説明

金属の回収方法

【課題】粉砕操作という簡便な方法で金属を回収することができ、容易に実施可能な金属の回収方法を提供する。
【解決手段】アンモニアガス雰囲気下または窒素ガス雰囲気下で、密封容器内に、粉砕用ボールと、所定の金属を含む金属酸化物から成る化合物の粉末と、アルカリ金属の窒化物の粉末とを封入する。密封容器を所定時間、所定の速度で回転させて、化合物の粉末と窒化物の粉末とを混合して粉砕し、所定の金属を含有する混合粉末を生成する。生成された混合粉末を水洗して、所定の金属を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非加熱で金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属を回収する方法として、非鉄金属酸化物などを含む廃棄物に対して還元ガス雰囲気下で熱処理を施し、廃棄物中の有機系物質を還元熱分解反応によってガス化しながら分離、除去する方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、金属インジウムを回収する方法として、ITOを塩酸や硝酸などの酸に溶出させた後、硫化物法、もしくは水酸化物法やキレート樹脂によって他の金属イオンを除去、溶媒抽出することによって、インジウムを分離、回収する方法(例えば、特許文献2参照)や、IXOなどのインジウム化合物を粉砕し、カーボン粉末と混合し、この混合粉を窒素雰囲気で1250℃、20時間加熱還元し、金属インジウムを得る方法(例えば、特許文献3参照)や、インジウム−スズ合金を酸で溶解し、この溶解液にシュウ酸化合物を添加して、スズ沈殿を生成させ、このシュウ酸スズ沈殿を固液分離した濾液にインジウムメタルを添加して残留するスズを析出させて脱スズを行い、この脱スズ濾液に亜鉛やアルミニウムなどの卑金属を添加してインジウムを析出させる方法(例えば、特許文献4参照)がある。金属スズを回収する方法として、気密性容器に酸化スズとけい素とを封入し、粉砕操作により還元し、スズ含有粉末を得る方法も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−194596号公報
【特許文献2】特開2006−206990号公報
【特許文献3】特開2002−3961号公報
【特許文献4】特開2007−9274号公報
【非特許文献1】P.Patal, S.Roy, I.L.-Seok Kim, P.N.Kumta,“Synthesisand characterization of tin and antimony based composites derived bymechanochemical in situ reduction of oxides”,Materials Science and Engineering,2004,B111,p.237-241
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1乃至4および非特許文献1に記載の従来の金属の回収方法では、回収プロセスが複雑であるという課題があった。分離、回収したインジウムやスズなどの金属は、リサイクルするために別途電解精製などをする必要があり、また、インジウムを分離、回収する際には、pH調整を行うため多量のアルカリ化剤が必要であることから、回収プロセスはさらに複雑になる。さらに、高温を要することや、排出される共存金属蒸気に対する安全上の加護等が必要であることから、装置が大型になり、工業的に実施するのが困難であるという課題もあった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、粉砕操作という簡便な方法で金属を回収することができ、容易に実施可能な金属の回収方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る金属の回収方法は、所定の金属を含む化合物の粉末とアルカリ金属の窒化物の粉末とを、非酸素雰囲気下で混合して粉砕し、前記所定の金属を含有する混合粉末を生成することを、特徴とする。
【0007】
本発明に係る金属の回収方法は、非酸素雰囲気下での粉砕操作という簡便な方法で、金属を回収することができる。また、原料に機械的エネルギーを与えて化学反応を促進するメカノケミカル反応を利用したものであり、反応が密封系で、反応に際して特段加熱する必要がない。このように、非加熱であるため、温度制御や安全装備などが不要であり、装置を小型化することができ、工業的な実施が容易である。
【0008】
本発明に係る金属の回収方法は、生成された前記混合粉末を水洗して前記所定の金属を得ることが好ましい。この場合、水洗により容易に金属を回収することかできる。
【0009】
本発明に係る金属の回収方法は、前記非酸素雰囲気下で、密封容器内に粉砕用ボールと前記化合物の粉末と前記窒化物の粉末とを封入し、前記密封容器を所定時間、所定の速度で回転させて、前記化合物の粉末と前記窒化物の粉末とを混合して粉砕することが好ましい。この場合、化合物の粉末と窒化物の粉末とを容易に混合、粉砕することができ、効率良く金属を回収することができる。粉砕処理には、市販のボールミルを使用することができる。
【0010】
本発明に係る金属の回収方法で、前記非酸素雰囲気はアンモニアガス雰囲気または窒素ガス雰囲気であることが好ましい。また、本発明に係る金属の回収方法で、前記化合物は前記所定の金属を含む金属酸化物であることが好ましい。この場合、特に高品質の金属を効率良く回収することができる。
【0011】
本発明に係る金属の回収方法で、前記所定の金属は、前記化合物の粉末と前記窒化物の粉末とから前記混合粉末を生成する反応のギブスの自由エネルギーの変化が負になる金属から成ることが好ましい。特に、本発明に係る金属の回収方法で、前記所定の金属は、ナトリウム、カリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、モリブデン、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、セシウム、タングステン、水銀、タリウム、鉛、またはビスマスから成ることが好ましい。この場合、原料である化合物の粉末および窒化物の粉末に機械的エネルギーを与えることにより、容易に化学反応を起こすことができ、効率良く金属を回収することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粉砕操作という簡便な方法で金属を回収することができ、容易に実施可能な金属の回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図8は、本発明の実施の形態の金属の回収方法を示している。
本発明の実施の形態の金属の回収方法は、まず、非酸素雰囲気下で、密封容器内に、所定の金属を含む金属酸化物から成る化合物の粉末と、アルカリ金属の窒化物の粉末と、粉砕用ボールとを封入する。非酸素雰囲気は、アンモニアガス雰囲気または窒素ガス雰囲気である。封入した後、密封容器を所定時間、所定の速度で回転させて、化合物の粉末と窒化物の粉末とを混合して粉砕する。これにより、所定の金属を含有する混合粉末を生成することができる。この生成された混合粉末を水洗して、所定の金属の塊を得ることができる。
【0014】
このように、本発明の実施の形態の金属の回収方法は、非酸素雰囲気下での粉砕操作という簡便な方法で、高品質の金属を効率よく回収することができる。所定の金属を塊として回収できるため、取扱いが容易である。また、原料に機械的エネルギーを与えて化学反応を促進するメカノケミカル反応を利用したものであり、反応が密封系で、反応に際して特段加熱する必要がない。このように、非加熱であるため、温度制御や安全装備などが不要であり、装置を小型化することができ、工業的な実施が容易である。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施の形態の金属の回収方法を利用して、アンモニアガス雰囲気下で、酸化インジウムからインジウムを回収する試験を行った。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製の密封容器にジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化インジウム粉末2gと、窒化リチウム粉末0.76gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密閉後、真空排気した。次に、圧力が0.8MPaになるように、高純度アンモニアガスを密封容器に装填し、粉砕装置により、密封容器を300rpmで、2時間、回転させ、ボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図1に示すように、インジウムを含んでいることが確認された。
【0016】
このインジウム含有粉末と蒸留水とを、粉砕用ボールとともに密封容器に充填し、粉砕装置により、300rpmで10分間回転させて水洗を行った。こうして生成されたインゴットを電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析したところ、図2に示すように、インジウムであることが確認された。生成されたインジウムの塊は、5〜10mm程度の大きさであった。なお、このとき、(化学反応式1)に示す化学反応が発生していると考えられる。
(化学反応式1) In2O3 + Li3N + NH3→ 2In + 3LiOH + N2
【0017】
[比較例1]
比較のため、密封容器に窒化リチウム粉末を添加せずに粉砕を行った。生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図3(a)に示すように、酸化インジウムであることが確認された。
【0018】
[比較例2]
比較のため、密封容器にアンモニアガスを装填せずに粉砕を行った。生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図3(b)に示すように、酸化インジウムとインジウムとの混合粉末であることが確認された。
【0019】
図3に示すように、本発明の実施の形態の金属の回収方法によれば、比較例1および比較例2と比べて、高品質の金属を効率良く回収することができることが確認された。
【実施例2】
【0020】
本発明の実施の形態の金属の回収方法を利用して、窒素ガス雰囲気下で、酸化インジウムからインジウムを回収する試験を行った。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製の密封容器にジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化インジウム粉末2gと、窒化リチウム粉末0.76gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密閉後、真空排気した。次に、圧力が0.8MPaになるように、高純度窒素ガスを密封容器に装填し、粉砕装置により、密封容器を300rpmで、2時間、回転させ、ボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図4に示すように、インジウムを含んでいることが確認された。
【0021】
このインジウム含有粉末と蒸留水とを、粉砕用ボールとともに密封容器に充填し、粉砕装置により、300rpmで10分間回転させて水洗を行った。こうして生成されたインゴットを電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析したところ、インジウムであることが確認された。生成されたインジウムの塊は、5〜10mm程度の大きさであった。なお、このとき、(化学反応式2)に示す化学反応が発生していると考えられる。
(化学反応式2) In2O3 + 2Li3N → 2In + 3Li2O + N2
【実施例3】
【0022】
本発明の実施の形態の金属の回収方法を利用して、アンモニアガス雰囲気下で、酸化スズからスズを回収する試験を行った。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製の密封容器にジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化スズ粉末2gと、窒化リチウム粉末1.4gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密閉後、真空排気した。次に、圧力が0.8MPaになるように、高純度アンモニアガスを密封容器に装填し、粉砕装置により、密封容器を300rpmで、2時間、回転させ、ボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図5に示すように、スズを含んでいることが確認された。図5には、酸化リチウムのピークも見られるが、スズが水に溶解しないのに対して、酸化リチウムは水に溶解するため、容易に分離することができる。
【0023】
このスズ含有粉末と蒸留水とを、粉砕用ボールとともに密封容器に充填し、粉砕装置により、300rpmで10分間回転させて水洗を行い、スズのインゴットを回収した。回収されたスズの塊は、2〜5mm程度の大きさであった。なお、このとき、(化学反応式3)に示す化学反応が発生していると考えられる。
(化学反応式3) 3SnO2 + 2Li3N + 2NH3 → 3Sn + 6LiOH + 2N2
【実施例4】
【0024】
本発明の実施の形態の金属の回収方法を利用して、窒素ガス雰囲気下で、酸化スズからスズを回収する試験を行った。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製の密封容器にジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化スズ粉末2gと、窒化リチウム粉末1.4gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密閉後、真空排気した。次に、圧力が0.8MPaになるように、高純度窒素ガスを密封容器に装填し、粉砕装置により、密封容器を300rpmで、2時間、回転させ、ボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図6に示すように、スズを含んでいることが確認された。図6には、酸化リチウムのピークも見られるが、スズが水に溶解しないのに対して、酸化リチウムは水に溶解するため、容易に分離することができる。
【0025】
このスズ含有粉末と蒸留水とを、粉砕用ボールとともに密封容器に充填し、粉砕装置により、300rpmで10分間回転させて水洗を行い、スズのインゴットを回収した。回収されたスズの塊は、5〜10mm程度の大きさであった。なお、このとき、(化学反応式4)に示す化学反応が発生していると考えられる。
(化学反応式4) 3SnO2 + 4Li3N → 3Sn + 6Li2O + 2N2
【実施例5】
【0026】
本発明の実施の形態の金属の回収方法を利用して、窒素ガス雰囲気下で、酸化タングステンからタングステンを回収する試験を行った。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製の密封容器にジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化タングステン粉末2gと、窒化リチウム粉末0.90gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密閉後、真空排気した。次に、圧力が0.8MPaになるように、高純度窒素ガスを密封容器に装填し、粉砕装置により、密封容器を300rpmで、2時間、回転させ、ボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図7に示すように、タングステンを含んでいることが確認された。図7には、酸化リチウムのピークも見られるが、タングステンが水に溶解しないのに対して、酸化リチウムは水に溶解するため、容易に分離することができる。
【0027】
このタングステン含有粉末と蒸留水とを、粉砕用ボールとともに密封容器に充填し、粉砕装置により、300rpmで10分間回転させて水洗を行い、粉状のタングステンを回収した。なお、このとき、(化学反応式5)に示す化学反応が発生していると考えられる。
(化学反応式5) WO3 + 2Li3N → W + 3Li2O + N2
【実施例6】
【0028】
本発明の実施の形態の金属の回収方法を利用して、窒素ガス雰囲気下で、酸化モリブデンからモリブデンを回収する試験を行った。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製の密封容器にジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化モリブデン粉末1.5gと、窒化リチウム粉末1.09gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密閉後、真空排気した。次に、圧力が0.8MPaになるように、高純度窒素ガスを密封容器に装填し、粉砕装置により、密封容器を300rpmで、2時間、回転させ、ボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図8に示すように、モリブデンを含んでいることが確認された。図8には、酸化リチウムのピークも見られるが、モリブデンが水に溶解しないのに対して、酸化リチウムは水に溶解するため、容易に分離することができる。
【0029】
このモリブデン含有粉末と蒸留水とを、粉砕用ボールとともに密封容器に充填し、粉砕装置により、300rpmで10分間回転させて水洗を行い、粉状のモリブデンを回収した。なお、このとき、(化学反応式6)に示す化学反応が発生していると考えられる。
(化学反応式6) MoO3 + 2Li3N → Mo + 3Li2O + N2
【実施例7】
【0030】
本発明の実施の形態の金属の回収方法を利用して、窒素ガス雰囲気下で、酸化亜鉛から亜鉛を回収する試験を行った。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製の密封容器にジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化亜鉛粉末1.5gと、窒化リチウム粉末0.65gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密閉後、真空排気した。次に、圧力が0.8MPaになるように、高純度窒素ガスを密封容器に装填し、粉砕装置により、密封容器を300rpmで、2時間、回転させ、ボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図9に示すように、亜鉛を含んでいることが確認された。図9には、酸化リチウムのピークも見られるが、亜鉛が水に溶解しないのに対して、酸化リチウムは水に溶解するため、容易に分離することができる。
【0031】
この亜鉛含有粉末と蒸留水とを、粉砕用ボールとともに密封容器に充填し、粉砕装置により、300rpmで10分間回転させて水洗を行い、粉状の亜鉛を回収した。なお、このとき、(化学反応式7)に示す化学反応が発生していると考えられる。
(化学反応式7) 3ZnO + 2Li3N → 3Zn + 3Li2O + N2
【実施例8】
【0032】
本発明の実施の形態の金属の回収方法を利用して、窒素ガス雰囲気下で、酸化ニッケルからニッケルを回収する試験を行った。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製の密封容器にジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化ニッケル粉末1.5gと、窒化リチウム粉末0.70gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密閉後、真空排気した。次に、圧力が0.8MPaになるように、高純度窒素ガスを密封容器に装填し、粉砕装置により、密封容器を300rpmで、2時間、回転させ、ボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図10に示すように、ニッケルを含んでいることが確認された。図10には、酸化リチウムのピークも見られるが、ニッケルが水に溶解しないのに対して、酸化リチウムは水に溶解するため、容易に分離することができる。
【0033】
このニッケル含有粉末と蒸留水とを、粉砕用ボールとともに密封容器に充填し、粉砕装置により、300rpmで10分間回転させて水洗を行い、粉状のニッケルを回収した。なお、このとき、(化学反応式8)に示す化学反応が発生していると考えられる。
(化学反応式8) 3NiO + 2Li3N → 3Ni + 3Li2O + N2
【0034】
[比較例3]
本発明の実施の形態の金属の回収方法を利用して、窒素ガス雰囲気下で、酸化ジルコニウムに対して同様の試験を行った。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製の密封容器にジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化ジルコニウム粉末1.5gと、窒化リチウム粉末0.85gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密閉後、真空排気した。次に、圧力が0.8MPaになるように、高純度窒素ガスを密封容器に装填し、粉砕装置により、密封容器を300rpmで、2時間、回転させ、ボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図11に示すように、酸化ジルコニウムを含んでいるが、ジルコニウムは含まれていないことが確認された。このように、本発明の実施の形態の金属の回収方法では、酸化ジルコニウムからジルコニウムを得ることはできなかった。
【0035】
なお、実施例1乃至8に示したインゴットおよびスズの回収時に発生する(化学反応式1)乃至(化学反応式8)のメカノケミカル反応では、化学反応の前後でのギブスの自由エネルギー(Gibbs free energy)の変化が負になっている。このように、化学反応の前後のギブスの自由エネルギーの変化が負になる金属であれば、本発明の実施の形態の金属の回収方法により金属を回収することができる。金属酸化物から金属を回収する化学反応の前後でのギブスの自由エネルギーの変化が負になる化学反応を、図12に示す。また、金属酸化物から金属を回収する化学反応の前後でのギブスの自由エネルギーの変化が正になる化学反応を、図13に示す。なお、図13に示すように、比較例3の酸化ジルコニウムの場合、酸化ジルコニウムの粉末と窒化物の粉末とからジルコニウムの粉末を生成する反応のギブスの自由エネルギーの変化が正であるため、本発明の実施の形態の金属の回収方法では、ジルコニウムを回収することができなかったと考えられる。
【0036】
図12から、ナトリウム、カリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、モリブデン、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、セシウム、タングステン、水銀、タリウム、鉛、またはビスマスを含む金属酸化物から、本発明の実施の形態の金属の回収方法により、これらの金属を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】アンモニアガス雰囲気下での本発明の実施の形態の金属の回収方法による、(a)粉砕前の酸化インジウムのX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)粉砕後のインジウム含有粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態の金属の回収方法により生成されたインジウムのインゴットの電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析結果を示すグラフである。
【図3】(a)図1に示す金属の回収方法に対して、窒化リチウム粉末を添加しないときの粉砕後の粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)図1に示す金属の回収方法に対して、アンモニアガスを装填しないときの粉砕後の粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(c)図1(b)に示すX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図4】窒素ガス雰囲気下での本発明の実施の形態の金属の回収方法による、(a)粉砕前の酸化インジウムのX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)粉砕後のインジウム含有粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図5】アンモニアガス雰囲気下での本発明の実施の形態の金属の回収方法による、(a)粉砕前の酸化スズのX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)粉砕後のスズ含有粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図6】窒素ガス雰囲気下での本発明の実施の形態の金属の回収方法による、(a)粉砕前の酸化スズのX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)粉砕後のスズ含有粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図7】窒素ガス雰囲気下での本発明の実施の形態の金属の回収方法による、(a)粉砕前の酸化タングステンのX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)粉砕後のタングステン含有粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図8】窒素ガス雰囲気下での本発明の実施の形態の金属の回収方法による、(a)粉砕前の酸化モリブデンのX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)粉砕後のモリブデン含有粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図9】窒素ガス雰囲気下での本発明の実施の形態の金属の回収方法による、(a)粉砕前の酸化亜鉛のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)粉砕後の亜鉛含有粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図10】窒素ガス雰囲気下での本発明の実施の形態の金属の回収方法による、(a)粉砕前の酸化ニッケルのX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)粉砕後のニッケル含有粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図11】窒素ガス雰囲気下での本発明の実施の形態の金属の回収方法による、(a)粉砕前の酸化ジルコニウムのX線回折(XRD)分析結果を示すグラフ、(b)粉砕後の粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態の金属の回収方法による化学反応の前後のギブスの自由エネルギーの変化が負になるときの、化学反応式およびギブスの自由エネルギーを示すテーブルである。
【図13】本発明の実施の形態の金属の回収方法による化学反応の前後のギブスの自由エネルギーの変化が正になるときの、化学反応式およびギブスの自由エネルギーを示すテーブルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の金属を含む化合物の粉末とアルカリ金属の窒化物の粉末とを、非酸素雰囲気下で混合して粉砕し、前記所定の金属を含有する混合粉末を生成することを、特徴とする金属の回収方法。
【請求項2】
生成された前記混合粉末を水洗して前記所定の金属を得ることを、特徴とする請求項1記載の金属の回収方法。
【請求項3】
前記非酸素雰囲気下で、密封容器内に粉砕用ボールと前記化合物の粉末と前記窒化物の粉末とを封入し、前記密封容器を所定時間、所定の速度で回転させて、前記化合物の粉末と前記窒化物の粉末とを混合して粉砕することを、特徴とする請求項1または2記載の金属の回収方法。
【請求項4】
前記非酸素雰囲気はアンモニアガス雰囲気または窒素ガス雰囲気であることを、特徴とする請求項1、2または3記載の金属の回収方法。
【請求項5】
前記化合物は前記所定の金属を含む金属酸化物であることを、特徴とする請求項1、2、3または4記載の金属の回収方法。
【請求項6】
前記所定の金属は、前記化合物の粉末と前記窒化物の粉末とから前記混合粉末を生成する反応のギブスの自由エネルギーの変化が負になる金属から成ることを、特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の金属の回収方法。
【請求項7】
前記所定の金属は、ナトリウム、カリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、モリブデン、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、セシウム、タングステン、水銀、タリウム、鉛、またはビスマスから成ることを、特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の金属の回収方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−274413(P2008−274413A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76384(P2008−76384)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】