説明

金属バナジン酸アパタイトを含む触媒用組成物、該触媒用組成物を用いた炭素−炭素結合形成方法

【課題】 安価で、且つ炭素−炭素結合形成反応、重水素化反応等に対して高い活性を示す固体触媒として有用な触媒用組成物を提供する。
【解決手段】 バナジン酸塩(A)と金属塩(B)とを反応して得られる金属バナジン酸アパタイトを含む触媒用組成物。金属バナジン酸アパタイトには、下記の組成式(I)
10-z(HVO4z(VO46-z(OH)2-z (I)
(式中、Mは金属原子を示し、0≦z≦1である)で表される化合物が含まれる。金属バナジン酸アパタイトとして、例えばカルシウムバナジン酸アパタイトが挙げられる。該金属バナジン酸アパタイトを含む触媒組成物は、マイケル(Michael)反応、クネベナーゲル(Knoevenagel)反応、ヘンリー(Henry)反応、アルドール(Aldol)反応、ディールスアルダー(Diels-Alder)反応、重水素化反応等の触媒として好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、マイケル(Michael)反応、クネベナーゲル(Knoevenagel)反応、ヘンリー(Henry)反応、アルドール(Aldol)反応、ディールスアルダー(Diels-Alder)反応などの炭素−炭素結合形成反応、重水素化反応等の触媒として有用な金属バナジン酸アパタイトを含む触媒用組成物、および該触媒用組成物を用いた炭素−炭素結合形成方法及び重水素化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素−炭素結合の選択的な形成は、ファインケミカルズ合成の基幹となる反応プロセスであり、有機合成化学において重要な位置を占める。マイケル(Michael)反応、アルドール(Aldol)反応などでは、古くから酸塩基触媒として硫酸や塩酸などのブレンステッド酸、塩化アルミニウムやフッ化ホウ素などのルイス酸、又は水酸化ナトリウム、アルカリ金属アルコラート、アミン類に代表される均一系塩基が化学量論又は量論量近く使用されている。これらの試剤は反応性が高いものの、生成物との分離操作が煩雑で、回収・再使用が困難であり、反応器も耐腐食性の高いものを使用する必要がある。また、反応後の中和処理によって、多量の無機塩を再生不可能な廃棄物として生成することが多いため、反応のグリーン度が低いという問題がある。
【0003】
近年、中性条件下での均一系反応を可能とする有機金属錯体を用いた触媒反応も活発に研究されている(J. Am. Chem. Soc., 111, 5954(1989)など)。パラジウムやルテニウムなどの貴金属錯体やチタンなどの前周期遷移金属錯体を用いると、温和な条件下で炭素−炭素結合形成反応が進行するが、厳密な脱水条件を必要とすることや、反応後の生成物の分離、触媒の再使用が困難という実用上の問題がある。
【0004】
Mat. Res. Bull. Vol. 14, pp. 1479-1483, 1979には、硫酸カルシウム等の金属硫酸塩とバナジン酸ナトリウム等とをアルカリの存在下で反応させて種々のヒドロキシアパタイトを調製する方法が開示されている。しかし、こうして得られるヒドロキシアパタイトの触媒作用については全く記載がない。
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 111, 5954(1989)
【非特許文献2】Mat. Res. Bull. Vol. 14, pp. 1479−1483, 1979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、安価で、且つ炭素−炭素結合形成反応や重水素化反応等に対して高い活性を示す固体触媒として有用な触媒用組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、反応に有機溶媒を必要とせず、目的化合物を簡易な手段で大量に製造でき、しかも生成物との分離及び再利用が容易な触媒組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、温和な反応条件下で反応が進行し、有機溶媒を必要とせず、目的化合物を簡易な手段で大量に製造でき、しかも生成物と触媒とを容易に分離できる炭素−炭素結合形成方法及び重水素化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、バナジン酸塩(A)と金属塩(B)との反応により容易に調製できる金属バナジン酸アパタイトが、マイケル(Michael)反応、クネベナーゲル(Knoevenagel)反応、ヘンリー(Henry)反応、アルドール(Aldol)反応、ディールスアルダー(Diels-Alder)反応などの炭素−炭素結合形成反応、及び重水素化反応等に極めて高い活性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、バナジン酸塩(A)と金属塩(B)とを反応して得られる金属バナジン酸アパタイトを含む触媒用組成物を提供する。金属バナジン酸アパタイトには、下記の組成式(I)
10-z(HVO4z(VO46-z(OH)2-z (I)
(式中、Mは金属原子を示し、0≦z≦1である)
で表される化合物が含まれる。金属バナジン酸アパタイトとして、例えばカルシウムバナジン酸アパタイトが挙げられる。
【0008】
本発明は、また、上記の触媒用組成物の存在下、有機化合物を反応させて炭素−炭素結合を形成することを特徴とする炭素−炭素結合形成方法を提供する。この方法において、例えば、マイケル(Michael)反応、クネベナーゲル(Knoevenagel)反応、ヘンリー(Henry)反応、アルドール(Aldol)反応又はディールスアルダー(Diels-Alder)反応により炭素−炭素結合を形成してもよい。
【0009】
本発明は、さらに、上記の触媒用組成物の存在下、有機化合物を重水と反応させて重水素化することを特徴とする重水素化方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の触媒用組成物は、安価であり、且つ不均一系触媒として炭素−炭素結合形成反応、重水素化反応等に対して極めて高い活性及び選択性を示す。また、この触媒は、高い活性・選択性を保持したまま再利用が可能である。さらに、反応に有機溶媒を必要とせず、取扱性、反応の操作性に優れている。本発明の炭素−炭素結合形成方法及び重水素化方法によれば、温和な条件下で反応が進行し、有機溶媒を必要とせず、目的化合物を簡易な手段で且つ高い収率で得ることができ、しかも生成物と触媒とを容易に分離することができる。従って、目的物の大量生産に適しており、またグリーンケミストリー上、非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[触媒用組成物]
本発明の触媒用組成物は、バナジウム酸塩(=バナジン酸塩)(A)と金属塩(B)との反応により得られる金属バナジン酸アパタイトを含む。本発明の触媒用組成物は前記金属バナジン酸アパタイトのみで構成されていてもよく、金属バナジン酸アパタイトとともに他の成分を含んでいてもよい。バナジウム酸塩(A)としては、オルトバナジウム酸塩(=オルトバナジン酸塩)[M′I3VO4(M′は金属原子を表す)]を使用できる。バナジウム酸塩(A)の代表的な例として、バナジウム酸ナトリウム、バナジウム酸カリウム、バナジウム酸カルシウム、バナジウム酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0012】
金属塩(B)には無機酸又は有機酸の金属塩が含まれる。該無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸などが挙げられる。また、有機酸としては、酢酸などのカルボン酸、メタンスルホン酸などのスルホン酸が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;亜鉛塩、ニッケル塩、カドミウム塩等の遷移金属塩などが挙げられる。好ましい金属塩(B)として、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウムなどのアルカリ金属の無機酸塩が挙げられる。そのなかでも、カルシウムの無機酸塩、特に硫酸カルシウムが好ましい。
【0013】
金属バナジン酸アパタイトには前記式(I)で表される組成式を有する化合物が含まれる。式(I)中、Mは金属原子を示し、0≦z≦1である。Mは前記金属塩(B)に対応する金属である。従って、Mとして、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等が挙げられる。好ましい金属バナジン酸アパタイトは、Mがアルカリ土類金属であるアルカリ土類金属バナジン酸アパタイトである。特にMがカルシウムであるカルシウムバナジン酸アパタイトが好ましい。zは、好ましくは0〜0.5の範囲であり、特に0であるのが好ましい。
【0014】
金属バナジン酸アパタイトは、バナジウム酸塩(A)と金属塩(B)とを、例えば水性溶媒中で反応させることにより製造することができる。水性溶媒としては、水、水と水溶性有機溶媒(メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール;アセトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性有機溶媒など)との混合液が挙げられる。これらの中でも水が好ましい。
【0015】
バナジウム酸塩(A)の使用量は、金属塩(B)1モルに対して、例えば0.3〜1モル、好ましくは0.5〜0.7モル、さらに好ましくは約0.6モルである。
【0016】
バナジウム酸塩(A)と金属塩(B)との反応は、通常、アルカリ存在下で行われる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。アルカリの使用量は、金属塩(B)1モルに対して、例えば0.2〜10モル、好ましくは0.5〜5モル、さらに好ましくは1〜3モル程度である。
【0017】
反応温度は、バナジウム酸塩(A)の種類や金属塩(B)の種類によっても異なるが、通常10〜200℃、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは70〜130℃程度である。
【0018】
バナジウム酸塩(A)と金属塩(B)との反応により生成した固体を濾過、遠心分離等によって分離し、必要に応じて、水、アセトン等の水溶性有機溶媒で洗浄し、乾燥した後、焼成することにより目的の金属バナジン酸アパタイトを得ることができる。焼成温度は、例えば300℃以上、好ましくは500℃以上、さらに好ましくは700℃以上である。焼成温度の上限は、溶融しない範囲であればよいが、操作性や比表面積の大きさ等を考慮すると、例えば1000℃、好ましくは900℃程度である。焼成して得られた金属バナジン酸アパタイトは、適当な大きさに粉砕して粒状、粉末状等の形態で、或いは粉末状のものを打錠、成形することにより使用に供される。
【0019】
こうして得られる金属バナジン酸アパタイトは、酸−塩基の両機能を表面に持っており、例えば有機合成反応における固体触媒、不均一系触媒として有用である。金属バナジン酸アパタイトの比表面積は、一般に10m2/g以上(例えば10〜300m2/g程度)、好ましくは15m2/g以上(例えば15〜100m2/g程度)である。
【0020】
[炭素−炭素結合形成方法]
本発明の炭素−炭素結合形成方法では、上記金属バナジン酸アパタイトを含む触媒用組成物の存在下、有機化合物を反応させて炭素−炭素結合を形成する。炭素−炭素結合を形成する反応の種類としては、特に限定されず、例えば、酸又は塩基を触媒として進行する広範囲の反応が挙げられる。なかでも、極めて有利に適用できる炭素−炭素結合形成反応として、マイケル(Michael)反応、クネベナーゲル(Knoevenagel)反応、アルドール(Aldol)反応、ディールスアルダー(Diels-Alder)反応、及びヘンリー反応が挙げられる。
【0021】
[マイケル(Michael)反応]
マイケル反応(マイケル付加反応)は一般に下記反応式で表される。
【化1】

(式中、Z1、Z2は同一又は異なって電子吸引基を示す。R1、R2、R3、R4、R5は、同一又は異なって、水素原子又は非金属原子含有基を示す。Z1、R1、R2のうち少なくとも2つが結合して隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよい。Z2、R3、R4、R5のうち少なくとも2つが結合して隣接する炭素原子又は炭素−炭素二重結合とともに環を形成していてもよい)
【0022】
この反応では、活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(1)と、二重結合を構成する炭素原子に電子吸引基Z2が結合したオレフィン化合物(2)とが反応して、化合物(1)における活性メチレン又は活性メチンを構成する炭素原子が化合物(2)における電子吸引基Z2のβ位の炭素原子に結合した付加生成物(3)が生成する。なお、この反応は分子内でも起こりうる。
【0023】
前記Z1、Z2における電子吸引基としては、例えば、アシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ヘキサノイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アセトアセチル基等のC1-10脂肪族アシル基;シクロヘキサンカルボニル基等のC3-15脂環式アシル基;ベンゾイル基等のC6-14芳香族アシル基;ピリジンカルボニル基等の複素環式アシル基など)、置換オキシカルボニル基(エステル基)(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基等のC1-10アルコキシ−カルボニル基;ビニルオキシカルボニル基等のC2-10アルケニルオキシカルボニル基;シクロヘキシルオキシ−カルボニル基等のC3-15シクロアルキルオキシカルボニル基;フェニルオキシカルボニル基等のC6-14アリールオキシ−カルボニル基;C7-15ベンジルオキシカルボニル基等のアラルキルオキシカルボニル基など)、置換若しくは無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基など)、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルフィニル基、硫黄酸基、硫黄酸エステル基(例えば、メタンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基など)、芳香族性環式基(例えば、フェニル基など)などが挙げられる。
【0024】
1、R2、R3、R4、R5における非金属原子含有基としては、例えば、ハロゲン原子、炭化水素基、複素環式基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換若しくは無置換カルバモイル基、シアノ基、アシル基、ニトロ基、アルキルスルフィニル基、硫黄酸基、硫黄酸エステル基、ヒドロキシル基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、置換若しくは無置換アミノ基、これらが複数個結合した基などが挙げられる。前記カルボキシル基、硫黄酸基、ヒドロキシル基、メルカプト基は保護基で保護されていてもよい。保護基としては、有機合成の分野で慣用の保護基を使用できる。
【0025】
前記ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素原子が挙げられる。炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが複数結合した基が挙げられる。脂肪族炭化水素基として、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、ビニル、アリル、エチニル、1−プロピニル基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜8)程度の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロオクチル、シクロデシル、シクロドデシル、ノルボルニル、アダマンチル基などの炭素数3〜20(好ましくは3〜15)程度の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、橋架け炭素環式基等)などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜14程度の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0026】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基として、例えば、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル基などが挙げられる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基として、例えば、ベンジル、2−フェニルエチル、1−フェニルエチル、3−フェニルプロピル等のアラルキル基;2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル基などが挙げられる。
【0027】
1、R2、R3、R4、R5における非金属原子含有基としての複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、フラン、テトラヒドロフラン、オキサゾール、イソオキサゾールなどの5員環、4−オキソ−4H−ピラン、テトラヒドロピラン、モルホリンなどの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメン、クロマン、イソクロマンなどの縮合環など)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾールなどの5員環、4−オキソ−4H−チオピランなどの6員環、ベンゾチオフェンなどの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾールなどの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジンなどの6員環、インドール、インドリン、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリンなどの縮合環など)などが挙げられる。
【0028】
1、R2、R3、R4、R5における非金属原子含有基としての置換オキシカルボニル基、置換若しくは無置換カルバモイル基、アシル基、アルキルスルフィニル基、硫黄酸エステル基としては、前記電子吸引基として例示したものと同様の基が挙げられる。置換オキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ基等のC1-6アルコキシ基;シクロヘキシルオキシ基等のシクロアルキルオキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;アセチルオキシ、プロピオニルオキシ基等のアシルオキシ基などが挙げられる。置換チオ基としては、例えば、メチルチオ、エチルチオ基等のC1-6アルキルチオ基;シクロヘキシルチオ基等のシクロアルキルチオ基;フェニルチオ基等のアリールチオ基;アセチルチオ基等のアシルチオ基などが挙げられる。置換若しくは無置換アミノ基としては、例えば、アミノ基;メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ基等のモノ又はジC1-6アルキルアミノ基などが挙げられる。
【0029】
1、R1、R2のうち少なくとも2つが結合して隣接する炭素原子とともに形成する環、Z2、R3、R4、R5のうち少なくとも2つが結合して隣接する炭素原子又は炭素−炭素二重結合とともに形成する環としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロオクタン環、シクロデカン環、シクロドデカン環、デカリン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、アダマンタン環などの3〜20員(好ましくは3〜15員)程度の非芳香族性炭素環(シクロアルカン環、シクロアルケン環、橋かけ炭素環);ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、オキシラン環、オキセタン環、オキソラン環、オキサン環、オキセパン環、チオラン環、チアン環などの窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する非芳香族性複素環が挙げられる。これらの環は、置換基を有していてもよく、また他の環(非芳香族性環又は芳香族性環)が縮合していてもよい。
【0030】
1、R2、R3、R4、R5としては、特に、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基であるのが好ましい。また、Z1、R1、R2のうち少なくとも2つが結合して隣接する炭素原子とともに非芳香族性炭素環を構成するのも好ましい。また、式(1)において、R1、R2のうち少なくとも1つは電子吸引基であるのが好ましい。
【0031】
活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(1)の代表的な例として、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等のマロン酸エステル;シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル等のシアノ酢酸エステル;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、3−オキソペンタン酸メチル、3−オキソペンタン酸エチル、2−メチル−3−オキソブタン酸メチル、2−メチル−3−オキソブタン酸エチル、ベンゾイル酢酸メチル、ベンゾイル酢酸エチル、2−オキソシクロペンタンカルボン酸メチル、2−オキソシクロペンタンカルボン酸エチル、2−オキソシクロヘキサンカルボン酸メチル、2−オキソシクロヘキサンカルボン酸エチルなどのβ−ケトエステル;アセチルアセトン、3−メチル−2,4−ペンタンジオン、2−アセチルシクロヘキサン−1−オン、2−アセチルシクロペンタン−1−オンなどのβ−ジケトン;酢酸エチル、酢酸プロピル等のカルボン酸エステル;アセトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等のケトン及び対応するケタール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド及び対応するアセタール;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル;ニトロメタン等のニトロ化合物;スルホン類;インデン、フルオレンなどの芳香環と非芳香族性炭素環との縮合化合物などが挙げられる。
【0032】
二重結合を構成する炭素原子に電子吸引基Z2が結合したオレフィン化合物(2)の代表的な例として、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のα,β−不飽和カルボン酸エステル;メチルビニルケトン、2−シクロヘキセン−1−オン等のα,β−不飽和ケトン;アクロレイン等のα,β−不飽和アルデヒド;アクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル;α,β−不飽和ニトロ化合物;α,β−不飽和スルホン化合物などが挙げられる。
【0033】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、水、有機溶媒、これらの混合溶媒の何れであってもよいが、特に水が好ましい。
【0034】
化合物(1)と化合物(2)との比率は適宜選択できるが、一般に、化合物(2)の使用量は、化合物(1)1モルに対して、0.5〜3モル、好ましくは0.8〜1.8程度である。金属バナジン酸アパタイト触媒の使用量は原料成分の種類によっても異なるが、バナジウム(V)として、化合物(1)に対して、例えば0.0001〜10モル%、好ましくは0.0005〜5モル%程度の範囲で適宜選択できる。反応温度は原料成分の種類等に応じて適宜選択でき、例えば0〜150℃、好ましくは20〜100℃程度である。反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方式で行うことができる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0035】
なお、前記活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(1)に代えて、アミン等の他の活性水素を有する化合物を用いることもできる。この場合も、同様の付加反応が進行し、対応する付加生成物を得ることができる。
【0036】
[クネベナーゲル(Knoevenagel)反応]
クネベナーゲル反応は一般に下記反応式で表される。
【化2】

(式中、Z3、Z4は同一又は異なって電子吸引基を示す。R6、R7は、同一又は異なって、水素原子又は非金属原子含有基を示す。Z3、Z4は互いに結合して隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよい。また、R6、R7は互いに結合して隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよい)
【0037】
この反応では、活性メチレンを有する化合物(4)と、カルボニル化合物(5)とが反応して、脱水縮合したオレフィン化合物(6)が生成する。なお、この反応は分子内でも起こりうる。
【0038】
3、Z4における電子吸引基としては、前記Z1、Z2における電子吸引基と同様のものが挙げられる。R6、R7における非金属原子含有基としては、前記R1、R2、R3、R4、R5における非金属原子含有基と同様のものが挙げられる。Z3、Z4が互いに結合して隣接する炭素原子とともに形成する環、R6、R7が互いに結合して隣接する炭素原子とともに形成する環としては、前記Z1、R1、R2のうち少なくとも2つが結合して隣接する炭素原子とともに形成する環と同様の環が挙げられる。R6、R7としては、特に、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基であるのが好ましい。また、R6、R7のうち一方は水素原子であるのが好ましい。
【0039】
活性メチレンを有する化合物(4)の代表的な例として、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等のマロン酸エステル;シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル等のシアノ酢酸エステル;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、3−オキソペンタン酸メチル、3−オキソペンタン酸エチル、ベンゾイル酢酸メチル、ベンゾイル酢酸エチルなどのβ−ケトエステル;アセチルアセトンなどのβ−ジケトンなどが挙げられる。
【0040】
カルボニル化合物(5)の代表的な例として、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ヘキサナール、フェニルアセトアルデヒド、シクロヘキサンカルボアルデヒド、3−シクロヘキセニルアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−メトキシベンズアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ピリジンカルボアルデヒドなどのアルデヒド(脂肪族アルデヒド、脂環式アルデヒド、芳香族アルデヒド、複素環アルデヒド等);アセトン、メチルエチルケトン、3−ペンタノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、1−インダノンなどのケトン(鎖状ケトン、環状ケトン)が挙げられる。
【0041】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、水、有機溶媒、これらの混合溶媒の何れであってもよいが、なかでも水、エタノール等のアルコール、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、又はこれらの混合溶媒が好ましく、とりわけ水が好ましい。
【0042】
化合物(4)と化合物(5)との比率は適宜選択できるが、一般に、化合物(5)の使用量は、化合物(4)1モルに対して、0.5〜2モル、好ましくは0.8〜1.5程度である。金属バナジン酸アパタイト触媒の使用量は原料成分の種類によっても異なるが、バナジウム(V)として、化合物(4)に対して、例えば0.0001〜10モル%、好ましくは0.0005〜5モル%程度の範囲で適宜選択できる。反応温度は原料成分の種類等に応じて適宜選択でき、例えば0〜120℃、好ましくは10〜60℃程度である。反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方式で行うことができる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0043】
[アルドール(Aldol)反応]
アルドール反応は一般に下記反応式で表される。
【化3】

(式中、R8、R9、R10、R11は、同一又は異なって、水素原子又は非金属原子含有基を示す。R8、R9は互いに結合して隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよい。また、R10、R11は互いに結合して隣接する炭素鎖とともに環を形成していてもよい)
【0044】
この反応では、カルボニル化合物(7)と、カルボニル基の隣接位にメチレン基を有するカルボニル化合物(8)とが反応して、対応するアルドール化合物(β−ヒドロキシカルボニル化合物)(9)が生成し、条件によっては、さらに脱水反応が進行して対応するα,β−不飽和カルボニル化合物(10)が生成する。なお、分子内に2つのカルボニル基(一方のカルボニル基の隣接位にはメチレン基が存在する)を有する化合物は分子内でアルドール反応が進行して、対応するアルドール化合物及び/又はα,β−不飽和カルボニル化合物が生成する。
【0045】
8、R9、R10、R11における非金属原子含有基としては、前記R1、R2、R3、R4、R5における非金属原子含有基と同様のものが挙げられる。R8、R9が互いに結合して隣接する炭素原子とともに形成する環、R10、R11が互いに結合して隣接する炭素鎖とともに形成する環としては、前記Z1、R1、R2のうち少なくとも2つが結合して隣接する炭素原子とともに形成する環と同様の環が挙げられる。R8、R9、R11としては、特に、置換基を有していてもよい炭化水素基であるのが好ましい。R10としては、特に、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であるのが好ましい。
【0046】
カルボニル化合物(7)の代表的な例としては、前記カルボニル化合物(5)の代表的な例と同様の化合物が挙げられる。カルボニル基の隣接位にメチレン基を有するカルボニル化合物(8)の代表的な例として、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ヘキサナール、フェニルアセトアルデヒドなどのアルデヒド;アセトン、アセトフェノン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン(鎖状ケトン、環状ケトン)が挙げられる。また、分子内に2つのカルボニル基(一方のカルボニル基の隣接位にはメチレン基が存在する)を有する化合物として、例えば、2,5−ヘキサンジオンなどが挙げられる。
【0047】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、水、有機溶媒、これらの混合溶媒の何れであってもよいが、なかでも水、エタノール等のアルコール、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、又はこれらの混合溶媒が好ましく、とりわけ水が好ましい。
【0048】
化合物(7)と化合物(8)との比率は適宜選択できるが、一般に、化合物(8)の使用量は、化合物(7)1モルに対して、0.5〜2モル、好ましくは0.8〜1.5程度である。金属バナジン酸アパタイト触媒の使用量は原料成分の種類によっても異なるが、バナジウム(V)として、化合物(7)に対して、例えば0.0001〜10モル%、好ましくは0.0005〜5モル%程度の範囲で適宜選択できる。反応温度は原料成分の種類等に応じて適宜選択でき、例えば0〜120℃、好ましくは10〜60℃程度である。反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方式で行うことができる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0049】
[ディールスアルダー(Diels-Alder)反応]
ディールスアルダー反応は一般に下記反応式で表される。
【化4】

(式中、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23は同一又は異なって、水素原子又は非金属原子含有基を示す。R12、R13、R14、R15、R16、R17のうち少なくとも2つが互いに結合して隣接する炭素原子又は炭素鎖とともに環を形成していてもよい。また、R18、R19、R20、R21のうち少なくとも2つが互いに結合して隣接する炭素原子又は炭素鎖とともに環を形成していてもよい)
【0050】
この反応では、ジエン(11)と、ジエノフィル[アルケン(12a)又はアルキン(12b)]とが反応(付加)して、対応する環化生成物[シクロヘキセン化合物(13a)又はシクロヘキサジエン化合物(13b)]が生成する。なお、この反応は分子内でも起こりうる。
【0051】
12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23における非金属原子含有基としては、前記R1、R2、R3、R4、R5における非金属原子含有基と同様のものが挙げられる。R12、R13、R14、R15、R16、R17のうち少なくとも2つが互いに結合して形成する環、R18、R19、R20、R21のうち少なくとも2つが互いに結合して形成する環としては、前記Z1、R1、R2のうち少なくとも2つが結合して隣接する炭素原子とともに形成する環と同様の環が挙げられる。R12、R13、R14、R15、R16、R17としては、特に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であるのが好ましい。R19、R21の少なくとも一方、R22、R23の少なくとも一方は電子吸引基であるのが好ましい。
【0052】
ジエン(11)の代表的な例として、1,3−シクロヘキサジエン、シクロペンタジエン、1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。ジエノフィル[アルケン(12a)又はアルキン(12b)]の代表的な例として、アクロレイン等のα,β−不飽和アルデヒド;メチルビニルケトン、キノン等のα,β−不飽和ケトン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のα,β−不飽和カルボン酸エステル;無水マレイン酸等のα,β−不飽和酸無水物などが挙げられる。
【0053】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、水、有機溶媒、これらの混合溶媒の何れであってもよい。好ましい溶媒にはニトロメタン等のニトロ化合物が含まれる。
【0054】
化合物(11)と化合物(12a)又は(12b)との比率は適宜選択できるが、一般に、化合物(12a)又は(12b)の使用量は、化合物(11)1モルに対して、0.5〜2モル、好ましくは0.8〜1.5程度である。金属バナジン酸アパタイト触媒の使用量は原料成分の種類によっても異なるが、バナジウム(V)として、化合物(11)に対して、例えば0.0001〜10モル%、好ましくは0.0005〜5モル%程度の範囲で適宜選択できる。反応温度は原料成分の種類等に応じて適宜選択でき、例えば0〜120℃、好ましくは10〜60℃程度である。反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方式で行うことができる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0055】
[ヘンリー(Henry)反応]
ヘンリー反応は一般に下記反応式で表される。
【化5】

(式中、R24、R25、R26は、同一又は異なって、水素原子又は非金属原子含有基を示す。R24、R25は互いに結合して隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよい)
【0056】
この反応では、カルボニル化合物(14)と、ニトロ基の隣接位にメチレン基を有するニトロ化合物(15)とが反応して、対応するβ−ヒドロキシニトロ化合物(16a)及び/又は1,3−ジニトロ化合物(16b)が生成する。なお、分子内にカルボニル基とニトロ基(ニトロ基の隣接位にはメチレン基が存在する)を有する化合物は分子内でヘンリー反応が進行する場合がある。
【0057】
24、R25、R26における非金属原子含有基としては、前記R1、R2、R3、R4、R5における非金属原子含有基と同様のものが挙げられる。R24、R25が互いに結合して隣接する炭素原子とともに形成する環としては、前記Z1、R1、R2のうち少なくとも2つが結合して隣接する炭素原子とともに形成する環と同様の環が挙げられる。R24、R25、R26としては、特に、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であるのが好ましい。
【0058】
カルボニル化合物(14)の代表的な例としては、前記カルボニル化合物(5)の代表的な例と同様の化合物(アルデヒド又はケトン)が挙げられる。ニトロ基の隣接位にメチレン基を有するニトロ化合物(15)の代表的な例として、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン、ニトロブタン等のニトロアルカンなどが挙げられる。
【0059】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、水、有機溶媒、これらの混合溶媒の何れであってもよいが、なかでも水、エタノール等のアルコール、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒、又はこれらの混合溶媒が好ましく、とりわけ水が好ましい。
【0060】
化合物(14)と化合物(15)との比率は適宜選択でき、一般に、化合物(15)の使用量は、化合物(14)1モルに対して、0.5〜10モル程度であるが、大過剰量用いてもよい。金属バナジン酸アパタイト触媒の使用量は原料成分の種類によっても異なるが、バナジウム(V)として、化合物(14)に対して、例えば0.0001〜10モル%、好ましくは0.0005〜5モル%程度の範囲で適宜選択できる。反応温度は原料成分の種類等に応じて適宜選択でき、例えば0〜200℃、好ましくは50〜150℃程度である。反応は加圧下で行ってもよい。反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方式で行うことができる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0061】
[重水素化方法]
本発明の重水素化方法では、上記金属バナジン酸アパタイトを含む触媒用組成物の存在下、有機化合物を重水と反応させて重水素化する。
【0062】
基質となる有機化合物としては、例えば、α位に水素原子を有するカルボニル化合物などが挙げられる。このようなカルボニル化合物の代表的な例としては、前記カルボニル化合物(5)の代表的な例と同様の化合物(アルデヒド又はケトン)が例示される。
【0063】
この反応では、カルボニル化合物のα位の水素原子が重水素化される。反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、反応成分である重水を用いる場合が多い。基質の溶解性を高めるため、重水とともに、テトラヒドロフランなどの重水素化反応に不活性で且つ水と混和する有機溶媒を用いてもよい。基質である有機化合物と重水との比率は適宜選択できるが、一般に、重水を過剰量、好ましくは大過剰量使用する。金属バナジン酸アパタイト触媒の使用量は原料成分の種類によっても異なるが、バナジウム(V)として、基質である有機化合物に対して、例えば0.0001〜10モル%、好ましくは0.0005〜5モル%程度の範囲で適宜選択できる。反応温度は原料成分の種類等に応じて適宜選択でき、例えば0〜150℃、好ましくは10〜100℃程度である。反応は加圧下で行ってもよい。反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方式で行うことができる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。生成物の定量は、ガスクロマトグラフィー(GC)、ガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)で行った。化学式中、Meはメチル基、Etはエチル基、Acはアセチル基を示す。
【0065】
実施例1(カルシウムバナジン酸アパタイトの製造)
バナジン酸ナトリウム(Na3VO4)40mmolを水200mlに溶解させ、水酸化ナトリウム125mmol(5g)を加えた。この水溶液に、硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)66.8mmolを加え、105℃にて2時間撹拌した。得られたスラリーを吸引ろ過し、水およびアセトンで洗浄した後、減圧にて乾燥させた。続いてマッフル炉により800℃にて3時間焼成すると、白色のカルシウムバナジン酸アパタイト(VAp;Ca10(VO46(OH)2)粉末(Ca:35.03重量%、V:6.53重量%、BET比表面積28.50m2/g、Ca/V=1.67、V含量5.2mmol/g)が得られた。
【0066】
実施例2(マイケル反応)
【化6】

2−オキソシクロペンタンカルボン酸エチル0.156g(1mmol)、2−シクロヘキセン−1−オン0.144g(1.5mmol)と、VApをVとして0.012mmol存在する量、及び水3mlの混合物を50℃にて30分反応させた。その結果、内部標準法によるGC収率99%に相当するMichael付加物(3-1)を得ることができた。
【0067】
実施例3(マイケル反応)
【化7】

2−オキソシクロペンタンカルボン酸エチル32.2g(200mmol)、メチルビニルケトン15.4g(200mmol)、VAp0.008g、及び水50mlの混合物を40℃にて1.5時間反応させた。その結果、単離収率92%でMichael付加物(3-2)を得た。VAp表面のVを基準とするTON(ターンオーバー数)は、100,000(TOF=19s-1)であった。
なお、反応後の反応混合液から回収した触媒を用いて同様の反応を行ったところ、上記と同様の反応成績が得られた。また、反応後の反応混合液から触媒を除いた溶液(バナジウムは検出されなかった)を用いて同様の反応を試みたが、反応は進行しなかった。
【0068】
実施例4(マイケル反応)
【化8】

2−オキソシクロペンタンカルボン酸エチル5mmol、アクリル酸メチル5.5mmol、VAp0.025g、及び水5mlの混合物を30℃にて10分反応させた。その結果、内部標準法によるGC収率99%以上に相当するMichael付加物(3-3)が得られた。
【0069】
実施例5(マイケル反応)
【化9】

2−オキソシクロペンタンカルボン酸エチル5mmol、アクリロニトリル5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を50℃にて3時間反応させた。その結果、内部標準法によるGC収率92%に相当するMichael付加物(3-4)が得られた。
【0070】
実施例6(マイケル反応)
【化10】

2−オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル5mmol、アクリル酸メチル5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を30℃にて1時間反応させた。その結果、内部標準法によるGC収率98%に相当するMichael付加物(3-5)が得られた。
【0071】
実施例7(マイケル反応)
【化11】

アセト酢酸エチル5mmol、アクリル酸メチル5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を30℃にて1.5時間反応させた。その結果、内部標準法によるGC収率93%に相当するMichael付加物(3-6)が得られた。
【0072】
実施例8(マイケル反応)
【化12】

2−メチル−3−オキソブタン酸エチル5mmol、アクリル酸メチル5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を30℃にて2時間反応させた。その結果、内部標準法によるGC収率99%以上に相当するMichael付加物(3-7)が得られた。
【0073】
実施例9(マイケル反応)
【化13】

ベンゾイル酢酸エチル5mmol、アクリル酸メチル5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を30℃にて2時間反応させた。その結果、内部標準法によるGC収率98%に相当するMichael付加物(3-8)が得られた。
【0074】
実施例10(マイケル反応)
【化14】

2−アセチルシクロヘキサン−1−オン5mmol、アクリル酸メチル5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を30℃にて0.5時間反応させた。その結果、内部標準法によるGC収率99%以上に相当するMichael付加物(3-9)が得られた。
【0075】
実施例11(マイケル反応)
【化15】

3−メチルペンタン−2,4−ジオン5mmol、アクリル酸メチル5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を30℃にて0.5時間反応させた。その結果、内部標準法によるGC収率99%以上に相当するMichael付加物(3-10)が得られた。
【0076】
実施例12(クネベナーゲル反応)
【化16】

シアノ酢酸エチル11.3g(100mmol)、ベンズアルデヒド11.7g(110mmol)、VAp(Vとして0.012mmol存在する量)、水30mlの混合物を30℃にて3時間撹拌したところ、定量的にKnoevenagel反応縮合物である2−ベンジリデンシアノ酢酸エチル(6-1)が得られた。
【0077】
実施例13(クネベナーゲル反応)
【化17】

シアノ酢酸エチル1mmol、p−メトキシベンズアルデヒド1.1mmol、VAp0.05g、水5mlの混合物を30℃にて1時間撹拌したところ、GC収率97%でKnoevenagel反応縮合物(6-2)が得られた。
【0078】
実施例14(クネベナーゲル反応)
【化18】

シアノ酢酸エチル1mmol、p−クロロベンズアルデヒド1.1mmol、VAp0.05g、水5mlの混合物を30℃にて3時間撹拌したところ、GC収率97%でKnoevenagel反応縮合物(6-3)が得られた。
【0079】
実施例15(クネベナーゲル反応)
【化19】

シアノ酢酸エチル1mmol、シンナムアルデヒド1.1mmol、VAp0.05g、水5mlの混合物を30℃にて1時間撹拌したところ、GC収率99%以上でKnoevenagel反応縮合物(6-4)が得られた。
【0080】
実施例16(クネベナーゲル反応)
【化20】

シアノ酢酸エチル1mmol、3−シクロヘキセニルアルデヒド1.1mmol、VAp0.05g、水5mlの混合物を30℃にて1時間撹拌したところ、GC収率99%以上でKnoevenagel反応縮合物(6-5)が得られた。
【0081】
実施例17(アルドール反応)
【化21】

2,5−ヘキサンジオン1mmol、VAp0.05gの混合物を30℃にて12時間撹拌したところ、96%の収率でAldol反応縮合物(10-1)が得られた。
【0082】
実施例18(ディールスアルダー反応)
【化22】

1,3−シクロヘキサジエン1.1mmol、アクロレイン1mmol、VAp0.05g、ニトロメタン3mlの混合物を30℃にて6時間撹拌したところ、99%以上のGC収率でDiels−Alder反応生成物(13a-1)が得られた。
【0083】
実施例19(ディールスアルダー反応)
【化23】

シクロペンタジエン1.1mmol、アクリル酸メチル1mmol、VAp0.05g、ニトロメタン3mlの混合物を30℃にて6時間撹拌したところ、99%以上のGC収率でDiels−Alder反応生成物(13a-2)が得られた。
【0084】
実施例20(ディールスアルダー反応)
【化24】

2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン1.1mmol、キノン(p−ベンゾキノン)1mmol、VAp0.05g、ニトロメタン3mlの混合物を30℃にて6時間撹拌したところ、99%以上のGC収率でDiels−Alder反応生成物(13a-3)が得られた。
【0085】
実施例21(ディールスアルダー反応)
【化25】

2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン1.1mmol、無水マレイン酸1mmol、VAp0.05g、ニトロメタン3mlの混合物を30℃にて6時間撹拌したところ、99%以上のGC収率でDiels−Alder反応生成物(13a-4)が得られた。
【0086】
実施例22(マイケル反応)
【化26】

2−オキソシクロペンタンカルボン酸エチル5mmol、アクロレイン5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を30℃で6時間反応させた。反応終了後、反応液を無水酢酸で処理した。その結果、単離収率91%でMichael付加物(3-11)が得られた。
【0087】
実施例23(マイケル反応)
【化27】

2−オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル5mmol、メチルビニルケトン5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を30℃で1時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)98%でMichael付加物(3-12)が得られた。
【0088】
実施例24(マイケル反応)
【化28】

2−アセチル−γ−ブチロラクトン5mmol、メチルビニルケトン5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を30℃で2時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)94%でMichael付加物(3-13)が得られた。
【0089】
実施例25(マイケル反応)
【化29】

2−アセチル−γ−ブチロラクトン5mmol、アクリル酸メチル5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を50℃で2時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)98%でMichael付加物(3-14)が得られた。
【0090】
実施例26(マイケル反応)
【化30】

2−アセチル−γ−ブチロラクトン5mmol、アクリロニトリル5.5mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を50℃で2時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)96%でMichael付加物(3-15)が得られた。
【0091】
実施例27(マイケル反応)
【化31】

マロン酸ジエチル5mmol、メチルビニルケトン20mmol、VAp0.05gの混合物を80℃で0.5時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)94%でMichael付加物(3-16)が得られた。
【0092】
実施例28(マイケル反応)
【化32】

マロン酸ジエチル5mmol、メチルビニルケトン10mmol、VAp0.05gの混合物を80℃で3時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)98%でMichael付加物(3-17)が得られた。
【0093】
実施例29(クネベナーゲル反応)
【化33】

シアノ酢酸エチル1.5mmol、n−ヘキサナール1mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を50℃で4時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)95%でクネベナーゲル反応縮合物(6-6)が得られた。
【0094】
実施例30(クネベナーゲル反応)
【化34】

シアノ酢酸エチル1.5mmol、n−オクタナール1mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を50℃で6時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)91%でクネベナーゲル反応縮合物(6-7)が得られた。
【0095】
実施例31(クネベナーゲル反応)
【化35】

シアノ酢酸エチル1.5mmol、シクロヘキサンカルバルデヒド1mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を50℃で3時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)99%でクネベナーゲル反応縮合物(6-8)が得られた。
【0096】
実施例32(クネベナーゲル反応)
【化36】

フェニルアセトニトリル1.5mmol、ベンズアルデヒド1mmol、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を110℃で12時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)89%でクネベナーゲル反応縮合物(6-9)が得られた。
【0097】
実施例33(クネベナーゲル反応)
【化37】

フェニルスルホニルアセトニトリル1.5mmol、ベンズアルデヒド1mmol、VAp0.05g、THF(テトラヒドロフラン)1ml、及び水5mlの混合物を60℃で2時間反応させた。その結果、GC収率(内部標準法)90%でクネベナーゲル反応縮合物(6-10)が得られた。
【0098】
実施例34(ヘンリー反応)
【化38】

ベンズアルデヒド1mmol、ニトロメタン1ml、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を110℃で12時間反応させた。その結果、91%の単離収率でヘンリー反応縮合物(16-1)が得られた。
【0099】
実施例35(ヘンリー反応)
【化39】

p−メトキシベンズアルデヒド1mmol、ニトロメタン1ml、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を110℃で12時間反応させた。その結果、90%の単離収率でヘンリー反応縮合物(16-2)が得られた。
【0100】
実施例36(ヘンリー反応)
【化40】

p−クロロベンズアルデヒド1mmol、ニトロメタン1ml、VAp0.05g、及び水5mlの混合物を100℃で12時間反応させた。その結果、92%の単離収率でヘンリー反応縮合物(16-3)が得られた。
【0101】
実施例37(重水素化反応)
【化41】

アセトフェノン5mmol、VAp0.05g、及び重水5mlの混合物を、アルゴン雰囲気下、50℃で2時間反応させた。その結果、89%の単離収率で重水素化アセトフェノン(1,1,1−d3)(17-1)が得られた。
【0102】
実施例38(重水素化反応)
【化42】

3−ペンタノン5mmol、VAp0.05g、及び重水5mlの混合物を、アルゴン雰囲気下、50℃で2時間反応させた。その結果、86%の単離収率で重水素化3−ペンタノン(2,2,4,4−d4)(17-2)が得られた。
【0103】
実施例39(重水素化反応)
【化43】

1−インダノン5mmol、VAp0.05g、THF2ml、及び重水5mlの混合物を、アルゴン雰囲気下、50℃で2時間反応させた。その結果、94%の単離収率で重水素化1−インダノン(2,2−d2)(17-3)が得られた。
【0104】
実施例40(重水素化反応)
【化44】

シクロヘキサノン5mmol、VAp0.05g、及び重水5mlの混合物を、アルゴン雰囲気下、50℃で2時間反応させた。その結果、82%の単離収率で重水素化シクロヘキサノン(1,1,6,6−d4)(17-4)が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジン酸塩(A)と金属塩(B)とを反応して得られる金属バナジン酸アパタイトを含む触媒用組成物。
【請求項2】
金属バナジン酸アパタイトが、下記の組成式(I)
10-z(HVO4z(VO46-z(OH)2-z (I)
(式中、Mは金属原子を示し、0≦z≦1である)
で表される請求項1記載の触媒用組成物。
【請求項3】
金属バナジン酸アパタイトがカルシウムバナジン酸アパタイトである請求項1記載の触媒用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかの項に記載の触媒用組成物の存在下、有機化合物を反応させて炭素−炭素結合を形成することを特徴とする炭素−炭素結合形成方法。
【請求項5】
マイケル(Michael)反応、クネベナーゲル(Knoevenagel)反応、ヘンリー(Henry)反応、アルドール(Aldol)反応又はディールスアルダー(Diels-Alder)反応により炭素−炭素結合を形成する請求項4記載の炭素−炭素結合形成方法。
【請求項6】
請求項1〜3の何れかの項に記載の触媒用組成物の存在下、有機化合物を重水と反応させて重水素化することを特徴とする重水素化方法。

【公開番号】特開2006−281203(P2006−281203A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64968(P2006−64968)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】