は次の通りである。
【0029】
まず電子制御ユニット22は、上記アクセルペダルの踏み込み量や機関回転速度の検出結果に応じて把握される吸入空気量の要求量を求め、それに応じた吸入空気量が得られるようにスロットルバルブ15の開度を調整する。その一方、エアフローメータ16により検出される吸入空気量の実測値に対して、理論空燃比が得られるだけの燃料量を求め、それによりインジェクタ17からの燃料噴射量を調整する。これにより、燃焼室12で燃焼される混合気の空燃比を、ある程度に理論空燃比に近づけることはできる。ただし、それだけでは上記要求される高精度の空燃比制御には不十分である。
【0030】
そこで電子制御ユニット22は、上記各酸素センサ19,20の検出結果より把握される空燃比の実測値に基づいて、インジェクタ17からの燃料噴射量をフィードバック補正し、要求される空燃比制御の精度を確保している。
【0031】
以上のように、この排気ガス浄化システムでは、酸素センサ19,20の検出結果に応じて燃料噴射量をフィードバック補正する、いわゆる空燃比フィードバック制御を実施することで、混合気の空燃比を理論空燃比近傍に保持し、高い排気ガス浄化率を確保している。なお、この排気ガス浄化システムでは、上述のように2つの酸素センサ19,20によって、三元触媒18の上下流における排気ガスの酸素分圧をそれぞれ検出することで、上記空燃比フィードバック制御の更なる高精度化を図っている。
【0032】
こうした排気浄化システムに採用される2つの酸素センサ19,20は互いに同様の構成であり、また故障診断の方法も同様である。そこで以下、触媒前酸素センサ19を例にとって説明し、触媒後酸素センサ20については説明を省略する。図2及び図3に示すように、酸素センサ19は、排気通路13内に突出するように配設された筒型の検出素子(センサ素子)31を備えている。検出素子31は、その内面を大気(空気)に露呈するとともに、その外面は、センサカバー32を通して流過する排気ガスに曝される。また検出素子31は、内外の表面に電極33A,33Bが被覆された固体電解質により形成されている。固体電解質は、酸素がイオン化した状態でその内部を移動可能な固形物質を指し、酸素センサ用としては例えばジルコニアなどが利用されている。検出素子31の内部の大気室34は、センサ内に設けられた図示しない大気通路と、センサボディに形成された大気穴35とを通じて外部に連通され、且つ大気が導入されるようになっている。大気室34には、検出素子31を加熱して早期に活性させるためのヒータ36が設けられ、ヒータ36はECU22によって通電制御される。
【0033】
検出素子31を介して隔てられたその内側の大気と外側の排気ガスとの酸素分圧に差が生じると、その分圧の差を縮小すべく、酸素分圧の高い側(通常は大気側)の酸素がイオン化して固体電解質を通り、酸素分圧の低い側(通常は排気ガス側)へと移動する。酸素分子はイオン化する過程で4価の電子を受け取り、イオン化した状態から分子に戻る過程で4価の電子を放出する。そのため、上記の酸素の移動に応じて検出素子31の内外表面の電極で電子の移動が生じ、その結果、検出素子31に起電力が発生する。こうして酸素センサ19は、大気と排気ガスとの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、より具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり検出素子31外部の排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。ここで酸素イオンが内表面側の電極33Aから検出素子31を通って外表面側の電極33Bに向かうことから、電流の向きは逆となり、両電極に接続された外部装置に対しては内表面側の電極33Aが正極、外表面側の電極33Bが負極となる。
【0034】
ちなみに、酸素センサには他にも、板形状の検出素子を用いたものや、検出素子にジルコニア以外の素材を用いたものなど、様々なタイプの酸素センサがある。そしてその多くでは、上記例示したセンサと同様の検出原理により排気ガスの酸素分圧を検出する構成、すなわち基準ガス(大気)と排気ガスとを隔離するよう配設された検出素子が、基準ガスに対する排気ガスの酸素分圧の差に応じて起電力を発生する構成となっている。
【0035】
酸素センサ19の出力特性を図4に例示する。示されるように、酸素センサ19の出力電圧は理論空燃比A/Fs(例えば14.6)を境に過渡的に変化し、酸素センサ19に供給される排気ガス(雰囲気ガス)の空燃比A/Fが理論空燃比A/Fsよりもリーンな領域(A/F>A/Fs、以下リーン空燃比ともいう)では0.1V程度の小さい電圧を示し、理論空燃比A/Fsよりもリッチな領域(A/F<A/Fs、以下リッチ空燃比ともいう)では0.9V程度の比較的高い電圧を示す。ここでは、0.45Vのセンサ出力をリッチ・リーン判定閾値として、センサ19の検出結果が、理論空燃比よりもリッチかリーンかを判断している。なお、酸素センサ19の上記各領域でのセンサ出力電圧の大きさは、検出素子31の温度状態に応じて変化することがある。
【0036】
なお、本実施形態のように、理論空燃比での燃焼(ストイキ燃焼)のみを目的とした空燃比制御を行う内燃機関では、理論空燃比を境に出力電圧が大きく変化する特性の酸素センサが用いられることが多い。こうしたセンサは、理論空燃比よりもリッチ、及び理論空燃比よりもリーンのいずれかといった低い分解能しか持たないものの、上記ストイキ燃焼のみを行うには、それで十分なことが多い。一方、希薄空燃比での燃焼を行うなど、より広範囲の空燃比での燃焼を行う内燃機関では、排気ガスの空燃比に応じてその出力電圧が線形的に変化する特性の、より分解能の高い酸素センサが用いられることもある。本発明はこのような酸素センサに対しても適用可能である。
【0037】
ところで、長期使用による経年劣化等により、酸素センサ19の検出素子31にクラックが入ったり、検出素子31が割れたりするといった検出素子31の欠損が発生し、酸素センサ19が故障する場合がある。この欠損によるセンサ故障の場合、図5に示すように、検出素子31の欠損部37を通じて検出素子31の内外が連通し、検出素子31外部の排気ガスがその内部に出入りする。検出素子31の内外に排気ガスが存在し、その内外の酸素分圧に差がないような場合、センサ起電力は発生せず、また、検出素子31内部に排気ガスが入っている状態で、検出素子31外部により酸素濃度の高い(空燃比リーンの)排気ガスが存在すると、酸素センサ19において逆方向の起電力が発生する。このことは例えば、センサ故障状態で空燃比をリッチからリーンに切り替えた直後や、フューエルカット直後などに起こり得る。この場合、正極33Aの電位よりも負極33Bの電位の方が高くなり、負(マイナス)の起電力が発生する。かかる原理により、酸素センサ19が欠損故障を起こすと、排気ガスの空燃比を正確に検出できなくなるばかりでなく、検出素子31への排気ガスの出入りにより酸素センサ19の出力電圧値が小刻みに変動し、ノイズ成分が重畳するようになる。
【0038】
この酸素センサ19の欠損故障はECU22により次の方法で検出することができる。図6に示すように、所定周期隔てた各処理タイミングT(n)(n=1,2,3・・・)において、当該タイミングで取得される酸素センサ出力電圧Vs(n)とそれより1回前のタイミングで取得される酸素センサ出力電圧Vs(n−1)との差の絶対値|Vs(n)−Vs(n−1)|を計算し、この値を各処理タイミングT(n)毎に順次積算していく。こうして所定時間積算して得られる値、即ち変動積算量(或いは軌跡長積算値)が所定値より大きいとき、酸素センサ19は故障と判定することができる。
【0039】
しかしながら、前述したように、酸素センサ19以外の電気回路部分で故障が発生した場合にも、同様に変動を伴う信号がECU22で得られる場合があることが確認された。従ってこのような場合には、ECU22において、変動が酸素センサの故障に起因するのか、回路の故障に起因するのかを判別することができず、前記の方法で故障部位を正確に特定することができない。故障部位の特定ができなければ必然的にどの部品を交換すればよいかも分からないことになり、故障時の対応を迅速に行えないという不都合も生じる。
【0040】
そこで、本実施形態では以下のようにして酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定することとしている。なお、かかる故障判定の方法はいずれの酸素センサ19,20についても同様であるので、ここでは例示的に触媒前酸素センサ19の一方のみについて説明を行う。
【0041】
まず、酸素センサ19とこれが接続されるECU22とからなる回路構成を図7を参照して説明する。図示されるように、酸素センサ19は、その正極33Aが正極線41Aにより、その負極33Bが負極線41Bにより、それぞれECU22に接続されている。具体的には、正極線41A及び負極線41BがそれぞれECU22のケーシング(太実線で示す)に設けられた正極端子42A及び負極端子42Bに接続されている。酸素センサ19は、インピーダンス成分Rsと起電力成分とを含むものとして等価的に示されている。ECU22は内部に中央処理ユニット(以下CPUという)43を備え、CPU43は以下の回路を通じて正極端子42A及び負極端子42Bに接続される。
【0042】
ECU22は、酸素センサ19が発生する電圧(正極33A及び負極33B間の電圧)に基づいて排気空燃比に関する情報を取得する機能と、酸素センサ19の素子インピーダンスRsを検出する機能とを併せ持つ。このうち、酸素センサ19の検出素子31の素子インピーダンスRsを検出する機能を発揮する部分、即ち素子インピーダンス検出回路B(図中一点鎖線で囲まれる部分)については後述する。素子インピーダンス検出回路Bは、CPU43とその入出力部である第1ポート44、第1AD変換器45、第2ポート46及び第2AD変換器47を含む。
【0043】
ECU22において、正極端子42Aは、CPU43の入力部である第3AD変換器48に接続され、また、負極端子42Bは接地されている。正極端子42A及び第3AD変換器48の間には、抵抗50及びコンデンサ51からなるフィルタ回路が介設されている。このフィルタ回路は、十分に大きな時定数を有しており、正極端子42Aにおける電圧の低周波成分だけを通過させる。このため、第3AD変換器48は、極度のノイズを減衰させつつ正極端子42Aの電圧値に相当するディジタル信号を精度良く生成し、CPU43に出力することができる。酸素センサ19の負極33Bが負極端子42Bを介して接地されるので、第3AD変換器48を通じてCPU43に入力される電圧値はそのまま酸素センサ19の出力電圧Vsを示す値となる。このように、当該回路がセンサ出力電圧検出回路に相当する。以下、第3AD変換器48を通じてCPU43に入力される電圧を検出電圧VOXと称する。
【0044】
また、ECU22において、出力検出用抵抗57が酸素センサ19と並列に設けられている。この出力検出用抵抗57は、一端が、第3AD変換器48の前段のフィルタ回路及び正極端子42Aを結ぶ配線に接続され、他端が接地されている。出力検出用抵抗57は、酸素センサ19の素子インピーダンスRsに比して十分に大きなインピーダンスを有している。
【0045】
次に、素子インピーダンス検出回路Bについて説明する。素子インピーダンス検出回路Bは、第1スイッチ素子71を備えている。第1スイッチ素子71には、所定の大きさを有する素子インピーダンス検出用電圧VOMが供給されている。本実施形態において、素子インピーダンス検出用電圧VOMは5Vの大きさを有し、これはECU22の電源電圧でもある。第1スイッチ素子71のゲートは、第1ポート44を介してCPU43に接続されている。CPU43は、必要に応じて、ON指令を発することにより第1スイッチ素子71をON状態とする。
【0046】
第1スイッチ素子71は、第1抵抗72を介して第1サンプリング点73に接続されている。第1サンプリング点73は、第2抵抗74を介して正極端子42Aに接続されていると共に、コンデンサ75を介して接地されている。
【0047】
第1サンプリング点73は、第1中間抵抗83と、抵抗76及びコンデンサ77からなるフィルタ回路とを介して第1AD変換器45に接続されている。このフィルタ回路は、十分に大きな時定数を有しており、第1サンプリング点73における電圧の低周波成分だけを通過させる。このため、第1AD変換器45は、極度のノイズを減衰させつつ第1サンプリング点73の電圧値に相当するディジタル信号を精度良く生成し、CPU43に出力することができる。
【0048】
第1サンプリング点73には、また、第3抵抗78を介して第2スイッチ素子79が接続されている。第2スイッチ素子79は、第1スイッチ素子71がON状態とされることにより酸素センサ19に供給された余剰電荷を強制放電させ、電圧印加後のセンサの出力電圧を印加前の状態に戻すために設けられている。この第2スイッチ素子79のゲートには、第2ポート46を介してCPU43が接続されている。また第2スイッチ素子79は接地されている。CPU43は、必要に応じて、ON指令を発することにより第2スイッチ素子79をON状態とし、第1サンプリング点73を第3抵抗78を介して接地させる。
【0049】
また、第2抵抗74と正極端子42Aとの間には、第2サンプリング点80が形成されている。第2サンプリング点80は、第2中間抵抗84と、抵抗81及びコンデンサ82からなるフィルタ回路とを介して第2AD変換器47に接続されている。このフィルタ回路は、十分に大きな時定数を有しており、第2サンプリング点80における電圧の低周波成分だけを通過させる。このため、第2AD変換器47は、極度のノイズを減衰させつつ第2サンプリング点80の電圧値に相当するディジタル信号を精度良く生成し、CPU43に出力することができる。第2サンプリング点80は、また、第3AD変換器48への分岐点をも形成し、第3AD変換器48の前段のフィルタ回路にも接続されている。
【0050】
酸素センサ19の素子インピーダンスRsの検出時以外は、第1スイッチ素子71及び第2スイッチ素子79がともにOFFされる。これにより第2サンプリング点80には、酸素センサ19の出力電圧に等しい電圧が発生し、この電圧が第3AD変換器48を介してCPU43に入力される。CPU43はこの入力された電圧値VOXに基づき排気ガスの空燃比A/Fがリッチであるかリーンであるかを判定する。
【0051】
また、酸素センサ19の素子インピーダンスRsの検出時には次のような作動が行われる。まず、第2スイッチ素子79をOFFとした状態で、第1スイッチ素子71がONされる。すると、素子インピーダンス検出用電圧VOMが印加され、互いに直列である第1抵抗72、第2抵抗74及び酸素センサ19に電流Iが流れる。このとき第2抵抗74の両端の第1及び第2サンプリング点73,80の電圧が、それぞれ第1AD変換器45及び第2AD変換器47を通じてCPU43に入力される。CPU43はこれら電圧差即ち第2抵抗74の電圧降下と、既知の第2抵抗74の抵抗値R2とから電流Iを求める。次いでCPU43は電流Iと、既知の第1抵抗72の抵抗値R1とから第1抵抗72の電圧降下を計算し、素子インピーダンス検出用電圧VOMから、第1抵抗72及び第2抵抗74の電圧降下を差し引いて、酸素センサ19の素子インピーダンスRsにおける電圧降下を算出する。最後にCPU43は、電流Iと、素子インピーダンスRsにおける電圧降下とから、素子インピーダンスRsを算出する。
【0052】
こうして、素子インピーダンス検出用電圧VOMの印加中に素子インピーダンスRsの算出を終えたら、CPU43は、第1スイッチ素子71をOFFすると同時に第2スイッチ素子79をONする。すると、酸素センサ19に対する素子インピーダンス検出用電圧VOMの印加は断たれ、同時に酸素センサ19からその印加されていた電圧が引き戻される。この様子を図8(A)に示す。
【0053】
図は、第3AD変換器48を通じてCPU43に入力される検出電圧VOXの変化を示し、これは酸素センサ19の正極33Aの電位の変化に相当する。これから分かるように、第1スイッチ素子71をONしたと同時(ts)に正極33Aの電位が立ち上がり、第1スイッチ素子71をOFF且つ第2スイッチ素子79をONしたと同時(th)に正極33Aの電位が急激に立ち下がる。酸素センサ19には容量成分も含まれているので、第1スイッチ素子71をONした後単にそれをOFFしただけでは、酸素センサ19に余剰電荷が残り正極33Aの電位がなかなか落ちない((B)図参照)。そこでこの余剰電荷を強制放電させるため、第2スイッチ素子79がONされる。こうすることで図示するように正極33Aの電位を瞬時に落とすことができる。
【0054】
ここで、素子インピーダンスRsの検出は、空燃比制御等の通常制御に影響を及ぼさぬよう、通常制御の処理タイミングT(n)の周期間隔(T(n)−T(n−1)、例えば4msec)内で、極短い時間で行われる。そのため、第2スイッチ素子79をONして正極33Aの電位を瞬時に落とすことが重要である。このような、酸素センサ19の余剰電荷を強制放電させて正極33Aの電位を瞬時に落とす操作を「引き戻し」という。なお、引き戻し前に素子インピーダンス検出用電圧VOMを印加する操作を「掃引」ということもある。第1抵抗72及び第2抵抗74で電圧降下があることから、印加終了時thのピーク電圧は素子インピーダンス検出用電圧VOMより若干低い値となる。
【0055】
さて、図8(A)に示した波形は、酸素センサ19及び素子インピーダンス検出回路Bのいずれも故障していない正常時の波形である。これに対し、いずれか一方が故障すると、図8(B)又は(C)に示すように波形が変化する。
【0056】
図8(B)は、酸素センサ19が正常で且つ素子インピーダンス検出回路Bが故障の場合、より詳しくは、酸素センサ19が正常で且つ素子インピーダンス検出回路Bの第2スイッチ素子79が故障の場合を示す。以下、この場合を単に「回路故障」ともいう。
【0057】
示されるように、第2スイッチ素子79が故障すると、引き戻し時に第2スイッチ素子79がONとならず、余剰電荷の放電が自然放電に任され、正極33Aの電位がなかなか落ちない。よって、素子インピーダンス検出用電圧VOMの印加前後のタイミングtd1,td2で、正極33Aの電位即ち検出電圧VOX1,VOX2を取得し、その差又は差の絶対値を所定値と比較することにより、第2スイッチ素子79の故障を一応は推定することができる。
【0058】
即ち、図8(A)に示すように正常時には検出電圧VOX1,VOX2がほぼ同等な値となるのに対し、図8(B)に示すように回路故障時には印加前の検出電圧VOX1より印加後の検出電圧VOX2が高くなる。よって、印加前後の検出電圧の差、即ち印加前後電圧差ΔVOX=VOX2−VOX1又はその絶対値を算出し、その印加前後電圧差ΔVOX又はその絶対値がほぼゼロなら正常、所定値より大きければ回路故障と判断することができる。なお、印加後の検出電圧VOX2を取得するタイミングtd2は、図8(A)に示すような正常時には引き戻し終了後となり、且つ図8(B)に示すような故障時には引き戻し中となるようなタイミングに設定される。
【0059】
しかしながら、このような判定方法では回路故障とセンサ故障とを区別して判定することができない。図8(C)は、酸素センサ19が故障で且つ素子インピーダンス検出回路Bが正常の場合、より詳しくは、酸素センサ19が欠損故障で且つ素子インピーダンス検出回路Bの第2スイッチ素子79が正常の場合を示す。以下、この場合を単に「センサ故障」ともいう。
【0060】
示されるように、センサ故障時には、検出素子31へのガスの出入りにより正極33Aの電位即ち検出電圧VOXが変動する。よって、印加前後の検出電圧VOX1,VOX2がほぼ同等な値とならず、印加前の検出電圧VOX1より印加後の検出電圧VOX2の方が高くなったり低くなったりする。よって、印加前後電圧差ΔVOX又はその絶対値と所定値との比較だけでは、センサ故障を推定できるに止まり、それを回路故障と区別して特定することはできない。
【0061】
このように、センサ故障と回路故障のいずれの場合であっても、同じように印加前後の検出電圧VOX1,VOX2に相違が見られ、よってこれらの相違を検出するのみではいずれの故障が発生したのかを特定することができない。
【0062】
そこで、本実施形態では、酸素センサ19の素子インピーダンスRsや吸入空気量GAに応じて検出電圧VOXの特性に違いがあることに着目し、これらの各領域で場合分けを行って、以下のようにしてセンサ故障と回路故障とを区別して判定することとしている。
【0063】
まず、酸素センサ19の素子インピーダンスRsに関して説明する。酸素センサ19において、その素子インピーダンスRsの値は、検出素子31の温度に相関する値である。検出素子31の温度が高くなるほど素子インピーダンスRsの値は小さくなる。一方、酸素センサ19は、検出素子31の温度が活性温度相当の高温に達しないと、出力電圧を発生することができない。よってこの特性を利用してセンサ故障と回路故障とが区別して判定される。
【0064】
即ち、ECU22は、素子インピーダンスRsの検出時において、印加前後電圧差ΔVOX又はその絶対値が所定値より大きいか否かを判断する。そして所定値より大きいと判断したとき、検出された素子インピーダンスRsの値と所定値とを比較して次のように判定する。
【0065】
まず、素子インピーダンスRsの値が所定値より高い場合、即ち、検出素子31が活性温度にない低温である場合には、酸素センサ19の出力電圧が発生しないことから、印加前後電圧差ΔVOX又はその絶対値が所定値より大きくなった原因は第2スイッチ素子79の故障にあるとみなし、回路故障と判定する。これにより、真の故障が回路故障でありながらセンサ故障であると誤判定するのを防止でき、真の回路故障を正確に判定することができる。
【0066】
次に、素子インピーダンスRsの値が所定値より低い場合、即ち、検出素子31が活性温度にある高温である場合には、逆にセンサ故障と判定する。これは、検出素子31が活性温度相当の高温である場合、素子インピーダンスRsが小さくなり、第2スイッチ素子79が故障してONにならない場合であっても、図8(B)のように引き戻しが遅れたりせず、図8(A)のように引き戻しは正常時と同じように迅速に行われ、印加前後電圧差ΔVOX又はその絶対値がほぼゼロになるからである。よって、かかる場合には、印加前後電圧差ΔVOX又はその絶対値が所定値より大きくなった原因は酸素センサ19の故障にあるとみなし、センサ故障と判定する。これにより、真の故障がセンサ故障でありながら回路故障であると誤判定するのを防止でき、真のセンサ故障を正確に判定することができる。
【0067】
図9には素子インピーダンスRsと印加前後電圧差ΔVOXとの関係を調べた実験結果を示す。これから理解されるように、素子インピーダンスRsが10000Ω(=10kΩ)より小さい領域では、回路故障とセンサ故障のいずれの場合でも印加前後電圧差ΔVOXがゼロ付近となり、両者を見分けることはできない。しかしながら、素子インピーダンスRsが10000Ωより大きい領域では、センサ故障の場合、相変わらず印加前後電圧差ΔVOXがゼロ付近であるのに対し、回路故障の場合、破線楕円で強調されているように、印加前後電圧差ΔVOXはゼロより大きい約0.5V以上の値となり、且つ素子インピーダンスRsの増大につれ増大する傾向を示す。従って、素子インピーダンスRsが10000Ωより大きい領域、つまり酸素センサの低温領域では、回路故障をセンサ故障と区別して特定することが可能である。
【0068】
図10にも同じく素子インピーダンスRsと印加前後電圧差ΔVOXとの関係を調べた実験結果を示す。図9との相違点は素子インピーダンスRsのレンジにあり、図10では300Ω以下という低レンジ、即ち酸素センサが高温のときのみの値が示されている。これから理解されるように、酸素センサが正常であるときには常に印加前後電圧差ΔVOXがゼロ付近となっているものの、酸素センサが故障しているときには破線円で強調されているように、印加前後電圧差ΔVOXはゼロから大きく外れた値となり得る。従って、酸素センサ高温時にはセンサ故障を特定することが可能である。
【0069】
次に、吸入空気量GAに関して説明する。図11は、(A)車速、(B)吸入空気量GA及び(C)検出電圧VOXの経時的変化を調べた実験結果を示す。吸入空気量GAはエアフローメータ16で検出された値である。検出電圧VOXについては回路故障が無いものとする。また、素子インピーダンスRsは、検出素子31が活性温度となるような低い値であるとする。図中、(i)は吸入空気量GAが低程度の値である場合、(ii)は吸入空気量GAが中程度の値である場合、(iii)は吸入空気量GAが高程度の値である場合である。検出電圧VOXに関して線P,Qはそれぞれ酸素センサ19の正常時及び故障時を示す。
【0070】
示されるように、検出電圧VOXの波形はセンサの正常時及び故障時で違いが見られ、且つその違いは(ii)吸入空気量GAが中程度の値である場合のみに見られる。センサ故障の場合において、吸入空気量GAが中程度の値であるときは、前述のように検出素子へのガスの出入りがあってセンサ出力電圧即ち検出電圧VOXの値は変動する。言い換えれば検出電圧VOXの波形にセンサノイズが乗ってくるようになる。
【0071】
しかしながら、センサ故障の場合であっても、(i)吸入空気量GAが低程度の値であるときはそのような変動が見られない。その理由は、アイドリング等の低空気量のときは排気ガスが検出素子の欠損部から検出素子内に入らず、従ってガス交換も行われないからである。また、(iii)吸入空気量GAが高程度の値であるときもそのような変動が見られない。その理由は、加速等の高空気量のときは排気ガスが検出素子の欠損部から検出素子内に入ることはできるが、検出素子内から出ることはできず、従ってガス交換も行われないからである。このように、検出素子へのガス交換が許容されるような中空気量のときに限ってセンサ出力が変動し、他方、検出素子へのガス交換が許容されないような低空気量又は高空気量のときにはセンサ出力が変動しない。
【0072】
ここで、センサ出力の変動の大きさは、図6を参照して説明した方法で検出電圧VOX(=酸素センサ出力電圧Vs)の変動積算量Mvoxを計算することにより、求めることができる。
【0073】
そこで、かかる特性を利用して本実施形態では次のように故障診断がなされる。即ち、ECU22は、検出された素子インピーダンスRsの値が所定値より小さい場合(即ち酸素センサが高温である場合)において、検出された吸入空気量GAの値が中程度の値であり、且つ、算出された変動積算量Mvoxの値が所定値より大きいとき(即ちセンサ出力変動大のとき)には、センサ故障と判定する。他方、検出された吸入空気量GAの値が低又は高程度の値であり、且つ、印加前後電圧差ΔVOX又はその絶対値が所定値より大きいときには、回路故障と判定する。
【0074】
次に、以上述べたような故障診断処理のさらなる具体例を図12を参照しつつ説明する。図12は当該故障診断処理を実行するルーチンのフローチャートであり、このルーチンはECU22により所定周期(例えば4msec)毎に繰り返し実行され、より具体的には図8又は図6で示したような処理タイミングT(n)毎に実行される。
【0075】
先ず、ステップS101において、検出電圧VOXが取得される。次いでステップS102において、当該処理タイミングT(n)に最も近いタイミングで検出された素子インピーダンス検出用電圧VOM印加前の検出電圧VOX1と、素子インピーダンス検出用電圧VOM印加後の検出電圧VOX2とが取得される(図8参照)。さらに、ステップS103において、これら印加前後の検出電圧VOX1,VOX2を用いて印加前後電圧差ΔVOX(=VOX2−VOX1)が算出される。その後ステップS104において、素子インピーダンス検出用電圧VOM印加時に算出された素子インピーダンスRsが取得される。
【0076】
次に、ステップS105においては、その素子インピーダンスRsが所定の第1しきい値Rs1より大きいか否か、即ち酸素センサの検出素子温度が低温であるか否かが判断される。この第1しきい値Rs1は、例えば図9の実験結果に基づいて10000Ωとされる。
【0077】
素子インピーダンスRsが第1しきい値Rs1より大きい場合、ステップS106に進んで、印加前後電圧差ΔVOXが所定の第1しきい値ΔVOXs1より大きいか否かが判断される。この第1しきいΔVOXs1は、例えば図9の実験結果に基づいて0.5Vとされる。
【0078】
印加前後電圧差ΔVOXが第1しきい値ΔVOXs1より大きい場合、ステップS107に進んで回路故障と判定される。
【0079】
そして、ステップS108において、ステップS101で取得された検出電圧VOXの値が保存されて本ルーチンが終了される。
【0080】
一方、ステップS105において、素子インピーダンスRsが第1しきい値Rs1以下と判断された場合、即ち酸素センサの検出素子温度が低温でないと判断された場合、ステップS109において、素子インピーダンスRsが所定の第2しきい値Rs2より小さいか否かが判断される。この第2しきい値Rs2は、ステップS105の第1しきい値Rs1より小さい値とされ、より詳細には、素子インピーダンスRsが第2しきい値Rs2より小さい場合に酸素センサの検出素子温度が活性温度且つ高温となるような値とされている。この第2しきい値Rs2は、例えば図10の実験結果に基づいて500Ωとされる。
【0081】
素子インピーダンスRsが第2しきい値Rs2より小さい場合、ステップS110において、エアフローメータ16により検出された吸入空気量GAが所定の第1しきい値GAs1より小さいか又は所定の第2しきい値GAs2より大きいか否かが判断される。ここでGAs1<GAs2であり、例えば第1しきい値GAs1は5g/sec、第2しきい値GAs2は15g/secとされる。このステップS110においては実質的に、吸入空気量GAが低空気量又は高空気量であるか否かが判断されている。
【0082】
吸入空気量GAが第1しきい値GAs1より小さいか又は第2しきい値GAs2より大きい場合、即ち吸入空気量GAが低空気量又は高空気量である場合、ステップS111において、印加前後電圧差ΔVOXの絶対値が所定の第2しきい値ΔVOXs2より大きいか否かが判断される。この第2しきい値ΔVOXs2は、ステップS106の第1しきい値ΔVOXs1より小さい値とされ、例えば0.1Vとされる。
【0083】
印加前後電圧差ΔVOXの絶対値が第2しきい値ΔVOXs2より大きい場合、ステップS112に進んで回路故障と判定される。即ち、低空気量又は高空気量のときは酸素センサが故障していても検出素子へのガスの交換がなくセンサノイズは発生しない。従って、この場合に印加前後電圧差ΔVOXの絶対値が第2しきい値ΔVOXs2より大きくなった原因は、第2スイッチ素子79の故障にあるとみなすことができる。よってここでは回路故障と判定する。この後、ステップS108において検出電圧VOXの値が保存され、本ルーチンが終了される。
【0084】
一方、ステップS109において、素子インピーダンスRsが第2しきい値Rs2以上と判断された場合、本ルーチンが終了される。即ち、素子インピーダンスRsが第2しきい値Rs2以上で且つ第1しきい値Rs1以下の場合は、センサ素子温度が活性温度手前の中間温度にあるとして故障診断を行わない。
【0085】
また、ステップS110において、吸入空気量GAが第1しきい値GAs1以上で且つ第2しきい値GAs2以下である場合、即ち中空気量である場合は、ステップS113に進む。
【0086】
ステップS113においては、CPU43に内蔵のカウンタがカウントアップされる。そしてステップS114において、検出電圧VOXに基づき、変動積算量Mvoxが計算される。次のステップS115においては、カウンタが所定時間tksを超えたか否かが判断される。この所定時間tksは、変動積算量Mvoxを計算する上での積算時間に相当し、例えば10secとされる。カウンタが所定時間tksを超えていなければ(即ち積算が終了してなければ)ステップS108を経てルーチン終了となり、カウンタが所定時間tksを超えていれば(即ち積算が終了していれば)ステップS116に進む。
【0087】
ステップS116では、最終的に算出された変動積算量Mvoxが所定のしきい値Mvoxsを超えているか否か、即ち、センサ出力電圧の変動量がセンサ故障時相当となるほどに大きいか否かが判断される。しきい値Mvoxsは例えば10Vとされる。変動積算量Mvoxが所定のしきい値Mvoxsを超えていないと判断されたときは、ステップS108を経てルーチン終了となる。
【0088】
他方、変動積算量Mvoxが所定のしきい値Mvoxsを超えていると判断されたときは、ステップS117でセンサ故障と判定される。そしてステップS118でカウンタがリセットされ、ステップS108で今回の検出電圧VOXが保存されてルーチンが終了される。
【0089】
このように本実施形態によれば、酸素センサの素子インピーダンス及び(又は)吸入空気量の大きさによって場合分けをすることにより、センサ故障と回路故障とを区別して判定することができる。これによって故障部位の特定が可能となり、故障診断の精度を向上することができる。
【0090】
なお、本実施形態においては、ECU22によりインピーダンス基準故障判定手段、空気量基準故障判定手段及びインピーダンス・空気量基準故障判定手段が構成される。
【0091】
本発明は他の実施形態を採ることも可能で、例えば前記実施形態で用いられた数値等は任意に変更が可能である。また、内燃機関は車載用に限定されず、酸素センサの配置方法や設置位置も任意に変更が可能である。
【0092】
本発明は、素子インピーダンス検出時に電圧印加はできるが引き戻しができなくなるような回路故障が起きるものに対して有効である。従って、素子インピーダンス検出回路の故障には、例えば、引き戻し用スイッチ素子(第2スイッチ素子79)と接地点との間の断線等も含めることができる。
【0093】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本実施形態に係る車載用内燃機関の排気ガス浄化システムの構成を示す図である。
【図2】酸素センサの取付状態を示す断面図である。
【図3】酸素センサの検出素子周辺の拡大断面図である。
【図4】酸素センサの出力特性を示すグラフである。
【図5】酸素センサの検出素子に欠損部が生じた場合の拡大断面図である。
【図6】変動積算量の算出方法を説明するための図である。
【図7】酸素センサ及びECUを含む電気回路の構成を示す図である。
【図8】素子インピーダンス検出時における検出電圧の変化を示す図である。
【図9】素子インピーダンスと印加前後電圧差との関係を調べた実験結果を示すグラフである。
【図10】素子インピーダンスと印加前後電圧差との関係を調べた実験結果を示すグラフである。
【図11】(A)車速、(B)吸入空気量及び(C)検出電圧の経時的変化を調べた実験結果を示すグラフである。
【図12】故障診断処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0095】
10 内燃機関
13 排気通路
19,20 酸素センサ
22 電子制御ユニット(ECU)
31 検出素子
43 中央処理ユニット(CPU)
79 第2スイッチ素子
B 素子インピーダンス検出回路
Rs 素子インピーダンス
Rs1 素子インピーダンスの第1しきい値
Rs2 素子インピーダンスの第2しきい値
VOM 素子インピーダンス検出用電圧
VOX 検出電圧
VOX1 印加前検出電圧
VOX2 印加後検出電圧
ΔVOX 印加前後電圧差
ΔVOXs1 印加前後電圧差の第1しきい値
ΔVOXs2 印加前後電圧差の第2しきい値
GA 吸入空気量
GA1 吸入空気量の第1しきい値
GA2 吸入空気量の第2しきい値
Mvox 変動積算量
Mvoxs 変動積算量のしきい値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、
前記酸素センサに対し所定の素子インピーダンス検出用電圧を印加しその後それを引き戻し、この印加過程で前記酸素センサの素子インピーダンスを検出する素子インピーダンス検出回路と、
前記酸素センサの出力電圧を検出するためのセンサ出力電圧検出回路と、
前記センサ出力電圧検出回路によって検出された前記印加前後の酸素センサ出力電圧の電圧差又はその絶対値が所定値より大きいとき、少なくとも前記素子インピーダンス検出回路により検出された素子インピーダンスの値に応じて、前記酸素センサの故障と、前記素子インピーダンス検出回路の故障とを区別して判定するインピーダンス基準故障判定手段と
を備えたことを特徴とする酸素センサの故障診断装置。
【請求項2】
前記インピーダンス基準故障判定手段は、前記検出された素子インピーダンスの値が所定値より大きいとき前記素子インピーダンス検出回路の故障と判定する
ことを特徴とする請求項1記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項3】
前記インピーダンス基準故障判定手段は、前記検出された素子インピーダンスの値が所定値より小さいとき前記酸素センサの故障と判定する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項4】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、
前記酸素センサに対し所定の素子インピーダンス検出用電圧を印加しその後それを引き戻し、この印加過程で前記酸素センサの素子インピーダンスを検出する素子インピーダンス検出回路と、
前記酸素センサの出力電圧を検出するためのセンサ出力電圧検出回路と、
前記内燃機関の吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
前記素子インピーダンス検出回路により検出された素子インピーダンスの値が所定値より小さいとき、少なくとも前記吸入空気量検出手段により検出された前記吸入空気量の値に応じて、前記酸素センサの故障と、前記素子インピーダンス検出回路の故障とを区別して判定する空気量基準故障判定手段と
を備えたことを特徴とする酸素センサの故障診断装置。
【請求項5】
前記酸素センサの出力電圧の変動積算量を算出する変動積算量算出手段をさらに備え、
前記空気量基準故障判定手段は、前記検出された吸入空気量の値が中程度の値であり、且つ、前記変動積算量算出手段により算出された変動積算量の値が所定値より大きいとき、前記酸素センサの故障と判定する
ことを特徴とする請求項4記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項6】
前記空気量基準故障判定手段は、前記検出された吸入空気量の値が低又は高程度の値であり、且つ、前記センサ出力電圧検出回路によって検出された前記印加前後の酸素センサ出力電圧の電圧差又はその絶対値が所定値より大きいとき、前記素子インピーダンス検出回路の故障と判定する
ことを特徴とする請求項4又は5記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項7】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、
前記酸素センサに対し所定の素子インピーダンス検出用電圧を印加しその後それを引き戻し、この印加過程で前記酸素センサの素子インピーダンスを検出する素子インピーダンス検出回路と、
前記酸素センサの出力電圧を検出するためのセンサ出力電圧検出回路と、
前記内燃機関の吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
前記検出された酸素センサの出力電圧の変動積算量を算出する変動積算量算出手段と、
前記素子インピーダンス検出回路により検出された素子インピーダンスの値及び前記吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量の値の少なくとも一つと、前記センサ出力電圧検出回路によって検出された前記印加前後の酸素センサ出力電圧の電圧差又はその絶対値及び前記変動積算量算出手段により算出された変動積算量の値の少なくとも一つとに基づき、前記酸素センサの故障と、前記素子インピーダンス検出回路の故障とを区別して判定するインピーダンス・空気量基準故障判定手段と
を備えたことを特徴とする酸素センサの故障診断装置。
【請求項8】
前記素子インピーダンス検出回路の故障は、前記酸素センサからの電圧引き戻し時にONされるスイッチ素子の故障である
ことを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の酸素センサの故障診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−76191(P2008−76191A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254843(P2006−254843)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】